動作判別装置、動作判別方法、及び動作判別コンピュータ・プログラム
【課題】 対象の動作をリアルタイムかつ高精度に検出することができる動作判別装置及び動作判別方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る動作判別装置は、複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段と、第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段と、第1の検知手段から出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工手段と、時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、第2の検知手段から出力されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて、動作を判別した判別結果を出力する動作判別手段と、を含むことを特徴とする。第1の動作判別モデルは、時系列データを入力ノードへの入力とし、動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークである。
【解決手段】 本発明に係る動作判別装置は、複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段と、第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段と、第1の検知手段から出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工手段と、時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、第2の検知手段から出力されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて、動作を判別した判別結果を出力する動作判別手段と、を含むことを特徴とする。第1の動作判別モデルは、時系列データを入力ノードへの入力とし、動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作判別技術に関する。より詳細には、本発明は、検知領域における対象の動作に応じて異なる信号を出力する最適化された検知手段と予め学習により最適化された動作判別モデルとを用いて、対象の動作を精度よく判別するための動作判別装置、動作判別方法、動作判別コンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、高齢化社会の到来や治安の悪化等を背景として、人間を含む対象の動作のような時間的な幅を持つ事象の判別を可能にする様々な動作判別技術が開発され、研究されている。人間を含む対象の動作を解析するために、対象の動作を何らかの手段で捉え、その動作に基づいて生成された情報又は信号をニューラルネットワークに入力して動作を判定する、いわゆるパターン認識技術の研究開発が進んでいる(例えば、特許文献1〜特許文献3を参照されたい)。
【0003】
ところで、近年、核家族化及び高齢化によって、様々な高齢者受入施設や介護施設が増加している。こういった施設においては、少数の職員で多数の入所者を担当せざるを得ないことから、職員が入所者の動作や行動を常時監視することは困難である。そのため、職員の目の届かない状況で入所者が単独で行動しようとしたり、夜間に行動を起こしたりしようとした場合に、ベッドからの転落又は転倒等の事故が発生する可能性があるともに、事故が発生したときに職員が気付かないケースもある。このような事故を回避する方法として、例えば係止具を用いて入所者の行動範囲を強制的に抑制する方法が行われる場合もあるが、このような方法は、入所者にとっては大きな苦痛を伴うものである。また、こういった施設への入所が困難な高齢者や患者は、在宅で介護せざるを得ないが、この場合にも同様の問題が存在する。したがって、施設又は在宅にかかわらず、被介護者、患者、又は高齢者等(以下、患者等という)の対象者の行動範囲をできるだけ制限することなく、職員又は家族に代わって対象者の動作を常時監視し、事故の発生を防止するか又は事故が発生した場合でも迅速に職員又は適切な施設に通報するための技術が必要とされている。
【0004】
このような技術として、感圧センサ、荷重検知センサ、重量検出センサ、圧電センサ、加速度センサ等を用いた技術が、例えば特許文献4〜特許文献6に開示されている。特許文献4は、被介護者が寝るベッドの脚に重量検知素子を設け、ベッド上の被介護者の重心位置に関連するデータ、例えば運動量、運動回数、及び運動速度等の組み合わせによって被介護者の活動パターンを演算し、そのパターンが通常の活動パターンではない場合に、被介護者が介護されるべき状態であると判断する技術である。
【0005】
特許文献5は、ベッドのマットレス上に複数の感圧センサを設け、被介護者のベッド上での動作に応じて複数の感圧センサから出力される検出信号を利用して、被介護者がベッドから離れたことを介護者に通知する技術である。
【0006】
特許文献6は、患者に作用する加速度並びに患者の脈拍、心電、及び血圧等を検出する、加速度センサを含む携帯型発信機を患者に装着し、該発信機からの信号に基づいて、患者の転倒やベッドからの転落を検出して、看護師等に異常を通知する技術である。
【0007】
また、別の技術として、患者等をカメラ等によって撮影し別室で画像を監視する方法や、患者等をカメラで撮影した画像を処理した上でニューラルネットワークに入力し、ニューラルネットワークからの出力を用いて患者等の動作を判別する方法も存在する。例えば、特許文献7は、被観察者のベッド上での動作を一定時間ごとに撮影した画像をシルエット画像等に変換処理し、その画像データを用いて被観察者が起床状態又は就寝状態であるかを識別し、被観察者が離床するか否かをニューラルネットワークを用いて判定し、被観察者の離床を感知した際に予め特定した看護師等に自動的に通報する技術を開示する。
【0008】
このように、患者等を始めとする対象の動作を判別するための種々の従来技術が存在するが、これらの技術においては、以下のような問題がある。
感圧センサ、荷重検知センサ、重量検出センサ、圧電センサ、加速度センサ等のセンサを単独で、又は他の生体信号検出装置と併せて利用した従来技術は、これらのセンサが対象の動作等を直接検知するものである。したがって、少数のセンサしか用いられない場合には、例えば患者等がベッドから離床したかしないかという、いわゆるオンオフ情報しか得られず、動作の種類並びにその方向及び速度等を判断することは困難である。対象の動作の種類並びにその方向及び速度等を精度よく検出できるようにするためには多数のセンサを用いる必要があるが、コストの上昇及びシステムの複雑性が問題になる。また、これらの技術は、センサが対象の動作や動きを直接検知するものであるため、仮に対象が検知範囲を避けて動作した場合には検知できないおそれがある。赤外線アクティブセンサを用いた従来技術も存在するが、この技術においても同様に、一定の範囲における患者等の動作の種類並びにその方向及び速度等を精度よく検出するためには、赤外線ビームの発光部及び受光部を多数設ける必要があるため、コストがかかるとともにシステムが複雑になる。少数のセンサしか用いないシステムの場合には、患者等が検知範囲を避けて行動した場合には対応できない。
【0009】
患者等を撮影した画像又は映像を利用する従来技術は、複雑で高価なシステムとなると同時に、画像又は映像を扱うため個人のプライバシーの問題がある。カメラによる撮影画像又は映像を遠隔監視するシステムは、監視者が画像又は映像を眼で見て判断することが必要であり、画像又は映像を監視する監視者の適切な判断があってはじめてシステムが有効となる。患者等の特異な動作が長時間に渡って生じる場合には画像又は映像を監視することによって問題となる動作を判別できることもあるが、短時間にしか生じない動作も見逃さないようにするためには、監視時間と同程度の時間が判断する側にも必要とされる。たった一度の異常動作といった、監視時間全体からみればわずかな時間における動作を確実に捉えるためには、監視者の精神的及び肉体的な負担が大きい。
【0010】
カメラによる撮影画像とニューラルネットワークとを組み合わせて用いることによって患者等の離床を予測する従来技術は、患者等をカメラによって撮影し、撮影された画像データに基づいて患者等の動作を判別するものである。したがって、判別対象の患者等と背景との色彩やコントラストの差が小さい状況、例えば夜間や、患者等の服装の色と部屋の壁等の背景の色との差がないような場合には、その動作判別精度は低下すると考えられる。また、こうした技術は、対象の種類並びにその方向及び速度等の検出精度はセンサを単独で用いる他の技術と比べれば高まる可能性があるものの、コスト及びプライバシー侵害が問題になるおそれがある。
【0011】
上述の従来技術についての課題を考慮すると、本出願の発明者らは、一定の範囲における患者等の対象の動作及びその方向等を、高精度で、安価に、プライバシーに配慮して検出するためには、受動センサ(パッシブセンサ)を用いた動作判別システムを構築することが好ましいと考えている。受動センサは、対象が発する熱量と背景の熱量との差分量によって、対象の動作に応じた特徴量が重畳されている電圧波形を出力することができるため、上述の従来技術が有する種々の課題を解決するものである。しかしながら、受動センサによって生成される電圧波形の変化は、複雑かつ微小である。そのため、受動センサから出力される電圧波形の変化から直接的に動作の種類を明確に判別することは極めて困難であり、受動センサによって取得される情報のみを用いて、個人差を超えた汎用性のある動作判別システムを構築することは難しい。そこで、本出願の発明者らは、受動センサによって取得された情報をニューラルネットワークに入力することによって、対象の動作の特徴を抽出し、パターン認識を行う方法を既に提案している(特許文献8)。
【0012】
しかしながら、特許文献8に記載の技術は、受動センサとニューラルネットワークとを用いて対象の動作を判別することに関する基本的な原理ではあるものの、実際に動作判別システムを構築する際に用いるための技術としては、高い判別精度を得ることが実質的に不可能であるという課題があった。すなわち、特許文献8に記載の技術は、単にセンサから得られた対象の動作に関するデータをニューラルネットワークに入力し、ニューラルネットワークから判別結果を出力させることができるようにするための基本的な技術についての発明を開示したものであり、医療現場等を始めとする実際の現場で利用可能な実用的なシステムを構築するのに必要な判別精度を得るための技術は開示されていない。実用的なシステムを構築できるようにするためには、対象の動作を捉える受動センサと、その出力データを入力して判別結果を出力するニューラルネットワークとをいずれも最適化させなければならない。例えば、受動センサが対象の動作に最適な条件で設定されていない場合には、その出力をニューラルネットワークに入力したとしても、対象の動作に応じて得られるデータには動作の特徴が正確に現れておらず、最適な判別結果を得ることはできない場合がある。同様に、ニューラルネットワークが対象の動作に最適な条件で設定されていない場合にも、最適な判別結果を得ることはできない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−282273号明細書
【特許文献2】特許第3237048号明細書
【特許文献3】特許第3627321号明細書
【特許文献4】特開2000−316915号明細書
【特許文献5】特開2000−271098号明細書
【特許文献6】特開2008−47097号明細書
【特許文献7】特開2007−72964号明細書
【特許文献8】特開2007−220055号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明者らは、ニューラルネットワークを用いて、動作の種類に応じて生成される電圧波形にその動作の固有の特徴が良好に現れるように、ニューラルネットワークを用いて予めセンサ条件を最適化したセンサモジュールと、ニューラルネットワークを用いて最適化した動作判別モデルとを用いて、一定の範囲における対象の動作の種類をリアルタイムかつ高精度に判別することができるとともに、安価に構成することができる、動作判別装置及び動作判別方法について、既に提案しているところである(PCT/JP2009/004889 以下、先願という)。
【0015】
先願の動作判別技術は、対象の動作を検知して動作の種類を高精度に判別することができるようにするための技術である。しかしながら、この技術は、対象の動作のうちでも、特に動きのある動作の種類を高精度に判別できることを特徴とするものである。すなわち、例えば病院のベッド上に寝ている患者の動作を判別する例では、患者がベッドから起き上がる動作を「起床」、ベッドから離れる動作を「離床」とすると、先願の動作判別技術は、起床から離床までの一連の動作を高精度に判別することができる。しかしながら、例えば患者がベッドから起き上がった後、両足又は片足をベッドの端部から下に降ろしてベッドに腰掛けた状態(この状態を「端座位」という)が維持された場合には、先願の動作判別技術は、その状態を端座位が維持された状態として高精度に検知することが難しい。すなわち、先願の動作判別技術は、対象の動作のうち大きな動きのない状態が継続していることを高精度に判別することが難しいという課題があった。
【0016】
本発明は、対象が特定の動作を行ったときにその動作の種類をリアルタイムかつ高精度に判別することができるだけでなく、対象が特定の動作を行った後にその状態が継続されていることをリアルタイムかつ高精度に判別することができる動作判別技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、先願に記載の発明の改良であり、先願発明の検知手段に加えて別の検知手段をさらに用いることによって、上述の目的を達成するものである。
【0018】
本発明の1つの態様によれば、本発明は、対象の動作をリアルタイムで判別するための最適化された動作判別装置を提供する。本発明に係る動作判別装置は、複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段と、第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段と、第1の検知手段から出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工手段と、時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、第2の検知手段から出力されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて、動作を判別した判別結果を出力する動作判別手段と、を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の別の態様によれば、本発明は、対象の動作をリアルタイムで判別する動作判別方法を提供する。本発明に係る動作判別方法は、複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段からのアナログ値を取得する第1のデータ取得ステップと、第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段からのアナログ値を取得する第2のデータ取得ステップと、第1のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工ステップと、時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、第2のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて動作を判別し、判別結果を出力する、動作判別ステップと、含むことを特徴とする。
【0020】
第1の動作判別モデルとしては、時系列データを入力ノードへの入力とし、動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いることが好ましい。
【0021】
第1の動作判別モデルは、第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、複数の第1の検知領域の各々における既知の動作に対応して出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、時系列データをニューラルネットワークの入力ノードに入力して動作の種類を出力ノードから出力することによって既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、判別結果と既知の動作との比較に基づいてニューラルネットワークのパラメータを調整する工程とを行うことによって最適化されることが好ましい。
【0022】
第1の検知手段としては、複数の検知素子と複数のレンズとを有する受動センサを含むものを用いることが好ましく、複数の検知素子は、デュアル素子、クワッド素子、又はそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0023】
第1の検知手段は、第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、複数の第1の検知領域の各々における既知の動作に対応して出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、時系列データを入力ノードへの入力とし既知の動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いて既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、判別結果に基づいて第1の検知手段の条件を変更する工程とを行うことによって最適化されることが好ましい。
【0024】
第1の検知手段の条件は、複数の検知素子の種類、個数、位置、感度、及び回転角度、複数の検知素子の各々に取り付けられる複数のレンズの種類及び回転角度、並びに、第1の検知手段の設置角度のうちの1つ又は複数の組み合わせとすることができる。
【0025】
第2の検知手段は、光電変換素子、熱電変換素子、若しくは焦電変換素子のいずれか又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0026】
好ましくは、動作判別手段が時系列分析モデルをさらに含み、時系列分析モデルは、第1の動作判別モデルによって判別された複数の判別結果の時系列的な関係に基づいて動作を判別し、判別結果を出力する。この時系列的な関係は、順次出力される複数の判別結果のうちの所定の数について計算される、特定の動作として判別された判別結果の数とそれ以外の判別結果の数との割合、及び、特定の動作として判別された判別結果の連続個数とすることができる。
【0027】
第1の検知手段から出力されるアナログ値と所定の閾値とを比較する判定手段をさらに含み、アナログ値が所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにすることが好ましい。
【0028】
動作判別手段は、第1の検知手段によって出力されたアナログ値と第2の動作判別モデルによる判別結果とに基づいて、対象の動作を判別する第3の動作判別モデルをさらに含むことが好ましい。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明は、本発明に係る動作判別方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラム・コード命令を含むコンピュータ・プログラムを提供する。
【0030】
本発明によれば、検知手段を用いて対象の動作を捉え、検知手段から出力される動作の種類によって異なる電圧波形データと、動作に応じた電圧波形データの特徴からその波形に現れている動作の種類を判別できるように最適化された動作判別モデルとを利用することによって、特定の動作を行う対象の動作の種類をリアルタイムで判別することができる。本発明においては、対象の動作を捉える手段としてカメラ等の撮影装置を用いることはないため、対象のプライバシーが侵害されるおそれはない。特に、本発明によれば、対象の動作のうちでも大きな動きのない状態が継続していることも高精度に判別することができる。
【0031】
本発明においては、既知の動作を利用したパラメータ調整工程を経て予め最適化されたニューラルネットワークを動作判別モデルとして用いるため、検知手段から出力されるデータに現れている、動作の種類によって異なるわずかな特徴から、対象の動作の種類を精度よく判別することができる。
【0032】
本発明においては、対象と周囲(背景)との温度差(赤外線量の変化)を電圧波形に変換して出力する受動センサを対象の動作を捉える検知手段として用いることによって、少数の検知手段でも対象の動作の方向や速度等を適切に捉えることができるため、動作判別精度を高めることができるともに、少数の検知手段しか用いないため装置コストを低減させることができる。また、検知手段として受動センサを用いることによって、対象とその周囲との間の赤外線量の差から対象の動作を捉えるため、例えば対象と周囲とのコントラスト差が少ない場合や夜間等でも、動作判別精度が低下しない。
【0033】
本発明において用いられる検知手段は、例えば素子の種類やレンズの種類等といったセンサ条件が既知の動作の測定を通じた最適化処理によって最適な状態に調整されているため、検知手段から出力される電圧波形には、動作の種類によって異なる特徴が適切に現れている。こうした最適化された検知手段を用いることによって、ニューラルネットワークにおいて動作の特徴を判別する精度を、より高めることができる。
【0034】
本発明においては、最適化された検知手段及び最適化された動作判別モデルを用いることによって、動作判別モデルから出力される判別結果は、精度の高いものとなっている。しかしながら、本発明においては、動作判別モデルから出力される複数の判別結果の時系列的な関係を分析する時系列分析モデルをさらに用いることによって、動作判別モデルから出力される結果を単独で用いる場合より、さらに精度の高い判別結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る動作判別装置を含む動作判別システムの基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る第1の動作判別モデルを用いて行われる、未知の動作をリアルタイムで判別するための処理の概略的なフロー図である。
【図3】最適化された動作判別装置がベッドに設置された状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の外観(a)及び構成(b)を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す概略的な斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す概略的な斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す概略的な斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す側面図である。
【図9】本発明に別の実施形態に係る第2の検知手段の検知領域を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の第1の検知手段によって出力された電圧波形の例を示す。
【図11】本発明の一実施形態に係る、第1の検知手段によって出力された電圧波形を加工するための概略的な処理フロー図(a)と、加工後のデータの概念図(b)とを示す。
【図12】本発明の一実施形態に係る、最適化された第1の動作判別モデル及び時系列分析モデルによって行われる動作判別処理の概略的なフロー図である。
【図13】本発明の一実施形態において用いられる多層ニューラルネットワークの概念図である。
【図14】図12の処理をより詳細に説明するフロー図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る、第1の検知手段のセンサ条件を最適化するための手順を示す概略的なフロー図である。
【図16】本発明の一実施形態係る、第1の動作判別モデルを最適化するための手順を示す概略的なフロー図である。
【図17】本発明の一実施形態係る、閾値条件を決定するための処理を示す概略的なフロー図である。
【図18】第2の検知手段及び第2の動作判別モデルを含む動作判別装置による動作判別処理を示す概略的なフロー図である。
【図19】検知領域内における対象の存在の有無を検知する素子の出力電圧波形と、その波形に対応する差分Dの変化を概略的に示す図である。
【図20】端座位開始を判別するための処理を示す概略的なフローである。
【図21】端座位終了を判別するための処理を示す概略的なフローである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、被介護者、患者、又は高齢者等(以下、患者等という)といった対象のベッド上からベッド周辺までの範囲における動作を判別する装置及び方法を例として、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
【0037】
1.動作判別装置のブロック図と各ブロックの概要
