説明

効率向上および劣化防止のための高分子太陽電池の光子変換材料

光起電力装置は、光起電力セルと光子変換要素とを有する。光子変換要素は、その組成内に光子変換材料を有する。光子変換装置の動作中、光子変換材料は、第1の波長を含むスペクトル領域の光子を、第1の波長より長い第2の波長を含むスペクトル領域の波長に変換する。第2の波長を有する光子は、第1の波長を有する光子より光起電力セルに与えるダメージが少ないか、または、第1の波長を有する光子より効率的に電流に変換される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2006年2月17日に出願された米国特許仮出願番号第60/774、188号の優先権を主張し、そのすべての内容は、参照により本願明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、電磁エネルギーを電力に変換する装置および方法に関し、特に、高性能な光電池および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
太陽電池にとって重要なのは、電力変換セルの効率を高めるべく、すべての太陽スペクトルをできるだけ効率よく利用することであり、それによって実用的で、汎用性が高く、かつ、安価な利用が可能になる。このことは、有機(小分子および高分子)太陽電池においてはさらに重要である。無機太陽電池に比べ、有機太陽電池では、入射光の波長によって外部量子効率(EQE)がより激しく変化する。多くの有機光起電力システムでは、最大EQE値は可視域内にあり、紫外線域におけるEQE値は小さい。したがって、従来の有機光起電力セルは、紫外線を電力に効率的に変換しない。さらに、光起電力セルの紫外線への自然曝露は、デバイスの経時損傷および劣化を招く。したがって、高性能な光起電力セルが必要とされる。
【発明の開示】
【0004】
本発明の一実施形態における光起電力装置は、光起電力セル、および、光子変換要素を有する。光子変換要素は、その組成中に光子変換材料を含有する。光起電力装置の動作中に光子変換材料は第1の波長を含むスペクトル領域の光子を、第1の波長より長い第2の波長を含むスペクトル領域の光子に変換する。第2の波長を有する光子は、光起電力セルにダメージを与えることが第1の波長を有する光子より少ないか、または、第1の波長を有する光子よりも効率的に電流に変換されるか、の少なくともいずれかである。
【0005】
本発明の一実施形態における電気生成方法は、第1のスペクトル領域内の波長を有する入射光子の少なくとも一部を第1のスペクトル領域より長い波長を有する第2のスペクトル領域内の波長を有する光子に変換することと、第2のスペクトル領域内の波長を有する光子の少なくとも一部を電力に変換することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
以下、本発明のさまざまな実施形態の追加の特徴が図面を参照しながら説明される。さらに、本発明の上記および他の効果については、添付の図面と共に詳細な説明を参照することにより、より理解が深まるであろう。
【0007】
【図1】本発明の一実施形態における光起電力装置の概略図である。
【0008】
【図2】本発明の他の実施形態における光起電力装置の概略図である。
【0009】
【図3】本発明の他の実施形態における光起電力装置の概略図である。
【0010】
【図4】本発明の一実施形態に従い構成された一例の光起電力装置について測定された、波長に対する外部量子効率を表す。
【0011】
【図5】本発明のいくつかの概念を例示すべく、測定電流とバイアス電圧との対比を図6と比較して示す。
【0012】
【図6】本発明のいくつかの概念を例示すべく、測定電流とバイアス電圧との対比を図5と比較して示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
情報ディスプレイおよび固体照明用の有機発光材料の開発に多大な労力が費やされてきた。これらの装置に用いられる有機材料の多くは、紫外線の優れた吸収作用を示し、入射紫外線を、光ルミネセンス効率が非常に高い可視発光へと変換する。本発明の実施形態によれば、「光子変換材料」(PCM)は、(有害な)短波長の入射光を長波長で害の少ない発光に変換する材料であり、有機太陽電池に用いられることにより、すべての太陽スペクトルをより完全に利用できる。例えば、PCMは、有害なUVを害のより少ない青、緑、赤、あるいは、赤外線(IR)にも変換する材料でありうる。また、PCMは、太陽スペクトルの一部(紫外線部分ばかりでなく)からの光子を、別の、電磁スペクトルの通常は長い波長部分にも変換できる。したがって、有機材料にはあまり吸収されない太陽エネルギーの一部を、例えば有機または高分子材料の吸収作用がより高い波長領域に変換できる。変換は、太陽スペクトルの小さな部分、あるいは、太陽スペクトルの連続した部分を選んで行ってもよい。さらに、太陽電池を損傷させないようにしたい場合は、太陽スペクトルの一部または連続部分を吸収するようあまり再発光しない吸収材料を用いればよく、長波長光子が再発光する心配はしなくてよい。PCMは、有機、無機、および/または、ナノ粒子であってよく、固体、ゲル、または、液状であってよい。
【0014】
