説明

加水分解性ポリマーFMOC−リンカー

本発明は、Fmoc(9−フルオレニル−メトキシカルボニル)をベースとしたポリマーコンジュゲートに関する。これらのコンジュゲートは、タンパク質およびペプチド薬物のインビボでの循環を延長するのに有用である。一つの実施形態において、本発明は、インビボでの循環などのインビボでの特性を改善するために、加水分解性リンカーがタンパク質またはペプチド薬物とコンジュゲートされている、少なくとも1つの半合成バイオポリマーと結合した加水分解性リンカーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年6月26日に出願された米国仮特許出願第60/937,169号、および2008年4月7日に出願された米国仮特許出願第61/123,263号への優先権の利益を主張し、これらの米国仮特許出願の双方の全体は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、少なくとも1つの半合成ポリマーと結合している加水分解性リンカーの作製に関する。これらの加水分解性リンカーは、タンパク質およびペプチド系の薬物のインビボでの循環を延長するのに有用である。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ほとんどのタンパク質またはペプチド薬物は寿命が短く、しばしば、インビボで短い循環半減期を有する。タンパク質またはペプチド薬物が経口で吸収されないことを考慮すると、循環系において治療活性のある薬物を長く保持することは、臨床的重要性の点で明らかに望ましい特徴である。
【0004】
タンパク質またはペプチド薬物の臨床的特性を改善するための好ましい方策は、その薬物を、ポリマー、例えばポリアルキレンオキシド(非特許文献1)、またはポリシアル酸(非特許文献2)、デキストランもしくはヒドロキシルアルキルスターチなどの多糖で修飾することである。(本明細書で引用したすべての文献を参照により本明細書に組み込む。)
しばらくの間、ポリ(エチレングリコール)(PEG)を用いた修飾が知られていた。しかし、PEGを用いたタンパク質の修飾はしばしば、タンパク質の活性の低下をもたらす。
【0005】
コロミン酸(CA)として知られているポリシアル酸(PSA)は、天然由来の環状多糖である。これは、α(2→8)ケトシド結合でのN−アセチルノイラミン酸のホモポリマーであり、その非還元末端に隣接ジオール基を含む。PSAは負の電荷を有しており、人体の天然成分である。これは、所定の物理的特性でバクテリアから簡単に大量生産することができる(特許文献1)。ポリシアル酸と化学的にも免疫学的にも同じなので、人体内で、バクテリアのポリシアル酸は、タンパク質と結合していても非免疫原性である。他のポリマー(例えば、PEG)とは異なり、ポリシアル酸は生分解性である。
【0006】
しかし、PSAなどの酸性単糖とコンジュゲートしたポリペプチドを含む治療用化合物はこれまで市販されていない。
【0007】
1〜4個のシアル酸単位しかもたない短いPSAポリマー鎖も合成されている(非特許文献3;非特許文献4)。
【0008】
PEG部分を含むいくつかの加水分解性または分解性リンカーが提案されている。
【0009】
特許文献2は、弱い、加水分解的に不安定な結合を有するPEGおよび関連ポリマー誘導体を記載している。
【0010】
特許文献3は、ビス−N−2−ヒドロキシエチルグリシン基(ビシン)をベースとした放出可能なPEG−リンカーを記載している。
【0011】
特許文献4および特許文献5は、加水分解性フルオレンをベースとしたPEG構造体を記載している。
【0012】
これらのリンカーをタンパク質系薬物とコンジュゲートした後は、タンパク質−ポリマー複合体をプロドラッグとみなすことができ、制御放出機序により、タンパク質の活性をコンジュゲートから放出することができる。この考え方を用いて、薬物動態特性が改善された薬物を得ることができる(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,846,951号明細書
【特許文献2】米国特許第6,515,100号明細書
【特許文献3】米国特許第7,122,189号明細書
【特許文献4】国際公開第04/089280号パンフレット
【特許文献5】国際公開第06/138572号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Robertsら、Advan Drug Rev.第54巻、459〜476頁(2002年)
【非特許文献2】Fernandesら、Biochim Biophys Acta、第1341巻、26〜34頁(1997年)
【非特許文献3】Kangら、Chem Commun.、227〜228頁(2000年)
【非特許文献4】Ressら、Current Organic Synthesis、第1巻、31〜46頁(2004年)
【非特許文献5】Zhaoら、Bioconjugate Chem.第17巻、341〜351頁(2006年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、インビボでの循環などのインビボでの特性を改善するために、加水分解性リンカーがタンパク質またはペプチド薬物とコンジュゲートされている、少なくとも1つの半合成バイオポリマーと結合した加水分解性リンカーを提供する。
