化合物の細胞内導入用キャリア剤およびそれを用いた化合物の細胞内導入方法
【課題】 特殊な機器を必要とせず、安価に、簡便且つ安全に、効率よく且つ低毒性で細胞内に低分子核酸をはじめとする比較的低分子量の化合物を導入することができる細胞内導入方法、およびそのための化合物キャリア剤の提供。
【解決手段】 下記式(I):
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)で表される化合物を含有してなる、化合物の細胞内導入用キャリア剤、該キャリア剤と導入すべき化合物(好ましくはsiRNAなどの低分子核酸)との複合体、該複合体と細胞を接触させることを含む化合物の細胞内導入方法。
【解決手段】 下記式(I):
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)で表される化合物を含有してなる、化合物の細胞内導入用キャリア剤、該キャリア剤と導入すべき化合物(好ましくはsiRNAなどの低分子核酸)との複合体、該複合体と細胞を接触させることを含む化合物の細胞内導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド等の低分子核酸などの比較的低分子量の化合物を効率よく細胞内に導入するのに適した、陽イオン性脂質を成分とするキャリア剤、並びに該キャリア剤を用いた目的化合物の細胞内導入方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌、脳神経疾患、AIDS、遺伝子疾患等の様々な疾病の解明が精力的に行われ、多くの原因遺伝子および関連遺伝子が明らかにされてきている。それに伴って、疾病に関与する遺伝子を標的とした遺伝子治療法が大きな期待を集めている。遺伝子治療法は、欠損した遺伝情報を補うことを目的とするものと、疾病の原因遺伝子、例えば、癌細胞の増殖に不可欠な遺伝子の発現抑制を目的とするものとに大別することができるが、後者においては、標的遺伝子のmRNAに相補的な低分子核酸(例:オリゴDNA・RNA、修飾オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)等)を投与し、標的遺伝子の発現を特異的に抑制するアンチセンス法が考案されている。特にshort interfering RNA(siRNA)に代表されるRNA干渉(RNAi)技術は、2002年のBreakthrough of the Year(Science誌)の第1位に選ばれるなど、バイオ医薬研究を革新的に進歩させ、創薬開発のスピードを大きく加速させている。
このようにRNAiを中核とするアンチセンス技術が、基礎研究や新薬開発に大いに活用されるようになったことから、培養細胞(in vitro, ex vivo)および生体内組織(in vivo)への低分子核酸導入効率を高める技術、即ち、より高頻度の細胞内導入を達成し得るキャリア剤の開発が望まれている。
【0003】
従来の低分子核酸の細胞内導入方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン試薬等を用いた方法や、リポフェクチン(商標名)やリポフェクトアミン(商標名)、リポフェクトアミン2000(商標名)等の陽イオン性リポソームを用いた方法があるが、多くの場合その導入効率は低く、また細胞毒性が認められる。一方、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、遺伝子銃(パーティクルガン)法等は、導入効率が比較的高い反面、高価な機器を購入しなくてはならない点や、操作に熟練を要する等の問題から、大量の細胞を処理するのには適さない。さらに、アデノウイルスなどのウイルスを利用する方法では、ウイルス感受性細胞の調製などの操作性、研究者へのウイルス感染などの問題点が存在する。
本発明者らは既に、操作が簡単で、細胞毒性がなく、且つ効率よく細胞内へ遺伝子を導入し得る方法として、両親媒性分子を生体膜温度に近い相転移温度で2分子膜形成させることにより得られる合成2分子膜を用いる方法を開発しているが、当該方法は、主として約2kb以上の高分子核酸(例えば、欠損遺伝子を相補するための遺伝子導入の場合における)を効率よく細胞内に導入することに適しており、siRNA、アンチセンスオリゴDNAなどの低分子核酸、あるいは蛋白質、生理活性ペプチドや化学療法剤などの、同等もしくはそれ以下の分子量を有する他の化合物の細胞内導入については、更なる効率の改善が求められていた。
【特許文献1】特公平7−20429号公報全文
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、特殊な機器を必要とせず、安価に、簡便且つ安全に、効率よく且つ低毒性で細胞内に低分子核酸をはじめとする、比較的低分子量の化合物を導入することができる細胞内導入方法、およびそのための化合物キャリア剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、公知の陽イオン性両親媒性物質である下記式(I):
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)、または下記式(II):
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、pは14〜18の整数を示す)で表される化合物をキャリアとして用いると、意外にも、従来公知の各種陽イオン性脂質キャリアと比較して、低分子核酸などの比較的低分子量の化合物の細胞への導入効率が高く且つ細胞毒性が低いことを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)下記式(I):
【0011】
【化3】
【0012】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)
で表される化合物を含有してなる、分子量約200万以下の化合物の細胞内導入用キャリア剤;
(2)nが2〜4の整数である上記(1)記載の剤;
(3)nが2である上記(1)記載の剤;
(4)式(I)で表される化合物がハロゲンとの塩の形態である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の剤;
(5)化合物の分子量が約70万以下である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の剤;
(6)化合物が負に荷電している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の剤;
(7)化合物が核酸である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の剤;
(8)化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の剤;
(9)化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の剤;
(10)化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の剤;
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の剤と分子量約200万以下の化合物との複合体;
(12)化合物の分子量が約70万以下である、上記(11)記載の複合体;
(13)化合物が負に荷電している、上記(11)または(12)記載の複合体;
(14)化合物が核酸である、上記(11)〜(13)のいずれかに記載の複合体;
(15)化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、上記(11)〜(14)のいずれかに記載の複合体;
(16)化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、上記(11)〜(15)のいずれかに記載の複合体;
(17)化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、上記(11)〜(16)のいずれかに記載の複合体;
(18)上記(11)〜(17)のいずれかに記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、化合物の該細胞内への導入方法;
(19)細胞が動物または植物細胞である上記(18)記載の方法;
(20)細胞が哺乳動物細胞である上記(18)記載の方法;および
(21)上記(11)〜(17)のいずれかに記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象の生体内で化合物を細胞内へ導入する方法;
を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、
(22)下記式(II):
【0014】
【化4】
【0015】
(式中、pは14〜18の整数を示す)
で表される化合物を含有してなる、分子量約200万以下の化合物の細胞内導入用キャリア剤;
(23)pが14〜16の整数である上記(22)記載の剤;
(24)上記(22)または(23)記載の剤と分子量約200万以下の化合物との複合体;
(25)上記(24)記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、化合物の該細胞内への導入方法;
(26)上記(24)記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象の生体内で化合物を細胞内へ導入する方法;
(27)式(I)または(II)で表される化合物が水性溶媒中で組織化された集合体の形態で提供される、上記(1)〜(10)または上記(22)もしくは(23)記載の剤;
(28)水性溶媒が加熱処理し得るものである、上記(27)記載の剤;および
(29)水性溶媒が、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを含有する溶液である、上記(28)記載の剤;
を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明における陽イオン性脂質キャリアは、従来の核酸導入試薬に用いられる陽イオン性脂質に比較して、siRNAなどの低分子核酸をはじめとする比較的低分子量の化合物を非常に高い効率で細胞内に導入することができ、かつ細胞毒性が低いという有利な効果を奏する。また、該陽イオン性脂質分子は、従来の核酸導入用試薬における陽イオン性脂質よりも比較的安価に合成することができる。さらに、該陽イオン脂質分子は熱安定性に優れているので、室温以上での取扱いが可能であり、操作性および輸送コスト等の面でも有利である。また、酸化や紫外線等による化学的変性を受けにくく品質が安定している点でも、化合物の細胞内導入用キャリアとして有利である。さらに、該陽イオン性脂質分子は、一般的に用いられている培養液などのような加熱処理に不適な溶液だけでなく、NaCl溶液等の加熱処理可能な溶液中でも好ましい分子集合体を形成し得るので、RNase、DNase、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等の酵素のように、導入しようとする化合物の安定性を損なう夾雑物の除去(不活性化)、あるいは、特に生体内での細胞内導入に際して問題となる、対象の細菌やウイルスへの感染を防止するための滅菌・ウイルス不活化処理を施した後に細胞内導入用キャリア剤を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における化合物の細胞内導入用キャリア剤(以下、「本発明のキャリア剤」と略称する場合がある)は、主成分[即ち、化合物の担体(キャリア)]として、下記式(I):
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)
で表される陽イオン性脂質分子を含有する。
本発明のキャリア剤により細胞内に導入される化合物は、分子量約200万以下の化合物であれば、特に制限はない。
遺伝子導入に用いられる陽イオン性脂質分子は、一般に、化合物(好ましくは負に荷電した化合物)と相互作用(好ましくは静電的相互作用)して安定な複合体を形成することにより、該化合物の分解(例えば、ヌクレア-ゼやペプチダーゼによる)を抑え、且つ負に荷電した細胞表面への送達を容易にするが、本発明に用いられる上記陽イオン性脂質分子は、特に低分子核酸などの比較的低分子量の化合物の細胞への導入効率に優れ、しかも細胞毒性が低いという利点を有する。
【0020】
本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質分子は、同一分子内に親水部と疎水部とを有する両親媒性の合成分子である。本明細書においては、上記陽イオン性脂質分子の疎水部の2つのアルキル鎖の炭素数が12個、親水部のアシル基の炭素数がn個であり、疎水部と親水部を繋ぐ部分は、mが1の場合はアスパラギン酸骨格、mが2の場合はグルタミン酸骨格を有することから、以下、mが1の場合は12Aspnまたは12An(nは2〜6の整数)と、mが2の場合は12Glunまたは12Gn(nは2〜6の整数)と、それぞれ略記することもある。
好ましくは、本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質は、式(I)においてnが2〜4の整数である化合物(即ち、12A2〜12A4または12G2〜12G4)であり、特に好ましくはnが2の整数である化合物、即ち、12A2または12G2である。
【0021】
特に、本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質分子において、mが2である化合物は水溶性に優れ、取り扱いが容易である。
