説明

動力付き空気浄化人工呼吸装置の制御方法

ユーザー(6)に実質的に一定体積の空気流を供給するために、動力付き空気浄化人工呼吸装置の送風機システムを制御する方法は、(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧のうちの1つを決定する工程と、決定及び少なくとも2つの較正値に応答して、電動モータ(22)の電気的特性を調整する工程と、を含む。動力付き空気浄化人工呼吸装置の送風機システムは、電動モータ(22)によって作動するファン(21)を備えてもよく、このモータは、濾過された空気の強制的な流れをユーザー(06)に供給するために、電子制御ユニット(23)によって制御される。電子制御ユニット(23)は、電動モータ(22)の電気的特性に関する少なくとも2つの較正値をその中に記憶してもよい。このシステムは、電子制御ユニットと連通するように適合され、かつ(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の一方を決定するように配置された、少なくとも1つのセンサ(26)を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力付き空気浄化人工呼吸装置(PAPR)で使用するための送風機システム、及び送風機システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜在的に健康に有害な若しくは害を及ぼす粉塵、煙、若しくはガスが存在することが知られている、又はその危険性のある地域で作業をする場合、作業者は人工呼吸装置を使用するのが常である。そのような状況で使用される人工呼吸装置の一般的なタイプは、動力付き空気浄化人工呼吸装置(PAPR)である。PAPRは、空気の強制的な流れを人工呼吸装置のユーザーに供給するために、電動モータによって作動するファンを備える送風機システムを有する。タービンユニットはハウジングであり、このハウジングは、典型的には、送風機システムを収容し、かつ、フィルタを送風機システムに接続するように適合される。空気は、送風機システムによってフィルタを通して引き込まれ、タービンユニットから呼吸管を通ってヘッドピース(headpiece)(例えば、ヘルメット又はヘッドトップ(headtop))へと送られて、濾過された空気がユーザーの呼吸ゾーン(鼻及び口の周囲領域)に提供される。PAPRの送風機システムはまた、ファンを駆動する電力を調節するための電子制御ユニットを備える。典型的には、単一電力供給装置、例えば、電池が、ファン及び電子制御ユニットの両方に電力を提供する。
【0003】
送風機からの実質的に一定体積の空気流を維持するのを目的として、電子制御ユニットを使用して、例えば、電動モータへの電力を制御することができる。用語「体積空気流」は、任意の一時点でユーザーに提供される空気の質量ではなく、任意の一時点でユーザーに提供される空気容量を示す。ユーザーは、指定されたレベルの呼吸保護が維持されるのを確実にするのに十分な空気流を必要とする。しかしながら、高すぎる空気流は、不快感や、ヘッドピース内部のユーザーの頭部の過剰冷却を引き起こし得る。低すぎる空気流は、ユーザーの呼吸ゾーン内への汚染物質の進入を引き起こし得る。電子制御ユニットはまた、例えば、空気流が指定レベルを下回っていることをユーザーに警告するため、又は、フィルタが粉塵でふさがれていて交換する必要があることをユーザーに警告するために、ユーザーに対し警報を発するのに使用されてもよい。モータ電圧、モータ電流、及びモータ速度の組み合わせに基づいて、PAPR送風機システムのファンモータへの電力を制御することが、以前に提案されている。この種の送風機制御システムの例は、米国特許出願第2008/0127979号及び米国特許第7,244,106号に記載されている。
【0004】
米国特許出願第2008/0127979号は、特定のモータ速度及び対応の空気流を生成するための制御変数としてパルス幅変調(PWM)比を使用する電子制御システムを記載している。PWM比は、電子制御システムに記憶された検量線から読み出される。
【0005】
米国特許第7,244,106号は、モータの電力消費及びファンの速度を検出し、これを、ファンからの所与の空気流に関するモータの特性曲線(記憶装置に記憶されている)と比較する制御ユニットを記載している。この特性曲線から逸脱する場合、制御ユニットは、モータに供給される電圧変化を調節して、一定の空気流を維持する。
【0006】
