説明

加工用紙

【課題】特に寸法安定性及び剥離性に優れる加工用紙を提供すること。
【解決手段】少なくとも基紙と塗工層とを具備して成り、基紙は、JIS−P8120(1998)に規定する紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準ずるC染色法による呈色表に基づいて測定した機械パルプの配合率が40〜70%であって、無機顔料を内添し、さらにJIS−P8251(2003)に準じて測定した灰分率が10〜30%であり、また、塗工層は、少なくとも前記基紙の片側の表面に水溶性樹脂を含む塗工液を塗布して形成され、さらにまた、Papier28.101(1974)に記載のテトラブロムフェノールフタレインエチルエステルカリウム塩(TBP)を用いた呈色試験にて青色に呈色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主にビニル壁紙、紙壁紙等の基材(裏打ち紙)に用いられる加工用紙に関するものであり、特に寸法安定性に優れると共に、剥離性に優れた加工用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙は、壁紙用裏打ち紙と、壁紙用裏打ち紙に塗布、乾燥、接着させた塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂等の合成樹脂から成る表面材とにより構成される。このような壁紙は、壁紙を壁に貼る際(壁紙施工時)に、澱粉や酢酸ビニル樹脂系等の水系の糊によって壁に貼合されるが、この時、壁紙用裏打ち紙の寸法安定性が悪いと、壁紙用裏打ち紙が収縮して、壁紙の繋目部分に目開きが生じるという問題があった。
【0003】
また、壁紙の貼り替え作業の多くは人手により行われるため、剥がす時の剥離抵抗が大きいと、壁紙が剥がし難くなると共に、剥がした跡が不均一に壁に残り、下地の修正に時間を要することになるので非効率となる。従って、壁紙は、リフォーム等で壁紙を貼り替える際には、壁紙が剥がし易いこと、及び剥がした後に壁面に残る壁紙用裏打ち紙の紙層が均一の厚さであることも要求されている。
【0004】
特許文献1には、繊維分中の熱可塑性合成繊維の含有率を所定の範囲に調整すると共に、脂肪酸アミン樹脂及び/又は脂肪酸アミド樹脂を含有させることにより、壁紙を壁に貼る際(壁紙施工時)に糊を塗布しても壁紙がカールしにくいだけでなく、貼付後においては目開きが生じない上、壁紙の貼り替え時には剥がしやすく、また、剥がした後の壁面に残る裏打ち紙の紙層が均一な厚さとなる壁紙用裏打ち紙が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の壁紙用裏打ち紙は、裏打ち紙の紙層が均一な厚さで剥がすことはできるものの、壁面に剥がれ残った紙層の厚さが厚く、量が多かったり、あるいは紙層の厚さが薄く、量が少なかったりと不均一であった。このため、再度の壁紙施工時に、糊の量をその都度調整しなければならないという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を含有させ、紙表面の表面粗さや平滑度を所定の範囲とすることにより、ヤンキー紙の特徴である寸法安定性、グラビア印刷適性を維持しつつ、塩化ビニル・オレフィン樹脂等の塗工時の堰漏れを改善した、ヤンキードライヤーを備えた抄紙機で製造された壁紙用裏打ち紙が開示されている。しかしながら、ヤンキー紙のような片艶のクラフト紙は、両更タイプのクラフト紙に比べ液垂れの問題があったり、裏打ち紙の紙層を均一な厚さで剥がすことはできるものの、壁面に剥がれ残った層の厚さや量を均一なものとすることができないという問題があった。
【0006】
また、特許文献3に、機械パルプを所定量配合させ、所定の填料を所定量含有させて、熱伝導率を所定の範囲とすることにより、寸法安定性、隠蔽性が高く、さらに壁紙の剥離性を向上させた壁紙用裏打ち紙が開示されている。しかしながら、この壁紙用裏打ち紙であっても、上述したように、再度の壁紙施工時に、糊の量をその都度調整しなければならないという問題があった。
【0007】
さらにまた、特許文献4には、特定の雲母を添加することで、寸法安定性を向上させ、紙力、層間強度、及びサイズ度の低下を防止した、壁紙の裏打ち紙に用いられる加工用紙が開示されている。しかしながら、特許文献4に記載された加工用紙も、上述したように、壁紙の貼り替え時等で壁紙を剥がす際に、紙層が均一な厚さとなるように剥がすことが難しく、再度の壁紙施工時に、糊の量をその都度調整しなければならないという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−77526号公報
【特許文献2】特許第4049387号公報
【特許文献3】特許第4016057号公報
【特許文献4】特開2008−88579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特に、寸法安定性及び剥離性に優れる加工用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、少なくとも基紙と塗工層とを具備して成り、前記基紙は、JIS−P8120(1998)に規定する紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準ずるC染色法による呈色表に基づいて測定した機械パルプの配合率が40〜70%であって、無機顔料を内添し、さらにJIS−P8251(2003)に準じて測定した灰分率が10〜30%であり、また、前記塗工層は、少なくとも前記基紙の片側の表面に水溶性樹脂を含む塗工液を塗布して形成され、さらにまた、Papier28.101(1974)に記載のテトラブロムフェノールフタレインエチルエステルカリウム塩(TBP)を用いた呈色試験にて青色に呈色することを特徴とする加工用紙を提供することによって達成される。
【0011】
