説明

加工乳又は乳飲料の製造方法

【課題】加工乳の風味を生乳や牛乳の風味に近づける技術、及び、乳飲料に生乳や牛乳の風味に近い風味を付与する技術を提供する。
【解決手段】無脂乳固形分を主成分とする第1の乳原料と、乳脂肪分を主成分とする第2の乳原料を、それぞれ加熱殺菌し次いで冷却した後に、混合することにより、加工乳又は乳飲料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工乳又は乳飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工乳は、生乳や牛乳、及びこれを加工して得られる粉乳、濃縮乳、クリーム、バター等を原料として製造される飲用乳である。加工乳は、上記原料を混合した後、牛乳の製造と同様の加熱殺菌工程を経て製造されるのが通常であり、工業的製造においても牛乳と同じ機器を用いて製造されている。牛乳や加工乳などの加熱殺菌方法としては、例えばUHT法(超高温加熱処理法)、LTLT法(低温保持殺菌法)、HTST法(高温短時間殺菌法)などが知られている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、一般的に、加工乳は、牛乳と比較して生乳の風味が損なわれナチュラルさにかけるとされており、その風味の改善が望まれている。
なお、乳製品や乳飲料の風味を向上させるための技術としては、例えば、以下の技術が知られている。
【0004】
特許文献1には、乳からイオンを除去する工程と、乳の溶存酸素濃度を低減して加熱処理する工程を含む濃縮乳または粉乳の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、乳および/または豆乳を含む第1の飲料成分を、121℃で0.0001〜15分保持に相当する条件で直接加熱法により加熱殺菌し、均質化した後、冷却する工程と、乳および豆乳を含まない第2の飲料成分を加熱殺菌し、冷却する工程と、冷却した第1の飲料成分と、冷却した第2の飲料成分を混合する工程を有することを特徴とする乳飲料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−60901号公報
【特許文献2】特開2006−254713号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山内邦男他編、ミルク総合事典、1992年発行、朝倉書店、p.151−158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、牛乳や加工乳等の風味の向上は、乳原料に加えられる「熱履歴を小さくする」という点に着目して実施されており、HTST法やLTLT法などの比較的低温での殺菌処理が施されていたが、これらの方法では一部の耐熱性菌を死滅させることができない場合もあり、十分に長い賞味期限を実現するのが困難であった。
【0009】
本発明は、加工乳の風味を生乳や牛乳の風味に近づける技術を提供すること、また、加工乳の風味を生乳や牛乳の風味に近づけ、かつ賞味期限までの期間の延長を実現する技術を提供することを課題とする。また、牛乳や乳製品を主原料とし、これに乳以外の成分を添加して加工される乳飲料についても、生乳や牛乳の風味に近い風味を付与する技術を提供すること、また、生乳や牛乳の風味に近い風味を付与し、かつ賞味期限までの期間の延長を実現する技術を提供することを課題とする。
【0010】
本明細書において、乳及び乳製品の分類に関する語句は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(乳等省令)の定義に従って定義される。
なお、生乳または牛乳から成分(水を含む)の除去や分離を行って乳原料を製造し、その乳原料を再構成し飲用乳の形にしたもの、及びこれに必要に応じて乳原料以外の原料を添加したものをまとめて「還元乳」と定義することもできる。「還元乳」は、乳等省令における「加工乳」のすべて、及び「乳飲料」のほとんどを含む概念である。すなわち、「還元乳」には、「乳原料」の他、「水」も成分の一部として含まれ、原材料に生乳や牛乳を部分的に用いた場合や、乳原料以外の原料(例えば、果汁など)を部分的に用いた場合も含まれる。
「還元乳」の例としては、一般的に以下のようなものが例示される。
・「脱脂粉乳」+「水」でつくった加工乳、
・「牛乳」+「クリーム」で作った加工乳、
・「脱脂粉乳」+「牛乳」で作った加工乳、
・「脱脂粉乳」+「バター」+砂糖+果汁でつくった乳飲料、等
