説明

包埋ブロック支持機構及び薄切片作製装置

【課題】包埋ブロックを所望する傾きに高精度に調整することができると共に、調整した傾きで包埋ブロックを強固に支持すること。
【解決手段】包埋ブロックを載置固定する載置台10と、該載置台に固定されたボール11と、該ボールを転動可能に収納する台部12と、ボールを固定させる固定手段13と、ボールの外周面に固定された第1のプレート14及び第2のプレート15と、第1のロッド16及び第2のロッドと、第1のプレートを付勢して溝部14aと第1のロッドの先端とを点接触させると共に、第2のプレートを付勢して該プレートと第2のロッドの先端とを点接触させる付勢部材18aと、第1のロッドを直線的に可動させて第1のプレートを第2の軸線回りに回転させると共に、第2のロッドを直線的に可動させて第2のプレートを第1の軸線回りに回転させるロッド可動手段19とを備えている包埋ブロック支持機構2を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学実験や顕微鏡観察等に用いられる薄切片標本を作製する前段階として、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して薄切片を作製する際に、包埋ブロックを任意の角度に傾けた状態で支持する包埋ブロック支持機構、及び、該包埋ブロック支持機構を有する薄切片作製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本を作製する装置として、ミクロトームが一般的に知られている。この薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片を、スライドガラス等の基板上に固定させたものである。ここで、ミクロトームを利用して薄切片標本を作製する一般的な方法について説明する。
【0003】
まず、ホルマリン固定された生物や動物等の生体試料をパラフィン置換した後、更に周囲をパラフィンで固めて強固にして、ブロック状態の包埋ブロックを作製する。次に、この包埋ブロックを専用の薄切り装置であるミクロトームにセットして、粗削りを行う。この粗削りによって、包埋ブロックの表面が平滑面となると共に、実験や観察の対象物である包埋された生体試料の観察したい面が表面に露出した状態となる。
【0004】
粗削りが終了した後、本削りを行う。これは、ミクロトームが有する切断刃により、包埋ブロックを上述した厚みで極薄にスライスする工程である。これにより、目的の面を持った薄切片を得ることができる。この際、包埋ブロックをミクロンオーダで制御し、薄くスライスすることで、薄切片の厚みを細胞レベルの厚みに近付けることができるので、より観察し易い薄切片標本を得ることができる。よって、可能な限り厚さが制御された薄い薄切片を作製することが求められている。なお、この本削りは、必要枚数の薄切片が得られるまで連続して行う。
【0005】
次いで、本削りによって得られた薄切片を伸展させる伸展工程を行う。つまり、本削りによって作製された薄切片は、上述したように極薄の厚みでスライスされたものであるので、皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。そこで、この伸展工程によって、皺や丸みを取って伸ばす必要がある。
一般的には、水とお湯を利用して伸展させている。始めに、本削りによって得られた薄切片を水に浮かべる。これにより、生体試料を包埋しているパラフィン同士のくっつきを防止しながら、薄切片の大きな皺や丸みを取ることができる。その後、薄切片をお湯に浮かべる。これにより、薄切片が伸び易くなるので、水による伸展では取りきれなかった残りの皺や、切削時に受けた圧力によって生じた歪を取ることができる。
【0006】
そして、お湯による伸展が終了した薄切片をスライドガラス等の基板で掬って該基板上に載置する。なお、この時点で仮に伸展が不十分であった場合には、基板ごとホットプレート等に乗せてさらに熱を加える。これにより、薄切片をより伸展させることができる。
最後に、薄切片を乗せた基板を乾燥器内に入れて乾燥させる。この乾燥により、伸展で付着した水分が蒸発すると共に、薄切片が基板上に固定される。
その結果、薄切片標本を作製することができる。また、作製された薄切片標本は、主に生物、医学分野等で使用されている。
【0007】
ところで、包埋ブロックを薄切して薄切片を作製する際に、包埋ブロックの傾きを調整する必要がある。これは、包埋ブロックを無駄に薄切することを防止するためや、所望する面を表面に露出させるためである。特に、粗削りが終了して本削りを行う際に、微小な傾き調整が必要とされる。また、この傾き調整と同時に、包埋ブロックを切断刃の力に負けないようにしっかりと支持する必要がある。つまり、薄切を行う際には、包埋ブロックを任意の傾きに調整した後、その姿勢を維持したまましっかりと支持することが重要である。
【0008】
従来、包埋ブロックを支持する機構としては、例えば、一軸回りに回転するゴニオステージを2段に重ね、互いに直交する2軸回りに回転させることができる機構が知られている。このゴニオステージは、ステージ面が球面軸受けされており、一軸回りにステージ面が回転傾斜するものである。これを2段に重ねることで、2段目のゴニオステージのステージ面を互いに直交する2軸回りに独立して回転制御することができる。これにより、2段目のゴニオステージのステージ面上に載置固定した包埋ブロックを任意の傾きに調整することができ、その姿勢を維持したまま支持することができる。
【0009】
また、玉継手のボールにカルダン継手が結合された機構も知られている(特許文献1参照)。この機構について、図11及び図12を参照して簡単に説明する。
図11及び図12に示すように、この機構は、包埋ブロック等の試料60が固定される試料ヘッド61と、玉継手のボール62と、該ボール62を回転可能に保持する2つの半球シェル63、64と、ボール62に結合されたカルダン継手65と、該カルダン継手65を介してボール62を互いに直交するXY軸回りに回転させる2つの微調整ノブ66、67とを備えている。
【0010】
