説明

加速度センサ回路、及び加速度測定結果出力方法

【課題】同一筐体内に実装されている拡声スピーカーの鳴動によるノイズを除去した加速度の測定結果を出力する。
【解決手段】携帯機器に搭載される加速度センサIC7において、3軸加速度センサ部71は、直交するX軸、Y軸、及びZ軸についての加速度測定結果を出力し、A/D変換器73は、3軸加速度センサ部71から入力された加速度測定結果のアナログ信号をデジタル信号に変換する。適応フィルタ74は、携帯機器に搭載される拡声スピーカーに出力される音響信号を表すデジタル信号の入力を外部より受け、A/D変換器73から入力された加速度測定結果から、外部より入力されたデジタル信号から得られる加速度の雑音成分を除去する。インターフェース回路77は、適応フィルタ74が雑音成分を除去した加速度の信号を携帯機器の制御部に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯機器に搭載される加速度センサ回路、及びその加速度測定結果出力方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加速度センサIC(Integrated Circuit:集積回路)は、単数又は複数の加速度センサをIC内に有しており、これら加速度センサは、一次元から二次元、あるいは三次元の直行軸方向に配置されている。加速度センサICは、内部に有する加速度センサから出力されたそれぞれの軸方向の電圧出力をA/D変換器(Analog to Digital Converter)でデジタル化し、出力する。さらに、加速度センサICは、外部から電源の供給を受けるとともに、外部との入出力を行うインターフェース(I2C(Inter-Integrated Circuit)等)を有しており、このインターフェースによりデジタル化した加速度測定結果を出力する。
【0003】
図4を参照して従来の加速度センサICを説明する。
図4は、従来の加速度センサIC107の回路構成を示すブロック図である。同図に示す従来の加速度センサIC107は、3軸加速度センサ部701、マルチプレクサ(以下、「MUX」と記載する。)702、A/D変換器703、タイミング回路706、及びインターフェース回路707を備えて構成される。
【0004】
3軸加速度センサ部701は、半導体で構成され、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の3軸の加速度測定結果を出力する。3軸加速度センサ部701は、X軸方向の加速度の成分を測定するX軸センサ701aと、Y軸方向の加速度の成分を測定するY軸センサ701bと、Z軸方向の加速度の成分を測定するZ軸センサ701cとで構成される。
【0005】
タイミング回路706は、クロック信号をMUX702、及びA/D変換器703に出力する。MUX702は、3入力1出力のマルチプレクサであり、3軸加速度センサ部701の3出力から1軸を選択して出力する。例えば、MUX702は、タイミング回路706から出力されるクロック信号のタイミングで、時分割によりX軸方向の加速度測定結果、Y軸方向の加速度測定結果、及びZ軸方向の加速度測定結果を出力する。A/D変換器703は、クロック信号のタイミングで、MUX702から出力される加速度測定結果のアナログ入力にデジタル化を行い、出力する。
【0006】
インターフェース回路707は、信号線114によりに外部の制御部と接続される。この制御部は、例えば、加速度測定結果(センサ出力)を用いたアプリケーションを実行する。インターフェース回路707は、A/D変換器703によるA/D変換が完了したことを、外部の制御部に割込み信号で伝え、外部の制御部は、A/D変換器703から出力される加速度測定結果のデジタル信号であるセンサ出力の取り出しを行う。また、インターフェース回路707は、外部の制御部から加速度センサIC107の動作を定義する為の設定情報を受け、動作状態を保持する。加速度センサIC107は、インターフェース回路707が保持する動作状態に従って動作する。
【0007】
上述したような加速度センサは、アプリケーションを動作させるために携帯電話機やゲーム装置のコントローラーなどの機器に搭載されることがある。例えば、特許文献1には、3軸方向信号センサで検出された振動量に基づいて予め定められた処理を実行する電子機器について記載されている。また、特許文献2には、携帯端末本体を所定の動作パターンで動かし、その動作パターンに対応した操作を行う携帯端末において、静止状態が一定時間持続したかが確認された後に、動作パターンを識別することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−88100号公報