また、本明細書において、パーセント(%)は、質量を基準とした割合として定義される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、無脂乳固形分(SNF)を主成分とする乳原料と、乳脂肪分を主成分とする乳原料を、別々に加熱殺菌し次いで冷却した後、混合する方法によれば、これらの乳原料を混合した後に加熱殺菌し次いで冷却する従来の方法で製造した加工乳や乳飲料(還元乳)に比べて、牛乳の風味に近い風味を有する加工乳や牛乳の風味を活かした乳飲料を製造できること、特に、UHT法により上記各乳原料の加熱殺菌を行った場合には、牛乳の風味に近い風味を有する加工乳や牛乳の風味を活かした乳飲料を製造でき、かつ製造した加工乳や乳飲料は所定期間(10℃で10日間)保管しても風味に変化が生じないことを知見し、以下の発明を完成させた。
【0012】
本発明は、加工乳又は乳飲料を製造する方法であって、無脂乳固形分を主成分とする第1の乳原料と、乳脂肪分を主成分とする第2の乳原料を、それぞれ加熱殺菌する工程、加熱殺菌後に冷却する工程、冷却後に乳原料を混合する工程を含む、加工乳又は乳飲料の製造方法である。
本発明において、「主成分とする」とは、水を除く全成分に占める割合が最も大きいことをいう。また、本発明において、「乳原料」とは、生乳又は牛乳を加工して得られる原料をいう。
【0013】
本発明において、第1の乳原料は、無脂乳固形分を全乳固形分に対して、好ましくは95%以上含む。また、本発明において、第2の乳原料は、乳脂肪分を全乳固形分に対して、好ましくは60%以上含む。
これにより、加工乳の風味を、更に生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、より生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、第1の乳原料を均質化しない。
また、本発明において、好ましくは、第2の乳原料を加熱殺菌の前に予め加温保持しない。
これにより、加工乳の風味を、更に生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、より生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、第1の乳原料由来の無脂乳固形分が、第2の乳原料由来の無脂乳固形分の4質量倍以上となるように、第1の乳原料と第2の乳原料を混合する。また、本発明において、好ましくは、第2の乳原料由来の乳脂肪分が、第1の乳原料由来の乳脂肪分の5質量倍以上となるように、第1の乳原料と第2の乳原料を混合する。
これにより、加工乳の風味を、更に生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、より生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の加工乳と比較して、生乳や牛乳の風味に近いナチュラルさを有する加工乳を製造することができる。また、本発明によれば、生乳や牛乳の風味を活かした乳飲料を製造することができる。また、本発明によれば、このような加工乳又は乳飲料を簡便に製造することができる。
また、本発明の製造方法により製造した加工乳や乳飲料は、商業的にも十分な期間の賞味期限を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の加工乳の製造方法の実施例を示す工程図である。
【図2】本発明の加工乳の製造方法の実施例を示す工程図である。
【図3】本発明の加工乳の製造方法の実施例を示す工程図である。
【図4】本発明の加工乳の製造方法の実施例を示す工程図である。
【図5】従来の加工乳の製造方法の例(比較例)を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、第1の乳原料と第2の乳原料を、それぞれ加熱殺菌し次いで冷却した後に、混合することを特徴とする。
【0019】
<第1の乳原料>
本発明において、第1の乳原料は、無脂乳固形分を主成分とする。
また、第1の乳原料は、無脂乳固形分を全乳固形分に対して、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上含む。これにより、加工乳の風味を、更に生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、より生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができる。
【0020】
第1の乳原料における無脂乳固形分の含有量は、製造しようとする最終製品の組成に応じて選択することができる。
