説明

加工品、原反、および、加工品の製造方法

【課題】優れた効率で精度良く凹凸柄を形成され得るとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制される加工品を提供する。
【解決手段】加工品は、エンボス加工によって凹凸柄を原反に形成することによって作製される。加工品は、金属繊維を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス加工によって凹凸柄を形成されたシート状の加工品であって、優れた効率で精度良く凹凸柄を形成され得るとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制され得る加工品に関する。
【0002】
また、本発明は、エンボス加工を施されるシート状の原反であって、優れた効率で精度良く凹凸柄を形成され得るとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制されるようになる原反に関する。
【0003】
さらに、本発明は、優れた効率で精度良く凹凸柄を原反に形成することができるとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制されるようになる加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
今般、例えば特許文献1に示すように、エンボス加工は広く普及した加工方法となっている。特許文献1には、原反にエンボス加工を施すことにより、離型紙(加工品)を製造する方法が開示されている。この離型紙は、合皮製品、化粧シート、内装材等のシート状材料を作製するための型紙として用いられる。エンボス加工により離型紙を作製する際、被加工体となる原反は、離型紙の耐久性や離型紙を用いて作製されるシート状部材の光沢等を考慮し、紙や樹脂層を含んでいることが多い。
【0005】
樹脂や紙は、一般的に、金属等と比較して耐力(降伏応力)が低く塑性変形しやすい。したがって、樹脂や紙を原反とする場合、低圧力でエンボス加工を行うことが可能となる。これにより、原反の損傷を回避することや、エンボス加工装置の構成を簡易化して、エンボス加工装置コストおよび加工品の製造コストを低減することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−205311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、原反にエンボス加工を施した場合、原反に一度付与した凹凸形状がしだいに平坦化していってしまうという不具合が生じる。原反を加工してなる加工品が離型紙として用いられる場合、離型紙の凹凸形状が平坦化すると、合皮製品、化粧シート、内装材等のシート状材料に形成される柄の深さも浅くなってしまう。すなわち、離型紙の凹凸形状が平坦化していくと、シート状材料に所望の凹凸形状を転写することが不可能となり、もはや、離型紙として使用することができなくなる。
【0008】
このような不具合は、とりわけ、樹脂や紙を含む原反に対してエンボス加工を行った際に顕著となる。上述したように、樹脂や紙の降伏応力が比較的に低いことから、樹脂や紙からなる原反を低圧力で大きく変形させることができる。その一方で、樹脂や紙を完全に塑性変形させるには、長時間にわって圧力を加え続けることが必要となる。これは、樹脂や紙の応力緩和時間が、金属等の応力緩和時間と比較して格段に長くなることに起因している。
【0009】
したがって、原反がエンボス型面から押圧されている時間が短ければ、樹脂や紙からなる原反を完全に塑性変形させることができない。そして、エンボス型面による圧力から解放された樹脂や紙は、元の形状に復元しようとする。すなわち、エンボス型面が離間した後に、樹脂層を含む原反に一度付与された凹凸形状はしだいに平坦化していくようになる。
【0010】
以上の不具合を回避するためには、原反にエンボス加工を施す際に、長時間にわたって原反にエンボス型面を押しつけておくことが必要となる。長時間にわたって原反にエンボス型面を押しつけておくと、紙や樹脂からなる原反をしっかりと塑性変形させることができる。しかしながら、このような解決方法によれば、原反にエンボス加工を施してなる加工品の生産効率が著しく低下してしまう。
【0011】
別の解決方法として、エンボス加工装置を複数台配置し、複数台のエンボス加工装置によって、連続並行して加工を行うことが考えられる。この方法によれば、生産効率を維持しながら、優れた転写効率で凹凸形状を原反に形成することができる可能性がある。しかしながら、実際には、原反の伸び等に起因して、各エンボス加工装置で形成される凹凸形状にずれが生じてしまうといった問題がある。結果として、各エンボス加工装置で形成される凹凸形状が重ならないため、深い凹凸形状を形成することすらできない。
