説明

動力伝達装置

【課題】永久磁石2を使用する動力伝達装置1において、誤作動の発生を抑制する。
【解決手段】動力伝達装置1は、永久磁石2の姿勢を変更する磁石姿勢変更手段を備え、磁石姿勢変更手段により永久磁石2の姿勢を変更することで、ロータ4とアーマチャ7とに磁束が流れる第1磁気回路と、ロータ4とアーマチャ7に流れ得る磁束が第1磁気回路よりも弱い第2磁気回路とを切り替えて、クラッチON状態−クラッチOFF状態を切り替える。これによれば、クラッチOFF状態(第2磁気回路を形成する姿勢)の際、ロータ4とアーマチャ7との間の磁気吸引力は弱まるので、振動や外力が原因で隙間6が狭まってもアーマチャ7がロータ4に吸着されることなく、意図せずロータ4とアーマチャ7が連結してしまうという誤作動の発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転動力の伝達を断続する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、従来の動力伝達装置100は、ロータ101に保持された磁性板102、103に挟持されてアーマチャ104とロータ101に流れる磁束を形成する環状の永久磁石105と、永久磁石105が形成する磁束(実線で図示)の流れに対して正方向及び逆方向に磁束(破線で図示)を生じさせるための電磁コイル106とを備え、永久磁石105により形成される磁気回路によりロータ101にアーマチャ104を吸引して、回転動力を伝達するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
そして、このような永久磁石105を使用する動力伝達装置100は、クラッチON状態とクラッチOFF状態とを切り替える時以外には電力を要しない。
【0004】
すなわち、動力伝達装置100では、電磁コイル106に永久磁石105の磁束の流れに対して正方向に磁束を生じさせるように印加すると、ロータ101と所定の隙間Gを隔てて対向するアーマチャ104は、板バネ107の付勢力に打ち勝って、ロータ101に吸引され、ロータ101とアーマチャ104とが連結される(クラッチON状態)。その後、印加電圧を切っても、永久磁石105の磁束によって、ロータ101とアーマチャ104とは連結されたままであり、クラッチON状態が保たれる。
【0005】
また、電磁コイル106に永久磁石105の磁束の流れに対して逆方向に磁束を生じさせるように印加すると、永久磁石105の磁束は弱められ、板バネ107の付勢力によりアーマチャ104はロータ101から遠ざかり、アーマチャ104とロータ101との間に再び隙間Gが形成される(クラッチOFF状態)。その後、印加電圧を切っても、隙間Gの存在により、永久磁石105の磁束量のみではアーマチャ104とロータ101とが吸引されることなく、クラッチOFF状態が保たれる。
【0006】
しかし、動力伝達装置100には振動や外力が加わることがあり、この場合に隙間Gを所定量に保てず、隙間Gが所定量よりも小さくなってしまうことがある。
この場合、従来の動力伝達装置100では、電磁コイル106への印加電圧を切った状態でも、クラッチON状態で保持されている場合と同じように永久磁石105が形成する磁束が流れているため、振動等が原因で隙間Gが所定量よりも小さくなってしまうと、永久磁石105の磁束量だけでアーマチャ104がロータ101に吸引されてしまう虞がある。すなわち、電磁コイル106の印加電圧を切った状態でクラッチOFF状態を保っているときに、意図せずにクラッチON状態に切り替わってしまうという誤作動を生じる虞がある。
【特許文献1】特公平2−2007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、永久磁石を使用する動力伝達装置において、誤作動の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の動力伝達装置は、永久磁石と、駆動力源より伝達された回転動力を受けて回転するロータと、ロータと所定の隙間を隔てて対向し、従動側機器に連結されたアーマチャと、ロータとアーマチャとの間に上記隙間を形成するようにアーマチャを保持する弾性部材とを備える。