第1の乳原料における無脂乳固形分の含有量は、加熱殺菌を効率的に行う観点からは40%以下が好ましく、特に35%以下が好ましい。無脂乳固形分の含有量を40%以下に設定することにより、後述する加熱殺菌に用いる加熱装置の伝熱部に、乳石が付着するなどの影響を抑えることも可能である。
また、加工乳を製造する場合、及び、生乳や牛乳の風味に近い風味を十分に付与した乳飲料を製造する場合には、第1の乳原料における無脂乳固形分の含有量は、好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上である。
【0021】
第1の乳原料における乳脂肪分の含有量は、後述する第1の乳原料を均質化しない場合には、最終製品における脂肪の浮上を防ぐ観点から、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下である。
また、後述する加熱殺菌、混合等の作業効率を考慮すると、第1の乳原料における水の含有量は、好ましくは60〜90%程度、更に好ましくは65〜85%程度である。
【0022】
以上を総合すると、第1の乳原料における無脂乳固形分の含有量は、好ましくは10〜40%、更に好ましくは15〜35%であり、乳脂肪分の含有量は、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下である。
【0023】
第1の乳原料としては、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、脱脂濃縮乳、無糖脱脂練乳、脱脂粉乳、若しくはこれらの混合物、又はこれらと水、生乳、牛乳若しくは特別牛乳等との混合物が挙げられる。特に、無脂乳固形分(SNF)の含有量を高くできるという点で、脱脂濃縮乳や脱脂粉乳を使用することが好ましい。
なお、本発明が加工乳の製造方法である場合には、第1の乳原料は、生乳由来原料、及び水以外を含むことはできないが、本発明が乳飲料の製造方法である場合には、第1の乳原料は、上記成分以外の任意成分を含むことができる。但し、第1の乳原料は、加熱により、無脂乳固形分と反応し得る任意成分を含まないことが好ましい。任意成分の種類については、後述する。
【0024】
<第2の乳原料>
本発明において、第2の乳原料は、乳脂肪分を主成分とする。
また、第2の乳原料は、乳脂肪分を全乳固形分に対して、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上含む。
【0025】
第2の乳原料における乳脂肪分の含有量は、製造しようとする最終製品の組成に応じて選択することができる。
第2の乳原料における乳脂肪分の含有量は、加熱殺菌を効率的に行う観点、及び後述する乳原料の均質化の効率を高め、最終製品における脂肪の浮上を防ぐ観点からは、好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である。
また、加工乳を製造する場合、及び、生乳や牛乳の風味に近い風味を十分に付与した乳飲料を製造する場合には、第2の乳原料における乳脂肪分の含有量は、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。
【0026】
また、後述する加熱殺菌、混合等の作業効率を考慮すると、第2の乳原料における水の含有量は、好ましくは65〜90%程度、更に好ましくは65〜85%程度である。
【0027】
また、後述するように第2の乳原料を均質化する場合には、適量の無脂乳固形分を含有することが必要である。この場合、無脂乳固形分の含有量は、好ましくは1〜10%、さらに好ましくは2〜5%である。
【0028】
以上を総合すると、第2の乳原料における乳脂肪分の含有量は、好ましくは5〜30%、更に好ましくは10〜25%であり、無脂乳固形分の含有量は、好ましくは1〜10%、更に好ましくは2〜5%である。
【0029】
第2の乳原料としては、例えば、クリーム、クリームパウダー、バター、バターオイル、又はこれらの混合物、並びにこれらと生乳、牛乳、特別牛乳、脱脂濃縮乳(及び水)、又は脱脂粉乳(及び水)等との混合物が挙げられる。
【0030】
なお、本発明が加工乳の製造方法である場合には、第2の乳原料は、生乳由来原料、及び水以外を含むことはできないが、本発明が乳飲料の製造方法である場合には、第2の乳原料は、上記成分以外の任意成分を含むことができる。但し、第2の乳原料は、加熱により、乳脂肪分と反応し得る任意成分を含まないことが好ましい。任意成分の種類については、後述する。
【0031】
