説明

剛性を持った眼のインプラント、移植方法及び移植システム

眼の状態を治療するための装置及び方法が、本願明細書に開示される。流れ経路を形成する内部管腔と、流れ経路と連通する少なくとも1つの流入ポートと、流れ経路と連通する少なくとも1つの排出ポートと、を有する細長い部材を含む眼のインプラントが開示される。細長い部材が眼に移植されたときに前眼房と脈絡膜上腔の間に流体経路を提供するために、少なくとも1つの流入ポートが前眼房と連通するとともに少なくとも1つの排出ポートが脈絡膜上腔と連通するように、細長い部材は眼の中に配置されるように構成される。細長い部材は、細長い部材に剛性を与える壁材を有する。移植後に、細長い部材がテントされた体積を形成する脈絡膜上腔を囲む眼組織を変形するように、剛性が選択されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、緑内障の治療で使用される方法及び装置に関する。特に、この開示は、前眼房(anterior chamber)と、脈絡膜上腔(suprachoroidal space)との間で流体通路を形成するために眼の中で移植可能な装置に関する。当該装置は、インプラントを配置したときに脈絡膜上腔の一部を所望形状に実現させる相対的な剛性(relative stiffness)を有する。本願明細書に記載されたインプラントは、毛様体による眼房液の産生(production)に影響を及ぼすことができる。
【背景技術】
【0002】
緑内障をもたらすメカニズムは完全には知られていない。緑内障が眼において異常な高圧力をもたらすことが知られている。異常な高圧力は視神経の損傷に導く。時間とともに圧力が上昇することは、視神経に損傷をもたらす場合がある。それは失明に導く場合がある。治療戦略は、患者の人生の残りにわたってできるだけ視力を保つために眼圧を下げておくことを重点的に取り組んでいる。
【0003】
過去の治療は、様々なメカニズムによって眼圧を低下させる薬の使用を含んでいる。緑内障の医薬品市場は、おおよそ20億ドルの市場である。大きな市場は、長持ちして併発症の無い有効な外科的代替がないという事実による。不幸にも、薬物療法が反対の副作用をもたらして、眼圧の十分な制御にしばしば失敗する場合があるので、利用可能な外科的治療と同様に薬物療法も多くの改善を必要とする。さらに、患者は、適切な薬物療法摂生法に従うことにしばしばやる気がなくて、コンプライアンスの欠如及び更なる症状進行に帰着する。
【0004】
外科手術に関して、緑内障を治療する1つの方法は、ドレナージ(drainage)装置を眼に移植することである。ドレナージ装置は、前眼房から眼房液を排出して、その結果、眼圧を下げるという働きをする。ドレナージ装置は、侵襲性の外科手術を用いて、例示的に移植される。1つのかかる手術に従って、フラップが強膜(sclera)の中に外科的に形成される。当該フラップは、小さなキャビティを形成するために折り畳まれて、ドレナージ装置がフラップを通じて眼の中に挿入される。インプラントが大きいのでかかる手術がトラウマになるかもしれないし、再手術する必要性に導く感染や瘢痕化のような様々な有害事象に帰着するかもしれない。
【0005】
緑内障を治療するための現在の装置及び手術には、欠点及びまずまずの成功率だけがある。その手術は眼に対して非常に外傷性であり、適切な場所のドレナージ装置を適切に配設するような非常に正確な外科的スキルを必要とする。さらに、強膜弁の下で前眼房から結膜下の気泡まで流体を排出する装置は、感染の傾向があり、閉塞して作動を止めるかもしれない。これは、装置を除去して別のものを配設するために再手術することを必要とするか、あるいは更なる手術に帰着するかもしれない。前述のことを考慮すると、緑内障の治療のための改善された装置及び方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
緑内障のような眼疾患を治療するための改善された装置(device)及び方法の必要性が存在する。特に、低侵襲的処置を用いる運搬システムを用いて緑内障及び他の疾患を治療するための単純化された薄型(low profile)の装置の必要性が存在する。
【0007】
本願明細書に記載された実施態様において、流れ経路を形成する内部管腔と、当該流れ経路と連通する少なくとも1つの流入ポートと、流れ経路と連通する少なくとも1つの排出ポートと、を有する細長い部材を含む眼のインプラントがある。細長い部材が眼の中に移植されるときに前眼房と脈絡膜上腔との間に流体経路を提供するために、少なくとも1つの流入ポートが前眼房と連通して、少なくとも1つの排出ポートが脈絡膜上腔と連通するように、眼の中に配置されるように細長い部材が構成されている。細長い部材は、細長い部材に剛性(stiffness)を与える壁材を有する。移植の後に、細長い部材がテントされた(tented)体積を形成する脈絡膜上腔を囲む眼組織を変形させるような剛性が選択される。
【0008】
細長い部材の剛性は、脈絡膜上腔を囲む眼組織の剛性よりも大きくすることができる。細長い部材は、脈絡膜上腔の湾曲(curvature)に対して弦(chord)を形成することができる。脈絡膜上腔を囲む眼組織は、第1の境界及び第1の湾曲を有する外部組織シェル、及び、第2の境界及び第2の湾曲を有する内部組織シェルを含むことができる。第1の湾曲及び第2の湾曲はある比率(ratio)を形成する。細長い部材の剛性は、第1の湾曲と第2の湾曲との間の比率を変更することができる。細長い部材が交わるが、細長い部材が移植されたときに第1の湾曲又は第2の湾曲と一致しないように細長い部材は湾曲することができる。
【0009】
壁材は、平方インチ当たり30,000ポンド(約206880kPa)未満であるヤング率を有することができる。壁材は、約30,000ポンド/平方インチ(約206880kPa)と70,000ポンド/平方インチ(約482720kPa)との間にあるヤング率を有することができる。壁材は、およそ200,000ポンド/平方インチ(約1379200kPa)であるヤング率を有することができる。壁材は、平方インチ当たり40,000,000ポンド(約275840000kPa)以下であるヤング率を有することができる。細長い部材は、約0.012インチ(約0.3048mm)の内径と約0.015インチ(約0.381mm)の外径を有することができる。細長い部材は、約0.250インチ(約6.35mm)乃至約0.300インチ(約7.62mm)の長さを有することができる。
【0010】
眼の中に眼科装置を移植する方法も開示される。実施態様において、当該方法は、眼の角膜に切開を形成することと、流体通路とインプラントに剛性を与える壁材とを有するインプラントを運搬装置にロードすることと、運搬装置にロードされたインプラントを切開を介して前眼房に挿入することと、前眼房から脈絡膜上腔の中に経路に沿ってインプラントを通過させることと、脈絡膜上腔と前眼房との間で流体通路を提供するために流体通路の第1の部分が前眼房と連通するとともに流体通路の第2の部分が脈絡膜上腔と連通するように脈絡膜上腔の中にインプラントの少なくとも一部を配置することと、インプラントが脈絡膜上腔内で所定形状を実現して、脈絡膜上腔の湾曲に対して弦を形成するように、運搬装置からインプラントを放出することと、を含む。弦(chord)は真っ直ぐであってもよいし、湾曲していてもよい。インプラントの剛性は、隣接した眼組織の剛性よりも大きくすることができる。
【0011】
別の実施態様において、目を治療する方法は、眼の角膜に切開を形成することと、切開を介して流体通路を含むインプラントを前眼房に挿入することと、前眼房から脈絡膜上腔の中に経路に沿ってインプラントを通過させることと、脈絡膜上腔と前眼房との間に流体通路を提供するために流体通路の第1の部分が前眼房と連通して流体通路の第2の部分が脈絡膜上腔と連通するようにインプラントを配置することと、毛様体から房水排出を低減するためにインプラントで毛様体に力を印加することと、を含む。
【0012】
インプラントで毛様体に力を印加することは、毛様体によるプロスタグランジン産生の増大を引き起こすことができる。インプラントで毛様体に力を加えることは、毛様体の少なくとも一部を置き換えることを含むことができる。インプラントで毛様体に力を印加することは、必ずしも毛様体を置き換えない。
【0013】
他の特徴及び利点は、発明の原理を例として示す様々な実施態様の以下の説明から明白になるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】前眼房及び後眼房を示す眼の一部の横断面の斜視図である。
【図2】人間の眼の断面図である。
【図3】インプラントの実施態様を示す。
【図4】インプラント及び脈絡膜上腔の相対的な形状を示す。
【図5A】眼にインプラントを運搬するために用いることができる例示的な運搬システムを示す。
【図5B】眼にインプラントを運搬する(deliver)ために用いることができる運搬システムの別の実施態様を示す。
【図5C】動作中での図5Bの運搬システムを示す。
【図5D】動作中での図5Bの運搬システムを示す。
【図6A】インプラントを運搬するための例示的な手段を示す。
【図6B】インプラントを運搬するための例示的な手段を示す。
【図6C】インプラントを運搬するための例示的な手段を示す。
【図6D】インプラントを運搬するための例示的な手段を示す。
【図6E】運搬(delivery)システムの実施態様の断面図である。