【0012】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、優れた効率で精度良く凹凸柄を形成され得るとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制される加工品を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、優れた効率で精度良く凹凸柄を形成され得るとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制されるようになる原反を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、優れた効率で精度良く凹凸柄を原反に形成することができるとともに、形成された凹凸柄の平坦化が効果的に抑制されるようになる加工品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によるシート状の加工品は、エンボス加工によって凹凸柄を形成されたシート状の加工品であって、金属繊維を含有していることを特徴とする。
【0016】
本発明によるシート状の加工品において、前記金属繊維は、前記凹凸柄に沿うようにして延びていてもよい。
【0017】
また、本発明によるシート状の加工品が、合皮製品を作製するための型紙として機能するようにしてもよい。
【0018】
さらに、本発明によるシート状の加工品が、基材層と、前記基材層に積層された樹脂層と、を備え、前記樹脂層および前記基材層の少なくともいずれか一方に前記金属繊維が含有されていてもよい。あるいは、本発明によるシート状の加工品が、基材層と、前記基材層の一方の側に配置された樹脂層と、前記基材層と前記樹脂層との間に配置され、前記金属繊維を含有する金属繊維含有層と、を備えるようにしてもよい。あるいは、本発明によるシート状の加工品が、基材層と、前記基材層の一方の側に配置された樹脂層と、前記基材層の他方の側に配置され、前記金属繊維を含有する金属繊維含有層と、を備えるようにしてもよい。
【0019】
本発明による原反は、エンボス加工を施されるシート状の原反であって、金属繊維を含有していることを特徴とする。
【0020】
本発明による原反において、前記金属繊維は、原反のシート面に沿って延びていてもよい。
【0021】
また、本発明による原反が、合皮製品を作製するための原材料であってもよい。
【0022】
さらに、本発明による原反が、基材層と、前記基材層に積層された樹脂層と、を備え、前記樹脂層および前記基材層のいずれか一方に前記金属繊維が含有されていてもよい。あるいは、本発明による原反が、基材層と、前記基材層の一方の側に配置された樹脂層と、前記基材層と前記樹脂層との間に配置され、前記金属繊維を含有する金属繊維含有層と、を備えるようにしてもよい。あるいは、本発明による原反が、基材層と、前記基材層の一方の側に配置された樹脂層と、前記基材層の他方の側に配置され、前記金属繊維を含有する金属繊維含有層と、を備えるようにしてもよい。
【0023】
本発明による加工品の製造方法は、上述したいずれかの本発明による原反を用いて加工品を製造する方法であって、前記原反にエンボス加工を施す工程を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であり、シート状の加工品をその法線方向に沿った断面において示す断面図である。
【図2】図2は、加工品を製造するためのシート状の原反を、その法線方向に沿った断面において、示す断面図である。
【図3】図3は、原反を加工して加工品を製造するための装置および方法を説明するための斜視図である。
【図4】図4は、エンボス加工工程中における原反の推定され得る変形プロセスを説明するための図である。
【図5】図5は、エンボス加工工程中における原反の推定され得る変形プロセスを説明するための図であって、図4に示された状態よりも後の状態を示している。
【図6】図6は、エンボス加工工程中における原反の推定され得る変形プロセスを説明するための図であって、図5に示された状態よりも後の状態を示している。
【図7】図7は、加工品および原反の一変形例を説明するための図である。
【図8】図8は、加工品および原反の他の変形例を説明するための図である。
【図9】図9は、加工品および原反のさらに他の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0026】
図1〜図6は本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち、図1は、原反に凹凸形状を形成することによって作製された加工品を示す断面図である。図2は、図1の加工品を製造するために用いられる原反を示す断面図である。図3〜図6は、原反の加工方法(加工品の製造方法)を説明するための図である。
【0027】
