説明

化学プロセスにおける制御方法

【課題】熱伝達媒体と反応器内の媒体との間で熱交換を生じさせることで反応器内の温度を制御する化学プロセスにおいて、熱伝熱媒体の温度および流量に制約がある場合であっても、反応器内の温度を適切に制御することのできる制御方法、システムおよびプログラムを提供する。
【解決手段】熱媒体供給温度予測ロジック70aにより算出された熱媒体供給温度の予測値がいずれかの管理区間を逸脱するか否かを判断し、逸脱したタイミングで、温度コントローラ32に対して設定する原料供給温度目標値を変更する。この際、原料供給温度目標値算出ロジック70bは、原料供給量実績値、反応器温度についての制御偏差、逸脱が予測された管理区間の管理値、および、各管理区間の中央値を用いて、反応器における熱バランスに基づいて、新たな原料供給温度目標値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プロセスにおける制御方法、化学プロセスを処理するためのシステム、および化学プロセスを制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原料を反応器内に連続的に供給して化学反応を進行させる化学プロセス(連続流通型の反応器)においては、反応器内の温度を適正に制御する必要がある。たとえば、反応器内で発熱反応が生じるプロセスでは、発熱に伴う反応器内の温度上昇を制御するために、反応器内に熱伝達媒体を循環させることで、冷却(除熱)を行なう構成が知られている。同様に、反応器内で吸熱反応が生じるプロセスでは、吸熱に伴う反応器内の温度低下を制御するために、反応器内に加熱媒体を循環させることで、加熱(昇温)を行なう構成が知られている。
【0003】
たとえば、特開2008−30033号公報(特許文献1)には、固定層反応器において、温度調整を行なう構成が開示されている。より具体的には、特許文献1には、触媒が充填された反応管を多数内蔵した反応器シェルに対して、熱伝達媒体を循環的に供給することで、温度調整(特許文献1の例では、除熱)が行なわれる化学プロセスが開示されている。また、特開2001−137689号公報(特許文献2)や特表2002−538951号公報(特許文献3)にも同様の化学プロセスが開示されている。なお、熱伝達媒体としては、水の他に、特許文献1に開示されるように塩浴などがよく使用される。
【0004】
このような固定層反応器においては、温度制御を適切に行なうために、主として、反応管長手方向での触媒の充填密度や活性の適正配置や、滞留部を無くすために熱伝達媒体の流動性の円滑化などが考慮される。
【0005】
また、国際公開第09/078490号パンフレット(特許文献4)には、反応熱により原料に相変化が生じる化学プロセスが開示されている。この特許文献4に開示される反応器においては、化学反応によって生じる反応熱によって、液相の原料が気相へ相変化する。このような化学プロセスにおいては、除熱管やジャケットにより反応器自体の温度調整がなされる一方で、主として、原料組成を調整して発生する反応熱の熱量が調整される。特許文献4に開示される化学プロセスにおいては、反応生成物(気相)に含まれる未反応原料(液相)を回収するとともに、反応器を2分割して中間で回収した未反応原料を噴霧することで反応温度が制御される。
【0006】
このように、原料の少なくとも一部が液相から気相へ相変化する反応器においては、気相潜熱の変化を考慮することが重要である。
【0007】
また、国際公開第95/21692号パンフレット(特許文献5)には、流動層反応器の温度制御方法が開示されている。この温度制御方法では、流動層反応器の流動層形成部に複数の除熱管を設置し、これらの除熱管のうち少なくとも一つの除熱管には定常速度で冷媒が供給されるとともに、他の少なくとも一つの除熱管には可変速度で冷媒が供給される。
【0008】
さらに、特開2008−43894号公報(特許文献6)および特開2008−80219号公報(特許文献7)には、気相発熱反応に用いる流動層反応器において、複数系列の除熱管を設けることで、より詳細に温度を制御するための方法が開示されている。
【0009】
ところで、上述のような反応器から熱(温熱または冷熱)を取り出すことで反応器内の温度を制御するプロセスにおいては、その取り出した熱を別のプロセスなどにおいて再利用する場合もある。そのような場合には、反応器内での発熱反応または吸熱反応により生じる熱が減少した場合であっても、その熱を再利用する別プロセスでの制約上、除熱または加熱に用いる熱伝達媒体の温度を大きく変更することができないことがある。また、熱伝達を効率よく行なうためには、循環する熱伝達媒体の流量を所定レベルに維持する必要もある。そこで、熱伝達媒体の温度を制御するとともに、反応器内へ供給する原料の温度を制御する方式が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−30033号公報
【特許文献2】特開2001−137689号公報
【特許文献3】特表2002−538951号公報
【特許文献4】国際公開第09/078490号パンフレット
【特許文献5】国際公開第95/21692号パンフレット
【特許文献6】特開2008−43894号公報
【特許文献7】特開2008−80219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、反応器内へ供給する原料の温度を制御した後、反応器の温度が実際に変化し始めるまでには、ある程度の応答遅れ(むだ時間+応答時間)を伴い、特に商用の大型設備では大きな応答遅れが発生し得る。そのため、熱伝達媒体の温度制御と供給する原料の温度制御とをどのように最適に制御するかについては、何ら知見が示されていなかった。
【0012】
また、上述の特許文献1〜7は、いずれも、熱伝達媒体の供給能力が十分であることを前提とした技術であるため、上述のような熱伝達媒体の温度や流量について制約があるようなプロセスに対する何らの示唆も与えていない。
【0013】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、熱伝達媒体と反応器内の媒体との間で熱交換を生じさせることで反応器内の温度を制御する化学プロセスにおいて、熱伝達媒体の温度および流量に制約がある場合であっても、反応器内の温度を適切に制御することのできる制御方法、システムおよびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のある局面によれば、原料を反応器内へ供給する原料供給手段と、熱伝達媒体を循環的に供給して反応器内の媒体と熱交換させることで反応器内を冷却または加熱する第1温度調整手段と、反応器内へ供給される原料を加熱または冷却する少なくとも1つの第2温度調整手段とを含む化学プロセスにおける制御方法を提供する。本制御方法は、熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させるステップと、反応器内の温度を取得して、予め設定されている反応器内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出するステップと、温度偏差に応じた目標値と一致するように、熱伝達媒体の温度を制御するステップと、原料の温度についての目標値と一致するように、少なくとも1つの第2温度調整手段による温度調整量を制御するステップと、熱伝達媒体の温度を予測するステップと、熱伝達媒体の温度予測値に基づいて、原料の温度についての目標値を変更するステップとを含む。
【0015】
好ましくは、目標値を変更するステップは、温度予測値が所定範囲を逸脱したか否かを判断するステップと、温度予測値が所定範囲を逸脱した場合に、新たな目標値を設定するステップとを含む。
【0016】
さらに好ましくは、所定範囲を逸脱したか否かを判断するステップは、温度予測値が時間経過に伴って上昇する場合には、温度予測値と第1のしきい値とを比較し、温度予測値が時間経過に伴って降下する場合には、温度予測値と第1のしきい値とは独立した第2のしきい値とを比較する。
【0017】
さらに好ましくは、所定範囲の中央値を基準として、より高い温度範囲において複数の第1のしきい値が設定され、より低い温度範囲において複数の第2のしきい値が設定される。
【0018】
好ましくは、新たな目標値を設定するステップは、反応器内の熱バランスの関係に基づいて、原料の温度についての新たな目標値を算出するステップを含む。
【0019】
さらに好ましくは、新たな目標値を算出するステップは、反応器内へ供給される原料の供給量と、温度偏差と、熱伝達媒体の温度とを用いて、目標値の変更量を決定するステップと、現在の目標値を当該決定された目標値の変更量で補正することで新たな目標値を決定するステップとを含む。
【0020】
好ましくは、熱伝達媒体の温度を予測するステップは、過去のサンプルタイミングにおける熱伝達媒体の温度実績値に基づいて、温度予測値を算出する。
【0021】
好ましくは、第1温度調整手段は、熱伝達媒体の循環経路上に配置された、熱伝達媒体を蓄えるドラムを含み、熱伝達媒体の温度を制御するステップは、ドラム内の飽和蒸気圧を制御するステップを含む。
【0022】
本発明の別の局面に従えば、化学プロセスを処理するためのシステムを提供する。本システムは、原料を反応器内へ供給する原料供給手段と、熱伝達媒体を循環的に供給して反応器内の媒体と熱交換させることで反応器内を冷却または加熱する第1温度調整手段と、反応器内へ供給される原料を加熱または冷却する少なくとも1つの第2温度調整手段と、制御装置とを含む。制御装置は、熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させる手段と、反応器内の温度を取得して、予め設定されている反応器内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出する手段と、温度偏差に応じた目標値と一致するように、熱伝達媒体の温度を制御する手段と、原料の温度についての目標値と一致するように、少なくとも1つの第2温度調整手段による温度調整量を制御する手段と、熱伝達媒体の温度を予測する手段と、熱伝達媒体の温度予測値に基づいて、原料の温度についての目標値を変更する手段とを含む。
