説明

加速粒子照射設備

【課題】照射装置が設置される建屋の小型化を図ることができ、設備コストの低減を図ることが可能な加速粒子照射設備を提供すること。
【解決手段】本発明の加速粒子照射設備1は、回転軸P周りに回転可能な回転部34を有すると共に粒子加速器で生成された加速粒子を照射する照射装置3と、照射装置3を収納する収納室8と、を備え、照射装置3の回転部は、回転部本体34から径方向の外側に張り出す張出部33b,38を有する構成とする。そして、収納室8の放射線遮蔽壁86,87は、照射装置3の回転部の周縁部分となる張出部33b,38を収容可能な収容凹部92,91を有する構成とする。これにより、照射装置3の形状に対応した収納室8を実現することができ、収納室8の寸法を抑えることが可能となり、建屋6の小型化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療用の回転ガントリなどの照射装置を備えた加速粒子照射設備、及び、照射装置を収納する収納室の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子ビームなどの加速粒子を患者に照射してがん治療を行う設備が知られている。この種の設備は、加速粒子を生成するサイクロトロン、患者に対して任意の方向から加速粒子を照射する回転自在の照射装置(回転ガントリ)及びサイクロトロンで生成された加速粒子を照射装置まで誘導する誘導ラインを備えている。回転ガントリには、患者が横たわる治療台と、患者に向けて加速粒子を照射する照射部と、誘導ラインによって誘導された加速粒子を照射部へ導入する導入ラインと、が設けられている。
【0003】
照射部は患者に対して回転自在な構成になっており、照射部への加速粒子の導入ラインの形態には種々の態様が知られている。例えば、特許文献1に記載の導入ライン(ビーム輸送機器7)は、まず、照射部(照射装置8)の回転中心となる回転軸線上に誘導ラインに連結される連結部を有し、さらに、回転軸線を通る平面上で略U字状に湾曲して照射部に連結されている。また、特許文献2に記載の導入ライン(delivery system 12)は、回転軸線上に誘導ラインに連結される連結部を有し、さらに、回転軸線の周方向側にねじれるように湾曲して照射部(nozzle32)に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−259058号公報
【特許文献2】米国特許第4917344号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の回転ガントリを備えた設備では、加速粒子を適切に誘導し、且つ導入する必要から回転軸線方向での導入ラインの経路長を短くするのは難しく、従って回転ガントリの回転軸線方向での寸法圧縮は難しかった。その結果として、この種の回転ガントリの小型化は難しく、回転ガントリを収容する設置スペースも広い範囲が必要になって施設の大型化を招来し、設備コストの低減が困難であった。また、特許文献2に記載の設備では、建屋内での回転ガントリの配置に関する配慮はなく、施設の大型化を回避して設備コストの低減を図る上で十分ではなかった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、照射装置が設置される建屋の小型化を図ることができ、設備コストの低減に有効である加速粒子照射設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加速粒子を照射する加速粒子照射設備において、回転軸周りに回転可能な回転部を有すると共に粒子加速器で生成された加速粒子を照射する照射装置と、当該照射装置を収納する収納室と、を備え、照射装置の回転部は、回転部本体よりも径方向の外側に張り出す張出部を有し、収納室の放射線遮蔽壁には、回転部の周縁部分となる張出部を収容可能な収容凹部が形成され、当該収容凹部は、張出部の回転方向に沿って形成され、放射線遮蔽壁とは別素材であるシールド部材によって被覆されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る加速粒子照射設備の照射装置は、回転軸周りに回転可能な回転部を備え、当該回転部は、回転部本体から径方向の外側に張り出す張出部を有する構成である。