説明

加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法及び加水分解性金属化合物の硬化物

【課題】 金属アルコキシドのような加水分解性金属化合物の硬化物を得る方法であって、高価な装置を必要とせず、紫外線や電子線などを長時間に渡って照射する必要がなく、さらに速やかに硬化物を得ることを可能とする加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法、並びに該製造方法により得られた加水分解性金属化合物の硬化物を提供する。
【解決手段】 金属原子に加水分解性の官能基が結合されている加水分解性金属化合物(A)を、活性酸素を発生させる物質(B)の存在下で硬化させることを特徴とする、加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属アルコキシドのような加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属酸化物薄膜の作製方法として、スパッタリングや真空蒸着などの物理的薄膜形成方法、CVDなどの化学的方法が用いられていた。しかしながら、これらの方法では真空装置などの高価な装置が必要であった。
【0003】
これに対して、金属アルコキシドを原料とし、該金属アルコキシドの加水分解・縮合反応により金属アルコキシドの硬化物を得る、いわゆるゾル−ゲル法が提案されている。ゾル−ゲル法によれば、比較的安価な装置で、金属酸化物薄膜を作製することができる。しかしながら、ゾル−ゲル法では、ゾルの焼成に高温が必要であるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、光反応を利用して金属酸化物薄膜を作製する方法が提案されている。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、金属アルコキシドに、光照射によって水または酸を発生する物質を加えてなる組成物に光を照射させることにより、硬化させる方法が開示されている。しかしながら、この方法では、水や酸を利用して加水分解が行われるため、各成分の溶解度を考慮しなければならなかった。また、水や酸を発生する物質を分解するために、低圧水銀ランプやエキシマレーザーなどの高エネルギー線源を用いなければならなかった。
【0006】
他方、下記の特許文献2には、金属アルコキシドに、アセチルアセトンやベンゾイルアセトンなどのβジケトン化合物を添加剤として添加し、光反応性を付与する方法が開示されている。この方法では、金属化合物特有の共役電子系が、紫外線によりπ−π*遷移を
起こすことにより硬化反応が起こると考えられている。しかしながら、このような共役系を有しない金属化合物については、紫外線に対する充分な反応性を期待することはできない。例えば、導電膜やバリスタなどの素材として有用な亜鉛化合物や、層間絶縁膜として有用であるケイ素化合物を硬化させることはできなかった。
【0007】
また、中でも、金属元素がSiであるSi酸化物の硬化物を得る方法として、アルコキシシリル基のような加水分解性シリル基を有する化合物を硬化させる方法では、非常に硬くて脆い硬化物から柔軟性や弾力性に富んだ硬化物に至る、非常に幅広い物性の硬化物を得ることができる。しかも、グリースのような非常に粘調な物質や、粘着性物質として用い得る硬化物を得ることも可能である。そのため、加水分解性シリル基含有化合物は、コーティング材、グリース、粘着剤、接着剤、シーリング材、エラストマーまたは離型剤などの様々な工業的用途に広く用いることができる。
【0008】
しかしながら、従来より知られている加水分解性シリル基含有化合物を含む組成物を、特に利便性に優れた一液型の接着剤や一液型シーリング材として用いる場合、空気中の湿気により重合または架橋するため、貯蔵時に湿気を遮断する必要があった。そのため、貯蔵時に、空気中の湿度を低く保ったり、あるいは気密性容器を用いて保管する必要があった。
【0009】
従って、上記加水分解性シリル基含有化合物を含む組成物を用いた接着剤等は、通常、気密性容器に封入され、開封後には短時間で使用しなければならなかった。そのため、長時間解放系で上記接着剤などを用いることができず、例えば生産ラインなどで用いられている一般的な塗布装置で安定に使用することは困難であった。すなわち、一般的な塗布装置では、接着剤の貯蔵や供給時に湿気を遮断するような工夫が施されていないのが普通である。また、一部の塗布装置では、構造上、湿気を遮断する構造を追加することができないものもある。
【0010】
他方、生産ラインなどに用いられるには、生産性を考慮して、混合が不要であり、速やかに接着力を発現する接着剤が求められる。従って、加水分解性シリル基含有化合物を用いた接着剤では、加水分解性シリル基含有化合物と、該化合物の加水分解・縮合反応を促進する化合物とを共存させた一液型接着剤が好ましい。しかしながら、このような一液型の接着剤は、貯蔵安定性が不十分であるという問題があった。
【0011】
他方、貯蔵安定性に優れた接着剤を構成するように、上記加水分解・縮合反応を促進するための化合物を選択した場合には、速やかな重合または架橋反応が起こり難いという問題があった。
【0012】
すなわち、加水分解性シリル基含有化合物と、加水分解・縮合反応を促進する化合物とを共存させた一液型の接着剤として、貯蔵安定性に優れ、かつ速やかに重合または架橋反応が進行する組成物を得ることは困難であった。
【0013】
上記課題を解決する方法として、アルコキシシリル基またはアルキルアルコキシシリル基を有するシラン化合物と、芳香族オニウム塩触媒とからなり、貯蔵安定性に優れかつ速やかに重合または架橋反応が進行する組成物が下記の特許文献3に開示されている。特許文献3に記載の方法では、下記の非特許文献1に記載されているように、芳香族オニウム塩触媒に輻射線が照射され、芳香族オニウム塩触媒が活性化され、プロトン酸が発生し、発生したプロトン酸がアルコキシシリル基またはアルキルアルコキシシリル基の加水分解・縮合反応を促進する。
