説明

動力伝達装置

【課題】部品点数を削減して組付性を向上することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】相対回転可能に配置された一対の回転部材3,5と、この一対の回転部材3,5間に配置され一対の回転部材3,5間の動力伝達を断続する摩擦クラッチ7と、ネジ軸9とこのネジ軸9の外周に回転可能で軸方向移動可能に設けられたナット11とネジ軸9とナット11との間に介在する複数のボール13とからなり摩擦クラッチ7に押圧力を付与するボールネジ機構15とを備えた動力伝達装置1において、一方の回転部材5を、一対の第1と第2のベアリング17,19を介して固定系部材21に支持し、第1のベアリング17で、ナット11が回転しスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、ネジ軸9に生じる軸方向他方へのスラスト反力を受けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としては、相対回転可能に配置された一対の回転部材と、この一対の回転部材間に配置され一対の回転部材間の動力伝達を断続する摩擦クラッチと、ネジ軸とこのネジ軸の外周に回転可能で軸方向移動可能に設けられたナットとネジ軸とナットとの間に介在する複数のボールとからなり摩擦クラッチに押圧力を付与するボールネジ機構とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、ボールネジ機構のナットが回転しスラスト力を受けて摩擦クラッチの接続方向に軸方向移動することにより、摩擦クラッチが接続される。この摩擦クラッチの接続により、一対の回転部材間の動力伝達が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0163919号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のような動力伝達装置では、ボールネジ機構のナットがスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、ネジ軸にはナットと反対側の軸方向他方へ移動しようとするスラスト反力が生じる。
【0006】
このネジ軸に生じるスラスト反力は、一対の回転部材のうち一方の回転部材に固定された固定部材とネジ軸との軸方向間に配置されたスラストニードルベアリングが受けている。また、一方の回転部材は、軸方向両側を一対のベアリングによって支持されており、一対のベアリングのうち一方のベアリングはスラストニードルベアリング及び固定部材の軸方向外側に配置されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のような動力伝達装置では、ボールネジ機構のスラスト反力を受けるためのスラストニードルベアリングと固定部材、一方の回転部材を回転可能に支持するベアリングなど、部品点数が多く、組付性も低下していた。
【0008】
そこで、この発明は、部品点数を削減して組付性を向上することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、相対回転可能に配置された一対の回転部材と、この一対の回転部材間に配置され前記一対の回転部材間の動力伝達を断続する摩擦クラッチと、ネジ軸とこのネジ軸の外周に回転可能で軸方向移動可能に設けられたナットと前記ネジ軸と前記ナットとの間に介在する複数のボールとからなり前記摩擦クラッチに押圧力を付与するボールネジ機構とを備えた動力伝達装置であって、前記一対の回転部材のうち一方の回転部材は、一対の第1と第2のベアリングを介して固定系部材に支持され、前記第1のベアリングは、前記ナットが回転しスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、前記ネジ軸に生じる軸方向他方へのスラスト反力を受けることを特徴とする。
【0010】
この動力伝達装置では、一方の回転部材を支持する第1のベアリングがナットが回転しスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、ネジ軸に生じる軸方向他方へのスラスト反力を受けるので、第1のベアリングに一方の回転部材の支持とボールネジ機構のスラスト反力受けとの2つの機能を持たすことができる。
【0011】
