説明

動力伝達装置

【課題】第1の回転部材および第2の回転部材と、ベルトとの接触部分を潤滑および冷却することの可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達経路を形成する第1の回転部材1および第2の回転部材2と、第1の回転部材1および第2の回転部材2に巻き掛けられ、かつ、第1の回転部材1と第2の回転部材2との間で動力伝達をおこなうベルト7とを備えた動力伝達装置において、ベルト7が強磁性体により構成されており、第1の回転部材1または第2の回転部材2の少なくとも一方とベルト7との間に介在された磁性流体8と、第1の回転部材1または第2の回転部材2の少なくとも一方の回転部材、およびベルト7および磁性流体8を通る磁力を発生させる磁力発生機構5,6とを有しており、第1の回転部材1または第2の回転部材2の少なくとも一方とベルト7との間で、磁力により動力伝達がおこなわれる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両または産業機械に用いられる動力伝達装置、特に、第1の回転部材および第2の回転部材にベルトを巻き掛けた構成の動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両または産業機械に用いられる動力伝達装置には、巻き掛け伝動装置、歯車伝動装置などがある。このうち、巻き掛け伝動装置の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたベルト伝動装置は、駆動輪および受動輪に別個に取り付けられる大小1組のマグネットホイールと、このマグネットホイールに巻き掛けられるスチールベルトと、大マグネットホイールに取り付けられた永久磁石とを有する。そして、マグネットホイールにより磁力線が形成され、その磁力線の強さの範囲でスチールベルトが吸引されて、駆動輪と受動輪との間で動力伝達がおこなわれる、とされている。なお、この他の動力伝達装置は、特許文献2、3にも記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−27956号公報
【特許文献2】特開平4−131526号公報
【特許文献3】特開平5−106654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたベルト伝動装置では、マグネットホイールにスチールベルトを巻き掛けているため、マグネットホイールとスチールベルトとの接触部分を潤滑および冷却することができず、耐久性が低下する問題があった。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、第1の回転部材および第2の回転部材と、ベルトとの接触部分を潤滑および冷却することの可能な動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力伝達経路を形成する第1の回転部材および第2の回転部材と、この第1の回転部材と第2の回転部材との間で動力伝達をおこなうベルトとを備えた動力伝達装置において、前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の回転部材と、ベルトとの間に介在された磁性流体と、前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の回転部材、および前記磁性流体を通る磁力を発生させる磁力発生機構とを有しており、前記第1の回転部材または第2の回転部材のなくとも一方の回転部材と、前記ベルトとの間で、磁力により動力伝達がおこなわれる構成であることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記ベルトが前記第1の回転部材および前記第2の回転部材に巻き掛けられており、前記ベルトが磁性材料により構成されており、前記磁性流体が前記ベルトに接触する構成であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の構成に加えて、前記第1の回転部材または第2の回転部材と同軸上に、かつ、前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の外周を取り囲むように配置されたローラが設けられており、このローラと第1の回転部材または第2の回転部材とが相対回転可能であり、このローラに前記ベルトが巻き掛けられており、前記ローラと前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方との間に前記磁性流体が介在されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方に、前記磁力発生機構が設けられているものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの構成に加えて、前記磁力発生機構には、永久磁石または電磁石のうちの少なくとも一方が含まれることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの構成に加えて、前記磁力発生機構は、前記第1の回転部材または第2の回転部材のうちの少なくとも一方の回転部材が回転する時の中心となる軸線を中心とする円周方向で、前記磁力の発生位置を可変とする構成であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1ないし6の構成に加えて、前記磁力発生機構は、発生する磁界の強さを変更できる構成であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、磁性流体を通る磁力が発生し、その磁力により、第1の回転部材または第2の回転部材のうちの少なくとも一方の回転部材と、ベルトとの間で動力伝達がおこなわれる。また、ベルトと回転部材との接触部分を、磁性流体により潤滑および冷却できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、磁力がベルトを通る。
