説明

剥離剤、離型材および粘着テープ

【課題】有機錫化合物を用いずに、基材への密着性に優れ、且つ良好な外観の剥離剤層を形成することができる剥離剤を提供すること。
【解決手段】ポリオレフィン、イソシアネート、ポリオレフィンポリオール、カルボン酸金属塩および有機溶媒を含有する剥離剤であり、カルボン酸金属塩が、非有機錫化合物であり、有機溶媒が、炭化水素系溶媒および非プロトン性極性溶媒の混合溶媒である剥離剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンを含有する剥離剤(以下「ポリオレフィン系剥離剤」と略称することがある)、並びに該剥離剤から形成された剥離剤層を有する離型材および粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
離型材は、紙、プラスチックフィルムおよびプラスチックラミネート紙等の基材の少なくとも片面に剥離剤層を設けたものであって、粘着テープ、粘着シートおよびラベル等の粘着剤面を保護する目的や、セラミックグリーンシート等の製造工程に使用されている。
【0003】
剥離剤としては、シリコーン系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤、ポリオレフィン系剥離剤およびフッ素系剥離剤等が知られている。しかし、電子部品関連等の用途では、シリコーン系剥離剤では問題を生ずるケースがあるため、非シリコーン系剥離剤、例えばポリオレフィン系剥離剤が使用されている。
【0004】
基材に対するポリオレフィン系剥離剤の密着性を向上させるために、ポリオレフィン系剥離剤中で、イソシアネート系架橋剤およびポリオールが使用されることがある(例えば、特許文献1〜3)。さらに、イソシアネート系架橋剤とポリオールとのウレタン化反応を促進するために、ウレタン化触媒も添加される場合がある。ウレタン化触媒としては、これまで、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレートなどの有機錫化合物が多用されてきた。有機錫化合物は、有機溶媒への良好な溶解性を有することに加えて、高い触媒活性を有するため、これを用いれば、外観および基材密着性に優れた剥離剤層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−346213号公報
【特許文献2】特開2004−250681号公報
【特許文献3】特開2004−230773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、環境問題への意識が高まるにつれて、有機錫化合物の使用が制限される傾向にある。そこで、有機錫化合物を含有しない剥離剤が求められている。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、有機錫化合物を用いずに、基材への密着性に優れ、且つ良好な外観の剥離剤層を形成することができる剥離剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ウレタン化触媒として非有機錫化合物であるカルボン酸金属塩を使用し、且つ有機溶媒として炭化水素系溶媒および非プロトン性極性溶媒の混合溶媒を使用すれば、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。本発明は以下の通りである。
【0008】
[1] ポリオレフィン、イソシアネート、ポリオレフィンポリオール、カルボン酸金属塩および有機溶媒を含有する剥離剤であり、
カルボン酸金属塩が、非有機錫化合物であり、
有機溶媒が、炭化水素系溶媒および非プロトン性極性溶媒の混合溶媒である剥離剤。
[2] 炭化水素系溶媒が、芳香族炭化水素系溶媒である上記[1]に記載の剥離剤。
[3] 芳香族炭化水素系溶媒が、トルエンおよびキシレンからなる群から選ばれる少なくとも一つである上記[2]に記載の剥離剤。
[4] 非プロトン性極性溶媒が、ケトン系溶媒である上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の剥離剤。
[5] ケトン系溶媒が、メチルエチルケトン、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも一つである上記[4]に記載の剥離剤。
[6] 炭化水素系溶媒が、キシレン、またはトルエンおよびキシレンであり、非プロトン性極性溶媒が、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも一つである上記[1]に記載の剥離剤。
[7] 炭化水素系溶媒と非プロトン性極性溶媒との質量比が、99:1〜90:10である上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の剥離剤。
[8] カルボン酸金属塩が、カルボン酸ビスマスである上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の剥離剤。
[9] イソシアネートが、1分子中にイソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートである上記[1]〜[8]のいずれか一つに記載の剥離剤。
[10] ポリイソシアネートが、芳香族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一つである上記[9]に記載の剥離剤。
[11] ポリイソシアネートが、芳香族ジイソシアネートの多価アルコール付加体および脂環式ジイソシアネートの多価アルコール付加体からなる群から選ばれる少なくとも一つである上記[10]に記載の剥離剤。
[12] ポリオレフィンポリオールの数平均分子量が、1500〜50000である[1]〜[11]のいずれか一つに記載の剥離剤。
[13] 基材および剥離剤層を有する離型材であり、
上記[1]〜[12]のいずれか一つに記載の剥離剤から形成された剥離剤層を、基材の少なくとも片面に有する離型材。
[14] 粘着剤層および上記[13]に記載の離型材を有する粘着テープであり、
粘着剤層と離型材の剥離剤層とが接触している粘着テープ。
[15] 基材、粘着剤層および剥離剤層を有する粘着テープであり、
上記[1]〜[12]のいずれか一つに記載の剥離剤から形成された剥離剤層を、基材の片面に有し、
剥離剤層が形成されていない基材の他方の面に、粘着剤層を有する粘着テープ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の剥離剤は、有機錫化合物を含有しないにもかかわらず、基材への密着に優れ、且つ良好な外観の剥離剤層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.剥離剤
本発明の剥離剤は、ポリオレフィン、イソシアネート、ポリオレフィンポリオール、カルボン酸金属塩および有機溶媒を含有する。以下、これらの各成分を順に説明する。
【0011】
[ポリオレフィン]
本発明の剥離剤は、1種または2種以上のポリオレフィンを含有する。なお、本発明において「ポリオレフィン」とは、38℃において固体であるポリオレフィンを意味する。ポリオレフィンとしては、他の成分とともに有機溶媒に溶解して基材に塗布できる限り、あらゆるものを使用することができる。
