説明

加熱硬化型シリコーン組成物

【解決手段】アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、SiH基を含有するオルガノポリシロキサンを主成分とするシリコーン組成物にある種の鉄錯体を添加し加熱することにより、シリコーン硬化物の形成が可能になる。更に、この組成物に白金族金属化合物やフェノール誘導体を添加すると、その反応が促進される。
【効果】本発明では鉄(III)アセチルアセトナートをシリコーン組成物に添加し加熱するとシリコーン硬化物が得られる。また添加剤に白金族金属化合物や3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)といったフェノール誘導体を用いると、鉄(III)アセチルアセトナートが活性化されその反応が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱硬化型のシリコーン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーン組成物を硬化させる方法は様々な方法があり、有機金属試薬による縮合反応、有機過酸化物を用いた加硫、紫外線照射などが認知されている。その中でも金属触媒を用いたヒドロシリル化反応は副生成物が少なく、反応が容易であるといった面から工業的に使用されている。ヒドロシリル化反応に用いられる金属触媒にはパラジウム、ロジウムなどがあるが、特に白金は効率が高く、操作が簡便などといった面から最もよく使用されている(非特許文献1〜3)。しかし、近年はレアメタルの需要増加により金属価格上昇が顕著であり、特に白金は使用用途が多いため価格上昇の割合が高い。そこで、白金に変わる安価な金属触媒を用いてシリコーン組成物を硬化させることができれば、硬化方式として有用である。
【0003】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 1957. 79. 974.
【非特許文献2】J. Org. Chem. 1987. 52. 4118.
【非特許文献3】Org. Lett. 2005. 7. 5625.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記要望に応えたもので、鉄錯体を硬化触媒として用いた加熱硬化可能なシリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンを一定量配合したものに、触媒量の鉄(III)化合物を添加し、熱を与えると硬化物が形成されること、また添加剤としてフェノール化合物や白金族触媒を用いると、その反応が促進されることを見出した。
【0006】
即ち、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、SiH基を含有するオルガノポリシロキサンを主成分とするシリコーン組成物に鉄(III)アセチルアセトナート[以下、Fe(acac)3と記載]などの鉄(III)化合物を添加することで、白金族金属化合物を用いたヒドロシリル化反応と同様に硬化物が形成される。特に、Fe(acac)3と3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(以下、BHTと記載)といったフェノール誘導体、Fe(acac)3と白金族金属化合物、Fe(acac)3、BHTといったフェノール誘導体と白金族金属化合物を用いると、単にFe(acac)3を用いた場合と比較して、硬化物形成が速くなることを見出した。更に、Fe(acac)3、BHTといったフェノール誘導体と白金族金属化合物を用いたときは通常の白金族触媒によるヒドロシリル化反応よりも更に硬化開始が速くなることも確認した。本反応では、鉄錯体がSiH基と反応してSi(シリルラジカル)を形成し、そのSi(シリルラジカル)がラジカル反応を進行させ、膜形成が可能となると考えられる。また、白金族金属化合物やフェノール誘導体をこの組成物に添加することで、何らかの相互作用が発生し、上記したラジカル発生が活性化されたと考えられる。
【0007】
従って、本発明は、下記シリコーン組成物を提供する。
請求項1:
(A)下記組成式(1)で示される分子末端及び/又は側鎖にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部
【化1】


[式中、R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含んでもよい1価炭化水素基、R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、オルガノポリシロキサン分子中のアルケニル基の数は1個以上であり、a、b、c、dは0又は正の数である。但し、a、b、c、dはオルガノポリシロキサンの粘度を50〜100万mPa・sとする数である。]
(B)下記一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサン:ケイ素原子に結合した水素原子のモル数がオルガノポリシロキサン(A)成分中のアルケニル基のモル数に対して1.0〜10倍モルに相当する質量部
【化2】


