説明

動力伝達装置、及び動力伝達の制御方法

【課題】 入力軸の正転時に回転力を等速伝達し入力軸の逆転時に回転力を減速伝達する動力伝達装置において、出力軸の回転角度を検出可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置10において、入力軸11の正転時、入力軸11の正転力は、ワンウェイクラッチ30を経由して等速で出力軸12に伝達され、ツーウェイクラッチ50は空転する。入力軸11の逆転時、入力軸11の逆転力は、入力側副軸51からツーウェイクラッチ50を介して出力側副軸52に伝達され、出力側副軸52から出力軸12へ減速して伝達される。このとき、ワンウェイクラッチ30は空転する。回転角センサ71は、出力軸12の回転角度を検出する。これにより、入力軸11の停止時、イナーシャによってワンウェイクラッチ30とツーウェイクラッチ50とが共に空転状態となっても、出力軸12の回転角度を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転力を出力軸へ伝達する動力伝達装置、及び動力伝達の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達装置は、モータ等の駆動力による入力軸の回転を等速で又は減速もしくは増速して出力軸へ伝達し、出力軸に接続された目的動作機構を駆動する。通常の動力伝達装置は、入力軸の回転方向に関わらず、入力軸と出力軸との変速比および伝達トルクの出力特性が一定である。しかし、動力の正転と逆転で、あるいは、目的動作機構としてのアクチュエータの往路と復路の作動で異なる出力特性を要求される場合がある。
例えば、エンジンの圧縮比を変更可能な可変圧縮比エンジンでは、低圧縮比側から高圧縮比側に変更する場合に低速高トルクが要求され、一方、高圧縮比側から低圧縮比側に変更する場合にはトルクは必要なく高速特性が要求される。
【0003】
従来、正転と逆転または往路と復路での出力特性を変化させる装置として、電子制御を用いた装置や、回転方向を機械的または電気的に検出し歯車比の異なる動力伝達経路を選択する装置が知られている。しかし、このような装置は、仕組みが複雑で体格も大きく、コストの高いものとなる。また、例えば、モータの回転方向と同期してソレノイドを制御する回路、あるいは、センサや制御要素が必要なため、微作動が難しく、動作が不確実となるおそれがある。
【0004】
そこで、電子制御や回転方向の検出等を必要とせず、動力伝達経路を自動的に切り替える装置として、例えば特許文献1には可変圧縮比エンジンに係る発明が開示されている。特許文献1の装置は、互いに反対方向の回転を拘束する2つのワンウェイクラッチを使用し、それぞれのワンウェイクラッチが異なる変速比の伝達経路に回転力を伝達することで、回転方向に応じて変速比を切り替えようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4333129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本出願人の検証によれば、特許文献1の装置は、2つのワンウェイクラッチが同時に動力伝達状態となり、デッドロックすなわち互いに異なる変速比の動力伝達により各伝達系統が相互干渉を起こし、動力伝達が不可能な状態となる。すなわち、単純に2つのワンウェイクラッチを組合せただけでは、正転時と逆転時とで変速比を切り替える機構を構成し得ない。そこで、本出願人は、この課題を解決する動力伝達装置に係る発明を先に共同出願した(特願2011−063012)。
【0007】
しかしながら、先の出願に係る動力伝達装置は、一方向回転力伝達部材および二方向回転力伝達部材の「空転」作用を利用していることにより、新たな課題が発生する。
その課題とは、入力軸の回転が停止したとき、出力軸がイナーシャ(回転慣性力)によって回転することで「一方向回転力伝達部材と二方向回転力伝達部材が共に空転する状態」が発生し、入力軸の回転角度と出力軸の回転角度との間の相関関係が失われることである。イナーシャによる回転角度は、特に入力軸が正転から停止した場合に発生し、回転速度が増えるにつれ大きくなる。そのため、出力軸に接続された目的動作機構の状態を入力軸の回転角度に基づいて検出することができなくなる。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、入力軸の正転時に回転力を等速伝達し入力軸の逆転時に回転力を減速伝達する動力伝達装置において、出力軸の回転角度を検出可能な動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の動力伝達装置は、入力軸の回転力を出力軸へ伝達する。ここで、入力軸の一方の回転方向への回転を「正転」とし入力軸の他方の回転方向への回転を「逆転」とすると、この動力伝達装置は、入力時の正転時には出力軸を入力軸の回転と等速に回転させる。また、入力軸の逆転時には出力軸を入力軸の回転に対し減速して回転させる。
【0010】
この動力伝達装置は、入力伝動部材、第1伝動部材、第2伝動部材、出力伝動部材、一方向回転力伝達部材、二方向回転力伝達部材および回転角度検出手段を備える。
入力伝動部材は、入力軸に固定され、入力軸とともに回転する。
第1伝動部材は、入力軸とは別の軸上に設けられる入力側副軸に固定され、入力伝動部材の回転を伝達されて入力側副軸とともに回転する。