そして、永久磁石により形成される磁気回路により、弾性部材の付勢力に抗して、アーマチャがロータに吸引されることで、駆動力源からの回転動力を従動側機器へ伝達する。
【0009】
また、動力伝達装置は、永久磁石の姿勢を変更する磁石姿勢変更手段を備え、磁石姿勢変更手段により永久磁石の姿勢を変更することで、ロータとアーマチャとに磁束が流れる第1磁気回路と、ロータとアーマチャに流れ得る磁束が第1磁気回路よりも弱い第2磁気回路とを切り替えて、回転動力の伝達・遮断を切り替える。
【0010】
これによれば、磁石姿勢変更手段により、永久磁石を第1磁気回路を形成する姿勢にすれば、弾性部材の付勢力に抗して、アーマチャがロータに吸引されてロータとアーマチャが連結し、ロータからアーマチャへ回転動力が伝達される(クラッチON状態)。そして、永久磁石の姿勢を第1磁気回路を形成する姿勢に維持することで、クラッチON状態が保たれる。
【0011】
また、磁石姿勢変更手段により、永久磁石を第2磁気回路を形成する姿勢にすれば、ロータとアーマチャとの間に流れる磁束が第1磁気回路によって形成される磁束よりも弱いため、ロータとアーマチャとの間の磁気吸引力は弱まり、弾性部材の付勢力により、ロータとアーマチャとが離れて隙間が形成され、回転動力の伝達が遮断される(クラッチOFF状態)。そして、永久磁石の姿勢を第2磁気回路を形成する姿勢に維持することで、クラッチOFF状態が保たれる。
【0012】
そして、クラッチOFF状態の際、振動や外力によりロータとアーマチャとの間の隙間が狭まっても、ロータとアーマチャとの間に流れる磁束が弱いため、アーマチャがロータに吸着されることなく、意図せずロータとアーマチャが連結してしまうという誤作動の発生を抑制できる。
すなわち、永久磁石を使用する動力伝達装置において、誤作動の発生を抑制することができる。
【0013】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の動力伝達装置は、永久磁石を複数個備え、永久磁石は、ロータの内側に配置されたステータに収容されている。そして、磁石姿勢変更手段は、永久磁石を回転させる。
これは、請求項1の実施態様の1つであり、永久磁石の回転により、ロータとアーマチャとの間に形成される磁気回路を変更するものである。
【0014】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の動力伝達装置によれば、磁石姿勢変更手段は、ステータの軸心周りを回転可能に設けられた回転部材と、回転部材を回転させる回転手段と、回転部材の回転に連動して永久磁石を回転させるリンク機構とを有する。
これによれば、複数個ある永久磁石を直接回すよりも、回転部材及びリンク機構を用いることで、効率よく永久磁石を回転させることができる。
【0015】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の動力伝達装置によれば、回転手段は、モータにより回転させられるウォームと、回転部材の外周に設けられたウォームホイールとで構成されるウォームギヤである。
これによれば、回転部材の回転はウォーム側へは伝達されないので、ウォームの回転を止めるだけで、回転部材の回転を所定位置で止めることができ、永久磁石の姿勢を維持することができる。
【0016】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の動力伝達装置によれば、回転部材は、ステータ及び永久磁石に対向するように設けられた円盤状をなす。そして、リンク機構は、回転部材または各永久磁石のいずれか一方に設けられたピンと、回転部材または各永久磁石のいずれか他方に設けられた長穴とを有し、ピンが長穴に挿通され、回転部材と永久磁石との間でクランク機構を構成してなる。
これは、請求項3の実施態様の1つであり、回転部材と永久磁石との間のリンク機構を、ピンと長穴の係合によるクランク機構とするものである。
