前立腺癌を処置するためのMVAの使用
本発明は、PSA及びPAPなどの腫瘍関連抗原をコードする組換えMVAウイルスを使った癌予防及び癌治療のための組成物、キット、及び方法に関する。本組換えMVAウイルスは、B細胞応答及びT細胞応答を誘導することができる。本組換えMVAウイルスはタキサンの前に投与するか、タキサンと同時に投与するか、タキサンの後に投与することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍関連抗原、特に前立腺特異抗原(PSA)及び前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)をコードするMVAウイルスを使った、癌、特に前立腺癌の予防及び処置に関する。
【背景技術】
【0002】
改変ワクシニアアンカラ(Modified Vaccinia Ankara:MVA)ウイルスは、ポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属の1構成要素であるワクシニアウイルスと近縁である。MVAは、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をニワトリ胚線維芽細胞で516代にわたって連続継代することによって作出された(概要については非特許文献1を参照されたい)。これらの長期間にわたる継代の結果、得られたMVAウイルスのゲノムではそのゲノム配列の約31キロ塩基が欠失しているので、複製に関して宿主細胞は鳥類細胞に強く制限されると記載された(非特許文献2)。得られたMVAは著しく非病原性であることが、さまざまな動物モデルで示されている(非特許文献3)。また、このMVA株は、ヒト痘瘡疾患に対する免疫を与えるためのワクチンとして、臨床試験でも検討された(非特許文献4;非特許文献5)。これらの研究には高リスク患者を含めて120,000人を超える人々が参加し、これらの研究からMVAは、ワクシニアに基づくワクチンと比較して、低下した病原性又は感染性を持ちつつ、良好な特異的免疫応答を誘導することが判明した。その後、数十年の間に、MVAは、組換え遺伝子発現用のウイルスベクターとして使用するために、又は組換えワクチンとして使用するために、工学的に改変された(非特許文献6)。
【0003】
MVAがヒト及び哺乳動物では著しく弱毒化されていて非病原性であることはMayrらが1970年代に証明したとはいえ、一部の研究者らは、哺乳動物細胞株及びヒト細胞株では、残存複製(residual replication)が起こるかもしれないので、これらの細胞ではMVAが完全には弱毒化されていないと報告している(非特許文献7;非特許文献8;特許文献1;非特許文献9)。これらの刊行物で報告された結果は、MVAのさまざまな公知の株を使って得られたものであると考えられる。というのも、使用されたウイルスは、その性質、特にさまざまな細胞株におけるそれらの成長挙動が、本質的に異なるからである。そのような残存複製は、ヒトでの使用に関連して、安全性の懸念を含むさまざまな理由から望ましくない。
【0004】
より安全な製品(例えばワクチン又は医薬品)を開発するために強化された安全性プロファイルを有するMVAの株が記載されている。特許文献2及び特許文献3を参照されたい。そのような株は、非ヒト細胞及び細胞株、とりわけニワトリ胚線維芽細胞(CEF)では増殖的複製(reproductive replication)能を持つが、公知のワクシニア株で複製を許容することが知られている一定のヒト細胞株では増殖的複製能を持たない。それらの細胞株には、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat(非特許文献10)、ヒト頚部腺癌細胞株HeLa(ATCC No.CCL-2)、ヒト胚性腎臓細胞株293(ECACC No.85120602)、及びヒト骨肉腫細胞株143B(ECACC No.91112502)が含まれる。そのようなウイルス株は、インビボでも、例えば、重度の免疫機能低下状態にあって複製ウイルスに対する感受性が高いトランスジェニックマウスモデルAGR129などといった一定のマウス系統においても、増殖的複製能を持たない。特許文献2を参照されたい。「MVA-BN(登録商標)」と呼ばれる、そのようなMVA株の1つ並びにその誘導体及び組換え体が記載されている。特許文献2及び特許文献3を参照されたい。
【0005】
MVA及びMVA-BN(登録商標)はそれぞれ、組換え遺伝子発現用のウイルスベクターとして使用するために、又は組換えワクチンとして使用するために、工学的に改変されている。例えば非特許文献6、特許文献2及び特許文献3を参照されたい。
【0006】
癌関連疾患は世界的に死亡及び罹病の主原因である。例えば米国だけで、男性の6人に1人が前立腺癌を患うことになると推定されている。さらにまた、剖検研究により、男性人口のかなりの割合が、その最初期の非悪性段階であるとはいえ、30歳までには早くも、この疾患を持つことがわかっている。例えば、非特許文献11;非特許文献12を参照されたい。癌免疫療法に対する最近のアプローチには、腫瘍関連抗原によるワクチン接種が含まれている。いくつかの例では、そのようなアプローチに、腫瘍関連抗原に対する宿主免疫応答を促進するための送達システムの使用が含まれている。そのような送達システムには、組換えウイルスベクター、並びに細胞ベースの治療法が含まれている。例えば非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15を参照されたい。MVAは、転移性結腸直腸癌患者、転移性腎癌患者及びホルモン不応性前立腺癌患者を対象とする臨床治験において、5T4癌胎児性抗原用のワクチンビークルとして使用されている。非特許文献16。
【0007】
公知の腫瘍関連抗原には、前立腺特異抗原(PSA)及び前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)が含まれる。例えば非特許文献11;非特許文献12を参照されたい。PSAは前立腺によって産生され、前立腺癌、良性前立腺肥大、又は前立腺の感染若しくは炎症を有する男性の血中では、見いだされる量が増加する。PSAは、癌処置に対する細胞媒介性免疫療法アプローチのターゲットとして同定されている。例えば非特許文献17;非特許文献18を参照されたい。PAPは、血中で測定される酵素であって、どこか他の部位に浸潤又は転移した前立腺癌を持つ患者では、そのレベルが上昇し得る。PAPは、腫瘍が限局的浸潤又は遠隔転移のいずれかによって解剖学的前立腺被膜の外へ拡がっていない限り、上昇しない。したがってこの前立腺腫瘍抗原は、いくつかのヒトワクチン治験において、ターゲット抗原として研究されており、臨床的利益の証拠が得られているものもある。例えば非特許文献17;非特許文献19;非特許文献20を参照されたい。
【0008】
組換えワクシニアウイルス、精製PAP、DNAワクチン、及び抗原負荷樹状細胞を使って、PAP含有ワクチンが作製されている。非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25。ある研究では、PAP-GM-CSFをパルスした樹状細胞がラットに注射されたが、PAPに対する抗体は検出されなかった(非特許文献21のS55頁)。もう1つの研究では、ラットPAP又はヒトPAPをコードする遺伝子を含有する組換えワクシニアウイルスが投与されたが、ラット又はヒトPAPに対する測定可能な抗体応答は生じなかった(非特許文献23の3116-7頁)。もう1つの研究では、hPAPタンパク質による免疫処置を受けた動物の血清中、並びにヒトPAPをコードするワクシニアウイルスのワクチン接種を受け、次にブースター免疫処置としてhPAPタンパク質を投与された動物中には、PAP特異的IgGを検出することができたが、ヒトPAPをコードするワクシニアウイルスによる免疫処置を2回受けた動物には、PAP特異的IgGを検出することができなかった(非特許文献25の890頁)。
【0009】
能動的癌免疫療法は、癌患者において腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導することに依拠している。広範囲にわたる腫瘍関連抗原(TAA)に対する適応免疫応答の体液性コンポーネント及び細胞性コンポーネントの両方と、それに付随する先天免疫のコンポーネントの活性化とを誘導することが、能動的免疫療法製品の最大効力にとっては不可欠である。具体的には、抗原特異的IFNγ産生細胞傷害性T細胞(CD8 T細胞)の誘導を特徴とするタイプ1又はTh1適応免疫が、抗癌免疫療法にとっては重要であると考えられる。
【0010】
最近の癌処置の進歩にもかかわらず、前立腺癌は今なお、アメリカの癌患者における死亡原因の第2位に留まっている。したがって、腫瘍成長及び腫瘍転移の複数の側面をターゲットとすることによってこの疾患をより良く軽減し得る治療的アプローチが必要とされている。
【0011】
パクリタキセル及びドセタキセルなどのタキサン類は、癌患者に化学療法剤として使用されてきた。例えば、非特許文献26を参照されたい。タキサン類による化学療法は、さまざまな腫瘍ワクチン処置と併用され、さまざまな結果をもたらしている。非特許文献27;非特許文献28;非特許文献29;非特許文献30;及び非特許文献31を参照されたい。癌ワクチンと化学療法の併用は、非特許文献32;非特許文献33;及び非特許文献17に概説されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,185,146号明細書
【特許文献2】米国特許第6,761,893号明細書
【特許文献3】米国特許第6,193,752号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Mayr, A.ら、Infection 3:6-14 (1975)
【非特許文献2】Meyer, H.ら、J. Gen. Virol. 72:1031-1038 (1991)
【非特許文献3】Mayr, A.及びDanner, K., Dev. Biol. Stand. 41:225-34 (1978)
【非特許文献4】Mayrら、Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167:375-390 (1987)
【非特許文献5】Sticklら、Dtsch. med. Wschr. 99:2386-2392 (1974)
【非特許文献6】Sutter, G.ら、Vaccine 12:1032-40 (1994)
【非特許文献7】Blanchardら、J Gen Virol 79:1159-1167 (1998)
【非特許文献8】Carroll及びMoss, Virology 238:198-211 (1997)
【非特許文献9】Ambrosiniら、J Neurosci Res 55(5):569 (1999)
【非特許文献10】Boukampら、J Cell Biol 106(3):761-71 (1988)
【非特許文献11】Taichmanら、JCI 117(9):2351-2361 (2007)
【非特許文献12】Websterら、J. Clin. Oncol. 23:8262-8269 (2005)
【非特許文献13】Harropら、Front. Biosci. 11:804-817 (2006)
【非特許文献14】Arlenら、Semin. Oncol. 32:549-555 (2005)
【非特許文献15】Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (suppl. 2):14567-14571 (2004)
【非特許文献16】Amato, RJ., Expert Opin. Biol. Ther. 7(9):1463-1469 (2007)
【非特許文献17】McNeel, D.G., Curr. Opin. Urol. 17:175-181 (2007)
【非特許文献18】Nelson W.G., Curr. Opin. Urol. 17:157-167 (2007)
【非特許文献19】Waeckerle-Menら、Cancer Immunol. Immunother. 66:811-821 (2006)
【非特許文献20】Machlenkin et al. Cancer Immunol Immunother. 56(2):217-226 (2007)
【非特許文献21】Valoneら、The Cancer Journal 7: Suppl 2:S53-61 (2001)
【非特許文献22】Fongら、J Immunol. 2001 Dec 15;167(12):7150-6
【非特許文献23】Fongら、J. Immunol. 159(7):3113-7 (1997)
【非特許文献24】Johnsonら、Vaccine 24(3):293-303 (2006)
【非特許文献25】Johnsonら、Cancer Immunol Immunother. 56(6):885-95 (2007)
【非特許文献26】Tannockら、N. Engl. J. Med. 351:1502-1512 (2004)
【非特許文献27】Chuら、J. Immunotherapy 29:367-380 (2006)
【非特許文献28】Machielsら、Cancer Res. 61:3689-3697 (2001)
【非特許文献29】Prellら、Cancer Immunol. Immunother. 55:1285-1293 (2006)
【非特許文献30】Arlenら、Clinical Breast Cancer 7:176-179 (2006)
【非特許文献31】Arlenら、Clinical Cancer Res. 12:1260-1269 (2006)
【非特許文献32】Chongら、Expert Opin. Phamacother. 6:1-8 (2005)
【非特許文献33】Emensら、Endocrine-Related Cancer 12:1-17 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記に基づき、当技術分野では癌治療のための剤及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、原発腫瘍の、そしてまた癌転移の、癌予防及び癌患者処置のための方法、剤、及びキットを包含する。
【0016】
本発明は、ヒト癌患者を処置するための方法であって、ヒト前立腺特異抗原(PSA)抗原を含むポリペプチドとヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAを、その患者に投与することを含む方法を包含する。ある実施形態では、MVAがMVA-BNである。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、PSA抗原及びPAP抗原がMVA遺伝子間領域014L/015Lに挿入される。一定の実施形態では、癌が前立腺癌又は前立腺癌転移である。
【0017】
ある実施形態では、組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンに先だって投与される。ある実施形態では、組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンと同時に投与される。ある実施形態では、組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンの後に投与される。好ましい実施形態では、タキサンがドセタキセル又はパクリタキセルである。
【0018】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAと、前立腺癌の検出前にその組換えMVAを投与する指示とを含む、前立腺癌予防用のキットを包含する。
【0019】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAと、前立腺癌患者にその組換えMVAを投与する指示とを含む、前立腺癌処置用のキットを包含する。
【0020】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンによる処置の前、殺腫瘍用量のタキサンによる処置と同時、又は殺腫瘍用量のタキサンによる処置の後に、その組換えMVAを投与する指示とを含む、癌患者を処置するためのキットを包含する。
【0021】
本発明は、ヒトPAP抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号2を含む。ある実施形態では、MVAがMVA-BNである。
【0022】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号1のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号2のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、MVAがMVA-BNである。
【0023】
本発明は、ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物を包含する。
【0024】
本発明は、ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対する抗体を誘導する免疫原性組成物を包含する。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号2を含む。
【0025】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PSA及びPAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】MVA-BN(登録商標)ゲノムの概略マップ。1Aには、MVA-BN(登録商標)ゲノム中の6つの欠失部位の位置が示されている。また、影付きの区間及び文字(A〜O)はHindIII制限酵素消化フラグメントを表し、MVA-BN(登録商標)中で欠けているCVA配列の位置及びサイズが、矢印の上に示されている。1Bには、HindIII制限フラグメント(文字A〜O)と、MVA-BN-PROの作製に使用したIGR 014L/015L部位が示されている。
【図2】MVA-BN-PROウイルスの概略的全体像。遺伝子間領域014L/015L中にクローニングされた組換えインサート、すなわちPSA遺伝子及びPAP遺伝子(それぞれ牛痘ウイルスATIプロモーター(ATI)の制御下にあるもの)を略記した、MVA-BN(登録商標)ゲノムのマップ(文字A〜Oで示されるHindIII制限マップ)。
【図3】MVA-BN-PROと共にインキュベートしたCT26細胞培養物の上清におけるPAP(A)及びPSA(B)の検出。密度が6×105細胞/ウェル(黒い四角形及び三角形)又は6E4細胞/ウェル(灰色の四角形)であるCT26細胞を、MVA-BN-PRO(四角形)又はMVA-BN(登録商標)(三角形)のどちらか一方に、表示した感染多重度(MOI)で感染させた。24時間後に、細胞上清を収集し、PAPタンパク質レベル及びPSAタンパク質レベルを、それぞれPAP酵素アッセイ及びPSA ELISAによって測定した。
【図4】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗PSA(A)及び抗PAP(B)抗体応答。MVA-BN-PRO(白い四角形)又はMVA-BN(登録商標)(黒い四角形)のどちらか一方による免疫処置を、動物に3回施した(1日目、15日目、及び29日目)。血液試料を処置前、14日目、28日目、及び42日目に収集した。力価は、バックグラウンド(TBS処置された動物から得られる同じ希釈度の血清)より少なくとも2倍高いO.D.を持つ最終希釈度の逆数値である。ゼロと表示した力価は試験した最低血清希釈度(1:50)で陰性だった。
【図5】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗PSA及び抗PAP T細胞応答。MVA-BN-PRO免疫処置した動物(A)及びTBS対照動物(B)から得た脾細胞を、表示した濃度の、PAP(灰色の四角形)、PSA(白色の四角形)又はHER2(黒色の四角形)配列由来のOPLと共にインキュベートした。ImmunoSpot Analyzerを使って、IFN-γ産生T細胞を示すスポットを数え上げた。3重のウェルから得た平均及び標準偏差を、試験した各OPL濃度について示す。
【図6】MVA-BN-PROが媒介するT細胞応答に対するCD4及びCD8 T細胞の寄与。動物にMVA-BN-PROによる免疫処置を4回施し(1日目、15日目、29日目、及び49日目)、最後の処置の6日後に脾細胞を収集し、CD8枯渇脾細胞(A)及びCD4枯渇脾細胞(B)を、表示した濃度の、PAP(灰色の四角形)、PSA(白い四角形)又はHER2(黒い四角形)配列由来のOPLと共にインキュベートした。解析は図5について説明したように行なった。
【図7】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍成長の予防的防止。動物を、TBSに希釈したウイルスにより、表示したTCID50で、3週間おきに3回処置した。3回目の処置の6週間後に、1×105個のPSA発現E5腫瘍細胞を、動物に皮内チャレンジした。キャリパーを使って腫瘍成長を週に2回測定した。腫瘍体積は(L×W2)/2として算出した。7A〜7E:各処置群について、個々のマウスにおける腫瘍成長を記載している。7F:全ての処置群について、平均腫瘍サイズ及び標準偏差を記載している。
【図8】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍成長の防止。2回の独立した実験における29日目測定の比較。動物を、2×106TCID50の、TBSに希釈した表示のウイルスにより、2週間間隔で3回処置した(灰色の記号)。最後の処置の2週間後に、1×105個のPSA発現E5腫瘍細胞を、動物に皮内チャレンジした。キャリパーを使って腫瘍成長を週に2回測定した。腫瘍体積は(L×W2)/2として算出した。ドットは、腫瘍移植後29日目における各動物の腫瘍体積を表す。図7に記載した別個の実験の対応群から得られたデータを、比較のために、黒い記号で記載する。ここに記載する実験はどちらも、処置間隔の長さ(3週間間隔と2週間間隔)及び腫瘍細胞移植の時期(3回目の処置の6週間後と2週間後)を除けば、類似する条件下で行なわれた。
【図9】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍成長の治療的抑制。BALB/c マウス(各群10匹)に、1日目にE6細胞(1×105細胞を皮内注射)をチャレンジし、1日目、8日目、及び15日目に、TBS(E)、MVA-BN(登録商標)(5×106又は5×107TCID50;A及びB)、又はMVA-BN-PRO(5×106又は5×107TCID50;C及びD)のいずれか1つで皮下処置した。22日目にマウスを屠殺した。パネルA〜Eは、個々のマウスの腫瘍サイズを表す。各群について腫瘍サイズの平均及び標準偏差をパネルFに図示する。キャリパーを使って腫瘍成長を週に2回測定した。腫瘍体積は(L×W2)/2として算出した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
【図10】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおけるPAP陽性腫瘍成長の抑制。BALB/cマウス(各群10匹)に、1日目にはCT26-PAP(5×105細胞を静脈内注射)をチャレンジし、4日目には、TBS、MVA-BN(5×107TCID50)、又はMVA-BN-PRO(2×106及び5×107TCID50)のいずれか1つで腹腔内処置した。14日目にマウスを屠殺し、それらの肺を重量計測した。データポイントは個々のマウスの肺重量を表す。水平バーは各群について肺重量の平均を示す。
【図11】BALB/c又はC57BL/6マウスにおいて誘導される抗PSA及び抗PAP抗体応答。雄BALB/c及びC57BL/6マウス(各群5匹)に、5×107TCID50のMVA-BN-PROによる免疫処置を、1日目、15日目、及び29日目に施した。42日目に血液試料を集め、プール血清の段階希釈液を、抗PSA又は抗PAP IgGの存在について、ELISAで解析した。力価は、バックグラウンド(TBS処置された動物から得られる同じ希釈度の血清)より少なくとも2倍高いO.D.を持つ最終希釈度の逆数値として算出した。試験した最低希釈度より低い力価(<125)を持つ血清のデータポイントは、作図のため、恣意的に、アッセイの第1希釈より1希釈低い位置(62.5)にあるx軸上に置いた。
【図12】MVA-BN-PROで処置された患者におけるT細胞応答。処置前(ベース)又はMVA-BN-PRO処置後(TC3)に、患者J-D-1001の血液からPBMCを収集した。細胞を、グラフ上に表示した濃度の、PSAタンパク質、PSAオーバーラップペプチドライブラリー(OPL)、PAPタンパク質、PAP OPL、腫瘍関連抗原(TAA)由来のMHCクラスI及びクラスIIペプチドのプール、又はMVA-BNのいずれか1つと共に、40時間インキュベートした。分泌されたIFN-γを測定するELISpotによってT細胞活性化を決定した。各刺激条件ごとに、結果を、2×105PBMCあたりの平均IFN-γスポット形成細胞数(SFC)として表す。SFC値は、バックグラウンドを差し引いた4重のウェルの平均から導き出した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ヒトPSA抗原とPAP抗原とを発現させる組換えMVA(MVA-BN-PRO)を、一群のインビトロアッセイ及びインビボアッセイで試験した。MVA-BN-PROと共にインキュベートした真核細胞において、MVA-BN-PROがコードする両前立腺特異抗原(PSA及びPAP)の発現を、それぞれPSA検出キット及びホスファターゼ活性に関する機能アッセイを使って評価した。ELISA及びELISpotアッセイを使って、MVA-BN-PROで処置したマウスにおける抗PSA及び抗PAPの抗体及びT細胞免疫応答の誘導をモニターした。MVA-BN-PROの抗腫瘍活性をPSA腫瘍モデルにおいて予防的設定と治療的設定の両方で評価した。
【0028】
これらの研究により、(i)インビトロでの細胞によるMVA-BN-PROの取り込みは、同じような量で、PAPの発現も、PSAの発現も、もたらすこと;(ii)MVA-BN-PROによるマウスの処置は、抗PSA及び抗PAPの体液性及びTh1細胞性免疫応答をもたらすこと;(iii)MVA-BN-PROによるマウスの処置は、予防的設定でも、治療的設定でも、PSA(+)腫瘍の成長を阻害すること、(iv)MVA-BN-PROによるマウスの処置は、治療的設定において、PAP(+)腫瘍の成長を阻害すること、(v)ヒトでは、MVA-BN-PRO処置が、抗PSA T細胞と抗PAP T細胞のどちらのレベルも増加させたこと、及び(vi)ヒトにおけるMVA-BN-PRO処置が、他の腫瘍抗原へのT細胞応答のスプレッディング(spreading)をもたらしたことが証明された。このように、MVA-BN-PROは、抗原特異的な体液性及び細胞性Th1型応答をトリガーすることによって免疫系を活性化し、それが、インビボでPSA及びPAP発現腫瘍に対する有意な治療活性をもたらす。したがって、MVA-BN-PROは、ヒトにおける前立腺癌の免疫療法にとって、魅力的なワクチン候補である。
【0029】
MVA-BN-PROは、予防的設定において腫瘍成長を防止し、且つ定着した腫瘍の成長も抑制する、防御抗腫瘍免疫を誘導することができる強力な免疫原である。MVA-BN-PROの予防的及び治療的抗腫瘍活性は、抗PSA特異的適応免疫応答によって媒介された。しかし適応免疫応答は、MVA-BN-PROがコードする両方の前立腺特異抗原PSA及びPAPに対して誘導された。複数の腫瘍抗原に対する適応応答の同時活性化により、MVA-BN-PROは、より効率よく腫瘍と戦い、癌患者の処置に成功する可能性を増加させることができる。
【0030】
ある実施形態において、本発明は、前立腺癌治療のための組換えMVAウイルスの使用を包含する。組換えMVAは異種配列をMVAウイルス中に挿入することによって作製される。本発明の実施に役立ち、ブダペスト条約の要件に従って寄託されているMVAウイルス株の例は、ソールズベリー(英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)に受託番号ECACC 94012707として1994年1月27日に寄託されたMVA572株、及び2000年12月7日にECACC 00120707として寄託されたMVA575株である。European Collection of Cell Cultures(ECACC)に番号V00083008として2000年8月30日に寄託されたMVA-BN(登録商標)、及びその誘導体も、模範的な株である。
【0031】
MVA-BN(登録商標)はその高い安全性(低い複製能)ゆえに好ましいが、本発明には全てのMVAが適している。本発明のある実施形態によれば、MVA株はMVA-BN(登録商標)及びその誘導体である。参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP01/13628を参照されたい。
【0032】
ある実施形態では、組換えMVAが腫瘍関連抗原を発現させる。ある実施形態では、腫瘍関連抗原がPSAである。ある実施形態では、腫瘍関連抗原がPAPである。好ましい一実施形態では、MVAが2つの腫瘍関連抗原、好ましくはPSA抗原及びPAP抗原を発現させる。ある実施形態では、それら2つの腫瘍関連抗原が配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、それら2つの腫瘍関連抗原が、配列番号3のヌクレオチド配列を含むカセットから発現される。
【0033】
さらなる実施形態では、腫瘍関連抗原が1つ以上の外来THエピトープを含むように改変される。本明細書に記載するとおり、そのような癌免疫治療剤は、癌転移を含む癌の予防及び/又は処置に役立つ。本発明は、免疫機能低下患者を含むヒト及び他の哺乳動物のプライム(prime)/ブースト(boost)ワクチン接種レジメンでそのような薬剤を使用して、体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を誘導すること、例えば既存のTh2環境においてTh1免疫応答を誘導することなどを可能にする。
【0034】
「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸が互いにペプチド結合又は修飾ペプチド結合で連結されたポリマーを指す。アミノ酸は天然アミノ酸であってもよいし、非天然アミノ酸、又は天然アミノ酸の化学的類似体であってもよい。この用語は、タンパク質、すなわち、少なくとも1つのポリペプチドを含む機能的生体分子も指し、少なくとも2つのポリペプチドを含む場合、それらは複合体を形成するか、共有結合的に連結されるか、又は非共有結合的に連結され得る。タンパク質中のポリペプチドは糖鎖付加され、且つ/又は脂質付加され、且つ/又は補欠分子族を含むことができる。
【0035】