【0023】
本発明のさらに別の局面に従えば、原料を反応器内へ供給する原料供給手段と、熱伝達媒体を循環的に供給して反応器内の媒体と熱交換させることで反応器内を冷却または加熱する第1温度調整手段と、反応器内へ供給される原料を加熱または冷却する少なくとも1つの第2温度調整手段とを含む化学プロセスを制御するためのプログラムを提供する。本プログラムは、コンピュータを、熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させる手段、反応器内の温度を取得して、予め設定されている反応器内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出する手段、温度偏差に応じた目標値と一致するように、熱伝達媒体の温度を制御する手段、原料の温度についての目標値と一致するように、少なくとも1つの第2温度調整手段による温度調整量を制御する手段、熱伝達媒体の温度を予測する手段、熱伝達媒体の温度予測値に基づいて、原料の温度についての目標値を変更する手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱伝達媒体と反応器内の媒体との間で熱交換を生じさせることで反応器内の温度を制御する化学プロセスにおいて、熱伝達媒体の温度および流量に制約がある場合であっても、反応器内の温度を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う化学プロセスにおける原料供給温度の目標値を変更するタイミングを説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態に従うプロセス制御に係る処理手順を提供するための機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に従うシステムにおけるプロセス制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に従う制御方法による効果を計算機シミュレーションによって評価した結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に従う制御方法による効果を計算機シミュレーションによって評価した結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態に従う制御方法による効果を計算機シミュレーションによって評価した結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態に従う制御方法による効果を計算機シミュレーションによって評価した結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態に従う制御方法を提供するためのコンピュータのハードウェア構成を示す概略構成図である。
【図10】本発明の実施の形態の変形例に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の変形例2に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態の変形例3に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0027】
<本実施の形態に従うプロセス>
図1は、本発明の実施の形態に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。図1を参照して、本実施の形態に従うシステム100は、連続流通型の反応器2を中心に構成される。この反応器2の内部には、所定量の反応原料Bが存在する。この原料Bは、予め反応器2に装填されていてもよいし、反応の進行に伴って順次追加あるいは抜き出しされてもよい。
【0028】
反応器2の一端(図1においては、底部)から供給される原料Aは、反応器2内の原料Bと触れることで、化学反応を生じる。そして、化学反応によって生成された反応生成物は、反応器2の他端(図1においては、頂部)から次工程へ送られる。すなわち、システム100には、原料Aを反応器2内へ供給する原料供給手段が設けられる。なお、本実施の形態に従う化学プロセスは、液相反応および気相反応のいずれにも適用が可能である。そのため、原料Aとしては、気体および液体のいずれの状態であってもよく、また、反応器2内に存在する原料Bについても、気体または液体のいずれであってもよい。なお、原料Bとしては、自身が化学反応を生じる物質の他に、化学反応を促進するための触媒を含み得る。
【0029】
反応器2への原料Aの供給経路26には、予熱器10が設けられており、原料Aは、予熱器10により目標温度(反応開始温度)まで昇温された状態で、反応器2へ連続的に供給される。すなわち、予熱器10は、反応器2内へ供給される原料Aを加熱または冷却(図1に示す例では「加熱」)する第2温度調整手段として機能する。一例として、予熱器10は、原料Aが外部から供給される熱伝達媒体(図1に示す例では「加熱媒体」)との間で熱交換を行なうように構成されている。この構成においては、予熱器10における加熱能力は、予熱器10へ供給される熱伝達媒体の流量(すなわち、原料Aと熱交換する媒体量)を調整することで制御される。
【0030】
また、反応器2には、反応器2内の温度を制御するための除熱器4が設置されている。すなわち、本実施の形態に従う化学プロセスにおいて生じる化学反応は、発熱反応であり、この原料Aの化学反応によって発生する熱を除熱器4で反応器2外に取り出すことで、反応器2内の温度を適正な値に制御する。
【0031】
本実施の形態に従うシステム100における反応器温度に対する操作要素としては、(i)除熱器4へ供給する熱伝達媒体の温度(熱媒体供給温度)、および(ii)反応器2へ供給する原料Aの温度(原料供給温度)が採用される。
【0032】
このとき、熱伝達を円滑に行なうとの観点から、除熱器4へ供給する熱伝達媒体の流量は、基本的には、所定の目標値に固定される。なお、この熱伝達媒体の流量についての目標値は、除熱器4(除熱管)の熱伝達効率が最もよくなるような値に設定される。
【0033】
また、貯留ドラム6から取り出される飽和蒸気が別のプロセスにおいて利用される場合には、飽和蒸気の圧力の操作可能範囲(すなわち、熱媒体供給温度の操作可能範囲)が制限されることが多い。さらに、熱伝達媒体として塩浴を用いる場合には、その温度を塩浴の凝固点から熱分解しはじめるまでの範囲内に維持する必要がある。そこで、本実施の形態に従うシステム100においては、主として、除熱器4へ供給する熱伝達媒体の温度(熱媒体供給温度)を調整するとともに、反応器2における反応度などの変動に応じて、反応器2へ供給する原料Aの温度(原料供給温度)を調整する。
【0034】
以下、各部について詳細に説明する。
予熱器10は、一例として、原料Aが外部から供給される加熱媒体との間で熱交換を行なうように構成されている。この構成においては、予熱器10における加熱能力は、予熱器10へ供給される加熱媒体の流量(すなわち、原料Aと熱交換する媒体量)を調整することで制御される。そして、反応器2へ供給される原料Aについては、供給量(流量)および温度が制御される。
【0035】
より具体的には、原料Aを反応器2内へ供給する原料供給手段は、その流量制御系として、供給経路26上に設置された流量計20および流調弁22、ならびに、流量計20および流調弁22に接続された流量コントローラ24を含む。また、原料供給手段は、その温度制御系として、加熱媒体の供給経路上に設置された流調弁28および供給経路26上に設置された温度計30、温度計30および流調弁28に接続された温度コントローラ32、ならびに、設定コントローラ70を含む。
【0036】
流量計20は、典型的にはオリフィスを用いた差圧型流量計であり、反応器2へ供給される原料Aの単位時間あたりの量(流量)を検出し、その検出した値(実績値)を流量コントローラ24へ出力する。流量コントローラ24は、典型的にはPID調節計であり、流量計20からの実績値が予め設定される原料供給量目標値と一致するように、流調弁22に対して開度指令を与える。すなわち、流量コントローラ24は、反応器2内へ供給される原料Aの単位時間あたりの量(流量)についてのフィードバック制御を行なう。そのため、原料Aは、予め設定されている供給量で反応器2内へ供給される。
【0037】
温度計30は、典型的には熱電対温度計であり、反応器2へ供給される原料Aの温度(原料供給温度)を検出し、その検出した値(実績値)を温度コントローラ32へ出力する。
【0038】
温度コントローラ32は、典型的にはPID調節計であり、設定コントローラ70によって設定される原料供給温度目標値に基づいて、温度計30からの実績値がこの原料供給温度目標値と一致するように、流調弁28に対して開度指令を与える。この流調弁28の開度に応じて、予熱器10を流れる加熱媒体の流量が変化するため、原料Aに与えられる予熱量が調整できる。すなわち、温度コントローラ32は、反応器2内へ供給される原料Aの温度(原料供給温度)についてのフィードバック制御を行なう。
【0039】
設定コントローラ70は、以下に詳述するように、熱媒体供給温度がその操作可能範囲を逸脱することが予想される場合に、温度コントローラ32に対して設定する原料供給温度目標値を変更する。反応器2内の熱バランスを考慮して、熱媒体供給温度がその操作可能範囲内に維持されるように、原料供給温度目標値を変更する。すなわち、除熱器4に対して熱伝達媒体を循環的に供給する第1温度調整手段(図1に示す例では、冷却手段)がその温度調整の能力範囲を逸脱することが予想される場合に、反応器2内の熱バランスの関係に基づいて、原料供給温度目標値が変更される。