第1の乳原料と第2の乳原料との関係では、第1の乳原料における無脂乳固形分の含有率(%)が、第2の乳原料における無脂乳固形分の含有率(%)より大きく、かつ、第2の乳原料における乳脂肪分の含有率(%)が、第1の乳原料における乳脂肪分の含有率(%)より大きいことが好ましい。また、第1の乳原料における無脂乳固形分の含有率(%)が、第2の乳原料における無脂乳固形分の含有率(%)の好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上であり、かつ、第2の乳原料における乳脂肪分の含有率(%)が、第1の乳原料における乳脂肪分の含有率(%)の好ましくは10倍以上、更に好ましくは20倍以上である。
これにより、風味の向上を図ることができると共に、後述する第1の乳原料と第2の乳原料の混合において、何れかの乳原料の余剰を防ぐことができ、生産効率を上げることができる。
【0032】
<加熱殺菌>
第1の乳原料及び第2の乳原料に対する加熱殺菌は、菌が十分に死滅する方法及び条件で行う。加熱殺菌は、通常牛乳に用いられる加熱殺菌と同様の方法及び条件で行うことができる。
加熱殺菌の方法としては、例えば、UHT法、LTLT法、HTST法が挙げられる。UHT法の加熱条件は、120〜150℃で1秒以上5秒以内、LTLT法の加熱条件は、63℃で30分間、HTST法の加熱条件は、72〜75℃で15秒間である。また、上記各条件による殺菌と同等の効果が得られる加熱条件を使用することもできる。
特に、UHT法による加熱殺菌が好ましい。UHT法を用いることで、加工乳の風味を、生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができ、さらに、製造した加工乳や乳飲料の賞味期限までの期間を十分に長くすることが可能である。
UHT法を用いる場合には、直接加熱法及び間接加熱法の何れをも用いることができる。
【0033】
<加温保持>
第1の乳原料及び第2の乳原料は、加熱殺菌の前に予め加温保持することができる。これにより、乳原料中のタンパク質を安定化し、加熱殺菌時に伝熱部に乳石が付着することを防ぐことができる。加温保持の条件は、通常用いられている条件であればよく、加熱殺菌方法に応じて選択される。
【0034】
UHT法による加熱殺菌を行う場合には、通常70〜85℃程度で加温保持する。一方、加工乳を、更に生乳や牛乳の風味に近づけるため、或いは、乳飲料に、より生乳や牛乳の風味に近い風味を付与するためには、第2の乳原料に対して行われる加温保持については、熱履歴をできるだけ小さくすることが好ましい。すなわち、加温保持によって第2の乳原料に加わる熱を抑えることで、より風味の向上が図れるのであって、特に、第2の乳原料に対しては加温保持を行わないことが好ましい。また、第2の乳原料における全乳固形分に占める無脂乳固形分の割合は比較的小さいため、加温保持によるタンパク質の安定化の必要性は小さい。
【0035】
<冷却>
第1の乳原料及び第2の乳原料の加熱殺菌に次いで、各乳原料を冷却する。冷却は、牛乳の製造における冷却と同様の方法で行うことができる。冷却は、2〜10℃程度まで行うことが好ましい。
【0036】
<均質化>
第1の乳原料及び第2の乳原料は、均質化することができる。これにより、乳原料中の脂肪球の粒子径を均一化し、最終製品の保存における脂肪浮上を防ぐことができる。均質化は、加熱殺菌後であって冷却前に行うこともできるし、乳原料を加温保持する場合には、加温保持時(加温後であって加熱殺菌前)に行うこともできる。均質化は、牛乳の製造における均質化と同様の方法で行うことができる。均質化は、7〜30MPaで行うことが好ましい。特に、第2の乳原料の均質化は、10〜30MPaで行うことが好ましい。
【0037】
一方、加工乳を、更に生乳や牛乳の風味に近づけるため、或いは、乳飲料に、より生乳や牛乳の風味に近い風味を付与するためには、第1の乳原料を、均質化しないことが好ましい。また、第1の乳原料における全乳固形分に占める乳脂肪分の割合は比較的小さいため、均質化による脂肪球の均一化の必要性は小さい。なお、第1の乳原料を均質化する場合は、7〜25MPaで行うことが好ましい。
【0038】
<混合>
第1の乳原料及び第2の乳原料を冷却、均質化(必要に応じて)した後、これらの乳原料を混合する。
第1の乳原料と第2の乳原料の混合比は、各乳原料の組成を考慮した上で、製造しようとする最終製品の組成に応じて選択することができる。各乳原料の余剰を小さくするという生産効率の観点から見れば、該混合比は、好ましくは質量比で97:3〜50:50程度である。従って、この範囲での混合比を達成するという観点から、第1の乳原料における無脂乳固形分及び第2の乳原料における乳脂肪分の含有量の範囲を決定することができる。
