創傷の治癒を促進する方法
本開示は、創傷の治癒を促進し、瘢痕形成を低減するための、リラキシンを投与する方法に関する。本開示はさらに再建および形成手術でのリラキシンの使用も意図する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年5月16日に出願された米国仮特許出願第61/127,947号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張するものであり、すべての目的のために全体を参照によって本明細書に引用したものとする。
【0002】
分野
本開示は、創傷の治癒を促進し、瘢痕形成を低減する方法に関する。本明細書に記載される方法には、リラキシンの投与が用いられる。
【背景技術】
【0003】
創傷は、目立つ外観の悪い瘢痕を残して治癒することが多く、結果としてもたらされる組織は通常、周囲の組織より弱い。それは、コラーゲンが本来の配向で治癒しないためである。例えば、盛り上がった瘢痕の形成を低減するために皮膚の表面にシリコンシートを貼るなどの、創傷の治癒を増進し瘢痕形成を低減するさまざまなアプローチが試みられてきた。いくつかの局所用クリームおよびゲルも瘢痕の外観を改善すると主張する瘢痕用の治療薬として販売されている。しかしながら、これらのアプローチの多くは、主張した解決をもたらせない。例えば、瘢痕の低減を促進する局所用クリームは、盲検試験が行われても有効性が示されていない。これは、局所用クリームが創傷後に再形成されるコラーゲンネットワークについて対処していないためである。
【0004】
米国で2004年に合計4200万の外科手技に対して行われたThe Mattson Jackグループによる市場調査によると、34パーセントの患者で治癒が損なわれているリスクが高かった。この調査によると、市場で現在受けられる治療に対しての満足度は低く、外科的な治癒を加速する治療薬に対して関心が高いことが示された。よって、創傷の治癒を促進するための効果的な薬物療法を提供することに対してはっきりとした市場ニーズが存在している。特に、急性創傷(例えば、穿通創、熱傷、神経損傷または選択的手術によって生じる創傷も)、慢性創傷(例えば、糖尿病性、静脈性および褥瘡性潰瘍など)の場合または全般的に治癒に障害のある個人(例えば、高齢者もしくは糖尿病の個人)にとって、治癒速度を速めることが望ましいことが多い。これらの例すべてにおいて、創傷は、個人のクオリティオブライフに重大な影響を及ぼす可能性があり、または結果として死に至ることさえある。例えば、創傷部の細菌感染により、治癒過程が妨害され、生命を脅かす合併症に至ることがある。よって、臨床的に可能な限り治癒速度を速めることが望ましい。
【0005】
創傷の治癒過程は、負傷した瞬間から始まり数か月から数年間続くこともある複雑な一連の事象である。特に成人の組織における創傷の治癒は複雑な修復過程である。例えば、皮膚の治癒過程には、創傷部に対する特殊化したさまざまな細胞のリクルート、細胞外マトリックスおよび基底膜の沈着、血管形成、特異的プロテアーゼ活性ならびに再上皮化が含まれる(SingerおよびClark、The New England Journal of Medicine、341:738〜743ページ、1999年)。
【0006】
創傷の治癒過程には明確な3つの段階がある。第1に、一般に創傷が生じた瞬間から最初の2から5日までに起こる炎症期には、血小板が凝集して顆粒が沈着する。これが、フィブリンの沈着を促進して、増殖因子の放出を刺激する。白血球が創傷部に移動し、消化を開始し、創傷から壊死組織片を運び去る。この炎症期の間、さらに単球がマクロファージに転換され、血管形成および線維芽細胞の生成を刺激する増殖因子を放出する。
【0007】
第2に、一般に2日から3週までに起こる増殖期には、肉芽組織が形成され、上皮化が始まる。この段階で重要な細胞の種類である線維芽細胞は、増殖し、コラーゲンを合成して創傷を塞ぎ、上に上皮細胞が増殖する強いマトリックスを提供する。線維芽細胞がコラーゲンを生成するにつれ、近くの血管から新生の血管が伸びて、再生組織に栄養分が供給される。血管のこの赤いループにより、創傷が粒状に見えることから、「肉芽形成」組織と呼ばれる。上皮化には、創傷表面から上皮細胞が移動して創傷を塞ぐことが含まれる。同種の細胞同士が接触する必要性により上皮細胞が動かされ、それらの細胞が上を移動する格子として機能する、フィブリン鎖のネットワークによって誘導される。筋線維芽細胞と呼ばれる収縮性細胞が創傷に現れ、創傷閉鎖を助ける。筋線維芽細胞は、コラーゲン合成および収縮性を示し、創傷の肉芽形成時に一般的である。
【0008】
第3に、3週から最大数年までに起こることがある、創傷の治癒の最終段階である再構築期には、瘢痕でコラーゲンの分解と再合成とが繰り返される。この段階の間に、新たに形成された皮膚の抗張力が増す。
【0009】
一方、創傷の治癒の速度が増すと、瘢痕形成の増加を伴うことが多い。瘢痕化は、大部分の成体動物および成人ヒトの組織での治癒過程の結果である。瘢痕組織は、通常、機能的質が劣っているため、瘢痕組織が取って代わる組織と同一ではない。例えば、皮膚の瘢痕は紫外線照射に対しての抵抗性が低く、瘢痕組織内では汗腺および毛包がもとの状態には戻らない。瘢痕の種類には萎縮性、肥厚性およびケロイド性瘢痕ならびに瘢痕拘縮が挙げられるが、これらに限定されるものではない。萎縮性瘢痕は、平らで、くぼみまたは穴のように周辺の皮膚より下に陥没している。肥厚性瘢痕は、本来の損傷の境界内にとどまっている隆起した瘢痕であり、異常なパターンで配列された過剰なコラーゲンが含まれることが多い。ケロイド性瘢痕は、本来の創傷の周縁部を越えて広がり部位特異的に周囲の正常な皮膚に浸潤する隆起した瘢痕であり、異常な様式で配列した渦巻き状のコラーゲンが含まれることが多い。瘢痕拘縮は、関節をまたぐか、または皮膚が直角にしわになる瘢痕であり、縮みまたは拘縮に発展する傾向がある。瘢痕拘縮は、瘢痕が完全にできあがっていないうちに生じ、肥厚する傾向が高く、一般に障害を引き起こし機能障害をもたらすものである。瘢痕化は、虚血性または線条であることもある。虚血性の瘢痕(Ischemic scar)は、局所的に血液供給が不足することにより生じる。線条瘢痕は、皮膚が急速に伸展する場合(例えば、妊娠中の著しい体重増加もしくは青年期の急成長)、または治癒過程中に皮膚が張力を受けている場合(通常、関節付近)に形成される。通常、この種類の瘢痕は、数年後には外観が改善される。
【0010】
一方、正常な皮膚はかごの編目状に配列されたコラーゲン線維からなり、これが真皮の強度および弾力性の双方をもたらす。したがって、より順調な創傷の治癒過程を達成するためには、コラーゲン生成を刺激するだけでなく、瘢痕形成を低減するためにより組織化された配列でコラーゲンが横たわるアプローチが望ましい。本開示は、満たされていないこの需要に対処するものである。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、概して創傷の治癒を改善し、瘢痕形成を低減する方法を提供する。本開示の態様は、外傷または創傷の治癒を促進する方法、創傷の再上皮化を促進する方法、創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減する方法、創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止する方法、皮膚創傷の、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制する方法ならびに損なわれた外観(appearance of disfiguration)を改善する方法に関する。
【0012】
創傷は、切開、引き裂き、擦過、穿刺、貫通、銃撃、刺すことならびに顔面および全身の、形成および再建手術によって生じることもある。創傷の治癒を増進し、瘢痕形成を低減するために、シリコンシートおよび局所用クリームなどのさまざまなアプローチが試みられてきたが、これらのアプローチの多くは望ましい効果を達成できない。したがって、本開示は、この需要に対処する新しい治療的アプローチを提供する。この開示の利点の1つは、リラキシンが創傷の治癒速度を増加させることである。本開示の別の利点は、リラキシンが創傷部の強度を改善することである。さらに別の利点は、リラキシンの投与により瘢痕形成を低減する抗線維症作用を刺激し、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制することが含まれる。
【0013】
リラキシンの投与により創傷の治癒は著しく増進される。例えば、齧歯類において、ラットではリラキシンの全身投与がVEGFおよびbFGF転写物のアップレギュレーションに関与し、負傷した部位における新しい血管の形成を選択的に増加させる(Unemoriら、Wound Repair and Regeneration、8:366〜368ページ、2000年)。しかしながら、齧歯類の創傷の治癒メカニズムは、ブタおよびヒトの創傷の治癒メカニズムとは異なる。したがって、本開示の利点は、本開示が、創傷の治癒を促進するためおよび瘢痕形成を低減するために、安全で効果的な方法で動物(ブタなど)およびヒトの皮膚にリラキシンを投与する方法を提供することである。
【0014】
前述の各方法について、外傷あるいは創傷(開放創、閉鎖創、切創または顔面の形成手術もしくは全身の形成手術によって生じた創傷であってもよい)のある動物またはヒト対象(糖尿病の対象を含む)を選択し、外傷または創傷の治癒を促進するのに有効な量の薬学的に許容可能なリラキシンを含む医薬製剤を投与する。特定の実施形態では、外傷は切創(表皮の切開創であってもよい)または創傷(開放もしくは閉鎖であってもよい)である。開放創の例としては、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および刺創が挙げられるが、これらに限定されるものではない。閉鎖創の例としては、挫傷または血腫が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、創傷の治癒、再上皮化、または治癒時の瘢痕化の低減が加速される。他の実施形態では、創傷は、全体がもしくは部分的に痂皮で覆われているか、活性な線維芽細胞を含むか、または急性もしくは慢性創傷である。さらに別の実施形態では、切創は表皮の切開創である。
【0015】
本開示の前述の態様について他の実施形態では、創傷は顔面の形成手術または全身の形成手術などの美容整形手術によって生じたものであってもよい。顔面の形成手術の例としては、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復(resurfacing)、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。全身の形成手術の例としては、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
特定の実施形態では、特定の受容体を調節することにより、対象の創傷もしくは切創の治癒の促進、創傷の再上皮化の促進、創傷の治癒時の瘢痕化の低減もしくは防止または創傷の、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成の抑制が起こる。特に、LGR7およびLGR8受容体は、リラキシンの結合によって活性化され、この結合が一酸化窒素(NO)の生成を引き起こす。他の実施形態では、外傷部のまわりの血管拡張を増大すること、創傷部で組織の肉芽形成を低減すること、創傷部で慢性炎症を低減すること、創傷部で壊死を低減すること、創傷部でコラーゲンの組織化を増進すること、創傷部の組織構造を改善すること、創傷部の強度を増すことおよびそれらの組合せによってリラキシンが創傷または切創の治癒を促進する。前述の方法は、皮膚創傷の再上皮化を促進すること、瘢痕化を低減すること、瘢痕化を防止することならびに線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制することをさらに含む。特定の実施形態では、再上皮化には、創傷部のまわりの血管拡張を増大すること、創傷部で組織の肉芽形成を低減すること、創傷部で慢性炎症を低減すること、創傷部で壊死を低減すること、創傷部でコラーゲンの組織化を増進すること、創傷部の組織構造を改善することおよび/または創傷部の強度を増すことが含まれるが、これらに限定されるものではない。他の実施形態では、皮膚創傷の再上皮化は、さらに瘢痕化を低減する、瘢痕化を防止するかつ/または線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制する。
【0017】
本開示の医薬製剤に使用されるリラキシンは、例えば、合成または組換え型リラキシンが可能である。一実施形態では、リラキシンはヒトリラキシンである。本開示の別の実施形態では、リラキシンは、H2ヒトリラキシンである。さらに別の実施形態では、リラキシンは、合成または組換え型H2ヒトリラキシンである。このように、合成または組換え型ヒトリラキシンの医薬製剤で対象を治療することができる。本開示の別の実施形態では、合成H2ヒトリラキシンで対象を治療する。さらに別の実施形態では、組換え型H2ヒトリラキシンで対象を治療する。
【0018】
リラキシンは、以下に限定されるものではないが、局所、皮下、全身、筋肉内、舌下、静脈内、吸引、注入、洗浄および/または浸透圧ポンプ(例えば、マルチチャンバー型浸透圧ポンプシステム(multi-chamber osmotic pump system))などの多くの異なる経路によって対象に投与することができる。例えば、局所送達には以下に限定されるものではないが、ローション、ゲル、クリーム、溶液および包帯(リラキシンが包帯のガーゼに送達され、湿潤創傷に適用されると創傷部に放出されることになる)が含まれうる。特定の実施形態では、徐々に速度を遅くしてリラキシンを投与した。リラキシンの血清中濃度を約0.5から約500ng/mL、より好ましくは約0.5から約300ng/mLおよび最も好ましくは約3から約75ng/mLに維持するよう、速度をあらかじめ決定できる。可能な範囲は約1から約50ng/mLであり、好ましい血清中濃度は20ng/mLである。他の実施形態では、リラキシンが1日あたり対象の体重をもとに約10から1000μg/kgの範囲の量で投与される。さらに別の実施形態では、リラキシンの用量は、10、30、100および250μg/kg/日である。さらに別の実施形態では、これらの用量は、それぞれ約3、10、30および75ng/mLのリラキシンの血清中濃度をもたらす。さらに別の実施形態では、1日あたり体重をもとに約960μg/kgとしてリラキシンが投与されることが好ましい。いかなる用量レベルについても、治療効果が得られるのに十分な期間にわたってリラキシンが投与されてもよい。
【0019】
特定の実施形態では、上記の方法には、治癒を加速するために創傷を洗浄することを含めてもよい。リラキシンは、薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤とともに投与することができ、ローション、ゲル、クリームおよび/または溶液の形態で組み合わされてもよい。他の実施形態では、リラキシンは、創傷浸透促進剤(wound penetration enhancer)と組み合わせて投与される。リラキシンは、NSAIDまたは抗生物質などの少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。さらに別の実施形態では、治療効果が得られるのに十分な期間にわたってリラキシンが投与される。
【0020】
本開示の他の態様は、外傷を治療する方法、創傷を再上皮化する方法、皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止または低減する方法であって、薬学的に活性な合成ヒトリラキシンが対象に投与される方法を提供する。これには、1日あたり体重をもとに約10から約1000μg/kgの範囲の用量を含む注入可能な製剤が含まれ、リラキシンは治療効果が得られるのに十分な期間にわたって投与される。一実施形態では、対象はヒト対象である。他の実施形態では、外傷は、表皮の切開創であることもある切創、または開放もしくは閉鎖であることもある創傷である。開放創の例としては、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および/または刺創が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに別の実施形態では、製剤は注入可能なものである。
【0021】
さらに別の態様では、本開示は、皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止または低減する方法であって、薬学的に活性な合成ヒトリラキシンが1日あたり体重をもとに約10から約1000μg/kgの範囲の量で対象に投与され、対象において治療効果が得られるのに十分な期間にわたって投与され続ける方法を提供する。一実施形態では、対象はヒト対象である。別の実施形態では、創傷は、開放創または閉鎖創である。さらに別の実施形態では、開放創には、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および刺創が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに別の実施形態では、瘢痕化には、ケロイド、肥厚性、虚血性および線条が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに別の実施形態では、まず既存の瘢痕組織が取り除かれる。さらに別の実施形態では、製剤は注入可能なものである。
【0022】
本開示は、上述のとおり、(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の外傷の治癒を促進するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷の治癒を促進するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷の再上皮化を促進するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷の、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制するために用いるリラキシン;ならびに(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の損なわれた外観を改善するために用いるリラキシンをさらに包含する。
【0023】
本開示は、さらに皮膚創傷の表面的外観(cosmetic appearance)を改善する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して改善された表面的外観を有する治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、周辺の皮膚とのより近い色の一致を含む(より滑らかな質感、周辺の皮膚の歪みの低減、周辺の皮膚に対するより良い外形および包括的な症状がないこと)。いくつかの好適な実施形態では、改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものをさらに含む。いくつかの実施形態では、リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンはH1、H2またはH3ヒトリラキシンであり、他の実施形態では、リラキシンは、リラキシン作動薬である。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、対象に全身投与され、かつ/または皮膚創傷に局所投与される。いくつかの実施形態は、皮膚創傷を洗浄することをさらに含む。さらに、いくつかの実施形態では、医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、治癒能力が損なわれた(例えば、糖尿病の、高齢の)ヒト対象である。
【0024】
さらに、本開示は、皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して瘢痕化が低減された治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、瘢痕化は、ケロイド、肥厚性瘢痕および線条からなる群から選択される。いくつかの好適な実施形態では、本方法は、デブリードマンまたは既存の瘢痕組織の除去をさらに含む。いくつかの実施形態では、リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである。いくつかの実施形態では、リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンであり、他の実施形態では、リラキシンは、リラキシン作動薬である。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、対象に全身投与され、かつ/または皮膚創傷に局所投与される。いくつかの方法は、皮膚創傷を洗浄することをさらに含む。さらに、いくつかの実施形態では、医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、治癒能力が損なわれた(例えば、糖尿病の、高齢の)ヒト対象である。
【0025】
本開示は、さらに創傷の治癒を促進する方法であって、創傷の治癒を促進するのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を創傷を有する対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、創傷は、形成手術によって生じるものである。いくつかの実施形態では、形成手術は、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛からなる群から選択される顔面の形成手術である。他の実施形態では、形成手術は、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントからなる群から選択される全身の形成手術である。いくつかの実施形態では、リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンであり、他の実施形態では、リラキシンは、リラキシン作動薬である。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、全身および/または局所投与される。さらに、いくつかの好適な実施形態では、医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、治癒能力が損なわれた(例えば、糖尿病の、高齢の)ヒト対象である。
【0026】
本開示は、好適な実施形態を説明するのに役立つ添付の図とともに読むと、最もよく理解される。ただし、当然のことながら、本開示は図に開示した特定の実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1A:大きさおよび形状がインスリンと類似したペプチドホルモンであるH2リラキシンを示す図である。図1B:ヒトリラキシン2(H2)のB鎖(配列番号:1)およびA鎖(配列番号:2、Xはグルタミン酸[E]またはグルタミン[Q]を表す)のアミノ酸配列である。
【図2】図2A:ブタの創傷の位置を示す図である。図2B:生きたブタの創傷の位置を示す写真である。
【図3】リラキシンおよびプラセボによる6週間の処置後における若齢ブタの背中の創傷部の写真である。区分3は、最初の1週間、リラキシンで洗浄され、続いて2〜6週目の間、高用量のリラキシン局所製剤で処置された。区分4、5および6は1週目の間は洗浄されなかった。区分4は、プラセボで処置された。区分5は、低用量の局所製剤で処置され、区分6は、高用量の局所製剤で処置された。
【図4】6日後の創傷の外観の変化を示す写真である。(A)上の写真は、対照ブタの皮膚を示す。(B)下の写真は、全身性リラキシンが適用された、処置されたブタの皮膚を示す。図からわかるように、リラキシンで処置された創傷は、対照ブタと比較して治癒がより速く良好で、治癒後の皮膚の外観がより滑らかに見える。