【0040】
除熱器4は、典型的には、1または複数の熱交換器またはジャケットを含み、これらの熱交換器またはジャケットには、貯留ドラム6から熱伝達媒体が供給される。すなわち、貯留ドラム6に蓄えられている熱伝達媒体は、供給経路44を介して除熱器4へ輸送されるとともに、除熱器4で反応器2内の媒体との間の熱交換に使用され、そして、排出経路46を介して貯留ドラム6へ戻される。このように、熱伝達媒体を循環的に供給して反応器2内の媒体と熱交換させることで、反応器2内が冷却される。なお、熱伝達媒体を循環させるために、供給経路44には、ブースターポンプ8が設けられている。
【0041】
なお、反応器2と除熱器4とを一体的に構成してもよい。この場合には、反応器2のシェル側に熱伝達媒体を流通させる、いわゆる多管式反応器を採用してもよい。あるいは、反応器2内に、コイル型、管型、パネル型といった各種の熱交換器を除熱器4として設けてもよい。
【0042】
貯留ドラム6には、熱伝達媒体(冷却媒体)として飽和温度の水(熱水)が蓄えられている。そして、貯留ドラム6内のドラム圧力が後述するような制御系によって調整されることで、熱伝達媒体である熱水の飽和温度が間接的に変更される。すなわち、熱伝達媒体を蓄える貯留ドラム6は、熱伝達媒体の循環経路上に配置され、この貯留ドラム6内の飽和蒸気圧を制御することで、熱伝達媒体の温度が制御される。
【0043】
このように、除熱器4および貯留ドラム6は、熱伝達媒体を循環的に供給して反応器2内の媒体と熱交換させることで反応器2内を冷却または加熱(図1に示す例では「冷却」)する第1温度調整手段として機能する。
【0044】
また、ドラム圧力の調整に従って、貯留ドラム6の外へ飽和蒸気が放出されると、貯留ドラム6には、その放出に伴う熱伝達媒体の減少量に応じた量の水(熱水)が補給される。すなわち、冷媒供給温度および貯留ドラム6に蓄えられている熱伝達媒体の量が制御される。
【0045】
より具体的には、熱伝達媒体を循環的に供給して反応器2内の媒体と熱交換させることで反応器2内を冷却または加熱(図1に示す例では「冷却」)する第1温度調整手段は、その流量制御系として、供給経路44上に設置された流量計56および流調弁48、ならびに、流量計56および流調弁48に接続された流量コントローラ58を含む。流量計56は、典型的にはオリフィスを用いた差圧型流量計であり、除熱器4へ供給される熱伝達媒体の単位時間あたりの量(流量)を検出し、その検出した値(実績値)を流量コントローラ58へ出力する。流量コントローラ58は、予め設定された熱媒体供給量目標値に基づいて、流量計56からの実績値がこの熱媒体供給量目標値と一致するように、流調弁48に対して開度指令を与える。
【0046】
さらに、第1温度調整手段は、その温度制御系として、反応器2内に設置された温度計52、温度計52に接続された温度コントローラ54、飽和蒸気の取り出し経路に設置された流調弁50、貯留ドラム6内に設置された圧力計60、ならびに、圧力計60および流調弁50に接続された圧力コントローラ62を含む。
【0047】
温度計52は、典型的には熱電対温度計であり、反応器2内の温度を検出し、その検出した値(実績値)を温度コントローラ54へ出力する。温度コントローラ54は、典型的にはPID調節計であり、予め設定される反応器温度目標値に対する温度計52からの実績値の偏差に応じた制御出力を、圧力コントローラ62へ出力する。
【0048】
圧力計60は、典型的には半導体歪みゲージを用いた感圧式圧力計であり、貯留ドラム6内のドラム圧力(飽和蒸気圧)を検出し、その検出した値(実績値)を圧力コントローラ62へ出力する。圧力コントローラ62は、典型的にはPID調節計であり、温度コントローラ54からの制御出力を飽和蒸気圧目標値として扱い、圧力計60からの実績値がこの飽和蒸気圧目標値と一致するように、流調弁50に対して開度指令を与える。すなわち、圧力コントローラ62は、貯留ドラム6内の飽和蒸気圧、すなわち、除熱器4へ供給される熱伝達媒体の温度についてのフィードバック制御を行なう。
【0049】
このように、貯留ドラム6内の飽和蒸気圧が調整されることで、貯留ドラム6に蓄えられている熱伝達媒体の温度が間接的に調整される。したがって、圧力コントローラ62が飽和蒸気圧を制御することで、反応器2内の温度が所定の目標温度となるように、除熱器4による除熱量が制御される。すなわち、反応器2内の温度制御は、温度コントローラ54と圧力コントローラ62とによるいわゆるカスケードループとして提供される。
【0050】
さらに、第1温度調整手段は、その熱伝達媒体の保持量制御系として、補給水の供給経路に設置された流調弁40、貯留ドラム6に設置されたレベル計64、ならびに、レベル計64および流調弁40に接続されたレベルコントローラ66を含む。
【0051】
レベル計64は、典型的には静電容量式のレベル計であり、貯留ドラム6内の熱伝達媒体の貯留量(レベル)を検出し、その検出した値(実績値)をレベルコントローラ66へ出力する。レベルコントローラ66は、典型的にはPID調節計であり、レベル計64からの実績値が予め設定されるレベル目標値と一致するように、流調弁40に対して開度指令を与える。すなわち、レベルコントローラ66は、貯留ドラム6内の熱伝達媒体の貯留量についてのフィードバック制御を行なう。
【0052】
上述のようなシステム100を採用することで、反応器2内の反応度が低下して発熱量が減少した場合であっても、熱伝達媒体の循環量を所定レベルに維持しつつ、反応器2における熱バランスを保つことができる。これにより、熱伝達を円滑に、効率よく行なうとともに、反応生成物の品質を維持することができる。すなわち、貯留ドラム6内の飽和蒸気圧の調整による除熱量の制御と、原料供給温度の制御とを組み合わせることで、熱媒体供給温度についての操作可能範囲が制限されている場合であっても、反応器温度を適切に制御することができる。
【0053】
<反応器温度制御の概要>
上述したように、システム100では、反応器温度を制御するために、i)除熱器4へ供給する熱伝達媒体の温度(熱媒体供給温度)、および(ii)反応器2へ供給する原料Aの温度(原料供給温度)が調整される。これらの要素を調整する方法としては、熱媒体供給温度の調整だけでは反応器温度を十分に調整することができないと判断された場合に、原料供給温度の調整動作が変更される。これは、原料供給温度が変更されると、反応器2内での化学反応に影響を与えるため、これによる反応生成物の品質および単位時間あたりの生成量への影響を抑制するためである。
【0054】
反応器温度を十分に調整することができないと判断するための方法の典型例としては、熱媒体供給温度の実績値がその操作可能範囲内(上述の例では、飽和蒸気の圧力の操作可能範囲内)であるか否かを周期的に比較する方法が採用される。
【0055】
しかしながら、原料供給温度を変更してから、実際に反応器2内での化学反応の状態が変化して、反応器温度が変化するまでには、プラント固有の時間的な遅延(むだ時間+応答時間)が不可避であった。そのため、この応答遅れの間、反応器温度を適切に制御できないおそれがあった。すなわち、熱媒体供給温度が操作可能範囲の上限値または下限値に張り付いてしまい、反応器温度を目的の範囲に維持することができなくなる場合があった。
【0056】
なお、熱媒体供給温度(貯留ドラム6内の飽和蒸気圧力)の管理範囲を操作可能範囲より狭い範囲に設定し、原料供給温度の目標値を頻繁に変更する方法も考えられるが、この方法では、システムについての運転の自由度が制限されてしまう。
【0057】
そこで、本実施の形態に従うシステム100においては、熱媒体供給温度の時間的な変化傾向に基づいて、所定時間先の熱媒体供給温度を予測し、その予測値に基づいて、原料供給温度を調整する。すなわち、熱媒体供給温度がその操作可能範囲を逸脱することが予想される場合に、原料供給温度を見直す。より具体的には、熱媒体供給温度の予測値が操作可能範囲内に設定された1つまたは複数のしきい値のいずれかを横切る場合に、熱媒体供給温度の目標値を変更する。このように、原料供給温度をフィードフォワード的に調整することで、熱媒体供給温度が操作可能範囲を逸脱すること、すなわち、反応器温度の制御が不安定化することを防止する。
【0058】
<熱媒体供給温度の予測>
以下、熱媒体供給温度を予測する方法について説明する。
【0059】
本実施の形態に従うシステム100においては、熱媒体供給温度の実績値の時間的な傾向に基づいて、熱媒体供給温度を予測する。典型的には、熱媒体供給温度の時間挙動を複数計測しておき、その計測結果を統計的手法により解析し、熱媒体供給温度の挙動を示す関数を決定する方法など、各種の公知の方法を採用することができる。
【0060】
本実施の形態においては、自己相関型の予測モデル式と測定可能な外乱因子を組み込んだ予測モデル式とを組み合わせた方法を採用する。なお、測定可能な外乱因子は、制御対象である反応器温度に影響を及ぼす可能性のある因子とすることが好ましい。このような外乱因子を組み込むことで、プラント固有の応答遅れを補償することができる。
【0061】
一例として、以下の(1)式に示すようなモデル式を採用することができる。
T(n+N)=a1×{T(n)−T(n−k)}+a2×{d1(n)−d1(n−l)}+a3×{d2(n)−d2(n−m)}+a4 …(1)
ただし、T:熱媒体供給温度、n:予測実行時のタイミングを示すサフィックス、N:予測実行時から予測対象までの期間のタイミングを示すサフィックス、k,l,m:予測実行時から過去のタイミングを示すサフィックス、d1,d2:測定可能な外乱因子である。
【0062】
上述の(1)式において、パラメータa1に関する項が自己相関型の予測モデル式に相当する部分であり、パラメータa2およびa3に関する項が外乱因子を組み込んだ予測モデル式に相当する部分である。また、a4は、バイアス調整項である。
【0063】