細胞株HaCAT(Boukampら, 1988, J Cell Biol 106(3):761-71)又はHeLaなどのヒト細胞株において「増殖的複製能を持たない」という用語は、本願では、国際公開第02/42480号で定義されているとおりに用いられる。したがって、ある細胞株において「増殖的複製能を持たない」ウイルスは、その細胞株において1未満の増幅比を示すウイルスである。ウイルスの「増幅比」は、最初に細胞を感染させるために元々使用されたウイルスの量(インプット)に対する感染細胞から産生されるウイルス(アウトプット)の比である。アウトプットとインプットの間の「1」という比は、感染細胞から産生されるウイルスの量が、細胞を感染させるために最初に使用された量と同じであるような増幅状態を記述する。本発明のある実施形態によれば、ヒト細胞株において「増殖的複製能を持たない」ウイルスは、上記のヒト細胞株HeLa、HaCat及び143Bのいずれにおいても、1.0(平均値)以下、さらには0.8(平均値)以下の増幅比を持ち得る。
【0036】
ある実施形態では、MVAがヨーロピアン・コレクション・オブ・セルカルチャー(European Collection of Cell Cultures:ECACC)に番号V00083008として2000年8月30日に寄託され、米国特許第6,761,893号及び同第6,193,752号に記載されている、MVA-BN(登録商標)である。これらの特許公報に記載されているように、MVA-BN(登録商標)は、細胞株293、143B、HeLa及びHaCat中で増殖的に複製しない。特にMVA-BN(登録商標)は、ヒト胚性腎臓細胞株293では、0.05〜0.2の増幅比を示す。ヒト骨肉腫細胞株143Bにおいて、MVA-BN(登録商標)は0.0〜0.6の増幅比を示す。MVA-BN(登録商標)は、ヒト頚部腺癌細胞株HeLaでは0.04〜0.8の増幅比を示し、ヒトケラチノサイト細胞株HaCatでは0.02〜0.8の増幅比を示す。MVA-BN(登録商標)はアフリカミドリザル腎臓細胞(CV1:ATCC No. CCL-70)では0.01〜0.06の増幅比を有する。
【0037】
米国特許第6,761,893号及び同第6,193,752号で述べられているように、MVA-BN(登録商標)の増幅比はニワトリ胚線維芽細胞(CEF:初代培養物)では1を上回る。このウイルスはCEF初代培養物では500を上回る比で容易に増殖、増幅させることができる。
【0038】
ある実施形態では、組換えMVAがMVA-BN(登録商標)の誘導体である。そのような「誘導体」には、寄託株(ECACC No.V00083008)と本質的に同じ複製特徴を示すが、そのゲノムの1つ以上の部分に相違を示すウイルスが含まれる。「誘導体」はMVA-BN(登録商標)から誘導される必要はない。寄託されたウイルスと同じ「複製特徴」を有するウイルスは、CEF細胞並びに細胞株HeLa、HaCat及び143Bにおいて寄託株と類似する増幅比で複製し、例えばAGR129トランスジェニックマウスモデルで決定した場合に、インビボで類似する複製特徴を示すウイルスである。
【0039】
本発明は、次に挙げるMVA-BNの性質の一方又は両方を有するMVAウイルスを包含する:
・ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)では増殖的複製能を持つが、ヒトケラチノサイト細胞株(HaCaT)、ヒト胎児腎臓細胞株(293)、ヒト骨骨肉腫細胞株(143B)、及びヒト子宮頚部腺癌細胞株(HeLa)では増殖的複製能を持たない;及び
・成熟B及びT細胞を産生する能力を持たず、したがって免疫機能が著しく低下していて、複製ウイルスに対する感受性が高いマウスモデルにおいて、複製することができない。
【0040】
ある実施形態では、MVAが、ワクシニアウイルスにとって異種である追加ヌクレオチド配列を含有する組換えワクシニアウイルスである。一定の、そのような実施形態では、異種配列が、免疫系による応答を誘導するエピトープをコードする。したがって、ある実施形態では、組換えMVAを使って、そのエピトープを含むタンパク質又は作用物質に対するワクチン接種が行われる。好ましい一実施形態では、エピトープが腫瘍関連抗原、好ましくはPSA又はPAPである。ある実施形態では、PSA抗原が配列番号1の配列を含む。ある実施形態では、PAP抗原が配列番号2の配列を含む。
【0041】
ある実施形態では、異種核酸配列がウイルスゲノムの非必須領域に挿入される。これらの実施形態のいくつかでは、PCT/EP96/02926に記載されているMVAゲノムの天然欠失部位に、異種核酸配列が挿入される。ポックスウイルスゲノムに異種配列を挿入するための方法は当業者には知られている。ある実施形態では、米国特許出願公開第20050244428号に記載されているMVAゲノムの遺伝子間領域に、異種核酸配列が挿入される。ある実施形態では、遺伝子間領域がIGR 014L/015Lである。
【0042】
ある実施形態では、医薬組成物が1つ以上の薬学的に許容でき且つ/又は承認された担体、添加剤、抗生物質、保存剤、アジュバント、希釈剤及び/又は安定剤を含む。そのような添加剤には、例えば水、食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤又は乳化剤、及びpH緩衝物質が含まれるが、これらに限るわけではない。模範的担体は、典型的には、大きくてゆっくり代謝される分子、例えばタンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、脂質凝集物などである。
【0043】
ワクチンを製造するために、MVAを生理的に許容できる形態に変換することができる。ある実施形態では、そのような製造が、例えばStickl, H.ら, Dtsch. med. Wschr. 99:2386-2392 (1974)に記載されているような、痘瘡に対するワクチン接種に用いられるポックスウイルスワクチンの製造における経験に基づいて行われる。
【0044】
模範的な製造例を以下に述べる。精製ウイルスは、5×108TCID50/mlの力価で、約10mMトリス、140mM NaCl、pH7.4中に製剤化して、-80℃で保存される。ワクチン注射剤を製造するには、例えば2%ペプトン及び1%ヒトアルブミンの存在下で、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のウイルス粒子102〜108個を、アンプル(好ましくはガラスアンプル)内で凍結乾燥することができる。あるいは、製剤中のウイルスを段階的に凍結乾燥することによって、ワクチン注射剤を製造することもできる。ある実施形態において、この製剤は、さらなる添加剤、例えばマンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトース、ポリビニルピロリドン、又は他の添加剤、例えばインビボ投与に適した酸化防止剤若しくは不活性ガス、安定剤若しくは組換えタンパク質(例えばヒト血清アルブミン)など(ただしこれらに限るわけではない)を含有する。次にアンプルを封止して、例えば4℃〜室温で数ヶ月間保存することができる。ただし、必要がない限り、アンプルは-20℃未満の温度で保存することが好ましい。
【0045】
ワクチン接種又は治療を伴うさまざまな実施形態では、凍結乾燥物を0.1〜0.5mlの水性溶液、好ましくは生理食塩水又はトリス緩衝液に溶解し、それを全身的若しくは局所的に、すなわち非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、鼻腔内経路、皮内経路で、又は熟練した医師に知られる他の任意の経路によって投与することができる。投与様式、用量及び投与回数の最適化は、当業者の技量及び知識の範囲内で行なうことができる。
【0046】
ある実施形態では、免疫機能低下動物、例えばSIVに感染したサル(CD4<400/μl血液)、又は免疫機能低下状態のヒトにおける免疫応答を誘導するために、弱毒化ワクシニアウイルス株が役立つ。「免疫機能低下(状態)」という用語は、不完全な免疫応答しか示さないか、感染性物質に対する防御の効率が低下している個体の免疫系の状態を表す。
【0047】
一定の例示的腫瘍関連抗原
ある実施形態では、細胞関連ポリペプチド抗原に対する免疫応答を、対象内で生じさせる。一定の、そのような実施形態では、細胞関連ポリペプチド抗原が腫瘍関連抗原である。
【0048】
ある実施形態では、細胞関連ポリペプチド抗原が、さまざまな病的過程に関係する腫瘍関連抗原以外の自己タンパク質抗原、又はウイルス抗原、又は細胞内寄生虫若しくは細菌に由来する抗原である。一定の例では、そのような病原体関連抗原が、しばしば比較的弱い免疫原(例えば結核菌及びライ菌などのマイコプラズマ由来の抗原、あるいはマラリア原虫などの原虫由来の抗原)である。
【0049】
当技術分野では非常に多くの腫瘍関連抗原が知られている。例示的な腫瘍関連抗原には、例えば、5アルファレダクターゼ、アルファ-フェトプロテイン、AM-1、APC、April、BAGE、ベータ-カテニン、Bcl12、bcr-abl、CA-125、CASP-8/FLICE、カテプシン類、CD19、CD20、CD21、CD23、CD22、CD33 CD35、CD44、CD45、CD46、CD5、CD52、CD55、CD59、CDC27、CDK4、CEA、c-myc、Cox-2、DCC、DcR3、E6/E7、CGFR、EMBP、Dna78、ファルネシルトランスフェラーゼ、FGF8b、FGF8a、FLK-1/KDR、葉酸受容体、G250、GAGEファミリー、ガストリン17、ガストリン放出ホルモン、GD2/GD3/GM2、GnRH、GnTV、GP1、gp100/Pmel17、gp-100-in4、gp15、gp75/TRP-1、hCG、ヘパランス(heparanse)、Her2/neu、HMTV、Hsp70、hTERT、IGFR1、IL-13R、iNOS、Ki67、KIAA0205、K-ras、H-ras、N-ras、KSA、LKLR-FUT、MAGEファミリー、マンマグロビン、MAP17、melan-A/MART-1、メソテリン、MIC A/B、MT-MMP類、ムチン、NY-ESO-1、オステオネクチン、p15、P170/MDR1、p53、p97/メラノトランスフェリン、PAI-1、PDGF、uPA、PRAME、プロバシン、プロゲニポエチン(progenipoientin)、PSA、PAP、PSM、RAGE-1、Rb、RCAS1、SART-1、SSXファミリー、STAT3、STn、TAG-72、TGF-アルファ、TGF-ベータ、チモシン-ベータ-15、TNF-アルファ、TP1、TRP-2、チロシナーゼ、VEGF、ZAG、p16INK4、及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼが含まれるが、これらに限るわけではない。前立腺癌における腫瘍関連抗原の具体例には、PSA、前立腺特異膜抗原(PSMA)、PAP、及び前立腺幹細胞抗原(PSCA)などがあるが、これらに限るわけではない。
【0050】
PSA抗原及びPAP抗原
本発明は、PSA及びPAPの完全長又はフラグメントであるPSA抗原及びPAP抗原を包含する。好ましくは、PSA抗原及びPAP抗原はヒト由来である。もう1つの実施形態では、PSA及び/又はPAPがラット又はマウス由来である。好ましい一実施形態では、PSA抗原及びPAP抗原がそれぞれ配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0051】
ある実施形態では、PAP抗原がPAPのフラグメントである。好ましいフラグメントは、ヒトPAPのアミノ酸181〜95、112〜120、133〜152、155〜163、173〜192、199〜213、228〜242、248〜257、299〜307、又は308〜322を含む。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005);Haradaら, Oncol Rep. 12(3):601-7 (2004);Machlenkinら, Cancer Res. 65(14):6435-6442 (2005);及びMcNeelら, Cancer Res. 61(13):5161-7 (2001)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み入れられる)。ある実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープの1つを含む。別の実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個を含む。これらのエピトープの可能な組合せのそれぞれが、具体的に考えられる。
【0052】
ある実施形態では、PAPのフラグメントが、ヒトPAPの25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、又は375個の連続するアミノ酸を含む。PAPのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。例えば、Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0053】
これらのフラグメントをコードするDNAは、PCR又は他の定型的な分子生物学的技法によって作製することができる。
【0054】
ある実施形態では、PSA抗原がPSAのフラグメントである。好ましいフラグメントは、ヒトPSAのアミノ酸16〜24又は154〜163を含む。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの1つを含む。別の実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープの両方を含む。
【0055】
PSAのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイ、例えばエピトープスキャニング(epitope-scanning)などを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。ある実施形態では、PSAのフラグメントが、ヒトPSAの25、50、75、100、125、150、175、200、225、又は250個の連続するアミノ酸を含む。
【0056】
これらのフラグメントをコードするDNAは、PCR又は他の定型的な分子生物学的技法によって作製することができる。
【0057】
さまざまな改変PAP及びPSAポリペプチド抗原及び方法を、当技術分野において周知の方法によって作り出すことができる。例えば、米国特許第7,005,498号及び米国特許出願公開第2004/0141958号及び同第2006/0008465号(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法を使用することができる。
【0058】
次に挙げるパラメータを検討すべきである:
1.公知の及び予測されるCTLエピトープ;
2.類縁タンパク質に対する相同性;
3.システイン残基の保存;
4.予想されるループ、α-ヘリックス及びβ-シート構造;
5.潜在的N糖鎖付加部位;
6.露出及び埋没アミノ酸残基の予測;
7.ドメイン構成。
【0059】
他の類縁タンパク質との高度な相同性を持つ領域は、「全体的」三次元構造にとって、それゆえに抗体認識にとって、構造上重要である可能性が高いのに対して、相同性の低い領域は、おそらく、結果として局所的な構造改変を引き起こすだけで、交換することができるだろう。
【0060】
システイン残基は、多くの場合、分子内ジスルフィド橋形成に関与し、したがって三次構造に関与するので、変化させるべきでない。アルファ-ヘリックス又はベータ-シート構造を形成すると予測される領域は、タンパク質のフォールディングに関与していると考えられるので、これらの領域は外来エピトープの挿入点としては避けるべきである。
【0061】
潜在的N糖鎖付加部位は、タンパク質のマンノシル化が望まれるのであれば、保存されるべきである。
【0062】
分子の内部にあると(それらの疎水性から)予測される領域は、フォールディングに関与し得るので、好ましくは、保存されるべきである。対照的に、溶媒露出領域は、モデルTHエピトープP2及びP30の挿入位置候補として役立つだろう。
【0063】
最後に、タンパク質のドメイン構成はタンパク質の構造及び機能に関連するので、これも考慮すべきである。
【0064】
PSA及びPAPの改変の効果は、マウスなどの動物を免疫処置して、その改変が体液性及び細胞性免疫応答に及ぼす効果を決定することによって、アッセイすることができる。
【0065】
改変腫瘍関連抗原
ある実施形態において、細胞関連ポリペプチド抗原は、APCの表面にMHCクラスI分子と会合して提示された場合に、ポリペプチド抗原に由来するエピトープをその表面に提示する細胞に対するCTL応答が誘導されるように改変される。一定の、そのような実施形態では、少なくとも1つの第1外来THエピトープが、提示される際に、APCの表面でMHCクラスII分子と会合する。一定の、そのような実施形態では、細胞関連抗原が腫瘍関連抗原である。
【0066】
エピトープを提示する能力を持つ例示的APCには樹状細胞及びマクロファージが含まれる。他の例示的APCには、1)MHCクラスI分子に結合したCTLエピトープと、2)MHCクラスII分子に結合したTHエピトープとを同時に提示する能力を持つ任意の飲作用性又は食作用性APCが含まれる。
【0067】
ある実施形態では、対象への投与後に、主としてPSA及び/又はPAPと反応するポリクローナル抗体が惹起されるように、PSA及び/又はPAPへの改変が行われる。そのような抗体は腫瘍細胞を攻撃して排除すると共に、転移性細胞が転移へと発達するのを防止することができるだろう。この抗腫瘍効果のエフェクター機構は、補体及び抗体依存的細胞性細胞傷害によって媒介されるだろう。また、誘導される抗体は、受容体の成長因子依存的なオリゴマー化/ダイマー化(oligo-dimerisation)及び内在化を阻害することによって、癌細胞成長を阻害することもできるだろう。ある実施形態において、そのような改変PSA及び/又はPAPポリペプチド抗原は、腫瘍細胞によって示される公知及び/又は予測PSA及び/又はPAPエピトープに対するCTL応答を誘導することができるだろう。好ましい一実施形態では、PSA抗原及びPAP抗原が、これらの抗原に対するB細胞応答及びT細胞応答を誘導する。
【0068】
ある実施形態では、改変PSA及び/又はPAPポリペプチド抗原が、細胞関連ポリペプチド抗原のCTLエピトープと、変異(variation)とを含み、その変異は外来THエピトープの少なくとも1つのCTLエピトープを含む。少なくとも1つのCTLエピトープと、外来THエピトープの少なくとも1つのCTLエピトープを含む変異とを含む、一定の、そのような改変PSA及び/又はPAPポリペプチド抗原、並びにそれらを製造する方法は、米国特許第7,005,498号並びに米国特許出願公開第2004/0141958号及び同第2006/0008465号に記載されている。
【0069】
ある実施形態では、外来THエピトープが天然の「プロミスカス(promiscuous)」T細胞エピトープである。そのようなプロミスカスT細胞エピトープは、ある動物種又は動物集団の個体の大部分において活性である。ある実施形態では、ワクチンが、そのようなプロミスカスT細胞エピトープを含む。一定の、そのような実施形態では、プロミスカスT細胞エピトープの使用により、同じワクチンに極めて多数の異なるCTLエピトープを使用する必要性が少なくなる。例示的プロミスカスT細胞エピトープには、例えば破傷風毒素由来のエピトープ(P2及びP30エピトープ(Panina-Bordignonら, 1989)を含むがこれらに限るわけではない)、ジフテリア毒素、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、及び熱帯熱マラリア原虫CS抗原などが含まれるが、これらに限るわけではない。
【0070】
さらなるプロミスカスT細胞エピトープとして、異なるHLA-DRによってコードされるHLA-DR分子の大部分を結合する能力を持つペプチドも挙げられる。例えば、国際公開第98/23635号(Frazer IHら, クイーンズランド大学に譲渡);Southwood Sら, J. Immunol. 160: 3363-3373 (1998);Sinigaglia Fら, Nature 336:778 780 (1988);Rammensee HGら, Immunogenetics 41:(4):178-228 (1988);Chicz RMら, J. Exp. Med 178:27-47 (1993);Hammer Jら, Cell 74:197-203 (1993);及びFalk Kら, Immunogenetics 39:230-242 (1994)を参照されたい。最後の参考文献はHLA-DQ及び-DPリガンドも扱っている。これらの参考文献に列挙されているエピトープは全て、これらと共通のモチーフを共有するエピトープと同様、本明細書に記載する天然エピトープ候補として関連がある。
【0071】
他のある実施形態では、プロミスカスT細胞エピトープが、ハプロタイプの大部分を結合する能力を持つ人工T細胞エピトープである。一定の、そのような実施形態では、人工T細胞エピトープが、国際公開第95/07707号及び対応する論文Alexander Jら, Immunity 1:751-761 (1994)に記載のパンDRエピトープペプチド(pan DR epitope peptide;「PADRE」)である。
【0072】
組換えMVA
本発明は、PAP抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。好ましくは、MVAウイルスはヒトPAP抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスがラット又はマウスPAP抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスが完全長PAP抗原をコードする。好ましい一実施形態では、MVAが配列番号2のヌクレオチド配列を含む。
【0073】
もう1つの実施形態では、MVAがPAPのフラグメントをコードする。PAPのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。例えば、Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005);Machlenkinら, Cancer Res. 65(14):6435-6442 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、PAPのフラグメントが、ヒトPAPの25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、又は375個の連続するアミノ酸を含む。
【0074】
好ましい実施形態では、MVAが、ヒトPAPのアミノ酸81〜95、112〜120、133〜152、155〜163、173〜192、199〜213、228〜242、248〜257、299〜307、又は308〜322を含むポリペプチドをコードする。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005);Haradaら, Oncol Rep. 12(3):601-7 (2004);Machlenkinら, Cancer Res. 65(14):6435-6442 (2005);及びMcNeelら, Cancer Res. 61(13):5161-7 (2001)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの1つを含む。ある実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個を含む。これらのエピトープの可能な組合せのそれぞれが、具体的に考えられる。
【0075】
本発明は、PSA抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルス、及びPSA抗原を含むポリペプチドとPAP抗原を含むポリペプチドとを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。好ましくは、MVAウイルスはヒトPSA抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスがラット又はマウスPSA抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスが完全長PSA抗原をコードする。好ましい一実施形態では、MVAが配列番号1のヌクレオチド配列を含む。
【0076】
もう1つの実施形態では、MVAがPSAのフラグメントをコードする。PSAのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。ある実施形態では、PSAのフラグメントが、ヒトPSAの25、50、75、100、125、150、175、200、225、又は250個の連続するアミノ酸を含む。
【0077】
好ましい実施形態では、MVAが、ヒトPSAのアミノ酸16〜24又は154〜163を含むポリペプチドをコードする。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの1つを含む。別の実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの両方を含む。
【0078】
組換えMVAウイルスは、宿主に投与された時にPAP及び/又はPSAに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導するための免疫原性組成物に使用することができる。好ましい一実施形態では、本免疫原性組成物が、宿主に投与された時に、PAP及び/又はPSAに対する抗体を誘導する。本免疫原性組成物は、アジュバント、希釈剤及び/又は安定剤を含有することができる。そのような添加剤には、例えば水、食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤又は乳化剤、及びpH緩衝物質が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0079】
ある実施形態では、MVAがMVA-BN(登録商標)である。
【0080】
限定でない一実施形態では、腫瘍関連抗原を含む組換えMVA、例えばPSA抗原とPAP抗原の両方をコードするMVA-BN-PROが、次のように構築される。複製を許容する細胞タイプ、例えばCEF細胞を使って、細胞培養での組換えによって、最初のウイルスストックを作製する。細胞に、弱毒化ワクシニアウイルス、例えばMVA-BN(登録商標)を接種すると共に、腫瘍関連抗原(例えばPSA又はPAP)配列とウイルスゲノムの隣接領域とをコードする組換えプラスミド(例えばpBN217)をトランスフェクトする。限定でない一実施形態では、プラスミドpBN217が、MVA-BN(登録商標)中にも存在する配列(014L及び015Lオープンリーディングフレーム)を含有する。PSA及びPAP cDNA配列は、MVA-BN(登録商標)ウイルスゲノムへの組換えが可能になるように、それらMVA-BN(登録商標)配列の間に挿入される。ある実施形態では、プラスミドが、CEF細胞における組換えコンストラクトの選択が可能なように、1つ以上の選択遺伝子を含む選択カセットも含有する。
【0081】
培養物の感染とトランスフェクションを同時に行なうことで、ウイルスゲノムと組換えプラスミドの間で相同組換えが起こり得るようになる。次に、インサートを保持するウイルスを単離し、特徴づけ、ウイルスストックを調製する。ある実施形態では、選択遺伝子、例えばgpt及び赤色蛍光タンパク質(RFP)をコードする領域の喪失が起こり得るように、選択の非存在下で、ウイルスをCEF細胞培養物で継代する。
【0082】
処置方法
PSA及び/又はPAPなどの腫瘍関連抗原を過剰発現させる細胞が媒介する癌を持つ患者は、1つ以上のそのような抗原をコードする組換えMVAを使って処置することができる。好ましい一実施形態では、MVAがMVA-BN(登録商標)である。特に好ましい一実施形態では、MVAが、配列番号1のヌクレオチド配列を含むポリペプチドと、配列番号2のヌクレオチド配列を含む第2のポリペプチドとをコードする。
【0083】
癌は、好ましくは前立腺癌である。ある実施形態では、癌が転移性前立腺癌である。癌患者は、マウス又はラットを含む任意の哺乳動物であることができる。好ましくは、癌患者は霊長類であり、最も好ましくはヒトである。
【0084】
1つ以上の腫瘍関連抗原(例えばPSA又はPAP)をコードする組換えMVAは、全身的若しくは局所的に、すなわち非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、鼻腔内経路、皮内経路によって、又は熟練した医師に知られる他の任意の経路によって、投与することができる。
【0085】
ある実施形態では、105〜1010TCID50の組換えMVAが、患者に投与される。好ましくは、107〜1010TCID50の組換えMVAが患者に投与される。より好ましくは108〜1010TCID50の組換えMVAが患者に投与される。最も好ましくは108〜109又は109〜1010TCID50の組換えMVAが患者に投与される。好ましくは、組換えMVAが、1×108、2×108、又は4×108TCID50の用量で患者に投与される。
【0086】
組換えMVAは1回又は複数回投与することができる。 ある実施形態では、組換えMVAが、2回、3回、4回、又は5回投与される。好ましくは、組換えMVAが3回与えられる。最も好ましくは、4週間間隔で3回与えられる。投与間隔は、好ましくは1〜4週間、1〜8週間、1〜16週間、及び1〜52週間である。ある実施形態では、組換えMVAが、0日目に投与され、8日目及び15日目に再び投与される。好ましい一実施形態では、後続の投与については、投薬量が増量される。
【0087】
特に好ましい一実施形態では、1×108、2×108、及び4×108TCID50が、4週間間隔で3回与えられる。組換えMVAを複数回投与することの理論的根拠は、ブースター処置が抗PSA免疫応答及び抗PAP免疫応答を有意に増加させたことを示すマウスにおける前臨床的免疫原性データに基づく。ヒトにおける極めて幅広い免疫学的多型を考慮すると、3回以上の投与を行なうことによって、あらゆる個体が最大免疫応答に到達し得ることを保証することができる。
【0088】
ある実施形態では、抗PSA及び/又は抗PAP抗体が応答する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、抗PSA及び/又は抗PAP T細胞免疫応答を誘導する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、抗PSA及び/又は抗PAP抗体応答並びにT細胞免疫応答を誘導する。
【0089】
ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、他の腫瘍抗原へのT細胞応答のスプレッディングを誘導する。
【0090】
ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、予防的及び/又は治療的設定において、PSA(+)腫瘍の成長を阻害する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、予防的及び/又は治療的設定において、PAP(+)腫瘍の成長を阻害する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、予防的及び/又は治療的設定において、PSA(+)及びPAP(+)腫瘍の成長を阻害する。
【0091】
細胞毒性剤との併用療法
PSA及び/又はPAPなどの腫瘍関連抗原を過剰発現させる細胞が媒介する癌を持つ患者は、1つ以上のそのような抗原をコードする組換えMVAとタキサンの併用によって処置することができる。細胞毒性剤は、サブ殺腫瘍用量(sub-tumoricidal dose)において、ワクチン効力にとって有益であるだろう免疫調整活性を示す。殺腫瘍用量(高用量)では、これらの薬剤を、組換えMVAによる処置と同時に、又は組換えMVAによる処置の前若しくは後に使用することが、それぞれの処置を単独で施すよりも優れた処置になり得る。
【0092】
ある実施形態では、タキサンがドセタキセルである。もう1つの実施形態では、タキサンがパクリタキセルである。タキサンは好ましくは殺腫瘍用量で投与される。ドセタキセルの「殺腫瘍用量」は少なくとも50mg/m2である。好ましくは、ドセタキセルの殺腫瘍用量は75〜100mg/m2であり、これは約25〜33mg/kgの投薬量に相当する。パクリタキセルの「殺腫瘍用量」は少なくとも90mg/m2である。好ましくは、パクリタキセルの殺腫瘍用量は135〜175mg/m2である。タキサンの「サブ殺腫瘍用量」とは、殺腫瘍投薬量より低い投薬量である。タキサンは、当業者に知られる手段によって、例えば静脈内に、投与することができる。
【0093】
ある実施形態では、タキサンと、前立腺腫瘍特異抗原を含むポリペプチドをコードするMVAとが、同時に投与される。
【0094】
ある実施形態では、組換えMVAに先だって、タキサンが投与される。ある実施形態では、タキサン投与の6ヶ月以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、3ヶ月以内、2ヶ月以内、又は1ヶ月以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、21日以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、14日以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、7日以内に、組換えMVAが投与される。通常、組換えMVAは、タキサンによる処置の少なくとも2日後に投与される。
【0095】
ある実施形態では、組換えMVAの後に、タキサンが投与される。通常、タキサンによる処置の少なくとも1週間前に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンに先だつこと2年未満の間に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンに先立つこと1年未満、6ヶ月未満、又は3ヶ月未満の間に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンの1〜26週間前に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンの1〜9週間前に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンの1〜3週間前に、組換えMVAが投与される。
【0096】
一定の実施形態では、組換えMVAの前と後の両方に、タキサンが投与される。別の実施形態では、タキサンの前と後の両方に、組換えMVAが投与される。組換えMVA及びタキサンの投与は、単回投与又は複数回投与であることができる。例えば投与は、1、2、3、4、5、又は6週間隔てて行なうことができる。
【0097】
キット
本発明は、組換えMVAを含むキットを包含する。組換えMVAはバイアル又は容器に入れることができる。ある実施形態では、組換えMVAがPAP抗原をコードする。ある実施形態では、組換えMVAがPSA抗原を含むポリペプチドをコードする。ある実施形態では、組換えMVAが、PSA抗原を含むポリペプチドとPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする。さまざまな実施形態において、ワクチン接種用のキットは、第1バイアル又は第1容器には第1ワクチン接種(「プライミング(priming)」)用の組換えMVAを含み、第2又は第3のバイアル又は容器には第2又は第3ワクチン接種(「ブースティング(boosting)」)用の組換えMVAを含む。
【0098】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺癌を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、1つ以上の前立腺腫瘍関連マーカーの増加が検出された後に行なわれる前立腺癌を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。好ましい一実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を予防するために、循環PSAレベルが増加していると決定された後に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を予防するために、30歳以降の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を予防するために、30歳以降且つ40歳以前の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、40歳以降に行なわれる前立腺癌を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。
【0099】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺癌転移を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺腫瘍細胞関連マーカーの増加が検出された後に行なわれる前立腺癌転移を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。好ましい一実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌転移を予防するために、循環PSAレベルが増加していると決定された後に、検出可能な原発腫瘍の不在にもかかわらず、投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌転移を予防するために、30歳以降の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌転移を予防するために、30歳以降且つ40歳以前の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、40歳以降に行なわれる前立腺癌転移を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。
【0100】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺癌を処置するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、1つ以上の前立腺腫瘍関連マーカーの増加が検出された後に行なわれる前立腺癌を処置するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。好ましい一実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を処置するために、循環PSAレベルが増加していると決定された後に、投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を処置するために、30歳以降の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を処置するために、30歳以降且つ40歳以前の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、40歳以降に行なわれる前立腺癌を処置するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。
【0101】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンの投与に先だって行なわれるその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。この指示は、MVAが、タキサン投与の6ヶ月前から1週間前までのいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。好ましい実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の3ヶ月前から1週間前まで、6週間前から1週間前まで、1ヶ月前から1週間前まで、3週間前から1週間前まで、及び2週間前から1週間前までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示する。ある実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の1週間前から0日前までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。
【0102】
キットは、組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンの投与と同時に行なわれるその組換えMVAの投与に関する指示とを含むこともできる。
【0103】
キットは、組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンの投与後に行なわれるその組換えMVAの投与に関する指示とを含むこともできる。この指示は、MVAが、タキサン投与の1日後から6ヶ月後までのいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。好ましい実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の2日後から1週間後まで、2日後から2週間後まで、2日後から3週間後まで、2日後から1ヶ月後まで、2日後から2ヶ月後まで、2日後から3ヶ月後まで、及び2日後から6ヶ月後までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示する。ある実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の0日後から2日後までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。
【0104】
本発明をさらに詳しく例示するために、以下に実施例及び参考文献を挙げるが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるわけではない。例示した項目の変形であって当業者に思い浮かぶものはいずれも、本発明の範囲に包含されるものとする。さらにまた、本明細書は、引用した文献を考慮することで最も完璧に理解され、それらの文献は全て参照によりそのまま本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0105】
実施例1
MVA-BN-PROの構築及び感染細胞におけるタンパク質発現の解析
前立腺癌ワクチンを開発するために、ヒト前立腺特異抗原(PSA)と前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)とをコードする組換えワクシニアウイルスベクターMVA-BN-PROを作製した。組換えワクシニアウイルスベクターMVA-BN-PROは、高度に弱毒化されたワクシニアウイルス株MVA-BN(登録商標)(改変ワクシニアウイルスアンカラ-Bavarian Nordic)から誘導した。MVA-BN(登録商標)は、初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞に強く適応しており、ヒト細胞では増殖的に複製しない。ヒト細胞では、ウイルス遺伝子は発現されるが、感染性ウイルスは産生されない。
【0106】
遺伝子の由来
PSA遺伝子及びPAP cDNAを、Clontech(カタログ番号6410801)から購入したヒト前立腺全RNAから、定型的な分子生物学的技法を使って転写(逆転写)した。PSAは前立腺によって産生される前立腺特異抗原であり、前立腺癌、良性前立腺増殖症、又は前立腺の感染若しくは炎症を有する男性の血中では、見いだされる量が増加する。PSAは細胞媒介性免疫療法アプローチのターゲットとして同定されている。PAP(前立腺酸性ホスファターゼ)は、血中で測定される酵素であって、どこか他の部位に浸潤又は転移した前立腺癌を持つ患者では、そのレベルが上昇し得る。PAPは、腫瘍が解剖学的前立腺被膜の外へ拡がっていない限り、上昇しない。したがってこの前立腺腫瘍抗原は、現在、いくつかのヒトワクチン治験において、ターゲット抗原として調査されており、臨床的利益の証拠が得られているものもある。
【0107】
結果として得られる増幅されたPSA及びPAP cDNAの配列が、公表されたものと合致することを確認した。すなわち、PSA cDNA(例えば、とりわけGenBank M26663.1 GI:618463;同義語:カリクレイン3;KLK3;786bp)及びPAP cDNA遺伝子の配列(GenBank M34840.1 GI:189620;同義語:PAP、ACP3、ACP-3;ACPP;1161bp)を以下に示す。
【0108】
ヒトPSA cDNA配列(GenBank配列M26663.1と99%一致;太字:48、54及び237位にある3つのサイレントヌクレオチド置換、これらはアミノ酸配列を変化させない):
ATGTGGGTCCCGGTTGTCTTCCTCACCCTGTCCGTGACGTGGATTGGCGCTGCGCCCCTCATCCTGTCTCGGATTGTGGGAGGCTGGGAGTGCGAGAAGCATTCCCAACCCTGGCAGGTGCTTGTGGCCTCTCGTGGCAGGGCAGTCTGCGGCGGTGTTCTGGTGCACCCCCAGTGGGTCCTCACAGCTGCCCACTGCATCAGGAACAAAAGCGTGATCTTGCTGGGTCGGCACAGTCTGTTTCATCCTGAAGACACAGGCCAGGTATTTCAGGTCAGCCACAGCTTCCCACACCCGCTCTACGATATGAGCCTCCTGAAGAATCGATTCCTCAGGCCAGGTGATGACTCCAGCCACGACCTCATGCTGCTCCGCCTGTCAGAGCCTGCCGAGCTCACGGATGCTGTGAAGGTCATGGACCTGCCCACCCAGGAGCCAGCACTGGGGACCACCTGCTACGCCTCAGGCTGGGGCAGCATTGAACCAGAGGAGTTCTTGACCCCAAAGAAACTTCAGTGTGTGGACCTCCATGTTATTTCCAATGACGTGTGTGCGCAAGTTCACCCTCAGAAGGTGACCAAGTTCATGCTGTGTGCTGGACGCTGGACAGGGGGCAAAAGCACCTGCTCGGGTGATTCTGGGGGCCCACTTGTCTGTAATGGTGTGCTTCAAGGTATCACGTCATGGGGCAGTGAACCATGTGCCCTGCCCGAAAGGCCTTCCCTGTACACCAAGGTGGTGCATTACCGGAAGTGGATCAAGGACACCATCGTGGCCAACCCCTGA(配列番号1)。
【0109】
ヒトPSAのアミノ酸配列は、
MWVPVVFLTLSVTWIGAAPLILSRIVGGWECEKHSQPWQVLVAS
RGRAVCGGVLVHPQWVLTAAHCIRNKSVILLGRHSLFHPEDTGQVFQVSHSFPHPLYD
MSLLKNRFLRPGDDSSHDLMLLRLSEPAELTDAVKVMDLPTQEPALGTTCYASGWGSI
EPEEFLTPKKLQCVDLHVISNDVCAQVHPQKVTKFMLCAGRWTGGKSTCSGDSGGPLV
CNGVLQGITSWGSEPCALPERPSLYTKVVHYRKWIKDTIVANP(配列番号3)である。
【0110】
ヒトPAP cDNA配列(GenBank配列M34840.1と100%一致):
ATGAGAGCTGCACCCCTCCTCCTGGCCAGGGCAGCAAGCCTTAGCCTTGGCTTCTTGTTTCTGCTTTTTTTCTGGCTAGACCGAAGTGTACTAGCCAAGGAGTTGAAGTTTGTGACTTTGGTGTTTCGGCATGGAGACCGAAGTCCCATTGACACCTTTCCCACTGACCCCATAAAGGAATCCTCATGGCCACAAGGATTTGGCCAACTCACCCAGCTGGGCATGGAGCAGCATTATGAACTTGGAGAGTATATAAGAAAGAGATATAGAAAATTCTTGAATGAGTCCTATAAACATGAACAGGTTTATATTCGAAGCACAGACGTTGACCGGACTTTGATGAGTGCTATGACAAACCTGGCAGCCCTGTTTCCCCCAGAAGGTGTCAGCATCTGGAATCCTATCCTACTCTGGCAGCCCATCCCGGTGCACACAGTTCCTCTTTCTGAAGATCAGTTGCTATACCTGCCTTTCAGGAACTGCCCTCGTTTTCAAGAACTTGAGAGTGAGACTTTGAAATCAGAGGAATTCCAGAAGAGGCTGCACCCTTATAAGGATTTTATAGCTACCTTGGGAAAACTTTCAGGATTACATGGCCAGGACCTTTTTGGAATTTGGAGTAAAGTCTACGACCCTTTATATTGTGAGAGTGTTCACAATTTCACTTTACCCTCCTGGGCCACTGAGGACACCATGACTAAGTTGAGAGAATTGTCAGAATTGTCCCTCCTGTCCCTCTATGGAATTCACAAGCAGAAAGAGAAATCTAGGCTCCAAGGGGGTGTCCTGGTCAATGAAATCCTCAATCACATGAAGAGAGCAACTCAGATACCAAGCTACAAAAAACTTATCATGTATTCTGCGCATGACACTACTGTGAGTGGCCTACAGATGGCGCTAGATGTTTACAACGGACTCCTTCCTCCCTATGCTTCTTGCCACTTGACGGAATTGTACTTTGAGAAGGGGGAGTACTTTGTGGAGATGTACTATCGGAATGAGACGCAGCACGAGCCGTATCCCCTCATGCTACCTGGCTGCAGCCCTAGCTGTCCTCTGGAGAGGTTTGCTGAGCTGGTTGGCCCTGTGATCCCTCAAGACTGGTCCACGGAGTGTATGACCACAAACAGCCATCAAGGTACTGAGGACAGTACAGATTAG
(配列番号2)。
【0111】
ヒトPAPのアミノ酸配列は、
MRAAPLLLARAASLSLGFLFLLFFWLDRSVLAKELKFVTLVFRH
GDRSPIDTFPTDPIKESSWPQGFGQLTQLGMEQHYELGEYIRKRYRKFLNESYKHEQV
YIRSTDVDRTLMSAMTNLAALFPPEGVSIWNPILLWQPIPVHTVPLSEDQLLYLPFRN
CPRFQELESETLKSEEFQKRLHPYKDFIATLGKLSGLHGQDLFGIWSKVYDPLYCESV
HNFTLPSWATEDTMTKLRELSELSLLSLYGIHKQKEKSRLQGGVLVNEILNHMKRATQ
IPSYKKLIMYSAHDTTVSGLQMALDVYNGLLPPYASCHLTELYFEKGEYFVEMYYRNE
TQHEPYPLMLPGCSPSCPLERFAELVGPVIPQDWSTECMTTNSHQGTEDSTD
(配列番号4)である。
【0112】
プロモーターの由来
後期プロモーターである牛痘ウイルスのA型封入体プロモーター(ATI)をpBluescript KS+プラスミド(Stratagene)中に合成的に作製し、切り出し、PAP配列の前にもPSA配列の前にも挿入した。したがって、PSA及びPAPタンパク質は、DNA複製後に、他の後期遺伝子と共に発現されるはずである。
【0113】
ATIプロモーターの配列は、
5’-GTTTTGAATAAAATTTTTTTATAATAAATC(配列番号5)である。
【0114】
PSA/PAP-MVA-BN組換えプラスミドの構築
MVA-BN(登録商標)ゲノムに外来遺伝子を挿入するには、MVA-BN(登録商標)ゲノムの特異的領域、すなわち欠失部位又は遺伝子間(非コード)領域をターゲットとする中間組換えプラスミドを使用することができる。
【0115】
中間pBNX128プラスミドは、014Lオープンリーディングフレーム(ORF)と015Lオープンリーディングフレームの間の遺伝子間(非コード)領域(IGR)に隣接する領域に由来するMVA DNA配列を含有する。これら隣接配列の間に、PSA及びPAP cDNAなどの配列を挿入することができる。そうすれば、プラスミドとMVA-BN(登録商標)の両方が同じCEF細胞中に存在する場合に、014L/015L隣接配列が、MVA-BN(登録商標)ゲノムの014L/015L遺伝子間領域へのプラスミド配列の挿入を媒介する相同組換えを媒介する(図1A〜B)。挿入された配列中の選択カセットの存在が、組換えMVA-BN(登録商標)ウイルスの陽性選択を可能にする。
【0116】
MVA-BN-PROの作製
培養物の感染とトランスフェクションを同時に行なうことで、ウイルスゲノムと組換えプラスミドの間で、相同組換えが起こり得るようにした。その結果、選択条件下でプラーク精製を複数回行なった後に、PSA及びPAPコード領域と選択カセットとを含有する組換えワクシニアベクター(MVA-mBN106Aと呼ぶ)を得た。非選択条件下での増幅とさらなるプラーク精製後に、選択カセットを欠く組換えワクシニアウイルスMVA-BN-PROが単離された。
【0117】
選択カセットを欠くプラーク精製ウイルスMVA-BN-PROを調製した。そのような調製には4回のプラーク精製を含む12代の継代を要した。
【0118】
MVA-BN-PROストックにプロモーター-PSA-プロモーター-PAP配列が存在し、且つ親MVA-BN(登録商標)ウイルスが存在しないことを、DNA配列決定及びPCR解析によって確認し、ネステッドPCRを使って、選択カセット(gpt遺伝子及びRFP遺伝子)が存在しないことを確かめた。MVA-BN-PROゲノムの略図を図2に示す。
【0119】
実施例2
MVA-BN-PROで処理された細胞におけるPSAとPAPの同時発現
MVA-BN-PROによってコードされる2つの前立腺特異抗原、すなわちヒトPSA及びヒトPAPの同時発現が、インビトロでMVA-BN-PROと共にインキュベートした細胞において実証された。BALB/cマウスの化学誘発結腸直腸癌であるCT26(Brattainら, Cancer Research 40, 2142-2146 (1980))の培養物をMVA-BN-PROと共にインキュベートし、上清を、組換えPSA及び組換えPAPの存在について解析した。PSAは、ヒト血清試料のスクリーニングに日常的に利用されているELISAに基づくPSA診断キット(Human PSA ELISA Kit、Anogen(カナダ国オンタリオ州);PSA検出範囲:2〜80ng/mL)を使って測定した。PAPは、その酵素的性質により、ホスフェート(phosphate)活性に関する比色アッセイ(酸性ホスファターゼアッセイ;PAP検出範囲:4〜40ng/mL)を使って、間接的に測定した。MVA-BN-PROを1〜100の範囲の感染多重度(MOI)で加えて24時間後に収集した同じ培養上清の一部で、PSA及びPAPを評価した。
【0120】
図3に示すように、MVA-BN-PROと共にインキュベートした細胞の上清に、どちらの抗原も検出することができた。培養中に産生される組換えPSA及び組換えPAPの量は、実験に使用したMVA-BN-PROの量(MOI)及び細胞の数に依存した。対照的に、培地のみでインキュベートするか、対応するMOIのMVA-BN(登録商標)と共にインキュベートした対照培養物の上清には、PSAも、PAPを示すホスファターゼ活性も、検出することができなかった。
【0121】
各アッセイについて参照標準プロットを使って計算されるPSA及びPAPのタイトレーションにより、同じような量の両抗原が、MVA-BN-PROと共にインキュベートした細胞によって産生されることが明らかになった。実際、CT26を1ウェルにつき1×105細胞の密度で播種し、MOIが10のMVA-BN-PROと共に48時間インキュベートしたところ、1043ng/mLのPSA及び209ng/mLのPAPが、培養上清中に測定された。PSA配列及びPAP配列はMVA-BN(登録商標)ゲノムの同じ領域に挿入され、それらの発現は各配列の上流に位置するATIプロモーターによって独立して駆動される。このインサート構成は、両組換え抗原の最適な発現にとって適正な環境を与えるようである。全体として、これらのデータは、MVA-BN(登録商標)が、PSAとPAPのような複数のトランスジェニック抗原をバランスよく同時発現させるための適当な送達ビヒクルに相当することを示している。
【0122】
実施例3
MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗PAP及び抗PSA免疫応答の誘導
MVA-BN-PROで処置した時の抗PSA及び抗PAP免疫応答の誘導をBALB/cマウスで評価した。これらの研究では、2×106〜5×107TCID50の範囲のさまざまな用量のMVA-BN-PROを評価した。各処置の前日及び最終処置の2週間後に血液試料を集め、体液性応答をELISAで解析した。最終処置後に脾細胞を収集し、細胞性応答をELISpotで解析した。
【0123】
抗PSA及び抗PAP抗体応答の誘導
BALB/cマウス(各群5匹)を、5×107TCID50のMVA-BN-PROで、1日目、15日目及び29日目(2週間ごとに3回)に、皮下処置した。対照動物はMVA-BN(登録商標)又は製剤緩衝液(TBS)で処置した。処置前、14日目、28日目、及び42日目に、血液試料を収集した。次に、各試験群のマウスから得た血清をプールし、ELISAで解析した。マイクロタイトレーションプレートのウェル上にコーティングされるターゲット抗原として市販の精製タンパク質(Meridian Life Sciences, Inc.、メイン州ソーコ)を使用することにより、抗PSA及び抗PAP抗体応答の誘導を評価した。図4A及び4Bに示すように、抗PSA及び抗PAP抗体応答がMVA-BN-PRO処置マウスに検出された。抗PSA抗体価の検出には少なくとも2回の投与が要求され、MVA-BN-PROによる3回目の処置後は力価が増加した。一般に、PAPに対する抗体応答の方が少なかった。というのも、その力価は、PSAに対して誘導される力価よりも常に低かったからである。PAPに対して観察された低い抗体応答は、おそらく、このタンパク質の弱いB細胞抗原性によるのだろう。
【0124】
抗PSA及び抗PAP T細胞応答の誘導
BALB/cマウス(各群5匹)を、1日目、15日目、31日目(2週間ごとに3回)に、対照(TBS)、2×106又は5×107TCID50のMVA-BN-PROで、皮下処置した。最後の免疫処置の5日後に脾臓を収集し、各試験群から得た細胞懸濁液をプールして解析に供した。インビトロ抗原特異的再刺激後のIFNγ産生を測定するELISpotによって、T細胞応答の誘導を評価した。再刺激には、11マーのオーバーラップを持ち、PSAアミノ酸配列又はPAPアミノ酸配列のどちらか一方の全長をカバーする、15マーペプチドのライブラリー(OPL)を、別々に使用した。図5に示すように、PAP OPLとPSA OPLのどちらで再刺激した場合にも、MVA-BN-PRO処置群から得られた脾臓細胞には、抗原特異的T細胞応答が検出されたが、ヒトHER-2 ecd配列から誘導された対照OPLは効果を持たなかった(図5A)。MVA-BN(登録商標)処置群(データ未掲載)又はTBS処置群(図5)のマウスでは、細胞をPSA、PAP、又はHER-2 OPLで再刺激しても、T細胞応答は検出されなかった。これらのデータは、かなりの数の抗原特異的T細胞をエクスビボ拡大なしで脾細胞中に直接検出することができたので、MVA-BN-PROが強力なT細胞誘導物質であることを示している。
【0125】
MVA-BN-PROで処置した時にマウスで誘導される抗PAP及びPSA T細胞応答に対するCD4ヘルパーT細胞及びCD8細胞傷害性T細胞の寄与を、脾臓細胞のインビトロ再刺激に先だってT細胞サブセット集団を枯渇させた後に調べた。図6に示すように、T細胞応答は、PSA OPL又はPAP OPLのどちらか一方で再刺激した場合に、CD4枯渇T細胞サブセットにも、CD8枯渇T細胞サブセットにも検出された。
【0126】
全体として、これらの研究は、MVA-BN-PROによるマウスの反復処置が、2つのTAAに対して、抗体とCD4及びCD8エフェクター細胞サブタイプの両方とが関与する幅広い抗原特異的適応免疫応答を誘導することを示している。予想どおり、抗体応答は主としてPSAに向けられ、弱いB細胞免疫原であることが知られているPAPは、限られた抗体応答しかトリガーしなかった。PSA及びPAPは、本質的に、抗原提示分子/ペプチド複合体の形でT細胞ターゲットとして腫瘍細胞表面に提示されるので、免疫系の細胞性コンポーネントの活性化は、MVA-BN-PROの効力にとって決定的に重要な必要条件である。試験したどのMVA-BN-PRO用量でも、処置された動物では、両方のTAAに対して強いCD4及びCD8 T細胞応答が誘導された。したがってMVA-BN-PROは、PSA及び/又はPAPペプチドをその表面に提示する腫瘍細胞の排除を媒介する潜在能力を有する。
【0127】
実施例4
MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗腫瘍活性
マウスにおけるPSA陽性腫瘍細胞の成長に影響を及ぼすMVA-BN-PROの能力を、予防的並びに治療的癌腫瘍モデルで評価した。そのデータから、MVA-BN-PROはどちらの設定でも腫瘍成長を阻害できることが示される。また、MVA-BN-PROは、治療的癌腫瘍モデルにおいて、マウスにおけるPAP陽性腫瘍細胞の成長を阻害することもできた。
【0128】
MVA-BN-PROで処置した時の防御抗原特異的適応免疫の誘導(予防的設定)