また、本発明の上記目的は、前記水溶性樹脂は、脂肪酸エステル化合物を含有しており、JAPAN TAPPI No.27に準じたフェンチェル水中伸度が1.5%〜3.0%であり、また、JIS−P8135(1998)に準じて測定した湿潤引張強さ(縦)残留率が10%〜25%であることを特徴とする加工用紙を提供することによって、効果的に達成される。
【0012】
さらにまた、本発明の上記目的は、前記無機顔料が焼成クレーであって、前記基紙を、JAPAN TAPPI No.18に準じた剥離方法で2層に分割し、このうち、灰分率が小さい層の灰分率比を1としたときの、他方の層の灰分率比が1〜4であり、また、前記2層に分割した基紙のうち、重量が少ない層の重量比を1としたときの、他方の層の重量比が1〜2.3であることを特徴とする加工用紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る加工用紙によれば、少なくとも基紙と塗工層とを具備して成り、また、この基紙は、JIS−P8120(1998)に規定する紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準ずるC染色法による呈色表に基づいて測定した機械パルプの配合率を40〜70%とし、無機顔料を内添し、さらにJIS−P8251(2003)に準じて測定した灰分率を10〜30%とし、また、塗工層は、少なくとも基紙の片側の表面に水溶性樹脂を含む塗工液を塗布して形成し、さらにまた、Papier28.101(1974)に記載のテトラブロムフェノールフタレインエチルエステルカリウム塩(TBP)を用いた呈色試験にて青色に呈色するようにしたので、寸法安定性及び剥離性に優れるものとなる。すなわち、本発明に係る加工用紙が、例えば壁紙の裏打ち紙として用いられた場合において、目開きの発生が少なく、またリフォーム等で壁紙を剥がす際に剥がし易く、さらに壁面に残った裏打ち紙の紙層は均一な厚みとすることができ、壁紙の貼り替え作業性を良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る加工用紙について詳細に説明する。なお、本発明に係る加工用紙は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【0015】
本発明に係る加工用紙は、少なくとも基紙と塗工層とを具備して構成されている。
本発明に係る加工用紙の基紙に用いられる原料パルプは、バージンのケミカルパルプ(広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、その他の繊維原料を化学的に処理されたパルプ)、特に広葉樹晒クラフトパルプが好ましく用いられるが、この他にも、木材またはチップに薬液をしみ込ませた後、機械的にパルプ化したケミグランドパルプ、ケミメカニカルパルプ及びチップをやや柔らかくなるまで蒸解した後、リファイナーでパルプ化したセミケミカルパルプ等のバージンパルプを含有させてもよい。
【0016】
また、上記原料パルプの他にも、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に平版、凸版、凹版印刷等、電子写真方式、感熱方式、熱転写方式、感圧記録方式、インクジェット記録方式、カーボン紙などにより印字された古紙、水性、油性インクや鉛筆などで筆記した古紙、新聞古紙等の古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)、製紙スラッジ、製紙工場排水スカム等を用いることができる。すなわち、古紙再生促進センターが分類している上白、クリーム上白、罫白、カード、特白、中白、白マニラ、模造、色上、ケント、白アート、飲料パック、オフィスペーパー、特上切、別上切、中質反古、ケントマニラ、新聞、雑紙、切茶、無地茶、雑茶、クラフト段ボール、段ボール、ワンプ、上台紙、台紙、ボールなどを用いることができる。
【0017】
上記原料パルプの中でも、機械パルプが好ましい。機械パルプとしては、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグラウンドパルプ(PGW)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が使用できるが、サーモメカニカルパルプ(TMP)を使用することが好ましく、さらに好ましくは晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)を使用することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る加工用紙の基紙は、JIS−P8120(1998)に規定する紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準ずるC染色法による呈色表に基づいて測定した機械パルプの配合率(以下、「機械パルプの配合率」という。)が40〜70%、好ましくは50〜60%である。基紙の紙層内の灰分率の分布を調整するには、ワイヤーパートでの脱水力の調整や、サクションボックス、サクションロール等のバキュームを利用した調整方法があるが、このように、機械パルプの配合率を規定することで、より好ましく調整することができ、壁紙を剥離した際に、剥離後の壁面に残る加工用紙(裏打ち紙)の紙層を均一なものとすることができる。なお、機械パルプの配合率が40%未満であると、剥離後に壁面に残る紙層が多くなりすぎ、下地の修正に時間がかかってしまう等の問題が発生する。一方、機械パルプの配合率が70%を超えると、剥離後に壁面に残る紙層が少なくなりすぎ、均一な厚さにすることが難しくなる。
【0019】
