説明

加速度センサおよび該加速度センサを備えた振動検出装置

【課題】 測定物の振動を外力によって阻害せず、かつ着脱の必要の無く簡易で確実な測定ができるような振動測定装置に用いられる加速度センサおよび測定方法を提供すること。
【解決手段】 本発明における加速度センサは、センサの外周部に防振材を配置することを特徴とする。さらに、防振材上部に治具の取り付けと錘を兼ねた取り付け部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサと、それを用いた振動検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造現場の製品検査として行われる官能検査を定量化または自動化するため、製品の表面に接触型の加速度センサを固定し、振動状態を計測して異常を検知する振動検出装置が提案されている。
【0003】
一般に、接触型の加速度センサは、被測定物表面の状態(粗さ、材質、形状)により周波数特性が変化する。これは加速度センサと被測定物によって構成される振動系で共振現象が起きることに起因する。
【0004】
上記の接触共振の影響を解決するため、特許文献1および2には、ピックアップ上部に錘および弾性体を備えることで、非測定物表面に適切な押圧を与える加速度センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−259021号公報
【特許文献2】特開2005−121532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれにおいても、正確に加速度を測定するには、加速度センサを振動検出面に対して垂直に当接し、接触共振の影響を最小限に留めなければならない。ところが、振動検出面に過度の傾きがあるときは、加速度センサを斜めに保持しなければならず、適切な押圧を与えることができない。さらに、押圧することで加速度センサが振動検出面から脱落しやすいという問題があった。
【0007】
以上から、本発明が解決しようとする課題は、振動検出面が傾いていても脱落することなく、加速度を正確に測定できる加速度センサおよび振動検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による加速度センサは、加速度検出素子と、該加速度検出素子を収容するケースと、弾性を有する防振材を有する加速度センサであって、前記ケースは、前記加速度検出素子を収容する本体部と、該本体部から延伸して、測定対象の振動検出面に底面が当接する鍔部を備え、前記防振材は、前記鍔部の上部で、前記本体部の周囲に配置されることを特徴とする。防振材を介して鍔部を押圧し、加速度センサを振動検出面に当接させることにより、振動検出面の傾きは防振材の圧縮により吸収され、加速度センサは常に振動検出面に対して鉛直に押圧される。
【0009】
ここで、加速度検出素子は、接触式のものであれば特に限定されないが、測定範囲が広く、広帯域の計測が可能な圧電型の加速度検出素子を用いることが好ましい。
【0010】
ケースは、加速度検出素子を収容する本体部と、本体部から延伸して振動検出面と接触する底面に設けられる鍔部を有する。鍔部の大きさは、加速度センサの構成要素を踏まえて、適宜定めればよい。
【0011】
防振材は、ケースの鍔部上で、加速度検出素子の中心を通る鉛直軸に対称に、本体部の周りを囲むよう配置する。防振材には、十分な防振性を確保するため、硬度60以下のフッ素ゴムスポンジや、板バネ、コイルスプリング等を使用するのが良い。防振材の形状は、適宜変更可能である。例えば、リング状の防振材を鍔部に設置して、その中心に本体部を配置する構成としてもよいし、ブロック形状の防振材を、鍔部の中心、または中心線に対して対称に複数個配置してもよい。
【0012】
防振材の厚さは、防振材の硬度や、許容できる振動検出面の傾きに合わせて適宜変更できるが、鍔部の上面から加速度センサ上端の長さよりも小であることが好ましい。鍔部の上面から加速度センサ上端の長さよりも大であると、振動検出面へ安定した押圧が得られない。
【0013】
実際の測定においては、防振材を介してロボットアームに装着された加速度センサを振動検出面に当接させる。このとき、ロボットアームへの取り付け作業を容易かつ確実に行うため、防振材とロボットアームの機械的な結合を仲介する治具を設けてもよい。例えば、円周にねじ穴を備えるリング形状の治具をエポキシ接着剤で防振材に接着し、ロボットアームと治具を螺合して固定することができる。また、治具と防振材、治具とロボットアームの結合は締結、嵌合、螺合、溶接、接着または吸着等、いかなる手段を用いても構わない。
【0014】
また、本発明による振動検査装置は、上記いずれかの加速度センサを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加速度センサに備えられる防振材を従来と異なる位置で支持することにより、測定物の振動を確実に測定できる。特に、防振材を鉛直軸に対し対称になるように配置しセンサを複数点で支持することで、振動面が傾いていても確実に測定できる。
【0016】
更に本発明によれば、防振材に治具を具備することにより、ロボットアームへの装着が容易かつ確実になる。
【0017】
以上の構成とすることで、測定対象物の振動検出面が傾いていても、その傾きを防振材の撓みで吸収できるので、接触面の角度を振動検出面の傾きに対応させることができる。すなわち、加速度センサは振動検出面に対して垂直に当接することができ、測定面上を横滑りすることなく振動を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の形態における加速度センサを示す平面図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は正面図である。
