説明

動力伝達装置の製造方法

【課題】簡素な工程で大歯車と動力伝達部材とを高強度で接合する動力伝達装置の製造方法を提供する。
【解決手段】リングギヤ10とハブ部材20とを備え、リングギヤ10とハブ部材20とが一体で構成され同一の回転軸O1を中心とする動力伝達装置1の製造方法であって、リングギヤ10に円錐状の第1合わせ面12を形成し、ハブ部材20に第1合わせ面12と合わさる円錐状の第2合わせ面24を形成し、リングギヤ10に突起14を形成し、ハブ部材20に環溝26を形成する合わせ面形成工程と、第1合わせ面12と第2合わせ面24とを対向させつつ、突起14と環溝26の底面26aとを突き合わせながら、リングギヤ10及びハブ部材20の一方を他方に対して回転させ、摩擦熱を生成する摩擦熱生成工程と、リングギヤ10とハブ部材20とを相対的に近づく向きで押圧し、第1合わせ面12と第2合わせ面24とを密着させる押圧工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大歯車(リングギヤ等)と動力伝達部材(ハブ部材、デフケース等)とを備える動力伝達装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、二輪車において、内燃機関で発生した動力は、チェーンや推進軸を介して、後輪(駆動輪)に伝達される。推進軸を介して伝達する場合、後輪と同軸に終減速装置を設け、推進軸の動力を前記終減速装置内で略90°偏向させている。
このような終減速装置は、推進軸の動力が入力されるドライブピニオンと、動力伝達装置と、を備えて構成され、動力伝達装置は、ドライブピニオンが噛合するリングギヤと、リングギヤと一体であって、後輪と同一の回転軸周りに回転するハブ部材(動力伝達部材)と、を備えて構成される。そして、ドライブピニオンとリングギヤとの噛合部には、一般には、ベベルギヤ(かさ歯車)の歯面が形成される。
【0003】
ここで、リングギヤとハブ部材とは、ハブ部材の一部をリングギヤに圧入した後、スプライン嵌合(結合)することにより、周方向における相対回転を防止している。また、軸方向における抜け止めとして、圧入後のスプライン軸(リングギヤに挿入されるハブ部材の一部)を加締めている。このように、圧入後に加締めていたので、リングギヤとハブ部材との固定に工数を要している。
【0004】
一方、四輪車において、内燃機関で発生した動力は、例えば、変速機、推進軸(プロペラシャフト)を介して、左右の後輪(駆動輪)の中央に設けられた終減速装置に入力される。終減速装置は、推進軸の動力が入力されるドライブピニオンと、ドライブピニオンが噛合し、その動力を90°偏向させ後記するデフケースに固定されハイポイドギヤ等から成るリングギヤと、デフ装置(デファレンシャル装置、差動装置)と、を備えて構成される。デフ装置は、カーブを走行した場合に左右の後輪を差動回転させるため装置であり、鋳造製又は鍛造製のデフケース(動力伝達部材)と、これに収容されたデフギヤ(ピニオンギヤ、サイドギヤ)と、を備えて構成される。
【0005】
ここで、リングギヤとデフケースとは、例えば、デフケースの外周面にフランジを形成し、リングギヤをデフケースに外嵌した後、リングギヤと前記フランジとをボルトで締結することで一体化している。したがって、前記ボルトは、動力伝達の一部を担うことになるので、高強度材料で形成されることが必要となり、また、前記ボルトは、高い締め付けで締結することが必要であるので、これらの組み付け作業は煩雑となっている。
【0006】
そこで、このような問題を解決するため、リングギヤと動力伝達部材(ハブ部材、デフケース)とを接合によって一体化させる技術が提案されている(特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−81351号公報
【特許文献2】特開2008−161937号公報
【特許文献3】特開平7−54961号公報
【特許文献4】特開2010−242930号公報
【特許文献5】特開2011−47420号公報
【特許文献6】特表2006−509172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、リングギヤとデフケースとを摩擦圧接で接合する技術であるが、リングギヤとデフケースとを相対回転させるため、リングギヤとデフケースとの嵌合部に隙間を形成しており、それ故に、リングギヤの中心軸とデフケースの中心軸とが正確に一致しないまま両部品が接合される虞がある。そして、このようにリングギヤの中心軸とデフケースの中心軸とがずれていると、例えば、リングギヤと相手ギヤ(ドライブピニオンのピニオンギヤ)との噛合いにずれが生じ、歯当たり不良による騒音が発生したり、耐久性が低下したりするという虞がある。
