説明

加熱装置

【課題】熱分析に要する時間を短縮することができるとともに、高分子試料の温度に応じた熱分析を実施することができる加熱装置を提供する。
【解決手段】試料容器に収容された高分子試料をヒータで加熱し生成された複数の気相成分を分析する熱分析に用いられる加熱装置1は、試料容器4が内部に載置される石英管2と、石英管2の外側に間隔を存して保持された金属管5と、金属管5の内側面に軸方向に沿って形成された溝部6と、溝部6に収納され、試料容器4に対向する位置に設けられた温度センサ8と、金属管5の外周に配設された円筒状のセラミックヒータ3とを備える。金属管5は、試料容器4に対向する位置を含む第1の領域5aが熱伝導性に優れる第1の金属からなるとともに、第1の領域5a以外の第2の領域5bが第1の金属と比較して熱伝導性が低い第2の金属からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子試料の熱分析に用いられる加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子試料の組成や分子構造の微細構造を解析するために、加熱装置により該高分子試料を加熱して複数の気相成分を生成させ、該気相成分をガスクロマトグラフ装置(GC)、質量分析装置(MS)等の分析装置に導入して分析する熱脱着・熱分解−GC・MS法が用いられている。
【0003】
従来、前記加熱装置として、高分子試料を収容した試料容器が内部に載置される石英管と、該石英管の外側に配設されたブロックヒータとを備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。前記ブロックヒータは、金属製ブロックの内部にヒータが挿入されてなる。
【0004】
しかしながら、前記従来の加熱装置によれば、前記金属製ブロックの熱容量が大きいために、該ブロック自体をヒータで所望の温度に昇温させて安定させるまでに時間が掛かり、この結果として、熱分析時間が長くなるという不都合がある。
【0005】
ところで、前記分析では、各気相成分の生成量のみならず生成温度をも分析することにより、前記高分子試料についてさらに詳しい知見を得ることができる。よって、前記高分子試料の組成や分子構造の微細構造を詳しく解析するためには、各気相成分が生成するときの該高分子試料の温度を正確に把握することが望まれる。そこで、従来の前記加熱装置において、試料容器の内部に温度センサを挿入し、該試料容器内の高分子試料の温度を直接検知することが考えられる。しかし、加熱により高分子試料から生成した気相成分が前記温度センサを汚染することにより、前記分析装置における分析精度を低下させるおそれがあるという問題がある。
【0006】
そこで、前記従来の加熱装置では、前記金属製ブロックに温度センサを挿入し、該温度センサで検知された該ブロックの温度を補正することにより、試料容器の加熱温度を算出している。
【0007】
しかしながら、前記従来の加熱装置において、前記温度センサで検知された前記ブロックの温度に基づいて高分子試料の温度を制御する場合に、該ブロックの温度と、石英管内の試料容器内に挿入された温度センサにより検知された高分子試料の実際の温度との間に大きな温度差、例えば高分子試料の実際の温度が600℃のときに約60℃の温度差があることにより、該高分子試料の温度を精度よく制御することができないという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−24525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、前記不都合を解消するために、本発明は、分析に要する時間を短縮することができるとともに、高分子試料の温度に応じた分析を実施することができる加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、試料容器に収容された高分子試料をヒータで加熱し生成された複数の気相成分を分析する分析に用いられる加熱装置であって、該試料容器が内部に載置される石英管と、間隔を存して該石英管を内挿する金属管と、該金属管の内側面に軸方向に沿って形成された溝部と、該溝部に収納され、該石英管内に載置された該試料容器に対向する位置に設けられた温度センサと、該金属管を内挿する円筒状のセラミックヒータとを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の加熱装置は、前記セラミックヒータは、前記ブロックヒータを備える従来の加熱装置の金属製ブロックと比較して、熱容量が1/6程度と極めて小さいために、該セラミックヒータを迅速に昇温及び降温させることができる。したがって、本発明の加熱装置によれば、熱分析に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0012】
また、本発明の加熱装置は、前記石英管と前記円筒状のセラミックヒータとの間に前記金属管が配設されていることにより、該セラミックヒータの熱は、該金属管に輻射され該金属管を伝導して均一化された後に、前記石英管に輻射されることになる。このとき、前記セラミックヒータの熱は、前記金属管での均一化により、前記石英管に対して穏やかに輻射されるとともに、該石英管の周方向に対して均一に輻射されることとなる。したがって、本発明の加熱装置によれば、前記セラミックヒータの温度変化に対応して前記石英管内の前記高分子試料を速やかに加熱することができるとともに、該高分子試料を均一に加熱することができる。