【0022】
式(I)で表される化合物は、例えば、ハロゲンとの塩の形態で本発明のキャリア剤中に配合され得る。好ましくは塩化物塩または臭化物塩として提供される。
【0023】
式(I)で表される化合物は、自体公知のいかなる方法によっても製造することができ、例えば、「Journal of the American Chemical Society, vol.102, p6642(1980)」、「Bulletin of the Chemical Society of Japan, vol.64, p3677(1991)」および「Biochemistry and Molecular Biology International, vol.34, p915(1994)」に開示される方法により合成することができるが、それらに限定されない。
【0024】
本発明のキャリア剤は、上記陽イオン性脂質分子のいずれか1種を単独で含有してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて含有してもよい。あるいはまた、該キャリア剤は、化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲であれば、上記陽イオン性脂質分子以外の両親媒性分子(例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン等の生体膜由来のリン脂質など)、界面活性剤(CHAPS、コール酸ナトリウム、オクチルグルコシド、N−D−グルコ−N−メチルアルカンアミド類など)、ポリエチレングリコール、糖脂質、ペプチド脂質、蛋白質などをさらに含有してもよい。
【0025】
本発明のキャリア剤は、上記陽イオン性脂質分子の1種もしくは2種以上、あるいはさらに他の両親媒性分子を適当な分散媒、例えば、水性溶媒中に分散させ、必要に応じて組織化を誘導する操作を行って、分子集合体を形成させた状態で調製することができる。ここで「組織化」とは、陽イオン性脂質を含む両親媒性分子同士が疎水結合等の非共有結合を介して集合することにより、集合体を形成することをいう。また、「組織化を誘導する操作」としては、例えば、超音波処理、加熱、ボルテックス、エーテル注入法、フレンチ・プレス法、コール酸法、Ca2+融合法、凍結−融解法、逆相蒸発法等などの自体公知の各種方法が挙げられるが[これらの各方法についての詳細は、例えば、野島、砂本、井上編「リポソーム」(南江堂,1988年発行)の“第2章 リポソームの調製”(砂本、岩本著)等に記載されている]、それらに限定されない。また、一定条件下では、上記陽イオン性脂質を含む両親媒性分子同士が、上記のような人為的に組織化を誘導する操作を行うことなく、水性溶媒中で自律的に集合して集合体を形成(自己組織化)することもできる。
組織化により形成される集合体としては、両親媒性分子の疎水部同士が疎水結合し形成される二重膜、リポソーム、多重ベシクル、ひも状会合体、ディスク状会合体、ラメラ状会合体、ロッド状会合体等及びこれらの混合物が含まれる。自己組織化により得られる集合体は、通常、上記の各種形態の混合物であるが、上記のような組織化を誘導する操作を一定条件下で行うことにより、単一の形態を有する集合体を形成することも可能である。
【0026】
好ましい一実施態様においては、本発明のキャリア剤の調製に用いられる上記陽イオン性脂質分子は固体であり、より好ましくは粉体である。該陽イオン性脂質分子を分散させる分散媒は、特に限定されないが、例えば、水(脱イオン水等)、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、当業者が通常の細胞培養で用いる培地(例えばRPMI1640、DMEM、HAM F−12、イーグル培地等)等の水性溶媒が挙げられる。当該水性溶媒は血清等の蛋白質成分を含有しないことが好ましいが、ポリリジン処理などで蛋白質成分を予め除去することにより、陽イオン性脂質を含む両親媒性分子の組織化またはその後の細胞内導入される化合物と陽イオン性脂質分子集合体との複合体形成の阻害を防ぐこともできる。また、細胞内導入される化合物がRNAやDNAなどの核酸、オリゴペプチドや蛋白質などのペプチド性化合物である場合などは、RNaseやDNaseなどの核酸分解酵素、ペプチダーゼやプロテアーゼなどの蛋白質(ペプチド)分解酵素の混入により導入化合物の安定性が低下するので、水性溶媒は、陽イオン脂質分子を分散させる前にそれら酵素を失活させるために、加熱処理を施されることが好ましい。加熱処理としては、例えば、約50〜約100℃で約5分〜約3時間行うことができるが、それに限定されない。従って、水性溶媒は当該加熱処理が可能なものであることが好ましい。従来、核酸の細胞内導入に用いられている各種培養液ではRNaseなどの酵素除去が不可能な場合が多いが、本発明における陽イオン性脂質分子は、例えば、NaCl、塩化カリウムなどの化合物を含有する水溶液中に分散させた場合にも、その後の細胞内導入操作において高い導入効率を示す。従って、核酸やペプチド性化合物などの化合物を細胞内に導入する場合には、水性溶媒として、上記の化合物を含有する水溶液等が好ましく例示される。
水性溶媒のpHは特に限定されないが、pH4〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくはpH7〜8の範囲である。
【0027】
好ましい実施態様として、(1)超音波処理、(2)加熱処理による陽イオン性リポソームの調製について以下により具体的に説明する。
(1)超音波処理法
まず上記陽イオン性脂質分子(例えば、12G2、12A2等)を有機溶媒(例えば、クロロホルム等)に溶解し、ナス型フラスコ等の容器に入れ、ロータリーエバポレーターなどを用いて溶媒を減圧除去して、容器壁面に脂質薄膜を形成させる。これに水性溶媒(例えば、リン酸緩衝液(pH7.0)等)を加えて振とう膨潤させ、例えばボルテックスミキサーなどを用いて薄膜を剥離させることにより、多重層リポソームの懸濁液が得られる。ここで膨潤操作は、陽イオン性脂質の相転移温度(Tc;例えば、12G2のTcは4℃、12A2のTcは6.7℃である)以上の温度で行うことが好ましい。尚、分解した脂質等を除去するために、セファデックス2B、4BまたはG−50カラムなどを用いてゲル濾過を行うこともできる。
【0028】
上記のようにして得られる多重層リポソームの懸濁液に、超音波処理装置(プローブ型、浴槽型など)を用いて、氷浴もしくは水浴上、陽イオン性脂質のTc以上の温度で、高い出力(例えば、約100〜約200W)の超音波を、約1〜約2分間照射(例えば、1分間照射、30秒間インターバルのサイクルを約2〜4回繰り返すなど)することにより、ほぼ均一な単層リポソームを調製することができる。
【0029】
本発明の陽イオン性脂質分子においては、その粉末を適当量チューブに取り、MiliQ水などを加えて(最終濃度が約20mMとなるように)、上記と同様の超音波処理を行うだけでも、容易に陽イオン性リポソームを調製することができる。
【0030】
(2)加熱処理法
上記陽イオン性脂質分子(例えば、12G2、12A2等)の粉末を適当量チューブに取り、MiliQ水などを加えて(最終濃度が約20mMとなるように)、約90℃で約15分間加熱することにより、陽イオン性リポソームを調製することができる。
【0031】
得られるキャリア剤中の上記陽イオン性脂質分子の濃度は、用いる陽イオン性両親媒性分子の種類等を考慮し適宜設定できるが、通常1〜200mM、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mM、更に好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの範囲である。
濃度が低すぎると充分量の陽イオン性両親媒性分子集合体が形成されず、濃度が高すぎると陽イオン性両親媒性分子が析出することがある。
【0032】
本発明のキャリア剤は、化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲で、化合物のキャリアとなる分子集合体を形成する両親媒性分子以外に適当な添加剤を含んでいてもよい。本発明のキャリア剤を、化合物を生体内の細胞に導入する目的で使用する場合には、該添加剤は医薬上許容されるものであることが必要である。例えば、従来公知のリポソーム製剤に配合される各種医薬添加物を用いることができる。
【0033】
以上のようにして得られうる、上記陽イオン性脂質分子を含んでなる本発明のキャリア剤は、化合物を低毒性で効率よく細胞内に導入するための薬剤として有用である。本発明のキャリア剤により細胞内へ導入され得る化合物は、分子量が約200万以下であれば特に制限されず、例えば、核酸、ペプチド、脂質、糖、脂質、糖、生理活性物質、薬物(Doxorubicin(抗腫瘍薬)、Daunorubicin(抗腫瘍薬)、Vincristine(抗腫瘍薬)、Vinblastine(抗腫瘍薬)、Idarubicin(抗腫瘍薬)、Dibucaine(局所麻酔薬)、Propranolol(β遮断薬)、Quinidine(不整脈治療薬)、Dopamine(強心・昇圧薬)、Imipramine(抗うつ薬)、Diphenhydramine(抗ヒスタミン薬)、Quinine(抗マラリア薬)、Chloroquine(抗マラリア薬)、Diclofenac(抗炎症薬)等)、化粧品等用の保湿剤(マンニトール等)、その他の合成もしくは天然化合物等その他の合成もしくは天然化合物等が挙げられるが、好ましくは分子量約100万以下、より好ましくは約70万以下の化合物である。
【0034】
また、本発明のキャリア剤は、上記陽イオン性脂質分子を主成分とするので、該陽イオン性脂質分子の集合体と安定な複合体を形成するためには、化合物は負に荷電していることが好ましい。したがって、本発明のキャリア剤により細胞内に導入され得る化合物としては、ポリアニオンである核酸やペプチドが好ましく例示される。
【0035】
本発明のキャリア剤により細胞内に導入され得る特に好ましい化合物は核酸である。核酸としては、分子量が約200万以下であれば特に制限はなく、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1〜3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。
【0036】
好ましくは、該低分子核酸(二本鎖の場合)のサイズは約3000bp以下、より好ましくは約1〜約2000bp、さらに好ましくは約1〜約1000bp、特に好ましくは約5〜約1000bpである。
【0037】
核酸は天然に存在するもの又は合成されたもののいずれでもよいが、100bp程度以下の大きさのものであれば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられる核酸自動合成装置を利用して合成することが可能である。
本発明において用いられる核酸は、特に限定されないが、当業者が通常用いる方法により精製されていることが好ましい。
【0038】
本発明のキャリア剤を生体内の細胞へ化合物を導入するために用いる態様としては、例えば、疾患の予防および/または治療(以下、「予防・治療」と略記する)を目的とした、いわゆる遺伝子治療をはじめとする予防・治療用化合物の生体内(in vivo)投与における使用が挙げられる。従って、本発明の好ましい一実施態様においては、本発明のキャリア剤により細胞内へ導入される化合物は、ある所定の疾患に対して予防・治療活性を有するものである。そのような化合物としては、例えば、核酸、ペプチド、脂質、糖、生理活性物質、薬物、その他の天然または合成の化合物が挙げられる。
【0039】
遺伝子治療は、前記のように、欠損した遺伝情報を補うことを目的とするものと、疾病の原因遺伝子の発現制御を目的とするものとに大別することができるが、前者においては、導入される核酸には、欠損した蛋白質をコードする塩基配列の他、導入細胞内で機能し得るプロモーター配列、さらに必要に応じてポリアデニレーションシグナル、選択マーカー遺伝子、複製基点(ori)等の塩基配列が含まれるので、本発明のキャリア剤による核酸の細胞内導入(遺伝子治療)は、実質的に後者の疾病原因遺伝子の発現制御を目的としたものとなる。従って、本発明のキャリア剤により細胞内へ導入される化合物は、好ましくは、標的遺伝子(疾病の原因遺伝子)の発現を制御し得るものである。
【0040】
標的遺伝子の発現を制御し得る化合物が低分子核酸である場合、該低分子核酸としては、例えば、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、デコイオリゴヌクレオチド(例えば、転写因子もしくは転写抑制因子が認識して結合し得る塩基配列を含むオリゴヌクレオチド)等が挙げられる。
【0041】
標的遺伝子の発現を制御し得る化合物がペプチドまたは蛋白質である場合、該ペプチド/蛋白質は、例えば、標的遺伝子に結合して該遺伝子の転写を制御するか、あるいは標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物に結合して蛋白質への翻訳を制御するペプチド/蛋白質、あるいは標的遺伝子の発現を制御する受容体からのシグナルを増強し得るペプチド性リガンド、もしくは該シグナルを遮断し得るアンタゴニスト様ペプチド/蛋白質などが挙げられる。
【0042】
あるいは、疾患予防・治療活性を有する化合物は、疾病の原因蛋白質の活性を制御し得るものであってもよい。そのような例としては、標的である受容体蛋白質のリガンドであるペプチド/蛋白質や非ペプチド性化合物(例えば、脂肪酸、ステロイドホルモンなど)、アゴニストまたはアンタゴニスト活性を有する種々の天然もしくは合成化合物、キナーゼのリン酸化部位の部分アミノ酸配列をミミックしたペプチドなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0043】