【図2】本発明の第二の形態における加速度センサを示す平面図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図である。
【図3】本発明の第一の形態における周波数−加速度伝達係数を示す特性図であり、図3(a)は加速度センサを振動検出面に垂直に当接したときの加速度伝達係数を示し、図3(b)は加速度センサを振動検出面に垂直な方向から10度傾けて当接したときの加速度伝達係数を示す。
【図4】本発明の第二の形態における周波数−加速度伝達係数を示す特性図であり、図4(a)は加速度センサを振動検出面に垂直に当接したときの加速度伝達係数を示し、図4(b)は加速度センサを振動検出面に垂直な方向から10度傾けて当接したときの加速度伝達係数を示す。
【図5】従来の加速度センサによる周波数−加速度伝達係数を示す特性図であり、図5(a)は加速度センサを振動検出面に垂直に当接したときの加速度伝達係数を示し、図5(b)は加速度センサを振動検出面に垂直な方向から10度傾けて当接したときの加速度伝達係数を示す。
【図6】生産ラインにおける振動検出方法の概念を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一の実施の形態)
以下、本発明による加速度センサの実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、本発明の第一の形態における加速度センサを示す平面図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は正面図である。図1(a)において、加速度センサ1は、振動検出素子(図示せず)を内部に備えたケース10、弾性体からなる防振材11、12、13、14、および出力ケーブル15から構成される。
【0021】
加速度検出素子は、例えば圧電素子を用いる。また、ケース10は、加速度検出素子(図示せず)を収容する本体部10aと、振動検出面と当接する鍔部10bから成る。鍔部10bには、防振材11〜14として、例えばフッ素ゴムスポンジのような弾性体が機械的に結合される。
【0022】
防振材を鍔部に配置することにより、徒に加速度センサの重心を高くすること無く防振材を大型化できるので、防振効果や傾き吸収効果が得られる。すなわち、加速度センサを振動検出面へ安定して当接させることが出来る。
【0023】
なお、防振材の形状については、治具に合わせた様々な形状に変更可能である。本実施例では4分割で示したが、中心鉛直軸について対称に配置されていれば良く、2分割、3分割、またリング形状などに変更可能である。
【0024】
上記の構成による加速度センサ1を、ロボットアーム16(図1(a)では図示せず)により支持し、振動検出物17に一定の押圧で当接させて、表面の振動を検知する。
【0025】
振動検出面への押圧は、加速度センサの仕様に応じて適宜設定すればよい。振動検出面に適切な押圧を与えることで加速度センサ表面と振動検出面の間のばね定数が大となり、接触共振の影響は低減される。一方で、振動検出面への押圧が過大であると、加速度センサが振動検出面に強く押圧されて防振材が圧縮されるため、十分な防振効果や傾き吸収効果が得られず、振動系全体の見かけ上の質量が大きくなる。その結果、接触共振周波数が低くなり、また振動検出物の振動も阻害される。
【0026】
(第二の実施の形態)
図2は、本発明の第二の形態における加速度センサを示す平面図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図である。先の実施の形態と同様、図2(a)においては治具となるロボットアーム26を省略している。図2(a)において、加速度センサ2は、防振材11〜14の上部に、取り付け治具22を備える。取り付け治具22は、防振材11〜14と接着などの手段により固定されている。また、治具とロボットアームを接続するためのねじ穴22a〜22dを備える。さらに、加速度センサ2をロボットアーム26に対しねじで固定する。
【0027】
本発明の加速度センサによれば、防振材上部に治具を設けることにより、簡易で確実な治具への接続を可能になる。更に、治具が錘の役割を果たすので、接触共振を影響を抑制する効果も得られる。従って、接触共振による測定のばらつきを押さえることができる。
【0028】
なお、治具の形状は、ロボットアームおよび防振材の形状に応じて適宜変更可能である。また、治具とロボットアームの接合方法も、ねじに限らず個々の環境において適切な方法に変更が可能である。
【実施例】
【0029】
本発明による加速度センサと、従来技術による加速度センサの性能を比較するため、加速度センサの出力感度伝達特性を以下の手順で評価した。
【0030】
(実施例1)
本発明による加速度センサは、SUS304ステンレス鋼で構成されたケースに、圧電式の振動検出素子を収容して作製した。ケースは、直径14mm、高さ7mmの本体部と、直径25mm、高さ0.5mmの鍔部からなり、鍔部には、弾性体である硬度52のフッ素ゴムスポンジをエポキシ接着剤で接着し、防振材とした。防振材とロボットアームを吸着により装着して、振動検出装置が得られた。
【0031】
(実施例2)
実施例2の加速度センサは、実施例1の構成に、ロボットアームへの装着を容易にする治具を加えた。治具はSUS304ステンレス鋼で構成された外形24mm、内径16mm、厚さ1mmのリング形状で、円周にねじ穴22a、22b、22c、22dを備える構成とした。この治具をエポキシ接着剤で防振材と接着し、ロボットアームとねじ穴22a、22b、22c、22dでねじ止めして、振動検出装置が得られた。
