説明

加熱殺菌装置

【課題】包装食品を加熱殺菌し、その後に冷却するようにしている加熱殺菌装置において、実情に合わせて冷却時の水使用量削減と冷却時間短縮を行うことのできる加熱殺菌装置を提供する。
【解決手段】高温の循環水を殺菌槽内の被殺菌物に噴射することで被殺菌物を加熱殺菌しており、加熱殺菌が終了すると冷却用水を供給することで循環水の温度を低下し、温度の低下した循環水を被殺菌物に噴射することで被殺菌物を冷却するようにしている加熱殺菌装置であって、冷却時には、冷却用水を連続的に供給しながら被殺菌物を冷却する「初期冷却」工程、冷却用水を間欠的に供給しながら被殺菌物を冷却する「冷却」工程、「冷却」工程よりも冷却用水の供給量を少なくして被殺菌物を冷却する「冷却保持」工程、これらの工程を順に行うことで被殺菌物の冷却を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は缶詰やレトルト食品など、食品を包装容器に収容した後に、包装容器内の食品を加熱殺菌する加熱殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
缶詰やレトルト食品は、密封包装後に容器ごしに内部食品の加熱殺菌を行うことで、常温での長期保存を可能にしている。加熱殺菌を行う場合、殺菌槽内に被殺菌物を収容しておき、被殺菌物に高温の循環水を噴射することで被殺菌物を加熱する。被殺菌物に対する加熱に過不足があると、十分な殺菌が行われないことによって腐敗が発生したり、過剰な加熱によって食品に変質が発生することがあるため、精密な加熱制御を行う必要がある。
【0003】
殺菌槽内温度を殺菌温度まで上昇させる昇温工程時と殺菌温度に維持する加熱工程時の場合、加熱殺菌装置では、殺菌槽内の温度を検出しておき、槽内温度が目標値となるように加熱量の調節を行う。槽内温度が目標値よりも低い場合には噴射している循環水の温度を上昇させることで槽内温度を高くし、槽内温度が目標値よりも高い場合には噴射している循環水の温度を低下させることで槽内温度を低くして、温度の調節を行っている。循環水を加熱する熱源としては蒸気が一般的であり、殺菌槽内にためた水に蒸気を吹き込むことで循環水温度を上昇させる。循環水に供給する蒸気量を増加すると循環水の温度は上昇し、蒸気の供給を停止すると循環水の温度は低下する。また、加熱による殺菌を終了すると、被殺菌物へ噴射している循環水の温度を低下させることで被殺菌物の冷却を行う。冷却時には被殺菌物への循環水の噴射を行いながら、冷却用水の供給を行い、循環水の温度を低下させる。
【0004】
特開2004−305001号公報には、殺菌終了後、殺菌工程で使用したレトルト釜底部の加熱水を上部からシャワー状に降らしながら、レトルト釜底部の加熱水中に冷却水を徐々に導入し、かつ導入量に対応する量をレトルト釜底部から外部に排出して、レトルト内を循環する冷却水の温度を徐々に下げて、レトルト内の温度下降速度をコントロールしながら除冷することの記載がある。循環水に冷却用水を供給すると、循環水の温度が低下し、温度の低下した循環水を被殺菌物に噴射することで被殺菌物は低下していく。殺菌槽と被殺菌物の熱は循環水に移動するので、循環水の温度は上昇するが、循環水への冷却用水の供給と、循環水の排出を行うことで循環水の温度は低下するため被殺菌物の温度を低下させていくことができる。しかし、冷却用水の導入と導入量に対応する量の排出を連続的に行うと水使用量が多くなるため、水使用量を削減することが課題となった。また、水の入れ替えは行わず、熱交換器を用いて循環水の温度を低下させると、水使用量は削減することができるが、その場合には装置が大掛かりで高価となるということが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−305001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、包装食品を加熱殺菌し、その後に冷却するようにしている加熱殺菌装置において、実情に合わせて冷却時の水使用量削減と冷却時間短縮を行うことのできる加熱殺菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、高温の循環水を殺菌槽内の被殺菌物に噴射することで被殺菌物を加熱殺菌しており、加熱殺