本発明はまた、本発明のキャリア剤と細胞内に導入されるべき化合物、好ましくは、本明細書において既に言及したような化合物との複合体を提供する。
上記陽イオン性脂質分子を含む両親媒性分子集合体を化合物の細胞内への導入に用いるためには、当該分子集合体と導入化合物とを接触させることにより、当該分子集合体と導入化合物との複合体(以下単に「複合体」と称する場合がある)を形成させる。複合体は、当該複合体が安定に存在し、例えば、ヌクレア−ゼやペプチダーゼなどによる導入化合物(核酸、ペプチドなど)の分解を抑制し得る限り、いかなる相互作用によって形成されてもよい。当該分子集合体は陽イオン性であるので、好ましい一態様においては、該複合体は、陰イオン性の(即ち、負に荷電した)化合物(核酸、ペプチドなど)との間で、静電的相互作用による非共有結合を介して形成されるが、正に荷電した化合物や中性荷電の化合物であっても、他の相互作用を介して、あるいは負に荷電した化合物と予め結合させることにより、複合体を形成することができる。
上記陽イオン性脂質分子を含む両親媒性分子集合体と導入化合物との複合体は、当該集合体を含む水性溶媒と導入化合物とを混合し、インキュベーションすることにより得られる。当該水性溶媒の種類は、上述と同様である。
また、当該インキュベーション時の温度は、上記陽イオン性両親媒性分子集合体の調製方法における温度と同様の範囲で設定されることが好ましい。
【0044】
当該混合液中の上記陽イオン性脂質の濃度は、用いられる陽イオン性脂質分子の種類等を考慮して適宜設定できるが、通常1〜200mM、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mM、更に好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの範囲である。
濃度が低すぎると充分量の安定な複合体が形成されず、濃度が高すぎると陽イオン性両親媒性分子集合体が析出することがある。
混合物中の導入化合物の濃度は、用いる化合物の種類、サイズ(分子量)等を考慮し適宜設定できるが、該化合物が核酸である場合は、通常約0.01〜約100ng/μL、好ましくは約0.1〜約25ng/μL、より好ましくは約0.5〜約10ng/μL、更に好ましくは約0.5〜約5ng/μL、最も好ましくは約0.5〜約2ng/μLの範囲である。
特に核酸がsiRNAのように約20〜約200bpの非常に小さいものである場合、該核酸の濃度は、通常1〜500nM、好ましくは20〜400nM、より好ましくは20〜300nM、更に好ましくは20〜200nM、最も好ましくは20〜100nMの範囲である。
【0045】
当該集合体を含む水性溶媒と導入化合物とを混合した後のインキュベーションの時間は、用いる試薬の種類等の条件を考慮し適宜設定することが可能であるが、通常0.5〜100分間、好ましくは0.5〜60分間、より好ましくは0.5〜30分間、更に好ましくは0.5〜15分間、最も好ましくは1〜5分間の範囲である。
インキュベーション時間が短すぎると、導入化合物と陽イオン性両親媒性分子集合体との複合体形成が不十分となり、インキュベーション時間が長すぎると、形成された複合体が不安定化する場合があり、いずれも導入化合物の導入効率が低下する。
上記工程によって、導入化合物の細胞内への導入に用いる陽イオン性両親媒性分子集合体と該化合物との複合体を含む混合液(以下「複合体含有溶液」と記載することがある)を得ることができる。
【0046】
更に、上記工程で得られた複合体と細胞とを接触させることで、複合体に含まれる導入化合物を細胞内へ導入することができる。
上記「細胞」の種類は、特に限定されず、原核生物及び真核生物の細胞を用いることができるが、好ましくは真核生物である。真核生物の種類も、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの非脊椎動物、植物、酵母等の微生物等が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。
当該細胞は、癌細胞を含む培養細胞株であっても、個体や組織より単離された細胞、あるいは組織もしくは組織片の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても、非接着細胞であってもよい。
【0047】
複合体と細胞とを接触させる工程をより具体的に説明すると、例えば次の通りである。
即ち、細胞は当該複合体との接触の数日前に適当な培地に懸濁され、適切な条件で培養される。当該複合体との接触時において、細胞は増殖期にあってもよいし、そうでなくてもよい。
【0048】
当該接触時の培養液は、血清含培地であっても血清不含培地であってもよいが、培地中の血清濃度は20%以下、好ましくは10%以下であることが好ましい。培地中に過剰な血清等の蛋白質が含まれていると、複合体と細胞との接触が阻害される可能性があるからである。
【0049】
当該接触時の細胞密度は、特に限定されず、細胞の種類等を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常0.5×105〜5×105細胞/mL、好ましくは0.5×105〜4×105細胞/mL、より好ましくは0.5×105〜3×105細胞/mL、更に好ましくは1×105〜3×105細胞/mL、最も好ましくは1×105〜2×105細胞/mLの範囲である。
【0050】
このように調製された細胞を含む培地に、上述の複合体含有溶液を添加する。複合体含有溶液の添加量は、特に限定されず、細胞数等を考慮して適宜設定することが可能であるが、培地1mLにつき、通常1〜1000μL、好ましくは1〜500μL、より好ましくは1〜300μL、更に好ましくは1〜200μL、最も好ましくは1〜100μLの範囲である。
【0051】
培地に複合体含有溶液を添加後、細胞を培養する、培養時の温度、湿度、CO2濃度等は、細胞の種類を考慮して適宜設定する。哺乳動物の細胞の場合は、通常約37℃、湿度約95%、CO2濃度は約5%である。
また、培養時間も用いる細胞の種類等の条件を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常0〜72時間、好ましくは1〜48時間、より好ましくは1〜36時間、更に好ましくは1〜24時間、最も好ましくは1〜16時間の範囲である。
上記培養時間が短すぎると、導入化合物が十分細胞内へ導入されず、培養時間が長すぎると、細胞が弱ることがある。
【0052】
上記培養により、低分子化合物が細胞内へ導入されるが、好ましくは培地を新鮮な培地と交換するか、培地に新鮮な培地を添加して更に培養を続ける。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、新鮮な培地は血清又は栄養因子を含むことが好ましい。
更なる培養の時間は、導入された低分子化合物に期待される機能等を考慮して、適宜設定することが可能であるが、該低分子化合物がsiRNAなどの標的遺伝子の発現を制御し得る低分子核酸である場合には、通常0〜72時間、好ましくは1〜48時間、より好ましくは1〜36時間、更に好ましくは1〜24時間、最も好ましくは1〜16時間の範囲である。
【0053】
また、上記の通り、陽イオン性脂質を含む両親媒性分子集合体と低分子化合物との複合体を用いることで、試験管内(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても該化合物を細胞内へ導入することが可能である。即ち、該複合体を対象に投与することにより、該複合体が標的細胞へ到達・接触し、生体内で該複合体に含まれる低分子化合物が細胞内へ導入される。
該複合体を投与可能な対象としては、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの無脊椎動物、植物等を挙げることが出来る。好ましくは、該複合体の投与対象としては、ヒトまたは他の哺乳動物が挙げられる。
【0054】
また、該複合体の投与方法は、標的細胞へ該複合体が到達・接触し、該複合体に含まれる導入化合物を細胞内へ導入可能な範囲で特に限定されず、導入化合物の種類や、ターゲット細胞の種類や部位等を考慮して、自体公知の投与方法(経口投与、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与等)等)を適宜選択することができる。
該複合体の投与量は、低分子化合物の細胞内への導入を達成可能な範囲で特に限定されず、投与対象の種類、投与方法、導入化合物の種類、ターゲット細胞の種類や部位等を考慮して適宜選択することができるが、経口投与の場合、一般的に例えばヒト(60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.001mg〜10000mgである。非経口的に投与する場合(例えば静脈内投与等)は、一般的に例えばヒト(60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.0001mg〜3000mgである。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0055】
本発明のキャリア剤は、化合物を細胞内へ導入するためのキットとして提供することもできる。当該キットは、本発明のキャリア剤を用いた化合物の細胞内導入方法において用いられ得るあらゆる試薬等(例えば、上記水性溶媒、調製プロトコールが記載された指示書、反応容器等)を更に含むことが出来る。該キットを用いることにより、上述の方法に従い、容易に所望の化合物を細胞内へ導入することが可能である。
【0056】
本発明のキャリア剤に用いることのできる別の陽イオン性脂質分子として、下記式(II):
【0057】
【化6】
【0058】
(式中、pは14〜18の整数を示す)で表される化合物が挙げられる。本明細書においては、上記陽イオン性脂質分子の疎水部の2つのアルキル鎖の炭素数がp個であることから、以下、Cpと略記することもある。
好ましくは、本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質は、式(II)においてpが14〜18の整数である化合物(即ち、C14〜C18)であり、特に好ましくはpが14〜16の整数である化合物、即ち、C14〜C16である。
【0059】
式(II)で表される化合物は、例えば、ハロゲンとの塩の形態で本発明のキャリア剤中に配合され得る。好ましくは塩化物塩または臭化物塩として提供される。
【0060】
式(II)で表される化合物は、自体公知のいかなる方法によっても製造することができ、例えば、「Journal of the American Chemical Society, vol.102, p6642(1980)」および「Biochemistry and Molecular Biology International, vol.34, p915(1994)」に開示される方法により合成することができるが、それらに限定されない。
【0061】
式(II)で表される化合物を本発明のキャリア剤として調製する方法、得られたキャリア剤を用いて細胞内へ導入される化合物と複合体を形成させる方法、得られた複合体を細胞内へ導入する方法等、並びにそれらの方法に用いられる各種材料等は、式(I)で表される化合物について上記したと同様のものを、それぞれ用いることができる。
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0063】
siRNAのCHO細胞内導入に適した陽イオン性脂質キャリアの検討
CHO-EGFP細胞(蛍光タンパク質Enhanced Green Fluorescent Protein(EGFP)を恒常的に発現するCHO細胞;CHO細胞(入手先:理化学研究所)に、常法によりEGFP遺伝子発現ベクターをトランスフェクトして作製した)1-2 x 105 細胞/ウェルを24ウェルプレート中で16時間前培養(10% FBS含有DMEM培養液中)した後、導入時に、0.5 mlの無血清培養液に交換した。
100 pMのEGFP siRNA(入手先:NIPPON GENE)を25 μlの無血清培地に混合し、1.3 mMの各種陽イオン性脂質[12G2、12G4、12G6、12G11、14G2、14G4および14G6、12A2、14A2および16A2、C14、C16およびC18、TMA(化7)、PC14(化8)、8AzC10(化9)または12GN3(Biochemistry and Molecular Biology International, vol.34, p915(1994),Figure 1参照)]各5 μlを上記のsiRNA溶液に混合して5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。これを上記CHO-EGFP細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で4時間インキュベートした後、血清を含む培地に交換した。翌日、細胞を観察し、フローサイトメトリーにより蛍光を測定した。結果を図1および図2に示す。EGFP発現はControl(siRNA非導入細胞)における蛍光強度を100%とした相対強度で示してある。12G2、12G4および12G6(図1)、あるいは12A2、C14、C16およびC18(図2)をキャリアとして用いた場合に、EGFP発現は顕著に抑制され、siRNAが高頻度で細胞内に導入されていることが分かった。特に12G2および12A2で高い細胞導入効率を示した。
【0064】
【化7】
【0065】
【化8】
【0066】
【化9】
【実施例2】
【0067】
12G2および12A2と市販の核酸導入試薬との比較検討