【0012】
有機溶媒への溶解性の観点から、ポリオレフィンの密度は、好ましくは0.885g/cm以下、より好ましくは0.880g/cm以下である。この密度が0.885g/cmを超えると、有機溶媒への溶解性が低下して、基材への塗布が困難になる傾向があり、また剥離力も増大する傾向がある。一方、ポリオレフィンの密度の下限に特に限定は無いが、この密度は、好ましくは0.830g/cm以上、より好ましくは0.857g/cm以上、さらに好ましくは0.858g/cm以上である。
【0013】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレンおよび炭素数が4〜20のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも二つの単量体から形成されるα−オレフィン共重合体が挙げられる。これらの中でも、エチレンを主たる単量体とする共重合体(即ち、エチレン系α−オレフィン共重合体)、および/またはプロピレンを主たる単量体とする共重合体(即ち、プロピレン系α−オレフィン共重合体)が好ましい。ここで、炭素数が4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。また、α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。
【0014】
エチレン系α−オレフィン共重合体の密度は、好ましくは0.857g/cm以上0.885g/cm以下(より好ましくは0.880g/cm以下)である。エチレン系α−オレフィン共重合体のエチレン構成単位量は、50モル%以上である。このエチレン構成単位量は、好ましくは60〜95モル%、より好ましくは70〜95モル%である。エチレン系α−オレフィン共重合体に含まれるα−オレフィン構成単位としては、1−ブテン、プロピレン、1−ヘキセン、1−オクテンからなる群から選ばれる少なくとも一つの単量体から形成されるものが好ましい。特に好ましいエチレン系α−オレフィン共重合体として、エチレン−1−ブテン共重合体およびエチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。なお、このようなエチレン−1−ブテン共重合体は、エチレンおよび1−ブテン以外のα−オレフィンに由来する構成単位を10モル%以下の量で含んでいてもよい。同様に、エチレン−プロピレン共重合体は、エチレンおよびプロピレン以外のα−オレフィンに由来する構成単位を10モル%以下の量で含んでいてもよい。このような共重合体は、例えば、遷移金属触媒成分(例えばバナジウム化合物やジルコニウム化合物)と有機アルミニウム化合物触媒成分とからなる触媒を用いて、エチレンとα−オレフィンとを共重合することによって製造することができる。
【0015】
プロピレン系α−オレフィン共重合体の密度は、好ましくは0.858g/cm以上0.885g/cm以下(より好ましくは0.880g/cm以下)である。プロピレン系α−オレフィン共重合体のプロピレン構成単位量は、50モル%超である。このプロピレン構成単位量は、好ましくは60〜95モル%、より好ましくは70〜95モル%である。また、プロピレン系α−オレフィン共重合体に含まれるα−オレフィン構成単位としては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンからなる群から選ばれる少なくとも一つの単量体から形成されるものが好ましい。特に好ましいプロピレン系α−オレフィン共重合体は、プロピレン−エチレンランダム共重合体(プロピレン系エラストマー)である。なお、このプロピレン−エチレンランダム共重合体は、プロピレンおよびエチレン以外のα−オレフィンに由来する構成単位を10モル%以下の量で含んでいてもよい。プロピレン系α−オレフィン共重合体は、例えば特開2000−191862に記載されているように、メタロセン系触媒を用いて製造することができる。
【0016】
α−オレフィン共重合体として、市販品を使用することができる。エチレン系α−オレフィン共重合体の好ましい市販品としては、例えば、タフマーPシリーズ、タフマーAシリーズ(いずれも、三井化学社製)、エンゲージ(ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、プロピレン系α−オレフィン共重合体の好ましい市販品としては、例えば、タフマーXMシリーズ(三井化学社製)等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィンとして、ポリメチルペンテンも使用することができる。ポリメチルペンテンとしては、4−メチル−1−ペンテンの単独重合体、および4−メチル−1−ペンテンとそれ以外のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。ポリメチルペンテン共重合体の4−メチル−1−ペンテン構成単位量は、好ましくは50〜95モル%、より好ましくは70〜95モル%である。ポリメチルペンテンは、結晶性重合体であってもよい。ポリメチルペンテンの密度は、好ましくは0.83〜0.86g/cmである。ポリメチルペンテン共重合体中のα−オレフィン構成単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンに由来するものが好ましい。これらの中でも、4−メチル−1−ペンテンと良好な共重合性を示す1−デセン、1−テトラデセンおよび1−オクタデセンがより好ましい。なお、ポリメチルペンテンの市販品としては、TPX−S(4−メチルペンテン−1−α−オレフィン共重合体、三井化学社製)が挙げられる。
【0018】
有機溶媒に溶解する限り、ポリオレフィンとして、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のジエン系ゴムも使用することができる。このようなポリイソプレンとしては、シス−1,4結合が90%以上であり、密度が0.90〜0.92g/cmであり、ムーニー粘度(100℃におけるML1+4)が40〜70であるものが好ましい。ポリイソプレンの市販品としては、IR−307、IR−310(クレイトンポリマー社製)が挙げられる。ポリブタジエンとしては、シス−1,4結合が90%以上であり、密度が0.88〜0.91g/cmであり、ムーニー粘度(100℃におけるML1+4)が25〜50であるものが好ましい。ポリブタジエンの市販品としては、Nipol BR1220、Nipol BR1220L(日本ゼオン社製)、BR01(JSR社製)が挙げられる。
【0019】
本発明におけるポリオレフィンは、後述するイソシアネートと反応しないことが好ましい。但し、本発明の目的を阻害しない範囲内において、水酸基(ヒドロキシ基)、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基(イソシアナト基)等の官能基を有する変性ポリオレフィンを使用してもよい。変性ポリオレフィンの1分子あたりの官能基数(平均値)は、好ましくは1以下である。
【0020】