濾過された空気の所定の体積空気流は、通常、PAPRのユーザーに供給されて、粒子又はガスが呼吸ゾーンに進入することからの一定レベルの保護を提供するように意図されている。現在入手可能なシステムは、提供される空気が少なすぎる状態に陥るといった危険を冒さず、実際に必要なものよりはるかに高い体積空気流を提供する場合が多い。より高い空気流を提供するためにより多くの電力が消費されるので、より高い空気流とは、通常、充電までの電池寿命が低減すること、又はより大きな電池が必要であることを意味する。高い空気流を提供することによって、過剰な汚染空気がフィルタを通って移動し、その結果不必要な濾過及びフィルタの早すぎる目詰まり又は飽和を引き起こすので、フィルタ寿命もまた短縮する。フィルタは消耗品であり、PAPRの耐用年数にわたって何度も交換することが必要であるので、これによりランニングコストがより高くなり得る。更なる問題は、多くのPAPRでは、空気流が所定のレベルを下回ったという事実をユーザーに警告する空気流下限警報器(low airflow alarm)が必要であるということである。不正確な空気流測定又は制御システムが使用されている場合、ユーザーが常に安全であることを確実にするために、警報レベルは人為的に高いレベルに設定されていることが多い。このことは、結果として、フィルタが必要以上に頻繁に交換される、又は、ユーザーが不必要に作業場を離れる原因となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、空気流が特定の体積の空気流となるようにより正確に制御することにより、充電までの電池寿命の改善又はより小さくかつ軽量な電池の使用、フィルタ寿命の改善、及び早すぎる空気流下限警報の低減をもたらすことができる。これら要因の全ては、改善されたユーザー生産性をもたらすことができる。
【0008】
したがって、そのような問題を最小限に抑えると同時に、PAPRの全体的な機能性を維持する又は改善する、PAPRの制御方法を用いることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、実質的に一定体積の空気流をユーザーに供給するための動力付き空気浄化人工呼吸装置の送風機システムを制御する方法を提供することにより、これらの問題に対処すること目的とし、このシステムは、濾過された空気の強制的な流れをユーザーに供給するために、電動モータによって作動され、電子制御ユニットによって制御されるファンと、電動モータの電気的特性に関する少なくとも2つの較正値をその中に記憶する電子制御ユニットとを備え、該方法は、(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の一方を決定する工程と、決定及び少なくとも2つの較正値に応答して、電動モータの電気的特性を調整する工程と、を含む。
【0010】
送風機を制御するときの1つ以上の周囲空気特性を考慮することにより、ユーザーに供給される体積空気流をより正確に制御することができるので、PAPRのより良好な機能性を提供することができる。
【0011】
本発明はまた、電動モータによって作動するファンと、ファンの速度と、ファンからの選択された実質的に一定体積の空気流に関して適用されたモータの電気的特性との間の所定の相関関係にしたがって、モータの電気的特性を調整するように動作可能な電子制御ユニットと、を備える、空気浄化人工呼吸装置の送風機システムを提供し、このシステムは、電子制御ユニットと連通するように適合され、かつ、(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の一方を決定するように配置された、少なくとも1つのセンサを更に備え、この電子制御ユニットは、モータの電気的特性を調整して、ファンからの選択された実質的に一定体積の空気流を維持するために、(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の決定に応答して動作可能である。
【0012】
本発明の他の特徴は、添付の従属請求項から明らかになるであろう。
【0013】
例示のみを目的として、添付の図面を参照しながら、以下に本発明の実施形態を説明す
る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】動力付き空気浄化人工呼吸装置の概略図。
【図2】本発明の第1の実施形態による送風機システムのブロック図を示す。
【図3】本発明の第1の実施形態による送風機システムの電子制御ユニットの較正チャートを示す。
【図4】本発明の第2の実施形態に関する、空気密度とファン圧力との間の相関関係を示す。
