説明

前駆細胞及びその使用

【課題】前駆細胞を作成し、所定の期間で前駆細胞状態を維持し、その後に最終型の細胞に分化させる方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法では、上皮細胞を上皮間葉移行誘導物質に晒す、又は上皮細胞に上皮間葉移行遺伝子を導入することによって、上皮細胞に上皮間葉移行を誘導させる。それによって、この上皮細胞から前駆細胞が発生する。発生した前駆細胞に前記誘導物質又は前記遺伝子の産物の誘導因子を投与し続けることで前駆細胞をその状態に維持することができる。この前駆細胞を対象に投与し、標的部位でこの前駆細胞が増殖した後に、前記誘導物質又は前記誘導因子の投与を中止すると、前駆細胞は目的の最終型の細胞に分化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、2005年6月30日に提出された米国特許出願番号第60/696,438号(発明の名称は、「前駆細胞及びその使用」("Progenitor Cells and Uses Thereof")である)の利益を主張するものである(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)。
【0002】
本発明の全体又は一部は、認可番号P01CA80111−06 1602(国立癌研究所)及び1F32CA101507−01(国立衛生研究所)の元で米国連邦政府の支援を受けてなされたものであり、米国連邦政府は所定の権利を有する。
【0003】
本発明は、前駆細胞の作成及びその使用に関連する。
【背景技術】
【0004】
様々な病気や疾患に対する潜在的な治療効果は、前駆細胞及び細胞ベースの治療を使用することによって得られる。ヒト前駆細胞を利用する上で最も重要な利点は、おそらく、細胞ベースの治療に使用することができる分化細胞及び組織をインビトロ又はin−situで発生させることができる点である。今日、ドナーから提供される臓器及び組織は、主に疾患を有する組織又は破壊された組織と交換するために使用される。しかし、移植可能な組織又は臓器に対する需要は、供給可能な組織又は臓器の量を越える。特定の種類の細胞に分化する前駆細胞により、様々な疾患(数例を挙げれば、パーキンソン及びアルツハイマー病、脊髄損傷、脳梗塞、やけど、心臓病、糖尿病、変形性関節症、並びに関節リウマチなど)を治療するために交換する細胞及び組織の再生可能な供給源を得ることができる。
【0005】
マウス及び他の動物に対して行われた予備研究により、損傷のある心臓に移植された骨髄系幹細胞から心筋細胞が発生し、心臓組織をうまく再生することができることが示された。細胞培養系に関する最近の他の研究により、胚幹細胞又は成人の骨髄細胞を心筋細胞に分化させることが可能であり得ることが示された。
【0006】
多くの研究室では、細胞培養で成人の幹細胞を増殖させ、損傷又は疾患を治療するためにそれらの細胞を特定の種類の細胞に分化させるように操作する方法を発見する試みが行われている。潜在的な治療法の例として、パーキンソン病患者の脳におけるドーパミン産生細胞の交換、I型糖尿病患者におけるインシュリン産生細胞の発達、及び心臓発作後の損傷した心筋の心筋細胞による修復が挙げられる。
【0007】
幹細胞又は前駆細胞の使用は医学の将来において非常に有望であるが、十分な量の未分化前駆細胞を取得すること、それらを未分化状態で維持すること、並びに前駆細胞をin−situで目的の最終型の細胞に分化するように制御することは、生物医学研究における大きな課題であった。
【0008】
胚形成の間、上皮細胞は、表現型において、上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition:EMT)と呼ばれるプロセスで非線維芽間葉細胞に変化する。次に、胚において、胚形成の間にEMTによって発生した間葉細胞から中胚葉細胞(骨格の骨、皮膚の結合組織、生殖器、心筋、骨格筋、巨核球(赤血球の前駆体)、及び平滑筋細胞など)が生じる。このため、EMTには、上皮細胞が部分的に又は完全に間葉細胞へ変化するプロセスが含まれる。この転換には、EMT特有のマーカーの特徴における変化が関連する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある実施形態では、本発明は、前駆細胞の集団の作成に関する。ある実施形態では、上皮細胞から前駆細胞を発生させる方法であって、(a)上皮細胞の集団を得るステップと、(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導するステップとを含み、それによって、前記集団で前駆細胞が発生する方法が提供される。他の実施形態では、前駆細胞は、ステップ(b)の後に前記集団から単離される。他の実施形態では、前記上皮細胞の集団は、上皮間葉移行を誘導する物質に晒される。さらに他の実施形態では、上皮間葉移行の誘導は、発現する際に上皮間葉移行を誘導する遺伝子を前記上皮細胞の集団に導入することによって起きる。さらに他の実施形態では、上皮間葉移行の誘導は、最初に、誘導される際に上皮間葉移行を引き起こす誘導性遺伝子を前記上皮細胞に導入し、次に前記細胞を前記誘導性遺伝子の誘導因子に晒すことによって達成される。
【0010】
本発明のさらに他の実施形態では、上記にしたがって作成され、誘導性上皮間葉移行遺伝子を含み、誘導因子に晒される前駆細胞は、誘導因子を除去することによって、分化するように誘導される。上記にしたがって作成された前駆細胞を、誘導因子の存在下で培養液にて増殖させ、次に細胞ベースの治療に使用することができる。他の実施形態では、例えば上記のように前駆細胞細胞を作成してそれらの細胞を対象又は対象の標的部位に投与し、前駆細胞の分化を誘導させるためにこの方法を使用することができる(誘導因子の非存在下では、細胞は分化する)。他の実施形態では、(a)誘導性上皮間葉移行遺伝子を含む前駆細胞を上記にしたがって作成するステップと、(b)前記上皮細胞をインビボで導入し、未分化状態で前記前駆細胞を維持するように誘導因子を投与するステップと、(c)前記前駆細胞がインビボにおいて標的部位で増殖するのに十分な期間を設けるステップと、(d)その後に誘導因子の投与を中止するステップとを行うことによって、この方法を実施することができる。
【0011】
本発明は、上皮細胞の種類又は由来によって制限されるものではない。主な上皮細胞は、細胞ベースの本発明の治療の対象となるヒト若しくは他の哺乳類の対象、廃棄される手術のサンプル若しくは細胞のサンプル、又は繁殖させられた細胞株から得ることができる。
【0012】
本明細書に記載されている方法によって作成された前駆細胞は、CD44及びCD24などの、前駆細胞に特有な表面マーカー発現パターンを示す。また、これらの細胞は、前駆細胞マーカーであるCD10陽性をも示し得る。この前駆細胞はまた、上皮間葉移行マーカーであるFOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、又はフィブロネクチン陽性の内の少なくとも1つをも示す。
【0013】
他の実施形態では、本発明は、(a)上皮細胞の集団を得るステップと、(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導するステップとによって作成される前駆細胞に関する。所望に応じて、前記集団から上皮細胞を単離することができる。上皮間葉移行の誘導は、上記の方法などの種々の方法で行うことができる。
【0014】
本発明の他の実施形態では、上皮間葉移行を引き起こす少なくとも1つの誘導性遺伝子を含む改変された上皮細胞が提供される。尚、前記細胞を誘導因子に晒すと、前記遺伝子は上皮間葉移行を引き起こす。
【0015】
さらに他の実施形態では、本発明は、構成的プロモータの制御下にある少なくとも1つの上皮間葉移行遺伝子を有するベクターを含む改変された前駆細胞に関する。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態では、本発明に係る前駆細胞の様々な使用が提供される。哺乳類の対象に対する細胞ベースの治療は、本発明に係る前駆細胞を前記対象に移植させることによって達成することができる。ある実施形態では、例えば本明細書で言及した疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳梗塞、やけど、心臓病、糖尿病、変形性関節症、及び関節リウマチ)の1つに対して治療効果を提供するために、本発明に係る前駆細胞を哺乳類の対象に投与する。他の実施形態では、誘導因子に晒される際に上皮間葉移行を引き起こす少なくとも1つの誘導性遺伝子を含む前駆細胞を、治療を必要とする対象に投与する。他の実施形態では、このような前駆細胞を、誘導因子と共に投与する。前駆細胞が少なくとも1つの標的部位で増殖するのに十分な期間を設けた後に、誘導因子の投与を中止する。前駆細胞は、血液中又は標的部位に投与することができる。また、対象に移植又はインプラントをするために、エクスビボ又はインビトロで代替組織を増殖させるのに本発明に係る前駆細胞を使用することができる。他の実施形態では、通常、投与前に前駆細胞を遺伝的に改変する。
【0017】
他の実施形態では、前駆細胞の新しいマーカーであるFOXC2が様々な目的に対して有用であることが判明した。前記目的の例として、それらに限定さるものではないが、例えば、細胞ベースの治療を実施するために細胞集団、組織、又は臓器における前駆細胞を同定すること、前駆細胞の表現型の形成及び維持を誘導する物質又は条件を同定すること、及び免疫組織化学などがある。
【0018】
本発明のこれら及び他の実施形態では、次の「発明を実施するための最良の形態」及び「図面の説明」でさらに明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
下記の説明では、本発明を完全に理解するために、本発明の様々な詳細について説明する。しかしながら、当業者は、本発明がこれらの詳細なしで実施される場合があると理解できるであろう。他の例では、本発明を不明瞭にしないために、周知の方法、工程、及び構成物について説明しない。
【0020】
