説明

加工機における多機能機内測定装置

【課題】本発明は,ワークに対して各種の加工を再チャッキングすることなく加工できるNC工作機械等の加工機において,1つの計測ユニットによって加工済のワークに対して各種の測定を可能にした多機能機内測定装置を提供する。
【解決手段】この多機能機内測定装置は,軸付き砥石32が装着された水平軸ユニット5,垂直軸状態又は斜軸状態に変更可能な工具ホルダ部25,26が装着されたY軸ユニット4,及び機内計測ユニット6がX軸スライド2に配設されたものである。1つの機内計測ユニット6は加工されたワーク19に対して,内径,外形,段差等のワークの形状寸法を測定するタッチセンサと,球面,非球面等の端面等の表面形状をトレースして測定する変位センサとの機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,ワークを把持した主軸に対して移動するX軸スライドに少なくとも機内計測ユニットを配設した加工機において,1つの機内計測ユニットによってワークの外径,内径,段差等の形状寸法を測定すると共に,端面等の表面における球面形状,非球面形状等の表面形状をトレースして,それらの形状誤差等を測定することができる加工機における多機能機内測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,旋盤,研削盤,NC工作機械等の加工機において,被加工物を所定の図面形状に加工し,被加工物を一旦加工機から取り外し,機外の測定器によって各々の加工状態を測定し,確認するのが一般的である。また,加工機内で被加工物をアンチャック無しに測定し,目的の形状に達していなければ,被加工物に対して補正加工を再度行うような加工機も知られているが,その機内測定方法は,タッチセンサタイプと変位計タイプに分かれており,タッチセンサでは,主に,加工されたワークの径,長さ,段差等の形状寸法を計測し,また,変位計タイプでは,加工されたワークの端面等の表面をトレースして球面形状,非球面形状等の表面形状,或いはそれらの形状誤差を計測するものである。
【0003】
従来,加工されたワークの自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法が知られている。該自由曲面形状測定方法は,ワークスピンドルと工具スピンドルを有する直交3軸加工機に変位測定器を取り付け,ワークの測定点と測定点から変位測定器のプローブ中心軸線へ垂直に下ろした線との交点を結ぶベクトルと,測定点における自由曲面の法線ベクトルとがなす角度が一定になるように,直交3軸加工機の3軸制御を行ってワークの自由曲面の形状測定加工を行うものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,金型等の球面,非球面,自由曲面を加工する加工装置において,被加工物に固定したまま加工面を接触式計測器により計測する自由曲面加工装置が知られている。該自由曲面加工装置は,加工時に接触式計測器を工具と離隔し,測定時にプローブの飛び出し方向線が回転軸線と交差させ,プローブの飛び出し量が一定となるようにZ軸,X軸方向に走査し,被加工物の加工面の形状をZ,X軸データとして測定し,保存する。回転軸を含む所定の測定範囲まで測定した後,被加工物を180°回転させ,再度測定し,Z,X軸データとして保存し,加工面形状を算出するものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,旋盤の機内計測器の校正装置として,加工済みワークの外径等を主軸に装着したままで計測し,測定値補正量の設定値を校正するものが知られている。該機内計測器の校正装置は,主軸に保持されたワークの寸法を計測する機内計測器と,ガントリローダとを備えた自動運転NC旋盤において,マスタワークの常置部と,自動運転中の所定時に常置部のマスタワークを主軸にガントリローダで装着させる校正用ローダ指令手段と,この装着されたマスタワークを機内計測器で計測させて機内計測器の計測補正量の設定値を更新する校正実行手段とを備えたものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