照射装置を収納する収納室の放射線遮蔽壁には、回転部の周縁部分となる張出部を収容可能な収容凹部が形成されている。そして、張出部の回転方向に沿って収容凹部が形成されているため、回転部の周縁部分が移動可能な移動スペースを確保することができる。これにより、回転部の張出部を収容可能な収容凹部が形成され、照射装置の形状に対応した収納室を実現することができる。したがって、収納室の寸法を抑えることが可能となり、建屋の小型化を図ることができる。その結果として、建屋の建設コストの削減し、設備コストを低減することができる。建屋を小型化することで、例えば、放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。また、例えば、上記別素材として、鉛、重コンクリートなどが挙げられる。重コンクリートは、普通のコンクリートと比べ高価であるものの、高い放射線遮蔽性を有するものである。従って、シールド部材として重コンクリートを使用した場合には、シールド部材の厚さを薄くすることができる。例えば、従来の約2/3の厚さにすることができる。また、シールド部材を単位部品としてモジュール化することで、施工を容易とすることができる。
【0009】
また、シールド部材は、板状部材を複数枚積層して形成されていることが好ましい。
【0010】
また、収納室の壁部は、コンクリートにより形成され、シールド部材は、重コンクリートにより形成されていることが好ましい。
【0011】
また、照射装置は、張出部として、周方向に湾曲し加速粒子を照射部へ導入する周方向導入ラインを備え、収容凹部は、周方向導入ラインを収容可能であることが好ましい。周方向にねじれるように湾曲する周方向導入ラインを備える構成とすることで、張出部の回転軸方向の長さを短くすることができ、収容凹部の回転軸方向の幅が大きくなることが防止される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、照射装置が設置される建屋の小型化を図ることができ、設備コストの低減に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る粒子線治療設備の配置図である。
【図2】本発明の実施形態に係る粒子線治療設備の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転ガントリを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る回転ガントリを、回転軸線に沿って水平方向に切った概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るガントリ室を拡大して示す平面図である。
【図6】図5に示すガントリ室を、長辺方向Xに沿って切った断面図であり、建屋の背面側から見た図である。
【図7】図5に示すガントリ室を、回転軸線を含む垂直面で切った断面図であり、回転ガントリの側方から見た図である。
【図8】図5に示すガントリ室を、回転軸線と直交する面で切った断面図であり、回転ガントリの背面側から見た図である。
【図9】天井の切欠き構造を遮蔽するシールド部材の施工手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る加速粒子照射設備の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、加速粒子照射設備を粒子線治療設備とした場合について説明する。粒子線治療設備は、例えばがん治療に適用されるものであり、患者の体内の腫瘍(照射目標物)に対して、陽子ビーム(加速粒子)を照射する装置である。
【0015】
図1及び図2に示すように、粒子線治療設備1は、陽子ビームを生成するサイクロトロン(粒子加速器)2、患者に対して任意の方向から陽子ビームを照射する回転自在の回転ガントリ(照射装置)3、サイクロトロン2で生成された陽子ビームを回転ガントリ3まで誘導する誘導ライン4を備えている。粒子線治療システムは、各機器として、これらのサイクロトロン2、回転ガントリ3、誘導ライン4を有する。また、粒子線治療設備1は、粒子線治療システムの各機器が配置された建屋6を備えている。
