説明

前駆体の製造方法、超電導線材の製造方法、前駆体および超電導線材

【課題】ヒステリシス損失を低減できる前駆体の製造方法、超電導線材の製造方法、前駆体および超電導線材を提供する。
【解決手段】超電導線材の製造方法は、以下の工程を備えている。第1の金属層と、第1の金属層上に形成されたNi層とを有する積層金属を準備する。積層金属のNi層上に中間層20を形成する。中間層20上に超電導層30を形成する。中間層20を形成する工程および超電導層30を形成する工程の少なくともいずれか一方の後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前駆体の製造方法、超電導線材の製造方法、前駆体および超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板と、この基板上に形成された中間層と、この中間層上に形成された超電導層とを備えた超電導線材が用いられている。このような超電導線材の基板として、たとえば特開2006−127847号公報(特許文献1)、特表平11−504612号公報(特許文献2)などが用いられている。
【0003】
上記特許文献1には、無配向で非磁性の第1の金属層と、表層が配向した集合組織を有する第2の金属層とを備え、第1の金属層は第2の金属層よりも高い強度を有する膜形成用配向基板が開示されている。上記特許文献2には、合金化された2軸配向組織を有する金属基板が開示されている。
【特許文献1】特開2006−127847号公報
【特許文献2】特表平11−504612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1および2の基板を用いて超電導線材を製造するためには、上記基板を形成した後に、中間層および超電導層を形成する必要がある。上記特許文献1の第1の金属層および上記特許文献2の金属基板がNi(ニッケル)合金の場合、これらの上に中間層を形成しようとすると、第1の金属層および金属基板の表層が酸化されてしまう。表層が酸化されると、この表層上に中間層を形成することができないという問題があった。
【0005】
また、上記特許文献1の第1の金属層がNiの場合には、第1の金属層の酸化が抑制される。このため、Ni層上に中間層を形成することができるので、超電導線材を形成することができる。しかし、Niは強磁性金属であるため、Niのヒステリシス損失によって超電導線材の幅方向端部への磁界が集中してしまう。このため、超電導線材のヒステリシス損失が大きくなるという問題があった。
【0006】
それゆえ本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ヒステリシス損失を低減できる前駆体の製造方法、超電導線材の製造方法、前駆体および超電導線材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前駆体の製造方法は、以下の工程を備えている。第1の金属層と、第1の金属層上に形成されたNi層とを有する積層金属を準備する。積層金属のNi層上に中間層を形成する。中間層を形成する工程後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層を形成する。
【0008】
本発明の前駆体は、非磁性Ni合金層と、非磁性Ni合金層上に形成された中間層とを備えている。非磁性Ni合金層において、中間層との界面から、界面と反対側の表面に向けてNiの濃度が単調減少している。
【0009】
本発明の前駆体の製造方法および前駆体によれば、Ni層上に中間層を形成している。Niは酸化されにくく、かつ中間層との格子のマッチングが良好である。このため、Ni層上に容易に中間層を形成することができる。この状態で、積層金属を熱処理することにより、Ni層を構成するNiと、第1の金属層を構成する第1の金属とが合金化されるので、Ni合金を形成することができる。Ni合金の磁性は、Ni単体の場合よりも小さくすることができる。つまり、積層金属から非磁性Ni合金層を形成することができる。このため、前駆体の中間層上に超電導層を形成して超電導線材を製造すると、非磁性Ni合金層により、超電導線材の幅方向端部への磁界の集中を緩和することができる。したがって、ヒステリシス損失を低減できる前駆体を実現できる。
【0010】
なお、上記前駆体の製造方法により製造した前駆体は、中間層を形成する工程後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層を形成している。このため、積層金属内でNiが拡散することによって、非磁性Ni合金層において、中間層との界面から、界面と反対側の表面に向けてNiの濃度が単調減少している。
【0011】
上記前駆体の製造方法において好ましくは、積層金属を準備する工程では、第1の金属層下に、第1の金属層よりも強度の高い第2の金属層が形成された積層金属を準備する。
【0012】
上記前駆体において好ましくは、非磁性Ni合金層下に形成され、かつ非磁性Ni合金層よりも強度の高い第2の金属層をさらに備えている。
【0013】
第2の金属層が第1の金属層より高い強度を有しているため、前駆体の強度を第1の金属層単体の場合よりも向上することができる。
【0014】
上記前駆体の製造方法において好ましくは、積層金属を準備する工程では、Ni層は1μm以上10μm以下の厚みを有する。
【0015】
