説明

創傷、傷跡、および手術後の癒着形成を治療するためのヒアルロン酸含有組成物

本発明は、生物学的に活性を有するペプチド、特にヒトラクトフェリンに由来するペプチドの治療効果を増強する医薬組成物に関する。前記組成物は、創傷、傷跡、および手術後の癒着の治療および/または予防に対して有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的に活性を有するペプチド、特にヒトラクトフェリンに由来するペプチドの治療効果を増強する医薬組成物に関する。前記組成物は、創傷、傷跡、および手術後の癒着(post surgical adhesion)の治療および/または予防に対して有用である。
【背景技術】
【0002】
腹膜の癒着は、外科的な外傷または他のタイプの傷害の後に、腹腔構造の間の線維組識が結合することをいう。一般的な腹腔、血管、婦人科、泌尿器科および整形の手術後に癒着形成が見られる患者は、95%にのぼる(Ellis et al. 1999. Adhesion-related hospital readmissions after abdominal and pelvic surgery: a retrospective cohort study. Lancet 353, 1476-1480)。手術後の癒着は、小腸閉塞の主要な原因(Menzies et al. 2001. Small bowel obstruction due to postoperative adhesions: treatment patterns and associated costs in 110 hospital admissions. Ann R Coll Surg Engl 83, 40-46.)、女性における続発性不妊症の周知の原因(Marana et al. 1995. Correlation between the American Fertility Society classifications of adnexal adhesions and distal tubal occlusion, salpingoscopy, and reproductive outcome in tubal surgery. Fertil Steril 64, 924-929)、ならびに手術後の痛みの考え得る原因(Paajanen et al. 2005. Laparoscopy in chronic abdominal pain: a prospective nonrandomized long-term follow-up study. J Clin Gastroenterol 39, 110-114)であると考えられる。下位腹腔の手術を受けた人の30%より多くは、彼らの人生のいくらかの期間において、癒着形成に直接関係するか、または関係する可能性がある障害のために再入院する(Lower et al. 2000. The impact of adhesions on hospital readmissions over ten years after 8849 open gynaecological operations: an assessment from the Surgical and Clinical Adhesions Research Study. Bjog 107, 855-862.)。
【0003】
何十年もの間、外科的外傷を減らすこと(乾燥を避ける、組織を優しく扱う、入念な止血)ならびに腹腔への外来の物質の混入を減らすこと(デンプンを含まない手袋、綿繊維を含まないガーゼおよび吸収性の糸を使用する)により、手術後の癒着を減らすための試みが行われてきた(Holmdahl et al. 1997. Adhesions: pathogenesis and prevention-panel discussion and summary. Eur J Surg Suppl, 56-62.)。重要なことは、腹腔鏡技術は、手術後の癒着形成の問題を克服するのに十分ではないということである(Duron et al. 2000. Prevalence and mechanisms of small intestinal obstruction following laparoscopic abdominal surgery: a retrospective multicenter study. French Association for Surgical Research. Arch Surg 135, 208-212)。それ故、腹腔内の癒着には主要な臨床的問題が残っており、現在は、優れた外科的技術により将来的な改善がわずかになされるであろうことを信じるのみである。その代わりに、外科的処置と組み合わせて投与される、癒着形成を予防するための専用の製品を開発することに集中している。
【0004】
癒着の予防において試験された治療戦略のほとんどは、医療デバイス製品である。異なるタイプの物理的バリヤーが評価され、処置の間に適用される生分解性フィルムは、腹膜治癒の重要な期間に、負傷した腹腔表面を隔てて維持するために使用される。2つの最も広範に使用されている融合を減らすためのバリヤーは、インターシード(Interceed; Johnson & Johnson Medical Inc., Arlington, TX)およびセプラフィルム(Seprafilm;登録商標;Genzyme, Cambridge, MA, USA)である。ヒアルロン酸ナトリウムおよびカルボキシメチルセルロース(CMC)から構成されるセプラフィルム(登録商標)は、設置してから約24〜48時間後に粘性のゲルになり、1週間以内にゆっくりと吸収される(Diamond, 1996. Reduction of adhesions after uterine myomectomy by Seprafilm membrane (HAL-F): a blinded, prospective, randomized, multicenter clinical study. Seprafilm Adhesion Study Group. Fertil Steril 66, 904-910; Beck, 1997. The role of Seprafilm bioresorbable membrane in adhesion prevention. Eur J Surg Suppl, 49-55)。