説明

化合物、重合性液晶組成物、光学異方性材料、光学素子および光情報記録再生装置

【課題】使用波長、用途に応じて適正なRd値が得られ、特に青色レーザ光に対する耐久性が高い光学素子等を作製するための新規な液晶化合物を提供する。
【解決手段】
下記式で表される液晶化合物。
CH=CR−COO−L−Ph−Cy−Ph−Ph−R ;(2A)
CH=CR−COO−L−Ph−Ph−Cy−Ph−R ;(2B)
CH=CR−COO−L−Ph−Ph−Cy−R ;(3A)
CH=CR−COO−L−Ph−Cy−Ph−R ;(3B)
ただし、R:水素原子またはメチル基。
:炭素数1〜8のアルキル基またはフッ素原子。
L:−(CH)O−または−(CH)−(ただし、pおよびqはそれぞれ独立に2〜8の整数。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、その化合物を含む重合性液晶組成物、その重合性液晶組成物を重合させてなる光学異方性材料、光学素子、および、その光学素子を用いた光情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクに記録された情報を読み出したり、光ディスクに情報を書き込んだりする際には、レーザ光を変調(偏光、回折、位相調整等)させる光学素子が必要である。たとえば、情報の読み出しの際、レーザ光源から出射された直線偏光は、偏向素子ついで位相板を経由し光ディスクの面に到達する。往きの直線偏光の偏光方向は、該偏向素子によって変わらない方向に揃えられているので、往きの直線偏光は偏向素子を直線透過し、位相板で円偏光に変換される。この円偏光は光ディスクの情報情報記録面で反射されて逆回りの円偏光となり、再び位相板により入射前と偏光方向が直交する直線偏光に変換される。この戻り光束は再び偏向素子を通過する際に進行方向が曲げられ、受光素子に到達する。
【0003】
また、情報の読み出しや書き込みの際には、光ディスクの面ぶれ等が発生すると、ビームスポットのフォーカス位置が情報記録面からずれるため、これを検出・補正しビームスポットを情報記録面上の凹凸ピットに追従させるサーボ機構が必要となる。このような光ディスクのサーボ系はレーザ光源から照射したビームスポットの焦点を情報記録面上に合わせてからトラックの位置を検出し、目的のトラックを追従するように構成されている。また、情報記録面上でピットに当らずに反射されたレーザ光がそのまま光源まで戻らないようにする必要もある。
【0004】
このため光ヘッド装置においては、レーザ光を変調させる光学素子が必要となる。例えば位相板(波長板)は、位相板の光軸と入射光の位相面とのなす角度により、入射光に異なる屈折率を与え、更に複屈折により生じる2成分の光の位相をずらす効果を有している。位相のずれた2つの光は位相板から出射したときに合成される。この位相のずれは位相板の厚みにより決定されるため、厚みを調節することにより、位相をπ/2だけずらす1/4波長板、πずらす1/2波長板等を作製することができる。例えば1/4波長板を通過した直線偏光は円偏光となり、1/2波長板を通過した直線偏光はその偏光面が90度傾いた直線偏光となる。これらの性質を利用して、光学素子を組み合わせることによりサーボ機構等に応用されている。このような光学素子は、光ディスクの記録を読み取るために利用される光ピックアップ素子のみならず、プロジェクタ用途等におけるイメージング素子、波長可変フィルタ用途等における通信用デバイスにも利用されている。
【0005】
また、これらの光学素子は液晶材料からも作製することが可能である。重合性官能基を有する液晶分子は、重合性モノマーとしての性質と液晶としての性質とを併有するため、重合性官能基を有する液晶分子を配向させた後に重合を行うと、液晶分子の配向が固定された光学異方性材料が得られる。光学異方性材料は、メソゲン骨格に由来する屈折率異方性等の光学異方性を有し、該性質を利用して回折素子、位相板等に応用されている。
【0006】
光学素子には一般的に次のような特性が求められる。
1)使用波長、用途に応じて適正なリタデーション値(Rd値)を持っていること。
2)面内の光学特性(Rd値、透過率など)が均一であること。
3)使用波長において、散乱や吸収がほとんど無いこと。
4)素子を構成する他の材料と光学特性を合わせやすいこと。
5)使用波長において、屈折率や屈折率異方性の波長分散が小さいこと。
【0007】
さらに、近年、光ディスクの大容量化を図るため、情報の書き込み、読み取りに使用されるレーザ光を短波長化し、光ディスク上の凹凸ピットサイズをより小さくすることが進められている。現在、CDでは波長780nm、DVDでは波長660nm、BDでは405nmのレーザ光が使用されている。BDよりもさらに短波長の次世代光記録メディアでも検討されている。しかし、特開平10−195138号公報に記載された高分子液晶等の、従来から知られた材料には、青色レーザ光に対する耐久性が高く、上記のような特性を満足する材料はあまり得られていなかった。
【0008】
液晶等の有機物からなる光学素子(位相板など)を光学系に配置して光ヘッド装置として使用すると、時間の経過に伴って収差が発生することがある。このことは、レーザ光の曝露によって有機物にダメージが発生することによるものと考えられる。収差が発生すると、レーザ光源から出射し、コリメータレンズや光学素子等を通過した光(光束)が、さらに対物レンズを通過して記録媒体表面に到達したときに光束が1点に決像しなくなり、情報の読み出しや書き込みの効率(光の利用効率)が低下するおそれが生ずる。
【0009】
通常、素子を小型化、高効率化するためには高い屈折率異方性を有する材料が必要とされる。一般的に、高い屈折率異方性を有する材料は、高い屈折率を有する傾向がある。また、高屈折率材料は、屈折率の波長分散が大きいという性質を有するために、短波長の光に対する光の吸収が大きくなる(すなわち、材料のモル吸光係数が大きくなる。)という傾向がある。このため、従来から知られた高屈折率材料には、青色レーザ光のような短波長の光を吸収しやすく、耐光性が低いという問題があった。
【0010】
高分子液晶を含む材料からなる部材と、等方性の屈折率を有する材料からなる部材とが、交互に配置されて格子形状を形成している回折素子は、互いの屈折率を合わせることで透過させ、異ならせることで回折させている。一般的に高分子液晶は屈折率異方性が大きいと平均屈折率も高くなる傾向があり、この場合透過させるためには等方性材料に高屈折率性が求められ、適用される材料が限定されてくる。また一般的に高屈折材料は、青色レーザのような短波長の光耐性が弱いので素子としての耐光性にも問題が生じる。
【0011】
重合性液晶性化合物を含む組成物を調製する際、材料の融点が高いと、組成物を充分に混合するために加熱が必要となる。そして、この加熱により不均一な熱重合反応が進行し、均一な液晶組成化物を得ることが困難となるおそれがある。
またこの場合、素子を作成するプロセスにおいて扱いが困難になることがある。
【0012】
光学素子の材料として用いられる材料としては代表的なものに、コレステリック液晶がある。コレステリック液晶相は、液晶分子が螺旋状に捩れた配向を有しており、その螺旋ピッチに対応して左/右円偏光成分のいずれか一方を選択的に反射する性質を持つ。具体的には、選択反射を有する方の円偏光を用いてコレステリック液晶の透過率測定を行うと、選択反射を持つ波長帯域に矩形を有するスペクトルが得られる。これは、その波長を反射するミラーとしての利用、若しくは反射を利用した屈折率異常分散の利用等が可能であるため、コレステリック液晶は様々な光学素子に利用されている。
光学素子化した際の温度特性の良好さ、信頼性の高さ等が要求されることを考慮すると、ポリマー型のコレステリック高分子液晶が有効である。
【0013】
コレステリック液晶組成物は、カイラル材の添加量によって選択反射領域帯域の波長をシフトすることができるが、近紫外領域のレーザに使用する素子ではカイラル材の添加量が多くなり、ホスト液晶の複屈折異方性に依存する旋光角が所望の膜厚で十分な値が出せない問題があった。同時に重合性のコレステリック液晶組成物は、重合により選択反射の矩形変化を伴うことが多く、一般にその矩形はブロード化し、選択反射帯域近傍での透過率低下が生じる。つまり選択反射帯域近傍の波長の透過光を利用するような光学素子においては光の利用効率を確保し難いという問題があった。
【0014】
本出願人のWO2007/046294(特許文献1)にすでに本骨格を有する構造は広範囲な一般式で記載されている。しかしながら、本発明の化合物についての具体的な記載はない。また、この文献の実施例記載の高分子液晶では大きな複屈折率を示すが、液晶自体の屈折率も大きく、液晶の屈折率に合わせた高屈折率材料で素子を作成すると、耐光性に問題が残る。また、大きな複屈折率の応用の一つとしてコレステリック液晶の旋光性が挙げられるが、特許文献1の実施例の化合物だと、重合によりコレステリック液晶の選択反射の矩形がブロード化し選択反射帯域近傍での透過率低下が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO2007/046294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は前記の問題点を解決するためになされたものであり、高い屈折率異方性を示すにも関わらず、平均屈折率が小さく青色レーザ光のような短波長光に対する吸収が少ない化合物であり、また、コレステリック液晶組成物化した際にもホスト液晶の複屈折率に依存した旋光角が大きく、かつ重合時のブロード化による選択反射帯域近傍での透過率損失を抑制した、特に青色レーザ光に対する耐久性が高い光学異方性材料および光学素子、およびこれらを作製するための新規な液晶組成物および化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下に示すものである。
[1]
下記式で表される化合物であって
【0018】
【化1】

