説明

動く歩道

【課題】乗客、特に車椅子利用者のパレットと床側間の移動の円滑化を図るとともに、パレットの動作を容易に判別可能とし、かつ装置の薄型化を図ることのできる動く歩道の提供。
【解決手段】略水平移動し乗客を運搬するパレット6の略水平な主移動路面Pの高さ位置を、乗降床4上面の頂面の高さ位置と略同一或いは僅かに高い位置とし かつ、パレット6が乗降床4内に出入りする部分に、主移動路面Pよりも乗降床4側が低くなる傾斜路面Qを設け、更に、乗降床4に傾斜路面Qに連なり、反パレット側が低くなる傾斜床面4Bを設けた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端状に連結されて略水平移動するパレットにより乗客を運搬する動く歩道に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、乗客を搬送する動く歩道が、空港、駅または観光施設などに数多く設置されるようになっている。そして、従来、省設置工事を狙った動く歩道として、パレットの移動路両端の機械室部分のみを設置床面下に埋設し、他の移動路部分を設置床面上に設置してピット工事を最小とする設置方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−310290号公報 (第2頁右下欄1行−第3頁左上欄13行、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、省設置工事のメリットが大きい反面、パレットが設置床面の高い位置から急勾配移動路と短距離の水平移動路を経て乗降床内に進入する構成であるために、乗客、特に、車いす利用者は降口までの短距離範囲で比較的急な上下変化を強いられ、車椅子のブレーキ解除の遅れ、急降下、乗降床先端への激突、さらにはパレットの移動路の大半が高所移動となることによる恐怖感などの様々な危険要素を抱えるという問題があった。
【0005】
また、高所移動となるために悪戯好きの幼児童が遊んで設置床面に落下する恐れや、手荷物が落下した場合に機器周囲の通行人に危害を及ぼす恐れもあった。
【0006】
さらに、それぞれのパレットは、同一構造であるとともに、同一色、すなわち多くの場合、黒色系塗料で仕上げたもの或いは塗装しない金属色そのままのものが用いられている。このため利用者、特に高齢者の方が乗り口に乗り込もうとしても、略水平方向に移動しているパレットが実際動いているのか、また、どれくらいの速さで動いているのか判らず、パレットに乗るタイミングを取るのが難しいという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、乗客、特に車椅子利用者のパレットと床側間の移動の円滑化を図るとともに、パレットの動作を容易に判別可能とし、かつ装置の薄型化を図ることのできる動く歩道を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、無端状に連結されて一方の乗降床と機械室から他方の乗降床と機械室にかけて略水平移動し乗客を運搬するパレット、上記機械室内に備えられ上記パレットに係合する駆動歯車、上記パレットと同期移動するハンドレール、このハンドレールの移動を案内する欄干等を有して成る構造物と、この構造物を強度保持する本体枠を備えた動く歩道において、上記パレットの略水平な主移動路面の高さ位置を、上記乗降床上面の頂面の高さ位置と略同一或いは僅かに高い位置とし、かつ、上記パレットが上記乗降床内に出入りする部分に、上記主移動路面よりも上記乗降床側が低く、かつ、上記駆動歯車まで直線状に延長される傾斜路面を設け、更に、上記乗降床に、建屋床面と同一高さの端部を備え、上記傾斜路面に連なり上記端部に対してパレット側が高く反パレット側が低くなる角度1〜3度の傾斜角度の直線状の傾斜床面を設けた構成としてある。
【0009】
上記構成によれば、パレットの主移動路面の高さ位置が乗降床面高さ位置と略同一か、僅かに高い位置であるため、パレットの移動路から乗降床に至る路面高さの変化が少なく、したがって、乗客に従来のような急激な上下方向への変化の伴う移動を強いることがなく、円滑な移動を実現できる。
【0010】
更に、パレットが乗降床内に出入りする部分に、主移動路面よりも乗降床側が低くなる傾斜路面を設けるとともに、乗降床に傾斜路面に連なり、反パレット側が低くなる傾斜床面を設けたことにより、傾斜路面から傾斜床面に連なる連続したスロープが形成され、さらに円滑な乗客の移動を実現でき、とりわけ降り口側にあって車いす利用者はスムーズにパレットから乗降床を介して建屋床面へと移動することができる。かつ、傾斜床面により主移動路面を高くした分だけ、機械の薄型化が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パレットの主移動路面の高さ位置を乗降床面高さ位置と略同一か、僅かに高い位置とすることにより、乗客、特に車椅子利用者のパレットと床側間の円滑な移動を可能とし、動く歩道の利用者に対する安全性の向上を図ることができる。また、傾斜床面により主移動路面を高くした分だけ、機械の薄型化が可能となり、建屋側の掘削面積を低減して費用の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の動く歩道の一実施形態を示す一部断面の全体側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の要部を示す一部断面の側面図である。