図1は、本発明の一実施形態に係る動作判別システム100の基本的な構成を示すブロック図である。動作判別システム100は、焦電素子(検知素子)と焦電素子に取り付けられる又は被せられるレンズとを含む第1のセンサモジュール部(第1の検知手段)110と、第1のセンサモジュール部110から出力された連続的な電圧値すなわち電圧波形を受信し、受信した電圧波形を所定のレートでサンプリングするとともに、所定の時間幅で切り出したデータ(量子化された時系列データ)に加工するアナログ/デジタル変換部(データ加工手段)120と、加工されたデータを用いて動作判別を行う動作判別部(動作判別手段)131及び装置全体を制御する制御部132を含む解析・制御部130と、動作判別結果をデータサーバ150に送信する通信部140と、データサーバ150及びデータベース151と、データサーバ150から判別結果を受信する携帯端末等160とを含む。動作判別システム100は、さらに、患者等の存在の有無を検知して異なる電圧値を出力することができる素子を有する第2のセンサモジュール部170(第2の検知手段)を含む。
【0038】
本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール部110は、3つの焦電素子115〜117と、3つの焦電素子の各々に取り付けられるレンズ111〜113と、増幅器等の回路を有する基板(図4参照)とを含む。本発明の一実施形態において用いられる第1のセンサモジュール部110は、焦電素子の各々によって検知された複数の検知領域内における患者等からの赤外線量の変化(対象と背景との間の赤外線エネルギーの差(すなわち、温度差))を電圧波形に変換して出力する機能を有する。一般に、1つの焦電素子と1つのレンズとの組み合わせによって、例えば4×4=16個のゾーンからなる第1の検知領域が形成され、この16個のゾーンからなる第1の検知領域において検知された赤外線量の変化の平均値が1つの電圧波形として1つの焦電素子から出力される。したがって、例えば第1のセンサモジュール部110が3つの焦電素子+レンズの組み合わせを含む場合は、16×3=48個のゾーンからなる複数の第1の検知領域(この全体を検知範囲という)における赤外線量の変化として3つの電圧波形が第1のセンサモジュール部110から出力されることになる。第1の検知領域の数、第1の検知領域のの各々範囲は、検知素子とレンズの組み合わせによって異なる。焦電素子115〜117、レンズ111〜113、及び増幅器等の回路を有する基板は、周知の焦電型赤外線センサ(いわゆる受動センサ)に用いられるものと同等であり、これらの詳細な構造、製造方法等についてはここでは特に説明しない。
【0039】
焦電素子115〜117の各々には、レンズ111〜113が取り付けられる。3つの焦電素子115〜117の配置、及びレンズ111〜113の各々の種類は、焦電素子115〜117によって形成される複数の第1の検知領域によって必要な検知範囲全体が効率よくカバーできるように決定される。例えば、本発明の一実施形態においては、3つの焦電素子115〜117は、縦に一列に並べて配置される。それぞれの焦電素子115〜117に取り付けられるレンズ111〜113は、例えば、上部の焦電素子に取り付けられるレンズとして縦の領域を狭く横の領域を広く検知できるレンズを使用し、中央部の焦電素子に取り付けられるレンズとして横の領域がベッドサイドを検知できるレンズを使用し、下部の焦電素子に取り付けられるレンズとして縦横の領域を広く検知できるレンズを使用するというように、動作判別の対象や種類に応じて適切な領域を検知することができるように選択される。
【0040】
本発明においては、第1のセンサモジュール部110の各種のセンサ条件、例えば、焦電素子115〜117の種類、個数、回転角度、感度、位置、レンズ111〜113の種類、回転角度、第1のセンサモジュール部110の設置角度等は、患者等の動作に応じて電圧波形に特徴が現れるように、ニューラルネットワークを用いて最適化が行われる。第1のセンサモジュール部110の設置角度は、第1のセンサモジュール部110の複数のレンズ111〜113によって形成される平面の鉛直方向からの傾き角度であり、第1のセンサモジュール部110、アナログ/デジタル変換部120、解析・制御部130、及び通信部140を1つのケースに収めた装置190とする本発明の一実施形態においては、装置190自体の鉛直方向からの角度である。センサ条件の最適化については後述する。なお、第1のセンサモジュール部110の焦電素子及びレンズの数は3つに限定されるものではなく、1つ、2つ、又は4つ以上の焦電素子及びレンズを用いてもよい。
【0041】
焦電素子115〜117によって検知された赤外線量の変化は、焦電素子115〜117の各々について1つの連続的な電圧値、すなわち電圧波形に変換され、第1のセンサモジュール部110から出力される。本発明の一実施形態においては3つの焦電素子115〜117が用いられているため、3つの連続的な電圧値(すなわち、3チャネルの電圧波形)が第1のセンサモジュール部110から出力される。
【0042】
本発明の一実施形態において用いられる第2のセンサモジュール部170は、その検知領域内における患者等からの赤外線量を電圧波形に変換して出力する機能を有し、対象が検知領域内に存在するかどうかによって異なる電圧値を出力することができる。本発明の一実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は、例えば光電変換素子、熱電変換素子、又は焦電素子などといった素子と、レンズと、増幅器等の回路を有する基板とを含む。第2のセンサモジュール部170に用いられる素子は、検知領域内における患者等の存在の有無によって異なる電圧値を出力することができるものか、又は、出力された電圧値を加工することによって検知領域内における患者等の存在の有無が判別できるデータが得られるものであればよい。第2のセンサモジュール170に用いられる素子は、特に、光電変換素子、熱電変換素子が好ましい。これらの素子は、出力される電圧値の波形が検知領域内における患者等の存在の有無の検知、すなわち状態の検知に適している。これらの素子から出力される電圧値は、患者等が検知領域内に入ったときに、検知領域内に患者等が存在しない場合の電圧値(これを基準電圧という)から変化する。基準電圧から変化した電圧値は、患者等が検知領域内に存在し続ける間は維持され、患者等が検知領域から出たときには再び基準電圧に復帰する。第2のセンサモジュール部170に用いられるレンズは、必要な検知領域が効率よくカバーできるように選択されることが好ましい。
【0043】
アナログ/デジタル変換部120は、第1のセンサモジュール部110から出力された電圧波形を受信し、受信した電圧波形を所定のレートでサンプリングし、一定の時間幅のデータ(量子化された時系列データ)に加工する機能を有する。第1のセンサモジュール部110から出力される電圧値は、例えば0〜5Vの範囲で変化する連続的なアナログデータである。一方、解析・制御部130に含まれる動作判別部131の第1の動作判別モデル135への入力は、デジタルデータとする必要がある。このため、アナログ/デジタル変換部120は、第1のセンサモジュール部110から出力されたアナログデータを、第1の動作判別モデル135に入力するのに適したデジタルデータ(量子化されたデータ)に変換するように構成される。
【0044】
アナログ/デジタル変換部120は、受信した3チャネルの電圧波形の各々を、例えば0.1秒のサンプリングレートで変換することにより、例えば4秒間に取得した電圧波形をチャネルごとに40個のデジタルデータ(電圧値)に変換することができる。サンプリングレートは、本発明の実施形態においては、患者等の動作の特徴を十分に捕捉するのに必要な時間間隔として0.1秒としているが、これに限られるものではなく、0.1秒より細かくしても粗くしてもよい。しかしながら、サンプリングレートが細かすぎると計算負荷が大きくなってリアルタイムでの動作判別が困難になり、サンプリングレートが粗すぎると動作の特徴を十分に捕捉できないため、これらの要因を考慮してサンプリングレートを決める必要がある。
【0045】
解析・制御部130は、動作判別部131を含む。動作判別部131は、最適化された第1の動作判別モデル135と時系列分析モデル136とを含み、アナログ/デジタル変換部120からのデータを受信して、最適化された第1の動作判別モデル135にそのデータを入力し、第1の動作判別モデル135による判別結果又は第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136による判別結果を、通信部140に出力する。本発明の一実施形態においては、第1の動作判別モデル135はニューラルネットワークである。
【0046】
動作判別部131は、さらに、第2の動作判別モデル180及び第3の動作判別モデル181を含む。第2の動作判別モデル180は、第2のセンサモジュール部170から出力された電圧値を用いて、第2のセンサモジュール部170の検知範囲内に患者等が存在するかどうかを判別し、その判別結果を出力する。第3の動作判別モデル181は、第2の動作判別モデル180による判別結果と、第1のセンサモジュール部110からの電圧値とに基づいて、第2の動作判別モデルによる判別後の患者等の動作を判別する。
【0047】
解析・制御部130は、記憶手段133と制御部132とをさらに含む。記憶手段133には、第1の動作判別モデル135、第2の動作判別モデル180、第3の動作判別モデル181、時系列分析モデル136、及び閾値判定手段137を記述したコンピュータ・プログラム、並びに、本発明に係る動作判別装置の動作に必要な種々のコンピュータ・プログラム及びデータが格納される。制御部132は、本発明に係る動作判別装置の全体の動作を制御し種々の演算処理を行うCPU(中央処理装置)134を有する。解析・制御部130は、例えば、組み込み機器等に用いられるARMアーキテクチャを利用したコンピュータ・システムを用いて実現することが好ましいが、汎用のパーソナルコンピュータ・システムを用いて実現することもできる。
【0048】
通信部140は、解析・制御部130から出力された動作判別結果をデータサーバ150に送信する。通信部140とデータサーバ150との間の通信は、無線通信とすることも有線通信とすることもできる。データサーバ150は、少なくとも受信した判別結果と、その受信時間と、複数の動作判別装置のいずれから判別結果を受信したかを判断するために用いられる動作判別装置IDとをデータベース151に記録するとともに、受信した判別結果を、必要に応じて、例えばナースステーションなどの遠隔地にある携帯端末等160に送信する。データサーバ150は、メインフレーム又はサーバ等のコンピュータ・システムによって実現することができる。携帯端末等160によって判別結果が受信されることによって、携帯端末等160を携帯した看護師等が、ベッドからの患者の起床、転落、又は離床等をリアルタイムで把握することができる。本発明の別の実施形態においては、解析・制御部130から出力された動作判別結果を、通信部140を介して携帯端末等160に直接送信するようにしてもよい。
【0049】
本明細書においては、上述の第1のセンサモジュール部110、アナログ/デジタル変換部120、解析・制御部130、及び通信部140を1つのケースに収め、これとは別個に設置される第2のセンサモジュール部170と合わせて全体を1つの装置として構成した実施形態について説明する。しかしながら、本発明における装置及びシステムは、このような構成に限定されるものではなく、第1のセンサモジュール部110、アナログ/デジタル変換部120、解析・制御部130、及び通信部140をそれぞれ別個の装置として、又はこれらのいくつかを一体的な装置として、構成し、これらの装置の各々と第2のセンサモジュール部170とデータサーバ150とを有線通信又は無線通信によって相互接続することもできる。この実施形態の場合には、第1のセンサモジュール部110が単独で、又は第1のセンサモジュール部110と他のいくつかの部分とを1つのケースに収めた装置が、後述するように患者等が寝ているベッドの頭上に設置される装置となる。第2のセンサモジュール部170を除く残りの構成要素は、すべて一体として又はそれぞれ別個の要素として、例えばベッドの近くに設置される装置として構成されても、ベッドから離れた遠隔地に設置される装置として構成されてもよい。
【0050】
2.第1の動作判別モデルによる動作判別処理
(処理の概要)
図2は、本発明の一実施形態に係る動作判別システム100による、第1のセンサモジュール部110によって検知される患者等の未知の動作をリアルタイムで判別するための処理の概略的なフロー図200である。焦電素子の種類、個数、位置、回転角度、感度、レンズの回転角度、種類、第1のセンサモジュール部110の設置角度等といった各種のセンサ条件が予め最適化された装置190が、患者等が寝ているベッドの頭上に設置される。図3は、患者等が寝ているベッド301の頭上に最適化された装置190が設置された状態を示す。このように設置された装置190の第1のセンサモジュール部110によって、ベッド301上の患者等の動作が検知され、動作の種類に対応する特徴が現れた電圧波形データが出力される(s201)。
【0051】
第1のセンサモジュール部110から出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120に入力され、そこで量子化された時系列データに加工される(s202)。量子化された時系列データは、動作判別部131の最適化された第1の動作判別モデル135に入力され、動作判別のための処理が行われる(s203)。さらに高精度な判別結果を得るために、動作判別は、第1の動作判別モデル135のみではなく、第1の動作判別モデル135から出力された結果をさらに分析して判別結果を出力する時系列分析モデル136も用いて行うことができる。最適化された第1の動作判別モデル135、又は、最適化された第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136による処理が終了すると、動作判別部131から患者等の動作の判別結果が出力される(s204)。判別結果は、通信部140に送られ、通信部140は、有線又は無線通信によって判別結果をデータサーバ150に送信する(s205)。データサーバ150は、判別結果を受信日時及び動作判別装置IDと共にデータベース151に格納し(s206)、判別結果を必要に応じて、例えば音声又はテキストで携帯端末等160に通知する(s207)。
【0052】
(最適化された動作判別装置)
図4は、本発明の一実施形態に係る最適化された装置190の外観(a)及び内部構成(b)を示す概略図である。本発明の一実施形態においては、装置190は、3つの受動センサ410、420、及び430を有する。受動センサ410〜430の各々は、それぞれ、レンズ111、112、113と、焦電素子115、116、117と、基板411、421、431とを含む。受動センサ410〜430の各々の検知領域は、それぞれのレンズ111〜113を適切に選択することにより、例えば以下のように設定することができる。
・受動センサ410;縦の検知領域が狭く、横の検知領域が広くなるレンズを用いて、起床時に患者等の上半身が横切るような検知領域を設定する(図5及び図8)
・受動センサ420;横の検知領域がベッドサイドをカバーするレンズを用いて、患者等のベッドからの転落を検知する領域を設定する(図6及び図8)
・受動センサ430;縦横の領域を広く検知するレンズを用いて、患者等のベッドからの離脱、すなわち離床を検知する領域を設定する(図7及び図8)
なお、本明細書においては、受動センサ410、420、430によって出力されるデータは、それぞれチャネル1(ch1)のデータ、チャネル2(ch2)のデータ、チャネル3(ch3)のデータということもある。
【0053】
受動センサ410〜430は、受動センサ410〜430の各々の検知領域内における患者等からの赤外線量の変化を電圧値に変換して出力する。受動センサ410〜430の各々の検知領域は、当該技術分野において周知のように、複数の検知ゾーンで構成されており、受動センサ410〜430は、患者等又はその一部が複数の検知ゾーンの幾つかを横切ったときに、その横切った方向及び速度に応じて異なる電圧波形を生成することができる。
【0054】
本発明の一実施形態において、最適化された装置190の第1のセンサモジュール部110によって出力された電圧波形の例を図10に示す。図10(a)は、患者等がベッドから起床した瞬間を含む前後の数秒間に生成された電圧波形の例であり、図10(b)は、患者等がベッドから転落した瞬間を含む前後の数秒間に生成された電圧波形の例であり、図10(c)は、患者等がベッドから離脱して歩き出した瞬間、すなわち離床を含む前後の数秒間に生成された電圧波形の例である。図10から、患者等の異なる動作に応じて、ch1〜ch3の各々から異なる電圧波形が出力されていることが分かる。これらの電圧波形は、センサ条件によっては、動作の種類が異なった場合でもそれぞれの動作の固有の特徴が良好に現れないこともあり、そのような電圧波形を動作判別モデルに入力しても正確な判別結果が得られないことになる。したがって、本発明は、こういった問題に対応して、既知の動作の種類に応じて生成される電圧波形にその動作の固有の特徴が良好に現れるように予めセンサ条件を最適化し、そのように条件が最適化された第1のセンサモジュール部によって未知の動作に応じて異なる電圧波形が生成され、生成された電圧波形から、最適化された動作判別モデルを用いて当該未知の動作の特徴を抽出して動作の種類を判別できるようにしたことを特徴とする。
【0055】
(データ加工処理)
受動センサ410〜430から出力された、動作の特徴が現れた3チャネルの電圧波形は、アナログ/デジタル変換部120に入力され、第1の動作判別モデル135に入力するのに適した形態のデータに加工される(図2のs202)。図11は、第1のセンサモジュール部110の受動センサ410〜430の各々から出力された電圧波形を加工するための概略的な処理フロー図(a)と、加工後のデータの概念図(b)とを示す。図11(a)を参照すると、まず、連続的な電圧値(すなわち、電圧波形)が、受動センサ410〜430の各々から出力され(s1001)、アナログ/デジタル変換部120に入力される(s1002)。
【0056】
アナログ/デジタル変換部120に入力された電圧波形は、最終的な行動判別結果を精度よく得るのに必要な所定の時間幅、例えば4秒間ごとの時間幅で分割される(s1003)。なお、所定の時間幅は、4秒間に限られるものではないが、患者等の動作によって生じる第1のセンサモジュール部110からの電圧波形変化の開始から終了までの時間幅として適切な幅が選択されることが好ましい。所定の時間幅が4秒間の場合、アナログ/デジタル変換部120では、入力された電圧波形が例えば0.1秒のレートでサンプリングされ、この場合には、4秒間で1chあたり40個、すなわち3chで120個のデータを一単位とするデータ群が得られることになる(これ以降、連続的な電圧波形が所定のレートでサンプリングされ、所定の時間幅に含まれる複数のサンプリングデータが一単位としてまとめられたデータ群を「ケース」と呼ぶこともある)。第1の動作判別モデル135による動作判別は、この0.1秒ごとに行われることになる。
【0057】
すなわち、まず40個/chのデータ(120個/3chのデータ=1ケース)を用いて最初の動作判別が行われる。次いで、最初の40個/chのデータのうち、チャネルの各々について最も古い0.1秒のデータを廃棄して39個/chのデータとし、この39個/chのデータに、チャネルの各々について最初の4秒間の次の0.1秒のデータを新たに付加して再び40個/chのデータとする。この新たな40個/ch(120個/3ch=1ケース)のデータを用いて次の動作判別が行われる。このような処理が0.1秒ごとに繰り返されることによって、0.1秒ごとに動作判別が行われることになる(言い換えると、4秒間の波形データを保持しながら0.1秒ごとにデータを更新することによって、4秒間のデータを用いて0.1秒ごとに1つの動作判別が行われる。更新前の4秒間120個のデータと更新後の4秒間120個のデータとは、117個が共通している)。所定の時間幅で分割されて得られた3つのチャネルのデータは、ch1、ch2、ch3の順番で一列に結合され、図11(b)に示されるような量子化された時系列データとして再構成される(s1004)。再構成されたデータは、解析・制御部130に出力され(s1005)、データ加工処理は終了する。
【0058】
(動作判別処理)
図11(a)の処理によって得られた量子化された時系列データは、次いで、解析・制御部130の動作判別部131に入力される。図12は、動作判別部131の最適化された第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136によって動作判別が行われる処理の概略的なフロー図である。処理が開始すると、まず、量子化された時系列データが、動作判別部131の最適化された第1の動作判別モデル135に入力され(s1101)、最適化された第1の動作判別モデル135による動作判別処理が行われた後(s1102)、判別結果が出力される(s1103)。
【0059】
(最適化された動作判別モデル)
本発明の一実施形態においては、好ましくは、第1の動作判別モデル135としてニューラルネットワークが用いられる。図13は、本発明の一実施形態において最適化された第1の動作判別モデル135として用いられる多層ニューラルネットワークを概念的に示す。多層ニューラルネットワークは、2つ以上の層に配置されるニューロン又はノードと呼ばれる処理エレメント(図13において「N」と表記されている要素)の組からなる。多層ニューラルネットワークは、通常、入力層と出力層に挟まれた少なくとも1つの隠れた中間層が存在する。入力層は、提示された入力パターンによって中間層への出力の値が決定されるニューロンを有し、中間層は、入力層から出力された値によって出力層への値が決定されるニューロンを有し、出力層は、中間層からの出力によって最終的に出力される値すなわち判別結果が決定されるニューロンを有する。各々の層におけるニューロンへの入力は、前の層のニューロンの出力に依存する。したがって、多層ニューラルネットワークにおける所定のニューロンの出力は、そのニューロンへの入力の関数となる。
【0060】
一般に、ニューロンへの入力ベクトルをx=(x1,・・・,xi,・・・,xM)、出力をyとすると、1つのニューロンの動作は以下の式で表される。
【数1】
ここで、wiは入力要素xiに係る結合の重み、θはニューロンの閾値と呼ばれる。H[ ]は、閾関数、ステップ関数、ヘビサイド関数などと呼ばれる関数であり、[ ]内の値が正のときに1、負のときに0の値をとる。閾関数としてはシグモイド(Sigmoid)関数が用いられることが多い。したがって、このニューロンは、入力を重み付けして足し合わせた和が、閾値より小さい場合には0を出力し、閾値を越える場合には1を出力する。精度の良い動作判別を行うためには、重みベクトルw=(w1,・・・,wi)及び/又は閾値θを適切に決める必要がある。w及び/又はθを修正する手続きをニューラルネットワークの学習アルゴリズムといい、このときの修正の大きさを学習率という。代表的な学習アルゴリズムは、以下のようなものであり、誤り訂正学習法と呼ばれる。
(1)wの初期値を0でないランダムな値に定める。
(2)学習データから1つのデータxをランダムに選んで入力し、現在のwの値を用いてニューラルネットワークの出力を計算し、判別結果を示す。
(3)判別結果が誤りの場合のみ、結果が正しくなる方向にw及び/又はθの値を修正する。
【0061】
本発明の一実施形態においては、入力層のニューロン数、中間層数、及び/又は学習率といった各種のパラメータを、判別しようとする動作を模擬した既知の動作に基づいて正しい判別結果が出力されるように調整することによって、最適化された第1の動作判別モデル135が得られる。動作判別モデルの最適化については後述する。
【0062】
本発明の一実施形態に係る第1の動作判別モデル135は、好ましくは、判別しようとする複数の動作の各々について最適化された複数の動作判別モデルの集合体であることが好ましい。例えば、判別させたい動作が、患者等のベッドからの起床(ベッドから上半身を起こす動作)、転落(ベッドから落下する動作)、又は離床(ベッドから離れる動作)の3種類の場合には、本実施形態の装置190は、起床動作と起床ではない動作(例えば、寝返り、手を挙げる、脚を上げる等)を判別するように最適化された起床判別モデルと、転落動作と転落ではない動作(例えば、ベッドから出て歩き去る等)を判別するように最適化された転落判別モデルと、離床動作と離床ではない動作(例えば、ベッドから離れることなくベッド上で体を動かす等)を判別するように最適化された離床判別モデルとの3つのモデルを組み合わせた第1の動作判別モデル135を用いて、最終的な動作判別を行うことが好ましい。当然のことながら、本発明の別の実施形態において、3種類以上の動作を判別できる1つの動作判別モデル135のみを装置190に組み込み、この動作判別モデル135によって起床、転落、及び離床の3種類の動作判別を行うようにすることもできる。しかしながら、このような実施形態は、動作の種類に応じた複数の判別モデルの集合体を動作判別モデル135として用いる実施形態と比較して、動作判別の精度が低下する可能性がある。
【0063】
