説明

化学処理装置

【課題】 処理槽の状態を迅速かつ精度よく評価することができ、被処理物を適切に化学処理することのできる化学処理装置を提供すること。
【解決手段】 固定床式反応器1において、反応槽2内に設けられる反応管3に、上下方向に沿って互いに等間隔を隔てて配置される複数の熱電対13が設けられている多点式温度計11を挿入し、各熱電対13によって反応管3の上下方向における異なる位置での温度を同時に検知し、制御部15により、それら検知された各温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成することにより、反応管3内に充填されている固体触媒の触媒活性能や寿命を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を化学処理するための化学処理装置、詳しくは、固定床式反応器や精留装置などの化学処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学製品を製造するためのプラントでは、反応器や精留装置などの種々の化学処理装置が設備されている。
このような化学処理装置において、例えば、固定床式反応器は、反応槽に触媒が充填されており、その反応槽に、被処理物を通過させることにより、被処理物を反応させるものである。
【0003】
このような固定床式反応器では、反応槽に充填されている触媒が、時間とともに劣化するが、その触媒の劣化は、通常、被処理物の通過方向において、上流側から下流側へと経時的に移行する。
そこで、固定床式反応器において、触媒が充填されている反応槽内に、サーモカップルを上下方向に移動させて、触媒の温度を測定し、その温度測定結果から、触媒の温度分布を得ることにより、触媒活性能あるいは寿命を評価することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−294341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、触媒活性能や寿命を精度よく評価しようとすると、触媒の温度を精度よく測定する必要がある。しかるに、触媒の温度を精度よく測定するためには、触媒の温度測定点において、温度検知手段が十分に温度平衡に到達している必要がある。
しかし、上記した提案のように、サーモカップルを上下方向に移動させて、触媒の温度を測定すると、サーモカップルが十分に温度平衡に到達していない状態で、触媒の温度を測定している場合があり、触媒活性能や寿命を精度よく評価できないという不具合がある。また、サーモカップルを上下方向に移動させて触媒の温度を測定すると、そのサーモカップルの上下方向移動に時間を要して、同一時間、同一環境における触媒の温度分布を測定することができず、さらなる精度の低下を生じるとともに、迅速な温度分布測定を達成できないという不具合もある。
【0005】
本発明の目的は、処理槽の状態を迅速かつ精度よく評価することができ、被処理物を適切に化学処理することのできる化学処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の化学処理装置は、被処理物を化学処理するための化学処理装置において、前記被処理物を流入させて化学処理するための処理槽と、前記処理槽において、前記被処理物の流れ方向において、互いに間隔を隔てて設けられる複数の温度検知手段と、各前記温度検知手段によって検知された温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成するための検知温度プロファイル作成手段とを備えていることを特徴としている。
【0007】
この化学処理装置によると、被処理物の流れ方向において、複数の温度検知手段が互いに間隔を隔てて設けられており、検知温度プロファイル作成手段が、各温度検知手段によって検知された温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成する。各温度検知手段は、予め温度測定点に設けられており、十分に温度平衡に到達しているので、精度のよい温度検知を達成することができる。また、予め温度測定点に設けられているため、各温度検知手段によって同時に温度検知することができる。そのため、同一時間、同一環境における温度検知を達成することができ、さらなる精度の向上を図ることができる。また、同時に温度検知すれば、迅速な温度検知を達成することができる。さらに、各温度検知手段によって検知された温度に基づいて、検知温度プロファイルが作成されるので、処理槽の状態を、迅速かつ精度よく評価することができる。その結果、被処理物を適切に化学処理することができる。