移植されたE5細胞を前立腺癌モデルとして使用することにより、MVA-BN-PROの腫瘍成長防止能力を評価した。E5は、ヒトPSA遺伝子をコードする組換えDNAをRM11にトランスフェクトした後に得られるマウス前立腺腫瘍細胞株RM11(Elzeyら, Int. J Cancer 15;94(6):842-9 (2001))のサブクローンである。この効力研究では、マウスを、上述のようにMVA-BN-PROで免疫処置した(すなわち、TBS、MVA-BN(登録商標)(5×107TCID50)又はMVA-BN-PRO(2×106、1×107又は5×107TCID50)のいずれかを3週間間隔で3回)。次に、最後の処置の6週間後に、1×105個のE5細胞を皮内注射することによって、マウスに腫瘍をチャレンジした。その後、腫瘍の成長を週に2回観察して、成長する固形腫瘍のサイズを測定した。
【0129】
図7C〜7Eに示すように、どのMVA-BN-PRO用量で前処置された動物でも、腫瘍はTBS対照群(図7A)の腫瘍より成長が遅く、研究の終了時(29日目)において、試験した全ての用量で、マウスの>50%が無腫瘍のままだった。対照的に、腫瘍チャレンジ後12日目には早くもTBS対照群のマウスの100%で、測定可能な腫瘍が検出された。その日に、測定可能な腫瘍は、全てのMVA-BN-PRO処置群のマウスの20%にしか検出されなかった。平均腫瘍サイズの相違は、12日目以降、研究全体にわたるどの地点でも、全てのMVA-BN-PRO処置群とTBS対照群の間で統計的に有意だった(図7F)。
【0130】
TBS対照群と同様に、腫瘍チャレンジ後12日目には早くもほとんど全てのMVA-BN(登録商標)処置マウス(90%)で、測定可能な腫瘍が検出された(図7B)。しかし、MVA-BN(登録商標)処置群の2匹のマウス(20%)は、研究の終了時点で無腫瘍だった(29日目;一方のマウスは試験中常に無腫瘍のままであり、他方のマウスでは腫瘍退縮が起こった)。また、MVA-BN(登録商標)処置群における腫瘍は、22日目までは、TBS対照群の腫瘍よりも成長が遅く、これら2つの群間の平均腫瘍サイズの差は、2つの時点で、統計的に有意な差に達した(19日目、p=0.034及び22日目、p=0.019)。他の全ての時点において、TBS処置マウスとMVA-BN(登録商標)処置マウスには、同じような平均腫瘍サイズが観察されたので、MVA-BN(登録商標)処置マウスにおける腫瘍成長の遅延は一過性に過ぎなかった(図7F)。
【0131】
2×106TCID50のMVA-BN-PROを使ってマウスを2週間間隔で処置した後、処置の2週間後に腫瘍細胞をチャレンジするという反復実験において、MVA-BN-PROが媒介する上記の抗腫瘍活性を確認した。腫瘍移植後29日目のデータを、移植後の同じ日について図7から得られる対応するデータと一緒に、図8に示す。MVA-BN-PROで処置したマウスでは、どちらの実験でも、同じ程度の腫瘍成長の遅延が観察された。その上、平均腫瘍サイズの差は、MVA-BN-PRO処置群とTBS処置群の間、並びにMVA-BN-PRO処置群とMVA-BN(登録商標)処置群の間で、統計的に有意な差に達した(それぞれp=0.03及びp=0.021)。図7において、初期の時点で観察されたMVA-BN(登録商標)の一過性の効果は、反復実験では検出されなかった(データ未掲載)。これらのデータは、MVA-BN-PROによるマウスの処置が抗原特異的適応免疫応答及び免疫記憶の樹立を誘導することを示している。続いて、2〜6週間後に、マウスに腫瘍細胞をチャレンジすると、免疫記憶が想起されて、腫瘍細胞の成長を阻害する。
【0132】
MVA-BN-PROで処置した時の腫瘍の抑制(治療的設定)
移植されたE6細胞を前立腺癌モデルとして使用することにより、定着した腫瘍を抑制するMVA-BN-PROの能力を評価した。E6は、ヒトPSA遺伝子をコードする組換えDNAをRM11にトランスフェクトした後に得られるマウス前立腺腫瘍細胞株RM11(Elzeyら, 2001)のサブクローンである。E6は、上述の予防的設定で使用されたE5よりもPSAの産生量が低い産生株である。1×105個のE6細胞を内皮に注射することによってマウスに腫瘍をチャレンジし、同じ日と、その後の8日目及び15日目に、TBS、MVA-BN(登録商標)又はMVA-BN-PRO(5×106又は5×107TCID50)のいずれかで処置した。その後、腫瘍成長を週に2回観察して、皮膚の下の固形腫瘍のサイズを測定した。
【0133】
図9に示すように、MVA-BN-PROで処置した動物中の腫瘍(図9C及び9D)は、MVA-BN(登録商標)処置動物(図9A及び9B)又はTBS処置動物(図9E)中の腫瘍よりも、成長が有意に遅かった。どちらのMVA-BN-PRO処置群でも、腫瘍サイズの安定化又は退縮が50%の動物で観察された。図9Fは群間の平均腫瘍サイズの差を示す。平均腫瘍体積は、5×106TCID50のMVA-BN-PROで処置された動物と、TBS又はMVA-BN(登録商標)で処置された対照群との間で、統計的に有意に異なったのに対して(それぞれp=0.014及びp=0.032)、5×107TCID50 MVA-BN-PRO処置群とTBS処置群の間では、統計的有意性に至らなかった(p=0.07)。これらのデータは、MVA-BN-PROによるマウスの処置が、治療的設定でマウスにおける前立腺腫瘍の成長を阻害することを示している。
【0134】
定着したPAP発現腫瘍も抑制するMVA-BN-PROの能力を、ヒトPAPを安定に発現させるCT26細胞を使って、実験的肺転移モデルで評価した。CT26は、BALB/cマウスの化学誘発結腸直腸癌である(Brattainら, 1980)。このモデルでは、CT26-PAP細胞がBALB/cマウスに静脈内注射され、腫瘍小結節が成長する肺において、腫瘍量が評価される。1日目にCT26-PAP細胞(5×105個)を静脈内注射によってマウスにチャレンジし、4日目に、TBS、MVA-BN(5×107TCID50)又はMVA-BN-PRO(2×106及び5×107TCID50)の腹腔内への単回注射によって、マウスを処置した。次に、14日目にマウスを屠殺し、その肺を重量測定した。図10に示すように、5×107TCID50のMVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍量は、対照マウスにおける腫瘍量よりも有意に低かった(p<0.024)。この抗腫瘍活性は用量依存的だった。というのも、低用量のMVA-BN-PROでは効果がなかったからである。さらにまた、この抗腫瘍活性は、おそらくPAP特異的免疫応答によって媒介される。というのも、対照群及びMVA-BN処置群のマウスにおける腫瘍量は変化しなかったからである。
【0135】
これらのデータは、MVA-BN-PROによるマウスの処置が、マウスにおける定着PAP陽性腫瘍の成長を阻害することを証明している。したがって、MVA-BN-PROによってコードされるPSA及びPAP前立腺抗原はどちらも、PSA又はPAP陽性腫瘍の成長を抑制する能力を持つ防御免疫応答の誘導に貢献する。
【0136】
実施例5
ハプロタイプの制約を超えたMVA-BN-PROの免疫原性
免疫応答は、抗原由来エピトープと免疫担当細胞上の多型抗原提示分子との相互作用によってもたらされる。MVA-BN-PRO中に2つの腫瘍抗原が存在する利点は、それらが、さまざまなハプロタイプの抗原提示分子と相互作用することのできる腫瘍抗原由来エピトープの数を潜在的に増加させることである。したがってMVA-BN-PROは、単一の抗原しか含有しないワクチンよりも広範囲にわたるハプロタイプの個体において免疫原性であるだろうと予想される。この可能性を、異なるハプロタイプを持つ動物を使った前臨床モデルで評価した。この実施例では、実施例1に記載のベクターを改変して、ATIプロモーターを初期/後期合成プロモーター(Ps;Chakrabarti S, Sisler JR及びMoss B, BioTechniques 23: 1094-1097 (December 1997))で置き換えた。したがって、PSAタンパク質及びPAPタンパク質は、MVA感染期の全体にわたって他の初期及び後期遺伝子と一緒に発現されるはずである。
Psプロモーターの配列:
5’-AAAAAATTGAAATTTTATTTTTTTTTTTTGGAATATAAATAAT(配列番号6)。
【0137】
1日目、15日目、及び29日目に、雄BALB/cマウス及び雄C57BL/6マウス(各群5匹)に、5×107TCID50のMVA-BN-PROによる免疫処置を施した。42日目に血液試料を収集し、プール血清の段階希釈液を、抗PSA又は抗PAP IgGの存在について、実施例3で述べたように、ELISAで解析した。図11に示すように、高力価の抗PSA抗体が、BALB/cマウスから得た血清にのみ検出された。対照的に、抗PAP抗体価はどちらのマウス系統から得た血清にも測定されたが、C57BL/6マウスから得た血清の方が、検出される抗PAP抗体価が高かった。このデータは、特異抗原に対する免疫応答が持つハプロタイプとの関係性を強調し、MVA-BN-PRO中の複数の腫瘍抗原が、異なるハプロタイプを持つ、より広範な個体に有効な免疫を与えるはずであるという考えを裏付けている。
【0138】
実施例6
ヒトにおけるMVA-BN-PROの安全性及び免疫原性
MVA-BN-PROは、前立腺癌を持つ患者の処置に関して、現在治験中である。本願の出願時点で、4人の患者が1E8 TCID50のMVA-BN-PROによる1〜3回の処置を受けたが、有害作用は報告されていない。これらの患者の一人におけるMVA-BN-PROの免疫原性を、処置前及び処置後のPSA及びPAPに対するT細胞応答を比較することによって評価した。患者末梢血単核球(PBMC)における抗原特異的ガンマインターフェロン(IFN-γ)分泌T細胞の存在を、ELISpotアッセイを使って決定した。処置前(ベース)、及び108TCID50のMVA-BN-PROによる3回目の皮下ワクチン接種の2週間後(TC3)に、応答を決定した。MATIS-10%培地(RPMI、クリック(Click’s)培地、10%ヒトAB血清、0.5M 2-β-メルカプトエタノール、及び2%ペニシリン/ストレプトマイシン)中の患者PBMC(2×105個)を、10μg/mLの抗ヒトIFN-γ捕捉抗体(Mabtech、クローンMAb 1D1K、カタログ番号3420-3)でプレコーティングしたマルチスクリーン96ウェルPVDFプレート(Millipore、カタログ番号MSIPS4510)の含水ウェルに移した。次に、PBMCを、5μg/mLのPSA(Biodesign、カタログ番号A86878H)、63μM(1ペプチドあたり1μM)の、PSA完全長配列由来の63個の15マーペプチドからなる11マーオーバーラップライブラリー(OPL)、1μg/mLのPAP(Biodesign、カタログ番号A81277H)、94μM(1ペプチドあたり1μM)の、PAP完全長配列由来の94個の15マーペプチドからなる11マーOPL、44μM(1ペプチドあたり1μM)の、10種類の前立腺癌腫瘍関連抗原(TAA)に由来する44個のMHCクラスIペプチドのプール、15μM(1ペプチドあたり1μM)の、5種類の前立腺癌TAAに由来する15個の15MHCクラスIIペプチドのプール、又は感染多重度(MOI)が10のMVA(Bavarian Nordic、MVA-BN-PROD05A06-C)のいずれかで刺激した。
【0139】
PSA OPLの63個のペプチドの配列:
MWVPVVFLTLSVTWI(配列番号3のアミノ酸1〜15)
VVFLTLSVTWIGAAP(配列番号3のアミノ酸5〜19)
TLSVTWIGAAPLILS(配列番号3のアミノ酸9〜23)
TWIGAAPLILSRIVG(配列番号3のアミノ酸13〜27)
AAPLILSRIVGGWEC(配列番号3のアミノ酸17〜31)
ILSRIVGGWECEKHS(配列番号3のアミノ酸21〜35)
IVGGWECEKHSQPWQ(配列番号3のアミノ酸25〜39)
WECEKHSQPWQVLVA(配列番号3のアミノ酸29〜43)
KHSQPWQVLVASRGR(配列番号3のアミノ酸33〜47)
PWQVLVASRGRAVCG(配列番号3のアミノ酸37〜51)
LVASRGRAVCGGVLV(配列番号3のアミノ酸41〜55)
RGRAVCGGVLVHPQW(配列番号3のアミノ酸45〜59)
VCGGVLVHPQWVLTA(配列番号3のアミノ酸49〜63)
VLVHPQWVLTAAHCI(配列番号3のアミノ酸53〜67)
PQWVLTAAHCIRNKS(配列番号3のアミノ酸57〜71)
LTAAHCIRNKSVILL(配列番号3のアミノ酸61〜75)
HCIRNKSVILLGRHS(配列番号3のアミノ酸65〜79)
NKSVILLGRHSLFHP(配列番号3のアミノ酸69〜83)
ILLGRHSLFHPEDTG(配列番号3のアミノ酸73〜87)
RHSLFHPEDTGQVFQ(配列番号3のアミノ酸77〜91)
FHPEDTGQVFQVSHS(配列番号3のアミノ酸81〜95)
DTGQVFQVSHSFPHP(配列番号3のアミノ酸85〜99)
VFQVSHSFPHPLYDM(配列番号3のアミノ酸89〜103)
SHSFPHPLYDMSLLK(配列番号3のアミノ酸93〜107)
PHPLYDMSLLKNRFL(配列番号3のアミノ酸97〜111)
YDMSLLKNRFLRPGD(配列番号3のアミノ酸101〜115)
LLKNRFLRPGDDSSH(配列番号3のアミノ酸105〜119)
RFLRPGDDSSHDLML(配列番号3のアミノ酸109〜123)
PGDDSSHDLMLLRLS(配列番号3のアミノ酸113〜127)
SSHDLMLLRLSEPAE(配列番号3のアミノ酸117〜131)
LMLLRLSEPAELTDA(配列番号3のアミノ酸121〜135)
RLSEPAELTDAVKVM(配列番号3のアミノ酸125〜139)
PAELTDAVKVMDLPT(配列番号3のアミノ酸129〜143)
TDAVKVMDLPTQEPA(配列番号3のアミノ酸133〜147)
KVMDLPTQEPALGTT(配列番号3のアミノ酸137〜151)
LPTQEPALGTTCYAS(配列番号3のアミノ酸141〜155)
EPALGTTCYASGWGS(配列番号3のアミノ酸145〜159)
GTTCYASGWGSIEPE(配列番号3のアミノ酸149〜163)
YASGWGSIEPEEFLT(配列番号3のアミノ酸153〜167)
WGSIEPEEFLTPKKL(配列番号3のアミノ酸157〜171)
EPEEFLTPKKLQCVD(配列番号3のアミノ酸161〜175)
FLTPKKLQCVDLHVI(配列番号3のアミノ酸165〜179)
KKLQCVDLHVISNDV(配列番号3のアミノ酸169〜183)
CVDLHVISNDVCAQV(配列番号3のアミノ酸173〜187)
HVISNDVCAQVHPQK(配列番号3のアミノ酸177〜191)
NDVCAQVHPQKVTKF(配列番号3のアミノ酸181〜195)
AQVHPQKVTKFMLCA(配列番号3のアミノ酸185〜199)
PQKVTKFMLCAGRWT(配列番号3のアミノ酸189〜203)
TKFMLCAGRWTGGKS(配列番号3のアミノ酸193〜207)
LCAGRWTGGKSTCSG(配列番号3のアミノ酸197〜211)
RWTGGKSTCSGDSGG(配列番号3のアミノ酸201〜215)
GKSTCSGDSGGPLVC(配列番号3のアミノ酸205〜219)
CSGDSGGPLVCNGVL(配列番号3のアミノ酸209〜223)
SGGPLVCNGVLQGIT(配列番号3のアミノ酸213〜227)
LVCNGVLQGITSWGS(配列番号3のアミノ酸217〜231)
GVLQGITSWGSEPCA(配列番号3のアミノ酸221〜235)
GITSWGSEPCALPER(配列番号3のアミノ酸225〜239)
WGSEPCALPERPSLY(配列番号3のアミノ酸229〜243)
PCALPERPSLYTKVV(配列番号3のアミノ酸233〜247)
PERPSLYTKVVHYRK(配列番号3のアミノ酸237〜251)
SLYTKVVHYRKWIKD(配列番号3のアミノ酸241〜255)
KVVHYRKWIKDTIVA(配列番号3のアミノ酸245〜259)
YRKWIKDTIVANP(配列番号3のアミノ酸249〜261)
【0140】
PAP OPLの94個のペプチドの配列:
MRAAPLLLARAASLS(配列番号4のアミノ酸1〜15)
PLLLARAASLSLGFL(配列番号4のアミノ酸5〜19)
ARAASLSLGFLFLLF(配列番号4のアミノ酸9〜23)
SLSLGFLFLLFFWLD(配列番号4のアミノ酸13〜27)
GFLFLLFFWLDRSVL(配列番号4のアミノ酸17〜31)
LLFFWLDRSVLAKEL(配列番号4のアミノ酸21〜35)
WLDRSVLAKELKFVT(配列番号4のアミノ酸25〜39)
SVLAKELKFVTLVFR(配列番号4のアミノ酸29〜43)
KELKFVTLVFRHGDR(配列番号4のアミノ酸33〜47)
FVTLVFRHGDRSPID(配列番号4のアミノ酸37〜51)
VFRHGDRSPIDTFPT(配列番号4のアミノ酸41〜55)
GDRSPIDTFPTDPIK(配列番号4のアミノ酸45〜59)
PIDTFPTDPIKESSW(配列番号4のアミノ酸49〜63)
FPTDPIKESSWPQGF(配列番号4のアミノ酸53〜67)
PIKESSWPQGFGQLT(配列番号4のアミノ酸57〜71)
SSWPQGFGQLTQLGM(配列番号4のアミノ酸61〜75)
QGFGQLTQLGMEQHY(配列番号4のアミノ酸65〜79)
QLTQLGMEQHYELGE(配列番号4のアミノ酸69〜83)
LGMEQHYELGEYIRK(配列番号4のアミノ酸74〜87)
QHYELGEYIRKRYRK(配列番号4のアミノ酸77〜91)
LGEYIRKRYRKFLNE(配列番号4のアミノ酸81〜95)
IRKRYRKFLNESYKH(配列番号4のアミノ酸85〜99)
YRKFLNESYKHEQVY(配列番号4のアミノ酸89〜103)
LNESYKHEQVYIRST(配列番号4のアミノ酸93〜107)
YKHEQVYIRSTDVDR(配列番号4のアミノ酸97〜111)
QVYIRSTDVDRTLMS(配列番号4のアミノ酸101〜115)
RSTDVDRTLMSAMTN(配列番号4のアミノ酸105〜119)
VDRTLMSAMTNLAAL(配列番号4のアミノ酸109〜123)
LMSAMTNLAALFPPE(配列番号4のアミノ酸113〜127)
MTNLAALFPPEGVSI(配列番号4のアミノ酸117〜131)
AALFPPEGVSIWNPI(配列番号4のアミノ酸121〜135)
PPEGVSIWNPILLWQ(配列番号4のアミノ酸125〜139)
VSIWNPILLWQPIPV(配列番号4のアミノ酸129〜143)
NPILLWQPIPVHTVP(配列番号4のアミノ酸133〜147)
LWQPIPVHTVPLSED(配列番号4のアミノ酸137〜151)
IPVHTVPLSEDQLLY(配列番号4のアミノ酸141〜155)
TVPLSEDQLLYLPFR(配列番号4のアミノ酸145〜159)
SEDQLLYLPFRNCPR(配列番号4のアミノ酸149〜163)
LLYLPFRNCPRFQEL(配列番号4のアミノ酸153〜167)
PFRNCPRFQELESET(配列番号4のアミノ酸157〜171)
CPRFQELESETLKSE(配列番号4のアミノ酸161〜175)
QELESETLKSEEFQK(配列番号4のアミノ酸165〜179)
SETLKSEEFQKRLHP(配列番号4のアミノ酸169〜183)
KSEEFQKRLHPYKDF(配列番号4のアミノ酸173〜187)
FQKRLHPYKDFIATL(配列番号4のアミノ酸177〜191)
LHPYKDFIATLGKLS(配列番号4のアミノ酸181〜195)
KDFIATLGKLSGLHG(配列番号4のアミノ酸185〜199)
ATLGKLSGLHGQDLF(配列番号4のアミノ酸189〜203)
KLSGLHGQDLFGIWS(配列番号4のアミノ酸193〜207)
LHGQDLFGIWSKVYD(配列番号4のアミノ酸197〜211)
DLFGIWSKVYDPLYC(配列番号4のアミノ酸201〜215)
IWSKVYDPLYCESVH(配列番号4のアミノ酸205〜219)
VYDPLYCESVHNFTL(配列番号4のアミノ酸209〜223)
LYCESVHNFTLPSWA(配列番号4のアミノ酸213〜227)
SVHNFTLPSWATEDT(配列番号4のアミノ酸217〜231)
FTLPSWATEDTMTKL(配列番号4のアミノ酸221〜235)
SWATEDTMTKLRELS(配列番号4のアミノ酸225〜239)
EDTMTKLRELSELSL(配列番号4のアミノ酸229〜243)
TKLRELSELSLLSLY(配列番号4のアミノ酸234〜247)
ELSELSLLSLYGIHK(配列番号4のアミノ酸237〜251)
LSLLSLYGIHKQKEK(配列番号4のアミノ酸241〜255)
SLYGIHKQKEKSRLQ(配列番号4のアミノ酸245〜259)
IHKQKEKSRLQGGVL(配列番号4のアミノ酸249〜263)
KEKSRLQGGVLVNEI(配列番号4のアミノ酸253〜267)
RLQGGVLVNEILNHM(配列番号4のアミノ酸257〜271)
GVLVNEILNHMKRAT(配列番号4のアミノ酸261〜275)
NEILNHMKRATQIPS(配列番号4のアミノ酸265〜279)
NHMKRATQIPSYKKL(配列番号4のアミノ酸269〜283)
RATQIPSYKKLIMYS(配列番号4のアミノ酸274〜287)
IPSYKKLIMYSAHDT(配列番号4のアミノ酸277〜291)
KKLIMYSAHDTTVSG(配列番号4のアミノ酸281〜295)
MYSAHDTTVSGLQMA(配列番号4のアミノ酸285〜299)
HDTTVSGLQMALDVY(配列番号4のアミノ酸289〜303)
VSGLQMALDVYNGLL(配列番号4のアミノ酸293〜307)
QMALDVYNGLLPPYA(配列番号4のアミノ酸297〜311)
DVYNGLLPPYASCHL(配列番号4のアミノ酸301〜315)
GLLPPYASCHLTELY(配列番号4のアミノ酸305〜319)
PYASCHLTELYFEKG(配列番号4のアミノ酸309〜323)
CHLTELYFEKGEYFV(配列番号4のアミノ酸313〜327)
ELYFEKGEYFVEMYY(配列番号4のアミノ酸317〜331)
EKGEYFVEMYYRNET(配列番号4のアミノ酸321〜335)
YFVEMYYRNETQHEP(配列番号4のアミノ酸325〜339)
MYYRNETQHEPYPLM(配列番号4のアミノ酸329〜343)
NETQHEPYPLMLPGC(配列番号4のアミノ酸333〜347)
HEPYPLMLPGCSPSC(配列番号4のアミノ酸337〜351)
PLMLPGCSPSCPLER(配列番号4のアミノ酸341〜355)
PGCSPSCPLERFAEL(配列番号4のアミノ酸345〜359)
PSCPLERFAELVGPV(配列番号4のアミノ酸349〜363)
LERFAELVGPVIPQD(配列番号4のアミノ酸353〜367)
AELVGPVIPQDWSTE(配列番号4のアミノ酸357〜371)
GPVIPQDWSTECMTT(配列番号4のアミノ酸361〜375)
PQDWSTECMTTNSHQ(配列番号4のアミノ酸365〜379)
STECMTTNSHQGTED(配列番号4のアミノ酸369〜383)
MTTNSHQGTEDSTD(配列番号4のアミノ酸373〜386)
【0141】
【0142】
【0143】
37℃、5%CO2で40時間のインキュベーション後に、1μg/mLのビオチン化抗ヒトIFN-γ抗体(Mabtech、クローンMAb 7-B6-1、カタログ番号3420-6)を使用し、引き続き1/5000希釈したストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ(BD Pharmingen、カタログ番号554065)を添加することによって、IFN-γ分泌を検出した。Vector Blue Substrate(Vector Lab Inc.、カタログ番号SK-5300)を使ってELISpotプレートを開発し、自動スポットリーダー(Cellular Technology Ltd. ImmunoSpot S3B Analyzer及びCTL ImmunoSpot 4.0 Professionalソフトウェア)でスポットを数え上げた。図12に示すように、PSAに対する既存のT細胞応答が、患者J-D-1001におけるMVA-BN-PRO処置に先だって検出された。処置後は抗PSA T細胞が有意に増加したのに対して、抗PAP T細胞は処置後にのみ検出された。このデータは、MVA-BN-PROがヒトにおいて免疫原性であることと、抗PSA応答と抗PAP応答の両方の同時誘導が達成され得ることを示している。MVA-BN-PRO処置は、ベクターMVA-BNに対する強いT細胞応答ももたらした。最も重要なことに、MVA-BN-PRO処置は、TAA MHC I及びIIペプチドプールで刺激されたT細胞によるIFN-γの産生によって例証されるとおり、他の腫瘍抗原へのT細胞応答のスプレッディングももたらした。これは、MVA-BN-PROが誘導する免疫応答は、腫瘍細胞の死滅と、それに続く他の腫瘍抗原への抗腫瘍応答の増幅につながることを示している。抗原スプレッディングは、ワクチンが誘導する応答に対する腫瘍回避(tumor evasion)を防止するので、抗腫瘍防御免疫の誘導にとって重要な事象である。したがって、ヒトにおいて2つの腫瘍抗原に対する免疫応答を媒介するというMVA-BN-PROの能力は、効果的な免疫療法をもたらす性質である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍関連抗原、特に前立腺特異抗原(PSA)及び前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)をコードするMVAウイルスを使った、癌、特に前立腺癌の予防及び処置に関する。
【背景技術】
【0002】
改変ワクシニアアンカラ(Modified Vaccinia Ankara:MVA)ウイルスは、ポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属の1構成要素であるワクシニアウイルスと近縁である。MVAは、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をニワトリ胚線維芽細胞で516代にわたって連続継代することによって作出された(概要については非特許文献1を参照されたい)。これらの長期間にわたる継代の結果、得られたMVAウイルスのゲノムではそのゲノム配列の約31キロ塩基が欠失しているので、複製に関して宿主細胞は鳥類細胞に強く制限されると記載された(非特許文献2)。得られたMVAは著しく非病原性であることが、さまざまな動物モデルで示されている(非特許文献3)。また、このMVA株は、ヒト痘瘡疾患に対する免疫を与えるためのワクチンとして、臨床試験でも検討された(非特許文献4;非特許文献5)。これらの研究には高リスク患者を含めて120,000人を超える人々が参加し、これらの研究からMVAは、ワクシニアに基づくワクチンと比較して、低下した病原性又は感染性を持ちつつ、良好な特異的免疫応答を誘導することが判明した。その後、数十年の間に、MVAは、組換え遺伝子発現用のウイルスベクターとして使用するために、又は組換えワクチンとして使用するために、工学的に改変された(非特許文献6)。
【0003】
MVAがヒト及び哺乳動物では著しく弱毒化されていて非病原性であることはMayrらが1970年代に証明したとはいえ、一部の研究者らは、哺乳動物細胞株及びヒト細胞株では、残存複製(residual replication)が起こるかもしれないので、これらの細胞ではMVAが完全には弱毒化されていないと報告している(非特許文献7;非特許文献8;特許文献1;非特許文献9)。これらの刊行物で報告された結果は、MVAのさまざまな公知の株を使って得られたものであると考えられる。というのも、使用されたウイルスは、その性質、特にさまざまな細胞株におけるそれらの成長挙動が、本質的に異なるからである。そのような残存複製は、ヒトでの使用に関連して、安全性の懸念を含むさまざまな理由から望ましくない。
【0004】
より安全な製品(例えばワクチン又は医薬品)を開発するために強化された安全性プロファイルを有するMVAの株が記載されている。特許文献2及び特許文献3を参照されたい。そのような株は、非ヒト細胞及び細胞株、とりわけニワトリ胚線維芽細胞(CEF)では増殖的複製(reproductive replication)能を持つが、公知のワクシニア株で複製を許容することが知られている一定のヒト細胞株では増殖的複製能を持たない。それらの細胞株には、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat(非特許文献10)、ヒト頚部腺癌細胞株HeLa(ATCC No.CCL-2)、ヒト胚性腎臓細胞株293(ECACC No.85120602)、及びヒト骨肉腫細胞株143B(ECACC No.91112502)が含まれる。そのようなウイルス株は、インビボでも、例えば、重度の免疫機能低下状態にあって複製ウイルスに対する感受性が高いトランスジェニックマウスモデルAGR129などといった一定のマウス系統においても、増殖的複製能を持たない。特許文献2を参照されたい。「MVA-BN(登録商標)」と呼ばれる、そのようなMVA株の1つ並びにその誘導体及び組換え体が記載されている。特許文献2及び特許文献3を参照されたい。
【0005】
MVA及びMVA-BN(登録商標)はそれぞれ、組換え遺伝子発現用のウイルスベクターとして使用するために、又は組換えワクチンとして使用するために、工学的に改変されている。例えば非特許文献6、特許文献2及び特許文献3を参照されたい。
【0006】
癌関連疾患は世界的に死亡及び罹病の主原因である。例えば米国だけで、男性の6人に1人が前立腺癌を患うことになると推定されている。さらにまた、剖検研究により、男性人口のかなりの割合が、その最初期の非悪性段階であるとはいえ、30歳までには早くも、この疾患を持つことがわかっている。例えば、非特許文献11;非特許文献12を参照されたい。癌免疫療法に対する最近のアプローチには、腫瘍関連抗原によるワクチン接種が含まれている。いくつかの例では、そのようなアプローチに、腫瘍関連抗原に対する宿主免疫応答を促進するための送達システムの使用が含まれている。そのような送達システムには、組換えウイルスベクター、並びに細胞ベースの治療法が含まれている。例えば非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15を参照されたい。MVAは、転移性結腸直腸癌患者、転移性腎癌患者及びホルモン不応性前立腺癌患者を対象とする臨床治験において、5T4癌胎児性抗原用のワクチンビークルとして使用されている。非特許文献16。
【0007】
公知の腫瘍関連抗原には、前立腺特異抗原(PSA)及び前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)が含まれる。例えば非特許文献11;非特許文献12を参照されたい。PSAは前立腺によって産生され、前立腺癌、良性前立腺肥大、又は前立腺の感染若しくは炎症を有する男性の血中では、見いだされる量が増加する。PSAは、癌処置に対する細胞媒介性免疫療法アプローチのターゲットとして同定されている。例えば非特許文献17;非特許文献18を参照されたい。PAPは、血中で測定される酵素であって、どこか他の部位に浸潤又は転移した前立腺癌を持つ患者では、そのレベルが上昇し得る。PAPは、腫瘍が限局的浸潤又は遠隔転移のいずれかによって解剖学的前立腺被膜の外へ拡がっていない限り、上昇しない。したがってこの前立腺腫瘍抗原は、いくつかのヒトワクチン治験において、ターゲット抗原として研究されており、臨床的利益の証拠が得られているものもある。例えば非特許文献17;非特許文献19;非特許文献20を参照されたい。