【0016】
粒子線治療システムについて説明する。サイクロトロン2で生成された陽子ビームは、誘導ライン4に沿って経路が変更され、回転ガントリ3に誘導される。誘導ライン4には、陽子ビームの経路を変更させるための偏向磁石が設けられている。
【0017】
図3は、回転ガントリを示す斜視図、図4は、回転ガントリを回転軸線に沿って水平方向に切った概略断面図である。回転ガントリ3は、患者が横たわる治療台31(図7参照)、患者に向けて陽子ビームを照射する照射部32、誘導ライン5によって誘導された陽子ビームを照射部32へ導入する導入ライン33を備えている。
【0018】
回転ガントリ3は、回転自在とされ、正面側から順に、第1円筒部34、コーン部35、第2円筒部36を備える。これらの第1円筒部34、コーン部35、第2円筒部36は、同軸上に配置され連結されている。回転ガントリ3の照射部32は、第1円筒部34の内面に配置され、第1円筒部34の軸心方向に向けられている。第1円筒部34の軸心には、治療台31(図3及び図4では、不図示)が配置される。第2円筒部36は、第1円筒部34より小径とされ、コーン部35は、第1円筒部34及び第2円筒部36を連結するように円錐状に形成されている。
【0019】
第1円筒部34の前端外周部には前リング39aが設置され、第1円筒部34の後端外周部には後リング39bが設置されている。第1円筒部34は、図8に示すように、第1円筒部34の下方に配置されたローラ装置40によって、回転可能に支持されている。前リング39a及び後リング38bの外周面は、ローラ装置40と当接し、ローラ装置40によって回転力が付与される。
【0020】
回転ガントリ3に陽子ビームを誘導する誘導ライン4は、回転ガントリ3の背面側に連結されている。誘導ライン4は、導入ライン33を介して照射部32に接続されている。導入ライン33は、45度の偏向磁石を2セット備えると共に、135度の偏向磁石を2セット備えている。導入ライン33は、径方向に延在する径方向導入ライン33aと、この径方向導入ライン33aの後段に連続し、周方向に延在する周方向導入ライン33bを有する。
【0021】
径方向導入ライン33aは、第2円筒部36内において回転軸線P方向に配置された後、図4に示されるように、回転軸線P方向から90度(45度×2回)曲げられて径方向の外側に向けられ径方向の外側に進み、第1円筒部34の外部に張り出している。周方向導入ライン33bは、図3に示されるように、径方向から135度曲げられて周方向上方に進んだのちに、径方向の内側へ135度曲げられて、径方向の内側に向けられている。
【0022】
周方向導入ライン33bは、第1円筒部34の外面において、第1円筒部34の外周面から外方に離間した位置で周方向に配置されている。第1円筒部34の外周面には、周方向導入ライン33bを支持する架台37が設けられている。架台37は、径方向の外側に張り出すように形成され、周方向導入ライン33bを支持している。
【0023】
また、第1円筒部34の外周面には、回転軸Pを挟んで対向配置されたカウンタウェイト38が設けられている。カウンタウェイト38は、第1円筒部34の外周面から外方に張り出すように設置されている。カウンタウェイト38を設置することで、第1円筒部34の外面に配置された導入ライン33及び架台37に対する重量バランスが確保されている。また、回転軸線Pからカウンタウェイト38の外縁までの長さは、回転軸線Pから導入ライン33の外縁までの長さより短いことが好ましい。
【0024】
そして、回転ガントリ3は、図示されていないモーターによって回転駆動され、図示されていないブレーキ装置によって回転が停止される。なお、第1円筒部34、導入ライン33、カウンタウェイト38を含む部分が回転ガントリ3の回転部に相当する。また、回転部本体は、例えば、軸心が回転軸線上に沿って配置された筒体などであり、全周にわたり同一円周上に外周面を有するもの、又は、全周にわたり同一円周上に外周面が有るとみなせるものなどであり、本実施形態では、第1円筒部34が回転部本体に相当する。
【0025】