本発明の剥離剤をアクリル系粘着剤と組み合わせて使用する場合は特に、オレフィンとしてエチレン系α−オレフィン共重合体および/またはプロピレン系α−オレフィン共重合体を使用することが、経時的な剥離力の上昇を防止するために好ましい。一方、本発明の剥離剤を、比較的大きな剥離力が必要とされる用途に使用する場合、プロピレン系α−オレフィン共重合体および/またはポリメチルペンテンが好ましい。
【0021】
本発明において、一つのポリオレフィンだけを使用する場合、形成する剥離剤層の強度(塗膜強度)等の観点から、ポリオレフィンの230℃におけるMFR(メルトフローレート)は、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは70g/10分以下、さらに好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以下である。
【0022】
本発明において、二つ以上のポリオレフィンを使用する場合、そのうちの少なくとも一つのポリオレフィンの230℃におけるMFRは、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは70g/10分以下、さらに好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以下である。このようなMFRを有するポリオレフィンの含有量は、全ポリオレフィン中、好ましくは10質量%、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0023】
剥離剤層の剥離力および剥離速度依存性を低減させるために、ポリオレフィンは、23℃における引張弾性率が10MPa以下であり、且つ23℃における引張破壊応力が8MPa以下であるポリオレフィン(A−1)を、全ポリオレフィン中に90質量%以上の量で含有することが好ましい。言い換えると、前記ポリオレフィン(A−1)以外のポリオレフィン(A−2)の含有量が、全ポリオレフィン中、10質量%以下に制限されていることが好ましい。ここで、剥離速度依存性とは、剥離剤層の剥離力が剥離速度に依存することをいい、より詳しくは、低速剥離での剥離力に比べて高速剥離での剥離力が大きいことをいう。
【0024】
上述したポリオレフィン(A−1)およびポリオレフィン(A−2)のいずれも、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ポリオレフィン(A−1)の含有量は、全ポリオレフィン中、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0025】
ポリオレフィン(A−1)を使用することによって剥離速度依存性が低減されるのは、剥離過程では粘着剤層と剥離剤層との界面付近で破壊が起こるという仮定の下、引張破壊応力が小さいポリオレフィン(A−1)が存在することによって界面付近が小さな力で破壊されるので、剥離速度が速くなっても剥離力の増大を抑制し得るためであると推定される。
【0026】
ポリオレフィン(A−1)の23℃における引張弾性率は、10MPa以下、好ましくは8MPa以下、より好ましくは7MPa以下、さらに好ましくは6MPa以下であり、ポリオレフィン(A−1)の23℃における引張破壊応力は、8MPa以下、好ましくは6MPa以下、より好ましくは4MPa以下である。23℃における引張弾性率が10MPaを超えるポリオレフィン(A−2)は、低速および高速で剥離した時の剥離剤層の剥離力を増大させる傾向があり、23℃における引張破壊応力が8MPaを超えるポリオレフィン(A−2)は、高速で剥離した時の剥離剤層の剥離力を増大させる傾向がある。
【0027】
ポリオレフィン(A−2)としては、(i)23℃における引張破壊応力が8MPa以下であり、23℃における引張弾性率が10MPaを超えるポリオレフィン;(ii)23℃における引張弾性率が10MPa以下であり、23℃における引張破壊応力が8MPaを超えるポリオレフィン;および(iii)23℃における引張弾性率が10MPaを超え、23℃における引張破壊応力が8MPaを超えるポリオレフィン;がある。これらの中では、前記(ii)の態様のポリオレフィン(A−2)が好ましい。また、ポリオレフィン(A−2)の23℃における引張弾性率は、好ましくは100MPa以下であり、ポリオレフィン(A−2)の23℃における引張破壊応力は、好ましくは35MPa以下である。
【0028】
本発明において、ポリオレフィン(A−1)の23℃における引張弾性率および23℃における引張破壊応力の下限値のいずれにも限定は無い。但し、充分な剥離剤層強度(塗膜強度)を得るために、ポリオレフィン(A−1)の23℃における引張弾性率は、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上であり、23℃における引張破壊応力は、好ましくは1MPa以上、より好ましくは2MPa以上である。
【0029】
ポリオレフィンの「23℃における引張弾性率」および「23℃における引張破壊応力」とは、以下の方法で測定した値である。
ポリオレフィンをトルエンに溶かして5〜10質量%の溶液とし、ベーカー式アプリケーターまたはドクターブレード型アプリケーターを使用して、これをポリエチレンテレフタレート(PET)製の離型フィルム上に塗布した後、熱風乾燥機で加熱乾燥し(100℃、3分間)、加熱乾燥後は直ちに23℃雰囲気下で冷却することによって、乾燥後の厚さが20μmのポリオレフィンフィルムを作製する。トルエンへの溶解性が悪い場合は、必要に応じて加温して溶解させても良い。得られたポリオレフィンフィルムを縦30mm×横100mmの短冊状に切り出し、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムから剥がしながら、切り出したフィルムの一方の短辺を軸にして長手方向に密に巻回して、長さ30mmの棒状サンプルとする。
この棒状サンプルについて、23℃雰囲気下で、チャック間距離10mm、引張速度50mm/minの条件で引張試験機(島津製作所(株)製、オートグラフ AG−IS型)にて引張試験を行い、その時の応力−ひずみ曲線を得る。その応力−ひずみ曲線における引張開始直後の曲線の傾きから引張弾性率を算出する。また、棒状サンプルが破断したときの応力を引張破壊応力として求める。
【0030】
23℃における引張弾性率が10MPa以下であり、且つ23℃における引張破壊応力が8MPa以下であるポリオレフィン(A−1)としては、例えば、タフマーP−0080K、タフマーP−0280、タフマーA−35070S、タフマーP−0680、タフマーP−0180、タフマーP−0480、タフマーP−0275、タフマーP−0775(いずれもエチレン系α−オレフィン共重合体、三井化学社製)等が挙げられる。
【0031】
ポリオレフィンの含有量は、剥離剤の固形分中、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは90〜98質量%である。この含有量が80質量%未満の場合、剥離力が大きくなる傾向が強く、一方、99質量%を超える場合は、架橋成分が少なすぎるために、充分な剥離剤層強度が得られにくくなる。なお、剥離剤の固形分とは、有機溶媒以外の剥離剤成分の含有量合計を意味する。
【0032】
[イソシアネート]