【図6F】線F−Fに沿って切り取られた図6Aの運搬システムの断面図である。
【図6G】目及び観察レンズの断面図を示す。
【図7】眼の中に貫通するために配置された、光ファイバー視覚化及び運搬システムの模式図を示す。
【図8】眼の前部領域の一部の拡大断面図を示す。
【図9】脈絡膜上腔内に配置されたインプラントを示す。
【図10A】眼房液産生を低減する他のインプラントを示す。
【図10B】眼房液産生を低減する他のインプラントを示す。
【図10C】眼房液産生を低減する他のインプラントを示す。
【図10D】眼房液産生を低減する他のインプラントを示す。
【0015】
本図面は単なる例示であり、実物大ではないことを意味することが認識されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
眼疾患を治療するための改良された方法及び装置(device)の必要が存在する。緑内障及び他の眼疾患の治療のために眼の中で使用される、薄型で(low profile)単純化された装置が、本願明細書に開示される。インプラントが前眼房から脈絡膜上腔への房水の流れ又は排出(drainage)のための流体経路を提供するように、当該装置は眼の中に配設される。本願明細書に記載された装置(device)は、合併症を最小にして無くして(with minimal to no complications)眼の正常な流出(outflow)システムによって房水流を増進するように構成されている。
【0017】
組織マージンの間又は組織層境界の間(例えば、虹彩基部と強膜棘(scleral spur)との間又は毛様体の虹彩基部と強膜棘との間)で優しく単刀直入に(bluntly)解剖する(dissect)ことができるインプラントを、毛様体上スペース(supraciliary space)に運搬し、そしてさらに、強膜と脈絡膜との間で切開して眼の中の脈絡膜上腔にインプラントを運搬する、薄型で単純化された運搬装置の必要性が存在する。
【0018】
本願明細書に記載された装置は、最小侵襲法を用いる運搬システムを用いて、眼に移植することができ、特定の組織に貫入し且つ組織境界を分離するものの他の組織に貫入しないようにすることができる。本願明細書に記載された手術及び装置のいずれもが、レーザー虹彩切開術、レーザー隅角形成術(laser iridoplasty)及び隅角癒着解離術(goniosynechialysis)(毛様体解離手術)のような他の治療手技と共に行なうことができる。
【0019】
眼房液産生の低減をもたらす緑内障のような眼疾患を治療するための装置、システム及び方法も、本願明細書に記載されている。眼房液は、毛様体細胞によって一般に産生される。これらの細胞による毛様体眼房液産生が低減されるように眼の中にある構造体に径方向(radial)の力のような力を印加する(impose)ことができる装置を移植することは、眼圧の低下に帰着する。
【0020】
図1は、前眼房及び後眼房を示す眼の一部分の横断面斜視図である。近位端110が前眼房115に位置するとともに、遠位端120が毛様体と強膜の間にある眼のある領域に延在するように、インプラント105が眼の内部に模式的に配置される。あるいは、遠位端120は、脈絡膜と強膜との間のような、毛様体の後方にある眼のある領域まで延在することができる。脈絡膜上腔(ときどき脈絡外隙と呼ばれる)は、強膜と脈絡膜との間にある領域を含むことができる。脈絡膜上腔も、強膜と毛様体との間にある領域を含むことができる。この点では、強膜と毛様体との間にある脈絡膜上腔の領域は、ときどき毛様体上スペース(supraciliary space)と呼ばれてもよい。本願明細書に記載されたインプラントは、脈絡膜と強膜との間に必ずしも位置しない。インプラント105は、毛様体と強膜との間に少なくとも部分的に位置することができる。あるいは、インプラント105は、強膜と脈絡膜との間に少なくとも部分的に位置することができる。いずれにしても、インプラント105は、前眼房と脈絡膜上腔との間でインプラントを介してあるいはインプラントに沿って眼房液を流すための流体経路を提供することができる。
【0021】
実施態様において、インプラント105は、眼房液が前眼房115から脈絡膜上腔の中に流れることができる1つ以上の内部管腔(internal lumen)を有する細長い要素であってもよい。下記に説明するように、インプラント105の形状は(インプラントの挿入の前後で)その長さに沿って変化することができるが、インプラント105はその全長に沿って実質的に均一な直径を有することができる。さらに、インプラント105は、円形状、楕円形状又は矩形形状のような様々な横断面形状を有することができ、その長さに沿って(moving along)横断面形状が変化することができる。横断面の形状は、眼の中への挿入を容易にするために選択することができる。次の出願(米国特許公報2007-0191863号及び2009-0182421号)は、例示的なインプラントについて記述しており、参照によってそれらの全体が本願に組み入れられる。
【0022】
以下に詳細に説明するように、インプラントの少なくとも一部分は、脈絡膜上腔の自然状態の湾曲(curvature)に対して真っ直ぐな、湾曲した、あるいは曲線(curvlinear)のような弦(chord)をインプラント105に形成させる剛性(stiffness)を持った構造体から構成することができる。すなわち、インプラントは、インプラントが存在しなかった場合、脈絡膜上腔の自然な湾曲に従う(conform)曲線に沿って少なくとも2つのポイントと交差するラインを規定することができる。インプラント105が眼組織を変形するとともに、インプラント105が眼の中に移植されたときに脈絡膜上腔の湾曲(curvature)に対する弦をインプラント105が形成するように、隣接した眼組織(例えば、脈絡膜と強膜、あるいは毛様体と強膜)の剛性よりも大きな剛性をインプラント105が有することができる。インプラント105の存在によって、脈絡膜上腔内でテントされた(tented)体積を産生する幾何学的形状(geometry)を脈絡膜上腔が実現することができる。
【0023】
眼組織及び緑内障
図2は、人間の眼の一部分についての断面図である。一般に、眼は球形状であり、外側では強膜Sによって覆われる。網膜は、眼の内側の後の半分に存在する。網膜は、光を感じて、視神経によって脳にシグナルを送る。眼の大部分は、硝子体、透明なゼリー状物質によって満たされ且つ支持される。弾性を有するレンズLは、眼の前面近くに位置する。レンズLは、焦点の調整を提供するとともに、毛様体CBから水晶体嚢(capsular bag)内で吊されている。毛様体CBは、レンズの焦点距離を変える筋肉を含む。レンズLの前の体積は、虹彩Iによって2つに分割される。虹彩は、レンズの開口と、網膜を打つ(strike)光の量と、を制御する。瞳は、光が通過する虹彩Iの中心にある穴である。虹彩IとレンズLとの間にある体積(volume)は、後眼房PCである。虹彩Iと角膜との間にある体積は、前眼房ACである。後眼房PC及び前眼房ACは、眼房液として知られている清澄液で満たされる。
【0024】
毛様体CBは、血管からの分泌によって後眼房PCにおいて眼房液を連続的に形成する。眼房液はレンズL及び虹彩Iのまわりを流れて前眼房へ入り、小柱網(trabecular meshwork)TMを介して目から抜け出る。小柱網(trabecular meshwork)TMは、虹彩I及び眼の壁部の角部に配置される篩いのような構造体である。当該角部は、虹彩角膜隅角(angle)として知られている。眼房液の幾つかは、虹彩基部の近くにある小柱網を介してフィルターしてシュレム管に入る。シュレム管は、眼の静脈へ排出する小さな経路(channel)である。小さな部分は、毛様体を通過しついに強膜を通過した後(ブドウ膜強膜(uveoscleral)の経路)、静脈循環に再び加わる。
【0025】
緑内障は、眼房液が眼の内部で増大する疾患である。健全な目では、毛様体突起は眼房液を分泌する。そして、眼房液は、角膜と虹彩との間の隅角(angle)を通過する。緑内障は、小柱網の中での詰まりの結果であるようである。詰まることは、細胞あるいは他の残屑の剥離作用によってもたらされる。眼房液が詰まった網状組織から適切に排出しない場合、眼房液は増大して、眼における圧力上昇をもたらし、特に視神経に導く血管における圧力上昇をもたらす。血管での高い圧力は、網膜神経節細胞の死に帰着して、最終的に失明することに帰着する。
【0026】
急性の閉塞隅角緑内障(Closed angle (acute) glaucoma)が、虹彩と角膜との間の狭い隅角(前眼房隅角(anterior chamber angle))を生まれつきもっている人々に発生する場合がある。これは、遠視の人々(彼らは接近しているものより遠方にあるものをより良く見る)においてより一般的である。虹彩は前方にスリップして(slip forward)、眼房液の出口を急に遮断することができる。そして、眼内での圧力の急上昇が、次に起きる。
【0027】
慢性の開放隅角緑内障(Open angle (chronic) glaucoma)は、最も一般的なタイプの緑内障である。急性緑内障では虹彩が排水隅角を阻止するとき、開放隅角緑内障では虹彩が排水隅角を阻止しない。その代りに、眼の壁の内部にある流体出口経路(channel)が、時間とともに徐々に狭くなる。通常、その病気は両眼に影響を及ぼして、多年にわたって、一貫して上昇した圧力が、ゆっくりと視神経に損傷を与える。