第2伝動部材は、出力軸とは別の軸上に設けられる出力側副軸に固定され、出力側副軸とともに回転する。
出力伝動部材は、出力軸に固定され、第2伝動部材の回転を伝達されて出力軸とともに回転する。
上記の各伝動部材として、具体的には歯車、プーリ等を用いることができる。
【0011】
一方向回転力伝達部材は、入力軸の正転時に入力軸の正転力を出力軸に伝達し、入力軸の逆転時に出力軸を空転させることが可能である。
二方向回転力伝達部材は、入力側副軸の回転力を出力側副軸に伝達し、出力側副軸の回転力に対して入力側副軸を空転させることが可能である。
一方向回転力伝達部材として、具体的にはワンウェイクラッチ等を用いることができる。また、二方向回転力伝達部材として、具体的にはツーウェイクラッチ等を用いることができる。
回転角度検出手段は、出力軸または出力側副軸の回転角度を検出する。回転角度検出手段として、具体的にはロータリーポテンショメータ、レゾルバ、磁気式または光学式の回転角センサ等を用いることができる。
【0012】
以上の構成により、動力伝達装置は、入力軸の正転時、入力軸の正転力が一方向回転力伝達部材を経由して出力軸に伝達される。また、入力軸の逆転時、入力軸の逆転力が入力伝動部材、第1伝動部材、入力側副軸、二方向回転力伝達部材、出力側副軸、第2伝動部材、出力伝動部材を経由して出力軸に伝達される。
【0013】
従来技術の課題として説明したように、2つのワンウェイクラッチすなわち一方向回転力伝達部材の組合せのみによっては、正転時と逆転時とで変速比を切り替える機構を構成し得ない。それに対し、この動力伝達装置は、一方向回転力伝達部材と二方向回転力伝達部材とを使用することで、「入力軸の正転時に回転力を等速伝達し、入力軸の逆転時に回転力を減速伝達する機構」を実現する。この動力伝達装置は、外部制御装置や他動力による動力選択装置を使用せず構成が単純なため、体格を小さくし、部品点数やコストを低減することができ、また、動作が確実なため、信頼性を向上することができる。
【0014】
さらに、この動力伝達装置は、出力軸または出力側副軸の回転角度を検出する回転角度検出手段を備えている。そのため、入力軸の停止時に、出力軸がイナーシャによって回転することで「一方向回転力伝達部材と二方向回転力伝達部材が共に空転する状態」が発生し、入力軸の回転角度と出力軸の回転角度との間の相関関係が失われた場合でも、出力軸の回転角度を検出することができる。よって、回転角度検出手段の検出角度に基づいて目的動作機構の状態を検出することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によると、回転角度検出手段は、出力側副軸の回転角度を検出する。
ここで、出力軸の回転数に対する出力側副軸の回転数の比を出力側減速比Zooとすれば、回転角度検出手段を出力軸副軸に設ける場合、出力側副軸の検出角度をZoo倍することで出力軸の回転角度に換算することができる。これにより、同等の検出能力の回転角度検出手段を出力軸に設ける場合に比べ、角度検出精度をZoo倍にすることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の動力伝達装置の制御方法に係る発明であって、回転角度検出手段が検出した出力軸の現実の回転角度と目標回転角度との差分に基づき、出力軸の現実の回転角度を目標回転角度に一致させるように入力軸の駆動を制御する。
これにより、動力伝達装置が回転と停止を繰り返す場合であっても、出力軸の現実の回転角度を、常に、目的動作機構に要求される目標回転角度に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による動力伝達装置の全体断面図である。
【図2】図1のII方向の矢視図である。
【図3】図1のIII方向の矢視図である。
【図4】本発明の動力伝達装置が適用される可変圧縮比エンジンの模式図である。
【図5】ワンウェイクラッチを説明する説明図である。
【図6】ツーウェイクラッチを説明する説明図である。
【図7】(a):カップリングおよびスプリングの斜視図である。(b):入力軸が停止から正転に切り替わったときのカップリングの模式断面図である。(c):入力軸が正転から停止または逆転に切り替わったときのカップリングの模式断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態による動力伝達装置の(a)正転時の作動メカニズム、(b)逆転時の作動メカニズムを示す模式図である。
【図9】(a):比較例の動力伝達装置のタイミングチャートである。(b):本発明の一実施形態による動力伝達装置のタイミングチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態の回転角センサの模式図である。
【図11】本発明の一実施形態による動力伝達装置の出力軸停止時のタイミングチャートである。
【図12】本発明の一実施形態による動力伝達装置の入力軸回転数nとイナーシャによる出力軸回転角度αとの関係を示す特性図である。
【図13】本発明の第2実施形態による動力伝達装置の全体断面図である。