本発明の剥離剤は、1種または2種以上のイソシアネートを含有する。イソシアネートは、芳香族イソシアネートおよび脂肪族イソシアネートのいずれでもよい。脂肪族イソシアネートは、鎖状脂肪族イソシアネートおよび脂環式イソシアネートのいずれでもよい。これらの中でも、芳香族イソシアネートおよび脂環式イソシアネートが好ましい。芳香族イソシアネートおよび脂環式イソシアネートは、ポリオレフィンとの相溶性が低いため、これらを使用しても、剥離剤層の剥離性は損なわれない。一方、ポリオレフィンと相溶しない芳香族イソシアネートおよび脂環式イソシアネートは、形成される剥離剤層と基材との間に偏在し、これらの密着性向上に大きく寄与する。
【0033】
基材密着性および耐熱性に優れた剥離剤層を形成するためには、イソシアネートは、好ましくは1分子中にイソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートであり、より好ましくは芳香族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、さらに好ましくは芳香族ジイソシアネートの多価アルコール付加体および脂環式ジイソシアネートの多価アルコール付加体からなる群から選ばれる少なくとも一つである。
【0034】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中で、トリレンジイソシアネートおよびキシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0035】
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トランス−シクロヘキサンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中で、イソホロンジイソシアネートおよび水素化キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0036】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコール等が挙げられる。これらの中で、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0037】
ポリイソシアネートとしては、例えば、前記多価アルコールと、過剰量の前記芳香族ジイソシアネートまたは前記脂環式ジイソシアネートとを反応させて得られる、イソシアネート基を末端に含有する化合物が挙げられる。また、芳香族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートの多量体(例えば、イソシアヌレート体)も、ポリイソシアネートとして好適である。芳香族ジイソシアネートの多価アルコール付加体は、好ましくはトリレンジイソシアネートまたはキシリレンジイソシアネートの多価アルコール付加体であり、より好ましくはトリレンジイソシアネートの多価アルコール付加体である。トリレンジイソシアネートの多価アルコール付加体は、反応性に優れ、優れた基材密着性を達成できる。また、脂環式ジイソシアネートの多価アルコール付加体は、好ましくは水素化キシリレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートの多価アルコール付加体である。
【0038】
剥離剤中のイソシアネートの含有量は、ポリオレフィン100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部であり、より好ましくは1.0〜15質量部、さらに好ましくは1.5〜10質量部である。このような含有量でイソシアネートを使用すれば、剥離剤のポットライフが短くなるなどの悪影響もなく、より優れた基材密着性が得られる。
【0039】
[ポリオレフィンポリオール]
本発明の剥離剤は、1種または2種以上のポリオレフィンポリオールを含有する。ポリオレフィンポリオールは、剥離剤層の形成でイソシアネートと反応させるために用いられる。ポリオレフィンポリオールとしては、ポリオレフィンとの相溶性が良いものが好ましい。
【0040】
ポリオレフィンポリオールの数平均分子量(Mn)は、好ましくは1500〜50000、より好ましくは1500〜4000、さらに好ましくは1500〜3000である。このような範囲のMnを有するポリオレフィンポリオールは、ポリオレフィンおよびイソシアネートの両方に対して適度な溶解性を有する。そのため、このようなポリオレフィンポリオールは、剥離剤層強度や耐熱性を向上させることができ、一方で、剥離剤層の外観を損なわない。なお、このMnが前記範囲外であると、白っぽく曇った外観の剥離剤層が得られることがある。さらに、このMnが前記範囲内であれば、基材とは反対側のイソシアネートが偏在していない剥離剤層部分においてポリオレフィンポリオールに起因する水酸基が過剰にならず、剥離力の低い剥離剤層が得られる。さらに、このMnが前記範囲内であれば、基材側のイソシアネートが偏在する剥離剤層部分においてイソシアネートとポリオレフィンポリオールとが適度に反応することができ、より優れた基材密着性が得られる。
【0041】
本発明において、ポリオレフィンポリオールの種類に特に限定はない。ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリエチレン系ポリオール、ポリプロピレン系ポリオール、ポリブタジエンポリオール、水素添加ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールおよび水素添加ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィンとの相溶性や剥離力への影響の観点から、水素添加ポリイソプレンポリオールおよびポリイソプレンポリオールが好ましい。
【0042】
また、ポリオレフィンポリオールの水酸基価(mgKOH/g)は、剥離剤層強度および硬化性の観点から20以上が好ましく、一方、剥離力への影響の観点から75以下が好ましい。より好ましい水酸基価(mgKOH/g)は、25〜60である。
【0043】
本発明において、市販のポリオレフィンポリオールを使用することができる。そのような市販品としては、例えば、Poly bdR−45HT(水酸基末端液状ポリブタジエン:Mn=2800、水酸基価=46.6mgKOH/g、出光興産社製)、Poly ip(水酸基末端液状ポリイソプレン:Mn=2500、水酸基価=46.6mgKOH/g、出光興産社製)、エポール(水酸基末端液状水添ポリイソプレン:Mn=2500、水酸基価=50.5mgKOH/g、出光興産社製)、GI−1000(水酸基含有液状水添ポリブタジエン:Mn=1500、水酸基価=60〜75mgKOH/g、日本曹達社製)、GI−2000(水酸基含有液状水添ポリブタジエン:Mn=2100、水酸基価=40〜55mgKOH/g、日本曹達社製)、GI−3000(水酸基含有液状水添ポリブタジエン:Mn=3000、水酸基価=25〜35mgKOH/g、日本曹達社製)などが挙げられる。これらのポリオレフィンポリオールは、いずれも常温で液状である。また、ユニストールP−801(水酸基含有ポリオレフィンの16質量%トルエン溶液、トルエン除去物は固体、水酸基価40mgKOH/g、三井化学社製)を使用することもできる。
【0044】