光子変換材料(PCM)の使用は、光子変換効率以外の利点も有しうる。短波長の光子、特に、紫外線は、有機材料にとって有害であり、有機太陽電池が劣化する主な原因にもなりうる。光子変換材料は、このような有害な短波長光子を長波長の光子に変換し、有機太陽電池の劣化を抑制するだけでなく、太陽エネルギー変換効率も高める。光子変換材料は、以下の形態で提供されうるが、これに限定されない。(a)独立した層、または、太陽電池基板の裏側に接着された層でありうる、太陽電池の前の付加層。(PCMの前に保護層が配置されてもよい)。(b)太陽電池自体だけでなく材料も保護する透明または半透明な基板と一体となるPCM。(c)太陽電池が挿入され、液体、ゲル、ゾル・ゲル、ナノ粒子、または、固体状のPCMが充填される「エンベロープ」。これらの材料を(a)、(b)、または、(c)のいずれかの形態で太陽電池に含有させることにより、装置の性能(効率または寿命、あるいは両方)は、望ましくない短波長光をより波長が長く害の少ない光子に変換することによって高まる。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における光起電力装置100の概略図である。光起電力装置100は、基板104の上に形成されるか、または、基板104に取り付けられる光起電力セル102を有する。基板は、基板104の光入射側に形成されるか、または、基板104の光入射側に取り付けられる光子変換要素106を有する。光起電力装置100は、オプションとして、光子変換要素106の光入射側に保護層108を有してもよい。光起電力セル102は、有機または無機光起電力セルでありうる。図1は、光起電力セル102が有機光起電力セルである例を示す。例えば、小分子有機光起電力セル、および/または、高分子光起電力セルであってよい。光起電力セル102は、透明陽極、金属陰極、および、それらの間に活性材料層を有する構造であってよい。より複雑な構造であってもよく、例えば、より高い光子変換効率を提供しうる階層構造であってもよい。活性材料層は、有機活性材料でありうる。一実施形態では、活性材料層は、有機トリプレット材料でありうる。しかしながら、本発明の一般的概念は、光起電力セル102の特定の構造および材料に限定されない。基板104は、光起電力装置を形成するのに用いられる従来の材料から選ぶことができ、例えば、望ましい用途の動作において望ましい波長範囲で十分高い透明度を有する材料でありうる。光子変換要素106は、基板104の光入射側に形成されるかまたは塗布されうる。あるいは、光子変換要素106は、別のフィルム上に形成されて基板104の光入射側の前に接着されてもよい。光子変換要素106は、その組成中に有機、無機、蛍光体、有機トリプレット、ナノ粒子、および/または、フォトニックバンドギャップ材料を含有しうる。保護層108が含まれる実施形態では、保護層108は、光子変換要素106の前に配置されるか、または、光子変換要素106の一部として形成されうる。例えば、PCMは、プラスチックまたはガラスに含有されることによって、光子変換要素と保護層とを一体化したものを提供しうる。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態における光起電力装置200の概略図である。光起電力装置200は、基板204上に形成されるか、または、基板204に接着される光起電力セル202を有する。光起電力セル202は、上記光起電力セル102と同様または実質的に同じ光起電力セルから選ばれてよい。基板204は、基板204に含有されて光子変換要素となるPCMを有する。基板204は、ガラス、プラスチック、および/または、他の材料を含みうる。光子変換材料の寿命は、本発明のいくつかの実施形態における基板に含有されることにより延長されうる。PCMを基板204に含有させる1つの方法は、製造中にPCM材料が添加されるゾル・ゲルプロセスによって基板を準備することでありうる。
【0017】
図3は、本発明の一実施形態における光起電力装置300の概略図である。光起電力装置300は、基板304上に形成されるか、または、基板304接着される光起電力セル302を有する。光起電力セル302は、上記光起電力セル102および202と同様かまたは実質的に同じ光起電力セルから選択されうる。光起電力セル302/基板304構造は、保護エンベロープ306で囲まれる。保護エンベロープ306は、内部にPCMを含むことによって光子変換層を提供する。エンベロープ306内のPCMは、液体(例えば溶媒または油性の)、ゲル、ナノ粒子、または、固体状でありうる。保護エンベロープ306は、光子変換材料ばかりでなく、光起電力セル302/基板304も保持する容器として機能する。保護エンベロープ306の外側は、環境からの一次レベルの保護として機能する。エンベロープにはアルゴンおよび/または窒素などの不活性ガスが含まれることにより、酸素および他の有害なガスまたは水分がエンベロープ306に浸透して光起電力セル302に達するのを防ぐ圧力を提供するようになっている。
[実施例]
【0018】
特定の例では、いくつかの概念を実証すべく、遅い成長法によるP3HT:PCBMを用いる。波長に対するEQEスペクトラムを図4に示す。EQEは、UV域(300乃至400nm)では40%以上であり、可視域(450乃至600nm)では、60%以上である。青色光(450nmがピーク)を発する青色発光ポリマーを利用することにより、このシステムは、本発明のいくつかの概念の一例を提供する。
【0019】
図5および6は、太陽電池のガラス基板の裏側に青色ポリフルオレンを添加する効果を示す。AM0(2.1 Sun)およびAM1.5(1.3 Sun)の元でそれぞれ試験を行った。青色ポリマー添加後、どちらのケースでも5%の非常に小さい効率低下が観察された。効率は、紫外線および可視域おける同等の量子効率と、光の完全でないフォトルミネッセンス(PL)効率とが原因でわずかに低下するが、高分子太陽電池への紫外線によるダメージが減少することにより、セルの寿命は延びる。
【0020】