【0017】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載の動力伝達装置によれば、リンク機構は、それぞれの永久磁石に永久磁石の軸心に対して偏心して設けられたピンと、回転部材にピンが挿通するように設けられた長穴とを有し、回転部材と永久磁石との間でクランク機構を構成してなる。
これは、請求項5の実施形態の1つであり、永久磁石側にピンを設け、回転部材側に長穴を設けるものである。
【0018】
〔請求項7の手段〕
請求項7に記載の動力伝達装置によれば、回転手段はリニアソレノイドであり、リニアソレノイドの変位に連動して回転部材を回転させる。
【0019】
〔請求項8の手段〕
請求項8に記載の動力伝達装置によれば、回転手段の動力源が、油圧源である。
特に、動力伝達装置が、例えば自動車用回転機器に用いられる場合、自動車のエンジンの油圧ポンプの油圧を回転手段の動力源として兼用すれば、エネルギーの削減になる。
【0020】
〔請求項9の手段〕
請求項9に記載の動力伝達装置によれば、回転手段の動力源は、空気圧源である。
特に、動力伝達装置が、例えば自動車用回転機器に用いられる場合、自動車のエンジンの空気ポンプの空気圧を回転手段の動力源として兼用すれば、エネルギーの削減になる。
【0021】
〔請求項10の手段〕
請求項10に記載の動力伝達装置によれば、回転手段の動力源は、自動車用空調装置の冷媒圧縮機の内部圧力源である。
これによれば、冷媒の圧力を回転手段の動力源として用いるため、回転手段のために新たな駆動源を設ける必要はなく、エネルギーの削減になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
最良の形態1の動力伝達装置は、永久磁石と、駆動力源より伝達された回転動力を受けて回転するロータと、ロータと所定の隙間を隔てて対向し、従動側機器に連結されたアーマチャと、ロータとアーマチャとの間に上記隙間を形成するようにアーマチャを保持する弾性部材とを備える。
そして、永久磁石により形成される磁気回路により、弾性部材の付勢力に抗して、アーマチャがロータに吸引されることで、駆動力源からの回転動力を従動側機器へ伝達する。
【0023】
また、動力伝達装置は、永久磁石の姿勢を変更する磁石姿勢変更手段を備え、磁石姿勢変更手段により永久磁石の姿勢を変更することで、ロータとアーマチャとに磁束が流れる第1磁気回路と、ロータとアーマチャに流れ得る磁束が第1磁気回路よりも弱い第2磁気回路とを切り替えて、回転動力の伝達・遮断を切り替える。
【0024】
また、永久磁石を複数個備え、永久磁石は、ロータの内側に配置されたステータに収容されている。そして、磁石姿勢変更手段は、永久磁石を回転させる。
磁石姿勢変更手段は、ステータの軸心周りを回転可能に設けられた回転部材と、回転部材を回転させる回転手段と、回転部材の回転に連動して永久磁石を回転させるリンク機構とを有する。
【0025】
回転手段は、モータにより回転させられるウォームと、回転部材の外周に設けられたウォームホイールとで構成されるウォームギヤである。
回転部材は、ステータ及び永久磁石に対向するように設けられた円盤状をなす。そして、リンク機構は、それぞれの永久磁石に永久磁石の軸心に対して偏心して設けられたピンと、回転部材に前記ピンが挿通するように設けられた長穴とを有し、回転部材と永久磁石との間でクランク機構を構成してなる。
【0026】
最良の形態2の動力伝達装置は、回転手段がリニアソレノイドであり、リニアソレノイドの変位に連動して回転部材が回転する。
【実施例1】
【0027】
〔実施例1の構成〕
実施例1の動力伝達装置1の構成を、図1〜6を用いて説明する。
動力伝達装置1は、例えば、自動車用空調装置の冷媒圧縮機C(従動側機器)に装着されて、エンジン(図示せず)の回転動力の冷媒圧縮機Cへの伝達を断続するものである。
【0028】
動力伝達装置1は、永久磁石2と、永久磁石2が収容されるステータ3と、エンジンより伝達された回転動力を受けて回転するロータ4と、ロータ4と所定の隙間6を隔てて対向して冷媒圧縮機Cに連結されたアーマチャ7と、ロータ4とアーマチャ7との間に隙間6を形成するようにアーマチャ7を保持する弾性部材8とを備える。