【図5】皮膚の表面的外観の視覚的評価を示すグラフであり、(A)審美的点数(cosmetic score)を示し、(B)周辺の皮膚との色の一致についての点数を示す。両方の点数は、4および6週目につけた。
【図6】6週間の処置後における若齢のブタの創傷部を示す写真である。矢印で示された領域は以下を示す。(A)皮膚が全身性リラキシンで処置された場合の瘢痕が目立たない領域、および(B)皮膚がプラセボで処置された場合の赤い瘢痕が目立つ領域。写真の両側にある黒いマークは本来の創傷の範囲を示す。写真にある目立つ痂皮は、試験中にパンチバイオプシーを採取した場所を示す。
【図7】リラキシンで処置した後の創傷部を示す病理組織学的スライドである。
【図8】リラキシン処置した肉芽組織とリラキシン処置していない肉芽組織を比較した若齢のブタにおける創傷部の2枚の病理組織学的スライドである。左側のスライド(リラキシン処置なし)では重度の瘢痕化が観察され、右側のスライド(リラキシン処置あり)では軽度の瘢痕化が観察された。スライドは、創傷を受けて6週間後に見られる広範囲に及ぶ肉芽組織を示している。スライドは、さらに肉芽組織の量を低減するリラキシンの効果(右)および結果として正常な外観に回復した組織を示している。
【図9】6週間後の創傷部の肉芽組織の量(左)および炎症(右)の採点(盲検法による評価)を示すグラフである。全身性リラキシン処置した創傷(赤)は、全身性リラキシン処置していない創傷(青)より肉芽組織または炎症が有意に低減された。これは、全身送達によりリラキシンで処置されると創傷部がより良好に変化することを示している。
【図10】創傷治癒の評価に使用されたコラーゲン修復のスライドである。(A)上側は、相対的に組織化されていないコラーゲンを示している。(B)下側は、良好に治癒したコラーゲンを示している。
【図11】全身性リラキシンを投与されていない創傷(左)と比較して全身性リラキシンで処置された創傷(右)の創傷治癒の複合点数が有意に改善されたことを示すグラフである。創傷の点数は、創傷部におけるコラーゲンの主観的外観に基づく3段階評価であり、数が大きいほど治癒が良好であることを示す。点数「1」は、多くの線維が平行な束の状態でまたは一次元的に配列され、大きさもより小さく、よりきつく固まっていることを指す。「2」は、中程度に線維が配列され編まれていることを指す。「3」は、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されていることを指し、治癒が最も良好であることを示す。
【図12】瘢痕を分類する、瘢痕の新しい採点法を示す顕微鏡写真である。正常な皮膚を(A)、軽度の瘢痕化を(B)、重度の瘢痕化を(C)、瘢痕化を(D)に示す。コラーゲンの束の方向を青、白および橙黄色の色で示している。軽度の瘢痕では、編まれたものは見られるが、細いコラーゲンが含まれている。重度の瘢痕には、主に平面的に配向した非常に細いコラーゲンの束が存在する。スケールは、100ミクロン、コンゴレッド染色、偏光、20×である。
【図13】定量的なコラーゲンの採点法を示す図である。フォトショップソフトウェアを用いて「赤み」の割合の算定が行われる。瘢痕周囲をトレースして、赤い画素の平均数を計算する。隣接した正常な領域をトレースして、赤い画素の平均数を計算する。
【図14】本試験に適用した客観的なコラーゲン採点法の結果を示すグラフである。全身性リラキシンを投与された創傷(右)は、全身性リラキシンを投与されなかった創傷(左)よりコラーゲンが有意により良好に組織化された。
【図15】処置されたイヌの歯肉において注入部位から0.5cm、1.0cmおよび2.0cmの位置で測定した注入後1時間、2時間および4時間において検出されたH2リラキシン(H2 RLX)の濃度を示すグラフである。処置されたイヌの歯肉の評価から、1、2および4時間の3時点のすべてにおいてリラキシン(RLX)が存在していたが、濃度が着実に低下していることが観察された。具体的には、90nM、78nMおよび21nMのH2 RLXがそれぞれ検出された。RLXが歯肉の中を限定的に移動したことが確認された。1時間の時点では、RLXは、注入部位から0.5cmの位置で検出されたが、注入部位から1.0および2.0cmの位置では検出されなかった。残りの時点では、注入部位でのみRLXが検出された。したがって、このグラフにより、注入部位の近くにリラキシンがとどまっていることが明らかに示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
総括
本開示は、外傷または創傷の治癒を促進する方法に関する。本開示は、外傷を治療する方法、創傷の再上皮化を促進する方法ならびに治癒過程で瘢痕化するのを低減および防止する方法を提示する。本開示は、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制する方法ならびに皮膚の損なわれた外観を改善する方法をさらに提供する。特定の実施形態では、本開示の方法は、例えば高齢者などの手術または外傷後の治癒が思わしくない患者ならびに糖尿病患者および免疫低下患者などの併存症のある患者の、創傷の加速および領域の強化に適用するのに特に適している。他の実施形態では、本開示の方法は、美容整形手術に対する適用性が見いだされている。
【0029】
本開示は、創傷の治癒および瘢痕の防止の分野で著しい進歩を提示する。臨床治療の場および臨床治療前の場でリラキシンを創傷に用いると、治癒過程、具体的には再上皮化の速度を加速する。リラキシンによる処置は、瘢痕化の低減および防止においても治療的に有効である。リラキシンが、LGR7およびLGR8などの特異的なG−タンパク質共役型リラキシン受容体を調節できるため、リラキシンのこれらの受容体との結合により、より良好な創傷の治癒および瘢痕の防止をもたらすと考えられている。
【0030】
リラキシンは、血管内皮増殖因子(VEGF)および線維芽細胞増殖因子(FGF)などの血管新生サイトカインを誘導することにより創傷部での新しい血管の成長(血管形成)も促進する。VEGF放出を刺激することにより、内皮細胞の有糸分裂活性および/または移動活性を促進する。さらに、組織の修復に極めて重要なのは、細胞の移動および/または増殖を支持する細胞外骨格を構築することである。多くの細胞タイプのあらゆるものからのFGF放出を刺激すると、線維芽細胞の増殖および移動を促進し、これがコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)成分の生成に関与する。驚くべきことに、本発明者は、リラキシンの約6週間の処置後、創傷部において血管の全般的な減少をもたらす、すなわちリラキシン処置の結果として創傷部に見られる赤みが著しく抑えられることを見いだした。リラキシンは、まずできたばかりの創傷部で新しい血管の成長を促進し、その後、約6週間の処置後にはこれらの新しい血管を減少させ、よりきめ細かく滑らかでより正常に見える皮膚をもたらすため、これは興味深い新規の発見である。
【0031】
定義
「リラキシン」という用語は、当該技術分野で周知のペプチドホルモンを指す(図1を参照)。本明細書で使用される場合、「リラキシン」という用語は、インタクトな完全長ヒトリラキシンまたは生物学的活性を維持しているリラキシン分子の一部などのヒトリラキシンを包含する。「リラキシン」という用語は、合成H2ヒトリラキシンおよび組換え型H2ヒトリラキシンなどの合成ヒトリラキシンおよび組換え型ヒトリラキシンをさらに意図している。この用語は、リラキシン類似体および生物学的活性を維持したその一部、ならびに例えばLGR7受容体またはLGR8受容体などのリラキシン受容体から、結合したリラキシンを競合的に置換する薬剤などの、リラキシン様活性を有する活性薬剤をさらに包含する。さらに、ここで使用される場合、ヒトリラキシンの核酸配列は、ヒトリラキシンH2の核酸配列と100%同一であってはならないが、ヒトリラキシンH2の核酸配列と少なくとも約40%、50%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるとよい。リラキシンは、ここで使用される場合、当業者に周知のいかなる方法で生成されてもよい。そのような方法の例は、例えば、米国特許第5,759,807号ならびにBullesbachら、J Biol Chem、266:10754〜10761ページ、1991年で説明されている。リラキシン分子および類似体の例は、例えば、米国特許第5,166,191号で説明されている。
【0032】
「創傷」という用語は、通常開放創および閉鎖創の両方を指し、以下に定義されるとおりである。創傷はさらに、急性創傷または慢性創傷として分類することができる。急性創傷とは、根本的な治癒の異常はなく、通常健康な個体に手術または外傷に次いで二次的に生じるもので、すぐに完全に治癒する。一方、慢性創傷とは、組織の完全性が失われるものであり、侵襲または外傷によって生じ、長期間継続するか頻繁に再発する。本明細書で使用される場合、「皮膚創傷」という用語は、皮膚の破損を指す。
【0033】
「開放創」という用語は通常、創傷を引き起こした物体により分類される。これには、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創などが含まれる。切開創または切り傷は、ナイフ、カミソリまたはガラスの破片などの刃がきれいで鋭い物体によって生じることもある。表皮のみに関与する切開創は、切創として分類することができる。裂創は、硬組織の上にある軟部組織に対する鈍い衝撃によって生じるか(頭蓋骨を覆う皮膚の裂創など)、または皮膚および他の組織が裂けることによって生じる(出産によって生じるなど)不規則な創傷である。結合組織または血管が下部の硬表面に押しつけられるため、裂創がつながっているように見えることもある。擦過創(擦り傷)は、皮膚の最外層(表皮)が擦りむける表面の創傷であり、ざらざらした表面の上を滑り落ちることによって生じることが多い。穿刺創は、釘または針などの物体が皮膚を貫通することによって生じることもある。貫通創は、ナイフなどの物体が体に刺さることによって生じることもある。射創は、弾丸または類似の発射体が体に打ち込まれるかまたは体を通過することによって生じる。そのような場合、入り口に1つと出口に1つとの2つの創傷が存在することもあり、通常スルーアンドスルー(through-and-through)として知られている。
【0034】
「閉鎖創」という用語は、打撲傷としてより一般的に知られている、鈍器外傷により生じ皮膚の下の組織が損傷する挫傷;血腫(Blood tumor)とも呼ばれる、血管の損傷により生じ、皮膚の下に次々と血液が集まる血腫;および大きなまたは極度の力が長期にわたって与えられたことにより生じることがある圧挫損傷を指す。
【0035】
「瘢痕」という用語は、先に起きた外傷または創傷(例えば、切開創、切除または外傷)により生じる異常な形態構造を指す。瘢痕は、主にコラーゲン1型および3型ならびにフィブロネクチンのマトリックスである結合組織からなる。瘢痕は、(皮膚の通常の瘢痕に見られるように)組織化が異常なコラーゲン線維からなるかまたは(中枢神経系の瘢痕または皮膚の病理学的な瘢痕化に見られるように)結合組織の異常な蓄積であることもある。瘢痕の種類には萎縮性、肥厚性およびケロイド性瘢痕ならびに瘢痕拘縮が挙げられるが、これらに限定されるものではない。萎縮性瘢痕は、平らで、くぼみまたは穴のように周辺の皮膚より下に陥没している。肥厚性瘢痕は、本来の損傷の境界内にとどまっている隆起した瘢痕であり、異常なパターンで配列された過剰なコラーゲンが含まれることが多い。ケロイド性瘢痕は、本来の創傷の周縁部を越えて広がり部位特異的に周囲の正常な皮膚に浸潤する隆起した瘢痕であり、異常な様式で配列した渦巻き状のコラーゲンが含まれることが多い。瘢痕拘縮は、関節をまたぐか、または皮膚が直角にしわになる瘢痕であり、縮みまたは拘縮に発展する傾向がある。瘢痕拘縮は、瘢痕が完全にできあがっていないうちに生じ、肥厚する傾向が高く、一般に障害を引き起こし機能障害をもたらすものである。
【0036】
「投与する」とは、以下に限定されるものではないが、局所、静脈内、全身、皮下、筋肉内、舌下および吸引もしくは注入、洗浄または浸透圧ポンプなどの特定の経路により医薬治療薬または製剤を対象に与えるあるいは適用することを指す。
【0037】
リラキシン
リラキシンは、大きさおよび形状がインスリンに類似したペプチドホルモンである(図1を参照)。より具体的には、リラキシンは、インスリン遺伝子スーパーファミリーに属する内分泌および自己分泌/傍分泌ホルモンである。活性型のコード化タンパク質は、鎖間に2つおよび鎖内に1つのジスルフィド結合により結合したA鎖およびB鎖からなる。したがって、この構造はジスルフィド結合の配置についてインスリンに非常に似ている。ヒトには3つの非対立リラキシン遺伝子、リラキシン−1(RLN−1またはH1)、リラキシン−2(RLN−2またはH2)およびリラキシン−3(RLN−3またはH3)が存在する。H1およびH2は高い配列相同性を有する。この遺伝子を発現する異なるアイソフォームをコードする、選択的にスプライシングされた2つの転写変異体が存在する。ヒトにおいてH1の発現は、定かではない。H2は、生殖器官で発現し、H3は主に脳内に見られる。その受容体のリラキシンペプチドファミリーの進化は、一般に当該技術分野で周知である(Wilkinsonら、BMC Evolutionary Biology、5:1〜17ページ、2005年;ならびにWilkinsonおよびBathgate、1章、Relaxin and Related Peptides、Landes Bioscience and Springer Science + Business Media、2007年)。
【0038】
リラキシンは、2つの特定のリラキシン受容体、すなわち、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)を活性化する。LGR7およびLGR8は、ロイシンリッチリピートを含むGタンパク質共役受容体(LGR)であり、これはGタンパク質共役受容体の固有のサブグループを表す。これらは、7回膜貫通領域およびグリコシル化された大きな外部領域を含み、遠い関係ではあるがLH−受容体またはFSH−受容体などの糖タンパク質ホルモンの受容体と関連がある。これらのリラキシン受容体は、心臓、平滑筋、結合組織ならびに中枢神経系および自律神経系に見られる。H1、H2、ブタおよびクジラリラキシンなどの有効なリラキシンは、特定の共通した配列、すなわち、Arg−Glu−Leu−Val−Arg−X−X−Ile配列または結合カセットを有している。例えば、ラット、サメ、イヌおよびウマリラキシンなどの彼の配列相同関係から外れているリラキシンは、LGR7およびLGR8受容体によって生物活性が低下されることが示されている(Bathgateら、Ann NY Acad Sci、1041:61〜76ページ、2005年)。
【0039】
リラキシンは、女性および男性双方に見られる(Tregearら;Relaxin 2000、Proceedings of the Third International Conference on Relaxin & Related Peptides、2000年10月22〜27日、ブルーム、オーストラリア)。女性の場合、リラキシンは、卵巣の黄体、乳房によって生成され、妊娠中には胎盤、絨毛および脱落膜によっても生成される。男性の場合、リラキシンは精巣で生成される。ヒトにおいて、リラキシンは、妊娠、精子の運動性の増強、血圧の調整、心拍の制御ならびにオキシトシンおよびバソプレッシンの放出に関与する。動物においてリラキシンは、コラーゲン代謝にも影響を及ぼす。リラキシンは、コラーゲンの合成を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼを増加することによりコラーゲンの分解を増強する。リラキシンは、血管形成も増進し、腎臓血管拡張薬でもある。
【0040】
リラキシンは、増殖因子の一般的特性を有し、結合組織の性質を変化させたり、平滑筋の収縮に影響を与えたりすることができる。H2は、主に生殖組織で発現することが知られている(米国特許第5,023,321号参照)。しかしながら、本発明者は、H2が創傷治癒の改善および瘢痕形成の低減において重要な役割を果たすことを発見した。
【0041】
リラキシン作動薬
いくつかの実施形態では、本開示は、正常血圧患者または高血圧患者の急性心不全に関連する呼吸困難を治療する方法であって、リラキシン作動薬の投与を含む方法を提供する。いくつかの方法では、リラキシン作動薬は、以下に限定されるものではないが、RXFP1、RXFP2、RXFP3、RXFP4、FSHR(LGR1)、LHCGR(LGR2)、TSHR(LGR3)、LGR4、LGR5、LGR6LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)から選択される1つまたは複数のリラキシン関連Gタンパク質共役受容体(GPCR)を活性化する。いくつかの実施形態では、リラキシン作動薬にはCompugenのWO2009/007848(リラキシン作動薬の配列を教示するために参照によって本明細書に引用したものとする)の式Iのアミノ酸配列が含まれる。
【0042】
式Iのペプチドは、好ましくは7から100アミノ酸長であり、以下のアミノ酸配列を含む:X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14−X15−X16−X17−X18−X19−X20−X21−X22−X23−X24−X25−X26−X27−X28−X29−X30−X31−X32−X33。ここで、X1は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X2は存在しないか、Qまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X3は存在しないか、Kまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸;X4は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X5は存在しないか、QまたはS極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X6は存在しないか、VまたはAまたはPまたはMまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X7は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X8は存在しないか、PまたはLまたはA天然もしくは非天然アミノ酸;X9は存在しないか、PまたはQ天然もしくは非天然アミノ酸;X10は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X11は存在しないか、AあるいはHあるいはEあるいはDあるいは疎水性または小さいまたは酸性の、天然もしくは非天然アミノ酸;X12は存在しないか、AあるいはPあるいはQあるいはSあるいはRあるいはHあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X13は存在しないか、CまたはVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X14は存在しないか、RあるいはKあるいはQあるいはPあるいは塩基性または極性の、天然もしくは非天然アミノ酸;X15は存在しないか、RあるいはQあるいはSあるいは塩基性または極性の、天然もしくは非天然アミノ酸;X16は存在しないか、AあるいはLあるいはHあるいはQあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X17は存在しないか、Yあるいは疎水性または芳香族の、天然もしくは非天然アミノ酸;X18は存在しないか、Aあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X19は存在しないか、Aまたは疎水性の小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X20は存在しないか、Fあるいは疎水性または芳香族の、天然もしくは非天然アミノ酸;X21は存在しないか、SまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X22は存在しないか、Vまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X23は存在しないか、Gあるいは疎水性または小さい、非天然アミノ酸あるいはアミドで置換されている;X24は存在しないか、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸;X25は存在しないか、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸;X26はAあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X27はYあるいは疎水性または芳香族の、天然もしくは非天然アミノ酸;X28はAあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X29はAあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X30はFまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X31はSまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X32はVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X33は存在しないか、Gあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸またはアミドで置換されている;あるいは薬学的に許容可能なそれらの塩である(配列番号:4)。好適ないくつかの実施形態では、リラキシン作動薬は、ペプチドP59C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFSVを含む(配列番号:5)。別の好適な実施形態では、リラキシン作動薬は、ペプチドP74C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFS VGRRA Y AAFS Vを含む(SEQ DD NO:6)。ヒト補体C1Q腫瘍壊死因子関連タンパク質8(CTRP8またはC1QT8)の別の派生体、例えばペプチドP59−G(遊離酸型Gly(free acid Gly))GQKGQVGPPGAACRRA Y AAFSVG(配列番号:7)も本開示の方法での使用に適していると考えられる。C1QT8のアミノ酸配列を配列番号:8として以下に記載する。MAAPALLLLALLLPVGAWPGLPRRPCVHCCRPAWPPGPYARVSDRDLWRGDLWRGLPRVRPTIDIEILKGEKGEAGVRGRAGRSGKEGPPGARGLQGRRGQKGQVGPPGAACRRAYAAFSVGRRAYAAFSVGRREGLHSSDHFQAVPFDTELVNLDGAFDLAAGRFLCTVPGVYFLSLNVHTWNYKETYLHIMLNRRPAAVLYAQPSERSVMQAQSLMLLLAAGDAVWVRMF QRDRDNAIYGEHGDLYITFSGHLVKP AAEL。
【0043】
本開示は、これらのポリペプチドの相同体も包含し、そのような相同体は、典型的なリラキシン作動薬(例えば、配列番号:5または配列番号:6)のアミノ酸配列と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%またはもっと言えば100%同一であってもよく、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastPソフトウェアでデフォルトパラメータを用いて決定することができる。デフォルトパラメータは、任意ではあるが好ましくは以下を含む:フィルターオン(この選択によりSeg(タンパク質)プログラムを使用して、繰り返し配列または複雑度の低い配列が問い合わせ配列から除外される)、スコア行列がタンパク質用のBLOSUM62、word sizeが3、期待値が10、ギャップコストが11,1(開始ならびに(開始および延長)。任意ではあるが好ましくは、核酸配列同一性/相同性は、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアでデフォルトパラメータを用いて決定される。デフォルトパラメータは、DUSTフィルタープログラムを使用することが好ましく、さらに期待値が10、複雑度の低い配列のフィルタリングおよびword sizeが11であることが好ましい。最後に、本開示は、上記のポリペプチドおよび変異を有するポリペプチドのフラグメントも包含する。この変異は、自然に起こったかまたは人工的に誘導した、ランダムにかまたは標的化した方法での欠失、挿入または1つもしくは複数のアミノ酸の置換などである。