ところで,本出願人は,NC工作機械について,ワークを再チャッキングすることなく,ワークに対する各種の研削,切削加工を,工具の姿勢を変更したり,別の工具に交換して一連の加工を並行して高精度に迅速に達成するものを開発し,それを先に特許出願をした。該NC工作機械は,主軸台に回転可能に配置され且つワークを把持するチャックを取り付ける主軸,及び主軸が移動するZ軸方向に直交するX軸方向に移動可能なX軸スライドを備えており,軸付き砥石が装着された水平軸ユニットと垂直軸状態又は斜軸状態に変更可能な工具ユニットが装着されたY軸ユニットとがX軸スライドに載置されている。工具ユニットが垂直軸状態の場合には,Y軸ユニットのホルダベースをX軸方向に平行に設定し,斜軸状態の場合には,ホルダベースをX軸方向に直交して設定するものである。更に,上記NC工作機械は,Y軸ユニットがX軸スライドに固定されたベースプレートに旋回可能に取り付けられた旋回プレートに取り付けられ,旋回プレートをベースプレート上で90°回転させることによってホルダベースの位置が変更され,ベースプレートには,旋回プレートの旋回をガイドするアジャストプレートが設けられている。また,上記NC工作機械は,工具ユニットをY軸ユニットに斜軸状態に装着する場合には,工具ユニットをホルダベース上で予め決められた所定量を下降させ,次いで,予め決められた所定量を傾斜させて工具ユニットをY軸ユニットに固定して設定できるものである(例えば,特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−43779号公報
【特許文献2】特開2005−103667号公報
【特許文献3】特開平5−208344号公報
【特許文献4】特開平2007−253306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,上記した本出願人に係るNC工作機械を開示した特許文献4では,各種の研削,切削加工を行ったワークに対して,機内測定装置によってワークの外形等の各種寸法の測定や,ワークの形状誤差等の表面形状の測定については開示されていなかった。また,従来の機内測定装置では,センサのタイプにより使用方法が異なっており,1つの計測ユニットでは,ワークに対する各種の外形や表面形状の全てについて機内測定ができないという問題があり,また,別の計測ユニットをNC工作機械等の加工機に装着すると,機内の加工のための有効スペースが狭くなり,従来の機内では余分なスペースが無く,計測ユニットの設置場所の制約が大きく,現実的には複数の計測ユニットを設置することができない現状である。また,NC工作機械等の加工機では,幾ら精度の良い超精密加工機でも,ワークを加工する際の刃具の摩耗が起き得る現象であり,この刃具の摩耗に伴うワークに対する加工について,ワークの加工に外形寸法や表面形状の誤差が発生するものであり,そのため信頼性のある高精度のワーク加工ができず,問題であった。
【0009】
この発明の目的は,上記の問題を解決することであり,例えば,本出願人が開発した特開平2007−253306号公報で開示したNC工作機械等の加工機において,各種の加工を行ったワークに対して,1つの機内計測ユニットによってワークの直径,段差等の形状寸法の測定や,ワークの球面形状,非球面形状,それらの形状誤差等の表面形状の測定を可能にしたものであって,機内計測ユニットをワークの外径,内径,テーパ,段差等の外形等の形状寸法を計測するタッチセンサとして使用する時は,スライダ固定用治具によってエア静圧スライドユニットにおけるスライダベースにスライダを固定し,内蔵されたタッチセンサによって非加工ワークの接触時の座標を基準にして計測を行い,また,ワークの球面形状,非球面形状,又はその他の種々の表面形状をトレースしてワークの形状や誤差を計測する変位センサとして使用する時は,エア静圧スライドユニットのスライダを固定せず,ワークに接するタッチプローブを通じて前後の動きを読み取って計測することを可能にし,1本の機内計測ユニットでワークの各種の測定を機内測定で高精度に実現し,装置そのものをコンパクトに構成し,ワークの測定時間を短縮し,ワーク加工の生産性をアップすることを特徴とする加工機における多機能機内測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,主軸台に回転可能に設けられ且つワークを回転可能に支持する主軸,及び前記主軸の軸心であるZ軸方向に直交するX軸方向に少なくとも移動可能なX軸スライドを備えている加工機において,