【0039】
また、第1の乳原料由来の無脂乳固形分が、第2の乳原料由来の無脂乳固形分の4質量倍以上となるように、更には8質量倍以上となるように、これらの乳原料を混合することが好ましい。
このように、乳脂肪分と別に加熱殺菌した無脂乳固形分が、乳脂肪分と共に加熱殺菌した無脂乳固形分に対して多くなるように、第1の乳原料と第2の乳原料を混合することにより、加工乳の風味を、生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができる。
【0040】
また、第2の乳原料由来の乳脂肪分が、第1の乳原料由来の乳脂肪分の5質量倍以上となるように、更には10質量倍以上となるように、これらの乳原料を混合することが好ましい。
このように、無脂乳固形分と別に加熱殺菌した乳脂肪分が、無脂乳固形分と共に加熱殺菌した乳脂肪分に対して多くなるように、第1の乳原料と第2の乳原料を混合することにより、加工乳の風味を、生乳や牛乳の風味に近づけること、或いは、乳飲料に、生乳や牛乳の風味に近い風味を付与することができる。
【0041】
混合においては、第1の乳原料及び第2の乳原料と共に、予め殺菌しておいた他の原料を混合することもできる。他の原料の殺菌が加熱による場合には、該原料の加熱殺菌後、冷却した後に、第1の乳原料及び第2の乳原料と共に混合することが必要である。
【0042】
本発明が加工乳の製造方法である場合には、他の原料として、牛乳、全粉乳等の生乳由来原料、及び水を用いることができる。また、本発明が乳飲料の製造方法である場合には、他の原料として、上記生乳由来原料及び水はもちろん、その他の任意成分を用いることができる。
他の原料の混合量は、各乳原料の組成及び混合比を考慮した上で、製造しようとする最終製品の組成に応じて選択することができる。但し、本発明の効果を顕著に得るためには、第1の乳原料由来の無脂乳固形分が、加工乳又は乳飲料の全無脂乳固形分の70%以上を占めるように、他の原料の混合量を調節することが好ましい。また、同様の理由で、第2の乳原料由来の乳脂肪分が、加工乳又は乳飲料の全乳脂肪分の60%以上を占めるように、他の原料の混合量を調節することが好ましい。
【0043】
本発明が乳飲料の製造方法である場合の任意成分としては、コーヒー、茶、果汁、野菜汁などの香味成分、甘味料、ビタミン等の栄養補助剤、乳化剤、増粘剤等が挙げられる。本発明が乳飲料の製造方法である場合には、第1の乳原料及び第2の乳原料の少なくとも何れかに、その他の任意成分を混合するか、或いは、これらの乳原料の混合の際に、その他の任意成分を混合することが必要であるが、生乳や牛乳の風味を活かした乳飲料を製造するという観点から、後者が好ましい。
【0044】
第1の乳原料、第2の乳原料、及びその他の原料(任意)の混合は、通常加工乳の製造に用いられる方法で行うことができる。混合は、無菌下で行うことが好ましい。
【0045】
上記に説明した工程を経ることで、本発明の加工乳又は乳飲料が製造される。
製造された加工乳又は乳飲料を、紙パックなどの容器に充填し密封して、容器入り加工乳又は容器入り乳飲料を製造することができる。前記混合から前記充填及び密封までの一連の作業は、無菌下で行うことが好ましい。
本発明は、上述した工程以外にも、通常牛乳や加工乳の製造に用いられる工程を含んでいてもよい。但し、第1の乳原料及び第2の乳原料を混合した後は、混合物に対して加温操作、加熱操作を行わない。
【実施例】
【0046】
以下、図を参照しながら、本発明の加工乳の製造方法の実施例を説明する。
実施例及び比較例においては、何れも、第1の乳原料として脱脂濃縮乳(森永乳業社製)及び水の混合物、第2の乳原料としてバター(森永乳業社製)、脱脂粉乳(森永乳業社製)、及び水の混合物を用いた。
また、乳原料等の昇温や冷却には、プレート式熱交換方式の殺菌装置を、乳原料等の均質化には、三丸機械工業社製の均質機を用いた。
【0047】
〔実施例1〕
図1に示す工程に従い、加工乳Aを製造した。
第2の乳原料は、全乳固形分に占める乳脂肪分の割合(Fat比)が約67%となるように調製した。第1の乳原料における全乳固形分に占める無脂乳固形分の割合(SNF比)は約99%であった。
第1の乳原料における無脂乳固形分(SNF)の含有量は17.3%、乳脂肪分(Fat)の含有量は0.1%であった。また、第2の乳原料における無脂乳固形分の含有量は4.0%、乳脂肪分の含有量は8.0%であった。
【0048】
