説明

包接化合物、それを含有するエポキシ樹脂用硬化剤又は硬化促進剤及びエポキシ樹脂組成物

【課題】低温での硬化反応を抑制して、貯蔵安定性(1液安定性)の向上を図るとともに、加熱処理を施すことにより、効果的にエポキシ樹脂を硬化させることができる包接化合物を提供する。
【解決手段】式(I)で代表されるイソフタル酸化合物、及び、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンで代表されるテトラキスフェノール系化合物より選ばれる少なくとも1種と1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を含有する包接化合物。


[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な包接化合物、それを含有するエポキシ樹脂用硬化剤又は硬化促進剤並びにエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた機械特性、熱特性を有するため様々な分野で広く用いられている。かかるエポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤として、イミダゾールが用いられているが、エポキシ樹脂−イミダゾールの混合液は、硬化の開始が早く、長期貯蔵において増粘、ゲル化したりするので1液型としては使用することができないといった問題点がある。
【0003】
そこで硬化剤として、イミダゾールにヒドロキシ安息香酸を付加したイミダゾール酸付加塩を用いること(特許文献1参照)や、テトラキスフェノール系化合物(例えば、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(以下、TEPという))とイミダゾールとの包接化合物を用いること(特許文献2、3参照)が提案されている。また、本発明者らはイソフタル酸系化合物とイミダゾールとの包接化合物を用いる硬化樹脂組成物を提案している(特許文献4参照)。しかし、これらは一定の効果を奏するものであるが、いまだ満足のいくものではない。
【0004】
また、トランジスタ、IC、LSI等の半導体素子や電気部品の封止材として、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及びその他の添加剤を含有するエポキシ樹脂組成物が用いられており、この保存安定性を改善する目的で、イミダゾール系化合物やアミン系化合物をゲスト化合物とし、TEPをホストとする包接化合物を硬化促進剤として用いることが提案されている(特許文献5参照)。イミダゾール系化合物やアミン系化合物を包接することで、それらの化合物を単独又は併用した場合に比べ、封止材の常温での保存安定性の向上を図ることが可能となるものの、近年進歩の著しい半導体の微細な仕様に対する封止材組成を十分に満足させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−2638号公報
【特許文献2】特開平11−71449号公報
【特許文献3】特開平10−324826号公報
【特許文献4】国際特許公開WO2008/075427号パンフレット
【特許文献5】特開2004−307545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、低温での硬化反応を抑制して、貯蔵安定性(1液安定性)の向上を図るとともに、加熱処理を施すことにより、効果的にエポキシ樹脂を硬化させることができる包接化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、イソフタル酸化合物又はテトラキスフェノール系化合物をホストとし、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5をゲスト化合物とする包接化合物を形成した場合、それをエポキシ樹脂の硬化触媒として用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
[1]式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物、及び、式(II)
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、Xは、(CH)n又はp−フェニレン基を表し、nは、0、1、2又は3であり、R〜Rは、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子又はC1〜C6のアルコキシ基を示す。]で表されるテトラキスフェノール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を含有することを特徴とする包接化合物、
[2]式(I)で表されるイソフタル酸化合物が、5−ニトロイソフタル酸又は5−ヒドロキシイソフタル酸であることを特徴とする上記[1]に記載の包接化合物、及び、
[3]式(II)で表されるテトラキスフェノール系化合物が、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の包接化合物に関する。
【0013】
また、本発明は、
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の包接化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂用硬化剤又は硬化促進剤に関する。
【0014】
さらに、本発明は、
[5]下記(A)成分と(B)成分とを含有することを特徴とするエポキシ硬化樹脂形成用組成物、
(A)エポキシ樹脂
(B)式(I)
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物、及び、式(II)
【0017】
【化4】

[式中、Xは、(CH)n又はp−フェニレン基を表し、nは、0、1、2又は3であり、R〜Rは、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子又はC1〜C6のアルコキシ基を示す。]で表されるテトラキスフェノール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を含有することを特徴とする包接化合物、
[6](A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ環1モルに対して、(B)成分中の1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を0.01〜1.0モル含有することを特徴とする上記[5]に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物、
[7]式(I)で表されるイソフタル酸化合物が、5−ニトロイソフタル酸又は5−ヒドロキシイソフタル酸であることを特徴とする上記[5]又は[6]に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物に関する。