本発明の加工用紙には、機械パルプの中でも、特にBTMPを40〜70重量%の配合されていると好適であり、50〜60重量%の範囲で配合されると、より好ましい。BTMPは樹脂成分が多く残っているため、パルプ繊維間に内添した無機顔料が入り込みやすい。このため、乾燥収縮していた繊維が水中で膨潤することを防止し、後述するフェンチェル水中伸度を制御する働きを持つ。また、外部から加えられる脱水力により、本発明に係る加工用紙の基紙の紙層内における無機顔料の分布をコントロールし易くなる。なお、BTMPの配合量が40重量%未満であると、加工用紙の基紙の紙厚が減少する傾向にあるため、この加工用紙を裏打ち紙として使用した壁紙を剥離した際、壁面に残る加工用紙の紙層を均一な厚みとすることが難しい。一方、BTMPの配合量が70重量%を超えると、微細繊維の量が多くなり、加工用紙の引張り強度が低下するため、このような加工用紙に塩化ビニル樹脂の塗工などの2次加工を施す際に、断紙トラブルが発生し易い傾向があり、好ましくない。
【0020】
また、本発明に係る加工用紙の基紙には無機顔料が含有される。この無機顔料としては、例えばタルク(3MgO・4SiO・HO)、クレー(焼成クレー、化学変性クレー等の変性クレーを含む)、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫化亜鉛、サチンホワイト、カオリン、シリカ(SiO又はSiO・nHO)等が挙げられる。これらの無機顔料の中でも、特に多孔質な焼成クレーを使用すると、ブリスターの発生を抑制することができるのでより好ましい。
【0021】
さらに、本発明に係る加工用紙には、無機顔料を10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%含有させることが好適である。すなわち、本発明に係る加工用紙の基紙は、JIS−P8251(2003)に準じて測定した灰分率が10〜30%、より好ましくは15〜25%である。無機顔料の含有量が10重量%未満であると、例えばビニル壁紙の製造工程において、加工用紙の表面に塩化ビニル樹脂を塗工する際の乾燥工程において、塗工層が設けられていない面から水分が抜け難く、ブリスターが発生しやすくなる。また、本発明は、無機顔料の中でも多孔質顔料が適しているが、この場合において無機顔料の含有量が10重量%未満であると、多孔質顔料のくぼみに吸着する水分量が減少する傾向になるため、湿度・温度の変化により、水分の吸湿を繰り返す変化に対しての緩衝作用が減少し、寸法安定性が低下する傾向になる。一方、無機顔料の含有量が30重量%を超えると、ブリスターの発生の問題及び寸法安定性の点については満足する傾向になるが、基紙の層間強度が弱くなる。このため、本発明に係る加工用紙が壁紙の裏打ち紙として用いられた場合、壁紙の貼り替え等で壁紙を剥がす際に、均一な厚みの層を壁面に残して剥がすことが難しくなってくる。
【0022】
また、本発明に係る加工用紙の基紙には、サイズ剤を内添することにより、より効果的に寸法安定性及び剥離性に優れるものとすることができる。なお、サイズ剤としては、ロジンサイズ剤、合成サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)、アルキルケテンダイマー(AKD)等の種々のものを使用することができるが、これらの中でも合成サイズ剤を使用することが好ましい。さらに、填料、紙力剤、湿潤紙力剤、着色剤、定着剤等の公知の種々の内添薬品を添加しても良い。
【0023】
本発明に係る加工用紙は、上述した基紙の少なくとも片方の面に水溶性樹脂を含む塗工液を塗布して塗工層を形成する。
【0024】
この水溶性樹脂の添加量は、対パルプ固形分換算で0.2〜1.5重量%、好適には0.5〜1.0重量%である。水溶性樹脂の添加量が0.2重量%未満であると、本発明に係る加工用紙が裏打ち紙として用いられた壁紙において、壁紙を壁に貼る際(壁紙施工時)に使用する澱粉や酢酸ビニル樹脂系等の水系の糊(以下、単に「糊」と言う。)が浸透しやすいため、剥離性が低下する。すなわち、壁紙の貼り替え等で壁紙を剥離する際、壁紙を剥がす時の剥離抵抗が大きくなるため剥がし難くなり、また、壁面に残る加工用紙の層を均一な厚みとすることが難しくなる傾向になる。一方、水溶性樹脂の添加量が1.5重量%を超えると、壁紙施工時に使用する糊が浸透し難くなるため、剥離性は良好となるものの、壁紙と壁との接着力が低下する傾向になり、壁紙が剥がれ易くなる。
【0025】
なお、本発明に使用される水溶性樹脂としては、例えばデンプン、変性デンプン、ポリビニルアルコール、カゼイン、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂、アクリルアミド、ポリエステル、脂肪酸エステル化合物等が挙げられる。これらの中でも、特に脂肪酸エステル化合物を含有する水溶性樹脂が好ましい。なお、脂肪酸エステル化合物としては、田岡化学工業株式会社製のスミレスレジン7200Aを使用することが好ましい。
【0026】
すなわち、本発明に使用する脂肪酸エステル化合物は、成分(a):(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、成分(b):脂肪族ジカルボン酸、および成分(c):(ポリ)アルキレングリコールの反応により得られる化合物(A)と、分子量が100〜500の脂肪族エステル化合物(B)とを含む樹脂用可塑剤、及び、下記(式1)で表される化合物(A’)と、分子量が100〜500の脂肪族エステル化合物(B)とを含む樹脂用可塑剤を含有して成る樹脂組成物である。
(式1)
R1−(OR2)m−OCO−R3−CO−[O−(R4O)n−CO−R3’−CO]k−O−(R2’O)m’−R1’
[(式1)中、R1、R1’は水素原子、炭素数1〜16のアルキル基(但し、R1、R1’が共に水素原子となることはない。)、R2、R2’、R4は炭素数1〜8のアルキレン基、R3、R3’は炭素数1〜12のアルキレン基又はアルケニレン基、kは1〜10の整数、n、m、m’は1〜50の整数を表す。]