【0014】
また下記の特許文献4にも、酸生成物質としてのオニウム塩を含み、アルコキシシリル基を有するポリマーの湿気硬化を促進させ得る湿気硬化型組成物が開示さている。ここでは、オニウム塩が、感光性を示し、光を照射すると、直ちに酸を遊離する旨が示されている。
【0015】
しかしながら、芳香族オニウム塩触媒は、アルコキシシリル基またはアルキルアルコキシシリル基を有するシラン化合物に対する溶解性が乏しい。シラン化合物が重合体である場合には、特に上記触媒の溶解性は低く、組成物が不透明となる。従って、組成物に輻射線が透過し難くなり、輻射線が照射された表面部分のみが架橋または硬化し、内部まで十分に硬化を進行させることが困難であった。そのため、加水分解可能の上記シランと、芳香族オニウム塩触媒との組み合わせに制限があった。
【0016】
また、下記の非特許文献2には、光により活性化されるベンゾインスルフォネートとアクリロイル基を含有する加水分解可能なシランとを組み合わせ、光架橋させる方法が開示されている。
【0017】
ベンゾインスルフォネートは、アクリロイル基を光重合させる増感剤であると共に、加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応を光開始させることが知られている。しかしながら、アクリロイル基の光重合または加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応を完了するには、長時間に渡り紫外線を照射し、かつ大きな照射エネルギーが必要であった。
【0018】
下記の特許文献5には、加水分解性基を有するシラン化合物を、加水分解・部分縮合させてなるポリシロキサンポリマーと、活性化学線により塩基を発生する塩基発生剤とからなる感光性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、紫外線照射後に、通常50〜150℃の温度に加熱しなければならず、室温で速やかに高分子量化させることはできなかった。
【特許文献1】特開平7−187669号公報
【特許文献2】特開平6−166501号公報
【特許文献3】特開昭53−97098号公報
【特許文献4】特表平2001−515533号公報
【特許文献5】特開平6−273936号公報
【非特許文献1】Radiation Curing in Polymer Science and Technology,vol2,Elsevier Applied Science,London,1993
【非特許文献2】H.Inoueら,J.Photopolym.Sci.,12巻,129−132頁,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述した従来技術の現状に鑑み、金属アルコキシドのような加水分解性金属化合物の硬化物を得る方法であって、高価な装置を必要とせず、紫外線や電子線などを長時間に渡って照射する必要がなく、さらに速やかに硬化物を得ることを可能とする加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法、並びに該製造方法により得られた加水分解性金属化合物の硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願の第1の発明は、金属原子に加水分解性の官能基が結合されている加水分解性金属化合物(A)を、活性酸素を発生させる物質(B)の存在下で硬化させることを特徴とする。
【0021】
なお、本明細書において、「活性酸素」とは、Ptをも溶解する活性度の高い酸素を意味し、このような活性酸素とは、原子状酸素、すなわち裸の酸素をいうものとする。
【0022】
本願の第2の発明は、金属原子に加水分解性の官能基が結合されている加水分解性金属化合物(A)を活性酸素の存在下で硬化させることを特徴とする。
【0023】
第2の発明のある特定の局面では、硬化に際し、オゾンまたは酸素にエネルギー線が照射され、それによってオゾンまたは酸素の分解によって発生する活性酸素が用いられる。
【0024】
本発明のさらに他の特定の局面では、上記加水分解性金属化合物(A)として、金属アルコキシドが用いられ、さらに限定的な局面では、アルコキシシランが用いられる。
【0025】
本発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法の他の特定の局面では、前記加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、前記活性酸素を発生させる物質(B)が前記加水分解性金属化合物(A)の1/10モル以下の割合で用いられる。
【0026】
また、本発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法のさらに別の特の局面では、前記加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、1/10モル以下の水を加えた状態で前記加水分解性金属化合物を硬化させる。
【0027】
本発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記加水分解性金属化合物(A)が、ケイ素のアルコキシドであり、硬化に際してβ−ジケトンが添加される。
【0028】
本発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物は、本発明の製造方法に従って得られたものである。
【0029】
以下本発明の詳細を説明する。
【0030】
本発明において用いられる上記加水分解性金属化合物(A)とは、金属原子に加水分解性の官能基が結合した構造を有する化合物である。加水分解性金属化合物(A)は、1種類のみが用いられてもよく、複数種類が併用されてもよい。
【0031】