【0029】
ステータ3は、全体として円筒状を呈しており、内周側をなすインナーステータ9と、外周側をなすアウターステータ11と、インナーステータ9とアウターステータ11との間に設けられるミドルステータ12とが一体に固定されてなり、後述するようにロータ4の内側に配置される。
【0030】
ミドルステータ12は、非磁性材料(例えば、アルミニウム、銅、樹脂など)により断面T字形状の円筒状に形成されている。また、インナーステータ9及びアウターステータ11は、鉄などの磁性材料により円筒状に形成され、インナーステータ9がミドルステータ12の内周側に固定され、アウターステータ11がミドルステータ12の外周側に固定されている。
【0031】
また、ステータ3には、ステータ3の軸心に対して同心円状に複数の穴13(本実施例では12個)が等ピッチに形成されており、それぞれの穴13に円柱状の永久磁石2が収容されている。
永久磁石2は、円柱状の径方向の両端が磁極となっており、穴13内に永久磁石2の軸心周りに回転自在に収容されている。
【0032】
ロータ4は、鉄や低炭素鋼等の磁性材料により形成されており、断面コの字形状の円筒状を呈するように環状溝14を有し、環状溝14には、環状溝14の底壁16がステータ3の軸方向の一端側を覆うように、ステータ3が配置されている。なお、ステータ3の内周面及び外周面と環状溝14との間には微小な隙間が形成されている。
【0033】
また、ロータ4は、内周側に設けられたボールベアリング17を介して冷媒圧縮機Cのハウジング18に回転自在に支持されている。ロータ4の外周にはプーリ19が設けられており、プーリ19に掛け渡されるベルト(図示せず)を介してエンジンの回転動力がロータ4へと伝達される。
【0034】
アーマチャ7は、円環状に形成されて、ロータ4と隙間6を隔てて対向して配置されている。アーマチャ7には、冷媒圧縮機Cのシャフト21に連結するハブ22が弾性部材8を介して連結されている。そして、弾性部材8は、アーマチャ7とロータ4との間に隙間6が形成されるように、アーマチャ7を反ロータ側に付勢している。なお、弾性部材8はハブ22とアーマチャ7との間に設けられたゴムであるが、板バネであってもよい。
【0035】
また、動力伝達装置1は、永久磁石2の姿勢を変更する磁石姿勢変更手段を備える。
以下に、磁石姿勢変更手段の構成について詳述する。
【0036】
〔磁石姿勢変更手段の構成〕
本実施例では、磁石姿勢変更手段は、永久磁石2を回転することで、永久磁石2の姿勢を変更するものであり、ステータ3の軸心周りを回転可能に設けられた回転部材23と、回転部材23を回転させる回転手段24と、回転部材23の回転に連動して永久磁石2を回転させるリンク機構26とを有する。
【0037】
回転部材23は、ステータ3の軸心周りに回転可能な円盤状をなし、ステータ3とハウジング18との間に、ステータ3及び永久磁石2に対向して配置されている。
【0038】
回転手段24は、モータ27により回転させられるウォーム28と、回転部材23の外周に設けられたウォームホイール29とで構成されるウォームギヤである。
すなわち、回転部材23の外周の一部にウォームホイール29が設けられ、ウォームホイール29と噛み合うようにウォーム28が配置され、ウォーム28がモータ27により回転することで、ウォーム28に噛み合うウォームホイール29を有する回転部材23がステータ3の軸心周りに回転する。尚、ウォームホイール29は回転部材23の外周全周に設けてもよい。
【0039】
リンク機構26は、それぞれの永久磁石2に永久磁石2の軸心に対して偏心して設けられたピン31と、回転部材23にピン31が挿通するように設けられた長穴33とを有し、回転部材23と永久磁石2との間でクランク機構を構成してなる。
【0040】
すなわち、永久磁石2の軸方向の他端側(回転部材23に対向する側)には、永久磁石2の軸心に対して偏心するピン31が、永久磁石2の軸方向の他端側に固着された円盤状のプレート32と一体的に設けられている。ピン31及びプレート32はステンレスなどの非磁性材料により形成されている。