1μm以上の場合、中間層を形成する工程時にNiが拡散することを抑制できるので、Ni層の酸化されにくく、かつ中間層との格子のマッチングが良好である機能を効果的に発現できる。10μm以下の場合、非磁性Ni拡散層を形成する工程時に、Ni層を構成するNiが第1の金属層へ容易に拡散するので、Ni単体として残ることを効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明の超電導線材の製造方法は、以下の工程を備えている。第1の金属層と、第1の金属層上に形成されたNi層とを有する積層金属を準備する。積層金属のNi層上に中間層を形成する。中間層上に超電導層を形成する。中間層を形成する工程および超電導層を形成する工程の少なくともいずれか一方の後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層を形成する。
【0017】
本発明の超電導線材は、上記前駆体と、中間層上に形成された超電導層とを備えている。
【0018】
本発明の超電導線材の製造方法および超電導線材によれば、Ni層上に中間層を形成している。Niは酸化されにくく、かつ中間層との格子のマッチングが良好である。このため、Ni層上に容易に中間層を形成することができる。この状態、および、超電導層をさらに形成した状態の少なくともいずれか一方の後に、積層金属を熱処理することにより、Ni層を構成するNiと、第1の金属層を構成する第1の金属とが合金化されるので、Ni合金を形成することができる。Ni合金の磁性は、Ni単体の場合よりも小さくすることができる。つまり、積層金属から非磁性Ni合金層を形成することができる。このため、非磁性Ni合金層により、超電導線材の幅方向端部への磁界の集中を緩和することができる。したがって、ヒステリシス損失を低減できる超電導線材を実現できる。
【0019】
上記超電導線材の製造方法において好ましくは、積層金属を準備する工程では、第1の金属層下に、第1の金属層よりも強度の高い第2の金属層が形成された積層金属を準備する。
【0020】
第2の金属層が第1の金属層より高い強度を有しているため、超電導線材の強度を第1の金属層単体の場合よりも向上することができる。
【0021】
上記超電導線材の製造方法において好ましくは、積層金属を準備する工程では、Ni層は1μm以上10μm以下の厚みを有する。
【0022】
1μm以上の場合、中間層を形成する工程時にNiが拡散することを抑制できるので、Ni層の酸化されにくく、かつ中間層との格子のマッチングが良好である機能を効果的に発現できる。10μm以下の場合、非磁性Ni合金層を形成する工程時に、Ni層を構成するNiが第1の金属層へ容易に拡散するので、Ni単体として残ることを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の前駆体の製造方法、超電導線材の製造方法、前駆体および超電導線材によれば、ヒステリシス損失を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態における前駆体を概略的に示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態の前駆体を説明する。図1に示すように、前駆体は、第2の金属層11と、第2の金属層11上に形成された非磁性Ni合金層12とを含む基板10、および、非磁性Ni合金層12上に形成された中間層20を備えている。
【0026】
基板10は、長尺なテープ状の形状を有している。基板10は、第2の金属層11と、非磁性Ni合金層12とを含んでいる。
【0027】
非磁性Ni合金層12は、非磁性金属である。非磁性Ni合金層12を構成するNi合金は、特に限定されないが、Cu(銅)−Ni合金およびAg(銀)−Ni合金であることが好ましい。また非磁性Ni合金層は配向していることが好ましい。
【0028】
非磁性Ni合金層12は、Ni単体の磁性よりも低い。つまり、磁性が0J/m3の場合と、0J/m3を超えてNi単体の磁性以下の低い磁性を有する場合とを含む。
【0029】
非磁性Ni合金層12内には、Ni濃度分布がある。具体的には、非磁性Ni合金層12において、中間層20との界面から、この界面と反対側の表面に向けてNiの濃度が単調減少している。単調減少とは、中間層20との界面から、この界面と反対側の表面に向けて、Niの濃度が常に同じまたは減少しており、かつ中間層20との界面よりも、この界面と反対側の表面の方がNi濃度が低いことを意味する。つまり、単調減少とは、この方向に向けてNi濃度が増加している部分が含まれていない。
【0030】
第2の金属層11は、非磁性Ni合金層12下に形成され、かつ非磁性Ni合金層12よりも高い機械的強度を有している。この第2の金属層11の強度は、超電導層の形成時に高温でテンションをかけられた状態においても伸びない程度の強度であることが好ましい。このような第2の金属層11として、ステンレスが好適に用いられる。なお、第2の金属層11は、省略されてもよい。
【0031】