これまでさまざまな実施形態に関連して本発明を詳細に説明してきたが、当業者にとり、より広い側面において本発明から逸脱せずに変更および修正がなされうることは上記から明らかであろう。したがって、請求項の範囲で定義された本発明は、本発明の真の趣旨の範囲内に納まるものとしてそのような変更および修正のすべてを含むものと意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電力装置であって、
光起電力セルと、
前記光起電力セルの近傍に、または、前記光起電力セルと一体に少なくとも設けられ、光子変換材料を含む光子変換要素と、
を備え、
前記光起電力装置の動作中、前記光子変換材料は、第1の波長を含むスペクトル領域の光子を、前記第1の波長より長い第2の波長を含むスペクトル領域の光子に変換し、
前記第2の波長を有する光子は、前記第1の波長を有する光子より前記光起電力セルに与えるダメージが少ないか、または、前記第1の波長を有する光子より効率的に電流に変換されるかの少なくともいずれかである、
光起電力装置。
【請求項2】
前記光起電力セルが形成される基板をさらに備え、前記光子変換要素は、前記基板の光入射側に形成される、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項3】
前記光子変換材料の光入射側に形成される保護層をさらに備え、前記保護層は、前記光起電力セル、前記基板、および、前記光子変換要素の少なくとも1つに有害な波長の入射光子の少なくとも一部を遮断するのに適する、請求項2に記載の光起電力装置。
【請求項4】
前記保護層は、光吸収層、または、少なくともいくらかの有害な戻り光を反射する反射被膜層の少なくとも1つである、請求項3に記載の光起電力装置。
【請求項5】
前記保護層は、前記第1のスペクトル領域の光子の少なくとも一部を反射する反射層であり、前記第2のスペクトル領域の光子に対する反射防止層として機能する、請求項3に記載の光起電力装置。
【請求項6】
前記保護層は、前記第1のスペクトル領域の光子の少なくとも一部を反射する反射層であり、前記光起電力セルに前記光起電力セル内の複数の反射プロセスを介し長波長の光子をより多く吸収させるべく、前記光起電力セル内の第2のスペクトル領域の光子に複数の内部反射を提供する、請求項3に記載の光起電力装置。
【請求項7】
前記光起電力セルが形成される基板をさらに備え、前記基板は、その組成中に前記光子変換材料を含有する、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項8】
前記基板は、前記光起電力セルの光入射側に設けられる、請求項7に記載の光起電力装置。
【請求項9】
前記光起電力セル、および、前記光子変換要素を収容する保護エンベロープをさらに備える、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項10】
前記エンベロープは、2つのガラスプレートを含むガラスエンベロープであり、前記光起電力セルおよび前記光子変換要素は、前記2つのガラスプレートで挟まれ、前記光起電力装置は、電気を生成する窓としてビルに取り付けられるのに適する、請求項9に記載の光起電力装置。
【請求項11】
前記光起電力セルをさらに保護すべく、前記2つのガラスプレートの間には真空が形成される、請求項10に記載の光起電力装置。
【請求項12】
前記保護エンベロープ内に閉じ込められる不活性ガスをさらに備える、請求項9に記載の光起電力装置。
【請求項13】
前記光子変換材料は、有機光子変換材料、無機光子変換材料、蛍光体、有機トリプレット化合物、ナノ粒子、および、フォトニックバンドギャップ材料の少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項14】
前記光子変換材料は、液体、ゲル、ゾル・ゲル、ナノ粒子、または、固体の少なくとも1つの形状を有する、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項15】
前記光起電力セルは、有機光起電力セルである、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項16】
前記有機光起電力セルは、小分子有機光起電力セルである、請求項15に記載の光起電力装置。
【請求項17】
前記有機光起電力セルは、オリゴマー光起電力セルである、請求項15に記載の光起電力装置。
【請求項18】
前記有機光起電力セルは、高分子光起電力セルである、請求項15に記載の光起電力装置。
【請求項19】
前記有機光起電力セルは、無機光起電力セルである、請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項20】
第1のスペクトル領域内の波長を有する入射光子の少なくとも一部を前記第1のスペクトル領域より長い波長を有する第2のスペクトル領域の光子に変換することと、
前記変換された光子の少なくともいくつかを電力に変換することと、
を含む電気生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−527896(P2009−527896A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555368(P2008−555368)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/004073
【国際公開番号】WO2007/098021
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(506064119)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (15)
【Fターム(参考)】