説明

動いている物体を特定するためのコンピュータにより実現される方法

所定の周波数における信号を最初に送信することによって、動いている物体を特定する方法。未知の物体が信号を反射し、反射された信号が検出される。反射された信号の周波数が、未知の物体の動きに従って変調される。反射された信号から一般的特徴が抽出され、統計的分類器が、それらの特徴を用いて未知の物体を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包括的には、ドップラ信号から抽出される特徴から、動いている物体を特定すると共に分類することに関し、より詳細には、連続狭帯域ドップラ信号及び一般的特徴に関する。
【背景技術】
【0002】
監視及びモニタリング
或る環境内で動くことができる人々、動物、乗り物等(包括的には物体)を特定すること、又は分類することが重要である、数多くの応用形態がある。動き又は挙動の通常とは異なるパターンを検出することも有用である。そのような応用形態には、監視及びモニタリングが含まれる。監視は、不審な行動を見つけるために環境をモニタリングすることを含む。機械モニタリングは、異常な動作を検出することによって、故障を予想することができる。同じように、他の応用形態を見つけることができる。
【0003】
そのようなモニタリングのための現在の技術の大部分は、通常、カメラ及びマイクロフォンアレイのような、高解像度であるが、費用がかかるセンサを使用することを伴う。これらのタイプのセンサは、モニタリングされる環境内の活動について高解像度の情報を提供することができる。
【0004】
別法では、動きセンサ及び赤外線センサのような低解像度で、安価なセンサを用いることができる。低解像度のセンサは、モニタリングされる環境内での或る移動行為の存在のような粗い情報を提供する。しかしながら、低解像度のセンサは、それだけでは、さらに細かく推測できるようにする付加情報を提供することはできない。
【0005】
ドップラ信号
ドップラレーダシステム及びソナーシステムは、動いている物体を検出するために広く用いられている。従来、ドップラシステムは、広帯域信号、たとえば広範な周波数を、短い断続的なパルスとして放射する。反射されるパルスのエネルギー及び遅延が、動いている物体の速度及び大きさを示す。
【0006】
ドップラ効果
ドップラ効果は、振動性信号が物体に入射するときにもたらされる。反射される信号は、物体が動いているときと、物体が静止しているときとでは異なる周波数を有する。ドップラ効果は、ソナーシステム及びレーダシステムにおける検出及びレンジングのために一般的に用いられる。
【0007】
基本的なドップラ効果の必然的な結果として、振動性信号が複数の物体に同時に入射するときに、各物体は、その物体の速度に基づいて、異なる周波数を有する信号を反射する。振動性信号が動いている物体の集まりに入射する場合、物体の動きが異なることに起因して、反射される信号は全ての周波数の組み合わせを含む。
【0008】
ドップラ効果及び関節のある物体
関節のある物体は、動きに制約がある関節、たとえば肘及び膝によって連結される1つ又は複数の剛性リンク、たとえば腕及び脚を有する物体である。関節のある物体が動くとき、異なるリンクは、物体の質量中心に対して異なる速度を示す。したがって、たとえば、物体が、全体として、センサに対して、毎秒3メートルで前進しているとき、リンクは、種々の前進速度及び後進速度で動いているように見える可能性がある。通常、最大の速度変化は、リンクの先端において観測される。動いている物体が歩行している人間であるとき、その速度の変化は、その概ね予測可能な振動性を有する。
【0009】
振動性信号が関節のある物体に入射するとき、異なる速度を有する物体の異なる部分が、異なる周波数を反射する。したがって、センサによって捕捉される信号のスペクトルは全周波数範囲を示す。さらに、そのスペクトルは、物体の複数の部分の速度が変化するのに応じて、時間とともに連続して変化する。この変化は、関節のある物体の動きが周期的であるときに、周期的に、又は繰返し生じることがある。
【0010】
音響的、又は電磁的いずれかの連続したトーンが、動いている、関節のある物体上に入射するとき、反射される信号のスペクトルは、ターゲット物体の動きの特徴を示しているパターン及び周期性を示す。
【0011】
歩行分析
最後に、本発明者らは、人体が、関節、及び関節間にある剛性の接合部から成る、関節のある物体としてモデル化できることに気が付いている。人間の歩行は、その根底を成す、関節のある構造の特徴的な動きである。
【0012】
人間の歩行に予測可能性があることから、歩行を特定するために、ルールベースシステムが用いられてきた。これは理に適っている。それゆえ、動いている人から反射されるトーンのドップラシフトされたスペクトルを用いて、その歩き方によって人を特定することができる。M. Otero著「Application of a continuous wave radar for human gait recognition」(Proc. of SPIE, vol. 5809, pp. 538-548, March 2005)及びJ. Geisheimer他著「A continuous -wave (CW) radar for gait analysis」(Conference Record of the Thirty-Fifth Asilomar Conference on Signals, Systems and Computers, vol. 1, pp. 834-838, 4-7 Nov. 2001)を参照されたい。
【0013】