【0015】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、磁力がローラを通る。
【0016】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、回転部材に磁力発生機構が設けられているため、回転部材の軸線を中心とする円周方向では、回転部材とベルトとが相対移動しないか、または回転部材とローラとが相対移動しないため、渦電流の発生を回避できる。したがって、動力損失を抑制できる。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、永久磁石または電磁石により磁力が発生する。
【0018】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の回転部材が回転する時の中心となる軸線を中心とする円周方向で、磁力の発生位置を変更できる。
【0019】
請求項7の発明によれば、請求項1ないし6のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、第1の回転部材と第2の回転部材との間で伝達されるトルクに基づいて、磁界の強さを変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の動力伝達装置は、例えば、車両または工作機械に用いることが可能である。この発明の動力伝達装置は、トルクを伝達する装置である。この発明を車両に用いる場合、駆動力源と車輪との間で動力伝達装置を介して動力伝達がおこなわれる。また、この発明を工作機械に用いる場合、動力源の動力が工作物または工具に伝達されて、工作物または刃物が回転運動または往復運動する。上記の駆動力源または動力源としては、例えば、エンジン、電動モータ、油圧モータ、フライホイールなどのうち、少なくとも1つを用いることができる。また、この発明においては、第1の回転部材と第2の回転部材との間で、ベルトを介して動力伝達がおこなわれる。このベルトは、第1の回転部材および第2の回転部材に巻き掛けられていてもよいし、第1の回転部材または第2の回転部材の外側にローラを配置し、そのローラにベルトが巻き掛けられていてもよい。
【0021】
ここで、第1の回転部材または第2の回転部材にベルトを巻き掛ける構成では、そのベルトが磁性材料で構成され、ベルトと第1の回転部材または第2の回転部材との間に磁性流体が介在される。そして、磁性材料およびベルトを通る磁力が発生し、その磁力により、回転部材とベルトとの間で動力伝達がおこなわれる。これに対して、ローラを設ける構成では、ローラが磁性材料により構成され、ベルトは磁性材料でなくてもよい。そして、第1の回転部材または第2の回転部材とローラとの間に磁性流体が介在される。そして、ローラおよび磁性流体を通る磁力が発生し、第1の回転部材または第2の回転部材と、ローラとの間で動力伝達がおこなわれる。また、ベルトと第1の回転部材および第2の回転部材との間では、摩擦力により動力伝達がおこなわれる。
【0022】
この発明において、発生する磁界の強さを変更するにあたり、電磁コイルを有する構成であれば、電流を制御して磁界の強さを変更できる。また、発生する磁界の強さを変更するにあたり、永久磁石を有する構成であれば、永久磁石と、第1の回転部材または第2の回転部材との半径方向の距離を変更することにより、磁界の強さを変更できる。さらに、発生する磁界の強さを変更するにあたり、永久磁石を有する構成であれば、第1の回転部材または第2の回転部材の回転方向における永久磁石の磁界発生領域を拡大、または狭めることにより、磁界の強さを変更できる。
【0023】
この発明において、第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方と、ベルトとの間に磁性流体を介在する構成には、ベルトに直接磁性流体が接触する構成と、ベルトと磁性流体との間に別部材が設けられる構成とが含まれる。また、この発明における磁力を発生する磁力発生機構は、ベルトの内側またはベルトの外側に配置することができる。磁力発生機構をベルトの内側に配置する場合、例えば、回転部材に磁力発生機構の少なくとも一部を設けることができる。磁力発生機構としては、永久磁石または電磁石を用いることができる。つぎにこの発明の具体例を、図面に基づいて説明する。
【0024】
(第1具体例)
この発明の動力伝達装置を車両に用いる場合の第1具体例を、図1および図2に基づいて説明する。図1および図2において、中空のケーシング(図示せず)内に動力伝達装置が設けられている。上記のケーシングは車体(図示せず)の下方に配置されている。この動力伝達装置は、第1の回転部材である駆動輪1と、第2の回転部材である受動輪2とを有している。前記駆動輪1は水平方向に配置された軸線A1を中心として回転可能に設けられている。また、受動輪2は水平方向に配置された軸線A2を中心として回転可能に設けられている。そして、軸線A1,A2同士が平行に配置されているとともに、駆動輪1および受動輪2は、共に軸受(図示せず)により回転可能に支持されている。上記の駆動輪1および受動輪2は、何れもトルクを伝達する回転要素であり、この駆動輪1および受動輪2は、回転軸、ローラ、ドラムなどにより構成される。つまり、駆動輪1および受動輪2は、軸線A1,A2と垂直な平面内で、外周形状(輪郭)が円形となっていればよく、中実または中空のいずれでもよい。また、駆動輪1は駆動力源(図示せず)と動力伝達可能に接続されており、受動輪2は、被駆動部材である車輪(図示せず)と動力伝達可能に接続されている。
【0025】