【0013】
また、本発明の加熱装置では、前記温度センサは、前記金属管の内側面に軸方向に沿って形成された溝部に収容されることにより、前記石英管内に載置された前記試料容器に対向する位置であって且つ該試料容器の至近位置に配置される。これにより、前記温度センサにより検知される温度は、前記従来の加熱装置において前記ブロックヒータに挿入された温度センサで検知される温度と比較して、前記試料容器に収容された高分子試料の実際の温度に極めて近い値となる。例えば、前記高分子試料の実際の温度が600℃のとき、該温度と前記温度センサにより検知される温度との温度差は、数℃程度である。したがって、本発明の加熱装置によれば、前記温度センサにより検知される温度に基づいて前記高分子試料の温度を精度よく制御することができ、該高分子試料の温度に応じた熱分析を実施することができる。
【0014】
また、本発明の加熱装置において、前記金属管は、前記試料容器に対向する位置を含む第1の領域が熱伝導性に優れる第1の金属からなるとともに、第1の領域以外の第2の領域が第1の金属と比較して熱伝導性が低い第2の金属からなることが好ましい。前記構成によれば、前記金属管において、第1の領域から第2の領域へ伝導する熱を少なくして、前記試料容器に対向する位置を含む第1の領域に熱を集中させることができる。したがって、本発明の加熱装置によれば、前記試料容器内の前記高分子試料を効率よく加熱することができる。
【0015】
また、本発明の加熱装置において、前記温度センサにより検知された温度と前記高分子試料の温度とが一致するように、該温度センサにより検知された温度を補正して表示する温度表示手段を備えることが好ましい。前記構成によれば、前記温度表示手段が、前記温度センサで検知された温度を補正して得られた前記高分子試料の温度を表示することにより、該高分子試料の温度を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の加熱装置の構成を示す説明的断面図。
【図2】図1に示す加熱装置に係る石英管及び金属管を示す拡大断面図。
【図3】図2に示す石英管及び金属管の試料容器周辺部を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1に示す加熱装置1は、プラスチック等の高分子材料からなる試料(以下、高分子試料と略記する)を加熱し生成された複数の気相成分を分析装置に導入して分析する熱分析に用いられる装置である。
【0018】
加熱装置1は、鉛直方向に設けられた石英管2と、間隔を存して石英管2を内挿する円筒状のセラミックヒータ3とを備えている。
【0019】
石英管2は、高分子試料が収容された試料容器4が上端部から挿入可能であって、下端部はガスクロマトグラフ装置、質量分析装置等の分析装置(図示せず)に接続されている。石英管2の前記上端部は、キャリヤガス導入手段(図示せず)に接続され、例えばヘリウム、空気等のキャリヤガスが導入される。
【0020】
石英管2は、図2に示すように、前記下端部の内径が前記上端部の内径よりも小径となっており、該上端部と該下端部との間に形成された縮径部2aに試料容器4を載置可能とされている。石英管2は、図2に示すように、金属管5に内挿されていて、該金属管5の内周面に対して0.5mmの間隔を存している。
【0021】
試料容器4は、図3に示すように、一方が開口する有底筒状体からなる。試料容器4は、開口部に吊下部材4aを備えており、石英管2に容易に挿入できるようになっている。
【0022】
金属管5は、図2に示すように、試料容器4に対向する位置を含む第1の領域5aが、例えばNi,Au,Ag等の熱伝導性に優れる第1の金属からなるとともに、第1の領域5a以外の第2の領域5bが、例えばステンレス等の第1の金属よりも熱伝導性が低い第2の金属からなっている。金属管5の各領域5a,5bの表面にはSiOからなる薄膜(図示せず)が形成され、金属管5の耐熱性を確保するとともに、金属管5a自体の酸化を防止している。
【0023】
また、金属管5は、第2の領域5bのセラミックヒータ3で囲まれている部分に、軸方向に開口する開口部5cを備えるとともに、第2の領域5bのセラミックヒータ3の上方に延びる上端部に放熱用フィン5dを備えている。
【0024】
金属管5の内側面には、図3に示すように、軸方向に沿って形成された1条の溝部6が設けられている。溝部6には、断面視C字状の管状体7が開口部を石英管2に対向させて装着されている。管状体7の内部には、温度センサ8が収納され、石英管2に載置された試料容器4に対向する位置に配置されている。
【0025】
セラミックヒータ3は、内部に導線(図示せず)が螺旋状に配設されているとともに、外周面に空気導管9が螺旋状に巻着されている。前記導線の端部には、電源に接続されたNiリード線(図示せず)が銀蝋接続部3aにより接続されている。
【0026】
銀蝋接続部3aは、セラミックヒータ3の上端側に設けられ、冷却ファン(図示せず)から送風される冷却空気により冷却されている。また、銀蝋接続部5aは、その周方向外方に配設されている金属管5の第2の領域5bの上端部に設けられた放熱用フィン5dにより、第2の領域5bを介して放熱されている。銀漏接続部3aは、前記冷却空気による冷却及び放熱用フィン5dによる放熱により、セラミックヒータ3による加熱を抑制し、該加熱による酸化で前記導線と前記Niリード線との接続が外れることが防止されている。
【0027】