また、周方向導入ライン33b及びカウンタウェイト38が、回転部本体よりも径方向の外側に張り出す張出部に相当する。本実施形態では、第1円筒部34の外面側に配置された導入ライン33が回転部の周縁部分となる張出部に相当する。回転軸Pからカウンタウェイト38の外縁までの長さが、回転軸Pから周方向導入ライン33bの外縁までの長さと同じ場合、又は、カウンタウェイト38の外縁までの長さが、周方向導入ライン33bの外縁までの長さより長い場合は、カウンタウェイト38が回転部の周縁部分となる張出部に相当する。
【0026】
また、本実施形態の回転ガントリ3は、前後方向の長さL1が、回転部分の最大外径(周回軌道R1の直径、図8参照)よりも短い薄型に形成されている。前後方向の長さL1とは、例えば、第1円筒部34の前端から、第2円筒部36の後端までの長さL1である。回転部分の最大外径とは、回転軸Pから周方向導入ライン33bの外縁までの長さr1に対応する部分(最大外径=半径r1×2)である。なお、回転軸Pからカウンタウェイト38の外縁までの長さに対応する部分が、最大外径となる構成でもよい。
【0027】
次に、建屋6について説明する。建屋6は、図1及び図2に示すように、サイクロトロン2が配置されるサイクロトロン室7、回転ガントリ3が配置されるガントリ室8、誘導ライン4が配置される連絡通路9が設けられている。建屋6は、例えば、鉄筋コンクリート造、鉄骨コンクリート造の建築物であり、コンクリート製の放射線遮蔽壁によって、各部屋が区切られている。本実施形態の建屋6は、平面視において矩形状に形成されている。なお、各図において、建屋6の長辺方向をX方向、建屋6の短辺方向をY方向、建屋6の高さ方向をZ方向として図示している。また、図1における上側を建屋6の正面側として説明する。
【0028】
サイクロトロン室7は、例えば、建屋6の長辺方向Xの一方の端部に配置されている。サイクロトロン室7は、平面視において矩形状を成し、(放射線)遮蔽壁71によって囲まれている。サイクロトロン室7の正面壁及び背面壁は、建屋6の長辺方向Xに沿って配置され、サイクロトロン室7の側壁は、建屋6の短辺方向Yに沿って配置されている。サイクロトロン室7の一方の側壁は、建屋6の側壁を兼ねており、サイクロトロン室7の背面壁を兼ねている。
【0029】
また、サイクロトロン2は、サイクロトロン室7の正面側に配置され、サイクロトロン2で生成された陽子ビームは、サイクロトロン2の背面側から導出されている。また、サイクロトロン室7の背面側には、連絡室9が連結されている。
【0030】
連絡室9は、サイクロトロン室7から建屋6の長辺方向Xに延在している。連絡室9は、複数のガントリ室8の背面側に隣接して配置されている。本実施形態では、連絡室9は建屋6の最も背面側に配置されている。連絡室9は、放射線遮蔽壁によって仕切られており、長辺方向Xに延在する連絡室9の背面側の遮蔽壁は、建屋6の背面壁を兼ねている。一方、長辺方向Xに延在する連絡室9の正面側の遮蔽壁は、ガントリ室8の背面壁を兼ねている。そして、連絡室9内において長辺方向Xに延在する誘導ライン4は、所定の位置で分岐されている。分岐された誘導ライン4は、長辺方向Xに対して所定の角度を成して延在し、各ガントリ室8へ導出されている。連絡室9は、分岐された誘導ライン4に沿って、当該誘導ライン4を収容する収容空間を形成する構成でもよい。
【0031】
複数のガントリ室8は、互いに隣接し建屋6の長辺方向Xに並設されている。複数のガントリ室8は、連絡室9の正面側に隣接して配置されている。また、図1に示されるように、最も左側のガントリ室8は、サイクロトロン室7に隣接して配置されている。また、ガントリ室8の長辺方向Xの長さは、隣接するガントリ室8の長辺方向Xの長さと略同程度である。また、ガントリ室8の正面側には、ガントリ室8に通じる迷路構造の通路が形成されている。
【0032】
図5は、ガントリ室8を拡大して示す平面図である。図5に示されるように、ガントリ室8は、平面視において略矩形状に形成されている。例えば、ガントリ室8は、四角形の一つの角部が切られた五角形に形成され略矩形状に形成されている。本実施形態のガントリ室8では、図示左側の背面の角部が切られた五角形を成している。ガントリ室8は、放射線遮蔽壁によって仕切られている。
【0033】