前記駆動輪1または受動輪2の少なくとも一方には、その外周面に全周に亘って溝が形成されており、その溝に電磁コイルが配置されている。第1具体例では、駆動輪1に溝3が形成され、かつ、受動輪2に溝4が形成されており、駆動輪1に電磁コイル5が巻き付けられ、かつ、受動輪2に電磁コイル6が巻き付けられているものとする。また、電磁コイルが巻かれた駆動輪1および受動輪2の外周には、一対の電極(図示せず)が取り付けられており、その電極に前記電磁コイル5,6の両端が接続されている。このように、電磁コイルが巻き付けられた駆動輪1および受動輪2は、磁性材料により構成されている。この磁性材料は強磁性の性質を示すものであり、例えば、鉄、ケイ素鋼、スチールなどを用いることができる。また、前記ケーシング内には通電用のブラシ(図示せず)が一対設けられており、そのブラシが電極に別個に接触されている。
【0026】
一方、車体には電源(図示せず)が設けられている。電源としては、充電および放電をおこなうことの可能な二次電池、例えば、バッテリまたはキャパシタを用いることができる。さらに、電源として燃料電池を用いることもできる。そして、この電源に接続された電気回路にブラシが配置されている。さらに、前記電気回路を接続および遮断するスイッチ(図示せず)、および電磁コイルに供給する電力の電流および電圧を制御するコントローラ(図示せず)が設けられている。また、車両を制御する電子制御装置(図示せず)が設けられており、駆動力源から駆動輪1に入力されるトルク、車両を前進または後進させる要求などが電子制御装置により検知され、電子制御装置からはコントローラを制御する信号が出力される。
【0027】
さらに、前記駆動輪1および受動輪2にはベルト7が巻き掛けられている。このベルト7は環状、または無端状であり、ベルト7は磁性材料により構成されている。ベルト7を構成する磁性材料としては、スチールが挙げられる。このベルト7は可撓性を有しており、駆動輪1および受動輪2の外周形状に沿って弾性変形することができる。そして、前記ケーシング内には磁性流体8が溜められている。この磁性流体8は、粒径が数十μmないし数μmの強磁性の粉粒体をオイルに混入した流体であり、磁束が作用することによりその粉粒体が相互に繋がり、その結果、実質的な粘度が増大するようになっている。また、この磁性流体8は、磁気を印加することにより、あるいは磁場中で流動性が低下し、もしくは固化する流体である。すなわち、磁気が印加されると、磁界の強さに応じて磁性流体8のせん断力が変化する。前記動力伝達装置の全部が磁性流体8内に浸漬されているため、ベルト7と駆動輪1との間、およびベルト7と受動輪2との間に、磁性流体8が介在されている。なお、図1では、便宜上、ベルト7が駆動輪1に巻き掛かっている部分、ベルト7が受動輪2に巻き掛かっている部分にのみ、磁性流体8が示されている。この理由は後述する。
【0028】
この第1具体例の作用を説明すると、前記電気回路のスイッチが遮断されて、駆動輪1の電磁コイル5に電流が流れない場合は磁力が発生しないため、駆動輪1とベルト7との間のトルク容量は相対的に低い。このとき、駆動力源のトルクが駆動輪1に伝達されると、駆動輪1とベルト7との間に滑りが生じる。したがって、駆動輪1と受動輪2との間における動力伝達が遮断される。なお、スイッチが遮断されている場合の他、スイッチが接続されているものの電源の電力が不足している場合、または、電気回路の断線などのフェールにより、電磁コイル5に電力が流れない場合も、駆動輪1のトルクは受動輪2には伝達されない。
【0029】
これに対して、電気回路のスイッチが接続されて、駆動輪1の電磁コイル5に電流が流れると、図2に示すように、駆動輪1および磁性流体8およびベルト7を通る磁気回路9が形成され、磁力が発生する。つまり、駆動輪1および電磁コイル5が電磁石となる。ここで、電磁コイル5に電流が流れて形成される磁気回路9は、抵抗の少ないところを通る性質があるため、実際には、駆動輪1の全周に亘って形成される訳ではなく、軸線A1を中心とする半径方向で、ベルト7と駆動輪1との距離が所定値以下である箇所で、磁気回路9が形成される。具体的には、駆動輪1の全周方向で、ベルト7が巻き掛かっている領域、つまり、180度の範囲内に磁界が形成される。図1で駆動輪1の外周に磁性流体8が示されている範囲は、この磁界が形成されている範囲に整合させてある。
【0030】
また、電気回路のスイッチが接続されて、受動輪2の電磁コイル6に電流が流れると、受動輪2および磁性流体8およびベルト7を通る磁気回路10が形成され、磁力が発生する。つまり、受動輪2および電磁コイル6が電磁石となる。ここで、電磁コイル6に電流が流れて形成される磁気回路9は、上記と同じ原理により、軸線A2を中心とする半径方向で、ベルト7と受動輪2との距離が所定値以下である箇所で、磁気回路10が形成される。具体的には、受動輪2の全周方向で、ベルト7が巻き掛かっている領域、つまり、180度の範囲内に磁界が形成される。図1で受動輪2の外周に磁性流体8が示されている範囲は、この磁界が形成されている範囲に整合させてある。
【0031】
上記のように、電磁コイル5,6に電流が流れると磁界が形成される。図3の線図には、電磁コイル5,6に流れる電流と磁界の強さとの関係が示されている。この図3によれば、電流が所定値以下であれば、電流が相対的に高くなることにともない、磁界の強さが相対的に高くなる傾向となることが分かる。また、電流が所定値を越えると、電流が変化しても、磁界の強さは一定となる。また、図4に示すように、磁界の強さが増加することに伴い、磁性流体8のせん断力が大きくなる。このため、電流が高められて磁界の強さが増加すると、駆動輪1の動力がベルト7に伝達されてベルト7が回転するとともに、ベルト7の動力が受動輪2に伝達される。このようにして、駆動輪1のトルクがベルト7を経由して受動輪2に伝達される。なお、受動輪2の電磁コイル6に電流が流れていなければ、ベルト7と受動輪2との間に滑りが生じるため、ベルト7の動力は受動輪2に伝達されない。この第1具体例において、電磁コイル5,6に流れる電流と、駆動輪1と受動輪2との間で伝達される最大トルク(トルク容量)との関係を図5に示す。この図5によれば、電流が高くなるほど最大トルクが増加することが分かる。したがって、駆動輪1に入力されるトルクが相対的に高くなるほど、電磁コイル5,6に流れる電流値を相対的に高く制御して、動力伝達装置のトルク容量を制御することができる。上記のように、動力伝達装置は、駆動輪1と受動輪2との間で動力伝達をおこなう機能に加えて、伝達されるトルク容量を制御するクラッチとしての機能をも兼備している。