セプラフィルム(登録商標)は、臨床現場において、手術後の融合を減らすことが示されているが(Vrijland et al. 2002. Fewer intraperitoneal adhesions with use of hyaluronic acid-carboxymethylcellulose membrane: a randomized clinical trial. Ann Surg 235, 193-199.; Beck et al. 2003. A prospective, randomized, multicenter, controlled study of the safety of Seprafilm adhesion barrier in abdominopelvic surgery of the intestine. Dis Colon Rectum 46, 1310-1319; Tang et al. 2003. Bioresorbable adhesion barrier facilitates early closure of the defunctioning ileostomy after rectal excision: a prospective, randomized trial. Dis Colon Rectum 46, 1200-1207)、デバイスは、手袋および臓器に付着するため適用することが難しく、扱いにくい。さらに、セプラフィルム(登録商標)は、吻合リーク(anastomosic leak)に伴う後遺症のリスクを増大させ、腹腔鏡手法に適合しない(diZerega et al. 2002. A randomized, controlled pilot study of the safety and efficacy of 4% icodextrin solution in the reduction of adhesions following laparoscopic gynaecological surgery. Hum Reprod 17, 1031-1038)。酸化再生セルロースから構成されるインターシードは、負傷した腹膜を覆うゼラチン状の塊に変換され、いくつかの臨床的研究において癒着の予防における効果が示されている(Mais et al. 1995. Prevention of de-novo adhesion formation after laparoscopic myomectomy: a randomized trial to evaluate the effectiveness of an oxidized regenerated cellulose absorbable barrier Hum Reprod. 10, 3133-3135; Mais et al. 1995 Reduction of adhesion reformation after laparoscopic endometriosis surgery: a randomized trial with an oxidized regenerated cellulose absorbable barrier Obstet Gynecol. 86, 512-515; Wallwiener et al. 1998. Adhesion formation of the parietal and visceral peritoneum: an explanation for the controversy on the use of autologous and alloplastic barriers? Fertil Steril 69, 132-137)。しかしながら、少量の腹腔内出血であってもこのバリヤーの有益な効果を否定するため、インターシードの適用は、完全な止血を必要とする(上記DeCherney & diZerega, 1997.)。物理的なバリヤーを使用することの一般的な制限は、製品の部位特異性、外科医が癒着の生じる場所およびそれらが臨床的問題を最も引き起こしそうな場所を予測することの必要性である。バリヤーの代わりとして、イコデキストリン(Adept, Baxter Healthcare Corporation, IL, USA)または乳酸加リンゲル溶液のような腹腔内に滴下注入するための異なる液体が、腹腔構造の浮上を可能にするのに十分な容量で手術後に投与され、それにより、負傷した表面が相互に接するのを妨げる(Yaacobi et al. 1991. Effect of Ringer's lactate irrigation on the formation of postoperative abdominal adhesions. J Invest Surg 4, 31-36; Cavallari et al. 2000. Inability of University of Wisconsin solution to reduce postoperative peritoneal adhesions in rats. Eur J Surg 166, 650-653.; 上述したdiZerega et al.)。しかしながら、重力が腹部における液体の分布を妨げることにより、問題が生じる。また、溶液は、腹膜の治癒に必要な時間よりも早く腹腔から吸収される。
【0005】
限られた数の薬理学的に活性を有する化合物は、手術後の癒着の予防について試験されている。いくつかの例として、創傷治癒のカスケードにおける炎症性成分および線維芽細胞増殖は、それぞれステロイド剤および細胞障害性薬剤の使用により薬物療法の標的となった。しかしながら、これらの薬剤は、多義の効果および潜在的に深刻な副作用を示した(LeGrand et al. 1995. Comparative efficacy of nonsteroidal anti-inflammatory drugs and anti-thromboxane agents in a rabbit adhesion-prevention model. J Invest Surg 8, 187-194; Li et al. 2004. Synthesis and biological evaluation of a cross-linked hyaluronan-mitomycin C hydrogel. Biomacromolecules 5, 895-902)。
【0006】
