説明

加工食品の色を安定化させる方法及び色が安定である加工食品

【課題】未成熟果実ピューレの色を安定化させる方法及び色が安定である未成熟果実ピューレを提供する。
【解決手段】シクロデキストリンを未成熟果実のピューレに添加することを特徴とする、未成熟果実の色を保持する方法、及びシクロデキストリンを配合した未成熟果実ピューレ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱、光等に対して未成熟果実ピューレの色を安定化させる方法、及び色を安定化させた未成熟果実ピューレに関する。
【背景技術】
【0002】
トマトを収穫した際に規格外になった未成熟の青トマトは大量に生じているが、そのまま食するには味が良くなく、ほとんど有効な利用法がなく大量に破棄されている。
【0003】
八代地方は、トマトの日本一の生産地(全生産額の12.7%)をしめ、選果場での規格外
トマトだけでも1%程度出ている。また形が悪いものや主収穫期を終えたものも、病虫害の被害を防ぐため早期に小さい果実が相当数なったものを処分している。
【0004】
いずれにせよ、商品化できないものは未成熟のまま青トマトとして廃棄されるが、その有効利用を考えることが重要となる。その場合,青トマトの利用法としてピューレやジャムとしての利用が考えられ、この場合「緑」の色調がその新奇さから重要な付加価値となる。
【0005】
しかし、青トマトは、ビタミン等の栄養素は熟成したトマトとほとんど同じくらい含んでおり、赤トマトに比べて単位重量当たりの栄養素はより多く、また、赤トマトに比べてグルタミン酸やGABA(γ−アミノ酪酸)が多いとの分析データも出ている。
【0006】
青トマトの有効な利用法としては、特許文献1には青トマトを漬物にすることが記載されている。
【0007】
青トマト等の未成熟の果物、野菜の有効な利用として未成熟の色を活かした食品を開発する場合に問題となるのは色の安定性である。加工食品を製造するためには、熱殺菌を行うことが多く、流通過程で光にもさらされることから、その際に色が退色しないことが重要になる。
【0008】
特許文献2にはもずくに、L-アスコルビン酸かその塩を単独か、無機のマグネシウム塩、トコフェノールを1種〜複数種併用して含有させて、もずくの緑色を保持する方法が記載されている。
【0009】
しかし、特許文献2の方法が開示しているのはもずくのみである。
【0010】
シクロデキストリン(CyD)はグルコース分子がα-1,4グルコシド結合で環状に連なった化合物であり、グルコースが6、7、8個と環状に結合したものが、それぞれα-CyD、β-CyD、γ-CyDと呼ばれている。CyDは疎水性空洞内にいろいろな分子を包み込むように取り込むが、これを包接と呼ぶ。この包接を利用して、光や熱に不安定な物質を安定化させることが可能になる(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−333596
【特許文献2】特開2003−204773
【非特許文献1】シクロデキストリン〜基礎と応用〜 戸田不二緒 監修、上野昭彦 編集、産業図書株式会社、東京(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、未成熟果実ピューレの色を安定化させる方法及び色が安定である未成熟果実ピューレを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、熱殺菌が行われ、光にさらされた場合であってもシクロデキストリンを添加することにより上記目的を達成することができるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の方法及び食品を提供するものである。
項目1.シクロデキストリンを未成熟果実のピューレに添加することを特徴とする、未成熟果実の色を保持する方法。
項目2.未成熟果実がトマト、イチゴ、桃又は梅のいずれかである項目1の方法。
項目3.さらにpH調整剤を添加する項目1又は2の方法。