ガントリ室8は、放射線遮蔽壁として、正面壁81、右側壁82、左側壁83、第1背面壁84、第2背面壁85を備えている。正面壁81は、正面側に配置され長辺方向Xに延在している。正面壁81には、ガントリ室8内へ入室を可能とする入口が形成されている。右側壁82及び左側壁83は、互いに対面して配置され、短辺方向Yに延在している。右側壁82及び左側壁83は、短辺方向Yの長さが異なっており、右側壁82は、左側壁83より長くなっている。右側壁82は、短辺方向Yにおいて、左側壁83よりも背面側へ延在している。
【0034】
第1背面壁84は、背面側に配置され長辺方向Xに延在し、正面壁81と対面している。第1背面壁84は、右側壁82の背面側の端から形成され、長辺方向Xにおけるガントリ室8の中央を超えたこところまで形成されている。
【0035】
第2背面壁85は、背面側に配置され、左側壁83及び第1背面壁84と交差する方向に延在している。第2背面壁85は、第1背面壁84の左側の端から左側壁83の背面側の端まで形成されている。第2背面壁85は、左側壁83及び第1背面壁84と略45度傾斜して配置されている。
【0036】
そして、このようなガントリ室8では、正面壁81と左側壁83との交点P1と、右側壁82と第1背面壁84との交点P2と、を結ぶ対角線P1P2が、ガントリ室8の最大幅となる部分である。ガントリ室8では、対角線P1P2が長辺方向X及び短辺方向Yと略45度を成して交差している。また、本実施形態のガントリ室8では、第2背面壁85が対角線P1P2と平行な面を構成するように形成している。
【0037】
ここで、本実施形態の粒子線治療設備1では、回転ガントリ3の最大幅となる部分が、回転ガントリ3の設置スペースの最大幅に沿って配置されている。例えば、回転ガントリ3の回転軸Pから最も離れたところに位置する点(回転ガントリ3の回転部の外縁)の回転軌道が、対角線P1P2上の面内に配置される。なお、「対角線P1P2」上とは、平面視において、対角線方向に配置されているものを含み、対角線P1P2から多少ずれている場合も含むものとする。
【0038】
本実施形態の回転ガントリ3は、回転軸Pが長辺方向X及び短辺方向Yと所定の傾斜角θを有して配置されている。具体的には、回転ガントリ3の回転軸Pは、長辺方向Xと略45度の傾斜角を有している。
【0039】
また、回転ガントリ3の背面側は、第2背面壁85と対面するように配置され、回転ガントリ3の正面側は、ガントリ室8の入口に向けられている。ガントリ室8の入口は、正面壁81及び右側壁82によるコーナー部に設けられている。また、回転ガントリ3の前面には、平面視において三角形状をなす領域が形成されている。
【0040】
また、例えば、回転ガントリ3は、図5に示されるように、平面視において、コーン部35の外縁を成す斜辺が、左側壁83及び第1背面壁84と平行となるように配置されている。
【0041】
図6〜図8は、ガントリ室の断面、及び、ガントリ室内の回転ガントリの配置を示す各図である。また、ガントリ室8は、図6〜図8に示すように、放射線遮蔽壁として、天井86、床87を備えている。
【0042】
ガントリ室8の床87には、図7に示すように、複数の段差が設けられ、回転ガントリ3の正面に形成された第1床面87a、第1床面87aより低い位置に形成され治療台31の支持部が配置される第2床面87b、第2床面87bより低い位置に形成され回転ガントリ3の支持部が配置される第3床面87cが形成されている。
【0043】
ここで、本実施形態のガントリ室8の放射線遮蔽壁には、回転ガントリ3の回転部である導入ライン33の周回軌道R1(図8参照)及び/又はカウンタウェイト38の周回軌道R2に対応する位置に、切欠き構造91,92が形成されている。
【0044】
切欠き構造91は、床87において、回転ガントリ3の導入ライン38の周回軌道R1及び/又はカウンタウェイト38の周回軌道R2に対応する位置に形成されている。この切欠き構造91は、第3床面87cより下方に凹む空間であり、回転ガントリ3の導入ライン33及び/又はカウンタウェイト38が移動する移動スペースを形成するものである。切欠き構造91は、平面視において、対角線P1P2(張出部の回転方向)に沿って形成されている。
【0045】