また、上記加水分解性金属化合物(A)は、無機材料と有機材料との混合物であってもよく、無機骨格と有機骨格とをともに有する有機無機ハイブリッド材料であってもよい。
【0032】
上記金属原子としては特に限定されず、例えば、Li、Be、B、C、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Hg、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Th,Pa、U、Pu等が挙げられる。
【0033】
上記加水分解性の官能基としては特に限定されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、硝酸基、塩素基、有機酸基、錯体を形成する配位子などが挙げられる。
【0034】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。上記錯体を形成する配位子としては、例えばエチレンジアミン、オキシン、ビビリジル、ブタジエン、シクロペンタジエン等の公知の配位子が挙げられる。なお、これらの配位子においては、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0035】
上記加水分解性金属化合物(A)の例としては、金属元素のアルコキシド、フェノキシド、ベンジルオキシド、硝酸塩、塩化物または有機酸塩が挙げられ、あるいは有機金属錯体も用いられる。また、上記加水分解性金属化合物(A)は、複数種の金属化合物から構成されてもよく、その場合には、少なくとも1種の金属化合物が、金属元素のアルコキシド、フェノキシド、ベンジルオキシド、硝酸塩、塩化物、有機酸塩または有機金属錯体であることが好ましい。
【0036】
上記金属元素の有機酸塩としては、例えば、上記金属とカルボン酸との塩が挙げられる。上記カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチル酸、イソブチル酸、バレリック酸、2−メチルブチル酸、トリメチル酢酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクチル酸、デカン酸、ラウリル酸、ミリスチリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、グルタル酸等が挙げられる。
【0037】
上記加水分解性金属化合物(A)としては、例えば、アルミニウムブトキシド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムジブトキシドエチルアセトアセテート、アルミニウムアクリレート、アルミニウムフェノキシド、アルミニウムステアレート、アルミニウムヘキサフルオロアセチルアセトネート、ジブトキシアルミノキシトリエトキシシラ
ン、アルミニウムマグネシウムイソプロポキシド、アンチモンアセテート、アンチモンブトキシド、トリス(ジメチルアミノ)アンチモン、トリエトキシヒ素、トリス(ジメチルアミノ)ヒ素、バリウムアセテート、バリウムアクリレート、バリウムプロポキシド、バリウムアセチルアセトネート、ベリリウムアセチルアセトネート、ビスマスヘキサフルオロアセチルアセトネート、ビスマスネオデカノエート、ビスマスペントキシド、ボロンメトキシド、ボロンエトキシド、ボロンアリルオキシド、カドミウムアセテート、カドミウムアセチルアセトネート、カルシウムアセテート、カルシウムアクリレート、カルシウムエトキシド、カルシウムグルコネート、カルシウムヘキサフルオロアセチルアセトネート、カルシウムアセチルアセトネート、セシウムアセテート、セシウムメトキシド、セシウムアセチルアセトネート、クロムアセテート、クロムベンゾイルアセトネート、クロムヘキサフルオロアセチルアセトネート、クロムプロポキシド、クロムアセチルアセトネート、コバルトアセテート、コバルトアセチルアセトネート、ジコバルトオクタカルボニル、銅ベンゾイルアセテート、銅ベンゾイルフルオロアセテート、銅ジメチルアミノエトキシド、銅エトキシド、銅ヘキサフルオロアセチルアセトネート、銅ヘキサフルオロアセチルアセトネート−2−ブチン、銅アセチルアセトネート、ジエチルガリウムクロライド、ガリウムアセチルアセトネート、ガリウムエトキシド、ガリウムトリス[ビス(トリメチル
シリル)アミド]、アリルトリクロロゲルマニウム、ビス[ビス(トリメチルシリル)ア
ミノ]ゲルマニウム、エチルトリエトキシゲルマニウム、メチルトリクロロゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウム、メチルトリエトキシゲルマニウム、ハフニウムブトキシド、ハフニウムジメチルアミド、ハフニウムアセチルアセトネート、ハフノセンジクロライド、インジウムアセチルアセトネート、インジウムヘキサフルオロアセチルアセトネート、インジウムメトキシエトキシド、イリジウムアセチルアセトネート、イリジウムシクロオクタジエンクロライド、イリジウムジカルボニルアセチルアセトネート、鉄アセテート、鉄エトキシド、鉄メタクリレート、鉄アセチルアセトネート、鉛アセテート、鉛アクリレート、鉛ヘキサフルオロアセチルアセトネート、鉛アセチルアセトネート、リチウムアクリレート、リチウムエトキシド、リチウムアセチルアセトネート、マグネシウムアクリレート、マグネシウムエトキシド、マグネシウムアセチルアセトネート、マンガンアセテート、マンガンアセチルアセトネート、水銀アセテート、モリブデンエトキシド、モリブデンアセチルアセトネート、ニッケルアセテート、ニッケルアセチルアセトネート、ニオブブトキシド、ニオブエトキシド、パラジウムアセテート、パラジウムアセチルアセトネート、パラジウムトリフルオロアセテート、トリエチルホスフェート、トリス(トリメトキシシリル)ホスファイト、チタントリス(ジオクチルホスフェート)イソプロポキシド、カリウムアセテート、カリウムベンゾエート、カリウムブトキシド、カリウムアセチルアセトネート、セリウムブトキシド、セリウムオキサレート、セリウムアセチルアセトネート、ユーロピウムアセチルアセトネート、ユーロピウムアセテート、ガドリニウムアセテート、ガドリニウムアセチルアセトネート、ホルミウムアセチルアセトネート、ホルミウムテトラメチルヘプタンジオネート、ランタナムメトキシエトキシド、ランタナムアセテート、ランタナムアセチルアセトネート、ルテチウムアセチルアセトネート、ネオジミウムアセテート、ネオジミウムアセチルアセトネート、ネオジミウムメトキシエトキシド、プラセオジミウムメトキシエトキシド、プラセオジミウムアセチルアセトネート、サマリウムイソプロポキシド、サマリウムアセチルアセトネート、スカンジウムアセチルアセトネート、テルビウムアセチルアセトネート、テルビウムアセテート、イテルビウムアセチルアセトネート、イテルビウムトリフルオロアセチルアセトネート、イットリウムプロポキシド、イットリウムアセチルアセトネート、イットリウムトリフルオロアセテート、ルビジウムアセチルアセトネート、銀アセチルアセトネート、銀アクリレート、ナトリウムアセテート、ナトリウムブトキシド、ナトリウムイタコネート、ナトリウムメチルアセトアセテート、ナトリウムアセチルアセトネート、タンタラムブトキシド、タンタラムナトリウムメトキシド、タンタラムテトラメトキシドアセチルアセトネート、タリウムベンゾイルアセテート、タリウムエトキシド、タリウムアセチルアセトネート、スズアセチルアセトネート、ブチルトリクロロスズ、スズアセテート、ナトリウムスズエトキシド、
スズブトキシド、チタンプロポキシド、チタンジクロライドジエトキシド、チタンアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシドアセチルアセトネート、チタンフェノキシド、チタンメチルフェノキシド、チタンテトラキス(ジメチルアミド)、メチルチタントリプロポキシド、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド、チタントリイソプロポキシドトリブチルスタノキシド、チタノセンジクロライド、チタンクロライド、タングステンエトキシド、タングステンフェノキシド、バナジウムオキサイドアセチルアセトネート、バナジウムトリブトキシドオキサイド、亜鉛アセテート、亜鉛アクリレート、亜鉛メトキシエトキシド、亜鉛アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、ジメチルジルコノセン、ジルコニウムジクロライドビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムメタクリレート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコノセンジクロライド等が挙げられる。
【0038】
上記加水分解性金属化合物(A)の中でも、金属元素がSiである加水分解性金属化合物(A)が好ましく用いられる。金属元素がSiである場合、重合または架橋後、硬くて脆い性質から柔軟性や弾力性に富んだ性質までの広い範囲に渡る様々な物性の硬化物を得ることができる。しかも、グリースのような非常に粘調な物質や、粘着性物質も硬化体として得ることができる。従って、金属元素がSiである加水分解性金属化合物(A)を用いることにより、コーティング材、グリース、粘着剤、接着剤、シーリング材、エラストマーあるいは離型剤などの様々な用途に本発明により得られる硬化物を用いることができる。
【0039】
中でも、上記加水分解性金属化合物(A)が、下記一般式(1)で表される分子骨格を1分子中に複数個有する化合物である場合には、特に工業的に有用である。
【0040】
【化1】

式(1)中、Xは加水分解性を有する官能基または配位子である。
【0041】
なお、上記一般式(1)で表される分子骨格を1分子中に複数個有する化合物には、加水分解性基(X)が同じ珪素原子を介して複数個結合した分子骨格を有するものも含まれる。
【0042】
上記加水分解性基(X)は、珪素原子と加水分解性基(X)との結合が加水分解反応により切断されうる官能基である。上記加水分解性基(X)としては特に限定されず、公知の官能基を用いることができ、例えば、アルコキシ基、オキシム基、アルケニルオキシ基、アセトキシ基;塩素、臭素等のハロゲン基等が挙げられる。なかでも、貯蔵安定性と汎用性の観点から、アルコキシ基が好適である。上記アルコキシ基としては特に限定されず、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。ジアルコキシシリル基またはトリアルコキシシリル基の場合には、同じアルコキシ基を用いてもよいし、異なるアルコキシ基を組み合わせて用いてもよい。化合物(A)の加水分解性基(X)はすべて同じ種類であってもよいし、すべて種類が異なっていてもよい。
【0043】
上記一般式(1)で表される化合物としては特に限定されないが、例えば下記一般式(1−1)で表される珪素原子に加水分解性基(X)が2〜4個結合した分子骨格を有する化合物(A1)が挙げられる。
【0044】
【化2】

なお、式(1−1)において、mは、2、3または4の整数を表し、Rは炭化水素基を表し、Xは加水分解性を有する官能基を表す。
【0045】
上記一般式(1−1)において、Rで表される炭化水素基(以下、炭化水素基Rともいう)としては、特に限定されず、例えば、脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらの炭化水素基の少なくとも一部をアミノ基、水酸基、エーテル基、エポキシ基、重合性不飽和基、ウレタン結合、ウレア基、イミド基、エステル結合、カーボネート結合、イソシアネート基、オキセタニル基、イミノ基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン基;シロキサン結合等の反応を阻害しない官能基または結合に置換させてもよい。また、これらの官能基または結合は炭化水素基Rに複数種類置換させてもよい。
【0046】