化合物(A)又は(A’)は、糊との相溶性が良好で、ブリード性に優れており、ブリードアウトが少なく、かつ、透明で柔軟な樹脂組成物を得ることができる。しかしながら、薄膜フィルム等、樹脂組成物の用途によっては更に柔軟性が要求され、より可塑性に優れた樹脂用可塑剤が必要となる。一方、脂肪族エステル化合物(B)は可塑性に優れており、柔軟な樹脂組成物を得ることができるが、糊との相溶性、ブリード性が十分とは言えず、限られた用途にしか使用できない。
【0027】
そこで、本願発明では、糊との相溶性、ブリード性に優れた化合物(A)又は(A’)と、可塑性及び化合物(A)又は(A’)との相溶性に優れた化合物(B)とを混合使用する。これにより、化合物(B)を単独で使用した場合に比べて化合物(B)のブリードアウトが抑制されるのでブリード性が向上し、かつ、化合物(A)又は(A’)を単独で使用した場合に比べて、より一層可塑性が向上する。従って、従来に増して樹脂用可塑剤のブリードアウトが少なく、かつ、透明性および柔軟性に優れ、物性の経時変化の少ない樹脂組成物を得ることができ、本発明の目的とする目開きの発生が少ない加工用紙を得ることができる。
【0028】
上述のように、化合物(A)は、成分(a):(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、成分(b):脂肪族ジカルボン酸、及び成分(c):(ポリ)アルキレングリコールのエステル化反応により得られる。
【0029】
成分(a)である(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、ジエチレングリコールモノデシルエーテル、ジエチレングリコールモノラウリルエーテル、ジエチレングリコールモノミリスチルエーテル、ジエチレングリコールモノセチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレンモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリプロピレンモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレンモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ヘキシレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのなかで、エチレングリコールモノアルキルエーテル類が、壁紙施工時に使用する糊との相溶性、可塑性が良好であり好ましい。
【0030】
また、成分(b)である脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、マロン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,2,3−トリメチルコハク酸、2エチル−2メチル−コハク酸、グルタル酸、2−メチルグルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,4−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、3−メチルアジピン酸、2,2−ジメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられ、これらの低級アルキルエステル、および酸無水物等も同様に使用できる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのなかで、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸が、壁紙施工時に使用する糊との相溶性、可塑性が良好であり好ましい。
【0031】
さらにまた、成分(c)である(ポリ)アルキレングリコールとしては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、オクタンジオール等が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのなかで、エチレングリコール類が、特に、分子量1000以下の(ポリ)エチレングリコールが壁紙施工時に使用する糊との相溶性、可塑性が良好であり好ましい。
【0032】
本発明で用いられる脂肪酸エステル化合物において、成分(a)〜成分(c)の使用量を適宜選択することにより、目的とするエステル化反応物、すなわち上述した化合物(A)を得ることができる。
【0033】
なお、化合物(A)の製造法は特に限定されるものではない。すなわち、すべての成分を同時に反応させる一段法であってもよく、また、(b)成分と(c)成分を反応させた後、(a)成分を反応させる多段法であってもよい。また、これらの反応は公知のエステル化反応方法で実施できる。すなわち、例えば、100℃〜300℃の温度で、硫酸、パラトルエンスルホン酸等の公知のエステル化触媒の存在下または非存在下で、また、必要に応じてトルエン、キシレン等の溶媒存在下で、生成する水を系外に除去しながらエステル化反応が行われる。なお、エステル化反応中は空気が混入すると着色のおそれがあるため、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下または気流下で行うのが望ましい。また、反応後は必要に応じて、洗浄、吸着等の精製処理を行うこともできる。
【0034】
次に、上記(式1)で表される化合物(A’)について説明する。
(式1)中、R1、R1’は、各々水素原子、炭素数1〜16、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基であり、同一であっても異なっていても良いが、R1、R1’が共に水素原子となることはない。糊との相溶性、可塑性の面から特にR1、R1’共にアルキル基が好ましい。なお、炭素数が16より大きいと、壁紙施工時に使用する糊との相溶性が悪く、樹脂組成物の樹脂用可塑剤のブリードアウトが多くなり、更には、糊の混練や、壁紙施工時に糊を均一に塗工して貼り付ける作業(以下、「施工作業」という。)を行い難い等の問題があり好ましくない。また、アルキル基は一般的に直鎖構造の方が生分解性が良好であるため好ましい。
