説明

動力伝達機構

【課題】ウォームギアにより回転動力の伝達を行う動力伝達機構において、ウォームホイールに出力側から大きな負荷がかけられた状態時に、ウォームからウォームホイールへの回転動力の伝達を遮断できるようにする。
【解決手段】歯車減速機5(動力伝達機構)を構成するウォーム30の両端部には雄ネジ33A,33Bが形成されており、本体ケース10及び電気モータ4の差込部4Aには、これら雄ネジ33A,33Bと螺合可能な雌ネジAa,Baが形成されたナット15A,15Bが一体的に設けられている。ウォームホイール部41に出力側からの抵抗による負荷がかけられて、ウォーム30に所定以上のスラスト力が働くと、どちらか一方側の雄ネジ33A(33B)と雌ネジAa(Ba)とが螺合して、この螺合回転が雄ネジ33A(33B)のネジ山の終端部に到達することで、ウォーム30の本体ケース10に対する軸回転移動が食い止められた状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達機構に関する。詳しくは、ウォームギアにより回転動力の伝達を行う動力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達機構として、ウォームとウォームホイールとの組み合わせからなるウォームギアが知られている。ここで、下記特許文献1には、上記したウォームギアを用いて、電気モータの回転出力を出力系統へと伝達する機構が開示されている。この開示では、電気モータから出力された回転動力が、ウォームからウォームホイールへと伝達されて、出力系統へと伝達されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−202359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のようなウォームギアを用いた動力伝達機構では、出力側に大きな抵抗力が付与されて負荷がかけられると、ウォームホイールに対して駆動側となるウォームや電気モータに大きな負荷がかかるため好ましくない。
【0005】
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、ウォームギアにより回転動力の伝達を行う動力伝達機構において、ウォームホイールに出力側から大きな負荷がかけられた状態時に、ウォームからウォームホイールへの回転動力の伝達を遮断できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の動力伝達機構は次の手段をとる。
先ず、第1の発明は、ウォームギアにより回転動力の伝達を行う動力伝達機構である。ウォームギアは、電気モータからの回転動力の伝達を受けて軸回転するウォームと、ウォームと噛合した状態で設けられてウォームからの回転動力の伝達を受けて回転するウォームホイールと、を有する。ウォームは、固定体に対して軸回転可能に支持されている。ウォームと固定体との間には、ウォームの軸回転に伴って螺合する雄ネジと雌ネジとの螺合構造が設けられている。この螺合構造は、常時は非螺合状態とされているが、ウォームホイールに出力側からの抵抗による負荷がかけられて、ウォームに所定以上のスラスト力が働くことにより、互いに螺合するようになっている。更に、ウォームと固定体との間には、螺合構造が螺合していく方向の移動を規制して、ウォームの固定体に対する軸回転移動を規制するストッパ構造が設けられている。
【0007】
この第1の発明によれば、ウォームホイールに出力側からの抵抗による負荷がかけられて、ウォームに所定以上のスラスト力が働くと、ウォームと固定体との間に設けられた雄ネジと雌ネジとの螺合構造が螺合し、更に、ストッパ構造によりこの螺合構造が螺合していく方向の移動が規制されて、ウォームの固定体に対する軸回転移動が規制された状態となって保持される。これにより、ウォームホイールに出力側から大きな負荷がかけられた状態時に、ウォームからウォームホイールへの回転動力の伝達を遮断することができる。
【0008】
次に、第2の発明は、上述した第1の発明において、螺合構造が、ウォームに形成された雄ネジと、固定体に回転方向に一体的に固定されて設けられた雌ネジと、の組み合わせとして構成されている。そして、ストッパ構造が、雄ネジ或いは雌ネジのネジ山の終端部として構成されている。
