説明

動的位置決めシステム用の試験方法及びシステム

センサ(8)から実際の測定信号(7)を受信し、かつ制御信号(13)をアクチュエータ(16、17、18)に提供する船舶(0)制御システム(2)を試験する方法であり、−前記制御システム(2)が1つ以上の前記実際の測定信号(7)を受信する信号変更用コンピュータ(80)に接続され、−前記信号変更用コンピュータ(80)が、前記実際の測定信号(7)を前記実際の測定信号(7)の実際の値に依存する変更された測定信号(70)に変更し、−前記信号変更用コンピュータ(80)が、前記変更された測定信号(70)を前記制御システム(2)に送り、前記1つ以上の変更された測定信号(70)の入力値が前記実際の測定信号(8)の入力値の一部又は全てを取り替えて、−前記制御システム(2)が、前記1つ以上の変更された測定信号(70)に作用し、かつ影響されない実際の測定信号(7)を残して、1つ以上のセンサ(8)の中で発生すると想定される前記変更された測定信号(70)が表したエラーに対して、前記制御システム(2)が望ましい方法で動作するかどうかを試験することを特徴とする方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
船舶(vessel)用の動的位置決め(dynamic positioning)(DP)システムは、船舶が錨又は錨との組合せを使用せずに、海で定位置又は所定のトラックを自動的に維持するいわゆる自らの位置を保つために使用される。動的位置決めシステムが船舶の安全で正確な位置決めを達成できることを検証するために、動的位置決めシステムを高範囲にわたって試験することを容易にする試験システム及びシステム方法を備えることが重要である。高範囲にわたる試験の必要性は、動的位置決めシステムがうまく動作することが、動的位置決めシステムの制御のもとにある船舶、他の船舶及び構造体、及び環境及びその任務の完了に対する安全性に対して重要であるという事実に基づいている。動的位置決めシステムは、コンピュータシステム、コンピュータネットワーク、多数のセンサ、スラスタ及びアクチュエータ、機構部分、電力システム及び船舶オートメーションシステムを含む複雑な技術システムである。試験の範囲には、コンピュータ制御システム、コンピュータネットワーク、電力システム、機構部分、電力バス、スラスタ、位置基準システム、及びアクチュエータを含む動的位置決めシステムの主要な構成要素の相互作用に関連した影響が含まれることが重要である。従来技術はこれらの影響に対して必要な高範囲にわたる試験を行うことはできないため、本発明は動的位置決めを試験するための新しいシステム及び方法になる。
【背景技術】
【0002】
従来技術には、後で説明する国際特許出願第WO9214216号がある。さらに、幾つかの米国特許は、船舶を位置決めする方法及び装置を説明している。1981年の米国特許第4,301,760号は、深海の抗井用の掘削船を位置決めする方法を説明している。米国特許第5,523,951号は、航空機の飛行制御システムを試験するための自動化試験装置に関係している。1996年の米国特許第5,523,951号は、任意のグラウンドトラック(ground track)に沿って操縦する自動化船舶用のシステムを説明している。米国特許第5,260,874号は、飛行中に航空機が受け取る励振(stimuli)、すなわち、その航空機を着陸させる必要があるという励振をエミュレートする励振を発生する航空機用試験システムを説明している。米国特許第5,541,863号は、アビオニクス機器用の仮想の集積ソフトウェア・テストベッド(virtual integrated software testbed)を説明している。米国特許第6,298,318号は、リアルタイムの慣性運動信号エミュレーション(inertial movement signal emulation)に関係している。米国特許第6,450,112号は、要求された力又はモーメントを決定するための、望ましい船舶の位置又は規定を制御する速度を入力するためのコマンドソース(command source)を含む船舶を自動的に位置決めする方法を請求している。
【0003】
[動的位置決めシステムの構成要素]
動的位置決め(DP)システムは下記の要素を含む。
1.DP用コンピュータ、データ入力/出力システム及びDP用ソフトウェアを含む動的位置決め用コンピュータシステム;
2.コンピュータネットワーク;
3.船舶オートメーション、燃料ポンプ、冷却及び循環ポンプなどの補助装置を含む機構部分、発電機、電力管理システム(PMS)、電力バス及び配電盤、無停電電源装置(UPS)、及び高低電圧配電装置を含む電力システム;
4.局所スラスタ制御システム及び液圧、冷却、船舶オートメーションなどに対する補助システムを含むスラスタ及び舵の形式の推進手段;
5.位置基準システム及びセンサの形式の測定システム;
6.情報がディスプレイ上でオペレータに示され、またオペレータがDPシステムに命令を入力できる入力命令(10)装置付きの操作卓。
【0004】
[ループ内ハードウェア(Hardware-in-the-loop)式シミュレーション]
DP制御システムは、該DP制御システムが船舶ではなくシミュレータに接続されるループ内ハードウェア式シミュレーションを用いて、従来技術に基づいて試験される。このシミュレータは、DPコンピュータシステムからスラスタ及び舵用命令を入力して、こうしたスラスタ及び舵用命令の結果として生じた船舶の動きを計算する。シミュレータは、シミュレータが計算した動きに対して測定システムからの結果として生じた信号を戻す。DP制御システムから見ると、それは実際にはシミュレータに接続されているにもかかわらず、船舶に装備された機器に接続されているように見える。この試験構成における高範囲の操作設定値及び環境条件、故障状況及びオペレータ命令に対して、DPコンピュータシステムを試験することができる。これは極めて強力な試験方法であり、このことは非常に重要である。
【0005】
ループ内ハードウェア式シミュレーションについての主な限界は、DPシステムの分離された部分のみが、すなわちDPコンピュータシステムのみが試験されることである。スラスタシステム、電力管理システム、船舶オートメーションシステムなどの中でコンピュータ制御システムを試験するためには、一体化されたDPシステムの一部としてDPコンピュータシステムを試験することも必要である。ループ内ハードウェア式シミュレーションを用いる試験に対する別の欠点は、試験の品質がシミュレータの中で使用される数学モデルの精度、すなわちモデルが全てのその相互作用する構成要素と共に実際の船舶に類似する忠実度に依存することである。船舶の原動力、液体力学、測定システム、スラスタ及び舵に関しては、精度は極めて良好であり、信頼できる結果が大抵の試験の結果から得られるであろう。しかしながら、電力システムは多数の入力/出力信号の点から見ると極めて複雑で、同時に極めて高い頻度の動力学(very high-frequency dynamics)であるため、十分な精度の数学モデルが本発明を提出する時点でループ内ハードウェア式シミュレータの中で使用するために実際に役立つことは期待できない。上記の背景には、DPシステム用の別の試験ツールに対する要求がある。
