説明

加工用素体,その製造方法及び装置,加工用素体を利用した試作品及びその製造方法

【課題】射出成形による量産時の適正を早期に把握するのに適した試作品と、試作品製作用の加工用素体を提供する。
【解決手段】可動側型板内の可動プレートを初期位置に固定して型締めし(ステップS10,S12)、射出スペースに溶融樹脂を射出充填して硬化させ、その後型開き・ゲートカットして一層目の薄板を成形する(ステップS14〜S18)。その後、可動プレートを固後退させて新たな射出スペースを形成し(ステップS22)、所定の厚みの積層体となるまで、前記ステップS12〜18,S22を繰り返す。所望の厚みの積層体が成形されたら(ステップS24のYes),積層体を離型し(ステップS26)、該積層体を加工用素体として切削加工し(ステップS28)、試作品を得る。この試作品は、量産予定の製品に近い特性を有しているため、強度試験(ステップS30)などを行ってそのデータを利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用素体,その製造方法及び装置,加工用素体を利用した試作品及びその製造方法に関し、更に具体的には、樹脂製品(プラスチック製品)を量産する前段階における試作品と、その試作品製作用の加工用素体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品(樹脂製品)は、各種分野で多用されており、その商品開発に先立つ試作段階において、量産時における商品の性能,機能,外観などの出来栄えの他に、品質やコストを確認することが求められている。特に、近年では、より短期間での製品立ち上げが要求されることが多く、早期に品質等の確認をすることが求められている。プラスチック製品は、製品の外観並びに構造部品に機能性を持たせて設計される。これまでの生産時のプラスチック部品は、成形型を用いたインジェクション成形で生産され、この成形時の条件だし、すなわち、成形圧,温度,型保持時間,冷却時間,温度勾配などが重要な品質管理の項目であり、使用されるプラスチック材料によって種々の条件管理がノウハウとして保存している。
【0003】
しかしながら、生産時の成形型,特に本型は一般的に高価であり、カセット型を適用するような例を除くと、試作において高価な型を採用することはなく、現実には注型機による少数成形が行われる。注型機による成形で使用されるプラスチック材料は、前記注型機の特性を考慮するとウレタン材に限られるので、量産時のプラスチック,例えば、PPやPPEではない。従って、このような手法により得られた試作品を利用して強度試験等を行っても、量産時の商品(製品)での実際の試験結果とは、かけ離れた結果が出るおそれがあり、品質データを得るための試作品としては不十分であった。
【0004】
また、例えば、下記特許文献1には、試作品を射出成形により製造する際に使用する樹脂製又はゴム製の耐熱材料からなる試作品用成形型であって、キャビティ用型面を形成する部品に配置されて前記耐熱材料からなる型面部と、該型面部を補強するように支持するバックアップ部とを備えて構成されている試作品用成形型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−188737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術を用いたとしても、試作品に不備があれば、型を作り直すという手間がかかるのは、本型の場合と同様である。また、型面部にエポキシ系樹脂等の耐熱性樹脂を利用しているので、充填するプラスチック材料にも制限があると考えられる。従って、この手法で成形された試作品を用いても、量産品と同様の品質を備えているとは限らないという不都合がある。このほか、汎用グレードであれば量産予定の商品と同じプラスチック材料(樹脂材料)の塊を削り出して試作品を製作する手法も考えられるが、この場合の樹脂材料の塊は、例えば、押出成形により形成されており、射出成形で形成されたものではないから、本来の目的とする射出成形による量産品とは品質が異なると考えられ、製品評価に用いるのは難しい。そこで、射出成形で樹脂の塊ないし厚肉素材を形成し、それを射出成形品の試作品を製作するための加工用素体として利用することができれば、従来の手法で製作された試作品と比べて、目的とする量産品に近い性質を有する試作品を製作でき、早期に品質確認が可能となって非常に都合がよい。
【0007】