前駆細胞を直ちに及び容易に発生させる前駆細胞源は、細胞ベースの潜在的な治療効果を臨床的に実証するための大きな要因となる。本明細書で使用されている前駆細胞という用語は、幹細胞と同意語であり、幾つかある特徴の中で、様々な種類の細胞を発生させることができる多分化能を有する未分化細胞を意味する。本件出願の目的のために、前駆細胞を、(a)比較的未分化状態にあり、(b)同様に未分化状態の娘細胞を発生させることができ、(c)成長及び分裂の多連続サイクルを介して増殖することができる系統の娘細胞を発生させることができ、(d)適切な条件下で分化プログラムに入り、それによって、哺乳動物の種々の機能的な組織に特有の特性を獲得する娘細胞を発生させる細胞として定義する。ある実施形態では、胚発生プロセスである上皮間葉移行(EMT)を行った特徴を示す細胞集団をインビボで同定した。また、重要なことに、そのような細胞は、意外にも前駆細胞の典型的な特徴をも示した。したがって、他の実施形態では、様々な方法でEMTを永続的又は一時的に誘導し、前駆細胞の特性を同定することによって、有用な量の前駆細胞を発生させる容易な方法が得られる。また、EMTの表現型及び前駆細胞の表現型を一時的に制御することにより、治療のために、前駆細胞を最終型の細胞に分化させることができる。
【0021】
したがって、ある実施形態では、上皮細胞に上皮間葉移行を誘導することによって、細胞ベースの治療、生物学的活性を有する化合物のスクリーニング、生物製剤の製造などの無数の利用に有用な前駆細胞の集団を発生させることができる。
【0022】
本発明で使用される前駆細胞は、in−situで最終型の細胞に分化することができる。さらに、乳房上皮細胞から由来する本発明に係る前駆細胞は、インビトロでマンモスフィアを形成する。分化因子を導入すると、特定の種類の細胞の形成が誘導される。EMTの特徴を示さない(CD44及びCD24などのマーカー発現を示す)細胞は、樹状の管(ductal tree)及びマンモスフィアを形成しない。
【0023】
また、ここに示すように、EMTを誘導する物質に晒され、前駆細胞の集団を発生させる上皮細胞、及び誘導性EMT遺伝子を含み、誘導因子に晒される上皮細胞は、EMTを誘導する物質に晒されないとき若しくは誘導因子に晒されないとき、適切な条件下では分化する、又は上皮の表現型を取り戻す。どちらの場合でも、例として本明細書に記載した細胞ベースの様々な治療、及び当該技術分野における前駆細胞の全ての使用に、このような細胞を利用することができる。本明細書に記載した例は、単なる例示的なものであって、このような使用を制限するものではない。
【0024】
本発明は、任意の哺乳動物(一般的にはヒトであるが、飼いならされた家畜及び動物園の動物もまた含まれる)の細胞に適用することができる。幹細胞の移植又は本発明に係る細胞ベースの他の治療から利益を得る対象は一般的にはヒトであるが、これに制限されることはなく、他の哺乳類もまた対象となり得る。
【0025】
本明細書で説明するように作成される前駆細胞には、多くの利用法がある。このような利用法として、前駆細胞を対象に移植又はインプラントする細胞ベースの治療、前駆細胞における治療分子又は生物学的活性分子の生物学的活性を評価又はスクリーニングする方法、前駆細胞を生育、維持、及び分化させるためのより優れた手法を同定する方法、前駆細胞由来製品(組み換えタンパク質、ペプチド、融合ポリペプチド)の作成(製造など)のための方法などがある。
【0026】
前駆細胞を利用する細胞ベースの治療には、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳梗塞、やけど、心臓病、糖尿病、変形性関節症、並びに関節リウマチなどの治療が含まれる。さらに、前駆細胞ベースの治療が対象にする細胞及び組織として、心臓血管、骨、筋肉、及び脳などがある。
【0027】
本発明に係る前駆細胞の他の利用例として、治療分子又は生物学的活性分子の生物学的活性を評価又はスクリーニングする方法(新しい化合物を同定するためのハイスループット・スクリーニングなど)、並びに前駆細胞が特定の細胞系に分化するのを促進する物質及び条件を同定する方法がある。
【0028】
前駆細胞を生育、維持、及び分化させるより優れた手法を同定するための、前駆細胞を使用する方法もまた、本発明の他の利用法である。分化を示すマーカー又は分泌タンパク質における変化を特定することによって、本発明に係る前駆細胞を使用して、前駆細胞を特定の種類の細胞に分化させる物質及び条件を容易にスクリーニングすることができる。
【0029】
また、本発明に係る前駆細胞の有用性は、核酸及びタンパク質などの生物学的及び治療的に有用な生体分子の作成においても明白である。継続的に増殖する幹細胞の状態で前駆細胞を維持するには、内在性遺伝子又は挿入された遺伝子(構成的若しくは誘導性のプロ−モータを含み、ヒト(又は他の種)細胞において所定の物質を多量に産出するベクターを介して)による産物の発現若しくは分泌を利用することができる。それにより、低費用であり、簡単な製造プロセスが得られる。そのようなプロセスにより、組み換えタンパク質、ペプチド、融合ポリペプチド、核酸、及び他の任意の有用な細胞産物を生成することができる。
【0030】
したがって、上記にように、ある実施形態では、本発明は、前駆細胞の集団を発生させる方法であって、(a)上皮細胞の集団を得るステップと、(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導するステップとを含み、それによって、前記集団で前駆細胞が発生する方法に関する。所望に応じて、他の実施形態では、ステップ(b)後の前記集団に存在する前記前駆細胞を単離することできる。他の実施形態では、上皮間葉移行を誘導するステップは、上皮間葉移行を誘導する物質に前記上皮細胞の集団を晒すステップを含む。前記物質の例として、それらに限定されるものではないが、例えば、TGF−β1、FGF−1、EGF、HGF/SF、BFGF、及びPDGFなどがある。他の実施形態では、上皮間葉移行の誘導は、発現する際に上皮間葉移行を誘導する遺伝子を上皮細胞の集団に導入することによって達成される。この遺伝子は、構成的プロモータの制御下でベクターに組み込まれている場合がある。適切な遺伝子の例として、それらに限定されるものではないが、例えば、転写因子の遺伝子がある。適切な転写因子の遺伝子の例として、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はこれらの機能変異体がある。
【0031】
ベクター及び他の核酸を導入する方法は、当業者に周知であり、幾つかの実施形態では、脂質又はリポソームに基づく送達(国際公開第96/18372号パンフレット、国際公開第93/24640号パンフレット、「Mannino and Gould-Fogerite (1988) BioTechniques 6(7): 682-691」、Roseに付与された米国特許第5,279,833号、国際公開第91/06309号パンフレット、及び「Feigner et al. (1987) Proc. Nati. Acad. Sci. USA 84: 7413-7414」)、複製欠損レトロウイルスのベクターの使用(例えば、「Miller et al. (1990) Mol. Cell. Biol. 10:4239」、「Kolberg (1992) J. NIH Res. 4: 43」、「Cometta et al. (1991) Hum. Gene Ther. 2: 215」、「Anderson (1992) Science 256: 808-813」、「Nabel and Feigner (1993) TIBTECH 11: 211-217」、「Mitani and Caskey (1993) TIBTECH 11: 162-166」、「Mulligan (1993) Science, 926-932」、「Dillon (1993) TIBTECH 11: 167-175」、「Miller (1992) Nature 357: 455-460」、「Van Brunt (1988) Biotechnology 6(10): 1149-1154」、「Vigne (1995) Restorative Neurology and Neuroscience 8: 35-36」、「Kremer and Perricaudet (1995) British Medical Bulletin 51(1) 31-44」、「Haddada et al. (1995) Current Topics in Microbiology and Immunology, Doerfler and Bohm (eds) Springer-Verlag, Heidelberg Germany」、及び「Yu et al. (1994) Gene Therapy, 1: 13-26」を参照)を含む。ある実施形態では、Snail及びTwist遺伝子を上皮細胞に導入するために、「Elenbaas et al., 2001, Human breast cancer cells generated by oncogenic transformation of primary mammary epithelial cells, Genes & Development 15:50-65」に記載されている方法を使用する。
【0032】
さらに他の実施形態では、上皮間葉移行は、最初に誘導性EMTタンパク質又は誘導性EMTタンパク質をコードする遺伝子を上皮細胞に導入し、次に細胞を誘導因子に晒すことよって達成される。誘導性EMTタンパク質及び遺伝子の作成及び導入は、下記の従来技術にしたがって容易に達成することができる。例えば、ある実施形態では、EMT遺伝子は、ベクター上の誘導性プロモータの制御下にある。その場合、遺伝子が発現すると、上皮間葉移行が誘導される(細胞を誘導因子に晒すと、遺伝子の発現によって、上皮間葉移行が一時的に誘導される)。誘導性遺伝子には、それに限定されるものではないが、例えば、テトラサイクリン応答性プロモータなどの誘導性プロモータに機能的に連結した上記の遺伝子の任意のもの(転写因子の遺伝子など)が含まれる。他の実施形態では、下記の実施例で示すように、転写因子とエストロゲン受容体とを含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子を作成し、細胞に導入することができる。エストロゲン受容体を使用する場合、誘導因子として、タモキシフェン又はその類似体などのエストロゲン受容体モジュレータを使用することができる。ある実施形態では、タモキシフェン又はその類似体のみに応答し、エストロゲンに応答しない改変されたエストロゲン受容体を使用する。この融合ポリペプチドの発現によって、EMT誘導のための手段が得られる(細胞をエストロゲンに晒すと、転写因子が活性化され、EMTが誘導される)。このような誘導性融合ポリペプチドを作成する方法は、例えば「Eilers et al., 1989, Chimaeras of Myc oncoprotein and steroid receptors cause hormone-dependent transformation of cells, Nature 340:66-68.」に記載されている。