【0009】
特許文献2では、低炭素鋼からなる円板状の第1予備部材と、高炭素鋼からなる環状の第2予備部材とを摩擦圧接により接合し、デフケースを構成するので、デフケースの内周面側に発生したバリを除去する必要があり、手間を要してしまう。また、第1予備部材と第2予備部材との突き合せ面が、回転軸に直交する面であるので、第1予備部材及び第2予備部材の中心軸がずれ易くなる。
【0010】
特許文献3〜6では、リングギヤとデフケースとを、電子ビーム溶接やレーザ溶接で溶融接合しているため、ブローホール等の溶接不良の発生が避けられない。これにより、溶接後において、磁気を利用した溶接欠陥の検査が必要になってしまう。また、溶接による生産性は高くないうえ、溶接機自体が高価であり、さらに、電子ビーム溶接については、加工室内を真空にすることが必要となる。
【0011】
そこで、本発明は、簡素な工程で大歯車と動力伝達部材とを高強度で接合する動力伝達装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、大歯車と動力伝達部材とを備え、前記大歯車と前記動力伝達部材とが一体で構成され同一の回転軸を中心とする動力伝達装置の製造方法であって、前記大歯車に前記回転軸を中心とする円錐状の第1合わせ面を形成し、前記動力伝達部材に前記回転軸を中心とし前記第1合わせ面と合わさる円錐状の第2合わせ面を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の一方に前記回転軸を中心とし他方に向かって突出する突出部を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の他方に前記回転軸を中心とし前記突出部に対向した凹状の溝を形成する合わせ面形成工程と、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを対向させつつ、前記突出部と前記溝の底面とを突き合わせながら、前記大歯車及び前記動力伝達部材の一方を他方に対して前記回転軸を中心として回転させ、摩擦熱を生成する摩擦熱生成工程と、軸方向において前記大歯車と前記動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる押圧工程と、を含むことを特徴とする動力伝達装置の製造方法である。
【0013】
ここで、「円錐状」は、「円錐台状」も含むものする。
また、「前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる」は、第1合わせ面と第2合わせ面とがその全体で相互に密着するだけでなく、後記するように、線状等の部分的に密着する形態を含む。
【0014】
このような構成によれば、合わせ面形成工程において、大歯車に円錐状の第1合わせ面を形成し、動力伝達部材に円錐状の第2合わせ面を形成すると共に、大歯車及び動力伝達部材の一方に突出部を形成し、他方に凹状の溝を形成する。
そして、摩擦熱生成工程において、第1合わせ面と第2合わせ面とを対向させつつ、突出部と溝の底面とを突き合わせながら、大歯車及び動力伝達部材の一方を他方に対して回転軸を中心として回転させることにより、突出部と溝の底面との突き合わせ部において、摩擦熱が生成(発生)し、この摩擦熱により大歯車と動力伝達部材との突き合わせ部が軟化し、大歯車と動力伝達部材とが摩擦接合される。
そして、前記突き合わせ部が完全に固体化する前に、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、第1合わせ面と第2合わせ面とを密着させることにより、大歯車と動力伝達部材との中心を一致させながら接合できる。
【0015】
ここで、第1合わせ面と第2合わせ面とは、製造後の回転軸を中心とする円錐状の面であるから、押圧工程において、第1合わせ面と第2合わせ面とを密着させ、その間の隙間を無くすことにより、大歯車の中心軸と、動力伝達部材の中心軸とが一致することになる。よって、大歯車とその相手ギヤ(ドライブピニオンのギヤ部等)との間において、噛合いにずれが発生することはない。
【0016】
また、摩擦熱によって突出部が軟化しバリが発生するが、このバリは突出部の相手側の溝内で発生し、製造後の動力伝達装置の外表面に現れない。
【0017】