切欠き構造92は、天井86において、回転ガントリ3の導入ライン33の周回軌道R1及び/又はカウンタウェイト38の周回軌道R2に対応する位置に形成されている。切欠き構造92は、天井86において上方に凹む空間であり、回転ガントリ3の導入ライン33及び/又はカウンタウェイト38が移動する移動スペースを形成されるものである。切欠き構造92は、平面視において、対角線P1P2(張出部の回転方向)に沿って形成されている。
【0046】
また、切欠き構造92は、天井86(建屋6の天井)を突き抜けて開口されており、この開口は、天井86とは別素材のシールド部材93によって、ガントリ室8(建屋6)の外方から被覆されている。シールド部材93は、例えば、鉛製の遮蔽板93aを複数枚積層することで形成されている。なお、シールド部材93として、コンクリート製の遮蔽板を積層してもよい。また、例えば、板状ではなく、ブロック体であるシールド部材としてもよい。
【0047】
また、シールド部材93は、別素材として重コンクリート製のものを適用してもよい。重コンクリート製のシールド部材93は、普通のコンクリート製のシールド部材93と比較して高価であるものの高い放射線遮蔽性を有するものである。例えば、重コンクリート製のシールド部材を使用した場合には、普通のコンクリート製のシールド部材を使用した場合と比較して、約2/3の厚さにすることができる。また、板状部品としてモジュール化されたシールド部材93を使用することで、施工を容易とすることができる。
【0048】
また、切欠き構造92は、天井86を貫通する開口として形成されているので、回転ガントリ3の部品を搬入するため搬入口として利用することができる。
【0049】
次に、図9を参照して、シールド部材93の施工手順について説明する。図9では、切欠き構造92が形成された天井86の一部のみを示している。図9(A)に示すように、天井86に設けられたガントリ搬入用開口部分(切欠き構造92)は、ストレート型であり段差が設けられていないものである。すなわち、開口の側壁は、上下方向において直線状に形成されている。
【0050】
そして、図9(B)に示すように、切欠き構造92に対して複数枚の遮蔽板93aを重ね、最後に、アンカー等を用いて、複数の遮蔽板93aを天井86の外面に固定し、図9(C)に示すように、切欠き構造92のシールドを行う。
【0051】
また、切欠き構造92が上下方向に貫通し、切欠き構造92の側壁に段差が設けられていないため、回転ガントリ3の部品を搬入する際に、搬入される部品が段差に当って損傷してしまうことが防止される。
【0052】
このような本実施形態においては、薄型の回転ガントリ3が、その最大幅となる部分の回転軸線方向の厚さが短く、この部分がガントリ室8の対角線P1P2に沿って配置されているため、設置スペースを有効に活用することができる。これにより、ガントリ室8の縦と横の寸法を短くすることができるので、建屋6の長辺方向Xと短辺方向Yの寸法も短くすることができ、建屋6が小型化されている。その結果、建屋6の建設コストの削減が図られている。また、設置スペースの有効活用が可能であり、従来よりも狭い敷地に粒子線治療設備1を建設することができる。
【0053】
本実施形態の建屋6では、平面視において、回転軸線が長辺方向X及び短辺方向Yに対し45度の傾斜角となるように、配置されているので、建屋6の長辺方向Xにおいて、回転ガントリ1機当り、5mの設備縮小を図ることが可能である。3機の回転ガントリ3を長辺方向Xに並設した場合には、15mの設備縮小を図ることができる。
【0054】
また、本実施形態の粒子線治療設備1によれば、建屋6の天井の遮蔽壁が、回転ガントリ3の回転部分である導入ライン33及び/又はカウンタウェイト38の周縁部に対応して、一部分のみが切欠き構造とされているため、回転ガントリ3の回転部が回転移動する際には、切欠き構造91,91内を移動することになる。これにより、回転ガントリ3の周縁部となる張出部の移動スペースを確保することができ、回転ガントリ3の形状に対応したガントリ室8を実現することができる。そのため、ガントリ室8の高さ方向の寸法を押さえることができる。すなわち、天井86を低くすることができ、ガントリ室8上部の不要な空間を無くし、建屋6の小型化を図ることができる。その結果、建屋6の建設コストを削減することができる。