【特許文献2】特開2006−139537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
携帯電話機(スマートホンを含む)、ゲーム装置のコントローラーなど、加速度センサICを搭載している機器には、拡声スピーカーやバイブレーション・モーターを同一の筐体に収納しているものがある。このような機器では、拡声スピーカーの鳴動中にも、加速度センサICの出力から使用者の挙動を判断する必要がある。しかし、拡声スピーカーの出力は機器の筐体や加速度センサICを振動させてしまう。そのため、拡声スピーカーの鳴動中は、使用者の挙動による筐体の動きと、拡声スピーカーの出力による振動とが物理的に結合してしまい、加速度センサICの出力に拡声スピーカーからの振動が雑音として重畳される。従って、加速度センサICの出力に基づいて使用者の挙動を判定することが出来なくなってしまうという課題が有った。
以下に具体的な例を説明する。
【0010】
図5は、図4に示す従来の加速度センサIC107を用いた携帯電話機101の内部構成の例を示すブロック図である。携帯電話機101は、制御部102、音響信号処理部103、受話器104、マイクロホン105、拡声スピーカー106、加速度センサIC107、バイブレータ108、操作部109、表示部110、送受信部111、及びアンテナ112を備えて構成される。
【0011】
制御部102は、携帯電話機101の動作を制御するとともに、加速度センサから出力される加速度測定結果を用いたアプリケーション処理を行う。CPU(central processing unit)102a、ROM(Read Only Memory)102b、RAM(Random Access Memory)102cで構成される。受話器4は、ハンドセット機能の受話機能を実現し、マイクロホン5は、ハンドセット機能の送話機能を実現する。拡声スピーカー106は、着信音やハンズフリー通話時の受話音を出力する。音響信号処理部103は、受話器104、マイクロホン105、拡声スピーカー106との間でアナログ音響信号の入出力を行うとともに、音響信号のA/D(Analog to Digital)変換、D/A(Digital to Analog)変換を行い、デジタル音響信号を制御部102と送受する。
【0012】
加速度センサIC107は、直交する3軸の加速度センサを有しており、加速度測定信号を制御部102に出力する。バイブレータ108は、携帯電話機101の使用者に、着信等を振動で表示する際に動作させるバイブレーション・モーターである。操作部109は、キースイッチやタッチパネルで構成され、使用者が入力を行なう。表示部110は、文字や画像を表示するLCD(Liquid Crystal Display)表示器と、着信や充電等を可視表示するLED(Light Emitting Diode)等の発光体で構成される。送受信部111は、アンテナ112を介した無線の送信、受信を行う。
加速度センサIC107と制御部102との間の信号線114は、双方向シリアルインターフェース信号と割込み信号を伝える。
【0013】
上記のような構成の携帯電話機101において、使用者が歩いた歩数を計数する歩数計アプリケーションを動作させた状態で発生する不具合を説明する。
拡声スピーカー106が非鳴動であり、且つバイブレータ108が停止している状態では、筐体内で発生する雑音源がない。そのため、加速度センサIC107は、使用者の歩みに応じた加速度測定結果の出力が可能であり、信号線114を介してその出力を受け取った制御部102においても、歩数計数に狂いは生じない。
【0014】
しかしながら、従来の加速度センサIC107の出力を応用したアプリケーションの実行中に着信が発生し、拡声スピーカー106を鳴動させる事象が発生した場合、拡声スピーカー106の鳴動で生じる筐体振動や空気振動が加速度センサIC107内の3軸加速度センサ部701まで到達する。これにより、加速度センサIC107の出力に拡声スピーカー106の鳴動で生じる雑音が重畳され、結果としてアプリケーションに予期せぬ結果をもたらす。例えば、実行されているアプリケーションが歩数計アプリケーションである場合は、歩数計数に誤差を生じる。また、実行されているアプリケーションが、拡声スピーカー106で音楽を再生するミュージック再生アプリケーションである場合は、加速度センサIC107の出力を利用し、筐体を揺することによってあるいは振動させることによって選曲を変える操作を実行すると、同様の原因により誤動作を引き起こしたり、使用者が意図しない局面で選曲が変わってしまったりする。