第1の乳原料を85℃で6分間加温保持し、続いて、140℃で2秒間加熱殺菌した。その後、14MPaで均質化をし、10℃程度にまで冷却した。一方、第2の乳原料は、第1の乳原料とは別に、上記条件で加温保持及び加熱殺菌をした後、20MPaで均質化し、10℃程度にまで冷却した。
冷却した第1の乳原料380gと、冷却した第2の乳原料370gを、冷却した滅菌水250gと共に混合し、加工乳Aを製造した。加工乳Aにおける無脂乳固形分の含有量は約8.0%、乳脂肪分の含有量は約3.0%であった。
【0049】
製造された加工乳Aは、殺菌した清潔な1L紙パック(日本紙パック社製、エヌピーパック)に充填した後、紙パックを密封した。
【0050】
〔実施例2〕
図2に示す工程に従い、加工乳Bを製造した。
第1の乳原料を実施例1と同じ条件で加温保持及び加熱殺菌した後、均質化をしないで冷却した。一方、第2の乳原料は、第1の乳原料とは別に、上記実施例1と同じ方法で処理した。
冷却した第1の乳原料380g、及び冷却した第2の乳原料370gを、冷却した滅菌水250gと共に混合し、加工乳Bを製造して、実施例1と同様にして紙パックに充填した。
加工乳Bにおける無脂乳固形分の含有量は約8.0%、乳脂肪分の含有量は約3.0%であった。
【0051】
〔実施例3〕
図3に示す工程に従い、加工乳Cを製造した。
第1の乳原料を実施例1と同じ方法で処理した。一方、第2の乳原料は、第1の乳原料とは別に、加温保持をせずに上記実施例1と同じ条件で加熱殺菌した後、均質化をして冷却した。
冷却した第1の乳原料380g、及び冷却した第2の乳原料370gを、冷却した滅菌水250gと共に混合し、加工乳Cを製造して、実施例1と同様にして紙パックに充填した。
加工乳Cにおける無脂乳固形分の含有量は約8.0%、乳脂肪分の含有量は約3.0%であった。
【0052】
〔実施例4〕
図4に示す工程に従い、加工乳Dを製造した。
第1の乳原料を実施例2と同じ方法で処理し、第2の乳原料を、第1の乳原料とは別に、実施例3と同じ方法で処理した。
冷却した第1の乳原料380g、及び冷却した第2の乳原料370gを、冷却した滅菌水250gと共に混合し、加工乳Dを製造して、実施例1と同様にして紙パックに充填した。
加工乳Dにおける無脂乳固形分の含有量は約8.0%、乳脂肪分の含有量は約3.0%であった。
【0053】
〔比較例〕
上記実施例で製造した加工乳A〜Dの風味を評価するために、比較例として、図5に示す工程(従来の方法)に従い、加工乳Eを製造した。
第1の乳原料380g、及び第2の乳原料370gを、水250gと共に混合した。得られた混合物を、85℃で6分間加温保持し、続いて、140℃で2秒間加熱殺菌した。その後、14MPaで均質化をし、10℃程度にまで冷却し、加工乳Eを製造した。
加工乳Eにおける無脂乳固形分の含有量は約8.0%、乳脂肪分の含有量は約3.0%であった。
【0054】
<風味の官能試験>
上記実施例で製造した加工乳A〜Dの風味の官能試験を行った。試験は、加工乳A〜Dそれぞれについて、比較例で製造した加工乳Eと比較した場合に、何れがより牛乳に近い風味を有するか、パネラーに回答してもらうことにより行った。パネル数は20名とした。なお、試験は、各実施例及び比較例で製造した紙パック入りの加工乳を2日間、10℃で保管した後、紙パックから取り出した加工乳を用いて行った。
結果を表1に示す。表1は、加工乳A〜Dと加工乳Eの風味を比較検討した官能試験の結果を表したものである。
【0055】
【表1】

【0056】
従来の製造方法により得られた加工乳Eと比較して、本発明の製造方法により得られた加工乳A〜Dのほうが、より牛乳に近い風味を有していると評価される傾向にあった。これらの結果は、無脂乳固形分を主成分とする第1の乳原料と、乳脂肪分を主成分とする第2の乳原料を、それぞれ別に加熱殺菌し次いで冷却した後、混合することで、従来の方法で製造した加工乳に比べ、生乳や牛乳の風味により近い風味を有する加工乳を製造できることを示している。
【0057】
次に、加工乳Aと加工乳Bを比較することにより、第1の乳原料の均質化の有無が、風味の評価に影響を与えるかについて官能試験した。また、加工乳Aと加工乳Cを比較することにより、第2の乳原料の加温保持の有無が、風味の評価に影響を与えるかについて官能試験した。
結果を表2に示す。表2は、加工乳Aと加工乳Bの風味の比較、及び加工乳Aと加工乳Cの風味の比較を、それぞれ検討した官能試験の結果を表したものである。
【0058】
【表2】

【0059】
第1の乳原料の均質化をした加工乳Aと比較して、該乳原料の均質化をしない加工乳Bのほうが、より牛乳に近い風味を有していると評価される傾向にあった。第1の乳原料を均質化しないことにより、均質化によるカゼインミセルへの影響をなくすことができ、より牛乳の風味に近づけることができたと考えられる。この結果は、第1の乳原料を均質化しないことにより、加工乳の風味を生乳の風味に近づけることができることを示している。