本発明は、以上の点に着目したもので、設計変更などにも容易に対応でき、射出成形による量産品に近い性質を有する試作品を製作するための加工用素体,その製造方法及び装置,加工用素体を利用した試作品及びその製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂製品の試作品を製作するための加工用素体の製造装置であって、溶融樹脂の流入通路を有する固定側型板と、該固定側型板に対向配置されており溶融樹脂の射出スペースが形成される可動側型板とからなる金型,該金型の開閉を行う型締機構,前記固定側型板の流入通路を介して、前記金型の射出スペースに溶融樹脂を射出充填する射出機構,前記可動側型板内に、型締方向に進退可能に設けられており、前記射出スペースの型締方向の厚みを調整可能であって、成形品を射出スペース外に突き出す可動プレート,該可動プレートを、前記可動側型板に対して固定する固定手段,を備えたことを特徴とする。
【0009】
主要な形態の一つは、前記可動プレートを、前記可動側型板内において型締方向に進退させる駆動機構,を備えたことを特徴とする。他の形態は、前記駆動機構が、前記固定手段を兼ねることを特徴とする。更に他の形態は、前記固定側型板と前記可動プレートのそれぞれの対向面の表面近傍に、加熱手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明の加工用素体の製造方法は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の加工用素体の製造装置を利用した加工用素体の製造方法であって、前記型締機構によって金型を型締めする工程1と、型締めされた金型の射出スペースに、前記射出機構によって溶融樹脂を射出充填して硬化させ、薄板を成形する工程2と、前記薄板の硬化後、前記型締機構によって金型を開く工程3と、前記金型を開いた状態で、前記可動プレートを前記固定側型板に対して後退させて新たな射出スペースを形成し、その状態で前記固定手段により可動プレートを可動側型板に固定する工程4と、前記型締機構によって金型を型締めし、新たに形成された射出スペースに、前記射出機構によって溶融樹脂を射出充填して硬化させ、前記薄板上に他の薄板を積層成形する工程5と、を含み、必要に応じて前記工程3〜工程5を繰り返すことで、2層以上の薄板の積層体からなる加工用素体を形成することを特徴とする。
【0011】
他の発明の加工用素体の製造方法は、金型を型締めして溶融樹脂の射出スペースを形成する工程1と、前記射出スペースに溶融樹脂を射出充填して硬化させ、薄板を成形する工程2と、前記薄板が硬化した後、前記金型を開く工程3と、前記金型を開いた状態で、新たな射出スペースを形成する工程4と、前記新たな射出スペースを形成した状態で再度金型を型締めし、前記新たな射出スペースに溶融樹脂を射出充填して硬化させ、前記薄板上に他の薄板を積層成形する工程5と、を含み、必要に応じて前記工程3〜5を繰り返すことで、2層以上の薄板の積層体からなる加工用素体を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の加工用素体は、請求項5又は6に記載の加工用素体の製造方法によって形成されたことを特徴とする。他の発明の加工用素体は、射出成形によって形成された薄板の上に、射出成形によって他の薄板を一層以上積層成形した積層体であることを特徴とする。
【0013】
本発明の試作品の製造方法は、請求項7又は8記載の加工用素体を所望形状に切削加工して、射出成形による量産品の試作品を製作することを特徴とする。
【0014】
本発明の試作品は、請求項9記載の試作品の製造方法によって製作されたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可動側型板内に進退可能に設けられた可動プレートによって、前記可動側型板と固定側型板とを型締めしたときに形成される射出スペースの容積を変更可能としたので、射出スペースへの溶融樹脂の充填及び固化と、前記可動プレートの後退による新たな射出スペースの形成を2回以上繰り返し行うことにより、射出成形による薄板が複数積層した積層体が得られる。そして、このような積層体を、射出成形による量産品の試作品を製作するための加工用素体として利用し、所望形状に切削加工して試作品を得ることとしたので、量産品に近い品質を有する試作品を形成することができる。また、可動プレートの進退量や薄板の積層回数,切削加工の変更により、多様な試作品の製作に対応可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例1による加工用素体の製造から試作品の製作及び試験までの流れを示すフローチャートである。
【図2】前記図1に対応する工程図の一部である。
【図3】前記図1に対応する工程図の一部である。
【図4】前記図1に対応する工程図の一部である。
【図5】本発明の実施例2の加工用素体の製造装置の主要部を示す図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