【0015】
このように、従来の加速度センサICを使用した携帯電話機では、加速度センサICの出力を用いたアプリケーションを実行している時に、同時に拡声スピーカーを鳴動させた場合、加速度センサICの出力にノイズが重畳した状態で処理を行う為、正しい処理ができないという不具合が生じる。
【0016】
特許文献1では、検出すべき本来の振動から、他の要因による振動を排除して正しい処理が実行できるようにしている。また、特許文献2では、携帯端末が、一定時間の静止状態の持続を確認した後に、動作パターンを識別するようにしている。しかし、特許文献1及び2は、加速度センサ自体が、ノイズを除去した加速度測定結果を出力するものではない。
【0017】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、同一筐体内に実装されている拡声スピーカーの鳴動によるノイズを除去した加速度測定結果を出力する加速度センサIC、及び加速度測定結果出力方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、上記の課題を解決すべくなされたもので、携帯機器に搭載される加速度センサ回路であって、加速度を測定する加速度測定部と、前記加速度測定部における加速度の測定結果をデジタル信号に変換する変換部と、振動を発生させる事象を表すデジタル信号の入力を外部より受け、前記変換部により変換されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、外部より入力された前記デジタル信号が表す事象から得られる加速度の雑音成分を除去する演算を行った結果を出力する適応フィルタと、を備えることを特徴とする加速度センサ回路である。
【0019】
また、本発明は、携帯機器に搭載される加速度センサ回路の加速度測定結果出力方法であって、加速度を測定する加速度測定過程と、前記加速度測定過程における加速度測定結果をデジタル信号に変換する変換過程と、振動を発生させる事象を表すデジタル信号の入力を外部より受け、前記変換過程において変換されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、外部より入力された前記デジタル信号が表す事象から得られる加速度の雑音成分を除去する演算を行った結果を出力する雑音除去過程と、を有することを特徴とする加速度測定結果出力方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加速度センサ回路は、同一筐体内に実装されている拡声スピーカーの鳴動によるノイズを除去した加速度測定結果を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態による加速度センサICを搭載した携帯電話機の内部構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態による加速度センサICの回路構成を示すブロック図である。
【図3】他の実施形態による加速度センサICの回路構成を示すブロック図である。
【図4】従来の加速度センサICの回路構成を示すブロック図である。
【図5】従来の加速度センサICを搭載した携帯電話機の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
図1は、本発明一実施形態による加速度センサIC(Integrated Circuit:集積回路)を搭載した携帯電話機1の内部構成を示すブロック図である。携帯電話機1は、制御部2、音響信号処理部3、受話器4、マイクロホン5、拡声スピーカー6、加速度センサIC7、バイブレータ8、操作部9、表示部10、送受信部11、及びアンテナ12を備えて構成される。
【0023】
制御部2は、携帯電話機1の動作を制御し、CPU(central processing unit)2a、ROM(Read Only Memory)2b、RAM(Random Access Memory)2cで構成される。CPU2aは、ROM2bからプログラムを読み出して実行する。RAM2cは、CPU2aのワークエリアを構成し、CPU2aがプログラムを実行する際に必要な情報を記録する。CPU2aが実行するプログラムには、加速度センサIC7から出力される加速度測定結果(センサ出力)を利用したアプリケーションのプログラムが含まれる。
【0024】