【図14】本発明のその他の実施形態の回転角センサの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態は、自動車等に搭載され圧縮比を変更可能な可変圧縮比エンジンに本発明の動力伝達装置を適用したものである。図4に示す可変圧縮比エンジン80は、カムカバー81、シリンダヘッド82、シリンダブロック83およびロアケース84等から構成される。シリンダブロック83にはシリンダ85が形成され、シリンダ85内に往復移動可能にピストン86が収容される。シリンダヘッド82には、吸気通路を開閉する吸気弁881、排気通路を開閉する排気弁882が設けられる。シリンダ85の内壁、ピストン86の上端、吸気弁881および排気弁882に囲まれた空間は燃焼室89を形成する。ロアケース84内にはクランクシャフト871、コンロッド872等が収容され、ピストン86の往復運動がクランクシャフト871の回転運動に変換される。
また、シリンダブロック83には、動力伝達装置10、モータ17、ウォーム18およびウォームホイール19からなる圧縮比変更機構が設けられている。
【0019】
以下、動力伝達装置10の入力軸側(図4の左側)から見て時計回り方向(以下「CW方向」という。)の回転を「正転」といい、反時計回り方向(以下「CCW方向」という。)の回転を「逆転」という。
モータ17の正転時、動力伝達装置10は、モータ17の正転力を等速でウォーム18に伝達する。また、モータ17の逆転時、動力伝達装置10は、モータ17の逆転力を減速してウォーム18に伝達する。
【0020】
図4に示す状態では、シリンダブロック83はロアケース84に対して最も低い位置にある。このとき、燃焼室89の容積は最小であり、ピストン86の移動による容積変化率が最大となる「高圧縮比」の状態である。
モータ17の正転力がウォーム18に伝達されると、カムカバー81、シリンダヘッド82およびシリンダブロック83はロアケース84に対して上昇し、カムカバー81の上端位置が図中破線指示した位置に移動する。これにより、燃焼室89の容積が増加するためピストン86の移動による容積変化率が小さくなり「低圧縮比」の状態となる。この高圧縮比側から低圧縮比側への推移では燃焼室89の燃焼圧がシリンダブロック83に作用する力が同じ向きに働くことから、大きな駆動力が要求されない。そのため、動力伝達装置10は、モータ17の回転を等速でウォーム18に伝達し、シリンダブロック83を比較的高速で上昇させることができる。
【0021】
続いて、モータ17の逆転力がウォーム18に伝達されると、カムカバー81、シリンダヘッド82およびシリンダブロック83はロアケース84に対して下降する。これにより、燃焼室89の容積が減少するためピストン86の移動による容積変化率が大きくなり「高圧縮比」の状態となる。この低圧縮比側から高圧縮比側への推移ではシリンダブロック83を燃焼室89の燃焼圧に抗して下降させる必要がある。そこで、動力伝達装置10は、モータ17の回転を減速し、高トルクを出力することができる。
【0022】
次に、動力伝達装置10の構成について図1〜3、5〜7に基づいて説明する。
図1〜3に示すように、動力伝達装置10は、ハウジング60、入力側支持板61、出力側支持板62、入力軸11、出力軸12、入力側副軸51および出力側副軸52等を備える。入力軸11および入力側副軸51は、入力側支持板61に固定された軸受63、64に回転可能に支持されており、出力軸12および出力側副軸52は、出力側支持板62に固定された軸受65、66に回転可能に支持されている。さらに、出力軸12は、ハウジング60に固定された軸受67に回転可能に支持されており、入力側副軸51は、ハウジング60に固定された軸受68に回転可能に支持されている。
【0023】
入力軸11および出力軸12は、回転軸Pを中心に回転する。入力側副軸51および出力側副軸52は、回転軸Pに対して略平行の回転軸Qを中心に回転する。入力軸11はモータ等の動力に接続され、出力軸12はアクチュエータ等の目的動作機構に接続される。なお、出力軸12に代えて、あるいは出力軸12に加えて、出力側副軸52が目的動作機構に接続されてもよい。
【0024】
入力軸11と出力軸12とは、カップリング20およびワンウェイクラッチ30を介して連結されている。カップリング20は、入力ロータ21、中間ロータ23およびスプリング29から構成され、入力軸11と中間軸13との間に回転時間差を発生させる。ワンウェイクラッチ30は、中間ロータ23と一体に形成された内輪32としての中間軸13、及び出力軸12と一体に形成された外輪31等から構成される。ワンウェイクラッチ30は、入力軸11の正転時、中間軸13の正転力を出力軸12に伝達し、入力軸11の逆転時、中間軸13に対して出力軸12を空転させる。また、入力側副軸51と出力側副軸52とは、ツーウェイクラッチ50を介して連結されている。カップリング20、ワンウェイクラッチ30およびツーウェイクラッチ50の詳細については後述する。
【0025】
入力軸11には入力ギア41が固定され、入力側副軸51には第1ギア42が固定されている。また、出力側副軸52には第2ギア43が固定され、出力軸12には出力ギア44が固定されている。ギア41〜44は平歯車であり、入力ギア41と第1ギア42とが噛み合い、第2ギア43と出力ギア44とが噛み合う。
第1ギア42の歯数は入力ギア41の歯数より多く、第1ギア42のピッチ円直径は入力ギア41のピッチ円直径より大きい。したがって、入力軸11の回転は、回転方向が反対となるとともに減速されて入力側副軸51に伝達される。また、出力ギア44の歯数は第2ギア43の歯数より多く、出力ギア44のピッチ円直径は第2ギア43のピッチ円直径より大きい。したがって、出力側副軸52の回転は、回転方向が反対となるとともに減速されて出力軸12に伝達される。