式中、R’は水素原子、脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシ基を表す。なお、これらの炭化水素基はアミノ基、水酸基、エーテル基、エポキシ基、重合性不飽和基、ウレタン結合、ウレア基、イミド基、エステル結合等の架橋反応を阻害しない官能基または結合を有していてもよい。
【0047】
上記化合物(A1)としては、例えば、ジメトキシジメチルシラン、シクロヘキシルジメトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシメチルオクチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、クロロメチル(ジイソプロポキシ)メチルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、トリメトキシプロピルシラン、イソブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、(3−クロロプロピル)トリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、トリス(2−メトキシエトキシ)ビニルシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ(3−グリシドキシプロピル)メチルシラン、トリメトキシ[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]−ヘプト−3−イル)エチル]シラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、クロロトリス(1,3−ジメチルブトキシ)−シラン、ジクロロジエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)−プロピオニトリル、4−(トリエトキシシリル)−ブチロニトリル、3−(トリエトキシシリル)−プロピルイソシアネート、3−(トリエトキシシリル)−プロピルチオイソシアネート、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、1,3,5,7−テトラエトキシ−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラプロキシシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトライソプロポキシ−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラブトキシ−1,3,5,7−テトラメチル
シクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタエトキシ−1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルシクロテトラシラザン、1,7−ジアセトキシオクタメチルテトラシロキサン、1,7−ジクロロオクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリシロキサン、1,3−ジクロロテトライソプロピルジシロキサン、1,3−ジエトキシテトラメチルジシロキサン、1,3−ジメトキシテトラメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジクロロジシロキサン、1,2−ビス(メチルジクロロシリル)エタン、ジアセトキシジフェニルシラン、メチルトリス(エチルメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(N,N−ジエチルアミノキシ)シラン、ビス(エチルメチルケトオキシム)メチルイソプロポキシシラン、ビス(エチルメチルケトオキシム)エトキシメチルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシルエチル)トリメチルシラン、トリス(1−メチルビニロキシ)ビニルシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、トリアセトキシビニルシラン、テトラアセトキシシラン、ジアセトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシエチルメチルケトオキシムメチルシラン等が挙げられる。
【0048】
(第1の発明に係る製造方法)
第1の発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法では、上記加水分解性金属化合物(A)を、活性酸素を発生させる物質(B)の存在下で硬化させる。
【0049】
活性酸素を発生させる物質(B)とは、前述した活性酸素を発生し得る物質である限り、特に限定されるものではない。
【0050】
上記活性酸素を発生させる物質としては、(NH4228やK228のような過硫
酸化合物、HOCl、CaOCl2などが挙げられる。これらの化合物は、水の存在下で
原子状の酸素を放出する。
【0051】
上記活性酸素を発生させる物質(B)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、上記過硫酸化合物の中では、(NH4228が水に対する溶解度がK228よりも高いため、少量の水でかつ短時間に原子状酸素を高率よく放出し、
硬化反応を早期に完了させることができ望ましい。
【0052】
本発明においては、上記活性酸素を発生させる物質(B)は、前述した加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、1/10モル以下の割合で用いられることが好ましい。すなわち、加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、1/10モル以下の少ない量の物質(B)を用いることにより、本発明に従って加水分解性金属化合物(A)の硬化物を得ることができる。