【0028】
インプラント
図3は、インプラント105の第1の実施態様を示す。インプラント105は、近位端と、遠位端と、前眼房から脈絡膜上腔にインプラントの内外にわたって(through or around)インプラントの長さに沿った流体(例えば眼房液)が流れることのできる構造と、を有する細長い部材である。上述したように、インプラント105の近位端が前眼房の中に位置して、インプラントの遠位端が毛様体と強膜との間に存在する眼のある領域まで延在することができる。インプラントの遠位端は、脈絡膜と強膜との間のような、毛様体の後方にある眼のある領域まで延在することができる。脈絡膜上腔は、強膜と毛様体との間にある領域に加えて、強膜と脈絡膜との間にある領域を含むことができる。インプラント105は、前眼房と脈絡膜上腔との間で眼房液が連通するための流体経路を備えることができる。
【0029】
図3の実施態様において、インプラント105は、前眼房からの眼房液のような流体が進入するための少なくとも1つの開口115と、脈絡膜上腔に流体が退出するための少なくとも1つの開口120とを有する少なくとも1つの内部管腔110を含むことができる。インプラント105は、内部管腔110と連通する開口125の様々な配置を含むことができる。インプラント105の開口125は、インプラント105が眼の中に配置されるときに、開口125へ望まない組織成長(tissue in-growth)を防止するために、スポンジ材料のような材料あるいは材料の混合物で満たすことができる。スポンジ材料は、移植時に時間とともに眼の中に浸出する薬あるいは他の材料で満たすこともできる。インプラント105の運搬(delivery)の間に、開口125は眼の所定の解剖学的構造と一致する(align with)ように配置することができる。例えば、脈絡膜上腔の中に眼房液が流れることを可能にするために、1つ以上の開口125が脈絡膜上腔と整列する(align with)ことができるが、開口125の別のセットは、毛様体又は前眼房における構造のような、脈絡膜上腔の近位にある構造と整列する(align with)ことができる。
【0030】
内部管腔110は、インプラント105を介して直接に前眼房から脈絡膜上腔へ眼房液を流すための通路として働くことができる。さらに、以下に説明するように、内部管腔110は運搬システムにインプラント105を取り付けるために用いることができる。内部管腔110は、一般に、洗浄(flushing)のために目へ洗浄(irrigation)流体を流すための、あるいは前眼房での圧力を維持するための経路として用いることができる。図3の実施態様において、インプラント105の形状は(インプラントの挿入の前後で)その長さに沿って変化することができるが、インプラント105はその全長に沿って実質的に均一の直径を有することができる。さらに、インプラント105は(円形、楕円形又は矩形形状のような)様々な横断面の形状を有することができて、その長さに沿って移動する横断面の形状において変化することができる。横断面の形状は、目への挿入を容易にするために選択される。
【0031】
図3は、管状又は部分的な管状の構造を有するインプラント105の実施態様を示す。インプラント105は、近位領域305及び遠位領域315を有する。実施態様において、近位領域305は、カラー325を持った略管状形状である。カラー325は、カラー325がオプションであることを示すために仮想線(phantom line)で示される。カラー325は、インプラント105の残りと同じ材料で、あるいは異なった材料で作られる。カラー325は、インプラント105の内部管腔と連通する比較的広い開口をカラー325が提供するように、漏斗形状を含む様々な形状とすることができる。
【0032】
図4に模式的に図示されるように、インプラント105が眼に移植されたとき、インプラント105は、脈絡膜上腔の内部にあるいはその近くに切開面(dissection plane)を形成することができる。当該切開面は、切開面が生成されるように、真っ直ぐあるいは湾曲とすることができる。少なくとも脈絡膜上腔の一部分は、2つの湾曲したシェル(強膜の組織を含む第1の外側シェル、及び、脈絡膜の組織を含む第2の内側シェル)の間にあるスペースとして記載される。あるいは、第1の外側シェルが強膜の組織を含むことができ、第2の内側シェルが毛様体組織を含むことができる。脈絡膜上腔は、強膜が脈絡膜(あるいは毛様体)から分離されるときに存在する仮想空間であるので、強膜の内側表面が脈絡膜(あるいは毛様体)の外側表面に隣接しているという点でシェルは互いに隣接することができる。強膜は、脈絡膜又は毛様体よりもタフな組織を有する。脈絡膜上腔中でのあるいはその近くでのその存在が、タフな外側シェル及び/又は脆弱な内側シェルを押すことにより、1方のあるいは両方のシェルの湾曲の比率を増加あるいは減少させることができるような剛性をインプラント105は有することができる。切開面が湾曲しているならば、切開面は、解剖を行なうか、切開面に配置されたインプラントの形状及び/又は剛性によって支配される、解剖用ワイヤ(dissecting wire)を追う(follow)湾曲を有することができる。インプラントが眼に移植されるとき、当該湾曲が脈絡膜上腔の湾曲と異なっていてもよい。このように、インプラントが脈絡膜上腔の中に存在しなかったならば、インプラントは脈絡膜上腔の自然な湾曲に対して真っ直ぐの又は湾曲した弦を形成することができる。
【0033】
図4は、インプラントが存在しないときに脈絡膜上腔の自然な湾曲を表わす曲線S(実線で)を示す。点線で表わされたインプラント105は、自然な湾曲Sと交差するが、移植されたときに自然な湾曲に合致(conform)しない、真っ直ぐのインプラント(図4に示されたような)あるいは湾曲したインプラントであってもよい。インプラント105が移植されたときに、インプラント105は、自然な湾曲と異なった形状となる(take on)ために、脈絡膜上腔に隣接した組織の少なくとも一部分を変形することができるような相対的な(relative)剛性をインプラント105は有することができる。このように、インプラント105は、当然には(naturally)存在しない脈絡膜上腔の組織境界(強膜及び脈絡膜によって形成される)間でテント(tent)あるいは体積を形成することができる。
【0034】
インプラント105は、インプラント105が眼に移植されたときに脈絡膜上腔の自然な湾曲を妨げる及び又は抵抗する構造特性を有することができる。この点では、インプラント105が眼に移植されたときに強膜と脈絡膜との間にある境界の湾曲を妨げるとともに局所的に変更させる、有効な(effective)、又は外因性の(extrinsic)ヤング率(脈絡膜上腔の組織境界のヤング率に対して)をインプラント105は有することができる。インプラントの有効なヤング率は、インプラントの内因性の弾性率(intrinsic modulus)(すなわちこの場合ではヤング率)、形状及び厚みに依存することができる。上述したように、インプラント105が移植されたとき、インプラント105は、強膜と脈絡膜との間にある脈絡膜上腔の領域の中に必ずしも延在しない。インプラントは、毛様体と強膜との間に(毛様体上スペースの内に)位置することができるが、それでもなお、脈絡膜上腔と連通することができる。インプラント105は、必要な剛性を持った材料で作ることができる。あるいは、インプラントは、必要な剛性及び強膜−脈絡膜上の境界の正常な湾曲の変形を実現する、厚みや長さのような構造特性を有することができる。
【0035】
実施態様において、インプラントの一部分は、平方インチ当たり3,000ポンド(pounds per square inch:PSI)(約20688kPa)未満のヤング率を持った材料で作ることができる。別の実施態様において、ヤング率は30,000psi(約206880kPa)以上である。別の実施態様において、ヤング率が30,000psi(約206880kPa)と70,000psi(約482720kPa)の間である。別の実施態様において、ヤング率は70,000psi(約482720kPa)から200,000psi(約1379200kPa)である。別の実施態様において、ヤング率は100,000psi(約689600kPa)から200,000psi(約1379200kPa)である。別の実施態様において、ヤング率はおよそ200,000psi(約1379200kPa)である。別の実施態様において、ヤング率は40,000,000psi(約275840000kPa)以下である。当然のことながら、前述の値が例示的であって非制限的である。上述したように、インプラントの有効な弾性率(modulus)は、インプラントの固有の弾性率(すなわちこの場合ではヤング率)、形状及び厚みに依存する。従って、インプラントの弾性率(modulus)が30,000psi(約206880kPa)未満である場合、材料形状及び厚みのようなインプラントの寸法は、1つ以上の周囲組織の曲げ弾性率に打ち勝つためにインプラントの有効な弾性率(modulus)を維持するのに十分であることができる。
【0036】