【0035】
また、(式1)中、R2、R2’、R4は、各々炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4、更に好ましくは炭素数1又は2の直鎖又は分岐のアルキレン基であり、同一であっても異なっていても良い。炭素数が8より大きいと、糊との相溶性が悪く、樹脂組成物の樹脂用可塑剤のブリードアウトが多くなり、更には、混練や施工作業を行い難い等の問題があり好ましくない。また、アルキレン基は、直鎖構造の方が、樹脂用可塑剤のブリードアウトが少ないので好ましいが、結晶性が高い場合には、一部を分岐構造とした方が良い場合がある。
【0036】
また、(式1)中、R3、R3’は、各々炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキレン基、又はアルケニレン基であり、同一であっても異なっていても良い。炭素数が12より大きいと、糊との相溶性が悪く、樹脂組成物の樹脂用可塑剤のブリードアウトが多くなり、更には、混練や施工作業を行い難い等の問題が生じたり、塗工液の透明性が悪化する場合があるので好ましくない。
【0037】
また、(式1)中、kは1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数である。R3’、R4の構造、およびn数により差はあるが、kが10より大きいと、樹脂組成物の柔軟性が低下し、十分な可塑性を得られない場合や、結晶性が高く、室温付近で結晶化する場合があるので好ましくない。
【0038】
さらにまた、(式1)中、n、m、m’は、各々1〜50、好ましくは1〜25の整数であり、同一であっても異なっていても良い。R2、R2’、R4の構造により差はあるが、n、m、m’が各々50より大きいと、糊との相溶性が悪く、樹脂組成物の樹脂用可塑剤のブリードアウトが多くなり、更には、混練や施工作業を行い難い等の問題が生じる場合や、樹脂組成物の柔軟性が低下し、十分な可塑性を得られない場合があるので好ましくない。さらに、n、m、m’のいずれか一つが2以上の方が、結晶化しにくく、柔軟性が良くなることから、好ましくは4≦n+m+m’≦150である。
【0039】
(式1)で表される化合物(A’)の製造法は特に限定されるものではない。すなわち、成分(a)〜成分(c)を用いて公知のエステル化反応方法で製造してもよく、あるいは、脂肪族カルボン酸と環状エ−テルを用いて公知の開裂反応方法で製造してもよい。より具体的には、例えば、100℃〜200℃の温度でアルカリ金属の水酸化物またはアルコキシド等の触媒存在下、必要に応じて加圧条件下で反応させることができる。
【0040】
なお、上述した化合物(A)、(A’)の分子量は特に限定されるものではないが、300〜10000、好ましくは400〜4000、更に好ましくは500〜2000であり、併用される化合物(B)より分子量が大きいことが望ましい。分子量が小さすぎると樹脂組成物の樹脂用可塑剤のブリードアウトが多くなる傾向があり、一方で分子量が大きすぎると十分な可塑性を得られない傾向がある。
【0041】
次に、脂肪酸エステル化合物に用いられる脂肪族エステル化合物(B)について説明する。脂肪族エステル化合物(B)は、分子量が100〜500、好ましくは、300〜500で、糊の可塑性に優れ、かつ化合物(A)、(A’)との相溶性に優れた脂肪族エステル化合物を用いることができる。化合物(B)の分子量が500より大きいと十分な可塑性が得られず、一方で分子量が100より小さいと揮発性が高く、樹脂用可塑剤のブリードアウトが多くなり、化合物(A)又は(A’)との混合使用効果が十分に得られず好ましくない。
【0042】
このような脂肪族エステル化合物(B)としては、脂肪族多価カルボン酸エステル、脂肪族オキシ酸エステル、脂肪族エーテル多価カルボン酸エステル、グリセリンエステルが挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
脂肪族多価カルボン酸エステルとは、飽和又は不飽和の脂肪族多価カルボン酸と脂肪族アルコールからなるエステル化合物を示す。具体的にはコハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、コハク酸ジイソブチル、コハク酸ジ−2−エチルヘキシル、コハク酸ジイソノニル、コハク酸ジイソデシル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ−n−アルキル(610)、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、アゼライン酸ジブチル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、ドデカン二酸ジ−2−エチルヘキシル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
脂肪族オキシ酸エステルとしては、具体的にはアセチルリシノール酸エチル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルリンゴ酸ジエチル、アセチルリンゴ酸ジブチル、アセチルリンゴ酸ジヘキシル、アセチルリンゴ酸ジ−2−エチルヘキシル、アセチルリンゴ酸ジイソノニル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリヘキシル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