複数の最適化された第1の動作判別モデル135を用いる実施形態においては、それらの第1の動作判別モデル135を直列的に連結させて用いても並列的に連結させて用いてもよい。例えば、ベッドからの起床、転落、離床の3つの第1の動作判別モデル135を直列的に連結させて用いる場合は、まず取得されたデータを起床判別モデルに入力し、その結果が起床と判断されたときには、同じデータを転落判別モデルに入力し、その結果が転落と判断されたときには、同じデータをさらに離床判別モデルに入力することができる。3つのモデルを並列的に連結させて用いる場合は、取得されたデータを起床判別モデル、転落判別モデル、及び離床判別モデルの各々に同時に入力し、その結果に基づいて起床、転落、又は離床のいずれか又はそれらの組み合わせとしての最終的な判別結果を得るようにすることができる。いずれにしても、これらの複数の第1の動作判別モデル135の各々における動作判別処理及びそれらの最適化方法は同じであるため、以下においては、起床と起床以外とを判別する1つの第1の動作判別モデル135を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0064】
図12に戻ると、このようにして、最適化された第1の動作判別モデル135から判別結果が出力される(s1103)。出力された判別結果は、最適化された第1のセンサモジュール部110を用いて取得されたデータを、最適化された第1の動作判別モデル135に入力することによって得られたものであり、患者等の動作を精度よく判別した結果を示すものである。本発明においては、このようにして得られた複数の判別結果の時系列関係を利用する時系列分析モデル136をさらに用いる(図11のs1104〜s1107)ことによって、さらに高精度な判別結果を得ることができる。
【0065】
(最適化された時系列分析モデル)
本発明の一実施形態においては、時系列分析モデル136は、第1の動作判別モデル135から出力された複数の判別結果、例えばN個の判別結果のうち、例えば起床と判別された回数がM回で、かつ、起床と連続的に判別された回数がL回のときに、起床と判断するように構成することができる。このN、M、及びLの数値は、判別しようとする動作を模擬した既知の動作に基づいて正しい判別結果が出力されるように予め調整される。すなわち、本発明において用いられる時系列分析モデルは最適化された時系列分析モデル136である。本発明の一実施形態においては、最適化された時系列分析モデル136のN、M、及びLの値は、N=30、M=20、L=10である。次いで、時系列分析モデル136から最終的な動作判別結果が出力され(s1107)、さらに処理すべき時系列データがあれば(s1108)、ステップはs1101に戻ってさらに動作判別が行われ、処理すべき時系列データがなければ動作判別処理は終了する。
【0066】
(動作判別処理の詳細)
図14は、図12のs1101〜s1108の処理をより詳細に説明するための本発明の一実施形態に係るフロー図である。この図に基づいて、例えば起床動作を判別する際の処理の詳細を説明する。まず、電圧波形から0.1秒ごとにサンプリングされた3.9秒間の39個/ch(117個/3ch)の時系列データ(電圧値)が解析・制御部130によって取得され、例えば解析・制御部130に設けられた記憶手段(メモリ)133に蓄積される(s1301)。次いで、解析・制御部130は、各々のチャネルの最新の0.1秒のデータを取得し、そのデータを3.9秒間の39個/chデータの後に付加して、40個/ch×3ch(すなわち、1ケース)のデータを生成する(s1302)。これらのデータは、40個(1ch)−40個(2ch)−40個(3ch)のようにチャネル順に並べられた時系列データ(図10(b)を参照)として構成され、第1の動作判別モデル135に入力される。
【0067】
120個のデータは、最適化された第1の動作判別モデル135、すなわちニューラルネットワークの入力層に入力され、ニューラルネットワークによる処理が行われた後、出力層から動作判別結果が出力される(s1303)。例えば、判別させようとする動作が起床の場合に、第1の動作判別モデル135から出力されるフラグが1(TRUE)であれば起床予兆、出力されるフラグが0(FALSE)であれば起床予兆ではないと判断される(s1304)。この1つの判別結果は、上述の40個/ch×3ch=120個のデータを1つの単位とするデータ群すなわち1ケースがニューラルネットワークによって処理された結果として得られる。本発明の一実施形態においては、0.1秒ごとに更新されるデータを用いて、すなわち0.1秒ずれた4秒間のデータを用いて、0.1秒ごとに1つの判別結果が出力される。
【0068】
こうして連続的に出力される動作判別の結果は、時系列分析モデル136に順次入力され、起床予兆であると判別された結果とそれ以外の動作であると判別された結果との合計である動作判別回数Nと、起床予兆と判別された回数Mと、連続して起床予兆と判別された回数Lとがそれぞれカウントされる。時系列分析モデル136は、N、M、及びLを用いて、最終的に起床と判別されるかどうかを判断する(s1305)。本発明の一実施形態においては、判別回数30回のうち、起床予兆と判別された回数が20回以上であり、かつ、起床予兆と判別された連続回数が10回以上の場合には、最終的に起床と判別される(s1306)。これらのN、M、及びLの値は、判別結果の精度に影響を与えるパラメータであり、例えばN、M、及びLの組み合わせのうち最終的な判別結果の精度ができるだけ高くなる組み合わせを選択することによって、予め調整され最適化される。
【0069】
(動作判別結果の記録及び通知)
上述の第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136によって起床であると判別された場合(s1306)、並びに、s1304において起床予兆ではないと判別された場合及びs1305において起床ではないと判別された場合には(s1307)、その判別結果は通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される(s1308)。データサーバ150は、判別結果、その受信時刻、及び動作判別装置IDをデータベース151に格納する(s1309)とともに、判別結果を携帯端末等160に通知する(s1310)。この通知は、起床と判別された場合にのみ行われるようにしても、判別の都度行われるようにしてもよい。
【0070】
(次の動作判別処理)
次いで、解析・制御部130が、記憶手段133に蓄積され上述のように動作判別に用いられた各々のチャネルの40個の電圧値のうち最も古い電圧値をチャネルごとに破棄した(s1310)後、処理はステップs1302に戻る。解析・制御部130は、次の新たな0.1秒の電圧値を各々のチャネルのデータに加えて、新たな40個/ch×3chのデータを生成し、再び記憶手段133に蓄積する。このように生成された新たなデータを用いて、s1302〜s1310の処理が再び行われる。
【0071】
3.センサモジュール部の最適化
本発明は、患者等の異なる動作に応じた特徴が現れている、複数の受動センサから出力された電圧波形を動作判別モデルに入力し、動作を判別するものである。しかしながら、例えばセンサの個数やレンズの種類等といったセンサ条件が適切に設定されていない場合には、検知された動作の種類が異なってもそれぞれの動作の固有の特徴が電圧波形に良好に現れないこともあり、そのような電圧波形を動作判別モデルに入力しても正確な判別結果が得られないことになる。したがって、本発明においては、第1のセンサモジュール部110は、動作の種類に応じて生成される電圧波形にそれぞれの動作の固有の特徴が現れるように予め最適化されることが好ましい。本発明の一実施形態においては、この第1のセンサモジュール部110の最適化には、ニューラルネットワークが用いられる。
【0072】
図15は、本発明の一実施形態による、第1のセンサモジュール部110を最適化するための手順を示す。ここでは、まず、例えば図3に示されるように設置された、第1のセンサモジュール部110が最適化される前の装置190によって、判別しようとする患者等の動作を模擬した被験者によって行われた既知の動作が検知され、既知の動作に対応する電圧波形データが出力される(s1401)。第1のセンサモジュール部110が最適化される前の装置190は、例えば、第1のセンサモジュール部110に含まれる受動センサの個数、受動センサ410〜430に用いられる焦電素子115〜117の種類、焦電素子115〜117の回転角度、焦電素子115〜117の感度、焦電素子115〜117に被せられるレンズ111〜113の種類、レンズ111〜113の回転角度、受動センサ間の距離(すなわち受動センサの位置)、第1のセンサモジュール部110の鉛直方向からの傾き角度などといった各種のセンサ条件が、適当に設定される。この最初のセンサ条件の設定は、センサ条件の各々の性質と判別させようとする動作とに基づいて、理論的に予想される条件に設定されることが好ましい。
【0073】
焦電素子115〜117は、例えば逆向きの極性を持つ2組の電極を有するデュアル素子、極性の異なる4組の電極を有するクワッド素子等といった種類があり、焦電素子115〜117の種類、焦電素子115〜117の回転角度、及び焦電素子115〜117の感度は、それらの条件によって検知対象すなわち熱源の移動方向に基づく検知精度に影響を与えることになるため、センサ条件として考慮されることが好ましい。受動センサ410〜430の個数、レンズ111〜113の種類、レンズ111〜113の回転角度、、センサ間の距離、及び第1のセンサモジュール部110の鉛直方向からの傾き角度は、それらの条件によってカバーされる検知範囲が異なり検知精度に影響を与えることになるため、センサ条件として考慮されることが好ましい。
【0074】
出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120によって、上述の処理(図11)と同様の処理により、量子化された時系列データに加工される(s1402)。ただし、ここでは、アナログ/デジタル変換部120は、1ケースごとのデータにそのデータが表す動作の種類のデータ(このデータは、ニューラルネットワーク技術において用いられる「教師信号」となる)を加えたデータとして時系列データを作成する。これらのデータは、学習用データとも呼ばれる。学習用データは、第1のセンサモジュール部110から取得された電圧波形データから加工された120個の時系列データの末尾に、その電圧波形データを取得する際にカメラ又は人の観察等によって記録された被験者の動作の種類を表す情報(例えば、フラグ)を1つ付加することによって作成される(すなわち、本実施形態においては、1ケースの学習用データに含まれるデータ数は121個となる)。
【0075】
こうして作成された学習用データは、図13に示されるものと同様のセンサ最適化用ニューラルネットワークに入力され処理される(s1403)。センサ最適化用ニューラルネットワークでは、以下のような学習処理が行われる。まず、学習用データがセンサ最適化用ニューラルネットワークの入力層に入力される。学習用データは、数百ケース(すなわち、4秒間における40個/chのデータ(120個)に教師信号を加えたデータを一単位とするデータ群が数百個)以上用意されることが好ましい。用意された学習用データのうちの1つ(1ケース)が入力層に入力され、センサ最適化用ニューラルネットワークによってデータ処理が行われ、判別結果が出力層から出力される。出力された判別結果と、入力された学習用データに含まれる動作の種類のデータ(すなわち教師信号)とが比較され、判別結果と学習用データに含まれる動作の種類とが一致しない場合には、センサ最適化用ニューラルネットワークの係数、すなわち重みw及び/又は閾値θが修正される。
【0076】
次いで、学習用データのうちの次のケースが入力層に入力され、同様に判別処理及び必要に応じて係数の修正が行われる。この処理は、正しい判別結果が得られるようになるまで(例えば、判別率の向上率が一定になるまで)繰り返され、最終的にセンサ最適化用ニューラルネットワークが形成される。ニューラルネットワークの学習処理は、例えば市販のソフトウェア(例えば、東京都所在のエス・ピー・エス・エス株式会社が販売する「Clementine」)を用いて行うことができ、正しい判別結果が得られたかどうかの判断は、当該ソフトウェアによって自動的に行われるようにすることができる。
【0077】
次いで、上述のようにニューロンの重みw及び/又は閾値θが適切に調整されたセンサ最適化用ニューラルネットワークに、検証データが順次入力される。検証データとして、上述の学習用データに用いられた時系列データとは別の時系列データを用いることが好ましい。検証データの個数は、数百ケース程度であることが好ましい。センサ最適化用ニューラルネットワークからは、検証データの入力に応じて判別結果が出力される(s1404)。
【0078】
次いで、センサ最適化用ニューラルネットワークから出力された複数の判別結果から、判別させたい動作として正しく判別された結果の割合が計算される(s1405)。すなわち、例えば判別させたい動作を起床とすると、検証データのうち起床動作に伴って生成されたデータ数をNケース、起床以外の動作に伴って生成されたデータ数をMケースとし、このN+Mケースのデータがセンサ最適化用ニューラルネットワークに入力される。起床動作に伴って生成されたNケースのデータが入力された結果として得られる出力のうち、起床と判別された個数(すなわち正判別)をA個、起床以外と判別された個数(すなわち誤判別)をB個とする。同様に、起床以外の動作に伴って生成されたMケースのデータの判別結果のうち、起床と判別された個数(すなわち誤判別)をC個、起床以外と判別された個数(すなわち正判別)をD個とする。このとき、起床として正しく判別された結果の割合はA/N、起床以外として正しく判別された結果の割合はD/Mとなる。
【0079】
次いで、第1のセンサモジュール部110のセンサ条件を、例えば波形に基づいて有望なセンサ条件となるように適宜変化させて、上記のステップs1401〜1405を繰り返す。センサ条件を変化させた場合の各々についてA/N及びD/Mの値を比較し(s1406)、より大きいA/N及びD/Mが得られたセンサ条件が、最適化された第1のセンサモジュール部110のセンサ条件として採用される(s1507)。この場合、センサ条件を採用する判断基準として、例えば、二つのセンサ条件PとQを比較したとき、A/NとD/MのいずれについてもPの方が大きい場合は、センサ条件Pを採用するように設定することができる。別の方法として、A/Nについてはセンサ条件Pの方が大きいが、D/Mについてはセンサ条件Qの方が大きい場合には、全体として正しく判別されたケースの割合、すなわち(A+D)/(N+M)を基準としてP又はQを採用するように設定することもできる。
【0080】
以上のようにして、1つの動作の種類の判別について最適なセンサ条件を求めた後、他の種類の動作の判別についても最適なセンサ条件を求める必要がある。患者等のベッドからの起床、転落、及び離床を判別する本発明の一実施形態においては、実際の動作の優先順位を考慮して、最初に、すべての動作の起点となる起床動作の判別についてセンサ条件の調整を行い、次いで、起床動作の判別に悪影響を与えない範囲で転落及び離床の判別についてセンサ条件の調整を行うようにすることが好ましい。
【0081】
4.第1の動作判別モデルの最適化
本発明は、上述のように、患者等の異なる動作に応じた特徴が現れている複数の受動センサ410〜430から出力された電圧波形を第1の動作判別モデル135に入力するとともに、第2のセンサモジュール部170から出力された電圧波形を第2の動作判別モデル180に入力し、それらの出力結果から動作を判別するものである。しかしながら、仮に最適化された第1のセンサモジュール部110によって検知され、患者等の異なる動作に応じた特徴が現れた電圧波形から生成されたデータが、第1の動作判別モデル135に入力された場合であっても、第1の動作判別モデル135のパラメータ条件が最適化されなければ、正確な判別結果が得られないことになる。したがって、本発明においては、動作の種類に応じてそれぞれの動作の固有の特徴が現れた電圧波形から生成された時系列データが入力された場合に、それぞれの動作の判別が高精度に可能となるように、予め最適化された第1の動作判別モデル135を用いることが好ましい。
【0082】
図16は、本発明の一実施形態においてはニューラルネットワークからなる第1の動作判別モデル135を最適化するための手順を示す。ここでは、まず、例えば図3に示されるように設置された装置190の第1のセンサモジュール部110によって、判別しようとする患者等の動作を模擬した被験者によって行われた既知の動作が検知され、既知の動作に対応する電圧波形データが出力される(s1501)。ここで用いられる装置190の第1のセンサモジュール部110は、上述のようにセンサ条件が最適化されたものであることが好ましいが、センサ条件が最適化されていないものであってもよい。最適化されていない第1のセンサモジュール部110が用いられる場合には、ここで説明される第1の動作判別モデル135の最適化と前述のセンサ条件の最適化とが交互に行われることによって、最終的に第1のセンサモジュール部110と第1の動作判別モデル135とが最適化された動作判別装置が得られることになる。最適化される前の動作判別モデル、すなわちニューラルネットワークは、例えば、入力層のニューロン数、中間層の数、及び学習率等といった各種のパラメータ条件が、適当に設定される。この最初のパラメータ条件の設定は、判別させようとする動作に基づいて理論的に予想される値に設定されることが好ましい。
【0083】
出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120によって、上述の処理(図11)と同様の処理により、量子化された時系列データに加工される(s1502)。ここでは、第1のセンサモジュール部110の最適化処理の際と同様に、アナログ/デジタル変換部120は、1ケースごとのデータにそのデータが表す動作の種類のデータ(教師信号)を加えた学習用データとして時系列データを作成する。学習用データは、数百ケース以上用意されることが好ましい。次いで、学習用データのうちの1つ(1ケース)が、ニューラルネットワークの入力層に入力され処理される(s1503)。ニューラルネットワークによってデータ処理が行われ、判別結果が出力層から出力される(s1504)。
【0084】
ニューラルネットワークから出力された複数の判別結果から、判別させたい動作として正しく判別された結果の割合が計算される(s1505)。すなわち、例えば判別させたい動作を起床とすると、検証データのうち起床動作に伴って生成されたデータ数をNケース、起床以外の動作に伴って生成されたデータ数をMケースとし、このN+Mケースのデータがニューラルネットワークに入力される。起床動作に伴って生成されたNケースのデータが入力された結果として得られる出力のうち、起床と判別された個数(すなわち正判別)をA個、起床以外と判別された個数(すなわち誤判別)をB個とする。同様に、起床以外の動作に伴って生成されたMケースのデータの判別結果のうち、起床と判別された個数(すなわち誤判別)をC個、起床以外と判別された個数(すなわち正判別)をD個とする。このとき、起床として正しく判別された結果の割合はA/N、起床以外として正しく判別された結果の割合はD/Mとなる。
【0085】
上記のステップs1501〜1505を、パラメータを変化させたニューラルネットワークの各々について行ってA/N及びD/Mの値を比較し(s1506)、より大きいA/N及びD/Mが得られたニューラルネットワークが、最適化された第1の動作判別モデル135として採用される(s1507)。この場合、パラメータを採用する判断基準として、例えば、二つパラメータ条件PとQを比較したとき、A/NとD/MのいずれについてもPの方が大きい場合は、パラメータ条件Pを採用するように設定することができる。別の方法として、A/Nについてはパラメータ条件Pの方が大きいが、D/Mについてはパラメータ条件Qの方が大きい場合には、全体として正しく判別されたケースの割合、すなわち(A+D)/(N+M)を基準としてP又はQを採用するように設定することもできる。
【0086】
5.センサ出力と閾値との比較を用いた動作判別の高精度化
本発明の一実施形態においては、解析・制御部130の閾値判定手段137が、受動センサ410〜430の各々から出力される電圧値の大きさと所定の閾値との比較を行い、電圧値が所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにすることによって、動作判別の精度をより高めることができる。第1のセンサモジュール部110によってベッド301上の患者等の動作が検知されると、動作の種類に対応する電圧値が第1のセンサモジュール部110から出力される。本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール部110には3個の受動センサ410〜430が設けられているため、第1のセンサモジュール部110からは3チャネルの電圧値が出力される。これらの電圧値は、判別されるべき動作が行われた場合以外にも出力されるため、そうした電圧値が多くなると、本来判別されるべき動作に特徴的な微妙な電圧波形が不要な電圧波形に紛れ、判別精度に悪影響が与えられることになる。そこで、本発明の一実施形態においては、判別されるべき動作が正しく判別されるように電圧値に対する所定の閾値を決定し、第1のセンサモジュール部110から出力される電圧値がその閾値を上回る場合のみ、第1の動作判別モデル135が動作判別を行うようにすることができる。
【0087】
図17は、閾値判定手段137に設定される閾値条件を決定するための処理のフロー図である。まず、第1の動作判別モデル135の作動条件として、比較される2つの閾値条件を設定する。これらの閾値は、予め動作に応じて第1のセンサモジュール部110から出力された電圧値を人が確認して、適宜決定することができる。第1の動作判別モデル135は、解析・制御部130に設けられた閾値判定手段137を用いて、第1のセンサモジュール部110から出力される電圧値が設定された閾値条件より大きい場合には作動し、電圧値が設定された閾値条件より小さい場合には作動しないように設定される。閾値条件は、チャネルごとに異なる値を設定してもよく、すべてのチャネルで同一の値を設定してもよい。
【0088】
次いで、例えば図3に示されるように設置された装置190の第1のセンサモジュール部110によって、判別しようとする患者等の動作を模擬した被験者によって行われた既知の動作が検知され、既知の動作に対応する電圧波形データが出力される(s1602)。出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120によって、上述の処理(図10)と同様の処理により、量子化された時系列データに加工される(s1603)。加工されたデータは、動作判別モデル135に入力され、データ処理が行われる(s1604)。第1の動作判別モデル135からは、時系列データの入力応じて判別結果が出力される(s1605)。
【0089】
次いで、出力された複数の判別結果から、判別させたい動作として正しく判別された結果の割合が、各々の閾値条件ごとに計算され、比較される(s1606)。すなわち、例えば判別させたい動作を起床とすると、検証データのうち起床動作に伴って生成されたデータ数をNケース、起床以外の動作に伴って生成されたデータ数をMケースとし、このN+Mケースのデータが第1の動作判別モデル135に入力される。起床動作に伴って生成されたNケースのデータが入力された結果として得られる第1の動作判別モデル135からの出力のうち、起床と判別された個数(すなわち正判別)をA個、起床以外と判別された個数(すなわち誤判別)をB個とする。同様に、起床以外の動作に伴って生成されたMケースのデータの判別結果のうち、起床と判別された個数(すなわち誤判別)をC個、起床以外と判別された個数(すなわち正判別)をD個とする。このとき、起床として正しく判別された結果の割合はA/N、起床以外として正しく判別された結果の割合はD/Mとなる。
【0090】
2つの閾値条件の各々の場合についてA/N及びD/Mの値を比較し(s1606)、より大きいA/N及びD/Mが得られた閾値条件が採用される(s1607)。この場合、閾値を採用する判断基準として、例えば、二つの閾値条件PとQを比較したとき、A/NとD/MのいずれについてもPの方が大きい場合は、閾値条件Pを採用するように設定することができる。別の方法として、A/Nについては閾値条件Pの方が大きいが、D/Mについては閾値条件Qの方が大きい場合には、全体として正しく判別されたケースの割合、すなわち(A+D)/(N+M)を基準としてP又はQを採用するように設定することもできる。解析・制御部130の閾値判定手段137は、このようにして決定された閾値と第1のセンサモジュール部110から出力された電圧値とを比較して、電圧値が閾値より大きい場合には動作判別を行うように第1の動作判別モデル135に指示し、電圧値が閾値より小さい場合には動作判別を行わないように第1の動作判別モデル135に指示することができる。
【0091】
6.対象の存在の有無の判別処理
(第2の動作判別モデルによる処理)
これまでに説明したように、最適化された第1のセンサモジュール部110と最適化された第1の動作判別モデル135とを用いることにより、患者等のベッドからの起床、転落、及び離床といった動作の種類をリアルタイムかつ高精度に判別することができる。しかしながら、このシステムのみでは、患者等が特定の動作をした後にその状態が継続されていることを高精度に判別することが難しい場合がある。例えば、このシステムは、患者等がベッド上に寝ている状態から起き上がった動作を起床であると判別し、ベッドから降りて、ベッドを離れる動作を離床であると判別することは可能であるが、患者等が起床し、ベッドの端部から片足又は両足を床に降ろしてベッドに腰掛けた状態、すなわち端座位を維持した場合には、患者等がそのような動作を維持していることを精度よく判別することは難しい。そこで、本発明においては、図1に示されるように、第1のセンサモジュール部110とは別の第2のセンサモジュール部170と、第1の動作判別モデル135とは別の第2の動作判別モデル180とを設け、第2のセンサモジュール部170からの出力を第2の動作判別モデル180に入力し、第2の動作判別モデル180において検知領域内における患者等の存在の有無を判別することができるようにした。