【0009】
この第2の発明によれば、螺合構造がウォームに形成された雄ネジと固定体に設けられた雌ネジとの組み合わせとして構成され、ストッパ構造がこのどちらか一方側のネジ山の終端部として構成されたものとなっていることにより、螺合構造とストッパ構造とをそれぞれ簡素にかつ少ない部品点数で合理的に構成することができる。また、ウォームに半径方向に突出する突起などを設けなくともストッパ構造を構成することができるため、ウォームを固定体に対して軸線方向に差し込んで組み付ける組み付け性が阻害されず、組み付け性も向上させることができる。
【0010】
次に、第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、ウォーム或いは螺合構造の少なくとも一方が、固定体に対して弾性体によって弾性支持されており、ウォームに所定以上のスラスト力が働いた際の螺合構造が螺合していく動作に対して、弾性体の弾発力による抵抗力が付与されるようになっている。
【0011】
この第3の発明によれば、ウォームに所定以上のスラスト力が働いた際の螺合構造が螺合していく動作に対して、弾性体の弾発力による抵抗力が付与されるようになっていることにより、ウォームの軸回転移動を規制する係止力をストッパ構造が働かなくてもかけられるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の歯車減速機を備えた車両用シートの概略図である。
【図2】歯車減速機の分解斜視図である。
【図3】歯車減速機の組み付け状態における内部構造を表した一部断面図である。
【図4】図3のIV部拡大図である。
【図5】正回転時のウォームに所定以上のスラスト力がかけられてネジ螺合した状態を表した要部拡大図である。
【図6】逆回転時のウォームに所定以上のスラスト力がかけられてネジ螺合した状態を表した要部拡大図である。
【図7】実施例2の歯車減速機の要部拡大図である。
【図8】正回転時のウォームに所定以上のスラスト力がかけられてネジ螺合した状態を表した要部拡大図である。
【図9】逆回転時のウォームに所定以上のスラスト力がかけられてネジ螺合した状態を表した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
始めに、実施例1の動力伝達機構の構成について、図1〜図6を用いて説明する。本実施例の動力伝達機構は、図1に示されるように、車両用シートに設けられており、シートバック1の背凭れ角度調整用に設けられた電気モータ4の回転出力を各側のリクライニング装置3,3に減速させて出力する歯車減速機5として構成されたものとなっている。ここで、上記したシートバック1は、その骨格フレーム1Aの両側の下端部が、それぞれ電動式のリクライニング装置3,3を介してシートクッション2の骨格フレーム2Aの両側の後端部と連結されており、上記した電気モータ4の回転駆動力の伝達を受けて各側のリクライニング装置3,3が駆動操作されることにより、その背凭れ角度が調整操作されるようになっている。
【0015】
ここで、上記した各リクライニング装置3,3は、常時は回転止めされた状態とされており、シートバック1の背凭れ角度を固定した状態となって保持されている。そして、各リクライニング装置3,3は、それらの中心部に挿通されたロッド3Rが電気モータ4の回転駆動に伴って一方側或いは他方側に軸回転操作されることにより、その回転方向に応じてシートバック1の背凭れ角度を起こし上げたり倒し込んだりするよう操作されるようになっている。
【0016】
詳しくは、上記したロッド3Rは、電気モータ4に連結された歯車減速機5と連結されており、電気モータ4から歯車減速機5を介して減速された回転動力の伝達を受けて軸回転操作されるようになっている。ここで、上記した歯車減速機5は、シートバック1の骨格フレーム1Aに結合されたブラケット1Aaに取り付けられており、電気モータ4は、歯車減速機5に連結されて設けられている。
【0017】
そして、ロッド3Rは、上記した各側のリクライニング装置3,3と歯車減速機5とに跨って軸線方向に挿通されて、これらを互いに動力伝達可能な状態に連結した状態となって設けられている。上記したロッド3Rは、詳しくは、シートバック1の骨格フレーム1A間に架け渡された補強パイプ1Ab内に挿通されて設けられており、補強パイプ1Abによって背凭れ荷重などの外部荷重を受けないように保護された状態となって設けられている。