【0033】
他の実施形態では、本発明は、誘導性EMTタンパク質又は遺伝子を導入し、誘導因子に晒すことによって作成され、誘導因子を除去することで分化を誘導できる前駆細胞を含む。ある実施形態では、このように作成し、前駆細胞の状態を維持するために誘導因子の存在下で増加させた細胞を対象に投与することができる。投与後、誘導因子が欠失すると、前駆細胞は分化する。他の実施形態では、投与後に細胞の前駆的な特性を延長するために、又はインビボにて前駆細胞が標的部位で分化するのを誘導するために、次の方法を行うことができる。(a)上記のように誘導性EMT遺伝子を有する前駆細胞を作成する。(b)インビボで前駆細胞を導入し、細胞が未分化状態を維持するようにインビボで誘導因子を投与する。(c)インビボにて前駆細胞を標的部位で増殖させる。(d)誘導因子の投与を中止する。
【0034】
上記で記載したように、本発明は、上皮細胞の種類又は由来によって制限されるものではない。上皮細胞の例として、哺乳動物の組織、前立腺、胚、並びにケラチノサイトからの上皮細胞がある。本発明の実施形態に有用な上皮細胞として、扁平上皮細胞(肺胞、腎臓、及び体の主要な腔こうで見られるものなど)、立法及び円柱上皮細胞(小腸を覆っている細胞など)、並びに移行上皮細胞(膀胱及び尿管を覆っている細胞など)が挙げられる。他の上皮細胞源として、顎下腺の管を覆っている上皮細胞がある。これらの上皮細胞源は、制限するものではなく、本発明の様々な実施形態における種々の上皮細胞源を単に例示するものである。
【0035】
上皮細胞は、本発明に基づく細胞ベースの治療の対象となり得るヒト若しくは他の哺乳類の対象、廃棄される手術のサンプル若しくは細胞のサンプル、又は増殖させられた細胞株から得ることができる。例えば同種異系の前駆細胞の組織適合性を変える又は自己細胞の遺伝子欠陥を矯正させるために、治療での使用前に、1つ以上の遺伝子を例えば導入又はノックアウトさせることによって、細胞の遺伝子を改変することができる。これらの例は、本発明のある実施形態を単に例示するものであって、決して本発明を制限するものではない。
【0036】
本明細書に記載した方法で発生する前駆細胞は、前駆細胞特有の細胞表面マーカー発現パターン(CD44及びCD24)を示す。この前駆細胞はまた、前駆細胞のマーカーであるCD10陽性をも発現する。また、この前駆細胞は、上皮間葉移行のマーカーであるFOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、又はフィブロネクチン陽性の内の少なくとも1つをも示す。これらのマーカーのレベルを測定する方法として、それらに限定されるものではないが、例えば、細胞上又は内における前述したタンパク質のレベルの定量化、又はmRNAのレベルの測定などがある。また、本発明に係る前駆細胞は、多分化能を有する。前駆細胞は、異なる様々な種類の分化した子孫を発生させる能力を有し得る。或いは、前駆細胞は、単分化能を有し、一種類の細胞のみに分化できる子孫を発生させ得る。細胞のマーカー・パターンは、蛍光活性化分類及び免疫組織化学などの(これらに限定されない)技術によって評価できる。
【0037】
上記の細胞マーカーの中で、FOXC2は、細胞集団又は組織若しくは臓器内の細胞集団にある前駆細胞の同定に使用される前駆細胞マーカーとして本発明者らによって新たに同定されたマーカーである。フォークヘッド・ボックス(forkhead box)C2の省略形であるFOXC2(MFH−1:mesenchyme forkhead 1)は、フォーク・ヘッド(Fork head)転写因子ファミリーのメンバーの1つである。FOXC2のLocuslinkのアクセス番号は2303、Refseqのアクセス番号はNM_005251、Unigeneのアクセス番号はHs.558329である。また、FOXC2は、FKHL14、MFH−1、及びMFH1としても知られる。下記の実施例で説明するように、乳房縮小手術で得られる乳房組織のサンプル存在するEMT細胞集団、及び誘導性又は構成的EMT遺伝子の導入によってEMTを誘導した上皮細胞でこのFOXC2が観察されることから、上皮細胞におけるFOXC2の発現は、前駆細胞の特性を示すものである。
【0038】
FOXC2に結合する様々な物質(抗体など)を、検出可能な標識で標識し、本明細書で例示する様々な利用のためにこのマーカーを発現する細胞の同定に使用することができる。FOXC2のmRNAのレベルもまた、前駆細胞の特性を有する細胞を同定するのに有用である。ある実施形態では、EMTを経て、前駆細胞の表現型を示す上皮細胞を同定するために、以前に癌細胞のマーカーとして認識されたFOXC2(例えば、Katoh M, Katoh M., Human FOX gene family, Tnt J Oncol. 2004 Nov; 25(5) :1495-500を参照)を、前駆細胞の様々なマーカーと共に使用する。
【0039】
本発明に係る前駆細胞は、少なくとも1つの分析で前駆細胞の表現型を示す。例えば、本明細書に記載した方法で乳房上皮細胞にEMTを引き起こすことによって発生した前駆細胞は、インビトロでマンモスフィアを形成することができ、インビボで乳房の脂肪体にインプラントされる場合は樹状の管を形成することができる。
【0040】
他の実施形態では、本発明は、(a)上皮細胞の集団を得るステップと、(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導するステップとによって作成される前駆細胞に関する。他の実施形態では、ステップ(b)において前記集団から前駆細胞を単離することができる。上記で記載したように、上皮間葉移行の誘導は、上記の方法などの種々の方法で実施することができる。本明細書に記載したプロセスで発生した前駆細胞は、前駆細胞及び上皮間葉移行が起きた細胞のマーカー示す。
【0041】
他の実施形態では、本発明は、誘導性の遺伝子を有する改変された上皮細胞を提供する。この上皮細胞が誘導因子に晒されると、細胞は上皮間葉移行を行う。このような細胞は、誘導性プロモータの制御下に上皮間葉移行を誘導する少なくとも1つの遺伝子を有するベクターという形態でこの誘導性遺伝子を含むことができる。他の実施形態では、この誘導性遺伝子は、誘導因子の存在下で活性化する転写因子(活性化すると、EMTを誘導する)を含むポリペプチドをコードしている。転写因子の遺伝子は、発現する際にEMTを誘導する任意の遺伝子であり得る。このような遺伝子の例として、それらに限定されるものではないが、例えば、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はこれらの機能変異体がある。プロモータは、任意の誘導性プロモータであり得る。本発明に係るこのような細胞は、上皮細胞の表現型を示すが、誘導因子に晒されると、EMTを経て、上記で説明したようにEMTの少なくとも1つのマーカーを示すようになる。さらに、改変された上皮細胞は、誘導因子に晒されると、多分化能を有するようになり、少なくも1つの分析において前駆細胞の表現型を示すようになる。
【0042】
さらに他の実施形態では、本発明は、構成的プロモータの制御下にある少なくとも1つの遺伝子を有するベクターを含む前駆細胞に関する。ある実施形態では、細胞は単離される。適切な遺伝子として、それらに限定されるものではないが、例えば、転写因子の遺伝子がある。適切な転写因子の例として、Snail、Twist、Slug、SIP1(Smad結合タンパク質1)、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はこれらの機能変異体がある。上記の遺伝子の機能変異体は、遺伝子の機能(すなわち、上皮間葉移行を誘導する機能)を保持する配列又は他の変異体を含む。このような転写因子は当該技術分野で公知であり、例えば「Elloul S et al., 2005, Snail, Slug, and Smad-interacting protein 1 as novel parameters of disease aggressiveness in metastatic ovarian and breast carcinoma, Cancer 103:1631-43」に記載されている。
【0043】
本発明のさらに他の実施形態では、本発明に係る前駆細胞の様々な使用が提供される。尚、これらの使用は、下記の例示的な例に制限されるものではない。哺乳類の対象に対する細胞ベースの治療は、本発明に係る前駆細胞を対象に移植することで達成される。ある実施形態では、例えば本明細書に記載した疾患(パーキンソン及びアルツハイマー病、脊髄損傷、脳梗塞、やけど、心臓病、糖尿病、変形性関節症、並びに関節リウマチなど)に対する治療効果を得るために、本発明に係る前駆細胞を哺乳類の対象に投与する。上述したように、本発明に係る前駆細胞の多分化能により、前駆細胞は様々な種類の細胞(それらに限定されるものではないが、例えば、血管、神経、心臓、及び肝臓の細胞及び組織)に分化することができる。他の実施形態では、誘導因子に晒される際に上皮間葉移行を誘導する少なくとも1つの誘導性遺伝子を有する前駆細胞を、治療を必要とする対象に投与する。他の実施形態では、そのような前駆細胞を誘導因子と共に対象に投与する。この前駆細胞が少なくとも1つの標的部位で増殖した後、誘導因子の投与を中止する。それによって、前駆細胞は、治療目的の種類の細胞に分化する。前駆細胞は、血液又は標的部位に投与することができる。他の実施形態では、分化した所定の種類の細胞を、そのような種類の細胞が欠失又は欠損した患者に投与する。或いは、患者が自身で生成できない特定の遺伝子産物をその患者に提供するために、患者に導入する前の細胞を遺伝子的に改変して導入する。また、インビボ、エクスビボ、又はインビトロで代替組織を増殖させるためにも、本発明に係る前駆細胞を使用することができる。尚、エクスビボ又はインビトロで代替組織を増殖させるのは、その組織を必要とする患者へ移植又はインプラントするためである。
【0044】
細胞ベースの治療のための本発明に係る前駆細胞を使用する際には、本発明にしたがって作成した前駆細胞を、非経口的に患者に投与することができる(血液又は前駆細胞を増殖させる臓器若しくは組織に投与する)。細胞は、薬学的に許容される希釈剤、又は目的部位への生きた細胞の送達を可能にする担体若しくは賦形剤に含まれる状態で投与することができる。非経口投与として、それらに限定されるものではないが、例えば、静脈内、動脈内、皮内、鞘内、頭蓋内、皮下、及び腹腔内の経路による投与がある。