さらに、このように摩擦接合によって、大歯車と動力伝達部材とを接合するので、ブローホール等の溶接不良は発生せず、その検査も簡略化できる。また、摩擦圧接機は溶接機に対して一般に安価であり、さらに、電子ビーム溶接のように加工室内を真空にする必要も無い。
【0018】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、前記回転軸に対する前記第1合わせ面の第1傾斜角度と、前記回転軸に対する前記第2合わせ面の第2傾斜角度とは、異ならせることも可能である。
【0019】
このような構成によれば、第1合わせ面の第1傾斜角度と、第2合わせ面の第2傾斜角度とが異なるので、第1合わせ面と第2合わせ面との接触部(合わせ部)は、線状、つまり、回転軸を中心とする円周状となる。
これにより、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧すると、その押圧力が前記線状の接触部に集中し、大歯車及び/又は動力伝達部材が、前記接触部において弾性変形又は塑性変形し易くなる。したがって、軸方向において、大歯車と動力伝達部材とが相対的に近づき易くなる。
【0020】
よって、大歯車の表面であって第1合わせ面以外で動力伝達部材に対向する第1対向面(後記する実施形態では背面13)が、動力伝達部材に当接(接触)し密着し易くなる。これと同様に、動力伝達部材の表面であって第2合わせ面以外で大歯車に対向する第2対向面(後記する実施形態ではフランジ面25a)が、大歯車に当接(接触)し密着し易くなる。
【0021】
このようにして、製造後の動力伝達装置において、大歯車の第1対向面が動力伝達部材に密着し、動力伝達部材の第2対向面が大歯車に密着した構成となるので、例えば、大歯車が、大歯車の回転軸が動力伝達部材の回転軸から倒れる方向(大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とが離れる方向)に、噛合い反力を受けたとしても、大歯車は動力伝達部材に対して倒れ難くなり、大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とがずれ難くなる。
なお、第1対向面、第2対向面は、後記する実施形態のように、押圧方向(回転軸)に対して直交する面であることが好ましく、また、軸方向において、第1対向面と第2対向面とが対向して配置され、第1対向面と第2対向面とが密着する構成であることが好ましい。
【0022】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、縦断面視において、前記第1合わせ面及び前記第2合わせ面の一方は、他方に向かって円弧状で突出していることが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、第1合わせ面及び第2合わせ面の一方は、他方に向かって円弧状で突出しているので、第1合わせ面と第2合わせ面との接触部(合わせ部)は、線状、つまり、回転軸を中心とする円周状となる。
これにより、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧すると、その押圧力が前記線状の接触部に集中し、大歯車及び/又は動力伝達部材が、前記接触部において弾性変形又は塑性変形し易くなる。したがって、軸方向において、大歯車と動力伝達部材とが相対的に近づき易くなる。
【0024】
よって、大歯車の表面であって第1合わせ面以外で動力伝達部材に対向する第1対向面(後記する実施形態では背面13)が、動力伝達部材に当接(接触)し密着し易くなる。これと同様に、動力伝達部材の表面であって第2合わせ面以外で大歯車に対向する第2対向面(後記する実施形態ではフランジ面25a)が、大歯車に当接(接触)し密着し易くなる。
【0025】
このようにして、製造後の動力伝達装置において、大歯車の第1対向面が動力伝達部材に密着し、動力伝達部材の第2対向面が大歯車に密着した構成となるので、例えば、大歯車が、大歯車の回転軸が動力伝達部材の回転軸から倒れる方向(大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とが離れる方向)に、噛合い反力を受けたとしても、大歯車は動力伝達部材に対して倒れ難くなり、大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とがずれ難くなる。