【0044】
リラキシン処置が創傷の治癒を促進する
例えば切ることによって皮膚が傷つくと、湿潤創傷が生じ、損傷を修復するために真皮組織および表皮組織を再生する体の自然な作用が一連の複雑な生化学的現象で構成される。リラキシンは、この過程を増進および加速する。創傷の治癒の初期段階では、一度細菌および壊死組織片が創傷部から取り除かれ、血管形成によって内皮細胞から新しい血管が成長する。さらに、線維芽細胞が増殖し、コラーゲンおよびフィブロネクチンを分泌することによって新しい細胞外マトリックス(ECM)を形成する。本開示は、肉芽組織形成を増加させ、最終的に血管形成によって生じる血管の数を減少させ、コラーゲンの沈着を増加させ、より良好に組織化されたコラーゲンマトリックスの形成を助け、創傷の再上皮化を促進することによって自然な創傷の治癒過程を加速し、創傷部の強度を増す方法を提供する。いくつかの例では、創傷が適切に治癒しない場合(例えば、糖尿病、皮膚障害を有する個体の場合)、リラキシン処置は創傷の治癒を増進するだけでなく、それを可能にする。
【0045】
より具体的には、本発明者は、2段階の過程で創傷の治癒を促進するリラキシンの能力が有利であることを発見した。第1に、リラキシンは、良好に治癒するよう線維芽細胞を活性化し、血管形成を促進して創傷を速く閉鎖する。第2に、リラキシンには、抗線維症および抗血管新生の作用があり順調な治癒を達成する。これにより、瘢痕形成を低減する。リラキシンに抗血管新生の作用があるという事実は、一般に信じられていること、すなわちリラキシンが血管の成長を促進し、それより血管形成を増進するだけであるということとは反対の新規の発見である。
【0046】
線維芽細胞は、ECMの前駆体を連続的に分泌することによって結合組織の構造的完全性を維持する上で重要な役割を果たしている。正常な条件下では、線維芽細胞は静止状態にある。しかしながら、線維芽細胞が湿潤創傷において活性化されると、より多くのコラーゲンを分泌する。リラキシンは、線維芽細胞の活性化に関与し、これがコラーゲンの分泌を増加させることにつながる。線維芽細胞は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)も分泌し、これがコラーゲンの分解を助ける。リラキシンは、さらに線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制することもできる。このように、コラーゲン分泌の増加およびコラーゲン代謝回数の増加のこの組合せにより、創傷の治癒を促進し瘢痕形成を低減する、より組織化されより強いコラーゲンマトリックスをもたらされる。
【0047】
血管形成は、創傷の治癒過程のごく初期に起こる。マクロファージおよびリンパ球が創傷部にリクルートされると同時に新しい血管が形成され十分な血液が創傷に供給される。特に、マクロファージは、新しい血管の形成を促すVEGFを放出する。リラキシンが処置に使用されると、VEGFの量が増加し、より多くの血管がもたらされ、ひいてはより多くの血液が創傷に供給される。
【0048】
新しい血管を形成(血管形成)し、線維芽細胞を活性化する免疫系のリクルートの全過程をまとめて肉芽形成過程、すなわち、肉芽組織が生成される過程と見なされる。最終的に、正常な健康で滑らかな皮膚に存在する、望ましいかごの編目状に達するためには、ある時点で、この肉芽組織が消散される必要がある。これには、追加のコラーゲンを必要としないため線維芽細胞を鈍化させ、炎症を治める必要があるため免疫系を鈍化させる必要があり、それにより皮膚の赤い跡を消失させることができる。さらに、血管形成を逆転させる必要がある。すなわち、外観の悪い永久的な赤い跡である瘢痕を防止するために、最初の段階で創傷を治癒するのに必要とされる血管および毛細血管がここで消失する必要がある。驚くべきことに、リラキシンは肉芽組織の消散を増進し、加速するだけでなく、新しい血管の早期消失を助長し、皮膚を滑らかで赤い跡のない状態のままにする。注目に値するのは、リラキシン処置により劇的に瘢痕の形成が低減され、かごの編目のような健康な皮膚を促進することである。
【0049】
さらに、リラキシンは、打撲傷および潰瘍における創傷の治癒を促進することができる。そのような創傷は、全身的に処置されるのが好ましく、それはリラキシンの局所的な処置では、開放創または湿潤創傷のように簡単に閉鎖創には到達しないためである。一方、開放創および湿潤創傷は、洗浄および/または直接注入により局所的に処置されるのが好ましい(実施例1のブタ皮膚の試験で説明するように)。
【0050】
リラキシン処置が瘢痕形成を防止し、低減する
瘢痕は、線維組織を含み、外傷または創傷の後に正常な皮膚と置き換わる。瘢痕化は、創傷の自然な治癒過程の一部であり、ほぼすべての真皮の外傷後に瘢痕が生じる。先進国では、毎年1億人の患者が瘢痕を有することになり、その一部は5500万件の待機手術および2500万件の外傷後の手術の結果として、無視できない健康的ならびに心理的な問題を引き起こしている。推定1100万のケロイド瘢痕および400万の熱傷瘢痕が存在し、その70%が子供に生じたものである。異常な皮膚瘢痕がある人は、身体的、審美的、心理的および社会的影響に直面することもあり、これが著しい情緒的および財政的負担に関連することもある。瘢痕は些細なものであると見なされることが多いが、瘢痕により外観が損なわれ、審美的に好ましくないことがあり、さらに重度のそう痒、圧痛、疼痛、睡眠障害、不安、抑うつの原因となったり日常活動を妨げたりすることがある。他の心理的な影響には、心的外傷後ストレス反応の発現、自尊心の喪失および恥辱を感じることが挙げられ、クオリティオブライフの低下につながる。皮膚瘢痕の結果による身体的な変形により障害がもたらされることがある。メディアが反対の提示をしているにも関わらず、瘢痕組織の性質が複雑で予測できないものであるため瘢痕はいまだ簡単に除去できるものではない(Bayatら、Clinical Review−BMJ、326:88ページ、2003年)。リラキシンは、創傷の治癒過程を加速することによってだけでなく、瘢痕形成が始まる前にそれを低減することによってこうした瘢痕を治療する方法を提供する。
【0051】
一般に顔面の形成手術の結果として瘢痕が形成される。顔面の形成手術としては、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛が挙げられるが、それらに限定されるものではない。さらに、顔面の形成手術は、腫脹、打撲傷および瘢痕化をもたらす可能性が高い。上記のことから、リラキシンは特に形成および再建手術に適用される。腫脹は外傷に対する顔面の自然な反応であり、顔面の治癒が始まると治まる。これは、手術後わずか数日生じるかまたは数週間もしくはそれ以上かかることもある。打撲傷も、顔面の手術手技後、顔面が変化に反応するために起こる自然なことであり、通常手術後における回復の最初の数日間に最も現れる。打撲傷の大半は2、3週間で消えるが、完全に治癒するのには数か月またはそれ以上かかることもあり、それは個体による。通常、瘢痕は、目立たなくなるまでの数か月間ピンク色のままであるため、顔面の形成手術のさらに別の好ましくない副次的結果である。したがって、この開示は顔面の形成手術を受けた患者にとって有利であり、具体的には創傷の治癒を加速し、瘢痕形成を低減することによって瘢痕化および打撲傷を手当てすることが有利である。
【0052】
一般に全身の形成手術の結果としても瘢痕が形成される。全身の形成手術としては、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントが挙げられるが、それらに限定されるものではない。さらに、全身の形成手術も腫脹、打撲傷および瘢痕化をもたらす可能性が高い。腫脹は外傷に対する体の自然な反応であり、通常体の治癒が始まると治まる。これは、手術後わずか数日または数週間もしくはそれ以上生じることもある。通常、体が変化に反応するために全身の手術手技の結果として打撲傷が起こる。打撲傷は、通常手術後における回復の最初の数日間に最も現れるが、もっと長く続くこともある。打撲傷の大半は2、3週間で消えるが、完全に治癒するのには数か月または数年もかかることもある。通常、瘢痕は、目立たなくなるまでの数か月間ピンク色のままであるため、全身の形成手術の好ましくない副次的作用でもある。したがって、この開示は全身の形成手術を受けた患者にとっても有益であり、具体的には創傷の治癒を加速し、瘢痕形成を低減することによって瘢痕化および打撲傷を手当てするのに有益である。
【0053】
瘢痕化および赤みは、刺青除去の一般的な副次的作用でもある。他の副次的作用としては、水疱、感染および皮膚の色の喪失が挙げられる。したがって、この開示は、いくつかの刺青除去の副次的作用を最小限にする方法、具体的には皮膚の赤みを低減する(すなわち、上述のリラキシンの抗血管形成の作用)ことによって、さらに刺青除去手技により生じることもあるあらゆる瘢痕を低減することによって副次的作用を最小限にする方法を提供する。
【0054】
リラキシン組成物および製剤
リラキシンおよびリラキシン類似体が、本開示の方法において使用される医薬品として作製される。生物学的もしくは薬学的に活性なリラキシン(例えば、合成リラキシン、組換え型リラキシン)またはリラキシン作動薬(例えば、リラキシン類似体またはリラキシン様修飾因子)のリラキシン受容体との結合に関連する生物学的反応を刺激することができる、任意の組成物または化合物を本開示の医薬品として使用できる。製剤および投与の技術についての全般的な詳細は、科学文献に詳細に記載されている(Remington’s Pharmaceutical Sciences、Maack Publishing Co、ペンシルバニア州イーストン、参照)。薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤は、医薬品の製造について当該技術分野で周知の任意の方法により調製することができる。本開示の方法に使用される薬学的に活性なリラキシンまたはリラキシン作動薬を含む製剤は、以下に限定されるものではないが、局所、静脈内、全身、皮下、筋肉内、舌下および吸引もしくは注入、洗浄または浸透圧ポンプなどの従来の許容可能な任意の投与方法用に作製することができる。実例となる例を以下に記載する。
【0055】
好適な一実施形態では、リラキシンを開放創に洗浄液として、覆われた創傷に局所適用としておよび/または創傷修復のあらゆる段階の間に全身的に適用してもよい。製剤は、創傷部または瘢痕の近くに注入することもでき、または滞留時間および透過を延ばすために創傷部もしくは瘢痕に塗り込まれるクリームであってもよいと考えられる。洗浄による処置には、例えば0.5mlの1.0mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を創傷部にゆっくりと滴下することが含まれる。他の実施形態では、リラキシン溶液を創傷に滴下する範囲は、約0.5mlから約5.0mlの範囲であってもよくまたは創傷部により多く約1.0から約5.0mg/mlリラキシン溶液の範囲であってもよい。創傷は、例えば損傷後7日間、1日1回洗浄される。別の実施形態では、創傷は、例えば損傷後約7日間、1日2回以上洗浄される。さらに別の実施形態では、創傷は、損傷後、長期間または短期間に週に1回もしくは月に1回洗浄される。リラキシン投与のための用量は、損傷の重症度および患者の状態により調整する必要がある。
【0056】
さらに別の実施形態では、リラキシンは、製剤に含まれる例えば0.5または2.5mg/mlリラキシンを0.5ml送達することにより局所適用されてもよい。この製剤は、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる。創傷は、例えば2週間、1日2回処置され、その後の3週間、1日1回処置される。薬物が局所に送達される場合、製剤は、プロピレングリコールおよびエタノールを含む。さらに、本発明者は、湿潤創傷に付けてもよい浸透促進剤を製剤に含めるとリラキシンの効力が改善されることを見いだした。浸透促進剤としては、以下に限定されるものではないが、物理的(例えば、マイクロニードルアレイ)、化学的(例えば、エタノール、グリセリルモノエチルエーテル、モノグリセリド、ミリスチン酸イソプロピルなど)または物理的および化学的強化の組合せが挙げられる。例えば、本発明者は、キトサンなどの粘膜付着性の浸透促進剤を添加することによりリラキシンの歯肉組織内の浸透が増すことに気づいた(Squierら;Mucoadhesive vehicles for the delivery of relaxin across oral mucosa、国際歯科研究学会、2006年6月28日〜7月1日、オーストラリア、ブリスベン、参照)。
【0057】
さらに別の好適な実施形態では、全身アプローチ後、約20ng/mLの全身濃度を達成するために、5.3μg/kg/hrで浸透圧注入ポンプによって創傷にリラキシンが直接送達される。
【0058】
さらに別の好適な実施形態では、リラキシンは、静脈内注入によって創傷部に送達することができる。この場合、薬学的に活性なリラキシンまたはリラキシン作動薬を含む製剤は、無菌で注入可能な水性または油性懸濁液などの無菌で注入可能な調合物の形態であってもよい。この懸濁液は、上記の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて周知の技術により作製することができる。無菌で注入可能な調合物は、無毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒の、無菌で注入可能な溶液または懸濁液であってもよい。許容可能な媒体および溶媒のうち使用できるものは、水およびリンゲル溶液、すなわち等張の塩化ナトリウムである。さらに、従来の無菌の固定油を溶媒または懸濁媒体として使用することもできる。この用途のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドなどの刺激の少ない任意の固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に注入可能な調合物に使用することができる。
【0059】
本開示の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物中にリラキシンを含む。そのような賦形剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルネチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムなどの懸濁剤ならびに天然のリン脂質(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドの脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドの長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドの、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)またはエチレンオキシドの、脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤または湿潤剤が挙げられる。水性懸濁液には、さらにp−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルなどの1つまたは複数の防腐剤、1つまたは複数の着色料、1つまたは複数の香味料およびスクロース、アスパルテームまたはサッカリンなどの1つまたは複数の甘味料を含めることもできる。製剤をモル浸透圧濃度について調整することができる。
【0060】
油懸濁液は、落花生油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油などの植物油または液体パラフィンなどの鉱油にリラキシンを懸濁させることにより作製することができる。油懸濁液には、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコールなどの増粘剤を含めることもできる。口当たりのよい経口調合物を得るために甘味料を添加してもよい。これらの製剤は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加することによって保存することができる。
【0061】
水を添加することによって調合される水性懸濁液に適した本開示の分散性粉末および顆粒は、分散剤、懸濁剤および/または湿潤剤ならびに1つまたは複数の防腐剤の混合物中に含まれるリラキシンから作製できる。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤としては、上に開示されたものが例として挙げられる。さらに、例えば甘味料、香味料および着色料などの別の賦形剤を含めることもできる。
【0062】
本開示の医薬製剤は、水中油型エマルジョンの形態であってもよい。油性相は、オリーブ油もしくは落花生油などの植物油、液体パラフィンなどの鉱油またはこれらの混合物であってもよい。適切な乳化剤としては、アカシアゴムおよびトラガカントゴムなどの天然ゴム、大豆レシチンなどの天然リン脂質、ソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来するエステルまたは部分エステルおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどのこうした部分エステルのエチレンオキシドとの縮合生成物が挙げられる。エマルジョンは、甘味料および香味料も含めることができる。シロップ剤およびエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトールまたはスクロースなどの甘味料と一緒に作製することができる。そのような製剤には、粘滑薬、防腐剤、香味料または着色料を含めることもできる。
【0063】
リラキシン製剤の投与および投与レジメン
本開示の方法に使用される薬学的に活性なリラキシンを含む製剤は、以下に限定されるものではないが、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、局所、経口および吸引などの従来の許容可能な任意の方法で投与することができる。投与は、薬物動態および薬物の他の特性ならびに患者の健康状態によって決まる。一般指針を以下に示す。
【0064】
本開示の方法は、創傷および外傷の治癒を促進し、瘢痕形成を低減する。単独でまたは薬学的に活性な他の薬剤(例えば、NSAIDまたは抗生物質)と組み合わせて、こうした効果を達成するのに十分なリラキシンの量は、治療効果用量(例えば、治癒を促進する薬学的に許容可能な量)と見なされる。
【0065】
最先端の技術により、個々の動物またはヒト対象それぞれについてのリラキシンの投与レジメンを臨床医が決定できる。具体例のとおり、以下に提供するリラキシンの指針は、本開示の方法を実施する場合に、投与される薬学的に活性なリラキシンを含む製剤の投与レジメン、すなわち投与スケジュールおよび用量レベルを決定するガイダンスとして使用することができる。具体的には、上記の対象は、薬学的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え型)を1日あたり対象の体重をもとに約10から1000μg/kgの範囲の量で投与される。一実施形態では、リラキシンの用量は10、30、100および250μg/kg/日である。別の実施形態では、当該用量はそれぞれ約3、10、30および75ng/mLのリラキシンの血清中濃度をもたらす。別の実施形態では、リラキシンの血清中濃度を約0.5から約500ng/mL、より好ましくは約0.5から約300ng/mLおよび最も好ましくは約3から約75ng/mLに維持するようリラキシンの投与が継続される。可能な範囲は約1から約50ng/mLであり、好ましい血清中濃度は20ng/mLである。
【0066】
一般指針のとおり、薬学的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え型)の1日量は、一般に1日あたり対象の体重をもとに約10から1000μg/kgの範囲の量であり、最も好ましくは1日あたり対象の体重をもとに約960μg/kgであると予想される。対象に応じて、特定の期間または対象において安定性を達成するのに必要とされる限りリラキシン投与が継続される。
【実施例】
【0067】
以下の具体例は、本開示を説明することを意図しており、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0068】
ブタの皮膚の創傷試験
動物試験の概要。本試験に適した動物を選択する際、ブタの皮膚とヒトの皮膚との構造上の類似性からブタを選択した。実際、ブタの創傷治癒は、ヒトの皮膚の模擬実験が行われる多くの試験で使用されてきた(Sullivanら、Wound Repair Regen、9:66〜76ページ、2001年)。本試験の結果は、ブタの皮膚においてリラキシンは肉芽組織ならびに慢性炎症を低減し、それにより治癒過程全体が速くなり、より滑らかな皮膚の外観がもたらされることを示唆している。
【0069】
試験設計。本試験では、動物1匹あたり12の創傷部−背中に20×6mmの切開創傷−を有する若齢のブタを6週間の試験の間適応させた(図2を参照)。20ng/mLの血清中濃度を達成するようミニポンプにより全身性リラキシンを送達した。局所製剤は、Dow Pharmaによって調製され、プロピレングリコールおよびエタノールから構成された。これにより、治療薬剤の長期安定性がもたらされた。プラセボからなる用量、0.5mg/ml(低用量)、および2.5mg/ml(高用量)を調製した。試験の目的は、創傷の治癒における局所リラキシンの安全性を評価し、創傷の治癒および/または瘢痕形成に対する治療法としてのリラキシンの効力を判定することであった。1週目は、1日1回洗浄を行った。2〜3週目は局所製剤を1日2回適用し、3〜6週目は局所製剤を1日1回適用した。
【0070】
薬物設計。試験薬物は(組換え技術によって生成した)リラキシンとした。組換え一本鎖プロセスを用いて生成された組換え型リラキシンは未変性のヒトホルモンH2リラキシンと同一である。活性な被検物質を酢酸塩の希釈剤(20mM酢酸ナトリウム、pH5.0)で所望の濃度に無菌的に希釈してもよい。
【0071】
試験手順。6週間の終了時における、本明細書に記載される実験設計による切開創を有するブタの背中を示す図3を参照する。上述のとおり区分3の創傷を1週目はリラキシン構築物により洗浄し、その後2〜6週目は高用量局所リラキシン製剤で処置した。区分4、5および6は1週目に洗浄を行わなかった。区分4をプラセボで処置した。区分5を低用量局所製剤で処置し、区分6を高用量局所製剤で処置した。
【0072】
区分4と区分5および6それぞれとを比較すると、プラセボと比較してリラキシンによる局所のみの処置によって創傷の治癒が改善されたことが明らかに示されている。リラキシンで洗浄処置し、さらに局所処置した区分3と比較するとさらに劇的である。この実験から、プラセボと比較して創傷の治癒を促進し、瘢痕化を低減および/または防止するリラキシンの顕著な力が示されている。このデータから、さらにリラキシン構築物による洗浄が特に効果的であることが示されている。
【0073】
皮膚の表面的外観。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価した(図4を参照)。評価のために皮膚科学者でない人に写真を見せた。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼した。ここで、3グループにはリラキシンを投与し、3グループには投与しなかった。視覚的な創傷の評価の結果から、89%の確率でリラキシン処置のグループが上位3位に選ばれたことがわかった。リラキシ処置されていないグループが上位3位に選ばれたのは11%の確率に過ぎなかった。中立な観察者は、「より良好」に見えるとしてリラキシンで処置した創傷を選んだ。これらのデータから、リラキシンが創傷の早期閉鎖に役立つことが強く示唆される。