【0018】
以下、上記した歯車減速機5の構成について、図2〜図6を用いて詳しく説明していく。ここで、歯車減速機5は、図2に示されるように、樹脂製の本体ケース10及び蓋ケース20と、金属製のウォーム30と、樹脂製の第1の歯車40及び第2の歯車60と、金属製の支軸50と、を有して構成されている。上記した歯車減速機5は、上記した本体ケース10と蓋ケース20とが組み付けられて構成されるハウジングケースの内部に、各歯車部品や軸部品が組み付けられて構成されている。ここで、本体ケース10が本発明の固定体に相当する。
【0019】
そして、図3に示されるように、上記した本体ケース10の上部には電気モータ4が取り付けられており、この電気モータ4の回転出力が、ウォーム30から第1の歯車40、第2の歯車60へと順に伝達されて減速されてロッド3Rへと出力されるようになっている。なお、上記した電気モータ4の基本的構成は、特開2008−86110号公報等の文献に開示された公知のものとなっているため、詳細な説明は省略することとする。
【0020】
以下、上記した歯車減速機5の各部の構成について詳しく説明していく。先ず、本体ケース10について説明する。本体ケース10は、図2に示されるように、第1の歯車40がセットされる第1の収容凹部11と、第2の歯車60がセットされる第2の収容凹部12と、前述した電気モータ4がセットされる台座部13と、蓋ケース20にネジ締めされるネジ締め部14・・とを有して構成されている。上記した第1の収容凹部11は、後述する第1の歯車40のウォームホイール部41をその凹み内部に受け入れられるように、ウォームホイール部41の外径よりもひとまわり大きな外径を有した円筒型の凹形状に形成されている。そして、この第1の収容凹部11の中心部には、後述する支軸50の一端部を受け入れて、同端部を軸回転可能に支持する第1の軸孔11Aが形成されている。ここで、ウォームホイール部41が本発明のウォームホイールに相当する。
【0021】
そして、上記した第1の収容凹部11の側面には、台座部13の中心部に図示高さ方向に真っ直ぐに貫通して形成された差込口13Aを、第1の収容凹部11内に露呈させる開口窓11Bが形成されている。また、第2の収容凹部12は、上述した第1の収容凹部11に対して段差の上がった位置に形成されており、後述する第2の歯車60の平歯車部64をその凹み内部に受け入れられるように、平歯車部64の外径よりもひとまわり大きな外径を有した円筒型の凹形状に形成されている。そして、上記した第2の収容凹部12の中心部には、第2の歯車60の中心部に突出形成された軸部61を受け入れて、同軸部61を軸回転可能に支持する第2の軸孔12Aが形成されている。
【0022】
そして、上記した第2の収容凹部12の第2の歯車60と対面する内側の面上には、同面から軸線方向に円弧状に突出する円弧凸部12Bが形成されている。この円弧凸部12Bは、第2の歯車60の回転中心まわりに描かれる円弧型の形状に形成されており、第2の歯車60の板面を、本体ケース10に対して全面的に接触させるのではなく、この円弧凸部12Bの形成された領域部でのみ接触させるようにして、第2の歯車60を本体ケース10に対して円滑に回転させられるよう支持するようになっている。
【0023】
次に、蓋ケース20について説明する。蓋ケース20は、上述した本体ケース10の第1の収容凹部11と対面する内側の面上に形成された、軸線方向に円弧状に突出する第1の支え部21Aと、この第1の支え部21Aによって囲まれた領域の中心部に形成された第1の軸孔21Bと、本体ケース10の第2の収容凹部12と対面する内側の面上に形成された、軸線方向に円筒状に突出する第2の支え部22Aと、本体ケース10のネジ締め部14・・に合わせられてネジ締めされるネジ締め部24・・とを有して構成されている。
【0024】
上記した第1の支え部21Aは、第1の歯車40の平歯車部42を軸線方向に受け入れて、この平歯車部42の外周面をその内周面によって当てがえて、平歯車部42が軸ズレしないように支える機能部位となっている。また、第1の軸孔21Bは、前述した支軸50の他端部を受け入れて、同端部を軸回転可能に支持する機能部位となっている。また、第2の支え部22Aは、その円筒内に第2の歯車60の中心部に突出形成された軸部62を受け入れて、同軸部62を軸回転可能に支持する機能部位となっている。