【0045】
前駆細胞を発生させる本発明に係る方法の様々なステップを下記に説明する。下記の説明はヒト細胞に焦点を当てたものであるが、本発明はそれによって制限されることはなく、ヒト以外の様々な哺乳動物にそれぞれの例を適用することができる。例を用いて説明するが、これらの詳細は本発明を実施する唯一な方法ではないことを理解されたい。当業者は、本発明の精神から逸脱せずに本発明を達成できる他の方法を容易に考案することができるであろう。
【0046】
≪1.上皮細胞の獲得≫
【0047】
本発明の実施において有用となる上皮細胞は様々な細胞源から得られる。このような上皮細胞源の例として、それらに限定されるものではないが、例えば、細胞株、自身から由来する前駆細胞の投与によって利益を得る対象からの自己細胞若しくは組織、又は同種異系細胞(すなわち、本発明にしたがって前駆細胞にされ、異なる人に投与される細胞)がある。
【0048】
本発明を実施する際の開始細胞として適切な細胞株として、「Karsten et al., 1993, Subtypes of non-transformed human mammary epithelial cells cultured in vitro: histo- blood group antigen H type 2 defines basal cell-derived cells, Differentiation 54:55-66」に記載されている細胞などの非形質転換上皮細胞がある。
【0049】
一般的には、細胞ベースの治療を必要とする患者又は対象が本発明の上皮細胞の細胞源となる。患者から外科的に得られ細胞又は組織から簡単に上皮細胞を単離することができる。上皮細胞源の中で特に、乳房組織が有効な上皮細胞源である。
【0050】
患者若しくは対象を治療する、又は患者若しくは対象に投与する前駆細胞の同種異系源も本発明で使用される。家族の一員、配偶者、友人、又は他人でさえも上皮細胞を含む組織の提供者となり得る。上皮細胞を含む組織が得られる手術(乳房縮小など)を受ける患者は、本発明で有用な同種異系上皮細胞源となる。前駆細胞及び受容者の組織適合性によっては、同種異系細胞の受容者の免疫を抑制する必要がある場合がある。下記に説明するある実施形態では、組織不適合性を矯正するために前駆細胞を遺伝子改変する。
【0051】
他の実施形態では、非自己細胞又は非自己細胞株を使用する場合は、臓器移植拒否を減少させる又は解消するために細胞を改変する。細胞のHLAの種類を変えるために、当該技術分野で公知の方法を使用することができる。ヒトβ−ミクログロブリン遺伝子をノックアウトすることによって、MHCクラスI分子を除去する又は減少させることができる。この方法は、すでにマウスのES細胞で行われた(Zijistra et al., Nature 342:435-438, 1989)。また、HLA−DP、−DQ、及び−DR遺伝子座をノックアウトする(マウスのES細胞におけるE及びA遺伝子座のノックアウトに相当する(Cosgrove et al, Cell 66:1051-1066, 1991))ことによって、MHCクラスIIグリコタンパク質を減少させる又は除去することができる。
【0052】
前述の細胞源からの上皮細胞、並びにこれらの上皮細胞から発生した前駆細胞は、本明細書の教示及び「In vitro propagation and transcriptional profiling of human mammary stem/progenitor cells, Genes Dev. 17:1253-70(Dontu et al.)(2003)」に記載された方法によって培養することができる。
【0053】
≪2.上皮間葉移行(EMT)の誘導≫
【0054】
本発明に係る前駆細胞を発生させるためのEMTの誘導は、本発明の精神から逸脱せずに様々な方法で行うことができる。ある実施形態では、上皮間葉移行を引き起こす又は誘導する分子又は物質に上皮細胞集団を晒す。他の実施形態では、発現する際に上皮間葉移行を誘導する少なくとも1つの遺伝子を上皮細胞集団に導入することによって上皮間葉移行を達成することができる。さらに他の実施形態では、EMTを引き起こすタンパク質をコードする遺伝子を導入し(細胞を誘導因子に晒す際に上皮間葉移行が一時的に起こるように)、その次に細胞を誘導因子に晒すことによって上皮間葉移行を達成することができる。下記にさらに詳しく説明するこの実施形態により、所定の時間内又は細胞が所望どおりに増殖するときまでにEMT細胞を先駆細胞の状態に維持するように制御することができる。その後に誘導因子を除去することによって、前駆細胞が分化するようになる。
【0055】
上記のようにして得た上皮細胞の集団にEMTを誘導するために、上皮細胞を様々な分子又は物質に晒すことができる。増殖因子などのタンパク質の例として、それらに限定されるものではないが、例えば、形質転換増殖因子β1(transforming growth factor-β1:TGF−β1)、線維芽細胞増殖因子−1(fibroblast growth factor-1:FGF−1)、上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor:EGF)、肝細胞増殖因子/散乱因子(hepatocyte growth factor / scatter factor:HGF/SF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:BFGF)、及び血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor:PDGF)がある。これらの因子は、当該技術分野において公知であり、多くの供給業者によって市販されている、又は研究室で作成することができる。EMTを誘導するために、インビトロにおいて、細胞を培養している培養培地に適切な濃度のEMT誘導物質を加え、EMTを誘導するまでの十分な時間で細胞を培養する。その後、所望に応じて培地から誘導因子を除去する。他の例では、乳房上皮細胞にEMTを誘導するために5ng/mlのTGF−β1を使用することができる(但し、これに限定されるわけではない)。次に説明する例及び条件は、EMTを誘導するこのような方法を単に例示するものであり、他の方法でも同じ結果を得ることができることは明白である。
【0056】
他の実施形態では、上記にしたがって得た上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導する少なくとも1つの遺伝子を導入することによって、上皮間葉移行を達成することができる。このような遺伝子は、一般的には、転写因子の遺伝子であるが、これに限定されるわけではない。適切な転写因子の例として、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はこれらの機能変異体がある。このように改変された上皮細胞は本発明の範囲内で実施される。
【0057】
選択した前記少なくとも1つの遺伝子をベクター上の構成的プロモータの制御下に置くことができる。構成的プロモータは、当該技術分野では公知であり、その例として、シミアン・ウイルスのプロモータ、単純ヘルペスウイルスのプロモータ、パピロ−マ・ウイルスのプロモータ、アデノウイルスのプロモータ、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)のプロモータ、ラウス肉腫ウイルスのプロモータ、サイトメガロ・ウイルス(cytomegalovirus:CMV)のプロモータ、モロニーマウス白血病ウイルス及び他のレトロウイルスの長末端反復配列(long terminal repeat:LTR)、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ・プロモータ、並びに当業者に周知の他のウイルス・プロモータがある。プロモータ及び関心のある誘導性EMT遺伝子を含むベクターは、様々な文献に記載されている方法にしたがって容易に作成することができる。
【0058】
下記でさらに説明するように、前駆細胞を同定及び単離するために、ベクターは少なくとも1つの他の遺伝子をさらに含み得る。
【0059】
制御要素をコード配列に連結する機構は、当該技術分野において公知である(一般的な分子生物学的手法及び組み換えDNA技術は「Sambrook, Fritsch, and Maniatis , Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989」(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)に記載されている)。様々な生育及び誘導条件において種々の哺乳動物の細胞で発現するコード配列を挿入するのに適切な市販ベクターもまた、当該技術分野で公知である。哺乳動物細胞でポリペプチド又はタンパク質を発現するための適切なベクターとして、それらに限定されるものではないが、例えば、pcDNA1、pCD(「Okayama, et al. (1985) Mol. Cell Biol. 5.1136-1 142」を参照)、pMClneo Poly−A(「Thomas, et al. (1987) Cell 51:503-512」を参照)、及びpAC373又はpAC610などのバキュロ・ウイルスのベクターなどがある。本発明の1つの実施形態を達成するために、転写因子を使用して「Elenbaas et al., 2001, Genes & Development 15:50-65」に記載されている方法を行うことができる(但し、これに限定されない)。
【0060】
さらに他の実施形態では、最初にEMTを引き起こす誘導性遺伝子を上皮細胞に導入し、その次にその細胞を誘導因子に晒すことによって、上皮細胞に上皮間葉移行を誘導することができる。本発明のこの実施形態では、様々な方法で上皮細胞を改変することができる。ある実施形態では、誘導性プロモータの制御下に位置し、発現の際にEMTを誘導する遺伝子を含むベクターを上皮細胞に導入する。上皮細胞にベクターを導入した後に、EMTを誘導するために、細胞をプロモータの誘導因子に晒す。他の実施形態では、EMT誘導因子を含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子を作成することができる。ある例では、融合ポリペプチドは、エストロゲン受容体と転写因子であるSnailとを含んでいるが、これに限定されるわけではない。融合ポリペプチドがエストロゲン受容体のリガンドに晒されるときのみに、転写因子が活性化される。ある実施形態では、タモキシフェン又はその類似体のみに応答し、エストロゲンに応答しない改変されたエストロゲン受容体が使用される。