受話器4は、ハンドセット機能の受話機能を実現する。マイクロホン5は、ハンドセット機能の送話機能を実現する。拡声スピーカー6は、着信音の可聴表示やハンズフリー通話時の受話音を出力する。
【0025】
音響信号処理部3は、音響入出力デバイスである受話器4、マイクロホン5、拡声スピーカー6の音響信号を処理し、受話器4、マイクロホン5、拡声スピーカー6との間でアナログ音響信号の入出力を行う。また、音響信号処理部3は、音響信号のA/D(Analog to Digital)変換、D/A(Digital to Analog)変換を行い、デジタル音響信号を制御部2と送受するとともに、拡声スピーカー6に対し出力している音響信号と同一の音響信号のデジタル出力を、音響信号線路13を通じて加速度センサIC7に出力する。
【0026】
加速度センサIC7は、直交する3軸の加速度センサを有しており、加速度測定結果を制御部102に出力する。バイブレータ8は、携帯電話機1の使用者に着信等を振動で表示する際に動作させるバイブレーション・モーターである。操作部9は、キースイッチやタッチパネルで構成され、使用者が入力を行う。表示部10は、文字や画像を表示するLCD(Liquid Crystal Display)表示器と、着信や充電等を可視表示するLED(Light Emitting Diode)等の発光体で構成される。送受信部11は、アンテナ12を介した無線の送信、受信を行う。
【0027】
加速度センサIC7は、音響信号処理部3からの信号を入力する音響信号線路13と、制御部2からの制御信号を入力するとともに、加速度センサIC7による加速度測定結果を制御部2に出力する信号線14とを有する。
【0028】
音響信号線路13は、デジタル化された信号ルートであり、拡声スピーカー6から出力されるアナログ音響信号と等価のデジタル信号とサンプリングクロック情報を伝える。
【0029】
信号線14は、複数の信号線で構成され、双方向シリアルインターフェース信号と割込み信号を伝える。制御部2は、加速度センサIC7に対してリセット、測定開始、測定停止、パワーダウン等の動作定義情報となる制御信号を信号線14により出力し、加速度センサIC7は、制御部2から出力された制御信号に従って動作する。一方、加速度センサIC7は、加速度の測定が終了し、その測定結果を制御部2に通知可能となったことを知らせる割り込み信号と、デジタル化した加速度量とを信号線14により出力する。加速度センサIC7の1回の測定結果は複数ビットのデジタル信号で出力されるが、出力形式はパラレル信号でも、シリアル信号でもよい。加速度センサIC7と制御部2との接続例としては、I2C(Inter-Integrated Circuit)や、3線式シリアルインターフェースなどのシリアル方式、あるいはパラレル接続がある。
【0030】
図2は、図1に示す加速度センサIC7の回路構成を示すブロック図である。加速度センサIC7は、3軸加速度センサ部71、マルチプレクサ(以下、「MUX」と記載する。)72、A/D変換器73、適応フィルタ(Adaptive Filter)74、不揮発メモリ75、タイミング回路76、及びインターフェース回路77を備えて構成される。
【0031】
3軸加速度センサ部71は、半導体で構成され、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の3軸の加速度を電気信号に変換して出力する。3軸加速度センサ部71は、X軸センサ71a、Y軸センサ71b、及びZ軸センサ71cの3つの加速度センサで構成される。X軸センサ71aは、X軸方向の加速度の成分を測定(検出)する、Y軸センサ71bは、Y軸方向の加速度の成分を測定(検出)する。Z軸センサ71cは、Z軸方向の成分の加速度の成分を測定(検出)する。
【0032】
タイミング回路76は、図1の音響信号線路13により外部からのクロック信号13−2の入力があれば、そのクロック信号をMUX72、A/D変換器73及び適応フィルタ74に供給する。外部からクロック信号13−2の入力が無い場合、タイミング回路76は、加速度センサIC7内で必要とするクロックを自身で発生させ、MUX72、A/D変換器73、適応フィルタ74、及びインターフェース回路77に供給する。
【0033】
MUX72は、3入力−1出力のマルチプレクサであり、3軸加速度センサ部71からのX軸、Y軸、Z軸の成分の3出力の中から1軸の出力を選択する。例えば、MUX72は、タイミング回路76から出力されるクロック信号のタイミングで、時分割によりX軸方向の加速度測定結果、Y軸方向の加速度測定結果、及びZ軸方向の加速度測定結果を出力する。A/D変換器73は、クロック信号のタイミングで、MUX72から出力されるアナログ入力信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0034】