実施例1と同様にして、12G2および12A2と、市販の各種リポフェクション試薬[Lipofectin、Lipofectamine、Lipofectamine2000、Oligofectamine(以上、Invitrogen)、DoTAP(Biontex)、FuGENE6(Roche)、CLONfectin(Clontech)、JetSI(PolyPlus-transfection)、TransIT-TKO(Mirus)、siFECT(IC-VEC)、siFECTOR(B-Bridge International Inc.)]とのsiRNA導入効率を比較した。結果を図3に示す。12G2および12A2は、JetSI、TransIT-TKOおよびsiFECTに匹敵する高いsiRNA細胞導入効率を示した。
【実施例3】
【0068】
12G2および12A2を用いたヒト培養細胞へのsiRNA導入
ヒト正常肝細胞(HC細胞)またはヒト子宮癌細胞(HeLa細胞)各1-2 x 105 細胞/ウェルを24ウェルプレート中、16時間前培養(10% FBS含有FD培地(HC細胞)、10% FBS含有DMEM培地(HeLa細胞))した後、導入時に、0.5 mlの無血清培養液に交換した。
100 pMのCy-3蛍光標識siRNA(入手先:B-Bridge)を25 μlの無血清培地に混合し、1.3 mM 12Glu2または12Asp2(5 μl)を上記のsiRNA溶液に混合して5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。これを上記HC細胞またはHeLa細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で4時間インキュベートした後、血清を含む培地に交換した。翌日、蛍光顕微鏡および位相差顕微鏡を用いて細胞を観察した。結果を図4〜7に示す。12Glu2、12Asp2のいずれにおいても、HC細胞およびHeLa細胞の両方でほぼ100%のsiRNA導入効率を示した。
【実施例4】
【0069】
12G2および12A2を用いたマウス各組織へのin vivo siRNA導入
2 nMのCy-3蛍光標識siRNAを200 μlのNaCl水溶液に混合した。1.3 mM 12Glu2または12Asp2各50 μlを上記の水溶液に混合した後、5分間インキュベートした。この混合液をBalb/cマウス(雌性、7-8週齢)の尾静脈から注射し、4時間後(または24時間後)、マウスを解剖し、蛍光顕微鏡および位相差顕微鏡を用いて細胞を観察した。結果を図8〜10に示す。脾臓(図8)、肝臓(図9)および肺に、Cy-3標識siRNA陽性細胞が顕著に確認された。また、心臓(図10)、腎臓、脳組織にも、Cy-3標識siRNA陽性細胞が確認された。
【実施例5】
【0070】
細胞毒性試験
細胞(CHO細胞、HC細胞、HeLa細胞)1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの無血清培養液に交換した。
100 pMのCy-3蛍光標識siRNAを25 μlの150 mM NaCl溶液に混合し、1.3 mM 12Glu2または12Asp2(5 μl)を上記のsiRNA溶液に混合した後5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。該複合体もしくは陽イオン性脂質分子集合体のみを上記CHO、HCまたはHeLa細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で4時間インキュベートした後、血清を含む培地に交換した。4時間後、血清を含む培地に交換して培養を続け、翌日、トリパンブルー染色法により細胞死を評価した。結果を図11に示す。12Glu2および12Asp2を導入されたいずれの細胞でも、細胞生存率において非導入細胞と有意な差は認められなかった。
【実施例6】
【0071】
siRNA/12Glu2複合体形成時の混合溶液の検討
CHO-EGFP細胞1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの10% FBS-DMEM培養液に交換した。
100 pMのEGFP siRNAを25 μlの水溶液(DMEM培地、opti-MEM培地、150mM NaCl溶液)に混合し、5 μlの1.3 mM 12Glu2を上記のsiRNA溶液に混合した後5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。該複合体を上記細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃でインキュベートした。翌日、細胞を観察し、フローサイトメトリーにより蛍光を測定した。結果を図12に示す。水性溶媒としてNaCl水溶液を用いた場合でも、培地を用いた場合と同等の導入効率を示した。
【実施例7】
【0072】
蛋白質および他の低分子化合物の細胞内導入
導入化合物として、(1)蛍光化合物Sulforhodamine 101 (Molecular Probes;分子量606.71)および(2)Albumin-Sulforhodamine 101 (Sigma;分子量65-70 kDa;アルブミンを(1)の蛍光化合物で標識したもの)を用いた。
(1)Sulforhodamine 101の導入
マウス神経前駆細胞(Balb/Cマウス胎児中枢神経から常法に従って単離・培養した細胞)1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの栄養因子を加えた無血清FD培養液に交換した。
0.5 μgのSulforhodamine 101を25 μlの150mM NaCl溶液に混合し、3.5 μlの1.3 mM 12Glu2を上記の溶液に混合した後、5分間インキュベートして後、陽イオン性脂質分子集合体−Sulforhodamine 101複合体を得た。該複合体を上記細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で1時間インキュベートした。1-2時間後、蛍光顕微鏡により細胞を観察した。結果を図13に示す
【0073】
(2)Albumin-Sulforhodamine 101の導入
CHO細胞を1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの10% FBS-DMEM培養液に交換した。
1.0 μgのAlbumin-Sulforhodamine 101を25 μlの150mM NaCl溶液に混合し、7 μlの1.3 mM 12Glu2を上記の溶液に混合した後、5分間インキュベートして後、陽イオン性脂質分子集合体−Albumin-Sulforhodamine 101複合体を得た。該複合体を上記細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃でインキュベートした。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察した。結果を図14に示す。
(1)、(2)いずれの場合においても、ほぼ100%の陽性細胞が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質キャリアは、siRNAなどの低分子核酸をはじめとする低分子化合物を効率よく細胞内に導入することができ、かつ細胞毒性が低いので、また、該陽イオン性脂質分子は、比較的安価且つ化学的変性を受けにくいので、研究用および医薬用の高性能な低分子化合物細胞内導入試薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】各種陽イオン性脂質をキャリアとして用いた際のCHO細胞へのsiRNA導入効率を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図2】各種陽イオン性脂質をキャリアとして用いた際のCHO細胞へのsiRNA導入効率を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図3】12G2および12A2と、市販の各種陽イオン性脂質とのCHO細胞へのsiRNA導入効率の比較を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図4】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHC細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図5】12Asp2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHC細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図6】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHeLa細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図7】12Asp2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHeLa細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図8】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAをin vivo導入されたマウス脾臓における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図9】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAをin vivo導入されたマウス肝臓における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図10】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAをin vivo導入されたマウス心臓における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図11】12Glu2および12Asp2の細胞内導入の細胞生存率に及ぼす影響を示す図である。縦軸は細胞生存率(%)を示す。
【図12】各種水性溶媒のsiRNA導入効率に及ぼす影響を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図13】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてSulforhodamine 101を導入されたマウス神経前駆細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図14】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてAlbumin-Sulforhodamine 101を導入されたCHO細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド等の低分子核酸などの比較的低分子量の化合物を効率よく細胞内に導入するのに適した、陽イオン性脂質を成分とするキャリア剤、並びに該キャリア剤を用いた目的化合物の細胞内導入方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌、脳神経疾患、AIDS、遺伝子疾患等の様々な疾病の解明が精力的に行われ、多くの原因遺伝子および関連遺伝子が明らかにされてきている。それに伴って、疾病に関与する遺伝子を標的とした遺伝子治療法が大きな期待を集めている。遺伝子治療法は、欠損した遺伝情報を補うことを目的とするものと、疾病の原因遺伝子、例えば、癌細胞の増殖に不可欠な遺伝子の発現抑制を目的とするものとに大別することができるが、後者においては、標的遺伝子のmRNAに相補的な低分子核酸(例:オリゴDNA・RNA、修飾オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)等)を投与し、標的遺伝子の発現を特異的に抑制するアンチセンス法が考案されている。特にshort interfering RNA(siRNA)に代表されるRNA干渉(RNAi)技術は、2002年のBreakthrough of the Year(Science誌)の第1位に選ばれるなど、バイオ医薬研究を革新的に進歩させ、創薬開発のスピードを大きく加速させている。
このようにRNAiを中核とするアンチセンス技術が、基礎研究や新薬開発に大いに活用されるようになったことから、培養細胞(in vitro, ex vivo)および生体内組織(in vivo)への低分子核酸導入効率を高める技術、即ち、より高頻度の細胞内導入を達成し得るキャリア剤の開発が望まれている。
【0003】
従来の低分子核酸の細胞内導入方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン試薬等を用いた方法や、リポフェクチン(商標名)やリポフェクトアミン(商標名)、リポフェクトアミン2000(商標名)等の陽イオン性リポソームを用いた方法があるが、多くの場合その導入効率は低く、また細胞毒性が認められる。一方、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、遺伝子銃(パーティクルガン)法等は、導入効率が比較的高い反面、高価な機器を購入しなくてはならない点や、操作に熟練を要する等の問題から、大量の細胞を処理するのには適さない。さらに、アデノウイルスなどのウイルスを利用する方法では、ウイルス感受性細胞の調製などの操作性、研究者へのウイルス感染などの問題点が存在する。