まず、原反20および加工品10について説明する。図2に示すように、原反20は、基材層18と、基材層18に積層された樹脂層12と、を有している。
【0028】
樹脂層12は、樹脂からなる母材13と、母材13中に分散された多数の繊維状の金属線15、つまり、多数の金属繊維15と、を有している。基材層18は、支持基材として機能し、例えば紙やPETから構成される。また、樹脂層12の母材13は、例えば、ポリプロピレン等から構成されている。基材層18の厚みを150〜200μmとすることができ、樹脂層12の厚みを30〜50μmとすることができる。
【0029】
金属繊維15は、例えば、アルミニウム、銅または鉄等から構成される。金属繊維15の太さ(径)は、形成されるべき凹凸柄11や母材13に用いられる材料等を考慮した上で、後に説明するエンボス加工工程中に塑性変形し得るように構成される。具体的には、金属繊維15の太さを、例えば10〜300μmとすることができる。また、金属繊維15の長さを、例えば1〜5mmとすることができる。さらに、金属繊維15の樹脂層12中への配合割合を、例えば5〜30重量%とすることができる。
【0030】
次に、加工品10について説明する。加工品10は、凹部11bと凸部11aとを有する凹凸柄11を、原反20に形成することによって作製されている。したがって、加工品20は、以上の原反20の構成に対応して、基材層18と、基材層18に積層された樹脂層12と、を有している。
【0031】
ところで、本実施の形態においては、図2に示すように、金属繊維15は、原反20の樹脂層12の母材13中を、原反20のシート面と平行な方向に延びていることが好ましい。図4〜図6に示すように、エンボス加工時における圧力は、主として、原反20のシート面の法線方向に沿って、原反20に加えられるようになる。このような圧力は、原反20のシート面と平行に延びる金属繊維15に対して有効に加えられ、当該金属繊維15を塑性変形させやすくなる。そして、このような原反20のシート面と平行に延びる金属繊維15は、図1および図6に示すように、エンボス加工後に、加工品10の樹脂層12の母材13中を凹凸柄11の凹凸に沿うようにして延びるようになる。
【0032】
なお、ここでシート面とは、対象となるシート状の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるシート状部材の平面方向と一致する面のことを指す。
【0033】
本実施の形態においては、加工品10が、シート状の離型紙として構成されている例を説明する。得られた加工品(離型紙)10は、ビニールレザーや壁紙等のシート状部材を作製するための型紙として用いられる。とりわけ以下においては、作製された加工品10が、合成皮革として用いられるシート状部材30を作製するための型紙として機能するようになる例を説明する。
【0034】
離型紙として機能する加工品10の具体的な使用方法は、以下のようにすることができる。図1に二点鎖線で示すように、加工品10の樹脂層12の側を熱硬化性樹脂等からなる塗料32でコーティングし、さらに基布34をラミネートする。その後、塗料32を硬化させて塗料32からなる塗料層33を形成し、次に、塗料層33と加工品(離型紙)10とを剥離させることにより、基布34と塗料層33とを有したシート状部材30を得ることができる。得られたシート状部材30の塗料層33には、加工品(離型紙)10の凹凸柄11が転写されており、転写された凹凸柄により、シート状部材30の意匠性を向上させている。なお、加工品(離型紙)10は繰り返し用いられ、複数枚のシート状部材30を作製することができる。
【0035】
次に、図3〜図6を主に参照して、原反20に凹凸柄11を形成して加工品10を製造する方法について説明する。
【0036】
以下に説明する方法においては、原反20にエンボス加工を施すエンボス加工装置40を用いて、原反20に凹凸柄11が形成されるようになる。図3に示すように、エンボス加工装置40は、原反20に形成されるべき凹凸柄11に対応した凹凸形状を有するエンボス型42と、エンボス型42に対向して配置され、エンボス型42との間で原反20を圧するようになるバックアップ体46と、を有している。
【0037】
本実施の形態において、エンボス型42は、ロール状のエンボスロールとして構成されている。エンボスロール42は回転駆動されるロール本体43を有し、ロール本体43の外周面には凹凸形状を有するエンボス型面43aが形成されている。本実施の形態においては、合成皮革用の離型紙10を作製することができるよう、エンボス型面43aの凹凸形状は、原反20に皮模様を付与し得るように形成されている。
【0038】