【0006】
[FMEA試験]
DPシステムを故障モード及び効果分析(Failure Mode and Effect Analysis)(FMEA)に基づいて試験することは、既に実施されている業務である。FMEA試験では、DPシステムの多数の重要な故障モードが特定され、またDPシステムがこれらの故障モードをどのように処理するかが試験される。DPシステムが通常動作をしている間に、機器を無効にしたり作動させたりすることによって、またDPシステムのケーブルやコネクタを外したり再接続することによって、試験が行われる。さらに、電子機器の基板の取外し及び再挿入を行う。電力システムの一部がシャットダウンされる停電試験が行われる。
【0007】
故障が「厳格に」シミュレートされる前述したようなFMEA試験の方式は、強引であると言える。その試験は、ケーブル、コネクタ及び電子機器の基板を損傷する危険にかかわる問題、及びシステムが停電試験の後で再起動されるときに現れる可能性がある問題をもたらす。さらに、そのような試験は時間がかかる。また、望ましい幾つかの試験は、過大な費用、実行するための多大な時間、又は装置若しくは人員に対する危険を引き起こす可能性があるので行うことができないことも問題である。
【0008】
[船舶サイバネチクス(Marine Cybernetics)からの以前の特許出願との関係]
船舶サイバネチクス及びDet Norske Veritasの特許出願第NO2002 6284号、NO2003 5861号、及びPCT第NO2003−000445号は、船舶制御システムを遠隔試験するための方法及びシステムに関する。
【0009】
本発明は、ループ内ハードウェア式シミュレーションに基づいていない。その代わりに、通常動作しているDPシステムを用いて、船舶オートメーションシステム、電力管理システム又はスラスタ制御システムなどの他のコンピュータシステムからの測定信号又はステータス信号を変更することによって試験は行われる。信号の変更は、スラスタシステム、電力システム、センサシステムなどの中、船舶オートメーションシステムの中、又はDPコンピュータシステムのインターフェースにおいて局所的に実行することができる。この方法では、DPシステム全体のセンサ故障の影響を調べることができる。こうしたセンサの故障には、信号損失、定誤差、一定の又は変化する信号オフセット、1つ以上のセンサのキャリブレーション不良、信号エラーなどが含まれる。
【0010】
[エッジ電子工学(Edge Electronics)の特許出願第WO9214216号との関係]
エッジ電子工学の特許出願第WO9214216号は、本発明に関連した主クレームの中で、下記の要素を有するシステムを説明している。
【0011】
[請求項1]
(i)車両内の多数の様々な機能を独立に感知及び動作するためのセンサ及びアクチュエータのネットワーク、(ii)前記センサをモニタしかつ前記アクチュエータの動作を制御するためのオンボード形コンピュータ、及び(iii)前記オンボード形コンピュータを前記センサ及びアクチュエータに電気的に接続する手段を有し、前記接続する手段が、それぞれ前記センサ及びアクチュエータに接続された一連の自動車側プラグイン端子を有する自動車側コネクタと、前記自動車側コネクタに取り外し可能に接続でき、かつ前記コンピュータ内のしかるべき回路に接続された対応する相補形のコンピュータ側プラグイン端子を有するコンピュータ側コネクタとを含む様式の自動車両用の対話式診断システムであって、前記診断システムが、
(a)1つ以上の前記自動車側端子を前記対応するコンピュータ側端子から選択的かつ一時的に切り離し、これにより1つ以上の特定のセンサ及び/又はアクチュエータを前記コンピュータから切り離すための第1の手段と、
(b)前記1つ以上の特定のアクチュエータの動作を前記オンボード形コンピュータから独立して制御するために、前記1つ以上の特定の自動車側端子が前記対応するコンピュータ側端子から切り離されるときに、前記1つ以上の特定の自動車側端子に一時的に接続できる第2の手段と、
(c)前記1つ以上の特定のセンサの動作をこれらのセンサの実際の動作から独立してシミュレートするために、前記1つ以上の特定のコンピュータ側端子が前記対応する受信側端子から切り離されるときに、前記1つ以上の特定のコンピュータ側端子に一時的に接続できる第3の手段と、
を備えることを特徴とするシステム。
【0012】
[請求項23]
(i)車両内の多数の様々な機能を独立に感知及び動作するためのセンサ及びアクチュエータのネットワーク、(ii)前記センサをモニタしかつ前記アクチュエータの動作を制御するためのオンボード形コンピュータ、及び(iii)前記オンボード形コンピュータを前記センサ及びアクチュエータに電気的に接続する手段を有し、前記接続する手段が、それぞれ前記センサ及びアクチュエータに接続された一連の自動車側プラグイン端子を有する自動車側コネクタと、前記自動車側コネクタに取り外し可能に接続でき、かつ前記コンピュータ内のしかるべき回路に接続された対応する相補形のコンピュータ側プラグイン端子を有するコンピュータ側コネクタとを含む様式の自動車両を診断する方法であって、前記方法が、
(a)1つ以上の特定のセンサ及び/又はアクチュエータを前記コンピュータから選択的かつ一時的に切り離すために、1つ以上の前記自動車側端子を選択的かつ一時的に切り離すステップと、
(b)前記1つ以上の特定の切り離されたアクチュエータの動作を前記オンボード形コンピュータから独立して制御するステップ及び/又は前記1つ以上の特定の切り離されたセンサの動作を前記センサの実際の動作から独立してシフトするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【0013】
特許出願第WO9214216号の請求項によれば、自動車側アクチュエータに対するアクチュエータ信号は、オンボード用コンピュータ、又は前記オンボード用コンピュータとは無関係に第2の手段のいずれかから送られ、同様にオンボード用コンピュータに入力されるセンサ信号は自動車側センサ、又はこれらのセンサの実際の動作とは無関係に第3の手段のいずれかから送られる。
【0014】