【図4】図3の要部を拡大した一部断面の側面図である。
【図5】図3のイ−イ線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の動く歩道の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の動く歩道の一実施形態を示す一部断面の全体側面図、図2は図1の平面図、図3は図1の要部を示す一部断面の側面図、図4は図3の要部を拡大した一部断面の側面図、図5は図3のイ−イ線に沿う断面図である。
【0015】
図1に示すように動く歩道1は、一方の乗降床(乗り口)2と機械室3から他方の乗降床(降り口)4と機械室5にかけて水平あるいは数度の角度範囲(水平を含め、略水平と称す)の移動路を無端状に連結されて移動するパレット6と、このパレット6の両側に立設されて同期移動するハンドレール7と、このハンドレール7の移動を案内する欄干8などの構造物と、これら構造物を強度保持する本体枠9を備えている。そして、この動く歩道1を各乗降口2、4の端部2A、4Aと同一な設置面である床面10の下方に設けたピット11に深さ寸法h1の両機械室3及び5、深さ寸法h2の中間の機械室12を収納する本体枠9を沈める形で設置している。
【0016】
また、パレット6は図2に示すように、黒色系塗料で仕上げされたもの或いは塗装しない金属色そのままの通常パレット6Aと、所定間隔置きに配置され、かつ表面を緑色の塗装12で着色された色付きパレット6Bとから成っている。また、色付きパレット6Bは、例えば1500mmの所定間隔、すなわち本実施形態では4枚の通常パレット6Aを介して配置されている。
【0017】
更に、図3に示すように、パレット6の移動路の大半を占める距離L1の略水平な主移動路面Pが乗降床4の上面の頂面と面一で同じ高さ位置(図3の水平線Xで合致)を移動する主移動路を形成しているとともに、乗降床4の先端のコーム13の近傍にあっては、コーム13の手前でパレット6数個分の距離L2と駆動歯車14に至るまでの距離だけ主移動路面Pよりもコーム13側が低くなる角度1〜3度程度の傾斜角θの直線状の傾斜路面Qが形成され、かつこの主移動路面Pと傾斜路面Qとの間には、やはりパレット6数個分の距離L3を曲率半径RRで上向きに凸状となる凸曲線路面Rが形成されている。なお、図3は乗降床4を例として記載しているがこの構成は乗降床2側においても同様である。
【0018】
更にまた、乗降床4には建屋床面10と同一高さの端部4Aに対してパレット6側が高く、すなわち反パレット6側が高さh3だけ低くなる角度1〜3度程度の傾斜角θの直線状の傾斜床面4Bが設けられており、この高さh3分が床面10に対する機械室12の深さ寸法h2を実質的に減じるように作用する構成となっている。なお、乗降床4の傾斜床面4B相当部は、乗降床2にも傾斜床面2Bとして存在し、深さ寸法h2の縮減に寄与している。
【0019】
本実施形態あっては、主移動路面Pから乗降床4に降りる乗客、例えば車いす利用者は、その姿勢が急変しない凸曲線路面Rから、図4に示すように傾斜角θで多少傾斜する傾斜路面Qを経由してコーム13、傾斜角θで多少傾斜する傾斜床面4Bを有する乗降床4へと矢印Yのように小さな上下変化のスロープで移行する。この場合、傾斜路面Qは車いすがコーム13から乗降床4に移行するための坂道となって重力作用をもたらすほか、この傾斜路面Qが乗降床4の下側の駆動歯車14に至るまで直線状に延長されているため、乗降床4との間のすき間Gが徐々に大きくなり、この分、乗降床4のコーム13側の傾斜角が小さく、つまりパレット6とコーム13との相互段差が小さくなり、車いすや乗客に与える衝撃を軽減する。
【0020】
上記のように構成した本実施形態では、1500mmの所定間隔を有して色付きパレット6Bが配置されていることから、乗降床2,4を介して動く歩道1に乗り込もうとする利用者は、パレット6が移動していること、また、どれくらいの速さでパレットが移動しているのか容易に判別できる。また、所定間隔置きに色付きパレット6Bが現れることからそれを目安に乗るタイミングを図ることができ、したがって、より容易にパレット6に乗ることができる。
【0021】
また、パレット6の主移動路面Pの高さ位置が乗降床2、4の床面高さ位置と略同一か、僅かに高い位置であるため、パレット6の移動路から乗降床2、4に至る路面高さの変化が少なく、したがって、乗客に従来のような急激な上下方向への変化の伴う移動を強いることがなく、円滑な移動を実現できる。