【0055】
また、本実施形態では、回転ガントリ3が、張出部として、周方向に湾曲し加速粒子を照射部32へ導入する周方向導入ライン33bを備え、切欠き構造92が、周方向導入ライン33bを収容可能である。このように回転ガントリ3が、周方向にねじれるように湾曲する周方向導入ライン33bを備える構成であるため、張出部の回転軸方向の長さを短くすることができ、切欠き構造92の回転軸方向の幅を小さくすることができる。
【0056】
図1及び図2では、比較対象として、従来の建屋の大きさを一点鎖線で示している。従来、例えば、回転ガントリを3機備えた建屋の場合、建屋の寸法は、長辺方向Xの長さである幅X1が約68m、短辺方向Yの長さである奥行きY1が約33m、高さ方向Zの長さである高さZ1が約18mであった。一方、本実施形態の建屋6の場合、建屋6の寸法は、長辺方向Xの長さである幅X0が約53m、短辺方向Yの長さである奥行きY1が約26m、高さ方向Zの長さである高さZ1が約15mであった。本実施形態の建屋6では、従来の建屋と比較した場合、建屋容積として約50%程度の低減を図ることができ、設備コストを大幅に削減することができる。
【0057】
また、本レイアウトを採用することにより、ガントリ室8において、約7m×7mの三角形状の領域を確保することができ、その領域を治療スペースとして、有効に活用することができる。また、このスペースを利用して、天井部から回転ガントリ3へ張り出すC型アームを備えたオンラインPETシステムを設置してもよい。
【0058】
既知のオンラインPETシステムは、治療後の患部形状の変化を画像化する技術であり、陽子線を照射した直後に患者の体内から放出される短半減期のポジトロン核種を検出してPET画像を取得するシステムである。これにより、陽子線照射による標的腫瘍の形状変化を高精度に捉えることができ、正常組織への陽子線照射を防ぐことができる。その結果、陽子線治療の精度を一層向上させることができる。
【0059】
このように、回転ガントリ3を斜めに配置することで、スペースの有効利用を図ることが可能となり、設備の自由度を向上させることができる。
【0060】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、平面視において、四角形の一つの角部を切った五角形状のガントリ室8としているが、その他の形状のガントリ室8でもよい。例えば、正方形のガントリ室でもよく、六角形などその他の多角形でもよく、コーナー部が丸みを帯びていてもよい。また、対面する遮蔽壁は、平行に配置されていなくてもよい。
【0061】
また、切欠き構造が側壁などに設けられているガントリ室でもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、天井86に設けられた切欠き構造92が、高さ方向において天井86を貫通するように形成されているが、切欠き構造92は、天井86を貫通していないものでもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、薄型の回転ガントリ3を収容するガントリ室8としているが、従来型の回転ガントリを収容するガントリ室8の遮蔽壁に、回転部の移動スペースを形成する切欠き構造を形成してもよい。
【0064】
一実施形態に係る加速粒子照射設備において、収納室の天井の放射線遮蔽壁に、収容凹部が形成されている。収納室の天井の放射線遮蔽壁に、回転部の周縁部分が移動可能な移動スペースが確保されるので、収納室の天井を低くすることができる。そのため、収納室上部の不要な空間を無くし、収納室の高さ寸法を抑えることができる。これにより、建屋の高さ寸法を抑えて小型化することができ、設備コストを低減することができる。
【0065】
一実施形態に係る加速粒子照射設備において、収容凹部は、放射線遮蔽壁を突き抜ける開口部であり、開口部は、シールド部材によって、放射線遮蔽壁の外側から被覆されている。これにより、放射線遮蔽壁を突き抜ける開口部が形成されているので、照射装置を収納室内で組み立てる際に、開口部を通じて、照射装置の部品を収納室内に搬入することができる。また、開口部は、シールド部材によって、放射線遮蔽壁の外側から被覆されているので、開口部からの放射線の漏洩が防止される。