【0019】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
:炭素数1〜8のアルキル基またはフッ素原子であり、アルキル基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
k:0または1。
L:−(CH)O−または−(CH)−(ただし、pおよびqはそれぞれ独立に2〜8の整数。)であり、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
m:0または1
:1,4−フェニレン基であり、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
、E:それぞれ独立に1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基であり、かつEおよびEの少なくとも一方はトランス−1,4−シクロヘキシレン基であり、1,4−フェニレン基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つはフッ素原子に置換されており、該基中の炭素原子に結合した残りの水素原子はメチル基に置換されていてもよく、トランス−1,4−シクロヘキシレン基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
:1,4−フェニレン基であり、該基中の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つはフッ素原子に置換されており、該基中の炭素原子に結合した残りの水素原子はメチル基に置換されていてもよい。
【0020】
[2]
前記式(1)で表される化合物において、E、EおよびEの内の全ての1,4−フェニレン基に該当する環の2位および3位の位置の少なくとも一つの水素原子がフッ素原子に置換されている[1]に記載の化合物。
【0021】
[3]
前記式(1)で表される化合物において、m=1の場合、E〜Eの内の1,4−フェニレン基の炭素原子に結合した水素原子の内、合計2以上6以下の水素原子はフッ素原子で置換されており、m=0の場合はE〜Eの内の1,4−フェニレン基の炭素原子に結合した水素原子の内、合計1以上4以下の水素原子はフッ素原子で置換されている[1]または[2]に記載の化合物。
【0022】
[4]
[1]〜[3]のいずれかの前記式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする重合性液晶組成物。
[5]
重合性カイラルドーパントを1〜50質量%含む[4]に記載の重合性コレステリック液晶組成物。
【0023】
[6]
[4]または[5]に記載の重合性液晶組成物を、液晶相を示す状態で、かつ液晶が配向した状態で重合して得られる重合体からなることを特徴とする光学異方性材料。
[7]
[4]または[5]に記載の重合性液晶組成物を、一対の支持体間に挟持し、重合性液晶組成物が液晶相を示す状態で、かつ液晶が配向した状態で重合して得られる重合体を有することを特徴とする光学素子。
【0024】
[8]
光記録媒体に情報を記録する、および/または、光記録媒体に記録された情報を再生する光情報記録再生装置であって、[7]に記載の光学素子を有することを特徴とする光情報記録再生装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、新規な化合物、その化合物を含む重合性液晶組成物、その重合性液晶組成物を重合させてなる光学異方性材料、光学素子、および、その光学素子を用いた光情報記録再生装置が得られる。本発明に係る新規な化合物および重合性液晶組成物を用いれば、高い屈折率異方性を示すので、素子の小型化、高効率化に有効であり、また使用波長、用途に応じて適正なRd値を得ることができる。本発明に係る光学異方性材料および光学素子は、ピックアップ素子、イメージング素子、通信用デバイス等に有効に利用でき、青色レーザ光に対する耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態の光情報記録再生装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。他の化合物についても同様に記す。m=1の場合、化合物(1)のEおよびEの内の1,4−フェニレン基とEの1,4−フェニレン基の炭素原子に結合した水素原子の各々少なくとも一つの水素原子がフッ素原子に置換されている。これにより液晶の複屈折性を大きく損なわせず、液晶の平均屈折率を下げることができる。また、1,4−フェニレン基の炭素原子に結合した水素原子の複数個をフッ素原子に置換することで、液晶の融点を下げ、扱いが容易になる。
【0028】
このとき、これらの環基は1位および4位に結合手を有し、本明細書では、式(1)も含め、全ての環基の左側を1位とし、環基の右側を4位とする。なお、環基が1,4−シクロヘキシレン基である場合、1位および4位の結合手はトランスの位置にある。また、アルキル基に構造異性の基が存在する場合はその全ての基を含み、直鎖アルキル基が好ましい。以下において、「Ph」は置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表し、「Cy」は置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基を表す。本発明では、1,4−フェニレン基およびトランス−1,4−シクロヘキシレン基の炭素原子に結合した水素原子に置換可能な置換基としては、フッ素原子またはメチル基である。
【0029】
また、液晶性と重合性とを併有する化合物を、以下、重合性液晶化合物という。以下における波長の記載は、中心波長±2nmの範囲にあることを意味する。また、屈折率異方性をΔnと略記する。
【0030】
本発明の化合物は、下式(1)で表される化合物である。この化合物(1)は、重合性化合物であり、自ら液晶性を示すか、または、他の液晶性化合物と組み合わせて重合性液晶組成物を構成するのに適した化合物で、
【0031】
【化2】

【0032】
は水素原子またはメチル基であり、水素原子が好ましい。Rが水素原子である場合、後述する化合物(1)を含む液晶組成物を光重合させて光学異方性材料および光学素子を得る際に、重合が速やかに進行するので好ましい。また、光重合によって得られる光学異方性材料および光学素子の特性が外部環境(温度等)の影響を受けにくく、リタデーションの面内分布が小さい利点もある。
【0033】
は炭素数1〜8のアルキル基またはフッ素原子である。このことによって化合物(1)を含む液晶組成物の融点(Tm)(すなわち、結晶相−ネマチック相転移点)を低くできる。Rとしては、炭素数2〜6のアルキル基がより好ましい。また、アルキル基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。また、化合物(1)が液晶性を示す場合、その温度範囲を広くできることから、Rがアルキル基である場合は、直鎖構造であることが好ましい。
【0034】
Lは、−(CH)O−、または−(CH)−であり、pおよびqはそれぞれ独立に2〜8の整数とされるが、−(CH)O−であることが好ましい。該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0035】
一般に、重合性液晶を重合させると、重合の前後でΔnの値が低下する傾向があるが、Lが−(CH)O−、−(CH)−等のポリメチレン基を有する基である場合は、重合の前後におけるΔn値の低下を抑えることができる。
【0036】
化合物(1)は以下に示すように4環の化合物(2)と3環の化合物(3)を含む。
【0037】
【化3】