実施態様において、インプラント105は、インプラント105の構造崩壊又は構造劣化無しでインプラント105の遠位端が眼組織(毛様体のような)をくぐる(tunnel through)ようにインプラント105が脈絡膜上腔へ差し込まれることを可能にするのに十分なコラム強さを有することができる。さらに、内部管腔の表面は、運搬プロセスの間にインプラント105が運搬装置から外れることを可能にするために、運搬装置(以下に詳細に説明される)に対して十分に滑らかにすることができる。実施態様において、コラム強さは、運搬装置のようなさらなる構造からのあらゆる構造の支援無しでインプラントが眼組織をくぐって脈絡膜上腔の中に至ることができるのに十分にすることができる。
【0037】
インプラント105は、例えば、ポリイミド、ニチノール、プラチナ、ステンレス製の、モリブデン、あるいはあらゆる他の適切なポリマー、金属、金属合金、セラミック医用材料、あるいはそれらの組み合わせを含む様々な材料で作ることができる。製造の他の材料、あるいはシャント(shunt)が覆われるか製造される材料は、シリコーン、PTFE、ePTFE、ディファレンシャル(differential)フッ素重合体、FEP、ePTFEのノードに積層されたFEP、銀コーティング(例えばCVDプロセスにより)、金、ポリプロピレン(プロレン(prolene))/ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、アクリル樹脂、ポリエチレン・テレフタル酸塩(PET)、ポリエチレン(PE)、PLLA及びパリレンを完全に含む。インプラント105は、ポリマー、ニチノールあるいはステンレス製の編み(braid)又はコイリング(coiling)で強化することができる、あるいは適切な管腔支持及び内部管腔による排出(drainage)のための望ましい柔軟性(acceptable flexibility)及びフープ強度(hoop strength)を提供する1つ以上の材料で共同押し出された又は積層されたチューブである。その代わりに(alternately)、シャントは、ナイロン(ポリアミド)、PEEK、ポリスルフホン、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルブロック・アミド(Pebax)、ポリウレタン(polyurethanes)、熱可塑性エラストマー(クラトン(Kraton)など)、及び液晶ポリマーから製造することができる。
【0038】
本願明細書に記載されたインプラント105の実施態様のいずれもが、その内側表面又は外側表面を1つ以上の薬剤あるいは他の材料で覆うことができる。そこでは薬剤又は材料は、内部管腔の開存性(patency)を維持するか、あるいは眼の内でのインプラントの保持(retention)を支援するかあるいはインプラントのまわりの漏れを防ぐように組織の内部成長を促進する。薬剤が疾患治療にも用いられる。インプラントは、その内側表面又は外側表面をステロイド、抗生物質、抗炎症薬、抗凝血剤、抗緑内障の薬剤、抗増殖性、あるいは、それらのいずれかの組み合わせのような治療薬で覆うことができる。多くの方法で適用することができる薬剤又は治療薬が、当業者に知られている。また、薬剤は、インプラント上を覆う(吸収されないか生体に吸収される)別のポリマーに埋め込むことができる。
【0039】
インプラントは、一旦シャントが眼に配設されたならば外方へ展伸する材料で覆われるか積層されてもよい。展伸材(expanded material)は、シャントのまわりに位置するあらゆる空隙を満たす。かかる材料は、例えば、ヒドロゲル、泡、凍結乾燥されたコラーゲン、あるいはゲル化する、膨張する(swell)、あるいは別の方法で体液との接触で拡張するあらゆる材料を含む。
【0040】
インプラントは、周囲の組織の中にシャントの治癒を促進するための表面を提供する材料(ポリエステル、ePTFE(GORETEX.RTMとして知られている)、PTFE等)で覆われているか覆うことができる。薄型(low profile)を維持するために、よく知られたスパッタリング技術をシャントの被覆のために使用することができる。必要となれば、かかる薄型のコーティングは、容易な除去を可能にする間にマイグレーション(migration)を防止する考え得る目標(possible goal)を達成するだろう。
【0041】
実施態様において、インプラントは、約0.002インチ(約0.0508mm)から約0.050インチ(約1.27mm)の内径を有し、約0.006インチ(約0.1524mm)から約0.100インチ(約2.54mm)の外径を有し、約0.100インチ(約2.54mm)から約1.50インチ(約38.1mm)の長さを有する。別の実施態様において、インプラントは約0.008インチ(約0.2032mm)から約0.025インチ(約0.635mm)の内径を有する。別の実施態様において、インプラントは約0.010インチ(約0.254mm)から約0.012インチ(約0.3048mm)の内径を有する。別の実施態様において、インプラントは約0.012インチ(約0.3048mm)から約0.075インチ(約1.905mm)の外径を有する。別の実施態様において、インプラントは約0.025インチ(約0.635mm)から約0.050インチ(約1.27mm)の外径を有する。別の実施態様において、インプラントは約0.125インチ(約3.175mm)から約0.75インチ(約19.05mm)の長さを有する。別の実施態様において、インプラントは約0.25インチ(約6.35mm)から約0.50インチ(約12.7mm)の長さを有する。別の実施態様において、インプラントは、約0.012インチ(約0.3048mm)の内径、約0.020インチ(約0.508mm)の外径及び約0.25インチ(約6.35mm)の長さを有する。
【0042】
インプラントは、前眼房内でインプラントの所望の部分を位置決める際にユーザーを支援するためにその長さに沿った視覚的なマーカーを有することができる。さらに、インプラント105及び/又は運搬システムは、ユーザーが運搬装置に関してインプラントのアラインメントを知ることができる位置合わせマーク、タブ、溝(slot)あるいは他の特徴を使用することができる。インプラント105は、眼においてインプラント105を適切に位置決めすることを支援する1つ以上の特徴を含むことができる。例えば、インプラントは、その適用可能なマーカー・システムに合わせられた上述した装置のうちのいずれかを用いて配置を援助するために用いることができる1つ以上の視覚的、断層撮影の、音波を発する、又は、放射線不透過性のマーカーを有することができる。インプラントを適切に設けるためにマーカーを用いることにおいて、インプラントの適切な長さが前眼房の中で保たれるように、例えば、小柱網又は強膜棘(scleral spur)と整列するインプラントの前眼房部分上にマーカーを視覚的に同定する、マーカーが関連する解剖学的構造と連携する(aligned with)まで、インプラントは脈絡膜上腔に挿入される。超音波の下では、音波を発するマーカーは、脈絡膜上腔内で装置の配置を示すことができる。リアルタイムの配置や配置の確認のときに、あるいは患者の追跡(follow up)の間に、ユーザーに感覚フィードバックを提供するためのあらゆるマーカーが、装置のいかなる場所にも設けることができる。他の構造上の特徴を下記に説明する。
【0043】
インプラントの運搬システム
実施態様において、運搬システムは、インプラント105が前眼房と脈絡膜上腔との間で流体連通(fluid communication)を提供するように、眼の中にインプラント105を運搬するために用いられる。図5Aは、眼の中にインプラント105を運搬するために用いることができる運搬システム305の実施態様を示す。図5Bは、眼の中にインプラント105を運搬するために用いることができる運搬システム305の別の実施態様を示す。当然のことながら、これらの運搬システム305が図示のためのものであり、運搬システム305の構造、形状及び動作における変形が可能である。
【0044】
運搬システム305は、一般に、近位のハンドル構成要素310及び遠位の運搬構成要素320を含む。近位のハンドル構成要素310は、運搬構成要素320から眼の中での目標場所にインプラントを放出することを制御するためのアクチュエータ420を含むことができる。図5Bの実施態様のように、近位のハンドル構成要素310は、光ファイバー画像バンドル415のような内部視覚化システムを挿入するためのチャネル425を含むことができる。内部視覚化システムを有するかかる運搬システムは、隅角鏡又は観察レンズと共に用いる必要がない。
【0045】
運搬構成要素320は、インプラント105の内部管腔によって長手方向に差し込むことができる細長いアプライヤー(applier)515と、アプライヤー515上に軸方向に位置することができる鞘510と、を含む。鞘510は、運搬構成要素320から眼における目標場所にインプラント105を放出(release)するのに役立つ。図5C及び5Dで最もよく示されるように、アクチュエータ420は、アプライヤー515及び/又は鞘510を制御するために用いることができる。例えば、鞘510は、アプライヤー515の遠位端からインプラント105を押すためにアプライヤー515に対して遠位の方向に促すことができる。その代わりに、鞘510は、ハンドル構成要素310に対して固定することができる。この実施態様において、鞘510は、アクチュエータ420が動作する際にアプライヤー515がインプラント105から近位へ引っ込められるとき、インプラント105が近位方向に動くことを防止するストッパーとして働くことができる。図5Cに示した第1の状態では、アプライヤー515はシース310に対して遠位方向に延びることができる。近位方向のようなアクチュエータ420の移動は、図5Dに示されるように、アプライヤー515を鞘510の中に近位方向に滑動させることができる。これにより、アプライヤー515の遠位端からインプラント105を効果的に突き落として(push off)、脈絡膜上腔内でのインプラント105の目標位置決めが維持されるように、制御された方法でインプラント105を放出する。運搬装置305は、インプラント105が存在することができる運搬経路(delivery channel)と、移植の間に該運搬経路からインプラントを押し出すことのできるプッシャと、を組込むことができる。