試料60が取り付けられた試料ディスク68は、ノブ69を介して試料ヘッド61にクランプ固定されている。試料ディスク68は、ピンやネジ等によってボール62に結合されている。ボール62は、半球シェル63、64の間に配されており、半球シェル63、64との間で摺動しながら回転できるようになっている。また、半球シェル63は、クランプレバー70の締め込みによって半球シェル64側に押圧されるようになっており、ボール62を押さえ付けることができるようになっている。これにより、ボール62を任意の方向に回転させた後、その位置でボール62を固定することができるようになっている。カルダン継手65には、互いに直交する方向に2つの長穴65a、65bが形成されており、それぞれの長穴65a、65bにピン71、72が案内されている。また、各ピン71、72には、微調整ノブ66、67に接続されたネジスピンドル74、75に螺合するナット76、77が固定されている。
【0011】
このように構成された機構により、試料60を例えばY軸回りに回転させて傾ける場合には、まずクランプレバー70の締め込みを解いてボール62の回転を自由にさせた後、微調整ノブ67を回転させる。すると、ネジスピンドル75と共にナット77及びピン71が回転しようとするが、ピン71が長穴65aの縁に当たってピン71及びナット77の回転が停止する。これにより、ピン71及びナット77は、ネジスピンドル75に沿って直線的(図11び図12に示す矢印方向)に移動する。
ところがカルダン継手65は、ボール62に結合されているため、ピン71と共に直線的に移動するのではなく、図11に示す点Gを中心として回転する。この際、長穴65aがピン71に摺動しながら回転すると共に、ピン71が長穴65aに沿って相対的に移動している。なお、カルダン継手65の回転に伴って、一方の長穴65bに案内されているピン72が長穴65bの縁に接触することになる。よって、これ以上カルダン継手65が回転することはない。
【0012】
そして、カルダン継手65の回転に伴ってボール62がY軸回りに回転する。その結果、試料をY軸回りに傾けることができる。また、X軸回りの回転も、上述した動作と同様の動作を経た後、回転する。そして、試料をX軸回り、Y軸回りに回転傾斜させた後、クランプレバー70を締め込んでボール62を固定する。その結果、試料60を任意の傾きに調整することができ、その姿勢に維持したまま支持することができる。
【特許文献1】特開平9−318502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した機構ではまだ以下の課題が残されていた。
即ち、ゴニオステージを利用した機構は、一軸のゴニオステージを高さ方向に多段に重ねる構成であるため、包埋ブロックを載置したときに該包埋ブロックの表面と下段のゴニオステージの底面との距離が長くなってしまう。そのため、剛性が劣ってしまい、切断刃によって包埋ブロックを薄切したときに、切断刃の力に負けてしまいぐらついてしまう恐れがあった。
【0014】
一方、カルダン継手65を利用した機構では、傾き調整を高精度に行うことが難しいものであった。即ち、カルダン継手65の長穴65a、65bに案内されたピン71、72を直線的に移動させることで、カルダン継手65及びボール62を回転させて傾き調整を行うものであるが、円滑に動作させるため、ピン71、72と長穴65a、65bとの間に若干の隙間が必要である。また、ピン71、72は単に長穴65a、65bに案内されているだけであるので、ピン71、72と長穴65a、65bとの間には遊びが生じてしまう可能性があった。そのため、ボール62を回転させた後、遊びのぶんだけ微小に傾きがずれてしまう恐れがあった。その結果、傾き調整を高精度に行うことが難しかった。
【0015】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、包埋ブロックを所望する傾きに高精度に調整することができると共に、調整した傾きで包埋ブロックを強固に支持することができる包埋ブロック支持機構、及び、該包埋ブロック支持機構を有する薄切片作製装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る包埋ブロック支持機構は、生体試料が包埋された包埋ブロックを支持する包埋ブロック支持機構であって、前記包埋ブロックが載置固定される載置面を有する載置台と、該載置台に固定されたボールと、該ボールの外周面に接する球面で囲まれた空間を有し、前記載置台を外側に露出させた状態でボールを該空間内に転動可能に収納する台部と、前記球面を前記ボールの外周面に押し付けてボールを固定させる固定手段と、前記載置面に平行な状態で前記ボールの中心を通る第1の軸線に沿って、ボールの外周面から外方に延びた第1のプレートと、前記第1の軸線に沿って前記第1のプレートに形成されたV字状の溝部と、前記載置面に平行な状態で前記ボールの中心を通ると共に前記第1の軸線に直交する第2の軸線に沿って、ボールの外周面から外方に延びた第2のプレートと、先端が球状に形成された第1のロッド及び第2のロッドと、前記第1のプレートを付勢して前記溝部と前記第1のロッドの先端とを点接触させると共に、前記第2のプレートを付勢して該第2のプレートと前記第2のロッドの先端とを点接触させる付勢部材と、前記第1のロッドを直線的に可動させて前記第1のプレートを前記第2の軸線回りに回転させると共に、前記第2のロッドを直線的に可動させて前記第2のプレートを前記第1の軸線回りに回転させるロッド可動手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る包埋ブロック支持機構においては、まず、包埋ブロックをボールに固定された載置台の載置面に載置固定する。この際ボールは、台部の空間内に単に転動可能に収納されている。なお載置台は、台部の外側に露出した状態となっている。また、ボールの外周面には、第1の軸線に沿って延びた第1のプレートと、第2の軸線に沿って延びた第2のプレートとが取り付けられている。この2枚のプレートは、共に載置面に平行で且つボールの中心を通る面を有している。また、2枚のプレートは、第1の軸線と第2の軸線とを通る平面に直交する方向から見たときに、周方向に90度ずれた位置に取り付けられている。特に、第1のプレートには、第1の軸線に沿ってV字状の溝部が形成されている。