(式中、R3は水素原子、又は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基であり、R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、eは0≦e≦100、fは0≦f≦100である。但し、1≦e+f≦200であり、かつSiH基を1分子中に1個以上有する。)
(C)下記に示す配位子を有する鉄(III)化合物:0.1〜10質量部
(配位子は、ハロゲン原子、酸素原子、酸素分子、アンモニア分子、ジカルボニル基、非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロシル基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、シクロペンタジエン、スルホン酸、塩素酸、硫酸、リン酸、硝酸、フェノール、チオフェノール、ポルフィン、フタロシアニン、ポルフィン誘導体、又はフタロシアニン誘導体から形成される。)
を含有するシリコーン組成物。
請求項2:
(C)成分の鉄(III)化合物が、下記組成式(3)
gFeh5ij・kH2O (3)
(式中、R5は、ハロゲン原子、酸素原子、酸素分子、アンモニア分子、ジカルボニル基、非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロシル基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、シクロペンタジエン、スルホン酸、塩素酸、硫酸、リン酸、硝酸、フェノール、チオフェノール、ポルフィン、フタロシアニン、ポルフィン誘導体、又はフタロシアニン誘導体から形成される配位子である。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は第四級アンモニウムイオン、Yはハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートである。h、iは0より大きい正数、g、jは0以上の数であるが、g、h、i、jは式(3)の化合物全体が中性となり、更に鉄原子の酸化数が三価となるような数である。kは0≦k≦12を満足する数である。)
で示されるものである請求項1記載のシリコーン組成物。
請求項3:
(C)成分の鉄(III)化合物が、鉄(III)アセチルアセトナートである請求項2記載のシリコーン組成物。
請求項4:
更に、(D)下記一般式(4)で示されるフェノール化合物を、鉄(III)化合物(C)に対して0.5〜6.0倍モルとなる量を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーン組成物。
【化3】


(式中、R6は水素原子、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、ヒドロキシル基、又はハロゲン原子であるが、R6の全てが水素原子になることはない。)
請求項5:
(D)成分が、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエンである請求項4記載のシリコーン組成物。
請求項6:
更に、(E)白金族金属化合物を(A)、(B)成分のオルガノポリシロキサンの総量に対して白金族金属量として5〜1,000ppm含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーン組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、SiH基を含有するオルガノポリシロキサンを主成分とするシリコーン組成物に上記鉄錯体を添加し加熱することにより、シリコーン硬化物の形成が可能になる。更に、この組成物に白金族金属化合物やフェノール誘導体を添加すると、その反応が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のシリコーン組成物は、上記(A)〜(C)成分を主成分としており、以下各成分に関して詳しく説明する。
(A)下記組成式(1)で示される分子末端及び/又は側鎖にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンである。
【化4】

【0010】
ここで、R1はアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含んでもよい、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、R2は脂肪族不飽和結合を含まない、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。具体的には、R1は−(CH2m−CH=CH2(mは0〜6)で表されるアルケニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であるが、硬化性の面からR2の80モル%以上がアルキル基であることが望ましく、更にメチル基であることが好ましい。
【0011】
オルガノポリシロキサン分子中のアルケニル基の数は1個以上であればよく、好ましくは2個以上であり、入手の容易さや経済面からはアルケニル基としてビニル基を有するものが好ましい。具体的には、末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン、側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン、末端及び側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン、末端にトリビニルシロキシ基を有するオルガノポリシロキサン、末端にトリビニルシロキシ基を有し側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。好ましくは分子中のアルケニル量が0.0025mol/100g以上であり、更に好ましくは0.0034mol/100g以上である。
【0012】
a、b、c、dは0又は正の数であり、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンの粘度を50〜100万mPa・sとする数、好ましくは400〜10万mPa・sとなる数であればよい。このオルガノポリシロキサンの粘度が50mPa・s未満だと硬化膜の形成速度が低下し、100万mPa・sより大きくなると組成物の粘度が高くなり取り扱いが難しくなる。なお、上記粘度は回転粘度計を用いて測定する。
また、このオルガノポリシロキサンの配合量としては、100質量部を基準として、他の成分の配合比を調整する。
【0013】
(B)成分は、下記一般式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【化5】