【0018】
さらに、本発明は、
[8]上記[5]〜[7]に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物を加熱処理して硬化させることを特徴とするエポキシ硬化樹脂の製造方法、及び、
[9]加熱処理の加熱温度が、60〜250℃であることを特徴とする上記[8]に記載のエポキシ硬化樹脂の製造方法に関し、
[10]上記[8]又は[9]の製造方法により得られたことを特徴とするエポキシ硬化樹脂に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性に優れ、効果的にエポキシ樹脂を硬化させることができる包接化合物を得ることができる。また保存安定性、流動性が保持され、効率的な硬化性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の包接化合物のXRD(X線回折)による測定結果を示す図である。
【図2】実施例2の包接化合物のXRD(X線回折)による測定結果を示す図である。
【図3】実施例3の包接化合物のXRD(X線回折)による測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(新規包接化合物)
「包接化合物」とは、2種又は3種以上の分子が共有結合以外の結合により結合した化合物をいい、より好ましくは、2種又は3種以上の分子が共有結合以外の結合により結合した結晶性化合物をいう。包接する化合物をホスト化合物といい、包接される化合物をゲスト化合物という。また、塩もここでいう包接化合物に含まれる。
本発明の包接化合物は、式(I)
【0022】
【化5】

【0023】
で表されるイソフタル酸化合物、及び、式(II)
【0024】
【化6】

【0025】
で表されるテトラキスフェノール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をホスト化合物とし、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(以下、「DBN」いう)をゲスト化合物とする包接化合物である。
【0026】
式(I)において、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。
ここで、「C1−6アルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0027】
「C1〜C6のアルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
式(I)で表されるイソフタル酸化合物としては、5−ニトロイソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−t−ブチルイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸、5−t−ブトキシイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等が挙げられる。これらのイソフタル酸化合物はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
式(II)において、Xは、(CH)n又はp−フェニレン基を表し、nは、0、1、2又は3であり、R〜Rは、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子又はC1〜C6のアルコキシ基を示す。
ここで、「C1〜C6のアルキル基」及び「C1〜C6のアルコキシ基」は、前記式(I)における「C1〜C6のアルキル基」及び「C1〜C6のアルコキシ基」と同様の基を例示することができる。
「ハロゲン原子」としては、塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
「置換されていてもよいフェニル基」における「置換基」としては、水酸基、ハロゲン原子、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基等が挙げられる。ここで、「C1〜C6のアルキル基」及び「C1〜C6のアルコキシ基」は、前記式(I)における「C1〜C6のアルキル基」及び「C1〜C6のアルコキシ基」と同様の基を例示することができる。「ハロゲン原子」としては、上記と同様の原子を例示することができる。
【0029】
式(II)で表されるテトラキスフェノール系化合物としては、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−クロロ−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−ブロモ−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−メトキシ−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−クロロ−5−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−クロロ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス[(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル]エタン、1,1,3,3−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,4,4−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのテトラキスフェノール化合物はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明の包接化合物は、ホスト化合物と、DBNとを直接混合するか、あるいは溶媒中で混合することにより得ることができる。
溶媒を使用する場合は、ホスト化合物及びDBNを溶媒に添加後、必要に応じて攪拌しながら、加熱処理又は加熱還流処理を行った後、析出させることにより得ることができる。特に結晶化させて得られうる結晶化合物であることがより好ましい。析出した化合物であれば特に制限されるものではなく、溶媒等の第3成分を含んでもよく、該第3成分は40モル%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましいが、第3成分を含まないことが最も好ましい。
【0031】
前記ホスト化合物及びDBNは溶媒に溶解又は懸濁するが、両方とも溶媒に溶解することが好ましい。溶媒に溶解する場合、その全量が溶媒に溶解する必要はなく、少なくともごく一部が溶媒に溶解すればいい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル等を用いることができる。特に、ホスト化合物とDBNをそれぞれ溶媒に溶解後、溶解液同士を混合することが好ましい。