【0061】
誘導性遺伝子の構築物は、EMTを誘導する上記の遺伝子(転写因子であるSnail及びSlugの遺伝子など)の任意のものを含むことができる。誘導性遺伝子に関しては、多くのものを使用することができるが、それによって発生する前駆細胞の目的の使用に対する適性に基づいて選択する。例えば、誘導性プロモータは、テトラサイクリン応答性プロモータ、ホルモン誘導性プロモータ、放射線誘導性プロモータ(EGR−1プロモータ又はNF−カッパ・プロモータなど)、又は熱誘導性プロモータであり得る。適切な誘導性プロモータとして、例えば、テトラサイクリン応答性因子(tetracycline responsive element:TRE)(「Gossen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992)」を参照)、メタロチオネインIIAプロモータ、エクジソン応答性プロモータ、及び熱ショック・プロモータがある。これらの誘導性プロモータのそれぞれに対応し、遺伝子の活性化に使用できる誘導因子又は誘導因子のファミリーがある。適切な誘導性遺伝子及び誘導因子の組み合わせは、誘導を引き起こしてその後に誘導因子を除去して誘導効果を評価することによって選択される。EMTを誘導し、それによって発生する前駆細胞を対象に投与し、所定の期間内で前駆細胞の状態を維持する本発明の実施においては、選択される誘導因子は、対象に適合する必要があり、前駆細胞の表現型を維持できる十分な量で投与される。本発明で使用される誘導因子は、低毒性であり、血液及び組織において高レベルで維持される。投与される誘導因子の内因性アゴニスト又はアンタゴニストを使用する必要はない。
【0062】
一例として、「Eilers et al., 1989, Nature 340:66-68」に記載されている方法を使用して、例えばエストロゲン受容体のホルモン結合ドメインと発現の際にEMTを誘導する転写因子とを含む誘導性転写因子を作成することができる。
【0063】
ベクター及び他の核酸を導入する方法は、当業者に周知であり、幾つかの実施形態では、脂質又はリポソームに基づく送達の使用(国際公開第96/18372号パンフレット、国際公開第93/24640号パンフレット、「Mannino and Gould-Fogerite (1988) BioTechniques 6(7): 682-691」、Roseに付与された米国特許第5,279,833号、及び「Feigner et al. (1987) Proc. Nati. Acad. Sci. USA 84: 7413-7414」)、複製欠損レトロウイルスのベクターの使用(例えば、「Miller et al. (1990) Mol. Cell. Biol. 10:4239」、「Kolberg (1992) J. NIH Res. 4: 43」、「Cometta et al. (1991) Hum. Gene Ther. 2: 215」、「Anderson (1992) Science 256: 808-813」、「Nabel and Feigner (1993) TIBTECH 11: 211-217」、「Mitani and Caskey (1993) TIBTECH 11: 162-166」、「Mulligan (1993) Science, 926-932」、「Dillon (1993) TIBTECH 11: 167-175」、「Miller (1992) Nature 357: 455-460」、「Van Brunt (1988) Biotechnology 6(10): 1149-1154」、「Vigne (1995) Restorative Neurology and Neuroscience 8: 35-36」、「Kremer and Perricaudet (1995) British Medical Bulletin 51(1) 31-44」、「Haddada et al. (1995) Current Topics in Microbiology and Immunology, Doerfler and Bohm (eds) Springer-Verlag, Heidelberg Germany」、及び「Yu et al. (1994) Gene Therapy, 1: 13-26」を参照)を含む。ある実施形態では、上記で例示した転写因子を上皮細胞に導入するために、「Human breast cancer cells generated by oncogenic transformation of primary mammary epithelial cells, Genes & Development 15:50-65(Elenbaas et al.)(2001)」に記載されている方法を使用する。
【0064】
ある実施形態では、インビトロにおいて誘導因子の存在下で前駆細胞が増殖した後、前駆細胞を受容者に全身投与する。誘導因子は、上記の物質、又は上記の誘導性遺伝子の誘導因子であり得る。他の実施形態では、増殖した前駆細胞及び誘導因子を、前記前駆細胞が体内の目的の部位で増殖するのに十分な時間で投与する。その後、誘導因子の投与を中止することによって、前駆細胞は分化し、その部位の目的の機能を得るようになる。他の実施形態では、前駆細胞は全身投与されるが、誘導因子は、分化前の前駆細胞が増殖するのが望ましい部位に局所投与される。投与された前駆細胞が前記部位で十分に増加したときに誘導因子の投与を中止すると、前駆細胞が分化するようになる。
【0065】
細胞の単離について下記でさらに説明するように、前駆細胞を同定及び単離するために、誘導性又は構成的ベクターは少なくとも1つの他の遺伝子をさらに含んでいることがある。他の実施形態では、治療用の前駆細胞を投与する前にその前駆細胞を改変するために、1つ以上の遺伝子の導入、ノックアウト、又はそれらの組み合わせを行う。例えば、患者自身の前駆細胞を投与する前に、この自己細胞の遺伝子欠陥(例えば、患者から得られた乳房上皮細胞が癌化する傾向)を矯正することができる。他の実施形態では、ここに説明するように同種異系細胞の組織不適合性を矯正することができる。また、例えば、血液のグルコースに応答する制御機構を前駆細胞に導入し、インシュリン生成細胞に分化させるのも別の例である。上記の例は、単に例示的なものであって本発明を制限するものではない。
【0066】
エストロゲン受容体又は改変されたエストロゲン受容体を使用する場合、誘導因子は、タモキシフェン又はその類似体(4−ヒドロキシタモキシフェンなど)などのエストロゲン受容体である(これに限定されない)。ある実施形態では、タモキシフェン又はその類似体のみに応答し、エストロゲンに応答しない改変されたエストロゲン受容体を使用する。
【0067】
上記の方法で発生した又は誘導された前駆細胞は、EMT細胞並びに前駆細胞に特徴的な少なくとも1つのマーカーを発現する。本明細書で説明した方法によって発生した前駆細胞は、CD44及びCD24などの前駆細胞に特徴的な細胞表面マーカー発現パターンを示す。この前駆細胞はまた、前駆細胞のマーカーであるCD10陽性を示し得る。この前駆細胞は、上皮間葉移行のマーカーであるFOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、またはフィブロネクチン陽性の内の少なくとも1つを示し得る。また、本発明に係る前駆細胞は、多分化能を有する。
【0068】
上記のマーカーのプロファイル又は発現パターンは容易に確認することができる。細胞のマーカー・パターンは、蛍光活性化細胞分類及び免疫組織化学など(これらに限定されるものではない)の技術によって容易に評価できる。上記のマーカー及びそれらの発現レベルに関して、「陰性」はマーカーの発現が欠如している又はそのレベルが著しく低いことを意味し、「陽性」は発現が顕著であることを意味する。細胞マーカーの「陰性」から「陽性」への移行は、欠如している発現又は低レベルの発現から高レベル又は著しいレベルの発現への変化を示す。「低」という用語は低レベルの発現を意味し、「高」は容易に検出できる高レベルの発現を意味する。この場合、低レベルから高レベル又は高レベルから低レベルへの発現の移行は、容易に確認できる。例えば、上皮細胞はCD44及びCD24を示すが、EMTの際には、CD44の発現が増加し、CD24の発現が減少し、表現型はCD44及びCD24になる。この移行は、細胞分類で容易に確認できる。例えば添付の図面に示されているように、CD24の発現レベルをx軸、CD44の発現レベルをY軸で示す場合、EMTが起きている細胞が前駆細胞の特性を示すと、象限の右下から左上へとパターンが変化する。
【0069】
≪3.上記のステップで発生した前駆細胞の単離≫
【0070】
上皮細胞の集団でEMTを誘導すると、目的の使用(これらに限定されるものではないが、例えば、細胞ベースの治療、インビトロでの薬剤のスクリーニング、又は前駆細胞に関する研究など)前に所望に応じて前駆細胞を単離する。EMTを誘導するために上記のように処理した上皮細胞の集団から前駆細胞を単離するのは重要ではないが、次の使用によっては、前駆細胞を濃縮するのが望ましいことがある。
【0071】
このような細胞を単離する方法として、細胞表面の前駆細胞マーカーの発現に基づく細胞分類、及び/又は、単離する細胞の発現したマーカーに特異的に結合する結合物質を有するアフィニティーマトリックス及び親和性樹脂への選択的結合、及び/又は前記アフィニティーマトリックス及び親和性樹脂からの選択的溶出など様々ある。このような結合物質は、抗体、レクチン、リガンドなどであり得る。
【0072】
目的の前駆細胞の集団を単離するために、上記に説明した細胞マーカーの発現に基づいた細胞分類を使用することができる。
【0073】
マトリックスへの選択的結合及び/又はマトリックスからの選択的溶出は、ビーズ、ファイバーなどを使用することによって実施できる。レクチン、抗体、又は目的の細胞の細胞表面抗原に特異的に結合する他の結合物質を使用することができる(結合及び洗浄後、目的の細胞を溶出することができる)。他の実施形態では、非前駆細胞が結合する結合物質を含むマトリックスに細胞集団を晒すことによって、前駆細胞の表現型を示さない細胞を細胞集団から除去することができる。
【0074】
