説明

加熱殺菌装置

【課題】殺菌槽1内で熱水を噴射して殺菌槽内に収容した多数の被殺菌物2を加熱殺菌する加熱殺菌装置において、加熱量のばらつきを小さくする。
【解決手段】殺菌槽1内に被殺菌物2を乗せ置いたトレイを多数段積み重ねた状態で収容し、殺菌槽内に設けた噴射ノズル9から被殺菌物2に向けて熱水を噴射して被殺菌物2を加熱殺菌する加熱殺菌装置であって、熱水は殺菌槽1の底部にためておき、殺菌槽底部に蒸気を吹き込むことで加熱した熱水を循環させて噴射するようにしている加熱殺菌装置において、殺菌槽内底部の蒸気吹き込み部13と被殺菌物2の間に、熱水加熱用の蒸気が被殺菌物2を直接加熱することを防止するためのじゃま板12を設ける。また、じゃま板12には蒸気を分散して流すための穴を開けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は缶詰やレトルト食品など、食品を包装容器に収容した後に、包装容器内の食品を加熱殺菌する加熱殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
缶詰やレトルト食品は、密封包装後に容器ごしに内部食品の加熱殺菌を行うことで、常温での長期保存を可能にしている。加熱殺菌を行う場合、特許第4615968号公報に記載があるように、殺菌槽内に被殺菌物を収容しておき、被殺菌物に高温の循環水を噴射することで被殺菌物を加熱する。そして被殺菌物に対する加熱量に過不足があると、十分な殺菌が行われないことによって腐敗が発生したり、過剰な加熱によって食品に変質が発生することがあるため、精密な加熱制御を行う必要がある。
【0003】
加熱殺菌装置では、殺菌槽内の温度を検出しておき、槽内温度が目標値となるように加熱量の調節を行う。槽内温度が目標値よりも低い場合には噴射している循環水の温度を上昇させることで槽内温度を高くし、槽内温度が目標値よりも高い場合には噴射している循環水の温度を低下させることで槽内温度を低くして、温度の調節を行っている。循環水を加熱する熱源としては蒸気が一般的であり、循環水は殺菌槽の底部にためておき、殺菌槽底部の循環用水に蒸気を吹き込むことで循環水を加熱する。
【0004】
この加熱殺菌装置では、被殺菌物を多数収容したトレイを複数段積み重ねておき、一度に多数の被殺菌物を加熱殺菌するため、個々の被殺菌物に対しても加熱量に差が生じないようにする必要がある。加熱量に差が生じると、強く加熱される部分では被殺菌物の温度が高くなりすぎて品質の劣化を招いたり、加熱の弱い部分では殺菌が不十分となることがある。そのため、特許第4615968号公報に記載の発明では、熱水の噴射方向や噴射量を調節することで加熱量を調節し、加熱むらが発生しないようにしている。各被殺菌物に対する熱水噴射量を均一化すれば加熱むらを少なくすることができるが、熱水の噴射量を調節しても一部の被殺菌物が強く加熱されることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4615968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、殺菌槽内で熱水を噴射して殺菌槽内に収容した多数の被殺菌物を加熱殺菌する加熱殺菌装置において、加熱量のばらつきを小さくすることのできる加熱殺菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、殺菌槽内に被殺菌物を乗せ置いたトレイを多数段積み重ねた状態で収容し、殺菌槽内に設けた噴射ノズルから被殺菌物に向けて熱水を噴射して被殺菌物を加熱殺菌する加熱殺菌装置であって、熱水は殺菌槽の底部にためておき、殺菌槽底部に蒸気を吹き込むことで加熱した熱水を循環させて噴射するようにしている加熱殺菌装置において、殺菌槽内底部の蒸気吹き込み部と被殺菌物の間に、熱水加熱用の蒸気が被殺菌物を直接加熱することを防止するためのじゃま板を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記の加熱殺菌装置において、じゃま板には蒸気を分散して流すための穴を開けていることを特徴とする。
【0009】