【0008】
また、本発明の化学処理装置では、前記処理槽内の温度を調節するための温度調節手段と、基準となる基準温度プロファイルを有し、前記検知温度プロファイルと、前記基準温度プロファイルとを比較して、前記温度調節手段を制御するための温度制御手段とをさらに備えていることが好適である。
温度制御手段によって、検知温度プロファイルと基準温度プロファイルとを比較して、各温度調節手段を制御すれば、処理槽を、より一層、適切な状態にすることができる。
【0009】
また、本発明の化学処理装置は、表示画面上に基準となる基準温度プロファイルを表示し、同一画面上に前記検知温度プロファイルをグラフ化して、その差を表示することにより、前記化学処理装置を監視する分散制御システムによって、管理されていることが好適である。
このような分散制御システムによって、化学処理装置を管理すれば、基準温度プロファイルと検知温度プロファイルとのずれを、迅速に把握することができ、そのずれを的確に補正することができる。
【0010】
また、本発明の化学処理装置では、前記処理槽が、前記被処理物の流れ方向において、直列的および/または並列的に複数接続されていてもよい。
処理槽が、被処理物の流れ方向において直列的および/または並列的に複数接続されていれば、被処理物を連続して効率的に処理することができる。
また、本発明の化学処理装置は、固定床式反応器であることが好適である。固定床式反応器であると、触媒の触媒活性能や寿命を、精度よく評価することができる。
【0011】
また、本発明の化学処理装置は、精留装置であることが好適である。精留装置であると、エネルギーコストの削減、品質の向上、装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化学処理装置によれば、処理槽の状態を迅速かつ精度よく評価することができ、被処理物を適切に化学処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の化学処理装置の一実施形態としての固定床式反応器を示す概略構成図である。
図1において、この固定床式反応器1は、多管式反応器であって、処理槽としての反応槽2と、その反応槽2内に設けられる複数の反応管3およびジャケット部4とを備えている。
【0014】
反応槽2は、上壁および下壁を有する密閉円筒型をなし、その上壁には、被処理物としての反応原料を供給する筒状の供給管5が設けられ、その下壁には、反応生成物(未反応原料を含む。)を排出する筒状の排出管6が設けられている。
また、反応槽2には、その周側壁において、下側に冷媒を供給するための筒状の入口管7が、上側に、冷媒を排出するための筒状の出口管8が、それぞれ設けられている。
【0015】
入口管7には、冷媒供給ライン9が接続されており、その冷媒供給ライン9には、温度調節手段としての開閉弁16および流量計17が接続されている。また、出口管8には、冷媒排出ライン10が接続されている。
反応管3は、反応槽2の長手方向(上下方向)に沿って延びる直管からなり、その反応管3内には、固体触媒が充填されている。反応管3は、反応槽2内において、互いに間隔を隔てて、上下方向に沿って複数配置されている。
【0016】
ジャケット部4は、反応槽2における各反応管3の間の空間として形成されている。
また、この固定床式反応器1では、複数の反応管3のうちの任意の反応管3に、多点式温度計11が挿入されている。なお、多点式温度計11は、特に制限されないが、例えば、反応槽2の中心軸線に対して互いに反対側に配置され、反応槽2の周方向において180°変位する各反応管3に2つ挿入されるか、あるいは、反応槽2の周方向において90°変位する各反応管3に4つ挿入されている。
【0017】
この多点式温度計11は、反応槽2の長手方向(上下方向)に沿って延びる支持杆12に、複数の温度検知手段としての熱電対13が、各温度測定点に配置されるように、長手方向(上下方向)に沿って互いに等間隔を隔てて設けられている。なお、各熱電対13の間隔は、反応槽2のサイズに応じて適宜決定されるが、例えば、5cm〜5m、好ましくは、10cm〜2mである。
【0018】
この多点式温度計11は、支持杆12よりも大径の保護管14に挿入され、その保護管14とともに、反応管2に挿入されている。これによって、多点式温度計11は、反応管3内において、固定触媒が直接接触することが、保護管14によって防止されている。