剥離剤中のポリオレフィンポリオールの含有量は、次式(I):
A=ポリオレフィンポリオールの水酸基価(mgKOH/g)×ポリオレフィン100質量部に対するポリオレフィンポリオールの質量部数 ・・・ (I)
におけるAの値が、好ましくは30〜250、より好ましくは40〜200、さらに好ましくは50〜150となるように設定される。Aの値が30より小さいと、剥離剤層強度が充分ではなくなる傾向があり、250より大きいと、剥離剤層の剥離力が高くなりすぎる傾向がある。
【0045】
[カルボン酸金属塩]
本発明の剥離剤は、ウレタン化触媒として、非有機錫化合物であるカルボン酸金属塩を含有する。本発明において「有機錫化合物」とは、錫−炭素(Sn−C)結合を有する化合物または塩をいい、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレートなどが挙げられる。これに対して、「非有機錫化合物」とは、錫−炭素結合を有さない化合物または塩をいう。
【0046】
カルボン酸金属塩のカルボン酸は、脂肪族カルボン酸および芳香族カルボン酸のいずれでもよい。また、カルボン酸は、一塩基酸および多塩基酸のいずれでもよい。脂肪族カルボン酸は、直鎖状および分枝鎖状のいずれでもよく、また飽和および不飽和のいずれでもよい。また、脂肪族カルボン酸は、脂環式アルキル基を有していてもよい。
【0047】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、オレイン酸およびリノール酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸などが挙げられる。
【0048】
カルボン酸は、ナフテン酸または樹脂酸であってもよい。本発明において、ナフテン酸とは、石油中に含まれるカルボン酸を意味し、樹脂酸とは、天然樹脂に含まれるカルボン酸を意味する。ナフテン酸および樹脂酸は、いずれも、1種のみでもよく、2種以上の混合物でもよい。ナフテン酸としては、例えば、シクロペンタン環またはシクロヘキサン環のメチレン側鎖の末端にカルボキシ基を有するものなどが挙げられる。樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸、ポドカルプ酸、d−ピマル酸およびイソ−d−ピマル酸などが挙げられる。
【0049】
カルボン酸金属塩の金属としては、例えば、ビスマス、ジルコニウム、亜鉛、チタンおよびカルシウムなど挙げられる。触媒活性や有機溶媒への溶解性などの観点から、カルボン酸金属塩は、好ましくはカルボン酸ビスマスである。
【0050】
カルボン酸金属塩としては、1種のみを使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。カルボン酸金属塩の混合物は、複数のカルボン酸と一つの金属塩基とから形成される混合物、一つのカルボン酸と複数の金属塩基とから形成される混合物、および複数のカルボン酸と複数の金属塩基とから形成される混合物のいずれでもよい。
【0051】
本発明において、市販のカルボン酸金属塩を使用してもよい。市販のカルボン酸ビスマスとしては、例えば、プキャットB7およびプキャットB25(いずれも日本化学産業社製)、ネオスタンU−600(日東化成社製)、並びにK−KAT XC−227(KING INDUSTRIES社製)などが挙げられる。市販のカルボン酸ジルコニウムとしては、例えば、ナフテックスZrおよびニッカオクチックスZr(いずれも日本化学産業社製)などが挙げられる。市販のカルボン酸亜鉛としては、例えば、ナフテックスZnおよびニッカオクチックスZn(いずれも日本化学産業社製)などが挙げられる。市販のカルボン酸カルシウムとしては、例えば、ナフテックスCa、ニッカオクチックスCaおよびプキャットCa−5B(いずれも日本化学産業社製)などが挙げられる。
【0052】
剥離剤中のカルボン酸金属塩の含有量は、ポリオレフィン100質量部に対して、好ましくは0.1〜2.5質量部、より好ましくは0.3〜2.0質量部、さらに好ましくは0.4〜1.5質量部である。この含有量が0.1質量部未満では、触媒作用が不充分となることがあり、一方、この含有量が2.5質量部を超えると、剥離剤層の剥離力が高くなったり、剥離剤のポットライフが短くなるなどの不具合の原因となることがある。
【0053】
なお、ここでいうカルボン酸金属塩の含有量は、カルボン酸金属塩のみの量を指し、例えば後述の実施例で使用する「プキャットB7」のようにカルボン酸金属塩を溶媒に溶かした溶液を使用する場合、溶媒量を除いたカルボン酸金属塩のみの量を意味する。
【0054】
[有機溶媒]
本発明の剥離剤は、有機溶媒として、炭化水素系溶媒および非プロトン性極性溶媒の混合溶媒を含有する。炭化水素系溶媒および非プロトン性極性溶媒は、それぞれ、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
炭化水素系溶媒としては、例えば、ノルマルヘキサンおよびノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;並びにトルエンおよびキシレン等の芳香族系炭化水素が挙げられる。剥離剤成分(特にイソシアネート)の溶解性などの観点から、芳香族炭化水素が好ましく、トルエンおよびキシレンがより好ましく、トルエンがさらに好ましい。
【0056】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびアセチルアセトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)およびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)等のアミド系溶媒;並びにジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒などが挙げられる。剥離剤成分(特にカルボン酸金属塩)の溶解性などの観点から、ケトン系溶媒が好ましく、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびアセチルアセトンがより好ましく、アセチルアセトンがより好ましい。
【0057】
炭化水素系溶媒として沸点が高い芳香族炭化水素系溶媒、特にキシレン(沸点144℃)またはその混合溶媒を使用する場合、これに比べて非プロトン性極性溶媒の沸点が低すぎると、溶媒除去による剥離剤層の形成時に非プロトン性極性溶媒のみが先に除去されてしまい、得られる剥離剤層の外観に悪影響を及ぼす場合がある。そこで、沸点が高い芳香族炭化水素系溶媒を使用する場合には、同様に沸点が高い非プロトン性極性溶媒を使用することが好ましい。例えば、炭化水素系溶媒が、キシレン、またはトルエンおよびキシレンである場合(好ましくはトルエンおよびキシレンである場合)、非プロトン性極性溶媒は、好ましくはシクロヘキサノン(沸点156℃)、アセチルアセトン(沸点140℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)およびN,N−ジメチルアセトアミド(沸点165℃)からなる群から選ばれる少なくとも一つであり、より好ましくはアセチルアセトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、さらに好ましくはアセチルアセトンである。