【0038】
m=1の場合では、化合物(2)が有する環基の数は4個であり、EはPhであり、EおよびEはそれぞれ独立に、PhまたはCyであり、かつEおよびEの少なくとも一方はCyである。EはPhである。また、Phを複数個含み、Δnの値を大きくできる。その場合、2つのPhが隣接していることが好ましいが、3つ以上のPhが直結すると青色レーザに対する耐久性が低下するおそれがある。化合物(2)はEおよびEの少なくとも一方がCyであることより、3つ以上のPhが連結することはない。
m=0の場合では、化合物(3)が有する環基の数は3個であり、EがPhであり、EおよびEの少なくとも一方はCyである。この場合には、Phは2個しかないため、3つ以上のPhが直結することはない。
【0039】
「E−E−E−(E」の構造としては、m=1の場合は「Ph−Ph−Cy−Ph」、「Ph−Cy−Ph−Ph」および「Ph−Cy−Cy−Ph」がある。m=0の場合は「Ph−Cy−Ph」、「Ph−Ph−Cy」および「Ph−Cy−Cy」がある。特に、Phが2個以上含まれることにより、大きなΔnを示す液晶組成物の調製を可能にする。
【0040】
【化4】

【0041】
Δnを大きく損なわない点と融点を下げる点からEおよびEの内のPhの炭素原子に結合した水素原子の各々1から2の水素原子がフッ素原子に置換されているのが好ましい。また、平均屈折率をより下げる場合にはE〜EのPhまたはCyの炭素原子に結合した水素原子をフッ素原子に置換することで下げることができる。
【0042】
化合物(1)としては、下記化合物(2A)〜(3B)が好ましい。
【0043】
【化5】

【0044】
これらのうちRが水素原子であり、Rが炭素数2〜6の直鎖アルキル基またはフッ素原子である化合物が好ましく、更に−L−が−(CH)O−で、pが2〜8の整数である化合物が好ましく、pが2〜6の整数であることが特に好ましい。
【0045】
m=1の場合には、EおよびEにおけるPhは炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つの水素原子はフッ素原子に置換された基であり、かつEのPhも炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つの水素原子はフッ素原子に置換された基である。フッ素原子による置換基による修飾は、平均屈折率を小さくする。また、Phに複数のフッ素置換基を有する場合、化合物(1)の融点を低くする効果および粘度を低くする効果がある。なお、置換基の位置は、屈折率異方性を大きく損なわせない点からフッ素原子の位置は2位または3位であることが好ましい。また、トランス−1,4−シクロへキシレン基は非置換の基であることが好ましい。
【0046】
同様にm=0の場合には、EおよびEにおけるPhは炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つの水素原子はフッ素原子に置換された基である。この場合も、Phに該当する環の2位、もしくは3位に少なくとも一つはフッ素原子が置換されていることが前述の理由により好ましい。
【0047】
m=1の場合の化合物(2)としては、以下に示す化合物(2−1)〜(2−28)が好ましく、特に、EにおけるPhの炭素原子に結合した水素原子は非置換であり、EおよびEにおけるPhの炭素原子に結合した水素原子の夫々1個または2個の水素原子がフッ素原子に置換された基である化合物(2−1)〜(2−7)が好ましい。同様に、m=0の場合の化合物(3)においては、化合物(3−1)〜(3−24)が好ましく、特に、EにおけるPhの炭素原子に結合した水素原子は非置換であり、EまたはEにおけるPhの炭素原子に結合した水素原子の々1個または2個の水素原子がフッ素原子に置換された基である化合物(3−11)〜(3−13)、(3−22)〜(3−24)が好ましい。ただし、式中のpは前記と同じ意味を示し、2〜8の整数が好ましい。R21は炭素数1〜8のアルキル基を示し、炭素数2〜6の直鎖アルキル基が好ましい。
【0048】
【化6】

【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
におけるPhの炭素原子に結合した水素原子は非置換であり、EおよびEにおけるPhの炭素原子に結合した水素原子の夫々1個または2個の水素原子がフッ素原子に置換された基である
【0053】
【化10】

【0054】
【化11】

【0055】
本発明の化合物(2)および(3)の合成方法について、具体例を挙げて説明する(但し、式中の記号は前記と同じ意味を示す。)。
【0056】
(合成方法1)
本発明の化合物(2)において、たとえば前記化合物(2−2)の合成方法としては、以下に示す方法が挙げられる。
まず、下記化合物(4−1)をリチウムジイソプロピルアミド(LDA)と反応させ、次にアルキルアルデヒドと反応させ下記化合物(4−2)を得る。これを五酸化二リンで脱水し、下記化合物(4−3)を得る。次にパラジウム−活性炭素の存在下、水素ガスと反応させて下記化合物(4−4)を得る。次に化合物(4−4)をブチルリチウムでリチオ化した後、ほう酸トリイソプロピルと反応させ下記化合物(4−5)を得る。
【0057】
【化12】

【0058】
また、並行して、化合物(4−6)を硫酸ジメチルと反応させ、メチル保護した下記化合物(4−7)を得る。次に下記化合物(4−8)にマグネシウムを反応させてグリニヤール試薬を調整し、これと先ほどの化合物(4−7)を反応させて下記化合物(4−9)を得る。
【0059】
【化13】

【0060】
次に化合物(4−9)とパラ−トルエンスルホン酸を反応させて下記化合物(4−10)を得て、この化合物(4−10)と先ほどの(4−5)をカップリング反応することで下記化合物化合物(4−11)を得る。
【0061】
この化合物(4−11)をパラジウム−活性炭素の存在下、水素ガスと反応させて、下記化合物(4−12)を得る。次に化合物(4−12)と三臭化ホウ素を反応させて、下記化合物(4−13)を得て、この化合物(4−13)と、CH=CH−COO−(CH)−Brを反応させて、化合物(2−2−1)を得る。このとき、CH=CH−COO−(CH)−Brの代わりにCH=CH−COO−(CH)OHを用いる際は光延反応によって反応させることができ、アクリル酸クロリドを用いてエステル化してもよい。
【0062】
【化14】

【0063】
(合成方法2)
本発明の化合物(3)において、たとえば前記化合物(3−13)の合成方法としては、以下に示す方法が挙げられる。
まず、下記化合物(4−4)をブチルリチウムによってリチオ化した後、下記化合物(4−7)と反応させて下記化合物(5−1)を得て、これとパラ−トルエンスルホン酸を反応させて下記化合物(5−2)を得る。次に、この化合物(5−2)をパラジウム−活性炭素の存在下、水素ガスと反応させて、下記化合物(5−3)を得る。
次にこの化合物(5−3)と三臭化ホウ素を反応させて、下記化合物(5−4)を得て、下記化合物(5−4)と、CH=CH−COO−(CH)−Brを反応させて、化合物(3−13−1)を得る。このとき、CH=CH−COO−(CH)−Brの代わりにCH=CH−COO−(CH)OHを用いる際は光延反応によって反応させることができ、アクリル酸クロリドを用いてエステル化してもよい。
【0064】
【化15】