第2の乳原料の加温保持をした加工乳Aと比較して、該乳原料の加温保持をしない加工乳Cのほうが、より牛乳に近い風味を有していると評価される傾向にあった。この結果は、第2の乳原料を加熱殺菌に先立ち加温保持しないことにより、加工乳の風味を生乳の風味に近づけることができることを示している。
【0060】
次に、加工乳A〜Cと加工乳Dを比較することにより、第1の乳原料の均質化を行わないことと、第2の乳原料の加温保持を行わないことを組み合わせることが、風味の評価にどのような影響を与えるかについて官能試験した。
結果を表3に示す。表3は、加工乳Aと加工乳Dの風味の比較、加工乳Bと加工乳Dの風味の比較、及び加工乳Cと加工乳Dの風味の比較を、それぞれ検討した官能試験の結果を表したものである。
【0061】
【表3】

【0062】
第1の乳原料の均質化をせず、更に第2の乳原料の加温保持をしない加工乳Dは、第1の乳原料及び第2の乳原料の両方の均質化と加温保持をした加工乳A、第1の乳原料の均質化をしないが第2の乳原料の加温保持をした加工乳B、及び第2の乳原料の加温保持をしないが第1の乳原料の均質化をした加工乳Cの何れと比較しても、より牛乳に近い風味を有していると評価される傾向にあった。
この結果は、第1の乳原料を均質化せず、更に第2の乳原料を加熱殺菌に先立ち加温保持しないことにより、更に、加工乳の風味を生乳の風味に近づけることができることを示している。
【0063】
なお、全ての加工乳において、10℃で10日間保管したところ、酸度上昇、腐敗、凝固などの劣化は見られなかった。
【0064】
〔実施例5〕
実施例4と同様の工程で加工乳X〜Zを製造した。
これらの加工乳の製造では、第2の乳原料として、表4に示すように乳脂肪分と無脂乳固形分の組成を調整したものを用いた。加温保持、加熱殺菌、均質化、冷却等の方法及び条件は、何れも実施例4と同じとした。冷却した第1の乳原料と冷却した第2の乳原料の混合比は、加工乳の無脂乳固形分が約8.0%、乳脂肪分が約3.0%となるように調整した。
【0065】
【表4】

【0066】
<保存安定性の評価>
加工乳X〜Zを清潔な透明ガラス瓶に充填し、10℃で保管し、保存安定性を評価した。
その結果、加工乳Xは、8日間の保管で脂肪浮上が発生し、容器の液面部にクリームラインが発生した。加工乳Yと加工乳Zは、10日間保管後も、脂肪浮上は発生しなかった。
これより、第1の乳原料における乳脂肪分の上限は特に30%程度が望ましいことが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工乳又は乳飲料の製造方法であって、
無脂乳固形分を主成分とする第1の乳原料と、乳脂肪分を主成分とする第2の乳原料を、それぞれ加熱殺菌する工程、加熱殺菌後に冷却する工程、冷却後に乳原料を混合する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の乳原料は、無脂乳固形分を全乳固形分に対して95%以上含み、かつ前記第2の乳原料は、乳脂肪分を全乳固形分に対して60%以上含むことを特徴とする、請求項1に記載の加工乳又は乳飲料の製造方法。
【請求項3】
第1の乳原料を、均質化しないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の加工乳又は乳飲料の製造方法。
【請求項4】
第2の乳原料を、加熱殺菌の前に予め加温保持しないことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の加工乳又は乳飲料の製造方法。
【請求項5】
第1の乳原料由来の無脂乳固形分が、第2の乳原料由来の無脂乳固形分の4質量倍以上となるように、第1の乳原料と第2の乳原料を混合することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の加工乳又は乳飲料の製造方法。
【請求項6】
第2の乳原料由来の乳脂肪分が、第1の乳原料由来の乳脂肪分の5質量倍以上となるように、第1の乳原料と第2の乳原料を混合することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の加工乳又は乳飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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