説明

化学反応回路を有するマイクロ流体装置

化学反応を行うのに有用な新しいマイクロ流体装置が提供される。装置は、オンチップ溶媒交換、多段階化学反応が必要な化学プロセス、および試薬の迅速濃縮に適合化されている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
発明はマイクロアセンブリ装置およびこのような装置を用いる化学合成法に関する。本発明は、マイクロ流体および合成化学の分野への適用を見出す。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は2004年12月3日付け出願の米国特許仮出願第60/633,121号および2005年9月29日付け出願の米国特許仮出願第60/721,607号の恩典を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
連邦補助研究の記載
本明細書に記載の研究の一部は、エネルギー省(Department of Enery(DOE):助成金番号DE-FC02-02ER63420-S-106,907)および国立癌研究所(National Cancer Institute:5P50CA086306)で支援された。合衆国政府は本発明の一部の権利を有し得る。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
マイクロ流体装置および方法は、生化学および薬学的研究で有意であり重要性が高まっている。しかしながらマイクロ流体技術を精密化学品および医薬品の連続合成に応用するためには、未だかなりの努力が必要なままである。ナノリットル(nL)〜マイクロリットル(μL)スケールに対する個々の化学プロセスを操作するために連続流マイクロ反応器が最近使用され、熱移動性能向上、より早い拡散時間および反応速度、および反応生成物の選択性の改善等の利点が得られている(de Mello et al., 2002,Lab on a Chip 2:7n;Kikutani and Kitamori,2004,Macromolecular Rapid Communication 25:158;Jahnisch et al., 2004,Angewandte Chemie-International Edition 43:406;Fletcher et al., 2002,Tetrahedron 58:4735;Worz et al., 2001,Chemical Engineering Science 56,1029;Watts et al., 2003,Current Opinion in Chemical Biology 7:380)。しかしながら、多段階処理では、フロースルー(flow-through)システムは異なった工程由来の試薬の相互汚染に悩まされており、各個々の工程を制限することができないことによって、副反応が生じ、かつ全体の収率が低くなる。改善された方法および装置が必要とされる。
【0005】
短命な同位体を有し、その放射により生体器官中の生物過程の詳細なマッピングが可能である有機化合物の調製において、マイクロ流体合成が適切に応用される。Phelps,2000,Proc.Nat.Acad.Sci.USA、97:9226参照。高感度放射線標識分子プローブの開発は、生物研究および医薬探査のためのインビボ撮像の標的特異性能を拡大するために重要である。合衆国は既に、放射線前駆体(例えば[18F]フルオリド、[11C]CO2および[11C]MeI)およびいくつかの標識生物マーカーのための便利な原料として、PETサイクロトロン生産拠点の広いネットワークを適所に保有している。従って、多様な放射線標識プローブ構造に対する能力は、コスト、速さおよび合成法の効率のみで制限される。放射性医薬の合成に使用し得るマイクロ流体装置は、医薬の有意な進歩に寄与し、患者に即座に有意な恩恵を提供できる。
【発明の開示】
【0006】
簡単な概要
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体装置を用いる溶媒交換法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;iii)反応器を流体隔離し、第1反応物を反応器中に保持する一方で、第1溶媒系の一部または全部を流体隔離された反応器から回収する工程;およびiv)反応器中に第1溶媒系とは異なる第2溶媒系を導入する工程。
【0007】
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体反応器から溶媒系を除去する方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定され、該反応器が任意で第1溶媒系を含有し、その場合は第1溶媒系が第1溶質および任意で含まれるその他の溶質を含む、工程;ii)反応器中に、第2溶質および任意で含まれるその他の溶質を含む第2溶媒系を導入する工程;iii)反応器を隔離する工程であって、それによって該反応器が第3溶媒系および溶質Aと呼ばれる溶質とを含有し、溶質Aが、第1溶質、第2溶質、または第1溶質および第2溶質のいずれかまたは双方が反応物である反応の生成物であり、該第3溶媒系が、第2溶媒系と同じである、または溶媒系が第1および第2溶媒系の組み合わせで構成される溶媒系である工程;iv)流体隔離された反応器から第3溶媒系の容積の少なくとも25%を回収する工程であって、第3溶媒系は、溶質Aが回収されるより速く反応器から回収され、反応器中の第3溶媒系の単位容積あたりの反応器中の溶質Aの量が、第3溶媒系が回収されるにつれて増加する、工程。ある態様では、溶質Aは3第溶媒系中の溶液中にあり、反応器中の溶質Aの濃度は第3溶媒系が回収されるにつれて増加する。
【0008】
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体装置を用いる化学反応を行う方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;iii)反応器を流体隔離し、第1反応物を反応器中に保持する一方で、第1溶媒系の一部または全部を流体隔離された反応器から回収する工程;iv)反応器中に、第2反応物を含む第2溶媒系を導入する工程であって、第1反応物と第2反応物は、反応条件下で化学的に反応して生成物を生じる化合物である、工程。本方法は、反応器を流体隔離する工程、ならびに、第1反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程をさらに含みうり、かつ/または、生成物を反応器中に保持する一方で、流体隔離された反応器から反応溶媒系の一部または全部を回収する工程をさらに含みうる。
【0009】
本方法は、i)反応器とマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;ii)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に、第3反応物および/または触媒を含む第3溶媒系を導入する工程;iii)第2反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程を含むことができる。前記方法は、i)反応器とマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;ii)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に、第3反応物および/または触媒を含む第3溶媒系を導入する工程;iii)第2反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程を含むことができる。
【0010】
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体装置を使用して化学反応を行う方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;iii)反応器中に第2反応物を含む第2溶媒系を導入する工程であって、第1反応物と第2反応物は、反応条件下で化学的に反応して生成物を生じる化合物である、工程;iv)反応器を流体隔離する工程であって、該反応器は、1)反応溶媒系と、2)第1および第2反応物ならびに/または生成物を含む、工程。本方法は、v)第1反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程;および、生成物を反応器中に保持する一方で、反応溶媒系の一部または全部を流体隔離された反応器から回収する工程を含みうる。前記方法は、i)反応器とマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;ii)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に、第3反応物および/または触媒を含む第3溶媒系を導入する工程;iii)第2反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程を含むことができる。本方法のある態様では、相当量の反応生成物を、工程(iv)の前に産生する。本方法の別の態様では、微量の反応生成物を、工程(iv)の前に産生する。
【0011】
ある局面では、本発明は、以下による、一体型マイクロ流体装置中で化学反応を行う方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;ii)第1反応物と第2反応物を反応器中で反応させる工程であって、第1および第2反応物が反応溶媒系内の溶液中にあり、反応器が流体隔離され、かつ、第1反応生成物が生成される、工程;iii)反応溶媒系の少なくとも一部を、流体隔離された反応器から蒸発させる工程;iv)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に第3反応物および/または触媒を含む溶液を導入する工程。
【0012】
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体装置を用いて化学反応を行う方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;iii)反応器中に第2反応物を含む第2溶媒系を導入する工程であって、第1反応物と第2反応物は、反応条件下で化学的に反応して生成物を生じる化合物である、工程;iv)反応器を流体隔離する工程であって、該反応器は、1)反応溶媒系と、2)第1および第2反応物ならびに/または生成物を含み、反応器がコイン型であり、かつ/または排気チャネルが反応器上に隣接する、工程。
【0013】
ある局面では、本発明は、以下による、一体型マイクロ流体装置中で化学反応を行う方法を提供する:(i)反応器を含むマイクロ流体装置および、固定相(stationary phase)を含む分離カラムを提供する工程;(ii)分離カラム中に第1反応物を含有する溶液を導入し、第1反応物を固定相に吸着させる工程;(iii)第1反応物を固定相から溶離する工程;(iv)第1反応物を反応器中に導入する工程;(v)第2反応物を反応器中に導入する工程であって、該第2反応物が、第1反応物の前または後、または同時に導入される工程;(vi)第1試薬および第2試薬が反応して第1反応生成物を生成するのに十分な時間および条件下で反応器を維持する工程。一部の態様では、反応器が、a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される。
【0014】
ある局面では、本発明は、以下による、一体型マイクロ流体装置を用いて連続化学反応を行う方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供し、少なくとも2つの連続化学反応を行うに十分な試薬を提供する工程;ii)反応器中で第1化学反応を行い、それによって生成物を生成する工程;iii)反応器中で第2化学反応を行う工程であって、(ii)由来の生成物が第2化学反応における反応物であり、かつ(ii)由来の生成物が工程(iii)の前に反応器から除去されない、工程。
【0015】
前記方法の特定の態様では、第1反応物または第2反応物が、反応器中に導入される前にオンチップマイクロ流体分離カラム中で精製または濃縮される。特定の態様では、分離カラムは、反応物を結合するイオン交換カラムなどのイオン交換カラムである。ある態様では、分離カラムが陰イオン交換カラムであり、第1反応物が18F[フルオリド]である。特定の態様では、分離カラムが篩カラムである。特定の態様では、第1または第2反応物が結合工程で最初にカラムの固定相に結合し、次いで、反応器中に導入される前に溶離工程でカラムの固定相から溶離される。特定の態様では、マイクロ流体装置が、分離カラムおよび一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み、かつ、結合工程が、カラムを通って第1または第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を有する。一部の場合、マイクロ流体装置が、分離カラムおよび一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を有し、かつ、溶出工程が、カラムを通って溶離液を少なくとも2回循環させる工程を含む。
【0016】
前記の方法の特定の態様では、第1および第2化学反応が異なった溶媒系で行われる。前記の方法の特定の態様では、第1溶媒系と第2溶媒系とが同時に導入される。前記の方法の特定の態様では、反応器が閉鎖ループでない。前記の方法の特定の態様では、反応器がコイン型である。
【0017】
前記の方法の特定の態様では、反応器が少なくとも4μLの流体容量を有する。前記の方法の特定の態様では、生成物の生成をもたらす反応条件を生じるために反応器が加熱される。例えば、一部の場合には、反応器が反応溶媒系を含有し、反応溶媒系が、反応溶媒系の通常の大気圧の沸点より高い温度に加熱される。
【0018】
前記の方法の特定の態様では、反応器は、分配マニホールドである少なくとも1つの流動チャネルと液体連通するように構成される。上記局面および態様などの、本発明の特定の態様では、マイクロ流体装置反応器は、流体隔離されるように構成されず、かつ/または、少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定されない。
【0019】
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体装置を使用する一連の化学反応を行う方法を提供する:i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、a)少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;b)流体隔離されるように構成され;かつc)少なくともその一部が液体の水および液体のアセトニトリルに対し実質的に不透過性であるが水蒸気およびアセトニトリル蒸気に対し透過性である壁で規定される、工程;ii)反応器中に[18F]フルオリドを含む水溶液を導入する工程;iii)反応器中にマンノーストリフラートを含むアセトニトリル溶液を導入する工程;iv)反応器を流体隔離する工程;v)[18F]フルオリドおよびマンノーストリフラートを反応させて2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコースを生成する工程;vi)反応器およびマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;vii)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコースを反応器中に保持する一方で、HCl水溶液を反応器に導入する工程;viii)反応器を流体隔離する工程;ならびにix)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコースを加水分解して18F-FDGを生成する工程。一部の態様では、本方法は、工程(ii)の前に、a)[18F]フルオリドを水性溶媒系中で反応器中に導入する工程;b)水性溶媒系を除去しアセトニトリルで置換する工程;c)マンノーストリフラートのアセトニトリル溶液を反応器中に導入する工程を含む。一部の態様では、マイクロ流体装置が、マイクロ流体分離カラムを含み;分離カラムおよび一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み;かつ該結合工程が、カラムを通って第1または第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を含む。
【0020】
[18F]フルオリドが結合工程で最初にカラムの固定相に結合し、次いで、反応器中へ導入される前に、溶離工程でカラムの固定相から溶離され、かつ、結合工程が、カラムを通って第1もしくは第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を含み、かつ/または、溶離工程が、カラムを通って溶離液を少なくとも2回循環させる工程を含む、添付の特許請求の範囲に記載の方法。
【0021】
別の局面では、本発明は、液体が通過し得る不動相(immobile phase)を含みかつ入口と出口を有する、分離カラム;固相(solid phase)を含まない一つまたは複数の流動チャネルを含むマイクロ流体装置であって、流動チャネルおよび分離カラムが閉鎖流路を規定する、マイクロ流体装置を提供する。一部の態様では、本装置は、閉鎖流路を通って液体を移動させることができる蠕動ポンプを含む。一部の態様では、本装置は、一つまたは複数の流動チャネルの1つと流体連通するように構成された反応器を含む。
【0022】
別の局面では、本発明は、(i)閉鎖流路を形成せず;(ii)流体隔離可能であり;かつ(iii)5マイクロリットル〜10マイクロリットルの液体容量を有する反応器を有する、マイクロ流体装置を提供する。一部の態様では、本装置は、1〜5個の反応器を有する。一部の態様では、本装置は、単一反応器を有する。一部の態様では、本装置は、コイン型反応器を有する。一部の態様では、本装置は、分配マニホールドである少なくとも1つの流動チャネルと液体連通するように構成される、反応器を有する。
【0023】
ある局面では、本発明は、以下による、マイクロ流体装置の反応チャンバ(反応器)から溶媒を除去する方法を提供する:溶質化合物および溶媒系を含有する反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程;溶質化合物を反応器中に保持する一方で、該溶媒系の全部または一部を除去し、それによって溶媒の単位容積あたりの溶質化合物の量を増加させる工程。一部の態様では、溶質化合物が溶液内に残存し、かつ溶液中の溶質の濃度が増加する。一部の態様では、少なくとも50%の溶媒系が反応器から除去される。一部の態様では、少なくとも95%の溶媒系が反応器中に残存する。一部の態様では、溶媒が水であり、その他では溶媒が水以外である。一部の態様では、溶質化合物が、放射性核種または放射性核種を含む分子を含む。例えば、放射性核種は[11C]、[124I]、[18F]、[124I]、[13N]、[52Fe]、[55Co]、[75Br]、[76Br]、[94Tc]、[111In]、[99Tc]、[111In]、[67Ga]、[123I]、[125I]、[14C]または[32P]である。ある態様では、溶質化合物は[18F]フルオリドまたは[18F]フッ化カリウムである。ある態様では、溶質化合物は、i)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース;ii)2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリル;またはiii)D-マンノーストリフラートである。ある態様では、溶質化合物が、クリプタンド、例えば4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサンである。
【0024】
ある局面では、本発明は、放射線標識反応物を前駆体反応物化合物と混合して、放射線標識生成物を生成する工程による、マイクロ流体環境中で放射線標識生成物を合成する方法であって、該混合および反応がマイクロ流体反応器内で生じ、放射線標識試薬が第1溶媒中で反応器中に導入され、かつ、放射線標識前駆体が第1溶媒とは異なる第2溶媒中で導入される、方法を提供する。ある態様では、放射線標識反応物が[18F]フッ化カリウムであり、前駆体反応物が2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリルまたはD-マンノーストリフラートである。ある態様では、放射線標識生成物が放射線標識分子撮像プローブである。ある態様では、前駆体反応物は、D-マンノーストリフラート、2-(1-{6-[(2-[(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル)エチリジン)マロノニトリル、N-Boc-5'-O-ジメトキシトリチル-3'-O-(4-ニトロフェニルスルホニル)-チミジン、N2-(p-アニシルジフェニルメチル)-9-[(4-p-トルエンスルホニルオキシ)-3-(p-アニシルジフェニルメトキシメチル)ブチル]グアニン、N2-(p-アニシルジフェニルメチル)-9-[[1-[(β-アニシルジフェニルメトキシ)-3-(p-トルエンスルホニルオキシ)-2-プロポキシ]メチル]グアニン、8-[4-(4-フルオロフェニル)-4,4-(エチレンジオキシ)ブチル]-3-[2'-(2,4,6-トリメチルフェニルスルホニルオキシエチル)]-1-フェニル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-4-オン、5'-O-Boc-2,3'-アンヒドロチミジン、N-[2-[4-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル-1]-4-ニトロ-N-2-ピリジニルベンズアミド、1,2-ビス(トシルオキシ)エタン、およびN,N-ジメチルエタノールアミン、ジトシルメタンまたはN,N-ジメチルエタノールアミンである。
【0025】
特定の態様では、前記の方法は、放射性反応物を濃縮する工程、および/または放射線標識生成物を脱保護もしくは化学修飾して放射線診断剤もしくは放射線治療剤を生成する工程をさらに含む。
【0026】
本発明の様々な局面では、2-デオキシ-2-[18F]フルオロ-D-グルコース([18F]FDG)、6-[18F]フルオロ-L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン([18F]FDOPA)、6-[18F]フルオロ-L-メタチロシン([18F]FMT)、9-[4-[18F]フルオロ-3-(ヒドロキシメチル)ブチル]グアニン([18F]FHBG)、9-[(3-[18F]フルオロ-1-ヒドロキシ-2-(プロポキシ)メチル]グアニン([18F]FHPG)、3-(2'-[18F]フルオロエチル)スピペロン([18F]FESP)、3'-デオキシ-3'-[18F]フルオロチミジン([18F]FLT)、4-[18F]フルオロ-N-[2-[1-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル]-N-2-ピリジニルベンズアミド([18F]p-MPPF)、2-(1-{6-[(2-[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリジン)マロノニトリル([18F]FDDNP)、2-[18F]フルオロ-α-メチルチロシン、[18F]フルオロミソニダゾール([18F]FMISO)、5-[18F]フルオロ-2'-デオキシウリジン([18F]FdUrd)、[11C]ラクロプリド、[11C]N-メチルスピペロン、[11C]コカイン、[11C]ノミフェンシン、[11C]デプレニル、[11C]クロザピン、[11C]メチオニン、[11C]コリン、[11C]チミジン、[11C]フルマゼニル、[11C]α-アミノイソ酪酸、または任意の上記化合物の保護型などの、放射線標識分子撮像プローブまたは放射線標識分子撮像プローブの前駆体が生成される。
【0027】
詳細な説明
第1節:定義
本明細書で使用される「流体」とは、1mm未満の断面寸法を少なくとも1つ有するマイクロチャネル(または「流動チャネル」、以下の3B節の説明を参照)を通って流れることができる液体を指す。本開示の目的では、「流体」という用語は気体を含まない。
【0028】
本明細書で使用される「マイクロ流体装置」、「一体型マイクロ流体装置」および「チップ」という用語は、マイクロ流体反応器、マイクロ流体チャネルおよびバルブを有する単一一体型ユニットを指し、互換的に用いられる。典型的にはマイクロ流体装置はポンプ、カラム、ミキサー等の他のマイクロ流体部品も有する。チップはエラストマー、ガラスまたはシリコンで製造されることが最も多い。典型的にはチップは長さおよび幅と比較して相対的に高さが低い角型であるが、正方形、円筒形などを含む他の形でもあり得る。
【0029】
本明細書で使用される「化学反応回路(CRC)」という用語はマイクロ流体反応器、流動チャネルおよびバルブを含むチップを指し、連続化学反応の実施のためにチップを有用にする構成を有する。
【0030】
本明細書で使用される「マイクロ流体システム」とは、連続化学反応を実施するシステムを指し、少なくとも1個のマイクロ流体装置(例えばCRC)および、装置外部の部品を一つまたは複数含む。外部部品の例には外部センサー、外部クロマトグラフィーカラム、アクチュエータ(例えばポンプまたはシリンジ)、バルブ作動制御システム、データ記憶システム、試薬貯蔵ユニット(容器)、検出および分析装置(例えば質量分光光度計)ならびに当技術分野において公知の他の部品が含まれる。
【0031】
