説明

加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法

【課題】 生産性に対応した加熱炉内の鋼材配置間隔の決定方法を提供する。
【解決手段】 複数の略柱状の鋼材が所定の間隔をもって配列して搬送される連続式加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法であって、加熱炉及び前記鋼材の初期条件を設定する初期設定ステップと、一定の生産性及び加熱炉温度設定の条件で、加熱炉内の前記鋼材の配置間隔を変化させて熱計算を行い、鋼材表面の温度を算出する鋼材表面の温度抽出ステップと、鋼材の配置間隔を変化させた場合の鋼材表面の温度の最高値を判別し、鋼材表面の温度が最高となる間隔を鋼材の間隔と決定する鋼材間隔決定ステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性に対応した加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板や条鋼といった鋼製品を製造するには、まず高炉から取出された銑鉄や鉄屑を、転炉や電気炉などの製鋼炉で溶解精錬し、連続鋳造や造塊、分塊によってスラブ、ブルーム、ビレット等の鋼片素材が製造される。
【0003】
そして、スラブ、ブルーム、ビレット等の鋼片素材をさらに高品質、高強度および圧延により結晶粒を微細化する組織制御を目的に、これらの鋼片素材を加熱炉に送入・加熱し、熱間圧延により鋼板、条鋼等の鋼製品に加工される。
【0004】
このように、鋼材を目的の形状に熱間圧延するために、加熱炉内に鋼材を装入して昇温を行うが、加熱炉内の鋼材を圧延に適した温度に昇温させるための技術として、連続式加熱炉の炉内温度設定方法(例えば、特許文献1)や加熱炉における昇温予測方法(例えば、特許文献2)がある。
【0005】
連続式加熱炉の炉内温度設定方法(特許文献1)は、鋼材の昇温を予測し、目標温度との差により炉内温度設定値を修正することにより、目標温度に昇温する方法である。また、加熱炉における昇温予測方法(特許文献2)は、オンラインで加熱炉内の鋼材の昇温を予測できるように温度計算を簡素化して高速化する方法である。
【特許文献1】特許第1175611号明細書
【特許文献2】特許第1526871号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加熱炉内の鋼材の配置間隔を拡大すると、鋼材側面への入熱が増加する一方で、加熱炉内の鋼材装入量が減少し、生産性に対応して在炉時間が減少する。逆に、加熱炉内の鋼材配置間隔を縮小すると、特に鋼材側面への入熱が減少する一方で、加熱炉内の鋼材装入量が増加し、在炉時間が増加する。
【0007】
したがって、加熱炉内の鋼材の配置間隔は、特に鋼材側面への入熱と在炉時間に相反する影響があるから、影響が均衡する適正な鋼材配置間隔を知る必要がある。また、鋼材の加熱が不十分だと延性不足により圧延疵が発生するという問題がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、加熱炉内の鋼材配置間隔の影響を一切考慮しておらず、適正に加熱できる鋼材配置間隔については分らなかった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、生産性に対応した加熱炉内の鋼材配置間隔を決定することを可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の略柱状の鋼材が所定の間隔をもって配列して搬送される連続式加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法であって、加熱炉及び前記鋼材の初期条件を設定する初期設定ステップと、一定の生産性及び加熱炉温度設定の条件で、加熱炉内の前記鋼材の配置間隔を変化させて熱計算を行い、鋼材表面の温度を算出する鋼材表面の温度抽出ステップと、鋼材の配置間隔を変化させた場合の鋼材表面の温度の最高値を判別し、鋼材表面の温度が最高となる間隔を鋼材の間隔と決定する鋼材間隔決定ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法によれば、目的とする一定の生産性・加熱炉設定温度の条件で、鋼材の配置間隔を変えて輻射伝熱を含む熱計算を行い、各配置間隔条件の抽出時の鋼材温度を求め、鋼材表面の中でも昇温し難い鋼材側面の温度が最高になった配置間隔を、その生産性条件での適正配置間隔とすることにより、生産性に対応した加熱炉内の鋼材配置間隔を決定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態である加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法について、図を参照して詳細に説明をする。
【0013】
図1は、本実施形態の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法の処理を示すフローチャートである。
【0014】