また、本実施の形態において、バックアップ体46は、エンボスロール42に対向して配置され、原反20の移動速度に同期して回転可能なバックアップロールとして構成されている。図3に示すように、バックアップロール46は、エンボスロール42との間で原反20を挟圧するようになる。本実施の形態においては、バックアップロール46の外周面にも、エンボス型面53aの凹凸形状の形状に対応した凹凸形状が形成されている。これにより、エンボスロール42とバックアップロール46との間を通過する原反20(積層体29)に、極めて精度良く高低差のある凹凸柄を転写することができる。また、図1に示すように、加工品10の両面に、互いに対応する凹凸形状が形成されるようになる。
【0039】
エンボス加工装置40は、エンボスロール42のロール本体43に連結され、ロール本体43を回転駆動する駆動機構(図示せず)と、バックアップロール46に連結され、バックアップロール46を回転駆動する駆動機構(図示せず)と、をさらに有している。これらの駆動機構によって、エンボスロール42およびバックアップロール46は、原反20の搬送速度に同期するようにして回転し、エンボス型面43aの凹凸形状の形状を原反20に転写していく。
【0040】
また、エンボス加工装置40は、エンボスロール42およびバックアップロール46の上流側に配置された原反供給装置(図示せず)と、エンボスロール42およびバックアップロール46の下流側に配置された加工品回収装置(図示せず)と、をさらに有している。原反供給装置は、エンボスロール42およびバックアップロール46に向けて原反20を供給し、加工品回収装置は、エンボスロール42およびバックアップロール46で作製された加工品10を回収する。
【0041】
このような構成を有するエンボス加工装置40を用いて、原反20から加工品(離型紙)10を製造する方法の一例を、以下に説明する。
【0042】
まず、上述した基材層18と樹脂層12とを有する原反20が、原反供給装置から供給される。原反供給装置から繰り出された原反20は、その後、図3に示すように、エンボス加工装置40のエンボスロール42およびバックアップロール46の間に向けて搬送されていく。
【0043】
図3に示すように、エンボスロール42とバックアップロール46との間に送り込まれた原反20は、エンボスロール42とバックアップロール46との間で挟圧されるようになる。この際、図3に示すように、エンボスロール42のエンボス型面43aが原反20の樹脂層12に当接して樹脂層12を押圧するようになり、バックアップロール46の外周面が、原反20の基材層18に当接して基材層18を押圧するようになる。
【0044】
エンボスロール42とバックアップロールとの間を原反20が通過するエンボス加工工程では、エンボス型面43aの凹凸形状が、原反20に転写されていく。また、上述したように、本実施の形態においては、エンボス型面43aの凹凸形状に対応する凹凸形状が、バックアップロール46の外周面にも形成されている。これにより、原反20には、エンボス型面43aに対面する樹脂層12の側の面だけでなく、バックアップロール46の外周面に対面する基材層18の側の面からも、凹凸形状を形成されるようになる。
【0045】
上述したように、原反20は、樹脂層12に分散された多数の金属繊維15を有している。そして、本件発明者らが実験を行ったところ、金属繊維15を含有した原反20を用いた場合、当該原反20に対して優れた転写効率でエンボス型面43aの凹凸形状を転写することが可能であること、並びに、いったん転写された原反20(加工品10)の凹凸柄11が時間の経過にともなって平坦化されていくことを効果的に防止することができること、が確認された。平坦化されにくい凹凸形状を精度良く原反20に転写することが可能となるメカニズムは明らかではないが、以下に、主に図4〜図6を参照して、現時点で考えられ得る転写メカニズムについて説明する。ただし、本件発明は以下のメカニズムに限定されるものではない。
【0046】
エンボス型面43aが原反20に当接する際、まず、エンボス型面43aの凹凸形状の凸部44aが、原反20の樹脂層12に接触して、当該樹脂層12を押圧するようになる。すなわち、原反20の樹脂層12には、大きな圧力が局所的に加えられるようになる。エンボス型面43aの凸部44aによって樹脂層12が押圧されると、当該凸部44aの近傍において、まず変形しやすい樹脂層12の母材13が流動して樹脂層12がわずかに変形することが予想される。
【0047】
そして、エンボス型面43aによって原反20が樹脂層12の側からさらに強く押圧されると、最終的には、樹脂層12の母材13が変形するだけでなく、局所的な大きな圧力により、エンボス型面43aの凸部44aの周囲で金属繊維15が塑性変形するようになる。ここで、金属繊維15は微細であることから、すなわち、形状的な要因から、金属繊維全体としての剛性は、エンボス型面43aからの局所的な圧力によって塑性変形する程度にまで、低下し得る。したがって、図6に示すように、エンボス型面43aの凸部44aが樹脂層12内に入り込んでくるとともに、金属繊維15がエンボス型面43の凸部44aの形状に精確に追従して変形し得るものと推測される。