当該技術分野で公知の方法(例えば、ハイブリドーマ細胞の単離で使用されるHAT選択(例えば、「Szybalski, W., Szybalska, E.H., 1961. Selective systems for measuring forward and reverse mutation rates involving loss and gain of enzyme in human cell lines. V International Congress of Biochemistry. Abstracts and Communications. Moscow, 10-16 August 1961. Pergamon Press Ltd., Oxford, and Panstwowe Wydawnietwo Naukowe, Warsaw, p. 411」、「Kohler G, Milstein C., 1975, Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity, Nature 256:495-7」を参照))にしたがって、薬剤体制選択マーカーを使用することで所望の表面マーカーを示さない細胞を選択的に殺すことができる。
【0075】
上記で説明したように、EMT誘導遺伝子及び選択マーカーの共トランスフェクションは、処理した細胞集団で前駆細胞を容易に同定できるように行うことができ、それにより、前駆細胞を容易に単離することができる。
【0076】
下記の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の範囲を制限するもではない。実際、下記の実施例などの本発明の内容、並びに言及した科学文献及び特許文献によって本発明及び本明細書で説明した実施形態以外の様々な実施形態が当業者に明らかになる。言及した参照文献の内容が参照によって本明細書に組み込まれるもであることを理解されたい。
【実施例】
【0077】
≪実施例1≫
【0078】
<TGF−β1でEMTを誘導したところ、CD44/CD24を示す細胞が発生した。>
【0079】
縮小手術のサンプルで得られた乳房上皮細胞を、インビトロで5ng/mlのTGF−β1に12日間晒した。この期間の間、細胞の生育特性は、密集型の形態からより分散した間葉細胞の形態へと変化した(図1B)。細胞分類により、この変化がCD44の発現の増加及び同時にCD24の発現の減少に関連することが示された(細胞集団のCD44及びCD24の発現パターンは、CD44及びCD24からCD44及びCD24へ移行した)(図1A)。
【0080】
≪実施例2≫
【0081】
<ヒト乳房上皮細胞から単離されたCD44及びCD24を示す細胞は、マンモスフィアを形成する。>
【0082】
CD44及びCD24を示す細胞(以下、CD44及びCD24細胞とする)及びCD44及びCD24を示す細胞(以下、CD44及びCD24細胞とする)の集団を、ヒト乳房上皮細胞株から分離し、それらからマンモスフィアが形成されるかを確認するために培養した。「Wicha et al., 2003, Genes & Development 17:1253-70」に記載の方法をわずかに変更し、それにしたがってマンモスフィアの培養を行った。CD44及びCD24を示す乳房内腔上皮細胞及びCD44及びCD24を示す乳房内腔上皮細胞に関しては、それぞれの細胞を超低接着プレート(Corning)に5,000〜10,000細胞/mLの密度で入れた。B27(Invitrogen)、20ng/mLのEGF及び20ng/mLのbFGF、4μg/mLのヘパリン、並びに1%のメチルセルロースを添加した乳房上皮細胞生育培地(mammary epithelial growth medium:MEGM)(BPEを含まない)(Cambrex)で細胞を培養した。培地を3日ごとに取り替え、細胞を10日間培養した。図2の左のパネルで示されているように、CD44及びCD24細胞のみが、培地で間葉細胞の増殖形態で増殖し、前駆細胞の特性であるマンモスフィアを形成した。CD44及びCD24細胞は、上皮細胞の生育特性を示し、マンモスフィアを形成しなかった(右のパネル)。
【0083】
≪実施例3≫
【0084】
<間葉細胞のみから間葉細胞及び上皮細胞が発生する。>
【0085】
細胞株からのヒト乳房上皮細胞をCD44及びCD24細胞とCD44及びCD24細胞とに分類し、これらのマーカーの発現を経時的に見た。図3に示されているように、CD44及びCD24細胞(M)から、時間と共にCD44及びCD24細胞(E)、並びにCD44及びCD24細胞(M)が発生した。しかしながら、CD44及びCD24細胞(E)はCD44及びCD24を示し続け、そこからCD44及びCD24細胞(M)は発生しなかった。したがって、CD44及びCD24の表現型を有する細胞(M)のみから、CD44及びCD24細胞(M)、並びに他の種類の細胞であるCD44及びCD24細胞(E)が発生し、これにより、CD44及びCD24細胞が前駆細胞として見なされる。
【0086】
≪実施例4≫
【0087】
<Snail又はTwistでEMTを誘導させると、細胞はCD44/CD24を示すようになる。>
【0088】
構成的プロモータの制御下にSnailを含むベクター(HMLE−Snail)若しくはTwistを含むベクター(HMLE−Twist)、又はベクターのみ(HMLE)でヒト乳房上皮細胞を形質転換した。「Elenbaas et al., 2001, Genes & Development 15:50-65」に記載の方法を使用した。ベクターの作成は、「Yang et al., 2004, Cell 117:927-937」の記載の方法にしたがった。細胞をベクターのみで形質転換したところ、細胞は密集したままであった。しかしながら、Snail又はTwist遺伝子を含むベクターで細胞を形質転換したところ、細胞は分散し、間葉細胞の生育形態を示した(図4B)。マーカーについて分析したところ、ベクターのみで形質転換した細胞(HMLE)の少数のものがCD44及びCD24の表現型を示すのに対して、Snail又はTwistで形質転換した全ての細胞がCD44及びCD24を示すことが判明した(図4A)。
【0089】
≪実施例5≫
【0090】
<Snail又はTwistでEMTを誘導すると、前駆細胞が発生する。>
【0091】
実施例4の細胞を、前駆細胞のマーカーであるCD10の発現について調べた。図4Cに示されているように、Snail及びTwistで形質転換した細胞ではCD10の発現が増加した(CD10陽性)が、ベクターのみで形質転換した細胞の大部分はCD10陰性であった。
【0092】
≪実施例6≫
【0093】
<EMTの誘導>
【0094】
ヒト乳房上皮細胞を、誘導性Snail又はTwistを含むベクターで形質転換し、タモキシフェンに晒すと、インビトロでマンモスフィアを形成する。また、細胞のEMTマーカーであるFOXC2、N−カドヘリン、フィブロネクチン、及びビメンチンの発現は増加し、一方、同時にE−カドヘリンの発現は減少する(図5)。誘導性転写因子を含む遺伝子は、「Eilers et al., 1989, Nature 340:66-68」に記載の方法にしたがって作成した。誘導性Twist又は誘導性Snailを有する細胞をタモキシフェンの存在下で12日間培養したところ、最初のCD44及びCD24の表現型がCD44及びCD24の表現型に移行した。これは、EMTの制御的な誘導及び前駆細胞の特性の出現示すものである。
【0095】
≪実施例7≫
【0096】
<ヒト乳房上皮細胞由来のCD44/CD24細胞はEMTを起こした。>
【0097】
患者の乳房縮小手術で得られた組織から単離されたヒト乳房上皮細胞を培養液に入れ、顕微鏡でマーカーの発現を観察した。図6Aに示されているように、これらの細胞のわずかな部分がCD44及びCD24の表現型を示した。これらの細胞が培養培地で分散して間葉細胞のような形態を示していたのに対して、上皮細胞の大部分はCD44及びCD24であり、培養培地では上皮細胞のような形態を示した。
【0098】
≪実施例8≫
【0099】
<正常なヒト乳房前駆細胞はEMTマーカーを示す。>
【0100】
実施例6と同じ2つの細胞集団を、EMTマーカーであるE−カドヘリン、N−カドヘリン、SIP1、及びFOXC2の発現に関して分析した。図6Bに示されているように、CD44及びCD24細胞のN−カドヘリン、FOXC2、及びSIP1の発現レベルは高く、E−カドヘリンの発現レベルは低かった。これは、EMTの表現型を示すものである。対照的に、CD44及びCD24細胞のE−カドヘリンの発現レベルは高く、N−カドヘリン及びFOXC2の発現レベルは低かった。これは上皮細胞の表現型を示すものである。
【0101】
≪実施例9≫
【0102】
<ヒト乳房上皮細胞株から単離されたCD44及びCD24細胞はEMTマーカーを発現する。>
【0103】
CD44及びCD24の発現レベルに基づいてヒト乳房上皮細胞株からの細胞を分類し、様々なEMTマーカー、前駆細胞マーカー、及び他の転写因子の発現レベルをRT−PCRで評価した。M細胞におけるこれらのマーカーのmRNAレベルを、E細胞のものに対して相対的に表した。図7に示されているように、CD44及びCD24を示す細胞集団(M)は、上皮間葉移行のマーカーであるE−カドヘリン低/陰性及びN−カドヘリン、並びに前駆細胞のマーカーであるFOXC2陽性を示す。また、CD44及びCD24細胞では、EMTを誘導する転写因子(SIP1、Snail、Slug、及びTwist)のレベルが増加した。対照的に、CD44及びCD24細胞(E)は、前駆細胞のマーカー発現パターンと一致する発現パターン、上皮間葉細胞移行のマーカーの発現、又はEMTを誘導する転写因子の発現を示さない。
【0104】
≪実施例10≫
【0105】
<FOXC2は前駆細胞のマーカーである。>
【0106】
乳房組織にFOXC2に関して免疫組織化学的染色を施すと、FOXC2を発現するわずかな細胞集団が確認できる(図8の矢印)。説明したように、EMTを起こし、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、又はフィブロネクチン陽性、又はそれらの任意の組み合わせなどのEMTマーカーを示す細胞は、前駆細胞のマーカーであるCD44及びCD24、CD10陽性、並びにFOXC2陽性をも示す。したがって、FOXC2陽性は、前駆細胞の表現型の有用なマーカーである。
【0107】
≪実施例11≫
【0108】
<EMT誘導による細胞ベースの治療>
【0109】