また、回転部材23には、永久磁石2と同じ数(12個)の長穴33が、ピン31に対応する位置に設けられ、ピン31が長穴33に挿通されている。
そして、回転部材23が回転すると長穴33が移動するが、このとき、永久磁石2のピン31が長穴33に沿って移動するため、クランクの作用により、永久磁石2が穴13内で回転する。
【0041】
尚、永久磁石2のN極・S極はピン31と所定の角度位置関係を持って着磁されており、回転部材23の回転により、永久磁石2が第1磁気回路(後述する)を形成する姿勢と、第2磁気回路(後述する)を形成する姿勢となるように、着磁されている。
【0042】
〔実施例1の動力伝達装置1の動作〕
実施例1の動力伝達装置1の動作を、特に図3〜6に基いて説明する。
本発明では、永久磁石2の姿勢を変更することで、ロータ4とアーマチャ7とに磁束が流れる第1磁気回路と、ロータ4とアーマチャ7とに流れ得る磁束が第1磁気回路よりも弱い第2磁気回路とを切り替えて、回転動力の伝達・遮断を切り替える。
【0043】
まず、永久磁石2の姿勢、及び各姿勢での磁気回路について説明する。
本実施例では、第1磁気回路は、永久磁石2を、磁極がステータ3の径方向に指向する(S極とN極との境界線が接線方向となる)姿勢とすることで形成される(図3、図5参照)。この姿勢では、永久磁石2の一方の磁極(S極)がインナーステータ9に接触し、他方の磁極(N極)がアウターステータ11に接触している。
【0044】
この場合、永久磁石2による磁束は、ロータ4及びアーマチャ7に設けられた円弧状の長穴36、37により迂回させられながら、主に、永久磁石2のN極→ロータ4→アーマチャ7→ロータ4→アーマチャ7→ロータ4→永久磁石2のS極と流れ(図5(a)矢印参照)、ロータ4とアーマチャ7との間には大きな磁気吸引力が生じる。
【0045】
一方、第2磁気回路は、永久磁石2を、磁極がステータ3の接線方向に指向する(S極とN極との境界線が径方向となる)姿勢とすることで形成される(図4、図6参照)。この姿勢では、永久磁石2の両磁極がインナーステータ9及びアウターステータ11の両方に接触している。
【0046】
この場合、永久磁石2による磁束は、主に、永久磁石2のN極→インナーステータ9→S極、N極→アウターステータ11→S極を流れる(図6矢印参照)。すなわち、磁性材料であるインナーステータ9及びアウターステータ11により短絡されるので、ロータ4とアーマチャ7とには磁束がほとんど流れない状態となる。
【0047】
尚、この姿勢においても、永久磁石2から漏れる磁束がロータ4とアーマチャ7とに流れる可能性があるが、その場合の磁束は、第1磁気回路のように積極的にロータ4とアーマチャ7とに流す場合の磁束よりも弱く、非常に小さいものである。従って、この第2磁気回路は、積極的にロータ4とアーマチャ7とに磁束を流す回路ではなく、ロータ4とアーマチャ7に流れ得る磁束が第1磁気回路よりも弱い回路といえる。
このため、永久磁石2が第2磁気回路を形成する姿勢の場合、ロータ4とアーマチャ7とに流れる磁束が弱いため、ロータ4とアーマチャ7との間に磁気吸引力が生じてもその磁気吸引力は、第1磁気回路の場合よりも小さく、弾性部材8の付勢力よりも小さい微弱なものである。
【0048】
次に、永久磁石2の姿勢の変更動作について説明する。
永久磁石2の姿勢変更は磁石姿勢変更手段により行われる。すなわち、モータ27によりウォーム28を回転させることで、ウォーム28に噛み合うウォームホイール29を有する回転部材23をステータ3の軸心周りに回転させる。すると、回転部材23に設けられた長穴33が移動するため、長穴33の内周縁がピン31を押し動かし、ピン31が長穴33に沿って移動することで、クランクの作用により、永久磁石2が穴13内で回転し、第1磁気回路を形成する永久磁石2の姿勢(以下、第1姿勢と呼ぶ)と第2磁気回路を形成する永久磁石2の姿勢(以下、第2姿勢と呼ぶ)とが切り替わる。そして、姿勢が切り替わったところで、モータ27の回転を停止する。
【0049】
最後に、永久磁石2の姿勢変更による、クラッチON状態とクラッチOFF状態の切替について説明する。