【0046】
内部インプラント保持層
インプラント105がアプライヤー515の上に搭載されるように、アプライヤー515の外径は、インプラント105(つまり、流体経路(fluid channel))の内径よりも一般に小さい。ある場合には、アプライヤー515の外径が著しく小さくてもよく、それによりアプライヤー515とインプラント105との間の隙間Gを作成する(図6Eを参照)。この隙間Gは、運搬構成要素320に対して保持層512あるいは保持コーティングを加えることに余地を残す(図6Fを参照)。眼の中の所望の目標場所に運搬されるまで、インプラント105がアプライヤー515から不注意に落ちることを防止するために、保持層512は、鈍的切開と移植との間にアプライヤー515上でインプラント105を保持することができる。インプラントとアプライヤーとの間での保持層512の利点は、運搬システム305の高さを非常に低くすること(low profile)及び移植の各工程を視覚化するユーザーの改善された能力(ability)である。その一方、インプラントの外周に(externally around)付け加えられた保持層は、運搬装置の外形形状(profile)を著しく増大させて、運搬の工程を視覚化するユーザーの能力に否定的な影響を及ぼす。外部保持層は、運搬装置を挿入するために必要とされる切開のサイズを増加させる。
【0047】
図6A乃至図6Dは、前眼房から脈絡膜上腔の中に挿入された運搬部分320上に取り付けられたインプラント105の模式的横断面である。これらの図は、アプライヤー515と、インプラント105の近位端125の一部を受け入れるか隣接するように寸法構成されるか形づくられた鞘510と、インプラント105とアプライヤー515との間での締まりばめを提供する保持層512と、の端の上に取り付けられたインプラント105を示す。この実施態様では、動作時に、アプライヤー515は鞘510の中に近位方向(矢印Pの方向)に滑動する。インプラント105の近位端125は、インプラント105が近位方向に滑動するのを防止するために鞘510の遠位の端部に隣接している。これは、アプライヤー515の遠位端からインプラント105を効果的に押し出し、インプラント105を脈絡膜上腔SCの中に制御可能に放出する(release)。アプライヤー515及び保持層512が鞘510の中へ完全に引っ込められるように、保持層512はアプライヤー515と一緒に動く。当然のことながら、インプラント105を脈絡膜上腔の中に運搬するために、鞘510は、動作時にアプライヤー515の上を遠位の方に進むことができる。
【0048】
保持層512は、例えば、アプライヤー515上に挿入可能である収縮してフィットする(shrink-to-fit)チューブのようなスリーブを含むことができる。保持層512は、インプラント105の流体経路を通じて挿入することもできる。保持層512は、例えばアプライヤー515の外径あるいはインプラント105の内径上に、材料のコーティングを含むこともできる。保持層512は、例えば虹彩基部又は毛様体を通じて装置を挿入する間に、アプライヤー515とインプラント105との間での隙間Gに組織がぎっしりと詰め込まれることを防止する役目を果たすこともできる。
【0049】
保持層512は様々な材料とすることができる。ある実施態様において、保持層512は、一般に、柔軟でエラストマーで柔軟な(compliant)ポリマーである。例えば、保持層512の材料は、シリコーン、熱可塑性エラストマー(HYTREL、RATON、PEBAX)、特定の(certain)ポリオレフィンあるいはポリオレフィン・ブレンド、エラストマーアロイ(elastomeric alloy)、ポリウレタン(polyurethanes)、熱可塑性のコポリエステル、ポリエーテルブロック・アミド、ナイロン(登録商標)のようなポリアミド、LYCRAのようなブロックコポリマーポリウレタンを含むことができる。他のいくつかの例示的な材料は、FEPやPVDFのようなフッ素重合体、ePTFEのノードの中にラミネートされたFEP、アクリル樹脂、低いガラス転移温度のアクリル樹脂、及びヒドロゲルを含む。当然のことながら、それらのバルク(例えばPTFE、発泡した(expanded)PTFE)に空気又は空隙容量を組み込むことで、硬質のポリマーがより柔軟に作られる。
【0050】
アプライヤーの切開ダイナミックス(DISSECTION DYNAMICS)
上述したように、運搬構成要素320は、細長いアプライヤー515を含むことができる。アプライヤー515の形状、構造、材料及び材料特性は、強膜の内側壁に隣接する組織境界間での穏やかな(gentle)鈍的切開、及び、脈絡膜上腔の生成を最適化するために選択される。アプライヤー515は、インプラント105が装填されたときにアプライヤー515が延在するインプラント105の内部管腔の横断面の形状を補完する横断面サイズ及び形状を有することができる。
【0051】
アプライヤー515の形状、材料、材料特性、直径、柔軟性、コンプライアンス、プレ曲率(pre-curvature)及び先端形状を含む様々なパラメータは、穏やかで先の尖っていない組織切開の間にアプライヤー515の性能に影響を与えることができる。アプライヤー515は、望ましくは特定の(certain)組織に入り込む一方、他の組織への入り込みを回避する。例えば、アプライヤー515が虹彩基部又は毛様体に入り込むことができることは望ましい。アプライヤー515が強膜の内側壁に隣接する組織境界を穏やかに(gently)切開することができるように、同じアプライヤー515は、強膜の強膜棘や内側壁に入り込むことが不可であることが好ましい。
【0052】
その長軸に沿ったアプライヤー515の形状は、図5Bに示されたようにストレートであるか、あるいは、適切な配置を容易にするために、図5Aに示されたようにその長さのすべてあるいは一部に沿って湾曲することができる。湾曲したアプライヤー515の場合には、曲率半径が変化することができる。例えば、アプライヤー515は、3mmから50mmの曲率半径を有することができる。また、曲線は0度から180度までカバーすることができる。1つの実施態様において、アプライヤー515は、強膜の内側壁のような眼のある領域の曲率半径に相当するか補完する曲率半径を有することができる。例えば、曲率半径がおよそ11乃至12mmである。さらに、曲率半径は、アプライヤー515の長さに沿った動きで変化することができる。配置の間にアプライヤー515の部分の曲率半径を変更するための手段があってもよい。
【0053】
アプライヤー515の遠位の先端形状は、アプライヤー515が特定の組織に入り込むかどうかについてある役割を果たすことができる。例えば、強膜壁は、毛様体又は虹彩基部よりもタフな組織であり、入り込むために鋭い先端の(sharp tipped)アプライヤーを一般に必要とする。アプライヤー515の遠位の先端は、虹彩基部又は毛様体に入り込むのに十分に鋭くなっているが、強膜の内側壁に容易に入り込まないようにそれほど鋭くない(あるいは十分に鈍っている)。アプライヤー515の先端形状は変化することができる。本願明細書に記載されたアプライヤー515の遠位の先端は、広い角度の先端を有することができる。先端形状は、半球状の先端、先端の尖っていないコーン(blunt-tipped cone)、角の取れたコーン先端(rounded-off cone tip)のような、アプライヤーの中央の長手軸に対して対称的とすることができる。先端形状は、シャベル又は鋤形状の先端のように非対称とすることもできる。実施態様において、アプライヤー515は、先の尖っていない先端を有することができる。先の尖っていない(blunt)又は傷を付けない(atraumatic)先端形状は、強膜及び毛様体や、強膜及び脈絡膜のような組織間の穏やかな(gentle)切開に役立つ。
【0054】
アプライヤー515の遠位の先端は、切開時での摩擦を少なくするためにコーティングすることができる。実施態様において、アプライヤー515の遠位の先端は、HYDAK(バイオコート、Horsham、PA)あるいは当業者に知られているような他の滑りやすいコーティングのような親水性被膜で覆われる。特定の組織(つまり強膜の内側壁)に入り込む危険性が低減される一方、他の組織(つまり虹彩基部又は毛様体)に入り込む能力が維持されるように、遠位の先端の角度や、切開の入口(dissection entry point)への進入角(angle of approach)や、先端が滑りやすいコーティングによって覆われているか否かでバランスを取ることができる。
【0055】