【0016】
本発明は、一般式1の化合物を提供する。
【0017】
【化1】

ただし、
Zは脱離基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合している。
【0018】
Yは、N−スクシンイミジル部分と結合した半合成バイオポリマーを含む基である。
【0019】
Y基と結合していることに加えて、式Iの化合物は任意選択で、利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基と結合していてもよい。
【0020】
Xは−SO−Rである。
【0021】
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から選択される。
【0022】
はポリマーである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】pH8.3におけるインビトロでのFVIIa−PSAコンジュゲートの加水分解を示す図である。FVIIa活性の放出はStaclotアッセイ(Diagnostica Stago、Asnieres、France)により測定した。
【図2】pH8.3におけるインビトロでのFVIIa−トリマーPSAコンジュゲートの加水分解を示す図である。FVIIa活性の放出はStaclotアッセイ(Diagnostica Stago、Asnieres、France)により測定した。
【図3】凝固アッセイ(Staclot、Diagnostica Stago、Asnieres、France)で測定した血漿中でのFV11a活性を示す図である。FVIIa凝固活性について、用量調節した曲線下面積(AUC)は、非修飾rFVilaでは0.014であり、rFVIIa−コンジュゲート(0〜無限大)では0.015に増大した。終末相半減期は2.3時間から4.4時間へ延長され、平均滞留時間(MRT)は1.4時間から2.4時間へ延長された。
【図4】ポリクローナル抗ヒトFVII抗体を用いたELISAによるFVIIa抗原の測定結果を示す図である。抗原について、用量調節したAUC(0〜無限大)は0.010(非修飾rFVIIa)から0.014(rFVIIa−コンジュゲート)へ増大し、終末相半減期は1.4時間から2.3時間へ延長され、MRT1.5時間から2.2時間へ延長された。
【図5】凝固アッセイ(Staclot、Diagnostica Stago、Asnieres、France)で測定した血漿中でのFVIIa活性を示す図である。rFVIIa−トリマー−PSAコンジュゲートの薬物動態は、未変性(native)rFVIIa(−△−)と比較して改善されている(−○−)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、少なくとも1つの半合成バイオポリマーと結合した加水分解性リンカーであって、インビボでの循環などのインビボでの特性を改善するために、タンパク質またはペプチド薬物とさらにコンジュゲートさせることができる加水分解性リンカーを提供する。タンパク質またはペプチド薬物の活性を、制御放出機序により、コンジュゲートから放出することができる。
【0025】
以下の段落は、一般的定義、および本発明による化合物を作り上げる様々な化学的部分の定義を提供するものであり、別に明確に示された定義により、より広い定義が提供されていない限り、本明細書および特許請求の範囲を通して一様に当てはまるものとする。
【0026】
「C〜C−アルキル」は、1〜8個の炭素原子を有する一価アルキル基を指す。この用語の例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルなどの基である。直鎖状および分岐状アルキルが含まれる。
【0027】
「脱離基」は、コンジュゲートを形成するタンパク質またはペプチド薬物上の求核部(nucleophile)と反応することができる基を指す。この用語の例には、N−ヒドロキシスクシンイミジル、N−ヒドロキシベンゾトリアゾリル、ハロゲン、N−ヒドロキシフタリミジル、p−ニトロフェノキシ、イミダゾリル、チアゾリジニルチオン、O−アシル尿素などの基であり、また当業者には他の適切な脱離基も明らかであろう。したがって、本発明のためには、タンパク質またはペプチド薬物は、アミンなどの置換のための1つまたは複数の基を含む。タンパク質またはペプチド薬物は、血漿タンパク質、すなわちFVIII、VWF、FVIIaおよびFIXなどの血液凝固因子である。
【0028】
「半合成バイオポリマー」は、天然由来のポリマーをベースとした人造有機ポリマーを指す。半合成バイオポリマーを反応基で官能化して、これらの官能化された半合成バイオポリマーを他の化合物にコンジュゲートさせることもできる。この「半合成バイオポリマー」という用語の例は、炭水化物などの直鎖状または分岐状ポリマー、具体的には例えば多糖類である。多糖類の例は、PSA(ポリシアル酸)およびHAS(ヒドロキシアルキルスターチ)である。
【0029】