【図5】本発明の第2の実施形態に関する、ファン圧力測定センサを備える送風機のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、PAPRが高地又は海抜以下で使用される場合に遭遇する上記の問題が、周囲空気密度の変化によって引き起こされるという認識に基づいている。周囲気圧、したがって周囲空気密度は、高地又は海抜以下で作業する場合に著しく変化し得る。周囲空気密度の変化は、周囲温度又は周囲気圧の正常変動からも生じ得る。本発明は、周囲空気密度を考慮することによって、PAPRユーザーに供給される体積空気流をより正確に制御できるようにし、したがって、PAPRのより良好な機能性を提供できるようにする。これは、PAPRを動かす電動モータの電圧、電流、又は電力などの電気的特性を、所定の較正手順にしたがって変化させることによって行われる。
【0016】
用語「周囲」とは、本明細書では、ユーザーが受ける空気密度、温度、圧力、又は湿度を説明するために用いられる。周囲空気密度は、例えば、周囲気圧、周囲温度、及び周囲湿度の影響を受ける。これらの要因のそれぞれが周囲空気密度に与える影響の程度は異なっており、通常は気圧が最も大きな影響を有する。気温及び湿度の影響は少ないと考えられているが、周囲空気密度及び体積空気流を決定する際には、これらの要因もなお考慮に入れてもよい。
【0017】
用語「湿度」は、絶対湿度、比湿、又は相対湿度のいずれかを意味するものと受け取られ得る。絶対湿度は、特定体積の空気中の水量と定義される。比湿は、水蒸気と空気との比と定義される。相対湿度は、空気と水蒸気のガス状混合物中の水蒸気の分圧と、所定の温度における水の飽和蒸気圧との比と定義される。絶対湿度値、比湿値、又は相対湿度値のいずれかの測定は、ユーザーの要望及び周囲条件に従い必要に応じて行われてもよい。
【0018】
単なる例として、PAPRが予測可能に使用され得る範囲内での、周囲気圧、周囲温度及び周囲湿度の影響としては、次が挙げられる。
【0019】
周囲気圧−例えば、海抜ゼロ地点の1100mbarから、例えば、海抜2500メートルの750mbarへと大気圧を変化させることにより、空気密度は初期空気密度の約68%へと減少することになる。
【0020】
周囲温度−気温を0℃から最高50℃へと変化させることにより、空気密度は初期空気密度の約84%へと減少することになる。
【0021】
周囲湿度−0℃における周囲湿度、相対湿度RHを、0% RHから100% RHへと変化させることにより、空気密度は初期空気密度の約99.7%へと減少することになり、25℃では空気密度は初期空気密度の約98.8%へと減少することになり、また50℃では空気密度は初期空気密度の約96.5%へと減少することになる。
【0022】
したがって、周囲気圧のみに基づいて空気密度補償を適用することにより、かなりの偏差及び不正確さを補償することができる。圧力及び温度の両方に基づく補償は、精度を更に改善する。湿度、温度、及び圧力に基づく補償は、最良の精度をもたらすが、温度及び圧力よりわずかに優れているだけである。
【0023】
以下に記載される実施形態のそれぞれは、図1に示されるようにタービンを採用している。図1は、動力付き空気浄化人工呼吸装置の概略図である。PAPRは、ヘッドピース1と、タービンユニット2と、呼吸管3と、フィルタ4と、ベルト5とを備えている。ヘッドピース1は、ユーザー6の頭部に着用される。ヘッドピース1は、ユーザー6の頭部を少なくとも部分的に囲んで、呼吸ゾーン7、即ち、ユーザーの鼻及び口の周囲部位を形成し、濾過された空気は、この呼吸ゾーン7に向けられる。タービンユニット2は、ユーザーの胴体の周囲に固定できるように、ベルト5に取り付けられてもよい。タービンユニット2は送風機システム(図示せず)を収容し、この送風機システムは、ファン(図示せず)を使用してPAPRシステムを通して空気を引き出す。タービンユニット2は、タービンユニット2の排気口8とヘッドピース1の吸気口9との間に接続されている呼吸管3を通して、空気をヘッドピース1に供給する。タービンユニット2にはフィルタ4が装着されており、このフィルタ4は、空気流路内に存在する(好ましくは送風機のファン開口部の上流に配置される)ように、タービンユニットの内部にあるか、又は図1に示されるようにタービンユニットに取り付けられるかのいずれかであり得る。フィルタ4を備える目的は、空気がユーザー6に供給される前に、周囲空気から粒子及び/又はガス及び/又は蒸気を除去することである。タービンユニット2に取り付けられた電池パック10は、電子制御ユニット23及びモータ22(共に、以下に論じられる図2に示される)に電力を供給する。
【0024】
以下は、本発明の第1の実施形態による送風機システムがどのように動作するかを示す。以下の実施例において、PAPRの構成部品は、図1及び図2を参照して上述されたものであると仮定することができる。
【0025】