また、多点式温度計11、開閉弁16および流量計17は、検知温度プロファイル作成手段である温度制御手段としての制御部15または表示部に接続されている。表示部に接続されている場合は、後述するが、表示部に予め表示された基準温度プロファイルと表示された検知温度プロファイルとの差により、冷媒の設定温度や、原材料の流量、反応圧力などを設定し、制御する。検知温度プロファイルが制御部15に接続されている場合、制御部15には、多点式温度計11によって検知される反応管3内の温度、および、流量計17によって検知される冷媒の供給量が入力される。この制御部15は、例えば、分散制御システム(DCS)として構築されており、後で詳述するが、入力される反応管3内の温度に基づいて、開閉弁16を制御して、冷媒の供給量を調節する。
【0019】
そして、この固定床式反応器1では、供給管5から反応槽2内へ反応原料が供給される。そうすると、反応原料は、複数の反応管3内へ並行して流入し、反応管3内において上方から下方に向かって流れ、その間に固体触媒と接触することにより反応して、反応生成物が生成される。そして、生成された生成物は、排出管6から反応槽2外へ排出される。
また、冷媒供給ライン9から入口管7を介して供給される冷媒は、ジャケット部4に流入し、各反応管3の周りを冷却した後、出口管8を介して冷媒排出ライン10へ排出される。
【0020】
そして、この固定床式反応器1では、多点式温度計11の各熱電対13によって、反応管3の長手方向(上下方向)における異なる位置での温度を同時に検知して、制御部15が、それら検知された各温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成することにより、固定床反応器1の内部の温度分布をリアルタイムで検出し、検知温度プロファイルと基準温度プロファイルを比較し、基準温度プロファイルとのずれがあった場合は、冷媒の設定温度、冷媒の流量、原料の流量、反応圧力等を調整することにより、そのずれを補正する。基準温度プロファイルは、複数を準備しておき、固定床反応器1の上部の触媒活性が低下した等と判断できたときは、次の基準温度プロファイルに表示を変更し、新しい基準温度プロファイルに検知温度プロファイルが適合するように冷媒等を調整する。また、反応の開始や異常反応の検出をすることができ、スタートアップ時に反応の開始が確認されれば、次工程の準備等に適切に取り掛かることもできる。ホットスポットの発生等異常反応が検出された場合は、インターロックシステムにより緊急シャットダウンすることができる。この基準温度プロファイルの遷移により固体触媒の品質、触媒活性能や寿命を評価することもできる。
【0021】
次に、この固定床式反応器1を用いて、反応原料として、一酸化炭素(CO)と塩素ガス(Cl2)とを反応させて、反応生成物として、ポリイソシアネートを製造するための原料である塩化カルボニル(COCl2)を生成するための化学処理を例示して、上記の評価をさらに詳細に説明する。
この評価においては、反応管3の長さが、例えば、2000mmに設定されており、反応管3内には、固体触媒として活性炭が充填されている。また、多点式温度計11では、熱電対13が100mmの等間隔毎に20個設けられている。
【0022】
また、制御部15が、開閉弁16を制御することにより、冷媒の供給量が調節され、それによって、反応管3内の最高温度(多点式温度計11の熱電対13によって検知される最高温度)が300〜400℃に調節されている。なお、反応温度が350℃を超えると、四塩化炭素の副生が多くなるので、反応管3内の最高温度を350℃以下で制御することが好適である。
【0023】
また、反応槽2内の圧力は、反応温度にも依るが、0.01〜1.0MPaに設定されている。
そして、供給管5から、一酸化炭素と塩素とが、反応槽2内へ供給される。一酸化炭素および塩素を供給する流速は、例えば、生成する塩化カルボニルの量が0.5〜10kg/(kg−cat・h)となる範囲で適宜調節され、一酸化炭素と塩素との供給比は、例えば、一酸化炭素/塩素のモル比率として、1以上、好ましくは、1.03〜1.10である。一酸化炭素と塩素とは、それぞれ独立して供給してもよく、また、予め混合して供給することもできる。
【0024】
そして、一酸化炭素および塩素は、複数の反応管3内へ並行して流入し、反応管3内において上方から下方に向かって流れ、その間に固体触媒と接触することにより反応して、塩化カルボニルが生成される。そして、生成された塩化カルボニルは、未反応の一酸化炭素および塩素とともに、排出管6から反応槽2外へ排出される。