試験された治療の限られた効果および取扱いの困難さにより、今日、腹腔において行われる外科的処置の大多数は、いずれの製品も適用せずに癒着形成および手術後の癒着を予防しており、患者にとって苦痛が生じ、社会に対する主要な儀性が存在している(Ray et al. 1998. Abdominal adhesiolysis: inpatient care and expenditures in the United States in 1994. J Am Coll Surg 186, 1-9.; 2005)。
【0007】
本発明の目的は、現在入手可能な医薬組成物、デバイスおよび方法の望ましくない副作用を伴うことなく、手術後の癒着形成を予防することができる手段を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、ペプチドの治療効果を増強する医薬組成物中に配合されたヒトラクトフェリンに由来する生物学的に活性を有するペプチドを使用して、腹腔内の癒着形成を予防するための新規のアプローチについて述べる。生物学的に活性を有するペプチドは、傷跡形成の最も重要な因子に対して阻害作用を示し、感染症に対するリスクを低減し、炎症を予防し、線維素溶解を促進する。前記ペプチドは、天然の親水性ポリマーであるヒアルロン酸と共に配合され、薬物の徐放を提供し、物理的バリヤーの効果による最終的な結果に寄与する。抗癒着薬の臨床効果に対する適切な非臨床的予測因子として一般的に適用されているラットの側壁欠損盲腸を使用して、ヒアルロン酸中に配合されたヒトラクトフェリンに由来する生物学的に活性を有するペプチドが、手術後の腹腔内の癒着を有意に減少させることが示される。ヒアルロン酸中に配合された場合のペプチドの改善された効果は、予想外であり、ペプチドの効果とヒアルロン酸の効果が別々に与えられた場合と比較して、有意に相乗的である。
【0009】
従って、本発明は、生物学的に活性を有するペプチド、特にヒトラクトフェリンに由来するペプチドの治療効果を増強する医薬組成物に関する。
【0010】
本発明の一側面は、創傷、傷跡、および手術後の癒着を治療および/または予防するための医薬組成物であって、i)ヒトラクトフェリンに由来する1つ以上の生物学的に活性を有するペプチドと、ii)高分子量ヒアルロン酸とを含む医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明の他の側面は、創傷、傷跡、および手術後の癒着を治療および/または予防するための医薬組成物の製造における、i)ヒトラクトフェリンに由来する1つ以上の生物学的に活性を有するペプチドと、ii)高分子量ヒアルロン酸とを含む医薬組成物の使用を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の側面は、創傷、傷跡、および手術後の癒着を治療、予防および/または防止するための方法であって、i)ヒトラクトフェリンに由来する1つ以上の生物学的に活性を有するペプチドと、ii)高分子量ヒアルロン酸とを含む医薬組成物を、そのような治療を必要とする対象に対して投与することを含む方法を提供する。
【0013】
「ヒトラクトフェリンに由来する生物学的に活性を有するペプチド」は、その一部または全体がヒトラクトフェリンの配列に由来する少なくとも1つの配列モチーフ(sequence motif)を含む生物学的に活性を有するペプチドを意味し、この配列モチーフは、1つ以上のアミノ酸置換を含んでよい。
【0014】
「生物学的に活性を有する」ペプチドは、抗炎症活性、免疫調節活性、線維素溶解活性、抗血管形成活性、および抗微生物活性(例えば、抗菌活性、抗ウイルス活性もしくは抗真菌活性)のような1つ以上の活性を有するペプチドを意味する。
【0015】
本発明に使用するのに適した生物学的に活性を有するペプチドは、例えば、PCT/EP2008/064062、PCT/EP2008/065186、WO 00/01730、対応するEP 1095061およびUS 7253143に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
生物学的に活性を有するペプチドは、以下に示すアミノ酸配列を含むペプチドから選択されてよい:
Phe-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-Lys-Val-Arg (SEQ ID NO:1)
上記において、アミノ酸X1はGlnまたはAlaであり、アミノ酸X2はTrpまたはLeuであり、アミノ酸X3はGln、Ala、Orn、NleまたはLysであり、アミノ酸X4はArg、AlaまたはLysであり、アミノ酸X5はAsn、Ala、OrnまたはNleであり、アミノ酸X6はMet、AlaまたはLeuであり、アミノ酸X7はArg、AlaまたはLysである。
【0017】
好ましくは、生物学的に活性を有するペプチドは、以下の式(I)で表されるペプチドおよび式(II)で表されるペプチドから選択されてよい:
R1-Cys-Phe-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-Lys-Val-Arg-R2 式(I)
式中、R1は、アミノ酸でないか、Lysであるか、またはGly-Arg-Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys(SEQ ID NO:2)およびそのN末端切断断片から選択されるペプチド配列であり、前記N末端切断断片には以下のものが含まれ、
Arg-Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Pro-Glu-Ala-Thr-Lys;
Glu-Ala-Thr-Lys;
Ala-Thr-Lys;
Thr-Lys;
R2は、アミノ酸でないか、Glyであるか、またはGly-Pro-Pro-Val-Ser-Cys-Ile-Lys-Arg(SEQ ID NO:3)およびそのC末端切断断片から選択されるペプチド配列であり、前記C末端切断断片には以下のものが含まれ、
Gly-Pro-Pro-Val-Ser-Cys-Ile-Lys;
Gly-Pro-Pro-Val-Ser-Cys-Ile;
Gly-Pro-Pro-Val-Ser-Cys;
Gly-Pro-Pro-Val-Ser;
Gly-Pro-Pro-Val;
Gly-Pro-Pro;および
Gly-Pro:
【化1】

【0018】
式中、アミノ酸X8は、Gly、Lys、GluまたはAspであり;
X8がGlyである場合、R3はSer-(Arg)n-X9であり、結合αは、Glyのカルボキシル基とSerのアミノ基の間のペプチド結合であり;