「流体連通」、「流体連通するように構成される」、「流体隔離されるように構成される」、「流体隔離される」および「流体結合する」という用語は、マイクロ流体系の部品間の関係、特に流動チャネルと反応器を有するバルブとの間の関係、または流動チャネルとマイクロ流体カラムを有するバルブとの間の関係を説明するものである。
【0032】
本明細書で使用される「流体連通」は、マイクロ流体分野における通常の意味を有する。一つの部品から別の部品へ流体を移動(例えばポンプ送液)させることができる場合、二つのチップ部品は「流体連通」状態である。例えば、流動チャネルが反応器に接続され、反応器からチャネルへの液体の移動を阻止し得る任意のバルブが「開」位置にある場合、反応器と流動チャネルとは流体連通している。同様に、反応器からカラムへの液体の移動を阻止し得る任意のバルブが「開」の位置にある場合、流動チャネルにより接続された反応器とカラムとは流体連通している。
【0033】
本明細書で使用される「流体連通するように構成される」および「流体隔離されるように構成される」という用語は、流体を一つのチップ部品から他の部品への移動を阻止または可能にするように置かれるまたは位置しているバルブの存在を指す。閉じている場合には部品間の流れを阻止し得る任意のバルブが開いている場合に、流体が一つの部品から他の部品へ移動するならば、二つの部品は「流体連通するように構成されている」。「流体連通するように構成される」とは、流体連通する可能性のあるマイクロ流体部品間の関係を指すが、「流体連通するように構成された」二つの部品が実際に流体連通してもよいし、していなくてもよい。
【0034】
バルブが閉じている場合に反応器が任意の他のチップ部品と液体連通しないようにバルブが位置する(即ち流体は反応器に閉じ込められる)場合、反応器は「流体隔離されるように構成される」。従って、「流体隔離されるように構成される」反応器は流動チャネル等の他のチップ部品と(適当なバルブが閉じていれば)流体連通する可能性があり、閉じている場合は反応器が他の部品と流体連通しないように置かれたバルブを有する。反応器以外のチップ部品も、バルブが閉じているならば、その部品が任意の他のチップ部品と流体連通しない(即ち流体は流体隔離された部品に閉じ込められる)ようにバルブが置かれる場合、「流体隔離されるように構成」することができる。反応器または部品が他の任意の部品と流体連通していない(例えばバルブが閉じている)場合、流体隔離されるように構成された反応器または他の部品は「流体隔離」され、少なくとも1個のバルブが開いており、反応器または部品が少なくとも1個の他の部品と流体連通する場合、反応器または他の部品は「流体結合」している。
【0035】
「流体隔離する」という用語は、流体結合から流体隔離へと反応器または他の部品の状態を変えるためにバルブが閉じられる(作動する)プロセスを指す。「流体結合する」という用語は、流体隔離から流体結合へと反応器または他の部品の状態を変えるためにバルブが開くプロセスを指す。
【0036】
一方向バルブが使用される特殊な場合には、「流体連通」、「流体連通するように構成される」、「流体隔離されるように構成される」、「流体隔離される」および「流体結合する」という用語は、流れの方向性を考慮することを意図する。一方向バルブ(例えば一方向バルブ、チェックバルブおよび流体整流器またはダイオード)は、流動チャネルから反応器へなどの一方向のみの流体移動を可能にするが、他の方向への移動はできない(例えばAdams et al. 2005, J.Micromech.Microeng.15:1517-21、およびその参考文献6〜12を参照されたい)。例えば、それぞれが反応器へ流入可能であるが反応器から流出できないように配向された一方向バルブにより反応器から分けられた4本の流動チャネルに接続する反応器は、流体隔離されていると考えられる。4本中3本が反応器に流入可能であるが流出できないように配向し1本が従来の二方向バルブである、4本の流動チャネルに接続された反応器は、二方向バルブが閉じられている場合は流体隔離されていると考えられ、二方向バルブが開いている場合は流体結合されていると考えられる。第1チップ部品(例えばカラム)が流動チャネルを経由して第2部品(例えば反応器)に接続され、第1部品から第2部品へのみ流れることができる一方向バルブが介在する場合、第1部品は第2部品と液体連通するが第2部品は第1部品と液体連通しない。
【0037】
本明細書で使用される「反応物」とは、適当な反応条件下で相互に化学的に相互作用し、生成物を生成し得る分子である。
【0038】
本明細書で使用される「化学反応」とは、化学的に相互作用して反応物とは異なる一つまたは複数の生成物を生じる溶液中の1種、2種以上の物質(反応物)を含むプロセスである。化学的相互作用の例には、結合してより大きい分子を生成する分子またはラジカル、分解して2つ以上のより小さい分子を形成する分子、および分子内の原子の再配列が含まれる。化学反応に共有結合の分解および生成が含まれることが最も多い。本明細書において、単なる状態の変化(例えば結晶化、異性化、多形の相互変換または液体から気体への移行)そのものは化学反応ではない。重要な態様では、反応物および生成物は化学反応プロセス中では溶液内にある。特定の態様では、反応物が固相上に固定化される(例えばビーズに結合する)プロセスは化学反応の定義から特に除外される。特定の態様では、酵素(例えばタンパク質、リボザイム等)で触媒される反応は化学反応の定義から特に除外される。
【0039】
本明細書において、一つの反応(即ち第1反応)の生成物が他の反応(即ち第2反応)における反応物または触媒である場合、2つの化学反応は「連続的」である。
【0040】
本明細書で使用される、「化学プロセス」とは化学反応、溶媒交換プロセスまたは濃縮プロセスを意味する。
【0041】
本明細書で使用される「溶媒系」という用語は、溶質を溶解するまたはできる1種の溶媒(例えばアセトニトリル)または溶媒の組み合わせ(例えば25%メタノール/75%水)を指す。
【0042】
本明細書で使用される「反応溶媒系」という用語は、特定の化学反応のために全ての反応物を導入した後に反応器が流体隔離された時点において、反応器中に存在する溶媒系を指す。従って、特定の化学反応のために反応物を最初に導入した後および反応器が流体隔離される前に反応器から回収される任意の溶媒で調節されるので、反応溶媒系は、反応物が反応器中に導入される溶媒系、および反応物を導入する以前に反応器中に存在する任意の溶媒で構成される。一般に、反応溶媒系は反応器中で化学反応が行われる溶媒系である。
【0043】
本明細書において、溶質、反応物、生成物または他の化合物を「保持しながら」反応器から溶媒系を除去するとは、流体隔離された反応器から溶媒を蒸発により除去することを意味する。本発明による反応器中に溶質化合物を保持する一方で、溶媒系が反応器から除去される場合、溶媒の反応器からの消失速度は溶質化合物の消失速度を上回る。従って、溶質化合物を反応器中に保持する一方で、流体隔離された反応器から溶媒系を除去するプロセスは、反応器中の溶媒の単位体積あたりの反応器中の化合物量の増加をもたらす。溶媒が完全に除去されない場合、および/または化合物が沈殿しない場合、溶液中の化合物の濃度は溶媒系を除去するにつれて増加する。ある場合は、反応器から化合物を除去せずに溶媒が蒸発する(下記参照)。他の場合は、反応器中の化合物の一部が反応器の壁の気体透過性部分(例えばエラストマー)に入るか、それを通過する。
【0044】
本明細書において、溶質、反応物、生成物または他の化合物を「除去せずに」反応器から溶媒系を除去するとは、溶質、反応物、生成物または他の化合物のせいぜいわずかな部分が反応器から除去されることを意味する。この文脈でわずかな量とは、溶媒除去以前の反応器内の量の25%未満、より多くは10%未満、非常に多くは5%未満、時には1%未満である。一部の場合には検出できない量の化合物が除去される。
【0045】
本明細書で使用される「閉鎖流路」または「閉鎖流路」とは、液体が循環する流動チャネルまたは流動チャネルの組み合わせ(クロマトグラフィー材料が配置されるチャネルを含む)を指す。閉鎖流路とは、例えば流路中へ、または流路から導く任意の流動チャネル中のバルブを閉じることにより、チャネルまたはチャネルの組み合わせをチップの他の部分から一時的に隔離し得ること、および液体が流路を通って(例えばポンプで駆動された場合)循環し得ることを意味する。閉鎖流路は円形(例えば図1参照)、長方形(例えば図6Cおよび14参照)、曲線等であり得る。閉鎖流路の例にはループチャネルおよび濃縮ループが含まれる。
【0046】
第2節:概要
ある局面では、本発明は、化学反応、特に連続化学反応を行い得る一体型マイクロ流体装置またはチップを提供する。このチップは(1)少なくとも一部は気体透過性材料で製造され、マイクロ流体流動チャネルと流体連通するように構成される少なくとも1個の反応器と、(2)反応器を流体隔離するのに十分なバルブとを有する。例えば制御チャネル、保護チャネル、排気チャネル、液体容器、混合反応器、回転式混合器、分離モジュール(例えば分離カラム)、検索領域、ポンプ、接続口、ビア、ノズル、モニターシステム、レンズ、センサー、温度制御システム、熱源、光源、導波管等を含む他のマイクロ流体部品もチップに組み込むことができる。マイクロ流体チップの例にはエラストマーチップ、非エラストマーチップおよび部分エラストマーチップが含まれる。
【0047】
本発明はまた、マイクロ流体チップおよびシステムを用いる化学プロセスを実行する方法を提供する。これらの方法を用いて、様々な生成物を高収率、低コストで迅速に合成することができる。
【0048】
本発明を具体的な態様を参照して以下に詳細に説明するが、例示的なチップと方法の簡単な概要は、読者が本発明を理解する助けになる。しかしながら、この簡単な説明は例示のためのみであり、決して本発明を制約することを意図するものではないことが理解されよう。
【0049】
図1に図示するチップの構造は、イオン交換、生成物精製、溶媒蒸発、水系化学反応、無水化学反応、および高温または高圧条件下の化学反応を含むいくつかの連続化学反応を支援し得る構造を表す。チャネル111はイオン交換、または反応物または生成物の精製等の化学プロセスを支援する目的のためのクロマトグラフィーカラムとなり得る。このために、図示されるようにチャネル111にはイオン交換または生成物もしくは反応物の精製のために設計された適当なクロマトグラフィー樹脂材料が充填される。バルブ110Eは、クロマトグラフィー樹脂を保持するがバルブを通って液体を流すように構成される。反応混合物はバルブ110Aを開くことによりカラムを通って流動でき、バルブ110Bおよび110Dを閉じると反応混合物はチャネル113を通って導入される。
【0050】
反応混合物をカラムを通って複数回通すことが望ましい。この場合、反応混合物は開いたバルブ110Aを経由しチャネル113を通って導入される。バルブ110Eおよび110Cは閉じられる。次に、チャネル111(カラム111)およびチャネル112を反応混合物(例えば溶液中の反応物を含む)で完全に満たすためにチャネル材料の空気透過性が利用される。閉じたバルブおよび開いたバルブで描かれるループの周りに反応混合物を循環させるために蠕動ポンプ103Bが使用され、それによりカラム111を通して反応混合物を複数回押し込む。
【0051】
(カラムを通して反応混合物を流し、次いで次の化学処理のために化学反応回路の他の領域中のフロースルー画分(または溶離液)を用いることにより、同じカラムを交互に使用し得る。例えば、バルブ110Bおよび110Dを閉じて開放バルブ110Aを通りカラム113を経由して反応混合物を導入し、その後の使用のために生成物をバルブ110Eを通して溶出する。)
【0052】
カラム111で調製または精製された反応混合物は、次にさらなる化学プロセスに供してもよい。カラムのバルブ110A、110D、110C、105Aおよび102Aを開くことにより、反応混合物がチャネル100を通ってカラムから放出され、反応チャンバ104(反応器104)中に導入されうる。(または、反応混合物をチャネル100を経由して他の供給源から反応器104中に導入してもよい)。バルブ105Bを開くことにより(任意ではバルブ110Cを閉じて)別の化学反応物がチャネル109中に導入されうる。バルブ102Bを開くことにより、例えば他の反応物もチャネル107から導入し得る。望ましい時間、蠕動ポンプ103Cを使用して、反応チャンバ104内の反応混合物を混合できる。チップまたはその一部を加熱することにより、化学反応プロセス中に反応混合物全体を加熱してもよい。
【0053】
マイクロ流体化学反応回路、反応器またはその一部が構成されるマトリックス材料を通して溶媒を蒸発させることにより、反応チャンバ104から溶媒を除去し得る。次いで例えばチャネル107を通って別の溶媒および/または試薬を反応器に導入できる。
【0054】
特定の化学プロセスを実行するために、必要に応じて、様々な形および寸法の反応チャンバ、別のカラム等を化学反応回路設計に導入しうることは明らかであろう。
【0055】
放射線標識分子撮像試薬である[18F]フルオロデオキシグルコース([18F]FDG)の調製のために設計された化学反応回路の具体的態様が図2に示される。[18F]FDGの調製は、カラムの使用、複数の溶媒、連続化学工程、高温高圧での化学プロセス、および生成物溶離局面を含むので、化学反応回路のこの具体的な応用は、化学反応回路(CRC)の多くの重要な特徴を示している。特に、[18F]FDGの合成は、以下の連続化学反応を含む合成スキームに従って進行する。
I.(フッ素化):18F-フルオリド+マンノーストリフラート→2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース(18F-FTAG)
II.(加水分解):18F-FTAG+HCl→2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース(18FDG)
図1に示される装置は簡略化されているが、本発明の重要な特徴を示している。より詳細な回路図は図3〜4、6〜8および11〜12、14および17〜18参照。
【0056】
図2に示すチップは5つの連続化学プロセスである、[18F]フルオリドの濃縮、水の蒸発、放射性フッ素化、溶媒交換および加水分解脱保護を行うように設計されている。図2を参照すると、流動チャネル100および開放バルブ102Aを通って、フッ化カリウム水溶液が、供給源から、少なくとも一箇所の気体透過性部分を有する反応ループ104中へ、ポンプ103Aにより移送される。供給源は例えばフルオリド濃縮ループであり得る。バルブ102B〜Cが閉じているので、反応器104中へ移送された溶液は反応器中に保持される。反応器を充填または部分的に充填後、バルブ102Aを閉じ、それによって反応器を流体隔離する。ヒーターを用いて反応器104を加熱し、反応器から溶媒(水)を蒸発する。少なくとも部分的に化学反応回路が製造される気体透過性材料を通って、溶媒(水)の蒸気が反応器104から放出される。十分な量の溶媒が蒸発すると、バルブ102Bが開き、Kryptofix 222のアセトニトリル溶液およびd-マンノーストリフラートが供給源から流動チャネル106を通って反応器104中に移行し、バルブ102Bを閉じて反応器を流体隔離する。反応物が反応器104中に導入される一方で、および/もしくはバルブ102Bを閉じた後、18F-フルオリドとd-マンノーストリフラートが反応して18F-FTAGを生成する。反応器104がヒーターを用いて再度加熱され、化学反応回路が少なくとも部分的に構成される気体透過性材料を通って溶媒(アセトニトリル)が反応器から蒸発する。十分な量のアセトニトリルを蒸発後、バルブ102Dを開き、HCl水溶液が供給源から流動チャネル108およびバルブ102Dを通って反応器104中に移行する。次いでバルブ102Dが閉じられ、反応器104を流体隔離する。HClを導入すると18F-FTAGが加水分解され、[18F]FDGが生成される一方で、反応物が反応器104中に導入されて充填される、および/もしくはその後バルブ102Dが閉じられる。次いでバルブ102Cおよび102Eを開き、流動チャネル107を通して水が反応器104内に導入され、開いたバルブ102Eおよび流動チャネル109を通って反応生成物を含有する溶液が容器またはシステムの他の部品へ移動する。分配マニホールド(後述)も溶液を反応器中へ導入するために使用できる。
【0057】
図2および実施例中のタイプの装置を用いる[18F]FDGの合成は、個々の合成工程に特異的な溶媒を除去および交換する工程、個々の化学プロセスのためにチップ上の異なった領域を隔離する工程を含む、多段階化学合成を図示するものである。
【0058】
第3節:マイクロ流体装置およびシステム
本節はCRCチップの材料と部品の例を説明する。
【0059】
A.装置の材料と製造
本発明の装置は、反応器および、流動チャネルとバルブの関連するネットワークが形成され得る任意の材料または材料の組み合わせで構成することができる。チップが製造される材料には、エラストマー、シリコン、ガラス、金属、ポリマー、セラミック、無機材料および/もしくはこれらの材料の組み合わせが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0060】
CRC装置の製造に用いられる方法は、使用される材料で変化し、ソフトリソグラフィー法、マイクロアセンブリ、バルクマイクロ加工法、表面マイクロ加工法、標準リソグラフィー法、湿式エッチング法、反応性イオンエッチング法、プラズマエッチング法、立体リソグラフィーおよびレーザー化学3次元書き込み法、モジュラーアセンブリ法、レプリカ(replica)成形法、射出成形法、熱間成形法、レーザー切除法、これらの方法の組み合わせ、および当技術分野において公知または将来開発されるその他の方法が含まれる。製造法の様々な例はFioriniおよびChiu,2005,「Disposable microfluidic devices: fabrication, function, and application」 Biotechniques 38:429-46; Beebe et al., 2000, 「Microfluidic tectonics: a comprehensive construction platform for microfluidic systems.」 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:13488-13493; Rossier et al., 2002, 「Plasma etched polymer microelectrochemical systems」 Lab Chip 2:145-150; Becker et al., 2002, 「Polymer microfluidic devices」 Talanta 56:267-287; Becker et al., 2000, 「Polymer microfabrication methods for microfluidic analytical applications」 Electrophoresis 21 :12-26; US 6,767,706 B2, 例えば、Section 6.8 「Microfabrication of a Silicon Device」; Terry et al., 1979, A Gas Chromatography Air Analyzer Fabricated on a Silicon Wafer, IEEE Trans. on Electron Devices, v. ED-26, pp. 1880-1886; Berg et al., 1994, Micro Total Analysis Systems, New York, Kluwer; Webster et al., 1996, Monolithic Capillary Gel Electrophoresis Stage with On-Chip Detector in International Conference On Micro Electromechanical Systems, MEMS 96, pp. 491496; and Mastrangelo et al., 1989, Vacuum-Sealed Silicon Micromachined Incandescent Light Source, in Intl. Electron Devices Meeting, IDEM 89, pp. 503-506に記載される。
【0061】
好ましい態様では、装置はエラストマー材料を用いて製造される。エラストマー材料、このような材料を用いる装置の製造法、ならびに装置およびその部品の設計法は以下に詳細に記載されているので、エラストマー材料を用いる製造法を本明細書においてごく簡単に説明する(例えばUnger et al., 2000,Science 288:113-16;米国特許第6,960,437号(Nucleic acid amplification utilizing microfluidic devices);米国特許第6,899,137号(Microfabricated elastomeric valve and pump systems);第6,767,706号(Integrated active flux microfluidic devices and methods);第6,752,922号(Microfluidic chromatography);第6,408,878号(Microfabricated elastomeric valve and pump systems);第6,645,432号(Microfluidic systemsn including three-dimensionally arrayed channel networks);米国特許出願第2004/0115838号;第20050072946号;第20050000900号;第20020127736号;第20020109114号;第20040115838号;第20030138829号;第20020164816号;第20020127736号;および第20020109114号);国際公開公報2005/084191号;国際公開公報05030822A2号;および国際公開公報01/01025号;Quake & Scherer,2000,「From micro to nanofabrication with soft materials」Science 290:1536-40;Xia et al., 1998,「Soft lithography」Angewandte Chemie-International Edition 37:551-575;Unger et al., 2000,「Monolithic microfabricated valves and pumps by multilayer soft lithography」Science 288:113-116;Thorsen et al., 2002,「Microfluidic large-scale integration」Science 298:580-584;Chou et al., 2000,「Microfabricated Rotary Pump」Biomedical Microdevices 3:323-330;Liu et al., 2003,「Solving the “world-to-chip" interface problem with a microfluidic matrix Analytical Chemistry 75,4718-23,Hong et al., 2004,「A nanoliter-scale nucleic acid processor with parallel architecture」Nature Biotechnology 22:435-39;FioriniおよびChiu,2005,「Disposable microfluidic devices: fabrication, function, and application」Biotechniques 38:429-46;Beebe et al., 2000,「Microfluidic tectonics:a comprehensive construction platform for microfluidic systems.」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13488-13493;Rolland et al., 2004,「Solvent-resistant photocurable “liquid Teflon" for microfluidic device fabrication」J.Amer.Chem.Soc.126:2322-2323;Rossier et al., 2002,「Plasma etched polymer microelectrochemical systems」Lab.Chip 2:145-150;Becker et al., 2002,「Polymer microfluidic devices」Talanta 56:267-287;Becker et al., 2000,「Polymer microfabrication methods for microfluidic analytical applications」 Electrophoresis 21:12-26;Terry et al., 1979,「A Gas Chromatography Air Analyzer Fabricated on a Silicon Wafer, IEEE Trans.on Electron Devices, v.ED-26, pp.1880-1886;Berg et al., 1994, Micro Total Analysis Systems, New York, Kluwer;Webster et al., 1996、Monolithic Capillary Gel Electrophoresis Stage with On-Chip Detector in International Conference On Micro Electromechanical Systems, MEMS96, pp491496;およびMastrangelo et al., 1989, Vacuum-Sealed Silicon Micromachined Incandescent Light Source, in Intl.Electron Devices Meeting,IDEM89, pp.503-506;および本明細書において引用する、ならびに科学文献および特許文献に見出される他の参考文献を参照されたい)。