なお、パラメータa1〜a4の各々は、計測された熱媒体供給温度の時間的変化に対してタイムシフトの操作を行なった上で、将来の熱媒体供給温度と外乱因子との多重回帰を求めることで決定できる。なお、パラメータa1〜a4の値は、予測対象までの期間Nの大きさに依存して決定される。また、期間Nは、対象のシステム100における応答遅れなどに応じて決定することが好ましい。
【0064】
測定可能な外乱因子d1およびd2としては、原料供給量や除熱器4の見かけ上の熱伝達効率を代表する指標といった因子を採用することが好ましい。
【0065】
上述のように、過去のサンプルタイミングにおける熱伝達媒体の温度実績値に基づいて、熱媒体供給温度の予測値が算出される。
【0066】
<原料供給温度の目標値の変更タイミング>
以下、熱媒体供給温度の予測値に基づいて、原料供給温度の目標値を変更するタイミングについて説明する。
【0067】
図2は、本発明の実施の形態に従う化学プロセスにおける原料供給温度の目標値を変更するタイミングを説明するための図である。本実施の形態に従うシステムにおいては、図2に示すように、熱媒体供給温度の操作可能範囲(温度下限〜温度上限の範囲)内に2つの管理区間を設定し、熱媒体供給温度の予測値がいずれかの管理区間を逸脱するタイミングで、原料供給温度の目標値を変更する。すなわち、管理区間1は、第1温度下限値PL〜第1温度上限値PHの範囲に設定され、管理区間2は、より操作可能範囲に近い、第2温度下限値LL〜第2温度上限値HHの範囲に設定される。このように、操作可能範囲の中央値を基準にして、複数の管理区間に分割される。
【0068】
熱媒体供給温度の予測値がいずれかの管理区間を定義するしきい値を横切るタイミングで、原料供給温度の目標値が変更される。さらに、熱媒体供給温度の予測値が操作可能範囲に到達したタイミングにおいても、原料供給温度の目標値を変更してもよい。なお、新たな原料供給温度の目標値は、熱媒体供給温度を中央値に戻すために必要な値が後述する熱バランスに基づいて算出される。なお、変更後の原料供給温度の目標値は、温度コントローラ32(図1)にセットされる。
【0069】
ここで、管理区間1および管理区間2を定義する温度上下限値は、熱媒体供給温度の予測値の時間挙動に応じていずれか一方がしきい値として採用される。すなわち、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って上昇する場合には、管理区間1の第1温度上限値PHおよび管理区間2の第2温度上限値HHがそれぞれしきい値として採用され、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って降下する場合には、管理区間1の第1温度下限値PLおよび管理区間2の第2温度下限値LLがそれぞれしきい値として採用される。
【0070】
具体的には、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って下降していき、管理区間1の第1温度下限値PLおよび管理区間2の第2温度下限値LLをそれぞれ横切ったとすると(図2の時刻T1およびT2)、各タイミングにおいて、原料供給温度の目標値が変更される。同様に、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って上昇していき、管理区間1の第1温度上限値PHを横切ったとすると(図2の時刻T3)、そのタイミングにおいて、原料供給温度の目標値が変更される。
【0071】
これに対して、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って上昇していき、管理区間1の第1温度下限値PLや管理区間2の第2温度下限値LLを横切ったとしても、原料供給温度の目標値は変更されない。同様に、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って下降していき、管理区間1の第1温度上限値PHや管理区間2の第2温度上限値HHを横切ったとしても、原料供給温度の目標値は変更されない。これは、設定されている原料供給温度の目標値に従って、熱媒体供給温度の予測値が中央値に戻る途中の状態であるため、原料供給温度の目標値をさらに変更する必要がないと考えられるためである。
【0072】
上述のように、熱媒体供給温度の予測値が第1温度下限値PLまたは第1温度上限値PHを横切る場合には、第1温度下限値PLまたは第1温度上限値PHからそれぞれ中央値に戻るために必要な原料供給温度の目標値が算出され、熱媒体供給温度の予測値が第2温度下限値LLまたは第2温度上限値HHを横切る場合には、第2温度下限値LLまたは第2温度上限値HHからそれぞれ中央値に戻るために必要な原料供給温度の目標値が算出される。後述するように、反応器2における熱バランスに基づいて算出される原料供給温度の目標値についての変更量(絶対値)は、中央値に近い第1温度下限値PLまたは第1温度上限値PHを横切る場合に算出される値に比較して、中央値から遠い第2温度下限値LLまたは第2温度上限値HHを横切る場合に算出される値の方が大きくなる。
【0073】
このように、原料供給温度の目標値についての変更量を中央値からの偏差に応じて変更することができるので、反応器2に生じる小規模の外乱に対しては、少ない制御出力の調整で対応することができる。
【0074】
図2に示す内容をまとめると以下のようになる。すなわち、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って上昇する場合には、操作可能範囲の中央値を基準として、より高い温度範囲において設定されている複数のしきい値(第1温度上限値PH、第2温度上限値HH、操作可能範囲の上限値など)に対して熱媒体供給温度の予測値が比較される。また、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って降下する場合には、操作可能範囲の中央値を基準として、より低い温度範囲において設定されている複数のしきい値(第1温度下限値PL、第2温度下限値LL、操作可能範囲の下限値など)に対して熱媒体供給温度の予測値が比較される。
【0075】
上述のように、本実施の形態に従うシステム100においては、熱媒体供給温度の操作可能範囲を複数の管理区間に分割して管理することで、中央値からの逸脱の大きさに応じて制御出力を最適化することができる。その結果、熱媒体供給温度の予測値に基づいて、原料供給温度の目標値を適宜見直すことで、必要最低限の操作をフィードフォワード的に、きめ細やかに行なうことができる。この結果、熱媒体供給温度が操作可能範囲を逸脱することを防止できるとともに、反応器温度が適切に制御できなくなるという不具合を回避できる。
【0076】
<制御構造>
図3は、本発明の実施の形態に従うプロセス制御に係る処理手順を提供するための機能ブロック図である。なお、図3に示す各機能ブロックは、代表的に、後述するようにコンピュータがプログラムを実行することで実現される。
【0077】
図3を参照して、本実施の形態に従うシステム100は、制御構造として、レベルコントローラ(PID)66と、流量コントローラ(PID)58と、流量コントローラ(PID)24と、温度コントローラ(PID)54と、圧力コントローラ(PID)62と、設定コントローラ(SEQ)70と、温度コントローラ(PID)32とを含む。
【0078】
上述したように、レベルコントローラ66は、PID制御に従って、レベル実績値が予め設定されるレベル目標値と一致するように、流調弁40に対して開度指令(操作量)を出力する。
【0079】
流量コントローラ58は、PID制御に従って、熱媒体供給量実績値が予め設定される熱媒体供給量目標値と一致するように、流調弁48に対して開度指令(操作量)を出力する。
【0080】
流量コントローラ24は、PID制御に従って、原料供給量実績値が予め設定される原料供給量目標値と一致するように、流調弁22に対して開度指令(操作量)を出力する。
【0081】
温度コントローラ54は、PID制御に従って、予め設定される反応器温度目標値に対する反応器温度実績値の偏差に応じた制御量(制御偏差)を圧力コントローラ62および設定コントローラ70へ出力する。
【0082】
圧力コントローラ62は、温度コントローラ54からの偏差出力を飽和蒸気圧目標値とみなして、PID制御に従って、飽和蒸気圧実績値がその飽和蒸気圧目標値と一致するように、流調弁50に対して開度指令(操作量)を出力する。
【0083】
設定コントローラ70は、熱媒体供給温度予測ロジック70aと、原料供給温度目標値算出ロジック70bとを含む。熱媒体供給温度予測ロジック70aは、飽和蒸気圧実績値の時間的変化などに基づいて、熱媒体供給温度の予測値を算出する。原料供給温度目標値算出ロジック70bは、熱媒体供給温度予測ロジック70aにより算出された熱媒体供給温度の予測値がいずれかの管理区間を逸脱したか否かを判断し、逸脱したタイミングで、温度コントローラ32に対して設定する原料供給温度目標値を変更する。この際、原料供給温度目標値算出ロジック70bは、原料供給量実績値、反応器温度についての制御偏差、および、飽和蒸気圧管理区間の上限値または下限値(熱媒体供給温度管理区間の上限値または下限値)を用いて、反応器2における熱バランスに基づいて、新たな原料供給温度目標値を算出する。
【0084】
温度コントローラ32は、PID制御に従って、原料供給温度実績値が設定コントローラ70により設定される原料供給温度目標値と一致するように、流調弁28に対して開度指令(操作量)を出力する。
【0085】
<原料供給温度目標値の更新処理>
以下、図3に示す設定コントローラ70の原料供給温度目標値算出ロジック70bにおける原料供給温度目標値の更新処理について説明する。
【0086】
反応器2の定常状態においては、原料Aの化学反応によって生じる反応熱は、除熱器4による除熱量、原料Aの持ち込み熱量、反応生成物の持ち出し熱量と熱バランスする。そのため、以下に示すような(2)式が成立する。