X8がLysである場合、R3はX9-(Arg)n-Serであり、結合αは、Lysにおけるε−アミノ基とSerにおけるカルボキシル基の間のアミド結合であり;
X8がGluまたはAspである場合、R3はSer-(Arg)n-X9であり、結合αは、Gluのγ−カルボキシル基とAspのβ−カルボキシル基の間のアミド結合であり;
アミノ酸X9は、アミノ酸でないか、またはGlyであり;
nは1〜10の整数であり、好ましくは2〜6の整数であり、好ましくは4〜6の整数であり、より好ましくは3〜4の整数であり;
R1は、アミノ酸でないか、Cysであるか、またはGly-Arg-Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys(SEQ ID NO:48)およびそのN末端切断断片から選択されるペプチド配列であり、前記N末端切断断片には以下のものが含まれ、
Gly-Arg-Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Arg-Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Arg-Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Arg-Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Arg-Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Ser-Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Val-Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Gln-Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Trp-Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Cys-Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Ala-Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Val-Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Ser-Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Gln-Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Pro-Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Glu-Ala-Thr-Lys-Cys;
Ala-Thr-Lys-Cys;
Thr-Lys-Cys;および
Lys-Cys;
R2は、アミノ酸でないか、Proであるか、またはPro-Pro-Val-Ser-Cys-Ile-Lys-Arg(SEQ ID NO:49)およびそのC末端切断断片から選択されるペプチド配列であり、前記C末端切断断片には以下のものが含まれる:
Pro-Pro-Val-Ser-Cys-Ile-Lys;
Pro-Pro-Val-Ser-Cys-Ile;
Pro-Pro-Val-Ser-Cys;
Pro-Pro-Val-Ser;
Pro-Pro-Val;および
Pro-Pro。
【0019】
より好ましくは、生物学的に活性を有するペプチドは、以下に示すペプチドから選択されてよい:
【化2−1】

【化2−2】

【化2−3】

【化2−4】

【化2−5】

【化2−6】

【0020】
最も好ましくは、生物学的に活性を有するペプチドは、以下に示すペプチドから選択される:
【化3】

【0021】
2つのシステイン残基を含むペプチドは、2つのシステインがシステイン架橋を形成する環状ペプチド構造の形態であってよい。
【0022】
従って、1つの好ましい生物学的に活性を有するペプチドは、以下に示すペプチドである:
【化4】

【0023】
存在する場合、アミノ酸Cysをアセトアミドメチル−システイン(CysMと表す)で置き換え、ペプチドがシステインを含む他のペプチドとジスルフィド架橋を形成するのを妨げることは有益である。
【0024】
本発明の1つの好ましい側面によると、ペプチドのカルボキシ末端はキャップされる、すなわち、カルボキシ末端における遊離COOHが、例えばアミド化によりCONH2に変換される(-NH2と表す)。
【0025】
本発明の他の好ましい側面によると、ペプチドのアミノ末端はキャップされる、すなわち、アミノ末端における遊離NH2基は、例えばアセチル化によりアミドCH3CONH-に変換される(Ac-と表す)。
【0026】
本発明のさらにもう1つの好ましい側面によると、ペプチドのカルボキシ末端およびアミノ末端の両方がキャップされている。
【0027】
本発明によるペプチドがカルボキシ末端および/またはアミノ末端でキャップされていることが記載されている場合、本発明により、対応するキャップされていないペプチドを使用することも可能である。
【0028】
本発明によるペプチドがカルボキシ末端および/またはアミノ末端でキャップされていないことが記載されている場合、本発明により、対応するキャップされたペプチドを使用することも可能である。
【0029】
キャップされた形態の利点は、これらのペプチドのN末端およびC末端アミノ酸は中性であり、電荷を有さない、変化した静電気特性を有することである。レセプターがN末端およびC末端に電荷を有する対応するヒトラクトフェリンの配列に結合することを考えると、キャップされたペプチドは、この点において未変性タンパク質と類似するため、キャップされていないペプチドよりも結合性に優れているべきである。
【0030】
好ましくは、生物学的に活性を有するペプチドは、医薬組成物中に0.1 mg/ml〜100 mg/mlの濃度で存在し、最も好ましくは0.5 mg/ml〜25 mg/mlの濃度で存在する。
生物学的に活性を有するペプチドは、薬学的に許容可能な塩の形態で存在してもよい。
【0031】
好ましくは、高分子量ヒアルロン酸は、300,000 Daより大きな分子量を有し、最も好ましくは800,000 Daより大きな分子量を有する。
好ましくは、高分子量ヒアルロン酸は、医薬組成物中に0.1〜10 % (w/w)の濃度で存在し、最も好ましくは0.5〜2.5 % (w/w)の濃度で存在する。
