説明

加熱装置

【課題】 比重差の大きい金属同士や金属とセラミックスの合金で起こりやすいそれらの比重差による分離を複雑なプロセスなしに均一合金とするあるいは均一分散体とするための加熱処理装置を提供することを課題とした。
【解決手段】 誘導加熱装置にかける交番磁場に対応してその水平面内の直角方向に交番磁場に同調して方向が変化するように被処理物質に交番電流を流して、重力の反対方向への力場を与えることによって実質的に該被処理物質を実質的に無重力下で加熱処理ができる誘導加熱装置による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として金属の溶解用の誘導加熱装置にかかり、比重の異なる2成分以上からなる金属、あるいは金属と非金属を均一に分布させた合金や均一に粒子を分散させた金属体を製造するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金の製造や粒子分散金属の製造ではその比重差が小さく、融点の近い金属同士や金属と粒子の合金であれば誘導加熱によって融解を行えばその攪拌作用と相まって均一な合金が得られる。合金成分を融体化する場合に、双方の融点が大きく異なる場合は量比を変えた合金をあらかじめ作成しておき、その合金同士を融解することによってある程度の均一化が図れるので、通常の合金ではこのような手法のとられることが多い。しかしながら、このような場合でも合金成分同士に比重差があり、それが大きい場合は、たとえ合金粉末同士を再溶解しても、溶解中に比重差による分離が起こってしまい、単純な混合溶解よりはいくらかましではあるが、部分部分によって組成が変わってしまうという問題点があった。
【0003】
また一方は溶解するが一方は溶解し難い場合あるいは細かい粒子を金属内に分散させるなどして機能を向上させた粒子分散型金属や合金を作成する場合、粒子と金属の比重が近ければ必要に応じて粒子の金属とのぬれ性を向上させるように粒子表面にあらかじめ該金属をメッキなどによって被覆しておくこと、またはそのまま混合しても誘導溶解では中で攪拌しながら溶解するができそれによって比較的容易に粒子が分散した合金が得られる。しかし合金成分に大きな比重の差異がありしかも片方が粒子の様な場合、比重差に応じて溶解中に分離してしまう可能性が大きい。特に白金やイリジウム、あるいはタングステンやタンタルの場合その比重は20g/ml以上あるのに対してこれにセラミックス微粉体などを分散する場合セラミックスの比重は10g/ml以下、通常は3から7g/mlが多いため、比重差が極めて大きいので合金を作ること、あるいはセラミックス粒子を白金やイリジウムなどの白金属金属や、タングステンなどに添加し、分散させて均一な合金や混合物を得ることは内部で撹拌していても困難であった。 つまり混合しなければならない粉末や粒子が浮いてしまい、攪拌機能がある高周波誘導溶解でもでも均一にはなりにくかった。
【0004】
最近脚光を浴びている液晶の基盤ガラスの製作用にその溶解坩堝として高温強度の必要なジルコニアなどの粒子を分散した白金が使われるが、このような合金の製造に当たっては通常の溶解法では成分の比重差から分離が起こり、分散させることができないために、特別な方法がとられている。つまり、アトマイズ法の様に、金属中に粉末が入った母合金の粉末を作り、それを焼結する(特開平06−336631)。あるいは白金について白金金属粉末の周りに水酸化ジルコニウムを水中で坦持させ、それを焼結し、鍛造する等の方法によっている(特開2002−012924)。 また、通常では粉末を粉末冶金の方法で作成した母合金粉末を成形し、HIP(高温等方プレス法)によって空隙率を最小にしながら金属体とするなどの方法がとられている。これらの粉末焼結や、鍛造、あるいはHIP法でもあくまでも金属は溶解ではないので、十分な充填率が得られないこと、またこれでも完全に均一になる保証はなく、必ずしも均一にはならないという問題点が残されていた。
なお金属の溶解に電磁誘導法を使用することに関しては多くの文献や特許が出されているが、いずれも加熱の効率化等に関するものであった。
【特許文献1】特開平06−336631
【特許文献2】特開2002−012924
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