【0074】
さらに、皮膚科学の専門家が2、4および6週目に審美的点数を判定した。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。この皮膚科学的な評価中、2週目の時点での評価は痂皮によりわかりにくかったため、審美的点数のためのデータは4および6週目の評価から収集した(図5を参照)。図6は、6週目の創傷部同士の相違を示している。上の結果(リラキシン処置)では、瘢痕が目立っていない。下の結果では、瘢痕が目立っている。洗浄によるリラキシン処置を受けた創傷/瘢痕の領域は、局所リラキシン処置のみを受けた創傷/瘢痕の領域より総合的に高い評価であった。
【0075】
組織学的評価。組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価した。肉芽組織を判断する際には、創傷の初期反応に線維芽細胞、炎症細胞および新しい血管による創傷部の浸潤が含まれることも考慮される。これは、創傷部が治癒するにつれ、徐々により正常な組織になっていく。慢性炎症とは、マクロファージ、巨細胞、リンパ球および有害反応を示すPMNの存在によって特徴付けられた。角化症(表皮の外側における角質層の形成)および表皮肥厚(表皮層の肥厚)などの重要性の低い要因も考慮する。
【0076】
図7および8は、リラキシン処置に関連する有害作用がなかったことを示している。肉芽組織は、全身性リラキシン処置により低減される(例えば、リラキシンにより創傷のより速い回復が示される)。最終的に、全身性リラキシンにより慢性炎症が低減され、さらにリラキシン処置がより速い治癒を促進することが示された(図9、10を参照)。
【0077】
創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価により創傷の治癒について組織学の専門家が評価した(図12、13を参照)。創傷治癒の点数は以下のように数えた:コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものが3ポイント(治癒が最も良好);中程度にコラーゲン線維が配列され編まれたものが2ポイント;コラーゲン線維が平行な束の状態でまたは一次元的に配列されたものが1ポイント(治癒が最も悪い)。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる(図11を参照)。
【0078】
このように、あらゆるリラキシン処置(例えば、洗浄または局所投与)にも有害作用は見られなかったと判定された。さらに、壊死または炎症はリラキシン処置に関連しなかった。局所投与と比較してリラキシンによる全身処置後に、より良好な創傷の治癒が観察されることがいくつか示されている。
【0079】
発見および結論。このパイロット試験は、動物の皮膚に対してリラキシンを使用する初めての調査である。本発明者の第1の目的は、創傷の治癒に対する局所リラキシンの安全性を確立することであった。この試験の第2の目的は、創傷治癒および/または瘢痕形成におけるリラキシンの効力を証明することであった。本発明者は、以下について証明した:(1)広い用量範囲(10〜960μg/kg/日)にわたって、この薬物に関連する有害作用は示されず、良好な耐用性を示した。(2)リラキシンは、肉芽組織の形成を増加させ、血管形成によって生じる血管の数を低減し、コラーゲンの沈着を増加させ、より良好に組織化されたコラーゲンマトリックスの形成を助け、創傷の再上皮化を促進することによる自然な創傷の治癒過程の加速および創傷部の強度の増加によって有益な効果を作りだす。
【実施例2】
【0080】
イヌの歯肉試験
イヌ試験の概要。ヒト2リラキシン(H2 RLX)は、軟部組織を再構築する能力から歯科矯正の用途において可能性のある治療法として調査されてきた。イヌモデルにおける過去の試験により、歯肉注入によってRLXを適用することにより、歯の移動を速くし、元の位置に戻るのを防ぐことができると証明されている。
【0081】
本試験の目的は、RLXの移動速度および歯肉注入後の分解の程度を測定することであった。この試験により、RLXは注入部位の近くにとどまっていることが示された。イヌモデルを用いて、RLXを投与し、注入部位ならびに注入部位から0.5、1および2cmの位置で組織パンチバイオプシーを採取した。注入1、2および4時間後などのいくつかの時点で組織を採取した。歯肉バイオプシーからタンパク質を抽出し、タンパク質チップ技術(表面エンハンス型レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計、SELDI−TOF MS)によって分析した。タンパク質チップ技術は、固相クロマトグラフィおよびTOF−MSの確立した2つの方法を組み合わせて統合プラットフォームとする。タンパク質チップアレイは、抗−H2 RLX抗体でコーティングされ、これによりRLXおよび関連分解生成物/修飾生成物を特異的に補足することが可能であった。
【0082】
RLXは、1、2および4時間の3時点のすべてにおいて明らかに検出されたが、濃度が着実に低下していること明からになり、それぞれ90nM、78nMおよび21nMのH2 RLXが検出された。歯肉中のRLXの移動も限られたものであると考えられる。RLXは、注入部位から0.5cmの位置では検出されたが、さらに1cmおよび2cmの印では検出されなかった。
【0083】
薬物設計。歯肉注入を行い(25μg H2 RLX/100μl、41μM)、注入部位ならびに注入部位から0.5、1および2cmなどのいくつかの位置で組織を採取した。注入1、2および3時間後に組織を採取した。RLX処置を受けていない対照動物からも組織バイオプシーを採取した。
【0084】
試験手順
a)タンパク質の抽出および定量。凍結した歯肉バイオプシーを10mMのTris−HCl、10mMのNaCl、0.1%のTFAおよびプロテアーゼインヒビター(コンプリートミニ、Roche)を含む抽出緩衝液(10μl/mg組織)中でホモジナイズした。その抽出物を10分間遠心分離し(6000×g)、上清を回収し、分注して、−80℃で保存した。ブラッドフォードアッセイを使用して総タンパク質濃度を測定した。タンパク質濃度は1.4mg/mlから2.8mg/mlまでに及び、すべてのサンプルを抽出緩衝液中1.4mg/mlの濃度に定めた。
【0085】
b)SELDI−TOF MS分析−PG20アレイにおけるRLX処理された歯肉の分析。抗−H2 RLX抗体(2μl/0.25mg/ml;Genentech)または対照IgG(Ciphergen Biosystems)をプロテインGであらかじめコーティングしてあるPS20アレイ(Ciphergen Biosystems)の各スポットに加えた。抗体が結合後、撹拌しながらPBS/0.5% Triton X−100で5分間、チップを1回洗浄して(各スポットあたり5μl)、次いでPBSで2回洗浄した。イヌ歯肉抽出物(3μl/1.4mg/ml)を各スポットに加え、4時間インキュベートした。非特異的に結合したタンパク質は、PBS/0.5% Triton X−100、PBSおよびpH7.2の1mM HEPESによる一連の洗浄によって除去された。チップを風乾し、1μlの50%飽和シナピン酸の50%(v/v)アセトニトリル溶液、0.5%のトリフルオロ酢酸を各スポットに2回加え、各添加の間にアレイを風乾した。その後、チップをレーザー220および感度9に設定したSELDI−TOF MS(Ciphergen Biosystems)によって分析した。
【0086】
c)PG20アレイにおけるH2 RLXの標準曲線の作成。H2 RLX(バッチ番号11835−89)を100nM、50nM、12.5nM、6.25nM、3.125nMおよび1.56nMなどの異なる濃度で対照イヌ歯肉に投与し(1.4mg/ml)、上記のとおり分析した。
【0087】
d)NP20アレイにおけるH2 RLXの評価。H2 RLXを順相(NP20)アレイ上で分析して純度を評価した。上記のとおり、H2 RLX(1μl/500nM)をスポット上に載せ、アレイを風乾し、50%SPAの2回の添加を各スポットに適用した。
【0088】
所見。処置した歯肉サンプル中のRLXの濃度を定量するためにH2 RLXの標準曲線を作成した。R2値が0.9495で2桁であるリニアダイナミックレンジを定めた。
【0089】
処置されたイヌの歯肉の評価から、RLXは、1、2および4時間の3時点のすべてにおいて存在していたが、濃度が着実に低下していること明からになり、それぞれ90nM、78nMおよび21nMのH2 RLXが検出された。RLXが歯肉の中を限定的に移動したことが確認された。1時間の時点では、RLXは、注入部位から0.5cmの位置で検出されたが、注入部位から1cmおよび2cmの位置では検出されなかった。残りの時点では、注入部位でのみRLXが検出された(図15を参照)。
【0090】
結論。したがって、イヌ歯肉をリラキシン処置することを含む本試験から、リラキシンは注入部位の近くにとどまり、瘢痕に沿ったさまざまな場所にリラキシンを注入する必要なく局所標的化が達成されることが明らかに示された。
【実施例3】
【0091】
ヒトの皮膚における部分的に治癒した開放創の試験
部分的に治癒した開放創は、一般に凝血しており、細胞外マトリックスおよびフィブリンの予備的な層が横たわって血餅と組織とをつないでいる。本試験の目的は、部分的に治癒した創傷におけるリラキシンの安全性、ヒトの創傷の治癒および/または瘢痕形成に対する効力ならびに部分的に治癒した創傷を所望の結果にするための最も有効なリラキシン送達方法を判定することである。
【0092】
少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせてリラキシンを投与する。薬学的に活性な他の薬剤はNSAIDまたは抗生物質であってもよい。第1組の実験では、注入により創傷部にリラキシンを投与する。第2組の実験では、定着したコラーゲンマトリックスの薄層を取り除くことによって部分的に治癒した創傷を外科的に再び開き、洗浄によりリラキシンを投与する。これには、0.5mlの1.05mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を創傷部にゆっくりと滴下することが含まれる。第3組の実験では、定着したコラーゲンマトリックスの薄層を取り除くことによって部分的に治癒した創傷を外科的に再び開き、リラキシンを局所投与する。これには、リラキシンを直接創傷部に適用することが含まれる。局所送達には、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる製剤中の0.5mlの0.5または2.5mg/mlリラキシンからなる製剤中の0.5mLの0.5mg/ml(低用量)または2.5mg/ml(高用量)リラキシンが含まれる。第4組の実験では、定着したコラーゲンマトリックスの薄層を取り除くことによってもう一度部分的に治癒した創傷を外科的に再び開き、約20ng/mLの全身濃度を達成するために、5.3μg/kg/hrで浸透圧注入ポンプによってリラキシンを全身投与する。2週間、1日2回創傷を処置し、次の3週間は1日1回処置する。
【0093】
前述の各送達方法について創傷の治癒をプラセボと比較する。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価する。評価のために皮膚科学者でない人に創傷の写真を見せる。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼する。ここで、3グループにはリラキシンを投与し、3グループには投与しない。
【0094】
皮膚科学の専門家も各週に審美的点数を判定する。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。
【0095】
さらに、組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価する。創傷の治癒の評価の際に、組織病理学者は創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価を使用する。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる。この評価では、あらゆるリラキシン処置に関連する有害作用の有無を判定することが重要である。
【実施例4】
【0096】
ヒトの皮膚におけるできたばかりの開放創の試験
ヒトの皮膚のできたばかりの開放創および外傷を発生の2から3時間以内にリラキシンで処置する。本試験の目的は、ヒトの開放創の治癒におけるリラキシンの安全性、ヒトの創傷の治癒および/または瘢痕形成に対する効力ならびに開放創を所望の結果にするための最も有効なリラキシン送達方法を判定することである。外傷は、表皮の切開創であることもある切創であっても、または開放もしくは閉鎖であることもある創傷であってもよい。開放創としては、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および刺創を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせてリラキシンを投与する。薬学的に活性な他の薬剤はNSAIDまたは抗生物質であってもよい。開放創への送達方法としては、洗浄、局所、全身および注入が挙げられる。
【0098】
第1組の実験では、洗浄によりリラキシンを投与する。これには、0.5mlの1.05 mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を創傷部にゆっくりと滴下することが含まれる。第2組の実験では、リラキシンを局所投与する。これには、リラキシンを直接創傷部に適用することが含まれる。局所送達には、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる製剤中の0.5mlの0.5または2.5mg/mlリラキシンからなる製剤中の0.5mLの0.5mg/ml(低用量)または2.5mg/ml(高用量)リラキシンが含まれる。第3組の実験では、約20ng/mLの全身濃度を達成するために、5.3μg/kg/hrで浸透圧注入ポンプによってリラキシンを全身投与する。第4組の実験では、創傷にまたは創傷にごく近接した位置に注入によりリラキシンを投与する。2週間、1日2回できたばかりの創傷を処置し、次の3週間は1日1回処置する。
【0099】
前述の各送達方法について創傷の治癒をプラセボと比較する。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価する。評価のために皮膚科学者でない人に創傷の写真を見せる。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼する。ここで、3グループはリラキシンを投与され、3グループは投与されていない。
【0100】
皮膚科学の専門家も各週に審美的点数を判定する。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。
【0101】
さらに、組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価する。創傷の治癒の評価の際に、組織病理学者は創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価を使用する。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる。この評価では、あらゆるリラキシン処置に関連する有害作用の有無を判定することが重要である。
【実施例5】
【0102】
ヒトにおける形成手術の創傷の試験
創傷の治癒を促進し、瘢痕形成を最小限に抑えるために顔面および体双方の形成手術などの形成手術によって生じる開放創を手術の終わりにリラキシンで処置する。本試験の目的は、創傷の治癒におけるリラキシンの安全性、顔面または全身の形成手術によって生じる創傷の治癒および/または瘢痕形成に対するリラキシンの効力ならびに形成手術による創傷を所望の結果にするための最も有効なリラキシン送達方法を判定することである。
【0103】
リラキシンは、顔面の形成手術によって生じる創傷の処置に対して有益である。顔面の形成手術には、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、リラキシンは、体の形成手術によって生じる創傷の処置に対して有益である。体の形成手術には、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせてリラキシンを投与する。薬学的に活性な他の薬剤はNSAIDまたは抗生物質であってもよい。最初のリラキシンの投与は手術の終了時に洗浄により投与する。これには、0.5mlの1.05mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を開放創部にゆっくりと滴下することが含まれる。次に、2週間、1日2回リラキシンを局所投与し、次の3週間は1日1回処置する。局所投与には、リラキシンを直接創傷部に適用することが含まれる。局所送達には、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる製剤中の0.5mlの0.5または2.5mg/mlリラキシンからなる製剤中の0.5mLの0.5mg/ml(低用量)または2.5mg/ml(高用量)リラキシンが含まれる。
【0105】
前述の各送達方法について創傷の治癒をプラセボと比較する。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価する。評価のために皮膚科学者でない人に創傷の写真を見せる。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼する。ここで、3グループはリラキシンを投与され、3グループは投与されていない。
【0106】
皮膚科学の専門家も各週に審美的点数を判定する。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。
【0107】
さらに、組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価する。創傷の治癒の評価の際に、組織病理学者は創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価を使用する。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる。この評価では、あらゆるリラキシン処置に関連する有害作用の有無を判定することが重要である。
【0108】
本開示の範囲および精神から逸脱しない本開示のさまざまな修正形および変形が当業者には明らかであろう。特定の好適な実施形態に関連して本開示を記載してきたが、当然のことながら、特許請求されるとおり、本開示はそのような特定の実施形態に不当に制限されるべきでない。実際に、当業者が理解する、本開示を実施するための記載した形態のさまざまな修正形が請求の範囲内にあることを意図している。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年5月16日に出願された米国仮特許出願第61/127,947号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張するものであり、すべての目的のために全体を参照によって本明細書に引用したものとする。
【0002】
分野
本開示は、創傷の治癒を促進し、瘢痕形成を低減する方法に関する。本明細書に記載される方法には、リラキシンの投与が用いられる。
【背景技術】
【0003】
創傷は、目立つ外観の悪い瘢痕を残して治癒することが多く、結果としてもたらされる組織は通常、周囲の組織より弱い。それは、コラーゲンが本来の配向で治癒しないためである。例えば、盛り上がった瘢痕の形成を低減するために皮膚の表面にシリコンシートを貼るなどの、創傷の治癒を増進し瘢痕形成を低減するさまざまなアプローチが試みられてきた。いくつかの局所用クリームおよびゲルも瘢痕の外観を改善すると主張する瘢痕用の治療薬として販売されている。しかしながら、これらのアプローチの多くは、主張した解決をもたらせない。例えば、瘢痕の低減を促進する局所用クリームは、盲検試験が行われても有効性が示されていない。これは、局所用クリームが創傷後に再形成されるコラーゲンネットワークについて対処していないためである。
【0004】
米国で2004年に合計4200万の外科手技に対して行われたThe Mattson Jackグループによる市場調査によると、34パーセントの患者で治癒が損なわれているリスクが高かった。この調査によると、市場で現在受けられる治療に対しての満足度は低く、外科的な治癒を加速する治療薬に対して関心が高いことが示された。よって、創傷の治癒を促進するための効果的な薬物療法を提供することに対してはっきりとした市場ニーズが存在している。特に、急性創傷(例えば、穿通創、熱傷、神経損傷または選択的手術によって生じる創傷も)、慢性創傷(例えば、糖尿病性、静脈性および褥瘡性潰瘍など)の場合または全般的に治癒に障害のある個人(例えば、高齢者もしくは糖尿病の個人)にとって、治癒速度を速めることが望ましいことが多い。これらの例すべてにおいて、創傷は、個人のクオリティオブライフに重大な影響を及ぼす可能性があり、または結果として死に至ることさえある。例えば、創傷部の細菌感染により、治癒過程が妨害され、生命を脅かす合併症に至ることがある。よって、臨床的に可能な限り治癒速度を速めることが望ましい。
【0005】
創傷の治癒過程は、負傷した瞬間から始まり数か月から数年間続くこともある複雑な一連の事象である。特に成人の組織における創傷の治癒は複雑な修復過程である。例えば、皮膚の治癒過程には、創傷部に対する特殊化したさまざまな細胞のリクルート、細胞外マトリックスおよび基底膜の沈着、血管形成、特異的プロテアーゼ活性ならびに再上皮化が含まれる(SingerおよびClark、The New England Journal of Medicine、341:738〜743ページ、1999年)。
【0006】
創傷の治癒過程には明確な3つの段階がある。第1に、一般に創傷が生じた瞬間から最初の2から5日までに起こる炎症期には、血小板が凝集して顆粒が沈着する。これが、フィブリンの沈着を促進して、増殖因子の放出を刺激する。白血球が創傷部に移動し、消化を開始し、創傷から壊死組織片を運び去る。この炎症期の間、さらに単球がマクロファージに転換され、血管形成および線維芽細胞の生成を刺激する増殖因子を放出する。
【0007】
第2に、一般に2日から3週までに起こる増殖期には、肉芽組織が形成され、上皮化が始まる。この段階で重要な細胞の種類である線維芽細胞は、増殖し、コラーゲンを合成して創傷を塞ぎ、上に上皮細胞が増殖する強いマトリックスを提供する。線維芽細胞がコラーゲンを生成するにつれ、近くの血管から新生の血管が伸びて、再生組織に栄養分が供給される。血管のこの赤いループにより、創傷が粒状に見えることから、「肉芽形成」組織と呼ばれる。上皮化には、創傷表面から上皮細胞が移動して創傷を塞ぐことが含まれる。同種の細胞同士が接触する必要性により上皮細胞が動かされ、それらの細胞が上を移動する格子として機能する、フィブリン鎖のネットワークによって誘導される。筋線維芽細胞と呼ばれる収縮性細胞が創傷に現れ、創傷閉鎖を助ける。筋線維芽細胞は、コラーゲン合成および収縮性を示し、創傷の肉芽形成時に一般的である。
【0008】
第3に、3週から最大数年までに起こることがある、創傷の治癒の最終段階である再構築期には、瘢痕でコラーゲンの分解と再合成とが繰り返される。この段階の間に、新たに形成された皮膚の抗張力が増す。
【0009】