高分子量ヒアルロン酸は、薬学的に許容可能な塩の形態で存在してもよい。
【0032】
本発明による医薬組成物は、皮膚、筋肉、腱、神経組織、血管、および身体のその他の位置(例えば、目、耳、声帯、手、脊髄、腹腔、胸腔、頭蓋腔、口腔、婦人科処置、子宮内膜症、包茎)における外科的処置に関連する手術後の傷跡、癒着、およびケロイドの形成を予防するために使用され得る。
【0033】
本発明者らは、驚くべきことに、ヒトラクトフェリンに由来するペプチドを高分子量ヒアルロン酸と共に含む医薬組成物として投与した場合に、そのペプチドの生物学的効果が有意に増強され得ることを見出した。
【0034】
この増強は、ヒアルロン酸自体の可能な効果のみから説明できるものではなく、驚くべき相乗効果によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、37℃におけるPXL01負荷ヒアルロン酸ナトリウムゲルの挙動を示す。PXL01の濃度は、1.5%ヒアルロン酸ナトリウム溶液中において6 mg/mlである。累積の薬物放出を、時間tにおける%薬物放出として表した。データは、加える平均トレンドライン(trendline)を動かした3つの独立した製剤の平均±SDVとして示す。
【図2A】図2は、腹腔手術のラットモデルにおける癒着形成のPXL01による予防を示す。(A)盲腸と腹壁の傷害部位の間の癒着形成の発生(各群においてこれらの傷害に関連する壁と壁の(wall to wall)癒着を生じている動物のパーセンテージとして表す)。
【図2B】(B)腹腔において見られる癒着の全数を示す累積スコアリングスケール(平均±SEMとして表す)。
【図2C】(C)Nairスケールによる癒着スコア(平均±SEMとして表し、実施例中にスコアリング基準を挙げる)。
【図2D】(D)各群における腹腔にいずれの癒着も形成されない動物のパーセンテージ。
【図2E】(E)手術後の6日の生存期間の間の体重変化(最初の体重のパーセンテージとして表す)。n(対照) = 20、n(dH2O中のPXL01 (6 mg/ml)を0.5 ml、1回投与) = 10、n(dH2O中のPXL01 (2 mg/ml)を0.5 ml、処置に際して、ならびに手術の24時間後および48時間後の3回投与) = 18、n(1.5% ヒアルロン酸ナトリウムの1回投与) = 20、n(1.5 %ヒアルロン酸ナトリウム中のPXL01 (1.5 mg/ml)を1 ml、1回投与) = 10、n(1.5 % ヒアルロン酸ナトリウム中のPXL01 (6 mg/ml)を1.5 ml、1回投与) = 10。統計的な有意性は、Fisherの正確確率検定 (A, D) またはノンパラメトリックMann Whitney検定 (B, C)により評価した。*, p < 0.05; **、p < 0.01は、手術対照群の動物と比較した統計学的な差を示す。Adm:投与、SH:ヒアルロン酸ナトリウム、dH20:蒸留水。
【実施例】
【0036】
実験
ペプチド
実験において、ペプチドPXL01 (SEQ ID NO:56)を使用した。
【0037】
ヒアルロン酸ナトリウムヒドロゲル中のPXL01の調製
塩化ナトリウム溶液に溶解したPXL01を、2.5% ヒアルロン酸ナトリウム溶液に、2/5 PXL01溶液および3/5 ヒアルロン酸ナトリウム溶液の体積比で加え、1.5% ヒアルロン酸ナトリウム中の1.5または6 mg/ml PXL01を得た。混合物を直径2.1 mmの針を通して何度か引っ張って下ろす(draw)ことにより、溶液をホモジナイズした。
【0038】
配合生成物の特徴づけ
PXL01の濃度およびヒアルロン酸ナトリウムにおける均一性は、UV検出器を有する高速液体クロマトグラフィー (Agilent model 1100) を用いて、220 nmにおいて決定した。使用した分析カラムは、Vydac 218TP (C18, 5 μm, 250 × 4.6 mm)であった。使用した移動相(1% アセトニトリルを含む水中の0.1% TFA (溶媒 A) およびアセトニトリル中の0.1% TFA (溶媒 B))を、勾配をつけて、流速1.0 ml/minで流した。希釈したPXL01標準を適用し、検量線を作成した。
【0039】
500 units/mlの酵素活性を有するヒアルロニダーゼ溶液(Streptomyces hyalurolyticus, Sigma-Aldrich, St Louis, MO から購入したHyaluronidase) をサンプル溶液に加えることにより、サンプルを調製した。混合物を室温で2時間撹拌し、必要に応じてサンプルを水中のTFAで希釈し、さらに混合した。サンプルを7000 rpmで5 分間遠心分離し、カラムに注入した。
【0040】
インビトロ放出系の構成
0.25 mlの配合生成物を、組織培養プレート(24-Flat Well Tissue Culture Plate, Techno Plastic Products AG)のウェルに入れ、約1.3 mmの薄膜とした。プレートをサーモスタット (37℃) に1時間入れ、生成物の温度を37℃にした。37℃で再平衡化した0.5 mlの放出媒質 (PBS, pH 7.4)を用いて、ゲルの表面上に慎重に層を作製し、組織培養プレートを恒温振とう器(60 rpm, 37℃)に移した。予め決められた時間間隔で、10 μl アリコートの水溶液を、放出媒質から取り出した。放出されたPXL01の濃度を、分光光度的な測定を用いて、230 nmの波長でモニターした。230 nmにおける吸収の測定は、ペプチドならびに放出媒質中に溶解したヒアルロン酸ナトリウムを検出することができるため、いずれのPXL01も含まない同量のヒアルロン酸ナトリウムを有する対照の放出媒質を使用して、薬物を含むヒアルロン酸ナトリウムと比較した。
【0041】
手術後の癒着予防の評価のための動物モデル
雌のSD系ラット (200-250g, Charles River Laboratories, Sulzfeldt, Germany) を、12時間の明暗サイクルに供し、実験動物の保護のための規制に従って世話をした。実験は、地域の倫理委員会から事前に承認を受けた後に行った。
【0042】