【0026】
ここで、減速比を以下のように定義する。
Zii:入力側減速比(=(第1ギア42の歯数/入力ギア41の歯数)=(入力軸11および中間軸13の回転数/入力側副軸51の回転数))
Zoo:出力側減速比(=(出力ギア44の歯数/第2ギア43の歯数)=(出力側副軸52の回転数/出力軸12の回転数))
Zio(=Zii×Zoo):全体減速比(=(入力軸11および中間軸13の回転数/出力軸12の回転数))
本発明では、いかなる実施形態でも「Zio>1」、すなわち「全体として減速」であることが必須である。また、本実施形態では、「Zii>1、Zoo>1」、すなわち、入力側、出力側ともに減速することで、「全体として減速」している。
【0027】
また、出力軸12には「回転角度検出手段」としての回転角センサ71が設置されており、次に説明するワンウェイクラッチ30の外輪31側の回転角度を検出する。
本実施形態では、回転角センサ71として、図10に示すロータリーポテンショメータが使用される。ロータリーポテンショメータ71は、回転軸71aと共に回転する接触部71b、周方向の一部が離間した略円環状の抵抗71c、並びに、回転軸71aおよび抵抗71cに接続される端子71dから構成される。ロータリーポテンショメータ71は、回転軸71aの回転による抵抗値の変化から出力軸12の回転角度を検出する。
【0028】
次に、図5を参照して、ワンウェイクラッチの具体的な構成を説明する。
ワンウェイクラッチ30は、外輪31、内輪32、複数のコロ33およびスプリング34から構成される。複数のコロ33は、外輪31と内輪32とに挟まれる環状の隙間に配置されている。外輪31の内壁に、各コロ33に対応するくさび部31aが形成されている。くさび部31aは、周方向の一方(図のCW方向)でコロ33が噛み込み、周方向の他方(図のCCW方向)でコロ33がフリーとなる形状に形成されている。スプリング34は、コロ33とコロ33との間に設けられ、コロ33を外輪31側へ押し付けている。
図5(a)に示すスタンバイ状態において、外輪31および内輪32は停止しており、コロ33はくさび部31aに押し付けられている。
【0029】
図5(c)は、駆動軸である内輪32が外輪31に対してCW方向に回転した場合を示し、図5(d)は、駆動軸である外輪31が内輪32に対してCCW方向に回転した場合を示す。いずれの場合も、図中実線矢印で示すように、コロ33がくさび部31aに噛み込み、駆動軸の回転力がコロ33を介して相手側の軸に伝達される。ここで、内輪32の回転数をRin、外輪31の回転数をRoutとし、CW方向の回転を正、CCW方向の回転を負とすると、「Rin>Rout」のとき、動力伝達状態が成立する。
【0030】
次に、図5(e)は、駆動軸である内輪32が外輪31に対してCCW方向に回転した場合を示し、図5(f)は、駆動軸である外輪31が内輪32に対してCW方向に回転した場合を示す。いずれの場合も、図中破線矢印および「×」印で示すように、コロ33が外輪31と内輪32との間を滑り、駆動軸の回転力は伝達されず、相手軸は空転する。つまり、「Rin<Rout」のとき、空転状態が成立する。
【0031】
要するに、外輪31または内輪32の一方が停止している場合を含め、「外輪31と内輪32との相対回転」の方向によって動力伝達状態となるか空転状態となるかが決まる。
また、図5(b)に示すように、コロ33がくさび部31aから離れた状態からくさび部31aに噛み込み空転状態から動力伝達状態に移行するとき、または、逆に動力伝達状態から空転状態に移行するときには、所定の切替角度λ1の回転が必要である。切替角度λ1は、いわゆるバックラッシュに相当する。
【0032】
次に、図6を参照して、ツーウェイクラッチ50の具体的な構成を説明する。
図1のVIa部拡大図である図6(a)に示すように、ツーウェイクラッチ50は、外輪としての入力側副軸51、内輪としての出力側副軸52、コロ53、保持器54、摺動ばね55、ケース56等から構成される。
保持器54は、コロ53を保持する。摺動ばね55は、径方向内側の端部55aが保持器54に引っ掛かり、径方向外側の摺動部55bがケース56内壁に当接して突っ張る。ケース56はハウジング60に固定され、入力側副軸51の径方向外側を保持するとともに、軸受57を介して出力側副軸52を回転可能に支持している。
【0033】
図6(b)は、入力側副軸(外輪)51が駆動軸として回転する場合を示す。このとき、保持器54は、ケース56と摺動ばね55間の摺動抵抗によりその場に留まろうとするため、コロ53は、入力側副軸51の回転方向に対して反対方向へ相対回転する。コロ53が反対方向に移動しくさび部51aに噛み込むと、入力側副軸51の回転がコロ53を介して出力側副軸52へ伝達される。ここで、入力側副軸51の回転数をSin、出力側副軸52の回転数をSoutとすると、入力側副軸51の回転方向に関係なく、「Sin>Sout」のときには入力側副軸51から出力側副軸52へ回転力が伝達する。
【0034】
図6(c)は、出力側副軸(内輪)52が駆動軸として回転する場合を示す。このとき、保持器54および入力側副軸51は動かない。コロ53は、入力側副軸51の径方向内側の凹部51bに位置し、入力側副軸51および出力側副軸52に噛み合うことができないため、出力側副軸52のみが回転する。したがって、出力側副軸52の回転方向に関係なく、「Sin<Sout」のときには出力側副軸52から入力側副軸51へ回転力が伝達せず、入力側副軸51は空転する。