本発明者らは既に、操作が簡単で、細胞毒性がなく、且つ効率よく細胞内へ遺伝子を導入し得る方法として、両親媒性分子を生体膜温度に近い相転移温度で2分子膜形成させることにより得られる合成2分子膜を用いる方法を開発しているが、当該方法は、主として約2kb以上の高分子核酸(例えば、欠損遺伝子を相補するための遺伝子導入の場合における)を効率よく細胞内に導入することに適しており、siRNA、アンチセンスオリゴDNAなどの低分子核酸、あるいは蛋白質、生理活性ペプチドや化学療法剤などの、同等もしくはそれ以下の分子量を有する他の化合物の細胞内導入については、更なる効率の改善が求められていた。
【特許文献1】特公平7−20429号公報全文
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、特殊な機器を必要とせず、安価に、簡便且つ安全に、効率よく且つ低毒性で細胞内に低分子核酸をはじめとする、比較的低分子量の化合物を導入することができる細胞内導入方法、およびそのための化合物キャリア剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、公知の陽イオン性両親媒性物質である下記式(I):
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)、または下記式(II):
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、pは14〜18の整数を示す)で表される化合物をキャリアとして用いると、意外にも、従来公知の各種陽イオン性脂質キャリアと比較して、低分子核酸などの比較的低分子量の化合物の細胞への導入効率が高く且つ細胞毒性が低いことを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)下記式(I):
【0011】
【化3】
【0012】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)
で表される化合物を含有してなる、分子量約200万以下の化合物の細胞内導入用キャリア剤;
(2)nが2〜4の整数である上記(1)記載の剤;
(3)nが2である上記(1)記載の剤;
(4)式(I)で表される化合物がハロゲンとの塩の形態である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の剤;
(5)化合物の分子量が約70万以下である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の剤;
(6)化合物が負に荷電している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の剤;
(7)化合物が核酸である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の剤;
(8)化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の剤;
(9)化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の剤;
(10)化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の剤;
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の剤と分子量約200万以下の化合物との複合体;
(12)化合物の分子量が約70万以下である、上記(11)記載の複合体;
(13)化合物が負に荷電している、上記(11)または(12)記載の複合体;
(14)化合物が核酸である、上記(11)〜(13)のいずれかに記載の複合体;
(15)化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、上記(11)〜(14)のいずれかに記載の複合体;
(16)化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、上記(11)〜(15)のいずれかに記載の複合体;
(17)化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、上記(11)〜(16)のいずれかに記載の複合体;
(18)上記(11)〜(17)のいずれかに記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、化合物の該細胞内への導入方法;
(19)細胞が動物または植物細胞である上記(18)記載の方法;
(20)細胞が哺乳動物細胞である上記(18)記載の方法;および
(21)上記(11)〜(17)のいずれかに記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象の生体内で化合物を細胞内へ導入する方法;
を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、
(22)下記式(II):
【0014】
【化4】
【0015】
(式中、pは14〜18の整数を示す)
で表される化合物を含有してなる、分子量約200万以下の化合物の細胞内導入用キャリア剤;
(23)pが14〜16の整数である上記(22)記載の剤;
(24)上記(22)または(23)記載の剤と分子量約200万以下の化合物との複合体;
(25)上記(24)記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、化合物の該細胞内への導入方法;
(26)上記(24)記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象の生体内で化合物を細胞内へ導入する方法;
(27)式(I)または(II)で表される化合物が水性溶媒中で組織化された集合体の形態で提供される、上記(1)〜(10)または上記(22)もしくは(23)記載の剤;
(28)水性溶媒が加熱処理し得るものである、上記(27)記載の剤;および
(29)水性溶媒が、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを含有する溶液である、上記(28)記載の剤;
を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明における陽イオン性脂質キャリアは、従来の核酸導入試薬に用いられる陽イオン性脂質に比較して、siRNAなどの低分子核酸をはじめとする比較的低分子量の化合物を非常に高い効率で細胞内に導入することができ、かつ細胞毒性が低いという有利な効果を奏する。また、該陽イオン性脂質分子は、従来の核酸導入用試薬における陽イオン性脂質よりも比較的安価に合成することができる。さらに、該陽イオン脂質分子は熱安定性に優れているので、室温以上での取扱いが可能であり、操作性および輸送コスト等の面でも有利である。また、酸化や紫外線等による化学的変性を受けにくく品質が安定している点でも、化合物の細胞内導入用キャリアとして有利である。さらに、該陽イオン性脂質分子は、一般的に用いられている培養液などのような加熱処理に不適な溶液だけでなく、NaCl溶液等の加熱処理可能な溶液中でも好ましい分子集合体を形成し得るので、RNase、DNase、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等の酵素のように、導入しようとする化合物の安定性を損なう夾雑物の除去(不活性化)、あるいは、特に生体内での細胞内導入に際して問題となる、対象の細菌やウイルスへの感染を防止するための滅菌・ウイルス不活化処理を施した後に細胞内導入用キャリア剤を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における化合物の細胞内導入用キャリア剤(以下、「本発明のキャリア剤」と略称する場合がある)は、主成分[即ち、化合物の担体(キャリア)]として、下記式(I):
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)
で表される陽イオン性脂質分子を含有する。
本発明のキャリア剤により細胞内に導入される化合物は、分子量約200万以下の化合物であれば、特に制限はない。
遺伝子導入に用いられる陽イオン性脂質分子は、一般に、化合物(好ましくは負に荷電した化合物)と相互作用(好ましくは静電的相互作用)して安定な複合体を形成することにより、該化合物の分解(例えば、ヌクレア-ゼやペプチダーゼによる)を抑え、且つ負に荷電した細胞表面への送達を容易にするが、本発明に用いられる上記陽イオン性脂質分子は、特に低分子核酸などの比較的低分子量の化合物の細胞への導入効率に優れ、しかも細胞毒性が低いという利点を有する。
【0020】
本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質分子は、同一分子内に親水部と疎水部とを有する両親媒性の合成分子である。本明細書においては、上記陽イオン性脂質分子の疎水部の2つのアルキル鎖の炭素数が12個、親水部のアシル基の炭素数がn個であり、疎水部と親水部を繋ぐ部分は、mが1の場合はアスパラギン酸骨格、mが2の場合はグルタミン酸骨格を有することから、以下、mが1の場合は12Aspnまたは12An(nは2〜6の整数)と、mが2の場合は12Glunまたは12Gn(nは2〜6の整数)と、それぞれ略記することもある。
好ましくは、本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質は、式(I)においてnが2〜4の整数である化合物(即ち、12A2〜12A4または12G2〜12G4)であり、特に好ましくはnが2の整数である化合物、即ち、12A2または12G2である。
【0021】
特に、本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質分子において、mが2である化合物は水溶性に優れ、取り扱いが容易である。
【0022】
式(I)で表される化合物は、例えば、ハロゲンとの塩の形態で本発明のキャリア剤中に配合され得る。好ましくは塩化物塩または臭化物塩として提供される。
【0023】
式(I)で表される化合物は、自体公知のいかなる方法によっても製造することができ、例えば、「Journal of the American Chemical Society, vol.102, p6642(1980)」、「Bulletin of the Chemical Society of Japan, vol.64, p3677(1991)」および「Biochemistry and Molecular Biology International, vol.34, p915(1994)」に開示される方法により合成することができるが、それらに限定されない。
【0024】
本発明のキャリア剤は、上記陽イオン性脂質分子のいずれか1種を単独で含有してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて含有してもよい。あるいはまた、該キャリア剤は、化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲であれば、上記陽イオン性脂質分子以外の両親媒性分子(例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン等の生体膜由来のリン脂質など)、界面活性剤(CHAPS、コール酸ナトリウム、オクチルグルコシド、N−D−グルコ−N−メチルアルカンアミド類など)、ポリエチレングリコール、糖脂質、ペプチド脂質、蛋白質などをさらに含有してもよい。
【0025】
本発明のキャリア剤は、上記陽イオン性脂質分子の1種もしくは2種以上、あるいはさらに他の両親媒性分子を適当な分散媒、例えば、水性溶媒中に分散させ、必要に応じて組織化を誘導する操作を行って、分子集合体を形成させた状態で調製することができる。ここで「組織化」とは、陽イオン性脂質を含む両親媒性分子同士が疎水結合等の非共有結合を介して集合することにより、集合体を形成することをいう。また、「組織化を誘導する操作」としては、例えば、超音波処理、加熱、ボルテックス、エーテル注入法、フレンチ・プレス法、コール酸法、Ca2+融合法、凍結−融解法、逆相蒸発法等などの自体公知の各種方法が挙げられるが[これらの各方法についての詳細は、例えば、野島、砂本、井上編「リポソーム」(南江堂,1988年発行)の“第2章 リポソームの調製”(砂本、岩本著)等に記載されている]、それらに限定されない。また、一定条件下では、上記陽イオン性脂質を含む両親媒性分子同士が、上記のような人為的に組織化を誘導する操作を行うことなく、水性溶媒中で自律的に集合して集合体を形成(自己組織化)することもできる。
組織化により形成される集合体としては、両親媒性分子の疎水部同士が疎水結合し形成される二重膜、リポソーム、多重ベシクル、ひも状会合体、ディスク状会合体、ラメラ状会合体、ロッド状会合体等及びこれらの混合物が含まれる。自己組織化により得られる集合体は、通常、上記の各種形態の混合物であるが、上記のような組織化を誘導する操作を一定条件下で行うことにより、単一の形態を有する集合体を形成することも可能である。
【0026】
