説明

化合物のスクリーニング方法、並びに、スクリーニング用キット

【課題】膜タンパク質等の疎水性標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物を容易にスクリーニングするための一連の技術を提供する。
【解決手段】疎水性の標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物をスクリーニングする方法であって、下記工程:(1)前記標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質を、複数種の化合物を含む化合物ライブラリーに接触させ、所望の化合物を前記融合タンパク質の標的タンパク質部分に結合させる工程、(2)融合タンパク質と化合物との結合体を、化合物ライブラリーから分離する工程、(3)融合タンパク質に結合した化合物を同定する工程、を包含することを特徴とする化合物のスクリーニング方法が提供される。スクリーニングを簡便に行うためのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化合物のスクリーニング方法、並びに、スクリーニング用キットに関し、さらに詳細には、膜タンパク質等の疎水性タンパク質に対して特異的に結合する化合物のスクリーニング方法、並びに、当該スクリーニング方法を簡便に行うためのスクリーニング用キットに関する。本発明は創薬シーズ化合物等のスクリーニングに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
細胞膜上に存在する膜タンパク質には、膜外部の情報を内部へと伝達し、制御する重要な働きをしている膜受容体タンパク質、外部環境変化やリガンドの結合に応答してチャネル部分を開口するチャネルタンパク質、膜間の物質移動をサポートする輸送体、膜近傍でシグナルの伝達を担う膜酵素などがあり、いずれも細胞にとって重要な機能を担っている。膜受容体タンパク質に結合する物質は、情報シグナルを制御するアゴニスト型医薬品やアンタゴニスト型医薬として候補物質となりうる。そのため受容体タンパク質と被検化合物との結合性を解析することは、医薬品開発において極めて重要となっている。細胞膜近辺に存在するタンパク質のうち膜内在性タンパク質は、膜表面にあって親水性の強い膜表在性タンパク質とは異なり、疎水性が強く、生体膜の内部に埋まっているタンパク質が多い。これらの疎水性タンパク質が医薬品開発の有力な標的分子となっている。
【0003】
疎水性標的タンパク質を標的とするリガンドのスクリーニングは、例えば、リガンド候補となる被検化合物と所望の疎水性標的タンパク質との結合性を評価し、特異的に結合したものを選抜することにより行なわれる。結合性の評価方法には、大きく分けて、生きた動物細胞を用いる方法と、細胞膜画分などを用いるインビトロの方法の2種類がある。動物細胞を用いる方法は、CHO細胞やHEK293細胞などの動物細胞に目的とする標的タンパク質遺伝子を導入し、発現させた細胞を用いてアッセイする方法である。一方、細胞膜画分を用いるインビトロの方法としては、一つの例として、標識リガンドを用いる方法がある。例えば、標的タンパク質を膜表面に発現させた昆虫細胞や動物細胞から調製した細胞膜画分を用い、標識リガンドと目的の創薬候補化合物の標的タンパク質に対する結合阻害を指標にスクリーニングする方法がある。しかしながらこれらの方法は、単離された化合物の特性を評価する上では有効な方法であるが、多数の化合物集団(化合物ライブラリー)から目的の創薬候補化合物を選抜する工程においては多大な労力が必要となる。
【0004】
多数の化合物集団から目的の創薬候補化合物を単離していく方法の一つとして、ALIS法(Automated Ligand Identification System)が提案されている(非特許文献1)。この方法は、親水性の高いタンパク質が標的タンパク質である場合に有効な方法である。具体的には、まず、標的タンパク質と数千種類の化合物を含む化合物ライブラリーとを溶液中で接触させる。次いで、所望の化合物が結合した標的タンパク質を、HPLCにて化合物ライブラリーから分離する。分離した標的タンパク質を有機溶媒で処理し、結合していた化合物を標的タンパク質から単離する。最後に、LC/MS/MSで単離した化合物(リガンド)の構造を決定する。
【0005】
しかしながら、ALIS法では、標的タンパク質を10mg/mL以上の高濃度にタンパク質を濃縮して使用する必要がある。そのため、標的タンパク質が水溶性の高いものである場合には有効であるが、膜タンパク質のような疎水性の高いタンパク質に対しては不向きである。また、膜タンパク質等の疎水性タンパク質は遺伝子組換え技術を用いても大量に発現することが困難であるため、大量の標的タンパク質を必要とするALIS法を疎水性タンパク質に適用するためには多大なコストがかかる。さらに、疎水性タンパク質を、その高次構造を維持したまま高濃度で可溶化状態として維持するためには、界面活性剤等による適切な処理が必要となり、多大な試行錯誤が求められる。