「加水分解性」リンカーは、その中でタンパク質が、未変性の形態で放出されるリンカー系を指す。タンパク質は放出され、リンカーは完全に切断される。加水分解性のリンカーの同義語は「分解性」または「放出性」のリンカーである。
【0030】
本発明は、一般式1の化合物を提供する。
【0031】
【化2】

ただし、Zは脱離基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合している。
【0032】
Yは、N−スクシンイミジル部分と結合した半合成バイオポリマーを含む基である。
【0033】
Y基と結合していることに加えて、式Iの化合物は、利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基と任意選択で結合することができる。
【0034】
Xは−SO−Rである。
【0035】
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から選択される。
【0036】
はポリマーである。その例は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)などの親水性ポリマーである。
【0037】
一実施形態では、ZがN−スクシンイミジルエステルであり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つがY基と結合しており、Yが、
【0038】
【化3】

(式中、POLYMERは、好ましくは1,000Da〜300,000Daの分子量を有する半合成バイオポリマーである)
である式1の化合物に関する。
【0039】
一実施形態では、分子量は5,000〜25,000、好ましくは5,000〜10,000である。
【0040】
他の実施形態では、前記半合成バイオポリマーは炭水化物である。好ましくは少なくとも3単位の単糖を含む多糖が好ましい。
【0041】
一実施形態では、前記多糖は2〜200単位、好ましくは10〜100単位の単糖を含む。
【0042】
一実施形態では、半合成バイオポリマーはPSA誘導体である。
【0043】
他の実施形態では、半合成バイオポリマーは、チオエーテル結合を介してスクシンイミジル部分と結合している。
【0044】
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルである。
【0045】
一実施形態では、Rはその出現ごとに独立に、メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびヘキシルからなる群から選択される。
【0046】
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NRからなる群から独立に選択され、ただし、Rは水素または(C〜C)−アルキルである。
【0047】
一実施形態では、Rは−C(O)NH−である。
【0048】
他の実施形態では、Rは−NHC(O)−である。
【0049】
一実施形態では、式1の化合物は、1、2、3または4の位置の少なくとも1つでY基と結合している。
【0050】
他の実施形態では、式1の化合物は、1、2、3または4の位置の少なくとも1つでY基と結合しており、5、6、7または8の位置の少なくとも1つでX基とさらに結合している。
【0051】
他の実施形態では、式1の化合物は、2または3の位置の少なくとも1つで少なくとも1つのY基と結合しており、7または8の位置の少なくとも1つでX基とさらに結合している。
【0052】
他の実施形態では、式1の化合物は、2および7の位置でY基と結合している。
【0053】
他の実施形態では、式Iの化合物は、2および7の位置でY基およびX基とそれぞれ結合している。
【0054】
他の実施形態では、式1の化合物は、
【0055】
【化4】

【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

である。
【0059】
他の実施形態では、本発明は式1の化合物の調製に関する。
【0060】
Tsuberyら、J Biol Chem.第279巻、38118〜38124頁(2004年)は、Fmoc(9−フルオレニル−メトキシカルボニル)部分をベースとしたタンパク質の誘導体化のための加水分解性PEG−リンカーの合成を記載している。MAL−FMS−OSU(9−ヒドロキシメチル−2−(アミノ−3−マレイミド−プロピオネート)−7−スルホフルオレンN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネート)の合成が記載されている。以下の合成スキームは、MAL−FMS−OSU誘導体から出発した、式1の化合物を調製するための例としての合成ステップを示す。
【0061】
【化8】

ただし、
POLYMERは半合成バイオポリマーであり、
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルであり、
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NRからなる群から独立に選択され、ただし、Rは、独立に、水素またはC〜C−アルキルである。