【0066】
一実施形態に係る収納室構造は、加速粒子を照射する照射装置を収納する収納室構造であって、照射装置は、回転軸周りに回転可能な回転部を備え、回転部は、回転部本体よりも径方向の外側に張り出す張出部を有するものであり、収納室の放射線遮蔽壁には、回転部の周縁部分となる張出部を収容可能な収容凹部が形成され、収容凹部は、張出部の回転方向に沿って形成されていることを特徴とする。
【0067】
一実施形態に係る収納室構造は、上記照射装置を収納する部屋であり、照射装置は回転軸周りに回転可能な回転部を備え、当該回転部は、回転部本体から径方向の外側に張り出す張出部を有するものである。本発明の収納室構造によれば、収納室の放射線遮蔽壁に、照射装置の回転部の周縁部分となる張出部を収容可能な収容凹部(切欠き構造)が形成されているため、回転部の周縁部分が移動可能な移動スペースを確保することができる。これにより、回転部の張出部を収容可能な収容凹部が形成され、照射装置の形状に対応した収納室を実現することができる。したがって、収納室の寸法を抑えることが可能となり、建屋の小型化を図ることができる。その結果として、建屋の建設コストの削減し、設備コストを低減することができる。建屋を小型化することで、例えば、放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…粒子線治療設備(加速粒子照射設備)、2…サイクロトロン(粒子加速器)、3…回転ガントリ(薄型照射装置)、4…誘導ライン、6…建屋、7…サイクロトロン室、8…ガントリ室(収納室)、9…連絡室、32…照射部、33…導入ライン、33b…周方向導入ライン(張出部)、34…第1円筒部(回転部本体)、38…カウンタウェイト(張出部)、86…天井(放射線遮蔽壁)、87…床(放射線遮蔽壁)、91,92…切欠き構造(収容凹部)、93…シールド部材、P…回転軸線、P1P2…対角線(設置スペースの最大幅)、R1…最大外径(回転ガントリの最大幅となる部分)、X…長辺方向、Y…短辺方向、Z…高さ方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速粒子を照射する加速粒子照射設備において、
回転軸周りに回転可能な回転部を有すると共に粒子加速器で生成された前記加速粒子を照射する照射装置と、
前記照射装置を収納する収納室と、を備え、
前記照射装置の前記回転部は、回転部本体よりも径方向の外側に張り出す張出部を有し、
前記収納室の放射線遮蔽壁には、前記回転部の周縁部分となる前記張出部を収容可能な収容凹部が形成され、
前記収容凹部は、前記張出部の回転方向に沿って形成され、前記放射線遮蔽壁とは別素材であるシールド部材によって被覆されている
ことを特徴とする加速粒子照射設備。
【請求項2】
前記シールド部材は、板状部材を複数枚積層して形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の加速粒子照射設備。
【請求項3】
前記収納室の壁部は、コンクリートにより形成され、
前記シールド部材は、重コンクリートにより形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の加速粒子照射設備。
【請求項4】
前記照射装置は、前記張出部として、周方向に湾曲し前記加速粒子を照射部へ導入する周方向導入ラインを備え、
前記収容凹部は、前記周方向導入ラインを収容可能である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の加速粒子照射設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−55701(P2012−55701A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233191(P2011−233191)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2009−249362(P2009−249362)の分割
【原出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】