脂肪族エーテル多価カルボン酸エステルとは、飽和又は不飽和の脂肪族多価カルボン酸と脂肪族エーテル誘導体とからなるエステル化合物を示す。具体的にはビスメチルエチレングリコールサクシネート、ビスメチルジエチレングリコールサクシネート、ビスメチルトリエチレングリコールサクシネート、ビスエチルエチレングリコールサクシネート、ビスエチルジエチレングリコールサクシネート、ビスエチルトリエチレングリコールサクシネート、ビスブチルエチレングリコールサクシネート、ビスブチルジエチレングリコールサクシネート、ビスブチルトリエチレングリコールサクシネート、ビスヘキシルエチレングリコールサクシネート、ビスヘキシルジエチレングリコールサクシネート、ビスヘキシルトリエチレングリコールサクシネート、ビスメチルエチレングリコールアジペート、ビスメチルジエチレングリコールアジペート、ビスメチルトリエチレングリコールアジペート、ビスエチルエチレングリコールアジペート、ビスエチルジエチレングリコールアジペート、ビスエチルトリエチレングリコールアジペート、ビスブチルエチレングリコールアジペート、ビスブチルジエチレングリコールアジペート、ビスブチルトリエチレングリコールアジペート、ビスヘキシルエチレングリコールアジペート、ビスヘキシルジエチレングリコールアジペート、ビスヘキシルトリエチレングリコールアジペート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
グリセリンエステルとしては、具体的には脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、脂肪酸トリグリセライド、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン酢酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
これら脂肪族エステル化合物のなかで、脂肪族オキシ酸エステル、脂肪族エーテル多価カルボン酸エステルが好ましく、特に、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、ビスエチルエチレングリコールサクシネート、ビスエチルジエチレングリコールサクシネート、ビスエチルトリエチレングリコールサクシネート、ビスブチルジエチレングリコールサクシネート、ビスブチルトリエチレングリコールサクシネート、ビスエチルエチレングリコールアジペート、ビスエチルジエチレングリコールアジペート、ビスエチルトリエチレングリコールアジペート、ビスブチルジエチレングリコールアジペート、ビスブチルトリエチレングリコールアジペートが、糊の可塑性および化合物(A)又は(A’)との相溶性が良好であり好ましい。
【0048】
また、本発明で用いられる脂肪酸エステル化合物の[化合物(A)又は化合物(A’)]/[脂肪族エステル化合物(B)]の混合重量比は特に限定されるものではないが、99/1〜10/90、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは95/5〜50/50の範囲である。
【0049】
さらに、本発明で用いられる脂肪酸エステル化合物の樹脂用可塑剤の性状は特に限定されるものではないが、通常、化合物(A)又は(A’)と脂肪族エステル化合物(B)とを混合した時に、少なくとも100℃、好ましくは50℃、更に好ましくは30℃で、液体状態又はペースト状態である。
【0050】
さらに、本発明に係る加工用紙の基紙の少なくとも片面に塗布される塗工液に含有される水溶性樹脂として、上述した脂肪酸エステル化合物に加え、エポクリルヒドリン樹脂を含む湿潤紙力増強剤等をさらに添加しても良い。これにより、後述するフェンチェル水中伸度を制御することができる。
【0051】
また、塗工液には、本発明の効果に影響のない範囲内で、上述した水溶性樹脂のほか、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAM)等を用いることができる。さらに、例えば滑剤、サイズ剤、填料分散剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、蛍光消去剤等の公知の添加剤を、単独で、あるいは2種以上を混合して添加しても良い。
【0052】
以上のように、機械パルプの配合率と、無機顔料の添加による灰分率とを規定し、水溶性樹脂を含有する塗工液を塗布して基紙の少なくとも片面上に塗工層を形成することにより、本発明に係る加工用紙のPapier28.101(1974)に記載のテトラブロムフェノールフタレインエチルエステルカリウム塩(TBP)を用いた呈色試験にて青色に呈色させることができる。これにより、エポクリルヒドリン樹脂を含む湿潤紙力増強剤の使用を確認することができる。
【0053】
また、脂肪酸エステル化合物を含有する水溶性樹脂の添加量を、上述したように規定することにより、JAPAN TAPPI No.27に準じたフェンチェル水中伸度が1.5〜3.0%、好ましくは1.5〜2.0%とし、かつ、JIS−P8135(1998)に準じて測定した湿潤引張強さ(縦)残留率が10〜25%、好ましくは12〜20%とすることができ、本発明の目的を効率的に達成することができる。
【0054】
なお、フェンチェル水中伸度が1.5%未満であると、例えば本発明に係る加工用紙を裏打ち紙として使用してビニル壁紙を製造する工程において、塩化ビニル樹脂が加工用紙(壁紙の裏打ち紙)に浸透し難くなる。一方フェンチェル水中伸度が3.0%を超えると、壁紙施工時に使用する糊を吸収した際、加工用紙が収縮するため、ボコツキが発生しやすい傾向になると共に、壁紙の目開きが生じ易くなる。
【0055】
また、湿潤引張強さ(縦)残留率が10%未満であると、例えば本発明に係る加工用紙を裏打ち紙として使用してビニル壁紙を製造する際、塩化ビニル樹脂を塗工する工程において断紙トラブルの要因になる。一方で25%を超えると、本発明に係る加工用紙を再生パルプ化することが難しくなるため処理コストが高くなる。
【0056】