さらに、特許出願第WO9214216号に記載された診断システムは車両用に設計されており、この場合センサ及びアクチュエータは個別の信号線のネットワークを用いて車両用コンピュータに接続され、各信号線は車両用コンピュータを1つのセンサ又はアクチュエータに接続し、選択された信号はコネクタを抜くことによって、そうしない場合は前記コネクタを診断システムに接続することによって、コンピュータ側又は車両側から切り離されることに注意されたい。
【0015】
特許出願第WO9214216号に関して、下記のように結論を下すことができる。
1.この特許は、ある付加的な信号要素を各信号に加えることによって、又は1つ以上の前記信号を各前記信号に対するオフセット及び利得を用いてスケーリングすることによって、1つ以上の特定のセンサ又はアクチュエータを変更する可能性を説明していない。
2.この特許は、1つ以上のセンサ信号及び/又は1つ以上のアクチュエータ信号を用いて、オンボード用コンピュータ側のセンサ信号端子に入力すべき1つ以上の変更されたセンサ信号を計算できるようにしていない。エッジは1つのセンサ信号を使用するか拒絶するかのいずれかである。
【0016】
上記の制約は、DPシステムを試験する場合には極めて深刻なものであり、この特許出願の中には存在しない。
【発明の開示】
【0017】
上記の問題は、本発明の実施形態を用いて克服できる。本発明は、実際の測定信号をセンサから受信し、かつ制御信号をアクチュエータに出力するように構成された船舶制御システムに対する試験システムであり、下記のような新しい特徴を備えている。すなわち、
−1つ以上の前記実際の測定信号を受信するように接続された信号変更用コンピュータを備えて、
−前記信号変更用コンピュータは、前記実際の測定信号を前記実際の測定信号の実際の値に依存する変更された測定信号に変更するように構成され、
−前記信号変更用コンピュータは、前記変更された測定信号を前記制御システムに送り、前記1つ以上の変更された測定信号の入力値が前記実際の測定信号の入力値の一部又は全てを取り替えるように構成され、
−前記制御システムは、前記1つ以上の変更された測定信号に作用して、影響されない実際の測定信号を残すように構成され、
−1つ以上のセンサの中で発生すると想定される前記変更された測定信号が表したエラーに対して、前記制御システムの機能を試験できるようにする、特徴を備えている。
【0018】
本発明のさらに別の特徴は、添付した従属請求の範囲の中で定義されている。
【0019】
本発明は、船舶制御システムを試験する方法も含んでおり、前記システムはセンサから実際の測定信号を受信し、かつ制御信号をアクチュエータに提供し、
−1つ以上の前記実際の測定信号(7)を受信する信号変更用コンピュータ(80)に接続され、
次のように特徴付けられる、すなわち、
−前記信号変更用コンピュータは、前記実際の測定信号を前記実際の測定信号の実際の値に依存する変更された測定信号に変更し、
−前記信号変更用コンピュータは、前記変更された測定信号を前記制御システムに送り、前記1つ以上の変更された測定信号の入力値が前記実際の測定信号の入力値の一部又は全てを取り替え、
−前記制御システムは、前記1つ以上の変更された測定信号に作用し、かつ影響されない実際の測定信号を残し、
1つ以上のセンサの中で発生すると想定される前記変更された測定信号が表したエラーに対して、前記制御システムが望ましい方法で動作するかどうかを試験する、特徴を備えている。
【0020】
本発明による方法のさらに別のステップは、方法の請求項に依存する請求項の中に含まれている。
【0021】
本発明は、添付された図面で説明される。これらの図面は本発明を単に例証するものであり、本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。本発明は添付した請求の範囲によってのみ制限される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[本発明によるDPシステム用インターフェースの好ましい実施形態の説明]
本発明による動的位置決めシステムは、多数の異なるインターフェース構成を用いて設計することができる。慣習によれば、DPシステムは、DPコンピュータシステムが測定ネットワーク及びアクチュエータネットワークに接続されるように設計される。ここでは、測定ネットワーク及びアクチュエータネットワークはイーサネット(登録商標)であり、冗長ネットワークとして設計されることが多い。測定ネットワーク及び/又はアクチュエータネットワークは、別の選択肢として冗長なフィールドバス又はCANバス通信に、又は無線通信システムに置き換えることができる。幾つかのセンサは、RS232、RS422又はRS485などのシリアルラインを用いて、又はアナログ及びディジタルの信号線によってDPコンピュータ用システムに直接接続することができる。
【0023】
シリアルインターフェース、ディジタル−アナログ変換器、アナログ−ディジタル変換器、ディジタルインターフェース、及び信号処理装置を含む入出力ボードを備えたDPシステムに対するハードウェアインターフェースは、DPコンピュータのキャビネットの中に組み込まれるか、又は船舶に分散(distribute)される。そのような分散されたハードウェアインターフェースは、専用のインターフェース電子ユニット又は測定ネットワークに接続されたコンピュータの中に配置される。そのようなハードウェアインターフェースは、船舶オートメーションシステム用コンピュータ又は船舶のプログラム可能なロジックコンピュータ(PLC)に組み込むこともできる。
【0024】
[シリアルラインを使用する本発明の第1の好ましい実施形態]
下記のDPシステムの検討
1.DPコンピュータシステムは、RS422などのシリアルラインにより位置基準システムに接続され、測定システムの残りのセンサは、RS422などのシリアルラインを用いて又はアナログ信号線により、このDPコンピュータシステムに接続される。
2.DPコンピュータシステムは、一般に冗長又は非冗長のUDPプロトコルを実行するイーサネット(登録商標)ネットワークであるコンピュータネットワークを介して、又は配線接続されたアナログ又はディジタルの信号によってスラスタシステムに接続される。
【0025】
本発明の第1の実施形態では、外部の信号変更用コンピュータが試験の目的のために使用される。この信号変更用コンピュータは、特に発達した信号変更アルゴリズムを実行するように構成されている。試験を行う場合は、位置基準システム及び/又は測定システムの他のセンサからの1つ以上のシリアルラインは、DPコンピュータシステムから切り離され、その代わりに信号変更用コンピュータに接続される。前記それぞれのシリアルラインは、信号変更用コンピュータからDPコンピュータシステムへ送られるシリアルラインによって置き換えられて、DPコンピュータシステムに対するセンサ信号の入力は、発生された信号、すなわち信号変更用コンピュータで変更された信号になる。