多段に積み重ねたトレイの最下段に位置する被殺菌物で加熱量が大きくなっていた場合、周囲から噴射する熱水量を調節しても被殺菌物に対する加熱量のばらつきを少なくすることはできない。この場合、下部にのみ熱水を噴射することは行わないため、周囲から噴射している熱水とは別の要因で加熱量が大きくなっていることが分かる。下部で加熱量が大きくなる要因を検討したところ、循環用水を加熱するために殺菌槽内底部へ供給している蒸気の影響が考えられた。循環水を加熱するための蒸気は、被殺菌物へ噴射している循環水よりも高温でありるため、蒸気によって被殺菌物が直接加熱されたり、蒸気で加熱された循環用水が殺菌槽内底部から吹き飛ばされて被殺菌物に達すると、その被殺菌物は他よりも強く加熱されることになる。この場合には、循環水の噴射量を調節しても加熱量のばらつきを低減することはできない。しかし、殺菌槽内底部からの蒸気又は熱水が被殺菌物に達しないようにじゃま板を設けることで、最下段の被殺菌物に対する加熱量を抑えることができるため、加熱量のばらつきを少なくすることができる。
【0010】
なお、じゃま板の下面に沿って流れた蒸気は、じゃま板の端部から上方向に吹き出すことになる。この場合、じゃま板端部に近い被殺菌物に対する加熱量が大きくなり、加熱量にばらつきが発生することがある。そのため、じゃま板には適度に穴を開け、蒸気はじゃま板の開口から分散して流すことでトレイ最下段の被殺菌物に対する加熱量を均一化することも有効になる。
【発明の効果】
【0011】
循環水を加熱するための蒸気によって被殺菌物が直接加熱されることがないようにじゃま板を設けることで、各被殺菌物での加熱量の差を小さくすることができる。また、じゃま板には穴を開けておき、じゃま板の開口量を調節することでトレイ最下段の被殺菌物に対する加熱量を調節することで加熱量の差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例である加熱殺菌装置のフロー図
【図2】本発明の一実施例である加熱殺菌装置のフロー図
【図3】本発明の一実施例で使用しているじゃま板の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明を実施している加熱殺菌装置の殺菌槽部分を長さ方向に切断しているフロー図、図2は加熱殺菌装置の殺菌槽部分を輪切りにしているフロー図、図3はじゃま板の斜視図である。
【0014】
加熱殺菌装置は、円筒形の殺菌槽1内に缶詰やレトルト食品などの被殺菌物2を収容しておき、殺菌槽1内で被殺菌物2を加熱することで殺菌を行うものである。殺菌槽1の下部には、蒸気を導入する蒸気導入管3と給水を導入する給水導入管5を接続している。蒸気導入管3には蒸気導入制御弁6、給水導入管5には給水制御弁7を設けており、各制御弁の開閉を制御することで殺菌槽1内への蒸気と給水の導入を制御する。殺菌槽1内の底部は水をためることができるようにしており、底部にためた循環用水に蒸気を吹き込むことで循環用水を加熱する。殺菌槽1の底部には循環配管8を接続しておき、循環配管8の他端は殺菌槽内に設けている噴射ノズル9と接続している。循環配管8の途中に循環ポンプ4を設けており、循環ポンプ4を作動すると殺菌槽1底部の水は循環配管8を通して噴射ノズル9へ送られ、噴射ノズル9から被殺菌物2へ向けて循環水を噴射する。殺菌槽1の上部には槽内温度を検出する槽内温度検出器11を設けておく。蒸気導入制御弁6、給水制御弁7、循環ポンプ4の作動は、運転制御装置10によって制御するようにしており、運転制御装置10は槽内温度検出器11とも接続している。
【0015】
殺菌槽内底部の蒸気噴出部には蒸気サイレンサー13を設けており、蒸気は分散させて噴出するようにしている。しかし蒸気の噴射力は大きいため、蒸気導入時には蒸気による熱水の飛び散りが発生し、また溶け込み切れない蒸気が被殺菌物2を直接加熱することがある。そのため、蒸気噴射部と被殺菌物2の間を遮蔽するじゃま板12を設けておく。図3に記載しているじゃま板12は上面と側面からなっており、円筒形殺菌槽の長さ方向に長くなるように設置する。じゃま板12は、上面には複数の小さな穴を開けた開口部を間隔を開けて配置しており、側面はパンチングメタルであって全面に穴を開けた構成としている。
【0016】