【0032】
(比較例)
一方、従来の加速度センサは、SUS304ステンレス鋼で構成されたケースに、圧電式の振動検出素子を収容してなる。ケースは、鍔部を持たず、直径14mm、高さ7mmの本体部の上端に弾性体である硬度52のフッ素ゴムスポンジをエポキシ接着剤で接着して防振材とし、防振材とロボットアームを吸着により装着して、振動検出装置が得られた。
【0033】
出力感度伝達特性に使用した振動検出物は、加震器で振動させた100×100×3mmのアルミニウム薄板である。このアルミニウム薄板に、ロボットアームに支持された各々の加速度センサを、3N/cmの押圧で、薄板に垂直または鉛直方向から10度傾けて当接し、それぞれの出力感度伝達特性を比較した。
【0034】
図3は、本発明の第一の形態における周波数−加速度伝達係数を示す特性図であり、図3(a)は加速度センサを振動検出面に垂直に当接したときの加速度伝達係数を示し、図3(b)は加速度センサを振動検出面に垂直な方向から10度傾けて当接したときの加速度伝達係数を示す。図3において、押圧する角度を鉛直方向から10度傾けることにより伝達関数は0.1デシベル減少した。
【0035】
図4は、本発明の第二の形態における周波数−加速度伝達係数を示す特性図であり、図4(a)は加速度センサを振動検出面に垂直に当接したときの加速度伝達係数を示し、図4(b)は加速度センサを振動検出面に垂直な方向から10度傾けて当接したときの加速度伝達係数を示す。図4において、押圧する角度を鉛直方向から10度傾けることにより伝達関数は0.2デシベル減少した。
【0036】
図5は、従来の加速度センサによる周波数−加速度伝達係数を示す特性図であり、図5(a)は加速度センサを振動検出面に垂直に当接したときの加速度伝達係数を示し、図5(b)は加速度センサを振動検出面に垂直な方向から10度傾けて当接したときの加速度伝達係数を示す。図5において、押圧する角度を鉛直方向から10度傾けることにより伝達関数は2デシベル減少した。
【0037】
以上より、本発明による加速度センサによれば、振動検出面が傾いていても伝達関数の減少が非常に小さいことが分かる。すなわち、振動検出面の傾きによらず振動検出面の振動を正確に測定できる。
【0038】
上記の加速度センサを生産ラインに適用し、加速度センサが測定に失敗した回数を比較した。図6は、生産ラインにおける振動検出方法の概念を示す平面図である。図6に示すように、加速度センサ40をロボットアーム46で支持し、振動検出物41の振動を測定した。ここで、振動検出物41は、ベルトコンベア42によって搬送され、測定は連続的に行われた。また、振動検出面41aは、鉛直方向に対して10度傾いていた。
【0039】
表1は、上記方法により1000回の測定を行い、そのうち失敗した回数を比較した表である。1000回測定を繰り返したところ、実施例1の構成では3回、実施例2の構成では1回測定に失敗したのに対して、比較例では22回のエラーを生じた。
【0040】
以上から、本発明による加速度センサによれば、振動検出面が傾いていても振動検出物に安定して当接されることが分かる。
【0041】
【表1】

【0042】
以上、本発明について具体的な説明を行ったが、本発明はこれらに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で部材や構成の変更があっても本発明に含まれる。即ち、当事者であれば当然為し得ると考えられる変形・修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る加速度センサシステムは、ラインにおける製品の異常検査システムとして利用することができる。また、振動センサを直接固定できない機器の異常振動を検知するシステムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、2、40 加速度センサ
10 ケース
10a 本体部
10b 鍔部
11、12、13、14 防振材
15 出力ケーブル
16、26、46 ロボットアーム
17、41 振動検出物
41a 振動検出面
22 治具
22a、22b、22c、22d ねじ穴
42 ベルトコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度検出素子と、該加速度検出素子を収容するケースと、弾性を有する防振材を有する加速度センサであって、前記ケースは、前記加速度検出素子を収容する本体部と、該本体部から延伸して、測定対象の振動検出面に底面が当接する鍔部を備え、前記防振材は、前記底面に対向する前記鍔部の上部で、かつ前記本体部の周囲に配置されることを特徴とする加速度センサ。
【請求項2】
前記防振材は、前記加速度検出素子の中心を通る鉛直軸に対称に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の加速度センサ。
【請求項3】
前記防振材の高さは、前記本体部の高さより小であることを特徴とする、請求項1または2に記載の加速度センサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の加速度センサを備えることを特徴とする振動検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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