好ましい一実施態様においては、本発明のキャリア剤の調製に用いられる上記陽イオン性脂質分子は固体であり、より好ましくは粉体である。該陽イオン性脂質分子を分散させる分散媒は、特に限定されないが、例えば、水(脱イオン水等)、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、当業者が通常の細胞培養で用いる培地(例えばRPMI1640、DMEM、HAM F−12、イーグル培地等)等の水性溶媒が挙げられる。当該水性溶媒は血清等の蛋白質成分を含有しないことが好ましいが、ポリリジン処理などで蛋白質成分を予め除去することにより、陽イオン性脂質を含む両親媒性分子の組織化またはその後の細胞内導入される化合物と陽イオン性脂質分子集合体との複合体形成の阻害を防ぐこともできる。また、細胞内導入される化合物がRNAやDNAなどの核酸、オリゴペプチドや蛋白質などのペプチド性化合物である場合などは、RNaseやDNaseなどの核酸分解酵素、ペプチダーゼやプロテアーゼなどの蛋白質(ペプチド)分解酵素の混入により導入化合物の安定性が低下するので、水性溶媒は、陽イオン脂質分子を分散させる前にそれら酵素を失活させるために、加熱処理を施されることが好ましい。加熱処理としては、例えば、約50〜約100℃で約5分〜約3時間行うことができるが、それに限定されない。従って、水性溶媒は当該加熱処理が可能なものであることが好ましい。従来、核酸の細胞内導入に用いられている各種培養液ではRNaseなどの酵素除去が不可能な場合が多いが、本発明における陽イオン性脂質分子は、例えば、NaCl、塩化カリウムなどの化合物を含有する水溶液中に分散させた場合にも、その後の細胞内導入操作において高い導入効率を示す。従って、核酸やペプチド性化合物などの化合物を細胞内に導入する場合には、水性溶媒として、上記の化合物を含有する水溶液等が好ましく例示される。
水性溶媒のpHは特に限定されないが、pH4〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくはpH7〜8の範囲である。
【0027】
好ましい実施態様として、(1)超音波処理、(2)加熱処理による陽イオン性リポソームの調製について以下により具体的に説明する。
(1)超音波処理法
まず上記陽イオン性脂質分子(例えば、12G2、12A2等)を有機溶媒(例えば、クロロホルム等)に溶解し、ナス型フラスコ等の容器に入れ、ロータリーエバポレーターなどを用いて溶媒を減圧除去して、容器壁面に脂質薄膜を形成させる。これに水性溶媒(例えば、リン酸緩衝液(pH7.0)等)を加えて振とう膨潤させ、例えばボルテックスミキサーなどを用いて薄膜を剥離させることにより、多重層リポソームの懸濁液が得られる。ここで膨潤操作は、陽イオン性脂質の相転移温度(Tc;例えば、12G2のTcは4℃、12A2のTcは6.7℃である)以上の温度で行うことが好ましい。尚、分解した脂質等を除去するために、セファデックス2B、4BまたはG−50カラムなどを用いてゲル濾過を行うこともできる。
【0028】
上記のようにして得られる多重層リポソームの懸濁液に、超音波処理装置(プローブ型、浴槽型など)を用いて、氷浴もしくは水浴上、陽イオン性脂質のTc以上の温度で、高い出力(例えば、約100〜約200W)の超音波を、約1〜約2分間照射(例えば、1分間照射、30秒間インターバルのサイクルを約2〜4回繰り返すなど)することにより、ほぼ均一な単層リポソームを調製することができる。
【0029】
本発明の陽イオン性脂質分子においては、その粉末を適当量チューブに取り、MiliQ水などを加えて(最終濃度が約20mMとなるように)、上記と同様の超音波処理を行うだけでも、容易に陽イオン性リポソームを調製することができる。
【0030】
(2)加熱処理法
上記陽イオン性脂質分子(例えば、12G2、12A2等)の粉末を適当量チューブに取り、MiliQ水などを加えて(最終濃度が約20mMとなるように)、約90℃で約15分間加熱することにより、陽イオン性リポソームを調製することができる。
【0031】
得られるキャリア剤中の上記陽イオン性脂質分子の濃度は、用いる陽イオン性両親媒性分子の種類等を考慮し適宜設定できるが、通常1〜200mM、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mM、更に好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの範囲である。
濃度が低すぎると充分量の陽イオン性両親媒性分子集合体が形成されず、濃度が高すぎると陽イオン性両親媒性分子が析出することがある。
【0032】
本発明のキャリア剤は、化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲で、化合物のキャリアとなる分子集合体を形成する両親媒性分子以外に適当な添加剤を含んでいてもよい。本発明のキャリア剤を、化合物を生体内の細胞に導入する目的で使用する場合には、該添加剤は医薬上許容されるものであることが必要である。例えば、従来公知のリポソーム製剤に配合される各種医薬添加物を用いることができる。
【0033】
以上のようにして得られうる、上記陽イオン性脂質分子を含んでなる本発明のキャリア剤は、化合物を低毒性で効率よく細胞内に導入するための薬剤として有用である。本発明のキャリア剤により細胞内へ導入され得る化合物は、分子量が約200万以下であれば特に制限されず、例えば、核酸、ペプチド、脂質、糖、脂質、糖、生理活性物質、薬物(Doxorubicin(抗腫瘍薬)、Daunorubicin(抗腫瘍薬)、Vincristine(抗腫瘍薬)、Vinblastine(抗腫瘍薬)、Idarubicin(抗腫瘍薬)、Dibucaine(局所麻酔薬)、Propranolol(β遮断薬)、Quinidine(不整脈治療薬)、Dopamine(強心・昇圧薬)、Imipramine(抗うつ薬)、Diphenhydramine(抗ヒスタミン薬)、Quinine(抗マラリア薬)、Chloroquine(抗マラリア薬)、Diclofenac(抗炎症薬)等)、化粧品等用の保湿剤(マンニトール等)、その他の合成もしくは天然化合物等その他の合成もしくは天然化合物等が挙げられるが、好ましくは分子量約100万以下、より好ましくは約70万以下の化合物である。
【0034】
また、本発明のキャリア剤は、上記陽イオン性脂質分子を主成分とするので、該陽イオン性脂質分子の集合体と安定な複合体を形成するためには、化合物は負に荷電していることが好ましい。したがって、本発明のキャリア剤により細胞内に導入され得る化合物としては、ポリアニオンである核酸やペプチドが好ましく例示される。
【0035】
本発明のキャリア剤により細胞内に導入され得る特に好ましい化合物は核酸である。核酸としては、分子量が約200万以下であれば特に制限はなく、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1〜3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。
【0036】
好ましくは、該低分子核酸(二本鎖の場合)のサイズは約3000bp以下、より好ましくは約1〜約2000bp、さらに好ましくは約1〜約1000bp、特に好ましくは約5〜約1000bpである。
【0037】
核酸は天然に存在するもの又は合成されたもののいずれでもよいが、100bp程度以下の大きさのものであれば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられる核酸自動合成装置を利用して合成することが可能である。
本発明において用いられる核酸は、特に限定されないが、当業者が通常用いる方法により精製されていることが好ましい。
【0038】
本発明のキャリア剤を生体内の細胞へ化合物を導入するために用いる態様としては、例えば、疾患の予防および/または治療(以下、「予防・治療」と略記する)を目的とした、いわゆる遺伝子治療をはじめとする予防・治療用化合物の生体内(in vivo)投与における使用が挙げられる。従って、本発明の好ましい一実施態様においては、本発明のキャリア剤により細胞内へ導入される化合物は、ある所定の疾患に対して予防・治療活性を有するものである。そのような化合物としては、例えば、核酸、ペプチド、脂質、糖、生理活性物質、薬物、その他の天然または合成の化合物が挙げられる。
【0039】
遺伝子治療は、前記のように、欠損した遺伝情報を補うことを目的とするものと、疾病の原因遺伝子の発現制御を目的とするものとに大別することができるが、前者においては、導入される核酸には、欠損した蛋白質をコードする塩基配列の他、導入細胞内で機能し得るプロモーター配列、さらに必要に応じてポリアデニレーションシグナル、選択マーカー遺伝子、複製基点(ori)等の塩基配列が含まれるので、本発明のキャリア剤による核酸の細胞内導入(遺伝子治療)は、実質的に後者の疾病原因遺伝子の発現制御を目的としたものとなる。従って、本発明のキャリア剤により細胞内へ導入される化合物は、好ましくは、標的遺伝子(疾病の原因遺伝子)の発現を制御し得るものである。
【0040】
標的遺伝子の発現を制御し得る化合物が低分子核酸である場合、該低分子核酸としては、例えば、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、デコイオリゴヌクレオチド(例えば、転写因子もしくは転写抑制因子が認識して結合し得る塩基配列を含むオリゴヌクレオチド)等が挙げられる。
【0041】
標的遺伝子の発現を制御し得る化合物がペプチドまたは蛋白質である場合、該ペプチド/蛋白質は、例えば、標的遺伝子に結合して該遺伝子の転写を制御するか、あるいは標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物に結合して蛋白質への翻訳を制御するペプチド/蛋白質、あるいは標的遺伝子の発現を制御する受容体からのシグナルを増強し得るペプチド性リガンド、もしくは該シグナルを遮断し得るアンタゴニスト様ペプチド/蛋白質などが挙げられる。
【0042】
あるいは、疾患予防・治療活性を有する化合物は、疾病の原因蛋白質の活性を制御し得るものであってもよい。そのような例としては、標的である受容体蛋白質のリガンドであるペプチド/蛋白質や非ペプチド性化合物(例えば、脂肪酸、ステロイドホルモンなど)、アゴニストまたはアンタゴニスト活性を有する種々の天然もしくは合成化合物、キナーゼのリン酸化部位の部分アミノ酸配列をミミックしたペプチドなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0043】
本発明はまた、本発明のキャリア剤と細胞内に導入されるべき化合物、好ましくは、本明細書において既に言及したような化合物との複合体を提供する。
上記陽イオン性脂質分子を含む両親媒性分子集合体を化合物の細胞内への導入に用いるためには、当該分子集合体と導入化合物とを接触させることにより、当該分子集合体と導入化合物との複合体(以下単に「複合体」と称する場合がある)を形成させる。複合体は、当該複合体が安定に存在し、例えば、ヌクレア−ゼやペプチダーゼなどによる導入化合物(核酸、ペプチドなど)の分解を抑制し得る限り、いかなる相互作用によって形成されてもよい。当該分子集合体は陽イオン性であるので、好ましい一態様においては、該複合体は、陰イオン性の(即ち、負に荷電した)化合物(核酸、ペプチドなど)との間で、静電的相互作用による非共有結合を介して形成されるが、正に荷電した化合物や中性荷電の化合物であっても、他の相互作用を介して、あるいは負に荷電した化合物と予め結合させることにより、複合体を形成することができる。
上記陽イオン性脂質分子を含む両親媒性分子集合体と導入化合物との複合体は、当該集合体を含む水性溶媒と導入化合物とを混合し、インキュベーションすることにより得られる。当該水性溶媒の種類は、上述と同様である。
また、当該インキュベーション時の温度は、上記陽イオン性両親媒性分子集合体の調製方法における温度と同様の範囲で設定されることが好ましい。
【0044】
当該混合液中の上記陽イオン性脂質の濃度は、用いられる陽イオン性脂質分子の種類等を考慮して適宜設定できるが、通常1〜200mM、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mM、更に好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの範囲である。
濃度が低すぎると充分量の安定な複合体が形成されず、濃度が高すぎると陽イオン性両親媒性分子集合体が析出することがある。
混合物中の導入化合物の濃度は、用いる化合物の種類、サイズ(分子量)等を考慮し適宜設定できるが、該化合物が核酸である場合は、通常約0.01〜約100ng/μL、好ましくは約0.1〜約25ng/μL、より好ましくは約0.5〜約10ng/μL、更に好ましくは約0.5〜約5ng/μL、最も好ましくは約0.5〜約2ng/μLの範囲である。
特に核酸がsiRNAのように約20〜約200bpの非常に小さいものである場合、該核酸の濃度は、通常1〜500nM、好ましくは20〜400nM、より好ましくは20〜300nM、更に好ましくは20〜200nM、最も好ましくは20〜100nMの範囲である。
【0045】
当該集合体を含む水性溶媒と導入化合物とを混合した後のインキュベーションの時間は、用いる試薬の種類等の条件を考慮し適宜設定することが可能であるが、通常0.5〜100分間、好ましくは0.5〜60分間、より好ましくは0.5〜30分間、更に好ましくは0.5〜15分間、最も好ましくは1〜5分間の範囲である。
インキュベーション時間が短すぎると、導入化合物と陽イオン性両親媒性分子集合体との複合体形成が不十分となり、インキュベーション時間が長すぎると、形成された複合体が不安定化する場合があり、いずれも導入化合物の導入効率が低下する。
上記工程によって、導入化合物の細胞内への導入に用いる陽イオン性両親媒性分子集合体と該化合物との複合体を含む混合液(以下「複合体含有溶液」と記載することがある)を得ることができる。
【0046】
更に、上記工程で得られた複合体と細胞とを接触させることで、複合体に含まれる導入化合物を細胞内へ導入することができる。
上記「細胞」の種類は、特に限定されず、原核生物及び真核生物の細胞を用いることができるが、好ましくは真核生物である。真核生物の種類も、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの非脊椎動物、植物、酵母等の微生物等が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。