【0062】
エラストマー材料
エラストマーは一般にそのガラス転移温度と液化温度との間の温度で存在するポリマーである。Allcock et al., Contemporary Polymer Chemistry, 2nd Ed.参照。ポリマー鎖は容易に捻じれ運動を行い、外力に応じて骨格鎖の捲きを解くことができるが、外力がない場合は骨格鎖が再び巻き戻されて最初の形に戻るので、エラストマー材料は弾性を示す。一般にエラストマーは力を加えると変形するが、力を止めると最初の形に戻る。エラストマー材料が示す弾性は、ヤング率で特徴付けることができる。約1Pa〜1TPa、より好ましくは約10Pa〜100GPa、より好ましくは約20Pa〜1GPa、より好ましくは約50Pa〜10MPa、より好ましくは約100Pa〜1MPaの間のヤング率を有するエラストマー材料は、本発明によれば有用であるが、これらの範囲を外れるヤング率を有するエラストマー材料も、特定の用途の必要性に応じて利用し得る。
【0063】
ポリマー化合物、前駆体、合成法、反応条件および可能な添加剤の強大な多様性を考えると、本発明の装置を生成するために使用し得るエラストマー系の数は莫大である。通常のエラストマーポリマーにはパーフルオロポリエーテル、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)、ポリウレタンおよびシリコン、例えばまたはポリ(ビス(フルオロアルキル)ホスファゼン)(PNF、Eypel-F)、ポリ(カルボラン-シロキサン)(Dexsil)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)(ニトリルゴム)、ポリ(1-ブテン)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン-フッ化ビニリデン)コポリマー(Kel-F)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)コポリマー(Viton)、ポリ塩化ビニル(PVC)のエラストマー組成物、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリテトラフルオロエチレン(Teflon)、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンコポリマー、および脂肪族ウレタンジアクリレートが含まれる。説明のため、最も普通のクラスのエラストマーの簡単な説明を本明細書に示す。
【0064】
シリコン:
シリコンポリマーの構造は多様であり、市販調合品の数は多い。本発明の例示的局面では、本発明の系はGE RTV 615(調合品)、ビニル-シラン架橋(型)シリコンエラストマー(ファミリー)などのエラストマーポリマーから生成される。RTV 615のビニル-SiH架橋により、不均一多層ソフトリソグラフィーおよびフォトレジストカプセル化が可能になる。しかしながら、これはシリコンポリマー化学で用いられ、本発明で使用するに適したいくつかの架橋法の一つにすぎない。ある態様では、シリコンポリマーはポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0065】
パーフルオロポリエーテル:
機能性光硬化性パーフルオロポリエーテル(PFPE)は、ある種の有機溶媒と共に使用する耐溶剤性マイクロ流体装置の製造用材料として特に有用である。これらのPFPEはPDMSに類似した材料の性質と加工性を有するが、より広い範囲の溶媒に適性である。例えば国際公開公報第2005030822号および同第2005084191号、およびRolland et al., 2004,「Solvent-resistant photocurable "liquid Teflon" for microfluidic device fabrication」、J.Amer.Chem.Soc.126:2322-2323参照。
【0066】
ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン:
ポリイソプレン、ポリブタジエンおよびポリクロロプレンは全てジエンモノマーから重合され、従って重合するとモノマーあたり1個の二重結合を有する。この二重結合のため、加硫(本質的に硫黄を使用して加熱により二重結合間架橋を生成する)によりポリマーがエラストマーに変換される。不均一多層ソフトリソグラフィーには結合する層の不完全な加硫が含まれ、同様の機構によりフォトレジストカプセル化が可能になる。
【0067】
ポリイソブチレン:
純粋なポリイソブチレンは二重結合を有さないが、重合で微量の(約1%)イソプレンを含有させることにより架橋し、エラストマーとして使用することができる。このイソプレンモノマーはポリイソブチレン骨格上にペンダント(pendant)二重結合を提供し、次いで上記のように加硫し得る。
【0068】
ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン):
ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)はリビング(living)アニオン重合(即ち反応に自然重合鎖停止工程がない)で生成され、従って「生きた」ポリマー末端が硬化ポリマー中に存在し得る。これにより、このポリマーは本発明のフォトレジストカプセル化系の本来の候補となる(硬化層の上に注がれた液層中に未反応のモノマーが多く存在する場合)。不完全な硬化により、不均一多層ソフトリソグラフィーが可能になる(A-A結合)。この化学的性質により、1層のブタジエン(「A」)および結合剤の過剰、他の層(「B」)のブタジエン不足が促進される(不均一多層ソフトリソグラフィー用)。SBSは「熱硬化エラストマー」であり、ある温度以上では溶解して塑性(弾性の反対)を示し、温度を下げるとエラストマーが再生することを意味する。従って、加熱により層を接着することができる。
【0069】
ポリウレタン:
ポリウレタンはジイソシアナート(A-A)およびジアルコールまたはジアミン(B-B)から生成されるが、多様なジイソシアナートおよびジアルコール/ジアミンが存在するため、ポリウレタンの異なったタイプの数は非常に多い。しかしながら、一つの層中にA-Aを過剰に、他の層にB-Bを過剰に使用することにより、RTV 615と同様にポリマーのA対Bの性質比によってこのポリマーが不均一多層ソフトリソグラフィーに有用になる。
【0070】
材料の選択(エラストマーであるか非エラストマーであるか)には特定の材料の性質が考慮され、製造の容易さ、化学合成の性質、耐溶剤性および温度安定性を含む様々な因子に依存する。例えば、PDMSで作成した流体回路は有機溶媒に適合しない(例えばLee et al., 2003,Anal.Chem.75:6544-54参照)。この文献は、装置の少なくともある部分にPDMSの代わりに耐薬品性エラストマーを使用することに対応する。例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を使用できる(Rolland et al., 2004,「Solvent-resistant photocurable “liquid Teflon" for microfluidic device fabrication」J.Amer.Chem.Soc.126:2322-23、および上記本明細書における引用文献参照)。または、エラストマー(例えばPDMS)表面を化学修飾して、有機溶媒適合性を増加し機能を改善することができる。このような修飾のための方法と試薬には、米国特許第2004/0115838号[段落0293]記載のものが含まれる、下記を参照;テトラフルオロエチレンのコポリマー、パーフルオロメチルビニルエーテル(TFE-パーフルオロビニルエーテルポリマーとも呼ばれる)低沸点パーフルオロカーボン液中で1:1に希釈されたChemraz(Greene-Tweed、10%溶液)、例えば3M社製Flourinert、Kalrez(Du Pont社製)、Chemtex(Utex Industries社製)、およびフルオロカーボンポリマー(FKM、例えばBellex International Corp.製Cytopコーティング(ポリ(パーフルオロ(アルケニルビニルエーテル)))および、チャネルを通して溶液をフラッシュする(例えば25psi、1分間隔で3×40マイクロリットル)ことで塗布できる3M社製のNovec EGC-1700コーティング(フルオロ脂肪族ポリマー)等のポリ(テトラフルオロ-コ-ヘキサフルオロプロピレン))。さらに、様々な溶媒中で多くの化学反応を行うことができる。特定の材料を用いて製造されたチップ中で行われる一連の反応を、反応を完結するに必要な時間にわたって材料と適合する溶媒を用いて設計することができる。
【0071】
多層ソフトリソグラフィー(エラストマー層を別個に硬化し、次いで張り合わせる)を用いて製造した装置では、制作上重要な別に考慮すべきことは、エラストマーの多層を結び付ける能力である。この計画には、硬化した層が結び付くのに十分な反応性を有することが必要である。複数の層が同じタイプであり、それ自体で接着可能であるか、または2つの異なったタイプであり、相互に接着可能であることが求められる。他の可能性には層間の接着剤の使用、熱硬化性エラストマーの使用および複合構造の使用である。
【0072】
エラストマー製造法
エラストマーを使用する複合マイクロ流体回路の製造法は公知であり、Unger et al., 2000,Science 288:113-116;Quake&Scherer,2000,「From micro to nanofabrication with soft materials」Science 290:1536-40;Xia et al., 1998,「Soft lithography」Angewandte Chemie-International Edition 37:551-575;Unger et al., 2000,「Monolithic microfabricated valves and pumps by multilayer soft lithography」Science 288:113-116;Thorsen et al., 2002,「Microfluidic large-scale integration」Science 298:580-584;Chou et al., 2000,「Microfabricated Rotary Pump」Biomedical Microdevices 3:323-330;Liu et al., 2003,「Solving the “world-to-chip" interface problem with a microfluidic matrix」Analytical Chemistry 75:4718-23,および本明細書において引用される当技術分野において公知の他の参考文献に記載されている。
【0073】
マイクロ流体装置は一般に単層および多層ソフトリソグラフィー(MSL)技術、および/または犠牲層カプセル化法を用いて構成される。基本的MSLアプローチはは、マイクロ加工鋳型上に一連のエラストマー層を成型し、層を鋳型から取り出し、層を相互に融合する工程を含む。犠牲層カプセル化法では、フォトレジストのパターンをチャネルが望まれるあらゆる場所に堆積する。エラストマー装置の製造法の一例を以下に簡単に記す。
【0074】
簡単に言えば、エラストマー装置の製造法の一つには、フォトレジスト(Shipley SJR 5740)を用いたフォトリソグラフィーによるシリコンウエハー上への上層用の母鋳型(制御チャネルおよび反応器を有するエラストマー層、流動チャネルを有するエラストマー層)の製造が含まれる。スピン被覆速度によりチャネルの高さを精密に制御することができる。フォトレジストチャネルはフォトレジストをUV光に露光し、次いで現像することにより形成される。熱リフロー(reflow)プロセスおよび保護処理は、典型的には上述のUngerら、前記の記載通りに行われる。混合2液シリコンエラストマー(GE RTV 615)をそれぞれ、下層鋳型に吐出し、上部鋳型上に注入する。底部ポリマー液層の厚さを制御するため、スピン被覆を用いることができる。炉中で80℃、25分間焼成後、部分的に硬化した上層を鋳型から剥離し、整列して下層と組み合わせる。これらの2つの層を非可逆的に張り合わせるために80℃で最終焼成を1.5時間行う。下部シリコン母型から一度剥離すると、典型的にはRTV装置をHClで処理する(80℃で0.1N、30分)。この処理はSi-O-Si結合の一部を開裂する働きがあり、その結果チャネルをより親水性にする水酸基を露出させる。
【0075】
装置を任意で支持体に密閉封止することができる。支持体は本質的に任意の材料で製造できるが、封止が主として接着力により形成されるので、良好に封止されるためには表面が平坦である必要がある。適当な支持体の例にはガラス、プラスチック等が含まれる。
【0076】
上記の方法に従って形成した装置は、流動チャネルの壁の一つを形成する基板(例えばスライドガラス)となる。または、一度母型から取り出した装置を薄い弾性膜で密封し、流動チャネルが弾性材料中で完全に包まれるようにする。得られた弾性装置を任意で基板支持体に接着することができる。
【0077】
流動チャネルへのアクセスはバルク材料に穴を穿つことで行われ、装置をガラスまたはシリコン基板に容易に接着することができる。チャネル、反応器、バルブおよびポンプ等の能動部品の大きな配置を、複数の個々に製造した層を積み重ねて製造できる。
【0078】
複合構造
チップおよび反応器の製造に多様な材料を使用し得る。装置、特に反応器を材料の組み合わせで製造できる。例えば、一部の態様では反応器の壁と天井は弾性材料であり、反応器の床は下敷となる非弾性基板(例えばガラス)で形成されるが、他の態様では、反応器の壁と床の双方を非弾性材料で構成し、反応器の天井のみをエラストマーで構成する。これらのチップおよび反応器は「複合構造」と呼ばれる。例えば米国特許第20020127736号参照。装置のエラストマーおよび非エラストマー部品を密封するために様々な方法が採用され、そのいくつかは米国特許第6,719,868号および第2002/0127736号[0227]以下参照に記載されている。
【0079】
B.基本的な装置の部品:流動チャネル、反応器およびバルブ
流動チャネル
「流動チャネル」という用語は、それを通って溶液が流れ得るマイクロ流体チャネルを指す。流動チャネルの寸法は広く変化し得るが、典型的には少なくとも1mm未満、好ましくは0.5mm未満、多くは0.3mm未満の1つの断面寸法(例えば高さ、幅または直径)が含まれる。流動チャネルは0.05〜1000ミクロン、より好ましくは0.2〜500ミクロン、より好ましくは10〜250ミクロンの範囲の少なくとも1つの断面寸法を有することが多い。チャネルは液体輸送が可能である任意の適当な断面形状、例えば正方形チャネル、円形チャネル、丸みを帯びたチャネル、長方形チャネル等を有する。ある例示局面では、流動チャネルは長方形であり、0.05〜1000ミクロン、より好ましくは0.2〜500ミクロン、より好ましくは10〜250ミクロンの範囲の幅を有する。ある例示局面では、流動チャネルは0.01〜1000ミクロン、より好ましくは0.05〜500ミクロン、より好ましくは0.2〜250ミクロン、より好ましくは1〜100ミクロンの深さを有する。ある例示局面では、流動チャネルは幅対深さ比が約0.1:1〜100:1、より好ましくは1:1〜50:1、より好ましくは2:1〜20:1、最も好ましくは3:1〜15:1であり、約10:1であることが多い。図3に示すように、弾性装置の流動チャネルは曲面または楕円面を有するため、変形したエラストマー膜が円形流体チャネルに順応し、(以下に述べる篩バルブの位置以外は)一体化バルブを完全に閉じることができる。ある態様では流動チャネルの寸法は250〜300ミクロン×45ミクロンである。好ましい態様をいくつか説明したが、本発明の流動チャネルは上記の寸法に限られるものではない。
【0080】
本発明のチップの流動チャネルの少なくともいくつかは反応器と流体連通している(後述)。ある態様では、流動チャネルは分配マニホールドとして構成され、反応器と流体連通する流動チャネルを本明細書において参照する場合、他に指定がないか文脈から明らかでない限り、分配マニホールドを含むことを意図する。分配マニホールドは、いくつかの部分が異なった流入口を通って同じ反応器中へ導入される、流れを数個の部分に分ける役割をする流動チャネルの形態である(例えば図11および12参照)。好ましい態様では、溶液が複数の流入口を通って均等かつ同時に導入される。ある態様では、溶液を反応器、特にコイン型反応器に導入するためのマニホールドは、一般的に図11および12に示すように細工されている。6つのチャネルマニホールドにより溶液が6方向から同時にチャンバに入り、その結果混合を早くし反応時間を短くすることができる。マニホールドの始点からチャンバの各開口へのチャネルの流路が同じ長さを有することにより、液体の同時導入が可能になる。マニホールドの供給源に1個のバルブを置き、チャンバへのチャネルの入口にバルブの第2セットを置くことにより同時導入が促進される一方、これにより流体を反応器に放出する前にまずマニホールドを充填することが可能になる。別の態様では、分配マニホールドは最初の分岐点から等距離に4〜10本のチャネルを有する。
【0081】
反応器
ある局面では、本発明は少なくとも1個の反応器(「反応チャンバ」とも呼ばれる)を有するマイクロ流体装置を用いる化学反応の実施法を提供する。一部の態様では、装置は複数の反応器を有し、一連の複数のおよび/または平行の反応を行うために直列、並列その他の形状になっている。
【0082】
一般に、反応器は以下の3つの特性により特徴づけられる。
【0083】
1.反応器は少なくとも1本の流動チャネルと流体連通するように構成される
反応器は少なくとも1つの流動チャネルと流体連通するように構成される。典型的には反応器は少なくとも2本、少なくとも3本、少なくとも4本、少なくとも5本、少なくとも6本、または6本より多くの異なった流動チャネル等の、1本を上回る流動チャネルと流体連通する。例えば、反応器は1〜20本の流動チャネル、1〜10本の流動チャネル、2〜10本の流動チャネル、3〜10本の流動チャネル、4〜10本の流動チャネルまたは5〜10本の流動チャネルと流体連通するか、流体連通するように構成される。上記のように、一部の態様では一つまたは複数の流動チャネルが分配マニホールドとして構成される。ある態様では、反応器は少なくとも1個の分配マニホールドと流体連通している(列挙のために単一チャネルとみなした)。
【0084】
2.反応器は流体隔離されるように構成される
反応器は流体隔離が可能なように構成される。典型的には、これは流動チャネルから反応器へ、または反応器から流動チャネルへの液体の流れを阻止するようにバルブを閉じる(作動する)ことにより行われる。従って、反応器が流体隔離されている場合、液体はいかなる意味でも反応器から流出することができない。
【0085】
3.反応器は、気体透過性であるが、該気体に対応する液体ならびに該液体に溶解した反応物および生成物に対し実質的に不透過性である
反応器は溶媒交換に適合化されている。即ち、反応器の壁の少なくとも一部は、反応器が流体隔離されている(従って反応器内のどの液体もチャンバに閉じ込められている)場合、蒸気が反応器の壁を通って逃げ出すことができるように、反応器の壁の少なくとも一部は選択的に透過性である。従って、液相中の溶媒(例えばアセトニトリル)は流体隔離された反応器中に含有されるが、気相に変換されると流体隔離された反応器から逃げ出すことができる。蒸発および/または液体の加熱および/または雰囲気圧力を下げることにより液体溶剤は気相に変換される。ある態様では、反応器中の液体がその通常の(常圧)沸点以上に加熱される。ある態様では、反応器の壁は液体の水に対し本質的に不透過性であるが(従って水はチャンバの壁を通って装置外へ漏れ出さない)、水蒸気に対して透過性である。反応器の壁(またはその気体透過性部分)が選択透過性である溶媒の例は、水、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ベンゼン、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ブタノン、t-ブチルアルコール、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、1,2-ジメトキシエタン(グリム、DME)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、グリセリン、ヘプタン、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)、ヘキサン、メタノール、メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、塩化メチレン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ニトロメタン、ペンタン、石油エーテル(リグロイン)、1-プロパノール、2-プロパノール、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、トリエチルアミンおよびキシレン、およびそれらの組み合わせの一つまたは複数を含み得る。反応器の壁が、例えば、水とアセトニトリルの共沸混合物等の共沸混合物の蒸発で生じた気体混合物に対し透過性であることは理解される。
【0086】
ある態様では、反応器は少なくとも部分的に上記のエラストマー等の気体透過性エラストマー材料で作成される。PDMSおよびPFPE等のある種のエラストマーは、特にある種の溶媒に対する優れた気体透過性が特徴である。
【0087】
他の材料(必ずしもエラストマーではない)も使用し得る。例えば、透過性材料はポリテトラフルオロエチレンおよび不定形フルオロポリマー等のポリフルオロ有機材料、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリカーボネート、アクリル樹脂(例えばポリメチルアクリレートおよびポリメチルメタクリレート)、ポリエチレン(例えば高密度、低密度、超低密度、および鎖状低密度ポリエチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ(4-メチルペンテン-1)(PMP)、ポリ(4-メチルヘキセン-1)、ポリ(4-メチルヘプテン-1)、ポリ(4-メチルオクテン-1)およびポリ(1-メチルシリル-1-プロピン)を含むポリマー(例えば単一ポリマー型、コポリマー、ポリマーブレンド、ポリマー誘導体等)を包含し得る。
【0088】
一部の態様では、反応器の内表面全体(例えば「床」、「天井」および「壁」)は気体透過性材料で構成される。これは、例えば装置がPDMSで作成された場合である。一部の態様では、反応器の内表面の少なくとも一部が、気体透過性でない材料(例えばシリコン、ガラスまたは金属)で囲まれる。例えば、装置のある反応器はガラス製の床および壁を有し、PDMS製の「天井」を有する(例えば上記の複合構造の説明参照)ことができる。
【0089】
一部の態様では、反応器の内表面から装置の外部、または排気チャネルの内腔等の外部への排気チャネルへの距離(即ち装置の形態上の外部へ到達するために蒸気が通過すべき気体透過性材料の厚さ)が1000ミクロン未満であるように装置が構成される。一部の態様では気体透過性材料の厚さは1〜1000ミクロン、時には1〜1000ミクロン、しばしば50〜500ミクロン、最も多くは50〜200ミクロン、例えば100ミクロンである。最適または適当な厚さは反応器の材料と使用目的によって変化することが、理解される。一部の態様では、装置は気体の反応器からの回収を加速または促進するように置かれた「排気チャネル」と呼ばれるチャネルを有する。排気チャネルを以下に説明する。
【0090】
または、溶媒を反応器からエラストマーまたは他の気体透過性材料中へ蒸発除去し、その材料中に留めることもできる(即ち実質的な量の気体が外部へ到達しない)。
【0091】
上記の性質に加えて、特定の態様では反応器は一つまたは複数の以下の(反応器のサイズ、数、形およびクロマトグラフィーカラムとの関係に関わる)特性を有してもよい。
【0092】
4.反応器の液体容量は大きくてもよい
体積(または液体容量)をナノリットルからマイクロリットルの極めて広い範囲で変えることができる。特定の態様では、反応器の容量は1マイクロリットル未満である(例えば1nL〜1000nL、しばしば100nL〜500nL)。特定の態様では、反応器の容積または液体容量は1マイクロリットルより大きく、ある場合は5マイクロリットルより大きく、ある場合は10マイクロリットルより大きい。特定の態様では、反応器の容積は1〜20マイクロリットル、2〜10マイクロリットル、5〜20マイクロリットル、または10〜20マイクロリットルである。特定の態様では、反応器の容積は1〜10マイクロリットル、2〜10マイクロリットル、5〜10マイクロリットル、または7〜10マイクロリットルである。
【0093】
5.反応器は様々な幾何学形状を有し得る
反応器は様々な幾何学形状または内部形状を有し得る。反応器の形状の選択は、ある場合には反応器に導入される反応物または溶液の容積、所望の生成物の品質、および他の因子等の装置の使用目的で変化する。例えば、反応物をカラムから溶離しその全量を反応器に移送する場合は、反応器は通常、溶離容積に等しい容積を有する(または、容積を減少するため一回または複数回の溶媒除去を用いてもよい)。好ましくは、反応器の形状と寸法が、反応器中に導入された溶液を十分に混合できるように選択される。形状の例にはチューブ状、球状、円筒状、多角形(例えば六面体)、コイン型、箱型、バーベル型その他が含まれ得る。ある態様では、反応器は不規則な形を有する。一部の態様では、反応器チャンバは混合効率を上げるためのバッフルまたは他の構造を含み得る。