そして2枚のプレートは、それぞれ付勢部材によって付勢され、第1のロッドの先端が溝部に嵌った状態で該溝部に点接触すると共に、第2のロッドの先端が第2のプレートに点接触した状態となっている。これにより、両ロッドを可動させない限り、ボールは第1の軸線回り及び第2の軸線回りに転動しないように回転が規制されている。
【0018】
しかも第1のロッドの先端が溝部内に嵌っているので、第1のプレートの動きが規制されている。そのため、第1の軸線と第2の軸線とを通る平面、即ち、載置面に垂直な軸回りにボールが回転してしまうことを防止することができる。仮に、第1のプレートに溝部が形成されていない場合には、ボールが載置面に垂直な軸回りに回転する可能性がある。この場合には、ボールの回転に伴って両プレートが両ロッド上から逃げてしまい、両プレートと両ロッドとが非接触状態になってしまう恐れがある。しかしながら、上述したように第1のロッドの先端が溝部内に嵌っているので、ボールが回転せず、両プレートと両ロッドとが非接触状態になる恐れがない。
つまり上述した溝部と付勢部材との効果によって、両プレートと両ロッドとを常に接触させた状態にすることができる。
【0019】
ここで、ロッド可動手段により第1のロッドを付勢部材の付勢方向とは逆方向に向けて直線的に可動させると、第1のプレートが第1のロッドに押されて、ボールと共に第2の軸線回りに回転する。これにより、ボールに固定された載置台を第2の軸線回りに回転させることができ、包埋ブロックを傾斜させることができる。
この際、第1のプレートは、ボールに固定されているので、載置面に垂直な方向に向けて第1のロッドと共に直線的に移動することができない。よって、第1のロッドの先端は、見かけ上、溝部に沿って(第1の軸線に沿って)移動しながら第1のプレートを押している。従って、正確に包埋ブロックを第2の軸線回りに回転傾斜させることができる。また、第1のロッドの先端が球状に形成されているので、移動時の抵抗をできるだけ小さくすることができ、第1のプレートの動きを妨げることがない。よって、包埋ブロックを第2の軸線回りに円滑に傾斜させることができる。
【0020】
一方、ボールの回転に伴って、第2のプレートも第2の軸線回りに回転する。しかしながら、第2のロッドの先端も球状に形成されて第2のプレートに点接触しているので、第2のプレートの回転が妨げられることがない。この点においても、包埋ブロックを第2の軸線回りに円滑に傾斜させることができる。なお、第2のプレートが第2の軸線回りに回転したとしても、第2のプレートと第2のロッドとの接触状態を確実に維持することができる。
【0021】
また、ロッド可動手段により第1のロッドを付勢部材の付勢方向と同方向に向けて直線的に可動させた場合には、第1のプレートは付勢部材によって付勢されているので、第1のロッドを追従しながら第2の軸線回りに回転する。従って、ボールに固定された載置台を、上述した場合とは逆方向に向けて第2の軸線回りに回転させることができ、包埋ブロックを同様に傾斜させることができる。なお、この場合も同様に、第1のロッドの先端は、見かけ上、溝部に沿って(第1の軸線に沿って)移動しながら第1のプレートに接触している。また、第2のプレートも同様に、上述した場合とは逆方向に向けて第2の軸線回りに回転する。
上述したように、ロッド可動手段により第1のロッドを付勢方向に関係なく直線的に可動させることで、第1のプレート及びボールを介して包埋ブロックを第2の軸線回りに正確に回転傾斜させることができる。
【0022】
また、ロッド可動手段により第2のロッドを付勢方向に関係なく可動させた場合には、上述した場合と同様の作用により、第2のプレート及びボールを介して包埋ブロックを第
1の軸線回りに回転傾斜させることができる。特に、第1のロッドの先端が溝部内に嵌った状態で、第1のプレートが第1の軸線回りに回転する。従って、包埋ブロックを正確に第1の軸線回りに回転傾斜させることができる。
その結果、包埋ブロックを載置面に平行で互いに直交する2軸(第1の軸線、第2の軸線)回りにそれぞれ正確に傾斜させることができ、包埋ブロックの表面を任意の角度に高精度に傾斜させることができる。
そして最後に、固定手段により台部の球面をボールの外周面に押し付けて、ボールを固定する。これにより、任意の角度に傾斜させた包埋ブロックを、その姿勢のまま支持することができる。
【0023】
特に、ロッド可動手段により、第1のロッド及び第2のロッドを別々に可動させることで、包埋ブロックを2軸回りにそれぞれ独立に、しかも正確に回転傾斜させることができるので、所望する傾きに容易に調整することができる。しかも、付勢部材によって、両プレートと両ロッドとが常に接触しているので、従来のものとは異なり、隙間がなく遊びが生じてしまうことがない。よって、ボールのがたつきを防止することができ、傾きを高精度に調整することができる。
【0024】
また、ゴニオステージを多段に重ねるものとは異なり、1つのボールを利用するだけで包埋ブロックを2軸回りに回転傾斜させることができるので、高さをできるだけ抑えた設計することができる。また、ボールの外周面に球面を押し付けて固定するので、ボールを強固に固定することができる。これらのことから、全体の剛性を高くすることができ、包埋ブロックを強固に支持することができる。
【0025】
また、本発明に係る包埋ブロック支持機構は、上記本発明の包埋ブロック支持機構において、前記第1及び第2のロッドの先端には、少なくとも前記第1及び第2の軸線回りに転動可能な球体が設けられていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る包埋ブロック支持機構においては、両ロッドの先端に球体が設けられているので、包埋ブロックを回転傾斜させる際に、両ロッドの先端と両プレートとの抵抗をさらに小さくすることができる。従って、より滑らかにボールを回転させることができ、包埋ブロックの傾き調整を行い易い。
【0027】