【0058】
剥離剤成分の溶解性のバランス、特にイソシアネートおよびカルボン酸金属塩の溶解性のバランスから、炭化水素系溶媒と非プロトン性極性溶媒との質量比(炭化水素系溶媒:非プロトン性極性溶媒)は、好ましくは99:1〜90:10、より好ましくは99:1〜92:8、さらに好ましくは99:1〜95:5である。また、有機溶媒の含有量は、剥離剤中、好ましくは95〜99.9質量%の範囲内で調整される。
【0059】
[任意成分]
本発明の剥離剤は、1種または2種以上の任意成分を含有していてもよい。例えば、低剥離力を有する剥離剤層が求められる場合には、剥離剤の任意成分として1種または2種以上の液状炭化水素を使用してもよい。ここで、本発明における「液状炭化水素」とは、JIS K7117−1:1990に従って測定した38℃における粘度(以下「38℃粘度」と略称することがある)が5〜1500Pa・sである炭化水素を意味する。このような液状炭化水素を使用することによって、粘着テープ類の粘着力を低下させることなく、剥離剤層の剥離力の速度依存性を低減し得る。
【0060】
液状炭化水素の38℃粘度は、通常5〜1500Pa・sであり、好ましくは5〜1300Pa・sである。この38℃粘度が5Pa・s未満である場合、剥離力の速度依存性が充分に低減しないことがある。剥離力の速度依存性を充分に低減するために、38℃粘度が5Pa・s未満である液状炭化水素の使用量を多くすると、粘着テープ類の粘着力が低下する。一方で、38℃粘度が1500Pa・sを超える場合、離型材および粘着テープの想定使用温度である10〜30℃付近で、液状炭化水素の流動性が低くなるため、剥離力の速度依存性が充分に低減しないことがある。
【0061】
液状炭化水素としては、例えば、不飽和炭化水素の重合体等が挙げられる。ここで、本発明における「不飽和炭化水素の重合体」は、ポリマーだけでなく、オリゴマーも含む意味で用いられる。相溶性の観点から、液状炭化水素は、好ましくはエチレンと炭素数3〜5の不飽和炭化水素との液状共重合体、炭素数3〜5の不飽和炭化水素の液状単独重合体および炭素数3〜5の不飽和炭化水素の液状共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一つである。炭素数3〜5の不飽和炭化水素としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、2−ブテン、ブタジエン、1−ペンテン、2−ペンテン、イソペンテン、イソプレン等が挙げられる。液状炭化水素は、より好ましくは液状エチレン−オレフィン共重合体、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状水素化ポリブタジエン、液状水素化ポリイソプレンおよび液状ポリイソブテンからなる群から選ばれる少なくとも一つである。液状炭化水素は、公知の方法、例えばラジカル重合またはカチオン重合等によって製造できる。
【0062】
液状炭化水素として、市販品を用いてもよい。市販の液状炭化水素としては、例えば、ルーカント HC−600(38℃粘度=8.5Pa・s)、HC−2000(38℃粘度=34Pa・s)(以上、三井化学社製)、クラプレンLIR−30(38℃粘度=74Pa・s)、LIR−50(38℃粘度=480Pa・s)、LIR−290(38℃粘度=1000Pa・s)、LBR−300(38℃粘度=280Pa・s)(以上、クラレ社製)、日石ポリブテンHV−100、HV−300、HV−1900(以上、新日本石油社製)、ニッサンポリブテン10N、30N、200N(以上、日油社製)等が挙げられる。
【0063】
液状炭化水素を使用する場合、剥離剤中のその含有量は、ポリオレフィンおよび液状炭化水素の合計100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、より好ましくは4〜20質量部、さらに好ましくは5〜15質量部である。この含有量が、3質量部未満である場合、剥離速度依存性が充分に低減しないことがあり、逆に30質量部を超える場合、剥離剤層強度が低くなったり、粘着テープの粘着剤層に液状炭化水素が移行して、粘着テープの粘着力が低下することがある。
【0064】
本発明の剥離剤は、その他必要に応じて、前記ポリオレフィン以外の樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等の光安定剤や帯電防止剤、カーボンブラック、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等の充填剤、顔料等を含有していてもよい。
【0065】
2.離型材
本発明は、基材および剥離剤層を有する離型材も提供する。本発明の離型材は、本発明の剥離剤から形成された剥離剤層を、基材の少なくとも片面に有することを特徴とする。以下、基材および剥離剤層について順に説明する。
【0066】
[基材]
本発明において、基材に特に限定は無い。但し、基材は、表面が平滑であるプラスチックフィルムであることが好ましい。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム;ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム;が挙げられる。また、クラフト紙、グラシン紙、上質紙等の紙を基材として用いてもよい。紙基材としては、剥離剤の基材への過度の含浸を防ぐために、ポリエチレン等のプラスチックがラミネートされたもの、または目止め処理されたものが好ましい。基材には、必要に応じて、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等の処理を施しておいても良い。
【0067】
基材の厚さは、特に制限されず、使用目的に応じて適宜設定することができる。基材としてプラスチックフィルムを使用する場合、その厚さは、通常12〜250μm程度、好ましくは16〜200μm、より好ましくは25〜125μmである。
【0068】
また、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等の光安定剤や帯電防止剤、カーボンブラック、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等の充填剤、顔料等を、基材に配合してもよい。
【0069】
[剥離剤層]
剥離剤層は、例えば、有機溶媒を含有する本発明の剥離剤を基材に塗布し、乾燥させることによって得られる。
【0070】
剥離剤の塗布方法としては特に限定は無く、あらゆる公知の方法、例えばキスロールコーター、ビードコーター、ロッドコーター、マイヤーバーコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いる方法を使用できる。乾燥方法についても特に限定は無く、あらゆる公知の方法を使用できる。一般的な乾燥方法として、熱風乾燥が挙げられる。熱風乾燥の温度は、基材の耐熱性によっても変わり得るが、通常80〜150℃程度である。
【0071】