比重差の大きい金属同士や金属とセラミックスの合金で起こりやすいそれらの比重差による分離を複雑なプロセスなしに均一合金とするあるいは均一分散体とするための加熱処理装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、誘導加熱装置にかける交番磁場に対応してその水平面内の直角方向に交番磁場に同調して方向が変化するように被処理物質に交番電流を流して、重力の反対方向への力場を与えることによって実質的に該被処理物質を実質的に無重力下で加熱処理ができる誘導加熱装置であって、誘導加熱装置に於ける交番磁場とそれに直角方向に交番磁場に同期させて交番電流を流すことによっていわゆるフレミングの法則に則る力場を形成しそれを重力と反対方向にかけるようにして実質的に被処理物の処理中は重力が相殺される様にしてほぼ無重力状態での加熱を可能とするとともに、誘導加熱によって被処理融体を撹拌することにより均一な合金あるいは分散体を得ることができるようになった。
【0007】
つまり、本発明はフレミングの左手の法則を利用して重力と反対方向に力の発生が行われるようにし、重力場に逆らってほぼ重力と同じ力を働かせることによって無重力に近づけると同時に磁場によって与えられる誘導電流によって被処理体を加熱し、必要に応じて他の熱源と共に、被処理物質を融体化し該誘導電流に伴う融体の撹拌作用によって被処理物質を均一化するものである。つまり導電体の高温加熱や融解にはしばしば高周波加熱法が取られるがこれは高周波コイルによって、被処理体内に電流が流れ発熱する事によって目的が達成される。通常はこの電場或いは磁場を逃がさないような構造体とすることによって効率よく熱に変え流努力が行われている。此処では交番磁場が与えられこれが熱となるわけであるが、これとは別に直角方向に同期して電流が流され、溶解とは別に所謂フレミングの左手の法則によってそれらの向きに対して直角の方向に力が掛かる。高周波誘導加熱の場合それに使われる磁場は交番磁場であるので、磁場の方向は常に反転している。これにかける電場を同期させて反転することにより常に一方向向きの力をくわえる事が出来るようになる。このようにして重力と釣り合わせれば実質的に無重力の状態での溶解が可能となる。
【0008】
此処で使用する誘導加熱装置はコイルを重力方向に垂直の方向に置き、この中に融体(融体の前駆体)を通すようにする。一方この流れと重力方向の何れにも直角の方向に該融体中に磁場に同期させて電流を流す。なお誘導加熱は通常行われる高周波法が望ましいが、その周波数は50から500Hzが望ましい。これは誘導加熱に同期させて被処理体に交番電流を流すことになるが、被処理体によるが、その静電容量によっては周波数が高くなると電流方向を変えてもそれに追随しなくなるからであり、金属の場合は容量が比較的小さいので問題は少ないと考えられるが、それでも500Hz程度以下であることが望ましい。これによって重力場の方向で重力と反対向きに重力場とほぼ同じ大きさの力を発生させることが出来る。なお誘導磁場とこれに同期させた電流場は被処理体の比重や必要とする温度によって変化させる必要があるので、同期はさせるものの、それらの強度は独立に変化させるようにすることが必要である。
【0009】
被処理体はこの中で溶解される。被処理材はこれらのコイル中にバッチ的に置いても良いし、或いは外で溶解または半溶解しておき、または粉末状にして連続的に処理し、半融体で連続的に取り出すようにしても良い。いずれにしてもこれによって溶解部分は基本的には無重力に近い条件で撹拌されながらの溶解が可能となる。一例を図1に示す。つまり中央に電流通電用の被処理体のボートがあり、その外側に誘導磁場発生用のコイルが置かれる。これによって誘導磁場がボートの長手方向に起こる。又このコイルに平行してボート内におかれた電極により被処理体に電流が流され電場が形成される。電場、磁場共に高周波であり、通常の金属では300Hz程度である。もちろんこの周波数は被処理体の条件によって変えることができる。なお電場と磁場の方向は同期させているので、これによって形成される力はこれらの磁場と電場の直角方向、で重力方向の逆となる。勿論これは重力加速度を増加して遠心分離的な作用を与える事によって傾斜材料的な合金を作ることもできるが、ここでは、重力と逆方向に向けることによって無重力状態での混合物や合金を作るのに使われる。
【0010】