【0014】
ここで、R3は水素原子、又は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、脂肪族不飽和結合を有さない。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などが挙げられる。R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、脂肪族不飽和結合を有さない。1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などが挙げられる。また、eは0≦e≦100、fは0≦f≦100の範囲にあればよい。但し、1≦e+f≦200であり、かつSiH基を1分子中に1個以上、好ましくは2個以上、更に好ましくは3個以上有し、好ましくは分子中のSiH基量が0.65mol/100g以上、好ましくは0.65〜5.0mol/100g、より好ましくは0.9〜2.0mol/100gである。この値より少ないと、シリコーン硬化物の強度が減少してしまう。
【0015】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、ケイ素原子に結合した水素原子のモル数がオルガノポリシロキサン(A)成分中のアルケニル基のモル数に対して1.0〜10倍モルに相当する質量部になるようにすればよく、好ましくは1.5〜5.0倍モルに相当する質量部であればよい。配合量が1.0倍モル未満では硬化が不十分となり、また10倍モルを超えると、脱水素量が増加し、良好な硬化物が得られない。
【0016】
(C)成分は、配位子を有する鉄(III)化合物であり、そのような化合物は一般的に下記組成式(3)で示すことができる。
gFeh5ij・kH2O (3)
【0017】
ここで、R5はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;酸素原子又は酸素分子;アンモニア分子;アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、アセト酢酸エチル、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をハロゲン原子などで置換した1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオンなどのジカルボニル基;非置換又は置換の炭素数1〜10の1価アルコキシ基であり、非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有さない、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸等のカルボキシル基;シアノ基;ニトロシル基;フェノール、又はこの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部を非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基で置換した2,3,5,6−テトラエチルフェノール等のフェノキシ基;チオフェノール、又はこの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部を非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基で置換した2,3,5,6−テトラエチルチオフェノール等のチオフェノキシ基;シクロペンタジエン等の芳香族基;p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸;塩素酸;硫酸;リン酸、ポリリン酸等のリン酸;硝酸;ポルフィン又はポルフィンの2,3,5,7,8,10,12,13,15,17,18,20位を非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基などの非置換又は置換の炭素数1〜10のアルケニル基、フェニル基又は炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をフッ素、メトキシ基などで置換したペンタフルオロフェニル基、4−メトキシフェニル基などで置換したポルフィン誘導体;又はフタロシアニン又はフタロシアニンの4,4’,4’’,4’’’位をスルホン酸で置換したフタロシアニン誘導体などから形成される配位子である。Xはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンといった第四級アンモニウムイオンなどの塩を形成する陽イオンである。Yはフッ素、塩素、臭素などのハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェートなどの塩を形成する陰イオンである。h、iは0より大きく、g、jは0以上であるが、g、h、i、jは金属塩全体が中性となるような数であり、更に、g、h、i、jは鉄原子の酸化数が三価となるような数である。kは0≦k≦12である。
【0018】
上記組成式(3)で示される化合物の具体例としては、下記のものが例示される。なお、下記例でEtはエチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基、Acはアセチル基である。
FeF3
FeF3・3H2
FeCl3
FeCl3・6H2
FeBr3
Fe23
LiFeO2
Fe34
Fe4[Fe(CN)6
Fe(OEt)3
【化6】

【0019】
Fe2(C243・6H2
(NH43[Fe(C243]・3H2
(NH43[Fe(C243]・3H2
【化7】

【0020】
3[Fe(CN)6
NEt4[Fe(CN)6
Na2[Fe(CN)5(NH3)]・H2
Na[Fe(CN)5(NO)]・2H2
【化8】

【0021】
Fe(ClO43・H2
NH4[Fe(SO)4
NH4[Fe(SO)4・12H2O]
Fe2(SO)3
Fe(PO)4
Fe(PO)4・2H2
Fe(PO)4・4H2
Fe4(P273
Fe(NO)3・H2
【化9】

【0022】
【化10】

【0023】
これらの鉄(III)化合物の安定性、使用性の面を考慮すると、配位子としてはジカルボニル基が好ましく、鉄(III)化合物としては鉄(III)アセチルアセトナートFe(acac)3が好適に使用できる。また、鉄(III)化合物の配合量としては、(A)成分100質量部に対し0.1〜10質量部であるが、好ましくは0.3〜5質量部である。この鉄(III)化合物が0.1質量部に満たないと十分な硬化速度が得られず、10質量部を超えて配合しても硬化速度に変化は見られない。
【0024】
特定のフェノール化合物(D)を(A)〜(C)成分を含むシリコーン組成物に添加すると、単に鉄(III)化合物を用いた場合と比較して、硬化物形成が速くなることがある。
この(D)成分は、フェノール化合物であり、下記一般式(4)で示される。
【化11】