当該細胞は、癌細胞を含む培養細胞株であっても、個体や組織より単離された細胞、あるいは組織もしくは組織片の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても、非接着細胞であってもよい。
【0047】
複合体と細胞とを接触させる工程をより具体的に説明すると、例えば次の通りである。
即ち、細胞は当該複合体との接触の数日前に適当な培地に懸濁され、適切な条件で培養される。当該複合体との接触時において、細胞は増殖期にあってもよいし、そうでなくてもよい。
【0048】
当該接触時の培養液は、血清含培地であっても血清不含培地であってもよいが、培地中の血清濃度は20%以下、好ましくは10%以下であることが好ましい。培地中に過剰な血清等の蛋白質が含まれていると、複合体と細胞との接触が阻害される可能性があるからである。
【0049】
当該接触時の細胞密度は、特に限定されず、細胞の種類等を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常0.5×105〜5×105細胞/mL、好ましくは0.5×105〜4×105細胞/mL、より好ましくは0.5×105〜3×105細胞/mL、更に好ましくは1×105〜3×105細胞/mL、最も好ましくは1×105〜2×105細胞/mLの範囲である。
【0050】
このように調製された細胞を含む培地に、上述の複合体含有溶液を添加する。複合体含有溶液の添加量は、特に限定されず、細胞数等を考慮して適宜設定することが可能であるが、培地1mLにつき、通常1〜1000μL、好ましくは1〜500μL、より好ましくは1〜300μL、更に好ましくは1〜200μL、最も好ましくは1〜100μLの範囲である。
【0051】
培地に複合体含有溶液を添加後、細胞を培養する、培養時の温度、湿度、CO2濃度等は、細胞の種類を考慮して適宜設定する。哺乳動物の細胞の場合は、通常約37℃、湿度約95%、CO2濃度は約5%である。
また、培養時間も用いる細胞の種類等の条件を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常0〜72時間、好ましくは1〜48時間、より好ましくは1〜36時間、更に好ましくは1〜24時間、最も好ましくは1〜16時間の範囲である。
上記培養時間が短すぎると、導入化合物が十分細胞内へ導入されず、培養時間が長すぎると、細胞が弱ることがある。
【0052】
上記培養により、低分子化合物が細胞内へ導入されるが、好ましくは培地を新鮮な培地と交換するか、培地に新鮮な培地を添加して更に培養を続ける。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、新鮮な培地は血清又は栄養因子を含むことが好ましい。
更なる培養の時間は、導入された低分子化合物に期待される機能等を考慮して、適宜設定することが可能であるが、該低分子化合物がsiRNAなどの標的遺伝子の発現を制御し得る低分子核酸である場合には、通常0〜72時間、好ましくは1〜48時間、より好ましくは1〜36時間、更に好ましくは1〜24時間、最も好ましくは1〜16時間の範囲である。
【0053】
また、上記の通り、陽イオン性脂質を含む両親媒性分子集合体と低分子化合物との複合体を用いることで、試験管内(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても該化合物を細胞内へ導入することが可能である。即ち、該複合体を対象に投与することにより、該複合体が標的細胞へ到達・接触し、生体内で該複合体に含まれる低分子化合物が細胞内へ導入される。
該複合体を投与可能な対象としては、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの無脊椎動物、植物等を挙げることが出来る。好ましくは、該複合体の投与対象としては、ヒトまたは他の哺乳動物が挙げられる。
【0054】
また、該複合体の投与方法は、標的細胞へ該複合体が到達・接触し、該複合体に含まれる導入化合物を細胞内へ導入可能な範囲で特に限定されず、導入化合物の種類や、ターゲット細胞の種類や部位等を考慮して、自体公知の投与方法(経口投与、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与等)等)を適宜選択することができる。
該複合体の投与量は、低分子化合物の細胞内への導入を達成可能な範囲で特に限定されず、投与対象の種類、投与方法、導入化合物の種類、ターゲット細胞の種類や部位等を考慮して適宜選択することができるが、経口投与の場合、一般的に例えばヒト(60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.001mg〜10000mgである。非経口的に投与する場合(例えば静脈内投与等)は、一般的に例えばヒト(60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.0001mg〜3000mgである。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0055】
本発明のキャリア剤は、化合物を細胞内へ導入するためのキットとして提供することもできる。当該キットは、本発明のキャリア剤を用いた化合物の細胞内導入方法において用いられ得るあらゆる試薬等(例えば、上記水性溶媒、調製プロトコールが記載された指示書、反応容器等)を更に含むことが出来る。該キットを用いることにより、上述の方法に従い、容易に所望の化合物を細胞内へ導入することが可能である。
【0056】
本発明のキャリア剤に用いることのできる別の陽イオン性脂質分子として、下記式(II):
【0057】
【化6】
【0058】
(式中、pは14〜18の整数を示す)で表される化合物が挙げられる。本明細書においては、上記陽イオン性脂質分子の疎水部の2つのアルキル鎖の炭素数がp個であることから、以下、Cpと略記することもある。
好ましくは、本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質は、式(II)においてpが14〜18の整数である化合物(即ち、C14〜C18)であり、特に好ましくはpが14〜16の整数である化合物、即ち、C14〜C16である。
【0059】
式(II)で表される化合物は、例えば、ハロゲンとの塩の形態で本発明のキャリア剤中に配合され得る。好ましくは塩化物塩または臭化物塩として提供される。
【0060】
式(II)で表される化合物は、自体公知のいかなる方法によっても製造することができ、例えば、「Journal of the American Chemical Society, vol.102, p6642(1980)」および「Biochemistry and Molecular Biology International, vol.34, p915(1994)」に開示される方法により合成することができるが、それらに限定されない。
【0061】
式(II)で表される化合物を本発明のキャリア剤として調製する方法、得られたキャリア剤を用いて細胞内へ導入される化合物と複合体を形成させる方法、得られた複合体を細胞内へ導入する方法等、並びにそれらの方法に用いられる各種材料等は、式(I)で表される化合物について上記したと同様のものを、それぞれ用いることができる。
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0063】
siRNAのCHO細胞内導入に適した陽イオン性脂質キャリアの検討
CHO-EGFP細胞(蛍光タンパク質Enhanced Green Fluorescent Protein(EGFP)を恒常的に発現するCHO細胞;CHO細胞(入手先:理化学研究所)に、常法によりEGFP遺伝子発現ベクターをトランスフェクトして作製した)1-2 x 105 細胞/ウェルを24ウェルプレート中で16時間前培養(10% FBS含有DMEM培養液中)した後、導入時に、0.5 mlの無血清培養液に交換した。
100 pMのEGFP siRNA(入手先:NIPPON GENE)を25 μlの無血清培地に混合し、1.3 mMの各種陽イオン性脂質[12G2、12G4、12G6、12G11、14G2、14G4および14G6、12A2、14A2および16A2、C14、C16およびC18、TMA(化7)、PC14(化8)、8AzC10(化9)または12GN3(Biochemistry and Molecular Biology International, vol.34, p915(1994),Figure 1参照)]各5 μlを上記のsiRNA溶液に混合して5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。これを上記CHO-EGFP細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で4時間インキュベートした後、血清を含む培地に交換した。翌日、細胞を観察し、フローサイトメトリーにより蛍光を測定した。結果を図1および図2に示す。EGFP発現はControl(siRNA非導入細胞)における蛍光強度を100%とした相対強度で示してある。12G2、12G4および12G6(図1)、あるいは12A2、C14、C16およびC18(図2)をキャリアとして用いた場合に、EGFP発現は顕著に抑制され、siRNAが高頻度で細胞内に導入されていることが分かった。特に12G2および12A2で高い細胞導入効率を示した。
【0064】
【化7】
【0065】
【化8】
【0066】
【化9】
【実施例2】
【0067】
12G2および12A2と市販の核酸導入試薬との比較検討
実施例1と同様にして、12G2および12A2と、市販の各種リポフェクション試薬[Lipofectin、Lipofectamine、Lipofectamine2000、Oligofectamine(以上、Invitrogen)、DoTAP(Biontex)、FuGENE6(Roche)、CLONfectin(Clontech)、JetSI(PolyPlus-transfection)、TransIT-TKO(Mirus)、siFECT(IC-VEC)、siFECTOR(B-Bridge International Inc.)]とのsiRNA導入効率を比較した。結果を図3に示す。12G2および12A2は、JetSI、TransIT-TKOおよびsiFECTに匹敵する高いsiRNA細胞導入効率を示した。
【実施例3】
【0068】
12G2および12A2を用いたヒト培養細胞へのsiRNA導入
ヒト正常肝細胞(HC細胞)またはヒト子宮癌細胞(HeLa細胞)各1-2 x 105 細胞/ウェルを24ウェルプレート中、16時間前培養(10% FBS含有FD培地(HC細胞)、10% FBS含有DMEM培地(HeLa細胞))した後、導入時に、0.5 mlの無血清培養液に交換した。
100 pMのCy-3蛍光標識siRNA(入手先:B-Bridge)を25 μlの無血清培地に混合し、1.3 mM 12Glu2または12Asp2(5 μl)を上記のsiRNA溶液に混合して5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。これを上記HC細胞またはHeLa細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で4時間インキュベートした後、血清を含む培地に交換した。翌日、蛍光顕微鏡および位相差顕微鏡を用いて細胞を観察した。結果を図4〜7に示す。12Glu2、12Asp2のいずれにおいても、HC細胞およびHeLa細胞の両方でほぼ100%のsiRNA導入効率を示した。
【実施例4】
【0069】
12G2および12A2を用いたマウス各組織へのin vivo siRNA導入
2 nMのCy-3蛍光標識siRNAを200 μlのNaCl水溶液に混合した。1.3 mM 12Glu2または12Asp2各50 μlを上記の水溶液に混合した後、5分間インキュベートした。この混合液をBalb/cマウス(雌性、7-8週齢)の尾静脈から注射し、4時間後(または24時間後)、マウスを解剖し、蛍光顕微鏡および位相差顕微鏡を用いて細胞を観察した。結果を図8〜10に示す。脾臓(図8)、肝臓(図9)および肺に、Cy-3標識siRNA陽性細胞が顕著に確認された。また、心臓(図10)、腎臓、脳組織にも、Cy-3標識siRNA陽性細胞が確認された。
【実施例5】
【0070】
細胞毒性試験
細胞(CHO細胞、HC細胞、HeLa細胞)1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの無血清培養液に交換した。
100 pMのCy-3蛍光標識siRNAを25 μlの150 mM NaCl溶液に混合し、1.3 mM 12Glu2または12Asp2(5 μl)を上記のsiRNA溶液に混合した後5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。該複合体もしくは陽イオン性脂質分子集合体のみを上記CHO、HCまたはHeLa細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で4時間インキュベートした後、血清を含む培地に交換した。4時間後、血清を含む培地に交換して培養を続け、翌日、トリパンブルー染色法により細胞死を評価した。結果を図11に示す。12Glu2および12Asp2を導入されたいずれの細胞でも、細胞生存率において非導入細胞と有意な差は認められなかった。
【実施例6】
【0071】
siRNA/12Glu2複合体形成時の混合溶液の検討
CHO-EGFP細胞1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの10% FBS-DMEM培養液に交換した。