なお、第1対向面、第2対向面は、後記する実施形態のように、押圧方向(回転軸)に対して直交する面であることが好ましく、また、軸方向において、第1対向面と第2対向面とが対向して配置され、第1対向面と第2対向面とが密着する構成であることが好ましい。
【0026】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、前記動力伝達部材は、駆動輪が取り付けられるハブ部材であることが好ましい。
【0027】
このような構成によれば、大歯車と、駆動輪と同軸線上に配置されるハブ部材とを良好に接合できる。
【0028】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、前記動力伝達部材は、デフケースであることが好ましい。
【0029】
このような構成によれば、大歯車と、デフケースとを良好に接合できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、簡素な工程で大歯車と動力伝達部材とを高強度で接合する動力伝達装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態に係る二輪車用の動力伝達装置を備える終減速装置の断面図であり、回転軸O1を通る縦断面図である。
【図2】(a)は、第1実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図3】(a)は、第1実施形態に係る動力伝達装置の製造方法を説明する縦断面図であって摩擦熱生成前を示しており、(b)は、(a)の拡大図である。
【図4】(a)は、第1実施形態に係る動力伝達装置の製造方法を説明する縦断面図であって摩擦生成後、押圧前を示しており、(b)は、(a)の拡大図である。
【図5】(a)は、第2実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図6】(a)は、第3実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図7】第4実施形態に係る四輪車用の動力伝達装置を備える終減速装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
≪第1実施形態≫
第1実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
ここでは、動力伝達装置が二輪車(車両)の後輪部分に適用された構成を例示する。そして、明確に説明するため、図1〜図4に「前後左右」を付す。なお、「左右上下」は、二輪車の「前後左右」に対応している。また、図1〜図4において、リングギヤ10とハブ部材20との隙間は大きめに記載している。
【0033】
≪終減速装置の構成≫
終減速装置100は、推進軸(図示しない)に連結され前後方向に延びるドライブピニオン110と、動力伝達装置1とを備え、推進軸の動力を略90°偏向させつつ減速して、動力伝達装置1を構成するハブ部材20に伝達する装置である。
【0034】
ドライブピニオン110は、車体に固定されたケース115に、軸受116を介して、回転自在に支持されている。ドライブピニオン110の前端は、適宜な連結機構を介して推進軸(図示しない)の後端と連結され、推進軸の動力がドライブピニオン110に入力されるようになっている。
【0035】
ドライブピニオン110のギヤ部111は、後記するリングギヤ10のギヤ部11と噛合している。
【0036】
≪動力伝達装置の構成≫
動力伝達装置1の構成を説明する。
動力伝達装置1は、リングギヤ10(大歯車)と、ハブ部材20(動力伝達部材)とを備えている。そして、リングギヤ10とハブ部材20とは、後記する突起14(突出部)と環溝26の底面26aとが摩擦接合すると共に、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが密着することで一体化している。なお、リングギヤ10とハブ部材20とは、同一の回転軸O1を中心としており、この回転軸O1は、後輪の回転中心でもある。また、リングギヤ10、ハブ部材20等、動力伝達装置1を構成する部品は、例えば、鋼製である。
【0037】
<リングギヤ>
リングギヤ10は、リング状を呈する部品であって、その中空部にハブ部材20が差し込まれ、ハブ部材20に固定されている。リングギヤ10のギヤ部11は、ドライブピニオン110のギヤ部111に噛合している。
【0038】
リングギヤ10の内周面は、第1合わせ面12を構成している。第1合わせ面12は、回転軸O1を中心とした円錐台状(円錐状)の面、つまり、その右端側が縮径したテーパ面である。すなわち、第1合わせ面12の内径は、左側から右側に進むにつれて、徐々に小さくなっている。