従って、このような動力伝達装置では、第1のベアリングが一方の回転部材の支持とボールネジ機構のスラスト反力受けとの2つの機能を有するので、部品点数を削減でき、組付性を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、部品点数を削減して組付性を向上することができる動力伝達装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用された車両の動力系を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、図1を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用される車両の動力系の一例について説明する。
【0015】
図1に示すように、車両の動力系は、エンジンや電動モータなどの駆動源101と、変速機構としてのトランスミッション103と、前輪側の左右輪の差動を許容するフロントデフ105と、前車軸107,109と、前輪111,113と、トランスファ115と、プロペラシャフト117と、前輪側から後輪側へ伝達される駆動力を制御可能に断続する摩擦クラッチ7(図2参照)を有する動力伝達装置1と、後輪側の左右輪の差動を許容するリヤデフ119と、後車軸121,123と、後輪125,127などから構成されている。
【0016】
このように構成された車両の動力系では、駆動源101の駆動力がトランスミッション103を介してフロントデフ105に伝達される。このフロントデフ105に伝達された駆動力は、前車軸107,109を介して前輪111,113に配分されると共に、フロントデフ105に連結された中空軸129を介してトランスファ115に伝達される。このトランスファ115に伝達された駆動力は、方向変換ギヤ組131で方向変換されてプロペラシャフト117を介して動力伝達装置1の摩擦クラッチ7に伝達される。
【0017】
この動力伝達装置1に伝達された駆動力は、摩擦クラッチ7が接続されるとリヤデフ119に伝達されて後車軸121,123から後輪125,127に配分され、車両は前後輪駆動の四輪駆動状態になる。また、摩擦クラッチ7の接続が解除されると、車両は前輪駆動の二輪駆動状態になる。以下、図2を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0018】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、相対回転可能に配置された一対の回転部材としての外側回転部材3と内側回転部材5と、この外側回転部材3と内側回転部材5との間に配置され外側回転部材3と内側回転部材5との間の動力伝達を断続する摩擦クラッチ7と、ネジ軸9とこのネジ軸9の外周に回転可能で軸方向移動可能に設けられたナット11とネジ軸9とナット11との間に介在する複数のボール13とからなり摩擦クラッチ7に押圧力を付与するボールネジ機構15とを備えている。
【0019】
そして、内側回転部材5は、一対の第1と第2のベアリング17,19を介して固定系部材としてのケーシング21に支持され、第1のベアリング17は、ナット11が回転しスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、ネジ軸9に生じる軸方向他方へのスラスト反力を受ける。
【0020】
また、第1のベアリング17はケーシング21に支持され、第2のベアリング19は外側回転部材3及び第3のベアリング23を介してケーシング21に支持されている。
【0021】
さらに、ネジ軸9の軸方向端面は、第1のベアリング17のアウタレースに当接されている。
【0022】
また、ボールネジ機構15のスラスト力は、摩擦クラッチ7の締結力を生じさせると共に内側回転部材5に設けられ摩擦クラッチ7の軸方向一方への移動を規制する第1の規制部25に入力され、ボールネジ機構15のスラスト反力は、内側回転部材5に設けられ第1のベアリング17を介してネジ軸9の軸方向他方への移動を規制する第2の規制部27に入力される。
【0023】
さらに、第1のベアリング17は、アンギュラボールベアリングである。
【0024】
また、内側回転部材5は、径方向にネジ軸9を介してケーシング21に支持されている。
【0025】
さらに、ネジ軸9とケーシング21との間には、ネジ軸9の回転を規制する回り止め部29が設けられている。
【0026】
図2に示すように、動力伝達装置1は、ケーシング21と、外側回転部材3と、内側回転部材5と、摩擦クラッチ7と、ボールネジ機構15と、アクチュエータ31などから構成されている。
【0027】