【0048】
とりわけ、本実施の形態においては、図2に示すように、多数の金属繊維15の各々は、概ね、原反20のシート面と平行に延びている。これに対して、図4〜図6に示すように、エンボスロール42およびバックアップロール46から原反20に加えられる圧力は、概ね、原反20のシート面の法線方向に沿って加えられる。したがって、エンボスロール42およびバックアップロール46から原反20に加えられる圧力は、原反20中に分散された金属繊維15を変形させる、さらに具体的には、金属繊維15を曲げるように、効果的に働く。これにより、金属繊維15はエンボス型面43の凸部44aの形状に精確に追従して変形することが可能となり、結果として得られた加工品10において、金属繊維15は、凹凸柄11に沿って樹脂層12内を延びるようになる。
【0049】
以上のような本実施の形態によれば、エンボス加工を施される元の材料となる原反20は、金属繊維15を含有している。金属繊維15は、形状的な要因によって変形しやすくなっており、また、材料的な要因によって極めて短時間の応力緩和時間を有するようになる。したがって、金属繊維15は、エンボス加工時における短時間での圧力下で、完全に塑性変形しきるようになる。
【0050】
また、原反20を構成する樹脂層12の母材13や基材層18は、金属からなる金属繊維15と比較して、変形しやすくなっている。したがって、エンボス加工時には、金属繊維15とともに、エンボスロール42のエンボス型面42の凹凸形状およびバックアップロール46の外周面の凹凸形状に精度良く沿うようにして変形し得る。ところが、原反20を構成する樹脂層12の母材13や基材層18は比較的に長い応力緩和時間を有しており、エンボス圧力が解放されたエンボス加工後に、平坦化しようとする。しかしながら、母材13をなす樹脂や基材層18をなす紙等と比較して、金属からなる金属繊維15は変形しにくく構成されている。このため、樹脂層12の母材13や基材層18の復元しようとする変形、すなわち、原反20を平坦化させようとする変形は、金属繊維15によって拘束される。
【0051】
このように、原反20(加工品10)が金属繊維15を含有することによって、優れた転写効率で凹凸柄11を原反20にエンボス加工で転写することができるとともに、凹凸柄11の平坦化を効果的に防止して凹凸柄11を維持することができる。また、金属繊維15は短時間の応力付加によって塑性変形し得る。したがって、原反20に凹凸柄11を付与するため、あるいは、原反20に形成された凹凸柄11の平坦化を防止するために、原反20の加工速度を低下させる必要もない。したがって、本実施の形態によれば、高精度に形成された凹凸柄11を優れた生産効率で形成することができるとともに、形成された凹凸柄11を維持することができる。
【0052】
なお、上述した実施の形態に関し、本発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、上述した実施の形態において、合成皮革用の離型紙を加工品10として製造する例を挙げたが、これに限られず、その他の用途に用いられる加工品10を製造することも当然に可能である。
【0054】
また、上述した実施の形態において、バックアップ体46に、エンボス型42の凹凸形状に対応する形状が形成されている例を示したが、これに限られない。
【0055】
さらに、上述した実施の形態では、特に言及しなかったが、原反20を加熱しながら、当該原反20に対してエンボス加工を施すようにしてもよい。具体的な構成としては、エンボス型42およびバックアップ体46の少なくとも一方にヒータを内蔵しておくことにより、当該ヒータによって、エンボス加工時に原反20を加熱することができる。エンボス加工時に原反20を加熱すると、原反20が変形しやすくなる。とりわけ、樹脂層12の母材13の流動性が増して、樹脂層12の母材13が変形しやすくなる。このため、樹脂層12を含む原反20は、さらに精度良く、エンボス型42のエンボス型面43aの凹凸形状およびバックアップ体46の外周面の凹凸形状に追従して変形することができる。また、エンボス加工後に樹脂層12の内部に残留している応力は、加熱されて流動性が増した樹脂層12を変形させた際に発生した応力に過ぎない。したがって、この残留応力は、エンボス加工後に温度低下した樹脂層12を大きく変形させる程度の大きさにはならなない。このため、金属繊維15によって、この残留応力に起因した原反20の平坦化を効果的に防止することができる。
【0056】
さらに、上述した実施の形態において、金属繊維15が、樹脂層12に含有されている例を示したが、これに限られず、一例として図7〜図9に示すように、原反20および加工品10を構成することができる。なお、図7〜図9に示された変形例において、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分には同一符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