【0006】
【非特許文献1】黒木ら,SAR News,日本薬学会,2005年10月1日,第9号,p.2−
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を鑑み、疎水性標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物を容易にスクリーニングするための一連の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、疎水性の標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物をスクリーニングする方法であって、下記工程(1)〜(3):
(1)前記標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質を、複数種の化合物を含む化合物ライブラリーに接触させ、所望の化合物を前記融合タンパク質の標的タンパク質部分に結合させる工程、
(2)融合タンパク質と化合物との結合体を、化合物ライブラリーから分離する工程、
(3)融合タンパク質に結合した化合物を同定する工程、
を包含することを特徴とする化合物のスクリーニング方法である。
【0009】
シャペロニンは分子シャペロンの一種であり、分子量約6万のサブユニット(シャペロニンサブユニット)からなる複合タンパク質である。代表的なシャペロニンは、シャペロニンサブユニット7〜9個からなるリング状構造体2個がリング面を介して非共有結合的に会合した2層構造を有する、総分子量80万〜100万程度のシリンダー状の巨大な複合体を形成している。シャペロニンはその内部に他のタンパク質を格納し、正しく折り畳むことができる。本発明の化合物のスクリーニング方法では、単独分子の標的タンパク質に代わって標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質を用いるので、融合タンパク質中の疎水性標的タンパク質部分がシャペロニンの作用によって正しく折り畳まれた可溶性の状態で存在できる。そのため、従来技術では困難であった疎水性のタンパク質を標的とすることができる。さらに、シャペロニンの作用を利用するので、界面活性剤等を使用する必要がない。またさらに、本発明では、標的タンパク質が基本的にシャペロニンのリング構造内に格納された状態で各工程を行うことになるので、標的タンパク質同士が接近して凝集することが抑えられる。そのため、化合物ライブラリーと標的タンパク質との接触効率が高い。
【0010】
本発明における「標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質」とは、「標的タンパク質とシャペロニンサブユニットとの融合タンパク質」又は「標的タンパク質とシャペロニンサブユニット連結体との融合タンパク質」を指す。ここで、シャペロニンサブユニット連結体(シャペロニン連結体と呼ぶこともある)とは、2以上のシャペロニンサブユニットがペプチド結合を介して直列に連結された人工タンパク質をいう。シャペロニンサブユニット連結体の詳細については、例えば、国際公開第02/052029号パンフレットに記載されている。
【0011】
疎水性タンパク質は、組成アミノ酸残基のうち疎水性のイソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、プロリン、アラニン含量の比較的高いタンパク質である。疎水性タンパク質は一般に水に溶けにくく(難溶性、難水溶性、不溶性)、組換え体内で発現させることが困難である(難発現性)。
【0012】
前記標的タンパク質が膜タンパク質である構成が推奨される(請求項2)。
【0013】
工程(2)において、クロマトグラフィー、分子ふるい法、フィルター分離法、および沈殿法から選ばれた少なくとも1つの手法によって前記結合体を分離する構成が推奨される(請求項3)。工程(3)において、質量分析法によって化合物を同定する構成も推奨される(請求項4)。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記融合タンパク質は、標的タンパク質とシャペロニンサブユニット連結体との融合タンパク質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法である。
【0015】
シャペロニンサブユニット連結体は、必要に応じて単独分子のシャペロニンサブユニットを補充しながら、天然型シャペロニンと同様にリング状構造体を形成することがわかっている(古谷ら,Protein Science, 2005, 14, 341)。シャペロニンサブユニット連結体ではサブユニット同士がペプチド結合で強固に連結されているので、形成されるリング状構造体がより安定である。したがって、シャペロニンサブユニット連結体を採用した本発明によれば、標的タンパク質の折り畳みがより確実に行われる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記シャペロニンは、1層構造を形成するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法である。