前記X軸スライドには,少なくとも機内計測ユニットが配設されており,
前記機内計測ユニットは,前記X軸スライドに固定されたユニットベース,前記ユニットベースに取り付けられたスライダベースと前記スライダベースに対して摺動可能なスライダから構成されたエア静圧スライドユニット,前記スライダに固定されたタッチセンサ本体に取り付けられ且つ前記主軸側に延びて前記ワークに接触可能なタッチプローブ,前記スライダに連結された変位センサ,及び前記スライダと前記スライダベースとを固定又は解放するスライダ固定手段を備えており, 前記スライダ固定手段で前記スライダを前記スライダベースに固定した状態で前記タッチプローブが前記ワークに接して前記ワークの外形寸法等の形状寸法を計測するタッチセンサが構成され,前記スライダ固定手段で前記スライダを前記スライダベースから解放して前記スライダを摺動状態にし,前記タッチプローブが前記ワークの端面等の表面形状をトレースして計測する前記タッチプローブの軸方向変動が前記スライダを介して伝達されて前記変位センサが構成されることを特徴とする加工機における多機能機内測定装置に関する。
【0011】
この多機能機内測定装置において,前記タッチセンサによって計測される前記ワークの測定対象は,前記ワークの外径,内径,段差,又はコーナRの絶対値の前記形状寸法であり,また,前記変位センサによって計測される前記ワークの測定対象は,前記ワークの球面形状,非球面形状,形状誤差,或いは段差,テーパ,球面等で構成される連続した形状を伴う端面等の前記表面形状である。
【0012】
また,この多機能機内測定装置では,前記スライダと前記変位センサとは,前記スライダに固定された連結ロッド,及び前記連結ロッドと前記変位センサとを連結するジョイントによって連結されている。
【0013】
また,この多機能機内測定装置は,前記エア静圧スライドユニットの前記スライダベースと前記ユニットベースとの連結途中には,前記ユニットベースに対して前記エア静圧スライドユニットの傾斜を調整する傾斜調整用ユニットと,前記ユニットベースに対して前記エア静圧スライドユニットの高さを調整する高さ調整用ユニットとが設けられているものである。
【0014】
また,この多機能機内測定装置において,前記スライダに固定された前記連結ロッドは,前記傾斜調整用ユニットと前記高さ調整用ユニットとに形成された中央空所を貫通して前記変位センサへと延びている。また,前記スライダ固定手段は,前記スライダを前記スライダベースに固定するスライダ固定用プレートで構成されている。更に,前記タッチプローブの前記ワークに対する押圧力は,前記エア静圧スライドユニットに設けられた触圧調整スプリングによって調整されるものである。
【0015】
この加工機における多機能機内測定装置は,前記X軸スライドには,第1研削スピンドルで駆動され且つ第1砥石が取り付けられる水平軸ユニット,及び第2研削スピンドルで駆動され且つ第2砥石が取り付けられるY軸ユニットがそれぞれ載置されており,前記Y軸ユニットに設けたホルダベースには垂直軸状態又は斜軸状態のいずれかに変更可能な工具ホルダ部が装着されているものである。更に,前記機内計測ユニットは,前記水平軸ユニットと前記Y軸ユニットとの間の位置において前記X軸スライドに配設されている。
【0016】
又は,この加工機における多機能機内測定装置は,前記X軸スライドには,前記機内計測ユニットに隣接して少なくとも1つのホルダベースが取り付けられ,前記ホルダベースには各種のバイトが取り付けられるバイトホルダが固定されているものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明による加工機における多機能機内測定装置は,上記のように構成されているので,刃具の摩耗に伴うワークに対する加工について,寸法や形状誤差が発生することを含めて,加工されたワークに対して発生した寸法誤差や形状誤差の全ての測定を1本の機内計測ユニットで測定可能にし,主軸からワークを取り外すことなくワークに対して補正加工を行うことを可能にし,しかもワークに対する各種の誤差を高精度に容易に計測でき,例えば,光学金型等については,外径,内径,端面等の一般加工と,レンズ部の球面加工や非球面加工等を同時加工することを実現し,レンズ等のワークの加工後に,アンチャック無しで,全ての計測を機内で可能にするという効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明による多機能機内測定装置を搭載したNC工作機械を示す平面図である。