【0092】
本発明は、患者等の端座位を検知するための装置を提供する。本発明の一実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は、図3に示されるようにベッドの脚部に設けられるが、このような形態に限定されるものではない。第2のセンサモジュール部170は、ベッドの片側にある頭部側の1つの脚部のみに設けることも、頭部側と足部側の両方の脚部に設けることもでき、ベッドの脚部すべてに設けることもできる。本発明の別の実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は、図9に示されるようにベッドの寝台の裏側に設けることもできる。
【0093】
本発明の一実施形態においては、図5〜図8に示されるように、第2のセンサモジュール部170をベッドの頭部側の2つの脚部に設け、それぞれの検知範囲が、ベッドの側部をカバーするように設定される。このような範囲を検知できるようにすることにより、患者等の端座位の状態を高精度に検知できるようになる。本発明の別の実施形態においては、図9に示されるように、寝台の裏側に設けられた第2のセンサモジュール部170によってベッドの側部が検知範囲となるように設定される。
【0094】
図18は、本発明の一実施形態による、第2のセンサモジュール部170及び第2の動作判別モデル180を含む動作判別装置による動作判別処理のフロー図を示す。この処理フローでは、ベッドに寝ている患者等がベッドから起き上がる「起床」、起床後にベッドの端部に腰掛けた状態の「端座位」、端座位から立ち上がりベッドから離脱する「離床」、及び、端座位の状態から再びベッド上に戻る「ベッドへの戻り」の各々を判別することができる。「端座位」については、端座位が開始した「端座位開始」と、端座位が終了した「端座位終了」とを判別することができる。
【0095】
図18の処理フローにおいて、第1の動作判別モデル135(必要に応じて、第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136)による処理を経て起床判別を行うまでの処理S1801〜S1803の詳細は、図2及び図10〜図17を用いて既に説明したとおりである。第1の動作判別モデル135によって、ベッド上の患者等が起床したと判別された場合(S1803)には、解析・制御部130は、判別結果「起床」を出力する。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。それとともに、解析・制御部130は、判別結果「起床」を第2の動作判別モデル180に入力する。
【0096】
第1の動作判別モデル135の結果が「起床」の場合には、次に、第2の動作判別モデル180は、第2のセンサモジュール部170からの電圧値を用いて、端座位が開始したかどうかを判別する(S1805)。一実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は光電変換素子を含む。光電変換素子は、例えば図19の上図に示されるように、検知領域内に患者等が存在しない場合には所定の基準電圧を出力し、検知領域内に患者等の体の少なくとも一部が入ったときには基準電圧より低い電圧値を出力する。さらに検知領域内に患者等の体の少なくとも一部が存在し続けるときには基準電圧より低い電圧を維持し、検知領域から患者等が出たときに再び基準電圧を出力する。このように、光電変換素子は、検知領域内の患者等の有無に応じて、異なる電圧値を出力することができる。したがって、第2の動作判別モデル180は、例えば患者がベッドの側部に腰掛けて片足又は両足を床に降ろしたときには、第2のセンサモジュール170の電圧値が基準電圧より低くなったこと(図19の上図参照)に基づいて、患者等の動作を「端座位開始」と判別し(S1806)、その情報を出力する(S1807)。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。第2の動作判別モデル180は、第2のセンサモジュール170からの電圧値が基準電圧を維持している場合には、「端座位開始」ではないと判別して、処理はS1802に戻る。したがって、例えば患者等がベッド上に上半身を起こし、そのままの体勢を維持している場合には、S1802〜S1806の処理が繰り返されることになる。
【0097】
患者等が端座位状態を維持している間は、第2のセンサモジュール170からは、図19の上図に示されるように、基準電圧より低い電圧値が出力され続ける。この場合には、S1808〜S1809の処理が繰り替えされる。このとき、例えば患者等が端座位状態のまま体を動かした場合でも、検知領域内に少なくとも体の一部が存在する限り、第2のセンサモジュール170からは、基準電圧より低い電圧値が出力され続ける。
【0098】
次いで、第2のセンサモジュール170の検知領域から患者等の足が出ていったときには、図19の上図に示されるように、第2のセンサモジュール170から出力される電圧値は基準電圧に戻る。第2の動作判別モデル180は、電圧値が基準電圧より低い値から基準電圧値に戻ったこと(図19の上図参照)に基づいて、患者等の動作を「端座位終了」と判別し(S1809)、その情報を出力する(S1810)。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。
【0099】
(環境温度の変化による補償処理)
ところで、第2のセンサモジュール170の光電変換素子から出力される基準電圧は、周辺環境の温度によって変化するという特性を有する。例えば、第2のセンサモジュール部170の検知領域に患者等の足が入ったことによって第2の動作判別モデル180が「端座位開始」と判別した後に、第2のセンサモジュール170が設置される場所の温度が上昇した場合には、基準電圧が高くなるため、検知領域から患者等の足が出たときに「端座位終了」を正確に検知することが困難となるおそれがある。そこで、本発明の別の実施形態においては、第2の動作判別モデル180には、第2のセンサモジュール170が設置される環境の温度変化を補償する機能を追加することができる。この処理のフロー図を図20及び図21に示す。
【0100】
図20は端座位開始を判別するための処理フローであり、図21は端座位終了を判別するための処理フローである。図20のS2002において、まず、第2のセンサモジュール170から3秒間の電圧値が取得される。3秒間の電圧値は、1秒ごとにずれた3秒間の電圧値のセットとして順次取得され、例えば解析・制御部130に設けられた記憶手段133に格納される。取得される電圧値の時間幅は3秒間に限定されず、判別が必要な動作の種類に応じて、例えば4秒間や5秒間などと適宜変更することができる。次に、第2の動作判別モデル180は、取得された3秒間の電圧値のうちの最初の1秒間の電圧値を平均する(S2003)。この平均値を平均値1とする。同様に、第2の動作判別モデル180は、取得した3秒間の電圧値のうちの最後の1秒間の電圧値を平均する(S2004)。この平均値を平均値2とする。
【0101】
第2の動作判別モデル180は、平均値1と平均値2との差Dを計算し(S2005)、このDが所定のしきい値1より大きいかどうかを判定する(S2006)。所定のしきい値1は、第2のセンサモジュール170が設置される環境に応じて、システム管理者等が予め設定し、記憶手段133に格納しておく。Dが所定のしきい値1より大きい場合には、基準電圧の変化を超える電圧値の変化があったことを示しており、この場合には、第2の動作判別モデル180は、「端座位開始」を出力する。Dが所定のしきい値1と等しいか又は小さい場合には、ステップはS2002に戻り、第2の動作判別モデル180は、最初の3秒間から1秒だけずれた次の3秒間の電圧値を用いて上述の処理を繰り返す。
【0102】
端座位終了の処理フローは以下のとおりである。図21のS2102において、まず、第2のセンサモジュール170から3秒間の電圧値が取得される。この3秒間の電圧値は、通常は、端座位開始が判別された後の電圧値である。3秒間の電圧値は、1秒ごとにずれた3秒間の電圧値のセットとして順次取得され、例えば解析・制御部130に設けられた記憶手段133に格納される。取得される電圧値の時間幅は3秒間に限定されず、判別が必要な動作の種類に応じて、例えば4秒間や5秒間などと適宜変更することができる。次に、第2の動作判別モデル180は、取得した3秒間の電圧値のうちの最初の1秒間の電圧値を平均する(S2103)。この平均値を平均値1とする。同様に、第2の動作判別モデル180は、取得した3秒間の電圧値のうちの最後の1秒間の電圧値を平均する(S2104)。この平均値を平均値2とする。
【0103】
次に、平均値1と平均値2との差Dが計算される(S2105)。第2の動作判別モデル180は、Dが所定のしきい値2より小さく、かつ、その後に計算される別のDが所定のしきい値2より大きくなったかどうかを判別する。所定のしきい値2は、第2のセンサモジュール170が設置される環境に応じて、システム管理者等が予め設定し、記憶手段133に格納しておく。DがS2106の条件に合致する場合には、基準電圧の変化を超える電圧値の変化があったことを示しており、この場合には、第2の動作判別モデル180は、「端座位終了」を出力する。DがS2106の条件に合致しない場合には、ステップはS2102に戻り、第2の動作判別モデル180は、最初の3秒間から1秒だけずれた次の3秒間の電圧値を用いて上述の処理を繰り返す。
【0104】
図20及び図21の処理によって、3秒間ごとの電圧値から順次Dを計算したとき、平均値の差分Dは、時間の経過に伴って図19の下図に示されるように変化する。
【0105】
(第3の動作判別モデルによる処理)
以上のように第2の動作判別モデル180は、端座位の開始及び終了を判別することができる。しかしながら、第2の動作判別モデル180のみでは、端座位が終了した後、患者等が足を上げて再びベッド上に戻ったのか、立ち上がってベッドから離れたのかを精度よく判別することが難しい場合がある。本発明の一実施形態においては、第3の動作判別モデル181をさらに設け、患者等がベッドから離れたのか(離床)、又はベッド上に戻ったのか(ベッドへの戻り)を精度よく判別可能とすることができる。
【0106】
図18において、S1809で端座位終了と判別された場合には、その情報が第3の動作判別モデル181に入力される。このとき、第3の動作判別モデル181は、第1のセンサモジュール110からの電圧値も取得する(S1811)。本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール110は、3つの受動センサを備えており、ベッド上からベッドの周辺における患者等の動作(この動作は、患者等の動作のうち、特に動きのある動作である)の判別に用いられる電圧値を出力する。本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール110の3つのセンサ410、420、430のうち、起床時に患者等の上半身が横切るような検知領域が設定されたセンサ410(図4〜図8において410と表記されているセンサ)からの電圧値を用いることが好ましい。第3の動作判別モデル181は、第2の動作判別モデル180から出力された端座位終了の情報と、第1のセンサモジュール110のセンサ410からの電圧値(チャネル1のデータ)の変化とに基づいて、患者等がベッドから離れたか、ベッド上に戻ったかを判別する(S1812)。
【0107】
具体的には、第3の動作判別モデル181は、端座位終了情報が入力された場合に、チャネル1の電圧値を取得する。チャネル1から取得した電圧値が所定の時間幅の中で変化を示した場合には、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態からベッド上に戻ったものと判別し(S1813)、「ベッドへの戻り」を出力する(S1814)。逆に、その他の場合、例えば、チャネル1から取得した電圧値が所定の時間幅の中で変化を示さなかった場合、又は、所定の時間幅の初めには変化を示したがその後変化しなくなった場合などには、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態から立ち上がってベッドから離れたものと判別し(S1813)、離床を出力する(S1814)。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。チャネル1からの電圧値が変化を示すかどうかを判断するための所定の時間幅は、システム管理者等が予め設定し、記憶手段133に格納しておく。
【0108】
本発明の一実施形態においては、第3の動作判別モデル181による判別に用いるための電圧値としてセンサ410からの電圧値を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、縦横の領域を広く検知するレンズを用いて、患者等のベッドからの離脱すなわち離床を検知するように設定されたセンサ430からの電圧値を用いることもできる。この場合には、第3の動作判別モデル181は、第2の動作判別モデル180から出力された端座位終了の情報と、第1のセンサモジュール110のセンサ430からの電圧値(チャネル3のデータ)の変化とに基づいて、患者等がベッドから離れたか、ベッド上に戻ったかを判別する。すなわち、チャネル3からの電圧値が所定の時間幅の中で変化を示した場合は、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態から立ち上がってベッドから離れたものと判別し、離床を出力する。そうではない場合には、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態からベッド上に戻ったものと判別し、「ベッドへの戻り」を出力する。
【0109】
本明細書においては、本発明の機能を分かり易くするために3つの異なる動作判別モデルを用いて説明しているが、動作判別モデルの数は3つ限定されるものではない。例えば、1つの動作判別モデルにおいてすべての動作判別を行うようにすることもできるし、第2の動作判別モデルを2つにわけて、一方が端座位開始を判別し、他方が端座位終了を判別するようにすることもできる。
【0110】
第2のセンサモジュール170に含まれる素子は、光電変換素子に限定されるものではなく、例えば、熱電変換素子とすることもできるし、第1のセンサモジュール110に含まれる素子と同様に焦電素子を用いることもできる。熱電変換素子を用いた場合には、上述の光電変換素子の場合と同様の処理を行うことができる。第2のセンサモジュール170に含まれる素子として焦電素子を用いた場合には、焦電素子から出力される電圧値から図19の上図に示されるような波形が得られるように所定の処理を施すことが好ましい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作判別技術に関する。より詳細には、本発明は、検知領域における対象の動作に応じて異なる信号を出力する最適化された検知手段と予め学習により最適化された動作判別モデルとを用いて、対象の動作を精度よく判別するための動作判別装置、動作判別方法、動作判別コンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、高齢化社会の到来や治安の悪化等を背景として、人間を含む対象の動作のような時間的な幅を持つ事象の判別を可能にする様々な動作判別技術が開発され、研究されている。人間を含む対象の動作を解析するために、対象の動作を何らかの手段で捉え、その動作に基づいて生成された情報又は信号をニューラルネットワークに入力して動作を判定する、いわゆるパターン認識技術の研究開発が進んでいる(例えば、特許文献1〜特許文献3を参照されたい)。
【0003】
ところで、近年、核家族化及び高齢化によって、様々な高齢者受入施設や介護施設が増加している。こういった施設においては、少数の職員で多数の入所者を担当せざるを得ないことから、職員が入所者の動作や行動を常時監視することは困難である。そのため、職員の目の届かない状況で入所者が単独で行動しようとしたり、夜間に行動を起こしたりしようとした場合に、ベッドからの転落又は転倒等の事故が発生する可能性があるともに、事故が発生したときに職員が気付かないケースもある。このような事故を回避する方法として、例えば係止具を用いて入所者の行動範囲を強制的に抑制する方法が行われる場合もあるが、このような方法は、入所者にとっては大きな苦痛を伴うものである。また、こういった施設への入所が困難な高齢者や患者は、在宅で介護せざるを得ないが、この場合にも同様の問題が存在する。したがって、施設又は在宅にかかわらず、被介護者、患者、又は高齢者等(以下、患者等という)の対象者の行動範囲をできるだけ制限することなく、職員又は家族に代わって対象者の動作を常時監視し、事故の発生を防止するか又は事故が発生した場合でも迅速に職員又は適切な施設に通報するための技術が必要とされている。
【0004】
このような技術として、感圧センサ、荷重検知センサ、重量検出センサ、圧電センサ、加速度センサ等を用いた技術が、例えば特許文献4〜特許文献6に開示されている。特許文献4は、被介護者が寝るベッドの脚に重量検知素子を設け、ベッド上の被介護者の重心位置に関連するデータ、例えば運動量、運動回数、及び運動速度等の組み合わせによって被介護者の活動パターンを演算し、そのパターンが通常の活動パターンではない場合に、被介護者が介護されるべき状態であると判断する技術である。
【0005】
特許文献5は、ベッドのマットレス上に複数の感圧センサを設け、被介護者のベッド上での動作に応じて複数の感圧センサから出力される検出信号を利用して、被介護者がベッドから離れたことを介護者に通知する技術である。
【0006】
特許文献6は、患者に作用する加速度並びに患者の脈拍、心電、及び血圧等を検出する、加速度センサを含む携帯型発信機を患者に装着し、該発信機からの信号に基づいて、患者の転倒やベッドからの転落を検出して、看護師等に異常を通知する技術である。
【0007】
また、別の技術として、患者等をカメラ等によって撮影し別室で画像を監視する方法や、患者等をカメラで撮影した画像を処理した上でニューラルネットワークに入力し、ニューラルネットワークからの出力を用いて患者等の動作を判別する方法も存在する。例えば、特許文献7は、被観察者のベッド上での動作を一定時間ごとに撮影した画像をシルエット画像等に変換処理し、その画像データを用いて被観察者が起床状態又は就寝状態であるかを識別し、被観察者が離床するか否かをニューラルネットワークを用いて判定し、被観察者の離床を感知した際に予め特定した看護師等に自動的に通報する技術を開示する。
【0008】
このように、患者等を始めとする対象の動作を判別するための種々の従来技術が存在するが、これらの技術においては、以下のような問題がある。
感圧センサ、荷重検知センサ、重量検出センサ、圧電センサ、加速度センサ等のセンサを単独で、又は他の生体信号検出装置と併せて利用した従来技術は、これらのセンサが対象の動作等を直接検知するものである。したがって、少数のセンサしか用いられない場合には、例えば患者等がベッドから離床したかしないかという、いわゆるオンオフ情報しか得られず、動作の種類並びにその方向及び速度等を判断することは困難である。対象の動作の種類並びにその方向及び速度等を精度よく検出できるようにするためには多数のセンサを用いる必要があるが、コストの上昇及びシステムの複雑性が問題になる。また、これらの技術は、センサが対象の動作や動きを直接検知するものであるため、仮に対象が検知範囲を避けて動作した場合には検知できないおそれがある。赤外線アクティブセンサを用いた従来技術も存在するが、この技術においても同様に、一定の範囲における患者等の動作の種類並びにその方向及び速度等を精度よく検出するためには、赤外線ビームの発光部及び受光部を多数設ける必要があるため、コストがかかるとともにシステムが複雑になる。少数のセンサしか用いないシステムの場合には、患者等が検知範囲を避けて行動した場合には対応できない。
【0009】
患者等を撮影した画像又は映像を利用する従来技術は、複雑で高価なシステムとなると同時に、画像又は映像を扱うため個人のプライバシーの問題がある。カメラによる撮影画像又は映像を遠隔監視するシステムは、監視者が画像又は映像を眼で見て判断することが必要であり、画像又は映像を監視する監視者の適切な判断があってはじめてシステムが有効となる。患者等の特異な動作が長時間に渡って生じる場合には画像又は映像を監視することによって問題となる動作を判別できることもあるが、短時間にしか生じない動作も見逃さないようにするためには、監視時間と同程度の時間が判断する側にも必要とされる。たった一度の異常動作といった、監視時間全体からみればわずかな時間における動作を確実に捉えるためには、監視者の精神的及び肉体的な負担が大きい。
【0010】
カメラによる撮影画像とニューラルネットワークとを組み合わせて用いることによって患者等の離床を予測する従来技術は、患者等をカメラによって撮影し、撮影された画像データに基づいて患者等の動作を判別するものである。したがって、判別対象の患者等と背景との色彩やコントラストの差が小さい状況、例えば夜間や、患者等の服装の色と部屋の壁等の背景の色との差がないような場合には、その動作判別精度は低下すると考えられる。また、こうした技術は、対象の種類並びにその方向及び速度等の検出精度はセンサを単独で用いる他の技術と比べれば高まる可能性があるものの、コスト及びプライバシー侵害が問題になるおそれがある。
【0011】
上述の従来技術についての課題を考慮すると、本出願の発明者らは、一定の範囲における患者等の対象の動作及びその方向等を、高精度で、安価に、プライバシーに配慮して検出するためには、受動センサ(パッシブセンサ)を用いた動作判別システムを構築することが好ましいと考えている。受動センサは、対象が発する熱量と背景の熱量との差分量によって、対象の動作に応じた特徴量が重畳されている電圧波形を出力することができるため、上述の従来技術が有する種々の課題を解決するものである。しかしながら、受動センサによって生成される電圧波形の変化は、複雑かつ微小である。そのため、受動センサから出力される電圧波形の変化から直接的に動作の種類を明確に判別することは極めて困難であり、受動センサによって取得される情報のみを用いて、個人差を超えた汎用性のある動作判別システムを構築することは難しい。そこで、本出願の発明者らは、受動センサによって取得された情報をニューラルネットワークに入力することによって、対象の動作の特徴を抽出し、パターン認識を行う方法を既に提案している(特許文献8)。
【0012】
しかしながら、特許文献8に記載の技術は、受動センサとニューラルネットワークとを用いて対象の動作を判別することに関する基本的な原理ではあるものの、実際に動作判別システムを構築する際に用いるための技術としては、高い判別精度を得ることが実質的に不可能であるという課題があった。すなわち、特許文献8に記載の技術は、単にセンサから得られた対象の動作に関するデータをニューラルネットワークに入力し、ニューラルネットワークから判別結果を出力させることができるようにするための基本的な技術についての発明を開示したものであり、医療現場等を始めとする実際の現場で利用可能な実用的なシステムを構築するのに必要な判別精度を得るための技術は開示されていない。実用的なシステムを構築できるようにするためには、対象の動作を捉える受動センサと、その出力データを入力して判別結果を出力するニューラルネットワークとをいずれも最適化させなければならない。例えば、受動センサが対象の動作に最適な条件で設定されていない場合には、その出力をニューラルネットワークに入力したとしても、対象の動作に応じて得られるデータには動作の特徴が正確に現れておらず、最適な判別結果を得ることはできない場合がある。同様に、ニューラルネットワークが対象の動作に最適な条件で設定されていない場合にも、最適な判別結果を得ることはできない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−282273号明細書
【特許文献2】特許第3237048号明細書
【特許文献3】特許第3627321号明細書
【特許文献4】特開2000−316915号明細書
【特許文献5】特開2000−271098号明細書
【特許文献6】特開2008−47097号明細書
【特許文献7】特開2007−72964号明細書
【特許文献8】特開2007−220055号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明者らは、ニューラルネットワークを用いて、動作の種類に応じて生成される電圧波形にその動作の固有の特徴が良好に現れるように、ニューラルネットワークを用いて予めセンサ条件を最適化したセンサモジュールと、ニューラルネットワークを用いて最適化した動作判別モデルとを用いて、一定の範囲における対象の動作の種類をリアルタイムかつ高精度に判別することができるとともに、安価に構成することができる、動作判別装置及び動作判別方法について、既に提案しているところである(PCT/JP2009/004889 以下、先願という)。