ケーシング21は、内部に各部材を収容するケース本体33と、このケース本体33を閉塞するカバー35とからなり、ボルトなどの固定手段(不図示)によって一体的に固定されている。また、ケーシング21は、カバー35側がリヤデフ119(図1参照)を収容するキャリアに組付けられる。このケーシング21には、外側回転部材3と、内側回転部材5と、摩擦クラッチ7と、ボールネジ機構15と、アクチュエータ31などが収容されている。
【0028】
外側回転部材3は、有底の筒状に形成され、ボールベアリングである第3のベアリング23を介してケーシング21に回転可能に支持されている。また、外側回転部材3とケーシング21との径方向間にはケーシング21の内部と外部とを区画するシール部材37が設けられると共に、外側回転部材3の外周にはシール部材37を飛び石や粉塵などから保護するダストカバー39が設けられている。また、外側回転部材3の筒状の内周には、スプライン形状の係合部41が形成され、摩擦クラッチ7の外側クラッチ板が係合されている。
【0029】
この外側回転部材3の底壁部には、スタッドボルトなどの連結部材43が固定され、この連結部材43を介してプロペラシャフト117(図1参照)側に接続された回転部材(不図示)が外側回転部材3と一体回転可能に連結される。このような外側回転部材3の回転軸心部には、内側回転部材5が外側回転部材3と相対回転可能に配置されている。
【0030】
内側回転部材5は、中空状に形成され、外周でアンギュラボールベアリングである第1のベアリング17、ニードルベアリング45、ボールベアリングである第2のベアリング19を介して外側回転部材3と相対回転可能にケーシング21に支持されている。詳細には、第1のベアリング17とニードルベアリング45とは、径方向に後述するネジ軸9を介して内側回転部材5をケーシング21に支持し、第2のベアリング19は、外側回転部材3及び第3のベアリング23を介して内側回転部材5をケーシング21に支持している。
【0031】
この内側回転部材5の軸心側の中央部には、区画壁47が内側回転部材5と連続する一部材で設けられ、ケーシング21の内部と外部とを区画している。また、内側回転部材5の軸方向一端側外周とケーシング21との径方向間には、ケーシング21の内部と外部とを区画するシール部材49が設けられている。
【0032】
このような内側回転部材5の軸方向一端側内周には、スプライン形状の連結部51が形成され、リヤデフ119(図1参照)側に接続される回転部材(不図示)が内側回転部材5と一体回転可能に連結される。また、内側回転部材5の軸方向他端側外周には、スプライン形状の連結部53が形成され、内側連結部材55が内側回転部材5と一体回転可能に連結され、C型クリップなどからなる規制部材57によって軸方向移動が規制されている。この内側連結部材55の外周には、スプライン形状の係合部59が形成され、摩擦クラッチ7の内側クラッチ板が係合されている。このような内側回転部材5と外側回転部材3との間に伝達される駆動力は、摩擦クラッチ7によって断続される。
【0033】
摩擦クラッチ7は、複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とを備えている。複数の外側クラッチ板は、外側回転部材3の内周に形成された係合部41に軸方向移動可能で外側回転部材3と一体回転可能に係合されている。複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、内側連結部材55の外周に形成された係合部59に軸方向移動可能で内側回転部材5と一体回転可能に係合されている。
【0034】
この摩擦クラッチ7は、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の複数のクラッチ板からなる多板クラッチとなっている。この摩擦クラッチ7は、ボールネジ機構15によって押圧力が付与されて締結することにより、外側回転部材3と内側回転部材5との間の動力伝達を可能とする。
【0035】
ボールネジ機構15は、ネジ軸9と、ナット11と、ネジ軸9とナット11との間に介在する複数のボール13からなる。ネジ軸9は、ニードルベアリング45と第1のベアリング17とを介して内側回転部材5の外周に配置されている。また、ネジ軸9は、ケーシング21との間に形成された凹凸形状の回り止め部29を係合することによって回転が規制されている。このネジ軸9の外周側には、ナット11が配置されている。
【0036】
ナット11は、ネジ軸9の外周に回転可能で軸方向移動可能に配置されている。このナット11とネジ軸9との径方向間の合わせ面には、螺旋溝61が形成されている。この螺旋溝61内には、複数のボール13が介在されている。
【0037】