被殺菌物2の加熱殺菌を行う場合、まず被殺菌物2をトレイに並べ、被殺菌物2を並べたトレイを多数段積み重ねた状態で殺菌槽1内に収容して殺菌槽1内を密閉する。次に殺菌槽1の底部へ水を導入しておき、底部にためた水に蒸気を吹き込むことで水を加熱して高温とし、循環ポンプ4を作動することで噴射ノズル9から被殺菌物2へ向けて高温の循環水を噴射する。加熱殺菌では、被殺菌物2を殺菌温度まで上昇させる昇温工程、被殺菌物2を殺菌温度に維持する加熱工程、被殺菌物2を冷却する冷却工程を行う。昇温工程及び加熱工程では、蒸気導入管3からの蒸気供給を行い、加熱した循環水を被殺菌物2に噴射することで被殺菌物2を加熱する。冷却工程では給水導入管5から冷却用水を導入して循環水の温度を低下させ、温度を低下させた循環水を被殺菌物2に噴射することで被殺菌物2の冷却を行う。
【0017】
運転制御装置10には、運転開始からの経過時間とその時の槽内温度の目標値を設定しておき、槽内温度検出器11で検出している槽内温度が目標温度になるように、蒸気導入の制御を行うことで温度調節を行う。殺菌槽内への蒸気導入を行うと、蒸気導入管3の蒸気サイレンサー13から蒸気が噴き出し、殺菌槽1内底部の水に溶け込むことで水温を上昇させる。このとき、蒸気は勢いよく噴射されるため、蒸気によって飛び散った熱水や水に溶け込みきれなかった蒸気が、殺菌槽1内底部の水面から上方へ飛び出すことがある。しかし、蒸気を噴射している蒸気サイレンサー13の上方にじゃま板12を設置していると、蒸気サイレンサー13から噴射した蒸気はじゃま板12の面に沿って流れることになり、殺菌槽内底部の熱水が被殺菌物2に直接掛かることを防ぐことができる。また、蒸気はじゃま板12に沿って流れるため、蒸気が水に溶け込む距離が長くなり、溶け込まなかった蒸気が被殺菌物2を直接加熱するということもなくなる。そのため、一部の被殺菌物2が過度に加熱されることは防止でき、各被殺菌物2に対する加熱量のばらつきを少なくすることができる。
【0018】
なお、循環水は被殺菌物2に噴射した後に殺菌槽内底部へ戻らなければならないため、じゃま板12は殺菌槽1の内部を完全に遮蔽するものではなく、殺菌槽の端部にはじゃま板のない部分ができる。この場合、じゃま板12に沿って流れてきた蒸気は、じゃま板12の先端まで達した後にじゃま板よりも上方へ噴射し、じゃま板の端部付近にある被殺菌物2を強く加熱することがある。この場合には、じゃま板12には適度に穴を開けておき、じゃま板12の開口部から蒸気を分散させて流すことでトレイ最下段の被殺菌物2に対する加熱量を均一化することが有効になる。もちろん、じゃま板12に穴を設けない方が被殺菌物2に対する加熱量のばらつきは少なくなるという場合もあり、穴を開けるべきか否かや穴を開ける場合にはどの程度開けるかについては加熱殺菌装置の構成等によって異なるため、個々に確認することになる。
【0019】
なお、本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 殺菌槽
2 被殺菌物
3 蒸気導入管
4 循環ポンプ
5 給水導入管
6 蒸気導入制御弁
7 給水制御弁
8 循環配管
9 噴射ノズル
10 運転制御装置
11 槽内温度検出器
12 じゃま板
13 蒸気サイレンサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌槽内に被殺菌物を乗せ置いたトレイを多数段積み重ねた状態で収容し、殺菌槽内に設けた噴射ノズルから被殺菌物に向けて熱水を噴射して被殺菌物を加熱殺菌する加熱殺菌装置であって、熱水は殺菌槽の底部にためておき、殺菌槽底部に蒸気を吹き込むことで加熱した熱水を循環させて噴射するようにしている加熱殺菌装置において、殺菌槽内底部の蒸気吹き込み部と被殺菌物の間に、熱水加熱用の蒸気が被殺菌物を直接加熱することを防止するためのじゃま板を設けたことを特徴とする加熱殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱殺菌装置において、じゃま板には蒸気を分散して流すための穴を開けていることを特徴とする加熱殺菌装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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