【0039】
リングギヤ10のハブ部材20側は、回転軸O1と直交する方向で広がると共にリング状を呈し平坦な背面13(第1対向面)となっており、背面13は後記するフランジ面25aと対向している。そして、背面13にはハブ部材20に向けて突出すると共に回転軸O1を中心としたリング状(環状)の突起14が形成されており、突起14は、後記する環溝26に収容されると共に、環溝26内でその底面26aと溶着(接合)し、ハブ部材20と接合されている。
【0040】
<ハブ部材>
ハブ部材20は、駆動輪である後輪のホイール(図示しない)が取り付けられる部品である。ハブ部材20は、左側(一端側)から右側(他端側)に向かって、大径部21と、縮径部22と、小径部23とを備えている。そして、大径部21が、軸受31、31を介して、ケース32に回転自在に支持されており、小径部23が、軸受33を介して、ケース32に回転自在に支持されている。なお、大径部21の左側の端面に、前記ホイールが取り付けられる。
【0041】
縮径部22は、右側(他端側)に向かうにつれて徐々に縮径した円錐台状を呈しており、その外周面は第2合わせ面24を構成している。第2合わせ面24は、回転軸O1を中心とした円錐台状(円錐状)の面、つまり、その右端側が縮径したテーパ面である。すなわち、第2合わせ面24の外径は、左側から右側に進むにつれて、徐々に小さくなっている。
【0042】
ここで、第1実施形態では、回転軸O1を通る縦断面視において、回転軸O1に対する第1合わせ面12の第1傾斜角度θ1と、回転軸O1に対する第2合わせ面24の第2傾斜角度θ2とは、等しくなっている(θ1=θ2、図2(b)、図3(b)参照)。そして、第1合わせ面12と、第2合わせ面24とは、面全体で相互に密着している。
【0043】
大径部21の上側(縮径部22側)には、リング状のフランジ25が形成されている。そして、フランジ25の上面(リングギヤ10側面)は、フランジ面25a(第2対向面)を構成しており、このフランジ面25aは、回転軸O1と直交する方向で広がると共にリング状を呈する平坦な面であり、前記した背面13と対向している。
【0044】
また、フランジ面25aには、前記した突起14に対向し回転軸O1を中心とする環状かつ凹状の環溝26が形成されている。そして、環溝26は、突起14を収容している。
なお、ハブ部材20側に環状の突起を形成し、リングギヤ10側に環状の溝を形成する構成としてもよい。
【0045】
≪動力伝達装置の製造方法≫
次に、動力伝達装置1の製造方法を説明する。
動力伝達装置1の製造方法は、合わせ面を形成する合わせ面形成工程と、リングギヤ10とハブ部材20とを相対回転させ摩擦熱を生成する摩擦熱生成工程と、リングギヤ10とハブ部材20とを押圧する押圧工程(アプセット工程)と、を含む。
【0046】
<合わせ面形成工程>
図3に示すように、リングギヤ10の内周面に第1合わせ面12を形成し、ハブ部材20の外周面に第2合わせ面24を形成する。第1合わせ面12は、母体となるリングギヤの内周面を、例えば、旋盤によって、研削・研磨することで形成する。第2合わせ面24は、母体となるハブ部材の外周面を、例えば、旋盤によって、研削・研磨することで形成する。
【0047】
また、リングギヤ10のハブ部材20側に、研削等によって、リング状の突起14及び背面13を形成する。なお、リング状の突起14に代えて、例えば、周方向において所定間隔で突起を形成してもよい。
一方、ハブ部材20のフランジ25のフランジ面25aに、研削等によって、環状の環溝26を形成する。
【0048】
<摩擦熱生成工程>
リングギヤ10とハブ部材20とを摩擦圧接機(図示しない)に取り付け、リングギヤ10とハブ部材20とを同一の回転軸O1上に配置しながら、軸方向において相対的に近づけ、第1合わせ面12と第2合わせ面24との間に隙間を形成しつつ対向させながら、突起14と環溝26の底面26aとを第1押圧力P1で突き合せる。そうすると、突起14は環溝26に収容され、突起14の左側端と環溝26の底面26aとが突き合わさった状態となる。
【0049】
このように第1合わせ面12と第2合わせ面24とが対向し、突起14と底面26aとが突き合わさった状態で、回転軸O1を回転中心として、リングギヤ10及びハブ部材20の一方を他方に対して高速で回転させる。
【0050】