盲腸剥離および腹壁の切除を行い、以前に述べられているように新規の癒着を引き起こした(Harris et al. 1995. Analysis of the kinetics of peritoneal adhesion formation in the rat and evaluation of potential antiadhesive agents. Surgery 117, 663-669)。簡潔に言うと、ラットをイソフルラン(Isoba(登録商標)vet, Shering-Plough Animal Health, Farum, Denmark)で麻酔し、ブプレノルフィン (48 μg/kg, Temgesic, Shering-Plough, Brussels, Belgium) を手術後の鎮痛剤として与えた。5cmの長さの正中線で腹部の切開を行い、壁側腹膜と筋膜の両方を介して、腹膜壁上に長方形の全体に厚みのある傷害 (5 mm × 25 mm)を作った。また、盲腸の両側の漿膜(約10 mm × 15 mmの面積)を、点状出血が表れるまで綿ガーゼを用いてやさしくこすった。ラットを、処置しない対照群と処置群とにランダム化した。傷害からの過剰な出血を除去し、シリンジを用いて試験物質を擦過領域上に適用した。開腹術による傷を連続的な縫合によって閉じ、金属クリップを用いて皮膚を閉じた(Appose ULC35W, TycoHealthcare Group LP, Norwalk, CT, US)。動物は、手術の6日後に、過剰量のペントバルビタールナトリウム(Pentobarbital vet, APL, Stockholm, Sweden)を用いて屠殺した。開腹し、処置がブラインドされた状態で、評価する者が癒着を調べた。腹部切開と擦過した盲腸の間の癒着の発生は、各群において、これらの傷害を結合する壁と壁の癒着を生じている動物のパーセンテージとして定量した。さらに、外科的外傷から離れた癒着を含む腹腔に形成された癒着の全数を総合的に評価するために、2つの異なる類別スキームを使用した。Bothinにより記載された累積スコアリングスケール (Bothin et al. 2001. The intestinal flora influences adhesion formation around surgical anastomoses. Br J Surg 88, 143-145)は、腹腔内に存在する癒着の全数を与えており;1つの点は、観察されたそれぞれの融合に対応し、点を加えることによりスコアを得る。Nairによる癒着スコアリングスケール (Nair et al. 1974. Role of proteolytic enzyme in the prevention of postoperative intraperitoneal adhesions. Arch Surg 108, 849-85)は、癒着の全数と標的臓器間の癒着の発生の両方を実現するが、より高度な類別は後者について得られる(0, 癒着なし; 1, 内臓から標的臓器の単一帯域の癒着; 2, 内臓から標的臓器の2つの帯域の癒着; 3, 内臓から標的臓器の3つ以上の帯域の癒着;4, 腹壁への内臓の直接的な癒着、癒着帯域の数および範囲は無関係)。最後に、いずれかの腹部の癒着がないラットのパーセンテージを、各群について評価した。腹膜の炎症(紅斑および/または浮腫)あるいは破壊された創傷の治癒のいずれかの考えられる徴候を、剖検と関連して記録した。健康に対する一般的なマーカーとして、手術前および手術後6日間の動物の体重を比較した。
【0043】
ラットにおける大腸吻合
雌のSD系ラット (200-250 g, Charles River Laboratories, Sulzfeldt, Germany) を、12時間の明暗サイクルに供し、実験動物の保護のための規制に従って世話をした。実験は、地域の倫理委員会から事前に承認を受けた後に行った。麻酔は、イソフルラン(Isoba(登録商標)vet, Shering-Plough Animal Health, Farum, Denmark)で行い、ラットは、手術後の鎮痛剤としてブプレノルフィン (48 μg/kg; Temgesic, Shering-Plough, Brussels)の筋肉内注射を受け、手術の前にビモトリム(Bimotrim)(80 mg/kg; Bimeda, UK,)の皮下注射を受けた。
【0044】
腹壁を剪毛し、約3 cmの正中線開腹術を行った。大腸を露出させ、盲腸の末端を2 cm切除した。漿膜筋層(seromuscular)の末端と末端の吻合を、6/0モノクリル(monocryl)(Y432H, Ethicon Inc, St-Stevens Woluwe, Belgium)針を用いて、8の結節縫合で行った。縫合の間、吻合におけるステントとして、マカロン(macaroon)を大腸中に設置した。ラットを、吻合を覆って腹膜の周囲に1.5 %ヒアルロン酸ナトリウム中のPXL01 (6 mg/ml) を投与される群 (n=8) と、処置を受けない群 (n=8)とにランダムに分けた。筋層を連続縫合し (4-0 モノクリル, Y3100H, Ethicon Inc.)、皮膚をホッチキスで止めることにより腹部を閉じた。2 mlの等張生理食塩水を皮下投与し、脱水を予防した。
【0045】
動物に、手術後の2日間、1日2回、付加的な量のブプレノルフィン(24 microg/kg; Temgesic, Shering-Plough, Brussels)を皮下投与した。手術の7日後に、過剰量のペントバルビタールナトリウム(Pentobarbital vet, APL, Stockholm, Sweden)を用いて、動物を屠殺した。開腹し、4 cmの長さの腸の断片を、真ん中に位置する吻合領域と共に切除した。圧力モニターに連結されたチューブを、腸の断片の一方の側に挿入し、他方の側は末端を結紮した。腸の断片を直ちに等張の塩化ナトリウム下に位置させ、染色した生理食塩水をチューブを通して腸の断片に注入し、グラスレコーダー(Grass Instruments Co, Quincy, Ohio, USA)を用いて腸内の圧力をモニターした。吻合の破裂前の最大圧力を、破裂圧力として記録した。吻合の周りに染色した生理食塩水が現れることにより、破裂の時間点を示した。各動物が受けた処置について、評価する者はブラインドされた状態であった。
【0046】
結果
ヒアルロン酸ナトリウム中のPXL01の放出挙動