【0065】
本発明の化合物(1)は、必要に応じて複数の本発明の化合物(1)を併用、または、本発明の化合物(1)に本発明の化合物(1)以外の重合性液晶性化合物、重合性非液晶化合物、添加剤等を加えて重合性液晶性組成物とする。本発明の化合物(1)で、置換基の種類により単独ではネマティック相を示さない場合には、組成物として重合性液晶性組成物とすることができればよい。
【0066】
化合物(1)以外の重合性液晶性化合物としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物が好ましく、アクリロイル基を有する化合物が特に好ましい。具体的には、以下のような化合物(6)や(7)が挙げられる。
【0067】
【化16】

【0068】
、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立して単結合または炭素数が1〜15のアルキレン基を表し、アルキレン基の場合には、それぞれ独立してアルキレン基の炭素−炭素結合間または環基と結合する末端にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、また、環基と結合する末端にカルボキシル基(−COO−または−OCO−)を有していてもよく、さらにこのアルキレン基中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
【0069】
は、炭素数が1〜12のアルキル基、炭素数が1〜12のアルコキシ基、炭素数が1〜12のアルキルカルボニルオキシ基またはフッ素原子であり、アルキル基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基の場合には、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0070】
およびYは、それぞれ独立して単結合または−COO−を表し、Yは、単結合または−CH−CH−を表し、Yは、単結合または−OCO−を表す。ただし、−Ph−COO−Ph−構造は耐光性が低くなりやすいので、除く。
【0071】
、A、A、A、A、A、AおよびAは、それぞれ独立して、単結合、トランス−1,4−シクロヘキシレン基または1,4−フェニレン基を表す。ただし、A、AおよびAのうち1つは、トランス−2,6−デカヒドロナフタレン基であってもよく、A、A、AおよびAの組み合わせおよびA、A、AおよびAの組み合わせは、それぞれ独立して単結合は2個以下であり、且つ、少なくとも1つはトランス−1,4−シクロヘキシレン基であり、且つ、1,4−フェニレン基が3個連続していることはなく、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基、ナフタレン−ジイル基またはトランス−2,6−デカヒドロナフタレン基の水素原子の一部または全部がフッ素原子もしくはメチル基に置換されていてもよい。
【0072】
また、青色レーザ光に対する耐久性を高める点から、メソゲン基中にシクロヘキサン環を有する化合物が好ましく、特に、メソゲン基中に芳香環を含まない化合物とすることが好ましい。たとえば、より具体的な化合物として、単官能の化合物(6)としては、以下のような化合物(6−1)や(6−2)がある。
【0073】
【化17】

【0074】
式(6−1)および式(6−2)において、
10、R13は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基である。
11、R14は、それぞれ独立して単結合または炭素数が1〜12のアルキレン基を表し、アルキレン基の場合には、それぞれ独立して環基と結合する末端にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、また、環基と結合する末端にカルボキシル基(−COO−または−OCO−)を有していてもよく、さらにこのアルキレン基中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
12、R15は、それぞれ独立に、炭素数が1〜12のアルキル基であって、水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
Phは、1,4−フェニレン基であって、水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
Cyは、トランス−1,4−シクロへキシレン基であって、水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
【0075】
また、2官能の化合物(7)も、青色レーザ光に対する耐久性を高める点から、メソゲン基中にシクロヘキサン環を有する化合物が好ましく、特に、メソゲン基中に芳香環を含まない化合物とすることが好ましい。たとえば、以下のような化合物(7−1)などがある。
【0076】
【化18】

【0077】
式(7−1)において、
16、R20は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基である。
17、R18は、それぞれ独立して単結合または炭素数が1〜12のアルキレン基を表し、アルキレン基の場合には、それぞれ独立して環基と結合する末端にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、また、環基と結合する末端にカルボキシル基(−COO−または−OCO−)を有していてもよく、さらにこのアルキレン基中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
Cyは、トランス−1,4−シクロへキシレン基であって、水素原子の一部または全部がフッ素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
【0078】
重合性液晶性組成物における化合物(1)と化合物(1)以外の重合性液晶性化合物の合計量に対する化合物(1)の割合は、5モル%以上とすることが好ましい。さらに、相溶性を考慮すると5モル%〜70モル%が、特には5モル%〜50モル%とすることが好ましく、重合度におけるΔnの低下を抑制する点から20モル%〜50モル%とすることがより好ましい。
【0079】
重合性液晶性組成物は、上記以外の成分(以下、他の成分と記す。)を含んでいてもよい。他の成分としては、重合開始剤、重合禁止剤、カイラル剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤および二色性色素などが挙げられる。
【0080】
本発明では、重合性液晶性組成物は、本発明の効果を損しない範囲内で、重合性化合物(化合物(1)および化合物(1)以外の重合性化合物)以外の化合物、例えば、非重合性液晶性化合物または非重合性非液晶性化合物などを含むことができる。例えば、重合開始剤、重合禁止剤、カイラル剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤または色素などの添加剤の量は重合性液晶性組成物に対して5質量%以下とすることが好ましく、2質量%以下とすることがより好ましい。また、その他の化合物を加える場合には、本発明の効果を損しない範囲内で用いるが、その他の化合物は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0081】
特に、重合性のカイラル材としては、近紫外領域まで選択反射帯域をシフトできる点から高HTPで知られる下記の化合物(8−1)〜(8−4)に示すイソソルビド誘導体もしくはイソマンニド誘導体から成る重合性カイラルドーパント等が好ましい。
【0082】
【化19】