そうすると、図4(a)に示すように、突起14と環溝26の底面26aとが突き合わさった突き合せ部において、摩擦熱が生成する。そして、この摩擦熱によって、突起14と環溝26の底面26aとが、軟化・溶融し、この突き合せ部において、リングギヤ10とハブ部材20とが接合(拡散結合)する(図4(b)参照)。
【0051】
なお、この段階では、図4(b)に示すように、第1合わせ面12と第2合わせ面24との間には、僅かに隙間が残っている。
【0052】
<押圧工程>
その後、リングギヤ10及びハブ部材20の一方の回転を急停止する。そして、突起14と環溝26の底面26aとの突き合わせ部(接合部、溶着部)が完全に固体化する前に、第1押圧力P1より高い第2押圧力P2(P2>P1)で、リングギヤ10及びハブ部材20の一方を他方に対して押圧し、リングギヤ10とハブ部材20とを相対的に近づける。
【0053】
そうすると、図2(a)、図2(b)に示すように、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが密着してリングギヤ10とハブ部材20の中心が一致する。これと同時に、突起14と環溝26の底面26aとの接合部においては、突起14と環溝26との間に介在している不純物が、環溝26内であってその接合部の外へ押し出されることで、リングギヤ10とハブ部材20との接合がより確実なものとなる。
なお、前記外へ押し出された不純物は、環溝26内でバリとなり、外部に露出しない。
【0054】
<その他の工程>
その後、一体化したリングギヤ10及びハブ部材20を、常温(例えば25℃)まで自然冷却すると、動力伝達装置1を得る。
【0055】
≪動力伝達装置の製造方法の効果≫
このような動力伝達装置1の製造方法によれば、次の効果を得る。
第1合わせ面12と第2合わせ面24とは、製造後の回転軸O1を中心とする円錐台状の面であるから、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが押圧工程によって密着することにより、つまり、リングギヤ10とハブ部材20とを相対的に近づけるにつれて、リングギヤ10の中心軸と、ハブ部材20の中心軸とが、回転軸O1に近づき、一致する。これにより、例えば、リングギヤ10とドライブピニオン110との間において、噛合いにずれが発生することはない。
【0056】
また、突起14において摩擦接合する際に生じるバリは、ハブ部材20の溝状の環溝26内で形成されるので、動力伝達装置1の外部に現れず、バリの脱落によるギヤ噛合部への噛み込み等の不良の心配も無い。
【0057】
さらに、摩擦接合によってリングギヤ10とハブ部材20とを接合するので、ブローホール等の溶接不良は発生せず、その検査も簡略化できる。また、摩擦圧接機は一般に安価であり、さらに、電子ビーム溶接のように加工室内を真空にする必要も無い。
【0058】
≪第1実施形態−変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、後記する形態の構成と適宜に組み合わせてもよいし、また、次のように変更してもよい。なお、後記する形態についても同様である。
【0059】
前記した実施形態では、図3に示すように、リングギヤ10に突起14を形成し、ハブ部材20に環溝26を形成したが、その他に例えば、リングギヤ10に環溝を形成し、ハブ部材20に環条を形成してもよい。また、リングギヤ10に突起14に加えて環溝を形成し、ハブ部材20に環溝26に加えて前記環溝に対応した突起を形成してもよい。
【0060】
前記した実施形態では、ハブ部材20がリングギヤ10を貫通した構成を例示したが、貫通しない構成でもよい。すなわち、リングギヤ10のハブ部材20側に、円錐状の穴を形成し、この穴の周面を第1合わせ面としてもよい。
【0061】
前記した実施形態では、動力伝達部材がハブ部材20である構成を例示したが、これに限定されることはない。
前記した実施形態では、リングギヤ10に動力が入力される構成を例示したが、ハブ部材20に動力が入力される構成でもよい。
【0062】
≪第2実施形態≫
第2実施形態について、図5を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0063】
動力伝達装置1の構成について、異なる部分を説明する。
図5(a)、図5(b)に示すように、縦断面視において、回転軸O1に対する第1合わせ面12の第1傾斜角度θ1と、回転軸O1に対する第2合わせ面24の第2傾斜角度θ2とは、異なっている。具体的には、第1傾斜角度θ1は、第2傾斜角度θ2よりも大きい(θ1>θ2)。そして、第1合わせ面12と第2合わせ面24とは線接触、つまり、周方向において円周状で接触している。