【0017】
シャペロニンには1層からなるリング状構造体(シングルリング)を形成するものも知られている。本発明ではシャペロニンとして1層構造を形成するものを用いるので、標的タンパク質と化合物とが接触しやすい。そのため、スクリーニングの効率が向上する。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法に用いるためのキットであって、前記融合タンパク質と、前記化合物ライブラリーとを含むことを特徴とするスクリーニング用キットである。
【0019】
本発明は化合物のスクリーニング用キットに係るものであり、前記融合タンパク質と、前記化合物ライブラリーとを含む。本発明のスクリーニング用キットによれば、本発明の化合物のスクリーニング方法を簡便に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の化合物のスクリーニング方法によれば、膜タンパク質等の疎水性の標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物を、化合物ライブラリーから高効率でスクリーニングすることができる。
【0021】
本発明のスクリーニング用キットによれば、膜タンパク質等の疎水性の標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物を簡便にスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の化合物のスクリーニング方法は、疎水性の標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物をスクリーニングするものであり、以下の3工程を包含する。
(1)前記標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質を、複数種の化合物を含む化合物ライブラリーに接触させ、所望の化合物を前記融合タンパク質の標的タンパク質部分に結合させる工程、
(2)融合タンパク質と化合物との結合体を、化合物ライブラリーから分離する工程、
(3)融合タンパク質に結合した化合物を同定する工程。
【0023】
疎水性の標的タンパク質としては、膜貫通型受容体タンパク質、膜輸送タンパク質ポンプ、チャネルタンパク質、膜結合型酵素などの膜タンパク質が代表的であるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明では、標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質を用いる。ここで一般に、シャペロニンはグループ1型とグループ2型とに大別される。バクテリアや真核生物のオルガネラに存在するシャペロニンはグループ1型に分類され、いずれも分子量60kDaからなるシャペロニンサブユニット7つが環状に連なるリング構造を形成し、さらに2つのリングが2層構造を形成する、14量体のホモオリゴマーを形成する。1型シャペロニンの例としては、大腸菌由来のシャペロニンであるGroELが挙げられる。一方、グループ2型シャペロニンは、真核生物の細胞質や古細菌にみられ、通常8〜9個のシャペロニンサブユニットからなるリングが2層に連なった16〜18量体のホモ、またはヘテロオリゴマーを形成している。本発明で用いる融合タンパク質で採用するシャペロニンは、グループ1型及びグループ2型のいずれでもよい。
【0025】
工程(1)を溶液中で行う場合、溶液中の融合タンパク質の濃度が高いほど、融合タンパク質と化合物との結合体を化合物ライブラリーから容易に分離することができ、さらに、工程(3)の同定も容易となる。一方、疎水性タンパク質は高濃度になると凝集沈殿を形成するおそれがある。本発明では、各工程において疎水性の標的タンパク質がシャペロニンリング内に格納されていると考えられるので、標的タンパク質同士の凝集が抑えられ、高濃度で化合物ライブラリーと接触させることが可能となる。標的タンパク質の分子量は、シャペロニンのリング構造内に格納可能な分子量であることが好ましく、例えば、10万以下、より好ましくは6万以下である。
【0026】
各工程について順次説明する。工程(1)では、融合タンパク質を化合物ライブラリーに接触させる。例えば、複数種の化合物を含む溶液と融合タンパク質を含む溶液とを混合すればよい。化合物ライブラリー中に所望の化合物(リガンド)が含まれている場合には、当該化合物は融合タンパク質中の標的タンパク質部分に結合し、融合タンパク質と化合物との結合体を形成する。
【0027】