加熱処理は特に制限されないが、例えば40〜120℃の範囲内に加熱することができ、好ましくは加熱還流することである。
【0032】
前記ホスト化合物と、DBNとの添加割合は、包接化合物を形成しうる限り特に制限はないが、前記ホスト化合物1モルに対して、DBNが、0.1〜5.0モルであることが好ましく、0.5〜3.0モルであることがより好ましい。
【0033】
前記ホスト化合物とDBNとを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後の工程は、ホスト化合物とDBNとを構成要素として含む固体化合物が得られうる限り特に限定されず、例えば加熱後、単に加熱を止めることにより固体化合物を析出させてもよいが、加熱した後、室温で一晩放置することが好ましい。また、適宜、5℃以下で静置して析出させてもよい。固体化合物を析出させた後、例えばろ過して乾燥することにより、目的とする化合物が得られる。また種類によっては結晶化合物が得られる。
【0034】
得られる包接化合物の構造は、熱分析(TG及びDTA)、赤外吸収スペクトル(IR)、X線回折(XRD)パターン、固体NMRスペクトル等により確認できる。また、包接化合物の組成は、熱分析、H−NMRスペクトル、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、元素分析等により確認することができる。
【0035】
(エポキシ樹脂組成物)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、
(A)エポキシ樹脂と
(B)上記式(I)で表されるイソフタル酸化合物及び式(II)で表されるテトラキスフェノール系化合物から選ばれる少なくとも1種と、DBNを含む包接化合物
とを含有するものであれば特に制限されるものではない。
【0036】
(A)成分のエポキシ樹脂としては、従来公知の各種ポリエポキシ化合物が使用でき、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、フロログリシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールCジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフルオロプロパンジグリシジルエーテル、1,3−ビス〔1−(2,3−エポキシプロパキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル〕ベンゼン、1,4−ビス〔1−(2,3−エポキシプロパキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロメチル〕ベンゼン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)オクタフルオロビフェニル、フェノールノボラック型ビスエポキシ化合物等の芳香族系グリシジルエーテル化合物、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド等の脂環式ポリエポキシ化合物、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジル−p−オキシベンゾエート、ジグリシジルシクロペンタン−1,3−ジカルボキシレート、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルトリブロモアニリン等のグリシジルアミン化合物、ジグリシジルヒダントイン、グリシジルグリシドオキシアルキルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ化合物等を挙げることができる。
【0037】
(B)成分は、前記した包接化合物である。
【0038】
使用する包接化合物の量は、通常の硬化剤、硬化促進剤と同様な使用量でよく、硬化方法による。エポキシ基と反応する事によって、硬化した樹脂中に必ず硬化剤分子が組み込まれる付加型硬化剤の場合には、求められる樹脂の性質にもよるが、通常、エポキシ基1モルに対して包接している硬化剤及び/又は硬化促進剤(ゲスト化合物)が0.01〜1.0モル程度になるよう包接化合物を使用する。また、硬化剤分子が樹脂中に組み込まれることなく触媒的にエポキシ基の開環を誘発し、オリゴマー間の重合付加反応を起こす重合型硬化剤や光開始型硬化剤の場合、また硬化促進剤として使用する場合などでは、エポキシ基1モルに対して包接化合物は1.0モル以下で十分である。すなわち、(A)成分、(B)成分の割合は(A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ環1モルに対して、(B)成分中のDBNを0.01〜1.0モル含有することが好ましく、0.1〜1.0モル含有することがより好ましく、0.3〜1.0モル含有することがさらに好ましい。(B)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0039】
(B)成分の包接化合物の50%粒子径は、特に限定されないが、通常約0.01〜80μm、好ましくは約0.01〜30μmの範囲である。なお、50%粒子径は、粉体の集団を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる粒子径μmを表したものである。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は(A)成分及び(B)成分を混合することにより製造することができるが、十分な混合状態が形成されるよう、通常、60〜100℃程度に加熱して混合する。エポキシ樹脂の製造においては、このときの温度での1液安定性が重要となる。エポキシ硬化樹脂の製造方法としては、上記エポキシ樹脂組成物を加熱処理して硬化させる方法であれば特に制限されるものではなく、通常、加熱処理の加熱温度としては、60〜250℃であり、好ましくは100〜200℃であり、かかる温度において短時間で硬化することが好ましい。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、前記のように(B)成分は、硬化剤としても硬化促進剤としても使用される。
【0042】
(B)成分が硬化剤である場合には硬化促進剤をさらに含んでいても良く、(B)成分が硬化促進剤である場合には、硬化剤をさらに含んでいてもよい。
(B)成分以外に含有してもよい硬化剤としては、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応してエポキシ樹脂を硬化させる化合物であれば、特に制限はない。同様に(B)成分以外に含有してもよい硬化促進剤としては、上記硬化反応を促進する化合物であれば、特に制限はない。このような、硬化剤又は硬化促進剤としては、従来のエポキシ樹脂の硬化剤又は硬化促進剤として慣用されているものの中から任意のものを選択して使用できる。例えば、脂肪族アミン類、脂環式及び複素環式アミン類、芳香族アミン類、変性アミン類等のアミン系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、アミド系化合物、エステル系化合物、フェノール系化合物、アルコール系化合物、チオール系化合物、エーテル系化合物、チオエーテル系化合物、尿素系化合物、チオ尿素系化合物、ルイス酸系化合物、リン系化合物、酸無水物系化合物、オニウム塩系化合物、活性珪素化合物−アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0043】