【0062】
Rは、独立に、水素または(C〜C)−アルキルであり、
Xは−SO−Rであり、
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から独立に選択され、
はポリマーであり、
nは0、1、2、3または4から選択される整数であり、
mは、1、2、3または4から選択される整数である。
【0063】
HS−POLYMERは、
【0064】
【化9】

などのチオール誘導体化された半合成バイオポリマーである。
【0065】
式2の化合物は、アミンなどの置換のための1つまたは複数の基を含むタンパク質またはペプチド薬物と容易に反応させることができる。好ましいタンパク質またはペプチド薬物は、FVIII、VWF、FVIIa、FIXなどの血液凝固因子である。
【0066】
上記手順によって修飾されたタンパク質およびペプチド薬物は、著しく高いインビボでの循環性を有する。リンカーの加水分解性は、その未変性の形態でのタンパク質の放出によって、加水分解後に活性を再度得ることができるようにする。図1および図2に例を示す。タンパク質コンジュゲートの生物活性の回復を図3および図4に示す。
【0067】
本発明を、以下の実施例によって説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
末端SH基を含むPSAの調製
ポリシアル酸(Sigma)をNaIOで酸化し(Fernandesら、Biochim Biophys Acta、第1341巻、26〜34頁(1997年))、末端アルデヒド基を生成させた。次いで、WO05/016973に記載されているようにして、NHClで還元的アミノ化ステップを実施し、シッフ塩基をNaCNBHで還元して末端アミノ基を含むPSA−NHを得た。続いて、メーカーの使用説明書に従って、2−イミノチオラン(Pierce 26101)と反応させて、末端SH基を含む改変されたPSAを調製した。生成したSH基のモル濃度はEllmans試薬を用いて判定した。さらに、同じ手順を、TimTec、LLC、Newark、USAから得たN−アセチルノイラミン酸トリマーにSH基を導入するために用いた。
【0069】
(実施例2)
MAL−FMS−OSUリンカーを用いたrFVIIaのPSAとのコンジュゲート
50mMリン酸緩衝液(pH7.2)中のrFVIIa(0.7mg/ml)の15ml溶液に、二官能性リンカーMAL−FMS−OSU(Tsuberyら、J Biol Chem.、第279巻、38118〜38124頁(2004年)によって概要が示されているようにして調製した)を加え(濃度:0.5mg/mgタンパク質)、室温で30分間インキュベートした。次いで、実施例1に従って末端SH基を含む誘導体化PSAを調製した。PSA誘導体をその混合物(濃度:10mg PSA−SH/mgタンパク質)に加え、さらに2時間インキュベートした。次いで、0.1Mグリシン(最終濃度10mM)および5mMシステイン(終末濃度0.5mM)の水溶液を加えて反応を停止させた。QHyperD F 50μm樹脂(BioSepra)およびPharmacia XK−10カラム(Pharmacia XK10;h=10cm)を用いてイオン交換クロマトグラフィーにより、遊離試薬を、rFVIIa−PSAコンジュゲートから分離した。PSA−rFVIIaを含む溶液をそのカラムにかけ、続いてこれを10CV平衡緩衝液(20mMクエン酸ナトリウム、20mM NaCl、pH6.5)で洗浄した。次いでポリシアル化されたrFVIIaを、溶出緩衝液(20mMクエン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH6.1)で溶出させた。溶出液は0.06mg/mlのタンパク質を含んでおり、レゾルシノールアッセイ(Svennerholm;Biochim Biophys Acta、第24巻:604〜11頁(1957年))によって、コンジュゲートと結合したPSAの証拠が示された。コンジュゲート中のrFVIIaの活性を放出させるために、450μlの溶出液を50μlの1M TRIS緩衝液(pH8.3)に加え、FVIIa活性の放出を測定した(Staclot、Diagnostica Stago、Asnieres、France)。結果を図2に示す。
【0070】
(実施例3)
MAL−FMS−OSUリンカーを用いたトリマーPSAのrFVIIaとのコンジュゲート
50mMリン酸緩衝液(pH7.2)中のrFVIIa(0.7mg/ml)の15ml溶液に、二官能性リンカーMAL−FMS−OSU(Tsuberyら、J Biol Chem.、第279巻、38118〜38124頁(2004年)によって概要が示されているようにして調製した)を加え(濃度:0.07mg/mgタンパク質)、室温で30分間インキュベートした。次いで、実施例1に記載のようにしてトリマーPSA(TimTec、LLC、Newark、USA)を誘導体化して遊離SH基を導入した。トリマーPSA−SH誘導体を混合物(濃度:0.43mgトリマーPSA−SH/mgタンパク質)に加え、さらに2時間インキュベートした。次いで、0.1Mグリシン(最終濃度10mM)および5mMシステイン(終末濃度0.5mM)の水溶液を加えて反応を停止させた。