【図2】図1のNC工作機械におけるY軸ユニットを傾斜させた状態を示す平面図である。
【図3】図1のNC工作機械における多機能機内測定装置を示す側面図である。
【図4】図3の多機能機内測定装置を示す拡大側面図である。
【図5】図3の多機能機内測定装置を示す平面図である。
【図6】図5の多機能機内測定装置の一部破断の拡大平面図である。
【図7】図3の多機能機内測定装置を示す背面図である。
【図8】この発明による多機能機内測定装置を搭載した旋盤等の加工機を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を参照して,この発明による多機能機内測定装置を搭載した加工機の中でもNC工作機械の例を説明する。この多機能機内測定装置は,種々のタイプの加工機に適用できる。このNC工作機械は,例えば,ベッド1上にZ軸方向に往復移動可能に配設されたZ軸スライド3,Z軸スライド3に設置された主軸10を回転自在に支持する主軸台11,及びZ軸テーブル3に対してベッド1上で独立して設けられ且つZ軸スライド3が往復移動するZ軸方向に直交するX軸方向に移動可能なX軸スライド2を有する。Z軸スライド3は,ベッド1上でサーボモータ等のモータ(図示せず)でZ軸方向に往復移動するように構成されている。また,主軸台11に回転自在に支持された主軸10は,例えば,スピンドルモータによって回転駆動される。主軸10の先端には,ワーク19を把持するチャック12が設けられている。ワーク19は,チャック12に把持されて主軸10の回転駆動によって回転させられる。また,X軸スライド2は,Z軸テーブル3のZ軸方向に直交するX軸方向に移動可能であり,主軸10のチャック12に取り付けられたワーク19と対向するようにベッド1上に配置されている。X軸スライド2は,刃物台ユニットを構成し,ベッド1上でサーボモータ等のモータ(図示せず)でX軸方向に往復移動するように構成されている。
【0020】
このNC工作機械は,X軸スライド2には,水平軸ユニット5と水平軸ユニット5に隔置して位置したY軸ユニット4との2種類の刃物台,及び該刃物台に隣接,図1では中間位置に,本願発明の特徴である多機能機内測定装置を構成する機内計測ユニット7が配設されている。このNC工作機械において,水平軸ユニット5とY軸ユニット4には,研削スピンドル13が組み込まれ,ワーク19を研削加工する砥石等の工具の回転駆動を行うように構成されている。
【0021】
水平軸ユニット5は,X軸スライド2に固定されたベース24に対して水平方向を変更できるホルダ64を備えており,ホルダ64には取付け角度を変更可能に取り付けられる工具ホルダ部25が取り付けられ,ベース24上でホルダ64を回転移動させてホルダ64をベース24に固定することによって工具ホルダ部25の水平方向の向きを変更できる。ホルダ64には,軸付き砥石32等の工具を取り付けるための工具ホルダ部25が一体構造に設けられている。また,Y軸ユニット4に設けたホルダベース15,16には,垂直軸状態又は斜軸状態のいずれかに姿勢変更可能な工具ホルダ部26が装着されている。Y軸ユニット4に工具ホルダ部26を斜軸の姿勢に装着した場合に,工具ホルダ部26に装着されたコレット工具14(図2)に軸付き砥石32として円筒型砥石18をセットすると,小径のワーク19を加工するのに適している。工具ホルダ部26は,Y軸ユニット4に対して,ホルダベース15,16を介して2種類の状態即ち姿勢に取り付けることができる。このNC工作機械では,Y軸ユニット4に工具ホルダ部26を垂直軸状態の姿勢に装着する場合には,Y軸ユニット4のホルダベース15,16がX軸方向に平行になるようにX軸スライド2に設定する。また,Y軸ユニット4に工具ホルダ部26を斜軸状態の姿勢に装着する場合には,Y軸ユニット4のホルダベース15,16をX軸方向に直交してX軸スライド2に設定するものである。
【0022】