乾燥後の剥離剤層の厚さは、好ましくは30〜500nm、より好ましくは45〜400nm、さらに好ましくは60〜300nmである。この厚さが30nm未満である場合、剥離剤層の剥離力が高くなりすぎる場合があり、逆に500nmを超える場合、離型材をロール状に巻き取った時に接触する基材と剥離剤層とがブロッキングしやすくなるという問題や、剥離剤層の剥離力が高くなるという問題が生じる場合がある。
【0072】
離型材において、剥離剤層が最表面に存在する限り、剥離剤層と基材との間に別の層が存在していてもよい。但し、剥離剤層は、基材の上に直接形成されていることが好ましい。
【0073】
3.離型材付き粘着テープ
本発明は、粘着剤層および本発明の離型材を有し、粘着剤層と離型材の剥離剤層とが接触している粘着テープも提供する。
【0074】
粘着剤層を形成するために用いられる粘着剤に、特に限定は無い。粘着剤としては、例えばゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等が挙げられる。これらの中で、アクリル系粘着剤およびポリエステル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤およびポリエステル系粘着剤を用いて粘着剤層を形成した離型材付き粘着テープは、安定した剥離性を示す。
【0075】
アクリル系粘着剤は、溶液重合法、エマルション重合法、UV重合法などの慣用の重合法により得られるアクリル系ポリマーを主剤とし、これに必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤などの各種添加剤を加えることによって調製できる。
【0076】
アクリル系ポリマーとしては、例えばブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートを主成分とし、これに必要に応じて共重合可能な改質用単量体として2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有単量体、(メタ)アクリル酸などのカルボキシ基含有単量体、スチレンなどのスチレン系単量体、酢酸ビニルなどのビニルエステル類等の他の単量体を加えた単量体混合物の共重合体などが挙げられる。
【0077】
ポリエステル系粘着剤としては、脂肪族系カーボネートジオール(例えば、ブタンジオール等のジオール成分とエチレンカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるカーボネートジオールなど)を必須のポリオール成分としたポリエステル系重合体を主剤とする粘着剤が挙げられる。
【0078】
粘着剤層は、例えば、粘着剤溶液を離型材の剥離剤層に塗布し、乾燥させることによって形成することができる。また、離型材の基材とは別の基材上に粘着剤溶液を塗布し、乾燥させることによって粘着剤層を形成し、これを離型材の剥離剤層に貼り合わせてもよい。さらに、市販の粘着テープを離型材の剥離剤層に貼り合わせることによって、離型材の粘着剤層を形成してもよい。粘着剤層の厚さは、粘着性などを考慮して適宜選択することができ、好ましくは3〜100μm、より好ましくは5〜90μm、さらに好ましくは10〜80μmである。
【0079】
4.剥離剤層付き粘着テープ
本発明は、基材、粘着剤層および剥離剤層を有する粘着テープも提供する。この本発明の粘着テープは、本発明の剥離剤から形成された剥離剤層を基材の片面に有し、剥離剤層が形成されていない基材の他方の面に粘着剤層を有することを特徴とする。なお以下では、この態様の剥離剤層を「背面処理層」と呼ぶことがあり、この態様の粘着テープを「背面処理層付き粘着テープ」と呼ぶことがある。
【0080】
背面処理層付き粘着テープは、ロール状に巻回された形態またはシートが積層された形態のいずれでもよい。いずれの形態においても、粘着剤層が背面処理層によって保護される。
【0081】
背面処理層付き粘着テープにおいて、粘着剤層および背面処理層は、いずれも基材の上に直接形成されていてもよく、また、これらの層と基材との間に別の層が形成されていてもよい。但し、粘着剤層および背面処理層はいずれも最表面に存在することが必要である。こうすることによって、該粘着テープがロール状に巻回された場合、またはシート形態の該粘着テープが積層された場合に、背面処理層が、粘着剤層と接触してこれを保護することができる。なお、粘着剤層および背面処理層は、いずれも基材の上に直接形成されていることが好ましい。
【0082】
背面処理層付き粘着テープの粘着剤層を形成するために用いられる粘着剤に、とくに限定は無い。このための粘着剤としては、例えば、離型材付き粘着テープで説明したものなどが挙げられる。また、粘着剤層の形成方法も、離型材付き粘着テープで説明したものと同様の方法を採用することができる。
【0083】
背面処理層の形成方法は、離型材付き粘着テープで説明したものと同様の方法を採用することができる。背面処理層の厚さは、剥離力の観点から、好ましくは30〜500nm、より好ましくは45〜400nm、さらに好ましくは60〜300nmである。
【0084】
5.物性、特性等
本明細書中の物性および特性等は、以下の方法での測定値である。
(1)密度
ASTM D1505に準拠して測定した値である。
(2)メルトフローレート(230℃)
ASTM D1238に準拠して測定した値である。
(3)数平均分子量
ASTM D2503に準拠して測定した値である。
(4)水酸基価
JIS K1557:1970に準拠して測定した値である。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、以下において「部」および「%」は、別の記載が無い限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0086】
1.剥離剤成分
実施例および比較例で用いた剥離剤成分を、以下に記載する。
【0087】
(1)ポリオレフィン
タフマーP−0280(エチレン−プロピレン共重合体(エチレン:87モル%、プロピレン:13モル%)、三井化学社製、MFR(230℃):5.4g/10min、密度:0.87g/cm、23℃における引張弾性率:5.1MPa、23℃における引張破壊応力:3.3MPa)
タフマーA−35070S(エチレン−1−ブテン共重合体(エチレン:85モル%、1−ブテン:15モル%)、三井化学社製、MFR(230℃):65g/10min、密度:0.87g/cm、23℃における引張弾性率:3.5MPa、23℃における引張破壊応力:2.1MPa)
【0088】
(2)ポリオレフィンポリオール
エポール(水酸基末端液状水添ポリイソプレン、Mn:2500、水酸基価:50.5mgKOH/g、出光興産社製)
【0089】
(3)イソシアネート
コロネートL(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の75%酢酸エチル溶液、1分子中のイソシアネート基数:3個、日本ポリウレタン社製)
【0090】
(4)液状炭化水素
ルーカント HC−2000(エチレン−α−オレフィンコオリゴマー、38℃粘度:34Pa・s、三井化学社製)
【0091】
(5)ウレタン化触媒
ネオスタンU−600(トリス(2−エチルヘキサン酸)ビスマスの2−エチルヘキサン酸溶液、カルボン酸金属塩の含有量:55〜58%、日東化成社製)
プキャットB7(樹脂酸ビスマスのミネラルスピリット溶液、金属ビスマスの含有量:7%、ミネラルスピリットの含有量:42%、日本化学産業社製)