本実施形態の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法は、初期設定ステップ100(図中ではステップをSと略す。)と、鋼材表面の最低温度抽出ステップ200と、鋼材間隔決定ステップ300との、大きく3つのステップに分けることができる。
【0015】
初期設定ステップ100は、以下のステップ101〜105から構成される。
【0016】
ステップ101では、加熱炉形状を決定する。図2に、本実施形態で想定する加熱炉の縦方向断面である2次元モデルを示す。本実施形態のモデルとなる加熱炉はウォーキングビーム式の連続加熱炉であり、実際に使用する加熱炉の内部形状をモデル化するものである。例えば、天井や底、鋼材が置かれる位置は、輻射伝熱計算に影響する距離の要因となり、炉内の鋼材設置可能長L[mm]は鋼材の装入本数に影響する。なお、モデルの簡略化のため、バーナーのフレームと炉体壁を同一と見なし、加熱炉内を鋼材が移動する代わりに、炉体上壁、炉体下壁から加熱炉内鋼材位置の設定温度に応じた輻射が生じるものとした。また、加熱炉内の雰囲気ガスについても加熱炉内鋼材位置の設定温度に変化させた。また、本実施形態では加熱炉の例としてウォーキングビーム式の連続加熱炉を用いて説明を行うが、これに限られるものではない。
【0017】
本実施形態のウォーキングビーム式の搬送部は加熱炉のほぼ中央に配置され、この搬送部により鋼材が搬送されることとなる。図の右方向から搬送部の上下に熱風が加熱炉内に流入し、図の左方向に熱風が排出されるものとする。
【0018】
ステップ102では、鋼材形状を決定する。本実施形態で想定する鋼材は、実際に加熱する鋼材の形状をモデルとするものである。本実施形態の角材の鋼材形状では、加熱炉搬送方向の鋼材の長さD[mm]と、鋼材の高さH[mm]と、鋼材の長さ(搬送方向に垂直)l[mm]と、鋼材の密度ρ[kg/m3]とから、鋼材1本の重量W[kg/1本]=D×H×l×ρ/109が決まる。図2のモデルは、加熱炉縦断面の二次元モデルであり、図2に示すように、鋼材はウォーキングビーム式の搬送部上に所定の間隔dをもって、鋼材の長手方向を搬送方向に垂直になるように整列される。計算対象とした鋼材A以外の他の鋼材からの輻射伝熱を考慮するために、対象鋼材Aの前後2本の鋼材についても同様の計算を行うものとする。
【0019】
ステップ103では、目的とする生産性X[t/hour]を決定する。
【0020】
ステップ104では、必要な抽出ピッチを決定する。必要な加熱炉抽出ピッチは、P[sec/1本]=3600×W/Xで決定される。加熱炉抽出と炉内の鋼材の移動は連動するので、抽出ピッチPは、炉内の鋼材の移動ピッチと同じである。
【0021】
ステップ105では、加熱炉設定温度を決定する。具体的には、実際に使用する加熱炉の予熱帯、加熱帯、均熱帯の設定温度を決める。
【0022】
鋼材表面の最低温度抽出ステップ200は、以下のステップ201〜207から構成される。
【0023】
ステップ201では、加熱炉内の鋼材配置間隔d[mm]を設定する。1ピッチの鋼材の移動距離は、D+d[mm]であり、在炉本数は、n[本]=(L+d)/(D+d)となる(ただし小数点以下切り捨て)。これらの数値より、在炉時間[sec]=P×nが決まる。
【0024】
ステップ202では、鋼材配置間隔を反映した図2の形状モデルを作成する。
【0025】
ステップ203では、鋼材周囲の温度変化パターンを決定する。これまでに決めた鋼材の移動ピッチ=P[sec/1本]と、1ピッチの鋼材の移動距離[mm]=D+dと、在炉時間[sec]=P×nとから、加熱炉装入からの経過時間に応じた鋼材の位置(鋼材の移動パターン)が決まる。鋼材の位置に対応した炉内設定温度も決定してあるため、これらの条件より鋼材周囲の温度変化パターンも決定される。
【0026】
ステップ204では、鋼材の密度ρ、比熱、熱伝導率、放射率等の鋼材の物性値を設定する。
【0027】
ステップ205では、輻射伝熱を含む熱計算を実施し、抽出時の温度を求める。具体的には、鋼材周囲の温度変化パターン、鋼材物性値の温度変化に対応させつつ、適宜、時間間隔毎の熱計算を行ってゆき、加熱炉抽出時点での鋼材温度を求める。本方法の実施例では、有限体積法で熱計算を行った。1000℃を超える加熱炉内の鋼材への熱伝達は輻射伝熱が支配的であり、輻射伝熱を含む熱計算を行うことで、このモデルで主な熱源となる炉体上下壁からの輻射伝熱が距離や角度で変化したり、鋼材が炉体上下壁からの輻射を遮って影をつくる鋼材間、すなわち鋼材側面部への伝熱が鋼材上下面と比べて少なくなったりする現象など、モデル形状の変化に応じた輻射の変化の影響を反映することができ、加熱炉内の鋼材各部の温度を精度良く求めることが可能となる。
【0028】
ステップ206では、仮定した鋼材配置間隔に対する鋼材側面部の最低温度を抽出する。後で配置間隔を変えた場合の結果と比較するため、仮定した鋼材配置間隔に対する鋼材側面部の最低温度を抽出して記録しておく。
【0029】
ステップ207では、鋼材間隔dを変化させてステップ201へ戻り同様の計算を実施する。
【0030】
鋼材間隔決定ステップ300は、以下のステップ301〜302から構成される。
【0031】
ステップ301では、鋼材表面の中でも最も昇温し難い部位を最も良く昇温できる配置間隔の条件である、抽出した鋼材側面部の最低温度が最高になる配置間隔を判定する。