そして、このような塩化カルボニルの製造において、この固定床式反応器1では、多点式温度計11の各熱電対13によって、反応管3の長手方向(上下方向)における異なる位置での温度を同時に検知して、制御部15では、それら検知された各温度に基づいて、図2に示すような検知温度プロファイルが作成される。なお、この検知温度プロファイルは、例えば、オペレータが、制御部15に接続されているマウスなどを操作することにより、制御部15に接続されているディスプレイに、ポップアップ表示される。
【0025】
図2において、この検知温度プロファイルには、反応管3内に充填されている固体触媒を交換したときから、n日後、2n日後、3n日後の反応管3内の温度分布が示されている。
すなわち、固体触媒を交換すると、交換当初は、反応管3内の上下方向すべてにわたって、触媒活性能が高く、そのため、交換初期(例えばn日後)では、反応管3内に一酸化炭素および塩素が流入すると、一酸化炭素および塩素の流れ方向上流側の固体触媒において、反応が進行する。そのため、図2の四角のグラフが示すように、例えば、反応管3の上端から下端に向う200mm部分での反応熱が最大となる。
【0026】
その後、交換後しばらく経過(例えば2n日後)すると、上流側の固体触媒が、経時的に劣化するので、反応管3内に一酸化炭素および塩素が流入すると、一酸化炭素および塩素の流れ方向上流側〜中央の固体触媒において、反応が進行する。そのため、図2の丸のグラフが示すように、例えば、反応管3の上端から下端に向う400〜600mm部分での反応熱が最大となる。
【0027】
そして、交換からさらに経過(例えば3n日後)すると、上流側〜中央の固体触媒が、経時的に劣化するので、反応管3内に一酸化炭素および塩素が流入すると、一酸化炭素および塩素の流れ方向中央の固体触媒において、反応が進行する。そのため、図2の菱形のグラフが示すように、例えば、反応管3の上端から下端に向う600〜800mm部分での反応熱が最大となる。
【0028】
そして、このような検知温度プロファイルから、反応管3内に充填されている固体触媒の触媒活性能や寿命を評価する。例えば、図2に示す検知温度プロファイルにおいて、例えば、反応管3の上端から下端に向う1000mm部分での反応熱が最大となったとき、すなわち、反応管3に充填されている固体触媒の上流側半分が劣化したと認められたときに寿命と判断して、反応管3内の固体触媒を交換する。
【0029】
このように、この固定床式反応器1では、反応原料(一酸化炭素および塩素)の流れ方向において、複数(20個)の熱電対13が互いに等間隔を隔てて設けられており、制御部15が、各熱電対13によって検知された温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成する。そして、各熱電対13は、予め挿入されている多点式温度計11の支持杆12において、等間隔の温度測定点に設けられており、温度測定時には、十分に温度平衡に到達している。そのため、精度のよい温度検知を達成することができる。また、支持杆12において、予め温度測定点に設けられているため、各熱電対13によって同時に温度検知することができる。そのため、同一時間、同一環境における温度検知を達成することができ、さらなる精度の向上を図ることができる。また、同時に温度検知すれば、迅速な温度検知を達成することができる。さらに、このように、各熱電対13によって検知された温度に基づいて、制御部15が検知温度プロファイルを作成するので、反応管3内の状態を、迅速かつ精度よく評価することができる。その結果、反応管3内に充填されている固体触媒の触媒活性能や寿命を精度よく評価して、反応原料(一酸化炭素および塩素)を適切に反応させて、効率よく反応生成物(塩化カルボニル)を得ることができる。
【0030】
また、この固定床式反応器1では、制御部15において、予め基準となる基準温度プロファイルを設定しておき、上記した検知温度プロファイルと、基準温度プロファイルとを比較して、開閉弁16の制御により反応管3内の温度を調節することによって、上記した検知温度プロファイル(検知温度プロファイルの波形)が基準温度プロファイル(基準温度プロファイルの波形)に近づくように、制御することもできる。このような制御によれば、反応管3内を、より一層、適切な状態にすることができ、反応管3内に充填される触媒の長寿命化を図ることができる。なお、このような制御では、例えば、供給管5から反応原料(一酸化炭素および塩素)を供給する流速を制御したり、あるいは、一酸化炭素/塩素のモル比率を制御することもできる。
【0031】
また、上記の説明では、固定床式反応器1は、1つの反応槽2から単槽として構成したが、例えば、図3に示すように、反応槽2を、反応原料の流れ方向において、直列的および/または並列的に複数接続して、多段槽として構成することもできる。