ジラウリン酸ジブチルすず(IV)(和光純薬工業社製、ジブチル錫ジラウレート)
【0092】
(6)有機溶媒
炭化水素系溶媒:トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン
非プロトン性極性溶媒:メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン
【0093】
2.剥離剤の調製
表1および2に示す部数で、ポリオレフィン、ポリオレフィンポリオール、イソシアネート、液状炭化水素およびウレタン化触媒を有機溶媒に溶解させて、固形分が1.5%である剥離剤を調製した。なお、表1および2に示すウレタン化触媒の部数は、入手したウレタン化触媒そのものの部数であり、入手したウレタン化触媒が溶液である場合、溶液全体の部数である。また、使用した各有機溶媒の質量比も、表1および2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
3.剥離剤層の形成(離型材の調製)
マイヤーバー#6を用いて、調製した剥離剤を厚さ38μmのポリエステルフィルムに塗布した後、熱風乾燥機で130℃×1分間加熱し、離型材を得た。得られた離型材の剥離剤層の厚さは約150nmであった。
【0097】
4.特性評価
使用した触媒の特性(即ち、非有機錫化合物であるか否か)、剥離剤の溶解状態、得られた剥離剤層の特性(即ち、外観、基材密着性および常態剥離力)を、表3および4に記載する。剥離剤の溶解状態および剥離剤層の特性の評価方法を以下に記載する。
【0098】
(1)剥離剤の溶解状態
得られた剥離剤の溶解状態を、下記基準に従い、目視で判定した。
○:剥離剤が透明であり、剥離剤成分が有機溶媒に均一に溶解している。
×:剥離剤中に不溶物があり、剥離剤成分が有機溶媒に均一に溶解していない。
【0099】
(2)剥離剤層の外観
形成した剥離剤層の外観を、下記基準に従い、目視で判定した。
○:ムラやハジキがなく、剥離剤層が均一。
×:すじ状、点状または不定形状のムラやハジキがあり、剥離剤層が不均一。
【0100】
(3)剥離剤層の基材密着性
剥離剤層表面を指で3往復こすった時の状態を、下記基準で判定した。
○:変化がないが、または表面が白っぽく曇った状態になるが、剥離剤層の脱落はない。
×:剥離剤層がボロボロと脱落して、消しゴムをこすった時に出るようなカスが発生し、基材が露出する。
【0101】
(4)剥離剤層の常態剥離力
25mm幅のアクリル系粘着テープNo.31B(日東電工社製)を剥離剤層表面にハンドローラーを用いて貼り合わせ、23℃で24時間保存した後、引張試験機にて離型材を180°方向に3.0m/minの速さで引っ張り、23℃雰囲気下で常態剥離力を測定した。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
表3および4に示すように、非有機錫化合物であるカルボン酸金属塩を使用する実施例1〜6では、ウレタン化触媒として有機錫化合物を用いる比較例5と同様に、優れた特性の剥離剤層が得られた。これに対して、カルボン酸金属塩を使用するが、炭化水素系溶媒(トルエン、キシレンまたはノルマルヘキサン)のみを使用する比較例1〜4では、外観が悪い剥離剤層しか形成されなかった。さらに、ノルマルヘキサンのみを使用する比較例4の剥離剤では、イソシアネートが析出した。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の剥離剤は、環境に問題のある有機錫化合物を使用せずに、優れた特性の剥離剤層を形成することができる。この剥離剤層を有する離型材および粘着テープは、電子部品関連等の様々な用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン、イソシアネート、ポリオレフィンポリオール、カルボン酸金属塩および有機溶媒を含有する剥離剤であり、
カルボン酸金属塩が、非有機錫化合物であり、
有機溶媒が、炭化水素系溶媒および非プロトン性極性溶媒の混合溶媒である剥離剤。
【請求項2】
炭化水素系溶媒が、芳香族炭化水素系溶媒である請求項1に記載の剥離剤。
【請求項3】
芳香族炭化水素系溶媒が、トルエンおよびキシレンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項2に記載の剥離剤。
【請求項4】
非プロトン性極性溶媒が、ケトン系溶媒である請求項1〜3のいずれか一項に記載の剥離剤。
【請求項5】
ケトン系溶媒が、メチルエチルケトン、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項4に記載の剥離剤。
【請求項6】
炭化水素系溶媒が、キシレン、またはトルエンおよびキシレンであり、非プロトン性極性溶媒が、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも一つであるである請求項1に記載の剥離剤。
【請求項7】
炭化水素系溶媒と非プロトン性極性溶媒との質量比が、99:1〜90:10である請求項1〜6のいずれか一項に記載の剥離剤。
【請求項8】
カルボン酸金属塩が、カルボン酸ビスマスである請求項1〜7のいずれか一項に記載の剥離剤。
【請求項9】
イソシアネートが、1分子中にイソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートである請求項1〜8のいずれか一項に記載の剥離剤。
【請求項10】
ポリイソシアネートが、芳香族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項9に記載の剥離剤。
【請求項11】
ポリイソシアネートが、芳香族ジイソシアネートの多価アルコール付加体および脂環式ジイソシアネートの多価アルコール付加体からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項10に記載の剥離剤。
【請求項12】
ポリオレフィンポリオールの数平均分子量が、1500〜50000である請求項1〜11のいずれか一項に記載の剥離剤。
【請求項13】
基材および剥離剤層を有する離型材であり、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の剥離剤から形成された剥離剤層を、基材の少なくとも片面に有する離型材。
【請求項14】
粘着剤層および請求項13に記載の離型材を有する粘着テープであり、
粘着剤層と離型材の剥離剤層とが接触している粘着テープ。
【請求項15】
基材、粘着剤層および剥離剤層を有する粘着テープであり、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の剥離剤から形成された剥離剤層を、基材の片面に有し、
剥離剤層が形成されていない基材の他方の面に、粘着剤層を有する粘着テープ。

【公開番号】特開2012−162625(P2012−162625A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23335(P2011−23335)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】