この発明による加工機における多機能機内測定装置は,上記のNC工作機械に設けられたものである。このNC工作機械は,X軸スライド2には,研削スピンドル13で駆動され且つワーク19を加工する軸付き砥石32が取り付けられた水平軸ユニット5,研削スピンドル13で駆動され且つワーク19を加工するそろばん型砥石17又は円筒形砥石18が取り付けられた垂直軸ユニットであるY軸ユニット4,及び水平軸ユニット5とY軸ユニット4との間に配置された多機能機内測定装置を構成する機内計測ユニット6がそれぞれ載置即ち配設されている。また,Y軸ユニット4は,それに設けたホルダベース15,16には垂直軸状態又は斜軸状態のいずれかに変更可能な工具ホルダ部26が装着されている。
【0023】
機内計測ユニット6は,X軸スライド2にユニットベース20を介して取り付けられている。機内計測ユニット6は,X軸スライド2に固定されたユニットベース20に取り付けられたスライダベース45と該スライダベース45上を摺動可能なスライダ21から構成されたエア静圧スライドユニット22,スライダ21に押え治具36,37で固定されたタッチセンサ本体7に取り付けられ且つ主軸10側に延びてワーク19に接触可能なタッチプローブ8,スライダ21に連結された変位センサ9,及びスライダ21とスライダベース45とを固定又は解放するスライダ固定用プレート30等のスライダ固定手段を備えている。機内計測ユニット6は,各種の研削加工を行ったワーク19に対して,ワーク19の外径,内径,段差等の外形等の形状寸法の測定,及びワーク19の球面形状,非球面形状等の表面形状をトレースして計測し,それらの形状誤差等を測定することができるものである。この多機能機内測定装置は,スライダ固定用プレート30によってスライダ21をスライダベース45に固定した状態で,タッチプローブ8がワーク19の外形等の形状寸法を計測するタッチセンサを構成し,また,スライダ固定用プレート30によってスライダ21をスライダベース45から解放した摺動状態で,タッチプローブ8がワーク19の端面等の表面形状をトレースして計測し,タッチプローブ8の軸方向変動がスライダ21を介して変位センサ9に伝達され,変動した変位センサ9によってワーク19の表面形状が測定される。即ち,この多機能機内測定装置は,ワーク19に対して異なった2種類,即ち,形状寸法と表面形状の測定を可能にしたものである。この多機能機内測定装置において,エア静圧スライドユニット22は,エア静圧スライドユニット22と傾斜調整用ユニット27のスライド部材40とに固定した一対の補強プレート55で補強して剛性がアップされている。
【0024】
機内計測ユニット6におけるエア静圧スライドユニット22の上部には,タッチプローブ8のワーク19に対する触圧調整のため,一対のスプリング23が設けられている。スプリング23は,タッチプローブ8のワーク19に対する押圧力である触圧を調整する機能を有している。触圧調整機構では,スライダ21の前後には端板60が固定されており,両端板60にはスプリング23の一端を掛けるスプリング掛け棒58が取り付けられている。また,スライダ21の上面には調整プレート57が摺動可能に取り付けられている。調整プレート57には,スプリング23の他端を掛けるスプリング掛け棒59が取り付けられている。図5に示すように,機内計測ユニット6では,調整プレート57に設けた調整孔である長孔61には固定ねじ62が挿通され,それによって調整プレート57はスライダ21の調整された所定の位置で固定ねじ62によって固定される。
【0025】
スライダ21は,前後に僅かに,例えば,±1mm程度,調整移動させることができる。ダイヤルゲージをスライダ21の前面に当て,ストローク中心に合せ,スプリング23をスプリング掛け棒58,59に掛け,調整プレート57でストローク中心に調整する。また,タッチプローブ8は,突き出し長さが短い時にはエクステンションバー(図示せず)を使用することもできる。エア静圧スライドユニット22は,その下面がセットねじ又はボールプランジャ等の支持部材56によってユニットベース20上に載置状態に支持され,安定性が確保されている。
【0026】