菌が終了すると冷却用水を供給することで循環水の温度を低下し、温度の低下した循環水を被殺菌物に噴射することで被殺菌物を冷却するようにしている加熱殺菌装置であって、冷却時には、冷却用水を連続的に供給しながら被殺菌物を冷却する「初期冷却」工程、冷却用水を間欠的に供給しながら被殺菌物を冷却する「冷却」工程、「冷却」工程よりも冷却用水の供給量を少なくして被殺菌物を冷却する「冷却保持」工程、これらの工程を順に行うことで被殺菌物の冷却を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記の加熱殺菌装置において、給水時間を長くし給水中断時間は短く設定する時間短縮優先制御と、給水時間を短くし給水中断時間は長く設定する水量削減優先制御とを切り替えることができるようにしていることを特徴とする。
【0009】
殺菌槽及び被殺菌物の温度が高い冷却初期の場合、被殺菌物へ噴射している循環水の温度はすぐに上昇し、循環水温度が高くなると被殺菌物を冷却する作用が少なくなる。そのため、冷却の初期では、冷却用水を連続的に供給して循環水の入れ替えを行いながら被殺菌物を冷却することによって殺菌槽と被殺菌物の温度を急激に低下させる「初期冷却」を行う。「初期冷却」工程によって殺菌槽内の温度がある程度低下すると、循環水の温度上昇は少なくなるために冷却用水を殺菌槽内へ連続的に供給しなくても被殺菌物の冷却を進めることができる。そのため冷却の中期では冷却用水を間欠的に供給し、冷却用水の使用量を抑えながら被殺菌物を冷却する「冷却」工程を行う。「冷却」工程によって殺菌槽内温度がさらに低下すると、循環水の温度上昇はより少なくなるために冷却用水の供給量をさらに減少しても被殺菌物の冷却を進めることができる。そのため冷却の終期では冷却用水の供給量を更に減少することによって、冷却用水の使用量を抑えながら被殺菌物を冷却する「冷却保持」工程を行う。被殺菌物の冷却進行状況に応じて冷却用水の供給量を変化させることで、冷却時の水使用量削減と冷却時間短縮が可能となる。
【0010】
また、給水時間と給水停止時間の割合を変更することで、給水時間を長くし給水中断時間は短く設定する時間短縮優先制御と、給水時間を短くし給水中断時間は長く設定する水量削減優先制御とを切り替えることができるため、時間短縮や水使用量削減の要望に応じて対応することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明を実施すると、実情に合わせて冷却時の水使用量削減と冷却時間短縮を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実施している加熱殺菌装置のフロー図
【図2】本発明の一実施例での槽内温度及び被殺菌物温度の変化を示したグラフ
【図3】本発明の一実施例での冷却用水供給状況説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明を実施している加熱殺菌装置のフロー図、図2は本発明の一実施例での槽内温度及び被殺菌物温度の変化を示したグラフ、図3は本発明の一実施例での冷却用水供給状況説明図である。加熱殺菌装置は、円筒形の殺菌槽1内に缶詰やレトルト食品などの被殺菌物2を収容しておき、殺菌槽1内で被殺菌物2を加熱することで殺菌を行うものである。殺菌槽1の下部には、蒸気を供給する蒸気導入管3、水を供給する給水導入管5、殺菌槽1内の水を排出する排水管12を接続している。蒸気導入管3には蒸気導入制御装置6、給水導入管5には給水制御弁7、排水管12には排水制御弁13を設けており、制御弁の開閉を制御することで殺菌槽1内への蒸気と給水の導入と、殺菌槽1内からの排水を制御する。
【0014】
殺菌槽1の底部には循環配管8を接続しており、循環配管8の他端は殺菌槽内に設けている噴射ノズル9と接続している。循環配管8の途中に循環ポンプ4を設けており、循環ポンプ4を作動すると殺菌槽1底部の水は循環配管8を通して噴射ノズル9へ送られ、噴射ノズル9から殺菌槽1内へ循環水を噴射する。殺菌槽1の上部には槽内温度を検出する槽内温度検出器11を設けておく。蒸気導入制御装置6、給水制御弁7、循環ポンプ4の作動は、運転制御装置10によって制御するようにしており、運転制御装置10は槽内温度検出器11とも接続している。
【0015】