また、本発明に係る包埋ブロック支持機構は、上記本発明の包埋ブロック支持機構において、前記ボールには、前記載置面に垂直な第3の軸線方向に沿ってボールの中心を貫通すると共に該第3の軸線回りに回転可能に固定された回転軸部と、該回転軸部を回転させる回転手段とが設けられ、前記載置台が、前記ボールに対して非固定状態で前記回転軸部の一端に連結されていることを特徴とするものである。
【0028】
この包埋ブロック支持機構においては、回転手段により回転軸部を第3の軸線回りに回転させることで、包埋ブロックを第3の軸線回りに回転させることができる。従って、包埋ブロックを載置台に固定した後、切断方向に対して包埋ブロックの向きを調整することができる。つまり、切断刃の方向に対して包埋ブロックが所定の方向に向くように調整することができる。特に、包埋ブロックを粗削りする際に有効である。また、これら回転軸部及び回転手段は、ボールに設けられているので、包埋ブロックの傾き調整に何ら影響を与えることはない。
【0029】
また、本発明に係る薄切片作製装置は、前記包埋ブロックを所定の厚みで薄切して、シート状の薄切片を切り出す薄切片作製装置であって、上記本発明のいずれかの包埋ブロック支持機構と、該包埋ブロック支持機構上に配された切断刃を有し、該切断刃と前記包埋ブロック支持機構とを相対的に移動させて、前記包埋ブロックから前記薄切片を切り出す切断機構と、前記包埋ブロック支持機構を前記切断時の移動方向に対して直交する方向に移動させ、前記薄切片の厚みを調整する移動機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0030】
この発明に係る薄切片作製装置においては、包埋ブロック支持機構によって包埋ブロックの傾き調整を行った後、切断機構が切断刃と包埋ブロック支持機構とを相対的に移動させる。これにより、切断刃によって包埋ブロックをシート状に切断(スライス)して薄切片を作製することができる。また、移動機構によって、包埋ブロック支持機構を切断時の移動方向に対して直交する方向に移動させるので、作製する薄切片の厚みを所定の厚み、例えば、5μmの極薄の厚さにすることができる。
特に、包埋ブロック支持機構によって、包埋ブロックを所望する傾きに高精度に調整しているので、所望する面を有した高品質な薄切片を作製することができる。また、包埋ブロックを無駄に切断することなく、薄切片を作製することができる。更には、包埋ブロックが包埋ブロック支持機構によって強固に支持されているので、綺麗に切断することができ、薄切片の表面をより平滑にすることができる。この点においても、薄切片の高品質化を図ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る包埋ブロック支持機構によれば、包埋ブロックを所望する傾きに高精度に調整することができると共に、調整した傾きで強固に支持することができる。
また、本発明に係る薄切片作製装置によれば、上述した包埋ブロック支持機構を備えているので、平滑でしかも所望する面が表面に露出した薄切片を包埋ブロックから作製することができ、薄切片の高品質化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る包埋ブロック支持機構及び薄切片作製装置の一実施形態を、図1から図8を参照して説明する。この薄切片作製装置1は、生体試料Sが包埋された包埋ブロックBを所定の厚みで薄切して、シート状の薄切片Mを切り出して作製する装置である。
【0033】
初めに、包埋ブロックBは、図1に示すように、ホルマリン固定された生体試料S内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包埋剤Nによってブロック状に固めたものである。これにより、生体試料Sがパラフィン内に包埋された状態となっている。なお、生体試料Sとしては、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器等の組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等で適時選択させるものである。
また、本実施形態では、包埋ブロックBが箱状に形成されたカセットK上に固定されているものとして説明する。
【0034】
本実施形態の薄切片作製装置1は、図2に示すように、カセットKを介して包埋ブロックBを支持する包埋ブロック支持機構2と、包埋ブロック支持機構2上に配された切断刃3を有し、該切断刃3と包埋ブロック支持機構2とを相対的に移動させて、包埋ブロックBから薄切片Mを切り出す切断機構4と、包埋ブロック支持機構2を切断時の移動方向(X方向)に対して直交するZ方向に移動させ、薄切片Mの厚みを調整するZステージ(移動機構)5とを備えている。
【0035】
上記包埋ブロック支持機構2は、Zステージ5上に取り付けられている。また、このZステージ5は、ガイドレール6に沿って移動する移動ステージ7上に取り付けられている。ガイドレール6は、水平面上に取り付けられており、固定された切断刃3に向かうX方向に延びている。この際ガイドレール6は、切断刃3を越えた反対側にまで延びた状態とされている。移動ステージ7は、図示しないモータ等の駆動源によって、ガイドレール6上を往復運動するようになっている。また、Zステージ5は、内部に図示しないピエゾ素子等が組み込まれており、電圧が印加されることでZ方向に一定量上昇するように高さ制御されている。この際、Zステージ5は、移動ステージ7がガイドレール6を1往復する毎に、一定量だけ上昇するように制御されている。
【0036】
これにより、包埋ブロックBは、移動ステージ7の移動に伴って切断刃3に向けて移動して、該切断刃3によって切断されるようになっている。この際、Zステージ5によって高さ制御されているので、所定の厚み(例えば、5μm)で表面が切断される。その結果、図1に示すシート状の薄切片Mが作製される。これについては、後に詳細に説明する。なお、移動ステージ7の往復運動と、該往復運動に同期したZステージ5の上昇とによって、包埋ブロックBから複数枚の薄切片Mを次々と作製することも可能である。
【0037】