すなわち、図3には、上記した一酸化炭素と塩素とから塩化カルボニルを製造するための多段槽型の固定床式反応器1が示されている。
【0032】
図3において、反応槽2は、直列的に3段に構成され、第1段目において3つの反応槽2が並列的に接続され、2段目において2つの反応槽2が並列的に接続され、3段目において1つの反応槽2が接続されている。
より具体的には、1段目においては、1段目並列接続ライン21によって、3つの反応槽2が並列的に接続されている。1段目並列接続ライン21の上流側(以下、上流側および下流側は、反応原料の流れ方向を基準とする。)には、一酸化炭素を供給するための一酸化炭素供給ライン22が接続されている。一酸化炭素供給ライン22の途中には、塩素を供給するための1段目塩素供給ライン23が接続されている。
【0033】
2段目においては、2段目並列接続ライン24によって、2つの反応槽2が並列的に接続されている。また、1段目並列接続ライン21の下流側と、2段目並列接続ライン24の上流側とが、1段目/2段目直列接続ライン25によって接続されている。また、1段目/2段目直列接続ライン25の途中には、1段目塩素供給ライン23から分岐する2段目塩素供給ライン26が接続されている。
【0034】
3段目においては、1つの反応槽2が配置され、その反応槽2の上流側と、2段目並列接続ライン24の下流側とが、2段目/3段目直列接続ライン27によって接続されている。また、2段目/3段目直列接続ライン27の途中には、2段目塩素供給ライン26から分岐する3段目塩素供給ライン28が接続されている。また、その反応槽2の下流側には、塩化カルボニルを排出するための塩化カルボニル排出ライン29が接続されている。
【0035】
さらに、一酸化炭素供給ライン22、1段目塩素供給ライン23、2段目塩素供給ライン26および3段目塩素供給ライン28には、それぞれ開閉弁30が設けられている。
そして、この固定床式反応器1では、開閉弁30の開閉動作によって、一酸化炭素供給ライン22および1段目塩素供給ライン23から1段目並列接続ライン21へ、一酸化炭素および塩素が供給される。なお、一酸化炭素/塩素のモル比率は、1以上とされる。そうすると、1段目並列接続ライン21に供給された一酸化炭素および塩素は、3つの反応槽2に分配して供給され、各反応槽2において反応された後、反応混合物(生成した塩化カルボニルおよび未反応一酸化炭素)として、再び合流して、1段目/2段目直列接続ライン25に供給される。
【0036】
1段目/2段目直列接続ライン25に供給された反応混合物には、2段目塩素供給ライン26から、さらに塩素が供給され、その後、2段目並列接続ライン24へ供給される。2段目並列接続ライン24に供給された反応混合物は、2つの反応槽2に分配して供給され、各反応槽2においてさらに反応された後、反応混合物として再び合流して、2段目/3段目直列接続ライン27に供給される。
【0037】
2段目/3段目直列接続ライン27に供給された反応混合物には、3段目塩素供給ライン28から、さらに塩素が供給され、その後、3段目において、1つの反応槽2に供給され、その反応槽2においてさらに反応された後、塩化カルボニル排出ライン29から排出される。
固定床式反応器1を、上記のように多段槽として構成すれば、一酸化炭素と塩素とを逐次的に反応させて、塩化カルボニルを製造することができ、塩化カルボニルを連続して効率的に製造することができる。
【0038】
なお、上記の説明では、固定床式反応器1を、一酸化炭素と塩素との反応により塩化カルボニルを製造するために用いているが、この固定床式反応器1は、上記の例示に制限されることなく、工業的に製造される種々の化学製品の製造、例えば、プロピレンの二量化による4メチルペンテン−1の製造、塩化水素の酸化による塩素の製造、アセトンの水素添加によるプロパノールの製造、プロパノールの脱水によるプロピレンの製造などに適用することができる。
【0039】
また、本発明の化学処理装置は、上記した固定床式反応器1のみならず、例えば、精留装置であってもよい。
図4は、本発明の化学処理装置の一実施形態としての精留装置を示す概略構成図である。
図4において、この精留装置41は、処理槽としての精留塔42と、加熱部43と、凝縮部44とを備えている。
【0040】
精留塔42は、所定の理論段数で設計された段塔や充填塔であって、キャップ塔や多孔板塔などから構成されている。この精留塔42の上下方向途中には、被処理物としての原液が供給される原液供給管45が接続されている。また、精留塔42の塔底には、高沸点成分に富んだ缶出液が取り出される缶出液取出管46が接続されている。また、精留塔42の塔頂には、低沸点成分に富んだ留出液が取り出される留出液取出管47が接続されている。