セラミックヒータ3は、前記導線に電圧が供給されることにより加熱され、空気導管9に冷却空気が供給されることにより冷却される。セラミックヒータ3への供給電圧量は、制御手段10によって制御される。制御手段10は、セラミックヒータ3と温度センサ8とに接続され、PID制御を行う。
【0028】
温度センサ8は、検知した温度と試料容器4内の高分子試料の温度とを厳密に一致させるように、検知した温度を補正して表示する温度表示手段11に接続されている。
【0029】
石英管2の外周側であってセラミックヒータ3の下流側には、気相成分付着防止用ヒータ12が設けられている。気相成分付着防止用ヒータ12は、石英管2の下端部を加熱することにより、高分子試料から生成された複数の気相成分が該下端部に付着することを防止することができる。
【0030】
次に、本実施形態の加熱装置1の作動について説明する。まず、セラミックヒータ3へ電圧を供給してセラミックヒータ3を加熱する。セラミックヒータ3は、前記ブロックヒータを備える従来の加熱装置の金属製ブロックと比較して、熱容量が1/6程度と極めて小さいので、迅速に昇温させることができる。したがって、本実施形態の加熱装置1によれば、熱分析に要する時間を短縮することができる。
【0031】
セラミックヒータ3の加熱を開始して温度が安定した後に、高分子試料が収容された試料容器4を石英管2内に挿入し、縮径部2aに載置し、前記加熱を継続する。
【0032】
前記加熱の際、石英管2とセラミックヒータ3との間に金属管5が配設されていることにより、セラミックヒータ3の熱は、金属管5に輻射され該金属管5を伝導して均一化された後に、石英管2に輻射されることとなる。このとき、セラミックヒータ3の熱は、金属管5での均一化により、石英管2に対して穏やかに輻射されるとともに、該石英管2の周方向に対して均一に輻射されることとなる。したがって、本実施形態の加熱装置1によれば、セラミックヒータ3の温度変化に対応して石英管2内の高分子試料を速やかに加熱することができるとともに、該高分子試料を均一に加熱あるいは熱分解することができる。
【0033】
また、本実施形態の加熱装置1では、金属管5は、試料容器4に対向する位置を含む第1の領域5aが熱伝導性に優れる第1の金属からなるとともに、第1の領域5a以外の第2の領域5bが第1の金属よりも熱伝導性が低い第2の金属からなる上に開口部5cを備えている。前記構成により、金属管5において、第1の領域5aから第2の領域5bへ伝導する熱を少なくして、試料容器4に対向する位置を含む第1の領域5aに熱を集中させることができる。したがって、本実施形態の加熱装置1によれば、試料容器4内の高分子試料を効率よく加熱することができる。
【0034】
高分子試料の加熱を開始して温度が安定した後に、温度センサ8により、高分子試料の温度を検知する。本実施形態の加熱装置1では、温度センサ8は、金属管5の内側面に形成された溝部6に装着された管状体7に収容されることにより、石英管2内に載置された試料容器4に対向する位置であって且つ該試料容器4の至近位置に配置されている。
【0035】
これにより、温度センサ8により検知される温度は、前記従来の加熱装置において前記ブロックヒータに挿入された温度センサで検知される温度と比較して、試料容器4に収容された高分子試料の実際の温度に極めて近い値となる。具体的には、前記高分子試料の実際の温度が600℃のとき、該温度と温度センサ8により検知される温度との温度差は、6℃以下である。そして、温度センサ8で検知された温度は、温度表示手段11より補正され、試料容器4内の高分子試料の実際の温度として表示される。したがって、本実施形態の加熱装置1によれば、温度表示手段11により表示される温度に基づいて高分子試料の温度を精度よく制御することができ、該高分子試料の温度に応じた熱分析を実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…加熱装置、 2…石英管、 3…セラミックヒータ、 4…試料容器、 5…金属管、 5a…金属管の第1の領域、 5b…金属管の第2の領域、 6…溝部、 8…温度センサ、 11…温度表示手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器に収容された高分子試料をヒータで加熱し生成された複数の気相成分を分析する熱分析に用いられる加熱装置であって、
該試料容器が内部に載置される石英管と、
間隔を存して該石英管を内挿する金属管と、
該金属管の内側面に軸方向に沿って形成された溝部と、
該溝部に収納され、該石英管内に載置された該試料容器に対向する位置に設けられた温度センサと、
該金属管を内挿する円筒状のセラミックヒータとを備えることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
請求項1記載の加熱装置において、
前記金属管は、前記試料容器に対向する位置を含む第1の領域が熱伝導性に優れる第1の金属からなるとともに、第1の領域以外の第2の領域が第1の金属と比較して熱伝導性が低い第2の金属からなることを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の加熱装置において、
前記温度センサにより検知された温度と前記高分子試料の温度とが一致するように、該温度センサにより検知された温度を補正して表示する温度表示手段を備えることを特徴とする加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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