複数のボール13は、螺旋溝61内に回転可能に配置され、ナット11の回転によって発生するスラスト力によるナット11の軸方向移動を、小さな回転力で大きなスラスト力の発生を可能とさせている。このナット11の回転は、アクチュエータ31によって操作される。
【0038】
アクチュエータ31は、電動モータ63と、変速ギヤ部材65と、操作ギヤ部材67と、押圧部材69とを備えている。電動モータ63は、ケーシング21のケース本体33の外側に組付けられ、ケーシング21の内部にモータ軸71が配置されている。この電動モータ63は、制御手段としてのコントローラ(不図示)に接続され、コントローラによって制御可能に作動される。この電動モータ63のモータ軸71には、変速ギヤ部材65が噛み合っている。
【0039】
変速ギヤ部材65は、ケーシング21のケース本体33内に圧入固定されたピン66上にニードルベアリング68を介して回転可能に支持され、大径ギヤ部73と小径ギヤ部75とを備えている。大径ギヤ部73は、電動モータ63のモータ軸71と噛み合い、電動モータ63の回転を減速して変速ギヤ部材65を回転させる。小径ギヤ部75は、操作ギヤ部材67のギヤ部77と噛み合い、電動モータ63の回転を操作ギヤ部材67に出力する。
【0040】
操作ギヤ部材67は、スプライン形状の連結部79を介して軸方向移動可能でナット11と一体回転可能に連結されている。また、操作ギヤ部材67と押圧部材69との軸方向間には、操作ギヤ部材67の軸方向移動を押圧部材69に伝達すると共に、操作ギヤ部材67と押圧部材69との相対回転を許容させるスラストベアリング81が配置されている。
【0041】
この操作ギヤ部材67は、ギヤ部77が変速ギヤ部材65の小径ギヤ部75と噛み合い、変速ギヤ部材65の回転によって連結部79を介してナット11を回転させる。このナット11の回転により、ボールネジ機構15で発生する軸方向のスラスト力によってナット11が摩擦クラッチ7の接続方向に軸方向移動され、操作ギヤ部材67を摩擦クラッチ7の接続方向に軸方向移動させる。この操作ギヤ部材67の軸方向移動により、スラストベアリング81を介して押圧部材69が摩擦クラッチ7の接続方向に軸方向移動される。
【0042】
押圧部材69は、摩擦クラッチ7に軸方向に隣接配置され、外側回転部材3の内周に形成された係合部41に軸方向移動可能で外側回転部材3と一体回転可能に係合されている。なお、押圧部材69は、外側回転部材3に限らず、内側回転部材5と一体回転する内側連結部材55の係合部59に一体回転可能に係合させてもよい。この押圧部材69は、ボールネジ機構15によって軸方向に移動操作され、摩擦クラッチ7を押圧して摩擦クラッチ7を締結させる。このような押圧部材69は、摺動ワッシャ82に当接した付勢部材83によって、常時、摩擦クラッチ7の接続解除方向に付勢されている。
【0043】
付勢部材83は、皿ばねからなり、押圧部材69の内径側の凹部内で内側連結部材55と押圧部材69との軸方向間に摺動ワッシャ82と共に配置されている。この付勢部材83は、常時、押圧部材69を摩擦クラッチ7の接続解除方向に付勢する。このため、押圧部材69が摩擦クラッチ7の接続方向に移動操作されていない状態では、押圧部材69が摩擦クラッチ7の複数のクラッチ板に接触することがなく、摩擦クラッチ7の複数のクラッチ板が押圧されず、摩擦クラッチ7における引きずりトルクの発生を低減することができる。また、この状態では、付勢部材83が押圧部材69を介してナット11を摩擦クラッチ7の接続解除方向に付勢している。このため、付勢部材83は、ボールネジ機構15の軸方向ガタをつめるようにナット11を初期位置に位置させ、ボールネジ機構15の初期位置を規定している。
【0044】
このように構成された動力伝達装置1では、電動モータ63の作動により変速ギヤ部材65と操作ギヤ部材67とを介してナット11を回転させる。このナット11の回転によりボールネジ機構15でナット11を軸方向移動させるスラスト力が発生し、ナット11が摩擦クラッチ7の接続方向に軸方向移動され、操作ギヤ部材67が摩擦クラッチ7の接続方向に軸方向移動される。この操作ギヤ部材67の軸方向移動によりスラストベアリング81を介して押圧部材69が付勢部材83の付勢力に抗して摩擦クラッチ7の接続方向に軸方向移動される。この押圧部材69の軸方向移動により摩擦クラッチ7の複数のクラッチ板が押圧操作され、摩擦クラッチ7が接続される。この摩擦クラッチ7の接続により外側回転部材3と内側回転部材5との間の動力伝達が可能となる。
【0045】