また、ワンウェイクラッチ30と同様、ツーウェイクラッチ50が空転状態から動力伝達状態に移行するとき、または、動力伝達状態から空転状態に移行するとき、バックラッシュに相当する所定の切替角度λ2の回転が必要である。
【0035】
次に、図7を参照して、カップリング20の構成を説明する。
図7(a)に示すように、カップリング20は、円柱状の入力ロータ21と中間ロータ23、及びコイル状のスプリング29から構成される。入力ロータ21は入力軸11と同軸かつ一体に設けられる。中間ロータ23は中間軸13と同軸かつ一体に設けられる。
図7(b)に示すように、入力ロータ21は、中間ロータ23側の端面に突起する2つの扇形状の突起部22を設けている。一方、中間ロータ23は、入力ロータ21側の端面に2つの扇形状のストッパ部24を設けている。突起部22およびストッパ部24は、それぞれ回転軸Pに対して対象に配置される。突起部22は、ストッパ部24同士の周方向の間に、ストッパ部24に対して所定の遊び角度θの範囲で相対回転可能に配置される。
【0036】
すなわち、突起部22は、ストッパ部24のCW側の外壁25に当接する「初期位置」からストッパ部24のCCW側の外壁26に当接する「限界位置」まで、遊び角度θだけ相対回転可能である。入力ロータ21の正転時、突起部22が限界位置に達すると、突起部22はストッパ部24の外壁26に当接して一体に正転する。これにより、入力ロータ21から中間ロータ23への動力伝達が可能となる。
【0037】
図7(a)に示すように、スプリング29は、入力ロータ21および中間ロータ23の外周に設けられる爪部27、28に両端が係止される。スプリング29は、入力ロータ21が初期位置から中間ロータ23に対して正転したとき、引っ張られて荷重を発生する。そのため、図7(c)に示すように、入力ロータ21が正転から停止または逆転に切り替わったとき、スプリング29は、突起部22がストッパ部24に対して遊び角度θを確保する初期位置に戻すように、入力ロータ21を中間ロータ23に対してCCW方向に付勢する。
【0038】
以上説明した一実施形態の構成において、入力ギア41、第1ギア42、第2ギア43および出力ギア44は、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「入力伝動部材」、「第1伝動部材」、「第2伝動部材」、「出力伝動部材」に相当する。また、ワンウェイクラッチ30は、「一方向回転力伝達部材」に相当する。
【0039】
次に、図8、図9を参照して、動力伝達装置10の作動を説明する。太線矢印は伝達される駆動力Fdを示し、中太線破線矢印は非駆動力Fnを示す。また、細線矢印は、CW方向またはCCW方向の回転を示す。
図8(a)に示すように、入力軸11の正転時、正転力は、カップリング20を経由して中間軸13に伝達される。すると、ワンウェイクラッチ30において内輪32の回転数Rinは正の値であるから、外輪31の回転数Routをゼロと見なせば、「Rin>Rout」の関係が成立し、正転力が出力軸12に等速で伝達される(図5(c)参照)。
【0040】
このとき、入力ギア41と第1ギア42との噛み合いにより、入力側副軸51は減速されて逆転する。一方、出力ギア44と第2ギア43との噛み合いにより出力側副軸52は増速されて逆転する。するとツーウェイクラッチ50において内輪(出力側副軸)52の回転数Soutが外輪(入力側副軸)51の回転数Sinよりも大きくなる(Sin<Sout)ため、出力側副軸52が入力側副軸51に対して空転する(図6(c)参照)。
【0041】
一方、図8(b)に示すように、入力軸11の逆転時、入力ギア41と第1ギア42との噛み合いにより、入力側副軸51は減速されて正転する。すると、ツーウェイクラッチ50において外輪(入力側副軸)51の回転数Sinが停止している内輪(出力側副軸)52の回転数Soutよりも大きくなる(Sin>Sout)ため、入力側副軸51の正転力が出力側副軸52に伝達される(図6(b)参照)。そして、第2ギア43と出力ギア44との噛み合いにより、出力軸12は減速されて逆転する。その結果、入力軸11の逆転力が減速されて出力軸12に伝達される。
【0042】
このとき、入力軸11の逆転力は、カップリング20を経由して中間軸13に伝達される。しかし、ワンウェイクラッチ30において内輪32の回転数Rinは負の値であるから、外輪31の回転数Routをゼロと見なせば、「Rin<Rout」の関係が成立し、出力軸12は空転する(図5(e)参照)。
【0043】
続いて図9を参照して、入力軸11が逆転から正転へ切り替わるときの挙動について説明する。まず、本発明の一実施形態に対する比較例として、動力伝達装置がカップリングを備えない場合のタイミングチャートを図9(a)に示す。
ここで、各変数を以下のように定義する。なお、入力側減速比Ziiは、上述のとおりである。
n(1/s):入力軸11の1秒あたりの回転数(正転を正、逆転を負とする。)
λ1(deg):ワンウェイクラッチ30の切替角度
λ2(deg):ツーウェイクラッチ50の切替角度
T1(s):中間軸13(=ワンウェイクラッチ30の内輪32)が切替角度λ1回転する時間
T2(s):入力側副軸51(=ツーウェイクラッチ50の外輪)が切替角度λ2回転するのに対応して入力軸11および中間軸13が角度Zii×λ2回転する時間
【0044】