中間層20は、この表面上に超電導層が形成されるための層である。中間層20は、1層または2層以上からなる。中間層20が複数の層により構成される場合、中間層20を構成するそれぞれの層は互いに異なる材質により構成されていてもよい。中間層20は、たとえば、岩塩型、蛍石型、ペロブスカイト型、およびパイロクロア型の少なくともいずれか1つの結晶構造を有する酸化物であってもよい。このような結晶構造を有する材料としては、酸化セリウム(CeO2)、酸化ホルミニウム(Ho23)、酸化イットリウム(Y23)、および酸化イッテルビウム(Yb23)などの希土類元素酸化物、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、BZO(BaZrO3)、酸化アルミニウム(Al23)などのLn−M−O化合物(Lnは1種以上のランタノイド元素、MはSr、Zr、およびGaの中から選ばれる1種以上の元素、Oは酸素)が挙げられる。
【0032】
また、中間層20は、良好な結晶配向性を有していることが好ましい。また、中間層20は、超電導層を構成する元素と反応および拡散を防止できる材料であることが好ましい。このような材料としては、たとえばCeO2が挙げられる。なお、中間層20を構成する材料は、特に上記の材料に限定されない。
【0033】
図2は、本実施の形態における前駆体の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図2を参照して、本実施の形態における前駆体の製造方法について説明する。
【0034】
図3は、本実施の形態における積層基板を概略的に示す断面図である。図2および図3に示すように、まず、第1の金属層13と、第1の金属層13上に形成されたNi層14とを有する積層金属を準備する(ステップS10)。本実施の形態では、第1の金属層13下に、第1の金属層13よりも強度の高い第2の金属層11がさらに形成された積層金属を準備する。
【0035】
具体的には、まず、第2の金属層11を準備する(ステップS11)。第2の金属層11は、強度を持たせるための層である。このような第2の層11として、たとえば上述した材料を用いることができる。第2の金属層11の厚みは、たとえば100μmである。
【0036】
次いで、第2の金属層11上に第1の金属層13を形成する(ステップS12)。第1の金属層13は、Cu、Agなどの配向性が良好な金属であることが好ましい。また第1の金属層13は、配向していることが好ましい。第1の金属層13の厚みは、たとえば18μmである。
【0037】
第1の金属層13を形成する方法は特に限定されず、たとえば第1の金属層13と第2の金属層11とを貼り付ける方法を採用できる。
【0038】
その後、第1の金属層13上にNi層14を形成する(ステップS13)。Ni層14は、中間層を形成する際に、酸化を防止するための層である。第1の金属層13が配向している場合には、その上に形成されるNi層14も配向する。Ni層14の厚みは、たとえば1μmである。Ni層14を形成する方法は特に限定されず、たとえばめっき法を採用できる。
【0039】
Ni層14の厚みは1μm以上10μm以下であることが好ましい。1μm以上の場合、後述する中間層20を形成するステップS20時に600℃程度の熱が加えられても、Niが拡散することを抑制できる。このため、Ni層14の酸化されにくく、かつ中間層との格子のマッチングが良好である機能を効果的に発現できる。10μm以下の場合、後述する非磁性Ni合金層12を形成するステップS30時に、Ni層14を構成するNiが第1の金属層13へ容易に拡散するので、Ni単体として残ることを効果的に抑制することができる。
【0040】
上記ステップS11〜S13により、図3に示す積層金属を準備することができる(ステップS10)。
【0041】
図4は、本実施の形態における積層金属上に中間層を形成した状態を概略的に示す断面図である。図2および図4に示すように、次に、積層金属のNi層14上に中間層20を形成する(ステップS20)。Ni層14は酸化されにくいため、中間層20を容易に形成することができる。
【0042】
第1の金属層13が配向している場合には、その上に形成されるNi層14が配向するので、Ni層14上に形成される中間層20も配向する。このため、配向性の良好な中間層20を形成することができる。
【0043】
中間層20を形成する方法は、特に限定されず、たとえばスパッタリング法を採用できる。また、たとえば上述した材料の中間層20を形成する。
【0044】
図2に示すように、次に、中間層20を形成する工程(ステップS20)後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成する(ステップS30)。このステップS30により、Ni層14のNiを第1の金属層13へ拡散させて、Niと第1の金属とを合金化して、非磁性Ni合金層12を形成する。第1の金属層13を構成する第1の金属がCuまたはAgの場合、非磁性Ni合金層12はNi−Cu合金またはNi−Ag合金である。
【0045】
熱処理の条件は、積層金属において、Ni層14を構成するNiと、第1の金属層13を構成する第1の金属とが合金化されれば、特に限定されない。熱処理の条件の一例として、たとえば600℃以上800℃以下の温度で、Ar(アルゴン)を含む雰囲気で、10Pa以下の圧力で、約1時間程度の処理時間である。
【0046】
第1の金属層13がCuであるとき、熱処理による合金化の際、第1の金属層13を構成するCuに対してNi層14を構成するNiが50%以下で非磁性のNi−Cu合金層を形成することができる。
【0047】