QHyperD F 50μm樹脂(BioSepra)およびPharmacia XK−10カラム(Pharmacia XK10;h=10cm)を用いてイオン交換クロマトグラフィーにより、遊離試薬をrFVIIa−PSAコンジュゲートから分離した。PSA−rFVIIaを含む溶液をそのカラムにかけ、続いてこれを10CV平衡緩衝液(20mMクエン酸ナトリウム、20mM NaCl、pH6.5)で洗浄した。次いでポリシアル化されたrFVIIaを溶出緩衝液(20mMクエン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH6.1)で溶出させた。溶出液は0.06mg/mlのタンパク質を含んでおり、レゾルシノールアッセイ(Svennerholmら、Biochim Biophys Acta、第24巻、604〜11頁(1957年))によって、コンジュゲート中での結合したPSAの証拠が示された。コンジュゲート中のrFVIIaの活性を放出させるために、450μlの溶出液を50μlの1M TRIS緩衝液(pH8.3)に加え、FVIIa活性の放出を測定した(Staclot、Diagnostica Stago、Asnieres、France)。結果を図1に示す。
【0071】
(実施例4)
MAL−FMS−OSUリンカーを用いたヒト血清アルブミンのPSAとのコンジュゲート
ヒト血清アルブミン(HSA)を、25mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)中で二官能性リンカーMal−FMSOSUリンカー(Tsuberyら、J Biol Chem.、第279巻、38118〜38124頁(2004年)によって概要が示されているようにして調製した)で1時間インキュベートする。次いで、過剰のリンカーを、同じ緩衝剤系を用いてSephadex G−25(GE−Healthcare)によるゲルろ過によって分離する。タンパク質を含む画分を収集し、PSA−SH(実施例1に従って調製)を加える。混合物を室温で2時間インキュベートする。次いでコンジュゲートを、DEAE−Sepharose FF(GE Healthcare)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによって精製する。タンパク質−PSAコンジュゲートを、25mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5で溶出させる。コンジュゲートを含む画分を集め、10K膜を用いた限外ろ過により濃縮する。次いでその溶液を、25mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)に対してダイアフィルトレーションにかける(diafiltrated)。
【0072】
(実施例5)
正常ラットにおけるrFVIIa−PSA−コンジュゲートの薬物動態
rFVIIa−PSAコンジュゲートを、0.05mg/mgの濃度のタンパク質のMAL−FMS−OSUを用いて、実施例2に従って調製した。8匹の正常ラット(4匹のオス、4匹のメス)に麻酔をかけ、緩衝液(1.3g/Lグリシルグリシン、3g/L塩化ナトリウム、30g/Lマンニトール、1.5g/L CaCl×2HO、0.1g/L Tween80、pH5.5)中のrFVIIa−PSA−コンジュゲートを、10ml/kg(1200μgタンパク質/kg)の体積用量で尾静脈に静脈注射を施した。1200μgタンパク質/kgの用量の非修飾rFVIIaを、8匹の正常ラット(4匹のオス、4匹のメス)での対照として用いた。上記コンジュゲート(substance)を注射した後、5分、1時間、2時間、4時間、7時間、10時間および24時間後に、尾動脈から血液試料を採取し、クエン酸血漿を調製し、さらなる分析用に冷凍した。
【0073】
血漿でのFVIIa活性を凝固アッセイ(Staclot、Diagnostica Stago、Asnieres、France)により測定し、FVII抗原をELISA(ポリクローナル抗ヒトFVII抗体)で判定した。結果を統計的に評価した。FVIIa凝固活性について、用量調節した曲線下面積(AUC)は、非修飾rFVIIaでは0.014であり、rFVIIa−コンジュゲート(0〜無限大)では0.015に増大した。終末相半減期は2.3時間から4.4時間へ延長され、平均滞留時間(MRT)は1.4時間から2.4時間へ延長された。抗原について、用量調節したAUC(0〜無限大)は0.010(非修飾rFVIIa)から0.014(rFVIIa−コンジュゲート)へ増大し、終末相半減期は1.4時間から2.3時間へ延長され、MRTは1.5時間から2.2時間へ延長された。すべての計算を、統計プログラムを用いて実施した(プログラムR:A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing、Vienna、Austria、ISBN 3−900051−07−0、URL http://www.R−project.org)。薬物動態を図3および図4に示す。
【0074】
(実施例6)
正常ラットにおけるrFVIIa−トリマー−PSA−コンジュゲートの薬物動態