時間T1、T2は下式1、2にて表される。
T1=λ1/(360・n) ・・・(式1)
T2=Zii×λ2/(360・n) ・・・(式2)
よって、Zii×λ2>λ1のとき、図9(a)に示すようにT2>T1となる。すると、入力軸11が逆転から正転へ切り替わる時刻をt0とすると、ワンウェイクラッチ30は、時刻t0から時間T1後に空転状態から動力伝達状態に移行し、ツーウェイクラッチ50は、時刻t0から時間T2後に動力伝達状態から空転状態に移行する。したがって、図中斜線指示した範囲にてワンウェイクラッチ30とツーウェイクラッチ50とが同時に動力伝達状態となることとなり、いわゆるデッドロックが発生する。
なお、入力軸11が正転から逆転へ切り替わるときには、ワンウェイクラッチ30が動力伝達状態から空転状態に移行した後、ツーウェイクラッチ50が空転状態から動力伝達状態に移行するため、デッドロックは発生しない。
【0045】
この課題を解決するため、本発明の一実施形態は、遊び角度θを有するカップリング20を備えている。ここで、遊び角度θは、下式3を満たすように設定される。
θ≧Zii×λ2−λ1 ・・・(式3)
Zii×λ2>λ1のとき、θは正の値を取る。また、時間Tθを以下のように定義する。
Tθ(s):入力軸11が中間軸13に対して遊び角度θ回転する時間
【0046】
言い換えれば、Tθは、入力軸11が逆転から正転へ切り替わったときの中間軸13の「追従遅れ時間」である。その結果、図9(b)のタイミングチャートに示すように、ワンウェイクラッチ30は、時刻t0から時間(T1+Tθ)後に空転状態から動力伝達状態に移行することとなる。よって、ワンウェイクラッチ30とツーウェイクラッチ50とが同時に動力伝達状態となることがなく、デッドロックの発生を回避することができる。
なお、入力軸11が正転から逆転へ切り替わるときには、カップリング20のスプリング29によって突起部22が初期位置に戻されることから、入力軸11と中間軸13との間に、遊び角度θによる回転時間差が生じない。したがって、図9(a)に示す比較例と同じ挙動をする。
【0047】
以上説明したように、本発明の第1実施形態の動力伝達装置10は、ワンウェイクラッチ30とツーウェイクラッチ50とを使用することで、従来2つのワンウェイクラッチの組合せでは実現し得なかった「入力軸の正転時に回転力を等速伝達し、入力軸の逆転時に回転力を減速伝達する機構」を実現することができる。
【0048】
次に、入力軸11の回転が停止した時の作動について、図11、図12を参照して説明する。
図11(a)は、入力軸11が正転から停止した場合のタイミングチャートを示す。
入力軸11および出力軸12が正転時には、ワンウェイクラッチ30は動力伝達状態であり、入力軸11の正転力が等速で出力軸12に伝達される。一方、ツーウェイクラッチ50は空転状態である。
この正転状態から、時刻tfsにモータ17が停止指令Sfsを受けたとする。このときの軸回転角度を0とすると、モータ17の軸に直結された入力軸11は急激に制動され、正転停止角度β1にて停止する。言い換えれば、入力軸11は、正転停止角度β1にて「正転」モードから「停止」モードに移行する。
【0049】
また、ワンウェイクラッチ30では、内輪32である中間軸13が入力軸11に対してカップリング20の遊び角度θだけ遅れて停止する。すると、外輪31の回転数Routが内輪32の回転数Rinよりも大きくなり(Rin<Rout)、外輪31である出力軸12は、イナーシャによって暫く空転する(図5(f)参照)。すなわち、「ワンウェイクラッチ30とツーウェイクラッチ50とが共に空転する状態」となり、入力軸11の回転角度と出力軸12の回転角度との相関関係が失われる。そして、出力軸12は、入力軸11の正転停止角度β1よりも大きな正転停止角度α1にて停止する。
なお、図12に示すように、入力軸11の回転数nが大きいほど、イナーシャ(回転慣性力)による出力軸12の回転角度αは大きくなる。また、入力軸11の最大使用回転数nmaxにおいて、出力軸12の回転角度αは最大となる。
【0050】
図11(b)は、入力軸11が逆転から停止した場合のタイミングチャートを示す。
入力軸11および出力軸12が逆転時には、ツーウェイクラッチ50は動力伝達状態であり、入力軸11の正転力が減速して出力軸12に伝達される。一方、ワンウェイクラッチ30は空転状態である。
この逆転状態から、時刻trsにモータ17が停止指令Srsを受けたとする。このときの軸回転角度を0とすると、モータ17の軸に直結された入力軸11は急激に制動され、逆転停止角度β2にて停止する。言い換えれば、入力軸11は、逆転停止角度β2にて「逆転」モードから「停止」モードに移行する。
【0051】
また、ツーウェイクラッチ50では、外輪である入力側副軸51が停止する。すると、内輪である出力側副軸52の回転数Soutが入力側副軸51の回転数Sinよりも大きくなり(Sin<Sout)、出力側副軸52は、イナーシャによって暫く空転する(図6(c)参照)。そして、出力軸12は出力側副軸52と共に空転する。すなわち、「ワンウェイクラッチ30とツーウェイクラッチ50とが共に空転する状態」となり、入力軸11の回転角度と出力軸12の回転角度との相関関係が失われる。そして、出力軸12は、入力軸11の逆転停止角度β2よりも絶対値の大きな逆転停止角度α2にて停止する。