【0025】
上記した第2の支え部22Aは、その円筒内部が軸線方向に貫通した形に形成されており、この円筒内部に後述する第2の歯車60と一体的に連結されるロッド3Rが軸線方向に挿通されるようになっている。続いて、ウォーム30の構成について説明する。ウォーム30は、金属製の丸棒状部材によって構成されており、その長手方向の中央部領域には、外周部に螺旋状の歯31が切られている。このウォーム30は、前述した本体ケース10の台座部13に貫通形成された差込口13A内に差し込まれることで、その中央部領域に形成された螺旋状に切られた歯31が、本体ケース10の開口窓11B内に露呈した状態となって本体ケース10に組み付けられるようになっている。
【0026】
上記したウォーム30には、その軸の上端部に、電気モータ4の回転出力軸に直結されるフレキシブルワイヤ34が差し込まれて回転方向に一体的な状態に装着されている。ここで、フレキシブルワイヤ34は、細い鋼材が角棒状に巻かれて形成されており、そのウォーム30や電気モータ4に差し込まれて連結される両端部分が硬く巻かれて構成されており、その中央部分が首振り運動できるように軟らかく巻かれて構成されている。
【0027】
このフレキシブルワイヤ34により、電気モータ4の回転出力軸がウォーム30の中心軸に対してある程度位置ずれした位置に組み付けられたとしても、フレキシブルワイヤ34が首振り運動により、電気モータ4からの回転出力をウォーム30に良好に伝達できるようになっている。次に、第1の歯車40の構成について説明する。第1の歯車40は、上記したウォーム30と噛合してウォーム30からの回転動力の伝達を受けるウォームホイール部41と、このウォームホイール部41と一体的となって回転する平歯車部42とを有し、これらが互いに同軸回りに一体的となって回転するように軸線方向に並んで形成されたものとなっている。
【0028】
上記した第1の歯車40は、その中心部に貫通形成された軸孔43内に上述した丸棒状の支軸50が挿通されて、この支軸50の一端部と他端部とがそれぞれ前述した本体ケース10の第1の軸孔11Aと蓋ケース20の第1の軸孔21Bとに差し込まれて軸回転可能に支持されることにより、本体ケース10と蓋ケース20とに軸回転可能に支持された状態となって組み付けられるようになっている。詳しくは、第1の歯車40は、上記した本体ケース10に対しては、ウォームホイール部41が第1の収容凹部11内にセットされて、その歯41Aが開口窓11B内に入り込んでウォーム30の歯31と噛合した状態となって組み付けられるようになっている。
【0029】
また、第1の歯車40は、蓋ケース20に対しては、平歯車部42が第1の支え部21Aによって囲まれた空間内に差し込まれた状態となってセットされ、その歯42Aの外周面が第1の支え部21Aの内周面によって外周側から支えられた状態となって組み付けられるようになっている。次に、第2の歯車60の構成について説明する。第2の歯車60は、上述した第1の歯車40の平歯車部42と噛合して平歯車部42からの回転動力の伝達を受ける平歯車部64を有して構成されている。
【0030】
この第2の歯車60は、その中心部に、本体ケース10の第2の軸孔12A内に差し込まれて軸回転可能に支持される軸部61と、蓋ケース20の第2の支え部22A内に差し込まれて軸回転可能に支持される軸部62とが、それぞれ軸線方向の一方側と他方側とに円筒形に突出して形成されている。上記した第2の歯車60は、上記した一方側の軸部61と他方側の軸部62とが、本体ケース10の第2の軸孔12Aと蓋ケース20の第2の支え部22Aとに差し込まれて軸回転可能に支持されることにより、本体ケース10と蓋ケース20とに軸回転可能に支持された状態となって組み付けられるようになっている。
【0031】
詳しくは、第2の歯車60は、上述した組み付けにより、本体ケース10の第2の収容凹部12内にセットされて、その平歯車部64の歯64Aが第1の歯車40の平歯車部42の歯42Aと噛合した状態となって組み付けられるようになっている。ここで、第2の歯車60の中心部には、前述した出力軸となるロッド3Rが挿通される軸孔65が軸線方向に貫通して形成されている。