化合物ライブラリーを構成する化合物としては、例えば低分子化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えば、ペプチド、タンパク質、核酸のような高分子化合物も本発明におけるスクリーニングの対象とすることができる。
【0028】
工程(2)では、工程(1)で形成した融合タンパク質と化合物との結合体を、化合物ライブラリーから分離する。分離するための手法としては特に限定はなく、例えば、タンパク質の分離精製に通常用いられている手法を採用することができる。好ましい実施形態では、各種クロマトグラフィー、分子ふるい法、フィルター分離法、沈殿法を単独または組み合わせて用いる。クロマトグラフィーの場合には、イオン交換クロマトや疎水クロマトといった通常の方法のほか、ヒスチジンタグ、FLAGタグ、GSTタグといったタグを融合タンパク質に予め結合させておき、これらのタグを利用して分離を行うこともできる。分子ふるいの場合には、例えば、カラム法(ゲルろ過)、電気泳動、チャコールデキストラン法などを用いることができる。フィルター分離法の場合には、例えば、限外ろ過を用いることができる。沈殿法の場合には、例えば、硫安沈殿等の塩析、有機溶媒による分別沈殿、酸沈殿、等電点沈殿などを用いることができる。
【0029】
工程(3)では、融合タンパク質に結合した化合物を同定する。例えば、工程(2)で分離した融合タンパク質と化合物との結合物に除タンパク処理を施し、結合していた化合物を単離する。この化合物を適宜の解析手法で同定する。好ましい実施形態では、質量分析法によって化合物を同定する。特に、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析法(MS)とを組み合わせたLC/MS/MS法によれば、高精度で同定することが可能となる。この場合、化合物ライブラリーを構成する個々の化合物の質量スペクトルが既知であれば、効率的に標的タンパク質に結合した化合物を特定することができる。一方、ペプチドライブラリーや核酸ライブラリーなどから選抜された化合物を同定する場合には、シークエンサーなどを用いた塩基配列の解析や、アミノ酸配列の解析が有効である。
【0030】
好ましい実施形態では、融合タンパクとして、標的タンパク質とシャペロニンサブユニット連結体との融合タンパク質を用いる。すなわち、融合タンパク質中のシャペロニンサブユニットの少なくとも2個がペプチド結合を介して連結されたものを用いる。上記したように、シャペロニンサブユニット連結体においても、必要に応じて単独分子のシャペロニンサブユニットを補充しながら、天然型シャペロニンと同様にリング状構造体を形成することがわかっている。また、シャペロニンサブユニットN回連結体の連結数(N)は、そのシャペロニンの由来によって決定される最適数であることが特に好ましく、グループ1型シャペロニンの場合には7個、グループ2型シャペロニンの場合には8又は9個が好ましい。Nがこれらの最適数であれば、シャペロニンサブユニット連結体のみでリング状構造体を形成することができ、単独分子のシャペロニンサブユニットを補充する必要がない。
【0031】
本発明で用いる融合タンパク質においては、リング構造への自己集合能が維持されている限り、天然型のシャペロニンと同様にアミノ酸変異体等の変異型のシャペロニンも採用することができる。
【0032】
好ましい実施形態では、シャペロニンとして1層構造を形成するものを採用する。例えば、大腸菌由来のシャペロニンGroEL(配列番号7)の場合には、結晶構造解析より赤道ドメインの4つの荷電アミノ酸(R452、E461、S463、V464)がリング間の結合に強く寄与していていることが分かっている。そこで、452番目のアミノ酸残基(アルギニン)をグルタミン酸に、461(グルタミン酸)、463(セリン)、464番目(バリン)のアミノ酸残基をアラニンに置換することにより、リング間相互作用が軽減し、シングルリングを構成することが分かっている(Weissman et al., Cell, 1995, 83, 577-587)。また、真核生物のミトコンドリア由来のシャペロニン60は、通常、シングルリングとして精製されるため、特別の遺伝子操作なしで得ることができる(Viitanen et al., J. Biol. Chem., 1992, 267, 695-698)。シャペロニンリングを1層化することにより、シャペロニンリング内に格納されている疎水性タンパク質へのリガンドのアクセス性が向上し、効率よく目的とする化合物を回収することができる。
【0033】
本発明で用いられる融合タンパク質は、シャペロニン連結体をコードする遺伝子と疎水性標的タンパク質をコードする遺伝子とを連結させた融合遺伝子を発現させることにより製造することができる。例えば、該融合遺伝子を発現ベクターに組み込み、該組換えベクターを適宜の宿主に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体内で融合遺伝子を発現させればよい。このときに用いる宿主としては特に限定はないが、培養コストが安価であり、培養日数が短く、培養操作が簡便な点からバクテリア等の微生物が好ましく、特に、大腸菌が取り扱いの容易さの面でより好ましい。