上述した切断刃3、ガイドレール6及び移動ステージ7は、上記切断機構4として機能する。なお、本実施形態では、切断刃3を固定し、該切断刃3に対して包埋ブロックB側を移動させる構成としたが、切断機構4はこの構成に限られるものではない。例えば、包埋ブロックB側を固定し、該包埋ブロックBに対して切断刃3を移動させても構わないし、包埋ブロックB側と切断刃3とを共に移動させて、切断機構4を構成しても構わない。いずれにしても、包埋ブロック支持機構2と切断刃3とを、相対的に移動させるように構成すれば構わない。
【0038】
上記包埋ブロック支持機構2は、図3から図6に示すように、カセットKを介して包埋ブロックBが載置固定される載置台10と、該載置台10に固定されたボール11と、ボール11を収納する空間を有するハウジング(台部)12と、ボール11を固定させる固定手段13と、ボール11に固定されたピッチ用プレート(第1のプレート)14及びロール用プレート(第2のプレート)15と、両プレート14、15を介してボール11を回転させるピッチ用ロッド(第1のロッド)16及びロール用ロッド(第2のロッド)17と、ピッチ用プレート14を付勢して該ピッチ用プレート14に形成された溝部14aとピッチ用ロッド16の先端とを点接触させると共に、ロール用プレート15を付勢して該ロール用プレート15とロール用ロッド17の先端とを点接触させるコイルバネ(付勢部材)18a、18bと、両ロッド16、17をそれぞれ直線的に可動させるロッド可動手段19とを備えている。
【0039】
上記載置台10は、板状に形成されており、上面が平滑な載置面10aになっている。そして、包埋ブロックBは、カセットKを介してこの載置面10a上に載置固定されるようになっている。また、載置台10は、ボール11の外周面の一部に固定されている。
上記ハウジング12は、上部ハウジング20と下部ハウジング21とから構成されており、全体として略箱状に形成されている。また、ハウジング12内には、ボール11の外周面に接する球面で囲まれた空間が形成されており、この空間内にボール11を転動可能に収納している。この際、ハウジング12は、ボール11の一部及び載置台10を外側に露出させた状態でボール11を収納している。よって、載置台10に包埋ブロックBを容易に固定させることができるようになっている。
【0040】
下部ハウジング21には、図5に示すように、上部ハウジング20に対向する対向面の略中心に略半球状の凹部21aが形成されている。即ち、この凹部21aの表面が上述した球面となっている。また、下部ハウジング21には、上述した各構成品を配置したり、ピッチ用プレート14及びロール用プレート15の回転スペースを確保したりするための空間S1が凹部21aに隣接して形成されている。また、対向面の一端側には、上部ハウジング20を固定するためのネジ22が螺合するネジ溝21bが形成されている。
【0041】
上部ハウジング20は、下部ハウジング21よりも厚みが薄い板状に形成されている。この上部ハウジング20は、一端側だけが下部ハウジング21の対向面に接触した状態で下部ハウジング21に固定されている。具体的には、上部ハウジング20の一端側に形成されたネジ孔20aを介して、下部ハウジング21のネジ溝21bにネジ22を螺合することで、両ハウジング20、21が固定されている。
また、上部ハウジング20の略中心にはボール11が挿通される貫通孔20bが形成されており、該貫通孔20bを介してボール11の一部分が上部ハウジング20の外側に露出している。また、貫通孔20bの内面は、ボール11の外周面に接する球面となっている。つまり、この貫通孔20bと上記凹部21aとで囲まれる空間が、ボール11を収納する上記空間とされている。
【0042】
また、上部ハウジング20にも下部ハウジング21と同様に、ピッチ用プレート14及びロール用プレート15の回転スペースを確保するための空間S2が貫通孔20bに隣接して形成されている。また、上部ハウジング20及び下部ハウジング21の他端側には、図3から図5に示すように、突出プレート25、26がそれぞれ平行に取り付けられている。また両突出プレート25、26には、軸線L1回りに回動操作可能なクランプレバー27が取り付けられており、クランプレバー27を回動操作して締め込むことで、上部ハウジング20側の突出プレート25を下部ハウジング21側の突出プレート26に接近させることができる。つまり、上部ハウジング20を下部ハウジング21側に接近させることができる。これにより、貫通孔20bの球面をボール11の外周面に押し付けることができ、ボール11を固定することができる。
即ち、これら両突出プレート25、26、クランプレバー27及び上部ハウジング20は、上記固定手段13として機能する。
【0043】
上記ピッチ用プレート14は、図4から図6に示すように、載置面10aに平行な状態でボール11の中心Gを通る(第1の軸線)軸線L2に沿って、ボール11の外周面から外方に延びた状態で取り付けられている。また、ピッチ用プレート14には、図6に示すように、軸線L2に沿ってV字状の溝部14aが形成されている。
また、上記ロール用プレート15は、図4及び図5に示すように、載置面10aに平行な状態でボール11の中心Gを通ると共に、軸線L2に直交する(第2の軸線)軸線L3に沿って、ボール11の外周面から外方に延びた状態で取り付けられている。よって、この2枚のプレート14、15は、共に載置面10aに平行で且つボール11の中心Gを通る面を有している。また2枚のプレート14、15は、載置面10aに直交する方向から見たときに、周方向に90度ずれた位置に取り付けられている。
【0044】
上記ピッチ用ロッド16及びロール用ロッド17は、垂直なZ方向に向いた状態でそれぞれピッチ用プレート14及びロール用プレート15に対向配置されている。また、両ロッド16、17は、図5及び図7に示すように、先端が球状に形成されていると共に、基端側から先端側に亘って外周面にネジ溝16a、17aが形成されている。また、両ロッド16、17の基端側には、貫通孔30aが形成されたプレート30が固定されている。そして、下部ハウジング21には、両ロッド16、17と平行なZ方向に延びたピン31が貫通孔30aを貫いた状態で取り付けられている。
【0045】