モータ27によりウォーム28を駆動して回転部材23を回転し、永久磁石2を第1姿勢にする。すると、ロータ4とアーマチャ7との間に生じる磁気吸引力により、弾性部材8の付勢力に抗して、アーマチャ7がロータ4に吸引されてロータ4とアーマチャ7が連結し、ロータ4からアーマチャ7へ回転動力が伝達される(クラッチON状態)。そして、永久磁石2の姿勢を第1姿勢に維持することで、クラッチON状態が保たれる。
尚、永久磁石2の姿勢の維持は、モータ27の回転を止めるだけで達成できる。回転部材23の回転はウォーム28側へは伝達されないので、ウォーム28の回転が止まれば、回転部材23の位置が維持されるためである。
【0050】
また、モータ27によりウォーム28を駆動して回転部材23を回転し、永久磁石2を第2姿勢にする。すると、ロータ4とアーマチャ7との間にはほとんど磁束が流れない(流れていても弱い)ため、ロータ4とアーマチャ7との間の磁気吸引力は弱まり、弾性部材8の付勢力により、ロータ4とアーマチャ7とが離れて隙間6が形成され、回転動力の伝達が遮断される(クラッチOFF状態)。そして、永久磁石2の姿勢を第2姿勢に維持することで、クラッチOFF状態が保たれる。
【0051】
〔実施例1の効果〕
実施例1の動力伝達装置1は、永久磁石2の姿勢を変更する磁石姿勢変更手段を備え、磁石姿勢変更手段により永久磁石2の姿勢を変更することで、ロータ4とアーマチャ7とに磁束が流れる第1磁気回路と、ロータ4とアーマチャ7に流れ得る磁束が第1磁気回路よりも弱い第2磁気回路とを切り替えて、クラッチON状態−クラッチOFF状態を切り替える。
【0052】
これによれば、永久磁石2を第1姿勢にすることで、第1磁気回路によりアーマチャ7がロータ4に吸着されて、クラッチON状態となり、永久磁石2の姿勢を第1姿勢に維持することで、クラッチON状態が保たれる。
また、永久磁石2を第2姿勢にすることで、ロータ4とアーマチャ7とが離れて隙間6が形成され、クラッチOFF状態となり、永久磁石2の姿勢を第2姿勢に維持することで、クラッチOFF状態が保たれる。
【0053】
ここで、クラッチOFF状態の際、振動や外力によりロータ4とアーマチャ7との間の隙間6が狭まることがある。しかし、第2姿勢ではロータ4とアーマチャ7との間にほとんど磁束が流れない(流れていても弱い)ため、ロータ4とアーマチャ7との間の磁気吸引力は弱まるので、振動や外力が原因で隙間6が狭まってもアーマチャ7がロータ4に吸着されることなく、意図せずロータ4とアーマチャ7が連結してしまうという誤作動の発生を抑制できる。
【0054】
また、クラッチON状態−OFF状態の切替を、永久磁石2の姿勢を変更することで切り替え、切替後は永久磁石2により形成される磁束のみでロータ4とアーマチャ7の連結状態を保持するので、従来例のように磁束を形成するための電磁コイルを備える必要はない。
【0055】
また、実施例1の動力伝達装置1は、回転部材23と、回転部材23を回転させる回転手段24と、回転部材23の回転に連動して永久磁石2を回転させるリンク機構26とにより、ステータ3に収容された複数個の永久磁石2を回転して姿勢を変更する。
これにより、複数個ある永久磁石2を直接回すのに比べて、効率よく永久磁石2を回転させることができる。
【0056】
さらに、実施例1の動力伝達装置1は、モータ27により回転させられるウォーム28と、回転部材23の外周に設けられたウォームホイール29とで構成されるウォームギヤにより、回転部材23を回転させる。
これによれば、回転部材23の回転はウォーム28側へは伝達されないので、ウォーム28の回転を止めるだけで、回転部材23の回転を所定位置で止めることができ、永久磁石2の姿勢を維持することができる。
【実施例2】
【0057】
実施例2の動力伝達装置1の構成を、図7を用いて、実施例1と異なる点を中心に説明する。
実施例2の動力伝達装置1では、回転手段24がリニアソレノイド41であり、プランジャ42の変位に連動して回転部材23が回転するように構成されている。
【0058】