【0094】
ある態様では、反応器は他のチャネルから隔離されて流体が循環できる閉鎖流路を形成する流動チャネル(またはループチャネル)の形を有する(以下の実施例1参照)。ループチャネルは米国特許第6,767,706号に記載される。典型的には、このような反応器は流動チャネルに関して上述された範囲内にある寸法(例えば200ミクロン×45ミクロン)を有するが、より大きな容積の反応を受け入れるためにより大きな寸法も使用できる。閉鎖流路は、例えばループ内またはループ外へ導く任意のチャネル内のバルブを閉じることによりチャネルが一時的にチップの他の部分から隔離されること、および液体が流路を通って循環し得ることを意味する。液体を隔離するために、蠕動ポンプ等のポンプを使用できる。または、隔離された反応機内で循環および/または混合のために他の機構を使用することもできる。
【0095】
ある態様では、反応器は円形ループチャネルの形を有する。ある態様では、反応器は円形チャネル以外のループチャネルの形を有する。例えば、溶液を循環し得る、または2種の溶液を循環し混合する閉鎖ループの説明は、米国特許第6,767,706号の図20参照。
【0096】
一部の態様では、反応器はループチャネル以外の形状を有する。一部の態様では、高さ、幅および長さ、または高さと直径等が50倍未満(即ち、最長寸法が最短寸法の50倍未満)で変化するような反応器の寸法である。他の態様では、反応器の寸法は40倍未満、30倍未満、20倍未満、10倍未満、5倍未満、または2倍未満である。
【0097】
ある態様では、反応器は「コイン型」である。即ち、直径対高さの比が大きく、通常5を上回る、通常10を上回る、しばしば15を上回る、20以上の場合もある、ほぼ円筒型である。例示的な反応器は、高さが25〜1,000マイクロメーター、直径が1,000〜20,000マイクロメーターである。例示的な反応器の例は、寸法は250マイクロメーター(高さ)×5000マイクロメーター(直径)である。ある態様では、反応器は幅が広く短い円筒の形を有する(コイン型、高さ250um、直径5〜7mm)。図11および12参照。
【0098】
他の態様では、反応器は「箱型」である。すなわち、長方形の床と天井を有し、高さの寸法は他の寸法よりかなり小さい(例えば通常5を上回る、通常10を上回る、しばしば15を上回る、20以上の場合もある、大きな幅対高さ比)。関連する態様では、反応器は任意の規則的なまたは不規則な平行四辺形の床および/または天井を有する。他の態様では、反応器は不規則な形の床および/または天井を有する。他の態様では、反応器の内部の形はほぼ球形またほぼ立方体であるか、上記とは異なった縦横比を有する。
【0099】
特定の態様では、反応器は円形流動チャネルの形を有さず、閉鎖流路を形成しない。例えば、コイン型反応器は円形流動チャネルの形を有さず、閉鎖流路を形成しない。特定の態様では、反応器は円形流動チャネルの形を有するが、流動チャネルに関して上記で提供された範囲内に入らない断面寸法(<1mm)を有する。特定の態様では、反応器の内部はチューブの形を有さない。特定の態様では、反応器は円形ループチャネルの形を有さない。特定の態様では、反応器は非円形ループチャネルの形を有さない。特定の態様では、反応器の内部は多角形の形を有さない。特定の態様では、反応器はコイン型ではない。特定の態様では、反応器は円筒形ではない。形状の例にはチューブ状、球形、円筒形、多角形(例えば六角形)、コイン型、箱型その他が含まれる。
【0100】
6.装置の反応器の数は少なくてもよい
特定の態様では、装置は単一反応器である。他の態様では、装置が2〜5個の反応器を有する。他の態様では、装置は2〜10個の反応器、または2〜50個の反応器を有する。他の態様では、装置は最大10,000個までの反応器を有してもよい。
【0101】
7.反応器はマイクロ流体分離カラムまたはマイクロ流体分離カラムを含む濃縮ループと流体連通するように構成される
特定の態様では、反応器はマイクロ流体分離カラムと流体連通するように構成される。即ち、カラムからの溶離液をカラムから反応器へ、または反応器からカラムへ移送できる。カラムはチップ上(例えば流動チャネル内または同様にチップと一体化で形成される)またはチップ外であり得る。ある態様ではカラムはチップ上である。例示的なオンチップマイクロ流体分離カラム(「カラム」)を以下に説明する。例示的なオフチップカラムは、小容積のクロマトグラフィーに適した任意のカラムが含まれる。オフチップカラム装置は流体入口および出口、およびチップまたはマイクロ流体装置で行われる制御バルブ機能を有し得る。
【0102】
一部の態様では、装置は濃縮ループを含む。濃縮ループはオンチップ分離カラム(それを通って溶液が通過できる)、カラム入口、カラム出口および出口を入口に接続する流動チャネル、ならびに、ループと他の流動チャネルとの間のバルブが閉じている場合に流動チャネルと分離カラムが液体が循環できる閉鎖流路を規定するのに十分なバルブを含む。好ましい態様では、濃縮ループは溶液がカラムを通って複数回流れるように閉鎖流路を通って溶液を移動できるポンプ、好ましくは蠕動ポンプを含む。図2および3、およびこのようなカラムと閉鎖流路を説明する付属テキスト参照。ある態様では、濃縮ループは一般的に長方形である。実施例1で述べるように、濃縮ループの形状により溶液がカラムを通って複数回循環し、溶液中の化合物をカラムの固定相へ効率よく確実に結合させ、同様の方法で溶離液がカラムを通って複数回流れ、カラムから反応物または生成物を高い割合で確実に溶離させることができる。
【0103】
一部の態様では、例えば生成物の精製または濃縮のため、反応生成物を含む溶液が反応器からカラム(例えばオンチップカラム)に移送される。生成または溶媒系をさらに変更するためにカラムからの溶離液を反応器に戻すこともできる。カラムからの溶離液を異なった反応器へ輸送することも多い。または、溶離液を他のチップ部品またはオフチップ部品(例えば収集バイアルを含む)に移送することもできる。
【0104】
バルブ
マイクロ流体装置のバルブを選択的に作動して(および/または一方向バルブである)、チャネル、反応器およびその他のチップ部品中、またはそれらの間の流れを制御することができる。装置のバルブは流動チャネル内で、流動チャネルから容器または反応器へ、容器または反応器から流動チャネルへ、または液体が流れる他の場所で流れを阻止する働きをする。
【0105】
マイクロ機械式バルブ、エラストマーバルブ、固相マイクロバルブその他を含む様々なタイプのバルブは公知である。例えばFelton,2003,「The New Generation of Microvalves」Analytical Chemistry 429-432参照。ポンプおよびバルブ等のマイクロ電気運動式(MEMS)構造を製造する二つの共通の方法は、シリコン系バルクマイクロ加工(減算(subtractive)製造法であり、単結晶シリコンをリソグラフィーでパターン化し、エッチングして三次元構造を形成する)、および表面マイクロ加工(加算法であり、ポリシリコン、窒化シリコン、二酸化シリコンおよび様々な金属などの半導体型材料層を順次加えてパターン化し、三次元構造を形成する)である。
【0106】
ある態様では、バルブは一体化バルブである。好ましい態様では、バルブは圧力起動「エラストマーバルブ」である。圧力起動エラストマーバルブは、他のチャネル(例えば制御チャネル)に加えられる作動力に反応してチャネルの一つ(例えば流動チャネル)へ偏向する、またはそこから引き戻されるエラストマー断片で2本のマイクロ流体チャネルが分離される形状で構成される。エラストマーバルブの例には上方偏向バルブ(例えば米国特許第20050072946号参照)、下方偏向バルブ(例えば米国特許第6,408,878号参照)、側方作動バルブ(例えば米国特許第20020127736号、例えば段落0215-0219参照)、通常閉鎖バルブ(例えば米国特許第6,408,878B2号および第6,899,137号参照)その他が含まれる。一部の態様では、装置はバルブの組み合わせ(例えば上方偏向および下方偏向バルブ)を有することができる。気体(例えば空気、窒素、アルゴン)、液体(例えば水、シリコン油その他の油)、塩および/またはポリマー(ポリエチレングリコール、グリセロールおよび炭水化物を含むがそれらに限定されるわけではない)等を含む溶液を制御チャネル中に注入してバルブを作動することができる。あるバルブでは、制御チャネルを真空にして作動することができる。
【0107】
圧力系作動システムで作動されるエラストマーバルブに加えて、エラストマー部品および静電、磁気、電解質および電気運動式起動システムを有する一体化バルブも使用し得る。例えば米国特許第20020109144号、第20020127736号、例えば[0168]-[0176]、および米国特許第6,767,706B2号、例えば6.3節。一方向バルブも記載されている(例えばAdams et al., 2005,J.Micromech.Microeng.15:1517-21、およびその中の参考文献6-12参照)。
【0108】
一部の態様ではバルブのペアが使用されるが、その一つは「バックアップバルブ」または「二重バルブ」として作用する。例えば図11参照。バックアップバルブは一次バルブが故障した場合に(例えば溶媒交換プロセス中にバルブが受ける相対的に高い蒸気圧のため)反応混合物を閉じ込めるために使用される。高圧の破裂は、少なくとも短時間(例えばコンマ何秒)バルブを開かせるのに十分な強さの反応チャンバ内で発生し得る。このような事象において、閉じたバルブの後に背圧があれば、このようなバルブは反応器内の圧力損失なく短時間開いた後に再度閉じることができる。バルブの背後の圧力がはるかに低い場合、液体の一部がチャンバから漏れ出し、さらにバルブを開かせる。反応チャンバを取り囲むバルブの背圧は、最初のバルブから短い距離に第2バルブセットを有することで行われる。
【0109】
C.他の装置部品
排気チャネル
ある態様では、装置が、溶媒交換または反応器充填中(例えばデッドエンド(dead-end)または一方向(blind)充填)に気体を反応器から抜き出すことを加速または促進するために設置された「排気チャネル」と呼ばれるチャネルを有する。排気チャネル系は薄い気体透過性(例えばエラストマー)膜で反応器と分離されたチャネルを含む。典型的には、排気チャネルは、反応器の上部または下部(例えば排気層または制御層中)に設置される。蒸気を反応器から引き出し、介在する気体透過性材料(エラストマー等)を通過させ、排気チャネル中に入れることができる。蒸気が排気チャネル中へ拡散するか、または反応器チャンバに対し相対的に排気チャネル内の圧力を下げることにより除去を加速することができる。例えば、排気チャネルを通って気体を流すか、または以下に述べるようにチャネルを通じて真空にするか、または排気チャネル圧力を下げる任意の他の方法によって、この減圧を達成することができる。従って、チャンバ内の溶質を濃縮し、液体の容積を減少させるための蒸発を加速するために排気チャネルを使用することができる。溶媒蒸発を加速するためのこの機構は、容積の大きい(マイクロリットル)反応器を使用する場合に特に価値がある。
【0110】
排気チャネルの寸法は広い範囲で変化し得る。例示的なある態様では、排気チャネルは0.05〜1000ミクロン、しばしば50〜500ミクロン、最も多くは100〜400ミクロンの範囲の少なくとも一つの断面寸法を有する。一部の態様では、チャネルの高さは約500ミクロンより大きくないか、または約20ミクロン未満(一部の態様では約250ミクロンより大きくないか、約50ミクロン未満)、チャネルの幅は5000ミクロンより大きくないか、20ミクロン未満である。ある態様では、排気チャネルは約250ミクロン×250ミクロンの長方形断面寸法を有する。一部の態様では、排気チャネルが約1:10〜100:1、例えば約2:1〜1:2の間、時には約1:1の幅対深さの比を有することが好ましい。排気チャネルを真空にする態様では、真空下でチャネルの崩壊を避けるように寸法が選択される(例えばより高い高さ:幅比)。しかしながら、排気チャネルはこれらの特定の寸法または比率に制約されない。
【0111】
上記のように、一部の態様では排気チャネルの内腔は1000ミクロン以下、例えば10〜1000未満、しばしば50〜1000ミクロン、しばしば50〜500ミクロン、最も多くは50〜200ミクロン、例えば100ミクロンだけ反応器の内部から分離されている。ある態様では、排気チャネルは100ミクロンの膜(気体透過性)によりチャンバから分離された250×250ミクロンの放熱器で構成されるチャンバの上部に置かれている。例えば図11参照。
【0112】
エラストマーまたは部分的エラストマー装置を参照すると、排気チャネルシステムはその1側面が反応器の内部表面の一部を構成するエラストマー層中に置かれる。例えば、「完全」エラストマー装置では排気チャネルを流動チャネル層の上または下に(制御チャネルを有する装置では、制御チャネル層に対面する流動層の側面、または制御チャネル層中に)置くことができる。排気チャネルを流動チャネル層中に取り込んでもよい。一部の態様では、反応チャンバ上に排気チャネルを設置することが最適配置である。しかしながら、排気チャネルをチャンバの下に置いてMSLチップを製造することが一般的に容易である(例えば制御層の一部として)。デッドエンド充填速度は双方の配置で同様であった。溶媒の蒸発はどちらの種類の排気でも有意に促進されたが、底部排気位置では効率が低く、その理由は一部には、この配置では蒸気が反応チャンバの天井に凝縮するからである。
【0113】
ある態様では、(隔離された反応器から装置の形態上の外部へ比較的短い流路を設けることにより)排気チャネルが能動的に機能することができる。図14に示す装置は、大気と連通する6本の排気チャネル(「排気ライン」)を有する。図14の排気チャネルは制御層中に置かれる。他の態様では、気体流の使用、または好ましくは真空の適用により、溶媒蒸発の速度をかなり加速することができる。従って、ある態様では、排気チャネルは排気チャネル中を真空にして、気体を反応器から排出するために任意で真空ポンプ(または同等の装置)を有するように構成される。真空ポンプは連続的に作動するか、またはある化学反応の進行中に作動することができる。別の態様では、乾燥気体(例えば空気またはN2)をチャネルに流して反応器から蒸気を除去することができる。
【0114】
排気チャネルを真空にすることにより、反応器に液体を満たす必要がある場合にチャンバから気体を迅速に除去することができる。蒸発中もまた、溶媒蒸気の除去を可能にする。その結果、蒸発を早くするばかりでなく、蒸気圧を下げ、ある種の溶媒をより低温で除去することができる。排気チャネルシステムを用いることにより、蒸発工程中に閉鎖バルブの圧力を下げることもできる。
【0115】
多くの排気の形状が可能である。好ましい態様では、(内部で濃縮されうる)蒸気のチップ外への(例えば、N2ガスの利用による)排出を促進するため、排気は2つの開放末端を有する。図20参照。
【0116】
反応速度論または他の理由で蒸発を加速することが望ましくない場合は、一連の反応におけるある時点で蒸発を加速しないように排気システムを構成することもできる。必要に応じて、気体の流れを止めるか真空源を切断することにより、排気システムの機能を調節することができる。能動的排気により生じる加速された蒸発を、排気に油または類似の流体を充填することにより除外または減少させることができる。
【0117】
通常、排気チャネル系は例えば装置の領域またはフットプリント全体に均一に分布しているのでなく、反応器または一組の反応器上に局在している。ある態様では、排気チャネルの実質的な部分が一つのチャンバ上に重なっている。この文脈では、実質的な部分とは、排気チャネルの長さの少なくとも10%がチャンバ上にあり、好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%、時には排気チャネルの長さの少なくとも50%がチャンバ上にあることを意味する。これは図11Bに示されるが、図では排気チャネル(青)の長さの約30%が5μlのコイン型反応器の上にある。換言すると、ある態様では、90%以下、好ましくは80%以下、最も好ましくは70%以下、50%以下の場合もある長さのチャネルが溶媒交換室以外の装置の領域上にある。ある態様では、排気チャネルの実質的な部分が一個のチャンバ上に重なっている。この文脈において、実質的な部分とは、排気チャネルの長さの少なくとも10%がチャンバ上にあり、好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%、時には排気チャネルの長さの少なくとも50%がチャンバ上にあることを意味する。
【0118】
関連する態様では、装置は1個より多くの反応器を有し、排気チャネルの実質的な部分が装置の2個以上のチャンバ上に重なっている。この文脈で、実質的な部分とは排気チャネルの長さの少なくとも10%がチャンバ上にあり、好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%、時には排気チャネルの長さの少なくとも50%がチャンバ上にあることを意味する。換言すると、ある態様では、90%より少ない、好ましくは80%より少ない、最も好ましくは70%より少ない、時には50%より少ない排気チャネルの長さが、溶媒交換チャンバの一つ以外の装置領域上にある。
【0119】
気体分子に対する化学ポテンシャルの差を導入する任意の方法で蒸発が加速されて、反応器内の圧力を増加させる、反応器の外側の圧力または溶媒濃度を減少する、気体透過性膜(例えばエラストマー膜)でチャンバから分離されたマイクロ流体チャネルまたはチャンバ内で溶媒気体の溶解度が高い溶液を入れるまたは流すことを含め、化学ポテンシャルはチャンバの外側で内側より低くなる。
【0120】
本発明は上記方法を用いる溶媒(例えば水、アセトニトリル、アルコール)をチャンバから迅速に除去する方法を提供する。一部の態様では、蒸発は加熱により促進される。一部の態様では熱は使用されない。例えば、大容積の溶媒(例えば下限値1、2、3、4、5、6、7、8、9または10マイクロリットル、上限値20、15、10または5マイクロリットルの範囲で境界を示す容積であり、上限容積は下限容積より大きい)を迅速に(即ち3分未満、好ましくは2分未満、より好ましくは1分未満、より好ましくは45秒未満、時には30秒未満)蒸発できる(即ち少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の容積が蒸発する)。他の態様では、100〜1000ナノリットルの間の溶媒容積がチャンバから迅速に蒸発する(例えば好ましくは1分未満、より好ましくは45秒未満、時には30秒未満)。
【0121】
異なったアプローチでは、反応物および/または生成物が沈殿する沈殿剤を加えることにより溶媒を除去することができる。篩バルブ、即ち部分的に開いたバルブまたはその他の濾過の特徴を用いることにより沈殿物を捕捉し、溶媒を溶出および置換し、任意のバルブを通して導入された第2溶媒系を用いて沈殿物が溶液中に再溶解される。
【0122】
分離装置(クロマトグラフィーカラム)
ある態様では、反応物、生成物または他の化合物を分離、精製または濃縮するために用いられる一つまたは複数の分離装置が装置に包含される。分離装置は電気泳動、遠心分離その他の分離法に基づくことができる。一部の態様では分離装置はクロマトグラフィー分離プロセスを行うために用いられる小型化クロマトグラフィーカラム(即ちマイクロ流動分離カラム)である。特に有用な分離プロセスの一つは液体クロマトグラフィーであり、それは広い範囲の試料タイプに用いられ、溶媒中に溶解または別の混合されたイオンまたは分子を分離するために用いられるいくつかの方法を包含する。この文脈で用いられる「試料」とは、溶液の他の成分から濃縮、精製、分離すべき、および/または異なった溶媒へ移行させる生成物、反応物またはその他の試薬を含有する溶液を指す。
【0123】
液体クロマトグラフィーで、液体「移動相」(典型的には一種または複数種以上の溶媒からなる)は、複数の成分または化学種を含有する試料を分離媒体または「固定相」を通って移動させる。典型的には、固定相材料は、溶液中の化合物がカラムを通過すると特異的に相互作用する化合物で誘導体化されている、結合されている、または化合物で被覆されている、チューブまたはチャネル境界中に配置されたビーズ、充填顆粒(粒状材料)または多孔性モノリス(monolith)などの液体透過性膜を含む。ある態様では、クロマトグラフィーカラムはチャネルの内部表面上の官能基に結合する固定相を有するマイクロ流体チャネルである。
【0124】
ポンプ、電圧駆動電気力学流または圧力差を発生する他の方法を用いて移動相が固定相を通って強制移動する。試料をカラムに添加後、試料の成分は固定相との相互作用に従って移動し、このような成分の流れが程度に応じて遅れてくる。個々の試料成分(例えば反応物または生成物)は固定相中に暫く残留し、条件(例えば溶媒の変化)によって成分が移動相と共にカラムから溶出する。
【0125】
試料をカラムに加え、典型的には溶離溶媒または溶離溶液を添加する等のある条件下で溶出する場合、本発明のカラムを反応物/生成物を保持するように選択することができる。または、試料を添加すると反応物/生成物がカラムを迅速に通過し、試料のその他の(不要な)成分を保持してもよい。
【0126】
例示的な分離装置は米国特許第2002/0164816号および第2004/0115838号、例えば段落0327-0333、および米国特許第6,752,922号に記載されている(回転チャネル中に構成されたマイクロ製造クロマトグラフィーカラムを記載)。クロマトグラフィー分離材料の例は、ビーズ材料(例えば架橋アガロースまたはデキストランビーズ、機能化シリカ、ポリマー被覆シリカまたは多孔性シリカ粒子;スチレン-ジビニルベンゼンおよびジビニルベンゼンアクリルまたはメタクリル酸の共重合体等の樹脂、金属および他の材料)を含み、それらの材料は化合物がカラムを通過すると溶液中の化合物と特異的に相互作用する化合物で誘導体化、化合物と結合または化合物で被覆される。例えばクロマトグラフィー分離材料はゲル濾過、陰イオン交換、陽イオン交換、疎水性相互作用、サイズ排除、逆相、金属イオン親和性クロマトグラフィー、IMAC、免疫親和性クロマトグラフィーおよび吸着クロマトグラフィーを包含する多くのタイプのクロマトグラフィーに用いられるが、それらに限定されるわけではない。例えば、カラムモジュールで使用できるクロマトグラフィー分離材料はイオン交換樹脂(例えば陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂)、親和性クロマトグラフィー樹脂、サイズ排除クロマトグラフィー樹脂などであるが、それらに限定されるわけではない。有用な樹脂の例はHEI X8(BioRad Corp.)およびSource 15Q(Amersham Biosciences)を包含する。
【0127】
例示的なオンチップ(一体化)カラム
ある態様では、固定相ビーズ(例えばイオン交換ビーズ)を部分的に閉じたバルブで隔離された流体チャネル(Hong et al., 2004,「A nanoliter-scale nucleic acid processor with parallel architecture」 Nature Biotechnology 22:435-39参照)または篩バルブ中に捕捉することによりカラムが構成される。篩バルブを図3に示す。篩バルブ(図3Aおよび3C)は正方形流体ラインと通常の制御膜からなり、従って円形流体ラインに基づく通常のバルブ(図3Aおよび3C)とは異なる。一般に、バルブを操作すると、バルブ膜が楕円形に偏向する(図3cおよび3d)。通常のバルブの場合は(図3C)、偏向した膜は円形の流体チャネルに完全に従い、バルブを完全に閉じる。篩バルブでは(図3D)、偏向した膜はバルブを部分的に閉じ、正方形断面のチャネルの2つのチャネル端で2つの小さな隙間を生じる。懸濁した適当なサイズのビーズを含有する溶液(例えば水溶液)が流体チャネル中へ導入された場合、ビーズは篩バルブで捕捉される一方、溶液は閉じた篩バルブを通って流れることができる。この設計を用いて、異なったタイプのビーズ(例えばイオン交換樹脂、シリカゲルおよびC18)で充填された様々な小型化カラムが、抽出、濾過、精製およびクロマトグラフィー等の用途で実行される。ある態様では、チャネルおよびバルブの特定の構造によってビーズの好適な寸法は2μm〜50μmの範囲内である。
【0128】
篩バルブを標準多層ソフトリソグラフィー(MSL)法を使用して構成することができる(例えばUnger et al., Science,2000,288:113-16、および米国特許公報第20040229349号、第20040224380号および弟2004/0072278号参照)。例えば、篩バルブを有する装置は、RCA清浄#1.5ガラスカバースリップに結合したシリコンエラストマーであるポリジメチルシロキサン(PDMS)(General Electric社)で構成されている。この装置はFu et al., Nat Biotechnol 1999,17:1109-11の記載を若干修正して製造された(Studer et al., J.Appl.Phys.2004,95:393-98)。ネガ型マスター鋳型が標準光学リソグラフィーによりフォトレジストから作成され、AutoCADソフトウエア(Autodesk)で作成された20,000dpi透明マスク(CAD/Art Services)でパターン化された。第1エラストマー硬化工程中の形状の収縮を補償するため、流動層マスク(カラム部分およびチャネル部分)は制御層マスクの101.5%の寸法であった。流動マスター鋳型は40μm AZ-100XT/13μm SU8-2015フォトレジスト(Clariant/Microchem)で作成され、制御鋳型は24μm SU8-2025(Microchem)から鋳造した。
【0129】