また、両ロッド16、17には、ネジ溝16a、17aに螺合したナット32がそれぞれ取り付けられている。このナット32は、下部ハウジング21に固定された玉軸受け33によって回転自在に支持されている。つまり、両ロッド16、17は、ナット32を介して玉軸受け33によって回転自在に支持されている。また、ナット32には、図5、図6及び図8に示すように、ウォームギア40に噛合する歯車34が固定されている。この際、両ロッド16、17は、歯車34に形成された貫通孔34a内を貫通しており、歯車34とは非接触状態になっている。
そしてナット32は、ウォームギア40の回転に伴って、歯車34と共にZ方向回りに回転するようになっている。すると両ロッド16、17もナット32の回転に伴って回転しようとするが、ピン31がプレート30の貫通孔30aを貫いているので、回転が規制されている。そのため、回転力が直線運動に変換されるので、両ロッド16、17は、Z方向に直線的に可動するようになっている。
【0046】
また、下部ハウジング21と両プレート14、15との間には、図5及び図7に示すように、上記コイルバネ18a、18bが取り付けられている。これにより、ピッチ用ロッド16は、図5及び図6に示すように、先端が溝部14aに嵌った状態で該溝部14aに点接触している。つまり、ピッチ用プレート14とピッチ用ロッド16とは常に接触しており、両者の間に隙間が生じないようになっている。また、ロール用ロッド17も同様に、図7に示すように、ロール用プレート15に常に接触しており、両者の間に隙間が生じないようになっている。そのため、両ロッド16、17を可動させない限り、ボール11は軸線L2及び軸線L3回りに転動しないようになっている。
【0047】
更に、ピッチ用ロッド16の先端が溝部14a内に嵌っているので、ピッチ用プレート14の動きが規制されている。そのため、軸線L2及び軸線L3とを通る平面、即ち、載置面10aに垂直な軸回りにボール11が回転してしまうことを防止している。仮に、ピッチ用プレート14に溝部14aが形成されていない場合には、ボール11が載置面10aに垂直な軸回りに回転する可能性がある。この場合には、ボール11の回転に伴って、両プレート14、15が両ロッド16、17上から逃げてしまい、両プレート14、15と両ロッド16、17とが非接触状態になってしまう恐れがある。しかしながら、上述したようにピッチ用ロッド16の先端が溝部14a内に嵌っているので、ボール11が回転せず、両プレート14、15と両ロッド16、17とが非接触状態になる恐れがない。
上述した溝部14aとコイルバネ18a、18bとの効果によって、両プレート14、15と両ロッド16、17とを常に接触させた状態にすることができるようになっている。
【0048】
また、ウォームギア40は、図3及び図4に示すように、それぞれ下部ハウジング21の外側まで延びたロッド41の先端側に取り付けられている。そして、下部ハウジング21の外側に突出したロッド41の基端側には、該ロッド41を回転させる摘み部、即ち、ピッチ用摘み部42及びロール用摘み部43が取り付けられている。これにより、作業者は、両摘み部42、43をそれぞれ回転させることで、両ロッド16、17をそれぞれZ方向に所望する量だけ可動させることができるようになっている。
つまり、ナット32、玉軸受け33、プレート30、ピン31、歯車34、ウォームギア40、ロッド41及び両摘み部42、43は、ピッチ用ロッド16を直線的に可動させてピッチ用プレート14を軸線L3回りに回転させると共に、ロール用ロッド17を直線的に可動させてロール用プレート15を軸線L2回りに回転させるロッド可動手段19として機能する。
【0049】
次に、このように構成された薄切片作製装置1を利用して、包埋ブロックBから薄切片Mを作製する場合について説明する。
初めに、作業者は包埋ブロックBを載置台10の載置面10a上に載置固定した後、クランプレバー27を緩めてボール11を転動可能な状態にする。次に、包埋ブロックBを軸線L2回り及び軸線L3回りに適宜回転させて、所定の向きに傾斜させる。本実施形態では、最初に軸線L3回りに回転させることでピッチング(縦方向)調整を行う場合を説明する。
【0050】
まず、作業者はピッチ用摘み部42を手動で回転させて、ピッチ用ロッド16をコイルバネ18aの付勢方向とは逆方向に向けて直線的に可動させる。より具体的に説明すると、ピッチ用摘み部42を回転させると、該ピッチ用摘み部42の回転に伴って、図8に示すように、ロッド41及びウォームギア40が共に回転する。すると、ウォームギア40に噛合している歯車34及び該歯車34に固定されているナット32がZ方向回りに回転する。この際、ナット32は、図5に示すように、玉軸受け33に支持されているので、がたつくことなく円滑に回転する。すると、ナット32に螺合されているピッチ用ロッド16は、ナット32と共に回転しようとするが、プレート30の貫通孔30a内にピン31が貫通しているので、回り止めがなされている。その結果、回転運動が直線運動に変換されて、Z方向に直線的に可動する。
【0051】
そして、ピッチ用ロッド16は、コイルバネ18aの付勢力に抗する力でピッチ用プレート14を押し上げる。ピッチ用プレート14は、ピッチ用ロッド16に押されると、ボール11と共に軸線L3回りに回転する。これにより、ボール11に固定された載置台10を軸線L3回り(図5に示す矢印R1方向)に回転させることができ、包埋ブロックBを傾斜させてピッチング調整することができる。
【0052】
ところで、上述した際、ピッチ用プレート14はボール11に固定されているので、載置面10aに垂直なZ方向に向けてピッチ用ロッド16と共に直線的に移動することができない。そのため、ピッチ用ロッド16の先端は、見かけ上、溝部14aに沿って(軸線L3に沿って)移動しながらピッチ用プレート14を押している。従って、正確に包埋ブロックBを軸線L3回りに回転傾斜させることができる。また、ピッチ用ロッド16の先端は球状に形成されており、ピッチ用プレート14に対して点接触している。そのため、移動時の抵抗をできるだけ小さくすることができ、ピッチ用プレート14の動きを妨げることがない。よって、包埋ブロックBを軸線L3回りに円滑に傾斜させることができる。
【0053】