従来技術において、ターゲット物体から反射されたドップラ信号が分析される。歩行に特有の特徴が抽出される。その後、歩行の特徴を得るために設計されたルールベース分類器を用いて、人の存在が特定されるか、又はその歩行に従って人と動物が区別される。そのようなシステムは一般的には、信頼性のある結果を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来技術のドップラシステムには数多くの問題がある。第一に、抽出される特徴は、特定の動き、特に、関節のある生きている物体の振動性の動きと一致する特徴である。したがって、実際には、動きのタイプ及び物体のタイプが概ねわかっている。これにより、ルールベースシステムが使用できるようになり、それにより信頼性のある分類が与えられる。しかしながら、特定の特徴のためのルールベースシステムは、特定のタイプの動きを有する、特定の物体又は限られた種類の物体を特定することに限られる。具体的には、これまでのところ、持続波ドップラシステムを用いて、動物及び人間の振動性のある歩行しか特定することができない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施の形態は、ドップラシステムを含む。そのシステムは、狭帯域「トーン」を放射する送信機を備える。そのトーンは、電磁信号又は音響信号の形をとることができる。用語「トーン」は、本明細書において、狭帯域信号を従来の広帯域レーダ信号と区別するために用いられる。
【0016】
トーンの周波数は、環境に適応するために調整することができる。たとえば、自然環境では、人々への影響を少なくするために、超音波を用いることが好都合であるかもしれない。そして、それは大部分の自然に発生する周波数は約20Hz〜20000Hzの範囲内にあるためである。対照的に、機械室では、高周波数音響信号が支配的であり得る。この場合、低周波数トーン、たとえば5Hz〜20Hzが理に適うであろう。また、所望の解像度を達成するために、周波数を調整することもできる。すなわち、周波数が高くなると、与えられる解像度が高くなる。
【0017】
そのトーンは、送信されるトーンの経路内に存在する1つ又は複数の未知の物体によって反射される。反射されるときに、その物体が動いている場合、又は未知の物体が動いている部分を含む場合に、送信されるトーンの周波数が変調される。それゆえ、反射される信号は、送信される信号の周波数とは異なる可能性がある周波数範囲を有することができる。
【0018】
受信機が、反射される信号を検出して、デジタル化する。反射される信号のデータを分析して、測定値の連続したシーケンスが一般的特徴の形で得られる。その特徴を、統計的分類器によってさらに処理して、未知の物体の素性、さらには、未知の物体の動作状態又は動作モードが判定される。
【0019】
分類器は、既知の物体、すなわち既知の動作状態にある物体の種類から捕捉されるトレーニングデータでトレーニングすることができる。その分類器は、人々、動物、乗り物、機械及びそれらの動作モードを含む、特定の物体を特定することができる。さらに、その分類器は、おそらく、起こり得る誤動作を示す、それらの動きの異常を検出することができる。
【0020】
トレーニングデータを入手できない場合でも、そのシステムは、統計的分類器を用いて、人々又は立体的な動いている物体のような、広範な種類の物体を検出し、特定することができる。
【0021】
種々の周波数でトーンを送信する複数のそのようなドップラシステムを同時に用いて、複数の物体、すなわち送信される信号の主要な方向に対して角度を成して動いている物体を含む、さらに複雑な環境を分析することができる。
【0022】
そのシステム及び方法は、モニタリングされる環境から高解像度の情報を導出することができる。その情報から推測を行うことができる。本発明の種々の実施の形態は、一般的に、関節のある構造又は非線形な動きを有する任意のタイプの物体を検出すると共に分類することができる。それゆえ、本発明は、人間同士、人間と動物、又はフライス盤と旋盤のような生き物ではない種々のタイプの物体を区別することができる。
【0023】
また、本発明は、たとえば、欠陥のある動作を特定するために、物体の動作状態を区別することもできる。パルス波及び持続波の両方のレーダを利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1に示されるように、本発明の一実施の形態によれば、レーダシステム100が、送信機110及び受信機120を備えており、いずれもプロセッサ130に接続される。送信機及び受信機は、環境150内の同じ全体エリアに向けられる。そのプロセッサは、図2に示されるような、本発明による方法200を実行する。
【0025】
送信機110は、信号発生器によって供給される信号111を放射する(210)。その信号として、電磁信号又は音響信号を用いることができる。その信号の周波数は、特定の用途及び所望の解像度に応じて調整することができる。その信号は、連続的又はパルス列の形をとることができる。
【0026】
信号111は、その環境150内の未知の物体140、たとえば、ブーメランによって反射される。その物体は、動いている可能性があるか、動いている部分を有する可能性があるか、又はその両方の可能性がある。反射された信号121は、受信機120によって検出される(220)。物体が動いており、ドップラ効果が生じることから、反射された信号121の周波数スペクトル221は、送信される信号111の周波数とは異なり得る。受信される信号内の全ての関連するドップラ情報が確実に保持されるようにするために、反射されたスペクトルのスペクトル内の周波数を、処理する前に、サンプリング周波数にシフトすることができることに留意されたい。それゆえ、処理、分析、及び分類されることになる信号は、「ドップラスペクトル」221と呼ばれる。
【0027】
受信された信号はサンプリングされてデジタル化され、セグメント222が生成される。ナイキスト周波数でサンプリングする代わりに、その信号はサブサンプリングされる。たとえば、40Khzの音響信号が用いられる場合には、サンプリングレートは3Khzである。それらのセグメント222は、約150msの長さを有することができ、セグメント間には130msの重なりがある。
【0028】
セグメントが生成された後に、スペクトル分析230がセグメント222を受信する。電力スペクトル測定値231が、セグメントから導出される。電力スペクトル測定値は、対数又は立方根関数のような圧縮関数によって圧縮され(240)、一般的特徴241が抽出される。特徴データ241は、測定値の次元数を減らすことによって、さらに整理することができる。これは、線形判別分析又は非線形判別分析(LDA)によって、又は特異値分解(SVD)によって、又は類似の技法によって果たすことができる。
【0029】
信号特徴の移動平均も保持される。各セグメントの特徴を平均値から減算して、状態の変化を検出することができる。移動平均は、抽出された特徴241を経時的に平滑化するための役割を果たす。