【0008】
組換えワクシニアウイルス、精製PAP、DNAワクチン、及び抗原負荷樹状細胞を使って、PAP含有ワクチンが作製されている。非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25。ある研究では、PAP-GM-CSFをパルスした樹状細胞がラットに注射されたが、PAPに対する抗体は検出されなかった(非特許文献21のS55頁)。もう1つの研究では、ラットPAP又はヒトPAPをコードする遺伝子を含有する組換えワクシニアウイルスが投与されたが、ラット又はヒトPAPに対する測定可能な抗体応答は生じなかった(非特許文献23の3116-7頁)。もう1つの研究では、hPAPタンパク質による免疫処置を受けた動物の血清中、並びにヒトPAPをコードするワクシニアウイルスのワクチン接種を受け、次にブースター免疫処置としてhPAPタンパク質を投与された動物中には、PAP特異的IgGを検出することができたが、ヒトPAPをコードするワクシニアウイルスによる免疫処置を2回受けた動物には、PAP特異的IgGを検出することができなかった(非特許文献25の890頁)。
【0009】
能動的癌免疫療法は、癌患者において腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導することに依拠している。広範囲にわたる腫瘍関連抗原(TAA)に対する適応免疫応答の体液性コンポーネント及び細胞性コンポーネントの両方と、それに付随する先天免疫のコンポーネントの活性化とを誘導することが、能動的免疫療法製品の最大効力にとっては不可欠である。具体的には、抗原特異的IFNγ産生細胞傷害性T細胞(CD8 T細胞)の誘導を特徴とするタイプ1又はTh1適応免疫が、抗癌免疫療法にとっては重要であると考えられる。
【0010】
最近の癌処置の進歩にもかかわらず、前立腺癌は今なお、アメリカの癌患者における死亡原因の第2位に留まっている。したがって、腫瘍成長及び腫瘍転移の複数の側面をターゲットとすることによってこの疾患をより良く軽減し得る治療的アプローチが必要とされている。
【0011】
パクリタキセル及びドセタキセルなどのタキサン類は、癌患者に化学療法剤として使用されてきた。例えば、非特許文献26を参照されたい。タキサン類による化学療法は、さまざまな腫瘍ワクチン処置と併用され、さまざまな結果をもたらしている。非特許文献27;非特許文献28;非特許文献29;非特許文献30;及び非特許文献31を参照されたい。癌ワクチンと化学療法の併用は、非特許文献32;非特許文献33;及び非特許文献17に概説されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,185,146号明細書
【特許文献2】米国特許第6,761,893号明細書
【特許文献3】米国特許第6,193,752号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Mayr, A.ら、Infection 3:6-14 (1975)
【非特許文献2】Meyer, H.ら、J. Gen. Virol. 72:1031-1038 (1991)
【非特許文献3】Mayr, A.及びDanner, K., Dev. Biol. Stand. 41:225-34 (1978)
【非特許文献4】Mayrら、Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167:375-390 (1987)
【非特許文献5】Sticklら、Dtsch. med. Wschr. 99:2386-2392 (1974)
【非特許文献6】Sutter, G.ら、Vaccine 12:1032-40 (1994)
【非特許文献7】Blanchardら、J Gen Virol 79:1159-1167 (1998)
【非特許文献8】Carroll及びMoss, Virology 238:198-211 (1997)
【非特許文献9】Ambrosiniら、J Neurosci Res 55(5):569 (1999)
【非特許文献10】Boukampら、J Cell Biol 106(3):761-71 (1988)
【非特許文献11】Taichmanら、JCI 117(9):2351-2361 (2007)
【非特許文献12】Websterら、J. Clin. Oncol. 23:8262-8269 (2005)
【非特許文献13】Harropら、Front. Biosci. 11:804-817 (2006)
【非特許文献14】Arlenら、Semin. Oncol. 32:549-555 (2005)
【非特許文献15】Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (suppl. 2):14567-14571 (2004)
【非特許文献16】Amato, RJ., Expert Opin. Biol. Ther. 7(9):1463-1469 (2007)
【非特許文献17】McNeel, D.G., Curr. Opin. Urol. 17:175-181 (2007)
【非特許文献18】Nelson W.G., Curr. Opin. Urol. 17:157-167 (2007)
【非特許文献19】Waeckerle-Menら、Cancer Immunol. Immunother. 66:811-821 (2006)
【非特許文献20】Machlenkin et al. Cancer Immunol Immunother. 56(2):217-226 (2007)
【非特許文献21】Valoneら、The Cancer Journal 7: Suppl 2:S53-61 (2001)
【非特許文献22】Fongら、J Immunol. 2001 Dec 15;167(12):7150-6
【非特許文献23】Fongら、J. Immunol. 159(7):3113-7 (1997)
【非特許文献24】Johnsonら、Vaccine 24(3):293-303 (2006)
【非特許文献25】Johnsonら、Cancer Immunol Immunother. 56(6):885-95 (2007)
【非特許文献26】Tannockら、N. Engl. J. Med. 351:1502-1512 (2004)
【非特許文献27】Chuら、J. Immunotherapy 29:367-380 (2006)
【非特許文献28】Machielsら、Cancer Res. 61:3689-3697 (2001)
【非特許文献29】Prellら、Cancer Immunol. Immunother. 55:1285-1293 (2006)
【非特許文献30】Arlenら、Clinical Breast Cancer 7:176-179 (2006)
【非特許文献31】Arlenら、Clinical Cancer Res. 12:1260-1269 (2006)
【非特許文献32】Chongら、Expert Opin. Phamacother. 6:1-8 (2005)
【非特許文献33】Emensら、Endocrine-Related Cancer 12:1-17 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記に基づき、当技術分野では癌治療のための剤及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、原発腫瘍の、そしてまた癌転移の、癌予防及び癌患者処置のための方法、剤、及びキットを包含する。
【0016】
本発明は、ヒト癌患者を処置するための方法であって、ヒト前立腺特異抗原(PSA)抗原を含むポリペプチドとヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAを、その患者に投与することを含む方法を包含する。ある実施形態では、MVAがMVA-BNである。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、PSA抗原及びPAP抗原がMVA遺伝子間領域014L/015Lに挿入される。一定の実施形態では、癌が前立腺癌又は前立腺癌転移である。
【0017】
ある実施形態では、組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンに先だって投与される。ある実施形態では、組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンと同時に投与される。ある実施形態では、組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンの後に投与される。好ましい実施形態では、タキサンがドセタキセル又はパクリタキセルである。
【0018】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAと、前立腺癌の検出前にその組換えMVAを投与する指示とを含む、前立腺癌予防用のキットを包含する。
【0019】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAと、前立腺癌患者にその組換えMVAを投与する指示とを含む、前立腺癌処置用のキットを包含する。
【0020】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンによる処置の前、殺腫瘍用量のタキサンによる処置と同時、又は殺腫瘍用量のタキサンによる処置の後に、その組換えMVAを投与する指示とを含む、癌患者を処置するためのキットを包含する。
【0021】
本発明は、ヒトPAP抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号2を含む。ある実施形態では、MVAがMVA-BNである。
【0022】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号1のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号2のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、MVAがMVA-BNである。
【0023】
本発明は、ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物を包含する。
【0024】
本発明は、ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対する抗体を誘導する免疫原性組成物を包含する。ある実施形態では、MVAウイルスが配列番号2を含む。
【0025】
本発明は、ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PSA及びPAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】MVA-BN(登録商標)ゲノムの概略マップ。1Aには、MVA-BN(登録商標)ゲノム中の6つの欠失部位の位置が示されている。また、影付きの区間及び文字(A〜O)はHindIII制限酵素消化フラグメントを表し、MVA-BN(登録商標)中で欠けているCVA配列の位置及びサイズが、矢印の上に示されている。1Bには、HindIII制限フラグメント(文字A〜O)と、MVA-BN-PROの作製に使用したIGR 014L/015L部位が示されている。
【図2】MVA-BN-PROウイルスの概略的全体像。遺伝子間領域014L/015L中にクローニングされた組換えインサート、すなわちPSA遺伝子及びPAP遺伝子(それぞれ牛痘ウイルスATIプロモーター(ATI)の制御下にあるもの)を略記した、MVA-BN(登録商標)ゲノムのマップ(文字A〜Oで示されるHindIII制限マップ)。
【図3】MVA-BN-PROと共にインキュベートしたCT26細胞培養物の上清におけるPAP(A)及びPSA(B)の検出。密度が6×105細胞/ウェル(黒い四角形及び三角形)又は6E4細胞/ウェル(灰色の四角形)であるCT26細胞を、MVA-BN-PRO(四角形)又はMVA-BN(登録商標)(三角形)のどちらか一方に、表示した感染多重度(MOI)で感染させた。24時間後に、細胞上清を収集し、PAPタンパク質レベル及びPSAタンパク質レベルを、それぞれPAP酵素アッセイ及びPSA ELISAによって測定した。
【図4】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗PSA(A)及び抗PAP(B)抗体応答。MVA-BN-PRO(白い四角形)又はMVA-BN(登録商標)(黒い四角形)のどちらか一方による免疫処置を、動物に3回施した(1日目、15日目、及び29日目)。血液試料を処置前、14日目、28日目、及び42日目に収集した。力価は、バックグラウンド(TBS処置された動物から得られる同じ希釈度の血清)より少なくとも2倍高いO.D.を持つ最終希釈度の逆数値である。ゼロと表示した力価は試験した最低血清希釈度(1:50)で陰性だった。
【図5】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗PSA及び抗PAP T細胞応答。MVA-BN-PRO免疫処置した動物(A)及びTBS対照動物(B)から得た脾細胞を、表示した濃度の、PAP(灰色の四角形)、PSA(白色の四角形)又はHER2(黒色の四角形)配列由来のOPLと共にインキュベートした。ImmunoSpot Analyzerを使って、IFN-γ産生T細胞を示すスポットを数え上げた。3重のウェルから得た平均及び標準偏差を、試験した各OPL濃度について示す。
【図6】MVA-BN-PROが媒介するT細胞応答に対するCD4及びCD8 T細胞の寄与。動物にMVA-BN-PROによる免疫処置を4回施し(1日目、15日目、29日目、及び49日目)、最後の処置の6日後に脾細胞を収集し、CD8枯渇脾細胞(A)及びCD4枯渇脾細胞(B)を、表示した濃度の、PAP(灰色の四角形)、PSA(白い四角形)又はHER2(黒い四角形)配列由来のOPLと共にインキュベートした。解析は図5について説明したように行なった。
【図7】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍成長の予防的防止。動物を、TBSに希釈したウイルスにより、表示したTCID50で、3週間おきに3回処置した。3回目の処置の6週間後に、1×105個のPSA発現E5腫瘍細胞を、動物に皮内チャレンジした。キャリパーを使って腫瘍成長を週に2回測定した。腫瘍体積は(L×W2)/2として算出した。7A〜7E:各処置群について、個々のマウスにおける腫瘍成長を記載している。7F:全ての処置群について、平均腫瘍サイズ及び標準偏差を記載している。
【図8】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍成長の防止。2回の独立した実験における29日目測定の比較。動物を、2×106TCID50の、TBSに希釈した表示のウイルスにより、2週間間隔で3回処置した(灰色の記号)。最後の処置の2週間後に、1×105個のPSA発現E5腫瘍細胞を、動物に皮内チャレンジした。キャリパーを使って腫瘍成長を週に2回測定した。腫瘍体積は(L×W2)/2として算出した。ドットは、腫瘍移植後29日目における各動物の腫瘍体積を表す。図7に記載した別個の実験の対応群から得られたデータを、比較のために、黒い記号で記載する。ここに記載する実験はどちらも、処置間隔の長さ(3週間間隔と2週間間隔)及び腫瘍細胞移植の時期(3回目の処置の6週間後と2週間後)を除けば、類似する条件下で行なわれた。
【図9】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍成長の治療的抑制。BALB/c マウス(各群10匹)に、1日目にE6細胞(1×105細胞を皮内注射)をチャレンジし、1日目、8日目、及び15日目に、TBS(E)、MVA-BN(登録商標)(5×106又は5×107TCID50;A及びB)、又はMVA-BN-PRO(5×106又は5×107TCID50;C及びD)のいずれか1つで皮下処置した。22日目にマウスを屠殺した。パネルA〜Eは、個々のマウスの腫瘍サイズを表す。各群について腫瘍サイズの平均及び標準偏差をパネルFに図示する。キャリパーを使って腫瘍成長を週に2回測定した。腫瘍体積は(L×W2)/2として算出した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
【図10】MVA-BN-PROで処置されたマウスにおけるPAP陽性腫瘍成長の抑制。BALB/cマウス(各群10匹)に、1日目にはCT26-PAP(5×105細胞を静脈内注射)をチャレンジし、4日目には、TBS、MVA-BN(5×107TCID50)、又はMVA-BN-PRO(2×106及び5×107TCID50)のいずれか1つで腹腔内処置した。14日目にマウスを屠殺し、それらの肺を重量計測した。データポイントは個々のマウスの肺重量を表す。水平バーは各群について肺重量の平均を示す。
【図11】BALB/c又はC57BL/6マウスにおいて誘導される抗PSA及び抗PAP抗体応答。雄BALB/c及びC57BL/6マウス(各群5匹)に、5×107TCID50のMVA-BN-PROによる免疫処置を、1日目、15日目、及び29日目に施した。42日目に血液試料を集め、プール血清の段階希釈液を、抗PSA又は抗PAP IgGの存在について、ELISAで解析した。力価は、バックグラウンド(TBS処置された動物から得られる同じ希釈度の血清)より少なくとも2倍高いO.D.を持つ最終希釈度の逆数値として算出した。試験した最低希釈度より低い力価(<125)を持つ血清のデータポイントは、作図のため、恣意的に、アッセイの第1希釈より1希釈低い位置(62.5)にあるx軸上に置いた。
【図12】MVA-BN-PROで処置された患者におけるT細胞応答。処置前(ベース)又はMVA-BN-PRO処置後(TC3)に、患者J-D-1001の血液からPBMCを収集した。細胞を、グラフ上に表示した濃度の、PSAタンパク質、PSAオーバーラップペプチドライブラリー(OPL)、PAPタンパク質、PAP OPL、腫瘍関連抗原(TAA)由来のMHCクラスI及びクラスIIペプチドのプール、又はMVA-BNのいずれか1つと共に、40時間インキュベートした。分泌されたIFN-γを測定するELISpotによってT細胞活性化を決定した。各刺激条件ごとに、結果を、2×105PBMCあたりの平均IFN-γスポット形成細胞数(SFC)として表す。SFC値は、バックグラウンドを差し引いた4重のウェルの平均から導き出した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ヒトPSA抗原とPAP抗原とを発現させる組換えMVA(MVA-BN-PRO)を、一群のインビトロアッセイ及びインビボアッセイで試験した。MVA-BN-PROと共にインキュベートした真核細胞において、MVA-BN-PROがコードする両前立腺特異抗原(PSA及びPAP)の発現を、それぞれPSA検出キット及びホスファターゼ活性に関する機能アッセイを使って評価した。ELISA及びELISpotアッセイを使って、MVA-BN-PROで処置したマウスにおける抗PSA及び抗PAPの抗体及びT細胞免疫応答の誘導をモニターした。MVA-BN-PROの抗腫瘍活性をPSA腫瘍モデルにおいて予防的設定と治療的設定の両方で評価した。
【0028】
これらの研究により、(i)インビトロでの細胞によるMVA-BN-PROの取り込みは、同じような量で、PAPの発現も、PSAの発現も、もたらすこと;(ii)MVA-BN-PROによるマウスの処置は、抗PSA及び抗PAPの体液性及びTh1細胞性免疫応答をもたらすこと;(iii)MVA-BN-PROによるマウスの処置は、予防的設定でも、治療的設定でも、PSA(+)腫瘍の成長を阻害すること、(iv)MVA-BN-PROによるマウスの処置は、治療的設定において、PAP(+)腫瘍の成長を阻害すること、(v)ヒトでは、MVA-BN-PRO処置が、抗PSA T細胞と抗PAP T細胞のどちらのレベルも増加させたこと、及び(vi)ヒトにおけるMVA-BN-PRO処置が、他の腫瘍抗原へのT細胞応答のスプレッディング(spreading)をもたらしたことが証明された。このように、MVA-BN-PROは、抗原特異的な体液性及び細胞性Th1型応答をトリガーすることによって免疫系を活性化し、それが、インビボでPSA及びPAP発現腫瘍に対する有意な治療活性をもたらす。したがって、MVA-BN-PROは、ヒトにおける前立腺癌の免疫療法にとって、魅力的なワクチン候補である。
【0029】
MVA-BN-PROは、予防的設定において腫瘍成長を防止し、且つ定着した腫瘍の成長も抑制する、防御抗腫瘍免疫を誘導することができる強力な免疫原である。MVA-BN-PROの予防的及び治療的抗腫瘍活性は、抗PSA特異的適応免疫応答によって媒介された。しかし適応免疫応答は、MVA-BN-PROがコードする両方の前立腺特異抗原PSA及びPAPに対して誘導された。複数の腫瘍抗原に対する適応応答の同時活性化により、MVA-BN-PROは、より効率よく腫瘍と戦い、癌患者の処置に成功する可能性を増加させることができる。
【0030】
ある実施形態において、本発明は、前立腺癌治療のための組換えMVAウイルスの使用を包含する。組換えMVAは異種配列をMVAウイルス中に挿入することによって作製される。本発明の実施に役立ち、ブダペスト条約の要件に従って寄託されているMVAウイルス株の例は、ソールズベリー(英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)に受託番号ECACC 94012707として1994年1月27日に寄託されたMVA572株、及び2000年12月7日にECACC 00120707として寄託されたMVA575株である。European Collection of Cell Cultures(ECACC)に番号V00083008として2000年8月30日に寄託されたMVA-BN(登録商標)、及びその誘導体も、模範的な株である。
【0031】
MVA-BN(登録商標)はその高い安全性(低い複製能)ゆえに好ましいが、本発明には全てのMVAが適している。本発明のある実施形態によれば、MVA株はMVA-BN(登録商標)及びその誘導体である。参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP01/13628を参照されたい。
【0032】
ある実施形態では、組換えMVAが腫瘍関連抗原を発現させる。ある実施形態では、腫瘍関連抗原がPSAである。ある実施形態では、腫瘍関連抗原がPAPである。好ましい一実施形態では、MVAが2つの腫瘍関連抗原、好ましくはPSA抗原及びPAP抗原を発現させる。ある実施形態では、それら2つの腫瘍関連抗原が配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列を含む。ある実施形態では、それら2つの腫瘍関連抗原が、配列番号3のヌクレオチド配列を含むカセットから発現される。
【0033】
さらなる実施形態では、腫瘍関連抗原が1つ以上の外来THエピトープを含むように改変される。本明細書に記載するとおり、そのような癌免疫治療剤は、癌転移を含む癌の予防及び/又は処置に役立つ。本発明は、免疫機能低下患者を含むヒト及び他の哺乳動物のプライム(prime)/ブースト(boost)ワクチン接種レジメンでそのような薬剤を使用して、体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を誘導すること、例えば既存のTh2環境においてTh1免疫応答を誘導することなどを可能にする。
【0034】
「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸が互いにペプチド結合又は修飾ペプチド結合で連結されたポリマーを指す。アミノ酸は天然アミノ酸であってもよいし、非天然アミノ酸、又は天然アミノ酸の化学的類似体であってもよい。この用語は、タンパク質、すなわち、少なくとも1つのポリペプチドを含む機能的生体分子も指し、少なくとも2つのポリペプチドを含む場合、それらは複合体を形成するか、共有結合的に連結されるか、又は非共有結合的に連結され得る。タンパク質中のポリペプチドは糖鎖付加され、且つ/又は脂質付加され、且つ/又は補欠分子族を含むことができる。
【0035】
細胞株HaCAT(Boukampら, 1988, J Cell Biol 106(3):761-71)又はHeLaなどのヒト細胞株において「増殖的複製能を持たない」という用語は、本願では、国際公開第02/42480号で定義されているとおりに用いられる。したがって、ある細胞株において「増殖的複製能を持たない」ウイルスは、その細胞株において1未満の増幅比を示すウイルスである。ウイルスの「増幅比」は、最初に細胞を感染させるために元々使用されたウイルスの量(インプット)に対する感染細胞から産生されるウイルス(アウトプット)の比である。アウトプットとインプットの間の「1」という比は、感染細胞から産生されるウイルスの量が、細胞を感染させるために最初に使用された量と同じであるような増幅状態を記述する。本発明のある実施形態によれば、ヒト細胞株において「増殖的複製能を持たない」ウイルスは、上記のヒト細胞株HeLa、HaCat及び143Bのいずれにおいても、1.0(平均値)以下、さらには0.8(平均値)以下の増幅比を持ち得る。
【0036】
ある実施形態では、MVAがヨーロピアン・コレクション・オブ・セルカルチャー(European Collection of Cell Cultures:ECACC)に番号V00083008として2000年8月30日に寄託され、米国特許第6,761,893号及び同第6,193,752号に記載されている、MVA-BN(登録商標)である。これらの特許公報に記載されているように、MVA-BN(登録商標)は、細胞株293、143B、HeLa及びHaCat中で増殖的に複製しない。特にMVA-BN(登録商標)は、ヒト胚性腎臓細胞株293では、0.05〜0.2の増幅比を示す。ヒト骨肉腫細胞株143Bにおいて、MVA-BN(登録商標)は0.0〜0.6の増幅比を示す。MVA-BN(登録商標)は、ヒト頚部腺癌細胞株HeLaでは0.04〜0.8の増幅比を示し、ヒトケラチノサイト細胞株HaCatでは0.02〜0.8の増幅比を示す。MVA-BN(登録商標)はアフリカミドリザル腎臓細胞(CV1:ATCC No. CCL-70)では0.01〜0.06の増幅比を有する。
【0037】
米国特許第6,761,893号及び同第6,193,752号で述べられているように、MVA-BN(登録商標)の増幅比はニワトリ胚線維芽細胞(CEF:初代培養物)では1を上回る。このウイルスはCEF初代培養物では500を上回る比で容易に増殖、増幅させることができる。
【0038】
ある実施形態では、組換えMVAがMVA-BN(登録商標)の誘導体である。そのような「誘導体」には、寄託株(ECACC No.V00083008)と本質的に同じ複製特徴を示すが、そのゲノムの1つ以上の部分に相違を示すウイルスが含まれる。「誘導体」はMVA-BN(登録商標)から誘導される必要はない。寄託されたウイルスと同じ「複製特徴」を有するウイルスは、CEF細胞並びに細胞株HeLa、HaCat及び143Bにおいて寄託株と類似する増幅比で複製し、例えばAGR129トランスジェニックマウスモデルで決定した場合に、インビボで類似する複製特徴を示すウイルスである。
【0039】
本発明は、次に挙げるMVA-BNの性質の一方又は両方を有するMVAウイルスを包含する:
・ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)では増殖的複製能を持つが、ヒトケラチノサイト細胞株(HaCaT)、ヒト胎児腎臓細胞株(293)、ヒト骨骨肉腫細胞株(143B)、及びヒト子宮頚部腺癌細胞株(HeLa)では増殖的複製能を持たない;及び
・成熟B及びT細胞を産生する能力を持たず、したがって免疫機能が著しく低下していて、複製ウイルスに対する感受性が高いマウスモデルにおいて、複製することができない。
【0040】
ある実施形態では、MVAが、ワクシニアウイルスにとって異種である追加ヌクレオチド配列を含有する組換えワクシニアウイルスである。一定の、そのような実施形態では、異種配列が、免疫系による応答を誘導するエピトープをコードする。したがって、ある実施形態では、組換えMVAを使って、そのエピトープを含むタンパク質又は作用物質に対するワクチン接種が行われる。好ましい一実施形態では、エピトープが腫瘍関連抗原、好ましくはPSA又はPAPである。ある実施形態では、PSA抗原が配列番号1の配列を含む。ある実施形態では、PAP抗原が配列番号2の配列を含む。
【0041】
ある実施形態では、異種核酸配列がウイルスゲノムの非必須領域に挿入される。これらの実施形態のいくつかでは、PCT/EP96/02926に記載されているMVAゲノムの天然欠失部位に、異種核酸配列が挿入される。ポックスウイルスゲノムに異種配列を挿入するための方法は当業者には知られている。ある実施形態では、米国特許出願公開第20050244428号に記載されているMVAゲノムの遺伝子間領域に、異種核酸配列が挿入される。ある実施形態では、遺伝子間領域がIGR 014L/015Lである。
【0042】
ある実施形態では、医薬組成物が1つ以上の薬学的に許容でき且つ/又は承認された担体、添加剤、抗生物質、保存剤、アジュバント、希釈剤及び/又は安定剤を含む。そのような添加剤には、例えば水、食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤又は乳化剤、及びpH緩衝物質が含まれるが、これらに限るわけではない。模範的担体は、典型的には、大きくてゆっくり代謝される分子、例えばタンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、脂質凝集物などである。
【0043】
ワクチンを製造するために、MVAを生理的に許容できる形態に変換することができる。ある実施形態では、そのような製造が、例えばStickl, H.ら, Dtsch. med. Wschr. 99:2386-2392 (1974)に記載されているような、痘瘡に対するワクチン接種に用いられるポックスウイルスワクチンの製造における経験に基づいて行われる。
【0044】
模範的な製造例を以下に述べる。精製ウイルスは、5×108TCID50/mlの力価で、約10mMトリス、140mM NaCl、pH7.4中に製剤化して、-80℃で保存される。ワクチン注射剤を製造するには、例えば2%ペプトン及び1%ヒトアルブミンの存在下で、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のウイルス粒子102〜108個を、アンプル(好ましくはガラスアンプル)内で凍結乾燥することができる。あるいは、製剤中のウイルスを段階的に凍結乾燥することによって、ワクチン注射剤を製造することもできる。ある実施形態において、この製剤は、さらなる添加剤、例えばマンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトース、ポリビニルピロリドン、又は他の添加剤、例えばインビボ投与に適した酸化防止剤若しくは不活性ガス、安定剤若しくは組換えタンパク質(例えばヒト血清アルブミン)など(ただしこれらに限るわけではない)を含有する。次にアンプルを封止して、例えば4℃〜室温で数ヶ月間保存することができる。ただし、必要がない限り、アンプルは-20℃未満の温度で保存することが好ましい。