【0034】
上記した融合タンパク質と化合物ライブラリーとを組み合わせて、化合物のスクリーニング用キットを構築することができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、リガンド、各種緩衝液等を含めてもよい。以下に、キットの構成例を挙げる。なお、融合タンパク質としては、例えば、「ヒトエンドセリン受容体(hETAR)とGroEL7回連結体との融合タンパク質」(後述の実施例参照)を採用することができる。
【0035】
〔キットの構成例〕
・融合タンパク質(凍結乾燥品):適量
・低分子化合物ライブラリー:適量
・BQ123(hETARのアンタゴニスト):適量
・希釈用緩衝液:適量
【0036】
以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(1)大腸菌由来シャペロニンGroELの7回連結体と融合するための発現ベクター構築
大腸菌K12株のゲノムDNAを鋳型とし、CPN−F1(配列番号1)とCPN−R1(配列番号2)をプライマー対としてPCRを行い、GroEL遺伝子を含むDNA断片(配列番号3)を増幅した。このDNA断片の5’末端と3’末端には、それぞれプライマーに由来するSpeIサイトとXbaIサイトが導入された。このDNA断片7個を直列に連結し、GroEL7回連結体遺伝子((GroEL)7遺伝子)を作製した。pTrc99A発現ベクター(アマシャムファルマシア社)のNcoI/HindIIIサイトに、(GroEL)7遺伝子と他の必要な配列を導入し、発現ベクターpTrc(GV)7TC2Hを構築した(図1)。図1中、「P」はtrcプロモーター、「groEL」はGroELサブユニット遺伝子、「(GroEL)7」は(GroEL)7遺伝子、「PS」はペプチドリンカーをコードする配列(ペプチドリンカーサイト)、「CS」はクローニングサイト、「Ek」はエンテロキナーゼ翻訳サイト、「His」はヒスチジンタグをコードする配列(Hisペプチドサイト)、「T」はターミネーターを示す。すなわち、pTrc(GV)7TC2Hは、trcプロモーターの下流に(GroEL)7遺伝子、ペプチドリンカーサイト(トロンビン切断認識部位をコードする配列を有する)、クローニングサイト、エンテロキナーゼ翻訳サイト、Hisペプチドサイト、終止コドン、及びターミネーターが配置された構成を有している。そして、pTrc(GV)7TC2Hのクローニングサイトに疎水性標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入することにより、GroEL7回連結体と疎水性標的タンパク質との融合タンパク質を発現させることができる。
【0038】
(2)エンドセリンA受容体遺伝子の調製
ヒトエンドセリンA受容体(ヒトETAR)を疎水性標的タンパク質として採用し、ヒトETARのN末端側に変異型GroELサブユニット7回連結体が連結された融合タンパク質を、以下の手順で調製した。
【0039】
ヒトETAR遺伝子のcDNAクローンを、OriGene社より入手した(アクセッションナンバー NM_001957、配列番号4)。このcDNAクローンを鋳型とし、hETaR-F1(配列番号5)とhETaR-R1(配列番号6)で表されるプライマーをプライマー対としてPCRを行い、ヒトETAR遺伝子を含むDNA断片を増幅した。この増幅DNA断片の両端にはプライマーに由来するBglIIサイト(5’末端)とXhoIサイト(3’末端)が導入された。この増幅DNA断片を、あらかじめBglII及びXhoIで消化したpTrc(GV)7TC2Hベクターに導入し、pTrc(GV)7TC2H−ETARベクターを作製した。
【0040】
(3)融合タンパク質の製造
上記(2)で構築した融合タンパク質発現ベクターを、大腸菌BL21(DE3) pRARE株に導入し、形質転換体を得た。2リットル容の三角フラスコに700mLの2×YT培地(16g/L 酵母エキス、20g/L バクトトリプトン、6g/L 塩化ナトリウム、100μg/mL アンピシリン、pH7.5)を仕込み、形質転換体を2〜3白金耳接種した。25℃で40時間、110rpmで回転培養した後、遠心分離(5000rpm、10分)にて菌体を回収した。得られた菌体を1%プロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク社)及び10mMイミダゾールを含むPBS(pH7.4)20mLに懸濁し、−80℃にて凍結保存した。
【0041】