【0015】
先願の動作判別技術は、対象の動作を検知して動作の種類を高精度に判別することができるようにするための技術である。しかしながら、この技術は、対象の動作のうちでも、特に動きのある動作の種類を高精度に判別できることを特徴とするものである。すなわち、例えば病院のベッド上に寝ている患者の動作を判別する例では、患者がベッドから起き上がる動作を「起床」、ベッドから離れる動作を「離床」とすると、先願の動作判別技術は、起床から離床までの一連の動作を高精度に判別することができる。しかしながら、例えば患者がベッドから起き上がった後、両足又は片足をベッドの端部から下に降ろしてベッドに腰掛けた状態(この状態を「端座位」という)が維持された場合には、先願の動作判別技術は、その状態を端座位が維持された状態として高精度に検知することが難しい。すなわち、先願の動作判別技術は、対象の動作のうち大きな動きのない状態が継続していることを高精度に判別することが難しいという課題があった。
【0016】
本発明は、対象が特定の動作を行ったときにその動作の種類をリアルタイムかつ高精度に判別することができるだけでなく、対象が特定の動作を行った後にその状態が継続されていることをリアルタイムかつ高精度に判別することができる動作判別技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、先願に記載の発明の改良であり、先願発明の検知手段に加えて別の検知手段をさらに用いることによって、上述の目的を達成するものである。
【0018】
本発明の1つの態様によれば、本発明は、対象の動作をリアルタイムで判別するための最適化された動作判別装置を提供する。本発明に係る動作判別装置は、複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段と、第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段と、第1の検知手段から出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工手段と、時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、第2の検知手段から出力されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて、動作を判別した判別結果を出力する動作判別手段と、を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の別の態様によれば、本発明は、対象の動作をリアルタイムで判別する動作判別方法を提供する。本発明に係る動作判別方法は、複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段からのアナログ値を取得する第1のデータ取得ステップと、第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段からのアナログ値を取得する第2のデータ取得ステップと、第1のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工ステップと、時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、第2のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて動作を判別し、判別結果を出力する、動作判別ステップと、含むことを特徴とする。
【0020】
第1の動作判別モデルとしては、時系列データを入力ノードへの入力とし、動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いることが好ましい。
【0021】
第1の動作判別モデルは、第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、複数の第1の検知領域の各々における既知の動作に対応して出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、時系列データをニューラルネットワークの入力ノードに入力して動作の種類を出力ノードから出力することによって既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、判別結果と既知の動作との比較に基づいてニューラルネットワークのパラメータを調整する工程とを行うことによって最適化されることが好ましい。
【0022】
第1の検知手段としては、複数の検知素子と複数のレンズとを有する受動センサを含むものを用いることが好ましく、複数の検知素子は、デュアル素子、クワッド素子、又はそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0023】
第1の検知手段は、第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、複数の第1の検知領域の各々における既知の動作に対応して出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、時系列データを入力ノードへの入力とし既知の動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いて既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、判別結果に基づいて第1の検知手段の条件を変更する工程とを行うことによって最適化されることが好ましい。
【0024】
第1の検知手段の条件は、複数の検知素子の種類、個数、位置、感度、及び回転角度、複数の検知素子の各々に取り付けられる複数のレンズの種類及び回転角度、並びに、第1の検知手段の設置角度のうちの1つ又は複数の組み合わせとすることができる。
【0025】
第2の検知手段は、光電変換素子、熱電変換素子、若しくは焦電変換素子のいずれか又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0026】
好ましくは、動作判別手段が時系列分析モデルをさらに含み、時系列分析モデルは、第1の動作判別モデルによって判別された複数の判別結果の時系列的な関係に基づいて動作を判別し、判別結果を出力する。この時系列的な関係は、順次出力される複数の判別結果のうちの所定の数について計算される、特定の動作として判別された判別結果の数とそれ以外の判別結果の数との割合、及び、特定の動作として判別された判別結果の連続個数とすることができる。
【0027】
第1の検知手段から出力されるアナログ値と所定の閾値とを比較する判定手段をさらに含み、アナログ値が所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにすることが好ましい。
【0028】
動作判別手段は、第1の検知手段によって出力されたアナログ値と第2の動作判別モデルによる判別結果とに基づいて、対象の動作を判別する第3の動作判別モデルをさらに含むことが好ましい。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明は、本発明に係る動作判別方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラム・コード命令を含むコンピュータ・プログラムを提供する。
【0030】
本発明によれば、検知手段を用いて対象の動作を捉え、検知手段から出力される動作の種類によって異なる電圧波形データと、動作に応じた電圧波形データの特徴からその波形に現れている動作の種類を判別できるように最適化された動作判別モデルとを利用することによって、特定の動作を行う対象の動作の種類をリアルタイムで判別することができる。本発明においては、対象の動作を捉える手段としてカメラ等の撮影装置を用いることはないため、対象のプライバシーが侵害されるおそれはない。特に、本発明によれば、対象の動作のうちでも大きな動きのない状態が継続していることも高精度に判別することができる。
【0031】
本発明においては、既知の動作を利用したパラメータ調整工程を経て予め最適化されたニューラルネットワークを動作判別モデルとして用いるため、検知手段から出力されるデータに現れている、動作の種類によって異なるわずかな特徴から、対象の動作の種類を精度よく判別することができる。
【0032】
本発明においては、対象と周囲(背景)との温度差(赤外線量の変化)を電圧波形に変換して出力する受動センサを対象の動作を捉える検知手段として用いることによって、少数の検知手段でも対象の動作の方向や速度等を適切に捉えることができるため、動作判別精度を高めることができるともに、少数の検知手段しか用いないため装置コストを低減させることができる。また、検知手段として受動センサを用いることによって、対象とその周囲との間の赤外線量の差から対象の動作を捉えるため、例えば対象と周囲とのコントラスト差が少ない場合や夜間等でも、動作判別精度が低下しない。
【0033】
本発明において用いられる検知手段は、例えば素子の種類やレンズの種類等といったセンサ条件が既知の動作の測定を通じた最適化処理によって最適な状態に調整されているため、検知手段から出力される電圧波形には、動作の種類によって異なる特徴が適切に現れている。こうした最適化された検知手段を用いることによって、ニューラルネットワークにおいて動作の特徴を判別する精度を、より高めることができる。
【0034】
本発明においては、最適化された検知手段及び最適化された動作判別モデルを用いることによって、動作判別モデルから出力される判別結果は、精度の高いものとなっている。しかしながら、本発明においては、動作判別モデルから出力される複数の判別結果の時系列的な関係を分析する時系列分析モデルをさらに用いることによって、動作判別モデルから出力される結果を単独で用いる場合より、さらに精度の高い判別結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る動作判別装置を含む動作判別システムの基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る第1の動作判別モデルを用いて行われる、未知の動作をリアルタイムで判別するための処理の概略的なフロー図である。
【図3】最適化された動作判別装置がベッドに設置された状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の外観(a)及び構成(b)を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す概略的な斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す概略的な斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す概略的な斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の検知領域を示す側面図である。
【図9】本発明に別の実施形態に係る第2の検知手段の検知領域を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る最適化された動作判別装置の第1の検知手段によって出力された電圧波形の例を示す。
【図11】本発明の一実施形態に係る、第1の検知手段によって出力された電圧波形を加工するための概略的な処理フロー図(a)と、加工後のデータの概念図(b)とを示す。
【図12】本発明の一実施形態に係る、最適化された第1の動作判別モデル及び時系列分析モデルによって行われる動作判別処理の概略的なフロー図である。
【図13】本発明の一実施形態において用いられる多層ニューラルネットワークの概念図である。
【図14】図12の処理をより詳細に説明するフロー図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る、第1の検知手段のセンサ条件を最適化するための手順を示す概略的なフロー図である。
【図16】本発明の一実施形態係る、第1の動作判別モデルを最適化するための手順を示す概略的なフロー図である。
【図17】本発明の一実施形態係る、閾値条件を決定するための処理を示す概略的なフロー図である。
【図18】第2の検知手段及び第2の動作判別モデルを含む動作判別装置による動作判別処理を示す概略的なフロー図である。
【図19】検知領域内における対象の存在の有無を検知する素子の出力電圧波形と、その波形に対応する差分Dの変化を概略的に示す図である。
【図20】端座位開始を判別するための処理を示す概略的なフローである。
【図21】端座位終了を判別するための処理を示す概略的なフローである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、被介護者、患者、又は高齢者等(以下、患者等という)といった対象のベッド上からベッド周辺までの範囲における動作を判別する装置及び方法を例として、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
【0037】
1.動作判別装置のブロック図と各ブロックの概要
図1は、本発明の一実施形態に係る動作判別システム100の基本的な構成を示すブロック図である。動作判別システム100は、焦電素子(検知素子)と焦電素子に取り付けられる又は被せられるレンズとを含む第1のセンサモジュール部(第1の検知手段)110と、第1のセンサモジュール部110から出力された連続的な電圧値すなわち電圧波形を受信し、受信した電圧波形を所定のレートでサンプリングするとともに、所定の時間幅で切り出したデータ(量子化された時系列データ)に加工するアナログ/デジタル変換部(データ加工手段)120と、加工されたデータを用いて動作判別を行う動作判別部(動作判別手段)131及び装置全体を制御する制御部132を含む解析・制御部130と、動作判別結果をデータサーバ150に送信する通信部140と、データサーバ150及びデータベース151と、データサーバ150から判別結果を受信する携帯端末等160とを含む。動作判別システム100は、さらに、患者等の存在の有無を検知して異なる電圧値を出力することができる素子を有する第2のセンサモジュール部170(第2の検知手段)を含む。
【0038】
本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール部110は、3つの焦電素子115〜117と、3つの焦電素子の各々に取り付けられるレンズ111〜113と、増幅器等の回路を有する基板(図4参照)とを含む。本発明の一実施形態において用いられる第1のセンサモジュール部110は、焦電素子の各々によって検知された複数の検知領域内における患者等からの赤外線量の変化(対象と背景との間の赤外線エネルギーの差(すなわち、温度差))を電圧波形に変換して出力する機能を有する。一般に、1つの焦電素子と1つのレンズとの組み合わせによって、例えば4×4=16個のゾーンからなる第1の検知領域が形成され、この16個のゾーンからなる第1の検知領域において検知された赤外線量の変化の平均値が1つの電圧波形として1つの焦電素子から出力される。したがって、例えば第1のセンサモジュール部110が3つの焦電素子+レンズの組み合わせを含む場合は、16×3=48個のゾーンからなる複数の第1の検知領域(この全体を検知範囲という)における赤外線量の変化として3つの電圧波形が第1のセンサモジュール部110から出力されることになる。第1の検知領域の数、第1の検知領域のの各々範囲は、検知素子とレンズの組み合わせによって異なる。焦電素子115〜117、レンズ111〜113、及び増幅器等の回路を有する基板は、周知の焦電型赤外線センサ(いわゆる受動センサ)に用いられるものと同等であり、これらの詳細な構造、製造方法等についてはここでは特に説明しない。
【0039】
焦電素子115〜117の各々には、レンズ111〜113が取り付けられる。3つの焦電素子115〜117の配置、及びレンズ111〜113の各々の種類は、焦電素子115〜117によって形成される複数の第1の検知領域によって必要な検知範囲全体が効率よくカバーできるように決定される。例えば、本発明の一実施形態においては、3つの焦電素子115〜117は、縦に一列に並べて配置される。それぞれの焦電素子115〜117に取り付けられるレンズ111〜113は、例えば、上部の焦電素子に取り付けられるレンズとして縦の領域を狭く横の領域を広く検知できるレンズを使用し、中央部の焦電素子に取り付けられるレンズとして横の領域がベッドサイドを検知できるレンズを使用し、下部の焦電素子に取り付けられるレンズとして縦横の領域を広く検知できるレンズを使用するというように、動作判別の対象や種類に応じて適切な領域を検知することができるように選択される。
【0040】
本発明においては、第1のセンサモジュール部110の各種のセンサ条件、例えば、焦電素子115〜117の種類、個数、回転角度、感度、位置、レンズ111〜113の種類、回転角度、第1のセンサモジュール部110の設置角度等は、患者等の動作に応じて電圧波形に特徴が現れるように、ニューラルネットワークを用いて最適化が行われる。第1のセンサモジュール部110の設置角度は、第1のセンサモジュール部110の複数のレンズ111〜113によって形成される平面の鉛直方向からの傾き角度であり、第1のセンサモジュール部110、アナログ/デジタル変換部120、解析・制御部130、及び通信部140を1つのケースに収めた装置190とする本発明の一実施形態においては、装置190自体の鉛直方向からの角度である。センサ条件の最適化については後述する。なお、第1のセンサモジュール部110の焦電素子及びレンズの数は3つに限定されるものではなく、1つ、2つ、又は4つ以上の焦電素子及びレンズを用いてもよい。
【0041】
焦電素子115〜117によって検知された赤外線量の変化は、焦電素子115〜117の各々について1つの連続的な電圧値、すなわち電圧波形に変換され、第1のセンサモジュール部110から出力される。本発明の一実施形態においては3つの焦電素子115〜117が用いられているため、3つの連続的な電圧値(すなわち、3チャネルの電圧波形)が第1のセンサモジュール部110から出力される。
【0042】
本発明の一実施形態において用いられる第2のセンサモジュール部170は、その検知領域内における患者等からの赤外線量を電圧波形に変換して出力する機能を有し、対象が検知領域内に存在するかどうかによって異なる電圧値を出力することができる。本発明の一実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は、例えば光電変換素子、熱電変換素子、又は焦電素子などといった素子と、レンズと、増幅器等の回路を有する基板とを含む。第2のセンサモジュール部170に用いられる素子は、検知領域内における患者等の存在の有無によって異なる電圧値を出力することができるものか、又は、出力された電圧値を加工することによって検知領域内における患者等の存在の有無が判別できるデータが得られるものであればよい。第2のセンサモジュール170に用いられる素子は、特に、光電変換素子、熱電変換素子が好ましい。これらの素子は、出力される電圧値の波形が検知領域内における患者等の存在の有無の検知、すなわち状態の検知に適している。これらの素子から出力される電圧値は、患者等が検知領域内に入ったときに、検知領域内に患者等が存在しない場合の電圧値(これを基準電圧という)から変化する。基準電圧から変化した電圧値は、患者等が検知領域内に存在し続ける間は維持され、患者等が検知領域から出たときには再び基準電圧に復帰する。第2のセンサモジュール部170に用いられるレンズは、必要な検知領域が効率よくカバーできるように選択されることが好ましい。
【0043】
アナログ/デジタル変換部120は、第1のセンサモジュール部110から出力された電圧波形を受信し、受信した電圧波形を所定のレートでサンプリングし、一定の時間幅のデータ(量子化された時系列データ)に加工する機能を有する。第1のセンサモジュール部110から出力される電圧値は、例えば0〜5Vの範囲で変化する連続的なアナログデータである。一方、解析・制御部130に含まれる動作判別部131の第1の動作判別モデル135への入力は、デジタルデータとする必要がある。このため、アナログ/デジタル変換部120は、第1のセンサモジュール部110から出力されたアナログデータを、第1の動作判別モデル135に入力するのに適したデジタルデータ(量子化されたデータ)に変換するように構成される。
【0044】
アナログ/デジタル変換部120は、受信した3チャネルの電圧波形の各々を、例えば0.1秒のサンプリングレートで変換することにより、例えば4秒間に取得した電圧波形をチャネルごとに40個のデジタルデータ(電圧値)に変換することができる。サンプリングレートは、本発明の実施形態においては、患者等の動作の特徴を十分に捕捉するのに必要な時間間隔として0.1秒としているが、これに限られるものではなく、0.1秒より細かくしても粗くしてもよい。しかしながら、サンプリングレートが細かすぎると計算負荷が大きくなってリアルタイムでの動作判別が困難になり、サンプリングレートが粗すぎると動作の特徴を十分に捕捉できないため、これらの要因を考慮してサンプリングレートを決める必要がある。
【0045】
解析・制御部130は、動作判別部131を含む。動作判別部131は、最適化された第1の動作判別モデル135と時系列分析モデル136とを含み、アナログ/デジタル変換部120からのデータを受信して、最適化された第1の動作判別モデル135にそのデータを入力し、第1の動作判別モデル135による判別結果又は第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136による判別結果を、通信部140に出力する。本発明の一実施形態においては、第1の動作判別モデル135はニューラルネットワークである。
【0046】
動作判別部131は、さらに、第2の動作判別モデル180及び第3の動作判別モデル181を含む。第2の動作判別モデル180は、第2のセンサモジュール部170から出力された電圧値を用いて、第2のセンサモジュール部170の検知範囲内に患者等が存在するかどうかを判別し、その判別結果を出力する。第3の動作判別モデル181は、第2の動作判別モデル180による判別結果と、第1のセンサモジュール部110からの電圧値とに基づいて、第2の動作判別モデルによる判別後の患者等の動作を判別する。
【0047】
解析・制御部130は、記憶手段133と制御部132とをさらに含む。記憶手段133には、第1の動作判別モデル135、第2の動作判別モデル180、第3の動作判別モデル181、時系列分析モデル136、及び閾値判定手段137を記述したコンピュータ・プログラム、並びに、本発明に係る動作判別装置の動作に必要な種々のコンピュータ・プログラム及びデータが格納される。制御部132は、本発明に係る動作判別装置の全体の動作を制御し種々の演算処理を行うCPU(中央処理装置)134を有する。解析・制御部130は、例えば、組み込み機器等に用いられるARMアーキテクチャを利用したコンピュータ・システムを用いて実現することが好ましいが、汎用のパーソナルコンピュータ・システムを用いて実現することもできる。
【0048】
通信部140は、解析・制御部130から出力された動作判別結果をデータサーバ150に送信する。通信部140とデータサーバ150との間の通信は、無線通信とすることも有線通信とすることもできる。データサーバ150は、少なくとも受信した判別結果と、その受信時間と、複数の動作判別装置のいずれから判別結果を受信したかを判断するために用いられる動作判別装置IDとをデータベース151に記録するとともに、受信した判別結果を、必要に応じて、例えばナースステーションなどの遠隔地にある携帯端末等160に送信する。データサーバ150は、メインフレーム又はサーバ等のコンピュータ・システムによって実現することができる。携帯端末等160によって判別結果が受信されることによって、携帯端末等160を携帯した看護師等が、ベッドからの患者の起床、転落、又は離床等をリアルタイムで把握することができる。本発明の別の実施形態においては、解析・制御部130から出力された動作判別結果を、通信部140を介して携帯端末等160に直接送信するようにしてもよい。
【0049】
本明細書においては、上述の第1のセンサモジュール部110、アナログ/デジタル変換部120、解析・制御部130、及び通信部140を1つのケースに収め、これとは別個に設置される第2のセンサモジュール部170と合わせて全体を1つの装置として構成した実施形態について説明する。しかしながら、本発明における装置及びシステムは、このような構成に限定されるものではなく、第1のセンサモジュール部110、アナログ/デジタル変換部120、解析・制御部130、及び通信部140をそれぞれ別個の装置として、又はこれらのいくつかを一体的な装置として、構成し、これらの装置の各々と第2のセンサモジュール部170とデータサーバ150とを有線通信又は無線通信によって相互接続することもできる。この実施形態の場合には、第1のセンサモジュール部110が単独で、又は第1のセンサモジュール部110と他のいくつかの部分とを1つのケースに収めた装置が、後述するように患者等が寝ているベッドの頭上に設置される装置となる。第2のセンサモジュール部170を除く残りの構成要素は、すべて一体として又はそれぞれ別個の要素として、例えばベッドの近くに設置される装置として構成されても、ベッドから離れた遠隔地に設置される装置として構成されてもよい。
【0050】
2.第1の動作判別モデルによる動作判別処理
(処理の概要)