このようにボールネジ機構15は、アクチュエータ31の作動によってナット11が回転することにより、ナット11を軸方向一方側である摩擦クラッチ7の接続方向に移動させるスラスト力と、このナット11の軸方向移動によってネジ軸9を軸方向他側である摩擦クラッチ7の接続解除方向に移動させるスラスト反力とを発生する。
【0046】
このボールネジ機構15のスラスト力は、上述したように、ナット11を摩擦クラッチ7の接続方向に移動させ、押圧部材69を介して摩擦クラッチ7に締結力を生じさせる。このスラスト力は、摩擦クラッチ7に隣接配置され内側回転部材5と一体回転可能に連結する内側連結部材55の係合部59に固定されたC型クリップなどからなる第1の規制部25に入力され、C型クリップなどからなる規制部材57を介して内側回転部材5に入力される。
【0047】
これに対してボールネジ機構15のスラスト反力は、ネジ軸9を摩擦クラッチ7の接続解除方向に移動させる。このスラスト反力によって軸方向移動されようとするネジ軸9の軸方向端面には、第1のベアリング17のアウタレースが当接されている。このため、ボールネジ機構15のスラスト反力は、第1のベアリング17が受けることになり、スラスト反力によるネジ軸9の移動を防止することができる。この第1のベアリング17が受けたスラスト反力は、第1のベアリング17のインナレースに隣接配置され内側回転部材5の外周に固定されたC型クリップなどからなる第2の規制部27に入力される。
【0048】
このように内側回転部材5を回転可能に支持する第1のベアリング17によってボールネジ機構15のスラスト反力を受けることにより、スラスト反力を受けるためのスラストベアリングや固定部材などを設ける必要がない。また、ボールネジ機構15のスラスト力とスラスト反力とは、内側回転部材5に設けられた第1の規制部25と第2の規制部27とに入力されている。このため、ボールネジ機構15のスラスト力とスラスト反力とを受ける構造を内側回転部材5のみで完結することができる。
【0049】
このような動力伝達装置1では、内側回転部材5を支持する第1のベアリング17がナット11が回転しスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、ネジ軸9に生じる軸方向他方へのスラスト反力を受けるので、第1のベアリング17に内側回転部材5の径方向の支持と、ネジ軸9の径方向と軸方向他方への支持と、ボールネジ機構15のスラスト反力受けとの3つの機能を持たすことができる。
【0050】
従って、このような動力伝達装置1では、第1のベアリング17が内側回転部材5の径方向の支持と、ネジ軸9の径方向と軸方向他方への支持と、ボールネジ機構15のスラスト反力受けとの機能を有するので、部品点数を削減でき、組付性を向上することができる。
【0051】
また、第1のベアリング17はケーシング21に支持され、第2のベアリング19は外側回転部材3及び第3のベアリング23を介してケーシング21に径方向支持されているので、第1のベアリング17と第2のベアリング19との支持を安定させることができ、内側回転部材5の支持を安定化させることができる。
【0052】
さらに、ネジ軸9の軸方向端面は、第1のベアリング17のアウタレースに当接されているので、ボールネジ機構15のスラスト反力を第1のベアリング17によって確実に受けることができる。
【0053】
また、ボールネジ機構15のスラスト力は、内側回転部材5に設けられた第1の規制部25に入力され、ボールネジ機構15のスラスト反力は、内側回転部材5に設けられた第2の規制部27に入力されるので、ボールネジ機構15のスラスト力とスラスト反力とを受ける構造を内側回転部材5のみで完結することができ、ボールネジ機構15の作動を安定化させることができる。
【0054】
さらに、第1のベアリング17は、アンギュラボールベアリングであるので、内側回転部材5の径方向支持を安定化させつつ、第1のベアリング17によってボールネジ機構15のスラスト反力を受けることができる。
【0055】
また、内側回転部材5は、径方向にネジ軸9を介してケーシング21に支持されているので、ネジ軸9の支持が安定化され、ボールネジ機構15の支持を安定化させることができる。
【0056】
さらに、ネジ軸9とケーシング21との間には、ネジ軸9の回転を規制する回り止め部29が設けられているので、ネジ軸9の外周に配置されたナット11の回転を確実に行うことができ、ボールネジ機構15のスラスト力によるナット11の軸方向移動を安定化させることができる。
【0057】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、ナットの軸方向移動によって押圧部材を介して摩擦クラッチを締結させているが、これに限らず、ナットと押圧部材とを一体的に設け、直接、ナットの軸方向移動によって摩擦クラッチを締結させてもよい。