【0087】
Qr=U・A・(Tr−Tj)+Fi・Cpo・Tr−Fi・Cpi・Ti …(2)
ただし、Qr:反応熱、U:除熱器4の総括伝熱係数、A:除熱器4の伝熱面積、Fi:原料A供給量、Cpi:原料Aの比熱、Cpo:反応生成物の比熱、Tr:反応器温度、Tj:熱媒体供給温度、Ti:原料供給温度である。
【0088】
ここで、(2)式に基づいて、反応器温度Trが変動した場合(Tr→Tr+ΔTr)において、原料供給温度Tiを変更する(Ti→Ti+ΔTi)ことにより、熱媒体供給温度Tjを熱媒体供給温度の操作可能範囲の中央値Tsに維持することを考えると、以下に示すような(3)式を導出できる。
【0089】
Qr=U・A・(Tr+ΔTr−Ts)+Fi・Cpo・(Tr+ΔTr)−Fi・Cpi・(Ti+ΔTi) …(3)
ただし、ΔTr:反応器温度変動量(制御偏差)、ΔTi:原料供給温度変更量である。
【0090】
上記(2)式と(3)式との間で差をとり、原料供給温度変更量ΔTiについて解くと、以下に示すような(4)式が成立する。
【0091】
ΔTi={U・A・(ΔTr+Tj−Ts)}/(Fi・Cpi)+(Cpo/Cpi)・ΔTr …(4)
したがって、設定コントローラ70の原料供給温度目標値算出ロジック70bは、原料供給温度目標値を更新する必要があると判断すると、上述の(4)式に従って、原料供給温度変更量ΔTiを算出し、変更前の原料供給温度目標値にこの算出した原料供給温度変更量ΔTiを加算することで、新たな原料供給温度目標値を決定する。すなわち、設定コントローラ70の原料供給温度目標値算出ロジック70bは、現在の原料供給温度目標値を上記のように決定された原料供給温度変更量ΔTiで補正することで新たな原料供給温度目標値を決定する。
【0092】
特に、上述の(4)式に従って原料供給温度変更量ΔTiを算出する場合には、熱媒体供給温度Tjとして、熱媒体供給温度の実績値(現在値)ではなく、熱媒体供給温度が逸脱すると予測される対象の管理区間の上限値または下限値がセットされる。すなわち、上述の(1)式に示す温度予測式に従って算出される熱媒体供給温度の予測値が、いずれかの管理区域の上限値または下限値を横切ると、その横切った上限値/下限値が熱媒体供給温度Tjとして採用される。併せて、上述の(4)式に含まれる中央値Tsとしては、当該熱媒体供給温度が逸脱すると予測される対象の管理区間の中央値が採用される。
【0093】
このように、熱媒体供給温度の実績値ではなく、熱媒体供給温度の予測値が逸脱すると予測される管理区間の上限値/下限値および中央値を用いることで、原料供給温度目標値を事前に変更することができる。これにより、熱媒体供給温度の実績値が管理区間を逸脱する前に、原料供給温度目標値を変更することができる。
【0094】
なお、反応器2内において、反応による相変化がない場合には、原料Aの比熱Cpi=反応生成物の比熱Cpoと考えて、原料供給温度変更量ΔTiを算出してもさしつかえはない。
【0095】
また、反応器2内において、反応による相変化がある(たとえば、原料の少なくとも一部を液相で供給し、反応熱により気相化する)場合には、原料Aの比熱Cpi≠反応生成物の比熱Cpoであるので、上述の(2)式の左辺を、原料Aの気相潜熱量Qvを用いて気相潜熱の変化について考慮した項“Qr+Qv”に変更した上で、上述の(3)式および(4)式を解くことで、原料供給温度変更量ΔTiを算出できる。
【0096】
さらに、反応器2内に対して、原料Bの連続的な供給が行なわれる場合には、上述の(2)式の左辺を、さらに原料Bの顕熱量Qcを用いて原料顕熱の変化について考慮した項“Qr+Qv+Qc”に変更した上で、上述の(3)式および(4)式を解くことで、原料供給温度変更量ΔTiを決定できる。
【0097】
<処理手順>
次に、本実施の形態に従う制御方法の処理手順について説明する。図4は、本発明の実施の形態に従うシステム100におけるプロセス制御の処理手順を示すフローチャートである。図4に示す処理手順は、所定周期(たとえば、100msec〜1sec)で繰り返し実行される。なお、図4には、図3に示すそれぞれのコントローラを1つの制御主体上に実装した場合の処理手順(直列処理)の例を示すが、それぞれのコントローラが互いに独立して動作可能なように実装した場合には、各ステップが並列的に実行されてもよい。また、コントローラによって先に演算された結果を当該コントローラに関連付けられた他のコントローラで利用するような処理を除いて、各ステップの実行順序は図4に示すものには限定されない。
【0098】
図4を参照して、ステップS2において、流量計20により検出される原料供給量実績値を取得する。続くステップS4において、PID制御に従って、取得された原料供給量実績値と予め設定されている原料供給量目標値との間の偏差から、流調弁22に対する開度指令を算出する。
【0099】
ステップS6において、流量計56により検出される熱媒体供給量実績値を取得する。続くステップS8において、PID制御に従って、取得された熱媒体供給量実績値と予め設定されている熱媒体供給量目標値との間の偏差から、流調弁48に対する開度指令を算出する。すなわち、熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させる。
【0100】
ステップS10において、温度計52により検出される反応器温度実績値を取得する。続くステップS12において、PID制御に従って、取得された反応器温度実績値と予め設定されている反応器温度目標値との間の偏差に応じた、制御偏差を算出する。すなわち、反応器2内の温度を取得して、予め設定されている反応器2内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出する。
【0101】
続くステップS14において、圧力計60により検出される飽和蒸気圧実績値を取得する。さらに続くステップS16において、PID制御に従って、取得された飽和蒸気圧実績値と予め設定されている飽和蒸気圧目標値との間の偏差から、流調弁50に対する開度指令を算出する。すなわち、反応器2内の温度偏差に応じた目標値と一致するように、熱伝達媒体の温度を制御する。
【0102】
ステップS18において、熱媒体供給温度の予測値を算出する。すなわち、熱伝達媒体の温度を予測する。続くステップS20において、熱媒体供給温度の予測値の時間的変化を判断する。熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って下降中である場合(ステップS20において「下降」)には、処理はステップS22へ進む。これに対して、熱媒体供給温度の予測値が時間経過に伴って上昇中である場合(ステップS20において「上昇」)には、処理はステップS24へ進む。
【0103】
ステップS22において、熱媒体供給温度の予測値が設定されているいずれかの管理区間の下限値を横切ったか否かを判断する。すなわち、熱媒体供給温度の予測値がいずれかの管理区間を逸脱したか否かが判断される。熱媒体供給温度の予測値が設定されているいずれかの管理区間の下限値を横切った場合(ステップS22においてYES)には、処理はステップS26へ進む。一方、熱媒体供給温度の予測値が設定されているいずれの管理区間の下限値も横切っていない場合(ステップS22においてNO)には、処理はステップS32へ進む。
【0104】
ステップS24において、熱媒体供給温度の予測値が設定されているいずれかの管理区間の上限値を横切ったか否かを判断する。すなわち、熱媒体供給温度の予測値がいずれかの管理区間を逸脱したか否かが判断される。熱媒体供給温度の予測値が設定されているいずれかの管理区間の上限値を横切った場合(ステップS24においてYES)には、処理はステップS26へ進む。一方、熱媒体供給温度の予測値が設定されているいずれの管理区間の上限値も横切っていない場合(ステップS24においてNO)には、処理はステップS32へ進む。
【0105】
ステップS26において、ステップS2において取得された原料供給量実績値、ステップS12において算出された制御偏差、ステップS22またはS24において検知した予測値が横切った管理区間の上限値または下限値、ならびに、各管理区間の中央値に基づいて、上述の(4)式に従って、原料供給温度変更量ΔTiを算出する。すなわち、反応器2内の熱バランスの関係に基づいて、原料Aの温度についての新たな目標値が算出される。
【0106】
続くステップS28において、原料供給温度が追従調整中であるか否かを判断する。これは、原料供給温度の目標値が変更された後、原料供給温度の実績値がその変更後の目標値に追従しようと変化している期間内においては、原料供給温度目標値がさらに変更されることを抑制する。具体的には、原料供給温度についての目標値と実績値との偏差が所定しきい値を超えているか否かを判断する。そして、原料供給温度についての目標値と実績値との偏差が所定しきい値以下であれば、原料供給温度の追従が完了していると判断する。
【0107】
原料供給温度が追従調整中である場合(ステップS28においてYES)には、処理はステップS32へ進む。一方、原料供給温度が追従調整中でない場合(ステップS28においてNO)には、処理はステップS30へ進む。
【0108】
ステップS30において、算出した原料供給温度変更量ΔTiを用いて、原料供給温度目標値を更新する。すなわち、熱伝達媒体の温度予測値が冷却能力範囲を逸脱すると予測された場合に、反応器2内の熱バランスの関係に基づいて、原料Aの温度について、新たな目標値を設定する。そして、処理はステップS32へ進む。
【0109】
ステップS32において、温度計30により検出される原料供給温度実績値を取得する。続くステップS34において、PID制御に従って、取得された原料供給温度実績値と原料供給温度目標値(ステップS30が実行された場合には、更新後の原料供給温度目標値)との間の偏差から、流調弁28に対する開度指令を算出する。すなわち、原料Aの温度についての目標値と一致するように、加熱手段である予熱器10による加熱量を制御する。