図2は、本発明の第1の実施形態による送風機システムのブロック図を示す。この送風機システムは、図1に示されるタービンユニット2内に収容される。本発明のこの実施形態によると、送風機20は、吸気口18と排気口19とを有するハウジング17を備える。送風機20は、モータ22によって駆動される複数の羽根16を有するファン21を更に備える。送風機20は電子制御ユニット23によって制御され、この電子制御ユニット23は、モータ22に提供される電力を調節する。
【0026】
ユーザー6が吸い込むときに、ユーザー6が容易かつ正常に呼吸するのに十分なだけの濾過された空気が利用可能であり、また、潜在的に汚染された周囲空気が吸い込まれないように、所定の、実質的に一定体積の空気流がユーザーの呼吸ゾーン7に供給されるのが望ましい。実質的に一定体積の空気流は、好ましくは、所望の又は所定の空気流からの偏差が、毎分−5〜+15リットルの範囲である空気流量であるが、これに限定されない。
【0027】
特定の体積空気流量で実質的に一定体積の空気流を達成するためには、空気流が既知でなくてはならない、又は、様々な作動パラメータと所要の空気流との間の相関関係が既知でなくてはならない。離散空気流センサ(discrete airflow sensor)を使用して、体積空気流をモニタすることが可能である。しかしながら、本発明において、以下に記載されるように、ファン又はモータ速度、モータ電圧、モータ電流、及びモータ電力といったファン21及びモータ22の種々の作動パラメータを用いて、体積空気流を決定できることが見出された。
【0028】
図2を更に参照すると、送風機システムは電子制御ユニット23を備え、この電子制御ユニット23は、実質的に均一な、好ましくは一定の体積空気流がヘッドピース1に送られるのを維持するように機能する。電子制御ユニット23は、情報を算出するための、単一チップ・マイクロコントローラなどのマイクロプロセッサ装置24と、情報、例えば、較正データを記憶するための、フラッシュRAMなどの記憶装置25と、モータ電流センサ及びファン速度センサなどのセンサからデータを受信するための、センサ入力受信機26a、26b、26cと、モータ22、及びPAPRに含まれてもよいブザー又は発光ダイオードなどのあらゆる警報器又は状態表示器に電力を提供するための、パルス幅変調コントローラチップなどの出力制御装置27と、を備える。電子制御ユニット23の記憶装置25は、固定記憶装置及び一時記憶装置といった2つの部分を有する。固定記憶装置には、例えば、製造時に、マイクロプロセッサ24が算出及び手順を実行するのを可能にするアルゴリズム及びプログラム、並びに工場較正手順からの較正情報を含むデータが取り込まれる。一時記憶装置は、センサ読取り値などのデータ及び情報、並びに、タービンユニット2の起動及び運転中に収集されるファン作動パラメータデータを記憶するために使用される。必要に応じて、タービンユニット2の電源が切られるときに、このデータは消去されてもよい。
【0029】
3相の矩形波駆動ブラシレス直流モータ22を使用して、送風機20のファン21を駆動してもよい。次の等式:EQ.1、EQ.2及びEQ.3は周知であり、かかるモータの主要パラメータ間の関係を示す。
【数1】

【0030】
上で説明したように、送風機20は、フィルタ4(1つ又は複数)を通して空気を移動させて、この空気をユーザー6に供給するために使用されるファン21を備える。図に示されるファン21は、しばしば遠心ファン又はラジアルファン(radial fan)として知られるタイプのファンであり、即ち、空気はファン軸の方向にファンに入り、ファンに対して半径方向に出て行く。
【0031】
次のファン法則方程式は、ファン速度及び空気密度が変化した場合に、ファン21の性能がどのように変化するかを示す。
【数2】

【0032】
実質的に一定体積の空気流を維持するために、較正点のファン速度要素は不変でなければならないことが、等式EQ.4からわかる。
=n (EQ.8)
【0033】
更に、等式EQ.1、EQ.2、EQ.3、及びEQ.6を組み合わせることで、空気密度が変化したときに、較正点の印加モータ電圧要素をどのように動かしたらよいかを表す。
【数3】

【0034】
結論として、周囲空気密度の変化を補償するために、較正点のファン速度要素を変更する必要がないことがわかる(等式EQ.8参照)。しかしながら、較正点の印加モータ電圧要素は、周囲空気密度が変化する場合、等式EQ.9及びEQ.10にしたがって変更される必要がある。
【0035】