機内計測ユニット6は,プレートから構成できるスライダ固定手段によってスライダ21をスライダベース45に固定してタッチセンサ本体7に内蔵されたタッチセンサを付勢してワーク19の外径,内径,段差等等のワークの寸法を計測し,また,スライダ固定手段によってスライダ21をスライダベース45から解放してタッチプローブ8の変動を変位センサ9に伝達して変位センサ9を付勢し,ワーク19の球面形状,非球面形状等の表面形状をトレースして,これらの形状誤差等の計測するものである。この多機能機内測定装置は,内蔵されたタッチセンサによって非加工ワーク19の接触時の座標を用いて計測を行い,ワーク19の球面形状,非球面形状等の端面等の表面形状を計測するトレースする時は,エア静圧スライドユニット22におけるスライダ21をスライダベース45に固定せずに解放して,ワーク19に接するタッチプローブ8を通じて前後の動きを読み取る変位センサ9として機能させ,ワーク形状をトレースして計測するものである。変位センサ9は,ケース54内を貫通してセットされ,例えば,分解能が0.01μmの精度のものが使用されている。
【0027】
また,この多機能機内測定装置において,スライダ21と変位センサ9とは,スライダ21に固定された連結ロッド35,及び連結ロッド35と変位センサ9とを連結するジョイント34によって連結されている。また,この多機能機内測定装置において,エア静圧スライドユニット22は,高さ調整用ユニット28と傾斜調整用ユニット27とを介してユニットベース20に取り付けられている。また,タッチプローブ8のワーク19に対する高低状態を高さ調整用ユニット28で調整し,また,傾斜状態を傾斜調整用ユニット27で調整する。従って,エア静圧スライドユニット22は,高さ調整用ユニット28によってユニットベース20に対して高さが調節され,また,傾斜調整用ユニット27によってユニットベース20に対して傾斜が調節されるように構成されている。また,タッチセンサ本体7を固定したスライダ21には,高さ調整用ユニット28の中央孔等の中央空所52と傾斜調整用ユニット27の中央孔等の中央空所53とを貫通する連結ロッド35が固定されている。連結ロッド35と変位センサ9とはジョイント34で連結されている。それ故に,スライダ21と変位センサ9とは,連結ロッド35とジョイント34とを介して連結されている。従って,タッチプローブ8がワーク19に接してワーク19の表面形状に応じて軸方向の変動をすると,その軸方向の変動がスライダ21に伝達してスライダ21の軸方向の移動となり,スライダ21の軸方向の移動が連結ロッド35を介して変位センサ9に伝達されることになる。
【0028】
この多機能機内測定装置において,高さ調整用ユニット28は,高さガイドステージにおいてユニットベース20に固定されたプレート44に取り付けられた固定部材43と,固定部材43に対して高さ調整用ツマミ48で高さ方向に移動するスライド部材42とから成る。高さ調整用ツマミ48で高さ方向を調整し,次いで固定ねじ31でスライド部材40を固定する。高さ調整用ツマミ48は,マイクロ式であって,例えば,ツマミ48を下方へ調整した時にはスライド部材42が下方へ動き,ツマミ48を上方へ調整した時にはスライド部材42が上方へ動くようにセットされている。ツマミ48とスライド部材42とは,接触しているだけであり,互いに固定されていない構造である。スライド部材42は,スライド部材42と固定部材43との間にばね63が組み込んであり,固定ねじ31による固定を解放すれば,ばね63のばね力で元の位置に戻るように構成されている。また,傾斜調整用ユニット27は,高さ調整用ユニット28のスライド部材42に固定された固定部材41と,エア静圧スライドユニット22に取り付けられたスライド部材40とから成り,固定部材41の凹面46に対してスライド部材40の凸面47を傾斜調整用ツマミ49で摺動させて位置設定してエア静圧スライドユニット22の傾斜状態を設定し,固定ねじ33で固定する。スライド部材40は,固定ねじ33による固定を解放すれば,ばね力で元の位置に戻るように構成されている。傾斜調整用ツマミ49の作動は,傾斜状態を調整するという以外は,高さ調整用ツマミ48と同様である。スライド部材40の動きは,傾斜状態を調整するという以外は,スライド部材42の動きと同様である。
【0029】
この多機能機内測定装置は,タッチセンサで加工されたワーク19の外径,内径,段差等の外形の形状寸法を測定する時には,エア静圧スライドユニット22におけるスライダ21をスライダ固定用プレート30をエア静圧スライドユニット22にねじ等で取り付け,スライダ固定用プレート30によってスライダ21をスライダベース45に固定し,タッチプローブ8をタッチセンサとして機能させ,通常測定方法で加工されたワーク19の上記各種の形状寸法を測定する。ワーク19の形状寸法の測定では,ワーク19の外形形状にタッチプローブ8を接触させてタッチセンサとして機能して得た情報を,コンピュータで処理してワーク19の外形等の形状寸法を測定する。