【0022】
更に、図3に示したようにパレット6が乗降床4内に出入りする部分に、主移動路面Pよりも乗降床4側が低くなる傾斜路面Qを設けるとともに、乗降床4に傾斜路面に連なり、反パレット側が低くなる傾斜床面4Bを設けたことにより、傾斜路面Qから傾斜床面4Bに連なる連続したスロープが形成され、さらに円滑な乗客の移動を実現でき、とりわけ降り口側にあって車いす利用者はスムーズにパレット6から乗降床4を介して建屋床面10へと移動することができる。
【0023】
更にまた、パレット6の主移動路面Pが設置床面10と高低差がほぼないためにパレット6上の乗客が欄干8から外に転落した場合でも、従来のような比較的高所からの転落に比べて衝撃は小さく、同様に手荷物などが設置床10へ落下した場合でも機器周囲の通行人に与える危害度は小さくなるほか、従来のような高所移動の恐怖感も軽減されることになる。
【0024】
また、パレット6の主移動路面Pを水平面4Aまで高くした分(従来はパレット6が乗降床4よりも低い位置にある)と乗降床2、4を床面10よりh3まで高くした分だけ機械室12を底上げでき、この分だけ薄型化を図ることができる。
【0025】
更に、本実施形態の欄干8は、図5に示すようにハンドレール7を設置床面10から高さH1、同様にパレット6の主移動路面Pからの高さH2(H1=H2)で直線状に主移動路面Pの略水平な面に沿って長い距離L4(図3)を案内する移動路形状となっていることから、欄干8は従来のような直線状、曲線状の移動路を形成する必要がなく、この分製造コストの低減を図ることもできる。
【0026】
なお、本実施形態では、1500mmの所定間隔を有して緑色に着色された色付きパレット6Bを配置したが、本発明はこれに限定されるものではない。しかし、色付きパレット6Bは1500mm〜3000mmの所定間隔を置いて配置するのが効果的である。即ち、配置間隔を1500mm〜3000mmとすることにより、色付きパレット6Bが乗降床2に現れるタイミングが早すぎたり遅すぎたりせず、理想的なタイミングとすることができる。
【0027】
また、本実施形態では色付きパレット6Bの着色を緑色としたが、本発明はこの色に限定されるものではない。しかし、高齢者によるモニターテストの結果、緑色を基調とした色付きパレットが最も利用しやすいという結果を得た。
【0028】
更に、塗装12を行うことにより着色されたパレット6Bを構成したが、パレット6は通常複数の溝部を有しており、この溝部に着色された薄いシートを貼り付けても同様の効果を得ることができる。
【0029】
更にまた、パレット6の主移動路面Pは、本実施形態で示したように乗降床4と面一ではなく、図5に想像線Zで示したように僅かに高い、欄干8の高さ位置に変動を与えない100mm以下の高さh3の位置にすることも可能であるとともに、主移動路面Pは水平から多少傾斜のある場合でも本発明をそのまま適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 動く歩道
2、4 乗降床
3、5、12 機械室
2B、4B 傾斜床面
6 パレット
6A 通常パレット
6B 色付きパレット
7 ハンドレール
8 欄干
9 本体枠
10 床面
14 駆動歯車
P 主移動路面
Q 傾斜路面
R 凸曲線路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて一方の乗降床と機械室から他方の乗降床と機械室にかけて略水平移動し乗客を運搬するパレット、上記機械室内に備えられ上記パレットに係合する駆動歯車、上記パレットと同期移動するハンドレール、このハンドレールの移動を案内する欄干等を有して成る構造物と、この構造物を強度保持する本体枠を備えた動く歩道において、
上記パレットの略水平な主移動路面の高さ位置を、上記乗降床上面の頂面の高さ位置と略同一或いは僅かに高い位置とし、かつ、上記パレットが上記乗降床内に出入りする部分に、上記主移動路面よりも上記乗降床側が低く、かつ、上記駆動歯車まで直線状に延長される傾斜路面を設け、更に、上記乗降床に、建屋床面と同一高さの端部を備え、上記傾斜路面に連なり上記端部に対してパレット側が高く反パレット側が低くなる角度1〜3度の傾斜角度の直線状の傾斜床面を設けたことを特徴とする動く歩道。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−202412(P2010−202412A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142597(P2010−142597)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【分割の表示】特願2003−125609(P2003−125609)の分割
【原出願日】平成15年4月30日(2003.4.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】