最初に、図1〜図4を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1は、本実施例による加工用素体の製造から試作品の製作及び試験までの流れを示すフローチャートである。図2〜図4には、前記図1に対応する工程図が、本実施例の加工用素体の製造装置の金型部分を用いて示されている。本実施例の加工用素体の製造装置は、射出成形による樹脂製品を量産する前段階において、試作品の製作に利用する加工用素体を製造するものであって、その金型10は、固定側型板12と可動側型板20に分割形成されている。また、溶融樹脂としては、量産品と同材料のプラスチックペレットを溶融したもの(例えば、PBTやPPE等)が用いられる。
【0019】
前記固定側型板12には、図示しない射出機構のノズル16から供給される溶融樹脂の流入通路であるスプル14が設けられている。図示の例では、該スプル14が直接キャビティ(後述する射出スペースS)に連結しているダイレクトゲートとなっている。一方、前記可動側型板20は、前記固定側型板12に対向配置されるとともに、図示しない型締機構に接続されており、該型締機構によって図2に矢印F1a及びF1bに示す方向に進退し、型締め・型開きが可能となっている。前記可動側型板20の内側には、中空部22が形成されており、該中空部22内には、前記矢印F1a及びF1b方向(型締め・型開き方向)に進退可能な可動プレート24が設けられている。該可動プレート24には、可動側型板20の端面を貫通するロッド26の一端が固定されている。該ロッド26の他方の端部は、例えば、後述する実施例2のように、可動プレート24を自動的に進退させるための駆動機構に接続するようにしてもよいし、手動で位置合わせをするようにしてもよい。
【0020】
前記可動プレート24を、前記固定側型板12に対して任意の距離後退させることによって、該固定側型板12と前記可動側型板20を型締めしたときに、溶融樹脂を射出充填するための射出スペース(ないしキャビティ)が形成される。なお、前記可動プレート24は、溶融樹脂の射出圧によって矢印F1b方向に後退することがないように、図示しない固定手段によって、前記可動側型板20に対して任意の位置で固定可能となっている。また、前記可動プレート24は、前記射出スペースの形成のみならず、成形後の成形品を可動側型板20から離型するための突き出し手段としても利用される。更に、前記固定側型板12と可動プレート24の対向面のそれぞれには、加熱用のヒータ18及び25が設けられている。これらヒータ18及び25は、短時間にて温度コントロールを行うことができるように、極力表面に近い部分に設けるとよい。
【0021】
次に、図1〜図4を参照しながら、本実施例の作用を説明する。まず、図2(A)に示すように、金型10を開いた状態で、所定の厚みの射出スペースS1を形成するように可動プレート24を初期位置に設定し、固定する(図1のステップS10)。このときの射出スペースS1は、例えば、図示しない射出機構のシリンダ射出容積に合わせるようにしてもよいし、成形条件(ヒケ,反り,気泡等)を考慮して、樹脂の性質に合わせて厚みを設定するようにしてよい。次に、図2(B)に示すように、図示しない型締機構により可動側型板20を矢印F1a方向に移動させて型締めをする(ステップS12)。そして、図2(C)に示すように、ノズル16からスプル14を介して前記射出スペースS1に溶融樹脂30を射出充填する(ステップS14)。このときの溶融樹脂30の原料となる樹脂ペレットは、量産予定の製品と同じ樹脂材料が用いられる。射出後、前記ヒータ18及び25によって、溶融樹脂30を加熱すると、成形品の中心部から硬化するようになるので、ヒケや真空気泡の発生を防ぐことができる。前記ヒータ18及び25による加熱は、例えば、数10秒〜数10分程度行われる。
【0022】
所定時間の加熱が終了したら、ヒータ18及び25の温度を下げ、樹脂が十分硬化したことを確認したら(ステップS16)、図2(D)に示すように型開きをする。このとき、成形された薄板32A(成形品)には、前記スプル14に相当するスプル・ランナー34が突出しているため、図2(E)に示すように、ゲートカッター36によって、前記スプル・ランナーをカットする(ステップS18)。前記ゲートカッター36としては、公知の各種のものが利用可能である。この時点では、成形された薄板は、薄板32Aの一層のみであるから(ステップS20のNo)、図3(A)に示すように前記可動プレート24を所定量後退させ、新たな射出スペースS2を形成してその位置で可動プレート24を固定し(ステップS22)、上述したステップS12に戻る。この時の後退量は、射出スペースS2とS1の容積が同じになるようにしてもよいし、異なるようにしてもよく、任意に設定可能である。