図2は、本発明の一実施形態に係る動作判別システム100による、第1のセンサモジュール部110によって検知される患者等の未知の動作をリアルタイムで判別するための処理の概略的なフロー図200である。焦電素子の種類、個数、位置、回転角度、感度、レンズの回転角度、種類、第1のセンサモジュール部110の設置角度等といった各種のセンサ条件が予め最適化された装置190が、患者等が寝ているベッドの頭上に設置される。図3は、患者等が寝ているベッド301の頭上に最適化された装置190が設置された状態を示す。このように設置された装置190の第1のセンサモジュール部110によって、ベッド301上の患者等の動作が検知され、動作の種類に対応する特徴が現れた電圧波形データが出力される(s201)。
【0051】
第1のセンサモジュール部110から出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120に入力され、そこで量子化された時系列データに加工される(s202)。量子化された時系列データは、動作判別部131の最適化された第1の動作判別モデル135に入力され、動作判別のための処理が行われる(s203)。さらに高精度な判別結果を得るために、動作判別は、第1の動作判別モデル135のみではなく、第1の動作判別モデル135から出力された結果をさらに分析して判別結果を出力する時系列分析モデル136も用いて行うことができる。最適化された第1の動作判別モデル135、又は、最適化された第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136による処理が終了すると、動作判別部131から患者等の動作の判別結果が出力される(s204)。判別結果は、通信部140に送られ、通信部140は、有線又は無線通信によって判別結果をデータサーバ150に送信する(s205)。データサーバ150は、判別結果を受信日時及び動作判別装置IDと共にデータベース151に格納し(s206)、判別結果を必要に応じて、例えば音声又はテキストで携帯端末等160に通知する(s207)。
【0052】
(最適化された動作判別装置)
図4は、本発明の一実施形態に係る最適化された装置190の外観(a)及び内部構成(b)を示す概略図である。本発明の一実施形態においては、装置190は、3つの受動センサ410、420、及び430を有する。受動センサ410〜430の各々は、それぞれ、レンズ111、112、113と、焦電素子115、116、117と、基板411、421、431とを含む。受動センサ410〜430の各々の検知領域は、それぞれのレンズ111〜113を適切に選択することにより、例えば以下のように設定することができる。
・受動センサ410;縦の検知領域が狭く、横の検知領域が広くなるレンズを用いて、起床時に患者等の上半身が横切るような検知領域を設定する(図5及び図8)
・受動センサ420;横の検知領域がベッドサイドをカバーするレンズを用いて、患者等のベッドからの転落を検知する領域を設定する(図6及び図8)
・受動センサ430;縦横の領域を広く検知するレンズを用いて、患者等のベッドからの離脱、すなわち離床を検知する領域を設定する(図7及び図8)
なお、本明細書においては、受動センサ410、420、430によって出力されるデータは、それぞれチャネル1(ch1)のデータ、チャネル2(ch2)のデータ、チャネル3(ch3)のデータということもある。
【0053】
受動センサ410〜430は、受動センサ410〜430の各々の検知領域内における患者等からの赤外線量の変化を電圧値に変換して出力する。受動センサ410〜430の各々の検知領域は、当該技術分野において周知のように、複数の検知ゾーンで構成されており、受動センサ410〜430は、患者等又はその一部が複数の検知ゾーンの幾つかを横切ったときに、その横切った方向及び速度に応じて異なる電圧波形を生成することができる。
【0054】
本発明の一実施形態において、最適化された装置190の第1のセンサモジュール部110によって出力された電圧波形の例を図10に示す。図10(a)は、患者等がベッドから起床した瞬間を含む前後の数秒間に生成された電圧波形の例であり、図10(b)は、患者等がベッドから転落した瞬間を含む前後の数秒間に生成された電圧波形の例であり、図10(c)は、患者等がベッドから離脱して歩き出した瞬間、すなわち離床を含む前後の数秒間に生成された電圧波形の例である。図10から、患者等の異なる動作に応じて、ch1〜ch3の各々から異なる電圧波形が出力されていることが分かる。これらの電圧波形は、センサ条件によっては、動作の種類が異なった場合でもそれぞれの動作の固有の特徴が良好に現れないこともあり、そのような電圧波形を動作判別モデルに入力しても正確な判別結果が得られないことになる。したがって、本発明は、こういった問題に対応して、既知の動作の種類に応じて生成される電圧波形にその動作の固有の特徴が良好に現れるように予めセンサ条件を最適化し、そのように条件が最適化された第1のセンサモジュール部によって未知の動作に応じて異なる電圧波形が生成され、生成された電圧波形から、最適化された動作判別モデルを用いて当該未知の動作の特徴を抽出して動作の種類を判別できるようにしたことを特徴とする。
【0055】
(データ加工処理)
受動センサ410〜430から出力された、動作の特徴が現れた3チャネルの電圧波形は、アナログ/デジタル変換部120に入力され、第1の動作判別モデル135に入力するのに適した形態のデータに加工される(図2のs202)。図11は、第1のセンサモジュール部110の受動センサ410〜430の各々から出力された電圧波形を加工するための概略的な処理フロー図(a)と、加工後のデータの概念図(b)とを示す。図11(a)を参照すると、まず、連続的な電圧値(すなわち、電圧波形)が、受動センサ410〜430の各々から出力され(s1001)、アナログ/デジタル変換部120に入力される(s1002)。
【0056】
アナログ/デジタル変換部120に入力された電圧波形は、最終的な行動判別結果を精度よく得るのに必要な所定の時間幅、例えば4秒間ごとの時間幅で分割される(s1003)。なお、所定の時間幅は、4秒間に限られるものではないが、患者等の動作によって生じる第1のセンサモジュール部110からの電圧波形変化の開始から終了までの時間幅として適切な幅が選択されることが好ましい。所定の時間幅が4秒間の場合、アナログ/デジタル変換部120では、入力された電圧波形が例えば0.1秒のレートでサンプリングされ、この場合には、4秒間で1chあたり40個、すなわち3chで120個のデータを一単位とするデータ群が得られることになる(これ以降、連続的な電圧波形が所定のレートでサンプリングされ、所定の時間幅に含まれる複数のサンプリングデータが一単位としてまとめられたデータ群を「ケース」と呼ぶこともある)。第1の動作判別モデル135による動作判別は、この0.1秒ごとに行われることになる。
【0057】
すなわち、まず40個/chのデータ(120個/3chのデータ=1ケース)を用いて最初の動作判別が行われる。次いで、最初の40個/chのデータのうち、チャネルの各々について最も古い0.1秒のデータを廃棄して39個/chのデータとし、この39個/chのデータに、チャネルの各々について最初の4秒間の次の0.1秒のデータを新たに付加して再び40個/chのデータとする。この新たな40個/ch(120個/3ch=1ケース)のデータを用いて次の動作判別が行われる。このような処理が0.1秒ごとに繰り返されることによって、0.1秒ごとに動作判別が行われることになる(言い換えると、4秒間の波形データを保持しながら0.1秒ごとにデータを更新することによって、4秒間のデータを用いて0.1秒ごとに1つの動作判別が行われる。更新前の4秒間120個のデータと更新後の4秒間120個のデータとは、117個が共通している)。所定の時間幅で分割されて得られた3つのチャネルのデータは、ch1、ch2、ch3の順番で一列に結合され、図11(b)に示されるような量子化された時系列データとして再構成される(s1004)。再構成されたデータは、解析・制御部130に出力され(s1005)、データ加工処理は終了する。
【0058】
(動作判別処理)
図11(a)の処理によって得られた量子化された時系列データは、次いで、解析・制御部130の動作判別部131に入力される。図12は、動作判別部131の最適化された第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136によって動作判別が行われる処理の概略的なフロー図である。処理が開始すると、まず、量子化された時系列データが、動作判別部131の最適化された第1の動作判別モデル135に入力され(s1101)、最適化された第1の動作判別モデル135による動作判別処理が行われた後(s1102)、判別結果が出力される(s1103)。
【0059】
(最適化された動作判別モデル)
本発明の一実施形態においては、好ましくは、第1の動作判別モデル135としてニューラルネットワークが用いられる。図13は、本発明の一実施形態において最適化された第1の動作判別モデル135として用いられる多層ニューラルネットワークを概念的に示す。多層ニューラルネットワークは、2つ以上の層に配置されるニューロン又はノードと呼ばれる処理エレメント(図13において「N」と表記されている要素)の組からなる。多層ニューラルネットワークは、通常、入力層と出力層に挟まれた少なくとも1つの隠れた中間層が存在する。入力層は、提示された入力パターンによって中間層への出力の値が決定されるニューロンを有し、中間層は、入力層から出力された値によって出力層への値が決定されるニューロンを有し、出力層は、中間層からの出力によって最終的に出力される値すなわち判別結果が決定されるニューロンを有する。各々の層におけるニューロンへの入力は、前の層のニューロンの出力に依存する。したがって、多層ニューラルネットワークにおける所定のニューロンの出力は、そのニューロンへの入力の関数となる。
【0060】
一般に、ニューロンへの入力ベクトルをx=(x1,・・・,xi,・・・,xM)、出力をyとすると、1つのニューロンの動作は以下の式で表される。
【数1】
ここで、wiは入力要素xiに係る結合の重み、θはニューロンの閾値と呼ばれる。H[ ]は、閾関数、ステップ関数、ヘビサイド関数などと呼ばれる関数であり、[ ]内の値が正のときに1、負のときに0の値をとる。閾関数としてはシグモイド(Sigmoid)関数が用いられることが多い。したがって、このニューロンは、入力を重み付けして足し合わせた和が、閾値より小さい場合には0を出力し、閾値を越える場合には1を出力する。精度の良い動作判別を行うためには、重みベクトルw=(w1,・・・,wi)及び/又は閾値θを適切に決める必要がある。w及び/又はθを修正する手続きをニューラルネットワークの学習アルゴリズムといい、このときの修正の大きさを学習率という。代表的な学習アルゴリズムは、以下のようなものであり、誤り訂正学習法と呼ばれる。
(1)wの初期値を0でないランダムな値に定める。
(2)学習データから1つのデータxをランダムに選んで入力し、現在のwの値を用いてニューラルネットワークの出力を計算し、判別結果を示す。
(3)判別結果が誤りの場合のみ、結果が正しくなる方向にw及び/又はθの値を修正する。
【0061】
本発明の一実施形態においては、入力層のニューロン数、中間層数、及び/又は学習率といった各種のパラメータを、判別しようとする動作を模擬した既知の動作に基づいて正しい判別結果が出力されるように調整することによって、最適化された第1の動作判別モデル135が得られる。動作判別モデルの最適化については後述する。
【0062】
本発明の一実施形態に係る第1の動作判別モデル135は、好ましくは、判別しようとする複数の動作の各々について最適化された複数の動作判別モデルの集合体であることが好ましい。例えば、判別させたい動作が、患者等のベッドからの起床(ベッドから上半身を起こす動作)、転落(ベッドから落下する動作)、又は離床(ベッドから離れる動作)の3種類の場合には、本実施形態の装置190は、起床動作と起床ではない動作(例えば、寝返り、手を挙げる、脚を上げる等)を判別するように最適化された起床判別モデルと、転落動作と転落ではない動作(例えば、ベッドから出て歩き去る等)を判別するように最適化された転落判別モデルと、離床動作と離床ではない動作(例えば、ベッドから離れることなくベッド上で体を動かす等)を判別するように最適化された離床判別モデルとの3つのモデルを組み合わせた第1の動作判別モデル135を用いて、最終的な動作判別を行うことが好ましい。当然のことながら、本発明の別の実施形態において、3種類以上の動作を判別できる1つの動作判別モデル135のみを装置190に組み込み、この動作判別モデル135によって起床、転落、及び離床の3種類の動作判別を行うようにすることもできる。しかしながら、このような実施形態は、動作の種類に応じた複数の判別モデルの集合体を動作判別モデル135として用いる実施形態と比較して、動作判別の精度が低下する可能性がある。
【0063】
複数の最適化された第1の動作判別モデル135を用いる実施形態においては、それらの第1の動作判別モデル135を直列的に連結させて用いても並列的に連結させて用いてもよい。例えば、ベッドからの起床、転落、離床の3つの第1の動作判別モデル135を直列的に連結させて用いる場合は、まず取得されたデータを起床判別モデルに入力し、その結果が起床と判断されたときには、同じデータを転落判別モデルに入力し、その結果が転落と判断されたときには、同じデータをさらに離床判別モデルに入力することができる。3つのモデルを並列的に連結させて用いる場合は、取得されたデータを起床判別モデル、転落判別モデル、及び離床判別モデルの各々に同時に入力し、その結果に基づいて起床、転落、又は離床のいずれか又はそれらの組み合わせとしての最終的な判別結果を得るようにすることができる。いずれにしても、これらの複数の第1の動作判別モデル135の各々における動作判別処理及びそれらの最適化方法は同じであるため、以下においては、起床と起床以外とを判別する1つの第1の動作判別モデル135を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0064】
図12に戻ると、このようにして、最適化された第1の動作判別モデル135から判別結果が出力される(s1103)。出力された判別結果は、最適化された第1のセンサモジュール部110を用いて取得されたデータを、最適化された第1の動作判別モデル135に入力することによって得られたものであり、患者等の動作を精度よく判別した結果を示すものである。本発明においては、このようにして得られた複数の判別結果の時系列関係を利用する時系列分析モデル136をさらに用いる(図11のs1104〜s1107)ことによって、さらに高精度な判別結果を得ることができる。
【0065】
(最適化された時系列分析モデル)
本発明の一実施形態においては、時系列分析モデル136は、第1の動作判別モデル135から出力された複数の判別結果、例えばN個の判別結果のうち、例えば起床と判別された回数がM回で、かつ、起床と連続的に判別された回数がL回のときに、起床と判断するように構成することができる。このN、M、及びLの数値は、判別しようとする動作を模擬した既知の動作に基づいて正しい判別結果が出力されるように予め調整される。すなわち、本発明において用いられる時系列分析モデルは最適化された時系列分析モデル136である。本発明の一実施形態においては、最適化された時系列分析モデル136のN、M、及びLの値は、N=30、M=20、L=10である。次いで、時系列分析モデル136から最終的な動作判別結果が出力され(s1107)、さらに処理すべき時系列データがあれば(s1108)、ステップはs1101に戻ってさらに動作判別が行われ、処理すべき時系列データがなければ動作判別処理は終了する。
【0066】
(動作判別処理の詳細)
図14は、図12のs1101〜s1108の処理をより詳細に説明するための本発明の一実施形態に係るフロー図である。この図に基づいて、例えば起床動作を判別する際の処理の詳細を説明する。まず、電圧波形から0.1秒ごとにサンプリングされた3.9秒間の39個/ch(117個/3ch)の時系列データ(電圧値)が解析・制御部130によって取得され、例えば解析・制御部130に設けられた記憶手段(メモリ)133に蓄積される(s1301)。次いで、解析・制御部130は、各々のチャネルの最新の0.1秒のデータを取得し、そのデータを3.9秒間の39個/chデータの後に付加して、40個/ch×3ch(すなわち、1ケース)のデータを生成する(s1302)。これらのデータは、40個(1ch)−40個(2ch)−40個(3ch)のようにチャネル順に並べられた時系列データ(図10(b)を参照)として構成され、第1の動作判別モデル135に入力される。
【0067】
120個のデータは、最適化された第1の動作判別モデル135、すなわちニューラルネットワークの入力層に入力され、ニューラルネットワークによる処理が行われた後、出力層から動作判別結果が出力される(s1303)。例えば、判別させようとする動作が起床の場合に、第1の動作判別モデル135から出力されるフラグが1(TRUE)であれば起床予兆、出力されるフラグが0(FALSE)であれば起床予兆ではないと判断される(s1304)。この1つの判別結果は、上述の40個/ch×3ch=120個のデータを1つの単位とするデータ群すなわち1ケースがニューラルネットワークによって処理された結果として得られる。本発明の一実施形態においては、0.1秒ごとに更新されるデータを用いて、すなわち0.1秒ずれた4秒間のデータを用いて、0.1秒ごとに1つの判別結果が出力される。
【0068】
こうして連続的に出力される動作判別の結果は、時系列分析モデル136に順次入力され、起床予兆であると判別された結果とそれ以外の動作であると判別された結果との合計である動作判別回数Nと、起床予兆と判別された回数Mと、連続して起床予兆と判別された回数Lとがそれぞれカウントされる。時系列分析モデル136は、N、M、及びLを用いて、最終的に起床と判別されるかどうかを判断する(s1305)。本発明の一実施形態においては、判別回数30回のうち、起床予兆と判別された回数が20回以上であり、かつ、起床予兆と判別された連続回数が10回以上の場合には、最終的に起床と判別される(s1306)。これらのN、M、及びLの値は、判別結果の精度に影響を与えるパラメータであり、例えばN、M、及びLの組み合わせのうち最終的な判別結果の精度ができるだけ高くなる組み合わせを選択することによって、予め調整され最適化される。
【0069】
(動作判別結果の記録及び通知)
上述の第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136によって起床であると判別された場合(s1306)、並びに、s1304において起床予兆ではないと判別された場合及びs1305において起床ではないと判別された場合には(s1307)、その判別結果は通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される(s1308)。データサーバ150は、判別結果、その受信時刻、及び動作判別装置IDをデータベース151に格納する(s1309)とともに、判別結果を携帯端末等160に通知する(s1310)。この通知は、起床と判別された場合にのみ行われるようにしても、判別の都度行われるようにしてもよい。
【0070】
(次の動作判別処理)
次いで、解析・制御部130が、記憶手段133に蓄積され上述のように動作判別に用いられた各々のチャネルの40個の電圧値のうち最も古い電圧値をチャネルごとに破棄した(s1310)後、処理はステップs1302に戻る。解析・制御部130は、次の新たな0.1秒の電圧値を各々のチャネルのデータに加えて、新たな40個/ch×3chのデータを生成し、再び記憶手段133に蓄積する。このように生成された新たなデータを用いて、s1302〜s1310の処理が再び行われる。
【0071】
3.センサモジュール部の最適化
本発明は、患者等の異なる動作に応じた特徴が現れている、複数の受動センサから出力された電圧波形を動作判別モデルに入力し、動作を判別するものである。しかしながら、例えばセンサの個数やレンズの種類等といったセンサ条件が適切に設定されていない場合には、検知された動作の種類が異なってもそれぞれの動作の固有の特徴が電圧波形に良好に現れないこともあり、そのような電圧波形を動作判別モデルに入力しても正確な判別結果が得られないことになる。したがって、本発明においては、第1のセンサモジュール部110は、動作の種類に応じて生成される電圧波形にそれぞれの動作の固有の特徴が現れるように予め最適化されることが好ましい。本発明の一実施形態においては、この第1のセンサモジュール部110の最適化には、ニューラルネットワークが用いられる。
【0072】
図15は、本発明の一実施形態による、第1のセンサモジュール部110を最適化するための手順を示す。ここでは、まず、例えば図3に示されるように設置された、第1のセンサモジュール部110が最適化される前の装置190によって、判別しようとする患者等の動作を模擬した被験者によって行われた既知の動作が検知され、既知の動作に対応する電圧波形データが出力される(s1401)。第1のセンサモジュール部110が最適化される前の装置190は、例えば、第1のセンサモジュール部110に含まれる受動センサの個数、受動センサ410〜430に用いられる焦電素子115〜117の種類、焦電素子115〜117の回転角度、焦電素子115〜117の感度、焦電素子115〜117に被せられるレンズ111〜113の種類、レンズ111〜113の回転角度、受動センサ間の距離(すなわち受動センサの位置)、第1のセンサモジュール部110の鉛直方向からの傾き角度などといった各種のセンサ条件が、適当に設定される。この最初のセンサ条件の設定は、センサ条件の各々の性質と判別させようとする動作とに基づいて、理論的に予想される条件に設定されることが好ましい。
【0073】
焦電素子115〜117は、例えば逆向きの極性を持つ2組の電極を有するデュアル素子、極性の異なる4組の電極を有するクワッド素子等といった種類があり、焦電素子115〜117の種類、焦電素子115〜117の回転角度、及び焦電素子115〜117の感度は、それらの条件によって検知対象すなわち熱源の移動方向に基づく検知精度に影響を与えることになるため、センサ条件として考慮されることが好ましい。受動センサ410〜430の個数、レンズ111〜113の種類、レンズ111〜113の回転角度、、センサ間の距離、及び第1のセンサモジュール部110の鉛直方向からの傾き角度は、それらの条件によってカバーされる検知範囲が異なり検知精度に影響を与えることになるため、センサ条件として考慮されることが好ましい。
【0074】
出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120によって、上述の処理(図11)と同様の処理により、量子化された時系列データに加工される(s1402)。ただし、ここでは、アナログ/デジタル変換部120は、1ケースごとのデータにそのデータが表す動作の種類のデータ(このデータは、ニューラルネットワーク技術において用いられる「教師信号」となる)を加えたデータとして時系列データを作成する。これらのデータは、学習用データとも呼ばれる。学習用データは、第1のセンサモジュール部110から取得された電圧波形データから加工された120個の時系列データの末尾に、その電圧波形データを取得する際にカメラ又は人の観察等によって記録された被験者の動作の種類を表す情報(例えば、フラグ)を1つ付加することによって作成される(すなわち、本実施形態においては、1ケースの学習用データに含まれるデータ数は121個となる)。
【0075】
こうして作成された学習用データは、図13に示されるものと同様のセンサ最適化用ニューラルネットワークに入力され処理される(s1403)。センサ最適化用ニューラルネットワークでは、以下のような学習処理が行われる。まず、学習用データがセンサ最適化用ニューラルネットワークの入力層に入力される。学習用データは、数百ケース(すなわち、4秒間における40個/chのデータ(120個)に教師信号を加えたデータを一単位とするデータ群が数百個)以上用意されることが好ましい。用意された学習用データのうちの1つ(1ケース)が入力層に入力され、センサ最適化用ニューラルネットワークによってデータ処理が行われ、判別結果が出力層から出力される。出力された判別結果と、入力された学習用データに含まれる動作の種類のデータ(すなわち教師信号)とが比較され、判別結果と学習用データに含まれる動作の種類とが一致しない場合には、センサ最適化用ニューラルネットワークの係数、すなわち重みw及び/又は閾値θが修正される。
【0076】
次いで、学習用データのうちの次のケースが入力層に入力され、同様に判別処理及び必要に応じて係数の修正が行われる。この処理は、正しい判別結果が得られるようになるまで(例えば、判別率の向上率が一定になるまで)繰り返され、最終的にセンサ最適化用ニューラルネットワークが形成される。ニューラルネットワークの学習処理は、例えば市販のソフトウェア(例えば、東京都所在のエス・ピー・エス・エス株式会社が販売する「Clementine」)を用いて行うことができ、正しい判別結果が得られたかどうかの判断は、当該ソフトウェアによって自動的に行われるようにすることができる。
【0077】
次いで、上述のようにニューロンの重みw及び/又は閾値θが適切に調整されたセンサ最適化用ニューラルネットワークに、検証データが順次入力される。検証データとして、上述の学習用データに用いられた時系列データとは別の時系列データを用いることが好ましい。検証データの個数は、数百ケース程度であることが好ましい。センサ最適化用ニューラルネットワークからは、検証データの入力に応じて判別結果が出力される(s1404)。