【0064】
また、図5(b)に示すように、リングギヤ10の背面13と、ハブ部材20のフランジ面25aとは、相互に密着(当接)した構成となっている。
これにより、例えば、リングギヤ10がこれに噛合するドライブピニオン110(図1参照)から、図5(a)において、リングギヤ10の前側部分を左向き(図5(a)の紙面下向き)に押す噛合い反力を受けたとしても、背面13とフランジ面25aとが密着した状態であるので、リングギヤ10はハブ部材20に対して倒れず、リングギヤ10の回転軸とハブ部材20の回転軸とがずれることはない。
【0065】
動力伝達装置1の製造方法について、異なる部分を説明する。
摩擦熱生成工程において、リングギヤ10及びハブ部材20の一方を他方に対して回転させると、突起14と環溝26の底面26aとが接触して突き合わさる突き合わせ部において、摩擦熱が生じ、摩擦接合される。
【0066】
次いで、押圧工程において、軸方向でリングギヤ10とハブ部材20とが相対的に近づく向きで押圧すると、傾斜角度の異なる第1合わせ面12と第2合わせ面24とが線状(円周状)の接触部(合わせ部)で接触し、リングギヤ10の中心とハブ部材20の中心とが一致しつつ、その押圧力が線状の接触部に集中する。
【0067】
これにより、リングギヤ10及び/又はハブ部材20が前記接触部において弾性変形又は塑性変形し、リングギヤ10とハブ部材20とが軸方向においてさらに近づく。
その後、さらに押圧が進むと、背面13とフランジ面25aとの隙間が無くなり、図5(b)に示すように、背面13とフランジ面25aとが密着した状態となる。
【0068】
≪第3実施形態≫
第3実施形態について、図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0069】
動力伝達装置1の構成について、異なる部分を説明する。
図6(a)、図6(b)に示すように、縦断面視において、第1合わせ面12の中央部は、第2合わせ面24に向かって円弧状で突出している。そして、第1合わせ面12と第2合わせ面24とは、第2実施形態と同様に、線接触、つまり、周方向において円周状で接触している。
なお、第2合わせ面24を円弧状としてもよいし、第1合わせ面12及び第2合わせ面24の両方を円弧状としてもよい。
【0070】
また、図6(b)に示すように、リングギヤ10の背面13と、ハブ部材20のフランジ面25aとは、相互に密着(当接)した構成となっている。
これにより、例えば、リングギヤ10がこれに噛合するドライブピニオン110(図1参照)から、図6(a)において、リングギヤ10の前側部分を左向き(図6(a)の紙面下向き)に押す噛合い反力を受けたとしても、背面13とフランジ面25aとが密着した状態であるので、リングギヤ10はハブ部材20に対して倒れず、リングギヤ10の回転軸とハブ部材20の回転軸とがずれることはない。
【0071】
動力伝達装置1の製造方法について、異なる部分を説明する。
摩擦熱生成工程において、リングギヤ10及びハブ部材20の一方を他方に対して回転させると、突起14と環溝26の底面26aとが接触して突き合わさる突き合わせ部において、摩擦熱が生じ、摩擦接合される。
【0072】
次いで、押圧工程において、軸方向でリングギヤ10とハブ部材20とが相対的に近づく向きで押圧すると、第1合わせ面12の中央部と第2合わせ面24とが線状(円周状)の接触部(合わせ部)で接触し、リングギヤ10の中心とハブ部材20の中心とが一致しつつ、その押圧力が線状の接触部に集中する。
【0073】
これにより、リングギヤ10及び/又はハブ部材20が前記接触部において弾性変形又は塑性変形し、リングギヤ10とハブ部材20とが軸方向においてさらに近づく。
その後、さらに押圧が進むと、背面13とフランジ面25aとの隙間が無くなり、図6(b)に示すように、背面13とフランジ面25aとが密着した状態となる。
【0074】
≪第5実施形態≫
第5実施形態について、図7を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0075】
図7は、動力伝達部材をデフケース230とし、本発明を四輪車の終減速装置200に適用した構成を例示する図である。終減速装置200は、ドライブピニオン210と、リングギヤ10と、デフ装置220と、を備えている。ドライブピニオン210は、車体に固定されたケース215に、軸受216、216を介して回転自在に支持されている。ドライブピニオン210の前端は、推進軸(図示しない)の後端と連結され、推進軸の動力がドライブピニオン210に入力されるようになっている。