篩バルブを完成するためには、カラムが構成される流動チャネル部分が断面で直方体の形を有する。従って、ある態様では、篩バルブと従来のバルブの双方で構成されるマイクロ流体装置のために多段階リソグラフィープロセスが使用される(Unger et al., 2000,Science 288:113-116)。例えば一つのアプローチでは、カラムレジストをシリコンウエハー上に回転して加工し、次いでレジストを通常の流体流動チャネル用に加工する。パターン化されたフォトレジストの熱リフローにより円形流体構造を有する鋳型が製造される。SU8等のネガ型フォトレジストはUV曝露領域の熱重合に依存し、従ってリフローすることができない。膜バルブに適合するために、流動チャネル部分をAZ-50(Clariant Corp.Charlotte,NC)等のポジ型フォトレジストで形成する。
【0130】
一度流体チャネルを加工すると、フォトレジストがリフローし、バルブを完全に閉じるために重要である丸い形を形成する(前記Unger参照)ために2層鋳型を加熱する(例えば200℃のホットプレート上で2時間焼成する)。カラムレジストを下流加工で強固にするため、レジスト工程間に硬化焼成工程も行われる。篩バルブを有するほとんどの装置は従来のバルブも有し、丸型および非丸型(例えば角型)流動チャネルの双方を有する。
【0131】
上記のように、分離装置は反応器と流体連通が可能である。ある態様では、反応物が濃縮または精製されてから反応器に送られる。他の態様では、生成物が濃縮または精製されてから反応器に送られる。一連の化学反応においてある化合物が反応物と生成物との両方であることは、理解される。
【0132】
例示的なマイクロスケール(オフチップ)カラム
特定の態様では、マイクロ流体システムはマイクロスケールカラム等のオフチップクロマトグラフィー装置を含む。本明細書における文脈では、オフチップとは、カラムがCRCと一体化せず、特にカラム材料が装置内のマイクロ流体チャネル内に位置しないことを意味する。従って、この意味で「オフチップ」であるカラムをチップに取り付け、チップが置かれるキャリアモジュール内に設置されるか、または配管でチップに流体結合される。これらの場合は、装置を破壊せずにクロマトグラフィーカラムをチップから取り外すことができる。
【0133】
特定の態様に対するオフチップカラムの利点としては、マイクロ流体チャネル内に製造するのが便利であることよりも、部分的に大きなサイズ(例えばマイクロスケールカラム)を有するカラムの使用による容量の増加およびスループットの増加が含まれる。本装置と方法に有用なマイクロスケールカラムには、容積が約1マイクロリットル〜約20マイクロリットル、通常は約5マイクロリットル〜約10マイクロリットル間のカラム(それに限定されないが)が含まれる。
【0134】
ある用途では、オフチップの設計が有利であり得る。実施例3の[18F]FDGの合成を例にすると、マイクロスケールオフチップカラムを使用する利点には(a)目的とする水をイオン交換カラムに供給するチャネルを広くし、より早いロード速度が得られること、および(b)少なくともある樹脂を、ビーズを濾過で集めるよりも密に充填できるために、カラム容積が増加できることが含まれる。他の利点は、プレ充填イオン交換カートリッジをキャリアモジュール上に設置するモジュラーカートリッジ(modular cartridge)設計の使用が可能であることが包含される。オフチップ設計により、15ミクロンより大きいビーズサイズを有する樹脂を含む、様々な樹脂の使用と試験が可能になる。ある態様では、カラム容積は2.2マイクロリットルであり、イオン交換樹脂はAG-1 X8(200〜400メッシュ)であり、溶媒のために残された空隙容積は1μL未満である。この構造のプロトタイプカラムを使用すると、1.8mLの目的とする水から800mCiの18F-を99.5%の捕捉効率でロードすることができる。20μLの0.05M K2CO3を用いて92.7%の遊離効率が観察された。また、固定相がクロマトグラフィー中に破壊される場合(例えばアルミナカラムを用いる酸-中和クロマトグラフィー)、オフチップカラムは有用である。カラムを交換して装置を再使用することができる。
【0135】
特定のマイクロ流体システムが一つまたは複数(数百以上まで)のオンチップカラムを有し、一つまたは複数のオフチップカラムを有し、オンチップカラムとオフチップカラムの両方を使用し得ることが理解される。CRCには複数のカラムが含まれ、それらのカラムは化学反応または他のプロセスで異なった機能を有し、異なった樹脂または他のクロマトグラフィー材料を含み得る。
【0136】
ポンプ
本発明のマイクロ流体装置は、流体を流動チャネルを通って他の装置部品(例えばカラムまたは反応器)または装置自体の中へ移送し、そこから流出させるために一つまたは複数の組み込みポンプを含み得る。適当なポンプは電子式、静電式、磁気、機械式、シリンジ、空気または蠕動ポンプである。米国特許第6,408,878B2号に記載されるような蠕動ポンプを使用することが好ましい。または、ポンプはチップの外にあってもよい。ポンプは液体(例えば水)をバルブを作動させるための制御バルブ、またはチップの選ばれた領域の蒸発を最小にするための保護チャネルに移送するためにも使用される。ポンプはまた、例えば排気チャネル中を真空にするためにも使用される。
【0137】
温度制御部品
特定の態様では、反応を開始、維持もしくは最適化するために、または試薬もしくは生成物を保存するために溶媒、反応混合物、試薬または生成物が加熱または冷却される。従って、本発明の装置とシステムは、装置全体、または装置(例えばリザーバまたは反応器)の特定の部品もしくは領域の温度を調節する温度制御システムを含み得る。適当な温度制御システムにはペルチエ(Peltier)装置、抵抗ヒーター、熱交換器および酸化インジウム錫素子(例えば米国特許第6,960,437B2号参照)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。レーザー等の光源を用いて溶液を加熱することもできる。マイクロ流体装置の選択される領域内または装置全体の温度を制御するため、様々な精巧さを有する異なったオプションが利用できる。従って、本明細書において温度制御器という用語は、マイクロ流体装置全体、またはマイクロ流体装置の一部内の温度を制御し得る装置または要素を広く意味する。
【0138】
一部の態様では、装置の様々な領域の温度を検出するセンサーを内蔵することが有用である。温度検出用の1つの構造は、熱電対である。このような熱電対を、下地である基板材料上にパターン化された薄膜ワイヤー、またはマイクロ加工されたエラストマー材料自体中に直接取り込まれたワイヤーとして作成できる。温度を電気抵抗の変化を通じて検出することもできる。例えば、従来の技術を用いて下地の半導体基板上に製造されたサーミスタの抵抗変化を補正して、一定の温度変化が得られる。または、マイクロ加工エラストマー材料中にサーミスタを直接挿入することもできる。抵抗による温度検出のまた別のアプローチは、Wu et al., 2001,「MEMS Flow Sensors for Nano-fluidic Applications」, Sensors and Actuators A89 152-158. Thermo-chromatic materialsに記載されている。
【0139】
モニター部品
特定の態様では、マイクロ流体システムまたは装置はモニター装置および信号検出器を含む。例示的な信号検出器は、可視、蛍光、およびUV(強度、散乱、吸収)発光、差屈折率、電気抵抗、比抵抗、インピーダンスならびに電圧をモニターする。シンチレーション近接分析技術、共焦点レーザー散乱、放射化学検出、蛍光偏光その他の方法の応用も利用できる。
【0140】
制御チャネル
「制御チャネル」は、作動力に反応して流動チャネル中へ偏向する、または流動チャネルから引き戻される(即ち「バルブ」として作用する)ことができるエラストマー膜によって分離されたチャネルである。制御チャネルの寸法は広い範囲で変化し得るが、典型的には1mm未満、好ましくは0.5mm未満、しばしば0.3mm未満の1つの断面寸法(例えば高さ、幅または直径)が含まれる。例えば、ある態様では、制御チャネルは幅250マイクロメーター×高さ250マイクロメーターの寸法を有する。他の態様では、制御チャネルは幅300マイクロメーター×高さ50マイクロメーターの寸法を有する。Unger et al., 2000,Science 288:113-116;米国特許出願公開第2004/0115838号および国際公開公報第01/01025号; 同第2005030822号および同第2005084191号参照。
【0141】
保護チャネル
特定の態様では、マイクロ流体装置はエラストマー層中に保護チャネルを含有する。保護チャネルは、その中を溶液(例えば水)が流れてエラストマー材料内の水蒸気圧を増加し、その結果、装置の選択される部分および/または一連の反応の選択される時点における蒸発を減少させる、エラストマー装置内に形成されたチャネルである。保護チャネルは米国特許出願公開第2003/0138829号に記載されている。
【0142】
ビア
「ビア」は、装置の外部口と1本以上の流動チャネルとの間を流体結合するためにエラストマー装置内に形成されたチャネルである。従って、ビアは例えば試料の入口または出口となり得る。また、「垂直ビア」またはエラストマー層間の相互接続(エラストマー層の上部に耐腐食層をリソグラフィーパターニングし、次いでエラストマーをエッチングし、最後にエラストマーの最後の層を加える前にエッチレジストを除去して作成し得る)も包含する。米国特許第6408878号および米国特許出願公開第20050166980号参照。
【0143】
本開示を再読すれば、個々の反応器の他の性質は明らかになると考えられる。例えば、本発明のほとんどの態様で、反応器は細胞、細胞材料または核酸、および/または生物起源(細胞、ビリオン(virion)等)のポリペプチドを含まない。
【0144】
第4節:反応生成物の合成
上記のように、本発明はマイクロ流体装置を用いる化学反応、または一連の化学反応を行うための方法を提供する。基本的な局面では、本発明の方法は一つまたは複数の反応物を含有する溶液をマイクロ流体反応器中に導入し、次いで反応器を流体隔離し、溶媒を流体隔離された反応器から除去する工程を含む。いくつかの任意の追加工程が以下に記される。特に、溶媒交換を実行し、反応器内で連続反応を行い、マイクロ流体装置の様々な部品を機能的に一体型する方法が記載される。
【0145】
第1の基本的な局面では、溶媒系中に反応物を含有する溶液が、マイクロ流体チャネルを経由して反応器中に導入される。参照し易くするために、これを第1溶媒系中に第1反応物を含有する第1溶液とする。反応器は流体隔離され、第1反応物が保持される一方で、溶媒系の全部または一部が流体隔離されたチャンバから除去される。反応器をチャネルと流体結合し、反応物を再溶解する第2溶媒系が導入される。第2溶媒系は以下に記すように反応物または触媒を含有する。または、第2溶媒系中の溶液中の反応物を反応器から除去し、異なった反応器、分離カラム等に移送し、また別の化学反応を行うこともできる。
【0146】
他の基本的な局面では、化学反応における反応物をそれぞれ含有する2つの異なった溶液がマイクロ流体チャネルを経由して反応器中に導入される。参照し易いように、第1溶液は第1溶媒系中に第1反応物を含有し、第2溶液は第2溶媒系中に第2反応物を含有する。第1および第2溶媒系は同じでも異なってもよく、それぞれが単一溶媒(例えばアセトニトリル)または溶媒の組み合わせ(例えばアセトニトリルと水)からなる。ある場合は、各溶液は任意で別の反応物等の別の溶質を含有する。
【0147】
溶液の反応器中への導入は、特定のマイクロ流体装置に適した任意の流体移送機構を用いて行うことができる。典型的には溶液を(例えば蠕動ポンプで)ポンプ送液する。2つの溶液を同時に加えるか、または任意の数の充填方式を用いて任意の順番で加えることができる。ある方式では、2つの溶液を同時に導入し、次いで反応器を流体隔離する。第2の方式では、第1の溶液を導入して反応器を部分的に充填し、次いで第2溶液をさらに加え(または反応器を完全に充填し)、反応器を流体隔離する。この方式は以下の実施例3に示されるが、とりわけ反応器は18F-/Kryptofix222/K2CO3(MeCN中)で2/3充填され、次いでマンノーストリフラート(MeCN中)を導入して反応器を満たす。第3の方式では、反応器を第1溶液で完全に満たし、次いで第2溶液を導入して第1溶液の一部を置換し、反応器を流体隔離する。第4の方式では、反応器を第1溶液で完全に満たし、反応器を隔離し、第1溶媒系の全部または一部を抜き出し、反応器を流体結合し、第2溶液を導入し、反応器を再度流体隔離する。この第4方式を以下の実施例1に示すが、とりわけ(1)19F-KFを含有する水溶液を反応器(反応ループ)に導入し、(2)反応器を流体隔離し、(3)KFを保持する一方で水を反応器から除去し、(4)反応器を流体結合し、(5)D-マンノーストリフラートおよびKryptofix 222を加え、(6)反応器を再度流体隔離した。充填前に反応器を占有し得る気体(例えば空気)を引き抜くために排気チャネルを使用することにより、反応器中への溶液の導入を促進することができる(実施例3、図12参照)。
【0148】
第1溶液導入の前、導入中もしくは導入後、および/または第2溶液導入の前、導入中もしくは導入後を含む、反応器が流体隔離されていない任意の時点で、別の溶媒または別の反応物、触媒、緩衝剤、試薬、反応成分等を含有する溶液を、流動チャネルを経由して反応器中に導入できる。所望の反応の化学的性質に適合する任意の順番で添加し得る。さらに、実施例に示すように、充填を促進するために充填プロセスの様々な時点で反応器を流体隔離または連結することができることは、理解される。
【0149】
溶媒系の除去
本発明は蒸気中の溶媒は透過性であるが液体は透過しない反応器から、溶媒系が除去される溶媒交換法を提供する。特定の態様では、本方法は、反応物または生成物等の溶質を保持する一方で、溶媒系のすべてまたは一部(または個々の成分溶媒)を流体隔離された反応器から除去し、または任意で反応器から除去しない工程を含む。反応チャンバ壁の気体透過性部分を通る蒸発により溶媒が除去される。第3節で述べたように、反応器の壁の少なくとも一部は溶媒からの蒸気に透過性であるが液体に不透過性であり、蒸気が流体隔離された反応器から抜け出すことができる。第3節で述べたように、例示的な反応器は少なくとも部分的に気体透過性エラストマー材料で製造されている。例示的なエラストマーはポリジメチルシロキサンおよびパーフルオロポリエーテルを含み、優れた気体透過性が特徴である。ある態様では、反応器が全体的、または実質的にエラストマーで製造される。一部の態様では、蒸発速度は加熱および/または排気チャネルの使用で加速される。
【0150】
反応器に気体透過性材料が存在することにより、ユーザーは(i)反応器中の溶媒交換、(ii)反応器中の反応物、生成物その他の溶質の濃縮、(iii)チャンバ内の溶液の組成の変更(例えば異なった沸点に基づく溶媒系中の異なった溶媒の分別蒸発による)その他の有用なプロセスが可能になる。
【0151】
第1溶媒を流体隔離された反応器から除去し、バルブを開いて反応器を流動チャネルに流体結合し、第2溶媒を流動チャネルを経由して反応器中に導入することにより、溶媒交換を行うことができる。次いでバルブを閉じ、反応器を再度隔離することができる。別の反応成分(反応物)も導入し、例えば溶媒系で溶液中に導入し得る。実施例1は溶媒交換を示す。説明されるように、18Fフッ素水溶液を反応器に導入し、反応器を隔離し、加熱して水(溶媒)を除去し、異なった溶媒であるアセトニトリルを反応器に導入した。溶媒交換工程中に第1溶媒を全て除去する必要はないし、時には望ましくない(例えば、反応物を再溶解することが極めて困難である場合)。溶媒交換工程は反応器中に含有される少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または全ての溶媒の除去を含む。
【0152】
本発明のある局面は、(i)溶質化合物および溶媒系を含有する反応器を含むマイクロ流体装置を提供し、(ii)溶質化合物を反応器中に保持する一方で、反応器から少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%の溶媒系を除去し、それにより反応器中の溶媒系の単位体積当たりの反応器中の溶質化合物の量を増加させる、マイクロ流体装置の反応チャンバ(反応器)から溶媒を除去する方法を提供する。ある態様では、溶質化合物が溶液中に残存し、溶液中の溶質の濃度が増加する。ある態様では、溶媒は水以外である。ある態様では、溶媒は水である。
【0153】
この方法のある態様では、溶質化合物は放射性核種または放射性核種を含む分子である。放射性核種は、例えば、[11C]、[124I]、[18F]、[124I]、[13N]、[52Fe]、[55Co]、[75Br]、[76Br]、[94Tc]、[111In]、[99Tc]、[111In]、[67Ga]、[123I]、[125I]、[14C]および[32P]である。溶質化合物が[18F]フッ化物または[18F]-フッ化カリウム等の[18F]フッ化物を含む分子であることが好ましい。一部の態様では、溶質化合物はKryptofix 222等のクリプタンドである。いくつかの態様では、溶質化合物は表1に列記される(i)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース、(ii)2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリル、(iii)D-マンノーストリフラートである。本発明の好ましい態様では、反応器中に一種または複数種以上の溶質化合物が保持される。例えば、2、3、4、5、6または6より多い溶質が反応器中に保持される。
【0154】
反応生成物の生成
特定の態様では、反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な条件下で一定時間、反応器が流体隔離状態(例えばバルブを閉じたままの状態)に保たれる。
【0155】
反応物と反応条件の特定の組み合わせに対し、反応を行うに十分な時間が経過するまで(反応動力学で決定される)、および/または流体隔離された反応器の環境の変化により反応が開始または加速されるまで(例えば反応混合物の加熱)、わずかな生成物を生じるか、まったく生じない。
【0156】
他の場合では、反応物が相互に混合されると直ちに、または反応環境を変化させる成分を導入すると(溶媒系の変化、反応物、触媒、塩、緩衝液、イオン等の導入)、反応器が隔離される前でも生成物の生成が開始される。反応が速い場合、反応器が隔離される前に生成物が完全に生成する。ある態様では、反応生成物の相当量が反応器を流体隔離する前に生成される。「相当量」とは、反応の全収量の80%以上、好ましくは90%以上、時には95%以上を意味する。他の態様では、反応器を流体隔離する工程前に微量の反応生成物が生成される。「微量」とは、反応の全収量の20%以下、好ましくは10%以下、時には5%以下を意味する。反応がやや遅い場合、反応器が隔離される前に生成物の一部が生成され、反応器が隔離された後もしばらく生成物が蓄積し続ける。どのような場合でも、反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器が流体隔離状態に保たれる。制限的な例として、反応物が反応器中に導入され反応器が流体隔離される前に反応物が即座に完全に反応する場合、「反応生成物に対して十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に保つ」ことは「ゼロ時間」を含む、すなわち反応生成物の蓄積は反応器が隔離された時点で完了する。
【0157】
上記のように、反応混合物の加熱等の環境の変化で反応が開始または加速されるまで、多くの反応でわずかな生成物を生じるか、生成物は生じない。あるエラストマー(例えばPDMS)で全体が、または部分的に作成されたマイクロ流体反応器内の溶液が溶媒または溶液の通常の(大気圧)沸点以上に加熱でき、高温-高圧反応環境を発生することが有利である。その結果、反応速度が加速され、反応時間を短くすることができる。圧力はチップに供給された熱ばかりでなく、エラストマーマトリックスの多孔性でも媒介される。この例では、PDMSは「調理圧力」を臨界範囲内に調節する圧力調理器の安全バルブに類似した役割を果たす。
【0158】
溶媒、反応物および試薬の混合
化学反応および他の化学プロセスには、反応成分を積極的に混合することが必要であり、積極的な混合により加速し得る。いくつかの混合法が下記に示されるが、それらは説明のためであり、制約的ではない。方法(a)はループとして構成される反応器に特に関連がある(米国特許第6,767,706号に記載の非円形構造も含む)。方法(b)〜(g)は、コイン型反応器等の大容積を有する反応器に特に関連する。
【0159】
(a)ループチャネル混合
溶液をループチャネル(または「循環ループチャネル」)中に導入し、ループチャネルに付属するポンプ(例えば蠕動ポンプ)を起動し、循環ループチャネルの周囲に異なった流体の少なくとも一つを循環させ、異なった流体を混合することにより、溶液をループチャネル中で混合することができる。米国特許第6,767,706号参照。
【0160】
(b)ボトムアップ混合
図19に示すように、反応器の下の大きな平板円形デッドエンドチャネル(図では「制御チャネル」と称する)の膜をある周期で作動(即ち膨張および収縮)させることにより、混合が行われる。この方法は以下のような欠点がある:(i)蒸発ラジエーターに対し制御チャネル層中にほとんど空間が残されていない(底部排気位置を使用した場合)、(ii)制御チャネルと反応チャンバとの間の膜が、大きな表面積/厚さ比のためにチップの最終硬化中に破損し得る、(iii)混合効率が限られる、(iv)反応器から生成物の完全な溶出が困難である。(v)最終溶出後に反応器内に残されるある生成物が存在する、(vi)デッドエンドチャネルが(一部の態様で)制御チャネル層内の貴重な空間を占領する。
【0161】
(c)パルス混合
混合の一つのアプローチでは、デッドエンド蛇行チャネルが反応器の下(例えば反応チャンバの下の制御層)に置かれる。デッドエンドチャネルを液体(例えばKrytox(登録商標)油, DuPont)で満たし、このチャネルにパルス圧力を加えて反応器中に波を導入し混合器とすることができる。このシステムを反応器から生成物を取り出すためにも使用できる(例えば反応器の出口方向に同じ波を送る)。反応器を空にするため、蛇行チャネルを作動させて波を発生させる。さらに、気体(例えばN2)を排気チャネルに(真空の代わりに)導入し、反応器内部に圧力を生じさせる。図20は排気チャネル(N2で示す)と液体充填デッドエンドチャネル(「Krytox」)との二重ラジエーターシステムを示す。この図はまた、他の例示的な排気チャネル構造と、反応器に隣接し同じエラストマー層内にある複数のシステムの配置を示す(「二重ラジエーター」構造)。
【0162】
(d)化学推進混合(自己攪拌反応)
反応が乱流を生じる、または溶液が運動することになる場合、混合は化学的に推進される。例えば、本明細書の別の場所で説明した[18F]FDG合成では、反応工程IIにおける[18F]FTAG溶液のHClによる混合は、2つの溶液が界面で激しい酸-塩基反応に関与することにより「化学的に推進される」。これは渦巻きを生じ、次に2つの溶液を迅速に混合する。このタイプの混合は装置に余分な機能を伴わず、反応物と反応工程の選択に依存する。試薬溶液が反応チャンバ内に導入される場合、全ての試薬はチャンバ内に固体の形で既に分布しているので、[18F]FDG合成では二つの溶液の混合が加水分解工程でのみ必要であることに注意されたい。他の場所に記載したように、FTAG溶液を蒸発乾固した場合、再溶解することは困難である。
【0163】
(e)真空圧縮混合
エラストマー材料で製造したコイン型反応器(例えば)では、反応チャンバの壁がある環境下で内側へ偏向することができる。例えば、[18F]FDG合成で、閉鎖した反応チャンバ内でFTAG溶液からアセトニトリルが蒸発して溶液の容積が減少すると(チャンバ内部が真空になると)、反応器のコイン型の平坦な表面を陥没させることができる。酸チャネル上のバルブが開くと、エラストマーは元の形に戻り、チャンバの容積は内部の酸を急速に吸引して元に戻る。第2溶液のこのような導入速度により、ほとんど瞬時の混合が促進される。
【0164】
(f)拡張混合
エラストマーおよび類似の装置に適した他の混合機構は、チップの製造元の材料の弾性を利用する。このような混合は、一つの試薬の溶液で反応器を半分満たすことで開始する。続いて第2試薬を導入すると、チャンバの空の半分が満たされる。反応を「攪拌」するために、第2試薬の導入に用いられる流動チャネル中に(そのチャネル上のバルブが開いている間に)パルス圧力を加える。パルスの周波数で弾性チャンバが膨脹し、元の形状に戻る。次いでチャンバの内容物が迅速にチャンバから外へ移動して戻り、迅速で完全な攪拌が行われ、その後に使用したチャネル上の対応するバルブが閉じられる。
【0165】
(g)導入による混合
流動チャネル(分配マニホールド等)と反応器との立体的関係を選択して、隔離されたマイクロ流体環境内の混合または流体運動を加速することができる。例えば、溶液のチャンバへの同時導入のための分配マニホールドの使用により、効率的な混合ができる。
【0166】
(i)他の混合法
上記の混合法は例として提供されたものであり、限定のためではない。攪拌のための様々な他の方法は、本開示を再読すると実施者に明白である。
【0167】
連続反応
本発明の装置は、(第1反応の生成物が後続反応の反応物である)連続反応を行うために特に適している。従って、本発明は例えば反応器を含むマイクロ流体装置を提供し、少なくとも二つの連続反応を行う十分な試薬を提供して反応器中で第1反応を行って第1反応生成物を生成し、反応器中で次の反応を行うことによる連続化学反応を行う方法を提供するが、第1反応生成物は第2化学反応における反応物であり、第1反応生成物は第2反応の前に反応器から除去されない。関連する態様では、第1反応生成物はその後の反応の触媒である。本発明のある態様では、二つの反応は異なった溶媒系中で行われる。ある態様では、第1生成物は任意で除去せず保持される一方で、第1反応が生じる溶媒系の少なくとも一部が反応器から、溶媒系を流体隔離された反応器の外へ蒸発させることにより除去される。