以上のステップS10〜S30を実施することにより、図1に示す前駆体を製造することができる。なお、製造する前駆体は、ステップS30において熱処理により第1の金属層13の一部が合金されない場合を含む。つまり、本発明の前駆体は、第2の金属層11と、第2の金属層11上に形成された第1の金属層13と、第1の金属層13上に形成された非磁性Ni合金層12と、非磁性Ni合金層12上に形成された中間層20とを備えていてもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態における前駆体およびその製造方法によれば、中間層20を形成するステップS20後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成している(ステップS30)。
【0049】
Niは酸化されにくく、かつ中間層20との格子のマッチングが良好である。このため、Ni層14上に容易に中間層20を形成することができる。この状態で、積層金属を熱処理することにより、Ni層14を構成するNiと、第1の金属層13を構成する第1の金属とが合金化されるので、Ni合金を形成することができる。Ni合金の磁性は、Ni単体の場合よりも小さくすることができる。つまり、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成することができる。このため、前駆体の中間層20上に超電導層を形成して超電導線材を製造すると、非磁性Ni合金層12により、超電導線材の幅方向端部への磁界の集中を緩和することができる。したがって、ヒステリシス損失を低減できる前駆体を実現できる。
【0050】
また、中間層20を形成する際にNi層14の表層が酸化されることを抑制できる。このため、酸化が抑制された表層上に形成される中間層の配向性の低下を抑制できる。つまり、第1の金属層13が良好な配向性を有している場合には、その上に形成される中間層20の配向性も良好である。したがって、良好な結晶性の中間層20および超電導層を形成することができる。よって、この前駆体を用いて超電導線材を製造すると、超電導特性の悪化を抑制することができる。
【0051】
(実施の形態2)
図5は、本実施の形態における超電導線材を概略的に示す断面図である。図5を参照して、本実施の形態における超電導線材を説明する。図5に示すように、本実施の形態における超電導線材は、実施の形態1における前駆体と、前駆体の中間層20上に形成された超電導層30とを備えている。つまり、第2の金属層11と、第2の金属層11上に形成された非磁性Ni合金層12と、非磁性Ni合金層12上に形成された中間層20と、中間層20上に形成された超電導層30とを備えている。
【0052】
超電導層30は、長尺なテープ状の形状を有している。超電導層30は、REBa2Cu3y(yは6〜8、より好ましくはほぼ7、REとはY(イットリウム)、またはGd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)、Ho(ホルミウム)などの希土類元素を意味する)として表される超電導体などであり、たとえばGdBCOからなることが好ましい。GdBCOとは、GdBa2Cu3y(yは6〜8、より好ましくはほぼ7)として表される。
【0053】
なお、超電導線材は、超電導層30上に形成された安定化層(図示せず)をさらに備えていてもよい。安定化層は、超電導層30を保護するとともに、外部電極との接触部である。安定化層の材料は、特に限定されないが、たとえばAg(銀)やCu(銅)などを用いることができる。
【0054】
図6は、本実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図6を参照して、本実施の形態における超電導線材の製造方法について説明する。
【0055】
まず、実施の形態1と同様に、図1に示す前駆体を製造する(ステップS10〜S30)。
【0056】
次に、図6に示すように、中間層20上に超電導層30を形成する(ステップS40)。超電導層30の形成方法は特に限定されず、たとえばPLD(Pulsed Laser Deposition:パルスレーザー堆積法)法、MOD(Metal Organic Deposition:有機金属堆積)法などを採用することができる。また、たとえば上述した材料の超電導層30を形成する。
【0057】
次に、超電導層30上に、上述した材料の安定化層(図示せず)を形成してもよい。なお、この工程は省略されてもよい。
【0058】
以上のステップS10〜S40を実施することにより、図5に示す超電導線材を製造することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態における超電導線材およびその製造方法は、超電導層を形成するステップS40後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成している(ステップS40)。
【0060】
上述したように、Ni層14上に容易に中間層20を形成することができる。中間層20を形成した(ステップS20)後に、積層金属を熱処理する(ステップS30)ことにより、非磁性Ni合金層12を形成することができる。この状態で超電導層30を形成する(ステップS40)ので、超電導層30を容易に形成することができる。このため、非磁性Ni合金層12により、超電導線材の幅方向端部への磁界の集中を緩和することができる。したがって、ヒステリシス損失を低減できる超電導線材を実現できる。
【0061】
(実施の形態3)
本実施の形態における超電導線材は、図5に示す実施の形態2における超電導線材と同様であるため、その説明を繰り返さない。
【0062】