不揮発メモリ75は、適応フィルタ74のパラメーターを記録し、保持している。適応フィルタ74には、A/D変換器73からのデジタル信号と、加速度センサIC7の外部からのデジタル入力信号13−1及びクロック信号13−2とが入力される。デジタル入力信号13−1は、図1の音響信号線路13により入力され、クロック信号13−2はタイミング回路76を介して入力される。適応フィルタ74は、不揮発メモリ75に記録されているパラメーターを用い、クロック信号のタイミングで、A/D変換器73から入力されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、デジタル入力信号13−1より得られる加速度の雑音成分(ノイズ)を除去する処理を行い、インターフェース回路77に出力する。インターフェース回路77は、外部の制御回路(図1の制御部2)とのインターフェース回路と、レジスタ回路とで構成される。
【0035】
上述した構成において、加速度センサIC7は携帯電話機1の使用者(帯同者)の挙動を加速度として測定し、その測定結果である加速度量をデジタル出力する。CPU2aは、その加速度量のデジタル出力を用いて計算を行う。例えば、CPU2aは、加速度測定結果を利用した歩数計アプリケーションのプログラムを実行し、歩数をカウントする。
【0036】
3軸加速度センサ部71を構成するX軸センサ71a、Y軸センサ71b、Z軸センサ71cの出力には、拡声スピーカー6が鳴動することに起因する筐体からの振動、筐体内部の空気振動によるノイズが重畳される。そこで、適応フィルタ74は、音響信号線路13からのデジタル入力信号13−1と、加速度センサIC7内部のA/D変換器73の出力とを入力とし、3軸加速度センサ部71を構成するX軸センサ71a、Y軸センサ71b、Z軸センサ71cの出力に重畳されているノイズ(又はエラー)を打ち消してノイズを最小にし、制御部2に真の振動量に近い値を出力する。加速度センサIC7内部のX軸センサ71a、Y軸センサ71b、Z軸センサ71cは、直交するX軸、Y軸、Z軸に対応しているため、適応フィルタ74もX軸、Y軸、Z軸についてそれぞれ独立に処理をする。X軸、Y軸、Z軸に対応する適応フィルタ74のパラメーターは制御部2より入力され、不揮発メモリ75に保持される。
【0037】
従来の携帯電話機、即ち、音響信号処理部3から加速度センサIC7への音響信号線路13が無い構成の携帯電話機において、加速度センサIC7を用いて歩数をカウントしている場合を想定する。この歩数のカウント時に着信が生じ、拡声スピーカー6が鳴動したとすると、その振動が携帯電話機の筐体(ケース)を伝い加速度センサIC7まで伝達される。そのため、加速度センサIC7の出力に雑音が重畳され、結果として、CPU2aにおける歩数のカウントが不正確になってしまうという不具合を有していた。
【0038】
一方、図1に示す構成の携帯電話機1の場合、音響信号処理部3から加速度センサIC7へサンプリングクロックを出力する音響信号線路13が有効であり、且つ、音響信号処理部3が拡声スピーカー6に対して出力している音響信号と同じデジタル入力信号13−1を音響信号線路13に出力している。この場合、加速度センサIC7は、図2に示す適応フィルタ74の働きにより、拡声スピーカー6の鳴動による筐体振動の回り込みを打ち消すことが出来る。その結果、加速度センサIC7は正しい値を出力でき、CPU2aによる歩数カウント値の信頼性が増す。
【0039】
続いて、図1及び図2を用いて、本実施形態の具体的な動作を説明する。
まず、携帯電話機1の拡声スピーカー6及びバイブレータ8が非動作の状態であるときに、加速度センサIC7を動作させた場合、加速度センサIC7内のX軸センサ71a、Y軸センサ71b、Z軸センサ71cはそれぞれ、各軸に応じた成分の加速度測定結果をMUX72に出力する。
【0040】
このとき、加速度センサIC7には外部からのクロックは入力されないが、この場合はタイミング回路76がサンプリングクロックを発生させ、MUX72、A/D変換器73、及び適応フィルタ74にクロック信号を供給する。
【0041】
MUX72は、クロック信号に従って、時分割によりX軸方向の加速度測定結果、Y軸方向の加速度測定結果、及びZ軸方向の加速度測定結果をA/D変換器73に出力する。A/D変換器73は、クロック信号のタイミングで、MUX72から出力されたアナログ入力信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0042】