【0083】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
22:炭素数1〜8のアルキル基。
u:2〜8の整数。
【0084】
本発明の光学異方性材料は、前記の重合性液晶性組成物を、この組成物が液晶相を示す状態で、且つ、液晶が配向した状態で重合することにより得られる重合体からなるものとすることができる。
【0085】
重合性液晶性組成物が液晶相を示す状態に保つためには、雰囲気温度をネマティック相−等方相相転移温度(T)以下にすればよい。但し、Tに近い温度では重合性液晶性組成物のΔnが極めて小さくなるので、雰囲気温度の上限は(T−10)以下とすることが好ましい。
【0086】
重合には、光重合または熱重合などが挙げられるが、液晶性を保持したまま硬化させやすい点から、光重合とすることが好ましい。光重合に用いる光は、紫外線または可視光線が好ましい。尚、光重合を行う場合は、光重合開始剤を用いることが好ましく、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類およびチオキサントン類などから適宜選択される光重合開始剤が好ましく用いられる。光重合開始剤は、1種または2種以上を組み合わせて使用できる。光重合開始剤の量は、重合性液晶性組成物の全体量に対して0.01質量%〜5質量%とすることが好ましく、0.01質量%〜2質量%とすることが特に好ましい。
【0087】
光学異方性材料は、上記の重合性液晶性組成物を、表面に配向処理を施した一対の基板間に挟持した状態で重合することにより得られる。以下に、具体例を述べる。
【0088】
まず、透明基板を準備する。透明基板としては、例えば、可視光に対する透過率が高い材料からなる基板を用いることができる。具体的には、アルカリガラス、無アルカリガラスおよび石英ガラスなどの無機ガラスの他に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、および、ポリフッ化ビニルなどのフッ素含有ポリマーなどの透明樹脂からなる基板が挙げられる。剛性が高い点で、無機ガラスからなる基板を用いることが好ましい。透明基板の厚みは、特に限定は無いが、通常は0.2mm〜1.5mmとすることができ、好ましくは0.3mm〜1.1mmである。この透明基板には、必要に応じて、アルカリ溶出防止、接着性向上、反射防止またはハードコートなどを目的とした、無機物または有機物などからなる表面処理層が設けられていてもよい。
【0089】
次に、透明基板の表面に配向処理を施す。例えば、透明基板の上に配向膜を形成し、配向膜に対して配向処理を行う。配向膜は、液晶を配向させる機能を有するものであればよく、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルシンナメートおよびポリスチレンなどの有機材料、または、SiOおよびAlなどの無機材料を用いることができる。配向処理は、具体的には、ラビング法などを用いて行うことができる。例えば、ナイロンやレーヨンなどのラビング布で、配向膜の表面を一方向に擦ることによって、その方向に液晶分子が配向するようにする。また、ラビング法以外にも、SiOの斜め蒸着、イオンビーム法または光配向膜などによって、液晶分子の配向を揃えることもできる。
【0090】
次に、配向膜の上に光学異方性材料を形成する。上記の透明基板(以下、第1の基板と称す。)とは別に、表面に配向膜が形成された第2の基板を新たに準備する。この配向膜については、第1の基板と同様にして形成すればよい。次いで、必要に応じて配向膜が形成された側の第2の基板の表面に離型剤処理を行う。離型剤としては、例えば、フルオロシラン系または含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体などを使用することができる。次に、この第2の基板に第1の基板を重ね合わせて間隔をおいて仮接着する。このとき、第2の基板の配向膜が形成された面または離型剤処理された面と、第1の基板の配向膜が形成された面とが互いに内側を向くようにする。また、外部から重合性液晶性組成物を充填可能な開口部を設けておく。
【0091】
次いで、この開口部を通じて、基板間に重合性液晶性組成物を注入する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。重合性液晶性組成物を注入した後は、所定の波長の光を照射して重合性液晶性組成物を重合させる。必要に応じて、光照射の後でさらに加熱処理を行ってもよい。その後、必要に応じて仮接着していた第2の基板を取り除くことによって、第1の基板の上に、配向膜と光学異方性材料とが形成された構造または第1の基板と第2の基板との間に夫々の配向膜に挟まれた光学異方性材料が形成された構造を得ることができる。本実施の形態では、重合性液晶性組成物は、第1の基板の表面と略平行な方向に配向し、光学異方性材料は、この配向が固定された状態で得られる。
【0092】
また、光学異方性材料の形成は、例えば、次のようにして行うこともできる。
まず、配向膜が形成された第1の基板と、配向膜が形成された上に必要に応じて離型剤処理された第2の基板とを準備する。次いで、第1の基板に形成された配向膜の上に、光硬化性の重合性液晶性組成物を滴下する。その後、第2の基板を、配向膜が形成された面または離型剤の塗布面が重合性液晶性組成物の側になるようにして、第1の基板と重ね合わせる。次いで、所定の波長の光を照射して重合性液晶性組成物を重合させる。その後、必要に応じて第2の基板を除去すると、上記と同様に、第1の基板の上に、配向膜と光学異方性材料とが形成された構造または第1の基板と第2の基板との間に夫々の配向膜に挟まれた光学異方性材料が形成された構造を得ることができる。
【0093】
本発明の光学異方性材料は、光学素子用の材料として用いることができる。上記の説明では、説明を簡単にするため配向膜にしか触れなかったが、光学特性制御の目的で電極を設けたり、反射型素子として使用する目的で反射膜を設けたりすることにより、光学素子とすることができる。さらに、目的に応じて、基板の表面に、フレネルレンズ構成、回折格子用の格子、色調調整用の着色層または迷光抑制用の低反射層などを設けることが可能である。
【0094】
本発明の光学素子は、2個の光学素子が組み合わされていてもよい。また、光学素子に他の光学素子、例えば、レンズ、波面補正面、位相差板、絞りまたは回折格子等を組み合わせて用いてもよい。光学素子を2個組み合わせる場合には、それぞれ2枚の基板を用いた光学素子を形成してから重ねてもよいし、3枚の基板の中に2層の液晶層を形成するようにしてもよい。
【0095】
本発明の光学異方性材料を用いて、偏光ホログラムなどの回折格子、位相差板および波面補正素子などの光学素子を作製することができる。偏光ホログラムとしては、レーザ光源からの出射光が光ディスクの情報記録面で反射されて発生する信号光を分離し、受光素子へと導光する例が挙げられる。位相差板としては、1/2波長板や、1/4波長板がある。さらに、本発明の光学異方性材料は、プロジェクタ用の位相差板や偏光子などにも適用可能である。
【0096】
例えば、本発明の光学異方性材料を含む第1の材料からなる第1の部材と、等方性の屈折率を有する第2の材料からなる第2の部材とが、交互に配置されて格子状を形成している回折格子とすることができる。光学異方性を有する第1の部材と等方性の第2の部材とを交互に配置することにより、これらを透過する光は、入射光の偏光方向により異なる回折を生じ、偏光依存性の回折格子となる。
【0097】
本発明の光学異方性材料を備えた光学素子は、光記録媒体に情報を記録する、および/または、光記録媒体に記録された情報を再生する光情報記録再生装置に用いるのに適している。具体的には、本発明による光学素子は、光情報記録再生装置のレーザ光の光路中に好ましく配置される。特に、最近実用化が始まったBDのような青色レーザ光を用いた光情報記録再生装置用の光ヘッド装置に好適である。また、これ以外にも、例えば、プロジェクタ用途などにおけるイメージング素子や、波長可変フィルタ用途などにおける通信用デバイスなどでも好ましく用いられる。
【0098】
例えば、上記の回折格子を備えた光情報記録再生装置では、光記録媒体から反射された光は、回折格子によって回折される。尚、この光情報記録再生装置は、回折格子の他に、回折格子に入射する光を発生させる光源、光源から出射された光を光記録媒体に集光する対物レンズ、光記録媒体で反射された光を検出する検出器などを有することができる。
【0099】
また、光情報記録再生装置は、本発明の光学異方性材料を用いて作製された位相差板を有することもできる。この場合の位相差板は、光源からの光を透過した後、光ディスクで反射された光の偏光状態を変える役割を果たす。例えば、位相差板を1/4波長板とした場合、光ディスクで反射した光の偏光状態は、この位相差板によって、直線偏光であれば円偏光に、円偏光であれば直線偏光に偏光面が変えられる。また、1/4波長板に代えて1/2波長板とした場合には、P偏光であればS偏光に、S偏光であればP偏光に、円偏光(右旋)であれば円偏光(左旋)に、円偏光(左旋)であれば円偏光(右旋)に変えられる。
【0100】
図1に、本発明による位相差板が搭載された光情報記録再生装置の一例を示す。この光情報記録再生装置では、次のようにして、光ディスクに記録された情報が読み出される。
【0101】
光源1から出射された直線偏光は、ビームスプリッタ2、コリメータレンズ3、位相差板4および対物レンズ5を透過した後に、光ディスク6の情報記録面に到達する。この間に、直線偏光は、偏向方向を変えずにビームスプリッタ2を透過した後、1/4波長の位相差を有する位相差板4で円偏光に変換される。その後、光ディスク6の情報記録面で反射されて逆回りの円偏光となり、往路とは逆に、対物レンズ5、位相差板4およびコリメータレンズ3の順で復路を辿ることになる。ここで、復路における位相差板4で、円偏光は、入射前と直交する直線偏光に変換される。これにより、復路の光は、直線偏光の方向が往路の光に対して90度ずれるので、ビームスプリッタ2を通過する際に進行方向が90度曲げられて光検出器7に到達する。
【0102】
光源1には、通常の光情報記録再生装置に使用される通常のレーザ光源が使用される。
具体的には、半導体レーザが好適であるが、他のレーザであってもよい。位相差板4は、青色レーザに対する耐光性が良好であるので、青色レーザを光源として使用することにより、光情報記録再生装置の大容量化を図ることができる。
【0103】
尚、図1のビームスプリッタ2に本発明の光学異方性材料を適用してもよい。具体的には偏光依存性の回折格子として配置する。これにより、往路の偏光方向の光に対しては透過率を高めることができ、それとは直交する偏光方向を有する復路の偏光方向の光に対しては回折効率を高めることができるので、光情報記録再生装置全体の光の利用効率をさらに向上させることができる。
【0104】
以下では、本発明の化合物の合成と、得られた化合物を用いた重合性液晶性組成物の調整と、この重合性液晶性組成物を重合して得られた光学異方性材料を用いた光学素子の作製と、得られた光学素子の評価結果とについて、具体例を挙げて述べる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明化合物の合成例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明に係る化合物の合成はこれらの例によって限定されない。
【0106】
[合成例1]化合物(2−2−1−1)(化合物(2−2)で、P=6、R21=C)の合成例:
撹拌機、滴下装置を装備した3Lの4つ口フラスコに化合物(4−1)(45.6g、0.4mol)を加え、脱水テトラヒドロフラン(1000mL)で溶解させ、ドライアイス−アセトンの系で反応容器を−78℃に冷やしながら撹拌した。充分にフラスコ内の溶液が冷えた後、1.8mol/Lのリチウムジイソプロピルアミド(LDA)800mLを溶液温度が−70℃を超えないようにゆっくり滴下した。滴下終了後もマイナス70℃以下を保持し、3時間撹拌した。次にプロピオンアルデヒド(23.2g、0.4molを−78℃でゆっくり滴下した。滴下終了後、少しずつ温度を上げ、室温で一晩撹拌した。一晩撹拌した後、塩化アンモニウム水溶液で反応を停止させ、水およびジエチルエーテルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し蒸留により精製を行うことで化合物(4−2)を55g得た。収率は80%だった。
【0107】
【化20】