100 pMのEGFP siRNAを25 μlの水溶液(DMEM培地、opti-MEM培地、150mM NaCl溶液)に混合し、5 μlの1.3 mM 12Glu2を上記のsiRNA溶液に混合した後5分間インキュベートして、陽イオン性脂質分子集合体−siRNA複合体を得た。該複合体を上記細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃でインキュベートした。翌日、細胞を観察し、フローサイトメトリーにより蛍光を測定した。結果を図12に示す。水性溶媒としてNaCl水溶液を用いた場合でも、培地を用いた場合と同等の導入効率を示した。
【実施例7】
【0072】
蛋白質および他の低分子化合物の細胞内導入
導入化合物として、(1)蛍光化合物Sulforhodamine 101 (Molecular Probes;分子量606.71)および(2)Albumin-Sulforhodamine 101 (Sigma;分子量65-70 kDa;アルブミンを(1)の蛍光化合物で標識したもの)を用いた。
(1)Sulforhodamine 101の導入
マウス神経前駆細胞(Balb/Cマウス胎児中枢神経から常法に従って単離・培養した細胞)1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの栄養因子を加えた無血清FD培養液に交換した。
0.5 μgのSulforhodamine 101を25 μlの150mM NaCl溶液に混合し、3.5 μlの1.3 mM 12Glu2を上記の溶液に混合した後、5分間インキュベートして後、陽イオン性脂質分子集合体−Sulforhodamine 101複合体を得た。該複合体を上記細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃で1時間インキュベートした。1-2時間後、蛍光顕微鏡により細胞を観察した。結果を図13に示す
【0073】
(2)Albumin-Sulforhodamine 101の導入
CHO細胞を1-2 x 105細胞/ウェルを24ウェルプレート中で前培養した後、導入時に、0.5 mlの10% FBS-DMEM培養液に交換した。
1.0 μgのAlbumin-Sulforhodamine 101を25 μlの150mM NaCl溶液に混合し、7 μlの1.3 mM 12Glu2を上記の溶液に混合した後、5分間インキュベートして後、陽イオン性脂質分子集合体−Albumin-Sulforhodamine 101複合体を得た。該複合体を上記細胞に加え、CO2インキュベーター(5% CO2/95%大気)中37℃でインキュベートした。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察した。結果を図14に示す。
(1)、(2)いずれの場合においても、ほぼ100%の陽性細胞が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のキャリア剤に用いられる陽イオン性脂質キャリアは、siRNAなどの低分子核酸をはじめとする低分子化合物を効率よく細胞内に導入することができ、かつ細胞毒性が低いので、また、該陽イオン性脂質分子は、比較的安価且つ化学的変性を受けにくいので、研究用および医薬用の高性能な低分子化合物細胞内導入試薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】各種陽イオン性脂質をキャリアとして用いた際のCHO細胞へのsiRNA導入効率を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図2】各種陽イオン性脂質をキャリアとして用いた際のCHO細胞へのsiRNA導入効率を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図3】12G2および12A2と、市販の各種陽イオン性脂質とのCHO細胞へのsiRNA導入効率の比較を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図4】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHC細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図5】12Asp2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHC細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図6】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHeLa細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図7】12Asp2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAを導入されたHeLa細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図8】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAをin vivo導入されたマウス脾臓における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図9】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAをin vivo導入されたマウス肝臓における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図10】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてCy−3蛍光標識siRNAをin vivo導入されたマウス心臓における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図11】12Glu2および12Asp2の細胞内導入の細胞生存率に及ぼす影響を示す図である。縦軸は細胞生存率(%)を示す。
【図12】各種水性溶媒のsiRNA導入効率に及ぼす影響を示す図である。縦軸はEGFPの相対的発現(%)を示す。
【図13】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてSulforhodamine 101を導入されたマウス神経前駆細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【図14】12Glu2を陽イオン性脂質キャリアとしてAlbumin-Sulforhodamine 101を導入されたCHO細胞における蛍光顕微鏡写真(左)および位相差顕微鏡写真(右)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)
で表される化合物を含有してなる、分子量約200万以下の化合物の細胞内導入用キャリア剤。
【請求項2】
nが2〜4の整数である請求項1記載の剤。
【請求項3】
nが2である請求項1記載の剤。
【請求項4】
式(I)で表される化合物がハロゲンとの塩の形態である、請求項1〜3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
化合物の分子量が約70万以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
化合物が負に荷電している、請求項1〜5のいずれかに記載の剤。
【請求項7】
化合物が核酸である、請求項1〜6のいずれかに記載の剤。
【請求項8】
化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、請求項1〜7のいずれかに記載の剤。
【請求項9】
化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、請求項1〜8のいずれかに記載の剤。
【請求項10】
化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、請求項1〜9のいずれかに記載の剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の剤と分子量約200万以下の化合物との複合体。
【請求項12】
化合物の分子量が約70万以下である、請求項11記載の複合体。
【請求項13】
化合物が負に荷電している、請求項11または12記載の複合体。
【請求項14】
化合物が核酸である、請求項11〜13のいずれかに記載の複合体。
【請求項15】
化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、請求項11〜14のいずれかに記載の複合体。
【請求項16】
化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、請求項11〜15のいずれかに記載の複合体。
【請求項17】
化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、請求項11〜16のいずれかに記載の複合体。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、化合物の該細胞内への導入方法。
【請求項19】
細胞が動物または植物細胞である請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞が哺乳動物細胞である請求項18記載の方法。
【請求項21】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象の生体内で化合物を細胞内へ導入する方法。
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、mは1または2を、nは2〜6の整数をそれぞれ示す)
で表される化合物を含有してなる、分子量約200万以下の化合物の細胞内導入用キャリア剤。
【請求項2】
nが2〜4の整数である請求項1記載の剤。
【請求項3】
nが2である請求項1記載の剤。
【請求項4】
式(I)で表される化合物がハロゲンとの塩の形態である、請求項1〜3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
化合物の分子量が約70万以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
化合物が負に荷電している、請求項1〜5のいずれかに記載の剤。
【請求項7】
化合物が核酸である、請求項1〜6のいずれかに記載の剤。
【請求項8】
化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、請求項1〜7のいずれかに記載の剤。
【請求項9】
化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、請求項1〜8のいずれかに記載の剤。
【請求項10】
化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、請求項1〜9のいずれかに記載の剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の剤と分子量約200万以下の化合物との複合体。
【請求項12】
化合物の分子量が約70万以下である、請求項11記載の複合体。
【請求項13】
化合物が負に荷電している、請求項11または12記載の複合体。
【請求項14】
化合物が核酸である、請求項11〜13のいずれかに記載の複合体。
【請求項15】
化合物が疾患予防・治療活性を有するものである、請求項11〜14のいずれかに記載の複合体。
【請求項16】
化合物が標的遺伝子の発現を制御し得るものである、請求項11〜15のいずれかに記載の複合体。
【請求項17】
化合物がsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよびデコイオリゴヌクレオチドからなる群より選択されるいずれかの核酸である、請求項11〜16のいずれかに記載の複合体。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、化合物の該細胞内への導入方法。
【請求項19】
細胞が動物または植物細胞である請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞が哺乳動物細胞である請求項18記載の方法。
【請求項21】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象の生体内で化合物を細胞内へ導入する方法。
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−158314(P2006−158314A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356071(P2004−356071)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、地域新生コンソーシアム研究開発事業、九州経済産業局委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、地域新生コンソーシアム研究開発事業、九州経済産業局委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
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