塩化ナトリウム溶液に溶解したPXL01をヒアルロン酸ナトリウム溶液と混合することにより、均一なPXL01含有ヒドロゲルを得た。インビトロ放出実験は、ヒアルロン酸ナトリウムゲル製剤からのPXL01の突発的な放出を明らかにし、1時間以内に約70%のPXL01が放出された(図1)。初期の破裂により特徴づけられる放出挙動は、ヒアルロン酸ナトリウム中に配合された他の可溶性化合物についても既に示されている(Sherwood et al. 1992. Controlled antibody delivery systems. Biotechnology (N Y) 10, 1446-1449)。これは、薬物送達の間の初期の用量を提供し、遅延期間を最小化するために機能的に使用され得る。重要なことは、3つの独立した状況で調製された配合生成物からのPXL01の放出プロフィールの大部分が重複していることであり、これは、PXL01が負荷されたヒアルロン酸ナトリウムゲルの調製が再現性に優れていることを意味する(図1)。
【0047】
PXL01による腹膜癒着の予防
側壁を欠損した盲腸擦過ラットモデル(上述したArnold et al.)を使用して、PXL01の抗癒着効果を明らかにした。このモデルは、処置されない場合に2つの傷害された表面の間に確実且つ安定した癒着を生じ、対照群のラットの85%が、直接の盲腸−腹膜壁の癒着を生じた(図2A)。3 mgのPXL01を含む水溶液を手術に関連して単一用量で投与した場合、癒着形成における有意な減少は観察されなかった(図2A−D)。しかしながら、1 mgのPXL01を含む水溶液を3回投与して動物を処置した場合、対照群のラットと比較して、癒着形成が著しく減少した(図2A、C)。これらの結果は、手術領域におけるPXL01のゆっくりとした放出が、ペプチド水溶液で1回だけ処置した場合と比較して有益であることを示す。
【0048】
ヒアルロン酸ナトリウムは、PXL01の徐放を達成するためのキャリアとして選択した。PXL01は容易に溶解し、ヒアルロン酸ナトリウム中で十分に安定であるように思われ、PXL01含有ヒアルロン酸ナトリウムヒドロゲルは、生体付着性であり、シリンジを用いて手術領域に容易に適用することもできる。PXL01を1.5 %の高分子量ヒアルロン酸ナトリウム製剤中に適用した場合、腹部の癒着形成は、対照群と比較して有意に減少した。累積的な癒着のスコアリングスケール(図2B)によると、4倍の減少が見られ、Nairの癒着スコア(図2C)によると、3倍以上の減少が見られた。ヒアルロン酸ナトリウム中の6 mg/ml PXL01で処置した動物の60%は完全に癒着が生じず、対照群の動物の5%およびヒアルロン酸ナトリウムで処置した群の動物の20%と比較して高かった(図2D)。いくつかのスコアリングスケールによると、ヒアルロン酸ナトリウム自体が癒着形成を減少させたが、これはおそらく物理的なバリヤー効果によるものである (Burns et al. 1995. Prevention of tissue injury and postsurgical adhesions by precoating tissues with hyaluronic acid solutions. J Surg Res 59, 644-652. )。
【0049】
創傷治癒または検死により評価された腹膜炎症処置に関する研究の間に、処置に関連する有害な効果は記録されなかった。また、処置群におけるラットの平均体重は、手術前の体重と比較して増大したが、対照と比較した場合に統計的な有意差は得られなかった(図2E)。重要なことは、腸吻合術を行う領域の周りに投与されたヒアルロン酸ナトリウム中のPXL01は、手術の7日後に測定した吻合の破裂圧力により見積もられるように、治癒ポテンシャルを低下させなかったことである(処置群 (n=8) 206.3±14.3 mm Hg 、対照群(n=8)197.4±9.6 mm Hg)。
【0050】
癒着を予防するPXL01の能力は、水溶液の場合に限定され(図2A〜D)、それはおそらく、ペプチドが腹膜から急速に除去されるという事実による。しかしながら、ペプチドはヒアルロン酸ナトリウム中に非常に効果的に配合され(図2A〜D)、2つの傷害された表面の間に形成される癒着ならびに適用部位から離れた腹腔の領域に形成される癒着の両方を包含する、異なる類別スケールによる癒着の有意な減少を生じる。細胞外マトリックスの中性成分であるヒアルロン酸ナトリウムは、局所的に異化され、リンパ節または一般的な循環に運ばれ、それから肝臓の内皮細胞により取り除かれる(Fraser et al. 1988. Uptake and degradation of hyaluronan in lymphatic tissue. Biochem J 256, 153-158; Laurent & Fraser 1992. Hyaluronan. Faseb J 6, 2397-2404.)。ヒアルロン酸ナトリウムは、徐放を介して薬物の局所濃度を維持することにより、PXL01の効果を増強するように思われる。インビトロでの実験において、相対的に短期間でのヒアルロン酸ナトリウムからのPXL01の放出は(図1)、インビボで癒着の予防に必要とされる薬物放出の期間がより限定され得ることを提唱する。これは、腹腔での癒着形成における重大な事象は始めの36時間以内に生じるという以前の知見と一致する(Harris et al. 1995. Analysis of the kinetics of peritoneal adhesion formation in the rat and evaluation of potential antiadhesive agents. Surgery 117, 663-669.)。以前に、微小粒子に基づくいくつかのキャリアシステムが癒着を誘導し、または炎症を引き起こすことが示されている(Hockel et al. 1987. Prevention of peritoneal adhesions in the rat with sustained intraperitoneal dexamethasone delivered by a novel therapeutic system. Ann Chir Gynaecol 76, 306-313; Kohane et al. 2006. Biodegradable polymeric microspheres and nanospheres for drug delivery in the peritoneum. J Biomed Mater Res A 77, 351-361)。だるさ、腹膜の炎症または創傷治癒の阻害のような明らかな有害事象は、いずれの濃度でPXL01処理した動物においても見られなかった。屠殺の時に、全ての処置群は手術前の体重を維持しているか、あるいは超えていた(図2E)。重要なことは、腸吻合術を行った領域の周囲に投与されたヒアルロン酸ナトリウム中のPXL01は、吻合の治癒ポテンシャルを妨げなかった。