一方、ボール11の回転に伴って、図7に示すように、ロール用プレート15も軸線L3回りに(矢印R3方向)回転する。しかしながら、ロール用ロッド17の先端も球状に形成されてロール用プレート15に点接触しているので、ロール用プレート15の回転が妨げられることがない。この点においても、包埋ブロックBを軸線L3回りに円滑に傾斜させることができる。なお、ロール用プレート15が軸線L3回りに回転したとしても、ロール用プレート15とロール用ロッド17との接触状態を確実に維持することができる。
【0054】
また、作業者がピッチ用摘み部42を上述した場合とは逆方向に回転させて、ピッチ用ロッド16をコイルバネ18aの付勢方向と同方向に直線的に可動させた場合には、ピッチ用プレート14はコイルバネ18aによって付勢されているので、ピッチ用ロッド16を追従しながら軸線L3回りに回転する。従って、ボール11に固定された載置台10を、上述した場合とは逆方向(図5に示す矢印R2方向)に向けて軸線L3回りに回転させることができる。
なお、この場合も同様に、ピッチ用ロッド16の先端は、見かけ上、溝部14aに沿って(軸線L2に沿って)移動しながらピッチ用プレート14に接触している。また、ロール用プレート15も同様に、上述した場合とは逆方向(図7に示す矢印R4方向)に向けて軸線L3回りに回転する。
【0055】
上述したように、ピッチ用ロッド16をコイルバネ18aの付勢方向に関係なく直線的に可動させることで、ピッチ用プレート14及びボール11を介して包埋ブロックBを軸線L3回りに正確に回転傾斜させることができ、高精度なピッチング調整を行うことができる。
【0056】
続いて、軸線L2回りに回転させてローリング(横方向)調整を行う場合には、作業者はロール用摘み部43を回転させる。すると、上述した場合と同様の作用により、ロール用プレート15及びボール11を介して包埋ブロックBを軸線L2回りに回転傾斜させることができ、ローリング調整を行うことができる。特に、図6に示すように、ピッチ用ロッド16の先端が溝部14a内に嵌った状態で、ピッチ用プレート14が軸線L2回りに回転する。従って、包埋ブロックBを正確に軸線L2回りに回転傾斜させることができ、高精度なローリング調整を行える。
その結果、包埋ブロックBを載置台10の載置面10aに平行で互いに直交する2軸(軸線L2、軸線L3)回りにそれぞれ正確に傾斜させて、ピッチング調整及びローリング調整を行うことができ、包埋ブロックBの表面を任意の角度に高精度に傾斜させることができる。
【0057】
最後に、作業者はクランプレバー27を締め込んで、上部ハウジング20を下部ハウジング21に接近させて、上部ハウジング20の球面をボール11の外周面に押し付ける。これにより、ボール11を固定することができ、任意の角度に傾斜させた包埋ブロックBをその姿勢のまま支持することができる。
【0058】
特に、この包埋ブロック支持機構2によれば、ロッド可動手段19によりピッチ用ロッド16及びロール用ロッド17を別々に可動させることで、包埋ブロックBを2軸回りにそれぞれ独立に、しかも正確に回転傾斜させることができ、所望する傾きに容易に調整することができる。しかも、コイルバネ18a、18bによって両プレート14、15と両ロッド16、17とが常に接触しているので、従来のものとは異なり、両者の間に隙間が空くことがなく遊びが生じてしまうことがない。よって、ボール11のがたつきを防止することができ、傾きを高精度に調整することができる。
【0059】
また、従来のゴニオステージを多段に重ねるものとは異なり、1つのボール11を利用するだけであるので、高さをできるだけ抑えた設計にすることができる。また、ボール11の外周面に上部ハウジング20の球面を押し付けて固定するので、ボール11を強固に固定することができる。これらのことから、全体の剛性を高くすることができ、包埋ブロックBを強固に支持することができる。
【0060】
続いて、包埋ブロックBの傾き調整が終了すると、図2に示すように、包埋ブロック支持機構2及び包埋ブロックBを切断刃3に接近させるように、移動ステージ7をガイドレール6に沿って移動させる。これにより、切断刃3によって包埋ブロックBをシート状に切断して薄切片Mを作製することができる。また、Zステージ5によって、包埋ブロック支持機構2を切断時の移動方向に対して直交するZ方向に移動させるので、作製する薄切片Mの厚みを所定の厚み(例えば、5μm)にすることができる。
【0061】
特に、包埋ブロック支持機構2によって、包埋ブロックBを所望する傾きに高精度に調整しているので、所望する面を有した高品質な薄切片Mを作製することができる。また、包埋ブロックBを無駄に切断することなく、薄切片Mを作製することができる。更には、包埋ブロックBが包埋ブロック支持機構2によって強固に支持されているので、綺麗に切断することができ、薄切片Mの表面をより平滑にすることができる。この点においても、薄切片Mの高品質化を図ることができる。
【0062】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、ピッチ用ロッド16及びロール用ロッド17の先端をそれぞれ単に球状に形成したが、少なくとも軸線L2及び軸線L3回りに転動可能な球体を先端に設けても構わない。例えば、図9に示すように、両ロッド16、17の先端に微小なボール50を転動可能に取り付けても構わない。こうすることで、包埋ブロックBを傾斜させる際に、両ロッド16、17の先端と両プレート14、15との抵抗をさらに小さくすることができる。従って、より滑らかにボール11を回転させることができ、包埋ブロックBの傾き調整を行い易い。
【0064】
また、上記実施形態において、図10に示すように、載置面10aに垂直な軸線L5(第3の軸線)に沿ってボール11に貫通孔11aを形成すると共に、該貫通孔11aを貫通した状態で軸線L5回りに回転可能な回転軸部52を設けても構わない。なお、貫通孔11a内面全体で回転軸部52を回転可能に支持しても構わないし、図示しない玉軸受けを介して回転軸部52を支持しても構わない。また、回転軸部52の一部の外周面には、ボール11に設けられたウォームギア53に噛合する溝52aが形成されている。このウォームギア53は、下部ハウジング21の外側に突出するロッド54の先端に固定されている。そして、下部ハウジング21の外側に突出するロッド54の基端側には、図示しないヨーイング用摘み部が取り付けられている。これにより、ヨーイング用摘み部を回転させることで、回転軸部52を軸線L5回りにさせることができるようになっている。