【0023】
本実施例では、前記ステップS22の後、上述したステップS12に戻る前に、図3(B)に示すように、挿入着脱タイプのヒータ40を、固定側型板12と可動側型板20の間に挿入し、1層目の薄板32Aと、以降の工程により成形される2層目の薄板との密着度を上げるために、薄板32Aの表面温度を上げることとしている。なお、このとき、ヒータ40では、薄板32Aの表面温度のみを上げることができればよく、固定側型板12及び可動側型板20の温度を上げる必要はないため、必要に応じて断熱材などを適宜箇所に使用する。
【0024】
次に、図3(C)に示すように、固定側型板12と可動側型板20を型締めし(ステップS12)、図3(D)に示すようにノズル16から溶融樹脂30を射出スペースS2に射出する(ステップS14)。このときも、前記図2(C)と同様に、ヒータ18及び25によって、1層目の薄板32Aと、2回目に射出された層の温度差がなくなるように加熱することで、成形品の中心から固まるようになり、ヒケや真空気泡の発生を防止する。なお、2回目に射出する溶融樹脂30は、本実施例では1回目の射出と同じ材料が用いられている。所定時間の加熱が終了し、ヒータ18及び25の温度を下げ、樹脂が十分硬化したことを確認したら(ステップS16)、図3(E)に示すように型開きし、引き続きゲートカットを行う(ステップS18)。この時点で可動側型板20内には、薄板32Aと32Bの積層体が形成されている。この積層体に、更に薄板を積層する必要があるときは(ステップS20のYes,ステップS24のNo)、上述したステップS22及びステップS12〜18を繰り返し、図4(A)及び(B)に示すように可動プレート24を後退させて新たな射出スペースを形成し、3層目の薄板32Cの成形を行う。
【0025】
そして、薄板32A〜32Cからなる積層体の厚みが所定の厚みに達したら(ステップS24のYes)、金型10を開いた状態で、前記ロッド26を介して可動プレート24を、矢印F4方向に突き出し、図4(C)に示すように積層体を金型10から離型する(ステップS26)。以上のようにして成形された積層体は、射出成形品による量産品の試作品を製作するための加工用素体42として利用される。具体的には、図4(D)に示すように、マシニングセンタ等の工具44により、所望の3次元形状に切削加工され(ステップS28)、図4(E)に一例を示すような試作品50が得られる。該試作品50については、例えば、強度試験等が行われる(ステップS30)。該試験は、量産予定の成形品と同材料を利用した射出成形による薄板32A〜32Cの積層体ないし厚肉素材(加工用素体42)を削り出した試作品50(生産想定モデル)について行われているため、量産時の製品に近い品質データが得られ、製品評価に用いることができる。
【0026】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)可動側型板20内に進退可能に設けられた可動プレート24によって、可動側型板20と固定側型板12とを型締めしたときに形成される射出スペースの容積を変更可能としたので、射出スペースへの溶融樹脂30の充填及び固化と、可動プレート24の後退による新たな射出スペースの形成を2回以上繰り返し行うことができるため、射出成形による薄板の積層体が得られる。そして、該積層体を、加工用素体42として切削加工して所望形状に加工することにより、射出成形による量産品の試作品50が容易に得られ、設計変更にも対応可能となる。
(2)前記試作品50について強度試験等を行うことにより、目的とする量産品に近い結果が得られるため、量産時の適性を早期に把握することができる。
(3)前記可動プレート24の進退量が調整可能なため、試作品50の形状・寸法の変化や、樹脂の性質に合わせて、積層数や厚みを任意に設定できる。
(4)固定側型板12と可動プレート24の対向面のそれぞれの表面近傍に、ヒータ18,25を設けているため、成形品の中心部から硬化させ、ヒケや真空気泡の発生を防止することができる。
(5)積層工程の前に、成形済みの薄板の表面温度をヒータ40により上げているため、その後に積層される薄板との密着性を高めることができる。
【実施例2】
【0027】
次に、図5を参照しながら本発明の実施例2を説明する。本実施例は、上述した実施例1の加工用素体の製造装置の具体的な装置例である。なお、実施例1と同一ないし対応する構成要素には、同一の符号を用いることとする。本実施例の加工用素体の製造装置100は、固定側型板12と可動側型板106からなる金型102と、前記金型102に前記ノズル16及びスプル14を介して溶融樹脂30を射出充填するための公知の射出機構104と、前記可動側型板106を固定側型板12に対して進退させて型締め及び型開きする型締機構120と、前記可動側型板106内において前記可動プレート24を型締め・型開き方向に進退させる可動プレート駆動機構130により構成されている。前記型締機構120としては、公知の各種の機構(例えば、直圧式やトグル式等)が利用可能であって、前記可動側型板106の端面106Aに接続されている。