さらに、無機顔料として焼成クレーを使用し、上述の所定量を含有させる。これにより、本発明に係る加工用紙の基紙を、JAPAN TAPPI No.18に準じた剥離方法で2層に分割してそれぞれの層の灰分を測定し、このうち、灰分率が小さい方の層の灰分率比を1としたとき、他方の層の灰分率比が1〜4、好ましくは1.1〜1.5となるように調整することで、本発明に係る加工用紙を裏打ち紙として用いた壁紙を剥離した際に、壁面に残る加工用紙の層を均一な厚みとすることができる。なお、灰分率比が1未満であると、2層間の灰分率の差が小さいため、加工用紙を壁紙として用い、壁紙の貼り替え等により剥離する際、壁面に残る加工用紙の層を均一な厚みとすることが難しくなる。一方で、灰分率比が4を超えると、2層間の灰分率の差が大きくなるため、加工用紙の剥離性は良好になるが、加工用紙の表裏差が大きくなるため、寸法安定性が低下し、壁紙施工時に使用する糊を塗布した際にカールが発生したり、糊が乾燥した後に目開きが発生してしまう問題があり、好ましくない。
【0057】
さらにまた、上述したように2層分割した灰分率比を規定し、脂肪酸エステル化合物を含有する水溶性樹脂の塗布量を規定することで、本発明に係る加工用紙の基紙を、JAPAN TAPPI No.18に準じた剥離方法で2層に分割してそれぞれの層の重量を測定し、このうち、重量が少ない方の層の重量比を1としたとき、他方の層の重量比が1〜2.3、好ましくは1〜1.5となるように調整することで、本発明の目的である良好な剥離性を得ることができる。すなわち、本発明に係る加工用紙を壁紙裏打ち紙に用いた壁紙を剥離する際の剥離抵抗を小さくすることができるので剥がし易く、また、剥離後に壁面に残った加工用紙の基紙の紙層を均一な厚みとすることができ、壁紙の貼り替え作業性を向上させることができる。
【0058】
なお、上述したような本発明に係る加工用紙の基紙は、パルプと填料を主原料とし、適宜必要な薬品を添加したスラリーを通常の長網、円網、短網、傾斜等のワイヤーパートからなる抄紙機で製造でき、抄紙機は特に限定されるものではなく、また酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであっても良い。また、乾燥工程は、通常の多筒ドライヤー、ヤンキードライヤー等のいずれでもよいが、特にヤンキードライヤーを用いることで、多筒ドライヤーによる乾燥方式よりも寸法安定性に優れる加工用紙を得ることができ好ましい。ヤンキードライヤーによる乾燥方式は一般の多筒式ドライヤーによる乾燥方式とは異なり、湿紙をシリンダー表面に貼り付けて乾燥させるため、乾燥時に紙の収縮を少なくすることができ、加工用紙を壁紙用裏打ち紙として用い、壁への貼合時に水系の糊を塗布した場合の紙の伸びが少なく、寸法安定性に優れ、特に壁紙用裏打ち紙としての使用に適した加工用紙を得ることができる。
【0059】
また、基紙の少なくとも片側の表面に塗工液を塗布する方法としては、カレンダー塗工、バーコーター、ロッドコーター、エアナイフ、ゲートロールコーター、2ロールサイズプレスなどの公知の塗布手段により塗布することができる。これらの中でも特に、トランスファー方式のゲートロールにて塗布するのが好ましい。
【0060】
以上に詳述した本発明に係る加工用紙の紙層構成については、単層で構成されていても良く、2層以上の複数層から形成されていても良い。
【実施例】
【0061】
本発明に係る加工用紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0062】
本発明に係る19種類の加工用紙(これを「実施例1」ないし「実施例19」とする)と、これら実施例1ないし実施例19と比較検討するために、4種類の加工用紙(これを「比較例1」ないし「比較例4」とする)を、表1に示すような構成で作製した。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例1)
機械パルプであるBTMP(パルプフリーネス140cc)を50重量%と、LBKP(パルプフリーネス600cc)を20重量%と、NBKP(パルプフリーネス650cc)を30重量%とを混合して、離解フリーネスを385ccに調整した原料パルプに、無機顔料として、焼成クレーを、得られる加工用紙の基紙の灰分率が20%となるように添加する。さらに、サイズ剤として、合成サイズ剤(カチオファストSF、BASF製)を対パルプ有姿で30kg/パルプt、及び、湿潤紙力増強剤(WS4024、日本PMC株式会社製)を対パルプ固形分換算で2重量%添加して原料パルプスラリーを調整し、長網抄紙機で抄紙して、加工用紙の基紙を得た。
【0065】
次に、水溶性樹脂として脂肪酸エステル化合物を対パルプ0.7重量%になるように添加して塗工液を調整し、この塗工液を、トランスファー方式のゲートロールを用いて基紙の片面に塗工する。
【0066】
また、実施例2〜19、及び比較例1〜4を表1に示す条件以外は実施例1と同様にして加工用紙を作製した。なお、本実施例における酸性ロジンとしては、東邦化学工業株式会社製のペローザー;E−3600を用い、中性ロジンとしては、東邦化学工業株式会社製のペローザー;R−10を用い、アルキルケテンダイマー(AKD)としては、ハリマ化成株式会社製のハーサイズ;AK−720Hを用い、アルケニル無水コハク酸(ASA)としては、星光PMC株式会社製のAS1を用いた。また、水溶性樹脂のPVAとして、クラレ株式会社製のPVA105を用い、スチレン・ブタジエン系ラテックスとして、日本ゼオン株式会社製のラテックスOX1060(SBRラテックス、Tg8℃、ゲル量70%、)を用い、また、アクリル・スチレン共重合体として東邦化学工業株式会社製のNS−555を用いた。
【0067】
なお、表1中の「パルプフリーネス(cc)」とは、JIS−P8121(1995)に準じた濾水試験方法で測定した値である。
【0068】
また、「離解フリーネス(cc)」とは、JIS−P8220(1998)に準じて離解した原料パルプを、JIS−P8121(1995)に準じた濾水試験方法で測定した値である。