【0053】
本発明においては、上記活性酸素を発生させる物質(B)から生じた活性酸素により、上記硬化が行われるものであり、従って、活性酸素を発生させる物質(B)はさほど多く用いずともよい。
【0054】
特に、加水分解性金属化合物(A)は、Siを金属元素とする化合物である場合、上記活性酸素を発生させる物質(B)の割合を少なくすることにより、硬化物の柔軟性を高めることができる。
【0055】
第1の発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法は、上記加水分解性金属化合物(A)を、上記活性酸素を発生させる物質(B)の存在下で硬化させればよい。例えば、加水分解性金属化合物(A)に、上記活性酸素を発生させる物質(B)を接触させればよく、その方法は特に限定されない。
【0056】
もっとも、好ましくは、加水分解性金属化合物(A)と、活性酸素を発生させる物質(B)とを接触させるにあたり、水が存在していることが望ましい。水の存在により活性酸素を発生させる物質(B)から生じた活性酸素が加水分解性金属化合物中に速やかに拡散し、加水分解性金属化合物の硬化が速やかに進行する。
【0057】
使用する水の量は、加水分解性金属化合物(B)1モル当り、1/10モル以下でよい。すなわち、水は上記拡散を促進するために媒体として用いられているものであるため、加水分解性金属化合物(A)のモル量よりもかなり少ない量の水を用いればよい。
【0058】
(第2の発明)
第2の発明に係る加水分解性金属化合物(A)の硬化物の製造方法では、上記加水分解性金属化合物(A)が活性酸素の存在下で硬化される。好ましくは、オゾンまたは酸素にエネルギー線を照射すること等により、活性酸素を発生させ、それによって加水分解性金属化合物(A)を、活性酸素の作用により、第1の発明の場合と同様に硬化させることができる。
【0059】
オゾンまたは酸素を用いる場合、オゾンまたは酸素は、上記加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、1/10モル以下の割合で用いればよい。また、上記エネルギー線としては、上記活性酸素を発生し得る適宜のエネルギー線を用いることができる。このようなエネルギー線としては、紫外線などを挙げることができる。
【0060】
第2の発明においても、好ましくは、硬化に際し、加水分解性金属化合物(A)に接触するように水を添加することが望ましく、それによって硬化を速やかに行わせることができる。水は、酸素ラジカルの加水分解性金属化合物中への拡散を促進するように作用する。水の使用量は、特に限定されない。もっとも、水は加水分解性金属化合物(A)中への活性酸素の拡散を促進するために用いられるものであるため、多量に用いる必要はない。従って、例えば、加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、1モル以下の水を用いればよく、1/10モル以下であってもよく、1/100モル以下の水を用いてもよい。
【0061】
水を加えた場合は、アルキル基が長く疎水性が高い加水分解性金属化合物では分離して白濁した液体となるが、活性酸素を伴う反応によって以下の現象が推定される。すなわち、いったん白濁した液体は加水分解性金属化合物の発熱反応により透明な液体となる。ついで、水分の揮発に伴って加水分解性金属化合物は硬化物となる。このような形態で反応した場合は液体が均一となるため均一でしかも透明な硬化物となる。
【0062】
第2の発明においても、硬化に際して加熱してもよく。加熱を行わずともよい。
【0063】
従来のゾルゲル法では、加水分解性金属化合物の硬化に際し、100℃のような高温に加熱する必要があった。これに対して、第2の発明に係る製造方法では、上記のような加熱を行わずともよく、室温でも硬化物を得ることができる。もっとも、上記のように加熱を行ってもよく、加熱した場合には、硬化反応を促進することができる。もっとも、加熱する場合においても、40℃程度の比較的低い温度に加熱すればよい。
【0064】
上記のように、高温の加熱が不要であるため、硬化物の熱による膨張・収縮が生じ難く
、従って、寸法精度に優れた硬化物を得ることができる。
【0065】
また、加熱を伴わずに硬化させた場合には、硬化反応がゆっくりと進行することになる。従って、より緻密であり、硬い硬化物を提供することができる。従来のゾルゲル法では、高温加熱により硬化が進行するため、このような緻密な硬化物を得ることが困難である。
【0066】
さらに、従来のゾルゲル法では、得られた硬化物において、多くのOH基が存在せざる得ず、言い換え得れば、未反応のSiやOHが残存している。従って、透明性の高い硬化物を得ることができない。
【0067】
これに対して、本発明では、ゾルゲル法とは異なり、得られた硬化物においてOH基が残存しない。よってOH基が殆ど残存していない石英ガラスのようなSi硬化物を得ることができる。従来、石英ガラスは、非常に高い温度の溶融処理によらねば得られなかったが、本発明によれば、このような高温溶融処理を用いることなく提供することができる。
【0068】
また、従来のゾルゲル法では、100℃程度の高温で処理しなければ加水分解性金属化合物の硬化物を得られなかったのに対し、第1,第2の発明では、加熱を必要とすることなく、硬化物を得ることができる。従って、熱による膨張・収縮が生じ難いため、寸法精度に優れた硬化物を得ることができる。
【0069】
また、比較的低温で硬化が進行した場合には、従来のゾルゲル法で高温かつ短時間で硬化された硬化物に比べて、より緻密であり、硬い硬化物を提供することも可能となる。
【0070】
さらに、得られた硬化物において、OH基が殆ど存在しないため、透明性に優れた石英ガラスなどの硬化物を、高温処理を伴うことなく提供することも可能となる。
【0071】