【0058】
また、図2における符号16,18,20,22,24は、それぞれC型クリップなどからなる規制部材であり、係合溝と係合することで、ベアリング17,19,23と、内側回転部材5、外側回転部材3、ケーシング21との軸方向位置を定めるものである。
【0059】
さらに、外側回転部材がプロペラシャフト側に一体回転可能に連結され、内側回転部材がリヤデフ側に一体回転可能に連結されているが、これに限らず、外側回転部材をリヤデフ側に一体回転可能に連結させ、内側回転部材をプロペラシャフト側に一体回転可能に連結させるなど、外側回転部材と内側回転部材との入出力の関係はどちらであってもよい。
【0060】
また、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用される車両の動力系では、動力伝達装置がプロペラシャフト上に配置されているが、これに限らず、左右の車軸上に動力伝達装置を配置させてもよい。この場合、デファレンシャルギヤを取り除き、左右の摩擦クラッチのみでトルク伝達してもよい。
【0061】
さらに、前輪側に駆動源が配置され、主に後輪側を駆動するFRベースのトランスファ内に動力伝達装置を配置し、摩擦クラッチを前輪側の駆動系へのクラッチトルク伝達に用いてもよい。
【0062】
また、動力伝達装置は、フロントデフ、リヤデフ、センターデフなどのいずれかに搭載されたデファレンシャル装置の差動制限に摩擦クラッチを用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…動力伝達装置
3…外側回転部材(他方の回転部材)
5…内側回転部材(一方の回転部材)
7…摩擦クラッチ
9…ネジ軸
11…ナット
13…ボール
15…ボールネジ機構
17…第1のベアリング
19…第2のベアリング
21…ケーシング(固定系部材)
23…第3のベアリング
25…第1の規制部
27…第2の規制部
29…回り止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に配置された一対の回転部材と、この一対の回転部材間に配置され前記一対の回転部材間の動力伝達を断続する摩擦クラッチと、ネジ軸とこのネジ軸の外周に回転可能で軸方向移動可能に設けられたナットと前記ネジ軸と前記ナットとの間に介在する複数のボールとからなり前記摩擦クラッチに押圧力を付与するボールネジ機構とを備えた動力伝達装置であって、
前記一対の回転部材のうち一方の回転部材は、一対の第1と第2のベアリングを介して固定系部材に支持され、前記第1のベアリングは、前記ナットが回転しスラスト力を受けて軸方向一方へ移動するとき、前記ネジ軸に生じる軸方向他方へのスラスト反力を受けることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記第1のベアリングは前記固定系部材に支持され、前記第2のベアリングは他方の回転部材及び第3のベアリングを介して前記固定系部材に支持されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記ネジ軸の軸方向端面は、前記第1のベアリングのアウタレースに当接されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記スラスト力は、前記摩擦クラッチの締結力を生じさせると共に前記一方の回転部材に設けられ前記摩擦クラッチの軸方向一方への移動を規制する第1の規制部に入力され、前記スラスト反力は、前記一方の回転部材に設けられ前記第1のベアリングを介して前記ネジ軸の軸方向他方への移動を規制する第2の規制部に入力されることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記第1のベアリングは、アンギュラボールベアリングであることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記一方の回転部材は、径方向に前記ネジ軸を介して前記固定系部材に支持されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記ネジ軸と前記固定系部材との間には、前記ネジ軸の回転を規制する回り止め部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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