脂肪族アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ペンタンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、ペンタメチルジエチレントリアミン、アルキル−t−モノアミン、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン(トリエチレンジアミン)、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール、トリエタノールアミン、ジメチルアミノヘキサノール等が挙げられる。
【0044】
脂環式及び複素環式アミン類としては、例えば、ピペリジン、ピペラジン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、N,N’,N”−トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−s−トリアジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキシスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、N−アミノエチルピペラジン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,8−ジアザビシクロ[4.5.0]ウンデセン−7等が挙げられる。
【0045】
芳香族アミン類としては、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルメチルアミン、ジメチルベンジルアミン、m−キシレンジアミン、ピリジン、ピコリン、α−メチルベンジルメチルアミン等が挙げられる。
【0046】
変性アミン類としては、例えば、エポキシ化合物付加ポリアミン、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、チオ尿素付加ポリアミン、ケトン封鎖ポリアミン、ジシアンジアミド、グアニジン、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル、アミンイミド、三フッ化ホウ素−ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素−モノエチルアミン錯体等が挙げられる。
【0047】
イミダゾール系化合物としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、3−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、5−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、3−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、5−エチルイミダゾール、1−n−プロピルイミダゾール、2−n−プロピルイミダゾール、1−イソプロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、1−n−ブチルイミダゾール、2−n−ブチルイミダゾール、1−イソブチルイミダゾール、2−イソブチルイミダゾール、2−ウンデシル−1H−イミダゾール、2−ヘプタデシル−1H−イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,3−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、2−フェニル−1H−イミダゾール、4−メチル−2−フェニル−1H−イミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(2−シアノエトキシ)メチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール塩酸塩等が挙げられる。
【0048】
イミダゾリン系化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン等が挙げられる。
【0049】
アミド系化合物としては、例えば、ダイマー酸とポリアミンとの縮合により得られるポリアミド等が挙げられる。
【0050】
エステル系化合物としては、例えば、カルボン酸のアリール及びチオアリールエステルのような活性カルボニル化合物等が挙げられる。
【0051】
フェノール系化合物、アルコール系化合物、チオール系化合物、エーテル系化合物、及びチオエーテル系化合物としては、例えば、フェノール樹脂硬化剤として、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノ−ル樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、これらの変性樹脂、例えばエポキシ化もしくはブチル化したノボラック型フェノール樹脂等、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、パラキシレン変性フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、多官能型フェノール樹脂等が挙げられる。また、ポリオール、ポリメルカプタン、ポリサルファイド、2−(ジメチルアミノメチルフェノール)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールのトリ−2−エチルヘキシル塩酸塩等が挙げられる。
【0052】
尿素系化合物、チオ尿素系化合物、ルイス酸系化合物としては、例えば、ブチル化尿素、ブチル化メラミン、ブチル化チオ尿素、三フッ化ホウ素等が挙げられる。
【0053】
リン系化合物としては、有機ホスフィン化合物、例えば、エチルホスフィン、ブチルホスフィン等のアルキルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジプロピルホスフィン等のジアルキルホスフィン、ジフェニルホスフィン、メチルエチルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィン等が挙げられる。
【0054】
酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラメチレン無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水クロレンド酸、無水ピロメリット酸、ドデセニル無水コハク酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等が挙げられる。
【0055】
また、オニウム塩系化合物、及び活性珪素化合物−アルミニウム錯体としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、トリフェニルシラノール−アルミニウム錯体、トリフェニルメトキシシラン−アルミニウム錯体、シリルペルオキシド−アルミニウム錯体、トリフェニルシラノール−トリス(サリシルアルデヒダート)アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0056】
前記硬化剤としては、特にアミン系化合物、イミダゾール系化合物、フェノール系化合物を用いるのが好ましい。フェノール系化合物の中でもフェノール樹脂硬化剤を用いるのがより好ましい。
【0057】
(樹脂組成物/添加剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物には前述のものの外、必要に応じて可塑剤、有機溶剤、反応性希釈剤、増量剤、充填剤、補強剤、顔料、難燃化剤、増粘剤及び離型剤など種々の添加剤を配合できる。その他の添加剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤;重炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、天然シリカ、合成シリカ、溶融シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、ウォラスナイト、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、セピオライト、ゾノトライト等の充填剤;NBR、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、シリコーン、架橋NBR、架橋BR、アクリル系、コアシェルアクリル、ウレタンゴム、ポリエステルエラストマー、官能基含有液状NBR、液状ポリブタジエン、液状ポリエステル、液状ポリサルファイド、変性シリコーン、ウレタンプレポリマー等のエラストマー変性剤;
【0058】
ヘキサブロモシクロデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニルオキサイド、ビス(ペンタブロモ)フェニルエタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ポリブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネート、臭素化フェニレンエチレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、トリフェニルホスフェート、トリグレジルホスフェート、トリキシニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、クレジルビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレシジル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモプロピル)ホスフェート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロオキシエチル)アミノメチルホスホネート、陰イオン蓚酸処理水酸化アルミニウム、硝酸塩処理水酸化アルミニウム、高温熱水処理水酸化アルミニウム、錫酸表面処理水和金属化合物、ニッケル化合物表面処理水酸化マグネシウム、シリコーンポリマー表面処理水酸化マグネシウム、プロコバイト、多層表面処理水和金属化合物、カチオンポリマー処理水酸化マグネシウム等の難燃剤;高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ナイロン6,6、ポリアセタール、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリスルホン等のエンジニアリングプラスチック;可塑剤;n−ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジエポキシド、フェノール、クレゾール、t−ブチルフェノール等の希釈剤;増量剤;補強剤;着色剤;増粘剤;高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸カルシウム等、例えば、カルナバワックスやポリエチレン系ワックス等の離型剤;等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は、特に限定されず、本発明の効果が得られる限度において、配合量を適宜決定することができる。
【0059】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂の他に、他の樹脂を含有していてもよい。他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0060】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を硬化させる用途、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、半導体封止材、プリント配線板用積層板、ワニス、粉体塗料、注型材料、インク等の用途に好適に使用することができる。
【0061】
本発明の包接化合物を含有するエポキシ樹脂用硬化剤またはエポキシ樹脂用硬化促進剤を、未硬化エポキシ樹脂に配合した場合、硬化反応の制御において極めて重要な熱安定性が、該硬化剤及びエポキシ樹脂用硬化促進剤中のDBNのみを配合した場合と比べて著しく改善される。また、これら包接化合物を硬化剤または硬化促進剤として含有する樹脂組成物は熱特性に優れている。樹脂組成物の熱特性は、常温での安定性(1液安定性)、常温〜所望する硬化温度までの加熱時の熱安定性、硬化温度の3つの特性が要求される。本発明の包接化合物を硬化剤及び硬化促進剤として配合した未硬化エポキシ樹脂は、常温下では極めて安定(1液安定性が良好)であるが、ある温度以上の一定温度に加熱するのみで硬化し、迅速に所望の硬化物を与える。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例になんら束縛されるものではない。
【0063】
1 包接化合物の合成
(実施例1) TEP―DBNの合成
三口フラスコに、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(以下、「TEP」という)(8g、20mmol)とメタノール70mlを加えた後、攪拌しながら、DBN(2.48g、20mmol)を滴下した。加熱還流した後、加熱を止めて冷却し、室温で一晩放冷後、析出した結晶をろ過して真空乾燥した。得られたTEP−DBN包接化合物は、H−NMR、TG−DTAおよびXRDにて包接比1:1の包接化合物であることを確認した。図1にXRDによる測定結果を示す。