図3は、本発明の第1の実施形態による送風機システムの電子制御ユニットの較正チャートを示している。これは、実質的に一定体積の空気流を決定する過程で用いられる。電子制御ユニット23は、ファン速度と印加モータ電圧との間の正比例関係を示す較正チャート30を参照する。所定の実質的に一定体積の空気流は、2つの較正点である高31及び低32で示されている。各較正点は、印加モータ電圧及びファン速度に関する情報を含む。実質的に一定体積の空気流を維持するために、例えば、フィルタ4(1つ又は複数)が粉塵及び煙で次第に詰まり、そのため送風機20の性能が変化する場合、電子制御ユニット23は、2つの較正点31、32の間の線33に沿って追尾する。これは、ルックアップテーブル又は他のデータ配列を用いて行われてもよい。電子制御ユニットは、センサ28を使用してファン速度を測定し、これを較正線と比較した後、所定の体積空気流を維持するために、適切なモータ電圧29を印加する。
【0036】
本発明では、較正点、したがって追尾線は、ある特定の空気密度にとって最適であるという認識が利用されている。空気密度を測定することにより、実際の空気密度を明らかにし、かつ実質的に一定体積の空気流を維持するために、較正点を適切に移動させることができる。
【0037】
ファン速度は、送風機20に取り付けられたセンサ28を用いて測定され、このセンサ28は、一定時間内のファン21の回転数を測定する。ファン速度を測定するためのセンサの好適な種類は、ホール効果素子であるが、他の種類のセンサを使用することができる。ファン速度情報は、電子制御ユニット23のマイクロプロセッサ装置24によって受信される。電動モータ22への印加電圧27は、電子制御ユニット23のマイクロプロセッサ24への入力26によって直接モニタされる。
【0038】
周囲温度及び周囲気圧を測定するためのセンサを使用して、周囲空気密度を決定してもよい。周囲気圧及び温度を共に測定するのに適した安価なセンサは、VTI Technologies Oy(FI−01621,Vantaa,Finland)によって製造されるセンサのSCP1000シリーズの固体センサである。こうした温度及び圧力センサは、離散空気流センサよりも安価であり、広く利用可能であり、信頼性があり、かつ設置しやすい。あるいは、必要に応じて、別個の温度センサ及び圧力センサを使用することも可能であり、大気温度又は大気圧を測定することができるほとんどの固体温度センサ及び圧力センサが好適である。
【0039】
温度及び圧力センサ29は、タービンユニット2の中に設置されるのが好ましい。センサが大気にさらされるように、ハウジングを封止しないことが重要である。センサ29の位置は、送風機20又は電子制御ユニット23のあらゆる他の部品から著しい影響を受けないように選択されるべきである。これは、他の送風機構成要素の動作によって引き起こされる、使用中の温度変動を回避するためであり、この使用中の温度変動は、誤った周囲温度測定値をもたらす可能性がある。センサ29は、使用中に加圧される又は減圧されるタービンユニット2の領域内に設置されるべきでなく、もし設置されると、この場合もまた誤った測定値を生じさせることになる。
【0040】
以下の工程は、タービンユニット2が製造中に初期較正される場合に実施される。所定の実質的に一定体積の空気流のそれぞれの、高い較正点31及び低い較正点32を決定する。各較正点のファン速度及び印加モータ電圧32も測定して、電子制御ユニットの固定記憶装置25に保存する。較正時の周囲気圧及び温度の少なくとも一方を、電子制御ユニット23を介してセンサ29(1つ又は複数)で測定して、固定記憶装置25に保存する。マイクロプロセッサ24により適切なアルゴリズムを用いて空気密度を算出して、公称空気密度として固定記憶装置に保存する。あるいは、空気密度を直接測定し、同じ較正プロセスを行う。
【0041】
空気密度が変化する場合は、以下に記載の空気密度補償手順に基づいて較正点を移動させる必要がある。較正プロセスの一環として周囲気圧及び温度が測定される場合には、以下の工程を用いる。タービンユニットの起動時、即ち、タービンユニットのスイッチが入れられると、センサ29は、実際の周囲気圧及び温度の両方を測定することができ、この周囲気圧及び温度は、工場較正の際に測定されたものと異なる可能性がある。次に、マイクロプロセッサ24を用いて、これらの値から実際の空気密度を算出して、一時記憶装置に保存する。固定記憶装置に記憶された全較正点31、32の公称印加モータ電圧成分を、マイクロプロセッサ24で読み出す。次に、等式EQ.10、工場較正時に固定記憶装置に予め保存された空気密度情報、及び、一時記憶装置に保存された実際の空気密度情報を用いて、各成分に変更を加える。変更された値は、訂正済み較正点として一時記憶装置に保存される。較正手順と同様に、上方の訂正済み較正点35及び下方の訂正済み較正点36を保存する。
【0042】
較正点31、32の公称ファン速度部分は変化しない。これで、実質的に一定体積の空気流維持手順において、新しい訂正済み較正点を使用することができる。例えば、フィルタ4(1つ又は複数)が、例えば、粉塵及び/又は煙で次第に詰まり、送風機20の性能が変化すると、電子制御ユニット23は、2つの訂正済み較正点35、36の間の線34に沿って追尾する。空気密度補償手順は、一定間隔で、例えば、10分おき又は1時間おきに繰り返され、必要な場合には、それに応じて空気流が調整される。