【0108】
撹拌機、滴下装置を装備した3Lの4つ口フラスコに化合物(4−2)(50g、0.29mol)、五酸化ニリン(164g、0.58mol)を加え、ヘキサン(500mL)で溶解させ、室温で24時間撹拌した。反応終了後、減圧ろ過により五酸化二リンを除去し、溶液を濃縮して化合物(4−3)を含む混合物を得た。これ以上の精製はせず、次の反応に進んだ。
【0109】
【化21】

【0110】
500mLの4つ口フラスコに、化合物(4−3)、テトラヒドロフラン(500mL)、10%パラジウム−活性炭素(5.0g)を添加した。0.4MPaの圧力で水素を導入しながら、室温で24時間撹拌した。反応終了後、濾過することによって触媒を除去した。濾液を濃縮し、得られた濃縮液を蒸留することによって化合物(4−4)を24g得た。収率は52%だった。
【0111】
【化22】

【0112】
撹拌機、滴下装置を装備した3Lの4つ口フラスコに化合物(4−4)(24.0g、0.15mol)を加え、脱水テトラヒドロフラン(1000mL)で溶解させ、ドライアイス−アセトンの系で反応容器を−78℃に冷やしながら撹拌した。充分にフラスコ内の溶液が冷えた後、1.6mol/Lのブチルリチウム(BuLi)96mLを溶液温度が−70℃を超えないようにゆっくり滴下した。滴下終了後も−70℃以下を保持し、3時間撹拌した。次に、ほう酸トリイソプロピル(28.7g、0.15mol)を−78℃でゆっくり滴下した。滴下終了後、少しずつ温度を上げ、室温で一晩撹拌した。一晩撹拌した後、10%塩酸水溶液で反応を停止させ、水およびジエチルエーテルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(4−5)を27g得た。収率は88%だった。
【0113】
【化23】

【0114】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した2Lの4つ口フラスコに化合物(4−6)(200g、1.05mol)を加え、これに2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(2000mL)を加えた。これに、硫酸ジメチル(265g、2.1mol)を、窒素気流下で反応容器の温度が60℃を超えないように注意しながら1時間を要して滴下を行った。滴下終了後、30分を要して反応容器中の温度を70℃にまで上げてから、12時間撹拌、還流した。反応終了後、水およびジエチルエーテルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。この粉末結晶にテトラヒドロフランとヘキサンの混合溶媒(容積混合比1:9)を加えて再結晶を行い、化合物(4−7)(188.8g)を得た。収率は88%であった。
【0115】
【化24】

【0116】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した3Lの4つ口フラスコに、マグネシウム(8.82g、0.37mol)ヨウ素(0.1g)を加え、化合物(4−8)(76.8g、0.37mol)を脱水テトラヒドロフラン(500mL)に溶解させたものを、窒素気流下にて先ず2,3滴下し、ドライヤーで過熱した。反応が開始してヨウ素の着色が無色に変化した後、残りの溶液を30分要して滴下した。この際反応温度が高くならないように、ゆっくりと滴下する。滴下終了後、室温で3時間撹拌し、グリニヤール試薬を調製した。次に、この4つ口フラスコを0℃に冷却し、化合物(4−7)(50g、0.25mol)を脱水テトラヒドロフラン(500mL)に溶解させたものを、窒素気流下にて30分を要して滴下した。滴下終了後、70℃で3時間撹拌、還流した後、1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させた。
【0117】
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(4−9)を含む混合物を得た。この段階ではこれ以上の精製を行わず、次の合成ステップに進んだ。
【0118】
【化25】

【0119】
還流装置、撹拌機を装備した500mLのナス型フラスコに先ほどの化合物(4−9)を含む混合物にパラトルエンスルホン酸一水和物(2.8g、0.016mol)、トルエン(200mL)を加え、これに、モレキュラーシーブ4Aの入った等圧滴下漏斗をつけ、110℃で4時間撹拌、還流した。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液をジクロロメタン/ヘキサンを展開液としてグラジエントをかけて(溶媒の混合比率を徐々に変えながら)カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、化合物(4−10)(42.8g)を得た。収率は51%であった。
【0120】
【化26】

【0121】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した1000mLの4つ口フラスコに化合物(4−10)(38g、0.12mol)、化合物(4−5)(24g、0.12mol)、ALDRICH社製(1,3−Diisopropylimidazol−2−ylidnen)(3−chloropyridyl)palladium(II) dichloride (略称PEPPSI)(0.85g、0.001mol)、炭酸カリウム(34.3g、0.24mol)を加えた。これに、1,4―ジオキサン(500mL)を窒素気流下で加え、撹拌しながら65℃で18時間還流した。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。
【0122】
この濾液をジクロロメタン/ヘキサンを展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行った後、目的物を含む画分を濃縮することにより粉末結晶を得た。この粉末結晶にジクロロメタンとヘキサンとの混合溶媒(容積混合比1:4)を加えて再結晶を行い、化合物(4−11)(31.4g)を得た。収率は60%であった。
【0123】
【化27】