【0028】
前記可動側型板106の中空部107は、プレート28によって、射出スペースS側と、可動プレート駆動機構130側に仕切られている。前記可動プレート24には、前記プレート28を貫通するロッド26の一端が固定され、該ロッド26の他端側には、他の可動プレート108が前記可動プレート24と略平行になるように固定されている。該可動プレート108と前記プレート28の間には、複数のスプリング110が設けられており、前記可動プレート108を、矢印F5方向,すなわち、可動プレート108を後退させる方向に付勢している。
【0029】
可動プレート駆動機構130は、前記ロッド26,プレート28,可動プレート108,スプリング110のほか、固定ユニット132,可動ユニット134,駆動ネジ136,駆動モータ138,エンコーダ140,スプリング142を含んでいる。前記固定ユニット132は、図5に示すように断面略台形状であってテーパ面132Aを有しており、該テーパ面132Aと反対側の端面が前記可動プレート108に固定されている。一方、前記可動ユニット134も断面略台形状であってテーパ面134Aを有しており、該テーパ面134Aが前記固定ユニット132のテーパ面132Aと対向し、他方の端面が前記可動側型板106の端面106Aと対向し、これらの対向面においてスライドするように、前記固定ユニット132と可動側型板の端面106Aの間に配置されている。
【0030】
該可動ユニット134は、可動側型板端面106Aの近傍に設けられたスプリング142によって、矢印F6方向に付勢されている。また、前記可動ユニット134には、駆動ネジ136が接続されており、該駆動ネジ136の端部のギヤ136Aに、駆動モータ138の出力軸の端部のギヤ138Aを噛み合せて駆動モータ138の出力を伝達することで、前記駆動ネジ136が回転する。駆動ネジ136が回転すると、該駆動ネジ136と図示しないネジ穴で螺合している可動ユニット134が、図5に矢印F7で示す方向及びその逆方向,すなわち、前記可動側型板端面106Aに対して平行にスライドする。可動ユニット134が、図5に矢印F7方向に押し込まれると、該可動ユニット134のテーパ面134Aと接触している固定ユニット132が、同図に矢印F8で示す方向に移動する。その結果、該固定ユニット132に固定された可動プレート108とロッド26を介して可動プレート24が固定側型板12側へ向けて移動する。また、駆動モータ138を逆方向に回転駆動すれば、スプリング142によって矢印F6方向に付勢されている可動ユニット134は、矢印F7の反対方向にスライドし、それに伴って、前記可動ユニット134とテーパ面132Aで接触している固定ユニット132は、前記スプリング110による矢印F5方向への付勢力によって可動プレート108とともに、矢印F5方向に後退し、その結果、可動プレート24が固定側型板12から離れるように後退する。このような可動プレート駆動機構130により、可動側型板106内において可動プレート24が型締め・型開き方向に進退し、射出スペースSの容積を変更することが可能となる。
【0031】
なお、前記可動プレート駆動機構130による可動プレート24の進退動作は、前記駆動ネジ136のギヤ136Aとエンコーダ140の回転軸のギヤ140Aを噛み合せ、該エンコーダ140でモータ136の回転速度や位置を検出することにより制御される。また、本実施例では、可動プレート24が所望の位置にあるときに、前記駆動モータ138の回転を停止させることにより、可動プレート24を可動側型板106内で固定させることができる。すなわち、可動プレート駆動機構130が、可動プレート24の固定手段も兼ねている。このように、実施例2によれば、可動プレート駆動機構130を設けることとしたので、射出スペースSの容積を変化させて積層に要する新たな射出スペースを自動的に形成することができるとともに、該可動プレート駆動機構130による可動プレート24の位置固定も可能になるという効果がある。他の作用・効果については、上述した実施例1と同様である。