一方、創傷の治癒の速度が増すと、瘢痕形成の増加を伴うことが多い。瘢痕化は、大部分の成体動物および成人ヒトの組織での治癒過程の結果である。瘢痕組織は、通常、機能的質が劣っているため、瘢痕組織が取って代わる組織と同一ではない。例えば、皮膚の瘢痕は紫外線照射に対しての抵抗性が低く、瘢痕組織内では汗腺および毛包がもとの状態には戻らない。瘢痕の種類には萎縮性、肥厚性およびケロイド性瘢痕ならびに瘢痕拘縮が挙げられるが、これらに限定されるものではない。萎縮性瘢痕は、平らで、くぼみまたは穴のように周辺の皮膚より下に陥没している。肥厚性瘢痕は、本来の損傷の境界内にとどまっている隆起した瘢痕であり、異常なパターンで配列された過剰なコラーゲンが含まれることが多い。ケロイド性瘢痕は、本来の創傷の周縁部を越えて広がり部位特異的に周囲の正常な皮膚に浸潤する隆起した瘢痕であり、異常な様式で配列した渦巻き状のコラーゲンが含まれることが多い。瘢痕拘縮は、関節をまたぐか、または皮膚が直角にしわになる瘢痕であり、縮みまたは拘縮に発展する傾向がある。瘢痕拘縮は、瘢痕が完全にできあがっていないうちに生じ、肥厚する傾向が高く、一般に障害を引き起こし機能障害をもたらすものである。瘢痕化は、虚血性または線条であることもある。虚血性の瘢痕(Ischemic scar)は、局所的に血液供給が不足することにより生じる。線条瘢痕は、皮膚が急速に伸展する場合(例えば、妊娠中の著しい体重増加もしくは青年期の急成長)、または治癒過程中に皮膚が張力を受けている場合(通常、関節付近)に形成される。通常、この種類の瘢痕は、数年後には外観が改善される。
【0010】
一方、正常な皮膚はかごの編目状に配列されたコラーゲン線維からなり、これが真皮の強度および弾力性の双方をもたらす。したがって、より順調な創傷の治癒過程を達成するためには、コラーゲン生成を刺激するだけでなく、瘢痕形成を低減するためにより組織化された配列でコラーゲンが横たわるアプローチが望ましい。本開示は、満たされていないこの需要に対処するものである。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、概して創傷の治癒を改善し、瘢痕形成を低減する方法を提供する。本開示の態様は、外傷または創傷の治癒を促進する方法、創傷の再上皮化を促進する方法、創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減する方法、創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止する方法、皮膚創傷の、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制する方法ならびに損なわれた外観(appearance of disfiguration)を改善する方法に関する。
【0012】
創傷は、切開、引き裂き、擦過、穿刺、貫通、銃撃、刺すことならびに顔面および全身の、形成および再建手術によって生じることもある。創傷の治癒を増進し、瘢痕形成を低減するために、シリコンシートおよび局所用クリームなどのさまざまなアプローチが試みられてきたが、これらのアプローチの多くは望ましい効果を達成できない。したがって、本開示は、この需要に対処する新しい治療的アプローチを提供する。この開示の利点の1つは、リラキシンが創傷の治癒速度を増加させることである。本開示の別の利点は、リラキシンが創傷部の強度を改善することである。さらに別の利点は、リラキシンの投与により瘢痕形成を低減する抗線維症作用を刺激し、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制することが含まれる。
【0013】
リラキシンの投与により創傷の治癒は著しく増進される。例えば、齧歯類において、ラットではリラキシンの全身投与がVEGFおよびbFGF転写物のアップレギュレーションに関与し、負傷した部位における新しい血管の形成を選択的に増加させる(Unemoriら、Wound Repair and Regeneration、8:366〜368ページ、2000年)。しかしながら、齧歯類の創傷の治癒メカニズムは、ブタおよびヒトの創傷の治癒メカニズムとは異なる。したがって、本開示の利点は、本開示が、創傷の治癒を促進するためおよび瘢痕形成を低減するために、安全で効果的な方法で動物(ブタなど)およびヒトの皮膚にリラキシンを投与する方法を提供することである。
【0014】
前述の各方法について、外傷あるいは創傷(開放創、閉鎖創、切創または顔面の形成手術もしくは全身の形成手術によって生じた創傷であってもよい)のある動物またはヒト対象(糖尿病の対象を含む)を選択し、外傷または創傷の治癒を促進するのに有効な量の薬学的に許容可能なリラキシンを含む医薬製剤を投与する。特定の実施形態では、外傷は切創(表皮の切開創であってもよい)または創傷(開放もしくは閉鎖であってもよい)である。開放創の例としては、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および刺創が挙げられるが、これらに限定されるものではない。閉鎖創の例としては、挫傷または血腫が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、創傷の治癒、再上皮化、または治癒時の瘢痕化の低減が加速される。他の実施形態では、創傷は、全体がもしくは部分的に痂皮で覆われているか、活性な線維芽細胞を含むか、または急性もしくは慢性創傷である。さらに別の実施形態では、切創は表皮の切開創である。
【0015】
本開示の前述の態様について他の実施形態では、創傷は顔面の形成手術または全身の形成手術などの美容整形手術によって生じたものであってもよい。顔面の形成手術の例としては、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復(resurfacing)、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。全身の形成手術の例としては、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
特定の実施形態では、特定の受容体を調節することにより、対象の創傷もしくは切創の治癒の促進、創傷の再上皮化の促進、創傷の治癒時の瘢痕化の低減もしくは防止または創傷の、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成の抑制が起こる。特に、LGR7およびLGR8受容体は、リラキシンの結合によって活性化され、この結合が一酸化窒素(NO)の生成を引き起こす。他の実施形態では、外傷部のまわりの血管拡張を増大すること、創傷部で組織の肉芽形成を低減すること、創傷部で慢性炎症を低減すること、創傷部で壊死を低減すること、創傷部でコラーゲンの組織化を増進すること、創傷部の組織構造を改善すること、創傷部の強度を増すことおよびそれらの組合せによってリラキシンが創傷または切創の治癒を促進する。前述の方法は、皮膚創傷の再上皮化を促進すること、瘢痕化を低減すること、瘢痕化を防止することならびに線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制することをさらに含む。特定の実施形態では、再上皮化には、創傷部のまわりの血管拡張を増大すること、創傷部で組織の肉芽形成を低減すること、創傷部で慢性炎症を低減すること、創傷部で壊死を低減すること、創傷部でコラーゲンの組織化を増進すること、創傷部の組織構造を改善することおよび/または創傷部の強度を増すことが含まれるが、これらに限定されるものではない。他の実施形態では、皮膚創傷の再上皮化は、さらに瘢痕化を低減する、瘢痕化を防止するかつ/または線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制する。
【0017】
本開示の医薬製剤に使用されるリラキシンは、例えば、合成または組換え型リラキシンが可能である。一実施形態では、リラキシンはヒトリラキシンである。本開示の別の実施形態では、リラキシンは、H2ヒトリラキシンである。さらに別の実施形態では、リラキシンは、合成または組換え型H2ヒトリラキシンである。このように、合成または組換え型ヒトリラキシンの医薬製剤で対象を治療することができる。本開示の別の実施形態では、合成H2ヒトリラキシンで対象を治療する。さらに別の実施形態では、組換え型H2ヒトリラキシンで対象を治療する。
【0018】
リラキシンは、以下に限定されるものではないが、局所、皮下、全身、筋肉内、舌下、静脈内、吸引、注入、洗浄および/または浸透圧ポンプ(例えば、マルチチャンバー型浸透圧ポンプシステム(multi-chamber osmotic pump system))などの多くの異なる経路によって対象に投与することができる。例えば、局所送達には以下に限定されるものではないが、ローション、ゲル、クリーム、溶液および包帯(リラキシンが包帯のガーゼに送達され、湿潤創傷に適用されると創傷部に放出されることになる)が含まれうる。特定の実施形態では、徐々に速度を遅くしてリラキシンを投与した。リラキシンの血清中濃度を約0.5から約500ng/mL、より好ましくは約0.5から約300ng/mLおよび最も好ましくは約3から約75ng/mLに維持するよう、速度をあらかじめ決定できる。可能な範囲は約1から約50ng/mLであり、好ましい血清中濃度は20ng/mLである。他の実施形態では、リラキシンが1日あたり対象の体重をもとに約10から1000μg/kgの範囲の量で投与される。さらに別の実施形態では、リラキシンの用量は、10、30、100および250μg/kg/日である。さらに別の実施形態では、これらの用量は、それぞれ約3、10、30および75ng/mLのリラキシンの血清中濃度をもたらす。さらに別の実施形態では、1日あたり体重をもとに約960μg/kgとしてリラキシンが投与されることが好ましい。いかなる用量レベルについても、治療効果が得られるのに十分な期間にわたってリラキシンが投与されてもよい。
【0019】
特定の実施形態では、上記の方法には、治癒を加速するために創傷を洗浄することを含めてもよい。リラキシンは、薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤とともに投与することができ、ローション、ゲル、クリームおよび/または溶液の形態で組み合わされてもよい。他の実施形態では、リラキシンは、創傷浸透促進剤(wound penetration enhancer)と組み合わせて投与される。リラキシンは、NSAIDまたは抗生物質などの少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。さらに別の実施形態では、治療効果が得られるのに十分な期間にわたってリラキシンが投与される。
【0020】
本開示の他の態様は、外傷を治療する方法、創傷を再上皮化する方法、皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止または低減する方法であって、薬学的に活性な合成ヒトリラキシンが対象に投与される方法を提供する。これには、1日あたり体重をもとに約10から約1000μg/kgの範囲の用量を含む注入可能な製剤が含まれ、リラキシンは治療効果が得られるのに十分な期間にわたって投与される。一実施形態では、対象はヒト対象である。他の実施形態では、外傷は、表皮の切開創であることもある切創、または開放もしくは閉鎖であることもある創傷である。開放創の例としては、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および/または刺創が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに別の実施形態では、製剤は注入可能なものである。
【0021】
さらに別の態様では、本開示は、皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止または低減する方法であって、薬学的に活性な合成ヒトリラキシンが1日あたり体重をもとに約10から約1000μg/kgの範囲の量で対象に投与され、対象において治療効果が得られるのに十分な期間にわたって投与され続ける方法を提供する。一実施形態では、対象はヒト対象である。別の実施形態では、創傷は、開放創または閉鎖創である。さらに別の実施形態では、開放創には、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および刺創が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに別の実施形態では、瘢痕化には、ケロイド、肥厚性、虚血性および線条が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに別の実施形態では、まず既存の瘢痕組織が取り除かれる。さらに別の実施形態では、製剤は注入可能なものである。
【0022】
本開示は、上述のとおり、(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の外傷の治癒を促進するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷の治癒を促進するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷の再上皮化を促進するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷が治癒する間に瘢痕化するのを防止するために用いるリラキシン;(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の創傷の、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制するために用いるリラキシン;ならびに(糖尿病の対象を含む)ヒト対象の損なわれた外観を改善するために用いるリラキシンをさらに包含する。
【0023】
本開示は、さらに皮膚創傷の表面的外観(cosmetic appearance)を改善する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して改善された表面的外観を有する治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、周辺の皮膚とのより近い色の一致を含む(より滑らかな質感、周辺の皮膚の歪みの低減、周辺の皮膚に対するより良い外形および包括的な症状がないこと)。いくつかの好適な実施形態では、改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものをさらに含む。いくつかの実施形態では、リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンはH1、H2またはH3ヒトリラキシンであり、他の実施形態では、リラキシンは、リラキシン作動薬である。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、対象に全身投与され、かつ/または皮膚創傷に局所投与される。いくつかの実施形態は、皮膚創傷を洗浄することをさらに含む。さらに、いくつかの実施形態では、医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、治癒能力が損なわれた(例えば、糖尿病の、高齢の)ヒト対象である。
【0024】
さらに、本開示は、皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して瘢痕化が低減された治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、瘢痕化は、ケロイド、肥厚性瘢痕および線条からなる群から選択される。いくつかの好適な実施形態では、本方法は、デブリードマンまたは既存の瘢痕組織の除去をさらに含む。いくつかの実施形態では、リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである。いくつかの実施形態では、リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンであり、他の実施形態では、リラキシンは、リラキシン作動薬である。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、対象に全身投与され、かつ/または皮膚創傷に局所投与される。いくつかの方法は、皮膚創傷を洗浄することをさらに含む。さらに、いくつかの実施形態では、医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、治癒能力が損なわれた(例えば、糖尿病の、高齢の)ヒト対象である。
【0025】
本開示は、さらに創傷の治癒を促進する方法であって、創傷の治癒を促進するのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を創傷を有する対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、創傷は、形成手術によって生じるものである。いくつかの実施形態では、形成手術は、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛からなる群から選択される顔面の形成手術である。他の実施形態では、形成手術は、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントからなる群から選択される全身の形成手術である。いくつかの実施形態では、リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンであり、他の実施形態では、リラキシンは、リラキシン作動薬である。いくつかの好適な実施形態では、リラキシンは、全身および/または局所投与される。さらに、いくつかの好適な実施形態では、医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、治癒能力が損なわれた(例えば、糖尿病の、高齢の)ヒト対象である。
【0026】
本開示は、好適な実施形態を説明するのに役立つ添付の図とともに読むと、最もよく理解される。ただし、当然のことながら、本開示は図に開示した特定の実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1A:大きさおよび形状がインスリンと類似したペプチドホルモンであるH2リラキシンを示す図である。図1B:ヒトリラキシン2(H2)のB鎖(配列番号:1)およびA鎖(配列番号:2、Xはグルタミン酸[E]またはグルタミン[Q]を表す)のアミノ酸配列である。
【図2】図2A:ブタの創傷の位置を示す図である。図2B:生きたブタの創傷の位置を示す写真である。
【図3】リラキシンおよびプラセボによる6週間の処置後における若齢ブタの背中の創傷部の写真である。区分3は、最初の1週間、リラキシンで洗浄され、続いて2〜6週目の間、高用量のリラキシン局所製剤で処置された。区分4、5および6は1週目の間は洗浄されなかった。区分4は、プラセボで処置された。区分5は、低用量の局所製剤で処置され、区分6は、高用量の局所製剤で処置された。
【図4】6日後の創傷の外観の変化を示す写真である。(A)上の写真は、対照ブタの皮膚を示す。(B)下の写真は、全身性リラキシンが適用された、処置されたブタの皮膚を示す。図からわかるように、リラキシンで処置された創傷は、対照ブタと比較して治癒がより速く良好で、治癒後の皮膚の外観がより滑らかに見える。
【図5】皮膚の表面的外観の視覚的評価を示すグラフであり、(A)審美的点数(cosmetic score)を示し、(B)周辺の皮膚との色の一致についての点数を示す。両方の点数は、4および6週目につけた。
【図6】6週間の処置後における若齢のブタの創傷部を示す写真である。矢印で示された領域は以下を示す。(A)皮膚が全身性リラキシンで処置された場合の瘢痕が目立たない領域、および(B)皮膚がプラセボで処置された場合の赤い瘢痕が目立つ領域。写真の両側にある黒いマークは本来の創傷の範囲を示す。写真にある目立つ痂皮は、試験中にパンチバイオプシーを採取した場所を示す。
【図7】リラキシンで処置した後の創傷部を示す病理組織学的スライドである。
【図8】リラキシン処置した肉芽組織とリラキシン処置していない肉芽組織を比較した若齢のブタにおける創傷部の2枚の病理組織学的スライドである。左側のスライド(リラキシン処置なし)では重度の瘢痕化が観察され、右側のスライド(リラキシン処置あり)では軽度の瘢痕化が観察された。スライドは、創傷を受けて6週間後に見られる広範囲に及ぶ肉芽組織を示している。スライドは、さらに肉芽組織の量を低減するリラキシンの効果(右)および結果として正常な外観に回復した組織を示している。
【図9】6週間後の創傷部の肉芽組織の量(左)および炎症(右)の採点(盲検法による評価)を示すグラフである。全身性リラキシン処置した創傷(赤)は、全身性リラキシン処置していない創傷(青)より肉芽組織または炎症が有意に低減された。これは、全身送達によりリラキシンで処置されると創傷部がより良好に変化することを示している。
【図10】創傷治癒の評価に使用されたコラーゲン修復のスライドである。(A)上側は、相対的に組織化されていないコラーゲンを示している。(B)下側は、良好に治癒したコラーゲンを示している。
【図11】全身性リラキシンを投与されていない創傷(左)と比較して全身性リラキシンで処置された創傷(右)の創傷治癒の複合点数が有意に改善されたことを示すグラフである。創傷の点数は、創傷部におけるコラーゲンの主観的外観に基づく3段階評価であり、数が大きいほど治癒が良好であることを示す。点数「1」は、多くの線維が平行な束の状態でまたは一次元的に配列され、大きさもより小さく、よりきつく固まっていることを指す。「2」は、中程度に線維が配列され編まれていることを指す。「3」は、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されていることを指し、治癒が最も良好であることを示す。
【図12】瘢痕を分類する、瘢痕の新しい採点法を示す顕微鏡写真である。正常な皮膚を(A)、軽度の瘢痕化を(B)、重度の瘢痕化を(C)、瘢痕化を(D)に示す。コラーゲンの束の方向を青、白および橙黄色の色で示している。軽度の瘢痕では、編まれたものは見られるが、細いコラーゲンが含まれている。重度の瘢痕には、主に平面的に配向した非常に細いコラーゲンの束が存在する。スケールは、100ミクロン、コンゴレッド染色、偏光、20×である。
【図13】定量的なコラーゲンの採点法を示す図である。フォトショップソフトウェアを用いて「赤み」の割合の算定が行われる。瘢痕周囲をトレースして、赤い画素の平均数を計算する。隣接した正常な領域をトレースして、赤い画素の平均数を計算する。
【図14】本試験に適用した客観的なコラーゲン採点法の結果を示すグラフである。全身性リラキシンを投与された創傷(右)は、全身性リラキシンを投与されなかった創傷(左)よりコラーゲンが有意により良好に組織化された。
【図15】処置されたイヌの歯肉において注入部位から0.5cm、1.0cmおよび2.0cmの位置で測定した注入後1時間、2時間および4時間において検出されたH2リラキシン(H2 RLX)の濃度を示すグラフである。処置されたイヌの歯肉の評価から、1、2および4時間の3時点のすべてにおいてリラキシン(RLX)が存在していたが、濃度が着実に低下していることが観察された。具体的には、90nM、78nMおよび21nMのH2 RLXがそれぞれ検出された。RLXが歯肉の中を限定的に移動したことが確認された。1時間の時点では、RLXは、注入部位から0.5cmの位置で検出されたが、注入部位から1.0および2.0cmの位置では検出されなかった。残りの時点では、注入部位でのみRLXが検出された。したがって、このグラフにより、注入部位の近くにリラキシンがとどまっていることが明らかに示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
総括
本開示は、外傷または創傷の治癒を促進する方法に関する。本開示は、外傷を治療する方法、創傷の再上皮化を促進する方法ならびに治癒過程で瘢痕化するのを低減および防止する方法を提示する。本開示は、線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制する方法ならびに皮膚の損なわれた外観を改善する方法をさらに提供する。特定の実施形態では、本開示の方法は、例えば高齢者などの手術または外傷後の治癒が思わしくない患者ならびに糖尿病患者および免疫低下患者などの併存症のある患者の、創傷の加速および領域の強化に適用するのに特に適している。他の実施形態では、本開示の方法は、美容整形手術に対する適用性が見いだされている。
【0029】