慢性の心不全を有する患者からヒト乳房上皮細胞を採取し、培養する。この上皮細胞に誘導性Snailタンパク質をコードする遺伝子(タモキシフェン又はその類似体に反応するが、エストロゲンに反応しない改変されたエストロゲン受容体を含む)を導入することによって、EMTを一時的に誘導し、前駆細胞の表現型を示す細胞集団を発生させることができる。タモキシフェンの存在下で細胞を前駆細胞の状態に維持することができる。患者にタモキシフェン療法を施し、前記の前駆細胞を投与する。前駆細胞投与の4週間後、タモキシフェン療法を中止すると、前駆細胞は、心臓組織で増殖し、心筋に分化し、それにより、心臓機能の悪化が防止される。
【0110】
本発明の特定の特徴について説明したが、当業者は、様々な改変、代替、及び変更を行い得る。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の精神に含まれるこのような改変及び変更を包含するものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】マウスの乳房上皮細胞をTGF−β1に12日間晒すことによって上皮間葉移行を誘導すると、前駆細胞の特徴であるCD44及びCD24のマーカー・パターンを示す細胞集団が発生することを示す図である。
【図2】ヒト乳房上皮細胞株由来のCD44及びCD24を示す細胞が間葉細胞の形態で生育し、インビトロでマンモスフィアを発生させるが、同じ細胞株由来のCD44及びCD24を示す細胞は培養培地で上皮細胞のような特徴を示し、マンモスフィアを形成しないことを示す図である。
【図3】ヒト乳房上皮細胞株由来のCD44及びCD24(前駆)細胞が培養の際に時間と共に上皮細胞(CD44及びCD24)を発生させるのに対し、D44及びCD24細胞が上皮のような状態(CD44及びCD24)を維持し、CD44及びCD24細胞を発生させないことを示す図である。
【図4】転写因子遺伝子Snail又はTwistを構成的制御下に含むベクター(それぞれ、HMLE−Snail又はHMLE−Twist)をヒト上皮細胞に導入すると、上皮間葉移行が誘導され、前駆細胞マーカーの発現パターンであるCD44及びCD24(図4A)、前駆細胞の典型的な生育特性(図4B)、並びに前駆細胞のマーカーであるCD10陽性を示す(図4C)細胞集団が発生することを示す図である。
【図5】誘導性転写因子Snail(Snail−ER)の導入すること、及び誘導因子であるタモキシフェンに晒すことによって、前駆細胞及び上皮間葉移行の典型的なマーカー発現パターンを示すmRNA生成が時間と共に確認されることを示す図である。
【図6】乳房縮小手術で得られた組織から単離されたヒト乳房上皮細胞が、上皮間葉移行が起きた細胞に典型的な生育特性(図6A)、並びに前駆細胞及び上皮間葉移行に典型的な細胞マーカー発現パターン(図6B)を示す細胞部分集団を含むことを示す図である。
【図7】ヒト乳房上皮細胞株から単離されたCD44及びCD24細胞(M)が上皮間葉移行のマーカー、並びに前駆細胞のマーカーを示すのに対して、CD44及びCD24細胞(E)はそのようなマーカーを示さないことを示す図である。M細胞のmRNAの値は、E細胞の値に対して相対的に示されている。
【図8】乳房細胞における、前駆細胞マーカーであるFOXC2の発現を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮細胞から前駆細胞を発生させる方法であって、
(a)上皮細胞の集団を得るステップと、
(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導するステップとを含み、
それによって、前記集団に前駆細胞が発生することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記誘導するステップは、上皮間葉移行を誘導する物質に前記上皮細胞の集団を晒すステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記物質は、TGF−β1、FGF−1、EGF,HGF/SF、BFGF、又はPDGFであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記誘導するステップは、上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を、前記上皮細胞の集団に導入するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記誘導するステップは、
(a)上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする誘導性遺伝子を前記上皮細胞に導入するステップと、
(b)前記上皮細胞を、前記遺伝子の発現の誘導因子に晒すステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記遺伝子は、転写因子をコードすることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、
前記誘導性遺伝子は、エストロゲン受容体の融合体をコードすることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記エストロゲン受容体のモジュレータは、タモキシフェンであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、
前記前駆細胞は、CD44及びCD24を示すこと特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、
前記前駆細胞は、CD10陽性、FOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、またはフィブロネクチン陽性、又はそれらの組み合わせを示すことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、
前記前駆細胞は、多分化能又は単分化能を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項7に記載の方法であって、
前記前駆細胞は、ステップ(b)の後に単離されることを特徴とする方法。
【請求項16】
前駆細胞の分化を誘導する方法であって、
(a)請求項7にしたがって前駆細胞を発生させるステップと、
(b)前記誘導因子を除去するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
インビボにおいて標的部位で前駆細胞の分化を誘導する方法であって、
(a)請求項7にしたがって前駆細胞を発生させるステップと、
(b)インビボで前記前駆細胞を導入し、インビボで前記誘導因子を投与するステップと
(c)前記前駆細胞がインビボにおいて標的細胞で増殖するのに十分な所定の期間を設けるステップと、
(d)前記誘導因子の投与を中止するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前駆細胞であって、
(a)上皮細胞の集団を得るステップと、
(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導するステップとによって作成される前駆細胞。
【請求項19】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
前記誘導するステップは、上皮間葉移行を誘導する物質に前記上皮細胞を晒すステップを含むことを特徴とする前駆細胞。
【請求項20】
請求項19に記載の前駆細胞であって、
前記物質は、TGF−β1、FGF−1、EGF,HGF/SF、BFGF、又はPDGFであることを特徴とする前駆細胞。
【請求項21】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
前記誘導するステップは、上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする遺伝子を、前記上皮細胞の集団に導入するステップを含むことを特徴とする前駆細胞。
【請求項22】
請求項21に記載の前駆細胞であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項23】
請求項22に記載の前駆細胞であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項24】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
前記誘導するステップは、
(a)上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする誘導性遺伝子を前記上皮細胞に導入するステップと、
(b)前記上皮細胞を、誘導因子に晒すステップとを含むことを特徴とする前駆細胞。
【請求項25】
請求項24に記載の前駆細胞であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項26】
請求項25に記載の前駆細胞であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項27】
請求項24に記載の前駆細胞であって、
前記誘導性遺伝子は、エストロゲン受容体の融合体をコードすることを特徴とする前駆細胞。
【請求項28】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
CD44及びCD24を示すこと特徴とする前駆細胞。
【請求項29】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
CD10陽性、FOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、またはフィブロネクチン陽性、又はそれらの任意の組み合わせを示すことを特徴とする前駆細胞。
【請求項30】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
多分化能又は単分化能を有することを特徴とする前駆細胞。
【請求項31】
請求項18に記載の前駆細胞であって、
単離されることを特徴とする前駆細胞。
【請求項32】
改変された上皮細胞であって、
前記細胞が誘導因子に晒される際に上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする誘導性遺伝子を含むことを特徴とする上皮細胞。