同一筐体で振動を発生する動作が無い場合は、加速度センサIC7に対する雑音成分が無いため、A/D変換器73の出力に雑音は無い。また、音響信号処理部3からの出力が無いため、音響信号線路13のラインの入力は0(零)で処理される。従って、適応フィルタ74は、A/D変換器73からの入力だけで処理を進め、その出力であるデジタル信号はX軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度成分である。つまり、適応フィルタ74から出力されるデジタル信号は、筐体による結合の雑音が含まれていない信号である。
【0043】
インターフェース回路77は、適応フィルタ74から出力された信号を、信号線14により外部に出力する。このように、拡声スピーカー6、バイブレータ8が非動作の場合、加速度センサIC7の動作は、従来の加速度センサICの動作との差は無い。加速度センサIC7では適応フィルタ74が介在するが、音響信号処理部3からの出力が無いため、従来の加速度センサICとの出力の差も無い。
【0044】
続いて、拡声スピーカー6が動作状態であるときに、加速度センサIC7を動作させた場合について説明する。拡声スピーカー6が動作状態である場合、拡声スピーカー6からの振動が筐体を通じて加速度センサIC7のX軸センサ71a、Y軸センサ71b、Z軸センサ71cに到達する。加速度センサIC7内のX軸センサ71a、Y軸センサ71b、Z軸センサ71cはそれぞれ、各成分の加速度に応じた測定結果をMUX72に出力するが、各軸の測定結果の出力には雑音が重畳されている。
【0045】
音響信号処理部3は、拡声スピーカー6に対し出力している音響信号をデジタル化したデジタル入力信号13−1を、音響信号線路13を通じて加速度センサIC7の適応フィルタ74に出力する。同時に、音響信号処理部3は、デジタル入力信号13−1を生成する際のサンプリングクロック情報であるクロック信号13−2を、音響信号線路13を通じて加速度センサIC7のタイミング回路76に出力する。タイミング回路76は、音響信号線路13により音響信号処理部3から入力されたクロック信号13−2に従って、MUX72、A/D変換器73及び適応フィルタ74にクロック信号を供給する。
【0046】
MUX72は、クロック信号に従って、時分割によりX軸方向の加速度測定結果、Y軸方向の加速度測定結果、及びZ軸方向の加速度測定結果をA/D変換器73に出力する。A/D変換器73は、クロック信号のタイミングで、MUX72から出力されたアナログ入力信号をデジタル信号に変換し、出力する。このA/D変換器73からの出力にも雑音が重畳されている。
【0047】
上述したように、音響信号処理部3からの加速度センサIC7への出力も有効となっており、適応フィルタ74には、A/D変換器703から出力された加速度測定結果のデジタル信号と、音響信号処理部3の出力であるデジタル化された音響信号(デジタル入力信号13−1)が入力される。適応フィルタ74は、不揮発メモリ75に記憶されているパラメーターを用い、クロック信号のタイミングで、A/D変換器73から入力されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、音響信号より得られる加速度のノイズを除去する処理を行う。つまり、適応フィルタ74は、拡声スピーカー6による振動成分を、X軸、Y軸、及びZ軸の軸成分にそれぞれ合成し、拡声スピーカー6からの筐体振動の結合成分を打ち消す処理を行った後、インターフェース回路77に出力する。インターフェース回路77は、適応フィルタ74の出力を、信号線14により加速度センサIC7の外部である制御部2へ出力する。
【0048】
このように、拡声スピーカー6の鳴動と加速度センサIC7の動作を両立させても、加速度センサIC7内部では拡声スピーカー6の鳴動によって結合された振動を打ち消した加速度測定結果(センサ値)の出力が可能となる。従って、制御部2は、加速度センサIC7の出力を基に携帯電話機1の使用者の動作や挙動を正確に知ることができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態では、加速度センサIC7内部に適応フィルタ74を備え、外部から振動を発生させる事象を表すデジタル信号を入力可能にしている。そのため、3軸加速度センサ部71そのものに雑音を与える拡声スピーカーが鳴動しても、その拡声スピーカーのデジタル信号を加速度センサIC7内部の適応フィルタ74に入力することで、同一筐体内の拡声スピーカーからの振動による雑音を打ち消す、あるいは、軽減することができる。