アプライヤー515の先端形状、コーティング及びプレ曲率に加えて、特定の切開性能は、アプライヤー515のコンプライアンス及び柔軟性に部分的に依存する。アプライヤー515のコンプライアンス及び柔軟性は、一般に、アプライヤーに選択された材料の、材料、材料特性、及び直径の関数である。上述したように、強膜の内側壁のような組織に容易に入り込まないアプライヤー515を有することは望ましい。しかしながら、虹彩基部又は毛様体のような他の組織に入り込むことができるアプライヤー515を有することも望ましい。同様に、先の尖っていない組織の切開の間に内側の強膜壁の曲線に密着する(hug)ことのできるアプライヤー515を有することは望ましい。
【0056】
アプライヤー515の外径は、アプライヤー515として用いられた材料及び材料の柔軟性に基づいて、選択され且つ最適化される。ニチノールで作られたアプライヤーは、例えば、約0.009インチの外径を有する。ニチノールは、非常によく曲げることができるが、強膜と内側の強膜壁に隣接した組織との間の境界に沿った鈍的切開の間に内側の強膜壁の曲線まで届き且つ密着する(hug)ために、虹彩基部及び毛様体を通じて押されるのに十分に堅固である、超弾性金属である。アプライヤー他の特徴(例えば先の尖っていない先端)と組み合わされるとき、約0.009インチの外径を持ったニチノールのアプライヤーは、内側の強膜壁や脈絡膜の1方あるいは両方をトンネル形成か貫通することを避けながら、組織層を穏やかに(gently)切開するために用いられる。ステンレス製のバネワイヤーは、アプライヤー515に用いることのできる別の材料である。ステンレス製のワイヤーは、一般に、ニチノールよりもわずかに剛性を有する。このように、ステンレス製のワイヤーで作られたアプライヤーの外径は、鈍的切開の間に同じ性能を成し遂げるために、ニチノールで作られたアプライヤーに対する外径よりいくぶん小さいことを必要とするかもしれない。実施態様において、アプライヤーは、約0.017インチの外径を有する。当然のことながら、与えられた材料の柔軟性については、異なった程度の柔軟性を持った異なった材料のアプライヤーに対して、アプライヤーの最適の外径が、決定され且つ推定される。アプライヤー515として考慮された他の材料は、高強度のファイバーで強化されたポリマーあるいはポリマー複合体のワイヤーから作られた柔軟でフレキシブルなワイヤーを含む。
【0057】
インプラントの運搬方法
眼の中にインプラントを運搬し且つ移植する方法が説明される。一般に、1つ以上のインプラント105が、本願明細書に記載されるような運搬システムを用いて、滑動可能に脈絡膜上腔に装着されて、脈絡膜上腔やその近くに移植される。運搬システムのアプライヤー上にインプラントを装着することは、上述されるような柔軟で薄型のアプライヤーを依然として維持するもののアプライヤーの先端上でインプラントを可逆的に保持する保持層(あるいはアプライヤーあるいはインプラントの内側壁上での保持コーティング)によって援助することができる。保持層は、例えば、アプライヤー515の近位の引き出しのときに、ユーザーがインプラントの運搬構成要素を作動させるとともにアプライヤー515からの制御された放出を有効にするまで、運搬の間にインプラントがアプライヤーから不注意に落ちることを回避するために用いることができる。インプラント105が眼の中に固定されて、その結果、前眼房と脈絡膜上腔との間の流体連通を提供する。
【0058】
図6Gに示されるように、観察レンズ(viewing lens)を用いて移植することができる。観察レンズ1405(図6Gに模式的に表わされた隅角検査法レンズのようなもの)は、角膜に隣接して配置される。観察レンズ1405は、眼の前の場所から、強膜棘及び強膜の接続のような眼の内部領域の観察を可能にする。観察レンズ1405は、運搬システム305の運搬部分320を受け入れるように寸法構成された1つ以上のガイド・チャネル1410を選択的に含むことができる。当然のことながら、図6Gにおけるガイド・チャネル1410の場所及び方向が、単なる図示のためのものであり、インプラント105が運搬されることになっている角度(angle)及び場所に依存して、実際の場所及び方向を変更することができる。オペレーターは、眼の中にインプラントを運搬する間に観察レンズ1405を用いることができる。観察レンズ1405は、角膜の切開へのアクセス(access to)をカバーしないし妨害しない形で外科医が観察レンズ1405を用いることを可能にする形状又は切欠(cutout)を有することができる。更に、観察レンズ1405は、角膜を通じて差し込まれるときに、装置の経路を予め決めるために運搬システム305が配設されるガイドとして働くことができる。
【0059】
内視鏡は、視覚化を援助するために運搬の間に用いることができる。例えば、21乃至25ゲージ(gauge)の内視鏡は、例えば、インプラントの側に沿って内視鏡を取り付けることによって、あるいは、インプラント内で内視鏡を同軸に取り付けること等によって、運搬中にインプラントに連結される。高解像度バイオ顕微鏡検査、OCT等をその上(as well)用いて超音波誘導が使用される。あるいは、手術の間に組織を撮像する(image)ために、小さな内視鏡が、角膜と結膜の間に生じる(limbal)別の切開を通じて眼の中に差し込まれる。
【0060】
移植の各工程は、内部視覚化システム(例えば、米国特許出願12/492,085号を参照)を用いて視覚化することができる。視覚化が、画像システムの1つ以上の構成要素の再位置決めあるいは除去を必要としないで、及び、隅角鏡レンズによる観察を必要としないで移植あるいは他の手術の間に連続的に発生する(occur)ことができる。
【0061】
図7を参照する。アプライヤー515及びインプラント105の遠位の先端が、前眼房にアクセスするために小さく角膜の切開に入り込むように、運搬部分320が配置される。この点では、単一の切開は、角膜の縁(limbus)の内のような眼の中に作成される。実施態様において、切開が、縁(limbus)のレベルか、あるいはクリアーな角膜における縁(limbus)の2mm以内のように、縁(limbus)に非常に接近している。アプライヤー515は切開を形成するために用いられるか、あるいは、別個の(separate)裁断装置が用いられる。例えば、ナイフが先端に付いた(knife-tipped)装置又はダイヤモンドナイフが、当初に角膜に入るために用いられる。スパチュラ先端を備えた第2の装置は、切開面と一致するようにスパチュラの面が配置されるナイフ先端に関して進められる(advanced over)。
【0062】
角膜の切開は、アプライヤー515上にあるインプラント105が角膜の切開を通り抜けることができるのに十分なサイズを有することができる。実施態様において、切開のサイズは約1mmである。別の実施態様において、切開のサイズは、約2.85mm以下(no greater than)である。別の実施態様において、切開は約2.85mm以下(no greater than)であり、約1.5mmより大きい。2.85mmまでの切開が、セルフシール(self-sealing)の切開であることが観察されている。図面の明瞭さのために、図7は正確な縮尺ではない(not to scale)。
【0063】
切開を通じた挿入後に、インプラント105が前眼房から脈絡膜上腔の中に運搬されることを可能にする経路に沿ってアプライヤー515が前眼房の中に進められる。アプライヤー515がアプローチのために位置決めされた状態で、アプライヤー515及び/又はインプラント105の先の尖っていない遠位の先端が、眼の隅角(the angle of the eye)で組織に、より詳細に下に説明されるように、例えば、虹彩基部、毛様体のある領域、あるいは強膜棘とのその組織境界の近くにある毛様体の虹彩基部部分に入り込むように、アプライヤー515が眼の中にさらに進められる。
【0064】
強膜棘(scleral spur)は、眼の隅角の壁にある解剖学的ランドマーク(anatomic landmark)である。強膜棘は、虹彩のレベルより上にあるが、小柱網(trabecular meshwork)のレベルよりも下にある。いくつかの眼において、強膜棘は、色素性の(pigmented)小柱網のより低いバンドによってマスクされ、その真後ろにある。アプライヤーが脈絡膜上腔への途中で強膜棘の近くを通過するが、必ずしも運搬の間に強膜棘に入り込まないように、アプライヤーは、強膜棘と眼の隅角の方へある経路に沿って移動することができる。むしろ(Rather)、アプライヤー515は、強膜棘に隣接することができ、強膜と毛様体との間にある組織境界を切開するために下に動かすことができ、切開のエントリー・ポイントは、虹彩基部IRの近くの強膜棘又は毛様体の虹彩基部部分の直下(just below)でスタートする。別の実施態様において、インプラントの運搬経路は強膜棘と交差する。
【0065】
アプライヤー515は、虹彩を横切ってアプライヤー515を進める必要がないそのように配備場所として前眼房の同じ側から眼の隅角にアプローチすることができる。その代わりに(Alternately)、アプライヤー515が虹彩及び/又は前眼房を横切って眼の対角(opposite angle)に向けて進められるように、アプライヤー515は、前眼房AC中から眼の隅角にアプローチすることができる。アプライヤー515は、様々な経路に沿って眼の隅角にアプローチすることができる。アプライヤー515は、必ずしも目を横切ることがなく、眼の中心軸線と交差することもない。言いかえれば、角膜の切開、及びインプラントが眼の隅角で移植される場所は、光学軸に沿って眼の方を向いて観察されるとき同じ四半部(quadrant)にある。また、角膜の切開から眼の隅角へのインプラントの経路は、瞳孔の邪魔をしないようにするために眼の中心線を通過するべきでない。