ただし、逆転からの停止では、正転からの停止に比べ、クラッチの入力側および出力側の回転数が小さく、伝達トルクが大きいため、イナーシャは比較的小さい。したがって、逆転停止角度α2と逆転停止角度β2との差は比較的小さい。それでも、入力軸11の回転角度と出力軸12の回転角度との相関関係が失われることに変わりはない。
【0052】
そこで、本実施形態の動力伝達装置10は、回転角センサ71が出力軸12の回転角度を検出することで、目的動作機構(本実施形態ではウォーム18)の状態を検出することができる。
さらに、回転角センサ71が検出した出力軸12の現実の回転角度と目標回転角度との差分に基づき、出力軸12の現実の回転角度を目標回転角度に一致させるように入力軸11の駆動を制御する制御手段を設けてもよい。これにより、動力伝達装置10が回転と停止を繰り返す場合であっても、出力軸12の現実の回転角度を、常に、目的動作機構に要求される目標回転角度に合わせることができる。
【0053】
(第2実施形態)
図13に示す第2実施形態では、第1実施形態と同等の検出能力を有する回転角センサ71が、出力軸12でなく、ツーウェイクラッチ50の内輪である出力側副軸52に設置される。そして、出力側副軸52の検出角度を出力側減速比Zoo倍することで、出力軸12の回転角度に換算する。
これにより、第1実施形態に対し、角度検出精度をZoo倍にすることができる。
【0054】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態では、入力ギア41と第1ギア42との関係により、入力軸11の回転は減速して入力側副軸51に伝達される。また、第2ギア43と出力ギア44との関係により、出力側副軸52の回転は減速して出力軸12に伝達される。すなわち、「減速→減速、かつ全体として減速(Zii>1、Zoo>1、Zio>1)」の関係にある。ここで、入力軸11の逆転時にワンウェイクラッチ30の外輪である出力軸12を内輪である中間軸13に対して空転させるため、出力軸12の回転数が入力軸11の回転数よりも小さいこと、つまり、動力伝達装置10が「全体として減速(Zio>1)」することは必須の要件である。
【0055】
しかし、入力軸11と入力側副軸51との回転数の関係、及び出力側副軸52と出力軸12との回転数の関係は、上記実施形態のように「減速→減速」に限らず、「等速(Zii=1)→減速」あるいは、「少し増速(Zii<1)→多いに減速(全体として減速)」としてもよい。
さらに、回転角センサ71を出力軸12に設置する第1実施形態の場合は、「減速→等速(Zoo=1)」あるいは、「多いに減速→少し増速(Zoo<1)(全体として減速)」としてもよい。いずれの実施形態も、噛み合うギア同士の歯数およびピッチ円直径を調整することで実現することができる。
【0056】
(イ)動力伝達装置10の説明の冒頭に述べたように、出力軸12に代えて、あるいは出力軸12に加えて、出力側副軸52を目的動作機構に接続してもよい(図1参照)。これにより、2とおりの出力特性を選択または併用することができる。上記の(ア)で説明したように出力側副軸52と出力軸12との回転数の関係を多様に選択することで、動力伝達装置10の適用範囲をさらに広げることができる。
【0057】
(ウ)入力軸11から出力軸12へ回転力を伝達する各「伝動部材」は、平歯車に限らず、はすば歯車、ウォーム、遊星歯車であってもよく、あるいは、摩擦伝達、ベルトとプーリ、チェーンとスプロケット等、同期伝達するものであれば形式を問わない。
(エ)「一方向回転力伝達部材」および「二方向回転力伝達部材」は、上記実施形態のワンウェイクラッチおよびツーウェイクラッチに限らず、他の形式のものであってもよい。例えば、ワンウェイクラッチに代えて反転防止ラチェットを用いてもよい。
【0058】
(オ)上記実施形態では、ワンウェイクラッチ30の外輪31は出力軸12と一体に設けられ、内輪32は中間軸13と一体に設けられる。しかし、外輪31は出力軸12と別体に形成され、同軸に結合されてもよい。また、内輪32は中間軸13と別体に形成され、同軸に結合されてもよい。
【0059】
(カ)「回転角度検出手段」として、上記実施形態による接触式のロータリーポテンショメータ71の他、図14に示すような非接触式の回転角センサが使用可能である。一般に非接触式の回転角センサは、接触部の摩耗の問題がないため耐久性に優れる。また、これらの例に限らず、どのような回転角センサを用いてもかまわない。
【0060】
図14(a)に示すレゾルバ72は、回転軸72aと共に回転するロータ72b、ロータ72bの径方向外側に設けられる円環状のステータ72c、ロータ72bとステータ72cとの間に周方向に複数設けられるコイル72d、ステータ72cを励磁する励磁回路72e、及び、コイル72dに生成される誘起電圧を検出する検出回路72fから構成される。レゾルバ72は、ロータ72bの回転角度によってコイル72dに生成される誘起電圧の変化から出力軸12または出力側副軸52の回転角度を検出する。
【0061】
図14(b)に示す磁気式回転角センサ73は、回転軸73aと共に回転する円板状の永久磁石73b、及び永久磁石73bの端面に近接して設けられる磁気検出素子73cから構成される。磁気検出素子73cとしては、磁束密度の変化により電圧が変化するホール素子や、磁束密度の変化により抵抗値が変化する磁気抵抗素子(MR)を用いることができる。磁気式回転角センサ73は、永久磁石73bの回転による磁束密度の変化から出力軸12または出力側副軸52の回転角度を検出する。
【0062】