被殺菌物2の加熱殺菌を行う場合、ます被殺菌物2をトレイに並べ、トレイを積み重ねた状態で殺菌槽1内に収容しておく。次に殺菌槽1の底部へ水を導入しておき、底部にためた水に蒸気を吹き込むことで水を加熱して高温とする。高温水は、循環ポンプ4を作動することで噴射ノズル9へ送り、噴射ノズル9から被殺菌物2へ向けて噴射することによって循環させる。加熱殺菌では、被殺菌物2を殺菌温度まで上昇させる昇温工程、被殺菌物2を殺菌温度に維持する加熱工程、被殺菌物2を冷却する冷却工程を行う。昇温工程及び加熱工程では、蒸気導入管3からの蒸気供給を行うと噴射ノズル9から噴射する循環水の温度が上昇、蒸気供給を停止すると循環水温度は低下することになり、冷却工程では給水導入管5から冷却用水を導入し、循環水の温度を低下させて被殺菌物2の冷却を行う。
【0016】
運転制御装置10には、運転開始からの経過時間とその時の槽内温度の目標値を設定しておき、昇温工程と加熱工程では槽内温度検出器11で検出している槽内温度が目標温度になるように、蒸気導入の制御を行うことで温度調節を行う。殺菌槽1への蒸気供給を行うと殺菌槽内底部にためておいた水の温度が上昇し、噴射ノズル9から噴射している循環水温度が上昇すると、殺菌槽1内の温度が上昇する。殺菌槽1への蒸気供給を停止すると殺菌槽内底部の水温上昇が停止し、停止時間が長くなると放熱があるために殺菌槽1内の温度が低下する。
【0017】
槽内温度が殺菌温度(例えば120℃)に達すると昇温工程から加熱工程に移行し、殺菌温度で所定時間(例えば20分間)維持する。殺菌温度で所定時間の維持が終了し、加熱工程が終了した時点では被殺菌物2は高温であるため、被殺菌物2を冷却する。冷却時も循環水を噴射ノズル9から被殺菌物2へ噴射することで行うのは、昇温/加熱の工程時と同じであり、冷却の場合は被殺菌物2より低い温度の循環水を噴射する。
【0018】
冷却時には、冷却用水を連続的に供給しながら被殺菌物を冷却する「初期冷却」工程、給水時間と給水中断時間を設定しておき冷却用水を間欠的に供給しながら被殺菌物を冷却する「冷却」工程、「冷却」工程よりも給水時間を短くし給水中断時間は長く設定しておき、冷却用水を間欠的に供給しながら被殺菌物を冷却する「冷却保持」工程を順に行う。
【0019】
「初期冷却」工程の場合、給水制御弁7は連続的に開くことで連続給水を行い、排水制御弁13は殺菌槽1内水位に基づき、一定の水位を保つように間欠的に開閉を繰り返す間欠排水を行う。給水導入管5から冷却用水の供給を行うと、循環配管8内を流れている循環水の温度が低下し、低温の循環水を噴射ノズル9から噴射することで被殺菌物2の冷却を行う。
【0020】
冷却用水の供給を行うと殺菌槽1内の水位が上昇するため、水位を一定に保つように排水を行う。殺菌槽1内の水位が制御水位より高い状態が所定時間続くと、排水制御弁13を開くことで排水を行い、殺菌槽内の水位が制御水位まで低下すると排水制御弁13を閉じて排水を終了する。排水の制御は、水位に応じて排水制御弁13を比例的に制御するものや、排水開始水位と排水停止水位での水位検出を行い、排水開始水位と排水停止水位で排水制御弁13の開閉を制御するものであってもよい。しかし排水制御には精密性は要求されないため、前記構成とすることで装置のコストを低減することができる。また、水位上昇を検出して排水を行う場合、排水制御弁13を短時間で開閉することを繰り返すことによって排水を行い、水位が低下すると閉で固定することで排水を停止するようにしてもよい。
【0021】
「初期冷却」の場合、殺菌槽1自体と被殺菌物2の温度が高いため、被殺菌物2へ噴射している循環水は殺菌槽1及び被殺菌物2の熱を取り込むことで温度が上昇する。しかし、冷却用水を連続的に供給し、排水を行うことで循環水の入れ替えを行っているため、循環水の温度上昇は抑えることができ、殺菌槽内の温度を急激に低下させることができる。
【0022】
「初期冷却」は槽内温度が80℃になるまで行うようにしており、槽内温度が80℃になると、「冷却」の工程に移行する。「冷却」工程では、給水時間と給水中断時間を設定しておき、給水時間分の給水と給水中断時間分の給水停止を交互に行う。図2及び図3では、「冷却」工程での給水時間と給水中断時間はそれぞれ1分間としており、冷却用水を殺菌槽へ間欠的に供給しながら被殺菌物の冷却を進める。給水を行っている間は、循環水の温度は殺菌槽内の温度よりも低くなるため、殺菌槽内の温度は低下していく。しかし給水を停止すると、循環水の温度は殺菌槽1及び被殺菌物2の熱を奪うことで上昇するため、図2のグラフでは「冷却」工程で槽内温度はジグザグになっている。しかし、この場合でも噴射ノズル9から噴射している循環水の温度は被殺菌物2の温度より低いため、被殺菌物2の温度は低下していくことになる。