【0030】
加工されたワーク19の球面形状,非球面形状等の表面形状を測定する時には,エア静圧スライドユニットの固定を解放するため,スライダ固定用プレート30をエア静圧スライドユニット22におけるスライダ21から解放し,スライダ21をスライダベース45に対してフリー即ち摺動状態にし,タッチセンサにおけるタッチプローブ8を変位センサ9の触手にし,タッチプローブ8の僅かな前後方向の位置変動をエア静圧スライドユニット22におけるスライダ21,及び連結ロッド35を介して変位センサ9に伝達し,変位センサ9の前後方向の変動でワーク19の表面形状をトレースして測定する。即ち,加工されたワーク19の表面形状を測定する時には,エア静圧スライドユニット22を自在にし,タッチプローブ8はワーク19の表面をなぞってトレース測定を行い,そのデータ即ち情報をコンピュータで解析し,段差や凹凸形状を表記する。次いで,一度加工したプログラムとその誤差分を加味した補正プログラムを作成し,ワーク19の表面を加工してワーク19の加工表面の形状誤差を修正する。従来の加工方法では,ワーク19の曲面加工をすると,ワーク形状は,タッチセンサでコーナRの絶対値のみを測定し,加工面のトレースは機外で測定していたので,再度,ワーク19を機内に取り付けなければならず,そのための時間を要したり,誤差が生じていた。しかしながら,この多機能機内測定装置は,変位センサ9によるトレースは,球面等の加工面の表面状態が分かり易く,加工にフィードバックし,精度のある加工を継続して行うことができ,再チャックのために発生するような加工ワークの中心のずれ,又は段取り時間が発生することがない。
【0031】
次に,図8を参照して,この発明による加工機における多機能機内測定装置の別の実施例を説明する。この実施例は,加工機として旋盤に適用したものであり,刃物台ユニット65として機能するX軸スライド2には,機内計測ユニット6に隣接して,少なくとも1つ(図8では2つ)のホルダベース66が取り付けられ,ホルダベース66には各種(図8では2種類)のバイトB1,B2,B3,B4が取り付けられるバイトホルダ67が固定されているものである。この実施例における機内計測ユニット6は,上記実施例の場合と同様の機能をはたすことができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この加工機における多機能機内測定装置は,例えば,ワークをバイト,砥石等の工具で切削加工する旋盤,研削盤,NC工作機械等の加工機に適用して1つの計測ユニットでワークの外径,内径等の形状寸法,球面形状,非球面形状等の表面形状の測定に適用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0033】
2 X軸スライド
4 Y軸ユニット
5 水平軸ユニット
6 機内計測ユニット
7 タッチセンサ本体
8 タッチプローブ
9 変位センサ
10 主軸
11 主軸台
12 チャック
13 研削スピンドル
15,16 ホルダベース
17 そろばん型砥石
18 円筒型砥石
19 ワーク
20 ユニットベース
21 スライダ
22 エア静圧スライドユニット
23 触圧調整用スプリング
25,26 工具ホルダ部
27 傾斜調整用ユニット
28 高さ調整用ユニット
30 スライダ固定用プレート
32 軸付き砥石
34 ジョイント
35 連結ロッド
45 スライダベース
52,53 中央空所
65 刃物台ユニット
66 ホルダベース
67 バイトホルダ
B1,B2,B3,B4 バイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸台に回転可能に設けられ且つワークを回転可能に支持する主軸,及び前記主軸の軸心であるZ軸方向に直交するX軸方向に少なくとも移動可能なX軸スライドを備えている加工機において,
前記X軸スライドには,少なくとも機内計測ユニットが配設されており,