【0025】
6は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、ビニル基、アリル基、ブテニル基などのアルケニル基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したトリフルオロメチル基、ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などの非置換又は置換の炭素数1〜10の1価アルコキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、ヒドロキシル基などが挙げられるが、R6の全てが水素原子になることはない。硬化速度、硬化物強度の面から3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)が最も好ましい。
【0026】
また、フェノール化合物(D)の配合量は、鉄(III)化合物(C)に対して0.5〜6.0倍モルに対応する質量部が好ましい。0.5倍モル未満では十分な硬化加速効果が得られず、6.0倍モル超では硬化開始は速くなるが、硬化物の強度が減少してしまう。
【0027】
更に、白金族金属化合物(E)を上記したシリコーン組成物に触媒量添加すると、単に鉄(III)化合物を用いた場合や白金族金属化合物によるヒドロシリル化反応と比較して、硬化物形成が速くなることを確認した。
【0028】
(E)成分は触媒量の白金族金属化合物であり、この白金族金属化合物としては公知の付加反応触媒が使用できる。このような白金族金属触媒としては、例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系等の触媒が挙げられ、これらの中で特に白金系触媒が好ましく用いられる。この白金系触媒としては、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィン又はビニルシロキサンとの錯体などが挙げられる。これら白金族金属触媒の添加量は触媒量であるが、経済的な点を考慮して(A)、(B)成分のオルガノポリシロキサンの総量に対して、白金族金属量として5〜1,000ppmの範囲とすればよく、10〜150ppmとすることがより好ましい。
【0029】
本発明のシリコーン組成物は、上記成分の所定量を配合することによって得られるが、上記の各成分以外に、任意成分として、例えば白金族金属化合物の付加反応触媒としての活性を制御する目的で、各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などの反応制御剤や安定剤、耐熱向上剤、充填剤、顔料、レベリング剤、基材への密着性向上剤、帯電防止剤、消泡剤、非反応性オルガノポリシロキサンなどを添加してもよい。任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0030】
このシリコーン組成物は、例えば、剥離紙、接着剤、型取り剤、LIMS成形剤、コーティング剤などに利用される。
【0031】
なお、上記シリコーン組成物の硬化は、50〜200℃で行うことが好ましく、この場合加熱時間が1秒〜180分とすることが有効である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、下記例において、表中の物性は、下記の試験法により測定されたものである。
【0033】
[シリコーン組成物の硬化性評価方法1]
シリコーン組成物を調製後、アルミシャーレに2g秤量し、105℃で1時間加熱した。○は組成物全体が硬化した場合を、△は組成物全体が硬化したが硬化物表面にタックがある場合を、×は組成物全体が未硬化の場合を示す。
【0034】
[実施例1]
本発明の(A)成分に該当する下記組成式
【化12】


で示される25℃における粘度が400mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.0185mol/100gであるオルガノポリシロキサン(A1)を100質量部、下記組成式
【化13】


で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(B1)を2.1質量部、鉄(III)アセチルアセトナートを2質量部均一に混合し、シリコーン組成物1を得た。このシリコーン組成物1を、上記の方法1にて硬化させ、指触により硬化性を確認した。結果を表1に示した。
【0035】
[実施例2]
実施例1のオルガノポリシロキサン(A1)を100質量部、メチルハイドロジェンポリシロキサン(B1)を2.1質量部、鉄(III)アセチルアセトナートを2質量部、50質量%3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)溶液(トルエン溶液)を1.5質量部[鉄(III)アセチルアセトナートに対して0.9倍モル]均一に混合し、シリコーン組成物2を得た。このシリコーン組成物2を、上記の方法1にて硬化させ、指触により硬化性を確認した。結果を表1に示した。
【0036】
[比較例1]
実施例1のオルガノポリシロキサン(A1)を100質量部、メチルハイドロジェンポリシロキサン(B1)を2.1質量部均一に混合し、シリコーン組成物3を得た。このシリコーン組成物3を、上記の方法1にて硬化させ、指触により硬化性を確認した。結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

*1:(A1)成分のアルケニル基の総モル数に対する(B1)成分のケイ素原子に結合した水素原子のモル数比率
*2:(C)成分の総モル数に対する(D)成分の総モル数(分子)
【0038】
[シリコーン組成物の硬化性評価方法2]
シリコーン組成物を調製後、その組成物の硬化性について調べた。この測定に用いたトルク検知式硬化性評価機はレオメータの一種で、JIS K 6300に規定されており、アルファテクノロジー製のMDR2000(商品名)を使用した。加熱温度は50〜200℃(昇温速度5℃/分)であり、30分加熱した。また、シリコーン組成物のトルク値が30分経過後を100%としたとき、硬化完了はトルク値が90%以上の状態になった時とし、その時間をT90(分)とする。
【0039】
[実施例3]
本発明の(A)成分に該当する下記組成式
【化14】

で示される25℃における粘度が10,000mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.0053mol/100gであるオルガノポリシロキサン(A2)を100質量部、下記組成式
【化15】