本開示は、創傷の治癒および瘢痕の防止の分野で著しい進歩を提示する。臨床治療の場および臨床治療前の場でリラキシンを創傷に用いると、治癒過程、具体的には再上皮化の速度を加速する。リラキシンによる処置は、瘢痕化の低減および防止においても治療的に有効である。リラキシンが、LGR7およびLGR8などの特異的なG−タンパク質共役型リラキシン受容体を調節できるため、リラキシンのこれらの受容体との結合により、より良好な創傷の治癒および瘢痕の防止をもたらすと考えられている。
【0030】
リラキシンは、血管内皮増殖因子(VEGF)および線維芽細胞増殖因子(FGF)などの血管新生サイトカインを誘導することにより創傷部での新しい血管の成長(血管形成)も促進する。VEGF放出を刺激することにより、内皮細胞の有糸分裂活性および/または移動活性を促進する。さらに、組織の修復に極めて重要なのは、細胞の移動および/または増殖を支持する細胞外骨格を構築することである。多くの細胞タイプのあらゆるものからのFGF放出を刺激すると、線維芽細胞の増殖および移動を促進し、これがコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)成分の生成に関与する。驚くべきことに、本発明者は、リラキシンの約6週間の処置後、創傷部において血管の全般的な減少をもたらす、すなわちリラキシン処置の結果として創傷部に見られる赤みが著しく抑えられることを見いだした。リラキシンは、まずできたばかりの創傷部で新しい血管の成長を促進し、その後、約6週間の処置後にはこれらの新しい血管を減少させ、よりきめ細かく滑らかでより正常に見える皮膚をもたらすため、これは興味深い新規の発見である。
【0031】
定義
「リラキシン」という用語は、当該技術分野で周知のペプチドホルモンを指す(図1を参照)。本明細書で使用される場合、「リラキシン」という用語は、インタクトな完全長ヒトリラキシンまたは生物学的活性を維持しているリラキシン分子の一部などのヒトリラキシンを包含する。「リラキシン」という用語は、合成H2ヒトリラキシンおよび組換え型H2ヒトリラキシンなどの合成ヒトリラキシンおよび組換え型ヒトリラキシンをさらに意図している。この用語は、リラキシン類似体および生物学的活性を維持したその一部、ならびに例えばLGR7受容体またはLGR8受容体などのリラキシン受容体から、結合したリラキシンを競合的に置換する薬剤などの、リラキシン様活性を有する活性薬剤をさらに包含する。さらに、ここで使用される場合、ヒトリラキシンの核酸配列は、ヒトリラキシンH2の核酸配列と100%同一であってはならないが、ヒトリラキシンH2の核酸配列と少なくとも約40%、50%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるとよい。リラキシンは、ここで使用される場合、当業者に周知のいかなる方法で生成されてもよい。そのような方法の例は、例えば、米国特許第5,759,807号ならびにBullesbachら、J Biol Chem、266:10754〜10761ページ、1991年で説明されている。リラキシン分子および類似体の例は、例えば、米国特許第5,166,191号で説明されている。
【0032】
「創傷」という用語は、通常開放創および閉鎖創の両方を指し、以下に定義されるとおりである。創傷はさらに、急性創傷または慢性創傷として分類することができる。急性創傷とは、根本的な治癒の異常はなく、通常健康な個体に手術または外傷に次いで二次的に生じるもので、すぐに完全に治癒する。一方、慢性創傷とは、組織の完全性が失われるものであり、侵襲または外傷によって生じ、長期間継続するか頻繁に再発する。本明細書で使用される場合、「皮膚創傷」という用語は、皮膚の破損を指す。
【0033】
「開放創」という用語は通常、創傷を引き起こした物体により分類される。これには、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創などが含まれる。切開創または切り傷は、ナイフ、カミソリまたはガラスの破片などの刃がきれいで鋭い物体によって生じることもある。表皮のみに関与する切開創は、切創として分類することができる。裂創は、硬組織の上にある軟部組織に対する鈍い衝撃によって生じるか(頭蓋骨を覆う皮膚の裂創など)、または皮膚および他の組織が裂けることによって生じる(出産によって生じるなど)不規則な創傷である。結合組織または血管が下部の硬表面に押しつけられるため、裂創がつながっているように見えることもある。擦過創(擦り傷)は、皮膚の最外層(表皮)が擦りむける表面の創傷であり、ざらざらした表面の上を滑り落ちることによって生じることが多い。穿刺創は、釘または針などの物体が皮膚を貫通することによって生じることもある。貫通創は、ナイフなどの物体が体に刺さることによって生じることもある。射創は、弾丸または類似の発射体が体に打ち込まれるかまたは体を通過することによって生じる。そのような場合、入り口に1つと出口に1つとの2つの創傷が存在することもあり、通常スルーアンドスルー(through-and-through)として知られている。
【0034】
「閉鎖創」という用語は、打撲傷としてより一般的に知られている、鈍器外傷により生じ皮膚の下の組織が損傷する挫傷;血腫(Blood tumor)とも呼ばれる、血管の損傷により生じ、皮膚の下に次々と血液が集まる血腫;および大きなまたは極度の力が長期にわたって与えられたことにより生じることがある圧挫損傷を指す。
【0035】
「瘢痕」という用語は、先に起きた外傷または創傷(例えば、切開創、切除または外傷)により生じる異常な形態構造を指す。瘢痕は、主にコラーゲン1型および3型ならびにフィブロネクチンのマトリックスである結合組織からなる。瘢痕は、(皮膚の通常の瘢痕に見られるように)組織化が異常なコラーゲン線維からなるかまたは(中枢神経系の瘢痕または皮膚の病理学的な瘢痕化に見られるように)結合組織の異常な蓄積であることもある。瘢痕の種類には萎縮性、肥厚性およびケロイド性瘢痕ならびに瘢痕拘縮が挙げられるが、これらに限定されるものではない。萎縮性瘢痕は、平らで、くぼみまたは穴のように周辺の皮膚より下に陥没している。肥厚性瘢痕は、本来の損傷の境界内にとどまっている隆起した瘢痕であり、異常なパターンで配列された過剰なコラーゲンが含まれることが多い。ケロイド性瘢痕は、本来の創傷の周縁部を越えて広がり部位特異的に周囲の正常な皮膚に浸潤する隆起した瘢痕であり、異常な様式で配列した渦巻き状のコラーゲンが含まれることが多い。瘢痕拘縮は、関節をまたぐか、または皮膚が直角にしわになる瘢痕であり、縮みまたは拘縮に発展する傾向がある。瘢痕拘縮は、瘢痕が完全にできあがっていないうちに生じ、肥厚する傾向が高く、一般に障害を引き起こし機能障害をもたらすものである。
【0036】
「投与する」とは、以下に限定されるものではないが、局所、静脈内、全身、皮下、筋肉内、舌下および吸引もしくは注入、洗浄または浸透圧ポンプなどの特定の経路により医薬治療薬または製剤を対象に与えるあるいは適用することを指す。
【0037】
リラキシン
リラキシンは、大きさおよび形状がインスリンに類似したペプチドホルモンである(図1を参照)。より具体的には、リラキシンは、インスリン遺伝子スーパーファミリーに属する内分泌および自己分泌/傍分泌ホルモンである。活性型のコード化タンパク質は、鎖間に2つおよび鎖内に1つのジスルフィド結合により結合したA鎖およびB鎖からなる。したがって、この構造はジスルフィド結合の配置についてインスリンに非常に似ている。ヒトには3つの非対立リラキシン遺伝子、リラキシン−1(RLN−1またはH1)、リラキシン−2(RLN−2またはH2)およびリラキシン−3(RLN−3またはH3)が存在する。H1およびH2は高い配列相同性を有する。この遺伝子を発現する異なるアイソフォームをコードする、選択的にスプライシングされた2つの転写変異体が存在する。ヒトにおいてH1の発現は、定かではない。H2は、生殖器官で発現し、H3は主に脳内に見られる。その受容体のリラキシンペプチドファミリーの進化は、一般に当該技術分野で周知である(Wilkinsonら、BMC Evolutionary Biology、5:1〜17ページ、2005年;ならびにWilkinsonおよびBathgate、1章、Relaxin and Related Peptides、Landes Bioscience and Springer Science + Business Media、2007年)。
【0038】
リラキシンは、2つの特定のリラキシン受容体、すなわち、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)を活性化する。LGR7およびLGR8は、ロイシンリッチリピートを含むGタンパク質共役受容体(LGR)であり、これはGタンパク質共役受容体の固有のサブグループを表す。これらは、7回膜貫通領域およびグリコシル化された大きな外部領域を含み、遠い関係ではあるがLH−受容体またはFSH−受容体などの糖タンパク質ホルモンの受容体と関連がある。これらのリラキシン受容体は、心臓、平滑筋、結合組織ならびに中枢神経系および自律神経系に見られる。H1、H2、ブタおよびクジラリラキシンなどの有効なリラキシンは、特定の共通した配列、すなわち、Arg−Glu−Leu−Val−Arg−X−X−Ile配列または結合カセットを有している。例えば、ラット、サメ、イヌおよびウマリラキシンなどの彼の配列相同関係から外れているリラキシンは、LGR7およびLGR8受容体によって生物活性が低下されることが示されている(Bathgateら、Ann NY Acad Sci、1041:61〜76ページ、2005年)。
【0039】
リラキシンは、女性および男性双方に見られる(Tregearら;Relaxin 2000、Proceedings of the Third International Conference on Relaxin & Related Peptides、2000年10月22〜27日、ブルーム、オーストラリア)。女性の場合、リラキシンは、卵巣の黄体、乳房によって生成され、妊娠中には胎盤、絨毛および脱落膜によっても生成される。男性の場合、リラキシンは精巣で生成される。ヒトにおいて、リラキシンは、妊娠、精子の運動性の増強、血圧の調整、心拍の制御ならびにオキシトシンおよびバソプレッシンの放出に関与する。動物においてリラキシンは、コラーゲン代謝にも影響を及ぼす。リラキシンは、コラーゲンの合成を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼを増加することによりコラーゲンの分解を増強する。リラキシンは、血管形成も増進し、腎臓血管拡張薬でもある。
【0040】
リラキシンは、増殖因子の一般的特性を有し、結合組織の性質を変化させたり、平滑筋の収縮に影響を与えたりすることができる。H2は、主に生殖組織で発現することが知られている(米国特許第5,023,321号参照)。しかしながら、本発明者は、H2が創傷治癒の改善および瘢痕形成の低減において重要な役割を果たすことを発見した。
【0041】
リラキシン作動薬
いくつかの実施形態では、本開示は、正常血圧患者または高血圧患者の急性心不全に関連する呼吸困難を治療する方法であって、リラキシン作動薬の投与を含む方法を提供する。いくつかの方法では、リラキシン作動薬は、以下に限定されるものではないが、RXFP1、RXFP2、RXFP3、RXFP4、FSHR(LGR1)、LHCGR(LGR2)、TSHR(LGR3)、LGR4、LGR5、LGR6LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)から選択される1つまたは複数のリラキシン関連Gタンパク質共役受容体(GPCR)を活性化する。いくつかの実施形態では、リラキシン作動薬にはCompugenのWO2009/007848(リラキシン作動薬の配列を教示するために参照によって本明細書に引用したものとする)の式Iのアミノ酸配列が含まれる。
【0042】
式Iのペプチドは、好ましくは7から100アミノ酸長であり、以下のアミノ酸配列を含む:X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14−X15−X16−X17−X18−X19−X20−X21−X22−X23−X24−X25−X26−X27−X28−X29−X30−X31−X32−X33。ここで、X1は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X2は存在しないか、Qまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X3は存在しないか、Kまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸;X4は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X5は存在しないか、QまたはS極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X6は存在しないか、VまたはAまたはPまたはMまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X7は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X8は存在しないか、PまたはLまたはA天然もしくは非天然アミノ酸;X9は存在しないか、PまたはQ天然もしくは非天然アミノ酸;X10は存在しないか、Gまたは小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X11は存在しないか、AあるいはHあるいはEあるいはDあるいは疎水性または小さいまたは酸性の、天然もしくは非天然アミノ酸;X12は存在しないか、AあるいはPあるいはQあるいはSあるいはRあるいはHあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X13は存在しないか、CまたはVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X14は存在しないか、RあるいはKあるいはQあるいはPあるいは塩基性または極性の、天然もしくは非天然アミノ酸;X15は存在しないか、RあるいはQあるいはSあるいは塩基性または極性の、天然もしくは非天然アミノ酸;X16は存在しないか、AあるいはLあるいはHあるいはQあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X17は存在しないか、Yあるいは疎水性または芳香族の、天然もしくは非天然アミノ酸;X18は存在しないか、Aあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X19は存在しないか、Aまたは疎水性の小さい天然もしくは非天然アミノ酸;X20は存在しないか、Fあるいは疎水性または芳香族の、天然もしくは非天然アミノ酸;X21は存在しないか、SまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X22は存在しないか、Vまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X23は存在しないか、Gあるいは疎水性または小さい、非天然アミノ酸あるいはアミドで置換されている;X24は存在しないか、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸;X25は存在しないか、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸;X26はAあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X27はYあるいは疎水性または芳香族の、天然もしくは非天然アミノ酸;X28はAあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X29はAあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸;X30はFまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X31はSまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸;X32はVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸;X33は存在しないか、Gあるいは疎水性または小さい、天然もしくは非天然アミノ酸またはアミドで置換されている;あるいは薬学的に許容可能なそれらの塩である(配列番号:4)。好適ないくつかの実施形態では、リラキシン作動薬は、ペプチドP59C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFSVを含む(配列番号:5)。別の好適な実施形態では、リラキシン作動薬は、ペプチドP74C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFS VGRRA Y AAFS Vを含む(SEQ DD NO:6)。ヒト補体C1Q腫瘍壊死因子関連タンパク質8(CTRP8またはC1QT8)の別の派生体、例えばペプチドP59−G(遊離酸型Gly(free acid Gly))GQKGQVGPPGAACRRA Y AAFSVG(配列番号:7)も本開示の方法での使用に適していると考えられる。C1QT8のアミノ酸配列を配列番号:8として以下に記載する。MAAPALLLLALLLPVGAWPGLPRRPCVHCCRPAWPPGPYARVSDRDLWRGDLWRGLPRVRPTIDIEILKGEKGEAGVRGRAGRSGKEGPPGARGLQGRRGQKGQVGPPGAACRRAYAAFSVGRRAYAAFSVGRREGLHSSDHFQAVPFDTELVNLDGAFDLAAGRFLCTVPGVYFLSLNVHTWNYKETYLHIMLNRRPAAVLYAQPSERSVMQAQSLMLLLAAGDAVWVRMF QRDRDNAIYGEHGDLYITFSGHLVKP AAEL。
【0043】
本開示は、これらのポリペプチドの相同体も包含し、そのような相同体は、典型的なリラキシン作動薬(例えば、配列番号:5または配列番号:6)のアミノ酸配列と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%またはもっと言えば100%同一であってもよく、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastPソフトウェアでデフォルトパラメータを用いて決定することができる。デフォルトパラメータは、任意ではあるが好ましくは以下を含む:フィルターオン(この選択によりSeg(タンパク質)プログラムを使用して、繰り返し配列または複雑度の低い配列が問い合わせ配列から除外される)、スコア行列がタンパク質用のBLOSUM62、word sizeが3、期待値が10、ギャップコストが11,1(開始ならびに(開始および延長)。任意ではあるが好ましくは、核酸配列同一性/相同性は、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアでデフォルトパラメータを用いて決定される。デフォルトパラメータは、DUSTフィルタープログラムを使用することが好ましく、さらに期待値が10、複雑度の低い配列のフィルタリングおよびword sizeが11であることが好ましい。最後に、本開示は、上記のポリペプチドおよび変異を有するポリペプチドのフラグメントも包含する。この変異は、自然に起こったかまたは人工的に誘導した、ランダムにかまたは標的化した方法での欠失、挿入または1つもしくは複数のアミノ酸の置換などである。
【0044】
リラキシン処置が創傷の治癒を促進する
例えば切ることによって皮膚が傷つくと、湿潤創傷が生じ、損傷を修復するために真皮組織および表皮組織を再生する体の自然な作用が一連の複雑な生化学的現象で構成される。リラキシンは、この過程を増進および加速する。創傷の治癒の初期段階では、一度細菌および壊死組織片が創傷部から取り除かれ、血管形成によって内皮細胞から新しい血管が成長する。さらに、線維芽細胞が増殖し、コラーゲンおよびフィブロネクチンを分泌することによって新しい細胞外マトリックス(ECM)を形成する。本開示は、肉芽組織形成を増加させ、最終的に血管形成によって生じる血管の数を減少させ、コラーゲンの沈着を増加させ、より良好に組織化されたコラーゲンマトリックスの形成を助け、創傷の再上皮化を促進することによって自然な創傷の治癒過程を加速し、創傷部の強度を増す方法を提供する。いくつかの例では、創傷が適切に治癒しない場合(例えば、糖尿病、皮膚障害を有する個体の場合)、リラキシン処置は創傷の治癒を増進するだけでなく、それを可能にする。
【0045】
より具体的には、本発明者は、2段階の過程で創傷の治癒を促進するリラキシンの能力が有利であることを発見した。第1に、リラキシンは、良好に治癒するよう線維芽細胞を活性化し、血管形成を促進して創傷を速く閉鎖する。第2に、リラキシンには、抗線維症および抗血管新生の作用があり順調な治癒を達成する。これにより、瘢痕形成を低減する。リラキシンに抗血管新生の作用があるという事実は、一般に信じられていること、すなわちリラキシンが血管の成長を促進し、それより血管形成を増進するだけであるということとは反対の新規の発見である。
【0046】
線維芽細胞は、ECMの前駆体を連続的に分泌することによって結合組織の構造的完全性を維持する上で重要な役割を果たしている。正常な条件下では、線維芽細胞は静止状態にある。しかしながら、線維芽細胞が湿潤創傷において活性化されると、より多くのコラーゲンを分泌する。リラキシンは、線維芽細胞の活性化に関与し、これがコラーゲンの分泌を増加させることにつながる。線維芽細胞は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)も分泌し、これがコラーゲンの分解を助ける。リラキシンは、さらに線維芽細胞増殖を誘導するTGF−βコラーゲンおよびコラーゲンの生成を抑制することもできる。このように、コラーゲン分泌の増加およびコラーゲン代謝回数の増加のこの組合せにより、創傷の治癒を促進し瘢痕形成を低減する、より組織化されより強いコラーゲンマトリックスをもたらされる。
【0047】
血管形成は、創傷の治癒過程のごく初期に起こる。マクロファージおよびリンパ球が創傷部にリクルートされると同時に新しい血管が形成され十分な血液が創傷に供給される。特に、マクロファージは、新しい血管の形成を促すVEGFを放出する。リラキシンが処置に使用されると、VEGFの量が増加し、より多くの血管がもたらされ、ひいてはより多くの血液が創傷に供給される。
【0048】
新しい血管を形成(血管形成)し、線維芽細胞を活性化する免疫系のリクルートの全過程をまとめて肉芽形成過程、すなわち、肉芽組織が生成される過程と見なされる。最終的に、正常な健康で滑らかな皮膚に存在する、望ましいかごの編目状に達するためには、ある時点で、この肉芽組織が消散される必要がある。これには、追加のコラーゲンを必要としないため線維芽細胞を鈍化させ、炎症を治める必要があるため免疫系を鈍化させる必要があり、それにより皮膚の赤い跡を消失させることができる。さらに、血管形成を逆転させる必要がある。すなわち、外観の悪い永久的な赤い跡である瘢痕を防止するために、最初の段階で創傷を治癒するのに必要とされる血管および毛細血管がここで消失する必要がある。驚くべきことに、リラキシンは肉芽組織の消散を増進し、加速するだけでなく、新しい血管の早期消失を助長し、皮膚を滑らかで赤い跡のない状態のままにする。注目に値するのは、リラキシン処置により劇的に瘢痕の形成が低減され、かごの編目のような健康な皮膚を促進することである。
【0049】
さらに、リラキシンは、打撲傷および潰瘍における創傷の治癒を促進することができる。そのような創傷は、全身的に処置されるのが好ましく、それはリラキシンの局所的な処置では、開放創または湿潤創傷のように簡単に閉鎖創には到達しないためである。一方、開放創および湿潤創傷は、洗浄および/または直接注入により局所的に処置されるのが好ましい(実施例1のブタ皮膚の試験で説明するように)。
【0050】
リラキシン処置が瘢痕形成を防止し、低減する