【0168】
密接に関連する態様では、連続化学反応を行う方法は、以下の工程を含む:第1および第2反応物は反応溶媒系で溶液中にあり、反応器は流体隔離され、第1反応生成物が生成される第1反応物および第2反応物を反応器中で反応させる工程と;流体隔離された反応器から反応溶媒系の少なくとも一部を蒸発させる工程と;反応器中の第1生成物を任意で除去せずに保持する一方で、反応器中に第3の反応物を含有する溶液を導入する工程。ある態様では、第1反応生成物と第3反応物が反応して新しい(第2)反応生成物が生成される。他の関連する態様では、連続化学反応を行う方法は、以下の工程を含む:第1および第2反応物が反応溶媒系の溶液中にあり、反応器が流体隔離され、第1反応生成物が生成される、反応器中で第1反応物と第2反応物を反応させる工程と;流体隔離された反応器から反応溶媒系の少なくとも一部を蒸発させる工程と;反応器中に第1生成物を保持し、任意で除去せず、反応器中に触媒を含有する溶液を導入する工程。ある態様では、触媒で触媒される反応で、第1反応生成物が、反応器中に存在するかまたは反応器中に加えられる第3反応物と反応し、新しい(第2)反応生成物が生成される。他の態様では、第1反応生成物は他の反応物と結合せず、触媒の存在で修飾(例えば加水分解または脱保護)される。このタイプの反応シリーズ(反応IおよびII)の結果[18F]FDGが生成されることは、以下の実施例で説明される。
反応I:18F-フルオリド+マンノーストリフラート→2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース
反応II:2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース+HCl→18F-2DG
上記のように、反応Iはアセトニトリル(反応溶液系)中で反応器内で行われた。反応Iが終了すると、PDMS壁を通ってアセトニトリルが蒸発により流体隔離された反応器から除去された。チャンバ内にHClを含有する溶液が導入され、[18F]FDG生成物が反応IIで生成された。この反応でHClは触媒として働く。反応で使用し得る触媒には不均一触媒(反応物とは異なった相に存在する、例えば液体反応混合物中の固体触媒)および均一触媒(同じ相に存在する、例えば液体反応混合物中に溶解した触媒)が含まれる。ある態様では、触媒は酸である。
【0169】
所望すれば、反応周期の繰り返し、溶媒変更または除去および反応物、触媒または反応開始剤等の試薬の添加により別の反応を連続して行うことができることが理解される。ある態様では、以下のような3つの連続反応が行われる。
1.R1+R2→P1
2.P1+R3→P2
3.P2+R4→P3
式中、R1〜4は反応物であり、P1〜3は反応生成物である(P1〜2は反応物でもある)。例えば、工程1と2、工程2と3との間で溶媒交換または変更が行われる。一部の態様では、平行反応(即ち反応器中で一種または複数種以上の生成物の生成)が行われる。すなわち
1.R1+R2→P1;R3+R4→P2
2.P1+P2+触媒→P3
工程1と2との間で溶媒交換または変更を行う。他の態様では、多成分またはコンビナトリアル(combinatorial)反応が行われる。例えば、本発明の装置中で行われる例示的な反応を以下で説明するが、それらに限定されるわけではない。
【0170】
同じ反応器中で連続反応を行うことが便利であるが、第1反応を第1溶媒中、第1反応器中で行い、反応の生成物を第2反応器へ送り、第2反応を第2溶媒中、第2反応器中で行うことにより本発明の方法を用いる連続反応を行うこともでき、溶媒交換は第1または第2反応器いずれかの中で行われる。
【0171】
他のスキームでは、2回以上の連続反応を、溶媒交換を行った第1反応器中で行うことができ、次いで生成物を反応器外へ移送して修飾し、「修飾生成物」を第2反応器へ移送する。修飾には例えば化学修飾、濃縮(例えばカラムクロマトグラフィーによる)、他の試薬との混合(例えば回転式混合器中)、加熱、および当業者である化学者に自明である様々な他の修飾が含まれる。
【0172】
様々な化学プロセスを本発明のマイクロ流体装置に組み込み、ナノグラムスケールの連続合成プロセスに採用することができる。その例には例えば、酸化、還元、エステル化、加水分解、置換、Suzukiカップリング、Kumadaカップリング、窒素化、ジアゾカップリング、ジアゾ化、光シアン化、脱水反応、エステル化、フッ素化、加水分解反応、Grubbs複分解、Kumada-Corriuカップリング、アルドール反応、および酸化が含まれる。Current Opinion in Chemical Biology 7:380-387(2003)、およびde Mello et al., 2002 Lab Chip, 2:7N-13N参照。ある態様では、化学反応は置換反応である。ある態様では、置換はフッ素化反応である。
【0173】
また別の具体例には、ペプチド合成、Hantzsch合成を用いる一連の2-アミノチアゾールの合成、EDDA触媒によるアルデヒド縮合におけるシクロアダクトの合成、Swern酸化、および短寿命の陽電子エミッター(例えば炭素11またはフッ素18)によるカルボン酸エステルの標識、およびアルコールの酸化的脱水素化が含まれる。Current Opinion in Chemical Biology 7:380-387(2003);Kawaguchi et al., 2005, Angew.Chem.Int.Ed., 44:2413-16、およびLu et al., 2004, Lab Chip 4:523-25;de Mello et al., 2002, Lab Chip, 2:7N-13N参照。
【0174】
ある態様では、反応がクリプタンドの存在下で行われる。説明のためであり、限定的でない例示的なクリプタンドにはKryptofix 5;Kryptofix 21;Kryptofix 22;Kryptofix 22アザトリサルフェート;Kryptofix 22DD;Kryptofix 22ポリマー;Kryptofix 23;Kryptofix 111;Kryptofix 211;Kryptofix 221;Kryptofix 221Bポリマー;Kryptofix 222;Kryptofix 222B;Kryptofix 222BB;Kryptofix 222Bポリマー;Kryptofix 222CC;Kryptofix 222D;クラウンエーテル/12-クラウン-4;クラウンエーテル/15-クラウン-5;.811684クラウンエーテル/18-クラウン-6;クラウンエーテル/4'-ニトロベンゼン-15-クラウン-5;クラウンエーテル/デシル-18-クラウン-6;クラウンエーテル/ジシクロヘキシル-18-クラウン-6;クラウンエーテル/N-フェニルアザ-15-クラウン-5が含まれる。これらは全て市販されている(Merck KGaA)。ある態様ではクリプタンドはKryptofix 222[4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン]である。
【0175】
これらの反応を、本発明のマイクロ流体装置中で行われる連続反応に採用し得る。このような反応で生成する化合物は、一連の工程で化学結合により相互に結合できる任意の成分で構成することができる。従って、成分はコンビナトリアル合成で有用な任意のクラスのモノマーで有り得る。即ち、成分、モノマーまたは構築ブロックはアミノ酸、炭水化物、脂質、リン脂質、カルバメート、スルホン、スルホキサイド、エステル、ヌクレオシド、複素環分子、アミン、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、アルキルハライド、フェノール性分子、硼素酸、スタナン、アルキルまたはアリールリチウム分子、グリニャール試薬、アルケン、アルキン、ジエンおよび尿素誘導体を含むことができるが限定的ではない。
【0176】
本発明の方法に使用できる成分が多様であるので、生成できる化合物も多様である。本質的に、最終化合物または生成物が成分毎に生成される、複数のサイクルで生成し得る任意のタイプの分子を、本発明の方法に従って合成できる。合成できる化合物の例は、分子撮像試薬、ベンゾジアゼピン、チアゾリジノンおよびイミダゾリジノンを含むが、それらに限定されるわけではない。最終化合物は鎖状、分枝、環状またはその他の立体配座であり得る。潜在的な生物活性を有するか、非生物活性を有するように化合物を設計できる。
【0177】
ある局面では、本発明は化合物を放射線標識する方法を提供する。自動化一体型マイクロ流体CRC上で行い得る連続放射線標識プロセスの例は、以下の一つまたは複数を含む:(i)放射性試薬または前駆体の濃縮または前処理、(ii)放射線標識試薬と前駆体との混合および反応による放射線標識中間体の生成、(iii)放射線標識中間体の脱保護または化学修飾、(iv)所望の分子プローブである放射線標識生成物の精製、および(v)品質分析および管理。
【0178】
ある局面では、本発明は放射線標識反応物と前駆体反応物化合物とを混合・反応させ、放射線標識生成物を生成するマイクロ流体環境における放射線標識生成物の合成法であって、混合と反応がマイクロ流体反応器中で行われ、放射線標識試薬が第1溶媒中で反応器に導入され、放射線標識前駆体が第1溶媒とは異なる第2溶媒中に導入される方法を提供する。一部の態様では、放射線標識生成物は放射線標識分子撮像プローブである。一部の態様では、放射線標識分子撮像プローブは2-デオキシ-2-[18F]フルオロ-D-グルコース([18F]FDG)、6-[18F]フルオロ-L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン([18F]FDOPA)、6-[18F]フルオロ-L-メタチロシン([18F]FMT)、9-[4-[18F]フルオロ-3-(ヒドロキシメチル)ブチル]グアニン([18F]FHBG)、9-[(3-[18F]フルオロ-1-ヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]グアニン([18F]FHPG)、3-(2'-[18F]フルオロエチル)スピペロン([18F]FESP)、3'-デオキシ-3'-[18F]フルオロチミジン([18F]FLT)、4-[18F]フルオロ-N-[2-[1-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル]-N-2-ピリジニルベンズアミド([18F]p-MPPF)、2-(1-{6-[(2-[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリル([18F]FDDNP)、2-[18F]フルオロ-α-メチルチロシン、[18F]フルオロミソニダゾール([18F]FMISO)、5-[18F]フルオロ-2'-デオキシウリジン([18F]FdUrd)、[11C]ラクロプライド、[11C]N-メチルスピペロン、[11C]コカイン、[11C]ノミフェンシン、[11C]デプレニル、[11C]クロザピン、[11C]メチオニン、[11C]コリン、[11C]チミジン、[11C]フルマゼニル、[11C]α-アミノイソ酪酸、または前記化合物の一つの保護型である。具体的な態様では、放射線標識反応物は[18F]フッ化カリウムであり、前駆体反応物は2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリルまたはD-マンノーストリフラートである。表1は例示的なPET撮像剤と前駆体を示すが、制約的ではない。このような試薬の合成に複数の合成ルートを用い得ることが理解される。
【0179】
【表1】

【0180】
これら化合物の合成法は周知であり、本発明のマイクロ流体システムに採用して容易に用いられる(例えばHamacher et al., 1986,「Efficient Stereospecific Synthesis of No-Carrier-Added 2-[F-18]-Fluoro-2-Deoxy-D-Glucose Using Aminopolyether Supported Nucleophilic-Substitution」Journal of Nuclear Medicine、27:235-238;Padgett et al., 1989,「Computer-Controlled Radiochemical Synthesis-a Chemistry Process-Control Unit for the Automated Production of Radiochemicals」、Applied Radiation and Isotopes 40:433;Machulla et al., 2000,「Simplified labeling approach for synthesizing 3'-deoxy-3'-[F-18]fluorothymidine([F-18]FLT)」Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 243:843-46;Shoghi-Jadid. et al., 2002,「Localization of neurofibrillary tangles and beta-amyloid plaques in the brains of living patients with Alzheimer disease」American Journal of Geriatric Psychiatry、10:24-35)。
【0181】
当業者は、本発明が他の撮像システムにも有用な放射性薬品を含み、放射線核を含む任意の適当な放射性化合物の合成に容易に採用できることを即座に理解するであろう。使用し得る放射性核種には11C(t,1/2=20.1分)、18F(t,1/2=110分)、124I(t1/2=4.2日)、13N(t1/2=19.3分)および15O(t1/2=2.03分)、および他の適当な放射性核種、例えば52Fe(t1/2=8.3時間)、55(t1/2=17.5時間)、55Co(t1/2=9.7分)、75Br(t1/2=98分)、76Br(t1/2=16.1時間)および94Tc111In(=53分)等の陽電子放出放射性核種(分子内に導入してPETに対する分子プローブとすることができる)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。同様に、一体型マイクロ流体CRCを99Tc、111In、67Ga、123I、および125I等のガンマ線放出核、ならびに14Cおよび32P等のβ線放出核を個々の分子プローブ中に導入するために使用できる。
【0182】
例えば、一部の態様では、本発明は[11C]含有分子の効率の高い取り込み、例えば[11C]メタン、[11C]二酸化炭素、[11C]一酸化炭素、[11C]含有ハロゲン化物([11C]-RX)、[11C]含有酸塩化物(R[11C]COX)、[11C]含有カルボン酸(R[11C]COOH)、[11C]含有エステル(R[11C]COOR)、[11C]含有アルコール(R[11C]COH)、[11C]CN、[11C]CCl4、[11C]ホスゲンおよび[11C]尿素のPET分子プローブ中への取り込みに関する。一部の態様では、本発明は[124I]標識PET分子プローブの効率の高い合成に関する。
【0183】
一般に、放射性同位体をアセトニトリル、アセトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキサイド(DMSO)およびヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)等の極性非プロトン性溶媒等の適当な溶媒中で反応させる。18Fを含有する溶液では、放射性同位体は典型的には相転移触媒および錯塩等の配位化合物の形である。18Fの一般的な溶液の一つは、相転移触媒としてのKryptofix 2.2.2および炭酸カリウム(K2CO3)との錯塩中の18Fである。
【0184】
一部の態様では、本発明に用いられる放射化学合成反応にはさらに、放射性同位体との反応後の放射性化合物の脱保護工程が含まれる。典型的には、脱保護工程は放射性化合物を塩基水溶液または酸水溶液等の加水分解試薬と接触し反応させる工程を含む加水分解反応である。塩基水溶液はアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)水溶液であり、酸水溶液には塩酸水溶液が含まれる。
【0185】
一部の態様では、放射性核種標識プロセスのために、マイクロ流体装置内で多数の連続工程が行われる。分かり易くするため、[18F]フルオリドイオンを用いる合成工程が以下に示されるが、当業者に自明である変更を用いて他の放射性核種にも同様に適用できる。これらの工程の全てが各合成に必要ではなく(例えば中間体および反応後精製工程を省略し得る)、列挙した工程の全てがマイクロ流体システムまたは本発明の装置で実行されないことは明らかである。これらの工程は、サイクロトロン標的から水溶性[18F]フルオリドイオンを受け取る工程;[18F]フルオリドイオンを水から分離し水を集め、反応性[18F]フルオリドイオン溶液の有機および/または極性非プロトン性溶媒(アセトニトリル、DMF、DMSO等)を作成する工程;有機および/または極性非プロトン性溶媒(アセトニトリル、DMF、DMSO等)中の反応性前駆体溶液を提供する工程;任意で熱を加え、求核置換反応を用いて[18F]フルオリドイオンと前駆体を反応させ、新しい炭素-フッ素結合を合成する工程;最初の[18F]フッ素化生成物を固相抽出またはクロマトグラフィーで精製する工程;精製された最初の[18F]フッ素化生成物を第2試薬と反応させ(例えば任意で保護基の加水分解)、最終[18F]フッ素化生成物を合成する工程;例えば固相抽出またはクロマトグラフィーで最終[18F]フッ素化生成物を精製する工程;[18F]フッ素化生成物を脱溶媒する工程;放射能、UV吸収および伝導度/pHで精製された最終[18F]フッ素化生成物を分析する工程;精製された最終[18F]フッ素化生成物を配達する工程;および/または精製された最終[18F]フッ素化生成物を分配する工程を含む。
【0186】
多成分反応
それぞれ単一反応物を含有する2つの溶液を反応器中に導入することに加えて、多数の他のタイプの反応を行うことも考えられる。
【0187】
ある態様では、第1溶媒系中に双方の反応物を含有する単一溶液として第1および第2反応物が反応器中に導入され、反応の触媒が第2溶媒系に添加される。反応物と触媒を導入後、反応器が流体隔離される。
【0188】
別の態様では、第1溶媒系中に双方の反応物を含有する単一溶媒として、第1および第2反応物が反応器中に導入され、触媒でも反応物でもないが、第1および第2反応物間の反応を開始する、または加速するように反応器の環境に影響する(例えばpH変化を生じる)化合物が添加される。反応物と化合物の導入後、反応器が流体隔離される。
【0189】
第3の態様では、生成物が多成分反応で合成され、複数の反応物が反応器中に導入される。多成分反応は収束反応であり、素化学反応のカスケード(cascade)に従って3種以上の出発物質が反応して生成物を生じる。A.Domling in: Multicomponent Reactions(J.Zhu, H.Bienayme)Wiley-VCH Weinhem 2005, p76;A.Doemling, Org.Chem.Highlights 2005, April 5. URL:http://www.organic-chemistry.org/Highlights/2005/05April.shtm;Kolb et al., 2002 Tetrahedron Lett.43:6897;Fayol et al.,2005, Org.Lett.7:239参照。通常、複数の試薬は個別に導入される(即ち、異なった反応物は同じ入口から同時に反応器に入らない)が、試薬は様々な組み合わせで導入することもできる。
【0190】
第4の関連する態様では、中間生成物を生じる一連の反応により生成物が合成される。例えば:
A+B→X
C+D→Y
X+Y→P
式中、A、B、CおよびDは反応器に導入される反応物であり、X、YおよびPが反応条件下に反応器中で生成される。
【0191】
コンビナトリアルおよび平行合成
本開示から、化学反応回路をコンビナトリアル化学合成に使用できることが明らかである。例えば、コンビナトリアル合成のために(反応器A、B、CおよびDにおける)第1シリーズの反応の生成物を様々な組み合わせで(例えばAA、AB、AC、AD、BC、BD、CD)第2反応器に移送できる。化学反応回路を同じチップ上で平行に走らせることができることが、本開示で明らかである。複数の連続化学プロセスを平行して行うことが出来るように、数百〜数千までのCRCを一個のチップ上に設置することができる。
【0192】
反応器からの生成物または試薬の取り出し
反応物を溶媒(水等)で排出することにより、反応生成物を反応器から取り出すことができる。例えば、図8Cおよび対応する説明で示されるように、溶媒(例えば水)を反応器に流して、開いたバルブを通り流動チャネルから容器またはその他のシステムの部品中へ生成物を排出することができる。
【0193】
流動チャネル(分配マニホールド等)と反応器との空間関係を、隔離されたマイクロ流体環境内で流体の流れを加速または方向づけるように選択することができる。例えば、生成物を反応チャンバから溶出するために、入口チャネルおよび出口チャネルが曲がっている。例えば、[18F]FDGの反応器からの効率的な取り出しを促進する流体入口および出口の配置を示す図13を参照されたい。接線方向の入口と出口により、水の軌跡が反応チャンバの向かい側の壁に沿って流れることができ、生成物を確実に完全に溶出する。溶出液が接線に垂直なチャネルを通ってチャンバに流入、流出すると、生成物が後に残されるか、生成物を反応器の外に洗い出すために相当量の溶媒が必要になる。入口および出口が曲がっていると、溶液は反応チャンバの向こう側の壁に沿った軌跡をたどり、生成物を小容積の溶媒中に集めることができる。さらに、出口チャネルを入口より若干狭くすることにより、溶出中にチャンバ内で背圧を生じさせ、それにより生成物回収効率が増加する。
【0194】
従って、(例えば)コイン型反応チャンバから生成物を収集する一つの方法は、溶媒(例えば水)を別の接線チャネルを通って反応器中に導入することにより、接線出口チャネルを通って生成物を排出することであり、それにより流れがチャンバの向こう側の壁に沿った軌跡をたどることができる。生成物を完全に収集するために反応器の1〜3倍の体積の水で(実験的に)十分であるように思えるが、容積が大きいことがチップ外の取り扱いを容易にするならば、より大きい溶出容積を用いてもよい。
【0195】
別のアプローチでは、図20に示す上記のようなラジエーターを有する反応器が2工程で排水される。まず、ラジエーターからの出口を閉じることにより、気体透過性膜を通ってN2圧力を反応器中に送る。この圧力は生成物を反応チャンバから開いた出口チャネル中のみに強制的に排出する。図20に示す混合器を同時に起動すると、生成物溶液の出口チャネルから反応器の外へ向かう流れを促進し、生成物溶液の液滴(一部でなく)のみを残す。第2工程では、反応器を溶媒(例えば水)で満たし、強制排出することにより、残りの生成物の液滴を収集する。
【0196】
カラムを含む合成法
ある局面では、本発明は上記のようなマイクロ流体分離カラムを用いる、一体型マイクロ流体装置中で化学反応を行う方法を提供する。ある態様では、本方法は第1反応物を含有する溶液を分離カラムに導入する工程と、第1反応物をカラムの固定相に吸着する工程と、第1反応物を固定相から溶離する工程と、第1反応物を反応器に導入する工程を含む。ある態様では、第1反応物導入の前または後、または第1反応物と同時に第2反応物が反応器中に導入される。ある態様では、本方法には第1試薬と第2試薬が反応して第1反応生成物を生成するのに十分な時間および条件下で反応器を維持する工程が含まれる。
【0197】
反応物は結合工程でまずカラムの固定相に結合し、反応器中に導入される前に溶離工程でカラムの固定相から溶離される。ある態様では、マイクロ流体装置は分離カラムと一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み、結合工程はカラムを通して第1または第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を含む。ある態様では、上記マイクロ流体装置は分離カラムと一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み、溶離工程はカラムを通して溶離液を少なくとも2回循環させる工程を含む。
【0198】
第5節:例示的な装置
上記の議論から明らかなように、本発明は溶媒交換および/または化学反応の実施および/または他のプロセスの実施に有用な多様なマイクロ流体装置を提供する。本明細書に記載の部品の任意の数の組み合わせおよび配置が包含され、実施者は本開示に従って装置を設計し製造することが可能であると考えられる。
【0199】
非限定的な説明として、一つの例示的なマイクロ流体装置は閉鎖経路を形成せず、5マイクロリットル〜10マイクロリットルの容量を有する反応器(上記)を含む。
【0200】
非限定的な説明として、一つの例示的なマイクロ流体装置は液体が通過し得る不動相を有する分離カラムを含み、該カラムは入口と出口と、固相を含まない一つまたは複数の流動チャネルを有するが、流動チャネルおよび分離カラムは閉鎖経路を区分する。ある態様では、装置は液体を閉鎖経路を通って移動させ得る蠕動ポンプを有する。ある態様では、装置は一つまたは複数の流動チャネルと流体連通するように構成された反応器を包含する。ある態様では、マイクロ流体装置は分離カラムと一つまたは複数の流動チャネルで区画された閉鎖流路を有する。
【0201】
非限定的な説明として、一つの例示的なマイクロ流体装置は排気チャネルを含有する。ある態様では、本発明の例示的なマイクロ流体システムは排気チャネルと(i)排気流を通って気体(例えば空気、窒素、アルゴン等)を流す手段、または(ii)装置の排気チャネル系に接続された真空に引くためのポンプまたは他の手段を含む。