で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(B2)を0.55質量部、鉄(III)アセチルアセトナートを0.3質量部、エチニルシクロヘキサノール0.25質量部を均一に混合した混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を0.3質量部(白金換算15ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物4を得た。このシリコーン組成物4を上記の方法2にて硬化させ、T90の測定を行った。結果を表2に示した。
【0040】
[実施例4]
実施例3の鉄(III)アセチルアセトナートを0.8質量部使用した以外は実施例3と同様にし、混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を0.3質量部(白金換算15ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物5を得た。このシリコーン組成物5を上記の方法2にて硬化させ、T90の測定を行った。結果を表2に示した。
【0041】
[実施例5]
実施例3の鉄(III)アセチルアセトナートを1.4質量部使用した以外は実施例3と同様にし、混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を0.3質量部(白金換算15ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物6を得た。このシリコーン組成物6を上記の方法2にて硬化させ、T90の測定を行った。結果を表2に示した。
【0042】
[実施例6]
オルガノポリシロキサン(A2)を100質量部、メチルハイドロジェンポリシロキサン(B2)を0.55質量部、鉄(III)アセチルアセトナートを1.4質量部、エチニルシクロヘキサノール0.25質量部、50質量%3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)溶液(トルエン溶液)を1.5質量部[鉄(III)アセチルアセトナートに対して0.9倍モル]均一に混合し、混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を0.3質量部(白金換算15ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物7を得た。このシリコーン組成物7を上記の方法2にて硬化させ、T90の測定を行った。結果を表2に示した。
【0043】
[実施例7]
実施例6の50質量%3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)溶液(トルエン溶液)を10質量部[鉄(III)アセチルアセトナートに対して3.0倍モル]とした以外は実施例6と同様にし、混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を0.3質量部(白金換算15ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物8を得た。このシリコーン組成物8を上記の方法2にて硬化させ、T90の測定を行った。結果を表2に示した。
【0044】
[比較例2]
オルガノポリシロキサン(A2)を100質量部、メチルハイドロジェンポリシロキサン(B2)を0.55質量部、エチニルシクロヘキサノール0.25質量部を均一に混合し、混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を0.3質量部(白金換算15ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物9を得た。このシリコーン組成物9を上記の方法2にて硬化させ、T90の測定を行った。結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

*1:(A2)成分のアルケニル基の総モル数に対する(B2)成分のケイ素原子に結合した水素原子のモル数比率
*2:(C)成分の総モル数に対する(D)成分の総モル数(分子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記組成式(1)で示される分子末端及び/又は側鎖にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部
【化1】


[式中、R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含んでもよい1価炭化水素基、R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、オルガノポリシロキサン分子中のアルケニル基の数は1個以上であり、a、b、c、dは0又は正の数である。但し、a、b、c、dはオルガノポリシロキサンの粘度を50〜100万mPa・sとする数である。]
(B)下記一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサン:ケイ素原子に結合した水素原子のモル数がオルガノポリシロキサン(A)成分中のアルケニル基のモル数に対して1.0〜10倍モルに相当する質量部
【化2】


(式中、R3は水素原子、又は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基であり、R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、eは0≦e≦100、fは0≦f≦100である。但し、1≦e+f≦200であり、かつSiH基を1分子中に1個以上有する。)
(C)下記に示す配位子を有する鉄(III)化合物:0.1〜10質量部
(配位子は、ハロゲン原子、酸素原子、酸素分子、アンモニア分子、ジカルボニル基、非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロシル基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、シクロペンタジエン、スルホン酸、塩素酸、硫酸、リン酸、硝酸、フェノール、チオフェノール、ポルフィン、フタロシアニン、ポルフィン誘導体、又はフタロシアニン誘導体から形成される。)
を含有するシリコーン組成物。
【請求項2】
(C)成分の鉄(III)化合物が、下記組成式(3)
gFeh5ij・kH2O (3)
(式中、R5は、ハロゲン原子、酸素原子、酸素分子、アンモニア分子、ジカルボニル基、非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロシル基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、シクロペンタジエン、スルホン酸、塩素酸、硫酸、リン酸、硝酸、フェノール、チオフェノール、ポルフィン、フタロシアニン、ポルフィン誘導体、又はフタロシアニン誘導体から形成される配位子である。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は第四級アンモニウムイオン、Yはハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートである。h、iは0より大きい正数、g、jは0以上の数であるが、g、h、i、jは式(3)の化合物全体が中性となり、更に鉄原子の酸化数が三価となるような数である。kは0≦k≦12を満足する数である。)
で示されるものである請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項3】
(C)成分の鉄(III)化合物が、鉄(III)アセチルアセトナートである請求項2記載のシリコーン組成物。
【請求項4】
更に、(D)下記一般式(4)で示されるフェノール化合物を、鉄(III)化合物(C)に対して0.5〜6.0倍モルとなる量を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーン組成物。
【化3】


(式中、R6は水素原子、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、ヒドロキシル基、又はハロゲン原子であるが、R6の全てが水素原子になることはない。)
【請求項5】
(D)成分が、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエンである請求項4記載のシリコーン組成物。
【請求項6】
更に、(E)白金族金属化合物を(A)、(B)成分のオルガノポリシロキサンの総量に対して白金族金属量として5〜1,000ppm含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーン組成物。

【公開番号】特開2009−263552(P2009−263552A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116641(P2008−116641)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】