【0124】
500mLの4つ口フラスコに、化合物(4−11)(30.0g、0.068mol)、テトラヒドロフラン(300mL)、10%パラジウム−活性炭素(3.0g)を添加した。0.4MPaの圧力で水素を導入しながら、室温で24時間撹拌した。反応終了後、濾過することによって触媒を除去した。濾液を濃縮することによって式(4−12)で表される化合物のシス−トランス混合物を得た。なお、このシス−トランス混合物は、式(4−12)で表される化合物中に含まれるシクロヘキシレン環がトランスの位置で結合した化合物とシスの位置で結合した化合物との混合物である。以下、2個のシクロヘキシレン環がトランスの位置で結合した化合物をトランス体、シスの位置で結合した化合物をシス体、と記載する。
この異性体混合物にヘキサンを加えて再結晶を行い、化合物(4−12)で表される化合物のトランス体(7.95g)を得た。収率は30%だった。
【0125】
【化28】

【0126】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに化合物(4−12)(7.00g、0.016mol)、ジクロロメタン(100mL)を加えた。窒素気流下にて、三臭化ホウ素(7.88g、0.03mol)を30分かけて滴下した。滴下操作は、内温が10℃を超えないように氷冷しながら0℃で行った。室温で3時間撹拌を続けた後、反応容器を氷冷し、0℃で水を加えて反応を停止した。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。
濾液をジクロロメタンとヘキサンとの混合溶媒(容積混合比1:4)を用いて再結晶を行い、化合物(4−13)(6.1g)を得た。収率は90%であった。
【0127】
【化29】

【0128】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに化合物(4−13)(3.0g、0.0071mol)、CH=CH−COO−(CH)−Br(6.64g、0.028mol)、炭酸カリウム(3.89g、0.028mol)、ヨウ化カリウム(0.5mol)、アセトン(50mL)を加え、60℃で、24時間撹拌、還流した。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。この濾液をジクロロメタン/ヘキサンを展開液としてグラジエントをかけてカラムクロマトグラフィーにより精製を行った後、目的物を含む画分を濃縮することにより粉末結晶を得た。この粉末結晶にジクロロメタンとヘキサンとの混合溶媒(容積混合比1:9)を加えて再結晶を行い、化合物(2−2−1−1)(化合物(2−2)で、P=6、R21=Cの化合物)を4.2g得た。収率は72%であった。
【0129】
化合物(2−2−1−1−)のHNMRスペクトルを以下に示す。
HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):0.99(t、3H)、1.65〜2.03(m、18H)、2.67〜2.69(m、4H)、3.86(t、2H)、4.17(t、2H)、5.82(dd、1H)、6.13(dd、1H)、6.40(dd、1H)、6.85〜7.24(m、9H)。
【0130】
【化30】

【0131】
[合成例2]化合物(3−13−1−1)(化合物(3−13)で、P=0、R21=C)の合成例:
撹拌機、滴下装置を装備した2Lの4つ口フラスコに化合物(4−4)(24.0g、0.15mol)を加え、脱水テトラヒドロフラン(1000mL)で溶解させ、ドライアイス−アセトンの系で反応容器を−78℃に冷やしながら撹拌した。充分にフラスコ内の溶液が冷えた後、1.6mol/Lのブチルリチウム(BuLi)96mLを溶液温度が−70℃を超えないようにゆっくり滴下した。滴下終了後も−70℃以下を保持し、3時間撹拌した。次に化合物(4−7)(28.7g、0.15mol)を−78℃でゆっくり滴下した。滴下終了後、少しずつ温度を上げ、室温で一晩撹拌した。一晩撹拌した後、10%塩酸水溶液で反応を停止させ、水およびジエチルエーテルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(5−1)を19g得た。収率は61%だった。
【0132】
【化31】

【0133】
還流装置、撹拌機を装備した500mLのナス型フラスコに先ほどの化合物(5−1)を含む混合物にパラトルエンスルホン酸一水和物(2.59g、0.015mol)、トルエン(300mL)を加え、これに、モレキュラーシーブ4Aの入った等圧滴下漏斗をつけ、110℃で4時間撹拌、還流した。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液をジクロロメタン/ヘキサン)を展開液としてグラジエントをかけてカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、化合物(5−2)(46.8g)を得た。収率は56%であった。
【0134】
【化32】

【0135】
500mLの4つ口フラスコに、化合物(5−2)(30.0g、0.088mol)、テトラヒドロフラン(300mL)、10%パラジウム−活性炭素(3.0g)を添加した。0.4MPaの圧力で水素を導入しながら、室温で24時間撹拌した。反応終了後、濾過することによって触媒を除去した。濾液を濃縮することによって上記式(5−3)で表される化合物のシス−トランス混合物を得た。なお、このシス−トランス混合物は、式(5−3)で表される化合物中に含まれるシクロヘキシレン環がトランスの位置で結合した化合物とシスの位置で結合した化合物との混合物である。以下、シクロヘキシレン環が置換基にトランスの位置で結合した化合物をトランス体、シスの位置で結合した化合物をシス体、と記載する。
この異性体混合物にヘキサンを加えて再結晶を行い、式(5−3)で表される化合物のトランス体(9.6g)を得た。収率は32%だった。
【0136】
【化33】

【0137】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに化合物(5−3)(7.00g、0.020mol)、ジクロロメタン(200mL)を加えた。窒素気流下にて、三臭化ホウ素(10.0g、0.04mol)を30分かけて滴下した。滴下操作は、内温が10℃を超えないように氷冷しながら0℃で行った。室温で3時間撹拌を続けた後、反応容器を氷冷し、0℃で水を加えて反応を停止した。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。濾液をジクロロメタンとヘキサンとの混合溶媒(容積混合比1:4)を用いて再結晶を行い、化合物(5−4)(6.04g)を得た。収率は90%であった。
【0138】
【化34】

【0139】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した200mLの4つ口フラスコに化合物(5−4)(5.00g、0.015mol)、ジクロロメタン(75mL)を加えた。窒素気流下にて、アクリル酸クロリド(1.36g、0.015mol)を30分かけて0℃で滴下した。室温で24時間撹拌を続けた後、水を加えて反応を停止させた。反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。
得られた濾液を(ジクロロメタン/ヘキサン)を展開液としてグラジエントをかけてカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物を含む画分を濃縮することにより粉末結晶を得た。この粉末結晶にジクロロメタンとヘキサンとの混合溶媒(容積混合比1:9)を加えて再結晶を行い化合物(3−13−1−1)(化合物(3−13)で、P=0、R21=Cの化合物)(4.4g)を得た。収率は75%であった。
【0140】
化合物(3−13−1−1)のHNMRスペクトルを以下に示す。
HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):0.95(t、3H)、1.62〜2.01(m、10H)、2.61〜2.93(m、4H)、6.03(dd、1H)、6.32(dd、1H)、6.6(dd、1H)、6.89〜7.26(m、6H)。
【0141】
【化35】

【0142】
[融点の測定]
合成した化合物(2−2−1−1)と化合物(3−13−1−1)の結晶を2枚のプレパラートにはさむことによってセルを形成し、セルを5℃/分の速度にて昇温した。セルの昇温中、顕微鏡でセルを観察し、各化合物の結晶の融解が観察され始めた温度を化合物の融点とした。
比較として下記構造式の比較化合物1〜5も同様の手法により融点を測定した。
結果を表1に示す。
【0143】
【化36】