瘢痕は、線維組織を含み、外傷または創傷の後に正常な皮膚と置き換わる。瘢痕化は、創傷の自然な治癒過程の一部であり、ほぼすべての真皮の外傷後に瘢痕が生じる。先進国では、毎年1億人の患者が瘢痕を有することになり、その一部は5500万件の待機手術および2500万件の外傷後の手術の結果として、無視できない健康的ならびに心理的な問題を引き起こしている。推定1100万のケロイド瘢痕および400万の熱傷瘢痕が存在し、その70%が子供に生じたものである。異常な皮膚瘢痕がある人は、身体的、審美的、心理的および社会的影響に直面することもあり、これが著しい情緒的および財政的負担に関連することもある。瘢痕は些細なものであると見なされることが多いが、瘢痕により外観が損なわれ、審美的に好ましくないことがあり、さらに重度のそう痒、圧痛、疼痛、睡眠障害、不安、抑うつの原因となったり日常活動を妨げたりすることがある。他の心理的な影響には、心的外傷後ストレス反応の発現、自尊心の喪失および恥辱を感じることが挙げられ、クオリティオブライフの低下につながる。皮膚瘢痕の結果による身体的な変形により障害がもたらされることがある。メディアが反対の提示をしているにも関わらず、瘢痕組織の性質が複雑で予測できないものであるため瘢痕はいまだ簡単に除去できるものではない(Bayatら、Clinical Review−BMJ、326:88ページ、2003年)。リラキシンは、創傷の治癒過程を加速することによってだけでなく、瘢痕形成が始まる前にそれを低減することによってこうした瘢痕を治療する方法を提供する。
【0051】
一般に顔面の形成手術の結果として瘢痕が形成される。顔面の形成手術としては、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛が挙げられるが、それらに限定されるものではない。さらに、顔面の形成手術は、腫脹、打撲傷および瘢痕化をもたらす可能性が高い。上記のことから、リラキシンは特に形成および再建手術に適用される。腫脹は外傷に対する顔面の自然な反応であり、顔面の治癒が始まると治まる。これは、手術後わずか数日生じるかまたは数週間もしくはそれ以上かかることもある。打撲傷も、顔面の手術手技後、顔面が変化に反応するために起こる自然なことであり、通常手術後における回復の最初の数日間に最も現れる。打撲傷の大半は2、3週間で消えるが、完全に治癒するのには数か月またはそれ以上かかることもあり、それは個体による。通常、瘢痕は、目立たなくなるまでの数か月間ピンク色のままであるため、顔面の形成手術のさらに別の好ましくない副次的結果である。したがって、この開示は顔面の形成手術を受けた患者にとって有利であり、具体的には創傷の治癒を加速し、瘢痕形成を低減することによって瘢痕化および打撲傷を手当てすることが有利である。
【0052】
一般に全身の形成手術の結果としても瘢痕が形成される。全身の形成手術としては、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントが挙げられるが、それらに限定されるものではない。さらに、全身の形成手術も腫脹、打撲傷および瘢痕化をもたらす可能性が高い。腫脹は外傷に対する体の自然な反応であり、通常体の治癒が始まると治まる。これは、手術後わずか数日または数週間もしくはそれ以上生じることもある。通常、体が変化に反応するために全身の手術手技の結果として打撲傷が起こる。打撲傷は、通常手術後における回復の最初の数日間に最も現れるが、もっと長く続くこともある。打撲傷の大半は2、3週間で消えるが、完全に治癒するのには数か月または数年もかかることもある。通常、瘢痕は、目立たなくなるまでの数か月間ピンク色のままであるため、全身の形成手術の好ましくない副次的作用でもある。したがって、この開示は全身の形成手術を受けた患者にとっても有益であり、具体的には創傷の治癒を加速し、瘢痕形成を低減することによって瘢痕化および打撲傷を手当てするのに有益である。
【0053】
瘢痕化および赤みは、刺青除去の一般的な副次的作用でもある。他の副次的作用としては、水疱、感染および皮膚の色の喪失が挙げられる。したがって、この開示は、いくつかの刺青除去の副次的作用を最小限にする方法、具体的には皮膚の赤みを低減する(すなわち、上述のリラキシンの抗血管形成の作用)ことによって、さらに刺青除去手技により生じることもあるあらゆる瘢痕を低減することによって副次的作用を最小限にする方法を提供する。
【0054】
リラキシン組成物および製剤
リラキシンおよびリラキシン類似体が、本開示の方法において使用される医薬品として作製される。生物学的もしくは薬学的に活性なリラキシン(例えば、合成リラキシン、組換え型リラキシン)またはリラキシン作動薬(例えば、リラキシン類似体またはリラキシン様修飾因子)のリラキシン受容体との結合に関連する生物学的反応を刺激することができる、任意の組成物または化合物を本開示の医薬品として使用できる。製剤および投与の技術についての全般的な詳細は、科学文献に詳細に記載されている(Remington’s Pharmaceutical Sciences、Maack Publishing Co、ペンシルバニア州イーストン、参照)。薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤は、医薬品の製造について当該技術分野で周知の任意の方法により調製することができる。本開示の方法に使用される薬学的に活性なリラキシンまたはリラキシン作動薬を含む製剤は、以下に限定されるものではないが、局所、静脈内、全身、皮下、筋肉内、舌下および吸引もしくは注入、洗浄または浸透圧ポンプなどの従来の許容可能な任意の投与方法用に作製することができる。実例となる例を以下に記載する。
【0055】
好適な一実施形態では、リラキシンを開放創に洗浄液として、覆われた創傷に局所適用としておよび/または創傷修復のあらゆる段階の間に全身的に適用してもよい。製剤は、創傷部または瘢痕の近くに注入することもでき、または滞留時間および透過を延ばすために創傷部もしくは瘢痕に塗り込まれるクリームであってもよいと考えられる。洗浄による処置には、例えば0.5mlの1.0mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を創傷部にゆっくりと滴下することが含まれる。他の実施形態では、リラキシン溶液を創傷に滴下する範囲は、約0.5mlから約5.0mlの範囲であってもよくまたは創傷部により多く約1.0から約5.0mg/mlリラキシン溶液の範囲であってもよい。創傷は、例えば損傷後7日間、1日1回洗浄される。別の実施形態では、創傷は、例えば損傷後約7日間、1日2回以上洗浄される。さらに別の実施形態では、創傷は、損傷後、長期間または短期間に週に1回もしくは月に1回洗浄される。リラキシン投与のための用量は、損傷の重症度および患者の状態により調整する必要がある。
【0056】
さらに別の実施形態では、リラキシンは、製剤に含まれる例えば0.5または2.5mg/mlリラキシンを0.5ml送達することにより局所適用されてもよい。この製剤は、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる。創傷は、例えば2週間、1日2回処置され、その後の3週間、1日1回処置される。薬物が局所に送達される場合、製剤は、プロピレングリコールおよびエタノールを含む。さらに、本発明者は、湿潤創傷に付けてもよい浸透促進剤を製剤に含めるとリラキシンの効力が改善されることを見いだした。浸透促進剤としては、以下に限定されるものではないが、物理的(例えば、マイクロニードルアレイ)、化学的(例えば、エタノール、グリセリルモノエチルエーテル、モノグリセリド、ミリスチン酸イソプロピルなど)または物理的および化学的強化の組合せが挙げられる。例えば、本発明者は、キトサンなどの粘膜付着性の浸透促進剤を添加することによりリラキシンの歯肉組織内の浸透が増すことに気づいた(Squierら;Mucoadhesive vehicles for the delivery of relaxin across oral mucosa、国際歯科研究学会、2006年6月28日〜7月1日、オーストラリア、ブリスベン、参照)。
【0057】
さらに別の好適な実施形態では、全身アプローチ後、約20ng/mLの全身濃度を達成するために、5.3μg/kg/hrで浸透圧注入ポンプによって創傷にリラキシンが直接送達される。
【0058】
さらに別の好適な実施形態では、リラキシンは、静脈内注入によって創傷部に送達することができる。この場合、薬学的に活性なリラキシンまたはリラキシン作動薬を含む製剤は、無菌で注入可能な水性または油性懸濁液などの無菌で注入可能な調合物の形態であってもよい。この懸濁液は、上記の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて周知の技術により作製することができる。無菌で注入可能な調合物は、無毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒の、無菌で注入可能な溶液または懸濁液であってもよい。許容可能な媒体および溶媒のうち使用できるものは、水およびリンゲル溶液、すなわち等張の塩化ナトリウムである。さらに、従来の無菌の固定油を溶媒または懸濁媒体として使用することもできる。この用途のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドなどの刺激の少ない任意の固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に注入可能な調合物に使用することができる。
【0059】
本開示の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物中にリラキシンを含む。そのような賦形剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルネチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムなどの懸濁剤ならびに天然のリン脂質(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドの脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドの長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドの、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)またはエチレンオキシドの、脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤または湿潤剤が挙げられる。水性懸濁液には、さらにp−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルなどの1つまたは複数の防腐剤、1つまたは複数の着色料、1つまたは複数の香味料およびスクロース、アスパルテームまたはサッカリンなどの1つまたは複数の甘味料を含めることもできる。製剤をモル浸透圧濃度について調整することができる。
【0060】
油懸濁液は、落花生油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油などの植物油または液体パラフィンなどの鉱油にリラキシンを懸濁させることにより作製することができる。油懸濁液には、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコールなどの増粘剤を含めることもできる。口当たりのよい経口調合物を得るために甘味料を添加してもよい。これらの製剤は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加することによって保存することができる。
【0061】
水を添加することによって調合される水性懸濁液に適した本開示の分散性粉末および顆粒は、分散剤、懸濁剤および/または湿潤剤ならびに1つまたは複数の防腐剤の混合物中に含まれるリラキシンから作製できる。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤としては、上に開示されたものが例として挙げられる。さらに、例えば甘味料、香味料および着色料などの別の賦形剤を含めることもできる。
【0062】
本開示の医薬製剤は、水中油型エマルジョンの形態であってもよい。油性相は、オリーブ油もしくは落花生油などの植物油、液体パラフィンなどの鉱油またはこれらの混合物であってもよい。適切な乳化剤としては、アカシアゴムおよびトラガカントゴムなどの天然ゴム、大豆レシチンなどの天然リン脂質、ソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来するエステルまたは部分エステルおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどのこうした部分エステルのエチレンオキシドとの縮合生成物が挙げられる。エマルジョンは、甘味料および香味料も含めることができる。シロップ剤およびエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトールまたはスクロースなどの甘味料と一緒に作製することができる。そのような製剤には、粘滑薬、防腐剤、香味料または着色料を含めることもできる。
【0063】
リラキシン製剤の投与および投与レジメン
本開示の方法に使用される薬学的に活性なリラキシンを含む製剤は、以下に限定されるものではないが、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、局所、経口および吸引などの従来の許容可能な任意の方法で投与することができる。投与は、薬物動態および薬物の他の特性ならびに患者の健康状態によって決まる。一般指針を以下に示す。
【0064】
本開示の方法は、創傷および外傷の治癒を促進し、瘢痕形成を低減する。単独でまたは薬学的に活性な他の薬剤(例えば、NSAIDまたは抗生物質)と組み合わせて、こうした効果を達成するのに十分なリラキシンの量は、治療効果用量(例えば、治癒を促進する薬学的に許容可能な量)と見なされる。
【0065】
最先端の技術により、個々の動物またはヒト対象それぞれについてのリラキシンの投与レジメンを臨床医が決定できる。具体例のとおり、以下に提供するリラキシンの指針は、本開示の方法を実施する場合に、投与される薬学的に活性なリラキシンを含む製剤の投与レジメン、すなわち投与スケジュールおよび用量レベルを決定するガイダンスとして使用することができる。具体的には、上記の対象は、薬学的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え型)を1日あたり対象の体重をもとに約10から1000μg/kgの範囲の量で投与される。一実施形態では、リラキシンの用量は10、30、100および250μg/kg/日である。別の実施形態では、当該用量はそれぞれ約3、10、30および75ng/mLのリラキシンの血清中濃度をもたらす。別の実施形態では、リラキシンの血清中濃度を約0.5から約500ng/mL、より好ましくは約0.5から約300ng/mLおよび最も好ましくは約3から約75ng/mLに維持するようリラキシンの投与が継続される。可能な範囲は約1から約50ng/mLであり、好ましい血清中濃度は20ng/mLである。
【0066】
一般指針のとおり、薬学的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え型)の1日量は、一般に1日あたり対象の体重をもとに約10から1000μg/kgの範囲の量であり、最も好ましくは1日あたり対象の体重をもとに約960μg/kgであると予想される。対象に応じて、特定の期間または対象において安定性を達成するのに必要とされる限りリラキシン投与が継続される。
【実施例】
【0067】
以下の具体例は、本開示を説明することを意図しており、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0068】
ブタの皮膚の創傷試験
動物試験の概要。本試験に適した動物を選択する際、ブタの皮膚とヒトの皮膚との構造上の類似性からブタを選択した。実際、ブタの創傷治癒は、ヒトの皮膚の模擬実験が行われる多くの試験で使用されてきた(Sullivanら、Wound Repair Regen、9:66〜76ページ、2001年)。本試験の結果は、ブタの皮膚においてリラキシンは肉芽組織ならびに慢性炎症を低減し、それにより治癒過程全体が速くなり、より滑らかな皮膚の外観がもたらされることを示唆している。
【0069】
試験設計。本試験では、動物1匹あたり12の創傷部−背中に20×6mmの切開創傷−を有する若齢のブタを6週間の試験の間適応させた(図2を参照)。20ng/mLの血清中濃度を達成するようミニポンプにより全身性リラキシンを送達した。局所製剤は、Dow Pharmaによって調製され、プロピレングリコールおよびエタノールから構成された。これにより、治療薬剤の長期安定性がもたらされた。プラセボからなる用量、0.5mg/ml(低用量)、および2.5mg/ml(高用量)を調製した。試験の目的は、創傷の治癒における局所リラキシンの安全性を評価し、創傷の治癒および/または瘢痕形成に対する治療法としてのリラキシンの効力を判定することであった。1週目は、1日1回洗浄を行った。2〜3週目は局所製剤を1日2回適用し、3〜6週目は局所製剤を1日1回適用した。
【0070】
薬物設計。試験薬物は(組換え技術によって生成した)リラキシンとした。組換え一本鎖プロセスを用いて生成された組換え型リラキシンは未変性のヒトホルモンH2リラキシンと同一である。活性な被検物質を酢酸塩の希釈剤(20mM酢酸ナトリウム、pH5.0)で所望の濃度に無菌的に希釈してもよい。
【0071】
試験手順。6週間の終了時における、本明細書に記載される実験設計による切開創を有するブタの背中を示す図3を参照する。上述のとおり区分3の創傷を1週目はリラキシン構築物により洗浄し、その後2〜6週目は高用量局所リラキシン製剤で処置した。区分4、5および6は1週目に洗浄を行わなかった。区分4をプラセボで処置した。区分5を低用量局所製剤で処置し、区分6を高用量局所製剤で処置した。
【0072】
区分4と区分5および6それぞれとを比較すると、プラセボと比較してリラキシンによる局所のみの処置によって創傷の治癒が改善されたことが明らかに示されている。リラキシンで洗浄処置し、さらに局所処置した区分3と比較するとさらに劇的である。この実験から、プラセボと比較して創傷の治癒を促進し、瘢痕化を低減および/または防止するリラキシンの顕著な力が示されている。このデータから、さらにリラキシン構築物による洗浄が特に効果的であることが示されている。
【0073】
皮膚の表面的外観。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価した(図4を参照)。評価のために皮膚科学者でない人に写真を見せた。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼した。ここで、3グループにはリラキシンを投与し、3グループには投与しなかった。視覚的な創傷の評価の結果から、89%の確率でリラキシン処置のグループが上位3位に選ばれたことがわかった。リラキシ処置されていないグループが上位3位に選ばれたのは11%の確率に過ぎなかった。中立な観察者は、「より良好」に見えるとしてリラキシンで処置した創傷を選んだ。これらのデータから、リラキシンが創傷の早期閉鎖に役立つことが強く示唆される。
【0074】
さらに、皮膚科学の専門家が2、4および6週目に審美的点数を判定した。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。この皮膚科学的な評価中、2週目の時点での評価は痂皮によりわかりにくかったため、審美的点数のためのデータは4および6週目の評価から収集した(図5を参照)。図6は、6週目の創傷部同士の相違を示している。上の結果(リラキシン処置)では、瘢痕が目立っていない。下の結果では、瘢痕が目立っている。洗浄によるリラキシン処置を受けた創傷/瘢痕の領域は、局所リラキシン処置のみを受けた創傷/瘢痕の領域より総合的に高い評価であった。
【0075】
組織学的評価。組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価した。肉芽組織を判断する際には、創傷の初期反応に線維芽細胞、炎症細胞および新しい血管による創傷部の浸潤が含まれることも考慮される。これは、創傷部が治癒するにつれ、徐々により正常な組織になっていく。慢性炎症とは、マクロファージ、巨細胞、リンパ球および有害反応を示すPMNの存在によって特徴付けられた。角化症(表皮の外側における角質層の形成)および表皮肥厚(表皮層の肥厚)などの重要性の低い要因も考慮する。
【0076】
図7および8は、リラキシン処置に関連する有害作用がなかったことを示している。肉芽組織は、全身性リラキシン処置により低減される(例えば、リラキシンにより創傷のより速い回復が示される)。最終的に、全身性リラキシンにより慢性炎症が低減され、さらにリラキシン処置がより速い治癒を促進することが示された(図9、10を参照)。
【0077】
創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価により創傷の治癒について組織学の専門家が評価した(図12、13を参照)。創傷治癒の点数は以下のように数えた:コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものが3ポイント(治癒が最も良好);中程度にコラーゲン線維が配列され編まれたものが2ポイント;コラーゲン線維が平行な束の状態でまたは一次元的に配列されたものが1ポイント(治癒が最も悪い)。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる(図11を参照)。
【0078】
このように、あらゆるリラキシン処置(例えば、洗浄または局所投与)にも有害作用は見られなかったと判定された。さらに、壊死または炎症はリラキシン処置に関連しなかった。局所投与と比較してリラキシンによる全身処置後に、より良好な創傷の治癒が観察されることがいくつか示されている。
【0079】
発見および結論。このパイロット試験は、動物の皮膚に対してリラキシンを使用する初めての調査である。本発明者の第1の目的は、創傷の治癒に対する局所リラキシンの安全性を確立することであった。この試験の第2の目的は、創傷治癒および/または瘢痕形成におけるリラキシンの効力を証明することであった。本発明者は、以下について証明した:(1)広い用量範囲(10〜960μg/kg/日)にわたって、この薬物に関連する有害作用は示されず、良好な耐用性を示した。(2)リラキシンは、肉芽組織の形成を増加させ、血管形成によって生じる血管の数を低減し、コラーゲンの沈着を増加させ、より良好に組織化されたコラーゲンマトリックスの形成を助け、創傷の再上皮化を促進することによる自然な創傷の治癒過程の加速および創傷部の強度の増加によって有益な効果を作りだす。
【実施例2】
【0080】
イヌの歯肉試験
イヌ試験の概要。ヒト2リラキシン(H2 RLX)は、軟部組織を再構築する能力から歯科矯正の用途において可能性のある治療法として調査されてきた。イヌモデルにおける過去の試験により、歯肉注入によってRLXを適用することにより、歯の移動を速くし、元の位置に戻るのを防ぐことができると証明されている。
【0081】
本試験の目的は、RLXの移動速度および歯肉注入後の分解の程度を測定することであった。この試験により、RLXは注入部位の近くにとどまっていることが示された。イヌモデルを用いて、RLXを投与し、注入部位ならびに注入部位から0.5、1および2cmの位置で組織パンチバイオプシーを採取した。注入1、2および4時間後などのいくつかの時点で組織を採取した。歯肉バイオプシーからタンパク質を抽出し、タンパク質チップ技術(表面エンハンス型レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計、SELDI−TOF MS)によって分析した。タンパク質チップ技術は、固相クロマトグラフィおよびTOF−MSの確立した2つの方法を組み合わせて統合プラットフォームとする。タンパク質チップアレイは、抗−H2 RLX抗体でコーティングされ、これによりRLXおよび関連分解生成物/修飾生成物を特異的に補足することが可能であった。
【0082】
RLXは、1、2および4時間の3時点のすべてにおいて明らかに検出されたが、濃度が着実に低下していること明からになり、それぞれ90nM、78nMおよび21nMのH2 RLXが検出された。歯肉中のRLXの移動も限られたものであると考えられる。RLXは、注入部位から0.5cmの位置では検出されたが、さらに1cmおよび2cmの印では検出されなかった。