【0078】
次いで、センサ最適化用ニューラルネットワークから出力された複数の判別結果から、判別させたい動作として正しく判別された結果の割合が計算される(s1405)。すなわち、例えば判別させたい動作を起床とすると、検証データのうち起床動作に伴って生成されたデータ数をNケース、起床以外の動作に伴って生成されたデータ数をMケースとし、このN+Mケースのデータがセンサ最適化用ニューラルネットワークに入力される。起床動作に伴って生成されたNケースのデータが入力された結果として得られる出力のうち、起床と判別された個数(すなわち正判別)をA個、起床以外と判別された個数(すなわち誤判別)をB個とする。同様に、起床以外の動作に伴って生成されたMケースのデータの判別結果のうち、起床と判別された個数(すなわち誤判別)をC個、起床以外と判別された個数(すなわち正判別)をD個とする。このとき、起床として正しく判別された結果の割合はA/N、起床以外として正しく判別された結果の割合はD/Mとなる。
【0079】
次いで、第1のセンサモジュール部110のセンサ条件を、例えば波形に基づいて有望なセンサ条件となるように適宜変化させて、上記のステップs1401〜1405を繰り返す。センサ条件を変化させた場合の各々についてA/N及びD/Mの値を比較し(s1406)、より大きいA/N及びD/Mが得られたセンサ条件が、最適化された第1のセンサモジュール部110のセンサ条件として採用される(s1507)。この場合、センサ条件を採用する判断基準として、例えば、二つのセンサ条件PとQを比較したとき、A/NとD/MのいずれについてもPの方が大きい場合は、センサ条件Pを採用するように設定することができる。別の方法として、A/Nについてはセンサ条件Pの方が大きいが、D/Mについてはセンサ条件Qの方が大きい場合には、全体として正しく判別されたケースの割合、すなわち(A+D)/(N+M)を基準としてP又はQを採用するように設定することもできる。
【0080】
以上のようにして、1つの動作の種類の判別について最適なセンサ条件を求めた後、他の種類の動作の判別についても最適なセンサ条件を求める必要がある。患者等のベッドからの起床、転落、及び離床を判別する本発明の一実施形態においては、実際の動作の優先順位を考慮して、最初に、すべての動作の起点となる起床動作の判別についてセンサ条件の調整を行い、次いで、起床動作の判別に悪影響を与えない範囲で転落及び離床の判別についてセンサ条件の調整を行うようにすることが好ましい。
【0081】
4.第1の動作判別モデルの最適化
本発明は、上述のように、患者等の異なる動作に応じた特徴が現れている複数の受動センサ410〜430から出力された電圧波形を第1の動作判別モデル135に入力するとともに、第2のセンサモジュール部170から出力された電圧波形を第2の動作判別モデル180に入力し、それらの出力結果から動作を判別するものである。しかしながら、仮に最適化された第1のセンサモジュール部110によって検知され、患者等の異なる動作に応じた特徴が現れた電圧波形から生成されたデータが、第1の動作判別モデル135に入力された場合であっても、第1の動作判別モデル135のパラメータ条件が最適化されなければ、正確な判別結果が得られないことになる。したがって、本発明においては、動作の種類に応じてそれぞれの動作の固有の特徴が現れた電圧波形から生成された時系列データが入力された場合に、それぞれの動作の判別が高精度に可能となるように、予め最適化された第1の動作判別モデル135を用いることが好ましい。
【0082】
図16は、本発明の一実施形態においてはニューラルネットワークからなる第1の動作判別モデル135を最適化するための手順を示す。ここでは、まず、例えば図3に示されるように設置された装置190の第1のセンサモジュール部110によって、判別しようとする患者等の動作を模擬した被験者によって行われた既知の動作が検知され、既知の動作に対応する電圧波形データが出力される(s1501)。ここで用いられる装置190の第1のセンサモジュール部110は、上述のようにセンサ条件が最適化されたものであることが好ましいが、センサ条件が最適化されていないものであってもよい。最適化されていない第1のセンサモジュール部110が用いられる場合には、ここで説明される第1の動作判別モデル135の最適化と前述のセンサ条件の最適化とが交互に行われることによって、最終的に第1のセンサモジュール部110と第1の動作判別モデル135とが最適化された動作判別装置が得られることになる。最適化される前の動作判別モデル、すなわちニューラルネットワークは、例えば、入力層のニューロン数、中間層の数、及び学習率等といった各種のパラメータ条件が、適当に設定される。この最初のパラメータ条件の設定は、判別させようとする動作に基づいて理論的に予想される値に設定されることが好ましい。
【0083】
出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120によって、上述の処理(図11)と同様の処理により、量子化された時系列データに加工される(s1502)。ここでは、第1のセンサモジュール部110の最適化処理の際と同様に、アナログ/デジタル変換部120は、1ケースごとのデータにそのデータが表す動作の種類のデータ(教師信号)を加えた学習用データとして時系列データを作成する。学習用データは、数百ケース以上用意されることが好ましい。次いで、学習用データのうちの1つ(1ケース)が、ニューラルネットワークの入力層に入力され処理される(s1503)。ニューラルネットワークによってデータ処理が行われ、判別結果が出力層から出力される(s1504)。
【0084】
ニューラルネットワークから出力された複数の判別結果から、判別させたい動作として正しく判別された結果の割合が計算される(s1505)。すなわち、例えば判別させたい動作を起床とすると、検証データのうち起床動作に伴って生成されたデータ数をNケース、起床以外の動作に伴って生成されたデータ数をMケースとし、このN+Mケースのデータがニューラルネットワークに入力される。起床動作に伴って生成されたNケースのデータが入力された結果として得られる出力のうち、起床と判別された個数(すなわち正判別)をA個、起床以外と判別された個数(すなわち誤判別)をB個とする。同様に、起床以外の動作に伴って生成されたMケースのデータの判別結果のうち、起床と判別された個数(すなわち誤判別)をC個、起床以外と判別された個数(すなわち正判別)をD個とする。このとき、起床として正しく判別された結果の割合はA/N、起床以外として正しく判別された結果の割合はD/Mとなる。
【0085】
上記のステップs1501〜1505を、パラメータを変化させたニューラルネットワークの各々について行ってA/N及びD/Mの値を比較し(s1506)、より大きいA/N及びD/Mが得られたニューラルネットワークが、最適化された第1の動作判別モデル135として採用される(s1507)。この場合、パラメータを採用する判断基準として、例えば、二つパラメータ条件PとQを比較したとき、A/NとD/MのいずれについてもPの方が大きい場合は、パラメータ条件Pを採用するように設定することができる。別の方法として、A/Nについてはパラメータ条件Pの方が大きいが、D/Mについてはパラメータ条件Qの方が大きい場合には、全体として正しく判別されたケースの割合、すなわち(A+D)/(N+M)を基準としてP又はQを採用するように設定することもできる。
【0086】
5.センサ出力と閾値との比較を用いた動作判別の高精度化
本発明の一実施形態においては、解析・制御部130の閾値判定手段137が、受動センサ410〜430の各々から出力される電圧値の大きさと所定の閾値との比較を行い、電圧値が所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにすることによって、動作判別の精度をより高めることができる。第1のセンサモジュール部110によってベッド301上の患者等の動作が検知されると、動作の種類に対応する電圧値が第1のセンサモジュール部110から出力される。本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール部110には3個の受動センサ410〜430が設けられているため、第1のセンサモジュール部110からは3チャネルの電圧値が出力される。これらの電圧値は、判別されるべき動作が行われた場合以外にも出力されるため、そうした電圧値が多くなると、本来判別されるべき動作に特徴的な微妙な電圧波形が不要な電圧波形に紛れ、判別精度に悪影響が与えられることになる。そこで、本発明の一実施形態においては、判別されるべき動作が正しく判別されるように電圧値に対する所定の閾値を決定し、第1のセンサモジュール部110から出力される電圧値がその閾値を上回る場合のみ、第1の動作判別モデル135が動作判別を行うようにすることができる。
【0087】
図17は、閾値判定手段137に設定される閾値条件を決定するための処理のフロー図である。まず、第1の動作判別モデル135の作動条件として、比較される2つの閾値条件を設定する。これらの閾値は、予め動作に応じて第1のセンサモジュール部110から出力された電圧値を人が確認して、適宜決定することができる。第1の動作判別モデル135は、解析・制御部130に設けられた閾値判定手段137を用いて、第1のセンサモジュール部110から出力される電圧値が設定された閾値条件より大きい場合には作動し、電圧値が設定された閾値条件より小さい場合には作動しないように設定される。閾値条件は、チャネルごとに異なる値を設定してもよく、すべてのチャネルで同一の値を設定してもよい。
【0088】
次いで、例えば図3に示されるように設置された装置190の第1のセンサモジュール部110によって、判別しようとする患者等の動作を模擬した被験者によって行われた既知の動作が検知され、既知の動作に対応する電圧波形データが出力される(s1602)。出力された電圧波形データは、アナログ/デジタル変換部120によって、上述の処理(図10)と同様の処理により、量子化された時系列データに加工される(s1603)。加工されたデータは、動作判別モデル135に入力され、データ処理が行われる(s1604)。第1の動作判別モデル135からは、時系列データの入力応じて判別結果が出力される(s1605)。
【0089】
次いで、出力された複数の判別結果から、判別させたい動作として正しく判別された結果の割合が、各々の閾値条件ごとに計算され、比較される(s1606)。すなわち、例えば判別させたい動作を起床とすると、検証データのうち起床動作に伴って生成されたデータ数をNケース、起床以外の動作に伴って生成されたデータ数をMケースとし、このN+Mケースのデータが第1の動作判別モデル135に入力される。起床動作に伴って生成されたNケースのデータが入力された結果として得られる第1の動作判別モデル135からの出力のうち、起床と判別された個数(すなわち正判別)をA個、起床以外と判別された個数(すなわち誤判別)をB個とする。同様に、起床以外の動作に伴って生成されたMケースのデータの判別結果のうち、起床と判別された個数(すなわち誤判別)をC個、起床以外と判別された個数(すなわち正判別)をD個とする。このとき、起床として正しく判別された結果の割合はA/N、起床以外として正しく判別された結果の割合はD/Mとなる。
【0090】
2つの閾値条件の各々の場合についてA/N及びD/Mの値を比較し(s1606)、より大きいA/N及びD/Mが得られた閾値条件が採用される(s1607)。この場合、閾値を採用する判断基準として、例えば、二つの閾値条件PとQを比較したとき、A/NとD/MのいずれについてもPの方が大きい場合は、閾値条件Pを採用するように設定することができる。別の方法として、A/Nについては閾値条件Pの方が大きいが、D/Mについては閾値条件Qの方が大きい場合には、全体として正しく判別されたケースの割合、すなわち(A+D)/(N+M)を基準としてP又はQを採用するように設定することもできる。解析・制御部130の閾値判定手段137は、このようにして決定された閾値と第1のセンサモジュール部110から出力された電圧値とを比較して、電圧値が閾値より大きい場合には動作判別を行うように第1の動作判別モデル135に指示し、電圧値が閾値より小さい場合には動作判別を行わないように第1の動作判別モデル135に指示することができる。
【0091】
6.対象の存在の有無の判別処理
(第2の動作判別モデルによる処理)
これまでに説明したように、最適化された第1のセンサモジュール部110と最適化された第1の動作判別モデル135とを用いることにより、患者等のベッドからの起床、転落、及び離床といった動作の種類をリアルタイムかつ高精度に判別することができる。しかしながら、このシステムのみでは、患者等が特定の動作をした後にその状態が継続されていることを高精度に判別することが難しい場合がある。例えば、このシステムは、患者等がベッド上に寝ている状態から起き上がった動作を起床であると判別し、ベッドから降りて、ベッドを離れる動作を離床であると判別することは可能であるが、患者等が起床し、ベッドの端部から片足又は両足を床に降ろしてベッドに腰掛けた状態、すなわち端座位を維持した場合には、患者等がそのような動作を維持していることを精度よく判別することは難しい。そこで、本発明においては、図1に示されるように、第1のセンサモジュール部110とは別の第2のセンサモジュール部170と、第1の動作判別モデル135とは別の第2の動作判別モデル180とを設け、第2のセンサモジュール部170からの出力を第2の動作判別モデル180に入力し、第2の動作判別モデル180において検知領域内における患者等の存在の有無を判別することができるようにした。
【0092】
本発明は、患者等の端座位を検知するための装置を提供する。本発明の一実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は、図3に示されるようにベッドの脚部に設けられるが、このような形態に限定されるものではない。第2のセンサモジュール部170は、ベッドの片側にある頭部側の1つの脚部のみに設けることも、頭部側と足部側の両方の脚部に設けることもでき、ベッドの脚部すべてに設けることもできる。本発明の別の実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は、図9に示されるようにベッドの寝台の裏側に設けることもできる。
【0093】
本発明の一実施形態においては、図5〜図8に示されるように、第2のセンサモジュール部170をベッドの頭部側の2つの脚部に設け、それぞれの検知範囲が、ベッドの側部をカバーするように設定される。このような範囲を検知できるようにすることにより、患者等の端座位の状態を高精度に検知できるようになる。本発明の別の実施形態においては、図9に示されるように、寝台の裏側に設けられた第2のセンサモジュール部170によってベッドの側部が検知範囲となるように設定される。
【0094】
図18は、本発明の一実施形態による、第2のセンサモジュール部170及び第2の動作判別モデル180を含む動作判別装置による動作判別処理のフロー図を示す。この処理フローでは、ベッドに寝ている患者等がベッドから起き上がる「起床」、起床後にベッドの端部に腰掛けた状態の「端座位」、端座位から立ち上がりベッドから離脱する「離床」、及び、端座位の状態から再びベッド上に戻る「ベッドへの戻り」の各々を判別することができる。「端座位」については、端座位が開始した「端座位開始」と、端座位が終了した「端座位終了」とを判別することができる。
【0095】
図18の処理フローにおいて、第1の動作判別モデル135(必要に応じて、第1の動作判別モデル135及び時系列分析モデル136)による処理を経て起床判別を行うまでの処理S1801〜S1803の詳細は、図2及び図10〜図17を用いて既に説明したとおりである。第1の動作判別モデル135によって、ベッド上の患者等が起床したと判別された場合(S1803)には、解析・制御部130は、判別結果「起床」を出力する。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。それとともに、解析・制御部130は、判別結果「起床」を第2の動作判別モデル180に入力する。
【0096】
第1の動作判別モデル135の結果が「起床」の場合には、次に、第2の動作判別モデル180は、第2のセンサモジュール部170からの電圧値を用いて、端座位が開始したかどうかを判別する(S1805)。一実施形態においては、第2のセンサモジュール部170は光電変換素子を含む。光電変換素子は、例えば図19の上図に示されるように、検知領域内に患者等が存在しない場合には所定の基準電圧を出力し、検知領域内に患者等の体の少なくとも一部が入ったときには基準電圧より低い電圧値を出力する。さらに検知領域内に患者等の体の少なくとも一部が存在し続けるときには基準電圧より低い電圧を維持し、検知領域から患者等が出たときに再び基準電圧を出力する。このように、光電変換素子は、検知領域内の患者等の有無に応じて、異なる電圧値を出力することができる。したがって、第2の動作判別モデル180は、例えば患者がベッドの側部に腰掛けて片足又は両足を床に降ろしたときには、第2のセンサモジュール170の電圧値が基準電圧より低くなったこと(図19の上図参照)に基づいて、患者等の動作を「端座位開始」と判別し(S1806)、その情報を出力する(S1807)。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。第2の動作判別モデル180は、第2のセンサモジュール170からの電圧値が基準電圧を維持している場合には、「端座位開始」ではないと判別して、処理はS1802に戻る。したがって、例えば患者等がベッド上に上半身を起こし、そのままの体勢を維持している場合には、S1802〜S1806の処理が繰り返されることになる。
【0097】
患者等が端座位状態を維持している間は、第2のセンサモジュール170からは、図19の上図に示されるように、基準電圧より低い電圧値が出力され続ける。この場合には、S1808〜S1809の処理が繰り替えされる。このとき、例えば患者等が端座位状態のまま体を動かした場合でも、検知領域内に少なくとも体の一部が存在する限り、第2のセンサモジュール170からは、基準電圧より低い電圧値が出力され続ける。
【0098】
次いで、第2のセンサモジュール170の検知領域から患者等の足が出ていったときには、図19の上図に示されるように、第2のセンサモジュール170から出力される電圧値は基準電圧に戻る。第2の動作判別モデル180は、電圧値が基準電圧より低い値から基準電圧値に戻ったこと(図19の上図参照)に基づいて、患者等の動作を「端座位終了」と判別し(S1809)、その情報を出力する(S1810)。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。
【0099】
(環境温度の変化による補償処理)
ところで、第2のセンサモジュール170の光電変換素子から出力される基準電圧は、周辺環境の温度によって変化するという特性を有する。例えば、第2のセンサモジュール部170の検知領域に患者等の足が入ったことによって第2の動作判別モデル180が「端座位開始」と判別した後に、第2のセンサモジュール170が設置される場所の温度が上昇した場合には、基準電圧が高くなるため、検知領域から患者等の足が出たときに「端座位終了」を正確に検知することが困難となるおそれがある。そこで、本発明の別の実施形態においては、第2の動作判別モデル180には、第2のセンサモジュール170が設置される環境の温度変化を補償する機能を追加することができる。この処理のフロー図を図20及び図21に示す。
【0100】
図20は端座位開始を判別するための処理フローであり、図21は端座位終了を判別するための処理フローである。図20のS2002において、まず、第2のセンサモジュール170から3秒間の電圧値が取得される。3秒間の電圧値は、1秒ごとにずれた3秒間の電圧値のセットとして順次取得され、例えば解析・制御部130に設けられた記憶手段133に格納される。取得される電圧値の時間幅は3秒間に限定されず、判別が必要な動作の種類に応じて、例えば4秒間や5秒間などと適宜変更することができる。次に、第2の動作判別モデル180は、取得された3秒間の電圧値のうちの最初の1秒間の電圧値を平均する(S2003)。この平均値を平均値1とする。同様に、第2の動作判別モデル180は、取得した3秒間の電圧値のうちの最後の1秒間の電圧値を平均する(S2004)。この平均値を平均値2とする。
【0101】
第2の動作判別モデル180は、平均値1と平均値2との差Dを計算し(S2005)、このDが所定のしきい値1より大きいかどうかを判定する(S2006)。所定のしきい値1は、第2のセンサモジュール170が設置される環境に応じて、システム管理者等が予め設定し、記憶手段133に格納しておく。Dが所定のしきい値1より大きい場合には、基準電圧の変化を超える電圧値の変化があったことを示しており、この場合には、第2の動作判別モデル180は、「端座位開始」を出力する。Dが所定のしきい値1と等しいか又は小さい場合には、ステップはS2002に戻り、第2の動作判別モデル180は、最初の3秒間から1秒だけずれた次の3秒間の電圧値を用いて上述の処理を繰り返す。
【0102】
端座位終了の処理フローは以下のとおりである。図21のS2102において、まず、第2のセンサモジュール170から3秒間の電圧値が取得される。この3秒間の電圧値は、通常は、端座位開始が判別された後の電圧値である。3秒間の電圧値は、1秒ごとにずれた3秒間の電圧値のセットとして順次取得され、例えば解析・制御部130に設けられた記憶手段133に格納される。取得される電圧値の時間幅は3秒間に限定されず、判別が必要な動作の種類に応じて、例えば4秒間や5秒間などと適宜変更することができる。次に、第2の動作判別モデル180は、取得した3秒間の電圧値のうちの最初の1秒間の電圧値を平均する(S2103)。この平均値を平均値1とする。同様に、第2の動作判別モデル180は、取得した3秒間の電圧値のうちの最後の1秒間の電圧値を平均する(S2104)。この平均値を平均値2とする。
【0103】
次に、平均値1と平均値2との差Dが計算される(S2105)。第2の動作判別モデル180は、Dが所定のしきい値2より小さく、かつ、その後に計算される別のDが所定のしきい値2より大きくなったかどうかを判別する。所定のしきい値2は、第2のセンサモジュール170が設置される環境に応じて、システム管理者等が予め設定し、記憶手段133に格納しておく。DがS2106の条件に合致する場合には、基準電圧の変化を超える電圧値の変化があったことを示しており、この場合には、第2の動作判別モデル180は、「端座位終了」を出力する。DがS2106の条件に合致しない場合には、ステップはS2102に戻り、第2の動作判別モデル180は、最初の3秒間から1秒だけずれた次の3秒間の電圧値を用いて上述の処理を繰り返す。
【0104】
図20及び図21の処理によって、3秒間ごとの電圧値から順次Dを計算したとき、平均値の差分Dは、時間の経過に伴って図19の下図に示されるように変化する。
【0105】
(第3の動作判別モデルによる処理)
以上のように第2の動作判別モデル180は、端座位の開始及び終了を判別することができる。しかしながら、第2の動作判別モデル180のみでは、端座位が終了した後、患者等が足を上げて再びベッド上に戻ったのか、立ち上がってベッドから離れたのかを精度よく判別することが難しい場合がある。本発明の一実施形態においては、第3の動作判別モデル181をさらに設け、患者等がベッドから離れたのか(離床)、又はベッド上に戻ったのか(ベッドへの戻り)を精度よく判別可能とすることができる。
【0106】
図18において、S1809で端座位終了と判別された場合には、その情報が第3の動作判別モデル181に入力される。このとき、第3の動作判別モデル181は、第1のセンサモジュール110からの電圧値も取得する(S1811)。本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール110は、3つの受動センサを備えており、ベッド上からベッドの周辺における患者等の動作(この動作は、患者等の動作のうち、特に動きのある動作である)の判別に用いられる電圧値を出力する。本発明の一実施形態においては、第1のセンサモジュール110の3つのセンサ410、420、430のうち、起床時に患者等の上半身が横切るような検知領域が設定されたセンサ410(図4〜図8において410と表記されているセンサ)からの電圧値を用いることが好ましい。第3の動作判別モデル181は、第2の動作判別モデル180から出力された端座位終了の情報と、第1のセンサモジュール110のセンサ410からの電圧値(チャネル1のデータ)の変化とに基づいて、患者等がベッドから離れたか、ベッド上に戻ったかを判別する(S1812)。
【0107】
具体的には、第3の動作判別モデル181は、端座位終了情報が入力された場合に、チャネル1の電圧値を取得する。チャネル1から取得した電圧値が所定の時間幅の中で変化を示した場合には、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態からベッド上に戻ったものと判別し(S1813)、「ベッドへの戻り」を出力する(S1814)。逆に、その他の場合、例えば、チャネル1から取得した電圧値が所定の時間幅の中で変化を示さなかった場合、又は、所定の時間幅の初めには変化を示したがその後変化しなくなった場合などには、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態から立ち上がってベッドから離れたものと判別し(S1813)、離床を出力する(S1814)。出力された判別結果は、通信部140に送られ、通信部140から有線又は無線通信を介してデータサーバ150に送信される。チャネル1からの電圧値が変化を示すかどうかを判断するための所定の時間幅は、システム管理者等が予め設定し、記憶手段133に格納しておく。