上記のように、第2の発明においては、水を加水分解性金属化合物(A)に接触するように添加することが望ましいが、この場合、塩酸などの強酸を用いる必要がない。すなわち、従来のゾルゲル法による加水分解性金属化合物の硬化に際しては、塩酸などの強酸を用い、系のPHを1〜2程度の強酸性とする必要があったため、製造装置の腐食や工程の管理に十分な注意を払わなければならなかった。これに対して、本発明では、上記水を加えた場合、系のPHは、中性であればよく、あるいは弱アルカリであってもよいため、このような製造装置の腐食や工程の管理に多大な注意を払う必要がない。反応選択性がないものと思われていた活性酸素の反応では選択的に加水分解性金属化合物を構成する金属原子に直接活性酸素が結合し、そのため水酸基の生成を伴わずに酸素原子を介した金属原子のネットワークが形成されることを見出した。活性酸素の反応はオゾンより反応速度が速くしかも水酸基を形成させるオゾンによる反応とは競争せずしたがってオゾンから活性酸素を発生させてもおどろくべき事に水酸基を実質的に含まない金属酸化物を得ることが出来る。
【0072】
(加水分解性金属化合物の硬化物)
上記製造方法により、本発明の加水分解性金属化合物の硬化物が得られる。加水分解性金属化合物の硬化物は、用いられる加水分解性金属化合物(A)によっても異なるが、柔軟性を有する硬化物や、硬度の高い硬化物、あるいは耐湿性に優れた硬化物などを加水分解性金属化合物(A)の種類に応じて本発明の製造方法に従って容易に得ることができる。
【0073】
従って、本発明の製造方法によれば、様々な物性の加水分解性金属化合物(A)の硬化物を容易にかつ安価に得ることができる。
【0074】
特に、従来のゾルゲル法による加水分解性金属化合物の硬化物では、架橋むらが存在していたのに対し、本発明の製造方法によれば、活性酸素が加水分解性金属化合物中に速やかに拡散し、架橋密度が均一な、非常に高硬度の硬化物を得ることが可能となる。
【0075】
本発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物は、加水分解性金属化合物(A)の選択、並びに後述する他の成分の添加等により、様々な物性を有するように構成され得る。従って、本発明によって得られる加水分解性金属化合物の硬化物は、半導体用絶縁皮膜などの電子技術分野における層間絶縁膜、あるいは導電膜などを形成する用途、接着剤、コーティング材、グリース、粘着剤、シーリング材、離型剤などの幅広い分野において用いられ得る。
【発明の効果】
【0076】
第1の発明に係る加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法では、加水分解性金属化合物(A)を活性酸素を発生させる物質(B)の存在下で硬化させることにより硬化物が得られる。すなわち、活性酸素を発生させる物質(B)から発生した活性酸素により、加水分解性金属化合物(A)が活性酸素の作用により硬化する。活性酸素は、加水分解性金属化合物(A)中に速やかにかつ均一に拡散する。従って、上記活性酸素を発生させる物質(B)と、加水分解性金属化合物(A)とを接触させるだけで、容易にかつ密度のばらつきが少ない、ガラス状の硬化物を得ることができる。
【0077】
同様に、第2の発明においても、活性酸素の存在下で加水分解性金属化合物の硬化が行われ、例えばオゾンや酸素にエネルギー線を照射することにより、活性酸素を発生させ、該活性酸素の作用により加水分解性金属化合物の硬化が進行する。従って、第1の発明と同様に、密度のばらつきが少ないガラス状の硬化物を容易に得ることが可能となる。
【0078】
特に、第1,第2の発明では、加水分解性金属化合物(A)の種類を選択することにより、柔軟な硬化物から硬度の高い硬化物、あるいは耐湿性に優れた硬化物などの様々な物性を実現し得る硬化物を容易に得ることができる。
【0079】
また、第2の発明では、加熱を行わずとも、硬化物を得ることができるため、すなわち高温の加熱を必要としないため、硬化物の熱による膨張・収縮が生じ難く、寸法精度に優れた硬化物を得ることができる。さらに、加熱を伴わずに硬化させた場合には、硬化反応がゆっくりと進行するため、より緻密であり、硬い硬化物を提供することも可能となる。
【0080】
また、上記加水分解性金属化合物がSiのアルコキシドである場合、硬化促進剤としてβ−ジケトンを用いることにより、硬化をより一層速やかに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
以下、本発明の具体的な実施例を挙げることにより、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
金属アルコキシドとしてSi(OCH34を5.03gと、(NH4228を0.27gと、水18mlとを50mlのサンプル瓶に仕込み、撹拌した。上記金属アルコキシドは本質的に水に溶解しないが、撹拌により、徐々に水滴の粒子泡が微細化し、乳白色を呈した。撹拌後5分程度で液温が42〜45℃程度まで上昇し、しかる後温度が低下し始め、15〜20分で室温に戻った。この液体を約5分静置すると、透明な水溶液となった。この静置により透明となった時間を透明化時間とする。
【0083】
次に、室温で12時間上記サンプル瓶を放置したところ、内部の液体はゾルとゲルとの中間状態となった。しかる後、数時間放置したところ、水分が蒸発し、サンプル瓶中に透明な柱状固体が得られた。
【0084】
なお、上記過程で得られた前述の透明な水溶液状態にあるサンプルを、厚さ0.2mmのシートを形成し得るシート枠に流し込み、数時間放置し、脱水、固化させた。その結果、厚さ2mmのシート体を得ることができた。
【0085】
上記サンプル瓶中で固化させた透明な柱状固体及び上記シート枠において形成された厚さ2mmのシート体をさらに数時間放置したところ、いずれも完全に固化した。このようにして固化されたシートの赤外吸収スペクトルを図1に示す。
【0086】
図1から明らかなように、上記のようにして得られたシートでは、OH基による吸収が認められないことがわかる。すなわち、図2で比較対照として示した赤外吸収スペクトルと同様であり合成石英ガラスに近い化学構造を有し、かつOH基を有しない構造のシートの得られることがわかる。