項目4.pH調整剤が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、クエン酸、コハク酸、酢酸、DL-酒石酸、L-酒石酸、乳酸、氷酢酸、DL-リンゴ酸及びリン酸からなる群から選ばれる項目1〜3のいずれかに記載の方法。
項目5.シクロデキストリンを配合した未成熟果実ピューレ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、次のような優れた効果が奏される。
(ア)熱殺菌を行っても未成熟果実の退色を抑制し、その後に光にさらされても退色を抑制することができる。
(イ)未成熟のために味が良くなく食せなかった食品の味を良くすることができる。
(ウ)未成熟時に栄養素の含有量が高い果実を有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の方法又は食品につき詳述する。
【0015】
未成熟果実
本発明で未成熟果実とは緑熟期以前の果実を意味し、本発明で用いる果実は緑熟期以前の追熟で容易に着色しない果実であり、例えばトマト、イチゴ、桃、梅、マンゴー、杏、プラム、キウイ、スターフルーツなどである。
【0016】
例えば、トマト果実の緑熟期とは果頂部が白っぽくなってはいるが、着色はしていない状態のことである(VII収穫果の生理・生態、農業技術大系 野菜編2、農文協出版、1965年)。
【0017】
未成熟果実のピューレ
ピューレは通常の方法に従って調製できる。また、作成したピューレを用いて食品を作ることができ、例えばジャム、プレザーブ、フルーツソース、冷菓(アイスクリーム、シャーベット、ゼリー(ジュレ))、ソース、野菜ジュース、寒天、羊羹、餡などを作成できる。
【0018】
シクロデキストリンの添加
ピューレの製造過程でシクロデキストリンが添加される。シクロデキストリンは粉末状で添加されても、水等に溶解した状態で添加されてもよい。
【0019】
添加されるシクロデキストリンはピューレの湿重量に対して重量で、好ましくは 0.1〜50%、更に好ましくは0.5〜10%以上である。シクロデキストリンの種類は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンである。これらのシクロデキストリンの混合物を添加してもよい。
【0020】
pH調整剤の添加
ピューレの製造過程でpH調整剤が添加される。pH調整剤の添加によって果実の液性は、元のpHより高く調整される。添加はシクロデキストリンが添加される前、後、同時のいつであってもよい。また、添加は粉末状又は水等に溶解した状態で添加されてもよい。
【0021】
pH調整剤は、炭酸水素ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、クエン酸、コハク酸、酢酸、DL-酒石酸、L-酒石酸、乳酸、氷酢酸、DL-リンゴ酸及びリン酸などが挙げられる。
【0022】
pH調整剤の添加量はピューレのpHが4.0〜8.0、好ましくは5.5〜7.0になる様に味覚も考慮し適宜決定される。
【実施例】
【0023】
トマトピューレ作成方法(基本的調製条件)
トマトのヘタをとり、1〜2cm角に切り、ミキサーにより粉砕し、少量ずつ加えながら裏ごしし、均等に分ける。
【0024】
それに1%CyD、各種物質(NaHCO3等)を添加し、45℃で減圧濃縮し、約2倍に濃縮したものをピューレとして実験を行った。
【0025】
実施例1 種々の物質添加による色の変化(常温時)
ピューレに種々の物質を添加し常温で放置し、色の変化を観察した結果を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
緑の色調は「添加なし」と同様に「グルコース」,「トレハロース」,「アミロース」は退色したが「CyD添加」では変化せず元の色を保持し、その傾向はγ−CyDがやや強い傾向を示した。
【0028】
その理由として、シクロデキストリンに特有の包接の効果が考えられた。
【0029】
実施例2 加熱処理による色素の変化(CyD添加時)
実施例1からCyDを添加すると色素が安定化することが判明したので、その中でγ-CyDを選択し,低温殺菌を想定した加熱処理を行い、その際の色調の変化を検討した。実験条件は60℃,3.0時間で加熱処理した。
【0030】
【表2】