【0108】
本発明の一実施形態においては、第3の動作判別モデル181による判別に用いるための電圧値としてセンサ410からの電圧値を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、縦横の領域を広く検知するレンズを用いて、患者等のベッドからの離脱すなわち離床を検知するように設定されたセンサ430からの電圧値を用いることもできる。この場合には、第3の動作判別モデル181は、第2の動作判別モデル180から出力された端座位終了の情報と、第1のセンサモジュール110のセンサ430からの電圧値(チャネル3のデータ)の変化とに基づいて、患者等がベッドから離れたか、ベッド上に戻ったかを判別する。すなわち、チャネル3からの電圧値が所定の時間幅の中で変化を示した場合は、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態から立ち上がってベッドから離れたものと判別し、離床を出力する。そうではない場合には、第3の動作判別モデル181は、患者等が端座位の状態からベッド上に戻ったものと判別し、「ベッドへの戻り」を出力する。
【0109】
本明細書においては、本発明の機能を分かり易くするために3つの異なる動作判別モデルを用いて説明しているが、動作判別モデルの数は3つ限定されるものではない。例えば、1つの動作判別モデルにおいてすべての動作判別を行うようにすることもできるし、第2の動作判別モデルを2つにわけて、一方が端座位開始を判別し、他方が端座位終了を判別するようにすることもできる。
【0110】
第2のセンサモジュール170に含まれる素子は、光電変換素子に限定されるものではなく、例えば、熱電変換素子とすることもできるし、第1のセンサモジュール110に含まれる素子と同様に焦電素子を用いることもできる。熱電変換素子を用いた場合には、上述の光電変換素子の場合と同様の処理を行うことができる。第2のセンサモジュール170に含まれる素子として焦電素子を用いた場合には、焦電素子から出力される電圧値から図19の上図に示されるような波形が得られるように所定の処理を施すことが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の動作を判別するための最適化された動作判別装置であって、
複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段と、
第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段と、
前記第1の検知手段から出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工手段と、
前記時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、前記第2の検知手段から出力されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて、前記動作を判別した判別結果を出力する動作判別手段と、
を含む動作判別装置。
【請求項2】
前記第1の動作判別モデルは、前記時系列データを入力ノードへの入力とし、前記動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークである、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項3】
前記第1の動作判別モデルは、前記第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを前記ニューラルネットワークの入力ノードに入力して前記動作の種類を出力ノードから出力することによって前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果と前記既知の動作との比較に基づいて前記ニューラルネットワークのパラメータを調整する工程とを行うことによって最適化された、請求項2に記載の動作判別装置。
【請求項4】
前記第1の検知手段は、複数の検知素子と複数のレンズとを有する受動センサを含む、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項5】
前記複数の検知素子は、デュアル素子、クワッド素子、又はそれらの組み合わせである、請求項4に記載の動作判別装置。
【請求項6】
前記第1の検知手段は、前記第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを入力ノードへの入力とし前記既知の動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いて前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果に基づいて前記第1の検知手段の条件を変更する工程とを行うことによって最適化された、請求項4に記載の動作判別装置。
【請求項7】
前記第1の検知手段の前記条件は、前記複数の検知素子の種類、個数、位置、感度、及び回転角度、前記複数の検知素子の各々に取り付けられる前記複数のレンズの種類及び回転角度、並びに、前記第1の検知手段の設置角度のうちの1つ又は複数の組み合わせである、請求項6に記載の動作判別装置。
【請求項8】
前記第2の検知手段は、光電変換素子、熱電変換素子、若しくは焦電変換素子のいずれか又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項9】
前記動作判別手段は時系列分析モデルをさらに含み、該時系列分析モデルは、前記第1の動作判別モデルによって判別された複数の判別結果の時系列的な関係に基づいて前記動作を判別し、判別結果を出力する、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項10】
前記複数の判別結果の前記時系列的な関係は、順次出力される前記複数の判別結果のうちの所定の数について計算される、特定の動作として判別された判別結果の数とそれ以外の判別結果の数との割合、及び、特定の動作として判別された判別結果の連続個数である、請求項9に記載の動作判別装置。
【請求項11】
前記動作判別手段によって出力された前記判別結果を携帯情報端末又は携帯情報端末に前記判別結果を通知するための装置に送信する通信手段をさらに含む、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項12】
前記第1の検知手段から出力される前記アナログ値と所定の閾値とを比較する判定手段をさらに含み、前記アナログ値が前記所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにした、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項13】
前記動作判別手段は、前記第1の検知手段によって出力されたアナログ値と前記第2の動作判別モデルによる判別結果とに基づいて、前記対象の前記動作を判別する第3の動作判別モデルをさらに含む、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項14】
前記対象は被介護者、患者、又は高齢者であり、前記対象の前記動作は、前記被介護者、前記患者、又は前記高齢者のベッドからの起床、ベッドの端部における端座位、端座位からベッドへの戻り、及びベッドからの離脱のいずれかである、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項15】
対象の動作を判別するように最適化された動作判別方法であって、
複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段からのアナログ値を取得する第1のデータ取得ステップと、
第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段からのアナログ値を取得する第2のデータ取得ステップと、
前記第1のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工ステップと、
前記時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、前記第2のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて前記動作を判別し、判別結果を出力する、動作判別ステップと、
を含む動作判別方法。
【請求項16】
前記第1の動作判別モデルは、前記時系列データを入力ノードへの入力とし、前記動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークである、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項17】
前記第1の動作判別モデルは、前記第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを前記ニューラルネットワークの入力ノードに入力して前記動作の種類を出力ノードから出力することによって前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果と前記既知の動作との比較に基づいて前記ニューラルネットワークのパラメータを調整する工程とを行うことによって最適化される、請求項16に記載の動作判別方法。
【請求項18】
前記第1の検知手段は、複数の検知素子と複数のレンズとを有する受動センサを含む、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項19】
前記複数の検知素子は、デュアル素子、クワッド素子、又はそれらの組み合わせである、請求項18に記載の動作判別方法。
【請求項20】
前記第1の検知手段は、対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを入力ノードへの入力とし前記既知の動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いて前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果に基づいて前記第1の検知手段の条件を変更する工程とを行うことによって最適化された、請求項18に記載の動作判別方法。
【請求項21】
前記第1の検知手段の前記条件は、前記複数の検知素子の種類、個数、位置、及び角度、前記複数の検知素子の各々に取り付けられる前記複数のレンズの種類及び角度、並びに、前記第1の検知手段の設置角度のうちの1つ又は複数の組み合わせである、請求項20に記載の動作判別方法。
【請求項22】
前記第2の検知手段は、光電変換素子、熱電変換素子、若しくは焦電変換素子のいずれか又はこれらの組み合わせである、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項23】
前記動作判別ステップは、前記第1の動作判別モデルによって判別された複数の判別結果の時系列的な関係に基づいて前記動作を判別し、判別結果を出力するステップをさらに含む、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項24】
前記複数の判別結果の前記時系列的な関係は、順次出力される前記複数の判別結果のうちの所定の数について計算される、特定の動作として判別された判別結果の数とそれ以外の判別結果の数との割合、及び、特定の動作として判別された判別結果の連続個数である、請求項23に記載の動作判別方法。
【請求項25】
前記動作判別ステップによって出力された前記判別結果を携帯情報端末又は携帯情報端末に前記判別結果を通知するための装置に送信する通信ステップをさらに含む、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項26】
前記第1の検知手段から出力される前記アナログ値と所定の閾値とを比較する判定ステップをさらに含み、前記アナログ値が前記所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにする、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項27】
前記動作判別ステップは、前記第1の検知手段によって出力されたアナログ値と前記第2の動作判別モデルによる判別結果とに基づいて、前記対象の前記動作を判別するステップをさらに含む、請求項15に記載の動作判別装置。
【請求項28】
前記対象は被介護者、患者、又は高齢者であり、前記対象の前記動作は、前記被介護者、前記患者、又は前記高齢者のベッドからの起床、ベッドの端部における端座位、端座位からベッドへの戻り、及びベッドからの離脱のいずれかである、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項29】
請求項15から請求項28のいずれか1項に記載の方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラム・コード命令を含むコンピュータ・プログラム。
【請求項1】
対象の動作を判別するための最適化された動作判別装置であって、
複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段と、
第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段と、
前記第1の検知手段から出力されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工手段と、
前記時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、前記第2の検知手段から出力されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて、前記動作を判別した判別結果を出力する動作判別手段と、
を含む動作判別装置。
【請求項2】
前記第1の動作判別モデルは、前記時系列データを入力ノードへの入力とし、前記動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークである、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項3】
前記第1の動作判別モデルは、前記第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを前記ニューラルネットワークの入力ノードに入力して前記動作の種類を出力ノードから出力することによって前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果と前記既知の動作との比較に基づいて前記ニューラルネットワークのパラメータを調整する工程とを行うことによって最適化された、請求項2に記載の動作判別装置。
【請求項4】
前記第1の検知手段は、複数の検知素子と複数のレンズとを有する受動センサを含む、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項5】
前記複数の検知素子は、デュアル素子、クワッド素子、又はそれらの組み合わせである、請求項4に記載の動作判別装置。
【請求項6】
前記第1の検知手段は、前記第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを入力ノードへの入力とし前記既知の動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いて前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果に基づいて前記第1の検知手段の条件を変更する工程とを行うことによって最適化された、請求項4に記載の動作判別装置。
【請求項7】
前記第1の検知手段の前記条件は、前記複数の検知素子の種類、個数、位置、感度、及び回転角度、前記複数の検知素子の各々に取り付けられる前記複数のレンズの種類及び回転角度、並びに、前記第1の検知手段の設置角度のうちの1つ又は複数の組み合わせである、請求項6に記載の動作判別装置。
【請求項8】
前記第2の検知手段は、光電変換素子、熱電変換素子、若しくは焦電変換素子のいずれか又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項9】
前記動作判別手段は時系列分析モデルをさらに含み、該時系列分析モデルは、前記第1の動作判別モデルによって判別された複数の判別結果の時系列的な関係に基づいて前記動作を判別し、判別結果を出力する、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項10】
前記複数の判別結果の前記時系列的な関係は、順次出力される前記複数の判別結果のうちの所定の数について計算される、特定の動作として判別された判別結果の数とそれ以外の判別結果の数との割合、及び、特定の動作として判別された判別結果の連続個数である、請求項9に記載の動作判別装置。
【請求項11】
前記動作判別手段によって出力された前記判別結果を携帯情報端末又は携帯情報端末に前記判別結果を通知するための装置に送信する通信手段をさらに含む、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項12】
前記第1の検知手段から出力される前記アナログ値と所定の閾値とを比較する判定手段をさらに含み、前記アナログ値が前記所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにした、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項13】
前記動作判別手段は、前記第1の検知手段によって出力されたアナログ値と前記第2の動作判別モデルによる判別結果とに基づいて、前記対象の前記動作を判別する第3の動作判別モデルをさらに含む、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項14】
前記対象は被介護者、患者、又は高齢者であり、前記対象の前記動作は、前記被介護者、前記患者、又は前記高齢者のベッドからの起床、ベッドの端部における端座位、端座位からベッドへの戻り、及びベッドからの離脱のいずれかである、請求項1に記載の動作判別装置。
【請求項15】
対象の動作を判別するように最適化された動作判別方法であって、
複数の第1の検知領域の各々における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第1の検知手段からのアナログ値を取得する第1のデータ取得ステップと、
第2の検知領域における対象の動作によって異なるアナログ値を出力する第2の検知手段からのアナログ値を取得する第2のデータ取得ステップと、
前記第1のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値を量子化された時系列データに加工するデータ加工ステップと、
前記時系列データに基づいて対象の動作の種類を判別する第1の動作判別モデルと、前記第2のデータ取得ステップによって取得されたアナログ値に基づいて対象の存在の有無を判別する第2の動作判別モデルとを用いて前記動作を判別し、判別結果を出力する、動作判別ステップと、
を含む動作判別方法。
【請求項16】
前記第1の動作判別モデルは、前記時系列データを入力ノードへの入力とし、前記動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークである、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項17】
前記第1の動作判別モデルは、前記第1の検知手段を用いて対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを前記ニューラルネットワークの入力ノードに入力して前記動作の種類を出力ノードから出力することによって前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果と前記既知の動作との比較に基づいて前記ニューラルネットワークのパラメータを調整する工程とを行うことによって最適化される、請求項16に記載の動作判別方法。
【請求項18】
前記第1の検知手段は、複数の検知素子と複数のレンズとを有する受動センサを含む、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項19】
前記複数の検知素子は、デュアル素子、クワッド素子、又はそれらの組み合わせである、請求項18に記載の動作判別方法。
【請求項20】
前記第1の検知手段は、対象の既知の動作に対応するアナログ値を取得する工程と、前記複数の第1の検知領域の各々における前記既知の動作に対応して出力された前記アナログ値を量子化された時系列データに加工する工程と、前記時系列データを入力ノードへの入力とし前記既知の動作の種類を出力ノードからの出力とするニューラルネットワークを用いて前記既知の動作に対応する判別結果を出力する工程と、前記判別結果に基づいて前記第1の検知手段の条件を変更する工程とを行うことによって最適化された、請求項18に記載の動作判別方法。
【請求項21】
前記第1の検知手段の前記条件は、前記複数の検知素子の種類、個数、位置、及び角度、前記複数の検知素子の各々に取り付けられる前記複数のレンズの種類及び角度、並びに、前記第1の検知手段の設置角度のうちの1つ又は複数の組み合わせである、請求項20に記載の動作判別方法。
【請求項22】
前記第2の検知手段は、光電変換素子、熱電変換素子、若しくは焦電変換素子のいずれか又はこれらの組み合わせである、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項23】
前記動作判別ステップは、前記第1の動作判別モデルによって判別された複数の判別結果の時系列的な関係に基づいて前記動作を判別し、判別結果を出力するステップをさらに含む、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項24】
前記複数の判別結果の前記時系列的な関係は、順次出力される前記複数の判別結果のうちの所定の数について計算される、特定の動作として判別された判別結果の数とそれ以外の判別結果の数との割合、及び、特定の動作として判別された判別結果の連続個数である、請求項23に記載の動作判別方法。
【請求項25】
前記動作判別ステップによって出力された前記判別結果を携帯情報端末又は携帯情報端末に前記判別結果を通知するための装置に送信する通信ステップをさらに含む、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項26】
前記第1の検知手段から出力される前記アナログ値と所定の閾値とを比較する判定ステップをさらに含み、前記アナログ値が前記所定の閾値より小さい場合には動作判別を行わないようにする、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項27】
前記動作判別ステップは、前記第1の検知手段によって出力されたアナログ値と前記第2の動作判別モデルによる判別結果とに基づいて、前記対象の前記動作を判別するステップをさらに含む、請求項15に記載の動作判別装置。
【請求項28】
前記対象は被介護者、患者、又は高齢者であり、前記対象の前記動作は、前記被介護者、前記患者、又は前記高齢者のベッドからの起床、ベッドの端部における端座位、端座位からベッドへの戻り、及びベッドからの離脱のいずれかである、請求項15に記載の動作判別方法。
【請求項29】
請求項15から請求項28のいずれか1項に記載の方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラム・コード命令を含むコンピュータ・プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図10】
【公開番号】特開2011−200584(P2011−200584A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73075(P2010−73075)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【特許番号】特許第4785975号(P4785975)
【特許公報発行日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(304002380)有限会社グーテック (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【特許番号】特許第4785975号(P4785975)
【特許公報発行日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(304002380)有限会社グーテック (3)
【Fターム(参考)】
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