【0032】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例1では、3層の薄板を積層成形することとしたが、これは一例であり、2層以上であれば、積層数は必要に応じて適宜増減してよい。また、一層当たりの厚みが各層毎に異なるようにしてもよいし、一層毎に異なる素材を使用してもよい。更に、薄板一層毎に色を変えて積層体がレインボーカラーになるようにしたり、異なる色の薄板が交互になるように成形したりしてもよい。このように、層毎に色を変えることにより、試作品50を作製したときに、どの層が製品のどの部分に該当するかを把握することができる。あるいは、樹脂の薄板の間,例えば、実施例1の薄板32Aと32Bの間に、繊維状素材等の異種素材をバインドするようにしてもよい。射出充填する樹脂としても、強度特性・導電性等を備えた機能性プラスチックを積層して加工用素体を形成してもよい。
【0033】
(2)前記実施例1では、ヒータ18及び25を、固定側型板12と可動プレート24の対向面のそれぞれの表面近傍に設けることとしたが、これも一例であり、必要に応じて設ければよい。また、前記ヒータ18及び25は、前記実施例では溶融樹脂30の射出充填時にのみ加温することとしたが、これも一例であり、必要に応じて常時加温しておくことを妨げるものではない。着脱挿入式のヒータ40についても一例であり、必要に応じて利用すればよい。
【0034】
(3)前記実施例では、可動プレート24の進退によってのみ射出スペースの容積の調整範囲が決定されることとしたが、これも一例であり、同様の効果を奏する範囲内で適宜設計変更してよい。例えば、図6(A)に示す例の可動側型板150のように、中空部152に設けた可動プレート154とベースプレート156の間に、調整用のスペーサ160A〜160Cを設け、突き出しピン158によって、前記ベースプレート156及びスペーサ160A〜160Cを介して可動プレート154を可動させてもよい。前記スペーサ160A〜160Cは、必要に応じて、前記突き出しピン158を後退させた状態で、可動側型板150に設けた開口部162から挿入・取り出しされる。これらスペーサ160A〜160Cの使用枚数により、前記中空部152の容積が可変となるため、可動プレート154の進退と合わせて射出スペースの容積の増減を調整することが可能となる。例えば、前記実施例1のステップS24において積層体の厚みが所定の厚みに達していないときに、スペーサ160A〜160Cの一つ以上を取り出して更に積層するための射出スペースを形成してもよい。図6(A)に示す例では、スペーサ160Cのみを取り出す状態が示されている。この場合、該スペーサ160Cの取り出しにより、スペーサ160Bと可動プレート154の間に隙間が生じるが、固定側型板12にプレート164を仮止めして型締めすることによって、積層体42がスペーサ160B側へずれ、積層体42と固定側型板12の間に新たな射出スペースが形成される。
【0035】
あるいは、図6(B)に示す例の可動側型板150Aの例では、前記突き出しピン158の一端は、直接可動プレート154に固定されており、他方の端部は、可動側型板150Aの後部側166に収納されるとともに、スプリング168によって矢印F6方向に付勢されている。このため、スペーサ160A〜160Cの一つ以上を引き抜くと、スプリング168の付勢力によって突き出しピン158及び可動プレート154が矢印F6方向に後退し、積層体42と固定側型板の間に新たな射出スペースが形成される。
【0036】
(4)前記実施例1では、スプル14がキャビティ部(射出スペース)に直結するダイレクトゲート構造を利用したが、これも一例であり、他の公知の各種のゲート構造を利用してもよい。
(5)固定側型板12と可動プレート24の対向面のいずれかに、一部くり抜きの形状を設けたり、密着性向上のための表面加工やパターンを設けたりしてもよい。例えば、図6(C)に示す例では、固定側型板12Aの表面に波打ちシボを形成するための表面加工部170を設けているが、同様のものを可動プレート24の表面側に設けるようにしてもよい。また、前記波打ち状の表面加工のほか、めっき,ヘアライン加工,マルチピン群,オーバーフローパターン等を加工用素体42の表面に形成するような加工部を金型に設けてもよい。
【0037】
(6)図7に示す例のように、薄板32Aの成形後に可動プレート24を後退させたときに、薄板32Aが可動プレート24に追従して後退し、確実に新たな射出スペースSを形成することができるような構成としてもよい。図7に示す加工用素体の製造装置200では、可動側型板20の中空部22に設けられる可動プレート24にはロッド26の一端が固定されており、該ロッド26はプレート20Aを貫通している。前記可動側型板20の後部側202内には、端面204側に厚み調整機構206と2枚の厚み調整プレート208A,208Bが設けられ、端面204とプレート20Aの中間部付近に、2枚のエジェクタプレート210A,210Bが設けられている。前記厚み調整機構206は、例えば、上述した実施例2の可動プレート駆動機構130,スプリング110,可動プレート108から構成されたものであってもよいし、前記図6に示すスペーサ160A〜160Cを利用した機構であってもよい。