【0032】
ステップ302では、鋼材側面部の最低温度が最高になった配置間隔を鋼材配置間隔と決定する。鋼材の加熱が不十分だと延性不足により圧延疵が発生するが、本実施形態の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法によれば、鋼材表面の中でも最も昇温し難い部位の温度の計算値が最も高くなる鋼材配置間隔を決定することが可能となるため、圧延疵の発生を低減することが可能となる。
【実施例】
【0033】
(実施例)
角380mm×490mm×長さ4000mmのSCR420の鋼材をウォーキングビーム式の連続加熱炉に装入して昇温する場合の図2に示す熱計算モデルを生成した。図2のモデルは、加熱炉縦断面の二次元モデルであり、計算対象とした鋼材以外の他の鋼材からの輻射伝熱を考慮するため、対象鋼材の前後2本の鋼材についても計算を行った。モデルの簡略化のため、バーナーのフレームと炉体壁を同一と見なし、加熱炉内を鋼材が移動する代わりに、炉体上壁、炉体下壁から加熱炉内鋼材位置の設定温度に応じた輻射が生じるものとした。また、加熱炉内の雰囲気ガスについても加熱炉内鋼材位置の設定温度に変化させた。
【0034】
一定の生産性・加熱炉温度設定の条件で、加熱炉内の鋼材配置間隔を変化させて熱計算を行った結果をグラフにしたものを図3に示す。なお、この形状では、鋼材表面の中では、鋼材側面中央部が最も温度が低くなったため、図3には代表として加熱炉抽出時の鋼材側面中央の温度を示した。図3の生産性・加熱炉温度設定の条件では、図3中に示した本実施例の鋼材配置間隔の時に鋼材側面中央の温度の計算値が最も高くなった。
【0035】
実際に角380mm×490mm×長さ4000mmのSCR420の鋼材を図3中に示した本実施例の配置間隔でウォーキングビーム式の連続加熱炉に装入して昇温し、50本圧延を行った。加熱炉抽出時の鋼材側面中央部の温度を放射温度計で測定したところ、図3の計算結果とほぼ一致した。
【0036】
(比較例1)
図3中に示した比較例1の鋼材配置間隔では、本実施例の鋼材配置間隔より小さいため、在炉時間は長くなるものの、昇温が遅く、鋼材側面中央の温度の計算値は本実施例の場合より低くなった。
【0037】
実際に角380mm×490mm×長さ4000mmのSCR420の鋼材を図3中に示した比較例1の配置間隔でウォーキングビーム式の連続加熱炉に装入して昇温し、50本圧延を行った。加熱炉抽出時の鋼材側面中央の温度を放射温度計で測定したところ、図3の計算結果とほぼ一致した。
【0038】
(比較例2)
図3中に示した比較例2の鋼材配置間隔では、本実施例の鋼材配置間隔より大きいため、昇温は速いが、在炉時間は短くなり、鋼材側面中央の温度の計算値は本発明例の場合より低くなった。
【0039】
実際に角380mm×490mm×長さ4000mmのSCR420の鋼材を図3中に示した比較例2の配置間隔でウォーキングビーム式の連続加熱炉に装入して昇温し、50本圧延を行った。加熱炉抽出時の鋼材側面中央の温度を放射温度計で測定したところ、図3の計算結果とほぼ一致した。よって、本発明の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法の妥当性が証明された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法の処理を示すフローチャートである。
【図2】本実施形態で使用する加熱炉の縦方向断面の2次元モデルである。
【図3】一定の生産性・加熱炉温度設定の条件で、加熱炉内の鋼材配置間隔を変化させて熱計算を行った結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼材が所定の間隔をもって配列して搬送される連続式加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法であって、
前記加熱炉及び前記鋼材の初期条件を設定する初期設定ステップと、
一定の生産性及び加熱炉温度設定の条件で、前記加熱炉内の前記鋼材の配置間隔を変化させた形状モデルを生成し、輻射伝熱を含む熱計算を行い、各配置間隔ごとの鋼材表面の温度を算出する鋼材表面の温度抽出ステップと、
前記各配置間隔ごとの鋼材表面の温度の最高値を判別し、鋼材表面の温度が最高となる間隔を鋼材の配置間隔と決定する鋼材間隔決定ステップと、
を有することを特徴とする加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法。
【請求項2】
前記鋼材表面の温度は、複数の鋼材が所定の間隔をもって配列した場合に対向する鋼材側面部の温度であることを特徴とする請求項1に記載の加熱炉内の鋼材配置間隔決定方法。



【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1548(P2010−1548A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163114(P2008−163114)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】