つまり、ウォームギア53、ロッド54及びヨーイング用摘み部は、回転軸部52を回転させる回転手段55として機能する。また、この場合の載置台10は、ボール11に対して非接触状態で回転軸部52の一端側に連結されている。
【0065】
このように構成することで、ヨーイング用摘み部を回転させて、包埋ブロックBを載置面10aに垂直な軸線L5回りに回転させることができる。従って、包埋ブロックBを載置台10に固定した後、切断方向に対して包埋ブロックBの向きを調整(ヨーイング調整)することができる。つまり、切断刃3の方向に対して包埋ブロックBが所定の方向に向くように調整することができる。特に、包埋ブロックBを粗削りする際に有効である。
なお、これら回転軸部52及び回転手段55は、ボール11に設けられているので、包埋ブロックBの傾き調整に何ら影響を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る包埋ブロック支持機構によって支持される包埋ブロックを示す斜視図である。
【図2】本発明に係る包埋ブロック支持機構を有する薄切片作製装置の構成図である。
【図3】図2に示す包埋ブロック支持機構の外観斜視図である。
【図4】図3に示す包埋ブロック支持機構の上面図である。
【図5】図4に示す包埋ブロック支持機構の断面矢視A−A図である。
【図6】ピッチ用プレートとピッチ用ロッドとの関係を示す拡大断面図である。
【図7】図4に示す包埋ブロック支持機構の断面矢視B−B図である。
【図8】ウォームギアと歯車との関係を示す拡大斜視図である。
【図9】本発明に係る包埋ブロック支持機構のピッチ用ロッド及びロール用ロッドの変形例を示す断面図であって、先端に転動可能なボールが固定されたロッドを示す図である。
【図10】本発明に係る包埋ブロック支持機構の変形例を示す図であって、載置台を載置面に垂直な軸線回りに回転可能に構成された包埋ブロック支持機構の構成図である。
【図11】玉継手のボールにカルダン継手が結合された従来の機構の構成図である。
【図12】図11に示す断面矢視C−C図である。
【符号の説明】
【0067】
B 包埋ブロック
G ボールの中心
M 薄切片
S 生体試料
L2 軸線(第1の軸線)
L3 軸線(第2の軸線)
L5 軸線(第3の軸線)
1 薄切片作製装置
2 包埋ブロック支持機構
3 切断刃
4 切断機構
5 Zステージ(移動機構)
10 載置台
10a 載置台の載置面
11 ボール
12 ハウジング(台部)
13 固定手段
14 ピッチ用プレート(第1のプレート)
14a 溝部
15 ロール用プレート(第2のプレート)
16 ピッチ用ロッド(第1のロッド)
17 ロール用ロッド(第2のロッド)
18a、18b コイルバネ(付勢部材)
19 ロッド可動手段
50 ボール(球体)
52 回転軸部
55 回転手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックを支持する包埋ブロック支持機構であって、
前記包埋ブロックが載置固定される載置面を有する載置台と、
該載置台に固定されたボールと、
該ボールの外周面に接する球面で囲まれた空間を有し、前記載置台を外側に露出させた状態でボールを該空間内に転動可能に収納する台部と、
前記球面を前記ボールの外周面に押し付けてボールを固定させる固定手段と、
前記載置面に平行な状態で前記ボールの中心を通る第1の軸線に沿って、ボールの外周面から外方に延びた第1のプレートと、
前記第1の軸線に沿って前記第1のプレートに形成されたV字状の溝部と、
前記載置面に平行な状態で前記ボールの中心を通ると共に前記第1の軸線に直交する第2の軸線に沿って、ボールの外周面から外方に延びた第2のプレートと、
先端が球状に形成された第1のロッド及び第2のロッドと、
前記第1のプレートを付勢して前記溝部と前記第1のロッドの先端とを点接触させると共に、前記第2のプレートを付勢して該第2のプレートと前記第2のロッドの先端とを点接触させる付勢部材と、
前記第1のロッドを直線的に可動させて前記第1のプレートを前記第2の軸線回りに回転させると共に、前記第2のロッドを直線的に可動させて前記第2のプレートを前記第1の軸線回りに回転させるロッド可動手段とを備えていることを特徴とする包埋ブロック支持機構。
【請求項2】
請求項1に記載の包埋ブロック支持機構において、
前記第1及び第2のロッドの先端には、少なくとも前記第1及び第2の軸線回りに転動可能な球体が設けられていることを特徴とする包埋ブロック支持機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の包埋ブロック支持機構において、
前記ボールには、前記載置面に垂直な第3の軸線方向に沿ってボールの中心を貫通すると共に該第3の軸線回りに回転可能に固定された回転軸部と、該回転軸部を回転させる回転手段とが設けられ、
前記載置台は、前記ボールに対して非固定状態で前記回転軸部の一端に連結されていることを特徴とする包埋ブロック支持機構。
【請求項4】
前記包埋ブロックを所定の厚みで薄切して、シート状の薄切片を切り出す薄切片作製装置であって、
請求項1から3のいずれか1項に記載の包埋ブロック支持機構と、
該包埋ブロック支持機構上に配された切断刃を有し、該切断刃と前記包埋ブロック支持機構とを相対的に移動させて、前記包埋ブロックから前記薄切片を切り出す切断機構と、
前記包埋ブロック支持機構を前記切断時の移動方向に対して直交する方向に移動させ、前記薄切片の厚みを調整する移動機構とを備えていることを特徴とする薄切片作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−170312(P2008−170312A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4350(P2007−4350)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】