前記機内計測ユニットは,前記X軸スライドに固定されたユニットベース,前記ユニットベースに取り付けられたスライダベースと前記スライダベースに対して摺動可能なスライダから構成されたエア静圧スライドユニット,前記スライダに固定されたタッチセンサ本体に取り付けられ且つ前記主軸側に延びて前記ワークに接触可能なタッチプローブ,前記スライダに連結された変位センサ,及び前記スライダと前記スライダベースとを固定又は解放するスライダ固定手段を備えており, 前記スライダ固定手段で前記スライダを前記スライダベースに固定した状態で前記タッチプローブが前記ワークに接して前記ワークの外形寸法等の形状寸法を計測するタッチセンサが構成され,前記スライダ固定手段で前記スライダを前記スライダベースから解放して前記スライダを摺動状態にし,前記タッチプローブが前記ワークの端面等の表面形状をトレースして計測する前記タッチプローブの軸方向変動が前記スライダを介して伝達されて前記変位センサが構成されることを特徴とする加工機における多機能機内測定装置。
【請求項2】
前記タッチセンサによって計測される前記ワークの測定対象は,前記ワークの外径,内径,段差,又はコーナRの絶対値の前記形状寸法であり,また,前記変位センサによって計測される前記ワークの測定対象は,前記ワークの球面形状,非球面形状,形状誤差,或いは段差,テーパ,球面等で構成される連続した形状を伴う端面等の前記表面形状であることを特徴とする請求項1に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項3】
前記スライダと前記変位センサとは,前記スライダに固定された連結ロッド,及び前記連結ロッドと前記変位センサとを連結するジョイントによって連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項4】
前記エア静圧スライドユニットの前記スライダベースと前記ユニットベースとの連結途中には,前記ユニットベースに対して前記エア静圧スライドユニットの傾斜を調整する傾斜調整用ユニットと,前記ユニットベースに対して前記エア静圧スライドユニットの高さを調整する高さ調整用ユニットとが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項5】
前記スライダに固定された前記連結ロッドは,前記傾斜調整用ユニットと前記高さ調整用ユニットとに形成された中央空所を貫通して前記変位センサへと延びていることを特徴とする請求項4に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項6】
前記スライダ固定手段は,前記スライダを前記スライダベースに固定するスライダ固定用プレートで構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項7】
前記タッチプローブの前記ワークに対する押圧力は,前記エア静圧スライドユニットに設けられた触圧調整スプリングによって調整されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項8】
前記X軸スライドには,第1研削スピンドルで駆動され且つ第1砥石が取り付けられる水平軸ユニット,及び第2研削スピンドルで駆動され且つ第2砥石が取り付けられるY軸ユニットがそれぞれ載置されており,前記Y軸ユニットに設けたホルダベースには垂直軸状態又は斜軸状態のいずれかに変更可能な工具ホルダ部が装着されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項9】
前記機内計測ユニットは,前記水平軸ユニットと前記Y軸ユニットとの間の位置において前記X軸スライドに配設されていることを特徴とする請求項8に記載の加工機における多機能機内測定装置。
【請求項10】
前記X軸スライドには,前記機内計測ユニットに隣接して少なくとも1つのホルダベースが取り付けられ,前記ホルダベースには各種のバイトが取り付けられるバイトホルダが固定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の加工機における多機能機内測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−136390(P2011−136390A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297365(P2009−297365)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000196705)西部電機株式会社 (80)
【Fターム(参考)】