【0045】
ワクチン接種又は治療を伴うさまざまな実施形態では、凍結乾燥物を0.1〜0.5mlの水性溶液、好ましくは生理食塩水又はトリス緩衝液に溶解し、それを全身的若しくは局所的に、すなわち非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、鼻腔内経路、皮内経路で、又は熟練した医師に知られる他の任意の経路によって投与することができる。投与様式、用量及び投与回数の最適化は、当業者の技量及び知識の範囲内で行なうことができる。
【0046】
ある実施形態では、免疫機能低下動物、例えばSIVに感染したサル(CD4<400/μl血液)、又は免疫機能低下状態のヒトにおける免疫応答を誘導するために、弱毒化ワクシニアウイルス株が役立つ。「免疫機能低下(状態)」という用語は、不完全な免疫応答しか示さないか、感染性物質に対する防御の効率が低下している個体の免疫系の状態を表す。
【0047】
一定の例示的腫瘍関連抗原
ある実施形態では、細胞関連ポリペプチド抗原に対する免疫応答を、対象内で生じさせる。一定の、そのような実施形態では、細胞関連ポリペプチド抗原が腫瘍関連抗原である。
【0048】
ある実施形態では、細胞関連ポリペプチド抗原が、さまざまな病的過程に関係する腫瘍関連抗原以外の自己タンパク質抗原、又はウイルス抗原、又は細胞内寄生虫若しくは細菌に由来する抗原である。一定の例では、そのような病原体関連抗原が、しばしば比較的弱い免疫原(例えば結核菌及びライ菌などのマイコプラズマ由来の抗原、あるいはマラリア原虫などの原虫由来の抗原)である。
【0049】
当技術分野では非常に多くの腫瘍関連抗原が知られている。例示的な腫瘍関連抗原には、例えば、5アルファレダクターゼ、アルファ-フェトプロテイン、AM-1、APC、April、BAGE、ベータ-カテニン、Bcl12、bcr-abl、CA-125、CASP-8/FLICE、カテプシン類、CD19、CD20、CD21、CD23、CD22、CD33 CD35、CD44、CD45、CD46、CD5、CD52、CD55、CD59、CDC27、CDK4、CEA、c-myc、Cox-2、DCC、DcR3、E6/E7、CGFR、EMBP、Dna78、ファルネシルトランスフェラーゼ、FGF8b、FGF8a、FLK-1/KDR、葉酸受容体、G250、GAGEファミリー、ガストリン17、ガストリン放出ホルモン、GD2/GD3/GM2、GnRH、GnTV、GP1、gp100/Pmel17、gp-100-in4、gp15、gp75/TRP-1、hCG、ヘパランス(heparanse)、Her2/neu、HMTV、Hsp70、hTERT、IGFR1、IL-13R、iNOS、Ki67、KIAA0205、K-ras、H-ras、N-ras、KSA、LKLR-FUT、MAGEファミリー、マンマグロビン、MAP17、melan-A/MART-1、メソテリン、MIC A/B、MT-MMP類、ムチン、NY-ESO-1、オステオネクチン、p15、P170/MDR1、p53、p97/メラノトランスフェリン、PAI-1、PDGF、uPA、PRAME、プロバシン、プロゲニポエチン(progenipoientin)、PSA、PAP、PSM、RAGE-1、Rb、RCAS1、SART-1、SSXファミリー、STAT3、STn、TAG-72、TGF-アルファ、TGF-ベータ、チモシン-ベータ-15、TNF-アルファ、TP1、TRP-2、チロシナーゼ、VEGF、ZAG、p16INK4、及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼが含まれるが、これらに限るわけではない。前立腺癌における腫瘍関連抗原の具体例には、PSA、前立腺特異膜抗原(PSMA)、PAP、及び前立腺幹細胞抗原(PSCA)などがあるが、これらに限るわけではない。
【0050】
PSA抗原及びPAP抗原
本発明は、PSA及びPAPの完全長又はフラグメントであるPSA抗原及びPAP抗原を包含する。好ましくは、PSA抗原及びPAP抗原はヒト由来である。もう1つの実施形態では、PSA及び/又はPAPがラット又はマウス由来である。好ましい一実施形態では、PSA抗原及びPAP抗原がそれぞれ配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0051】
ある実施形態では、PAP抗原がPAPのフラグメントである。好ましいフラグメントは、ヒトPAPのアミノ酸181〜95、112〜120、133〜152、155〜163、173〜192、199〜213、228〜242、248〜257、299〜307、又は308〜322を含む。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005);Haradaら, Oncol Rep. 12(3):601-7 (2004);Machlenkinら, Cancer Res. 65(14):6435-6442 (2005);及びMcNeelら, Cancer Res. 61(13):5161-7 (2001)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み入れられる)。ある実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープの1つを含む。別の実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個を含む。これらのエピトープの可能な組合せのそれぞれが、具体的に考えられる。
【0052】
ある実施形態では、PAPのフラグメントが、ヒトPAPの25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、又は375個の連続するアミノ酸を含む。PAPのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。例えば、Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0053】
これらのフラグメントをコードするDNAは、PCR又は他の定型的な分子生物学的技法によって作製することができる。
【0054】
ある実施形態では、PSA抗原がPSAのフラグメントである。好ましいフラグメントは、ヒトPSAのアミノ酸16〜24又は154〜163を含む。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの1つを含む。別の実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープの両方を含む。
【0055】
PSAのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイ、例えばエピトープスキャニング(epitope-scanning)などを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。ある実施形態では、PSAのフラグメントが、ヒトPSAの25、50、75、100、125、150、175、200、225、又は250個の連続するアミノ酸を含む。
【0056】
これらのフラグメントをコードするDNAは、PCR又は他の定型的な分子生物学的技法によって作製することができる。
【0057】
さまざまな改変PAP及びPSAポリペプチド抗原及び方法を、当技術分野において周知の方法によって作り出すことができる。例えば、米国特許第7,005,498号及び米国特許出願公開第2004/0141958号及び同第2006/0008465号(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法を使用することができる。
【0058】
次に挙げるパラメータを検討すべきである:
1.公知の及び予測されるCTLエピトープ;
2.類縁タンパク質に対する相同性;
3.システイン残基の保存;
4.予想されるループ、α-ヘリックス及びβ-シート構造;
5.潜在的N糖鎖付加部位;
6.露出及び埋没アミノ酸残基の予測;
7.ドメイン構成。
【0059】
他の類縁タンパク質との高度な相同性を持つ領域は、「全体的」三次元構造にとって、それゆえに抗体認識にとって、構造上重要である可能性が高いのに対して、相同性の低い領域は、おそらく、結果として局所的な構造改変を引き起こすだけで、交換することができるだろう。
【0060】
システイン残基は、多くの場合、分子内ジスルフィド橋形成に関与し、したがって三次構造に関与するので、変化させるべきでない。アルファ-ヘリックス又はベータ-シート構造を形成すると予測される領域は、タンパク質のフォールディングに関与していると考えられるので、これらの領域は外来エピトープの挿入点としては避けるべきである。
【0061】
潜在的N糖鎖付加部位は、タンパク質のマンノシル化が望まれるのであれば、保存されるべきである。
【0062】
分子の内部にあると(それらの疎水性から)予測される領域は、フォールディングに関与し得るので、好ましくは、保存されるべきである。対照的に、溶媒露出領域は、モデルTHエピトープP2及びP30の挿入位置候補として役立つだろう。
【0063】
最後に、タンパク質のドメイン構成はタンパク質の構造及び機能に関連するので、これも考慮すべきである。
【0064】
PSA及びPAPの改変の効果は、マウスなどの動物を免疫処置して、その改変が体液性及び細胞性免疫応答に及ぼす効果を決定することによって、アッセイすることができる。
【0065】
改変腫瘍関連抗原
ある実施形態において、細胞関連ポリペプチド抗原は、APCの表面にMHCクラスI分子と会合して提示された場合に、ポリペプチド抗原に由来するエピトープをその表面に提示する細胞に対するCTL応答が誘導されるように改変される。一定の、そのような実施形態では、少なくとも1つの第1外来THエピトープが、提示される際に、APCの表面でMHCクラスII分子と会合する。一定の、そのような実施形態では、細胞関連抗原が腫瘍関連抗原である。
【0066】
エピトープを提示する能力を持つ例示的APCには樹状細胞及びマクロファージが含まれる。他の例示的APCには、1)MHCクラスI分子に結合したCTLエピトープと、2)MHCクラスII分子に結合したTHエピトープとを同時に提示する能力を持つ任意の飲作用性又は食作用性APCが含まれる。
【0067】
ある実施形態では、対象への投与後に、主としてPSA及び/又はPAPと反応するポリクローナル抗体が惹起されるように、PSA及び/又はPAPへの改変が行われる。そのような抗体は腫瘍細胞を攻撃して排除すると共に、転移性細胞が転移へと発達するのを防止することができるだろう。この抗腫瘍効果のエフェクター機構は、補体及び抗体依存的細胞性細胞傷害によって媒介されるだろう。また、誘導される抗体は、受容体の成長因子依存的なオリゴマー化/ダイマー化(oligo-dimerisation)及び内在化を阻害することによって、癌細胞成長を阻害することもできるだろう。ある実施形態において、そのような改変PSA及び/又はPAPポリペプチド抗原は、腫瘍細胞によって示される公知及び/又は予測PSA及び/又はPAPエピトープに対するCTL応答を誘導することができるだろう。好ましい一実施形態では、PSA抗原及びPAP抗原が、これらの抗原に対するB細胞応答及びT細胞応答を誘導する。
【0068】
ある実施形態では、改変PSA及び/又はPAPポリペプチド抗原が、細胞関連ポリペプチド抗原のCTLエピトープと、変異(variation)とを含み、その変異は外来THエピトープの少なくとも1つのCTLエピトープを含む。少なくとも1つのCTLエピトープと、外来THエピトープの少なくとも1つのCTLエピトープを含む変異とを含む、一定の、そのような改変PSA及び/又はPAPポリペプチド抗原、並びにそれらを製造する方法は、米国特許第7,005,498号並びに米国特許出願公開第2004/0141958号及び同第2006/0008465号に記載されている。
【0069】
ある実施形態では、外来THエピトープが天然の「プロミスカス(promiscuous)」T細胞エピトープである。そのようなプロミスカスT細胞エピトープは、ある動物種又は動物集団の個体の大部分において活性である。ある実施形態では、ワクチンが、そのようなプロミスカスT細胞エピトープを含む。一定の、そのような実施形態では、プロミスカスT細胞エピトープの使用により、同じワクチンに極めて多数の異なるCTLエピトープを使用する必要性が少なくなる。例示的プロミスカスT細胞エピトープには、例えば破傷風毒素由来のエピトープ(P2及びP30エピトープ(Panina-Bordignonら, 1989)を含むがこれらに限るわけではない)、ジフテリア毒素、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、及び熱帯熱マラリア原虫CS抗原などが含まれるが、これらに限るわけではない。
【0070】
さらなるプロミスカスT細胞エピトープとして、異なるHLA-DRによってコードされるHLA-DR分子の大部分を結合する能力を持つペプチドも挙げられる。例えば、国際公開第98/23635号(Frazer IHら, クイーンズランド大学に譲渡);Southwood Sら, J. Immunol. 160: 3363-3373 (1998);Sinigaglia Fら, Nature 336:778 780 (1988);Rammensee HGら, Immunogenetics 41:(4):178-228 (1988);Chicz RMら, J. Exp. Med 178:27-47 (1993);Hammer Jら, Cell 74:197-203 (1993);及びFalk Kら, Immunogenetics 39:230-242 (1994)を参照されたい。最後の参考文献はHLA-DQ及び-DPリガンドも扱っている。これらの参考文献に列挙されているエピトープは全て、これらと共通のモチーフを共有するエピトープと同様、本明細書に記載する天然エピトープ候補として関連がある。
【0071】
他のある実施形態では、プロミスカスT細胞エピトープが、ハプロタイプの大部分を結合する能力を持つ人工T細胞エピトープである。一定の、そのような実施形態では、人工T細胞エピトープが、国際公開第95/07707号及び対応する論文Alexander Jら, Immunity 1:751-761 (1994)に記載のパンDRエピトープペプチド(pan DR epitope peptide;「PADRE」)である。
【0072】
組換えMVA
本発明は、PAP抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。好ましくは、MVAウイルスはヒトPAP抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスがラット又はマウスPAP抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスが完全長PAP抗原をコードする。好ましい一実施形態では、MVAが配列番号2のヌクレオチド配列を含む。
【0073】
もう1つの実施形態では、MVAがPAPのフラグメントをコードする。PAPのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。例えば、Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005);Machlenkinら, Cancer Res. 65(14):6435-6442 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、PAPのフラグメントが、ヒトPAPの25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、又は375個の連続するアミノ酸を含む。
【0074】
好ましい実施形態では、MVAが、ヒトPAPのアミノ酸81〜95、112〜120、133〜152、155〜163、173〜192、199〜213、228〜242、248〜257、299〜307、又は308〜322を含むポリペプチドをコードする。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Klyushnenkovaら, Prostate 67(10):1019-28 (2007);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005);Haradaら, Oncol Rep. 12(3):601-7 (2004);Machlenkinら, Cancer Res. 65(14):6435-6442 (2005);及びMcNeelら, Cancer Res. 61(13):5161-7 (2001)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの1つを含む。ある実施形態では、ポリペプチドが、これらのエピトープのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個を含む。これらのエピトープの可能な組合せのそれぞれが、具体的に考えられる。
【0075】
本発明は、PSA抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルス、及びPSA抗原を含むポリペプチドとPAP抗原を含むポリペプチドとを発現させる組換えMVAウイルスを包含する。好ましくは、MVAウイルスはヒトPSA抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスがラット又はマウスPSA抗原を発現させる。ある実施形態では、MVAウイルスが完全長PSA抗原をコードする。好ましい一実施形態では、MVAが配列番号1のヌクレオチド配列を含む。
【0076】
もう1つの実施形態では、MVAがPSAのフラグメントをコードする。PSAのフラグメントは、当技術分野において周知のアッセイを使って、エピトープの保持についてアッセイすることができる。ある実施形態では、PSAのフラグメントが、ヒトPSAの25、50、75、100、125、150、175、200、225、又は250個の連続するアミノ酸を含む。
【0077】
好ましい実施形態では、MVAが、ヒトPSAのアミノ酸16〜24又は154〜163を含むポリペプチドをコードする。Waeckerle-Menら, Cancer Immunol. Immunother. 55:1524-1533 (2006);Matsuedaら, Clin Cancer Res. 11(19 Pt 1):6933-43 (2005)を参照されたい(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)。ある実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの1つを含む。別の実施形態では、ポリペプチドがこれらのエピトープの両方を含む。
【0078】
組換えMVAウイルスは、宿主に投与された時にPAP及び/又はPSAに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導するための免疫原性組成物に使用することができる。好ましい一実施形態では、本免疫原性組成物が、宿主に投与された時に、PAP及び/又はPSAに対する抗体を誘導する。本免疫原性組成物は、アジュバント、希釈剤及び/又は安定剤を含有することができる。そのような添加剤には、例えば水、食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤又は乳化剤、及びpH緩衝物質が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0079】
ある実施形態では、MVAがMVA-BN(登録商標)である。
【0080】
限定でない一実施形態では、腫瘍関連抗原を含む組換えMVA、例えばPSA抗原とPAP抗原の両方をコードするMVA-BN-PROが、次のように構築される。複製を許容する細胞タイプ、例えばCEF細胞を使って、細胞培養での組換えによって、最初のウイルスストックを作製する。細胞に、弱毒化ワクシニアウイルス、例えばMVA-BN(登録商標)を接種すると共に、腫瘍関連抗原(例えばPSA又はPAP)配列とウイルスゲノムの隣接領域とをコードする組換えプラスミド(例えばpBN217)をトランスフェクトする。限定でない一実施形態では、プラスミドpBN217が、MVA-BN(登録商標)中にも存在する配列(014L及び015Lオープンリーディングフレーム)を含有する。PSA及びPAP cDNA配列は、MVA-BN(登録商標)ウイルスゲノムへの組換えが可能になるように、それらMVA-BN(登録商標)配列の間に挿入される。ある実施形態では、プラスミドが、CEF細胞における組換えコンストラクトの選択が可能なように、1つ以上の選択遺伝子を含む選択カセットも含有する。
【0081】
培養物の感染とトランスフェクションを同時に行なうことで、ウイルスゲノムと組換えプラスミドの間で相同組換えが起こり得るようになる。次に、インサートを保持するウイルスを単離し、特徴づけ、ウイルスストックを調製する。ある実施形態では、選択遺伝子、例えばgpt及び赤色蛍光タンパク質(RFP)をコードする領域の喪失が起こり得るように、選択の非存在下で、ウイルスをCEF細胞培養物で継代する。
【0082】
処置方法
PSA及び/又はPAPなどの腫瘍関連抗原を過剰発現させる細胞が媒介する癌を持つ患者は、1つ以上のそのような抗原をコードする組換えMVAを使って処置することができる。好ましい一実施形態では、MVAがMVA-BN(登録商標)である。特に好ましい一実施形態では、MVAが、配列番号1のヌクレオチド配列を含むポリペプチドと、配列番号2のヌクレオチド配列を含む第2のポリペプチドとをコードする。
【0083】
癌は、好ましくは前立腺癌である。ある実施形態では、癌が転移性前立腺癌である。癌患者は、マウス又はラットを含む任意の哺乳動物であることができる。好ましくは、癌患者は霊長類であり、最も好ましくはヒトである。
【0084】
1つ以上の腫瘍関連抗原(例えばPSA又はPAP)をコードする組換えMVAは、全身的若しくは局所的に、すなわち非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、鼻腔内経路、皮内経路によって、又は熟練した医師に知られる他の任意の経路によって、投与することができる。
【0085】
ある実施形態では、105〜1010TCID50の組換えMVAが、患者に投与される。好ましくは、107〜1010TCID50の組換えMVAが患者に投与される。より好ましくは108〜1010TCID50の組換えMVAが患者に投与される。最も好ましくは108〜109又は109〜1010TCID50の組換えMVAが患者に投与される。好ましくは、組換えMVAが、1×108、2×108、又は4×108TCID50の用量で患者に投与される。
【0086】
組換えMVAは1回又は複数回投与することができる。 ある実施形態では、組換えMVAが、2回、3回、4回、又は5回投与される。好ましくは、組換えMVAが3回与えられる。最も好ましくは、4週間間隔で3回与えられる。投与間隔は、好ましくは1〜4週間、1〜8週間、1〜16週間、及び1〜52週間である。ある実施形態では、組換えMVAが、0日目に投与され、8日目及び15日目に再び投与される。好ましい一実施形態では、後続の投与については、投薬量が増量される。
【0087】
特に好ましい一実施形態では、1×108、2×108、及び4×108TCID50が、4週間間隔で3回与えられる。組換えMVAを複数回投与することの理論的根拠は、ブースター処置が抗PSA免疫応答及び抗PAP免疫応答を有意に増加させたことを示すマウスにおける前臨床的免疫原性データに基づく。ヒトにおける極めて幅広い免疫学的多型を考慮すると、3回以上の投与を行なうことによって、あらゆる個体が最大免疫応答に到達し得ることを保証することができる。
【0088】
ある実施形態では、抗PSA及び/又は抗PAP抗体が応答する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、抗PSA及び/又は抗PAP T細胞免疫応答を誘導する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、抗PSA及び/又は抗PAP抗体応答並びにT細胞免疫応答を誘導する。
【0089】
ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、他の腫瘍抗原へのT細胞応答のスプレッディングを誘導する。
【0090】
ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、予防的及び/又は治療的設定において、PSA(+)腫瘍の成長を阻害する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、予防的及び/又は治療的設定において、PAP(+)腫瘍の成長を阻害する。ある実施形態では、組換えMVAによる処置が、予防的及び/又は治療的設定において、PSA(+)及びPAP(+)腫瘍の成長を阻害する。
【0091】
細胞毒性剤との併用療法
PSA及び/又はPAPなどの腫瘍関連抗原を過剰発現させる細胞が媒介する癌を持つ患者は、1つ以上のそのような抗原をコードする組換えMVAとタキサンの併用によって処置することができる。細胞毒性剤は、サブ殺腫瘍用量(sub-tumoricidal dose)において、ワクチン効力にとって有益であるだろう免疫調整活性を示す。殺腫瘍用量(高用量)では、これらの薬剤を、組換えMVAによる処置と同時に、又は組換えMVAによる処置の前若しくは後に使用することが、それぞれの処置を単独で施すよりも優れた処置になり得る。
【0092】
ある実施形態では、タキサンがドセタキセルである。もう1つの実施形態では、タキサンがパクリタキセルである。タキサンは好ましくは殺腫瘍用量で投与される。ドセタキセルの「殺腫瘍用量」は少なくとも50mg/m2である。好ましくは、ドセタキセルの殺腫瘍用量は75〜100mg/m2であり、これは約25〜33mg/kgの投薬量に相当する。パクリタキセルの「殺腫瘍用量」は少なくとも90mg/m2である。好ましくは、パクリタキセルの殺腫瘍用量は135〜175mg/m2である。タキサンの「サブ殺腫瘍用量」とは、殺腫瘍投薬量より低い投薬量である。タキサンは、当業者に知られる手段によって、例えば静脈内に、投与することができる。
【0093】
ある実施形態では、タキサンと、前立腺腫瘍特異抗原を含むポリペプチドをコードするMVAとが、同時に投与される。
【0094】
ある実施形態では、組換えMVAに先だって、タキサンが投与される。ある実施形態では、タキサン投与の6ヶ月以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、3ヶ月以内、2ヶ月以内、又は1ヶ月以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、21日以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、14日以内に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサン後、7日以内に、組換えMVAが投与される。通常、組換えMVAは、タキサンによる処置の少なくとも2日後に投与される。
【0095】
ある実施形態では、組換えMVAの後に、タキサンが投与される。通常、タキサンによる処置の少なくとも1週間前に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンに先だつこと2年未満の間に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンに先立つこと1年未満、6ヶ月未満、又は3ヶ月未満の間に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンの1〜26週間前に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンの1〜9週間前に、組換えMVAが投与される。ある実施形態では、タキサンの1〜3週間前に、組換えMVAが投与される。
【0096】
一定の実施形態では、組換えMVAの前と後の両方に、タキサンが投与される。別の実施形態では、タキサンの前と後の両方に、組換えMVAが投与される。組換えMVA及びタキサンの投与は、単回投与又は複数回投与であることができる。例えば投与は、1、2、3、4、5、又は6週間隔てて行なうことができる。
【0097】
キット
本発明は、組換えMVAを含むキットを包含する。組換えMVAはバイアル又は容器に入れることができる。ある実施形態では、組換えMVAがPAP抗原をコードする。ある実施形態では、組換えMVAがPSA抗原を含むポリペプチドをコードする。ある実施形態では、組換えMVAが、PSA抗原を含むポリペプチドとPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする。さまざまな実施形態において、ワクチン接種用のキットは、第1バイアル又は第1容器には第1ワクチン接種(「プライミング(priming)」)用の組換えMVAを含み、第2又は第3のバイアル又は容器には第2又は第3ワクチン接種(「ブースティング(boosting)」)用の組換えMVAを含む。
【0098】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺癌を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、1つ以上の前立腺腫瘍関連マーカーの増加が検出された後に行なわれる前立腺癌を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。好ましい一実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を予防するために、循環PSAレベルが増加していると決定された後に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を予防するために、30歳以降の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を予防するために、30歳以降且つ40歳以前の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、40歳以降に行なわれる前立腺癌を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。