【0032】
これら軸孔65の内周面やロッド3Rの外周面には、互いに嵌合し合うセレーション状の溝が切られており、ロッド3Rを軸孔65内に挿通することにより、互いのセレーション形状が合致して、ロッド3Rが第2の歯車60に対して回転方向に一体的となった状態となって組み付けられるようになっている。したがって、以上の組み付けにより、ウォーム30と第1の歯車40と第2の歯車60とロッド3Rとが、互いに動力伝達可能に噛合した状態となって組み付けられることとなる。
【0033】
これにより、歯車減速機5は、電気モータ4から出力された回転動力を、ウォーム30とウォームホイール部41との間の歯数差や、第1の歯車40の平歯車部42と第2の歯車60の平歯車部64との間の歯数差によって、それぞれの歯数差に応じた減速比で減速させた状態にしてロッド3Rへと出力するようになっている。ところで、図4に示されるように、上記したウォーム30の本体ケース10への取り付け部には、ウォームホイール部41に出力側から大きな負荷がかけられて、ウォーム30からウォームホイール部41への動力伝達に一定以上の抵抗がかかる状態となった時に、ウォーム30の本体ケース10に対する軸回転移動を食い止めて、ウォーム30からウォームホイール部41に電気モータ4の回転動力が伝達されないようにするリミッター機構が設けられている。
【0034】
具体的には、上記したリミッター機構は、上記した電気モータ4の回転駆動力を受けて軸回転しているウォーム30に、出力側の抵抗作用によってウォームホイール部41に対して図示下方側或いは上方側に軸回転移動を伴って押送される一定以上のスラスト力がかけられると、図5に示されるようにウォーム30の下端部に形成された雄ネジ33Aを本体ケース10の差込口13A内に固定設置されたナット15Aの雌ネジAaに螺合させたり、或いは、図6に示されるようにウォーム30の上端部に形成された雄ネジ33Bを電気モータ4の差込部4A内に固定設置されたナット15Bの雌ネジBaに螺合させたりして、電気モータ4の回転駆動に伴うウォーム30の各方向への軸回転移動を食い止める構成となっている。ここで、電気モータ4の差込部4Aが本発明の固定体に相当する。
【0035】
以下、上記したウォーム30と各ナット15A,15Bとの螺合構造について、更に詳しく説明する。ここで、図4に示されるように、ウォーム30は、その軸の上部と下部の丸棒状に形成された部分が、本体ケース10に設けられたブッシュ16A,16Bにそれぞれ差し通されて各ブッシュ16A,16Bによって軸回転可能に支持されて設けられている。上記した下側のブッシュ16Aは、ウォーム30が本体ケース10の差込口13A内に差し込まれる前に、同差込口13A内に差し込まれてセットされ、そのフランジ状に張り出した形状の頭部が、本体ケース10の差込口13A内の段差部13B上にセットされて設けられている。
【0036】
そして、上側のブッシュ16Bは、ウォーム30が本体ケース10の差込口13A内に差し込まれた後に差込口13A内に差し込まれてセットされ、そのフランジ状に張り出した形状の頭部が、本体ケース10の差込口13A内の段差部13C上にセットされて設けられている。そして、この上側のブッシュ16Aは、このブッシュ16Aの組み付け後に差込口13A内に差し込まれる電気モータ4の差込部4Aによって、その頭部が本体ケース10の段差部13Cと電気モータ4の差込部4Aとによって軸線方向に挟み込まれた状態となって組み付けられるようになっている。
【0037】
ここで、上記したウォーム30の歯31の形成領域の上部と下部には、それぞれ、外周部がフランジ状に張り出した形状の座面部32A,32Bが形成されている。そして、上記したウォーム30の軸の上部と下部の丸棒状に形成されている部分には、それぞれ、円筒状のゴム17A,17Bとリング状のワッシャ18A,18Bとが差し込まれて装着されており、これらゴム17A,17Bとワッシャ18A,18Bとがそれぞれ各座面部32A,32Bと各ブッシュ16A,16Bの頭部との間に介在して設けられた状態とされている。ここで、ゴム17A,17Bが本発明の弾性体に相当する。
【0038】