【0041】
また、精留塔42には、温度検知手段としての温度センサ56が複数設けられている。各温度センサ56は、精留塔42の上下方向に沿って、互いに等間隔を隔てて設けられている。なお、図4では、塔底から塔頂に向って順次T1〜T10までの10個の温度センサ56が、互いに等間隔を隔てて配置されている。
加熱部43は、精留塔42の塔底に接続される循環ライン48と、その循環ライン48の途中に介装されるヒータ(リボイラー)49とを備えている。ヒータ49は、熱交換器からなり、熱媒が供給されている。なお、このヒータ49には、熱媒の熱交換器に対する供給量を調節するための温度調節手段としての加熱調節弁50が設けられている。
【0042】
この加熱部43では、加熱調節弁50の調節により、ヒータ49での加熱温度が調節され、循環ライン48においてサーモサイフォンまたは強制循環により循環する缶出液が加熱される。
凝縮部44は、留出液取出管47の途中に介装されるクーラ51と、留出液取出管47の途中であって、クーラ51より下流側に介装されるコンデンサ52と、留出液取出管47の途中であって、コンデンサ52より下流側において、留出液取出管47から分岐して、精留塔42の塔頂に接続される還流ライン53とを備えている。クーラ51は、熱交換器からなり、冷媒が供給されている。なお、このクーラ51には、冷媒の熱交換器に対する供給量を調節するための温度調節手段としての冷却調節弁54が設けられている。また、還流ライン53の途中には、還流ライン53によって還流する留出液の還流量を調節するための温度調節手段としての還流調節弁55が設けられている。
【0043】
この凝縮部44では、冷却調節弁54の調節により、クーラ51での冷却温度が調節されており、留出液取出管47から取り出される留出液は、まず、クーラ51によって冷却され、次いで、コンデンサ52によって凝縮される。その後、還流調節弁55によって調節された割合で、その一部が還流ライン53を介して、精留塔42の塔頂に戻され、その残部が、凝縮された状態で留出液取出管47から取り出される。
【0044】
また、この精留装置41では、各温度センサ56、加熱調節弁50、冷却調節弁54および還流調節弁55が、温度制御手段としての制御部57に接続されている。制御部57には、各温度センサ56によって検知される精留塔42内の温度が入力される。この制御部57は、例えば、分散制御システム(DCS)として構築されており、後で詳述するが、入力される精留塔42内の温度に基づいて、加熱調節弁50、冷却調節弁54および還流調節弁55を制御する。
【0045】
そして、この精留装置41では、原液供給管45から精留塔42内へ原液が供給される。精留塔42内は、その塔底が加熱部43によって加熱され、その塔頂が凝縮部44によって冷却されている。そのため、精留塔42内には、塔底から塔頂へ向って、塔内温度が次第に低くなる温度分布が形成されている。そのため、原液供給管45から精留塔42内へ供給された原液は、精留塔42内を、その温度分布に従って、高沸点成分に富んだ缶出液と、低沸点成分に富んだ留出液とに分離され、缶出液が缶出液取出管46から取り出されるとともに、留出液が留出液取出管47から取り出される。
【0046】
そして、この精留装置41では、各温度センサ56によって、精留塔42内における上下方向(原液の流れ方向)の異なる位置での温度を同時に検知して、制御部57が、それら検知された各温度に基づいて、図5に示すように、検知温度プロファイルを作成している。なお、この検知温度プロファイルは、例えば、オペレータが、制御部57に接続されているマウスなどを操作することにより、制御部57に接続されているディスプレイに、ポップアップ表示される。
【0047】
図5において、この検知温度プロファイルには、温度センサ56のT1〜T10によって検知された精留塔42内の温度分布が示されている。
このように、この精留装置41では、原液の流れ方向において、複数(10個)の温度センサ56が互いに等間隔を隔てて設けられており、制御部57が、各温度センサ56によって検知された温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成する。そして、各温度センサ56は、予め等間隔の温度測定点に設けられており、温度測定時には、十分に温度平衡に到達している。そのため、精度のよい温度検知を達成することができる。また、予め温度測定点に設けられているため、各温度センサ56によって同時に温度検知することができる。そのため、同一時間、同一環境における温度検知を達成することができ、さらなる精度の向上を図ることができる。また、同時に温度検知すれば、迅速な温度検知を達成することができる。さらに、このように、各温度センサ56によって検知された温度に基づいて、制御部57が検知温度プロファイルを作成するので、精留塔42内の状態を、迅速かつ精度よく評価することができる。