凍結した菌体懸濁液を融解して、超音波破砕後、超遠心分離に供し、その上清画分を回収した。さらに上清をニッケルキレートカラム(5mL)にロードし、500mMイミダゾール/PBSによる直線グラジエントにより融合タンパク質を溶出後、融合タンパク質を含む画分を濃縮した。さらに、融合タンパク質を含む画分に10% 硫酸アンモニウムを加え、10% 硫酸アンモニウム/10mM リン酸ナトリウム緩衝液であらかじめ平衡化したHiTrap Butyl FFカラム 5mL(GEヘルスケア社)に供した。10mM リン酸ナトリウム緩衝液で溶出し、融合タンパク質を含む画分を回収した。この画分を、さらに、50mM HEPES-Tris(pH7.4)緩衝液であらかじめ平衡化したTSKgel G4000SWXLを用いたゲル濾過に供し、目的の融合タンパク質を精製した。得られた融合タンパク質の純度は、約95%であった。
【0042】
(4)化合物ライブラリーからのヒット化合物のスクリーニング
約100種類の低分子化合物を各400μMとなるようジメチルスルホキシドに溶解した。さらに、エンドセリンA受容体のアンタゴニストであるBQ123(モデルヒット化合物)を400μMとなるように添加・混合し、化合物ライブラリーとした。この化合物ライブラリーを100mM Tris-HCl(pH7.4)で20倍希釈した。この希釈液10μLと、上記(3)で調製したエンドセリンA受容体を含む融合タンパク質溶液10μLとを混和し、37℃で3時間インキュベートした。
【0043】
インキュベート後、反応液を上記(3)と同様のTSKgel G4000SWXLを用いたゲル濾過に供し、目的の融合タンパク質画分を回収した。これにより、融合タンパク質と化合物との結合体を化合物ライブラリーより分離できた。回収した画分にTCAを添加してタンパク質を沈殿させ、上清画分(化合物のみを含む)を回収した。この上清画分に対してC18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーと質量分析とを組み合わせて行い(LC/MS/MS)、質量スペクトルを得た。コントロール実験として、融合タンパク質の代わりに標的タンパク質を含まないシャペロニン連結体のみを用いて同様の操作を行い、質量スペクトルを得た。これらの差スペクトル比較により、回収された低分子化合物はBQ123と同定された。
以上より、疎水性標的タンパク質であるエンドセリンA受容体に特異的に結合する化合物を効率的にスクリーニングできることが示された。
【0044】
表1に本実施例で用いた各プライマーの塩基配列と制限酵素サイトを示した。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】pTrc(GV)7TC2Hの主要部の構成を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の標的タンパク質に対して特異的に結合する化合物をスクリーニングする方法であって、下記工程(1)〜(3):
(1)前記標的タンパク質とシャペロニンとの融合タンパク質を、複数種の化合物を含む化合物ライブラリーに接触させ、所望の化合物を前記融合タンパク質の標的タンパク質部分に結合させる工程、
(2)融合タンパク質と化合物との結合体を、化合物ライブラリーから分離する工程、
(3)融合タンパク質に結合した化合物を同定する工程、
を包含することを特徴とする化合物のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記標的タンパク質は、膜タンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の化合物のスクリーニング方法。
【請求項3】
工程(2)において、クロマトグラフィー、分子ふるい法、フィルター分離法、および沈殿法から選ばれた少なくとも1つの手法によって前記結合体を分離することを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物のスクリーニング方法。
【請求項4】
工程(3)において、質量分析法によって化合物を同定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記融合タンパク質は、標的タンパク質とシャペロニンサブユニット連結体との融合タンパク質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記シャペロニンは、1層構造を形成するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物のスクリーニング方法に用いるためのキットであって、前記融合タンパク質と、前記化合物ライブラリーとを含むことを特徴とするスクリーニング用キット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−71744(P2010−71744A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238019(P2008−238019)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】