【0076】
ドライブピニオン210のギヤ部211は、リングギヤ10のギヤ部11と噛合している。
【0077】
デフ装置220は、デフケース230と、デフギヤと、を備えている。デフギヤは、ピニオンギヤ241、241と、サイドギヤ242、242と、を備えている。デフケース230は、車体に固定されたケース235に、軸受236、236を介して回転自在に支持されており、その回転軸O1は後輪の回転中心である。そして、動力伝達装置2は、リングギヤ10と、デフケース230とを備えて構成されている。
【0078】
そして、デフケース230の外周面の一部には、回転軸O1を中心とする円錐台状の第2合わせ面231が形成されており、第2合わせ面231は、リングギヤ10の第1合わせ面12と密着した状態となっている。
【0079】
また、デフケース230には、環状の環溝233が形成されており、環溝233は、リングギヤ10の突起14を収容すると共に、環溝233の底面は突起14と摩擦接合している。
これらの作用効果については、第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【符号の説明】
【0080】
1、2 動力伝達装置
10 リングギヤ(大歯車)
12 第1合わせ面
13 背面(第1対向面)
14 突起(突出部)
20 ハブ部材(動力伝達部材)
24 第2合わせ面
25 フランジ面(第2対向面)
26 環溝
26a 底面
100、200 終減速装置
110、210 ドライブピニオン
230 デフケース(動力伝達部材)
231 第2合わせ面
O1 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大歯車と動力伝達部材とを備え、前記大歯車と前記動力伝達部材とが一体で構成され同一の回転軸を中心とする動力伝達装置の製造方法であって、
前記大歯車に前記回転軸を中心とする円錐状の第1合わせ面を形成し、前記動力伝達部材に前記回転軸を中心とし前記第1合わせ面と合わさる円錐状の第2合わせ面を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の一方に前記回転軸を中心とし他方に向かって突出する突出部を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の他方に前記回転軸を中心とし前記突出部に対向した凹状の溝を形成する合わせ面形成工程と、
前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを対向させつつ、前記突出部と前記溝の底面とを突き合わせながら、前記大歯車及び前記動力伝達部材の一方を他方に対して前記回転軸を中心として回転させ、摩擦熱を生成する摩擦熱生成工程と、
軸方向において前記大歯車と前記動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる押圧工程と、
を含む
ことを特徴とする動力伝達装置の製造方法。
【請求項2】
前記回転軸に対する前記第1合わせ面の第1傾斜角度と、前記回転軸に対する前記第2合わせ面の第2傾斜角度とは、異なる
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の製造方法。
【請求項3】
縦断面視において、前記第1合わせ面及び前記第2合わせ面の一方は、他方に向かって円弧状で突出している
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の製造方法。
【請求項4】
前記動力伝達部材は、駆動輪が取り付けられるハブ部材である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の動力伝達装置の製造方法。
【請求項5】
前記動力伝達部材は、デフケースである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の動力伝達装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−22633(P2013−22633A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161983(P2011−161983)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】