【0110】
ステップS36において、レベル計64により検出されるレベル実績値を取得する。続くステップS38において、PID制御に従って、取得されたレベル実績値と予め設定されているレベル目標値との間の偏差から、流調弁40に対する開度指令を算出する。
【0111】
そして、今回の演算周期における処理は終了する。
<シミュレーション例>
上述した本実施の形態に従う制御方法を図1に示すシステム100に適用した場合の効果を計算機シミュレーションによって確認した結果を以下に示す。
【0112】
図5〜図8は、本発明の実施の形態に従う制御方法による効果を計算機シミュレーションによって評価した結果を示すグラフである。
【0113】
(1.原料供給温度を制御しない場合)
図5には、図1に示すシステム100に相当するシステムにおいて、プロセスに外乱が生じた場合の挙動を評価したグラフを示す。比較のため、図5には、設定コントローラ70による原料供給温度についての制御を無効化した例を示す。すなわち、原料供給温度を一定値に維持したまま、圧力コントローラ62(図1)が貯留ドラム6内の飽和蒸気圧を調整することで、熱媒体供給温度を変更する制御構成を考える。
【0114】
このプロセスの外乱としては、以下の内容とした。
・除熱器4の総括伝熱係数U(上述の(2)式参照)が振幅±5%、振動周期300分の正弦波で変動(実際の設備において、反応度が変化することにより発熱量が変化する場合を間接的に表現したものである)
また、プロセスの前提条件としては、以下の内容とした。
【0115】
・原料供給量および原料供給温度は一定とする
・貯留ドラム6内の飽和蒸気圧の操作可能範囲を熱媒体供給温度の上限値が基準温度+5℃で、熱媒体供給温度の下限値が基準温度−5℃となるような範囲とする
図5(a)は、図1に示す温度コントローラ54についての、反応器温度の実績値および目標値の時間的変化を示す。この例では、反応器温度の目標値は一定値に維持されるので、この反応器温度の目標値に対する実績値の偏差に応じて、貯留ドラム6内の飽和蒸気圧が調整される。
【0116】
図5(b)は、圧力コントローラ62についての熱媒体供給温度(実績値)の時間的変化を示す。なお、理解を容易にするために、図5(b)には、熱媒体供給温度をプロットしているが、実際の制御系では、貯留ドラム6内の飽和蒸気圧が操作対象となる。図5(b)に示すように、図5(a)に示す反応器温度の実績値の変動に伴って、熱媒体供給温度の実績値も変動していることがわかる。
【0117】
図5(c)は、図1に示す温度コントローラ32についての、原料供給温度の実績値および目標値の時間的変化を示す。上述したように、この例では、原料供給温度の目標値は変更されないので、原料供給温度の実績値は、この原料供給温度目標値に従って、一定値に維持されることがわかる。
【0118】
図5(b)に示すように、熱媒体供給温度(飽和蒸気圧)が操作可能範囲内におさまっている期間においては、反応器温度の実績値が反応器温度の目標値に従って制御されていることがわかる。しかしながら、熱媒体供給温度(飽和蒸気圧)が操作可能範囲を逸脱(操作可能上限値または下限値に張り付いた状態)した期間(符号Aの部分)においては、反応器温度の実績値が目標値から大きく離れていることがわかる。すなわち、反応器温度を適切に制御できていないといえる。
【0119】
(2.原料供給温度を熱媒体供給温度の実績値に基づいて制御する場合)
次に、図6には、図5に示すシミュレーション結果と同様のプロセス外乱の条件下で、原料供給温度を制御するようにした場合のシミュレーション結果を示す。なお、図6においては、熱媒体供給温度の予測値ではなく、熱媒体供給温度の実績値に基づいて、原料供給温度の目標値を変更する例を示す。
【0120】
図6におけるプロセスの外乱は、図5と同様である。また、プロセスの前提条件としては、以下の内容とした。
【0121】
・原料供給量は一定とする
・貯留ドラム6内の飽和蒸気圧の操作可能範囲を熱媒体供給温度の上限値が基準温度+5℃で、熱媒体供給温度の下限値が基準温度−5℃となるような範囲とする
・熱媒体供給温度(飽和蒸気圧)の実績値が操作可能範囲の上限値(基準温度+5℃)または第2温度上限値HH(基準温度+3.5℃)を横切ったタイミング、ならびに、操作可能範囲の下限値(基準温度−5℃)または第2温度下限値LL(基準温度−3.5℃)を横切ったタイミングで、原料供給温度の目標値を見直すものとする
図6(a)に示すように、反応器温度に応じて、原料供給温度を調整することで、反応器温度の実績値が反応器温度の目標値に対して大きく乖離するような事態を抑制できることがわかる。すなわち、図6(b)および図6(c)に示すように、熱媒体供給温度の実績値が操作可能範囲の上下限値またはその近傍に達したタイミング(時刻T11およびT12)で、反応器2内の熱バランスを維持しようとして、原料供給温度の目標値が変更される。
【0122】
但し、図6(c)に示すように、原料供給温度の目標値が変更されたとしても、原料供給温度の実績値が変更後の目標値に追従するまでには、ある程度の応答遅れが発生していることがわかる。さらに、図6(a)に示すように、原料供給温度の実績値が変更されたとしても、反応器温度の実績値が上昇または降下に転じるまでにも、ある程度の応答遅れ(むだ時間+応答時間)が発生していることがわかる。
【0123】
その結果、熱媒体供給温度(飽和蒸気圧)が操作可能範囲を逸脱(操作可能上限値または下限値に張り付いた状態)した期間(符号Bの部分)が生じており、この期間においては、反応器温度を適切に制御できていないといえる。
【0124】
(3.原料供給温度を熱媒体供給温度の予測値に基づいて制御する場合)
次に、図7には、図6に示すシミュレーション結果と同様のプロセス外乱の条件下で、原料供給温度を制御した場合のシミュレーション結果を示す。図7においては、熱媒体供給温度の予測値に基づいて、原料供給温度の目標値を変更する例を示す。
【0125】
図7におけるプロセスの外乱およびプロセスの前提条件は、熱媒体供給温度の予測値を用いる点を除いて、図6と同様である。
【0126】
図7(a)に示すように、熱媒体供給温度の予測値を用いることで、反応器温度の実績値の目標値からの乖離を±0.15℃の範囲内に制御できていることがわかる。すなわち、熱媒体供給温度の実測値を用いて原料供給温度を調整する場合(図6(a)参照)に比較して、その制御特性を著しく改善できることを示している。
【0127】
これは、図7(b)および図7(c)に示すように、熱媒体供給温度の予測値を用いることで、熱媒体供給温度の実績値を用いる場合に比較して、より早いタイミング(時刻T21およびT22)で原料供給温度の目標値を変更するため、熱媒体供給温度が操作可能範囲の上限値または下限値に張り付くという事態(すなわち、熱媒体供給温度がその操作可能範囲を逸脱するような状況)を回避できるからである。
【0128】
さらに、図8には、より多くの管理区間(典型例として、3つの管理区間)を設定して、原料供給温度を制御する構成を示す。より具体的には、図8におけるプロセスの外乱は、図7と同様とした上で、プロセスの前提条件としては、以下の内容とした。
【0129】
・原料供給量は一定とする
・貯留ドラム6内の飽和蒸気圧の操作可能範囲を熱媒体供給温度の上限値が基準温度+5℃で、熱媒体供給温度の下限値が基準温度−5℃となるような範囲とする
・熱媒体供給温度(飽和蒸気圧)の実績値が操作可能範囲の上限値(基準温度+5℃)、第2温度上限値HH(基準温度+3.5℃)、または、第1温度上限値PH(基準温度+2℃)を横切ったタイミング、ならびに、操作可能範囲の下限値(基準温度−5℃)、第2温度下限値LL(基準温度−3.5℃)、または、第1温度下限値PL(基準温度−2℃)を横切ったタイミングで、原料供給温度の目標値を見直すものとする
図8(a)に示すように、熱媒体供給温度の予測値と比較される管理区間をより多く設定することで、反応器温度の実績値の目標値からの乖離を±0.12℃の範囲内に制御できていることがわかる。すなわち、2つの管理区間を設定して原料供給温度の目標値を見直す構成(図7参照)に比較して、制御特性をより改善できることを示している。
【0130】
これは、図8(b)および図8(c)に示すように、反応器2における化学反応の変動に伴う熱媒体供給温度の変動に応じて、原料供給温度が反応器2内の熱バランスを考慮して逐次見直されるため(時刻T31〜T34)、熱媒体供給温度が操作可能範囲の上限値または下限値に張り付くという事態(すなわち、熱媒体供給温度がその操作可能範囲を逸脱するような状況)を回避できるからである。
【0131】
言い換えれば、図8に示す制御ロジックによれば、熱媒体供給温度の予測値が中央値からどの程度逸脱しているかに応じてきめ細かく、かつ、先行して原料供給温度の目標値を見直すため、反応器温度をより高精度に制御することができる。
【0132】
<ハードウェア構成>
上述した本実施の形態に従う制御方法を実行するための制御機能は、代表的に、コンピュータによって提供される。
【0133】
図9は、本発明の実施の形態に従う制御方法を提供するためのコンピュータのハードウェア構成を示す概略構成図である。
【0134】
図9を参照して、コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)102と、ROM(Read Only Memory)104と、RAM(Random Access Memory)106と、デジタル入力I/F(Interface)108と、デジタル入力I/F110と、アナログ出力I/F112と、アナログ出力I/F114とを含む。これらの各部は、内部バス116を介して相互にデータ通信可能に接続される。
【0135】
コンピュータでは、演算装置であるCPU102が、ROM104などに予め定め格納されたプログラムをRAM106などに展開した上で実行することで、上述したような本実施の形態に従う制御方法を提供する。