よって、加速度センサICの出力を用いたアプリケーションを実行している時に、同時に拡声スピーカーを鳴動させた場合でも、従来のように加速度センサICの出力にノイズが重畳した状態で処理が行われることなく、正しいアプリケーション処理が実行される。
【0050】
続いて、本発明の他の実施形態を説明する。
本実施形態では、加速度センサIC自身が歩数計数機能を有する場合について説明する。
【0051】
図3は、歩数計数機能付きの加速度センサIC200の回路構成を示すブロック図である。本実施形態では、図1に示す携帯電話機1が、加速度センサIC7に代えて、同図に示す加速度センサIC200を備える。ただし、制御部2は、歩数のカウントを行う機能を有していなくてもよい。同図に示すように、加速度センサIC200は、3軸加速度センサ部201、MUX202、A/D変換器203、適応フィルタ204、不揮発メモリ205、タイミング回路206、インターフェース回路207、CPU208、及びRAM209を備えて構成される。
【0052】
3軸加速度センサ部201は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の3軸の加速度を電気信号に変換して出力する。3軸加速度センサ部201は、X軸方向の加速度の成分を測定(検出)するX軸センサ201aと、Y軸方向の加速度の成分を測定(検出)するY軸センサ201bと、Z軸方向の成分の加速度の成分を測定(検出)するZ軸センサ201cとで構成される。
【0053】
タイミング回路206は、図1の音響信号線路13による外部からのクロック信号13−2の入力から、MUX202、A/D変換器203、適応フィルタ204、及びインターフェース回路207で必要とするクロックを発生する。MUX202は、タイミング回路206から出力されるクロック信号のタイミングで、3軸加速度センサ部201からのX軸、Y軸、Z軸の成分の3出力の中から1軸の出力を選択し、次段のA/D変換器203に入力する。A/D変換器203は、MUX202からのアナログ入力信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0054】
不揮発メモリ205は、適応フィルタ204のパラメーターを記録し、保持するとともに、CPU208が実行するプログラムを記憶する。プログラムには、適応フィルタ204から出力される加速度測定結果を利用した歩数計アプリケーションのプログラムが含まれる。
【0055】
適応フィルタ204には、A/D変換器203からのデジタル信号と、加速度センサIC200外部からのデジタル入力信号13−1及びクロック信号13−2とが入力される。適応フィルタ204は、不揮発メモリ205に記録されているパラメーターを用い、クロック信号のタイミングで、A/D変換器203から入力されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、デジタル入力信号13−1より得られる加速度の雑音成分(ノイズ)を除去する処理を行い、CPU208に出力する。
【0056】
CPU208は、不揮発メモリ205からプログラムを読み出して実行する。CPU208は、歩数計アプリケーションを実行することにより、適応フィルタ204の出力から歩数計数を行う。RAM209は、CPU208のワークエリアを構成し、CPU208がプログラムを実行する際に必要な情報を記録する。インターフェース回路207は、外部とのインターフェースである。
【0057】
上記構成の加速度センサIC200の動作について、図2に示す加速度センサIC7の動作との差分を中心に説明する。
加速度センサIC200の3軸加速度センサ部201、MUX202、A/D変換器203、適応フィルタ204、及びタイミング回路206の動作は、図2に示す加速度センサIC7の3軸加速度センサ部71、MUX72、A/D変換器73、適応フィルタ74、及びタイミング回路76の動作と同様である。ただし、タイミング回路76は、CPU208にノイズを除去した加速度測定結果のデジタル信号を出力する。
【0058】
つまり、3軸加速度センサ部201内のX軸センサ201a、Y軸センサ201b、Z軸センサ201cはそれぞれ、X軸、Y軸、Z軸の各成分の加速度に応じた測定結果をMUX202に出力する。タイミング回路206は、音響信号線路13により音響信号処理部3から入力されたクロック信号13−2に従って、MUX202、A/D変換器203及び適応フィルタ204にクロック信号を供給する。
【0059】