【0144】
【表1】

【0145】
本発明の化合物はフッ素基で修飾することにより、修飾しない場合と比較して大幅な融点の低下を誘起している。特に化合物(2−2−1−1)は4環骨格にも関わらず、100℃以下の融点であり、比較化合物1と比べて約30℃も低下しており、フッ素を三つ含む比較化合物4と比べても18℃低下している。融点の低下は液晶の扱いを容易にするため、本発明の化合物は光学材料としてメリットがあるといえる。
【0146】
[液晶組成物の調製1と光学素子の作製1]
本発明の化合物(2−2−1−1)と化合物(3−13−1−1)を、55:45(mol比)の割合で混合した後、光重合開始剤を混合物に対し0.5重量部添加して、重合性液晶性組成物J1を得た。尚、光重合開始剤には、チバスペシャリティーケミカルズ社製の「イルガキュアー754」(商品名)を用いた。
【0147】
縦5cm、横5cm、厚さ0.5mmのガラス板に、ポリイミド溶液をスピンコータで塗布して乾燥した後、ナイロンクロスで一定方向にラビング処理して配向膜を形成した。次いで、配向処理を施した面が向かい合うようにして、2枚のガラス基板を接着剤を用いて貼り合わせ、セルを作製した。このとき、接着剤に直径6μmのガラスビーズを添加し、ガラス基板の間隔が6μmになるように作製した。
【0148】
次に、セル内に重合性液晶性組成物J1を105℃の温度で注入した。その後、35℃において、強度135mW/cmの紫外線を積算光量が24300mJ/cmとなるよう照射して光重合を行った。得られたセルを離型し、セキノテクノトロン社製の「METRICONモデル2010プリズムカプラ」(商品名)を用いて、波長404nm、632.8nmおよび791nmにおける屈折率を測定した。
比較のために、比較化合物を以下の割合で調製した液晶組成物S1〜S4も同様の手法により作製した。組成物のモル比率は表2に、測定した屈折率の値は表3に示す。
【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
本発明から成り立つ液晶組成物J1は、比較例の液晶組成物に対してΔnの低下が少ないにも関わらず、平均屈折率は下がっている。回折格子等に用いる等方性材料に求められる負荷も低減するため、材料としての有用性が高いといえる。
【0152】
[液晶組成物の調製2と光学素子の作成2]
表2に示した液晶組成化物J1、S1、S3、S4に、下記に示す重合性カイラル化合物(8−1−1)(化合物(8−1)で、u=4、R22=C15の化合物)、架橋性化合物1を添加し、コレステリック液晶組成物ChJ1、ChS1、ChS3、ChS4を作製した。作製条件、添加濃度は表4に示す。なお、架橋性化合物1は、液晶組成化物J1、S1、S3、S4への添加量をmol%で示し(両者合計して100mol%)、この両者を合せた組成物を100wt%としたときに、外割りで重合性カイラル化合物(8−1−1)を表4に表記のwt%で添加してコレステリック液晶組成物とした。
【0153】
【化37】

【0154】
縦5cm、横5cm、厚さ0.5mmのガラス基板にポリイミド溶液をスピンコータで塗布して乾燥した後、ナイロンクロスで一定方向にラビング処理して支持体を作製した。
配向処理を施した面が向かい合うように、2枚の支持体を接着剤を用いて貼り合わせてセルを作製した。接着剤には、直径15μmのガラスビーズを添加し、支持体の間隔が15μmになるように調整した。
【0155】
つぎに、前記セル内に、調製した液晶組成物ChJ1を90℃で注入した。40℃において、強度130mW/cmの紫外線を3分照射して光重合を行って光学素子ChJ1を得た。光学素子ChJ1は基板のラビング方向に水平配向していた。液晶組成化物S1〜S4も同様に光学素子Ch1〜ChS4を作成し評価を行った。ChS2は実施はしていない。
【0156】
【表4】

【0157】
コレステリック液晶の旋光角は液晶の複屈折率に依存するパラメーターだが、本発明の化合物はベース液晶の複屈折性を十分に旋光角に反映させ、ChS1にくらべて36%も旋光角の向上が見られる。また、コレステリック液晶は近紫外波長帯域では散乱の傾向が強く、特にカイラル材の巻きと同一方向の円偏光ではその傾向がより一層強くなるが、本発明の化合物からなる液晶組成化物はそのような問題もない。これは透過型素子としては大きなメリットであり、同時にコレステリック選択反射の矩形がシャープになり、旋光能の波長依存性も低減される。
【0158】
光学素子ChJ1についてKrレーザ(波長407nm、413nmのマルチモード)を照射し、青色レーザ光曝露加速試験を行った。照射条件は、温度80℃、積算曝露エネルギー10W・hour/mmとした。加速試験後に曝露部位の収差を測定したところ、当該部位の収差の最大値と最小値の差は10mλ未満であった(λは測定光の波長405nmに相当する)。以上より、光学素子ChJ1は青色レーザ光に対する耐久性に優れることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の化合物は、青色レーザ光に用いる光学異方性材料および光学素子、それに使用する重合性液晶組成物に用いる材料として好適なものである。さらに、この光学素子は、光ディスクの再生および/または記録に用いる光情報記録再生装置に好適なものである。
【符号の説明】
【0160】
1 光源
2 ビームスプリッタ
3 コリメータレンズ
4 位相差板
5 対物レンズ
6 光学ディスク
7 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される化合物であって
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
:炭素数1〜8のアルキル基またはフッ素原子であり、アルキル基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
k:0または1。
L:−(CH)O−または−(CH)−(ただし、pおよびqはそれぞれ独立に2〜8の整数。)であり、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
m:0または1
:1,4−フェニレン基であり、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
、E:それぞれ独立に1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基であり、かつEおよびEの少なくとも一方はトランス−1,4−シクロヘキシレン基であり、1,4−フェニレン基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つはフッ素原子に置換されており、該基中の炭素原子に結合した残りの水素原子はメチル基に置換されていてもよく、トランス−1,4−シクロヘキシレン基の場合には、該基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
:1,4−フェニレン基であり、該基中の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つはフッ素原子に置換されており、該基中の炭素原子に結合した残りの水素原子はメチル基に置換されていてもよい。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物において、E、EおよびEの内の全ての1,4−フェニレン基に該当する環の2位および3位の位置の少なくとも一つの水素原子がフッ素原子に置換されている請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物において、m=1の場合、E〜Eの内の1,4−フェニレン基の炭素原子に結合した水素原子の内、合計2以上6以下の水素原子はフッ素原子で置換されており、m=0の場合はE〜Eの内の1,4−フェニレン基の炭素原子に結合した水素原子の内、合計1以上4以下の水素原子はフッ素原子で置換されている請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの前記式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする重合性液晶組成物。
【請求項5】
重合性カイラルドーパントを1〜50質量%含む請求項4に記載の重合性コレステリック液晶組成物。
【請求項6】
請求項4または5に記載の重合性液晶組成物を、液晶相を示す状態で、かつ液晶が配向した状態で重合して得られる重合体からなることを特徴とする光学異方性材料。
【請求項7】
請求項4または5に記載の重合性液晶組成物を、一対の支持体間に挟持し、重合性液晶組成物が液晶相を示す状態で、かつ液晶が配向した状態で重合して得られる重合体を有することを特徴とする光学素子。
【請求項8】
光記録媒体に情報を記録する、および/または、光記録媒体に記録された情報を再生する光情報記録再生装置であって、請求項7に記載の光学素子を有することを特徴とする光情報記録再生装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280629(P2010−280629A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136357(P2009−136357)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】