【0038】
前記ロッド26の他端は、一方の厚み調整プレート208Bに固定されるとともに、前記エジェクタプレート210A,210Bに設けられた開口部212を貫通している。前記ロッド26の外周部には、リターンスプリング214が設けられている。前記厚み調整プレート208Bと前記厚み調整機構206の間には、他方の厚み調整プレート208Aが配置されている。また、前記厚み調整プレート208Bとエジェクタプレート210Aの間にはスペーサ216が配置されている。該スペーサ216は、厚み調整プレート208Bに固定され、エジェクタプレート210Aには固定されていないが、該スペーサ216により、厚み調整プレート208A,208Bが動くとエジェクタプレート210A,210Bが連動して動き、結果として可動プレート24とエジェクタプレート210A,210Bの関係が図7に示す状態に保たれる。
【0039】
また、前記エジェクタプレート210Bには、中空のエジェクタスリーブ220の一端が固定されており、該エジェクタスリーブ220の他端は、前記可動プレート24を貫通可能となっている。エジェクタスリーブ220の外周部にはリターンスプリング222が設けられている。更に、前記厚み調整プレート208Bには、前記エジェクタスリーブ220の中空部に挿入されるコアピン218の一端が固定されており、該コアピン218の他端は、可動プレート24に達している。このとき、エジェクタスリーブ220の先端よりもコアピン218の先端が下がるようにすることで、薄板32Aの裏面にボス部230が形成されるため、薄膜32Aは可動プレート24の後退に追従し、新たな射出スペースSが形成される。このようなエジェクタスリーブ220は、複数(例えば、4つ以上)設けられる。成形品を取り出すときは、エジェクタプレート210A,210Bを図示しない押出機構などにより押し出すことによって、エジェクタスリーブ220の先端が成形品を突き出す。成形品に形成されたボス部230は、必要に応じてカットすればよい。なお、図7に示した薄板を可動プレート24に追従させる機構や、成形品を突き出す機構は一例であり、同様の効果を奏する範囲内で適宜設計変更してよい。
【0040】
(7)前記実施例1では、可動側型板20内に形成した薄板32Aを取り出すことなく、次の薄板32Bを射出成形することとしたが、これも一例であり、成形した薄板32Aを一旦取り出してストックし、顧客の要望に応じてストック品を可動側型板20内に設置し、その上に他の薄板32Bや32Cを積層することで、所望の厚さの加工用素体42を得るようにしてもよい。
(8)本発明によって得られた試作品を、展示品等として利用してもよい。また、前記実施例では、前記試作品について強度試験を行うこととしたが、これも一例であり、他の試験データを採取するために利用することを妨げるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、可動側型板内に進退可能に設けられた可動プレートによって、前記可動側型板と固定側型板とを型締めしたときに形成される射出スペースの容積を変更可能としたので、射出スペースへの溶融樹脂の充填及び固化と、前記可動プレートの後退による新たな射出スペースの形成を2回以上繰り返し行うことにより、射出成形による薄板が複数積層した積層体が得られる。そして、このような積層体を、射出成形による量産品の試作品を製作するための加工用素体として利用し、所望形状に切削加工して試作品を得ることとしたので、量産品に近い品質を有する試作品を形成することができる。特に、量産時の適正を早期に把握したい場合の試作品として好適である。
【符号の説明】
【0042】
10:金型
12,12A:固定側型板
14:スプル
16:ノズル
18:ヒータ
20:可動側型板
20A:プレート
22:中空部
24:可動プレート
25:ヒータ
26:ロッド
28:プレート
30:溶融樹脂
32A〜32C:薄板(成形品)
34:スプル・ランナー
36:ゲートカッター
40:ヒータ
42:加工用素体(積層体)
44:工具
50:試作品
100:加工用素体の製造装置
102:金型
104:射出機構
106:可動側型板
106A:端面
107:中空部
108:可動プレート
110:スプリング
120:型締機構
130:可動プレート駆動機構
132:固定ユニット
132A,134A:テーパ面
134:可動ユニット
136:駆動ネジ
138:駆動モータ
138A,140A,142A:ギヤ
140:エンコーダ
142:スプリング
150,150A:可動側型板