【0043】
こうして、上記手順は、空気密度変動について補償されている実質的に一定体積の空気流量を、タービンユニット2が供給するのを可能にすることができる。
【0044】
実質的に一定体積の空気流をより精密に制御することによる利益は、空気密度の変化又は変動を考慮に入れて、空気流を人為的に高く設定する必要がないことである。それに対して、実質的に一定体積の空気流は、所要の呼吸保護を上回るが、充電までの電池10の寿命、及びフィルタ4(1つ又は複数)の耐用年数が最大になるレベルに設定されることができる。したがって、交換までの電池10の寿命が長くなり、フィルタ4(1つ又は複数)が必要とする交換の頻度が少なくなるので、PAPRのランニングコストが低減され、ユーザー6のダウンタイム量もまた短縮されるはずである。
【0045】
典型的には、空気は、所定の実質的に一定体積の空気流でユーザー6に供給される必要がある。しかしながら、ある特定の状況では、ユーザー6が空気流を異なるレベルに調整することができる必要があり得る。例えば、ユーザー6が通常よりも特に忙しく作業している場合、及び深い又は速い速度で呼吸している場合、ユーザー6は、空気流を増加させることを望む可能性がある。これを可能にするために、電子制御ユニットは、離散的な範囲の2つ、3つ、又はそれ以上の、事前に設定された異なる空気流値(例えば、毎分160リットル又は毎分180リットル)を備えているのが好ましい。しかしながら、制御ユニットは、通常、ユーザー6が空気流を、最低限の保護が提供されるレベルを下回るまでうっかり低減させることができないように設定されている。
【0046】
代替的な空気密度補償手順を用いる、本発明の更なる実施形態を説明する。
【0047】
図4は、本発明の第2の実施形態に関する、空気密度とファン圧力との間の相関関係を示している。PAPR送風機システムで使用されるラジアルファンに関し、所定のファン速度及び所定のモータ電圧における空気密度とファン圧力との間には、相関関係40が存在する。図5は、本発明の一実施形態のファン圧力測定センサを備える送風機のブロック図を示している。ファン圧力は、図5に示されるようなファンの吸気口51とファンの排気口52との間の差圧の測定値である。したがって、ファン圧力は、送風機に取り付けられた差圧変換器53を用いて測定されることができる。所定のファン速度条件及びモータ電圧条件で短時間送風機システムを動かすことによって、PAPRの起動時に空気密度の算定を行うことができ、その間に、ファン圧力を測定し、周囲空気密度を決定することができる。相関関係情報は、電子制御ユニットの記憶装置に記憶されることができ、空気密度の算定は、マイクロプロセッサのプログラムによって行われる。
【0048】
本発明による第3の実施形態は、空気密度補償の代替的な決定方法を用いる。ユーザー6は、空気密度測定を達成することができるように、特定の条件を作成する必要がある。PAPRの製造中の工場較正の時点で、既知の負荷条件が作成される。既知の負荷条件とは、送風機にかかる予め測定された圧力負荷であり、フィルタの部分的目詰まりなどの未知の圧力影響の影響を受けない。既知の負荷条件は、フィルタ又は呼吸管3がタービンユニット2に接続されていない場合の最小負荷、又は、タービンユニット2の排気口8が遮断されているときの最大負荷のいずれかであり得る。選択されたこれら条件のいずれか一方の条件下で、モータ電圧を固定し、ファン速度を測定し、これら両方の値を、較正時の周囲空気密度と共に、電子制御ユニットの記憶装置に記憶させる。使用中、ユーザー6は、同じ負荷条件を作成して、較正シーケンスを開始する必要がある。その後、電子制御ユニットは、工場較正と同じモータ電圧で送風機20を作動させることになる。次に、ファン速度が測定され、このファン速度は較正中のファン速度と比較され、較正時の空気密度と共に、現在の空気密度を決定するために用いられる。次に、ユーザー6は、PAPRを使用すべく設定することができ、空気密度補償手順が適用され得る。
【0049】
第3の実施形態による方法は、モータ電圧、モータ電流、又はファン速度のうちの任意の2つのパラメータを、一方のパラメータを一定に保ち、もう一方を測定することによって、最大又は最小負荷条件のいずれかと組み合わせて用いることができる。
【0050】
空気密度は、前述の手段に代えて、様々な手段によって決定されてもよい。本発明の第4の実施形態によると、空気密度は、PAPRとは独立に測定又は算定されることができる。これは、例えば、独立した専用の空気密度測定機器によって行われてもよい。PAPRは、ユーザー6が、キーパッド又はタッチスクリーンなどのマンマシーン・インターフェースを介して、空気密度を入力できるようにイネーブルされ得る。この実施形態では、電子制御ユニットは、空気密度補償手順を適用する際に、空気密度の算定を行う必要がなくなることになる。