【0202】
ある態様では、例示的な装置は1〜5個の反応器を含有する。ある態様では、例示的な装置は同じまたは異なった化合物の複数のバッチを同時に生成する平行経路を含む。
【0203】
ある局面では、本発明の装置は滅菌される(例えば熱、毒性蒸気または放射線等で)。ある態様では、装置は滅菌・無菌形式で提供され、使用するまで滅菌状態を維持するように梱包される。
【0204】
ある局面では、本発明は16分以下、任意で5:50分以下で前駆体から18F-FDGを合成し得るマイクロ流体装置を提供する。
【0205】
ある局面では、本発明は流動チャネルと篩バルブとを含む装置を提供する。ある局面では、本発明は流動チャネルと少なくとも一対の篩バルブとを含む装置を提供し、クロマトグラフィー固定相材料(例えばビーズまたは樹脂)が篩バルブ間の流動チャネルに配置され、クロマトグラフィー固定相材料の寸法は篩バルブにより保持される寸法である。一部の態様では、装置は本明細書に記載される反応器を含む。
【0206】
第6節:実施例
実施例1:[19F]FDGの合成
分子撮像プローブ2-デオキシ-2-[18F]フルオロ-D-グルコース([18F]FDG)は、陽電子放射トモグラフィー(PET)撮像研究で使用するために2004年に製造された、百万人以上の患者に投薬された、広く使用される放射線医薬である。[18F]フッ素の半減期が短いため投薬量の迅速な合成が必須であり、合成プロセスは他の放射線標識分子撮像プローブの調製を含め多くの化学合成で要求される共通の工程を含む。対象に投与されるPET分子撮像プローブのナノグラム量は、一体型マイクロ流体の微細化構造にとって理想的である。従って、[18F]FDG(Hamacher et al.,1986, J.Nuclear Medicine、27:235参照)および他のPETプローブの多段階合成は、一体型マイクロ流体チップに対する興味ある機会となる。
【0207】
[18F]FDG(3a)の合成は5段階の連続化学プロセス(図2A)に基づいている:(i)サイクロトロンによる「18O」水の陽子照射から得られる希薄(dilute)[18F]フルオリド水溶液(1〜10ppm)の濃縮;(ii)水から乾燥アセトニトリルへの溶媒交換;(iii)乾燥アセトニトリル中のD-マンノーストリフラート前駆体1の[18F]フルオリド置換;(iv)水へ戻す溶媒交換;および(v)[18F]FDG(3a)を得るためのフッ素化中間体2aの酸加水分解。現在、市販の合成器を用いて[18F]FDG(3a)が約50分で日常的に生成されている(Padgett et al.,1989, Applied Radiation and Isotopes 40:433)。これらの自動化合成器は約80×60×40cmの物理的寸法を有し、一回の運転で約10〜100線量を生成することができる。[18F]フッ素の半減期が比較的短いため(t1/2=110分)、得られたプローブの放射線化学収量のかなりの減少を許容しなければならない。高い収量を得ることは、11C(t1/2=20分)および13N(t1/2=10分)等のより短い半減期を有する他の重要な陽電子放射性同位元素で標識した分子撮像生物マーカーにとってもより挑戦的なことである。
【0208】
ナノリットルスケール反応容器内で[18F]FDG(3a)および[19F]FDG(3b)の双方の合成の5つの化学プロセスを実行し得るマイクロ流体化学反応回路(CRC;図2)を設計・製造した。最初の実験で、多重プロセス合成を用いてCRC上で[19F]FDG(3a)を生成した。最初の工程で、[19F]フルオリドを溶液から濃縮した。陽子照射[18O]水から得られる[18F]フルオリドの濃度は通常1ppm未満であり、このような低い[18F]フルオリド濃度でフッ素化反応を行うことは実際的でないので、濃縮工程を開発した。
【0209】
[18F]フルオリド溶液を約100ppmに濃縮するために、マイクロ流体装置中の微小化陰イオン交換カラム(図3)を準備した。角型流体チャネルと制御膜とを用いて篩バルブ(図3B)を作成した。この膜を作動させると、溶液をチャネルの縁を通って通過させることができる一方で、大きな粒子の通過が阻止される。これらの篩バルブを陰イオン交換ビーズを捕捉するために使用することにより、陰イオン交換カラム(図3Cおよび3D)が濃縮用に得られた。
【0210】
希薄フルオリドの濃縮である第1のプロセスでは、5ppmのNaF溶液を陰イオン交換カラムにロードした(図4A)。ロード速度(5.0nL/秒)を計量ポンプを用いて制御した。フルオリド溶液を完全にロード後、K2CO3溶液(0.25M、18nL)を導入して角型ループを充填した。K2CO3溶液(0.25M、18nL)がカラムを連続的に回って濃縮されたKF溶液を作成するように、循環ポンプモジュールを起動した。D-マンノーストリフラート1のフッ素化(プロセスiii)には無水条件が必要であるので、濃縮KF溶液から水を除去する(プロセスii)ためにCRCを加熱するのにデジタル制御ホットプレートを使用した(図4B)。残存する水分を完全に排除するため、乾燥MeCNを反応ループ中にロードし、CRCを再度加熱した。水分とMeCN蒸気は気体透過性PDMSマトリックスを通過し逃がすことができる。CRCを一度室温に冷却し、D-マンノーストリフラート1(92ng、制限試薬)とKryptofix 222(364ng)とを含有する無水MeCN溶液(40nL)を、乾燥KFを含有するリング型反応ループ内に導入した。この不均一反応混合物を、循環ポンプを用いてループ内で混合した。この工程(プロセスiii)中にCRCを加熱(100℃-30秒、次いで120℃-50秒)し、フッ素化中間体2b(図4C)を得てGC-MSで分析した。この分析は、フッ素化プロセスに対する変換収率が98%であることを示した。直接蒸発によりMeCNを除去後、3N HCl溶液(40nL)をCRC中に注入し、60℃で中間体2bの加水分解(図4D、プロセスivおよびv)を行い、[19F]FDG(3b)を>90%の純度(GC-MS分析による)で得た。PDMS材料はMeCNと適合でき(Lee et al.,2003, Analytical Chemistry 75:6544)、合成全体を複数のチップ上で行った。
【0211】
実施例2:[18F]FDGの合成
陽子照射[18O]水から得られた放射性[18F]フルオリドから開始して、放射性[18F]FDG(3a)をCRCで生成した。この実験では、自動化法で、[18O]水約1μL中の[18F]フルオリド(制限試薬)わずか720μCiを用いた。用いたロード速度が比較的速い(約65nL/秒)ため、500μCiの[18F]フルオリドのみがカラムに捕捉され、[18F]FDG(3a)を生成するための次の化学工程は14分以内で完了し、放射線TLC分析(図10)によれば放射線化学収率38%、放射線化学純度97.6%を有する190μCiの生成物3aを得た。複数回の実験を通じて同様の結果が観察された。
【0212】
材料と方法
第1世代CRCの製造:
多層ソフトリソグラフィー法を用いてチップを製造した(McDonald et al., 2000, Electrophoresis 21:27;Unger et al. 2000, Science 288:113)。二つの異なった鋳型をまずフォトリソグラフィー法で製造し、PDMS系CRCのそれぞれの層中に位置するバルブを作動させるための流体チャネルと制御チャネルとを作成した。流体チャネルを作成するために用いた鋳型は、以下の2段階フォトリソグラフィー法で作成した。第1工程で、厚さ45μmのネガ型フォトレジスト(SU8-2025)をシリコンウエハー(Silicon Quest, San Jose, USA)上にスピンコートした。UV露光と現像後、微小化陰イオン交換カラム用の角型パターンが得られた。次の工程で、厚さ45μmのポジ型フォトレジスト(AZ 100XT PLP)の第2層を同じウエハー上にスピンコートした。UV露光前に、マスクを整列して(Karl Suss America Inc., Waterbury, VT)制御および流体チャネルの2つのセットのパターン間の良好な一致を確認した。ポジ型フォトレジストを現像し、ウエハーをポジ型フォトレジストのガラス転移点超に加熱した。その結果、パターン化されたポジ型フォトレジストの表面形状は丸い形状に変換される一方、ネガ型フォトレジストの形状(角型形状)は不変であった。この装置はチャネルの高さ45μm、幅200μmを有する。厚さ25μmのネガ型フォトレジスト(SU8-2025)パターンをシリコンウエハー上に導入して制御チャネル鋳型を製造した。各バルブの信頼できる性能を達成するため、バルブモジュールを搭載する制御チャネルの幅を切片250μmに設定した。
【0213】
装置を製造する前に、流体および制御鋳型をトリメチルクロロシラン(TMSCl)蒸気に2〜3分間曝した。よく混合したPDMS(GE、5:1の比率のRTV 615AおよびB)をペトリ皿上に置いた流体鋳型上に注ぎ、厚さ5mmの流体層を得た。PDMSの他の部分(GE、RTV 615AとBとの比率20:1)を制御鋳型上にスピンコートし(1600rpm、60秒、傾斜部15秒)、制御層を得た。厚い流体層と薄い制御層とを80℃の炉中で50分間硬化した。インキュベーション後、厚い流体層を鋳型から剥ぎ取り、反応液へ繋がる孔を流体層上に導入した。次に流体層を切り出し、洗浄して薄い制御層状に配列した。80℃で60分間焼成後、アセンブリした層を制御鋳型から剥ぎ取り、制御チャネルへ繋がる別の孔一組を穿孔した。アセンブリしたこれらの層を、炉中で45分間硬化したPDMS(比率20:1のGE RTV 615AおよびB)で被覆した(1600rpm、60秒、傾斜部15秒)ガラススライド上に置いた。装置を一晩インキュベーションした。
【0214】
制御インターフェース
空気制御セットアップ(setup)はBOB3ブレークアウト(breakout)コントローラー板(Fluidigm, San Francisco, USA)で制御される8つのチャネルマニホールド4セットからなる。ガス精製装置(Hammond Drierit, Xenia, USA)で予備乾燥されたアルゴンガスにより、マニホールドに圧力(30psi)が加えられる。装置からの32本の制御ラインがそれぞれ、マニホールド上の対応するチャネルに、Tygonマイクロボアチュービング(microbore tubing)(Cole-Parmer East, Bunker Court, USA)を用いて金属ピン(23 Gauge, New England Small Pin Corp, USA)で接続される。マニホールド上の流動チャネルが起動すると、アルゴンガスが特定の流動チャネルで接続した制御ラインに入り、圧力をかけてマイクロ流体装置内のバルブを閉じる。制御インターフェースをPC上でLabviewプログラムを用いて作成する。National Instrumentsカード(AT-DIO-32HS)がBOB3ブレークアウト制御板によりマニホールドの切り替えをデジタル制御する。Labviewプログラムにより、個々のバルブの手動制御と、合成プロセスの自動化が可能になる。
【0215】
材料
全ての試薬をSIGMA-ALDRICHから購入した。VWR/EMDから購入した溶媒を文献の手順に従って精製した。Armarego et al., 2003, Purification of Laboratory Chemicals (Butterworth Heinemann, New York, ed. Fifth, 2003)。GC-MSをGC/EI飛行時間質量分析器(Micromass GCT)で行った。1.2mL/分の流量のキャリアガスとしてのヘリウムを用い、[19]FDG中間体(2b)および生成物(3b)のGC分析に、DMB-MSキャピラリーカラム(長さ40m、外径320μm)を用いた。RDS-112サイクロトロンを用いる18O(p、n)18F核反応を経由する95%18O富化H2Oの11MeV陽子照射により、キャリア無添加[18F]フルオリド(比活放射能>10,000Ci/mmol)を生成した。γ線検出器を備えたRainin-HPシステムを用い、HPLC分析を行った。85%MeCNおよび15%H2Oの溶媒系で、Phenomenexカラム(Econosphere-NH2、5μm、250×4.6mm)を使用した。85%MeCNおよび15%H2Oの溶離液系を用い、放射性TLCをシリカプレート(EM Separation Technology、シリカゲル60)上で行った。
【0216】
陰イオン交換カラムの調製と評価
マイクロ流体反応器中に懸濁ビーズを含有する水溶液を導入し、陰イオン交換ビーズ(Source 15Q, Amersham Biosciences)をカラムモジュール中に充填した。カラムに1.0MのKHCO3を流し、続いてDI水(18MΩ)を導入してビーズを活性化した。
【0217】
CRC中のFDG合成のスナップショット
CRC中のFDG(3a、3b)の合成は、(i)希薄フルオリドの濃縮から始まり、(ii)D-マンノーストリフラート前駆体1のフッ素置換反応および(iii)フッ素化中間体2a(または2b)の酸加水分解へと続く、3つの連続合成プロセスに基づいている。CRC内でFDG(3a、3b)合成を完了するために、15工程が存在する。工程表を用いるこれらの連続操作の詳細は図6〜8に示される。
【0218】
フッ素化中間体2bのGC-MS分析と[19F]FDG(3b)のGC-MS分析
CRC内で生成したフッ素化中間体2bをGC-MSで分析し、フッ素化反応の変換収率が約95%であることが示された(図8B)。[19F]FDG(3b)の揮発性が低いため、CRC内で得られた[19F]FDG(3b)をGC-MS分析の前にTMSClで処理する必要があった。GC-MSの結果は、中間体2bの加水分解反応により、[19F]FDG(3b)が>90%の純度で得られることが分かった(図9C)。
【0219】
1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-[19F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(2b)
1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-D-マンノピラノース(マンノーストリフラート)(1)(92ng、1.9×10-10モル)および4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8,8,8]ヘキサコサン(Kryptofix 222)(364ng、9.6×10-10モル)を含む40nLの無水MeCNを、先のフルオリド濃縮プロセスで濃縮された乾燥KFを含有する反応ループ中に導入した。反応ループの周りの全てのバルブを閉じた後、CRCを100℃で30秒間加熱し、120℃に50秒間保った。一方、循環ポンプを起動して十分に混合した。チップを35℃に冷却後、ループ内の反応残渣をGC-MS分析のためにMeCNで排出した。正確な反応収率はGC-MS分析から得られなかったが、反応後にD-マンノーストリフラート前駆体1全体が消失し、フッ素化中間体2bが唯一の反応生成物であることが明らかであった(図9B)。
【0220】
2-デオキシ-2-[19F]フルオロ-D-グルコース([19F]FDG)(3b)
フッ素化工程後、40nLのHCl溶液(3.0N)を反応ループ上にロードした。全てのバルブを閉じ、循環ポンプを動かし、フッ素化中間体2の加水分解を温度60℃で1分間で終了した。35℃に冷却後、最終生成物[19F]FDG(3b)をCRCから水で排出した。最終水溶液を真空で除去した。揮発性が低いため、GC-MS分析の前に[19F]FDG(3b)をTMSClで誘導体化した。GC-MSの結果は、中間体2bの加水分解反応により[19F]FDG(3b)が>90%の純度で得られることが示された(図9C)。
【0221】
2-デオキシ-2-[18F]フルオロ-D-グルコース([18F]FDG)(3a)
約1μLの[18O]水中の720μCiの[18F]フルオリドをCRCのフルオリド濃縮ループ中に導入した。比較的高いロード速度(65nL/秒)を用いたため、500μCiの[18F]フルオリド(約3.3×10-11モル、制限試薬)のみがカラムに捕捉された。18nLのK2CO3溶液(0.25M、4.5×10-9モル)を導入して角型ループを充填し、K2CO3溶液がカラムを通って連続的に循環するように循環ポンプモジュールを起動し、濃縮された[18F]KF溶液を作成した。循環後、20nLのK2CO3溶液をフルオリド濃縮ループに導入し、濃縮[18F]フルオリド溶液をリング形反応ループの中へ置換した。反応ループの周囲の全てのバルブを閉じ、CRCをデジタル制御ホットプレート上で加熱した。CRCを1分以内に35℃に冷却し、無水MeCN(40nL)を反応ループ内に導入した。CRCを再度加熱してループ内の残留水を除去した。無水MeCN中のKryptofix 222(1.4μg、3.7×10-7モル)とマンノーストリフラート1(324ng、6.7×10-10モル)を反応ループ中に導入した。CRCを温度勾配で加熱した(100℃/30秒、120℃/50秒)。同時に、溶液を循環ポンプで積極的に混合し、CRC中に[18F]フッ素化中間体2aを得た。CRCを1分以内に35℃に冷却後、HCl水溶液(3.0N)を反応ループ内に導入した。混合物を1分間、60℃で循環ポンプで混合した。この工程で、中間体2aが加水分解されて最終生成物[18F]FDG(3a)を生じた。室温へ冷却後、最終生成物、即ち190μCiの[18F]FDG(3a)(約1.25×10-11モル、収率38%)を放射線TLC(図10)および放射線HPLCの分析のために水によってチップから排出した。放射線TLCと放射線HPLCの分析は、合成で得られた未精製混合物が放射線化学純度97.6%を有することを示唆した。
【0222】
実施例3:第2世代CRC
本実施例はより大きな[18F]FDG(3a)線量を合成するための容量を有する第2世代CRCを説明する。このチップは真空排気口を備えたコイン型反応器(容積5μL)を有し、数回のマウス撮像実験に十分な1.74mCiの[18F]FDG(3a)を合成するために用いられた。精製され滅菌された生成物(図5A)から、2つの線量(375μCiおよび272μCi)を癌の2つのマウスモデルのマイクロPETおよびマイクロCT系分子撮像に用いた。このタイプの装置を100mCiスケールのPET撮像剤を合成するために使用することができる。
【0223】
第2世代CRCの製造
第2世代CRC(図11)を、上記のものと類似のソフトリソグラフィー法で製造した(Fluidigm Corpで製造)。おもな違いとは、(i)第3排気層が流体および制御層の上部に位置すること、(ii)CRCの3枚の層が全てPDMSのA/B比10:1で製造され、2枚の層の間ごとにPDMS B成分の厚さ1μmの層を置いて一緒に保持されていること、および(iii)アセンブリした装置が2インチ-シリコンウエハー上に搭載されたことである。アーチ型流動チャネルの寸法は、幅250μm、高さ45μmである。水入口チャネルの幅のみが300μmである。反応器は直径5mm、高さ250μmである(全容積5μL)。制御チャネルは流動チャネルと250×250μmの交点を形成する。排気口は第3層にあり、反応器の上50μmにあるチャネルを有し、相互に250μm離れ、断面積は250×250μmである。
【0224】
チップIIの説明と論理
CRCで生成される[18F]FDG(3a)の量を人に対する線量レベルまで増加するために、第2世代のCRCが開発された。鍵となる特徴は(i)5μLのコイン型反応器、(ii)外部真空ラインに接続した重層する排気チャネル、(iii)CRC上のバルブで制御される外部イオン交換カラム、および(iv)マンノーストリフラートを導入するためのマニホールドである。反応器の入口/出口の立体形状がCRC内部の流体力学を決定し、反応中の混合を改善する。新しいCRCの構造も、バルブの数を最小にする。一回の運転でこのチップにより生成される現在最大の[18F]FDG(3a)の線量は、1.74mCiである。図12に示すマウス撮像のための[18F]FDG(3a)を生成するためにこのチップが使用された。真空排気口は溶媒交換工程中に有利である。[18F]FDG(3a)合成中のチップの全性能運転が図12に記載される。[18F]FDG(3a)は96%純度で酸性溶液として溶出され、1.0M NaHCO3でまず中和され、次いで残存するフルオリドを除去するためアルミナカラム(190mg)を通過する。放射線TLCによれば、得られた溶液は99%の[18F]FDG(3a)純度を示す(図5A)。
【0225】
CRCII:オフチップのフルオリド濃縮
新世代CRCの運転のため、[18F]フルオリドの濃縮を自動Explora RN求核[18F]フッ素化システム(Siemens Biomarker Solutions, Culver City, CA)を用いて行った。シンクロトロンから得られた希薄フルオリドを捕捉するために、MP-1樹脂カートリッジを使用した。放射能を水(400μL)中のK2CO3(3mg)で溶出した。水を蒸発し、MeCN(400μm)中のKryptofix 222(20mg)溶液を加え、次いで溶媒を蒸発した。残渣を無水MeCN(200μL)に溶解し、得られた700mCiの[18F]フルオリドを含有するMeCN中の[18F]フルオリド/K2CO3/K222の溶液をExploraシステムから約2mの配管を経由してCRCの近くに置いた円錐形バイアル(供給源バイアル)中に移した。供給源バイアルに10psiの圧力を加えると、濃縮[18F]フルオリド/K2CO3/K222/MeCN混合物がCRC中に導入された。
【0226】
マウスモデル
使用した腫瘍モデルは、強い免疫原性の非転移性レトロウイルス誘発横紋筋肉腫(M-MSV/M-MuLV)であった(Fletcher et al., 2002, Tetrahedron 58:4735)。MSVは、細胞感染と複製とに必要なgag、polおよびenv成分をコードするM-MuLVが提供するヘルパー活性を有する、複製欠損型の急性変換レトロウイルスである(Worz et al., 2001, Chemical Engineering Science 56:1029)。横紋筋肉腫は短い潜伏期(7〜10日)の後に筋肉間接種部位に発症し、免疫適格性マウス成獣に強い免疫反応を誘導した後に4〜5週間で縮退する。これらの患部はウイルス感染筋細胞と、リンパ球、顆粒球およびマクロファージの大きな浸潤とが特徴である。誘導された細胞性および体液性免疫反応の双方はH-2Db対立遺伝子に依存する(Watts et al.,2003, Current Opinion in Chemical Biology 7:380)。拒絶反応はCD8+細胞溶解性T細胞で媒介されるが、このT細胞はM-MuLVのgagおよびenv由来のペプチドを認識し、CD4+T細胞の援助を必要とする(Kobayashi et al.,2004, Science,304:1305;Chan et al.,2003, Nano Letters 3:199;Kawaguchi et al., 2005, Angewandte Chemie-International Edition 44:2413)。
【0227】
マウス撮像
腫瘍を有するマウスに272μCiのFDGを尾静脈から注射した。1時間の吸収と非特異的クリアランスの後、マウスをFocus220マイクロPET中で15分間撮像し、その後マイクロCTスキャンを行った(Siemens, Knoxville, TN)。マイクロPETおよびマイクロCT像をMAPおよびFledkampを用いて、それぞれ解像度1.2mmおよび0.4mmに再生し、AMIDE画像視覚化ソフトウエアを用いて重ね合わせた。結果は図5B参照。
【0228】
実施例4:2-(1-(6-[(2-[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル)(FDDNP)の合成
本実施例はアルツハイマー病の診断に利用される分子撮像プローブである2-(1-(6-[(2-[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル)(FDDNP)の合成を説明する。Agdeppa et al., 2003, Mol.Imag.Biol.5:404参照。[18F]FDDNPを生成する化学工程は20分以内に終了し、>8μCiの生成物を得た。複数の実験を通じて同様の結果が観察された。
【0229】
FDDNP合成のチップの設計は、陰イオン交換カラムのないループ型反応器を含んだ(図14および付属の説明参照)。[18F]FDDNPの合成のためのCRCの製造は、一般に上記の実施例2に記載の通りであった。2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリル(MTIの好意で提供)を除いて全ての試薬をSIGMA-ALDRICHから購入した。約1μLの[18O]水中の[18F]フルオリド(制限試薬)を合成に使用した。Kryptofix 222プラス2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリル(「前駆体」)溶液を、10mgのKryptofixおよび14μgの前駆体を100μLの無水MeCN中に加えて調製した。4倍高い濃度の前駆体も使用し、同様の結果を得た。
【0230】
CRC中のFDDNPの合成は、(i)水からフルオリドの希薄アセトニトリル溶液への溶媒交換から始まり、(ii)2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリルのフッ素置換反応へと続く、2つの連続合成プロセスに基づいている。
【0231】