【0032】
また、第1具体例では、動力伝達装置がクラッチの機能を有しているため、専用のクラッチを設けずに済み、部品点数の増加を抑制できるとともに、動力伝達装置の製造コストの上昇を抑制できる。また、専用のクラッチを設けずに済むため、動力伝達装置の体格が大型化することを抑制できる。さらに、磁性流体8はオイルを主成分としているため、ベルト7と駆動輪1との接触部分、およびベルト7と受動輪2との接触部分を、潤滑および冷却することができる。したがって、ベルト7と駆動輪2との接触部分、およびベルト7と受動輪2との接触部分の摩擦力を低減し、かつ、摩耗および焼き付きを抑制でき、ベルト7および駆動輪1および受動輪2の耐久性を向上することができる。
【0033】
この第1具体例は、請求項1、2、4、5、7に対応している。また、第1具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、駆動輪1が、この発明の第1の回転部材に相当し、受動輪2が、この発明の第2の回転部材に相当し、ベルト7が、この発明のベルトに相当し、磁性流体8が、この発明の磁性流体に相当し、駆動輪1および受動輪2および電磁コイル5,6および電源およびスイッチおよび電気回路および電極が、この発明の磁力発生機構に相当し、駆動輪1および受動輪2および電磁コイル5,6が、この発明の電磁石に相当する。
【0034】
(第2具体例)
つぎに、動力伝達装置の第2具体例を図6に基づいて説明する。この第2具体例において、第1具体例と同じ構成部分については第1具体例と同じ符号を付してある。この第2具体例では、駆動輪1または受動輪2の少なくとも一方に永久磁石を取り付けてある。ここでは、駆動輪1および受動輪2の両方に永久磁石を取り付けた例を説明する。まず、駆動輪1の少なくとも一部が永久磁石11により構成されている。永久磁石11は、軸線に沿った方向に配置されたN極とS極とを有している。また、駆動輪1には溝3が形成されており、その溝3には電磁コイル5が配置されている。一方、受動輪2の少なくとも一部が永久磁石12により構成されている。永久磁石12は、軸線に沿った方向に配置されたN極とS極とを有している。また、受動輪1には溝4が形成されており、その溝4には電磁コイル6が配置されている。このように構成された駆動輪1および受動輪2を、図1の駆動輪1および受動輪2に代えて用いることができる。
【0035】
この第2具体例においては、電磁コイル5に電流が流れていない場合、永久磁石11により磁気回路9が形成されている。ここで、磁気回路9を示す磁力線はN極から出てS極に向かうため、その磁力線の向きを示す矢印が時計回りとなっている。また、電磁コイル6に電流が流れていない場合、永久磁石12により磁気回路10が形成されている。ここで、磁気回路10を示す磁力線はN極から出てS極に向かうため、その磁力線の向きを示す矢印が時計回りとなっている。このように、第2具体例では、電磁コイル5,6に電流が流れていない場合に磁界が形成されるため、第1具体例と同じ原理により、駆動輪1と受動輪2との間でトルクが伝達される。
【0036】
つぎに、この第2具体例において、電磁コイル5,6に電流を流す作用を説明する。電磁コイル5に電流が流れると、第1具体例と同じ原理により磁気回路が形成される。このとき、永久磁石11により形成される磁力線の向きと、電磁コイル5により形成される磁力線の向きとが逆になるように、電磁コイル5を流れる電流の向きが決定されている。このように、電磁コイル5に電流が流れると、永久磁石11により形成される磁力線の向きと、電磁コイル5により形成される磁力線の向きとが逆になる。このため、電磁コイル5に電流が流れていない場合に比べて、電磁コイル5に電流が流れているときの方が、磁性流体8を通る磁界の強さが相対的に弱くなり、駆動輪1とベルト7との間で伝達される最大トルクが相対的に低下する。そして、永久磁石11により形成される磁界の強さと、電磁コイル5により形成される磁界の強さとが同じになるように、電磁コイル5に流れる電流を制御すると、駆動輪1とベルト7との間における動力伝達が遮断される。
【0037】
さらに、受動輪2における動力伝達作用を説明する。まず、永久磁石12により形成される磁力線の向きと、電磁コイル6により形成される磁力線の向きとが逆になるように、電磁コイル6を流れる電流の向きが決定されている。このように、電磁コイル6に電流が流れると、永久磁石12により形成される磁力線の向きと、電磁コイル6により形成される磁力線の向きとが逆になる。このため、電磁コイル6に電流が流れている場合は、電磁コイル6に電流が流れていない場合に比べて、磁性流体8を通る磁界の強さが相対的に弱くなり、受動輪2とベルト7との間で伝達される最大トルクが相対的に低下する。そして、永久磁石12により形成される磁界の強さと、電磁コイル6により形成される磁界の強さとが同じになるように、電磁コイル6に流れる電流を制御すると、受動輪2とベルト7との間における動力伝達が遮断される。
【0038】
この第2具体例において、電磁コイル5,6を流れる電流の向きは、フレミング左手の法則に基づいて決定すればよい。また、第2具体例では、駆動輪1に永久磁石11が設けられ、受動輪2に永久磁石12が設けられているため、電源の電力不足、またはフェールにより、電磁コイル5,6の両方に電力を供給することができないときでも、駆動輪1と受動輪2との間で動力伝達をおこなうことができる。したがって、車両のリンプフォーム性能を確保できる。
【0039】