152:中空部
154:可動プレート
156:ベースプレート
158:突き出しピン
160A〜160C:スペーサ
162:開口部
164:プレート
166:後部側
168:スプリング
170:表面加工部
200:加工用素体の製造装置
202:後部側
204:端面
206:厚み調整機構
208A,208B:厚み調整プレート
210A,210B:エジェクタプレート
212:開口部
214:リターンスプリング
216:スペーサ
218:コアピン
220:エジェクタスリーブ
222:リターンスプリング
230:ボス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製品の試作品を製作するための加工用素体の製造装置であって、
溶融樹脂の流入通路を有する固定側型板と、該固定側型板に対向配置されており溶融樹脂の射出スペースが形成される可動側型板とからなる金型,
該金型の開閉を行う型締機構,
前記固定側型板の流入通路を介して、前記金型の射出スペースに溶融樹脂を射出充填する射出機構,
前記可動側型板内に、型締方向に進退可能に設けられており、前記射出スペースの型締方向の厚みを調整可能であって、成形品を射出スペース外に突き出す可動プレート,
該可動プレートを、前記可動側型板に対して固定する固定手段,
を備えたことを特徴とする加工用素体の製造装置。
【請求項2】
前記可動プレートを、前記可動側型板内において型締方向に進退させる駆動機構,
を備えたことを特徴とする請求項1記載の加工用素体の製造装置。
【請求項3】
前記駆動機構が、前記固定手段を兼ねることを特徴とする請求項2記載の加工用素体の製造装置。
【請求項4】
前記固定側型板と前記可動プレートのそれぞれの対向面の表面近傍に、加熱手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工用素体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の加工用素体の製造装置を利用した加工用素体の製造方法であって、
前記型締機構によって金型を型締めする工程1と、
型締めされた金型の射出スペースに、前記射出機構によって溶融樹脂を射出充填して硬化させ、薄板を成形する工程2と、
前記薄板の硬化後、前記型締機構によって金型を開く工程3と、
前記金型を開いた状態で、前記可動プレートを前記固定側型板に対して後退させて新たな射出スペースを形成し、その状態で前記固定手段により可動プレートを可動側型板に固定する工程4と、
前記型締機構によって金型を型締めし、新たに形成された射出スペースに、前記射出機構によって溶融樹脂を射出充填して硬化させ、前記薄板上に他の薄板を積層成形する工程5と、
を含み、
必要に応じて前記工程3〜工程5を繰り返すことで、2層以上の薄板の積層体からなる加工用素体を形成することを特徴とする加工用素体の製造方法。
【請求項6】
金型を型締めして溶融樹脂の射出スペースを形成する工程1と、
前記射出スペースに溶融樹脂を射出充填して硬化させ、薄板を成形する工程2と、
前記薄板が硬化した後、前記金型を開く工程3と、
前記金型を開いた状態で、新たな射出スペースを形成する工程4と、
前記新たな射出スペースを形成した状態で再度金型を型締めし、前記新たな射出スペースに溶融樹脂を射出充填して硬化させ、前記薄板上に他の薄板を積層成形する工程5と、
を含み、
必要に応じて前記工程3〜5を繰り返すことで、2層以上の薄板の積層体からなる加工用素体を形成することを特徴とする加工用素体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の加工用素体の製造方法によって形成されたことを特徴とする加工用素体。
【請求項8】
射出成形によって形成された薄板の上に、射出成形によって他の薄板を一層以上積層成形した積層体であることを特徴とする加工用素体。
【請求項9】
請求項7又は8記載の加工用素体を所望形状に切削加工して、射出成形による量産品の試作品を製作することを特徴とする試作品の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の試作品の製造方法によって製作されたことを特徴とする試作品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−40853(P2012−40853A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186591(P2010−186591)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(510228329)株式会社TMC (1)
【Fターム(参考)】