【0031】
高温になると、緑色が失われ、暗い色になりCyDの安定化効果は減弱の傾向があった。
【0032】
実施例3 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の添加による加熱処理
実施例2で加熱処理(60℃)での色素の安定化を検討するためにNaHCO3(0.5%)を添加する検討を試みることにした。加熱処理(60℃、3.0時間)による色の変化を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
NaHCO3(0.5%)添加系では色の退色を抑制することができた。
【0035】
実施例4 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の添加濃度変化による加熱処理の影響
実施例3からNaHCO3を添加することにより加熱処理により色の退色を抑制することが判明したので添加濃度を変え、100℃,10分で加熱処理し、色調の変化を観察した。
【0036】
【表4】

【0037】
NaHCO3の効果は0.4%以上が必要と思われ、0.5%以上で効果が顕著であった。
【0038】
実施例5 光照射条件下での色素の安定性
60℃でピューレに添加物を加え熱処理(10分)し,その後、サンプル瓶に入れ、人工光(3000 lux)下(温度25℃)に置き、色調の変化を調べた。
【0039】
【表5】

【0040】
CyDを添加することにより、色素の光安定性の向上が確認された。
【0041】
実施例6 大量調製
青トマト20Kgを洗浄・選別後、ヘタを取り、細かく切った。ミキサーにより粉砕してピューレ状にした。ピューレ(Brix4.5)を15Kg得た。そのピューレにγ-CyD を150g(1.0w/w%)加えて混合し、さらにNaHCO3を75g(0.5w/w%)加えて混合後、減圧釜中(50℃)で濃縮した(Brix12)。
【0042】
結果、きれいな緑色を有する濃縮したピューレの調製が可能であった。
【0043】
実施例7 クエン酸ナトリウムの添加
加熱処理(60℃)での他の添加物の有用性を検討するため、クエン酸ナトリウム(1.0%)を添加する検討を行った。加熱処理(60℃、3.0時間)による色の変化を示す。
【0044】
【表6】

【0045】
クエン酸ナトリウム(1.0%)添加系でも色の退色を抑制することができた。果実の液液性を元のpHより高くするアルカリ性の添加物に効果がある。
【0046】
なお、実施例1〜7で得られたシクロデキストリンを配合したピューレは、色調だけでなく味覚においても優れている。特にpH調整剤として、クエン酸ナトリウムなどの有機酸塩を配合した場合、優れた味覚が得られる。
【0047】
実施例8 他の未成熟果実を用いた検討(イチゴ)
未成熟のイチゴ果実でも、同様の処理を行った。ピューレの加熱処理(60℃)での色素の安定化を検討するためにNaHCO3(0.5%)を添加する検討を試みた.加熱処理(60℃、3.0時間)による色の変化を示す。
【0048】
【表7】

【0049】
イチゴの未成熟果実でも色の退色を抑制することができた。
【0050】
実施例9 他の未成熟果実を用いた検討(桃)
未成熟の桃果実でも、同様の処理を行った。ピューレの加熱処理(60℃)での色素の安定化を検討するためにNaHCO3(0.5%)を添加する検討を試みた。加熱処理(60℃、3.0時間)による色の変化を示す。
【0051】
【表8】

【0052】
桃の未成熟果実でも色の退色を抑制することができた。
【0053】
実施例10 他の未成熟果実を用いた検討(梅)
未成熟の梅果実でも、同様の処理を行った。ピューレの加熱処理(60℃)での色素の安定化を検討するためにNaHCO3(0.5%)を添加する検討を試みた。加熱処理(60℃、3.0時間)による色の変化を示す。
【0054】
【表9】

【0055】
梅の未成熟果実でも色の退色を抑制することができた。
【0056】
なお、実施例8〜10のイチゴ、桃、梅においても、シクロデキストリンを配合したピューレは、色調だけでなく味覚においても優れている。特にpH調整剤として、クエン酸ナトリウムなどの有機酸塩を配合した場合、優れた味覚が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンを未成熟果実のピューレに添加することを特徴とする、未成熟果実の色を保持する方法。
【請求項2】
未成熟果実がトマト、イチゴ、桃又は梅のいずれかである請求項1の方法。
【請求項3】
さらにpH調整剤を添加する請求項1又は2の方法。
【請求項4】
pH調整剤が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、クエン酸、コハク酸、酢酸、DL-酒石酸、L-酒石酸、乳酸、氷酢酸、DL-リンゴ酸及びリン酸からなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
シクロデキストリンを配合した未成熟果実ピューレ。

【公開番号】特開2009−60793(P2009−60793A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228679(P2007−228679)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:シクロデキストリン学会 刊行物名:第25回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集 発行年月日:頒布日 平成19年8月27日 (発行日 平成19年9月11日)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】