【0026】
信号変更用コンピュータは信号シミュレータではない。この信号変更用コンピュータは、通常の動作時ではDPコンピュータシステムの入力になる1つ以上のセンサ信号を受信する。信号変更用コンピュータは、信号変更用コンピュータへの入力になる1つ以上のセンサ信号に基づいて、前記センサ信号に対する新しい値を試験するために計算する。前記センサ信号用の新しい値は、信号変更用コンピュータからDPコンピュータシステムへのシリアルラインを介して、DPコンピュータシステムに最小の内部遅延で送信される。
【0027】
次に、DPシステムは下記のように試験される。
1.DPシステムのDPコンピュータシステム、管理システム、スラスタシステム及び操作卓は、通常の動作モードで動作する。
2.信号変更用コンピュータは、管理システムから1つ以上のセンサ信号を連続的に受信して、前記1つ以上のセンサ信号に対応する1つ以上の変更されたセンサ信号を発生する。ここで、前記変更されたセンサ信号は、前記センサ信号の真の値に依存するアルゴリズムを用いて信号変更用コンピュータの中で計算され、信号変更用コンピュータは、前記1つ以上の変更されたセンサ信号をDPコンピュータシステムに出力する。
【0028】
[コンピュータネットワークを使用する本発明の第2の好ましい実施形態]
本発明は、センサ(8)から実際の測定信号(7)を受信し、かつ制御信号(13)をアクチュエータ(16、17、18)に出力するように構成された船舶制御システム(2)に対する試験システムとして示されている。
【0029】
信号変更用コンピュータ(80)は、1つ以上の前記実際の測定信号(7)を受信するように接続されて構成される。
信号変更用コンピュータ(80)は、好ましくは比較的短時間に、実際の測定信号(7)を修正された測定信号(70)に変更するように構成される。実際の測定信号の変更は無作為ではなく、前記実際の測定信号の実際の値に基づいて行われる。実施例として、2つ以上のGPSセンサからの緯度及び経度を含む位置信号は、例えば長さ及び方向を有する一定の又は変化するベクトルによって変更される。GPSの読取りのオフセットエラーを示す長さが75mでNNEに対して30度の方向は、北に対して75mコサイン30度及び東に対して75mサイン30度のエラーを与える。
信号変更用コンピュータ(80)は、変更された測定信号(70)を前述した制御システムに送るように構成され、1つ以上の前記変更された測定信号(70)の入力値は、前記実際の測定信号(8)の入力値の一部又は全てを取り替える。
前記制御システム(2)は、前記1つ以上の変更された測定信号(70)に作用して、影響されない実際の測定信号(7)を残すように構成される。
本発明の目的は、1つ以上のセンサ(8)の中で発生すると想定される、前記変更された測定信号(70)によって表されたこうしたエラーに対して、前記制御信号(2)の機能の試験を可能にすることである。初めの実施例として、システムは、例えば第1のGPSセンサなどの1つのセンサの突然変化する、すなわち不安定な読取り値と、例えば別のGPSセンサなどの同様のセンサのあまり変化しない、すなわち安定した読取り値との間を区別することが可能かどうかを明らかにできる。
システムが、例えば何らかのエラーが発生することにより全く信用できなくなった精度の高いdGPSのような優先度の高い位置信号を識別して、例えば水中音響式トランスポンダから来る精度は低いが、試験の状況に対してまだ信頼できる別の位置信号に優先度を与えることが可能かどうかも、試験は明らかにすることができる。そのような動作は、1つ又は両方のdGPSシステムが例え動作不良になっても、トランスポンダシステムが機能を継続するような実際の状況の中では望ましい。
【0030】
図面を参照すると、本発明による試験システムでは、船舶制御システム(2)は、コマンド信号線(11)を介してコマンド入力装置(10)から入力されたコマンド信号(9)を受信するように構成される。さらに、この試験システムでは、前記センサ(8)は、センサ用信号線(12)を用いて前記制御システムに接続される。
【0031】
下記のようなDPシステムを検討する。
a)DPコンピュータシステムは、一般に(i)冗長又は非冗長のUDPプロトコルを実行するイーサネット(登録商標)ネットワーク、(ii)冗長又は非冗長のフィールドバス又はCANバス、又は(iii)無線信号送信プロトコル、であるコンピュータネットワークを用いて測定システムに接続される。
b)DPコンピュータシステムは、コンピュータネットワークを通してアクチュエータに接続される。
【0032】
本発明の第2の実施形態では、外部の信号変更用コンピュータが試験を行うために使用される。この信号変更用コンピュータは、特に発達した信号変更アルゴリズムを実行するように構成されている。試験に当たっては、信号変更用コンピュータは、DPコンピュータシステムを管理システムに接続するコンピュータネットワークに接続される。信号変更用コンピュータは、管理システムから1つ以上のセンサ信号を入力し、これらの入力されたセンサ信号及びコンピュータのアルゴリズムに基づいて、信号変更用コンピュータは前記センサ信号に対する変更された値を計算し、この変更されたセンサ信号をコンピュータネットワークに出力する。変更された信号の宛先は、DPコンピュータとなっている。
【0033】
試験を行うために、DPコンピュータシステムの入力は、DPコンピュータシステムに対する入力信号のリストを変更することによって、DPコンピュータシステムが測定システムから送信された対応するセンサ信号ではなく、信号変更用コンピュータからの前記変更されたセンサ信号を受け取るように変更することができる。
【0034】
次に、DPシステムは下記のように試験される。
1.DPシステムの電力システム、管理システム、スラスタシステム及び操作卓は、通常の動作モードで動作する。
2.DPコンピュータシステムは、測定システムからの対応するセンサ信号ではなく、信号変更用コンピュータからの1つ以上の変更された信号を読み取るように設定されている。
3.信号変更用コンピュータは、管理システムからコンピュータネットワークを経由して1つ以上のセンサ信号を連続的に受け取り、前記1つ以上のセンサ信号に対応する1つ以上の変更されたセンサ信号を発生する。ここで、前記変更されたセンサ信号は、前記センサ信号の真の値に依存するアルゴリズムを用いて信号変更用コンピュータの中で計算され、信号変更用コンピュータは、前記1つ以上の変更されたセンサ信号をコンピュータネットワークを経由してDPコンピュータシステムに出力する。
【0035】