これにより、上記したウォーム30が、各ゴム17A,17Bの弾発力によって、本体ケース10に対して軸線方向の双方向に弾性支持された状態とされている。ここで、ワッシャ18A,18Bは、樹脂材によって形成されており、各ゴム17A,17Bとウォーム30の各座面部32A,32Bとの当接部の座として機能するものとなっている。また、図4に示されるように、上記したウォーム30の下端部が差し込まれている本体ケース10の差込口13A内の下端部と、ウォーム30の上端部が差し込まれている電気モータ4の差込部4A内の上端部には、それぞれ、中心部に雌ネジAa,Baが形成されたナット15A,15Bが一体的に固定されて設けられている。
【0039】
これらナット15A,15Bは、本体ケース10や電気モータ4に対して回転しにくいように四角状等に角ばった形状(多角形状)に形成されており、本体ケース10や電気モータ4の差込部4Aに対してそれぞれインサート成形によって一体的に接合された状態となって設けられている。これらナット15A,15Bは、図4に示されるように、常時は前述した軸線方向に弾性支持されたウォーム30の上端部や下端部に対して、それぞれ軸線方向に離間した状態となるように配置されている。
【0040】
これにより、ウォーム30は、常時は電気モータ4からの回転動力の伝達を受けて軸回転しても、各側のナット15A,15Bとは螺合することなく、各ナット15A,15Bに対して空転するようになっている。しかし、ウォーム30は、図5に示されるように、その出力側の抵抗作用によって受けるスラスト力によって、ウォームホイール部41に対して図示下方側に軸回転移動を伴って押送されると、下側のゴム17Aを押し潰しながらその下端部に形成された雄ネジ33Aを下側のナット15Aの雌ネジAaに螺合させて、同ナット15Aと軸線方向に一体的に連結された状態となる。
【0041】
そして、ウォーム30は、上記した下端部の雄ネジ33Aがナット15Aの雌ネジAaに対してネジ山の終端部位置まで螺合回転することにより、ナット15Aに対する螺合回転が食い止められた状態となる。これにより、ウォーム30が本体ケース10に対して軸回転移動が食い止められた状態となって、ウォーム30からウォームホイール部41への動力伝達が阻止された状態となる。これにより、電気モータ4の回転動力が、出力側から大きな負荷を受けているウォームホイール部41に伝達されることがなくなるため、ウォームホイール部41やウォーム30等の動力伝達部に無理な負荷がかからないようにすることができる。なお、このウォーム30のナット15Aに対する螺合状態は、電気モータ4の逆方向の駆動回転によってウォーム30を上記とは逆方向に軸回転させることによって解除されるようになっている。
【0042】
また、同じように、ウォーム30は、図6に示されるように、電気モータ4が上記とは逆方向に回転している場合において、その出力側の抵抗作用によって受けるスラスト力によって、ウォームホイール部41に対して図示上方側に軸回転移動を伴って押送されると、上側のゴム17Bを押し潰しながらその上端部に形成された雄ネジ33Bを上側のナット15Bの雌ネジBaに螺合させて、同ナット15Bと軸線方向に一体的に連結された状態となる。
【0043】
そして、ウォーム30は、上記した上端部の雄ネジ33Bがナット15Bの雌ネジBaに対してネジ山の終端部位置まで螺合回転することにより、ナット15Bに対する螺合回転が食い止められた状態となる。これにより、ウォーム30が本体ケース10に対して軸回転移動が食い止められた状態となって、ウォーム30からウォームホイール部41への動力伝達が阻止された状態となる。これにより、電気モータ4の回転動力が、出力側から大きな負荷を受けているウォームホイール部41に伝達されることがなくなるため、ウォームホイール部41やウォーム30等の動力伝達部に無理な負荷がかからないようにすることができる。なお、このウォーム30のナット15Aに対する螺合状態は、電気モータ4の逆方向の駆動回転によってウォーム30を上記とは逆方向に軸回転させることによって解除されるようになっている。
【0044】
したがって、例えば、電気モータ4の回転駆動力によってシートバック1(図1参照)を起こし上げたり倒し込んだりする最中、シートバック1に車両衝突に伴う大荷重が入力されるなどしてその起こし上げや倒し込みの駆動に対して抵抗となる大きな負荷がかけられた場合に、電気モータ4から出力され続ける回転駆動力によって歯車減速機5の各動力伝達部に無理な負荷がかかることのないよう、電気モータ4の回転動力の伝達を阻止することができる。