すなわち、リニアソレノイド41はプランジャ42の変位方向が回転部材23の接線方向となるように配置され、回転部材23には外周側に突出する係合部43が設けられている。そして、係合部43に設けられた軸方向に貫通する長穴44に、プランジャ42に設けられたピン46が挿通してクランク機構を構成している。これにより、リニアソレノイド41への通電によりプランジャ42が変位すると、クランクの作用によって回転部材23が回転する。そして、回転部材23が回転すると、実施例1と同様の機構によって永久磁石2が回転する。
【0059】
なお、リニアソレノイド41に、プランジャ42を変位方向の一端側(クラッチON状態側)へ付勢するスプリング(図示せず)を内蔵してもよい。
この場合、クラッチON状態からクラッチOFF状態への切替は、リニアソレノイド41への通電により、スプリングの付勢力に抗して、プランジャ42が他端側に変位し、永久磁石2が第1姿勢から第2姿勢となることで行われる。
【0060】
ここで、第2姿勢(S極とN極がインナーステータ9及びアウターステータ11により短絡した姿勢)は、一度、その姿勢となれば姿勢を維持することが容易で、永久磁石2を回転させて第2姿勢から第1姿勢にしようとすると大きなトルクが必要となる。尚、アーマチャ7がロータ4に吸引される第1姿勢(磁極が径方向を指向した姿勢)では、その姿勢から永久磁石2を回転させて別の姿勢にすることは第2姿勢において永久磁石2の姿勢を変更する場合に比べて容易である。
このため、永久磁石2が第2姿勢となった状態でリニアソレノイド41への通電を停止しても、永久磁石2は第2姿勢を維持し、クラッチOFF状態が維持される。
【0061】
また、クラッチOFF状態からクラッチON状態への切替時には、リニアソレノイド41への通電によりプランジャ42が一端側へ変位する際、スプリングにアシストされるので、プランジャ42により回転部材23を押圧する力が増強される。これにより、大きなトルクが必要な第2姿勢から第1姿勢への変更をすることができる。
尚、プランジャ42の変位方向の一端側がクラッチOFF状態側、他端側がクラッチON状態側である場合には、プランジャ42をスプリングにより変位方向の他端側に付勢すれば上記と同様の作用が生じることは言うまでもない。
【0062】
〔変形例〕
実施例1では、回転手段24にモータ27を用いており、実施例2では、回転手段24にリニアソレノイド41を用いていたが、回転手段24の動力源が、油圧源または空気圧源または冷媒圧縮機Cの内部圧力源であってもよい。
特に、動力伝達装置1が、例えば自動車用回転機器に用いられる場合、自動車のエンジンの油圧ポンプの油圧または空気ポンプの空気圧を回転手段の動力源として兼用すれば、エネルギーの削減になる。
また、回転手段24の駆動源として、冷媒圧縮機Cの内部圧力源を用いるならば、冷媒の圧力を回転手段24の動力源として用いるため、回転手段24のために新たな駆動源を設ける必要はなく、エネルギーの削減になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】動力伝達装置の構成図である(実施例1)。
【図2】動力伝達装置の構成を示す斜視図である(実施例1)。
【図3】クラッチON状態の動力伝達装置を回転部材側からみた軸方向視図である(実施例1)。
【図4】クラッチOFF状態の動力伝達装置を回転部材側からみた軸方向視図である(実施例1)。
【図5】(a)は、クラッチON状態の永久磁石の姿勢及び磁気回路を説明する図であり、(b)は(a)の軸方向視図である(実施例1)。
【図6】(a)は、クラッチOFF状態の永久磁石の姿勢及び磁気回路を説明する図であり、(b)は(a)の軸方向視図である(実施例1)。
【図7】(a)はクラッチON状態の動力伝達装置を回転部材側からみた軸方向視図である(実施例2)。
【図8】動力伝達装置の構成図である(従来例)。
【符号の説明】
【0064】
1 動力伝達装置
2 永久磁石
3 ステータ
4 ロータ
6 隙間
7 アーマチャ
8 弾性部材
23 回転部材(磁石姿勢変更手段)
24 回転手段(磁石姿勢変更手段)
26 リンク機構(磁石姿勢変更手段)
27 モータ
28 ウォーム
29 ウォームホイール
31 ピン
33 長穴
41 リニアソレノイド