【0030】
本方法は、反射された信号の調波性も求める。調波性は別の一般的特徴である。調波性は、基本周波数及び対応する2次高調波を特定する。当該方法は、ピーク周波数及びオフピーク周波数におけるエネルギー比も求める。
【0031】
可能である場合には、オプションの予備処理ステップにおいて、おそらく、既知の動作若しくは動きの状態及びモードにおける特定の物体、又は物体の種類のためのトレーニングデータ251も得られる。
【0032】
分類器250は、一般的特徴241及びオプションのトレーニングデータ251を取り込んで、未知の物体140の素性252を生成する。分類器として、たとえば、ニューラルネットワーク、ガウス混合モデル(GMM)、隠れマルコフモデル(HMM)、又はサポートベクトルマシン(SVM)を用いる統計的分類器を用いることができる。本方法は、物体の状態、又は動作状態若しくは動作モードの変化を求めることもできる。
【0033】
本発明は好ましい実施の形態によって例示されてきたが、本発明の精神及び範囲の中で、種々の他の改変及び変更を行うことができることは理解されたい。それゆえ、添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の精神及び範囲に入るように全ての変形及び変更を包含することである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態による、物体識別システムのブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態による、物体識別方法の流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で信号を送信するステップと、
前記送信された信号に対応する反射された信号を検出するステップであって、前記反射された信号は前記送信された信号の未知の反射を有する未知の物体によって変調される、ステップと、
前記反射された信号から一般的特徴を抽出するステップと、
統計的分類器を用いて、前記未知の物体を特定するステップと
を含む、動いている物体を特定するためのコンピュータにより実現される方法。
【請求項2】
前記信号は音響トーンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信号は電磁トーンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記トーンは連続的である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記トーンは脈動的である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記未知の物体は、生き物ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記未知の物体は、動いている部分を有する機械である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の周波数よりも大幅に低いレートで前記反射された信号をサンプリングすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反射された信号の電力スペクトルを導出すること、及び
立方根関数によって前記電力スペクトルを圧縮することによって前記一般的特徴を得ること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記一般的特徴の次元数を減らすことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記減らすことは判別分析を用いる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記判別分析は非線形である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記一般的特徴の移動平均を保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記一般的特徴は、前記反射された信号の調波性を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記統計的分類器は、既知の物体から収集されるトレーニングデータを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記統計的分類器は、ニューラルネットワークを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記統計的分類器は、ガウス混合モデルを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記統計的分類器は、隠れマルコフモデルを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記統計的分類器は、サポートベクトルマシンを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記未知の物体の状態を求めることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記未知の物体の動作モードを求めることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記未知の物体は生き物である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−530516(P2008−530516A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539405(P2007−539405)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314126
【国際公開番号】WO2007/020763
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】