図面を参照すると、本発明による試験システムは、プロペラ(16)、スラスタ(17)、及び舵(18)などの前記アクチュエータ(16、17、18)に制御信号(13)を出力するように構成されている。
【0036】
さらに、信号変更用コンピュータ(80)は、前記実際の測定信号(7)を比較的短時間で変更された測定信号(70)に変更して、前記制御システム(2)が前記実際の測定信号(7)を受信した対応する受信時間と比較する場合、前記制御システム(2)が前記変更された測定信号(70)に対する著しい遅延を受けないように構成される。
【0037】
本発明による試験システムでは、前記制御システム(2)は、発電機の出力電圧(7pV)、発電機の出力電流(7pA)、発電機の電力(7pP)、全発電機の電力(7pTf)、発電機のステータス(7pS)などの電力信号を感知するための電力センサ(8p?)を含む電力管理システムを備えることができる。
【0038】
[本発明の適用]
位置基準システムの試験構成
DPシステムでは、船舶の位置は、1つ以上の位置基準システムの測定に基づいて決定される。位置基準システムは、(i)船舶の中で固定した基準点の位置、又は(ii)船舶の船首方位を出力する。位置基準システムは、下記の1つとすることができる。
a)船の進路を測定するジャイロコンパスと縦軸の方向を決定する垂直基準ユニットとを組み合わせてGPSアンテナの位置を測定する差動GPSシステム(DGPS)を含むDGPS位置基準システム。ガリレオ(Galileo)などの他の衛星ナビゲーションシステム、又は地上ナビゲーションシステム(land-based navigation system)を使用できる。これらの測定値から、DPコンピュータシステムは、測定された船首方位及び測定された垂線の方向に対してGPSアンテナと船舶の基準点との間の距離に対するGPSアンテナの位置を調整することによって、船舶基準点の位置を計算することができる。
b)水中音響測定システムが、船の進路を測定するジャイロコンパスと縦軸の方向を決定する垂直基準ユニットとを組み合わせて水中音響トランスポンダの位置を与える水中音響位置基準システム。これらの測定値から、DPコンピュータシステムは、測定された船舶の進路及び測定された船舶の方向に対して水中音響トランスポンダと船舶の基準点との間の距離に対する水中音響トランスポンダの位置を調整することによって、船舶基準点の位置を計算できる。
c)トートワイヤ(Tautwire)、扇形ビーム、DARPS、ARTEMIS、ジャイロコンパスなど。
【0039】
正確に動作する位置基準システムは、DPシステムの安定性と効率的な性能にとって重要である。このため、少なくとも3つの位置基準システムを使用することは、DPシステムを含む安全で重要な動作を行う上では一般的な方法である。1つの典型的な構成は、DGPS位置基準システム及び水中音響式位置基準システムを使用することである。この理由は、1つの位置基準システムの故障を残りの2つの位置基準システムからの情報を使用することによって補償する又は取り除くことができることが期待されることである。幾つかの記録された出来事では、3つの位置基準システムを備えた場合でも、基準システムの1つが故障したとき、DPシステムが正確な位置を明らかにできないことに遭遇した。このため、どのようにまたどの程度までDPシステムが1つ以上の位置基準システムの不具合又は故障を処理するかを試験することが重要である。
【0040】
本発明の信号変更用コンピュータは、故障が位置基準システムの中で発生したときにDPシステムの性能を試験する場合の新しく有用なツールである。そのような試験は、本発明の第1の実施形態を用いて下記のように行われる。説明に当たっては、DPシステムは2つのDGPSシステムと海底にトランスポンダを有する1つの水中音響位置基準システムを有し、かつ3つの位置基準システムのそれぞれはRS232シリアルラインでDPコンピュータシステムに接続されると仮定される。
【0041】
1.DPコンピュータシステム、電力システム、管理システム、アクチュエータシステム及びDPシステムの操作卓は、通常の動作モードで動作する。
2.望ましくは3つの位置基準システムのそれぞれのRS232シリアルラインは、DPコンピュータシステムから切り離されて、信号変更用コンピュータに接続される。DPコンピュータシステムに接続された前記RS232シリアルラインは、信号変更用コンピュータからDPコンピュータシステムへ向かうRS232シリアルラインによって取り換えられる。
3.3つの位置基準センサからの位置基準信号は、信号変更用コンピュータに入力される。それぞれの位置基準信号は、船上の点の位置、進路角、及び縦軸の方向を含む。
4.信号変更用コンピュータは、所定の故障状況からの成果である変更された位置基準信号を計算し、この変更された位置基準信号をDPコンピュータシステムに送信する。
5.試験の故障状況に対する出力及び他のステータス信号によって表されたDPシステムの性能は、DPコンピュータシステムに入力されたセンサ信号、及びDPコンピュータシステムから出力されたアクチュエータ信号、及び場合によってはステータス信号をログすることによって記録される。
【0042】
どのように位置基準試験が実行されるかをさらに説明するために、次の3つの実施例が下記に示される。
【0043】
[位置基準試験1−GPS信号の品質が低下する場合]
位置基準試験1は、信号変更用コンピュータを使用して、GPS衛星の1つから来る信号の品質が低下する形の故障に対して、DPシステムの性能を試験することである。これは両方のGPS受信機が同じ衛星の組みから信号を受け取る場合に同じ間違った位置を受ける可能性がある外部エラーである。そのような故障状況が発生することは周知であり、記録された出来事では、そのような故障によりDPシステムはドライブオフ(drive-off)にされ、これはDPシステムがスラスタを使用して、船を制御されない動作で指定位置から離れるように駆動するという、潜在的に安全が脅かされる出来事である。検討中のDPシステムは、2つのDGPS位置基準システムと1つの水中音響式(hydroacoustic)位置基準システムとを有すると仮定される。
【0044】
前述のように、位置基準システムは、DPコンピュータシステムではなく信号変更用コンピュータに接続され、この信号変更用コンピュータが変更された位置基準信号をDPコンピュータシステムに送る。
【0045】
試験時に周知のGPS衛星の構成と組み合わせた2つのDGPS位置基準システムからの測定されたアンテナの位置に基づいて、GPS信号の品質が低下するという故障状態にあるとして、1つの衛星が試験のために選択される。次に、前記衛星のGPS信号の品質が低下した場合に、2つのDGPS位置基準システムに対して、測定されたGPSアンテナにどのような変化が生じるかが計算される。次に、信号変更用コンピュータは、DGPS位置基準システムのアンテナ位置における前記変化を償うために位置基準信号を調整して、この変更された位置基準信号をDPコンピュータシステムに送る。このようにして、DPシステムがどのように不正確なGPS衛星の信号を処理するかが試験される。