【0083】
薬物設計。歯肉注入を行い(25μg H2 RLX/100μl、41μM)、注入部位ならびに注入部位から0.5、1および2cmなどのいくつかの位置で組織を採取した。注入1、2および3時間後に組織を採取した。RLX処置を受けていない対照動物からも組織バイオプシーを採取した。
【0084】
試験手順
a)タンパク質の抽出および定量。凍結した歯肉バイオプシーを10mMのTris−HCl、10mMのNaCl、0.1%のTFAおよびプロテアーゼインヒビター(コンプリートミニ、Roche)を含む抽出緩衝液(10μl/mg組織)中でホモジナイズした。その抽出物を10分間遠心分離し(6000×g)、上清を回収し、分注して、−80℃で保存した。ブラッドフォードアッセイを使用して総タンパク質濃度を測定した。タンパク質濃度は1.4mg/mlから2.8mg/mlまでに及び、すべてのサンプルを抽出緩衝液中1.4mg/mlの濃度に定めた。
【0085】
b)SELDI−TOF MS分析−PG20アレイにおけるRLX処理された歯肉の分析。抗−H2 RLX抗体(2μl/0.25mg/ml;Genentech)または対照IgG(Ciphergen Biosystems)をプロテインGであらかじめコーティングしてあるPS20アレイ(Ciphergen Biosystems)の各スポットに加えた。抗体が結合後、撹拌しながらPBS/0.5% Triton X−100で5分間、チップを1回洗浄して(各スポットあたり5μl)、次いでPBSで2回洗浄した。イヌ歯肉抽出物(3μl/1.4mg/ml)を各スポットに加え、4時間インキュベートした。非特異的に結合したタンパク質は、PBS/0.5% Triton X−100、PBSおよびpH7.2の1mM HEPESによる一連の洗浄によって除去された。チップを風乾し、1μlの50%飽和シナピン酸の50%(v/v)アセトニトリル溶液、0.5%のトリフルオロ酢酸を各スポットに2回加え、各添加の間にアレイを風乾した。その後、チップをレーザー220および感度9に設定したSELDI−TOF MS(Ciphergen Biosystems)によって分析した。
【0086】
c)PG20アレイにおけるH2 RLXの標準曲線の作成。H2 RLX(バッチ番号11835−89)を100nM、50nM、12.5nM、6.25nM、3.125nMおよび1.56nMなどの異なる濃度で対照イヌ歯肉に投与し(1.4mg/ml)、上記のとおり分析した。
【0087】
d)NP20アレイにおけるH2 RLXの評価。H2 RLXを順相(NP20)アレイ上で分析して純度を評価した。上記のとおり、H2 RLX(1μl/500nM)をスポット上に載せ、アレイを風乾し、50%SPAの2回の添加を各スポットに適用した。
【0088】
所見。処置した歯肉サンプル中のRLXの濃度を定量するためにH2 RLXの標準曲線を作成した。R2値が0.9495で2桁であるリニアダイナミックレンジを定めた。
【0089】
処置されたイヌの歯肉の評価から、RLXは、1、2および4時間の3時点のすべてにおいて存在していたが、濃度が着実に低下していること明からになり、それぞれ90nM、78nMおよび21nMのH2 RLXが検出された。RLXが歯肉の中を限定的に移動したことが確認された。1時間の時点では、RLXは、注入部位から0.5cmの位置で検出されたが、注入部位から1cmおよび2cmの位置では検出されなかった。残りの時点では、注入部位でのみRLXが検出された(図15を参照)。
【0090】
結論。したがって、イヌ歯肉をリラキシン処置することを含む本試験から、リラキシンは注入部位の近くにとどまり、瘢痕に沿ったさまざまな場所にリラキシンを注入する必要なく局所標的化が達成されることが明らかに示された。
【実施例3】
【0091】
ヒトの皮膚における部分的に治癒した開放創の試験
部分的に治癒した開放創は、一般に凝血しており、細胞外マトリックスおよびフィブリンの予備的な層が横たわって血餅と組織とをつないでいる。本試験の目的は、部分的に治癒した創傷におけるリラキシンの安全性、ヒトの創傷の治癒および/または瘢痕形成に対する効力ならびに部分的に治癒した創傷を所望の結果にするための最も有効なリラキシン送達方法を判定することである。
【0092】
少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせてリラキシンを投与する。薬学的に活性な他の薬剤はNSAIDまたは抗生物質であってもよい。第1組の実験では、注入により創傷部にリラキシンを投与する。第2組の実験では、定着したコラーゲンマトリックスの薄層を取り除くことによって部分的に治癒した創傷を外科的に再び開き、洗浄によりリラキシンを投与する。これには、0.5mlの1.05mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を創傷部にゆっくりと滴下することが含まれる。第3組の実験では、定着したコラーゲンマトリックスの薄層を取り除くことによって部分的に治癒した創傷を外科的に再び開き、リラキシンを局所投与する。これには、リラキシンを直接創傷部に適用することが含まれる。局所送達には、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる製剤中の0.5mlの0.5または2.5mg/mlリラキシンからなる製剤中の0.5mLの0.5mg/ml(低用量)または2.5mg/ml(高用量)リラキシンが含まれる。第4組の実験では、定着したコラーゲンマトリックスの薄層を取り除くことによってもう一度部分的に治癒した創傷を外科的に再び開き、約20ng/mLの全身濃度を達成するために、5.3μg/kg/hrで浸透圧注入ポンプによってリラキシンを全身投与する。2週間、1日2回創傷を処置し、次の3週間は1日1回処置する。
【0093】
前述の各送達方法について創傷の治癒をプラセボと比較する。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価する。評価のために皮膚科学者でない人に創傷の写真を見せる。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼する。ここで、3グループにはリラキシンを投与し、3グループには投与しない。
【0094】
皮膚科学の専門家も各週に審美的点数を判定する。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。
【0095】
さらに、組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価する。創傷の治癒の評価の際に、組織病理学者は創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価を使用する。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる。この評価では、あらゆるリラキシン処置に関連する有害作用の有無を判定することが重要である。
【実施例4】
【0096】
ヒトの皮膚におけるできたばかりの開放創の試験
ヒトの皮膚のできたばかりの開放創および外傷を発生の2から3時間以内にリラキシンで処置する。本試験の目的は、ヒトの開放創の治癒におけるリラキシンの安全性、ヒトの創傷の治癒および/または瘢痕形成に対する効力ならびに開放創を所望の結果にするための最も有効なリラキシン送達方法を判定することである。外傷は、表皮の切開創であることもある切創であっても、または開放もしくは閉鎖であることもある創傷であってもよい。開放創としては、切開創、裂創、擦過創、穿刺創、貫通創、射創および刺創を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせてリラキシンを投与する。薬学的に活性な他の薬剤はNSAIDまたは抗生物質であってもよい。開放創への送達方法としては、洗浄、局所、全身および注入が挙げられる。
【0098】
第1組の実験では、洗浄によりリラキシンを投与する。これには、0.5mlの1.05 mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を創傷部にゆっくりと滴下することが含まれる。第2組の実験では、リラキシンを局所投与する。これには、リラキシンを直接創傷部に適用することが含まれる。局所送達には、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる製剤中の0.5mlの0.5または2.5mg/mlリラキシンからなる製剤中の0.5mLの0.5mg/ml(低用量)または2.5mg/ml(高用量)リラキシンが含まれる。第3組の実験では、約20ng/mLの全身濃度を達成するために、5.3μg/kg/hrで浸透圧注入ポンプによってリラキシンを全身投与する。第4組の実験では、創傷にまたは創傷にごく近接した位置に注入によりリラキシンを投与する。2週間、1日2回できたばかりの創傷を処置し、次の3週間は1日1回処置する。
【0099】
前述の各送達方法について創傷の治癒をプラセボと比較する。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価する。評価のために皮膚科学者でない人に創傷の写真を見せる。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼する。ここで、3グループはリラキシンを投与され、3グループは投与されていない。
【0100】
皮膚科学の専門家も各週に審美的点数を判定する。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。
【0101】
さらに、組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価する。創傷の治癒の評価の際に、組織病理学者は創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価を使用する。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる。この評価では、あらゆるリラキシン処置に関連する有害作用の有無を判定することが重要である。
【実施例5】
【0102】
ヒトにおける形成手術の創傷の試験
創傷の治癒を促進し、瘢痕形成を最小限に抑えるために顔面および体双方の形成手術などの形成手術によって生じる開放創を手術の終わりにリラキシンで処置する。本試験の目的は、創傷の治癒におけるリラキシンの安全性、顔面または全身の形成手術によって生じる創傷の治癒および/または瘢痕形成に対するリラキシンの効力ならびに形成手術による創傷を所望の結果にするための最も有効なリラキシン送達方法を判定することである。
【0103】
リラキシンは、顔面の形成手術によって生じる創傷の処置に対して有益である。顔面の形成手術には、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、リラキシンは、体の形成手術によって生じる創傷の処置に対して有益である。体の形成手術には、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
少なくとも1つの薬学的に活性な他の薬剤と組み合わせてリラキシンを投与する。薬学的に活性な他の薬剤はNSAIDまたは抗生物質であってもよい。最初のリラキシンの投与は手術の終了時に洗浄により投与する。これには、0.5mlの1.05mg/mlリラキシン酢酸ナトリウム溶液を開放創部にゆっくりと滴下することが含まれる。次に、2週間、1日2回リラキシンを局所投与し、次の3週間は1日1回処置する。局所投与には、リラキシンを直接創傷部に適用することが含まれる。局所送達には、20mM酢酸ナトリウム緩衝液76.5%、メチルパラベン0.17%、プロピルパラベン0.03%、プロピレングリコール5%、エタノール5%、HED 250HX 1%およびリラキシンの酢酸ナトリウム緩衝液溶液12.285%からなる製剤中の0.5mlの0.5または2.5mg/mlリラキシンからなる製剤中の0.5mLの0.5mg/ml(低用量)または2.5mg/ml(高用量)リラキシンが含まれる。
【0105】
前述の各送達方法について創傷の治癒をプラセボと比較する。創傷の写真の視覚的な順位付けを中立な観察者が行い、観察者は創傷の治癒初期(5〜7日)の痂皮および試験終了時の瘢痕を評価する。評価のために皮膚科学者でない人に創傷の写真を見せる。観察者には処置を知らせず、観察者自身の判断基準によって写真を評価し、6グループ(各8枚の写真)のうち最も良い3グループを選び、順位付けするよう依頼する。ここで、3グループはリラキシンを投与され、3グループは投与されていない。
【0106】
皮膚科学の専門家も各週に審美的点数を判定する。審美的点数には、以下の5つの要素が含まれる:(1)色−周辺の皮膚と一致する;(2)質感−硬くない;(3)歪み−近くの皮膚に歪みがない;(4)外形−周辺の皮膚に対して平らである;(5)全体−肥厚またはケロイドの形成がない。
【0107】
さらに、組織病理学の専門家が肉芽形成、炎症および壊死などの指標について処置の状態を評価する。創傷の治癒の評価の際に、組織病理学者は創傷の採点法、赤い画素のカウントによって判定されたコラーゲンの組織化(コンピュータプログラムによってカウントされた−瘢痕領域と周囲の正常な組織とにおける赤い画素の比率は相対的なコラーゲンの組織化を示す)および第VIII因子染色による血管を考慮した組織学的評価を使用する。治癒が最も良好であることは、正常な真皮と比較すると大きさが小さいものの正常なパターンと同様の、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものにより裏付けられる。この評価では、あらゆるリラキシン処置に関連する有害作用の有無を判定することが重要である。
【0108】
本開示の範囲および精神から逸脱しない本開示のさまざまな修正形および変形が当業者には明らかであろう。特定の好適な実施形態に関連して本開示を記載してきたが、当然のことながら、特許請求されるとおり、本開示はそのような特定の実施形態に不当に制限されるべきでない。実際に、当業者が理解する、本開示を実施するための記載した形態のさまざまな修正形が請求の範囲内にあることを意図している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚創傷の表面的外観を改善する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して改善された表面的外観を有する治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、周辺の皮膚とのより近い色の一致を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リラキシンは、リラキシン作動薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リラキシンは、前記対象に全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リラキシンは、前記皮膚創傷に局所投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記皮膚創傷を洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して瘢痕化が低減された治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項12】
前記瘢痕化は、ケロイド、肥厚性瘢痕および線条からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
デブリードマンまたは既存の瘢痕組織の除去をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記リラキシンは、リラキシン作動薬である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記リラキシンは、前記対象に全身投与され、かつ/または前記皮膚創傷に局所投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記皮膚創傷を洗浄することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記対象は、治癒能力が損なわれたヒト対象である、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
創傷の治癒を促進する方法であって、前記創傷の治癒を促進するのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を創傷を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項22】
前記創傷は、形成手術によるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記形成手術は、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛からなる群から選択される顔面の形成手術である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記形成手術は、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントからなる群から選択される全身の形成手術である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記リラキシンは、リラキシン作動薬である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記リラキシンは、全身および/または局所投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記対象は、治癒能力が損なわれたヒト対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項1】
皮膚創傷の表面的外観を改善する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して改善された表面的外観を有する治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、周辺の皮膚とのより近い色の一致を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記改善された表面的外観を有する治癒後の創傷は、コラーゲン線維が編み合わさって配列されたものをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リラキシンは、リラキシン作動薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リラキシンは、前記対象に全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リラキシンは、前記皮膚創傷に局所投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記皮膚創傷を洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
皮膚創傷が治癒する間に瘢痕化するのを低減する方法であって、未処置の対象の治癒後の創傷と比較して瘢痕化が低減された治癒後の創傷をもたらすのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を皮膚創傷を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項12】
前記瘢痕化は、ケロイド、肥厚性瘢痕および線条からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
デブリードマンまたは既存の瘢痕組織の除去をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記リラキシンは、リラキシン作動薬である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記リラキシンは、前記対象に全身投与され、かつ/または前記皮膚創傷に局所投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記皮膚創傷を洗浄することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記対象は、治癒能力が損なわれたヒト対象である、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
創傷の治癒を促進する方法であって、前記創傷の治癒を促進するのに有効な量の薬学的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を創傷を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項22】
前記創傷は、形成手術によるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記形成手術は、皺切除、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、頤形成術、頬部除皺術、額除皺術、眉毛吊り上げ術、顔面の瘢痕修正、顔面の瘢痕除去、レーザー手術、皮膚の表面修復、皺治療、プラズマ皮膚再生、顔面の脂肪移植、皮膚の引き締め、刺青除去および植毛からなる群から選択される顔面の形成手術である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記形成手術は、腹壁形成術、乳房縮小術、豊胸術、ボディリフト手技、クモ状静脈治療、皮膚線条治療、脂肪吸引、余剰皮膚切除手術、セルライト減少治療、体形矯正、体の表面修復および体内インプラントからなる群から選択される全身の形成手術である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記リラキシンは、精製、組換え型または合成ヒトリラキシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記リラキシンは、H1、H2またはH3ヒトリラキシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記リラキシンは、リラキシン作動薬である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記リラキシンは、全身および/または局所投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記医薬製剤は、抗生物質および非ステロイド系抗炎症薬のうち1つまたはその両方をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記対象は、治癒能力が損なわれたヒト対象である、請求項21に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−520902(P2011−520902A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509674(P2011−509674)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/043854
【国際公開番号】WO2009/140433
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510301987)コーセラ,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/043854
【国際公開番号】WO2009/140433
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510301987)コーセラ,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】
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