【0099】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺癌転移を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺腫瘍細胞関連マーカーの増加が検出された後に行なわれる前立腺癌転移を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。好ましい一実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌転移を予防するために、循環PSAレベルが増加していると決定された後に、検出可能な原発腫瘍の不在にもかかわらず、投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌転移を予防するために、30歳以降の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌転移を予防するために、30歳以降且つ40歳以前の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、40歳以降に行なわれる前立腺癌転移を予防するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。
【0100】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、前立腺癌を処置するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、1つ以上の前立腺腫瘍関連マーカーの増加が検出された後に行なわれる前立腺癌を処置するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。好ましい一実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を処置するために、循環PSAレベルが増加していると決定された後に、投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を処置するために、30歳以降の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、指示は、そのMVAが、前立腺癌を処置するために、30歳以降且つ40歳以前の男性患者に投与されるべきであることを指示することができる。ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、40歳以降に行なわれる前立腺癌を処置するためのその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。
【0101】
ある実施形態において、キットは、組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンの投与に先だって行なわれるその組換えMVAの投与に関する指示とを含むことができる。この指示は、MVAが、タキサン投与の6ヶ月前から1週間前までのいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。好ましい実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の3ヶ月前から1週間前まで、6週間前から1週間前まで、1ヶ月前から1週間前まで、3週間前から1週間前まで、及び2週間前から1週間前までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示する。ある実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の1週間前から0日前までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。
【0102】
キットは、組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンの投与と同時に行なわれるその組換えMVAの投与に関する指示とを含むこともできる。
【0103】
キットは、組換えMVAと、殺腫瘍用量のタキサンの投与後に行なわれるその組換えMVAの投与に関する指示とを含むこともできる。この指示は、MVAが、タキサン投与の1日後から6ヶ月後までのいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。好ましい実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の2日後から1週間後まで、2日後から2週間後まで、2日後から3週間後まで、2日後から1ヶ月後まで、2日後から2ヶ月後まで、2日後から3ヶ月後まで、及び2日後から6ヶ月後までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示する。ある実施形態において、指示は、MVAが、タキサン投与の0日後から2日後までの間のいずれかの時点に投与されるべきであることを指示することができる。
【0104】
本発明をさらに詳しく例示するために、以下に実施例及び参考文献を挙げるが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるわけではない。例示した項目の変形であって当業者に思い浮かぶものはいずれも、本発明の範囲に包含されるものとする。さらにまた、本明細書は、引用した文献を考慮することで最も完璧に理解され、それらの文献は全て参照によりそのまま本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0105】
実施例1
MVA-BN-PROの構築及び感染細胞におけるタンパク質発現の解析
前立腺癌ワクチンを開発するために、ヒト前立腺特異抗原(PSA)と前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)とをコードする組換えワクシニアウイルスベクターMVA-BN-PROを作製した。組換えワクシニアウイルスベクターMVA-BN-PROは、高度に弱毒化されたワクシニアウイルス株MVA-BN(登録商標)(改変ワクシニアウイルスアンカラ-Bavarian Nordic)から誘導した。MVA-BN(登録商標)は、初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞に強く適応しており、ヒト細胞では増殖的に複製しない。ヒト細胞では、ウイルス遺伝子は発現されるが、感染性ウイルスは産生されない。
【0106】
遺伝子の由来
PSA遺伝子及びPAP cDNAを、Clontech(カタログ番号6410801)から購入したヒト前立腺全RNAから、定型的な分子生物学的技法を使って転写(逆転写)した。PSAは前立腺によって産生される前立腺特異抗原であり、前立腺癌、良性前立腺増殖症、又は前立腺の感染若しくは炎症を有する男性の血中では、見いだされる量が増加する。PSAは細胞媒介性免疫療法アプローチのターゲットとして同定されている。PAP(前立腺酸性ホスファターゼ)は、血中で測定される酵素であって、どこか他の部位に浸潤又は転移した前立腺癌を持つ患者では、そのレベルが上昇し得る。PAPは、腫瘍が解剖学的前立腺被膜の外へ拡がっていない限り、上昇しない。したがってこの前立腺腫瘍抗原は、現在、いくつかのヒトワクチン治験において、ターゲット抗原として調査されており、臨床的利益の証拠が得られているものもある。
【0107】
結果として得られる増幅されたPSA及びPAP cDNAの配列が、公表されたものと合致することを確認した。すなわち、PSA cDNA(例えば、とりわけGenBank M26663.1 GI:618463;同義語:カリクレイン3;KLK3;786bp)及びPAP cDNA遺伝子の配列(GenBank M34840.1 GI:189620;同義語:PAP、ACP3、ACP-3;ACPP;1161bp)を以下に示す。
【0108】
ヒトPSA cDNA配列(GenBank配列M26663.1と99%一致;太字:48、54及び237位にある3つのサイレントヌクレオチド置換、これらはアミノ酸配列を変化させない):
ATGTGGGTCCCGGTTGTCTTCCTCACCCTGTCCGTGACGTGGATTGGCGCTGCGCCCCTCATCCTGTCTCGGATTGTGGGAGGCTGGGAGTGCGAGAAGCATTCCCAACCCTGGCAGGTGCTTGTGGCCTCTCGTGGCAGGGCAGTCTGCGGCGGTGTTCTGGTGCACCCCCAGTGGGTCCTCACAGCTGCCCACTGCATCAGGAACAAAAGCGTGATCTTGCTGGGTCGGCACAGTCTGTTTCATCCTGAAGACACAGGCCAGGTATTTCAGGTCAGCCACAGCTTCCCACACCCGCTCTACGATATGAGCCTCCTGAAGAATCGATTCCTCAGGCCAGGTGATGACTCCAGCCACGACCTCATGCTGCTCCGCCTGTCAGAGCCTGCCGAGCTCACGGATGCTGTGAAGGTCATGGACCTGCCCACCCAGGAGCCAGCACTGGGGACCACCTGCTACGCCTCAGGCTGGGGCAGCATTGAACCAGAGGAGTTCTTGACCCCAAAGAAACTTCAGTGTGTGGACCTCCATGTTATTTCCAATGACGTGTGTGCGCAAGTTCACCCTCAGAAGGTGACCAAGTTCATGCTGTGTGCTGGACGCTGGACAGGGGGCAAAAGCACCTGCTCGGGTGATTCTGGGGGCCCACTTGTCTGTAATGGTGTGCTTCAAGGTATCACGTCATGGGGCAGTGAACCATGTGCCCTGCCCGAAAGGCCTTCCCTGTACACCAAGGTGGTGCATTACCGGAAGTGGATCAAGGACACCATCGTGGCCAACCCCTGA(配列番号1)。
【0109】
ヒトPSAのアミノ酸配列は、
MWVPVVFLTLSVTWIGAAPLILSRIVGGWECEKHSQPWQVLVAS
RGRAVCGGVLVHPQWVLTAAHCIRNKSVILLGRHSLFHPEDTGQVFQVSHSFPHPLYD
MSLLKNRFLRPGDDSSHDLMLLRLSEPAELTDAVKVMDLPTQEPALGTTCYASGWGSI
EPEEFLTPKKLQCVDLHVISNDVCAQVHPQKVTKFMLCAGRWTGGKSTCSGDSGGPLV
CNGVLQGITSWGSEPCALPERPSLYTKVVHYRKWIKDTIVANP(配列番号3)である。
【0110】
ヒトPAP cDNA配列(GenBank配列M34840.1と100%一致):
ATGAGAGCTGCACCCCTCCTCCTGGCCAGGGCAGCAAGCCTTAGCCTTGGCTTCTTGTTTCTGCTTTTTTTCTGGCTAGACCGAAGTGTACTAGCCAAGGAGTTGAAGTTTGTGACTTTGGTGTTTCGGCATGGAGACCGAAGTCCCATTGACACCTTTCCCACTGACCCCATAAAGGAATCCTCATGGCCACAAGGATTTGGCCAACTCACCCAGCTGGGCATGGAGCAGCATTATGAACTTGGAGAGTATATAAGAAAGAGATATAGAAAATTCTTGAATGAGTCCTATAAACATGAACAGGTTTATATTCGAAGCACAGACGTTGACCGGACTTTGATGAGTGCTATGACAAACCTGGCAGCCCTGTTTCCCCCAGAAGGTGTCAGCATCTGGAATCCTATCCTACTCTGGCAGCCCATCCCGGTGCACACAGTTCCTCTTTCTGAAGATCAGTTGCTATACCTGCCTTTCAGGAACTGCCCTCGTTTTCAAGAACTTGAGAGTGAGACTTTGAAATCAGAGGAATTCCAGAAGAGGCTGCACCCTTATAAGGATTTTATAGCTACCTTGGGAAAACTTTCAGGATTACATGGCCAGGACCTTTTTGGAATTTGGAGTAAAGTCTACGACCCTTTATATTGTGAGAGTGTTCACAATTTCACTTTACCCTCCTGGGCCACTGAGGACACCATGACTAAGTTGAGAGAATTGTCAGAATTGTCCCTCCTGTCCCTCTATGGAATTCACAAGCAGAAAGAGAAATCTAGGCTCCAAGGGGGTGTCCTGGTCAATGAAATCCTCAATCACATGAAGAGAGCAACTCAGATACCAAGCTACAAAAAACTTATCATGTATTCTGCGCATGACACTACTGTGAGTGGCCTACAGATGGCGCTAGATGTTTACAACGGACTCCTTCCTCCCTATGCTTCTTGCCACTTGACGGAATTGTACTTTGAGAAGGGGGAGTACTTTGTGGAGATGTACTATCGGAATGAGACGCAGCACGAGCCGTATCCCCTCATGCTACCTGGCTGCAGCCCTAGCTGTCCTCTGGAGAGGTTTGCTGAGCTGGTTGGCCCTGTGATCCCTCAAGACTGGTCCACGGAGTGTATGACCACAAACAGCCATCAAGGTACTGAGGACAGTACAGATTAG
(配列番号2)。
【0111】
ヒトPAPのアミノ酸配列は、
MRAAPLLLARAASLSLGFLFLLFFWLDRSVLAKELKFVTLVFRH
GDRSPIDTFPTDPIKESSWPQGFGQLTQLGMEQHYELGEYIRKRYRKFLNESYKHEQV
YIRSTDVDRTLMSAMTNLAALFPPEGVSIWNPILLWQPIPVHTVPLSEDQLLYLPFRN
CPRFQELESETLKSEEFQKRLHPYKDFIATLGKLSGLHGQDLFGIWSKVYDPLYCESV
HNFTLPSWATEDTMTKLRELSELSLLSLYGIHKQKEKSRLQGGVLVNEILNHMKRATQ
IPSYKKLIMYSAHDTTVSGLQMALDVYNGLLPPYASCHLTELYFEKGEYFVEMYYRNE
TQHEPYPLMLPGCSPSCPLERFAELVGPVIPQDWSTECMTTNSHQGTEDSTD
(配列番号4)である。
【0112】
プロモーターの由来
後期プロモーターである牛痘ウイルスのA型封入体プロモーター(ATI)をpBluescript KS+プラスミド(Stratagene)中に合成的に作製し、切り出し、PAP配列の前にもPSA配列の前にも挿入した。したがって、PSA及びPAPタンパク質は、DNA複製後に、他の後期遺伝子と共に発現されるはずである。
【0113】
ATIプロモーターの配列は、
5’-GTTTTGAATAAAATTTTTTTATAATAAATC(配列番号5)である。
【0114】
PSA/PAP-MVA-BN組換えプラスミドの構築
MVA-BN(登録商標)ゲノムに外来遺伝子を挿入するには、MVA-BN(登録商標)ゲノムの特異的領域、すなわち欠失部位又は遺伝子間(非コード)領域をターゲットとする中間組換えプラスミドを使用することができる。
【0115】
中間pBNX128プラスミドは、014Lオープンリーディングフレーム(ORF)と015Lオープンリーディングフレームの間の遺伝子間(非コード)領域(IGR)に隣接する領域に由来するMVA DNA配列を含有する。これら隣接配列の間に、PSA及びPAP cDNAなどの配列を挿入することができる。そうすれば、プラスミドとMVA-BN(登録商標)の両方が同じCEF細胞中に存在する場合に、014L/015L隣接配列が、MVA-BN(登録商標)ゲノムの014L/015L遺伝子間領域へのプラスミド配列の挿入を媒介する相同組換えを媒介する(図1A〜B)。挿入された配列中の選択カセットの存在が、組換えMVA-BN(登録商標)ウイルスの陽性選択を可能にする。
【0116】
MVA-BN-PROの作製
培養物の感染とトランスフェクションを同時に行なうことで、ウイルスゲノムと組換えプラスミドの間で、相同組換えが起こり得るようにした。その結果、選択条件下でプラーク精製を複数回行なった後に、PSA及びPAPコード領域と選択カセットとを含有する組換えワクシニアベクター(MVA-mBN106Aと呼ぶ)を得た。非選択条件下での増幅とさらなるプラーク精製後に、選択カセットを欠く組換えワクシニアウイルスMVA-BN-PROが単離された。
【0117】
選択カセットを欠くプラーク精製ウイルスMVA-BN-PROを調製した。そのような調製には4回のプラーク精製を含む12代の継代を要した。
【0118】
MVA-BN-PROストックにプロモーター-PSA-プロモーター-PAP配列が存在し、且つ親MVA-BN(登録商標)ウイルスが存在しないことを、DNA配列決定及びPCR解析によって確認し、ネステッドPCRを使って、選択カセット(gpt遺伝子及びRFP遺伝子)が存在しないことを確かめた。MVA-BN-PROゲノムの略図を図2に示す。
【0119】
実施例2
MVA-BN-PROで処理された細胞におけるPSAとPAPの同時発現
MVA-BN-PROによってコードされる2つの前立腺特異抗原、すなわちヒトPSA及びヒトPAPの同時発現が、インビトロでMVA-BN-PROと共にインキュベートした細胞において実証された。BALB/cマウスの化学誘発結腸直腸癌であるCT26(Brattainら, Cancer Research 40, 2142-2146 (1980))の培養物をMVA-BN-PROと共にインキュベートし、上清を、組換えPSA及び組換えPAPの存在について解析した。PSAは、ヒト血清試料のスクリーニングに日常的に利用されているELISAに基づくPSA診断キット(Human PSA ELISA Kit、Anogen(カナダ国オンタリオ州);PSA検出範囲:2〜80ng/mL)を使って測定した。PAPは、その酵素的性質により、ホスフェート(phosphate)活性に関する比色アッセイ(酸性ホスファターゼアッセイ;PAP検出範囲:4〜40ng/mL)を使って、間接的に測定した。MVA-BN-PROを1〜100の範囲の感染多重度(MOI)で加えて24時間後に収集した同じ培養上清の一部で、PSA及びPAPを評価した。
【0120】
図3に示すように、MVA-BN-PROと共にインキュベートした細胞の上清に、どちらの抗原も検出することができた。培養中に産生される組換えPSA及び組換えPAPの量は、実験に使用したMVA-BN-PROの量(MOI)及び細胞の数に依存した。対照的に、培地のみでインキュベートするか、対応するMOIのMVA-BN(登録商標)と共にインキュベートした対照培養物の上清には、PSAも、PAPを示すホスファターゼ活性も、検出することができなかった。
【0121】
各アッセイについて参照標準プロットを使って計算されるPSA及びPAPのタイトレーションにより、同じような量の両抗原が、MVA-BN-PROと共にインキュベートした細胞によって産生されることが明らかになった。実際、CT26を1ウェルにつき1×105細胞の密度で播種し、MOIが10のMVA-BN-PROと共に48時間インキュベートしたところ、1043ng/mLのPSA及び209ng/mLのPAPが、培養上清中に測定された。PSA配列及びPAP配列はMVA-BN(登録商標)ゲノムの同じ領域に挿入され、それらの発現は各配列の上流に位置するATIプロモーターによって独立して駆動される。このインサート構成は、両組換え抗原の最適な発現にとって適正な環境を与えるようである。全体として、これらのデータは、MVA-BN(登録商標)が、PSAとPAPのような複数のトランスジェニック抗原をバランスよく同時発現させるための適当な送達ビヒクルに相当することを示している。
【0122】
実施例3
MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗PAP及び抗PSA免疫応答の誘導
MVA-BN-PROで処置した時の抗PSA及び抗PAP免疫応答の誘導をBALB/cマウスで評価した。これらの研究では、2×106〜5×107TCID50の範囲のさまざまな用量のMVA-BN-PROを評価した。各処置の前日及び最終処置の2週間後に血液試料を集め、体液性応答をELISAで解析した。最終処置後に脾細胞を収集し、細胞性応答をELISpotで解析した。
【0123】
抗PSA及び抗PAP抗体応答の誘導
BALB/cマウス(各群5匹)を、5×107TCID50のMVA-BN-PROで、1日目、15日目及び29日目(2週間ごとに3回)に、皮下処置した。対照動物はMVA-BN(登録商標)又は製剤緩衝液(TBS)で処置した。処置前、14日目、28日目、及び42日目に、血液試料を収集した。次に、各試験群のマウスから得た血清をプールし、ELISAで解析した。マイクロタイトレーションプレートのウェル上にコーティングされるターゲット抗原として市販の精製タンパク質(Meridian Life Sciences, Inc.、メイン州ソーコ)を使用することにより、抗PSA及び抗PAP抗体応答の誘導を評価した。図4A及び4Bに示すように、抗PSA及び抗PAP抗体応答がMVA-BN-PRO処置マウスに検出された。抗PSA抗体価の検出には少なくとも2回の投与が要求され、MVA-BN-PROによる3回目の処置後は力価が増加した。一般に、PAPに対する抗体応答の方が少なかった。というのも、その力価は、PSAに対して誘導される力価よりも常に低かったからである。PAPに対して観察された低い抗体応答は、おそらく、このタンパク質の弱いB細胞抗原性によるのだろう。
【0124】
抗PSA及び抗PAP T細胞応答の誘導
BALB/cマウス(各群5匹)を、1日目、15日目、31日目(2週間ごとに3回)に、対照(TBS)、2×106又は5×107TCID50のMVA-BN-PROで、皮下処置した。最後の免疫処置の5日後に脾臓を収集し、各試験群から得た細胞懸濁液をプールして解析に供した。インビトロ抗原特異的再刺激後のIFNγ産生を測定するELISpotによって、T細胞応答の誘導を評価した。再刺激には、11マーのオーバーラップを持ち、PSAアミノ酸配列又はPAPアミノ酸配列のどちらか一方の全長をカバーする、15マーペプチドのライブラリー(OPL)を、別々に使用した。図5に示すように、PAP OPLとPSA OPLのどちらで再刺激した場合にも、MVA-BN-PRO処置群から得られた脾臓細胞には、抗原特異的T細胞応答が検出されたが、ヒトHER-2 ecd配列から誘導された対照OPLは効果を持たなかった(図5A)。MVA-BN(登録商標)処置群(データ未掲載)又はTBS処置群(図5)のマウスでは、細胞をPSA、PAP、又はHER-2 OPLで再刺激しても、T細胞応答は検出されなかった。これらのデータは、かなりの数の抗原特異的T細胞をエクスビボ拡大なしで脾細胞中に直接検出することができたので、MVA-BN-PROが強力なT細胞誘導物質であることを示している。
【0125】
MVA-BN-PROで処置した時にマウスで誘導される抗PAP及びPSA T細胞応答に対するCD4ヘルパーT細胞及びCD8細胞傷害性T細胞の寄与を、脾臓細胞のインビトロ再刺激に先だってT細胞サブセット集団を枯渇させた後に調べた。図6に示すように、T細胞応答は、PSA OPL又はPAP OPLのどちらか一方で再刺激した場合に、CD4枯渇T細胞サブセットにも、CD8枯渇T細胞サブセットにも検出された。
【0126】
全体として、これらの研究は、MVA-BN-PROによるマウスの反復処置が、2つのTAAに対して、抗体とCD4及びCD8エフェクター細胞サブタイプの両方とが関与する幅広い抗原特異的適応免疫応答を誘導することを示している。予想どおり、抗体応答は主としてPSAに向けられ、弱いB細胞免疫原であることが知られているPAPは、限られた抗体応答しかトリガーしなかった。PSA及びPAPは、本質的に、抗原提示分子/ペプチド複合体の形でT細胞ターゲットとして腫瘍細胞表面に提示されるので、免疫系の細胞性コンポーネントの活性化は、MVA-BN-PROの効力にとって決定的に重要な必要条件である。試験したどのMVA-BN-PRO用量でも、処置された動物では、両方のTAAに対して強いCD4及びCD8 T細胞応答が誘導された。したがってMVA-BN-PROは、PSA及び/又はPAPペプチドをその表面に提示する腫瘍細胞の排除を媒介する潜在能力を有する。
【0127】
実施例4
MVA-BN-PROで処置されたマウスにおける抗腫瘍活性
マウスにおけるPSA陽性腫瘍細胞の成長に影響を及ぼすMVA-BN-PROの能力を、予防的並びに治療的癌腫瘍モデルで評価した。そのデータから、MVA-BN-PROはどちらの設定でも腫瘍成長を阻害できることが示される。また、MVA-BN-PROは、治療的癌腫瘍モデルにおいて、マウスにおけるPAP陽性腫瘍細胞の成長を阻害することもできた。
【0128】
MVA-BN-PROで処置した時の防御抗原特異的適応免疫の誘導(予防的設定)
移植されたE5細胞を前立腺癌モデルとして使用することにより、MVA-BN-PROの腫瘍成長防止能力を評価した。E5は、ヒトPSA遺伝子をコードする組換えDNAをRM11にトランスフェクトした後に得られるマウス前立腺腫瘍細胞株RM11(Elzeyら, Int. J Cancer 15;94(6):842-9 (2001))のサブクローンである。この効力研究では、マウスを、上述のようにMVA-BN-PROで免疫処置した(すなわち、TBS、MVA-BN(登録商標)(5×107TCID50)又はMVA-BN-PRO(2×106、1×107又は5×107TCID50)のいずれかを3週間間隔で3回)。次に、最後の処置の6週間後に、1×105個のE5細胞を皮内注射することによって、マウスに腫瘍をチャレンジした。その後、腫瘍の成長を週に2回観察して、成長する固形腫瘍のサイズを測定した。
【0129】
図7C〜7Eに示すように、どのMVA-BN-PRO用量で前処置された動物でも、腫瘍はTBS対照群(図7A)の腫瘍より成長が遅く、研究の終了時(29日目)において、試験した全ての用量で、マウスの>50%が無腫瘍のままだった。対照的に、腫瘍チャレンジ後12日目には早くもTBS対照群のマウスの100%で、測定可能な腫瘍が検出された。その日に、測定可能な腫瘍は、全てのMVA-BN-PRO処置群のマウスの20%にしか検出されなかった。平均腫瘍サイズの相違は、12日目以降、研究全体にわたるどの地点でも、全てのMVA-BN-PRO処置群とTBS対照群の間で統計的に有意だった(図7F)。
【0130】
TBS対照群と同様に、腫瘍チャレンジ後12日目には早くもほとんど全てのMVA-BN(登録商標)処置マウス(90%)で、測定可能な腫瘍が検出された(図7B)。しかし、MVA-BN(登録商標)処置群の2匹のマウス(20%)は、研究の終了時点で無腫瘍だった(29日目;一方のマウスは試験中常に無腫瘍のままであり、他方のマウスでは腫瘍退縮が起こった)。また、MVA-BN(登録商標)処置群における腫瘍は、22日目までは、TBS対照群の腫瘍よりも成長が遅く、これら2つの群間の平均腫瘍サイズの差は、2つの時点で、統計的に有意な差に達した(19日目、p=0.034及び22日目、p=0.019)。他の全ての時点において、TBS処置マウスとMVA-BN(登録商標)処置マウスには、同じような平均腫瘍サイズが観察されたので、MVA-BN(登録商標)処置マウスにおける腫瘍成長の遅延は一過性に過ぎなかった(図7F)。
【0131】
2×106TCID50のMVA-BN-PROを使ってマウスを2週間間隔で処置した後、処置の2週間後に腫瘍細胞をチャレンジするという反復実験において、MVA-BN-PROが媒介する上記の抗腫瘍活性を確認した。腫瘍移植後29日目のデータを、移植後の同じ日について図7から得られる対応するデータと一緒に、図8に示す。MVA-BN-PROで処置したマウスでは、どちらの実験でも、同じ程度の腫瘍成長の遅延が観察された。その上、平均腫瘍サイズの差は、MVA-BN-PRO処置群とTBS処置群の間、並びにMVA-BN-PRO処置群とMVA-BN(登録商標)処置群の間で、統計的に有意な差に達した(それぞれp=0.03及びp=0.021)。図7において、初期の時点で観察されたMVA-BN(登録商標)の一過性の効果は、反復実験では検出されなかった(データ未掲載)。これらのデータは、MVA-BN-PROによるマウスの処置が抗原特異的適応免疫応答及び免疫記憶の樹立を誘導することを示している。続いて、2〜6週間後に、マウスに腫瘍細胞をチャレンジすると、免疫記憶が想起されて、腫瘍細胞の成長を阻害する。
【0132】
MVA-BN-PROで処置した時の腫瘍の抑制(治療的設定)
移植されたE6細胞を前立腺癌モデルとして使用することにより、定着した腫瘍を抑制するMVA-BN-PROの能力を評価した。E6は、ヒトPSA遺伝子をコードする組換えDNAをRM11にトランスフェクトした後に得られるマウス前立腺腫瘍細胞株RM11(Elzeyら, 2001)のサブクローンである。E6は、上述の予防的設定で使用されたE5よりもPSAの産生量が低い産生株である。1×105個のE6細胞を内皮に注射することによってマウスに腫瘍をチャレンジし、同じ日と、その後の8日目及び15日目に、TBS、MVA-BN(登録商標)又はMVA-BN-PRO(5×106又は5×107TCID50)のいずれかで処置した。その後、腫瘍成長を週に2回観察して、皮膚の下の固形腫瘍のサイズを測定した。
【0133】
図9に示すように、MVA-BN-PROで処置した動物中の腫瘍(図9C及び9D)は、MVA-BN(登録商標)処置動物(図9A及び9B)又はTBS処置動物(図9E)中の腫瘍よりも、成長が有意に遅かった。どちらのMVA-BN-PRO処置群でも、腫瘍サイズの安定化又は退縮が50%の動物で観察された。図9Fは群間の平均腫瘍サイズの差を示す。平均腫瘍体積は、5×106TCID50のMVA-BN-PROで処置された動物と、TBS又はMVA-BN(登録商標)で処置された対照群との間で、統計的に有意に異なったのに対して(それぞれp=0.014及びp=0.032)、5×107TCID50 MVA-BN-PRO処置群とTBS処置群の間では、統計的有意性に至らなかった(p=0.07)。これらのデータは、MVA-BN-PROによるマウスの処置が、治療的設定でマウスにおける前立腺腫瘍の成長を阻害することを示している。
【0134】
定着したPAP発現腫瘍も抑制するMVA-BN-PROの能力を、ヒトPAPを安定に発現させるCT26細胞を使って、実験的肺転移モデルで評価した。CT26は、BALB/cマウスの化学誘発結腸直腸癌である(Brattainら, 1980)。このモデルでは、CT26-PAP細胞がBALB/cマウスに静脈内注射され、腫瘍小結節が成長する肺において、腫瘍量が評価される。1日目にCT26-PAP細胞(5×105個)を静脈内注射によってマウスにチャレンジし、4日目に、TBS、MVA-BN(5×107TCID50)又はMVA-BN-PRO(2×106及び5×107TCID50)の腹腔内への単回注射によって、マウスを処置した。次に、14日目にマウスを屠殺し、その肺を重量測定した。図10に示すように、5×107TCID50のMVA-BN-PROで処置されたマウスにおける腫瘍量は、対照マウスにおける腫瘍量よりも有意に低かった(p<0.024)。この抗腫瘍活性は用量依存的だった。というのも、低用量のMVA-BN-PROでは効果がなかったからである。さらにまた、この抗腫瘍活性は、おそらくPAP特異的免疫応答によって媒介される。というのも、対照群及びMVA-BN処置群のマウスにおける腫瘍量は変化しなかったからである。
【0135】
これらのデータは、MVA-BN-PROによるマウスの処置が、マウスにおける定着PAP陽性腫瘍の成長を阻害することを証明している。したがって、MVA-BN-PROによってコードされるPSA及びPAP前立腺抗原はどちらも、PSA又はPAP陽性腫瘍の成長を抑制する能力を持つ防御免疫応答の誘導に貢献する。
【0136】
実施例5
ハプロタイプの制約を超えたMVA-BN-PROの免疫原性
免疫応答は、抗原由来エピトープと免疫担当細胞上の多型抗原提示分子との相互作用によってもたらされる。MVA-BN-PRO中に2つの腫瘍抗原が存在する利点は、それらが、さまざまなハプロタイプの抗原提示分子と相互作用することのできる腫瘍抗原由来エピトープの数を潜在的に増加させることである。したがってMVA-BN-PROは、単一の抗原しか含有しないワクチンよりも広範囲にわたるハプロタイプの個体において免疫原性であるだろうと予想される。この可能性を、異なるハプロタイプを持つ動物を使った前臨床モデルで評価した。この実施例では、実施例1に記載のベクターを改変して、ATIプロモーターを初期/後期合成プロモーター(Ps;Chakrabarti S, Sisler JR及びMoss B, BioTechniques 23: 1094-1097 (December 1997))で置き換えた。したがって、PSAタンパク質及びPAPタンパク質は、MVA感染期の全体にわたって他の初期及び後期遺伝子と一緒に発現されるはずである。
Psプロモーターの配列:
5’-AAAAAATTGAAATTTTATTTTTTTTTTTTGGAATATAAATAAT(配列番号6)。
【0137】
1日目、15日目、及び29日目に、雄BALB/cマウス及び雄C57BL/6マウス(各群5匹)に、5×107TCID50のMVA-BN-PROによる免疫処置を施した。42日目に血液試料を収集し、プール血清の段階希釈液を、抗PSA又は抗PAP IgGの存在について、実施例3で述べたように、ELISAで解析した。図11に示すように、高力価の抗PSA抗体が、BALB/cマウスから得た血清にのみ検出された。対照的に、抗PAP抗体価はどちらのマウス系統から得た血清にも測定されたが、C57BL/6マウスから得た血清の方が、検出される抗PAP抗体価が高かった。このデータは、特異抗原に対する免疫応答が持つハプロタイプとの関係性を強調し、MVA-BN-PRO中の複数の腫瘍抗原が、異なるハプロタイプを持つ、より広範な個体に有効な免疫を与えるはずであるという考えを裏付けている。
【0138】
実施例6
ヒトにおけるMVA-BN-PROの安全性及び免疫原性
MVA-BN-PROは、前立腺癌を持つ患者の処置に関して、現在治験中である。本願の出願時点で、4人の患者が1E8 TCID50のMVA-BN-PROによる1〜3回の処置を受けたが、有害作用は報告されていない。これらの患者の一人におけるMVA-BN-PROの免疫原性を、処置前及び処置後のPSA及びPAPに対するT細胞応答を比較することによって評価した。患者末梢血単核球(PBMC)における抗原特異的ガンマインターフェロン(IFN-γ)分泌T細胞の存在を、ELISpotアッセイを使って決定した。処置前(ベース)、及び108TCID50のMVA-BN-PROによる3回目の皮下ワクチン接種の2週間後(TC3)に、応答を決定した。MATIS-10%培地(RPMI、クリック(Click’s)培地、10%ヒトAB血清、0.5M 2-β-メルカプトエタノール、及び2%ペニシリン/ストレプトマイシン)中の患者PBMC(2×105個)を、10μg/mLの抗ヒトIFN-γ捕捉抗体(Mabtech、クローンMAb 1D1K、カタログ番号3420-3)でプレコーティングしたマルチスクリーン96ウェルPVDFプレート(Millipore、カタログ番号MSIPS4510)の含水ウェルに移した。次に、PBMCを、5μg/mLのPSA(Biodesign、カタログ番号A86878H)、63μM(1ペプチドあたり1μM)の、PSA完全長配列由来の63個の15マーペプチドからなる11マーオーバーラップライブラリー(OPL)、1μg/mLのPAP(Biodesign、カタログ番号A81277H)、94μM(1ペプチドあたり1μM)の、PAP完全長配列由来の94個の15マーペプチドからなる11マーOPL、44μM(1ペプチドあたり1μM)の、10種類の前立腺癌腫瘍関連抗原(TAA)に由来する44個のMHCクラスIペプチドのプール、15μM(1ペプチドあたり1μM)の、5種類の前立腺癌TAAに由来する15個の15MHCクラスIIペプチドのプール、又は感染多重度(MOI)が10のMVA(Bavarian Nordic、MVA-BN-PROD05A06-C)のいずれかで刺激した。
【0139】
PSA OPLの63個のペプチドの配列:
MWVPVVFLTLSVTWI(配列番号3のアミノ酸1〜15)
VVFLTLSVTWIGAAP(配列番号3のアミノ酸5〜19)
TLSVTWIGAAPLILS(配列番号3のアミノ酸9〜23)
TWIGAAPLILSRIVG(配列番号3のアミノ酸13〜27)
AAPLILSRIVGGWEC(配列番号3のアミノ酸17〜31)
ILSRIVGGWECEKHS(配列番号3のアミノ酸21〜35)
IVGGWECEKHSQPWQ(配列番号3のアミノ酸25〜39)
WECEKHSQPWQVLVA(配列番号3のアミノ酸29〜43)
KHSQPWQVLVASRGR(配列番号3のアミノ酸33〜47)
PWQVLVASRGRAVCG(配列番号3のアミノ酸37〜51)
LVASRGRAVCGGVLV(配列番号3のアミノ酸41〜55)
RGRAVCGGVLVHPQW(配列番号3のアミノ酸45〜59)
VCGGVLVHPQWVLTA(配列番号3のアミノ酸49〜63)
VLVHPQWVLTAAHCI(配列番号3のアミノ酸53〜67)
PQWVLTAAHCIRNKS(配列番号3のアミノ酸57〜71)
LTAAHCIRNKSVILL(配列番号3のアミノ酸61〜75)
HCIRNKSVILLGRHS(配列番号3のアミノ酸65〜79)
NKSVILLGRHSLFHP(配列番号3のアミノ酸69〜83)
ILLGRHSLFHPEDTG(配列番号3のアミノ酸73〜87)
RHSLFHPEDTGQVFQ(配列番号3のアミノ酸77〜91)
FHPEDTGQVFQVSHS(配列番号3のアミノ酸81〜95)
DTGQVFQVSHSFPHP(配列番号3のアミノ酸85〜99)
VFQVSHSFPHPLYDM(配列番号3のアミノ酸89〜103)
SHSFPHPLYDMSLLK(配列番号3のアミノ酸93〜107)
PHPLYDMSLLKNRFL(配列番号3のアミノ酸97〜111)
YDMSLLKNRFLRPGD(配列番号3のアミノ酸101〜115)
LLKNRFLRPGDDSSH(配列番号3のアミノ酸105〜119)
RFLRPGDDSSHDLML(配列番号3のアミノ酸109〜123)
PGDDSSHDLMLLRLS(配列番号3のアミノ酸113〜127)
SSHDLMLLRLSEPAE(配列番号3のアミノ酸117〜131)
LMLLRLSEPAELTDA(配列番号3のアミノ酸121〜135)
RLSEPAELTDAVKVM(配列番号3のアミノ酸125〜139)
PAELTDAVKVMDLPT(配列番号3のアミノ酸129〜143)
TDAVKVMDLPTQEPA(配列番号3のアミノ酸133〜147)
KVMDLPTQEPALGTT(配列番号3のアミノ酸137〜151)
LPTQEPALGTTCYAS(配列番号3のアミノ酸141〜155)
EPALGTTCYASGWGS(配列番号3のアミノ酸145〜159)
GTTCYASGWGSIEPE(配列番号3のアミノ酸149〜163)
YASGWGSIEPEEFLT(配列番号3のアミノ酸153〜167)
WGSIEPEEFLTPKKL(配列番号3のアミノ酸157〜171)
EPEEFLTPKKLQCVD(配列番号3のアミノ酸161〜175)
FLTPKKLQCVDLHVI(配列番号3のアミノ酸165〜179)
KKLQCVDLHVISNDV(配列番号3のアミノ酸169〜183)
CVDLHVISNDVCAQV(配列番号3のアミノ酸173〜187)
HVISNDVCAQVHPQK(配列番号3のアミノ酸177〜191)
NDVCAQVHPQKVTKF(配列番号3のアミノ酸181〜195)
AQVHPQKVTKFMLCA(配列番号3のアミノ酸185〜199)
PQKVTKFMLCAGRWT(配列番号3のアミノ酸189〜203)
TKFMLCAGRWTGGKS(配列番号3のアミノ酸193〜207)
LCAGRWTGGKSTCSG(配列番号3のアミノ酸197〜211)
RWTGGKSTCSGDSGG(配列番号3のアミノ酸201〜215)
GKSTCSGDSGGPLVC(配列番号3のアミノ酸205〜219)
CSGDSGGPLVCNGVL(配列番号3のアミノ酸209〜223)
SGGPLVCNGVLQGIT(配列番号3のアミノ酸213〜227)
LVCNGVLQGITSWGS(配列番号3のアミノ酸217〜231)
GVLQGITSWGSEPCA(配列番号3のアミノ酸221〜235)
GITSWGSEPCALPER(配列番号3のアミノ酸225〜239)
WGSEPCALPERPSLY(配列番号3のアミノ酸229〜243)
PCALPERPSLYTKVV(配列番号3のアミノ酸233〜247)
PERPSLYTKVVHYRK(配列番号3のアミノ酸237〜251)
SLYTKVVHYRKWIKD(配列番号3のアミノ酸241〜255)
KVVHYRKWIKDTIVA(配列番号3のアミノ酸245〜259)
YRKWIKDTIVANP(配列番号3のアミノ酸249〜261)
【0140】
PAP OPLの94個のペプチドの配列:
MRAAPLLLARAASLS(配列番号4のアミノ酸1〜15)
PLLLARAASLSLGFL(配列番号4のアミノ酸5〜19)
ARAASLSLGFLFLLF(配列番号4のアミノ酸9〜23)
SLSLGFLFLLFFWLD(配列番号4のアミノ酸13〜27)
GFLFLLFFWLDRSVL(配列番号4のアミノ酸17〜31)
LLFFWLDRSVLAKEL(配列番号4のアミノ酸21〜35)
WLDRSVLAKELKFVT(配列番号4のアミノ酸25〜39)
SVLAKELKFVTLVFR(配列番号4のアミノ酸29〜43)
KELKFVTLVFRHGDR(配列番号4のアミノ酸33〜47)
FVTLVFRHGDRSPID(配列番号4のアミノ酸37〜51)
VFRHGDRSPIDTFPT(配列番号4のアミノ酸41〜55)
GDRSPIDTFPTDPIK(配列番号4のアミノ酸45〜59)
PIDTFPTDPIKESSW(配列番号4のアミノ酸49〜63)
FPTDPIKESSWPQGF(配列番号4のアミノ酸53〜67)
PIKESSWPQGFGQLT(配列番号4のアミノ酸57〜71)
SSWPQGFGQLTQLGM(配列番号4のアミノ酸61〜75)
QGFGQLTQLGMEQHY(配列番号4のアミノ酸65〜79)
QLTQLGMEQHYELGE(配列番号4のアミノ酸69〜83)
LGMEQHYELGEYIRK(配列番号4のアミノ酸74〜87)
QHYELGEYIRKRYRK(配列番号4のアミノ酸77〜91)
LGEYIRKRYRKFLNE(配列番号4のアミノ酸81〜95)
IRKRYRKFLNESYKH(配列番号4のアミノ酸85〜99)
YRKFLNESYKHEQVY(配列番号4のアミノ酸89〜103)
LNESYKHEQVYIRST(配列番号4のアミノ酸93〜107)
YKHEQVYIRSTDVDR(配列番号4のアミノ酸97〜111)
QVYIRSTDVDRTLMS(配列番号4のアミノ酸101〜115)
RSTDVDRTLMSAMTN(配列番号4のアミノ酸105〜119)
VDRTLMSAMTNLAAL(配列番号4のアミノ酸109〜123)
LMSAMTNLAALFPPE(配列番号4のアミノ酸113〜127)
MTNLAALFPPEGVSI(配列番号4のアミノ酸117〜131)
AALFPPEGVSIWNPI(配列番号4のアミノ酸121〜135)
PPEGVSIWNPILLWQ(配列番号4のアミノ酸125〜139)
VSIWNPILLWQPIPV(配列番号4のアミノ酸129〜143)
NPILLWQPIPVHTVP(配列番号4のアミノ酸133〜147)
LWQPIPVHTVPLSED(配列番号4のアミノ酸137〜151)
IPVHTVPLSEDQLLY(配列番号4のアミノ酸141〜155)
TVPLSEDQLLYLPFR(配列番号4のアミノ酸145〜159)
SEDQLLYLPFRNCPR(配列番号4のアミノ酸149〜163)
LLYLPFRNCPRFQEL(配列番号4のアミノ酸153〜167)
PFRNCPRFQELESET(配列番号4のアミノ酸157〜171)
CPRFQELESETLKSE(配列番号4のアミノ酸161〜175)
QELESETLKSEEFQK(配列番号4のアミノ酸165〜179)
SETLKSEEFQKRLHP(配列番号4のアミノ酸169〜183)
KSEEFQKRLHPYKDF(配列番号4のアミノ酸173〜187)
FQKRLHPYKDFIATL(配列番号4のアミノ酸177〜191)
LHPYKDFIATLGKLS(配列番号4のアミノ酸181〜195)
KDFIATLGKLSGLHG(配列番号4のアミノ酸185〜199)
ATLGKLSGLHGQDLF(配列番号4のアミノ酸189〜203)
KLSGLHGQDLFGIWS(配列番号4のアミノ酸193〜207)
LHGQDLFGIWSKVYD(配列番号4のアミノ酸197〜211)
DLFGIWSKVYDPLYC(配列番号4のアミノ酸201〜215)
IWSKVYDPLYCESVH(配列番号4のアミノ酸205〜219)
VYDPLYCESVHNFTL(配列番号4のアミノ酸209〜223)
LYCESVHNFTLPSWA(配列番号4のアミノ酸213〜227)
SVHNFTLPSWATEDT(配列番号4のアミノ酸217〜231)
FTLPSWATEDTMTKL(配列番号4のアミノ酸221〜235)
SWATEDTMTKLRELS(配列番号4のアミノ酸225〜239)
EDTMTKLRELSELSL(配列番号4のアミノ酸229〜243)
TKLRELSELSLLSLY(配列番号4のアミノ酸234〜247)
ELSELSLLSLYGIHK(配列番号4のアミノ酸237〜251)
LSLLSLYGIHKQKEK(配列番号4のアミノ酸241〜255)
SLYGIHKQKEKSRLQ(配列番号4のアミノ酸245〜259)
IHKQKEKSRLQGGVL(配列番号4のアミノ酸249〜263)
KEKSRLQGGVLVNEI(配列番号4のアミノ酸253〜267)
RLQGGVLVNEILNHM(配列番号4のアミノ酸257〜271)
GVLVNEILNHMKRAT(配列番号4のアミノ酸261〜275)
NEILNHMKRATQIPS(配列番号4のアミノ酸265〜279)
NHMKRATQIPSYKKL(配列番号4のアミノ酸269〜283)
RATQIPSYKKLIMYS(配列番号4のアミノ酸274〜287)
IPSYKKLIMYSAHDT(配列番号4のアミノ酸277〜291)
KKLIMYSAHDTTVSG(配列番号4のアミノ酸281〜295)
MYSAHDTTVSGLQMA(配列番号4のアミノ酸285〜299)
HDTTVSGLQMALDVY(配列番号4のアミノ酸289〜303)
VSGLQMALDVYNGLL(配列番号4のアミノ酸293〜307)
QMALDVYNGLLPPYA(配列番号4のアミノ酸297〜311)
DVYNGLLPPYASCHL(配列番号4のアミノ酸301〜315)
GLLPPYASCHLTELY(配列番号4のアミノ酸305〜319)
PYASCHLTELYFEKG(配列番号4のアミノ酸309〜323)
CHLTELYFEKGEYFV(配列番号4のアミノ酸313〜327)
ELYFEKGEYFVEMYY(配列番号4のアミノ酸317〜331)
EKGEYFVEMYYRNET(配列番号4のアミノ酸321〜335)
YFVEMYYRNETQHEP(配列番号4のアミノ酸325〜339)
MYYRNETQHEPYPLM(配列番号4のアミノ酸329〜343)
NETQHEPYPLMLPGC(配列番号4のアミノ酸333〜347)
HEPYPLMLPGCSPSC(配列番号4のアミノ酸337〜351)
PLMLPGCSPSCPLER(配列番号4のアミノ酸341〜355)
PGCSPSCPLERFAEL(配列番号4のアミノ酸345〜359)
PSCPLERFAELVGPV(配列番号4のアミノ酸349〜363)
LERFAELVGPVIPQD(配列番号4のアミノ酸353〜367)
AELVGPVIPQDWSTE(配列番号4のアミノ酸357〜371)
GPVIPQDWSTECMTT(配列番号4のアミノ酸361〜375)
PQDWSTECMTTNSHQ(配列番号4のアミノ酸365〜379)
STECMTTNSHQGTED(配列番号4のアミノ酸369〜383)
MTTNSHQGTEDSTD(配列番号4のアミノ酸373〜386)
【0141】
【0142】
【0143】
37℃、5%CO2で40時間のインキュベーション後に、1μg/mLのビオチン化抗ヒトIFN-γ抗体(Mabtech、クローンMAb 7-B6-1、カタログ番号3420-6)を使用し、引き続き1/5000希釈したストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ(BD Pharmingen、カタログ番号554065)を添加することによって、IFN-γ分泌を検出した。Vector Blue Substrate(Vector Lab Inc.、カタログ番号SK-5300)を使ってELISpotプレートを開発し、自動スポットリーダー(Cellular Technology Ltd. ImmunoSpot S3B Analyzer及びCTL ImmunoSpot 4.0 Professionalソフトウェア)でスポットを数え上げた。図12に示すように、PSAに対する既存のT細胞応答が、患者J-D-1001におけるMVA-BN-PRO処置に先だって検出された。処置後は抗PSA T細胞が有意に増加したのに対して、抗PAP T細胞は処置後にのみ検出された。このデータは、MVA-BN-PROがヒトにおいて免疫原性であることと、抗PSA応答と抗PAP応答の両方の同時誘導が達成され得ることを示している。MVA-BN-PRO処置は、ベクターMVA-BNに対する強いT細胞応答ももたらした。最も重要なことに、MVA-BN-PRO処置は、TAA MHC I及びIIペプチドプールで刺激されたT細胞によるIFN-γの産生によって例証されるとおり、他の腫瘍抗原へのT細胞応答のスプレッディングももたらした。これは、MVA-BN-PROが誘導する免疫応答は、腫瘍細胞の死滅と、それに続く他の腫瘍抗原への抗腫瘍応答の増幅につながることを示している。抗原スプレッディングは、ワクチンが誘導する応答に対する腫瘍回避(tumor evasion)を防止するので、抗腫瘍防御免疫の誘導にとって重要な事象である。したがって、ヒトにおいて2つの腫瘍抗原に対する免疫応答を媒介するというMVA-BN-PROの能力は、効果的な免疫療法をもたらす性質である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト癌患者を処置する方法であって、その患者に、ヒト前立腺特異抗原(PSA)抗原を含むポリペプチドとヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAを投与することを含む方法。
【請求項2】
前記MVAがMVA-BNである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MVAウイルスが配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PSA抗原及び前記PAP抗原が前記MVA遺伝子間領域014L/015Lに挿入される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記癌が前立腺癌転移である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンの前に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンと同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンの後に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タキサンがドセタキセル又はパクリタキセルである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記タキサンがドセタキセル又はパクリタキセルである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前立腺癌を予防するためのキットであって、
(a)ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVA;及び
(b)前立腺癌の検出前に前記組換えMVAを投与する指示
を含むキット。
【請求項13】
前立腺癌を処置するためのキットであって、
(a)ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVA;及び
(b)前記組換えMVAを前立腺癌患者に投与する指示
を含むキット。
【請求項14】
癌患者を処置するためのキットであって、
(a)ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVA;及び
(b)殺腫瘍用量のタキサンによる処置の前に、殺腫瘍用量のタキサンによる処置と同時に、又は殺腫瘍用量のタキサンによる処置の後に、前記組換えMVAを投与する指示
を含むキット。
【請求項15】
ヒトPAP抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルス。
【請求項16】
前記MVAウイルスが配列番号2を含む、請求項15に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項17】
前記MVAがMVA-BNである、請求項15に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項18】
ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとを発現させる組換えMVAウイルス。
【請求項19】
前記MVAウイルスが配列番号1のヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項20】
前記MVAウイルスが配列番号2を含む、請求項18に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項21】
前記MVAがMVA-BNである、請求項18に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項22】
ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物。
【請求項23】
ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対する抗体を誘導する免疫原性組成物。
【請求項24】
前記MVAウイルスが配列番号2を含む、請求項23に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項25】
ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PSA及びPAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物。
【請求項26】
PAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導するための方法であって、ヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAのプライミング用量を患者に投与すること、及び前記PAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAの1つまたは2つ以上のブースティング用量を投与することを含む方法。
【請求項27】
1×108TCID50のプライミング用量と、2×108及び4×108TCID50の2つのブースティング用量とが、前記患者に投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ブースティング用量が前記プライミング用量の4週間後及び8週間後に与えられる、請求項27に記載の方法。
【請求項1】
ヒト癌患者を処置する方法であって、その患者に、ヒト前立腺特異抗原(PSA)抗原を含むポリペプチドとヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAを投与することを含む方法。
【請求項2】
前記MVAがMVA-BNである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MVAウイルスが配列番号1及び配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PSA抗原及び前記PAP抗原が前記MVA遺伝子間領域014L/015Lに挿入される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記癌が前立腺癌転移である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンの前に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンと同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組換えMVAが殺腫瘍用量のタキサンの後に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タキサンがドセタキセル又はパクリタキセルである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記タキサンがドセタキセル又はパクリタキセルである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前立腺癌を予防するためのキットであって、
(a)ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVA;及び
(b)前立腺癌の検出前に前記組換えMVAを投与する指示
を含むキット。
【請求項13】
前立腺癌を処置するためのキットであって、
(a)ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVA;及び
(b)前記組換えMVAを前立腺癌患者に投与する指示
を含むキット。
【請求項14】
癌患者を処置するためのキットであって、
(a)ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVA;及び
(b)殺腫瘍用量のタキサンによる処置の前に、殺腫瘍用量のタキサンによる処置と同時に、又は殺腫瘍用量のタキサンによる処置の後に、前記組換えMVAを投与する指示
を含むキット。
【請求項15】
ヒトPAP抗原を含むポリペプチドを発現させる組換えMVAウイルス。
【請求項16】
前記MVAウイルスが配列番号2を含む、請求項15に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項17】
前記MVAがMVA-BNである、請求項15に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項18】
ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとを発現させる組換えMVAウイルス。
【請求項19】
前記MVAウイルスが配列番号1のヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項20】
前記MVAウイルスが配列番号2を含む、請求項18に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項21】
前記MVAがMVA-BNである、請求項18に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項22】
ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物。
【請求項23】
ヒトPAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PAPに対する抗体を誘導する免疫原性組成物。
【請求項24】
前記MVAウイルスが配列番号2を含む、請求項23に記載の組換えMVAウイルス。
【請求項25】
ヒトPSA抗原を含むポリペプチドとヒトPAP抗原を含むポリペプチドとをコードする組換えMVAウイルスを含む免疫原性組成物であって、宿主に投与された時に、PSA及びPAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導する免疫原性組成物。
【請求項26】
PAPに対するB細胞免疫応答及びT細胞免疫応答を誘導するための方法であって、ヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAのプライミング用量を患者に投与すること、及び前記PAP抗原を含むポリペプチドをコードする組換えMVAの1つまたは2つ以上のブースティング用量を投与することを含む方法。
【請求項27】
1×108TCID50のプライミング用量と、2×108及び4×108TCID50の2つのブースティング用量とが、前記患者に投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ブースティング用量が前記プライミング用量の4週間後及び8週間後に与えられる、請求項27に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−500718(P2011−500718A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530124(P2010−530124)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/080229
【国際公開番号】WO2009/052328
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509095732)ビーエヌ・イミュノセラピューティクス・インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/080229
【国際公開番号】WO2009/052328
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509095732)ビーエヌ・イミュノセラピューティクス・インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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