【請求項33】
請求項32に記載の上皮細胞であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする上皮細胞。
【請求項34】
請求項33に記載の上皮細胞であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする上皮細胞。
【請求項35】
請求項34に記載の上皮細胞であって、
前記誘導性遺伝子は、エストロゲン受容体を含むことを特徴とする上皮細胞。
【請求項36】
改変された前駆細胞であって、
上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする遺伝子を有するベクターを含むことを特徴とする前駆細胞。
【請求項37】
請求項36に記載の前駆細胞であって、
前記遺伝子は、前記ベクターの構成的プロモータの制御下にあることを特徴とする前駆細胞。
【請求項38】
請求項37に記載の前駆細胞であって、
前記遺伝子は、転写因子をコードすることを特徴とする前駆細胞。
【請求項39】
請求項38に記載の前駆細胞であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項40】
請求項36に記載の前駆細胞であって、
CD44及びCD24を示すこと特徴とする前駆細胞。
【請求項41】
請求項36に記載の前駆細胞であって、
CD10陽性、FOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、またはフィブロネクチン陽性、又はそれらの任意の組み合わせを示すことを特徴とする前駆細胞。
【請求項42】
請求項36に記載の前駆細胞であって、
多分化能又は単分化能を有することを特徴とする前駆細胞。
【請求項43】
請求項36に記載の前駆細胞、及び薬学的にに許容できる希釈剤、担体、又は賦形剤を含む医薬構成物。
【請求項44】
改変された前駆細胞であって、
誘導因子との組み合わせによって上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする誘導性遺伝子を含むことを特徴とする前駆細胞。
【請求項45】
請求項44に記載の前駆細胞であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項46】
請求項45に記載の前駆細胞であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項47】
請求項46に記載の前駆細胞であって、
前記誘導性遺伝子はエストロゲン受容体の融合体をコードし、前記誘導因子はエストロゲン受容体リガンドであることを特徴とする前駆細胞。
【請求項48】
請求項47に記載の前駆細胞であって、
前記エストロゲン受容体のモジュレータは、タモキシフェン又はその類似体であることを特徴とする前駆細胞。
【請求項49】
請求項44に記載の前駆細胞であって、
CD44及びCD24を示すことを特徴とする前駆細胞。
【請求項50】
請求項44に記載の前駆細胞であって、
CD10陽性、FOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、またはフィブロネクチン陽性、又はそれらの任意の組み合わせを示すことを特徴とする前駆細胞。
【請求項51】
請求項44に記載の前駆細胞であって、
多分化能を有することを特徴とする前駆細胞。
【請求項52】
医薬組成物であって、
医薬的に許容される希釈剤、担体、又は賦形剤であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項53】
哺乳類の対象に細胞治療を行う方法であって、
前記対象に請求項36又は請求項44に記載の前駆細胞を移植するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項54】
哺乳類の対象に細胞治療を行う方法であって、
(a)上皮細胞の集団を得るステップと、
(b)前記上皮細胞の集団に上皮間葉移行を誘導することによって、前記集団に前駆細胞を発生させるステップと、
(c)前記対象に前記前駆細胞を移植するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項55】
哺乳類の対象に細胞治療を行う方法であって、
前駆細胞を得るための請求項1にしたがった方法によって作成された前駆細胞を対象に移植するステップと、
前記対象に前記前駆細胞を移植するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項56】
哺乳類の対象における少なくとも1つの標的部位に分化した細胞を提供する方法であって、
前記対象に請求項44に記載の前駆細胞を移植するステップと、
前記対象に誘導因子を投与するステップと、
少なくとも1つの標的部位で前記前駆細胞が増殖するための十分な期間を設けるステップと、
前記誘導因子の投与を中止するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項57】
請求項56に記載の方法であって、
前記前駆細胞は、血液に投与されることを特徴とする方法。
【請求項58】
請求項56に記載の方法であって、
前記前駆細胞は、標的部位に投与されることを特徴とする方法。
【請求項59】
請求項56に記載の方法であって、
前記誘導因子は、標的部位に投与されることを特徴とする方法。
【請求項60】
請求項56に記載の方法であって、
前記細胞治療は、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳梗塞、やけど、心臓病、糖尿病、変形性関節症、及び関節リウマチを治療するためのものであることを特徴とする方法。
【請求項61】
細胞ベースの治療のためにヒトの患者に投与する医薬を作成するための、請求項18、請求項36、又は請求項44に記載の前駆細胞の使用。
【請求項62】
疾患の治療を必要とするヒトに投与する医薬を作成するための前駆細胞の使用であって、
前記前駆細胞は、
(a)前駆細胞の集団を得るステップと、
(b)前記前駆細胞の集団に上皮間葉移行を誘導し、それによって、前記集団において前駆細胞が発生するステップとによって作成されることを特徴とする使用。
【請求項63】
請求項62に記載の使用であって、
前記誘導するステップは、前記上皮細胞の集団を、上皮間葉移行を誘導する物質に晒すステップを含むことを特徴とする使用。
【請求項64】
請求項63に記載の使用であって、
前記物質は、TGF−β1、FGF−1、EGF,HGF/SF、BFGF、又はPDGFであることを特徴とする使用。
【請求項65】
請求項62に記載の使用であって、
前記誘導するステップは、上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を、前記上皮細胞の集団に導入するステップを含むことを特徴とする使用。
【請求項66】
請求項65に記載の使用であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする使用。
【請求項67】
請求項66に記載の使用であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする使用。
【請求項68】
請求項62に記載の使用であって、
前記誘導するステップは、
(a)上皮間葉移行を誘導するタンパク質をコードする誘導性遺伝子を前記上皮細胞に導入するステップと、
(b)前記上皮細胞を、誘導因子に晒すステップとを含むことを特徴とする使用。
【請求項69】
請求項68に記載の使用であって、
前記遺伝子は、転写因子であることを特徴とする使用。
【請求項70】
請求項69に記載の使用であって、
前記転写因子は、Snail、Twist、Slug、SIP1、FOXC1、FOXC2、Goosecoid、E47、又はそれらの機能変異体であることを特徴とする使用。
【請求項71】
請求項68に記載の使用であって、
前記誘導性遺伝子は、エストロゲン受容体を含み、
前記誘導因子は、エストロゲン受容体のモジュレータであることを特徴とする使用。
【請求項72】
請求項71に記載の使用であって、
前記エストロゲン受容体のモジュレータは、タモキシフェンであることを特徴とする使用。
【請求項73】
請求項62に記載の使用であって、
前記前駆細胞は、CD44及びCD24を示すこと特徴とする使用。
【請求項74】
請求項62に記載の使用であって、
前記前駆細胞は、CD10陽性、FOXC2陽性、N−カドヘリン、E−カドヘリン低/陰性、アルファ−カテニン低/陰性、ガンマ−カテニン低/陰性、ビメンチン陽性、またはフィブロネクチン陽性、又はそれらの任意の組み合わせを示すことを特徴とする使用。
【請求項75】
請求項62に記載の使用であって、
前記前駆細胞は、多分化能を有することを特徴とする使用。
【請求項76】
請求項62乃至75の任意の請求項の使用であって、
パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳梗塞、やけど、心臓病、糖尿病、変形性関節症、及び関節リウマチを治療するための使用。
【請求項77】
細胞集団における前駆細胞を同定する方法であって、
前記細胞集団におけるFOXC2の発現を同定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項78】
請求項77に記載の方法であって、
前記同定するステップは、標識リガンドを細胞集団に結合させるステップを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−501515(P2009−501515A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519614(P2008−519614)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/025589
【国際公開番号】WO2007/005611
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(508002575)ホワイトヘッド・インスティチュート (2)
【氏名又は名称原語表記】WHITEHEAD INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】5 Cambridge Center, Room 736, Cambridge, MA 02142 (US)
【Fターム(参考)】