図14(c)に示す光学式回転角センサ74は、回転軸74aと共に回転するスリット円盤74b、スリット円盤74bの軸方向の一方に設置される発光素子74c、スリット円盤74bの軸方向の他方であって発光素子74cと対応する位置に設置される固定スリット74dおよび受光素子74eから構成される。スリット円盤74bには、径方向に延びるスリットが周方向に複数形成されている。光学式回転角センサ74は、発光素子74cが発した光がスリット円盤74bのスリットおよび固定スリット74dを通過して受光素子74eに到達した回数から出力軸12または出力側副軸52の回転角度を検出する。
【0063】
(キ)カップリング20を構成する突起部22およびストッパ部24は上記実施形態の構成に限らず、入力ロータ21と中間ロータ23とを所定の遊び角度θの範囲で相対回転可能とする構成であれば、どのような構成であってもよい。
また、カップリング20を構成する入力ロータ21は入力軸11と別体に形成され、同軸に結合されてもよく、中間ロータ23は中間軸13と別体に形成され、同軸に結合されてもよい。
【0064】
(ク)ワンウェイクラッチ30の切替角度λ1、ツーウェイクラッチ50の切替角度λ2および入力側減速比Zの関係が「Zii×λ2≦λ1」である場合には「θ=0」であっても式3が成立することから、遊び角度θを設ける必要がない。よって、カップリングを無くして入力軸11と中間軸13とを直結してもよい。その場合、入力軸11がワンウェイクラッチ30の内輪32となり得る。
【0065】
(ケ)上記実施形態では、入力軸11側から見てCW方向を「正転」、入力軸11側から見てCCW方向を「逆転」と定義したが、その逆であってもよい。
(コ)本発明の動力伝達装置は、可変圧縮比エンジンに限らず、正逆転で入力軸と出力軸との変速比および伝達トルクを変更する種々の装置に適用可能である。
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 ・・・動力伝達装置、
11 ・・・入力軸、
12 ・・・出力軸、
13 ・・・中間軸、
20 ・・・カップリング、
30 ・・・ワンウェイクラッチ(一方向回転力伝達部材)、
31 ・・・外輪、
32 ・・・内輪、
41 ・・・入力ギア(入力伝動部材)、
42 ・・・第1ギア(第1伝動部材)、
43 ・・・第2ギア(第2伝動部材)、
44 ・・・出力ギア(出力伝動部材)、
50 ・・・ツーウェイクラッチ(二方向回転力伝達部材)、
51 ・・・入力側副軸、外輪、
52 ・・・出力側副軸、内輪、
71 ・・・回転角センサ、ロータリーポテンショメータ(回転角度検出手段)、
72 ・・・レゾルバ(回転角度検出手段)、
73 ・・・磁気式回転角センサ(回転角度検出手段)、
74 ・・・光学式回転角センサ(回転角度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転力を出力軸へ伝達し、前記入力軸の一方の回転方向への回転を正転とし前記入力軸の他方の回転方向への回転を逆転とすると、前記入力軸の正転時には前記出力軸を前記入力軸の回転と等速に回転させ、前記入力軸の逆転時には前記出力軸を前記入力軸の回転に対し減速して回転させ、
前記入力軸に固定され、前記入力軸とともに回転する入力伝動部材と、
前記入力軸とは別の軸上に設けられる入力側副軸に固定され、前記入力伝動部材の回転を伝達されて前記入力側副軸とともに回転する第1伝動部材と、
前記出力軸とは別の軸上に設けられる出力側副軸に固定され、前記出力側副軸とともに回転する第2伝動部材と、
前記出力軸に固定され、前記第2伝動部材の回転を伝達されて前記出力軸とともに回転する出力伝動部材と、
前記入力軸の正転時に前記入力軸の正転力を前記出力軸に伝達し、前記入力軸の逆転時に前記出力軸を空転させることが可能な一方向回転力伝達部材と、
前記入力側副軸の回転力を前記出力側副軸に伝達し、前記出力側副軸の回転力に対して前記入力側副軸を空転させることが可能な二方向回転力伝達部材と、
前記出力軸または前記出力側副軸の回転角度を検出する回転角度検出手段と、
を備え、
前記入力軸の正転時、前記入力軸の正転力が前記一方向回転力伝達部材を経由して前記出力軸に伝達され、
前記入力軸の逆転時、前記入力軸の逆転力が前記入力伝動部材、前記第1伝動部材、前記入力側副軸、前記二方向回転力伝達部材、前記出力側副軸、前記第2伝動部材、前記出力伝動部材を経由して前記出力軸に伝達される動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転角度検出手段は、前記出力側副軸の回転角度を検出することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力伝達装置の制御方法であって、
前記回転角度検出手段が検出した前記出力軸の現実の回転角度と目標回転角度との差分に基づき、前記出力軸の現実の回転角度を前記目標回転角度に一致させるように前記入力軸の駆動を制御する動力伝達装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−219972(P2012−219972A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89031(P2011−89031)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】