【0051】
本発明のこの実施形態によるPAPRはまた、大気圧、周囲温度、若しくは周囲湿度、又は好ましくはこれらパラメータの組み合わせが、好適なインターフェースを介して電子制御ユニットに入力されることができるようにイネーブルされ得る。電子制御ユニットは、空気密度補償手順を行う前に、周囲空気密度を算定できるようにイネーブルされ得る。この方法では、ユーザー6は、PAPRとは別個に、好適な測定機器を使用してパラメータを測定することが必要となる。
【0052】
空気密度補償は、電子制御ユニットに高度を入力するユーザー6によって達成されてもよい。高度は、ユーザー6が好適な機器で測定することにより、又は地図若しくはGPSシステムを参照することにより、得ることができる。電子制御ユニットは、記憶装置に予め記憶されたプログラム情報を用いて、所与の高度における周囲気圧、ひいては空気密度の近似を推定するようにイネーブルされ得る。
【0053】
本発明の上記実施例及び実施形態では、体積空気流を制御するのに使用される電動モータ22の電気的特性は電圧であるが、電動モータ22の電流出力又は電力出力を、較正プロセス及び使用中の両方における代替物として使用することができることは、容易に想定される。
【0054】
ヘッドピース1は、様々な形状を有してもよい。図1ではフードが例示されているが、ヘッドピース1は、空気をユーザーの呼吸ゾーン7に方向付けるためにユーザーの顔の少なくとも口鼻領域を覆うものであれば、ヘルメット、マスク、又はフルスーツであることができる。フルフェイスの人工呼吸装置又はハーフフェイスマスクの人工呼吸装置を、本発明の実施形態と共にヘッドピースとして使用してもよい。ユーザーの体6又はそれ以外の上にタービンユニット2を支持するための代替的方法もまた、本開示の範囲内である。例えば、バックパック型の支持体がタービンユニット2に提供されてもよい。
【0055】
一般に、PAPRでヘルメット又はフードを使用する場合、マスクが用いられる場合よりも高い空気流が望ましい。ユーザー6がヘルメットとマスクを交換する可能性がある場合、又は、タービンユニット2が複数のユーザーの間で共有される場合には、実質的に一定体積の空気流の範囲を有するのが望ましい。実質的に一定体積の空気流の範囲は、第1の空気流量と第2の空気流量との間で連続的に可変であってもよく、又は、第1の空気流量と第2の空気流量との間の一連の不連続な段階であってもよい。例えば、システムは、PAPRとともに使用するために第1の所定の空気流値に設定され、また、マスクとともに使用するために、第2のより低い所定の空気流値に設定されてもよい。
【0056】
上述のような空気密度補償を備えるPAPRは、より小型で軽量な電池、及びより小型で軽量な又は薄型のフィルタを有して設計されてもよい。ユーザー6に空気が供給される前に周囲空気から粒子及び/又はガス並びに蒸気を除去するために、タービンユニット2には、空気流路中に2つ以上のフィルタ4が装着されてもよい。フィルタ4(1つ又は複数)は、タービンユニット2の内部にあってもよく、又はタービンユニット2の外部に取り付けられてもよい。電池10は、図1に示されるようにタービンユニット2に取り付けられてもよく、又は、タービンユニット2から離れたところにあって、好適なケーブルで接続されてもよい。
【0057】
上述の実施形態で使用されるモータは、3相の矩形波駆動ブラシレス直流モータである。あるいは、分割された整流子ブラシ直流モータが使用されてもよい。その理由は、等式EQ.1、EQ.2及びEQ.3が、ブラシ型及びブラシレス型モータの両方に当てはまることが既知であるからである。その結果、人工呼吸装置の業界で既知であるほとんどの型の直流モータを、本発明の送風機20で使用することが可能である。PAPR用途に関して当該技術分野において既知である、その他の直流型でないモータを、上述の実施形態のモータの代替物として使用することが可能である。パルス幅変調などの代替的なモータ制御方法もまた、本発明の範囲内であると想定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に一定体積の空気流をユーザーに供給するための、動力付き空気浄化人工呼吸装置の送風機システムを制御する方法であり、該システムは、濾過された空気の強制的な流れをユーザーに供給するために、電動モータによって作動され、電子制御ユニットによって制御されるファンと、前記電動モータの電気的特性に関する少なくとも2つの較正値をその中に記憶する前記電子制御ユニットとを備える、方法であって、