MUX202は、クロック信号に従って、時分割によりX軸方向の加速度測定結果、Y軸方向の加速度測定結果、及びZ軸方向の加速度測定結果をA/D変換器203に出力すし、A/D変換器203は、クロック信号のタイミングで、MUX202から出力されたアナログ入力信号をデジタル信号に変換し、出力する。適応フィルタ204は、不揮発メモリ205に記憶されているパラメーターを用い、クロック信号のタイミングで、A/D変換器203から入力されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、デジタル入力信号13−1より得られる加速度のノイズを除去する処理を行い、CPU208に出力する。CPU208は、適応フィルタ204の出力が示す加速度に基づいて歩数計数を行う。
【0060】
上記のように、本実施形態の加速度センサIC200は、適応フィルタ204を備え、振動を発生させる事象を表すデジタル入力信号13−1を外部から入力可能にしている。そのため、同一筐体内の拡声スピーカー6が鳴動中でも、歩数計数機能付きの加速度センサIC200は、雑音が低減されたデジタル出力によって歩数計数を行うので、歩数計数誤差が少ない。
【0061】
以上説明したように、本発明の実施形態では、機器を携帯する使用者の動作や挙動を正確に検出するため、機器が備える加速度センサICに外部からのデジタル信号の入力を可能にしている。そして、加速度センサICは、入力されたデジタル信号と、IC内部の加速度センサの測定(検出)結果をデジタル変換した信号との間で、同一筐体で発生する加速度センサに与える(真の加速度に対する)雑音成分を除去する演算を行う。これにより、加速度センサICは、使用者の動作や挙動によって発生した加速度の正確な測定結果を出力することが可能になる。
【符号の説明】
【0062】
1、101…携帯電話機
2、102…制御部
2a、102a、208…CPU
2b、102b…ROM
2c、102c、209…RAM
3、103…音響信号処理部
4、104…受話器
5、105…マイクロホン
6、106…拡声スピーカー
7、107、200…加速度センサIC
8、108…バイブレータ
9、109…操作部
10、110…表示部
11、111…送受信部
12、112…アンテナ
13…音響信号線路
14、114…信号線
71、201、701…3軸加速度センサ部
71a、201a、701a…X軸センサ
71b、201b、701b…Y軸センサ
71c、201c、701c…Z軸センサ
72、202、702…MUX(マルチプレクサ)
73、203、703…A/D変換器
74、204…適応フィルタ
75、205…不揮発メモリ
76、206、706…タイミング回路
77、207、707…インターフェース回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯機器に搭載される加速度センサ回路であって、
加速度を測定する加速度測定部と、
前記加速度測定部における加速度の測定結果をデジタル信号に変換する変換部と、
振動を発生させる事象を表すデジタル信号の入力を外部より受け、前記変換部により変換されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、外部より入力された前記デジタル信号が表す事象から得られる加速度の雑音成分を除去する演算を行った結果を出力する適応フィルタと、
を備えることを特徴とする加速度センサ回路。
【請求項2】
外部より入力された前記デジタル信号は、拡声スピーカーの音響信号であることを特徴とする請求項1に記載の加速度センサ回路。
【請求項3】
携帯機器に搭載される加速度センサ回路の加速度測定結果出力方法であって、
加速度を測定する加速度測定過程と、
前記加速度測定過程における加速度測定結果をデジタル信号に変換する変換過程と、
振動を発生させる事象を表すデジタル信号の入力を外部より受け、前記変換過程において変換されたデジタル信号が示す加速度測定結果から、外部より入力された前記デジタル信号が表す事象から得られる加速度の雑音成分を除去する演算を行った結果を出力する雑音除去過程と、
を有することを特徴とする加速度測定結果出力方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−51553(P2013−51553A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188399(P2011−188399)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】