例えば液晶基盤ガラス溶融用の、ジルコニア分散白金の場合では酸化ジルコニウムの比重が約5g/ccであるのに対して白金が約22g/ccと極めて大きな差が有り、反応もしないので普通の溶解では均一にならないことは上述の通りである。このような場合に本提案のプロセスで溶解すると、誘導磁場により白金が撹拌され酸化ジルコニウムが中に均一に分散する。これを冷却すれば均一に酸化ジルコニウムの分散した白金が得られる。このプロセスは連続でも良いしバッチでも良いこと上述の通りである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に示すように、中央部に被処理材を流す、あるいは入れて処理をするためのセラミックス製の流路あるいはボートを起きその周辺に磁場を発生させるための高周波コイルを置く。また被処理材用のボートあるいは流路の内側には磁場の軸方向に平行に二つの電極が置かれ、そこには電極から融体を通じて電流が流され、電場を形成する。この電極は被処理体と反応しにくいこと、導電性が良いこと、耐熱性が十分にあることが必要であり、更にジルコニア分散白金の溶解用では酸化雰囲気が必要であり、そのためには安定で部分溶解はするがその影響が少ないイリジウム金属、あるいはある程度の消耗を考慮して炭素を使うことが有効である。図1ボート(3)に被処理体の比重の大きく異なる金属成分や白金とジルコニア微粉などの金属と分散用のセラミックス体粉末が入れられる。最初周囲の誘導磁場用のコイル(4)(に高周波が通電されるとボート内の金属が溶解される。ついで、ボート内の電極(5)に誘導磁場の高周波と同期させた電流を流す。これによって重力と反対方向に力が働き、被処理体の融体は実質的に無重力となり、比重の異なる白金とジルコニア粒子が互いに分散すると共に誘導加熱による撹拌効果で全体が均一となる。このように均一になったところで、冷却をして固化することによって均一にジルコニアを分散した白金を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
実質的に無重力での金属の溶解ができる、あるいは均一にセラミックス粉末、繊維を分散した金属が得られる本プロセスは特に金属合金分野における各種合金の製造に有用であるばかりでなく、金属とセラミックスとの複合体や、強化合金製造などに広く応用が可能であり、たとえば、軽量化が必須である、自動車用アルミニウムパネルを強化剤とすること、また上記したような強化白金による材料剛性の高まりから、より安定的に液晶用のガラス基盤を製造する。等、直接の製品から、製品を作るための加工部分まで多くの有用な使用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明装置の模式図であり、正面と平面の断面図を示した。
【符号の説明】
【0014】
1. 平面断面図
2. 正面断面図
3. 被処理体用ボート
4. 誘導磁場用コイル
5. 電極
6. 磁場の方向
7. 電場の方向
8. 重力
9. フレミング力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱装置にかける交番磁場に対応してその直角方向に該交番磁場に同調して方向が変化するように被処理物質に交番電流を流して、重力の反対方向への力場を与えることにより実質的に該被処理物質を実質的に無重力下で加熱処理ができる誘導加熱装置。
【請求項2】
交番磁場を高周波電流によってかけるようにしたことを特徴とする請求項1の誘導加熱装置。
【請求項3】
高周波電流の周波数が50から500Hzであることを特徴とする請求項1及び2の誘導加熱装置。
【請求項4】
交番磁場に同期された交番電場を磁場の強度とは独立に変化できる様にしたことを特徴とする請求項1及び2の誘導加熱装置。
【請求項5】
誘導加熱装置が金属の溶解装置であることを特徴とする請求項1から3の誘導加熱装置。
【請求項6】
誘導磁場が水平にかかり、同じ水平方向で磁場とは直角の方向に電場をかける様にしたことを特徴とする請求項1から4の誘導加熱装置。
【請求項7】
被処理物を磁場の軸方向に流すようにしたことを特徴とする請求項1から5の誘導加熱装置。
【請求項8】
被処理物の予備加熱機構を有することを特徴とする請求項1から6の誘導加熱装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−49250(P2006−49250A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245964(P2004−245964)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(399027783)
【Fターム(参考)】