rFVIIa−トリマー−PSAコンジュゲートを、0.05mg/mgの濃度のタンパク質のMALFMS−OSUを用いて、実施例3に従って調製した。6匹の正常ラット(3匹のオス、3匹のメス)に麻酔をかけ、緩衝液(1.3g/Lグリシルグリシン、3g/L塩化ナトリウム、30g/Lマンニトール、1.5g/L CaCl×2HO、0.1g/L Tween80、pH5.5)中のrFVIIa−トリマー−PSA−コンジュゲートを、10ml/kg(1200μgタンパク質/kg)の体積用量で尾静脈に静脈注射を施した。1200μgタンパク質/kgの用量の非修飾rFVIIaを、6匹の正常ラット(3匹のオス、3匹のメス)での対照として用いた。上記コンジュゲートを注射した後、5分、1時間、2時間、4時間、7時間、10時間および24時間後に、尾動脈から血液試料を採取し、クエン酸血漿を調製し、さらなる分析用に冷凍した。
【0075】
血漿でのFVIIa活性を凝固アッセイ(Staclot、Diagnostica Stago、Asnieres、France)により測定し、排出曲線を作成した。rFVIIa−トリマー−PSAコンジュゲートの改善された薬物動態を図5に示す。
【0076】
(実施例7)
MAL−FMS−OSUリンカーを用いたrFIXのPSAとのコンジュゲート
20mM Hepes緩衝液(pH7.4)中の組換えFIX(8mg/ml)の0.6ml溶液に、二官能性リンカーMAL−FMS−OSU(Tsuberyら、J Biol Chem.、第279巻、38118〜38124頁(2004年)によって概要が示されているようにして調製した)を加え(濃度:0.07mg/mgタンパク質)、室温で30分間インキュベートした。末端SH基を含む誘導体化PSAを実施例1に従って調製した。PSA誘導体を混合物(濃度:32mgPSA−SH/mgタンパク質−100倍モル過剰)に加え、さらに室温で2時間インキュベートした。次いで、0.1Mグリシン(最終濃度10mM)および5mMシステイン(終末濃度0.5mM)の水溶液を加えて反応を停止させた。事前充填型ブチルセファロースカラム(HiTrapブチルFF 5ml、GE Healthcare)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィーにより遊離試薬をrFIX−PSAコンジュゲートから分離した。5M NaCl(50mM Hepes緩衝液、5M NaCl、0.01%Tween80、6.7mM CaCl、pH6.9)を含む緩衝液を、PSA−rFIXを含む溶液に加えて3M NaClの最終濃度を得た。この混合物をそのカラムにかけ、続いてこれを10CV平衡緩衝液(50mM Hepes緩衝液、3M NaCl、0.01%Tween80、6.7mM CaCl、pH6.9)で洗浄し、6.7mM CaClを含む50mM Hepes緩衝液(pH7.4)でrFIX−PSAコンジュゲートを溶出させた。コンジュゲートを溶出させた後、pHをpH6.9に調節した。BCAアッセイで測定すると、溶出液は0.24mg/mlのタンパク質を含んでおり、レゾルシノールアッセイ(Svennerholm、Biochim Biophys Acta、第24巻、604〜611頁(1957年))によって、コンジュゲート中での結合したPSAの証拠が示された。最終ステップにおいて、溶出液を、30kD膜(再生セルロース/Millipore)を用いた限外ろ過/膜分離法(UF/DF)により、20mM Hepes、50mM NaCl、1mM CaCl、pH7.4に対して10倍に濃縮した。
【0077】
(実施例8)
MAL−FMS−OSUリンカーを用いたrFVIIIのPSAとのコンジュゲート
rFVIII−PSAコンジュゲートを調製するために、20mM Hepes緩衝液(pH7.4)中のAdvateの製造プロセスにより得られた組換えFVIII(4.5mg/ml)の6mlの溶液に、二官能性リンカーMAL−FMS−OSU(Tsuberyら、J Biol Chem.、第279巻、38118〜38124頁(2004年)によって概要が示されているようにして調製した)を加え(濃度:0.315mg/mgタンパク質)、室温で30分間インキュベートした。末端SH基を含む誘導体化PSAを実施例1に従って調製した。PSA誘導体を混合物(濃度:27.8mgPSA−SH/mgタンパク質−450倍モル過剰)に加え、さらに室温で2時間インキュベートした。0.1Mグリシン(最終濃度10mM)および5mMシステイン(終末濃度0.5mM)の水溶液を加えて反応を停止させた。事前充填型ブチルセファロースカラム(HiTrapブチルFF 5ml、GE Healthcare)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィーにより遊離試薬をrFVIII−PSAコンジュゲートから分離した。5M NaCl(50mM Hepes緩衝液、5M NaCl、0.01%Tween80、6.7mM CaCl、pH6.9)を含む緩衝液を、PSA−rFVIIIを含む溶液に加えて3M NaClの最終濃度を得た。この混合物をそのカラムにかけ、続いてこれを10CV平衡緩衝液(50mM Hepes緩衝液、3M NaCl、0.1%Tween80、5mM CaCl、pH6.9)で洗浄し、rFVIII−PSAコンジュゲートを、クエン酸緩衝液(pH7.4)(13.6mM Naクエン酸、20mM CaCl、20mMヒスチジン、0.01%Tween80)で溶出させた。コンジュゲートを溶出させた後、pHをpH6.9に調節した。溶出液は2.5mg/mlのタンパク質を含んでいた(BCAアッセイ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物