【0045】
このように、本実施例の歯車減速機5(動力伝達機構)の構成によれば、ウォームホイール部41に出力側からの抵抗となる負荷がかけられて、ウォーム30に所定以上のスラスト力が働くと、ウォーム30と本体ケース10(及び電気モータ4の差込部4A)との間に設けられた螺合構造が螺合して、ウォーム30の本体ケース10に対する軸回転移動が規制された状態となって保持される。これにより、ウォームホイール部41に出力側から大きな負荷がかけられた状態時に、ウォーム30からウォームホイール部41に電気モータ4の回転動力が伝達されないように動力伝達を遮断することができる。
【0046】
また、上記した螺合構造がウォーム30に形成された雄ネジ33A,33Bと本体ケース10に一体的に設けられたナット15A,15Bの雌ネジAa,Baとの組み合わせとして構成され、ウォーム30の回転を食い止めるストッパ構造が雄ネジ33A,33Bのネジ山の終端部として構成されたものとなっていることにより、螺合構造とストッパ構造とを簡単かつ少ない部品点数で合理的に構成することができる。また、ウォーム30に半径方向に突出する突起などを設けなくともストッパ構造を構成することができるため、ウォーム30を本体ケース10に対して軸線方向に差し込んで組み付ける組み付け性が阻害されず、組み付け性も向上させることができる。
【0047】
また、ウォーム30に所定以上のスラスト力が働いた際の螺合構造が螺合していく動作に対して、ゴム17A,17Bの弾発力による抵抗力が付与されるようになっていることにより、ウォーム30の軸回転移動を規制する係止力をストッパ構造が働かなくてもかけられるようにすることができる。
【実施例2】
【0048】
続いて、実施例2の歯車減速機5(動力伝達機構)の構成について、図7〜図9を用いて説明する。なお、本実施例では、実施例1で説明した歯車減速機5と実質的な構成及び作用が同じとなっている箇所については、これらと同一の符号を付して説明を省略し、異なる箇所について詳しく説明することとする。
【0049】
本実施例の歯車減速機5は、図7に示されるように、ウォーム30の雄ネジ33A,33Bと螺合する各側のナット15A,15Bが、それぞれ本体ケース10や電気モータ4の差込部4Aに対して軸線方向(図示上下方向)に移動可能な状態とされており、各側のブッシュ16A,16Bとの間に設けられたゴム19A,19Bによって弾性支持された状態とされている。ここで、ゴム19A,19Bが本発明の弾性体に相当する。これにより、図8〜図9に示されるように、ウォーム30がスラスト力によって各側のナット15A,15Bと螺合することにより、各側のナット15A,15Bがウォーム30の軸回転に伴って各側のゴム19A,19Bを押し潰しながらウォーム30の各側の端部に入り込む方向に向かって引き寄せられるようになっている。
【0050】
このように、各側のナット15A,15Bをゴム19A,19Bによって弾性支持して、ウォーム30に所定以上のスラスト力が働いた際の螺合構造が螺合していく動作に対して、実施例1で示したゴム17A,17Bの弾発力による抵抗力の作用に加えて、ゴム19A,19Bの弾発力による抵抗力も付与されるようになっていることにより、これらゴム17A,17B及びゴム19A,19Bの組み合わせによってウォーム30の軸回転移動を規制する係止力の調整を行うことができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態を二つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、本発明の動力伝達機構は、車両用シートを昇降させてフロアに対する設置高さを変化させるための駆動装置や、シートバックを中折れ作動させるための駆動装置や、アクティブヘッドレストを作動させるための駆動装置など、車両用シートに関連して設けられる様々な駆動装置の回転動力の伝達を行うための機構として適用することができる。
【0052】