【0046】
[位置基準試験2−所定の位置変化速度信号の識別]
制御理論の教科書の練習に基づいた既定の方法は、センサ信号内の変動速度をモニタし、次に該センサ信号内の変動が物理的に認識できるものよりも大きい場合は、無効としてこのセンサ信号を廃棄する。この方法はDPシステムで使用されて、位置基準システムの中の故障を取り除く。記録された出来事では、DPシステム内の2つのDGPS位置基準システムは、GPS衛星信号のエラーにより測定された75メートルの位置の中で瞬時的変化を示した。明らかに、船舶は75メートルの位置を瞬時的に変化することはできないため、2つのDGPS位置基準からの信号はDGPSシステムにより無効として適切に処分される。
【0047】
しかしながら、この方法は問題がないということではないことが分かる。海外のアンゴラ(Angola)からの別の記録された出来事では、一連の大きな波による突然の衝撃により、船が極めて急速に25メートル最初の位置から移動された。DGPS位置基準システムは、この急速な運動の変化を正確に記録したが、DPシステムは完全に正常なDGPS位置基準信号を廃棄した。その理由は、位置が変化する速度が、DPシステムが受け入れるように設定されたしきい値よりも大きかったからである。この結果として、船舶はDPシステムによって全ての位置基準システムが動作停止の状態のままにされた。
【0048】
DPシステムがどのようにこうした状態を取り扱うかを試験するために、本発明による信号変更用コンピュータを使用することが提案される。位置基準信号は、前述したように、DPコンピュータシステムに入力されるのではなく、信号変更用コンピュータに入力される。位置基準信号は、船舶の基準点の位置を計算するために使用される。次に、信号変更用コンピュータは、位置の増分(position increment)を、一連の大きな波による突然の衝撃により加えられた動きに相当する事前に指定された迅速な動きに対応する船舶の基準点に加える。信号変更用コンピュータは絶えず位置基準信号を変更して、これらの信号を船舶の基準点の変更された動きに対応させる。これらの変更された位置基準信号は絶えずDP制御システムに送られて、DPシステムが位置基準信号を廃棄することなく所定の波の励起を扱うことができるかどうかを観察できる。
【0049】
[位置基準試験3−水中音響エラー]
水中音響式位置基準システムは、DPシステムではDGPS位置基準システムと組み合わせて使用される。水中音響式位置基準システムの性能は、特にDGPS位置基準システムに問題がある場合は重要である。
【0050】
DP動作における水中音響式位置基準システムに関する記録された故障状況は、信号変更用コンピュータを用いて制御システムを試験するために効率的に使用することができる。これを行うために、水中音響位置基準信号は、信号変更用コンピュータに入力される。次に、これらの信号は、信号変更用コンピュータで計算されて変更される。この信号変更用コンピュータでは、下記の試験が実行される。
a)水中音響位置基準信号の変動性が変化する雑音の効果は、雑音信号を水中音響位置基準からの位置信号に加えて、変更された信号をDPコンピュータシステムに送ることによって研究される。この試験は、雑音信号をDGPS位置基準信号に加えることによって、水中音響及びDGPS位置基準システムの両方の組み合わされた雑音の効果を研究するように拡張することができる。
b)水中音響信号の反射による音響通信エラーのDPシステムに対する影響、海底のトランスポンダ間の低品質の通信、トランスポンダの故障、又はトランスポンダの機能停止は、水中音響信号の送信及び位置信号に生じた変化の数学的モデルを用いて、水中音響位置基準信号を変更することによって試験することができる。
c)音響データのサンプル速度の減少に関する影響は、サンプル速度が例えば1Hzから例えば0.5Hzに減少されるように水中音響位置基準からの信号を変更することによって試験される。
【0051】
[位置基準試験4−垂直基準エラー]
垂直基準ユニット(vertical reference unit)が、船舶の基準点の位置を計算するために、位置基準信号の入力としてDPシステムの中で使用される。垂直基準ユニットが故障すると、船舶の基準点の位置の計算に間違った値が与えられることになり、垂直基準ユニットのエラーが90度を超えると、計算を行うときに依存するアルゴリズムの中でゼロの割算が行われて計算が機能停止する可能性がある。
【0052】
位置基準システムの中の故障に対する影響は、信号変更用コンピュータの垂直基準システムの信号を変更して、この変更された信号をDPコンピュータシステムに送信し、垂直基準ユニットの測定値のそのようなエラーに対する制御システムの許容度を試験することによって行われる。
【0053】
[風センサの試験]
DPシステムは通常、船舶に作用する風速を測定する1つ以上の風センサを備えている。船舶工学の教科書で知られた技術によれば、船舶に対する風の力及びトルクを計算することができる。DPコンピュータのアルゴリズムの中でこれらの計算値を使用して、風が強い場合、DPシステム内の精度を向上させることができる。故障のため又はヘリコプタが風センサのそばで空中停止することにより、風センサが不具合を生じる又は不正確な値を示すことが予測される。
【0054】
DPシステムが風センサの1つの故障をどのように取り扱うかを試験するために、信号変更用コンピュータを下記のように使用することができる。すなわち、風センサの信号線は、アナログの信号線又はディジタルのRS232信号線とすることができ、DPコンピュータシステムから切り離されて、その信号は代わりに信号変更用コンピュータに接続される。風センサの信号線は、DPコンピュータシステムに接続された同じ種類の別の信号線に取り替えられ、この信号線は変更された風センサ信号を信号変更用コンピュータからDPコンピュータシステムに送信する。次に、信号変更用コンピュータは、下記の選択肢の1つに基づいて風センサの信号を変更する。
*信号に規定の時間間隔に対して変動性が高い雑音を加える。
*ドリフト信号を加えて、変更された信号が規定の時間間隔でセンサ信号から発散するようにする。
*規定の時間間隔に対して一定の信号バイアスを加える。
*変更された信号が規定の時間間隔に対して一定の値になるように、信号フリーズ(signal freeze)を適用する。
変更された風センサの信号は、風センサの信号の代わりにDPコンピュータシステムに送られる。
【0055】
[電力管理システムのブラックアウト防止試験]