【0066】
図8は、前眼房AC、角膜C、虹彩I及び強膜Sを示す眼の前部の領域の拡大図を示す。アプライヤー515上に取り付けられたインプラント105は、前眼房ACから眼の隅角にアプローチすることができる。上述したように、アプライヤー515の遠位の先端の切開エントリー・ポイントが、虹彩基部IRあるいは強膜棘SSpの近くの毛様体CBの虹彩基部部分に入り込むことができるように、アプライヤー515は経路に沿って移動する。眼の隅角の近くの他の入り込みポイントも本願明細書では考慮される。以下に詳細に説明されるように、外科医はアプライヤー515のため適切なアプローチ軌道(trajectory)を得るために運搬装置のハンドルを回転させるか位置を変えることができる。
【0067】
その上に配置されたインプラント105を備えるアプライヤー515は、虹彩基部IR、毛様体あるいは毛様体の虹彩基部部分のような、眼の隅角の近くの組織を通して進めることができる。アプライヤー515が進められるとき、アプライヤー515は、強膜棘と毛様体との間の線維性付着(fibrous attachment)805の領域に入り込むことができる。線維性付着805のこの領域の長さは、およそ1mmである。一旦アプライヤー515の遠位の先端がこの線維性付着領域805を過ぎることが促されれば、脈絡膜上腔SChSを形成するために強膜Aの内側曲線に従うように、アプライヤー515の遠位の先端によって強膜Sを毛様体又は脈絡膜からより容易に引きはがれさせるかあるいは分離される。上述したように、アプライヤーの先端形状、材料、材料特性、直径、柔軟性、コンプライアンス、コーティング、プレ曲率(pre-curvature)などの組合せは、強膜の内側壁の湾曲を映し(mirror)、強膜S及び脈絡膜あるいは強膜及び毛様体のような組織層の間にある、移植経路に従う傾向がある(inclined)。
【0068】
アプライヤー515は、例えばおよそ6mmで連続的に眼の中に進むことができる。アプライヤー515上に取り付けられたインプラント105が、例えば毛様体CBの虹彩基部IRあるいは虹彩基部部分に入り込んだ後に、インプラント105の遠位領域は、毛様体上スペースSCiSを介して延在して、そしてさらに、強膜と脈絡膜上腔SChSを形成する脈絡膜との組織境界の間に位置するように、強膜棘SSp及び毛様体CBの組織層の間にある境界を単刀直入に(bluntly)切開することができるように、アプライヤー515の切開面は内側の強膜壁の曲線に従うことができる。
【0069】
一旦適切に配置されると、インプラント105が放出される。インプラント105が鞘510で(例えば図6A乃至図6Dを参照して上述した方法で)運搬部分320の先端から制御された方法で効果的に押されるように、例えばアプライヤー515を引っ込めることによりインプラント105が放出される。好ましくは、保持層512は運搬の工程の間にアプライヤー515上でインプラント105を保持するのを支援するために用いられる。しかしながら、眼の内の目標場所に到着したときにアプライヤーの先端からインプラント105を制御可能に放出する(release)ために鞘510の中にアプライヤー515及び保持層512が引っ込められるように、保持層512とインプラント105の関係は容易に可逆的である。
【0070】
インプラント105は、眼における標的領域においてインプラント105をアンカー固定するか保持するのを支援する1つ以上の構造上の特徴を含むことができる。構造上の特徴は、適所にインプラント105を保持し、かつインプラント105が脈絡膜上腔SChSに更に移動することを防ぐために周囲の眼組織(eye anatomy)へ留まる(lodge into)ことができる、フランジ、突出、ウィング、枝あるいはプロング等を含むことができる。構造上の特徴は、インプラント105と周囲の眼組織との間で線維性付着の領域に領域を提供する。図9は、線維性付着が生じることのできる眼の後方に向かう強膜壁の内側に沿って虹彩基部及び強膜棘SSpの接続部の近くのインプラント105のおよそ1mmの環状のバンド(circumferential band)107を模式的に示す。線維性付着は、インプラント105の保持特徴のまわりで及び/又は間で、例えば内皮細胞の増殖によって生じる(result from)ことができる。さらに、毛様体の虹彩基部部分の領域における強膜棘と毛様体との間にある線維組織付着の領域の中及びそのまわりの少量のスキャリング(scaring)は、その目標場所にインプラントを下支えするためのさらなる固定を提供することができる。インプラント105の近位部分は、前眼房ACの内に残存することができる。1つの実施態様において、インプラントの少なくとも1mmから2mm(長さに沿った)は、前眼房の中に残存することができる。
【0071】
インプラント105の一部が毛様体CBの上に着座しているように、インプラント105は眼の中に配置される。毛様体CBは、プラットフォームとして働くことができる。毛様体CBから、インプラント105は脈絡膜上腔SChSの中へ片持ち支持する(cantilever)ことができる。インプラント105が移植されたときに、自然な湾曲と異なる形状を呈するために脈絡膜上腔に隣接した組織の少なくとも一部をインプラント105が変形させるように、インプラント105は相対的な剛性を有することができる。このように、脈絡膜上腔SChSがインプラント105の遠位端の周りに形成されるように、インプラント105は強膜Sを外方へ持ち上げる(lift)か「栓で広げる(tent)」ことができる。図9に示されるような強膜Sのテンティング(tenting)は、図示を明瞭にするために誇張されている。当然のことながら、組織の突起した(tented)領域の実際の輪郭が、実際の組織において異なってもよい。インプラント105の遠位端が強膜と毛様体との間に位置しようがあるいは強膜と脈絡膜との間に位置しようが、インプラント105は、強膜又は脈絡膜のような組織を囲むことにより、排出経路を遮断することなく、前眼房ACと脈絡膜上腔SChSとの間の流れ経路として働くことができる。
【0072】
インプラントの一部が毛様体の上にあるいはその毛様体に対して力又は圧力を作用させるように、インプラントは眼の中に配置することができる。インプラントが毛様体の自然な湾曲を妨げる及び/又は抵抗するように、インプラントは毛様体に対して移動(displacing)力を作用させることができる。インプラントは、眼の中に移植されたとき、強膜と毛様体の少なくとも一部との間での境界の湾曲を妨げるとともに、局所的に変えることができる。既に説明したように、毛様体は眼房液を産生する。インプラントによって毛様体に作用した力は、毛様体からの眼房液の産生を減少させることができる。インプラント105の硬質の形態(stiff configuration)は、毛様体を押し下げるか又は毛様体を径方向内向きに押すことができる。
【0073】
実施態様において、インプラント505は、内部管腔と、拡張した及び/又は拡張可能な領域510とを有する細長くて硬質のシャントとすることができる。図10A乃至図10Dを参照すること。インプラント505は、前眼房から脈絡膜上腔へ水をシャントする(shunt)ことができる。水の産生が低減されるように、インプラント505の拡張可能な領域510は、毛様体CBに対して圧力を印加することができる。圧力は、毛様体CBの下向きあるいは径方向内向きとすることができる。実施態様において、毛様体CBに対する圧力により、毛様体CBの少なくとも一部を移動するか、水の産生を低減することができる。別の実施態様において、インプラントは毛様体CBを移動させないが、眼房液の産生を低減するために毛様体に対する圧力を印加するだけである。低減された水の産生及び前眼房からの水シャント(shunting)の組合せは、前眼房内での圧力を下げるために協働する(act in coordination)ことができる。
【0074】
インプラント505は、近位端と、遠位端と、前眼房からインプラントを通じてあるいはインプラントの周囲のようにインプラントの長さに沿って流体(例えば眼房液等)が流れることを可能にする構造と、を有する細長い(elongated)管状部材とすることができる。例えば、インプラント505は、流体が入るための少なくとも1つの開口と、流体が出るための少なくとも1つの開口とを有する少なくとも1つの内部管腔を有することができる。インプラント505は、前眼房ACと流体連通する内部管腔を含む必要がない。インプラント505は、外表面に沿って眼房液を流すことのできる中実のバー(solid bar)とすることができる。インプラント505は、インプラントを通じてあるいはインプラントの周囲で眼房液を流さないことを可能にして、その代りに、眼房液の産生を低減するために毛様体に力を印加するだけとすることができる。
【0075】