図7は、本実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図7を参照して、本実施の形態における超電導線材の製造方法を説明する。
【0063】
図7に示すように、まず、第1の金属層13と、第1の金属層13上に形成されたNi層14とを有する積層金属を準備する(ステップS10)。次に、積層金属のNi層14上に中間層20を形成する(ステップS20)。このステップS10、S20は、実施の形態1と同様であるので、その説明を繰り返さない。
【0064】
図8は、本実施の形態における超電導層を形成した状態を概略的に示す断面図である。図7および図8に示すように、次に、中間層20上に、超電導層30を形成する(ステップS40)。このステップS40は、実施の形態2と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0065】
次に、超電導層30を形成するステップS40後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成する(ステップS30)。このステップS30は、実施の形態1と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0066】
以上のステップS10〜S50を実施することにより、図5に示す超電導線材を製造することができる。
【0067】
なお、中間層20を形成した後に、積層金属を熱処理してもよい。つまり、中間層20を形成するステップS20および超電導層30を形成するステップS40の後に、熱処理するステップS30を実施してもよい。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態における超電導線材およびその製造方法は、中間層を形成するステップS20後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層12を形成している(ステップS40)。
【0069】
上述したように、Ni層14上に容易に中間層20を形成することができる。このため、この中間層20上に容易に超電導層30を形成することができる。この超電導層30を形成した(ステップS40)後に、積層金属を熱処理する(ステップS30)ことにより、非磁性Ni合金層12を形成することができる。このため、非磁性Ni合金層12により、超電導線材の幅方向端部への磁界の集中を緩和することができる。したがって、ヒステリシス損失を低減できる超電導線材を実現できる。
【実施例】
【0070】
本実施例では、中間層を形成する工程および超電導層を形成する工程の少なくともいずれか一方の後に、積層金属を熱処理することで、積層金属から非磁性Ni合金層を形成する工程とを備えることによる効果について調べた。
【0071】
(本発明例1)
本発明例1の超電導線材を、実施の形態2にしたがって、製造した。具体的には、まず、第1の金属層13として、18μmの厚みを有するCu基板を準備した(ステップS12)。第1の金属層13上に、めっき法により、1μmの厚みを有するNi層14を形成した(ステップS13)。これにより、第1の金属層13であるCu基板と、Ni層14とが積層された積層金属を形成した。
【0072】
次に、Ni層14上に、スパッタリング法により、中間層20としてCeO2を形成した(ステップS20)。
【0073】
次に、10Pa以下の圧力で、700℃の温度で、Arを含む雰囲気で、積層基板を熱処理した(ステップS30)。これにより、積層金属から非磁性Ni−Cu合金層を形成した。
【0074】
次に、中間層20上に、PLD法により、超電導層30としてGdBCOを形成した(ステップS40)。
【0075】
以上のステップS10〜S40を実施することにより、本発明例1の非磁性Ni合金層において、中間層との界面から、この界面と反対側の表面に向けてNiの濃度が単調減少している超電導線材を製造した。
【0076】
(本発明例2)
本発明例2の超電導線材の製造方法は、基本的には本発明例1の超電導線材の製造方法と同様であったが、実施の形態3における超電導線材の製造方法にしたがって製造した点において異なっていた。つまり、本発明例2の超電導線材の製造方法は、超電導層30を形成するステップS40の後に熱処理するステップS30を実施した点において本発明例1と異なっていた。
【0077】
(比較例1)
比較例1の超電導線材の製造方法は、基本的には本発明例1の超電導線材の製造方法と同様であったが、熱処理をするステップS30を実施しなかった点において異なっていた。
【0078】
(測定方法)
本発明例1、2および比較例1の超電導線材について、ヒステリシス損失および臨界電流値Icをそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
具体的には、温度が77Kで、自己磁場中において、本発明例1、2および比較例1の超電導線材の臨界電流値Icを測定した。臨界電流値Icは、10-6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。
【0080】
また、本発明例1、2および比較例1の超電導線材を、室温で、超電導線材のテープ面に平行な方向に磁場を印加したときのヒステリシス損失を、振動磁化型磁力計(VSM)を用いて測定した。
【0081】
【表1】

【0082】
(測定結果)