【0136】
なお、本実施の形態に従うプログラムは、コンピュータに接続されるコンソール150からROM104(もしくは、図示しないハードディスクドライブなど)へ転送されてもよい。あるいは、コンピュータに接続される読取装置などを介して、FD(Flexible Disk)やCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)といった記憶媒体からプログラムを読み出すようにしてもよい。さらに、図示しないネットワークインターフェイスを介して、外部サーバなどからいわゆるダウンロードの形式でプログラムを取得してもよい。
【0137】
デジタル入力I/F108、デジタル入力I/F110、アナログ出力I/F112、アナログ出力I/F114は、対象のプロセスに設けられるセンサやコントローラとの間で信号を遣り取りする。なお、デジタル入力I/F108およびデジタル入力I/F110は、“ON”または“OFF”といった2値化された信号を遣り取りするために使用され、アナログ出力I/F112およびアナログ出力I/F114は、センサによる検出信号や流調弁に対する開度指令といった、アナログ信号を遣り取りするために使用される。
【0138】
上述したように、コンピュータには、パーソナルコンピュータベースのコンソール150が接続されるようにしてもよい。このコンソール150においては、コンピュータにおける制御実行状態などをモニタすることが可能である。
【0139】
なお、上述したようなコンピュータに代えて、その一部または全部を専用のハードウェアによって実現してもよい。
【0140】
<変形例1>
上述の実施の形態においては、反応器2に熱交換器である除熱器4を設ける構成を例示したが、反応器2内から熱を取除くための熱交換器は、反応器2の外部に設けられてもよい。以下、このような変形例について例示する。
【0141】
図10は、本発明の実施の形態の変形例に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。図10を参照して、本実施の形態の変形例1に従うシステム200は、図1に示すシステム100に比較して、反応器2内の除熱器4に代えて、反応器2外に除熱器5を設けた点が異なっている。この除熱器5を採用したことに伴って、除熱器5の前後に、反応器2内の媒体(雰囲気ガス、液相媒体、触媒など)を抽出するための取出経路14と、熱交換後の媒体を反応器2へ戻すための戻り経路16とが設けられている。さらに、取出経路14は、吸引ポンプ12が設けられている。
【0142】
すなわち、吸引ポンプ12の運転により、反応器2内の媒体が取り出されて、除熱器5において冷却されるとともに、その冷却後の媒体が反応器2へ戻される。
【0143】
このようなプロセスにおいても、上述の実施の形態に従う制御方法と同様の作用効果を得ることができる。
【0144】
<変形例2>
上述の実施の形態においては、第2温度調整手段として機能する1つの予熱器10を用いて、原料Aを加熱(または冷却)する構成について例示したが、複数の予熱器を配置してもよい。すなわち、図1に示す化学プロセスにおいては、原料Aとして調整済の原料(複数種類の原料を混合したもの)を想定したが、原料別に加熱または冷却した上で、それぞれを反応器2に対して供給するようにしてもよい。
【0145】
図11は、本発明の実施の形態の変形例2に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。図11を参照して、本実施の形態の変形例2に従うシステム100Aは、図1に示すシステム100に比較して、原料を反応器2へ供給する原料供給手段を複数備える点が異なっている。すなわち、本実施の形態の変形例2に従うシステム100Aは、反応器2へ2種類の原料A1およびA2を供給するように構成されている。
【0146】
原料A1を反応器2内へ供給する原料供給手段は、その流量制御系として、供給経路26−1上に設置された流量計20−1および流調弁22−1、ならびに、流量計20−1および流調弁22−1に接続された流量コントローラ24−1を含む。また、原料供給手段は、その温度制御系として、加熱媒体の供給経路上に設置された流調弁28−1および供給経路26−1上に設置された温度計30−1、ならびに、温度計30−1および流調弁28−1に接続された温度コントローラ32−1を含む。
【0147】
同様に、原料A2を反応器2内へ供給する原料供給手段は、その流量制御系として、供給経路26−2上に設置された流量計20−2および流調弁22−2、ならびに、流量計20−2および流調弁22−2に接続された流量コントローラ24−2を含む。また、原料供給手段は、その温度制御系として、加熱媒体の供給経路上に設置された流調弁28−2および供給経路26−2上に設置された温度計30−2、ならびに、温度計30−2および流調弁28−2に接続された温度コントローラ32−2を含む。
【0148】
各原料供給手段の構成および動作については、図1を参照して説明したので、詳細な説明は繰返さない。また、その他の部位の構成および動作についても、後述する設定コントローラ70における原料供給温度変更量ΔTiの算出ロジックを除いて、基本的には、図1に示すシステム100と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0149】
図11においては、2種類の原料を反応器2内へ供給する構成について例示したが、N種類の原料を反応器2内へ供給するように拡張することもできる。この場合においても、N個の原料供給手段を並列的に配置することで実現される。
【0150】
次に、図11に示すようなN個の原料供給手段を有するシステムにおいて、設定コントローラ70が原料供給温度目標値を更新するための算出ロジックについて説明する。
【0151】
各原料供給手段(n=1,2,・・・,N)における、対応する原料の供給量をFin(Fi1,Fi2,・・・,FiN)とし、対応する原料の比熱をCpin(Cpi1,Cpi2,・・・,CpiN)とし、対応する原料の原料供給温度をTin(Ti1,Ti2,・・・,TiN)とすると、上述の(2)式に相当する熱バランス式は、以下に示すような(5)式のように表すことができる。
【0152】
Qr=U・A・(Tr−Tj)+Cpo・Tr・Σ(Fin)−Σ(Fin・Cpin・Tin) …(5)
ただし、Σは、n=1〜Nまでの積算を意味する(以下、同様である)。
【0153】
ここで、(5)式に基づいて、反応器温度Trが変動した場合(Tr→Tr+ΔTr)において、原料供給温度Tinを変更する(Tin→Tin+ΔTin)ことにより、熱媒体供給温度Tjを熱媒体供給温度の操作可能範囲の中央値Tsに維持することを考えると、以下に示すような(6)式を導出できる。
【0154】
Qr=U・A・(Tr+ΔTr−Ts)+Cpo・(Tr+ΔTr)・Σ(Fin)−Σ{Fin・Cpin・(Tin+ΔTin)} …(6)
上記(5)式と(6)式との間で差をとると、以下に示すような(7)式が成立する。
【0155】
Δ(Fin・Cpin・ΔTin)=U・A・(ΔTr+Tj−Ts)+Cpo・ΔTr・ΣFin …(7)
上述の(7)式では、N種類の原料供給温度変更量ΔTinを決定するための自由度があるが、典型的には、原料供給手段の間での原料供給温度変更量ΔTinを互いに同じような値に設定、すなわち、すべての原料について、ほぼ同じ温度だけ変更するように制御することで、原料供給温度変更量ΔTinを比較的容易に算出できる。あるいは、各原料供給手段における温度変更に伴うコストCnが既知であれば、N個の原料供給手段で生じるコスト増分の総和(ΣCn・ΔTin)が最小値となるように、原料供給温度変更量ΔTinをそれぞれ決定してもよい。このような決定には、公知の線形計画法などを適用することができる。さらに、原料供給手段における温度範囲に制約がある場合には、その制約の範囲内で原料供給温度変更量ΔTinを決定してもよい。
【0156】
したがって、設定コントローラ70は、原料供給温度目標値を更新する必要があると判断すると、上述の(7)式に従って、N個の原料供給手段のそれぞれにおける原料供給温度変更量ΔTinをそれぞれ算出し、変更前のそれぞれの原料供給温度目標値に対応する原料供給温度変更量ΔTinを加算することで、新たな原料供給温度目標値をそれぞれ決定する。
【0157】
その他の処理については、上述した実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0158】
<変形例3>
上述の変形例2に従うシステム100Aでは、各原料供給手段が互いに独立に反応器2へ原料を供給する構成について例示したが、反応器2の前段でそれぞれの原料を混合することが好ましい場合もある。このような場合には、以下に説明するようなシステムが好適である。
【0159】
図12は、本発明の実施の形態の変形例3に従う化学プロセスのシステム構成図の概要を示す図である。図12を参照して、本実施の形態の変形例3に従うシステム100Bは、図11に示すシステム100Aに比較して、加熱後の原料A1および原料A2を混合するためのミキサー29と、ミキサー29の出側に設置された温度計31とをさらに備える点が異なっている。すなわち、本実施の形態の変形例3に従うシステム100Bでは、反応器2へ原料を供給する前に、2種類の原料A1およびA2を混合するように構成されている。その他については、上述のシステム100Aと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0160】
さらに、図12に示すシステム100Bにおいても、N種類の原料を反応器2内へ供給するように拡張することもできる。
【0161】
図12に示すシステム100Bにおいても、設定コントローラ70は、原料供給温度目標値を更新する必要があると判断すると、N個の原料供給手段のそれぞれにおける原料供給温度変更量ΔTinを算出する。