インプラント505は、様々な形状及び形態(configuration)とすることができる。インプラント505は、毛様体CBに印加された径方向の圧力を最適化する、形状を有するか又は形状を呈する(take on)ことができる。インプラント505は、膨張可能なバルーン、拡張可能なスペーサー又はかご(cage)、あるいは他の形態を含むことができる。インプラント505は、ヒドロゲル510の1つ以上の拡張可能な領域を有することができる。インプラント505は様々な断面及び形状を有することもできる。例えば、インプラントは、円形、卵形(oval)、長方形又は星形とすることができ、その長さに沿って移動する横断面の形状が異なることができる。実施態様において、前眼房からの水がインプラントの1つ以上の複雑な(convoluted)外表面を通じて流れるように、インプラント505は星又は十字の形状とすることができる。
【0076】
インプラント505によって毛様体CBに印加された圧力は、変化することができる。実施態様において、インプラント505は、毛様体CBに径方向内向き(眼の中央に対して)の力を印加する。別の実施態様において、インプラントは、径方向内向きに向ける(point)成分(component)と、径方向内向きに向けない別の成分(component)とを有する力を加える。
【0077】
本明細書が多くの具体的なことを含むが、これらは、クレームされた発明、あるいはクレームされるかもしれないものの範囲に対する制限として解釈されるべきではなく、特定の実施態様に特有の特徴の説明として解釈されるべきである。別の実施態様に照らして本明細書に記載されているある特徴は、単一の実施態様において組合せで実行することができる。反対に、単一の実施態様に照らして記載されている様々な特徴は、複数の実施態様の中で別々にあるいはいずれかの適当なサブ組合せで実行することができる。さらに、組合せの中で働くような特徴が上述されて当初にクレームされているが、クレームされた組合せからの1つ以上の特徴は、ある場合には組合せから削除することができ、クレームされた組合せはサブ組合せに又はサブ組合せの変形に向けられて(be directed to)もよい。同様に、操作が特定の順で図面に示されているが、これは、望ましい結果を実現するために、示された特定の順あるいは連続した順で当該操作が行なわれるか、図示されたすべての操作が行なわれる、ことを要求すると理解されるべきでない。ほんのいくつかの実施例及び実施が開示される。説明された実施例及び実施、及び他の実施への変形、改造及び増強(enhancement)は、開示物に基づいてなされてもよい。
【0078】
優先権書類への参照
本出願は、米国特許法119条(e)に基づき、同時係属の米国の仮特許出願61/147,988号(2009年1月28日に出願された「剛性を持った眼のインプラント」)、仮特許出願61/222,054号(2009年6月30日に出願された「眼科装置移植方法及びシステム」)、及び仮特許出願61/246,017号(2009年9月25日に出願された「房水産生を低減するための眼のインプラント」の優先権利益を主張する。仮特許出願の開示は、参照によってそれらの全体が本願に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ経路を形成する内部管腔と、前記流れ経路と連通する少なくとも1つの流入ポートと、前記流れ経路と連通する少なくとも1つの排出ポートと、を有する細長い部材であって、当該細長い部材が眼の中に移植されたときに前眼房と脈絡膜上腔との間に流体経路を提供するために、少なくとも1つの流入ポートが前眼房と連通するとともに、少なくとも1つの排出ポートが脈絡膜上腔と連通するように、眼の中に配置されるように構成される細長い部材と、
細長い部材に剛性を与える壁材であって、移植後に、細長い部材がテントされた体積を形成する脈絡膜上腔を囲む眼組織を変形するように、剛性が選択されている壁材と、を備えることを特徴とする、眼のインプラント。
【請求項2】
前記細長い部材の剛性は、前記脈絡膜上腔を囲む眼組織の剛性より高いことを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記細長い部材は、前記脈絡膜上腔の湾曲に対して弦を形成することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項4】
前記脈絡膜上腔を囲む眼組織は、第1の境界及び第1の湾曲を有する外側組織シェルと、第2の境界及び第2の湾曲を有する内側組織シェルとを備えて、前記第1の湾曲及び第2の湾曲はある比率を形成することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項5】
前記細長い部材の剛性は、第1の湾曲と第2の湾曲との間の比率を変えることを特徴とする、請求項4に記載のインプラント。
【請求項6】
前記細長い部材は、移植されたときに交差するものの、第1の湾曲又は第2の湾曲に従うように湾曲することを特徴とする、請求項4に記載のインプラント。
【請求項7】
前記壁材は、30,000ポンド/平方インチ未満のヤング率を有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項8】
前記壁材は、約30,000ポンド/平方インチ乃至約70,000ポンド/平方インチのヤング率を有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項9】
前記壁材は、およそ200,000ポンド/平方インチのヤング率を有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項10】
前記壁材は、40,000,000ポンド/平方インチ以下のヤング率を有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項11】
前記細長い部材は、約0.012インチの内径と約0.015インチの外径とを有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項12】
前記細長い部材は、約0.250インチ乃至約0.300インチの長さを有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項13】
眼の角膜に切開を形成するステップと、
流体通路と、インプラントに剛性を与える壁材と、を有するインプラントを運搬装置に搭載するステップと、
前記切開を通じて運搬装置に搭載されたインプラントを眼の前眼房に挿入するステップと、
前眼房から脈絡膜上腔の中に経路に沿ってインプラントを通すステップと、
脈絡膜上腔と前眼房との間に流体通路を提供するために、流体通路の第1の部分が前眼房と連通するとともに流体通路の第2の部分が脈絡膜上腔と連通するように、脈絡膜上腔に少なくともインプラントの一部を配置するステップと、
前記インプラントが脈絡膜上腔の内で所定形状を実現して、脈絡膜上腔の湾曲に対して弦を形成するように、前記運搬装置からインプラントを放出するステップと、を含むことを特徴とする、眼の中に眼科装置を移植する方法。
【請求項14】
前記弦は真っ直ぐであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記弦は湾曲していることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記インプラントの剛性は隣接する眼組織の剛性より高いことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
眼の角膜に切開を形成するステップと、
流体通路を含むインプラントを、切開を通じて眼の前眼房の中に挿入するステップと、
前眼房から脈絡膜上腔の中に経路に沿って前記インプラントを通すステップと、
脈絡膜上腔と前眼房との間に流体通路を提供するために、流体通路の第1の部分が前眼房と連通するとともに流体通路の第2の部分が脈絡膜上腔と連通するように、前記インプラントを配置するステップと、
毛様体から房水の流出を低減するために前記インプラントで毛様体に力を印加するステップと、を含むことを特徴とする、目を治療する方法。
【請求項18】
前記インプラントで毛様体に力を印加することは、毛様体によるプロスタグランジン産生の増加を引き起こすことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記インプラントで毛様体に力を印加することは、毛様体の少なくとも一部を移動することを含むことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
インプラントで毛様体に力を印加することは、毛様体を移動しないことを特徴とする、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A−6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【公表番号】特表2012−516211(P2012−516211A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548248(P2011−548248)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/022208
【国際公開番号】WO2010/088258
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(510015589)トランセンド・メディカル・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】TRANSCEND MEDICAL, INC.
【Fターム(参考)】