【0069】
これらの全実施例及び比較例についての品質評価を行った結果は、表2に示すとおりであった。
【0070】
なお、表2中の「呈色試験」とは、Papier28.101(1974)に記載のTBP(テトラブロムフェノールフタレインエチルエステルカリウム塩)を用いた呈色試験を行った結果を示したものである。
【0071】
また、「水中伸度(%)」とは、JAPAN TAPPI NO.27に準じ測定したフェンチェル水中伸度の値である。
【0072】
「残留率(%)」とは、湿潤引張強さ(縦)の残留率のことで、JIS−P8113(1998)に準じて測定した乾燥引張強度(縦)で、JIS−P8135(1998)に準じ求めた湿潤引張強度(縦)を除して求めた値である。
【0073】
「2層剥離の重量比」とは、JAPAN TAPPI NO.18に準じた剥離方法で各試料の基紙を2層に分割し、重量が少ない層の重量比を1としたときの、他方の層の重量比を表したものである。すなわち、2層に分割した各層の重量を、精度5%以内で測定可能な電子天秤にて測定し、重量が大きい層の重量を、他方の層(重量が小さい層)の重量で除し、有効数字1桁で表示した値である。
【0074】
「2層剥離の灰分率比」とは、JAPAN TAPPI NO.18に準じた剥離方法で各試料の基紙を2層に分割し、灰分率が小さい層の灰分率比を1としたときの、他方の層の灰分率比を表したものである。すなわち、JIS−P8251(2003)に準じた方法で、2層に分割した各層の灰分量を測定し、灰分量が多い方の層の灰分量を、他方の層(灰分量が少ない方の層)の灰分量で除し、有効数字1桁で表示した値である。
【0075】
「目開き」とは、各試料の寸法安定性、すなわち壁紙の繋ぎ目部分に隙間が生じるか否かを評価したものである。その評価方法は、まず加工用紙である各試料を裏打ち紙として用いた壁紙に加工する。その後、裏打ち紙に適量の糊(接着剤)を均一に塗工し、10分間自然乾燥させた後、石膏ボードに壁紙を貼り、真中にカッターナイフで切れ目を入れる。そして2週間後(糊乾燥後)、収縮によって生じた切れ目の隙間を測定して評価した。なお、評価基準は下記の通りとした。
◎:隙間が0.05mm以内である。
○:隙間が0.05〜0.1mmである。
×:隙間が0.1mm以上である。
【0076】
「剥離性」とは、加工用紙である各試料を用いて形成した壁紙の剥離のし易さを評価したものである。その評価方法は、まず、加工用紙である各試料を裏打ち紙に用いて980mm長の壁紙に加工する。その後、裏打ち紙に適量の糊(接着剤)を均一に塗工し、10分間自然乾燥の後、石膏ボードに壁紙を貼る。そして2週間後(糊乾燥後)、壁紙を端から剥がし、剥がれ易さを評価した。なお、評価基準は下記の通りとした。
◎:980mm長の壁紙を剥がす時、端から端まで途中で切れることなく剥がすことができた。
○:980mm長の壁紙を剥がす時、1回切れたが、切れた所から、再度剥がし始め、最後まで剥がせた。
×:980mm長の壁紙を剥がす時、2回以上切れた。
【0077】
さらに、「ブリスター」とは、裏打ち紙となる各試料の片面に、塩化ビニル樹脂溶液をメイヤーバーにて130μmの厚みで塗工し、190℃で乾燥させた後、塩化ビニル樹脂の表面に発生するクレーターの数を測定して評価したものである。その評価基準は下記の通りとした。
◎:任意の5cm四方を4つ選び、この4つの四方の中にクレーターが一つもない。
○:任意の5cm四方を4つ選び、この4つの四方の中にクレーターが一つある。
×:任意の5cm四方を4つ選ぶ、この4つの四方の中にクレーターが2個以上ある。
【0078】
【表2】

【0079】
表2から、本発明に係る加工用紙、すなわち実施例1〜19に係る加工用紙を裏打ち紙に用いて形成された壁紙は寸法安定性及び剥離性に優れるということが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基紙と塗工層とを具備して成り、
前記基紙は、JIS−P8120(1998)に規定する紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準ずるC染色法による呈色表に基づいて測定した機械パルプの配合率が40〜70%であって、無機顔料を内添し、さらにJIS−P8251(2003)に準じて測定した灰分率が10〜30%であり、
また、前記塗工層は、少なくとも前記基紙の片側の表面に水溶性樹脂を含む塗工液を塗布して形成され、
さらにまた、Papier28.101(1974)に記載のテトラブロムフェノールフタレインエチルエステルカリウム塩(TBP)を用いた呈色試験にて青色に呈色することを特徴とする加工用紙。
【請求項2】
前記水溶性樹脂は、脂肪酸エステル化合物を含有しており、
JAPAN TAPPI No.27に準じたフェンチェル水中伸度が1.5%〜3.0%であり、また、JIS−P8135(1998)に準じて測定した湿潤引張強さ(縦)残留率が10%〜25%であることを特徴とする請求項1に記載の加工用紙。
【請求項3】
前記無機顔料が焼成クレーであって、
前記基紙を、JAPAN TAPPI No.18に準じた剥離方法で2層に分割し、このうち、灰分率が小さい層の灰分率比を1としたときの、他方の層の灰分率比が1〜4であり、また、前記2層に分割した基紙のうち、重量が少ない層の重量比を1としたときの、他方の層の重量比が1〜2.3であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加工用紙。

【公開番号】特開2010−150718(P2010−150718A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331993(P2008−331993)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】