本発明例1、2および比較例1では、Ni層上に中間層を形成したので、Ni層の酸化を抑制できた。このため、中間層を容易に形成することができた。
【0083】
また、表1に示すように、中間層を形成した後に熱処理を行なった本発明例1、および超電導層を形成した後に熱処理を行なった本発明例2の超電導線材は、NiとCuとを合金化して非磁性Ni−Cu合金層を形成できた。このため、本発明例1および2の超電導線材のヒステリシス損失は0J/m3であった。一方、熱処理を行なわなかった比較例1の超電導線材のヒステリシス損失は52J/m3であった。このことから、中間層を形成するステップS20および超電導層を形成するステップS40の少なくともいずれか一方の後に、積層金属を熱処理することにより、ヒステリシス損失を低減できることが確認できた。
【0084】
また、表1に示すように、本発明例1および2の超電導線材の臨界電流値Icは、比較例1の超電導線材の臨界電流値Icと同じ250A/cmであった。このことから、中間層を形成するステップS20および超電導層を形成するステップS40の少なくともいずれか一方の後に熱処理を行なっても、超電導層の超電導特性を悪化させないことが確認できた。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態1における前駆体を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における前駆体の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1における積層基板を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における積層金属上に中間層を形成した状態を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2における超電導線材を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態3における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3における超電導層を形成した状態を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
10 基板、11 第2の金属層、12 非磁性Ni合金層、13 第1の金属層、14 Ni層、20 中間層、30 超電導層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属層と、前記第1の金属層上に形成されたニッケル層とを有する積層金属を準備する工程と、
前記積層金属の前記ニッケル層上に中間層を形成する工程と、
前記中間層を形成する工程後に、前記積層金属を熱処理することで、前記積層金属から非磁性ニッケル合金層を形成する工程とを備えた、前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記積層金属を準備する工程では、前記第1の金属層下に、前記第1の金属層よりも強度の高い第2の金属層が形成された前記積層金属を準備する、請求項1に記載の前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記積層金属を準備する工程では、前記ニッケル層は1μm以上10μm以下の厚みを有する、請求項1または2に記載の前駆体の製造方法。
【請求項4】
第1の金属層と、前記第1の金属層上に形成されたニッケル層とを有する積層金属を準備する工程と、
前記積層金属の前記ニッケル層上に中間層を形成する工程と、
前記中間層上に超電導層を形成する工程と、
前記中間層を形成する工程および前記超電導層を形成する工程の少なくともいずれか一方の後に、前記積層金属を熱処理することで、前記積層金属から非磁性ニッケル合金層を形成する工程とを備えた、超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記積層金属を準備する工程では、前記第1の金属層下に、前記第1の金属層よりも強度の高い第2の金属層が形成された前記積層金属を準備する、請求項4に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記積層金属を準備する工程では、前記ニッケル層は1μm以上10μm以下の厚みを有する、請求項4または5に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
非磁性ニッケル合金層と、
前記非磁性ニッケル合金層上に形成された中間層とを備え、
前記非磁性ニッケル合金層において、前記中間層との界面から、前記界面と反対側の表面に向けてニッケルの濃度が単調減少している、前駆体。
【請求項8】
前記非磁性ニッケル合金層下に形成され、かつ前記非磁性ニッケル合金層よりも強度の高い第2の金属層をさらに備えた、請求項7に記載の前駆体。
【請求項9】
請求項7または8に記載の前駆体と、
中間層上に形成された超電導層とを備えた、超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−129432(P2010−129432A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304153(P2008−304153)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】