ディーゼル電気システムによって駆動されるスラスタ及びプロペラは、船舶及び浮き石油施設(floating oil installation)で広く使用されている。これらのシステムでは、ディーゼルエンジンを使用して、船舶上の電力システムに電力を供給する発電機を駆動する。スラスタ及びプロペラは、電力システムから電力を供給される電気モータによって駆動される。さらに、電力システムを使用して、クレーン、ヒーブ・コンペセーション(heave compesation)、掘削、冷却、及び空調などの船舶の他の機能を動かす。この種のシステムに関する周知の問題は、船舶の他の機能で使用される電力が多い場合は、スラスタ及びプロペラが利用できる電力は、DPシステムによって命令された推進力を実現するために必要な電力に比べて十分でないことである。同じことが、オペレータが利用可能な電力を超える電力消費に相当する推進力を必要とするような、手動で制御される船舶に対しても言える。利用可能な電力が十分でない場合は、電力システムに統合された制御システムである電力管理システムは、電流を消費する種々のシステムに分配された電力を減少し、またそのような電力消費者をシャットダウンする可能性もある。
【0056】
推進力のために利用可能な電力の不足を電力管理システムが適切に処理しない場合は、1つ以上の配電盤及び電力バスがシャットダウンされるような部分的な停電に船舶が直面する危険がある。また、船に電力が完全に無くなるような停電になる可能性もあり、この状態は船に事故や損害をもたらす可能性がある。
【0057】
上記の背景にあっては、電力管理システムの機能を、船舶の全ての設置された装置と組み合わせて、特にDPシステムと一緒に高範囲にわたって試験することが重要であることが分かる。
a)発電機が発生した電力を示す信号は、通常の動作にあってはDPコンピュータシステムに送られ、DPシステムは、船舶の他の機能が消費する電力が大きい場合は、スラスタの電力消費を適切に減らすように設計されたDPシステムを備えた船舶を検討する。DPシステムの電力低減機能は、海におけるその通常の動作の中でDPシステムを用いて試験することができるが、発電機からDPシステムへの電力表示信号が信号変更用コンピュータによって変更され、変更された信号が発電機から船舶の他の機能へ向かう電力は例えば利用可能な電力の90%であることを示すようにすることを除く。DPシステムがそのような状態を満足に処理できる場合は、それを試験することができる。
b)発電機が発生した電力を示す信号は、通常の動作にあってはDPコンピュータシステムではなく電力管理システムに送られ、DPシステムではなく電力管理システムは、船舶の他の機能が消費する電力が大きい場合は、スラスタの電力消費を適切に減らすように設計されたDPシステムを備えた船舶を検討する。電力管理システムの電力低減機能は、海におけるその通常の動作の中でDPシステムを用いて試験することができるが、発電機から電力管理システムへの電力表示信号が信号変更用コンピュータによって変更され、変更された信号が発電機から船舶の他の機能へ向かう電力はほぼ全電力容量、例えば利用可能な電力の90%であることを示すようにすることを除く。電力管理システムがDPシステムと組み合わせてこの状態を満足に処理する場合は、それを試験することができる。
【0058】
[推進システムの試験]
推進システムは、DP船舶では重要な要素である。スラスタの制御システム、電力管理システム及びDPシステム間の相互作用により、問題が発生することがあり、これらのシステムを組み合わせて試験することが重要である。これに関連した推進システムには、プロペラ、プロペラを駆動する電気スラスタモータ、プロペラの羽根のピッチを制御する駆動装置、アジマススラスタ(azimuth thruster)の場合はアジマス角を制御する駆動装置、及びプロペラの軸速度及び軸動力を測定し、スラスタモータを制御して、命令された軸動力の軸速度を実現するスラスタ制御システムが含まれる。
【0059】
推進システムの試験では、1つ以上のスラスタピッチ信号、RPM又は電力フィードバック信号、又はスラスタステータス信号にエラーがある場合にシステムを試験することに関心がある。これは1つ以上のスラスタ信号が信号変更用コンピュータによって変更されている場合を除いて、通常動作の中でシステムを実行させることによって行われる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】センサ信号7を制御システム2に送るセンサ8を有する、従来技術の船舶0を例示する図である。この制御システム2は、コマンド用コンソール10からコマンド制御信号も受け取る。前記制御システムは、コマンド信号をプロペラ16、スラスタ17、及び舵18などのアクチュエータに送る。
【図2】図2は、本発明の1つの実施形態による単純化した説明図を示す。この図では、信号変更用コンピュータ80が制御システム2の前に挿入されている。コマンド入力用コンソール10も図示されている。信号線は、複数のシリアルラインである。
【図3】本発明の別の実施形態によるシステムの単純化した説明図を示す。このシステムは、センサからのセンサ信号を信号変更用コンピュータ80に送り、変更されたセンサ信号を制御システム2に送るためのコンピュータ通信ネットワークを使用している。前記制御システムは、制御信号を船のアクチュエータに送っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際の測定信号(7)をセンサ(8)から受信し、かつ制御信号(13)をアクチュエータ(16、17、18)に出力するように構成された船舶(0)制御システム(2)に対する試験システムであって、
−1つ以上の前記実際の測定信号(7)を受信するように接続された信号変更用コンピュータ(80)を備え、
−前記信号変更用コンピュータ(80)は、前記実際の測定信号(7)を該実際の測定信号の実際の値に依存する変更された測定信号(70)に変更するように構成され、
−前記信号変更用コンピュータ(80)は、前記変更された測定信号(70)を前記制御システム(2)に送り、前記1つ以上の変更された測定信号(70)の入力値が前記実際の測定信号の入力値の一部又は全てを取り替えるように構成され、
−前記制御システム(2)は、前記1つ以上の変更された測定信号(70)に作用して、影響されない実際の測定信号(7)を残すように構成され、
−1つ以上のセンサ(8)の中で発生すると想定される前記変更された測定信号(70)が表したエラーに対して、前記制御システム(2)の機能を試験できるようにする、
ことを特徴とする試験システム。
【請求項2】