【0057】
図7に示す例においては、金属繊維15が基材層18に含有されている。また、樹脂層12は母材13のみから構成されている。上述したように、基材層18は、紙やPETから構成され、金属繊維15よりも低い耐力(降伏応力)を有するとともに、金属繊維15より変形に対して格段に長い応力緩和時間を有するようになる。したがって、基材層18に金属繊維15を含有した原反20および加工品10による本変形例によっても、上述の実施の形態と同様に、高精度に形成された凹凸柄11を優れた生産効率で形成することができるとともに、形成された凹凸柄11を維持することが可能となる。
【0058】
また、図8および図9に示す例においては、樹脂層12および基材層18の少なくとも一方に金属繊維15を含有させることに代えて、原反20および加工品10が、金属繊維15を含有した金属繊維含有層16をさらに有している。図8に示す例において、金属含有層16は、樹脂層12と基材層18との間に配置されており、図9に示す例において、金属含有層16は、基材層18の樹脂層12とは反対側に配置されている。このような例によれば、シート状部材30を作製する際に、塗料32および塗料層33に、金属繊維15を含有する層が接触しない。したがって、金属繊維15がシート状部材30を損傷してしまうことを効果的に防止することができる。また、金属繊維含有層16は、樹脂等からなる母材17と、母材17中に分散された金属繊維15と、を有している。金属繊維含有層16の母材17をなす材料は、例えばポリプロピレンを用いることができ、また、樹脂層12の母材13をなす材料と同一にすることができる。このような金属繊維含有層16によれば、上述の実施の形態と同様に、高精度に形成された凹凸柄11を優れた生産効率で形成することができるとともに、形成された凹凸柄11を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
10 加工品
11 凹凸柄
11a 凸部
11b 凹部
12 樹脂層
13 母材
15 金属繊維
16 金属繊維含有層
17 母材
18 基材層
20 原反
40 エンボス加工装置
42 エンボスロール(エンボス型)
42 ロール本体
43a エンボス型面
44a 凸部
46 バックアップ体(バックアップロール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボス加工によって凹凸柄を形成されたシート状の加工品であって、
金属繊維を含有している
ことを特徴とするシート状の加工品。
【請求項2】
前記金属繊維は、前記凹凸柄に沿うようにして延びている
ことを特徴とする請求項1に記載された加工品。
【請求項3】
合皮製品を作製するための型紙として機能する
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の加工品。
【請求項4】
基材層と、
前記基材層に積層された樹脂層と、を備え、
前記樹脂層および前記基材層の少なくともいずれか一方に前記金属繊維が含有されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工品。
【請求項5】
基材層と、
前記基材層の一方の側に配置された樹脂層と、
前記基材層と前記樹脂層との間に配置され、前記金属繊維を含有する金属繊維含有層と、を備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工品。
【請求項6】
基材層と、
前記基材層の一方の側に配置された樹脂層と、
前記基材層の他方の側に配置され、前記金属繊維を含有する金属繊維含有層と、を備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工品。
【請求項7】
エンボス加工を施されるシート状の原反であって、
金属繊維を含有している
ことを特徴とする原反。
【請求項8】
前記金属繊維は、原反のシート面に沿って延びている
ことを特徴とする請求項1に記載された原反。
【請求項9】
合皮製品を作製するための原材料である
ことを特徴とする請求項7または8に記載の原反。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の原反を用いて加工品を製造する方法であって、
前記原反にエンボス加工を施す工程を備える
ことを特徴とする加工品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−264651(P2010−264651A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117585(P2009−117585)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】