【0051】
要するに、本発明者らは、手術後の癒着形成の予防におけるラクトフェリン由来ペプチドの生物学的な効果が、ペプチドと共に高分子量ヒアルロン酸を含む医薬組成物として投与した場合に有意に増強され得るという予想外の知見について述べている。その効果は、ペプチドの独立した効果およびヒアルロン酸の独立した効果と比較して、有意に相乗的である。以前に、微小粒子に基づくいくつかのキャリアシステムが癒着を誘導し、または炎症を引き起こすことが示されている(上記Hockel et al. 1987.; 上記Kohane et al. 2006. )。また、癒着予防のための物理的バリヤーの出願においては、創傷治癒の過程を妨害することにより、吻合漏出のような有害な影響を導くことが示されている(上記diZerega et al. 2002.)。本研究においては、ヒアルロン酸ナトリウムが癒着を増大させないだけでなく、癒着予防においてラクトフェリンペプチドと相乗的に作用することを示した。重要なことは、ヒアルロン酸ナトリウム中のペプチドの投与が、吻合の治癒に関するいずれかの安全性に対する関心を伴わず、それ故、ここで示した生成物は、以前に開示されている抗癒着剤と比較して優れた安全性プロフィールを示したということである。ペプチド負荷したヒアルロン酸ナトリウムゲルは、扱いやすく、投与しやすく、開腹術または腹腔鏡検査に適合する。合わせて考えると、本発明の生成物は、治癒においていずれかの有害な影響を及ぼすことなく、手術部位に形成される癒着のみならず、外科的処置の間の意図しない組織傷害により手術に直接的には関係ない部位に形成される新規の癒着についても予防する、総合的な癒着予防方法を提供することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)アミノ酸配列Phe-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-Lys-Val-Arg (SEQ ID NO:1)を含む1つ以上の生物学的に活性を有するペプチド
(ここで、アミノ酸X1はGlnまたはAlaであり、アミノ酸X2はTrpまたはLeuであり、アミノ酸X3はGln、Ala、Orn、NleまたはLysであり、アミノ酸X4はArg、AlaまたはLysであり、アミノ酸X5はAsn、Ala、OrnまたはNleであり、アミノ酸X6はMet、AlaまたはLeuであり、アミノ酸X7はArg、AlaまたはLysである)
および
ii)高分子量ヒアルロン酸または高分子量ヒアルロン酸の薬学的に許容可能な塩
を含む医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記生物学的に活性を有するペプチドは、アミノ酸配列SEQ ID NO:4を含むペプチドである医薬組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の医薬組成物であって、前記生物学的に活性を有するペプチドは、2つのシステインがアミノ酸配列SEQ ID NO:56を含むシステイン架橋を形成する環状ペプチドである医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記生物学的に活性を有するペプチドは、アミノ酸配列SEQ ID NO:50を含むペプチドである医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記高分子量ヒアルロン酸は、300,000 Daより高い平均分子量、最も好ましくは800,000 Daより高い平均分子量を有する医薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記ペプチドは、0.1 mg/ml 〜100 mg/mlの濃度、最も好ましくは0.5 mg/ml〜25 mg/mlの濃度で存在する医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記ヒアルロン酸は、0.1〜10 % (w/w)の濃度、最も好ましくは0.5〜2.5 % (w/w)の濃度で存在する医薬組成物。
【請求項8】
創傷、傷跡、および手術後の癒着の治療および/または予防のための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
創傷、傷跡、および手術後の癒着の治療および/または予防のための医薬組成物を製造するための
i)アミノ酸配列Phe-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-Lys-Val-Arg (SEQ ID NO:1)を含むラクトフェリンに由来する生物学的に活性を有するペプチド、および
ii)高分子量ヒアルロン酸
の使用。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物をそれを必要とする患者に投与することを含む、創傷、傷跡、および手術後の癒着を治療、予防および/または防止するための方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与することを含み、前記投与により手術後の癒着形成が低減する、手術後の癒着形成を低減する方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与することを含み、前記投与により傷跡の形成が低減する、傷跡の形成を低減する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【公表番号】特表2012−515151(P2012−515151A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544890(P2011−544890)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050284
【国際公開番号】WO2010/081800
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(510126368)ファーマサージクス・イン・スウェーデン・エービー (2)
【氏名又は名称原語表記】PharmaSurgics in Sweden AB
【住所又は居所原語表記】Arvid Wallgrens Backe 20, 413 46 GOETEBORG, Sweden
【Fターム(参考)】