【0023】
「冷却」工程は槽内温度が40℃になるまで行うようにしており、槽内温度が40℃になると、「冷却保持」の工程に移行する。「冷却保持」工程でも、給水時間と給水中断時間を設定しておき、給水時間分の給水と給水中断時間分の給水中断を交互に行うことにより、冷却用水を殺菌槽内へ間欠的に供給しながら被殺菌物を冷却する。「冷却」工程との違いは、給水量をより少なくしていることであり、実施例での「冷却保持」工程では、「冷却保持」の時間は4分間であって、給水中断時間を3分とし、その後に30秒間の給水を行い、さらにその後30秒間の給水中断時間を設けるようにしている。被殺菌物2の温度が低くなり、冷却用水との温度差が小さくなると、冷却用水を供給しても被殺菌物2の温度低下速度は遅くなる。この場合には冷却用水の供給は少なくし、循環水の噴射のみを行う時間を長くすることで、冷却用水の使用量を削減することができる。
【0024】
「冷却」工程時と「冷却保持」工程時の給水時間と給水中断時間はそれぞれ設定によって変更することができるようにしておくと、給水時間を長くし給水中断時間は短く設定する時間短縮優先制御と、給水時間を短くし給水中断時間は長く設定する水量削減優先制御とを切り替えることができる。給水時間を長くし給水中断時間を短くすると、冷却用水の使用量は増加するが、循環水温度をより低くすることができるため、冷却に要する時間を短縮することができる。逆に給水時間を短くし給水中断時間を長くすると、循環水温度は高くなるが、冷却用水の使用量を削減することができる。被殺菌物2の状態等に応じて設定値を変更することで、「冷却をより短時間で終了したい」や「水の使用量をさらに削減したい」といった様々な要望にこたえることができる。
【0025】
本実施例では、冷却用水の供給は間欠的に行い、給水時間と給水中断時間の調節によって冷却用水の供給量を調節するようにしている。冷却用水の供給量調節は、冷却用水の供給は連続的に行っておき、給水制御弁の開度を調節するなどによって瞬間流量を変更することでも行えるが、その場合には流量調節に要する設備コストが上昇することになる。間欠給水であれば冷却用水の供給量調節をより安価に行うことができる。
【0026】
なお、本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 殺菌槽
2 被殺菌物
3 蒸気導入管
4 循環ポンプ
5 給水導入管
6 蒸気導入制御装置
7 給水制御弁
8 循環配管
9 噴射ノズル
10 運転制御装置
11 槽内温度検出器
12 排水管
13 排水制御弁




【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の循環水を殺菌槽内の被殺菌物に噴射することで被殺菌物を加熱殺菌しており、加熱殺菌が終了すると冷却用水を供給することで循環水の温度を低下し、温度の低下した循環水を被殺菌物に噴射することで被殺菌物を冷却するようにしている加熱殺菌装置であって、冷却時には、冷却用水を連続的に供給しながら被殺菌物を冷却する「初期冷却」工程、冷却用水を間欠的に供給しながら被殺菌物を冷却する「冷却」工程、「冷却」工程よりも冷却用水の供給量を少なくして被殺菌物を冷却する「冷却保持」工程、これらの工程を順に行うことで被殺菌物の冷却を行うものであることを特徴とする加熱殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱殺菌装置において、給水時間を長くし給水中断時間は短く設定する時間短縮優先制御と、給水時間を短くし給水中断時間は長く設定する水量削減優先制御とを切り替えることができるようにしていることを特徴とする加熱殺菌装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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