【0048】
すなわち、この精留装置41では、制御部57において、予め基準となる基準温度プロファイル(図5中、仮想線で示されている。)が設定されており、上記した検知温度プロファイル(図5中、実線で示されている。)と、基準温度プロファイルとを比較して、加熱調節弁50、冷却調節弁54および還流調節弁55の制御により精留塔42内の温度分布を調節することによって、上記した検知温度プロファイル(検知温度プロファイルの波形)が基準温度プロファイル(基準温度プロファイルの波形)に近づくように、制御する。このような制御によれば、精留塔42内を、より一層、適切な状態にすることができる。その結果、最小限のエネルギーで必要な分離ができ、エネルギーコストの低減を図ることができるとともに、留出液および缶出液の品質の向上を図ることができる。また、最適の分離が実現できるため精留塔42のサイズを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の化学処理装置の一実施形態としての固定床式反応器を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す固定床式反応器において作成された検知温度プロファイルである。
【図3】一酸化炭素と塩素とから塩化カルボニルを製造するための多段槽型の固定床式反応器を示す概略構成図である。
【図4】本発明の化学処理装置の一実施形態としての精留装置を示す概略構成図である。
【図5】図4に示す精留装置において作成された検知温度プロファイルである。
【符号の説明】
【0050】
1 固定床式反応器
2 反応槽
13 熱電対
15 制御部
16 開閉弁
41 精留装置
42 精留塔
50 加熱調節弁
54 冷却調節弁
55 還流調節弁
56 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を化学処理するための化学処理装置において、
前記被処理物を流入させて化学処理するための処理槽と、
前記処理槽において、前記被処理物の流れ方向において、互いに間隔を隔てて設けられる複数の温度検知手段と、
各前記温度検知手段によって検知された温度に基づいて、検知温度プロファイルを作成するための検知温度プロファイル作成手段と
を備えていることを特徴とする、化学処理装置。
【請求項2】
前記処理槽内の温度を調節するための温度調節手段と、
基準となる基準温度プロファイルを有し、前記検知温度プロファイルと、前記基準温度プロファイルとを比較して、前記温度調節手段を制御するための温度制御手段と
をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載の化学処理装置。
【請求項3】
表示画面上に基準となる基準温度プロファイルを表示し、同一画面上に前記検知温度プロファイルをグラフ化して、その差を表示することにより、前記化学処理装置を監視する分散制御システムによって、管理されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の化学処理装置。
【請求項4】
前記処理槽が、前記被処理物の流れ方向において、直列的および/または並列的に複数接続されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化学処理装置。
【請求項5】
固定床式反応器であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化学処理装置。
【請求項6】
精留装置であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化学処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281166(P2006−281166A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107906(P2005−107906)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(501140544)三井化学ポリウレタン株式会社 (115)
【Fターム(参考)】