(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の一方を決定する工程と、
前記決定及び前記少なくとも2つの較正値に応答して、前記電動モータの電気的特性を調整する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記周囲空気密度又は周囲温度及び周囲気圧が測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記周囲空気密度又は周囲温度及び周囲気圧が、ユーザーの入力から決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記周囲空気密度が、周囲温度、周囲気圧、及び周囲湿度のうちの少なくとも2つの組み合わせである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ファンからの前記選択された実質的に一定体積の空気流が可変である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ファンからの前記選択された実質的に一定体積の空気流が、可変であり、かつ、限定された数の事前に選択された値のうちのいずれか1つから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ファンの速度、及び前記電動モータに適用された電気的特性を検出する工程を更に含み、該工程が、前記電子制御ユニットに接続されたセンサを使用して、前記ファンの速度及び前記適用されたモータの電気的特性を検出することを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記周囲温度及び周囲気圧を測定する工程が、前記ファンと共にハウジング内に収容された少なくとも1つのセンサを使用して、前記周囲温度及び周囲気圧を測定することを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記周囲温度及び周囲気圧を測定する工程が、前記タービンユニットの外部に配置された少なくとも1つのセンサを使用して、前記周囲温度及び周囲気圧を測定することを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電気的特性が電圧である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電動モータによって作動するファンと、
該ファンの速度と、該ファンからの選択された実質的に一定体積の空気流に関して適用されたモータの電気的特性との間の所定の相関関係にしたがって、前記モータの該電気的特性を調整するように動作可能な電子制御ユニットと、
を備える、空気浄化人工呼吸装置の送風機システムであって、
前記電子制御ユニットと連通するように適合され、かつ、(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の一方を決定するように配置された、少なくとも1つのセンサを更に備え、前記電子制御ユニットは、前記モータの電気的特性を調整して、前記ファンからの前記選択された実質的に一定体積の空気流を維持するために、(a)周囲空気密度又は(b)周囲温度及び周囲気圧の決定に応答して動作可能である、空気浄化人工呼吸装置の送風機システム。
【請求項12】
前記ハウジングが、前記ファンの空気流路の中に設置された少なくとも1つのフィルタを更に含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ハウジングが、前記モータの電力供給装置を更に含む、請求項11又は12に記載のシステム。
【請求項14】
前記モータが、3相の矩形波駆動ブラシレス直流モータである、請求項11〜13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一項に記載の送風機システムと、該送風機システムと流体連通する、人工呼吸装置のヘッドピース又はフルフェイス人工呼吸装置と、を含む、動力付き空気浄化人工呼吸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−501585(P2013−501585A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524824(P2012−524824)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/045107
【国際公開番号】WO2011/019778
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】