【0162】
図12に示す例では、ミキサー29の出側に設けられた温度計31が混合後(調整済)の原料の温度を測定するので、この温度計31により検出された温度を原料供給温度として上述の(4)式を適用することで、新たな原料供給温度目標値を決定できる。
【0163】
あるいは、ミキサー29の出側の温度を測定しない構成を採用することもできる。この場合には、図12に示すシステム100Bが図1に示すシステム100の原料の供給経路を拡張したものであるので、上述の(7)式を適用することで、新たな原料供給温度目標値を決定できる。
【0164】
その他の処理については、上述した実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0165】
<変形例4>
上述の変形例2および3に示すような複数種類の原料を反応器2内へ供給するような構成を、上述の変形例1に適用することもできる。
【0166】
<変形例5>
上述の実施の形態およびその変形例では、第1温度調整手段が熱伝達媒体を循環的に供給して反応器2内の媒体と熱交換させることで反応器2内を冷却するように構成され、第2温度調整手段が反応器2内へ供給される原料を加熱するように構成されたシステムを例示したが、本発明は、第1温度調整手段が熱伝達媒体を循環的に供給して反応器2内の媒体と熱交換させることで反応器2内を加熱するように構成され、第2温度調整手段が反応器2内へ供給される原料を冷却するように構成されたシステムにも適用可能である。
【0167】
この場合には、たとえば、図1などに示す貯留ドラム6において、熱伝達媒体を加熱する機構を設け、さらに、図1などに示す予熱器10に冷却媒体を通じるようにすればよい。
【0168】
<本実施の形態による作用・効果>
本発明の実施の形態によれば、反応器2の除熱器4に循環供給される熱伝達媒体の流量を必要なレベルに維持したまま、その熱伝達媒体の温度を調整することで、反応器2内でのプロセス変動(反応度の変動や除熱器4における熱交換能力の変動)などに対応する。その上で、熱伝達媒体の温度が操作可能範囲からの逸脱が予想される場合には、それを補うために、原料Aの原料供給温度が調整される。
【0169】
このように、除熱器4へ供給される熱伝達媒体の温度および反応器2内へ供給される原料Aの温度をそれぞれ適切に調整することで、除熱器4へ供給される熱伝達媒体の温度および流量に制約がある場合であっても、反応器2内の温度を適切に制御できる。
【0170】
また、除熱器4を循環する熱伝達媒体の流量を適正レベルに維持できるので、熱伝達を円滑に行なうことができる。
【0171】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0172】
2 反応器、4,5 除熱器、6 貯留ドラム、8 ブースターポンプ、10,10−1,10−2 予熱器、12 吸引ポンプ、14 取出経路、16 経路、20,20−1,20−2,56 流量計、22,22−1,22−2,28,28−1,28−2,40,48,50 流調弁、24,24−1,24−2,58 流量コントローラ、26,26−1,26−2,44 供給経路、30,30−1,30−2,31,52 温度計、32,32−1,32−2,54 温度コントローラ、46 排出経路、60 圧力計、62 圧力コントローラ、64 レベル計、66 レベルコントローラ、70 設定コントローラ、70a 熱媒体供給温度予測ロジック、70b 原料供給温度目標値算出ロジック、100,100A,100B,200,300 システム、102 CPU、104 ROM、106 RAM、108 デジタル入力I/F、110 デジタル入力I/F、112 アナログ出力I/F、114 アナログ出力I/F、116 内部バス、150 コンソール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を反応器内へ供給する原料供給手段と、熱伝達媒体を循環的に供給して前記反応器内の媒体と熱交換させることで前記反応器内を冷却または加熱する第1温度調整手段と、前記反応器内へ供給される原料を加熱または冷却する少なくとも1つの第2温度調整手段とを含む化学プロセスにおける制御方法であって、
前記熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させるステップと、
前記反応器内の温度を取得して、予め設定されている反応器内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出するステップと、
前記温度偏差に応じた目標値と一致するように、前記熱伝達媒体の温度を制御するステップと、
前記原料の温度についての目標値と一致するように、前記少なくとも1つの第2温度調整手段による温度調整量を制御するステップと、
前記熱伝達媒体の温度を予測するステップと、
前記熱伝達媒体の温度予測値に基づいて、前記原料の温度についての目標値を変更するステップとを備える、化学プロセスにおける制御方法。
【請求項2】
前記目標値を変更するステップは、
前記温度予測値が所定範囲を逸脱したか否かを判断するステップと、
前記温度予測値が前記所定範囲を逸脱した場合に、新たな目標値を設定するステップとを含む、請求項1に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項3】
前記所定範囲を逸脱したか否かを判断するステップは、前記温度予測値が時間経過に伴って上昇する場合には、前記温度予測値と第1のしきい値とを比較し、前記温度予測値が時間経過に伴って降下する場合には、前記温度予測値と前記第1のしきい値とは独立した第2のしきい値とを比較する、請求項2に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項4】
前記所定範囲の中央値を基準として、より高い温度範囲において複数の前記第1のしきい値が設定され、より低い温度範囲において複数の前記第2のしきい値が設定される、請求項3に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項5】
前記新たな目標値を設定するステップは、前記反応器内の熱バランスの関係に基づいて、前記原料の温度についての新たな目標値を算出するステップを含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項6】
前記新たな目標値を算出するステップは、
前記反応器内へ供給される原料の供給量と、前記温度偏差と、前記熱伝達媒体の温度とを用いて、目標値の変更量を決定するステップと、
現在の目標値を当該決定された目標値の変更量で補正することで新たな目標値を決定するステップとを含む、請求項5に記載の化学プロセスの制御方法。
【請求項7】
前記熱伝達媒体の温度を予測するステップは、過去のサンプルタイミングにおける前記熱伝達媒体の温度実績値に基づいて、前記温度予測値を算出する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項8】
前記第1温度調整手段は、前記熱伝達媒体の循環経路上に配置された、前記熱伝達媒体を蓄えるドラムを含み、
前記熱伝達媒体の温度を制御するステップは、前記ドラム内の飽和蒸気圧を制御するステップを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化学プロセスの制御方法。
【請求項9】
化学プロセスを処理するためのシステムであって、
原料を反応器内へ供給する原料供給手段と、
熱伝達媒体を循環的に供給して前記反応器内の媒体と熱交換させることで前記反応器内を冷却または加熱する第1温度調整手段と、
前記反応器内へ供給される原料を加熱または冷却する少なくとも1つの第2温度調整手段と、
制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させる手段と、
前記反応器内の温度を取得して、予め設定されている反応器内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出する手段と、
前記温度偏差に応じた目標値と一致するように、前記熱伝達媒体の温度を制御する手段と、
前記原料の温度についての目標値と一致するように、前記少なくとも1つの第2温度調整手段による温度調整量を制御する手段と、
前記熱伝達媒体の温度を予測する手段と、
前記熱伝達媒体の温度予測値に基づいて、前記原料の温度についての目標値を変更する手段とを含む、システム。
【請求項10】
原料を反応器内へ供給する原料供給手段と、熱伝達媒体を循環的に供給して前記反応器内の媒体と熱交換させることで前記反応器内を冷却または加熱する第1温度調整手段と、前記反応器内へ供給される原料を加熱または冷却する少なくとも1つの第2温度調整手段とを含む化学プロセスを制御するためのプログラムであって、前記プログラムは、コンピュータを
前記熱伝達媒体を予め設定されている供給量で循環させる手段、
前記反応器内の温度を取得して、予め設定されている反応器内の温度についての目標値に対する温度偏差を算出する手段、
前記温度偏差に応じた目標値と一致するように、前記熱伝達媒体の温度を制御する手段、
前記原料の温度についての目標値と一致するように、前記少なくとも1つの第2温度調整手段による温度調整量を制御する手段、
前記熱伝達媒体の温度を予測する手段、
前記熱伝達媒体の温度予測値に基づいて、前記原料の温度についての目標値を変更する手段、として機能させる、化学プロセスを制御するためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−183341(P2011−183341A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53157(P2010−53157)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】