【0087】
(実施例2)
金属アルコキシドとして、CH3−Si(OCH33を5.00g用いたこと、(NH4228の添加量を0.5gとしたことを除いては、実施例1と同様とした。その結果
、透明化時間は5分であった。また、実施例1と同様に、サンプル瓶中で脱水・固化した場合には、透明な柱状の固体が得られ、シート枠においてシートを成形した場合には、透明なシートが得られた。
【0088】
(実施例3)
金属アルコキシドとして、(CH32−Si(OCH32を5.0g用いたこと、及び(NH4228の添加量を1.00gとしたことを除いては、実施例1と同様とした。透明化時間は約3〜7分であった。また、実施例3においても、サンプル瓶中で脱水・固化を行った後には、サンプル瓶中に透明な柱状の固体が得られ、厚さ2mmのシートを形成するためのシート枠に透明な液体を流し込みシートを成形した場合には、厚さ2mm程度の透明なシートを得ることができた。
【0089】
(実施例4)
金属アルコキシドとして、Al(O−iBu)3(但し、Buはブチル基)を0.24
g用いたこと、(NH4228を0.45g添加し、水の添加量を15mlとしたことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル瓶中で脱水・固化した。その結果、透明柱状の固体を得ることができた。なお、実施例1における透明化時間に相当する透明化時間は5分であった。
【0090】
(実施例5)
金属アルコキシドとして、Ti(O−iPr)4(但し、Prはプロピル基)を0.5
9g用いたこと、(NH4228を0.50g添加し、水の添加量を15mlとしたことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル瓶中で脱水・固化した。その結果、透明柱状の固体を得ることができた。なお、実施例1における透明化時間に相当する透明化時間は2分であった。
【0091】
(実施例6)
金属アルコキシドとして、B(OCH33を0.23g用いたこと、(NH4228を0.23g添加し、水の添加量を15mlとしたことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル瓶中で脱水・固化した。その結果、透明柱状の固体を得ることができた。なお
、実施例1における透明化時間に相当する透明化時間は5分であった。
【0092】
(実施例7)
金属アルコキシドとして、Sn(O−t−Bu)4(但し、t−Bはターシャリーブチ
ル基)を0.41g用いたこと、(NH4228を0.43g添加し、水の添加量を15mlとしたことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル瓶中で脱水・固化した。その結果、透明柱状の固体を得ることができた。なお、実施例1における透明化時間に相当する透明化時間は20分であった。
【0093】
(実施例8)
金属アルコキシドとして、Si(OCOCH34を0.27g用いたこと、(NH4228を0.33g添加し、水の添加量を15mlとしたことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル瓶中で脱水・固化した。その結果、透明柱状の固体を得ることができた。なお、実施例1における透明化時間に相当する透明化時間は2分であった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施例1の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図2】比較対照となる合成石英の赤外吸収スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子に加水分解性の官能基が結合されている加水分解性金属化合物(A)を、活性酸素を発生させる物質(B)の存在下で硬化させることを特徴とする、加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。
【請求項2】
金属原子に加水分解性の官能基が結合されている加水分解性金属化合物(A)を活性酸素の存在下で硬化させることを特徴とする、加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。
【請求項3】
オゾンまたは酸素にエネルギー線を照射し、活性酸素を発生させる、請求項2に記載の加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。
【請求項4】
前記加水分解性金属化合物(A)が金属アルコキシドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。
【請求項5】
前記加水分解性金属化合物(A)1モルに対し、前記活性酸素を発生させる物質(B)が前記加水分解性金属化合物(A)の1/10モル以下の割合で用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。
【請求項6】
前記加水分解性金属化合物(A)に水を加えた状態で前記加水分解性金属化合物を硬化させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の加水分解性金属化合物の硬化物の製造方法により得られたことを特徴とする、加水分解性金属化合物の硬化物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36889(P2006−36889A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217754(P2004−217754)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】