前記船舶制御システム(2)が、入力コマンド信号(9)をコマンド入力装置(10)からコマンド信号線(11)を通して受信するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項3】
前記センサ(8)が、センサ用信号線(12)を用いて前記制御システムに接続されることを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項4】
前記センサ用信号線(12)が、アナログ回線、シリアルライン、又はディジタルイーサネット(登録商標)回線、フィールドバス又はCANバス、又はローカル無線通信システムを含むことを特徴とする請求項3に記載の試験システム。
【請求項5】
請求項1に記載の試験システムが、制御信号(13)をプロペラ(16)、スラスタ(17)、及び舵(18)などのアクチュエータ(16、17、18)に出力するように構成されることを特徴とする試験システム。
【請求項6】
前記信号変更用コンピュータ(80)が、前記実際の測定信号(7)を比較的短時間で変更された測定信号(70)に変更して、前記制御システム(2)が前記実際の測定信号(7)を受信した対応する受信時間と比較した場合、前記制御システム(2)が前記変更された測定信号(70)に対する著しい遅延を受けないように構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項7】
前記制御システム(2)が、発電機の出力電圧(7pV)、発電機の出力電流(7pA)、発電機の電力(7pP)、全発電機の電力(7pTf)、発電機のステータス(7pS)などの電力信号を感知するための電力センサ(8p)を含む電力管理システムを備える、ことを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項8】
前記船舶制御システム(2)が、入力コマンド信号(9)をコマンド入力装置(10)からコマンド信号線(11)を通して受信するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項9】
センサ(8)から実際の測定信号(7)を受信し、かつ制御信号(13)をアクチュエータ(16、17、18)に提供する船舶(0)制御システム(2)を試験する方法であって、
−前記制御システム(2)が1つ以上の前記実際の測定信号(7)を受信する信号変更用コンピュータ(80)に接続され、
−前記信号変更用コンピュータ(80)が、前記実際の測定信号(7)を前記実際の測定信号(7)の実際の値に依存する変更された測定信号(70)に変更し、
−前記信号変更用コンピュータ(80)が、前記変更された測定信号(70)を前記制御システム(2)に送り、前記1つ以上の変更された測定信号(70)の入力値が前記実際の測定信号(8)の入力値の一部又は全てを取り替え、
−前記制御システム(2)が、前記1つ以上の変更された測定信号(70)に作用して、影響されない実際の測定信号(7)を残し、
1つ以上のセンサ(8)の中で発生すると想定される前記変更された測定信号(70)が表したエラーに対して、前記制御システム(2)が望ましい方法で動作するかどうかを試験する、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記制御システムが、制御信号(13)をプロペラ(16)、スラスタ(17)、及び舵(18)などのアクチュエータ(16、17、18)に送ることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記信号変更用コンピュータ(80)が、前記実際の測定信号(7)を比較的短時間で変更された測定信号(70)に変更して、前記制御システム(2)が前記実際の測定信号(7)を受信した対応する受信時間と比較する場合、前記制御システム(2)が前記変更された測定信号(70)に対する著しい遅延を受けないことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記信号変更用コンピュータ(80)が、1つ以上の前記実際の測定信号(7)を前記1つ以上の実際の測定信号(7)の実際の値に依存する1つ以上の変更された測定信号(70)に変更し、前記変更された測定信号(70)が前記測定信号(7)の前記1つ以上の実際の値の関数であり、該関数は、前記実際の測定信号(7)を変更するために、定数又は変数を前記実際の測定信号(7)に加えるステップ、前記実際の測定信号(7)を定数又は変数で乗算するステップ、又は前記実際の測定信号に依存する一次関数を用いるステップを含む、ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法が、1つ以上の前記センサ(8)を1つ以上のセンサ用信号線(12)を用いて前記制御システムに接続し、前記センサシミュレータ(80)を前記1つ以上の実際のセンサ信号(8)を受け取るために前記センサ用信号線(12)に接続し、前記センサシミュレータ(80)内の前記1つ以上の実際のセンサ信号を前記1つ以上の変更されたセンサ信号(70)に変更し、前記1つ以上の変更されたセンサ信号(70)を前記センサ用信号線(12)に沿って前記センサシミュレータ(80)から前記制御システム(2)に送る、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法が、前記センサ用信号線(12)に対して、例えばRS232、RS422の1つ以上のシリアルラインを用いることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法が、冗長又は非冗長のUDPプロトコルを実行するイーサネット(登録商標)ネットワーク、フィールドバス又はCANバス、又は無線信号送信システムなどの1つ以上のコンピュータネットワークのバスラインを用いることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法が、1つ以上のイーサネット(登録商標)通信回線、フィールドバス又はCANバス、又はローカル無線通信システムを用いることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−521125(P2008−521125A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542953(P2007−542953)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000138
【国際公開番号】WO2006/054898
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(505249942)マリン・サイバネティクス・アクティーゼルスカブ (5)
【Fターム(参考)】