【0064】
(実施例2)NIPA−DBNの合成
三口フラスコに、5−ニトロイソフタル酸(以下、「NIPA」という)(4.22g、20mmol)と酢酸エチル50mlを加えた後、攪拌しながら、DBN(2.48g、20mmol)を滴下した。加熱還流した後、加熱を止めて冷却し、室温で一晩放冷後、析出した結晶をろ過して真空乾燥した。得られた5−ニトロイソフタル酸−DBN包接化合物は、H−NMR、TG−DTAおよびXRDにて包接比1:1の包接化合物であることを確認した。図2にXRDによる測定結果を示す。
【0065】
(実施例3)HIPA−DBNの合成
三口フラスコに、5−ヒドロキシイソフタル酸(以下、「HIPA」という)(3.64g、20mmol)とアセトン50mlを加えた後、加熱攪拌しながら、DBN(2.48g、20mmol)を滴下した。加熱還流した後、加熱を止めて冷却し、室温で一晩放冷後、析出した結晶をろ過して真空乾燥した。得られた5−ヒドロキシイソフタル酸−DBN包接化合物は、H−NMR、TG−DTAおよびXRDにて包接比1:1の包接化合物であることを確認した。図3にXRDによる測定結果を示す。
【0066】
2 エポキシ樹脂の調製
(実施例4〜6及び比較例1)
実施例1〜3で合成した包接化合物を硬化剤(又は硬化促進剤)として、第1表に示した組成で他の原料と配合した後、100℃で5分間加熱混練し、冷却後、粉砕してエポキシ樹脂組成物を調製した。硬化剤(又は硬化促進剤)として、実施例4は実施例1で合成したTEP−DBN、実施例5は実施例2で合成したNIPA−DBN、実施例6は実施例3で合成したHIPA−DBN、及び、比較例1はDBNを使用した。
なお表中の各組成物の配合量は質量部で表されている。
【0067】
【表1】

【0068】
(スパイラルフロー試験)
各実施例のエポキシ樹脂組成物を打錠し、錠剤を成型した。これらの錠剤を、アルキメデススパイラル金型とトランスファー成形機を用いて、175℃、圧力70Kgf/cmの条件で3分間射出成形したものの長さを測定した。スパイラルフロー値は初期値及び25℃で168時間経過後の値を測定し、それらの値から保持率(%)を算出した。
結果を第1表に示した。
【0069】
(ゲルタイム)
各実施例のエポキシ樹脂組成物の適量を金属製ヘラで175℃の熱板に置き、金属製ヘラを使ってかき混ぜ、試料に粘着性がなくなり、熱板から剥がれるようになった時または粘着性がなくなった時間(秒)を測定した。
【0070】
スパイラルフロー試験ではその値が大きいほど流動性がいいことを示しているが使用される場面により適宜選択できる。168時間後の保持率はその値が大きいほど組成物の保存安定性がいいことを示している。ゲルタイムは封止材を一定温度で加熱したとき、流動性を失うまでの時間であり硬化特性に関し、適宜選択できる。
【0071】
本発明の組成物は第1表より流動性や保存性において、包接化合物を含まない組成物に比べて著しく、優れていると同時に適度で効率的な硬化性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物、及び、式(II)
【化2】

[式中、Xは、(CH)n又はp−フェニレン基を表し、nは、0、1、2又は3であり、R〜Rは、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子またはC1〜C6のアルコキシ基を示す。]で表されるテトラキスフェノール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を含有することを特徴とする包接化合物。
【請求項2】
式(I)で表されるイソフタル酸化合物が、5−ニトロイソフタル酸又は5−ヒドロキシイソフタル酸であることを特徴とする請求項1に記載の包接化合物。
【請求項3】
式(II)で表されるテトラキスフェノール系化合物が、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の包接化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の包接化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂用硬化剤又は硬化促進剤。
【請求項5】
下記(A)成分と(B)成分とを含有することを特徴とするエポキシ硬化樹脂形成用組成物。
(A)エポキシ樹脂
(B)式(I)
【化3】

[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物、及び、式(II)
【化4】

[式中、Xは、(CH)n又はp−フェニレン基を表し、nは、0、1、2又は3であり、R〜Rは、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子またはC1〜C6のアルコキシ基を示す。]で表されるテトラキスフェノール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を含有することを特徴とする包接化合物。
【請求項6】
(A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ環1モルに対して、(B)成分中の1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5を0.01〜1.0モル含有することを特徴とする請求項5に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物。
【請求項7】
式(I)で表されるイソフタル酸化合物が、5−ニトロイソフタル酸又は5−ヒドロキシイソフタル酸であることを特徴とする請求項5又は6に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物。
【請求項8】
請求項5〜7に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物を加熱処理して硬化させることを特徴とするエポキシ硬化樹脂の製造方法。
【請求項9】
加熱処理の加熱温度が、60〜250℃であることを特徴とする請求項8に記載のエポキシ硬化樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9の製造方法により得られたことを特徴とするエポキシ硬化樹脂。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140465(P2011−140465A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2125(P2010−2125)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】