C 冷媒圧縮機(従動側機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石と、
駆動力源より伝達された回転動力を受けて回転するロータと、
前記ロータと所定の隙間を隔てて対向し、従動側機器に連結されたアーマチャと、
前記ロータとアーマチャとの間に前記隙間を形成するように前記アーマチャを保持する弾性部材とを備え、
前記永久磁石により形成される磁気回路により、前記弾性部材の付勢力に抗して、前記アーマチャが前記ロータに吸引されることで、前記駆動力源からの回転動力を前記従動側機器へ伝達する動力伝達装置であって、
前記永久磁石の姿勢を変更する磁石姿勢変更手段を備え、
前記磁石姿勢変更手段により前記永久磁石の姿勢を変更することで、
前記ロータと前記アーマチャとに磁束が流れる第1磁気回路と、
前記ロータと前記アーマチャとに流れ得る磁束が前記第1磁気回路よりも弱い第2磁気回路とを切り替えて、前記回転動力の伝達・遮断を切り替えることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置において、
前記永久磁石を複数個備え、
前記永久磁石は、前記ロータの内側に配置されたステータに収容され、
前記磁石姿勢変更手段は、前記永久磁石を回転させることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置において、
前記磁石姿勢変更手段は、
前記ステータの軸心周りを回転可能に設けられた回転部材と、
前記回転部材を回転させる回転手段と、
前記回転部材の回転に連動して、前記永久磁石を回転させるリンク機構とを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達装置において、
前記回転手段は、
モータにより回転させられるウォームと、
前記回転部材の外周に設けられたウォームホイールとで構成されるウォームギヤであることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達装置において、
前記回転部材は、前記ステータ及び前記永久磁石に対向するように設けられた円盤状をなし、
前記リンク機構は、
前記回転部材または各前記永久磁石のいずれか一方に設けられたピンと、
前記回転部材または各前記永久磁石のいずれか他方に設けられた長穴とを有し、
前記ピンが前記長穴に挿通され、前記回転部材と前記永久磁石との間でクランク機構を構成してなることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5に記載の動力伝達装置において、
前記リンク機構は、
それぞれの前記永久磁石に前記永久磁石の軸心に対して偏心して設けられた前記ピンと、
前記回転部材に前記ピンが挿通するように設けられた前記長穴とを有し、
前記回転部材と前記永久磁石との間でクランク機構を構成してなることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項3に記載の動力伝達装置において、
前記回転手段はリニアソレノイドであり、前記リニアソレノイドの変位に連動して前記回転部材を回転させることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
請求項3に記載の動力伝達装置において、
前記回転手段の動力源が、油圧源であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項9】
請求項3に記載の動力伝達装置において、
前記回転手段の動力源は、空気圧源であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項10】
請求項3に記載の動力伝達装置において、
前記回転手段の動力源は、自動車用空調装置の冷媒圧縮機の内部圧力源であることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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