なお、第2具体例において、永久磁石により形成される磁力線の向きと、電磁コイルにより形成される磁力線の向きとが同じになるように、電磁コイルに流れる電流の向きを決定することも可能である。すると、電磁コイルに電流が流れた場合は、電磁コイルに電流が流れない場合に比べて、磁性流体を通る磁界の強さが相対的に強くなり、駆動輪と受動輪との間で伝達される最大トルクが相対的に増加する。この第2具体例でも、駆動輪1に入力されるトルクに基づいて、電磁コイル5,6に流れる電流値を制御することにより、形成される磁界の強さを制御可能である。この第2具体例は、請求項1、2、4、5、7に対応しており、永久磁石11,12が、磁力発生機構に含まれる。なお、第2具体例で説明したその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、第1具体例の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0040】
(第3具体例)
つぎに、動力伝達装置の第3具体例を、図7ないし図9に基づいて説明する。この第3具体例では、駆動輪1と同軸上に円筒形状のローラ20が配置され、受動輪2と同軸上に円筒形状のローラ21が配置されている。前記軸線A1を中心とする半径方向で、駆動輪1の外側にローラ20が配置されており、駆動輪1とローラ20とが相対回転可能な状態で、軸受(図示せず)により支持されている。また、前記軸線A21を中心とする半径方向で、受動輪2の外側にローラ21が配置されており、受動輪2とローラ21とが相対回転可能な状態で、軸受(図示せず)により支持されている。この第3具体例では、ローラ20,21が共に磁性材料、例えば、鉄、ケイ素鋼、スチールにより構成されている。上記のローラ20およびローラ21にベルト7が巻き掛けられている。なお、この第3具体例では、ベルト7は磁性材料で構成してもよいし、磁性材料以外の材料で構成してもよい。ベルト7を磁性材料以外の材料で構成する場合は、ベルト7とローラ20との接触面、および、ベルト7とローラ7との接触面で、動力伝達に必要な摩擦力が発生するように、ベルト7に張力が与えられる。
【0041】
また、駆動輪1の外周には、一定の間隔をおいて溝13が形成されている。この溝13内には、図8のように、半径方向に延ばされた軸14が配置されており、その軸14には電磁コイル15が巻かれている。つまり、図9に示すように、駆動輪1には複数の電磁コイル15が放射状に取り付けられている。そして、複数の電磁コイル15について、個別に通電および非通電を制御することが可能である。電磁コイル15に通電する構成は、第1具体例と同じである。また、複数の電磁コイル15について、個別に電流および電圧制御可能である。
【0042】
一方、受動輪2の外周には一定の間隔をおいて溝16が形成されている。この溝16内には、半径方向に延ばされた軸17が配置されており、その軸17には電磁コイル18が巻かれている。つまり、図9に示すように、受動輪2には複数の電磁コイル18が放射状に取り付けられている。そして、複数の電磁コイル18について、個別に通電および非通電を制御することが可能である。電磁コイル18に通電する構成は第1具体例と同じである。また、複数の電磁コイル18について、個別に電流および電圧制御可能である。
【0043】
さらに、この第3具体例では、図9に示すように、前記駆動輪1の外周面と、ローラ20の内周面との間に磁性流体が介在され、前記受動輪2の外周面と、ローラ21の内周面との間に磁性流体が介在されている。この図9では便宜上、軸線A1を中心とする円周方向の半分、および軸線A2を中心とする円周方向の半分に、磁性流体8が示されている。その理由は後述する。
【0044】
この第3具体例において、全ての電磁コイル15に電流が流れていない場合は磁界が形成されない。このため、駆動輪1が回転しても、駆動輪1とローラ20とが相対回転するため、駆動輪1とベルト7との間では動力伝達が遮断される。一方、第3具体例では、電磁コイル15に電流が流れると、駆動輪1および磁性流体8およびローラ20を通る磁気回路が形成され、駆動輪1のトルクが磁力によりローラ20に伝達される。ここで、ベルト7が磁性材料により構成されていれば、ローラ20の動力が、磁力および摩擦力によりベルト7に伝達される。なお、ベルト7が磁性材料でない場合は、ローラ20の動力が摩擦力でベルト7に伝達される。このようにして、ベルト7が回転する。
【0045】
一方、全ての電磁コイル18に電流が流れていない場合は、受動輪2では磁界が形成されず、ベルト7と受動輪2とが相対回転する。したがって、ベルト7の動力は受動輪2に伝達されない。これに対して、ベルト7が回転しているとき、電磁コイル18に電流が流れると、ベルト7が磁性材料で構成されていると、受動輪2および磁性流体8およびローラ21およびベルト7を通る磁気回路が形成され、ベルト7のトルクが、磁力および摩擦力により受動輪2に伝達される。なお、ベルト7が磁性材料でない場合は、ベルト7の動力が摩擦力でローラ21に伝達され、ローラ21の動力が磁力で受動輪2に伝達される。このように、第3具体例では、電磁コイル15および電磁コイル18の両方に電流が流れた場合に、駆動輪1と受動輪2との間で動力伝達がおこなわれる。
【0046】
また、第3具体例では、電磁コイル15に電流を流す場合に、ローラ20の回転方向における位置毎に、電磁コイル15への通電および非通電を、個別に制御可能である。具体的には、ローラ20の回転方向で、ベルト7がローラ20に接触する範囲に位置している電磁コイル15に電流を流し、ローラ20の回転方向で、ベルト7がローラ20に接触しない範囲に位置している電磁コイル15には電流を流さない制御をおこなうことができる。具体的には、ローラ20の回転方向で、ベルト7がローラ20に巻き掛かる位置B1を基点として、ベルト7がローラ20から離れる位置B2までの間で、電磁コイル15に電流を流す範囲を変更することができる。
【0047】
例えば、電磁コイル15に電流を流す範囲を、範囲C1、範囲C2、範囲C3という異なる範囲に設定できる。この範囲C1および範囲C2および範囲C3は、位置B1を基点とする角度を示しており、範囲C1よりも範囲C2の方が広角であり、範囲C2よりも範囲C3の方が広角である。この図9では、範囲C1が45度であり、範囲C2が90度であり、範囲C3が180度である。この範囲C3は、位置B1から位置B2までの最大範囲である。そして、駆動力源から駆動輪1に入力されるトルクに基づいて、電磁コイル15に電流を流す範囲を制御することが可能である。この具体例では、電磁コイル15に電流が流される範囲が広くなるほど、駆動輪1とローラ20との間におけるトルク容量が高くなる。
【0048】
そこで、電磁コイル15の通電および非通電を制御するときに用いるマップの一例を、図10に示す。図10のマップは、入力トルクが高くなるほど、磁界発生領域が広くなる、つまり、ローラ20の回転方向で、電磁コイル15に電流を流す範囲が拡大する特性である。なお、受動輪2の電磁コイル18に電流を流すとき、駆動輪1側と同じ原理に基づいて、ローラ21の回転方向で、電磁コイル18に電流を流す位置および範囲を制御することも可能である。図9において、ローラ20の回転方向で、180度の範囲に磁性流体8を示し、ローラ21の回転方向で、180度の範囲に磁性流体8を示しているのは、前記の範囲C3と整合させたからである。
【0049】
この第3具体例では、ローラ20と駆動輪1との間、ローラ21と受動輪2との間に磁性流体が介在されているため、ローラ20と駆動輪1との接触部分が潤滑および冷却されるとともに、ローラ21と受動輪2との接触部分が潤滑および冷却される。したがって、第1具体例と同様の効果を得られる。また、第3具体例でも、動力伝達装置がクラッチとしての機能を兼備しているため、第1具体例と同様の効果を得られる。また、第3具体例では、ローラがベルト7に接触する範囲に位置する電磁コイルのみに電流が流れ、ローラがベルト7に接触していない部分に位置する電磁コイルには電流を流さない制御をおこなうことができる。つまり、入力トルクに基づいて、駆動輪1の中心となる軸線A1を中心とする円周方向で、磁界発生領域を狭めたり拡大したりすることができる。また、入力トルクに基づいて、受動輪2の中心となる軸線A2を中心とする円周方向で、磁界発生領域を狭めたり拡大したりすることができる。このように、第3具体例では、入力されるトルクに基づいて、通電する電磁コイルの数を増減できるため、無駄な電力の消費を抑制できる。さらに、最も広い範囲C3でも、位置B2で電磁コイル15への通電が終了するため、ベルト7がローラ20から離れるときに、ベルト7をローラ20に引きつける磁気力が発生せず、動力損失を抑制できる。
【0050】
さらに、この具体例3においても駆動輪1に入力されるトルクに基づいて、電磁コイル15,18の電流値を制御することにより、形成される磁界の強さを変更することができる。この第3具体例は、請求項1、3、4、5、6、7に対応している。また、第3具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、駆動輪1および受動輪2および電磁コイル15,18が、この発明の電磁石および磁力発生機構に相当し、ローラ20,21が、この発明のローラに相当する。
【0051】
(第4具体例)
つぎに、動力伝達装置の第4具体例を、図11および図12に基づいて説明する。図11および図12では、便宜上、駆動輪1および受動輪2を同一物で示してある。駆動輪1が円筒状に構成されており、その駆動輪1の内部に回転軸22が配置されている。以下、便宜上、駆動輪1を主として説明する。この回転軸22は、駆動輪1と同軸上に、かつ、相対回転可能に構成されている。軸線A1と直交する平面内で、回転軸22の外周形状は円形に構成されている。また、軸線A1を中心とする半径方向で、駆動輪1の内周面と回転軸22の外周面との隙間量は、全周に亘って一定である。そして、回転軸22の円周方向における一定範囲は、永久磁石23により構成されている。ここで、回転軸22の円周方向における一定範囲は、駆動輪1の回転方向で、ベルト7と駆動輪1とが接触する範囲と同じである。
【0052】
さらに、回転軸22を回転させるアクチュエータ(図示せず)が設けられている。このアクチュエータに、電動モータおよびソレノイドが含まれる。例えば、電動モータの回転運動を回転軸22に伝達して、回転軸22を回転および停止させることができる。なお、回転軸22は一定の角度範囲で回転させればよいので、電動モータとしてステップモータを用いればよい。また、アクチュエータとしてソレノイドを用いる場合、電流の制御により動作するプランジャの直線運動を、ラックアンドピニオン機構を用いて回転運動に変換し、回転軸22を一定角度回転させればよい。なお、第4具体例におけるその他の構成は、第1具体例の構成と同じであり、アクチュエータは、第1具体例で説明した電子制御装置により制御される。また、第4具体例では、駆動輪1および受動輪2に電磁コイルは設けられていない。
【0053】
つぎに、第4具体例の作用を説明する。ここでは、主として駆動輪1とベルト7との間における動力伝達作用を説明する。駆動力源のトルクが駆動輪1に伝達されると、回転軸22の位相が制御されて、駆動輪1とベルト7との間におけるトルク容量が制御される。第4具体例でも、磁性流体8を通る磁力が発生して、第1具体例と同様の原理で、駆動輪1のトルクがベルト7に伝達される。前述のように、ベルト7と駆動輪1との接触部分では磁力が発生し、ベルト7と駆動輪1との非接触部分では磁力は発生しない。このため、第4具体例では、回転軸22の位相を変化させると、駆動輪1の回転方向で、磁界の発生範囲もしくは領域を変更できる。例えば、図11のように、ベルト7と駆動輪1との接触範囲と同じ範囲に、永久磁石23が位置しているときは、その範囲全体(180度の範囲C3)で磁力が発生する。これに対して、図12に示すように、ベルト7と駆動輪1との接触範囲の一部に、永久磁石23が位置しているときは、磁力が発生する範囲C4は、図11の範囲C3よりも狭くなる。このように、駆動輪1の回転方向で磁力が発生する範囲を調整すると、単位面積あたりの磁界の強さは同じであるとしても、全体としての磁界の強さ、および駆動輪1とベルト7との間におけるトルク容量は変化する。
【0054】
また、受動輪2側の構成を駆動輪1側と同様に構成することも可能である。すなわち、受動輪2を円筒形状に構成し、その受動輪2の内部に回転軸22を設けることができる。このように、受動輪2の内部に回転軸22を設けると、回転軸22の位相を制御することにより、駆動輪1側と同様の原理で、ベルト7と受動輪2との間でトルク伝達がおこなわれ、かつ、そのトルク容量を変更できる。このように、第4具体例でも、駆動輪1とベルト7との間、または受動輪2とベルト7との間で、磁性流体8を通る磁力により、動力伝達をおこなうことができる。したがって、第1具体例と同じ作用効果を得られる。なお、この第4具体例では、回転軸22が円柱形状であり、駆動輪1および受動輪2が円筒形状であるため、永久磁石23の位相を変更しても、駆動輪1の半径方向で、永久磁石23と駆動輪1との距離は一定であり、受動輪2の半径方向で、永久磁石23と受動輪2との距離は一定である。この具体例4は、請求項1、2、4、5、6に対応しており、回転軸22および永久磁石23が、この発明の磁力発生機構に相当し、永久磁石23が、この発明の永久磁石に相当する。第4具体例におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、第1具体例の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0055】
(第5具体例)
つぎに、動力伝達装置の第5具体例を、図13および図14に基づいて説明する。この第5具体例では、駆動輪1および受動輪2が円筒形状に構成されており、駆動輪1の内部空間、または受動輪2の内部空間に永久磁石24が配置されている。この永久磁石24は軸線A1,A2を中心として回転可能に構成されている。永久磁石24を回転させるアクチュエータは、第4具体例と同じである。また、駆動輪1と永久磁石24とが相対回転可能であり、受動輪2と永久磁石24とが相対回転可能である。また、軸線A1,A2と直交する平面内で、永久磁石24の外周形状は非円形に構成されている。この第5具体例でも、駆動輪1および受動輪2には電磁コイルが設けられていない。この第5具体例においてその他の構成部分は、第1具体例と同じである。
【0056】
つぎに、第5具体例の作用を説明する。ここでは、主として駆動輪1とベルト7との間における動力伝達作用を説明する。駆動力源のトルクが駆動輪1に伝達されると、永久磁石24の位相が制御されて、駆動輪1とベルト7との間におけるトルク容量が制御される。第4具体例でも、磁性流体8を通る磁力が発生して、第1具体例と同様の原理で、駆動輪1のトルクがベルト7に伝達される。前述のように、ベルト7と駆動輪1との接触部分では磁力が発生し、ベルト7と駆動輪1との非接触部分では磁力は発生しない。
【0057】
そして、第5具体例では、永久磁石24が停止しているとき、駆動輪1と永久磁石24との距離、具体的には、駆動輪1の半径方向における距離が、駆動輪1の円周方向で不均一である。また、永久磁石24の位相を変化させると、駆動輪1と永久磁石24との距離が相対的に短い領域を、相対的に狭めたり拡大したりすることができる。つまり、第5具体例では、駆動輪1と永久磁石24との距離により、形成される磁界の強さが異なる。具体的には、駆動輪1と永久磁石24との距離が相対的に短くなるほど、磁界は相対的に強くなる。さらに、永久磁石24の位相を変化させると、磁界の相対的に強い領域を狭めたり拡大したりすることができる。例えば、図13では、駆動輪1の回転方向で180度の範囲C3で、駆動輪1と永久磁石24との距離が相対的に長くなっている。
【0058】
これに対して、図14では、駆動輪1の回転方向の一部分の範囲C4で、駆動輪1と永久磁石24との距離が相対的に短くなっている。ここで、範囲C4は範囲C3よりも狭い。このように、磁力が発生する範囲を変更すると、単位面積あたりにおける磁界の強さは同じであるが、全体としての磁界の強さ、およびトルク容量は変化する。このように、第5具体例においては、永久磁石24の位相を変更することにより、駆動輪1とベルト7との間におけるトルク容量を制御できる。なお、受動輪2の内部空間に永久磁石24が配置されていれば、その永久磁石24の回転位相を変更することにより、上記と同様の原理により、受動輪2とベルト7との間におけるトルク容量を制御できる。
【0059】
このように、第5具体例でも、駆動輪1とベルト7との間、または受動輪2とベルト7との間で、磁性流体8を通る磁力により、動力伝達をおこなうことができる。したがって、第1具体例と同じ作用効果を得られる。この具体例5は、請求項1、2、4、5、6、7に対応しており、駆動輪1および受動輪2および永久磁石24が、この発明の磁力発生機構に相当し、永久磁石24が、この発明の永久磁石に相当する。第5具体例におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、第1具体例の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0060】
なお、各具体例において、駆動輪1および受動輪2が、共に磁力によりベルト7との間で動力伝達がおこなわれる構成であるが、駆動輪1または受動輪2のいずれか一方とベルト7との間で、摩擦力により動力伝達がおこなわれる構成とすることも可能である。この場合、その回転部材には電磁コイルが巻き付けられず、かつ、その回転部材は磁性材料でなくてよい。さらに、摩擦力により動力伝達がおこなわれる回転部材が磁性流体に浸漬されないように、軸線同士の高さを異ならせることとなる。具体的には、摩擦力により動力伝達をおこなう回転部材の軸線が、磁力で動力伝達をおこなう回転部材の軸線よりも高い位置に配置される。
【0061】
また、駆動輪1を各具体例のいずれかの構成とし、受動輪2を各具体例のいずれかの構成とするとともに、駆動輪1と受動輪2とで、異なる具体例の構成を採用することもできる。例えば、駆動輪1を第1具体例または第2具体例または第3具体例または第4具体例または第5具体例の構成とし、受動輪とベルトとの間で摩擦力のみにより動力伝達がおこなわれる構成とすることもできる。また、受動輪2を第1具体例または第2具体例または第3具体例または第4具体例または第5具体例の構成とし、駆動輪とベルトとの間で摩擦力のみにより動力伝達がおこなわれる構成とすることもできる。さらに、駆動輪側を第1具体例または第2具体例または第4具体例または第5具体例の構成とし、受動輪側を第3具体例の構成とすることもできる。さらまた、駆動輪側を第3具体例の構成とし、受動輪側を第1具体例または第2具体例または第3具体例または第4具体例または第5具体例のの構成とすることもできる。
【0062】
また、各具体例では、駆動輪1および受動輪2が同じ外径で構成されていてもよいし、異なる外径で構成されていてもよい。また、第3具体例では、ローラ20,21が同じ外径で構成されていてもよいし、異なる外径で構成されていてもよい。なお、各具体例は、動力伝達装置を車両に用いる場合について説明しているので、車両を前進または後退させる向きの駆動力を、車輪で発生させる要求がある時に、電気回路のスイッチが接続される。これに対して、車両を前進または後退させる向きの駆動力を、車輪で発生させる要求がない時に、電気回路のスイッチが遮断される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明における動力伝達装置の第1具体例を示す概念図である。
【図2】図1に示す動力伝達装置の部分的な断面図である。
【図3】この発明の動力伝達装置の各具体例において、電流と磁界の強さとの関係を示す線図である。
【図4】この発明の動力伝達装置の各具体例において、磁界の強さと磁性流体のせん断力との関係を示す線図である。
【図5】この発明の動力伝達装置の各具体例において、電流と最大トルクとの関係を示す線図である。
【図6】この発明における動力伝達装置の第2具体例を示す部分的な断面図である。
【図7】この発明における動力伝達装置の第3具体例を示す部分的な断面図である。
【図8】図7に示された動力伝達装置の駆動輪または受動輪を外周側から見た図である。
【図9】図7に示された動力伝達装置の駆動輪または受動輪の側面図である。
【図10】この発明における動力伝達装置の第3具体例で、複数の電磁コイルの通電および非通電を制御する時に用いるマップの一例である。
【図11】この発明における動力伝達装置の第4具体例を示す断面図である。
【図12】この発明における動力伝達装置の第4具体例を示す他の断面図である。
【図13】この発明における動力伝達装置の第5具体例を示す断面図である。
【図14】この発明における動力伝達装置の第5具体例を示す他の断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…駆動輪、 2…受動輪、 5,6,15,18…電磁コイル、 7…ベルト、 8…磁性流体、 11,12,23,24…永久磁石、 20,21…ローラ、 22…回転軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達経路を形成する第1の回転部材および第2の回転部材と、この第1の回転部材と第2の回転部材との間で動力伝達をおこなうベルトとを備えた動力伝達装置において、
前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の回転部材と、ベルトとの間に介在された磁性流体と、
前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の回転部材、および前記磁性流体を通る磁力を発生させる磁力発生機構とを有しており、
前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の回転部材と、前記ベルトとの間で、磁力により動力伝達がおこなわれる構成であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記ベルトが前記第1の回転部材および前記第2の回転部材に巻き掛けられており、前記ベルトが磁性材料により構成されており、前記磁性流体が前記ベルトに接触する構成であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の回転部材または第2の回転部材と同軸上に、かつ、前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方の外周を取り囲むように配置されたローラが設けられており、このローラと第1の回転部材または第2の回転部材とが相対回転可能であり、このローラに前記ベルトが巻き掛けられており、
前記ローラと前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方との間に前記磁性流体が介在されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1の回転部材または第2の回転部材の少なくとも一方に、前記磁力発生機構が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記磁力発生機構には、永久磁石または電磁石のうちの少なくとも一方が含まれることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記磁力発生機構は、前記第1の回転部材または第2の回転部材のうちの少なくとも一方の回転部材が回転する時の中心となる軸線を中心とする円周方向で、前記磁力の発生位置を可変とする構成であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記磁力発生機構は、発生する磁界の強さを変更できる構成であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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