【化10】

(式中、
Zは脱離基であり、1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つはY基と結合しており、
Yは、N−スクシンイミジル部分と結合した半合成バイオポリマーを含む基であり、
利用可能な1、2、3、4、5、6、7または8の位置の少なくとも1つは任意選択でX基と結合しており、
Xは−SO−Rであり、
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から独立に選択され、
はポリマーである)。
【請求項2】
ZがN−スクシンイミジルエステルであり、
Yが、
【化11】

であり、
POLYMERは半合成バイオポリマーであり、
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルであり、
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NRからなる群から独立に選択され、
Rは、独立に、水素または(C〜C)−アルキルである、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が−C(O)NR−またはNRC(O)−であり、ここで、Rは、独立に、水素または(C〜C)−アルキルである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記POLYMERがチオエーテル結合を介して結合している、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記半合成バイオポリマーが炭水化物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記半合成バイオポリマーが多糖である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記多糖がポリシアル酸(PSA)である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記多糖が少なくとも3単位の単糖を含む、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
以下のI、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、XおよびXI
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1に記載の化合物の調製方法であって、中間化合物をカップリング反応にかけるステップを含み、ここで
POLYMERは半合成バイオポリマーであり、
はその出現ごとに独立に(C〜C)−アルキルであり、
は、−C(O)NR−、−C(O)NR−(C〜C)−アルキル−NR−、−NRC(O)−および−NRC(O)−(C〜C)−アルキル−NRからなる群から独立に選択され、
Rは、独立に、水素または(C〜C)−アルキルであり、
Xは−SO−Rであり、
は、水素、(C〜C)−アルキルおよび(C〜C)−アルキル−Rからなる群から独立に選択され、
はポリマーであり、
nは、0、1、2、3または4から選択される整数であり、
mは、1、2、3または4から選択される整数である、
方法。
【請求項11】
HS−POLYMERが
【化16】

である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
が、−C(O)NR−または−NRC(O)−のいずれかであり、ここで、Rは、独立に、水素またはC〜C−アルキルである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が、置換のための1つまたは複数の基を含むタンパク質またはペプチド薬物とコンジュゲートしている、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物およびタンパク質またはペプチド薬物を含むコンジュゲート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−531371(P2010−531371A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513749(P2010−513749)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005155
【国際公開番号】WO2009/000522
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】