また、本発明の動力伝達機構は、上記した車両用シートに関連した用途以外にも、ウォームギアにより回転動力の伝達を行う様々な機構に適用することができる。また、上記各実施例では、ウォームの軸回転に伴って螺合する雄ネジと雌ネジとの螺合回転を止めるストッパ構造として、雄ネジの終端部によって回転止めされる構造を例示したが、雌ネジAa,Baの終端部によって回転止めする構造であってもよい。また、ウォームと固定体との間に、ウォームが固定体に対して軸方向に移動する動きを当接によって受け止めて回転止めを行う当接部を設定したものであってもよい。また、弾性体の潰れによる弾発力によってウォームの固定体に対する軸方向移動を食い止める構成であってもよい。
【0053】
また、弾性体は、ゴム以外にも、バネ等の種々の弾性部材を適用することができる。また、ウォームにスラスト力が働いた際に、ウォームが弾性体の弾発力に抗して固定体に対して軸方向移動する構成を例示したが、ウォームがスラスト力による押圧力によって固定体に対して摩擦による摺動抵抗を伴いながら軸方向移動する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 シートバック
1A 骨格フレーム
1Aa ブラケット
1Ab 補強パイプ
2 シートクッション
2A 骨格フレーム
3 リクライニング装置
3R ロッド
4 電気モータ
4A 差込部(固定体)
5 歯車減速機(動力伝達機構)
10 本体ケース(固定体)
11 第1の収容凹部
11A 第1の軸孔
11B 開口窓
12 第2の収容凹部
12A 第2の軸孔
12B 円弧凸部
13 台座部
13A 差込口
13B 段差部
13C 段差部
14 ネジ締め部
15A,15B ナット
Aa,Ba 雌ネジ
16A,16B ブッシュ
17A,17B ゴム(弾性体)
18A,18B ワッシャ
19A,19B ゴム(弾性体)
20 蓋ケース
21A 第1の支え部
21B 第1の軸孔
22A 第2の支え部
24 ネジ締め部
30 ウォーム
31 歯
32A,32B 座面部
33A,33B 雄ネジ
34 フレキシブルワイヤ
40 第1の歯車
41 ウォームホイール部(ウォームホイール)
41A 歯
42 平歯車部
42A 歯
43 軸孔
50 支軸
60 第2の歯車
61 軸部
62 軸部
64 平歯車部
64A 歯
65 軸孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォームギアにより回転動力の伝達を行う動力伝達機構において、
前記ウォームギアは、
電気モータからの回転動力の伝達を受けて軸回転するウォームと、
該ウォームと噛合した状態で設けられて該ウォームからの回転動力の伝達を受けて回転するウォームホイールと、を有し、
前記ウォームは固定体に対して軸回転可能に支持されており、該ウォームと前記固定体との間には該ウォームの軸回転に伴って螺合する雄ネジと雌ネジとの螺合構造が設けられており、該螺合構造は常時は非螺合状態とされているが前記ウォームホイールに出力側からの抵抗による負荷がかけられて前記ウォームに所定以上のスラスト力が働くことにより互いに螺合するようになっており、更に、前記ウォームと前記固定体との間には前記螺合構造が螺合していく方向の移動を規制して前記ウォームの前記固定体に対する軸回転移動を規制するストッパ構造が設けられていることを特徴とする動力伝達機構。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達機構であって、
前記螺合構造が前記ウォームに形成された雄ネジと前記固定体に回転方向に一体的に固定されて設けられた雌ネジとの組み合わせとして構成されており、前記ストッパ構造が前記雄ネジ或いは前記雌ネジのネジ山の終端部として構成されていることを特徴とする動力伝達機構。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達機構であって、
前記ウォーム或いは前記螺合構造の少なくとも一方が前記固定体に対して弾性体によって弾性支持されており、前記ウォームに所定以上のスラスト力が働いた際の前記螺合構造が螺合していく動作に対して前記弾性体の弾発力による抵抗力が付与されるようになっていることを特徴とする動力伝達機構。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate