説明

加硫ゴム用組成物およびその加硫物

【課題】 良好な加硫速度と保存安定性を維持しながら、耐熱性に優れたエピハロヒドリン系加硫ゴム用組成物を提供する。
【解決手段】 本発明により(a)エピハロヒドリン系ゴム、(b)金属石鹸、(c)受酸剤、および(d)加硫剤を含有することを特徴とする加硫ゴム用組成物が得られ、該組成物に更に脂肪酸(e)を含有させることにより加硫が抑制された加硫ゴム用組成物が得られ、及び該組成物にアルコール類(f)を含有させることにより加硫が促進された加硫ゴム用組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性の改良されたエピハロヒドリン系ゴムをベ-スとする加硫ゴムを得るための組成物および同組成物を加硫してなる加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
エピハロヒドリン系ゴム材料はその耐熱性、耐油性、耐オゾン性等を活かして、自動車用途では燃料ホースやエアー系ホース、チューブ等の材料として幅広く使用されている。また、エピハロヒドリン系ゴムは従来チオウレア系の加硫剤と鉛系の受酸剤とを用いて加硫を行うことにより得られていたが、近年この加硫剤-受酸剤系は鉛の毒性や加硫剤の毒性が懸念されており、また加硫速度も十分ではない。
【0003】
また、エピハロヒドリン系ゴムの加硫剤としてはメルカプトトリアジン系加硫剤(特許文献1)、キノキサリン系加硫剤(特許文献2)等が知られており、これらの加硫剤を用いると加硫速度が向上し、耐熱性の良好な製品が得られるので、これらは広く普及している。
【0004】
一方、これらの加硫剤と組み合わせられる受酸剤としては、酸化マグネシウム、鉛化合物、酸化亜鉛、合成ハイドロタルサイト、消石灰、生石灰等が、要求されるゴム材料の保存安定性、機械的特性、圧縮永久歪み性、耐オゾン性、耐寒性、耐油性等の特性、ゴム材料の加工方法、加硫剤の経済性等に応じて適宜選択されている。また、加硫促進剤として一般のゴム用加硫促進剤、四級アミン類化合物、四級ホスホニウム塩等が用いられている(特許文献3)。
しかしながら、近年、自動車を取り巻く排ガス規制や燃料蒸散規制はますます厳しくなってきており、更に低燃費化、エンジンの高性能化、部品のメンテナンスフリー化等に伴って、自動車用ゴム材料に対する更なる耐熱性向上が求められている。
【0005】
【特許文献1】特公昭48-36926号公報
【特許文献2】特開昭56-122866号公報
【特許文献3】特開昭59-227946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の下、本発明は、良好な加硫速度と保存安定性を維持しながら耐熱性に優れたエピハロヒドリン系加硫ゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねたところ、エピハロヒドリン系ゴム加硫ゴム用組成物に金属石鹸を加えるとこれが加硫促進剤として働き、良好な加硫速度と保存安定性を維持しながら、耐熱性に優れ、かつ環境に優しいエピハロヒドリンゴム加硫ゴム用の組成物が得られることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、(a)エピハロヒドリン系ゴム、(b)金属石鹸、(c)受酸剤、および(d)加硫剤を含有することを特徴とする加硫ゴム用組成物を提供するものである。
本発明による組成物は、更に(e)脂肪酸および/または(f)アルコール類を含有してもよい。
好ましい金属石鹸はナトリウム塩および/またはカリウム塩であり、前者がより好ましい。
金属石鹸としては炭素数12〜24の脂肪酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩が好ましく、ステアリン酸ナトリウム塩および/またはステアリン酸カリウム塩が特に好ましい。
好ましい受酸剤は金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルである。好ましい無機マイクロポーラス・クリスタルは合成ハイドロタルサイト、Li-Al包摂化合物および合成ゼオライトよりなる群から選ばれる。とりわけ合成ハイドロタルサイトが好ましい。
加硫剤としてはキノキサリン系加硫剤またはトリアジン系加硫剤が好ましく、前者がより好ましい。6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネートも好ましい加硫剤である。
本発明による組成物は、常法によって加硫され、加硫物が得られる。加硫物は、自動車用ゴム部品等の各種の用途に用いられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、エピハロヒドリン系ゴム加硫ゴム用組成物に金属石鹸を加えることでこれを加硫促進剤として作用させ、良好な加硫速度と保存安定性を維持しながら耐熱性に優れたエピハロヒドリンゴム加硫物を得るための組成物を提供することができる。また、同組成物から得られる加硫物は、例えば自動車用途等の各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール類等のゴム材料や、一般産業用機器・装置等のロール、ベルト類等のゴム材料として好適に使用することができる。
また、エピクロロヒドリンゴムの配合剤として汎用されているエチレンチオ尿素、鉛化合物、ニッケル化合物は、いわゆる環境負荷物質であって、これらを含まないエピクロロヒドリンゴムの開発が望まれている。本発明によれば、エピハロヒドリン系ゴム加硫ゴム用組成物に金属石鹸を加えることで、これら環境負荷物質を含まない配合とすることも可能であり、環境に優しい加硫ゴム用組成物およびこれから得られる加硫物を提供することができる(後述する実施例13,14)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明組成物を構成する各成分について説明をする。
本発明組成物の主体をなすエピハロヒドリン系ゴム(a)は、エピハロヒドリン単独重合体、またはエピハロヒドリンと共重合可能な他のエポキシド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル等との共重合体である。これらを例示すれば、エピクロルヒドリン単独重合体、エピブロムヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体、エピブロムヒドリン-エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-プロピレンオキサイド共重合体、エピブロムヒドリン-プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピブロムヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル四元共重合体、エピブロムヒドリン-エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル四元共重合体等を四元共重合体等を挙げることができる。好ましいエピハロヒドリン系ゴム(a)は、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体であり、さらに好ましいものはエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体である。
【0011】
共重合体の場合、その構成成分の割合は、例えば、エピハロヒドリン5mol〜95mol%、好ましくは10mol%〜75mol%、さらに好ましくは10〜65mol%、エチレンオキサイド5mol%〜95mol%、好ましくは25mol%〜90mol%、さらに好ましくは35mol%〜90mol%、アリルグリシジルエーテル0mol%〜10mol%、好ましくは1mol%〜8mol%、さらに好ましくは1mol%〜7mol%である。
これら単独重合体または共重合体の分子量は特に制限されないが、通常ムーニー粘度表示でML1+4(100℃)=30〜150程度である。
【0012】
本発明で用いられる金属石鹸(b)は、高級脂肪酸、樹脂酸、ナフテン酸等の酸の金属塩のことであり、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数12〜24の高級脂肪酸の金属塩である。高級脂肪酸の金属塩は、半硬化牛脂脂肪酸、ステアリン酸、オレイン酸、セバシン酸、ひまし油等のナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩または鉛塩であってよい。好ましい塩として半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム塩、ステアリンナトリウム塩、半硬化牛脂脂肪酸カリウム塩、ステアリンカリウム塩が挙げられ、さらに好ましくはステアリンナトリウム塩及び/又はステアリンカリウム塩が挙げられる。特に、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム塩、ステアリンナトリウム塩等のナトリウム塩を使用する場合は保存安定性が良好であり好ましい。
【0013】
金属石鹸(b)は、エピハロヒドリン系ゴムの耐熱性促進剤として作用するが、ゴム分野における一般的な使用目的で、例えば滑剤等として用いてもよい。
【0014】
金属石鹸(b)の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部である。この配合量が上記範囲未満であると加硫促進剤としての効果が十分発揮されないことがあり、多量に配合し過ぎても促進効果がそれほど向上せず、さらにブリードによる外観不良を引き起こす可能性がある。
【0015】
本発明で用いられる受酸剤(c)としては、加硫剤に応じて公知の受酸剤を使用できる。受酸剤(c)の好ましい例は金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルである。金属化合物としては、周期表第II族(2族および12族)金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期表III族(3族および13族)金属の酸化物、水酸化物、カルボン酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、周期表第IV族(4族および14族)金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等の金属化合物が挙げられる。
【0016】
金属化合物の具体例としては、マグネシア、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜鉛華、酸化錫、リサージ、鉛丹、鉛白、二塩基性フタル酸鉛、二塩基性炭酸鉛、ステアリン酸錫、塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜リン酸錫、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛等を挙げることができる。
【0017】
特に好ましい受酸剤として、無機マイクロポーラス・クリスタルが挙げられる。無機マイクロポーラス・クリスタルとは、結晶性の微細多孔体を言い、無定型の多孔体、例えばシリカゲル、アルミナ等とは明瞭に区別できるものである。このような無機マイクロポーラス・クリスタルの例としては、ゼオライト類、アルミノホスフェート型モレキュラーシーブ、層状ケイ酸塩、合成ハイドロタルサイト、Li-Al系包接化合物、チタン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。特に好ましい受酸剤としては、合成ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0018】
ゼオライト類は、天然ゼオライトの外、A型、X型、Y型の合成ゼオライト、ソーダライト類、天然ないしは合成モルデナイト、ZSM-5等の各種ゼオライトおよびこれらの金属置換体であり、これらは単独で用いても2種以上の組み合わせで用いても良い。また金属置換体の金属はナトリウムであることが多い。ゼオライト類としては酸受容能が大きいものが好ましく、A型ゼオライトが好ましい。
【0019】
合成ハイドロタルサイトは下記一般式(I)で表わされる。
MgXZnYAlZ(OH)2(X+Y)+3Z-2CO3・wH2O ・・・・・・(I)
[式中、xとy は0〜10の実数、但しx+yは1〜10、zは1〜5の実数、wは0〜10の実数をそれぞれ示す。]
一般式(I)で表されるハイドロタルサイト類の例として、
Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O
Mg4.5Al2(OH)13CO3
Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O
Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O
Mg5Al2(OH)14CO3・4H2O
Mg3Al2(OH)10CO3・1.7H2O
Mg3ZnAl2(OH)12CO3・wH2O
Mg3ZnAl2(OH)12CO3
等を挙げることができる。
【0020】
Li-Al系包接化合物は下記一般式(II)で表される。

〔Al2 Li(OH)6nX・mH2O ・・・・・・(II)

(式中Xは、無機または有機のアニオン、nはアニオンXの価数、mは3以下の整数をそれぞれ示す。)
【0021】
受酸剤の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0.2〜50重量部、例えば0.5〜50重量部、特に1〜20重量部である。上記範囲未満の配合量では加硫が十分になされないことがあり、上記範囲を超えると加硫物が剛直になりすぎてエピハロヒドリン系ゴム加硫物として通常期待される物性が得られないことがある。
【0022】
本発明で用いられる加硫剤(d)は、エピハロヒドリン系ゴムを加硫できるものであれば特に限定されないが、塩素原子の反応性を利用する公知の加硫剤、即ちポリアミン類、チオウレア類、チアジアゾール類、メルカプトトリアジン類、キノキサリン類等が、また、側鎖二重結合の反応性を利用する公知の加硫剤、例えば、有機過酸化物、硫黄、モルホリンポリスルフィド類、チウラムポリスルフィド類等が適宜使用される。好ましい加硫剤(d)は、キノキサリン系加硫剤またはトリアジン系加硫剤である。
【0023】
具体的には、ポリアミン類の例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、p-フェニレンジアミン、クメンジアミン、N,N'-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、エチレンジアミンカーバメート、ヘキサメチレンジアミンカーバメート等が挙げられ、チオウレア類としては、2-メルカプトイミダゾリン、1,3-ジエチルチオウレア、1,3-ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられ、チアジアゾール類としては、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール-5-チオベンゾエート等が挙げられ、メルカプトトリアジン類としては、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、1-ヘキシルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン、1-ジエチルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン、1-シクロヘキシルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン、1-ジブチルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、1-フェニルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン等が挙げられ、キノキサリン類としては、2,3-ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、5,8-ジメチルキノキサリン-2,3-ジチカーボネート等が挙げられ、有機過酸化物としては、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキサイド、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられ、モルホリンポリスルフィド類としては、モルホリンジスルフィドが挙げられ、チウラムポリスルフィド類としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド等が挙げられる。
【0024】
加硫剤の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。上記範囲未満の配合量では加硫が十分になされないことがあり、上記範囲を超えると加硫物が剛直になりすぎてエピハロヒドリン系ゴム加硫物として通常期待される物性が得られないことがある。特に好ましい加硫剤としては、2-メルカプトイミダゾリンや6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、トリメルカプト-S-トリアジン等が挙げられ、さらに好ましくは6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネートが挙げられる。加硫剤は一種を単独で用いても、二種以上を併用しても良い。
【0025】
本発明において任意に配合される脂肪酸(e)は、炭素数6〜30の高級脂肪酸等であってよい。例えば金属石鹸(b)として先に例示した金属塩を構成する炭素数6〜30のフリーの高級脂肪酸を挙げることができる。好ましい脂肪酸はオクチル酸、ステアリン酸、オクタデシル酸等である。
本発明組成物において、脂肪酸(e)は早期加硫抑制剤として作用するが、通常ゴム分野で使用される滑剤として使用してもよい。
【0026】
脂肪酸(e)の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。この配合量が上記範囲未満であると早期加硫抑制剤としての効果が十分発揮されないことがあり、多量に配合し過ぎて促進効果がそれほど向上せず、さらにブリードによる外観不良を引き起こす可能性がある。
【0027】
本発明において任意に配合されるアルコール類(f)は、分子内にヒドロキシル基を持つもので、加工時や使用温度で、揮発・分解しないものであれば特に限定されないが、このような多価アルコールの例としてはペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール等を挙げることができる。
【0028】
本発明においてアルコール類(f)は加硫促進助剤として作用する。
アルコール類(f)の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。この配合量が上記範囲未満であると加硫促進助剤としての効果が十分発揮されないことがあり、多量に配合し過ぎると早期加硫を起こしたり、ブリードによる外観不良を引き起こす可能性がある。
【0029】
本発明による加硫ゴム用組成物には、通常これらの加硫剤と共に用いられる公知の加硫促進剤、遅延剤等を適宜配合することができる。加硫促進剤の例としては、硫黄、チウラムスフィド類、モルホリンスルフィド類、アミン類、アミンの弱酸塩類、塩基性シリカ、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、多官能ビニル化合物、メルカプトベンゾチアゾール類、スルフェンアミド類、ジチオカーバメート類等を挙げることができる。遅延剤の例としてはN-シクロヘキサンチオフタルイミド、有機亜鉛化合物、酸性シリカ等を挙げることができる。
【0030】
特に好ましい加硫促進剤として1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(以下DBUと略)塩、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5(以下DBNと略)塩およびホワイトカーボンが挙げられる。DBU塩の例としては、DBU-炭酸塩、DBU-ステアリン酸塩、DBU-2-エチルヘキシル酸塩、DBU-安息香酸塩、DBU-サリチル酸塩、DBU-3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、DBU-フェノール樹脂塩、DBU-2-メルカプトベンゾチアゾール塩、DBU-2-メルカプトベンス゛イミダゾール塩等であり、DBN塩としては、DBN-炭酸塩、DBN-ステアリン酸塩、DBN-2-エチルヘキシル酸塩、DBN-安息香酸塩、DBN-サリチル酸塩、DBN-3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、DBN-フェノール樹脂塩、DBN-2-メルカプトベンゾチアゾール塩、DBN-2-メルカプトベンス゛イミダゾール塩等が挙げられる。加硫促進剤または遅延剤の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0〜10重量部、例えば0.1〜5重量部である。
【0031】
さらに本発明による加硫ゴム用組成物には、通常用いられる公知の老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤を配合することができる。公知の老化防止剤の例としてはアミン系、フェノール系、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系、特殊ワックス系、有機チオ酸系、亜リン酸系等を挙げることができる。これらの老化防止剤の配合割合はエピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部であり、これらの老化防止剤を2種以上併用しても良い。
【0032】
本発明による加硫ゴム用組成物には、本発明の効果を損なわない限り、上記以外の配合剤、例えば、滑剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、難燃剤、発泡助剤、導電剤、帯電防止剤等を任意に配合できる。さらに本発明の特性が失われない範囲で、当該技術分野で通常行われている、ゴム、樹脂等のブレンドを行うことも可能である。
ただし、環境負荷物質を含まない配合とすることも可能である。
【0033】
本発明による加硫ゴム用組成物を製造するには、従来ポリマー加工の分野において用いられている任意の混合手段、例えばミキシングロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類等を用いることができる。本発明による加硫物は、本発明の加硫ゴム用組成物を通常100〜200℃に加熱することで得られる。加硫時間は温度により異なるが、通常0.5〜300分の間である。加硫成型の方法としては、金型による圧縮成型、射出成型、スチーム缶、エアーバス、赤外線或いはマイクロウェーブによる加熱等任意の方法を用いることができる。
【0034】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1〜14、比較例1〜9)
下記表1、表4、表6および表8に示す配合成分を各表に示す割合で配合し、ニーダーおよびオープンロールで混練し、未加硫ゴムシートを作製した。実施例1〜7、比較例1〜3の未加硫ゴムシートについて、JIS K6300に定めるムーニースコーチ試験を行った。また、上記未加硫ゴムシートを35℃、相対湿度75%の状態で3日保管した後、同じくムーニースコーチ試験を行い、保存安定性試験とした。これらの試験の結果を表2に示す。
実施例1〜14、比較例1〜9の上記未加硫ゴムシートを170℃で15分プレス加硫し、2mm厚の一次加硫物を得た。これをエア・オーブンで150℃で2時間さらに加熱し、二次加硫物を得た。この二次加硫物について、JIS K 6251、JIS K 6253、およびJIS K 6257に記載の試験方法に準じて、初期物性試験を行い、ついで150℃で166〜168時間の条件で耐熱性試験を行った。これらの試験の結果を表3、表5、表7および表9に示す。
【0036】
表1、表4、表6および表8中、*1〜*8の符号はそれぞれ以下の製品を示す。
*1 ダイソー社製「エピクロマーC」、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体
* 2 協和化学工業社製「DHT-4A」
* 3 水沢化学工業社製「ミス゛カラックL」
* 4 水沢化学工業社製「ミス゛カライザーDS」
* 5 花王社製「NSソープ」
* 6 ダイソ-社製「P-152」
*7 ダイソ-社製「ダイソネットXL-21S」
*8 ダイソ-社製「OF-100」
【0037】
表2中、VmはJIS K6300のムーニースコーチ試験に定めるムーニー粘度、t5はJIS K6300のムーニースコーチ試験に定めるムーニースコーチ時間を表す。初期および3日湿熱保存(35℃×75%相対湿度) 後においてVmおよびt5を測定することにより、未加硫ゴム組成物の初期安定性および保存安定性について評価を行った。△Vmは初期および3日湿熱保存 (35℃×75%相対湿度) 後におけるVmの差であり、保存安定性を評価する値である。
表3、表5、表7および表9中、M100はJIS K6251の引張試験に定める100%伸び時の引張応力、TbはJIS K6251の引張試験に定める引張強さを示すもので、耐熱性の評価のための値である。EbはJIS K6251の引張試験に定める伸び、HsはJIS K6253の硬さ試験に定める硬さをそれぞれ意味する。△Ebおよび△HsはJIS K6257の加硫ゴムの老化試験方法に定めるEbの変化率およびHsの差である。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
【表7】

【表8】

【表9】

本発明において、耐熱性が良好であるとは、各表において加硫物の耐熱試験で得られた引張強さ(Tb)の値が大きいことを言い、未加硫ゴムシートの保存安定性が良好であるとは、所定の温度及び湿度で一定期間保存中における粘度上昇(△Vm)が少ないことを言う。表1および表2において、比較例1は金属石鹸および加硫促進剤を何も含まない組成物であり、加硫が進行しなかった。それに対し、本発明である金属石鹸Aを配合した実施例1〜3、ステアリン酸ナトリウムを配合した実施例4、およびステアリン酸カリウムを配合した実施例5の各組成物では、加硫が進行した。
表2に未加硫物の保存安定性試験の結果を示す。金属石鹸Aを配合した実施例1〜3の組成物は加硫促進剤を増加させても粘度上昇が見られず、公知の加硫促進剤であるDBU塩を配合し現在実用的に用いられている比較例2および3の組成物では若干ながら粘度の上昇が見られた。

脂肪酸を配合した実施例6の組成物ではスコーチタイムが延びており、脂肪酸が早期加硫防止剤として作用していることがわかる。
アルコールを配合した実施例7の組成物ではスコーチタイムが短くなっており、かつ、粘度上昇も少ないことから、アルコールが良好な促進助剤として作用していることがわかる。
表3に示した耐熱性試験では、金属石鹸を配合した実施例1〜7の加硫物は比較例2、3のものに比べ耐熱性が大幅に改良されていることがわかる。
表4は受酸剤を変更した組成物を示し、表5は同組成物から得られた加硫物の試験結果を示す。表6は加硫剤を変更した組成物を示し、表7は同組成物から得られた加硫物の試験結果を示す。表5および表6でも表3と同様の結果が認められる。
表8は老化防止剤を含まない組成物(実施例13)および非ニッケル系老化防止剤を含む組成物(実施例14)を示し、表9は同組成物から得られた加硫物の試験結果を示す。これら実施例の加硫物の耐熱性はニッケル系老化防止剤を含む組成物(比較例9)から得られた加硫物と遜色ないことが認められる。
以上の通り、上記各試験により、金属石鹸を含む実施例の組成物は、これを含まない比較例の組成物に比べて、保存安定性に優れ、また、実施例の組成物から得られた加硫物は、比較例の組成物から得られたものに比べて、耐熱性に優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の加硫物は、通常エピハロヒドリン系ゴムが使用される分野に広く応用することができる。例えば、自動車用途等の各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール類等のゴム材料や、一般産業用機器・装置等のロール、ベルト類等のゴム材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エピハロヒドリン系ゴム、(b)金属石鹸、(c)受酸剤、および(d)加硫剤を含有することを特徴とする加硫ゴム用組成物。
【請求項2】
更に(e)脂肪酸および/または(f)アルコール類を含有することを特徴とする請求項1に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項3】
金属石鹸がナトリウム塩および/またはカリウム塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項4】
ナトリウム塩および/またはカリウム塩が炭素数12〜24の脂肪酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩であることを特徴とする請求項3に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項5】
炭素数12〜24の脂肪酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩がステアリン酸ナトリウム塩および/またはステアリン酸カリウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項6】
受酸剤が金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項7】
無機マイクロポーラス・クリスタルが合成ハイドロタルサイト、Li-Al包摂化合物および合成ゼオライトよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項8】
無機マイクロポーラス・クリスタルが合成ハイドロタルサイトであることを特徴とする請求項7に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項9】
加硫剤がキノキサリン系加硫剤またはトリアジン系加硫剤であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項10】
加硫剤がキノキサリン系加硫剤であることを特徴とする請求項9に記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項11】
加硫剤が6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネートであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の加硫ゴム用組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の加硫ゴム用組成物を加硫してなる加硫物。
【請求項13】
請求項12に記載の加硫物からなる自動車用ゴム部品。

【公開番号】特開2006−176763(P2006−176763A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338098(P2005−338098)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】