合成のため、約1μLの[18O]水プラスK2CO3(0.05M)中の200μCiの[18F]フルオリドをCRC中に導入した。反応チャンバ内の容積が限られるため(350nL)、70μCiの[18F]フルオリド(約4.6×10-12モル、制限試薬)のみを反応ループ内に入れた。反応ループの周りの全てのバルブを閉じ、CRCをデジタル制御ホットプレート上で加熱して水を蒸発させた。CRCを1分以内に35℃に冷却し、無水MeCN(350nL)を反応ループ内に導入した。ループ内に残存する水を除去するためCRCを再度加熱した。無水MeCN中のKryptofix 222および2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリルを反応ループ内に導入した。CRCを温度勾配(100℃/30秒、120℃/180秒)加熱した。同時に、循環ポンプで溶液を積極的に混合し、最終生成物を得た。1分以内にCRCを室温に冷却後、無水MeCNを反応ループ内に導入し、循環ポンプで積極的に混合して溶解し、反応チャンバの壁に付着している全ての生成物を洗い出した。最後に、無水MeCNを用いて、放射性TLC分析のために生成物をチップから排出した。放射性TLC分析は、得られた未精製混合物が放射線化学純度11.6%で[18F]FDDNPを含むことを示した。
【0232】
実施例5:マイクロ流体装置の設計、製造および使用
本実施例はマイクロ流体装置を用いるFDGの初期合成を説明する。
【0233】
CRCの製造
3層PDMS系一体型CRCを、ソフトリソグラフィー法を用いて製造した(Liu et al., 2003, 「Solving the 「world-to-chip」 interface problem with a microfluidic matrix」Analytical Chemistry 75:4718-23)。PDMS系CRCの各層の流体チャネルおよび制御チャネルの製造のため、2種の異なった鋳型をフォトリソグラフィープロセスで最初に製造した。
【0234】
流体チャネルの製造のために応用される鋳型を、2工程フォトリソグラフィープロセスで製造した。原理的に、フォトレジストの厚さが流体制御チャネルの高さを決定する。最初の工程中に厚さ45μmのネガ型フォトレジスト(SU8-2025)をシリコンウエハー上にスピンコートした。UV露光と現像後、カラムモジュール用の角型形状パターンが得られた。次の工程で、厚さ45μmのポジ型フォトレジスト(AZ 100XT PLP)の第2層を同じウエハー上にスピンコートした。UV露光前に整列プロセスを行い、流体チャネルの第1および第2層間が十分一致することを確認した。ポジ型フォトレジストを現像し、ウエハーをポジ型フォトレジストのガラス転移点超の温度に加熱した。その結果、パターン化されたポジ型フォトレジストの表面形状は丸い形状に変わったが、ネガ型フォトレジストの形状はそのままであった。カラムと流体チャネルの高さと幅が十分一致する必要があることに注意することが重要である。この装置では、チャネルの高さ45μm、幅200μmが使用される。カラムと流体チャネルとの寸法は、反応容積および流量に基づいて決定された。
【0235】
制御チャネルに応用される鋳型は、25μmの薄いネガ型フォトレジスト(SU8-2025)パターンをシリコンウエハー上に導入して作成される。CRC製造中のバルブの崩壊を避けるため、制御層の高さは制御チャネルの幅の1/10超である必要がある。制御チャネルの幅は極めて自由である。各バルブの信頼できる性能を達成するために、バルブモジュールが置かれる部分で制御チャネルの幅を250μmに設定した。寄生バルブの形成を避けるため、制御チャネルの幅を全ての他の領域で25μm〜50μmの間に保つ。制御層の幅はバルブの作動圧力と反比例の関係にある(Studer et al., 2004,「Scaling properties of a low-actuation pressure microfluidic valve」、J.Applied Physics 95:393-398)。
【0236】
装置を製造する前に、流体および制御鋳型の両方をトリメチルクロロシラン(TMSCl)の蒸気に2〜3分間曝した。よく混合したPDMS(比率5:1のGE RTV 615AおよびB)をペトリ皿上に置いた流体鋳型上に注ぎ、厚さ5mmの流体層を作成した。PDMSの他の部分(比率20:1のGE RTV 615AおよびB)を制御鋳型上にスピンコートし(1600rpm、60秒、傾斜部15秒)、制御層を得る。厚い流体層と薄い制御層とを80℃の炉中で、それぞれ150分および50分間硬化した。インキュベーション後、厚い流体層を鋳型から剥がし、反応溶液が流入するための孔を流体層に穿孔した。この層を切り出し、洗浄し薄い制御層上に整列した。80℃でさらに90分間焼成後、組み合わせた層を制御鋳型から剥がし、制御チャネルに繋がる別の孔一組を穿孔した。最後に、炉の中で45分間硬化した、20:1のGE RTV 615AおよびBで被覆した(1600rpm、60秒、傾斜部15秒)ガラススライドの表面にこのアセンブリした層を置いた。炉中で一晩インキュベーション後、この装置を使用することができた。図15はFDG合成のためのPDMS系化学反応回路を示す。
【0237】
FDG合成
一体型CRC中のFDGの3つの連続合成プロセスを示す。実験室自動化システムのために用いられる従来の合成プロセスと同様に、(i)フルオリドの濃縮、(ii)フッ素化および(iii)加水分解を含む3つの連続工程により一体型CRCにおいてFDGを生成することができる。
【0238】
(1)希薄フルオリドの濃縮:
陰イオン交換カラム(図13)を用いて、希薄フルオリド(容積10〜500μLの範囲で濃度1ppm)を角型混合器中で濃縮して、3〜4倍のオーダーで濃縮されたKF溶液を容積45nLで得た。
【0239】
希薄フルオリドの濃縮(FDG合成の第1工程)を行うため、フッ素イオン抽出が可能なカラムモジュールをCRC内に取り込んだ。5個の篩バルブで隔離された流体チャネル内にイオン交換ビーズを捕捉することにより、イオン交換カラムを作成した(図13)。角型形状流体ラインと正規の制御膜からなる篩バルブは、円形形状の流体ラインに基づく通常のバルブとは異なっている(図3Aおよび3B参照)。一般に、バルブが開くとバルブ膜が楕円形に偏向する。通常のバルブの場合は、偏向した膜が円形形状流体チャネルに完全に沿い、バルブを完全に閉じる。篩バルブでは、偏向した膜がバルブを部分的に閉じて、角型形状チャネルの2つの角に2つの小さな隙間を生じる。適当なサイズの懸濁ビーズを含有する水溶液が流体チャンバ内に導入されると、ビーズは篩バルブで捕捉される一方、溶液は閉じた篩バルブを通過することができる。
【0240】
Source 15Q陰イオン交換樹脂(2pm, Amersham Bioscience)をまずカラムモジュールの内部に閉じ込めた。次にKHCO3の1.0M溶液をカラムに通し、樹脂を飽和重炭酸型に変えた。ビーズ表面上の4級アンモニウム基と結合しない過剰の重炭酸陰イオンを除去するため、フルオリド濃縮に使用する前に続いて脱イオン水をカラムに流した。
【0241】
冷フルオリド(19F-)を含有する200μLの水溶液をイオン交換カラムに通した。負に荷電したフルオリドイオンが樹脂表面のHCO3対イオンと交換された。フルオリド溶液を完全に通過後、45nLの0.02M K2CO3溶液を第1(角型形状、図16A)反応ループに導入した。次いでポンプモジュールを2分間起動し、K2CO3溶液をカラムに連続的に循環させた。その結果、表面に捕捉されたフルオリドイオンがカラムから溶出し、次のプロセスのためにKF溶液を反応ループ中へ送ることができる。
【0242】
(2)フッ素化(1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースの合成):
1,3,4,6-テトラ-O-アセチル_P1-2-トリフルオロメタンスルホニル-D-マンノピラノース(マンノーストリフラート)からの1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースの合成を、先に開発された方法から採用することができる(Kikutani et al., 2004, Macromolecular Rapid Communications、25:158)。この場合、マンノーストリフラートと、無水アセトニトリル溶液中のフッ化カリウム(KF)と4,7,13,16,21,24-ヘキサオサ-1,10-ジアザビシクロ[8,8,8]ヘキサコサン(Kryptofix 222)との複合体とを、第2反応チャンバ(丸型形状、図16B)内で反応させた。フルオリドの濃縮後、第1反応チャンバから得られた濃縮KF水溶液中の水を除去する必要がある。PDMS系CRCでは、CRCをホットプレート上で120℃で2分間直接加熱することで水の除去が行われたが、その場合、反応ループに関連する全てのバルブが閉じられていた。残存する水の完全な除去を保証するため、ループに乾燥アセトニトリルを満たし、150℃で1分間加熱した。材料の気体透過性が極めて高いので、水分とアセトニトリル蒸気がPDMS材料を容易に通過できることに注意することが重要である。従来の自動化システムでは、KF溶液中の水の除去は溶液を窒素気流中で加熱することで行われるが、PDMS系CRC中の同じプロセスと比較すると効率が低く、はるかに時間がかかる。
【0243】
水を除去した直後に、図16Bに示される反応ループ上端の流体チャネルから反応ループ中へ、Kryptofix222(1.7μg)とマンノーストリフラート(272ng)とを含有するアセトニトリル溶液17nLを導入した。全ての入口/出口バルブを閉じた後、ループの左上部にある蠕動ポンプを用いて不均一反応混合物を反応ループ内部で循環し、同時にCRCをホットプレート上で150℃で30秒間加熱した。この段階で、得られた中間体をGC-MSで分析した。60〜120℃の温度で、フッ素化プロセスのそれぞれの収率は0.6%〜16.5%の範囲であった。150℃で、GC-MSは反応時間30秒後に全ての出発材料が変換されたことを示した。
【0244】
(3)加水分解(1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースのFOGへの加水分解):
フッ素化反応後、次の加水分解反応の前にPDMS材料を通る直接蒸発でアセトニトリルを除去した。17nLの6M HCl溶液をCRC中に注入し、1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースの加水分解を室温で行った。再び蠕動ポンプの助けにより加水分解を4分間で完了した。図17にCRC中の3つの連続反応全体をまとめるが、フルオリド濃縮、フッ素化および加水分解が赤、青および緑でそれぞれ示されている。さらに、溶液、ビーズおよび試薬の導入方向を矢印で示す。
【0245】
実験室自動化システムでは、FDG合成のためのフッ素化および加水分解のプロセスを完了するのに約40分を要した。本発明者らのプロトタイプCRCを使用すると、これらの連続合成プロセスは16分以内に完了することができ、CRCを全自動にした場合は生成時間が5分以下に短縮できると本発明者らは予想している。従来法とCRCとの各工程に基づく個別比較の概要を表2に示す。
【0246】
表2はFDGの従来法およびマイクロ流体調製の反応時間および条件を示す。主としてマイクロ流体チップ中のより速い反応速度とより迅速な溶媒蒸発(水およびアセトニトリル)のため、マイクロ流体装置中のFDG合成では、従来法よりはるかに短い時間を要した。PDMS系チップ中で製造できるポンプとバルブを制御することにより、多工程有機反応を連続して自動的に終了することができる。
【0247】
【表2】

【0248】
実施例6:オフチップカラムを有するマイクロ流体装置の設計、製造および使用
図18はコイン型反応器とオフチップ陰イオン交換カラムを有するチップを示す。バルブを赤の長方形で示す。水の入口がより大きい(生成物溶出)ことを除き、入口/出口チャネルはすべて同じサイズである。マニホールドを通って分配された溶液は、6個の流入口全てを通って基点からチャンバまで同じ距離を移動する。
【0249】
[F-18]溶液はカラムを通り、樹脂オフチップに捕捉される。このプロセスは、[F-18]の供給源をカラムへ、その後カラムをH218Oの収集バイアルへ接続する短いチャネル上でオンチップバルブによって制御される。
【0250】
チップで配管されオンチップバルブで制御されるK2CO3水溶液は次にオフチップイオン交換カラムを通過し、[18F]を直接チップ上の反応器に溶出する。この時点で水が蒸発し、幾分かの残存水分と共にK18FおよびK2CO3塩が残存する。真空排気口がこの蒸発工程およびその後の全ての蒸発工程で使用される。その結果、水蒸気はチップのマトリックス中に凝縮して滞留せず、チップから永久に去って行く。この水分をMeCNと共沸混合物を形成して除去し、K18Fを有機溶媒に可溶にするため、チャンバをKryptofix 222のMeCN溶液で満たし、次いで蒸発させる。この時点でマンノーストリフラートを6口マニホールドを通って反応器中に導入する。高温で混合器を作動させることにより、効率的なフッ素化が可能になる。常温でフッ素化を行うことも可能である。フッ素化を終了すると、蒸発により溶媒を部分的に除去する。MeCNを完全に蒸発すると、[F-18]FTAGは反応器中に不均一に分布した粘性の高い油状残渣となる。この残渣は次の工程で水溶液中へ溶解することが非常に困難である。一つのチャネルを通って反応器が満たされるまで、3N HCl溶液を半分充填した反応器中へ導入する。(K2CO3との)酸-塩基反応で生じる渦流により2つの溶液の界面での混合が促進されるので、[F-18]FTAGのMeCN溶液による効率的な混合が素早く行われる。60℃に加熱後、75℃に加熱することにより加水分解が進行して、MeCNを段階的に(しかし早く)除去することにより完了し、[F-18]FDGの水溶液が得られる。脱保護後に反応チャンバから生成物を回収する2つの方法が提案されている:(1)もう一つの接線チャネルを通って水を反応器に導入して、生成物を接線出口チャネルを通って排出することにより、流れがチャンバの向こう側の壁に沿った軌跡を辿ることができる;または、まず、ラジエーターからの出口を閉じてN2圧力を気体透過性膜を通して反応器中に送り、次に図19に示す混合器を起動することを含む2工程で生成物を取り出す。
【0251】
生成物の溶液を2M KHCO3溶液を含有するバイアルに輸送し、HClを中和する。その後、バイアルの内容物をアルミナカラムに通し、99.3%の放射線純度の[F-18]FDGを得る。
【0252】
本発明を具体的な態様を参照して詳細に説明したが、当業者は変更と改善は本発明の特許請求の範囲で説明する本発明の範囲と趣旨の範囲内であることを理解するであろう。本明細書において引用した全ての文献と特許文書(特許、特許出願公報、および未公開特許出願)は、このような文献または文書が具体的かつ個別に本明細書で参考文献として組み込まれるのと同様に、本発明に参考文献として組み込まれる。文献と特許文書を引用することは、このような文書のいずれも適切な先行技術であることを認めるものではなく、またその内容または日付が先行技術であることを認めるものではない。記載された説明および実施例を用いて本発明を説明したが、本発明が多様な態様で実施し得ること、および上記の説明と実施例が説明のためであり、添付の特許請求の範囲を制限するものではないことを、当業者は理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0253】
【図1】放射線撮像試薬[18F]FDG合成装置の模式図である。
【図2】(A)は2-デオキシ-2-フルオロ-D-グルコース(FDG)の生成に用いられた化学反応回路(CRC)の模式図である(3a、b)。リング型反応ループ中の(i)長方形フルオリド濃縮ループ中に位置する微小陰イオン交換カラムを用いる希薄フルオリドイオンの濃縮、(ii)水から乾燥MeCNへの溶媒交換、(iii)D-マンノーストリフラート前駆体1のフッ素化、(iv)水へ戻す溶媒交換、および(v)フッ素化中間体2a(または2b)の酸加水分解という5つの連続プロセスにより、ナノグラム(ng)レベルのFDG(3a、b)が生成される。CRCの操作は圧力駆動バルブで制御されるが、それらの役割は色で示される:白-通常のバルブ用(単離用)、黒-ポンプバルブ用(流体定量循環用)、斜線-篩バルブ用(陰イオン交換ビーズのカラムモジュール中への捕捉用)。(B)CRC中央部の光学顕微鏡像の白黒レンダリング。マイクロ流体チップの異なった成分を眼で見やすくするため、それぞれのチャネルに食品用染料をロードした:正規バルブ用制御チャネル(黒/赤)、篩バルブ用制御チャネル(開口した実線/青)、ポンプバルブ用制御チャネル(開口した破線/黄色)、流体チャネル(斜線/緑)。挿入図:装置の実像;硬貨(直径18.9mm)で装置の寸法を補正する。
【図3】(A)円形の流体チャネルを有する正規バルブおよび(B)長方形の流体チャネルを有する篩バルブの操作機構を示す模式図。制御チャネルに圧力を加えた場合、弾性膜が流体チャネル中に膨張する。膨張した膜と流体チャネルの円形部分との間が完全に密着するので、正規バルブ中では流体チャネルが完全に封止される。篩バルブ中では、長方形の流体チャネルは部分的に閉じられ、2箇所の角を通って流体が流れることができる。篩バルブは固体物質を流体チャネル中に閉じ込めるが、液体を通過させるために用いることができる。(C)1個の流体チャネル、5個の篩バルブおよび5個の正規バルブを組み込んだカラムモジュール中への陰イオンビーズの充填の模式図。[□]開放バルブ、[×]閉鎖バルブ。陰イオン交換ビーズの懸濁液がカラムモジュール中に導入され、5個の篩バルブと5個の正規バルブが共同作動し、陰イオン交換ビーズを流体チャネル(全容積:10nL)内部に捕捉する。流体チャネルが完全に充填されると、フルオリド濃縮用の微小陰イオン交換カラムが完成する。(D)作動中のビーズ充填プロセスのスナップショット。
【図4】CRCにおけるFDG(3a、b)生成の4つの最も重要な工程の模式図。(A)希薄フルオリドイオンの濃縮:正規バルブが共同して、希薄フルオリド溶液(点描)が計量ポンプによりイオン交換カラム中に導入される。(B)濃縮KF溶液から水の蒸発:フルオリド濃縮ループから円形反応ループへ濃縮KF溶液を移した後、CRCをホットプレート(hot plate)上で加熱して水を反応ループから蒸発させる。一方、周囲の正規バルブを完全に閉じ、循環ポンプを始動する。(C)フッ素化反応:KryptofixのMeCN溶液(ドット)とD-マンノーストリフラート1とを反応ループ中に導入後、不均一反応混合物を反応ループ中で隔離し、循環ポンプを用いて混合し、コンピュータ制御温度勾配で加熱して中間体2a(または2b)を生成する。(D)加水分解反応:MeCNを蒸発後、HCl溶液(ドットと斜線)を反応ループ中へ導入して中間体2a(または2b)を加水分解し、最終生成物FDG(3a、3b)を得る。
【図5】(A)第2世代CRC中で[18F]FDG(3a)を生成して得られた未精製混合物(実線の曲線(青))の分析用TLC像は、FDG生成の放射線化学的純度が96.2%に達することを示している。2つのピークはRf値0.0および0.36を有し、それぞれ[18F]フルオリドおよび[18F]FDG(3a)に相当する。精製と滅菌後、99.3%の放射線化学的純度を有する[18F]FDG(3a)(黒の曲線)をマウスマイクロPET/マイクロCT撮像に用いた。(B): マイクロ流体チップ中に作成された[18F]FDGを注射した腫瘍を有するマウスのマイクロPET/マイクロCT像の投影図。肉眼で見える器官は膀胱、腎臓、心臓、腫瘍および2個のリンパ節である。
【図6】CRCの9工程からなるフルオリド濃縮プロセスをまとめる模式図。(A)希薄フルオリド溶液(点描)をチップ上の左上部チャネルからフルオリド濃縮ループ中へ導入した。フルオリドイオンはカラム中の陰イオン交換ビーズで捕捉された。濾液を廃棄物チャネルを通して装置外へ排出した。フルオリド溶液のロード速度を計量ポンプ(長方形)で制御した。ロードプロセスには約2分を要した。(B)フルオリドのロード後、18nLのK2CO3溶液(0.25M)を中央左のチャネルからフルオリド濃縮ループへポンプ送液した。この工程には25℃で6秒を要する。(C)K2CO3溶液をフルオリド濃縮ループ中で2分間循環し、ビーズ上に捕捉された全てのフルオリドが溶液中に放出されたことを確認した。この工程の終了までに、ロードしたフルオリド溶液の濃度と比較してループ内のフルオリド濃度を2倍程度増加させることができる。(D)循環後、20nLのK2CO3溶液をフルオリド濃縮ループ内に導入し、濃縮されたフルオリド溶液を反応ループ内に移した。この全量充填プロセス(dead end filling process:ロードチャネルを制御するバルブ以外の全てのバルブを閉じ、ループ内の空気を多孔性PDMSマトリックスを通して押し出す)には20秒を要した。(E)反応ループの周囲の全てのバルブを閉じ、温度勾配付き(100℃で30秒、120℃で30秒、135℃で3分)デジタル制御ホットプレート上でCRCを加熱した。濃縮フルオリド溶液由来のほとんどの水が直接蒸発により除去された。(F)CRCを1分以内に35℃に冷却した。(G)全量充填により、中央下部のチャネルを通して無水MeCN(ドット)を反応ループ中に導入した。この工程は25℃で20秒未満であった。(H)CRCを温度勾配で(80℃/30秒、100℃/1分)再度加熱し、ループ内に残る水を除去した。ループの周りの全てのバルブを閉じ、直接蒸発によりMeCNと水蒸気を除去した。(I)40秒以内にCRCを35℃に冷却した。
【図7】CRCにおいて3工程連続操作で構成されるフッ素置換プロセスをまとめた模式図。(A)全量充填により中央上のチャネルから反応ループへ無水MeCN中のKryptofix 222/マンノーストリフラート1を導入した。25℃でこの工程に20秒要した。(B)CRCを温度勾配で加熱した(100℃/30秒、120℃/50秒)。同時に、溶液を循環ポンプにより積極的に混合した。この工程の最後にフッ素化中間体2a(または2b)が得られた。(C)CRCを40秒以内に35℃に冷却した。
【図8】CRCにおいて3工程連続操作で構成される加水分解プロセスをまとめる模式図。(A)右上部チャネル(点描)からHCl水溶液(3.0N)を全量充填により反応ループに導入した。この工程は25℃で20秒を要した。(B)60℃で1分間、HClとフッ素化中間体2a(または2b)を循環ポンプで混合した。この工程で、中間体2(または2b)が加水分解され、最終生成物FDG(3a、b)が得られた。(C)CRCの底部にある生成物ラインを通してFDGを含有する溶液(3a、b)(点描と斜線)を装置外に排出した。
【図9】(A)MeCN、マンノーストリフラート1およびKryptofix 222を含有する混合物のGC-MSプロット。保持時間14.73分および18.10分にある2つのピークはそれぞれ、マンノーストリフラート1およびKryptofix 222に対応する。(B)CRC中の濃縮フルオリドとの反応後の(A)中の混合物のGC-MSプロット。保持時間14.16分を有するピークはフッ素化中間体2bの生成に対応する。クロマトグラムの補正積分から、変換収率が95%であることが示唆される。(C)粗[19F]FDG(3b)をTMSClで処理して得られたTMS-機能付加[19F]FDG(3b)のGC-MSプロット。補正積分により、中間体2bの加水分解反応により[19F]FDG(3b)が>90%の純度で得られることが示される。
【図10】FDG生成の放射線化学的純度が97.3%に達することを示す、第1世代CRCにおける[18F]FDG(3a)の連続生成で得られた未精製混合物の分析用TLC像。Rf値0.0および0.4の2つのピークはそれぞれ、[18F]フルオリドおよび[18F]FDG(3a)に対応する。
【図11】(A)[18F]FDG生成に用いた第2世代CRCの写真。(B)(i)排気チャネル、(ii)コイン型反応器および(iii)マンノーストリフラート溶液導入用のマニホールドを含む3つの主要機能部品からなる第2世代CRCの模式図。
【図12】第2世代CRC上の[18F]FDG(3a)合成をまとめる模式図を示す。(A)18F-/Kryptofix 222/K2CO3のMeCN中の濃縮混合物を、反応チャンバの2/3充填まで反応チャンバ中に導入する。フルオリド溶液により置換された気体を除くために反応チャンバ上部の排気口を真空にすることにより、このプロセスが加速される。(B)MeCN中のマンノーストリフラート溶液2a(25mg/mL)をロードし、分配マニホールドを全量充填により充填する。6個の導入口を通ってマンノーストリフラート2a溶液を反応チャンバ中に均等に同時に導入するように、マニホールドが設計されている。(C)ロード圧力10psiを加えてマンノーストリフラート2a溶液を反応チャンバ中に導入する。(D)反応混合物を25℃に5分間保ち、フッ素化反応を65℃で2分間行う。排気口の真空排気を開始し、反応チャンバ中のMeCNの1/4を蒸発させる。(E)3N HCl溶液を反応チャンバにロードし、酸加水分解を60℃で行う。(F)残存MeCNを75℃で5分間蒸発させる。(G)反応チャンバを40℃に冷却し、溶出前に排気口の真空排気を止める。(H)水入口および生成物出口でバルブを開くと、[18F]FDG(3a)がチャンバ外へ排出される。接線方向に導入・排出すると、反応チャンバの向こう側の壁に沿って水が流れ、生成物の完全な溶出が保証される。
【図13】PDMS系一体型CRCの光学写真を示すが、装置中の異なったモジュール(module)をより識別しやすいように、意図的に異なった染料が充填されている。赤および黄色のラインは、それぞれバルブおよびポンプモジュールと関連する制御チャネルを意味する。双方の制御ラインは気体マニホールドと接続し、5〜30psiの範囲の気体圧力で駆動される。青および緑のラインは、原料および試薬を含有する溶液が送られ、保存される流体チャネルを示す。制御チャネル(赤および黄色)および流体チャネル(青および緑)の全ての交点にバルブおよびポンプモジュールが置かれる。個々のバルブ膜の膨張を、流体の流れを阻止するために用いる。3本の平行に並んだバルブ(黄色)をまとめて、ポンプの順番と時間間隔を変えることによって対応する流体チャネルの方向と流速を制御するために用いられる蠕動ポンプモジュールとすることができる。
【図14】2-(1-(6-[(2-[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル)(FDDNP)を合成するために用いられる装置の設計を示す。反応器ループを含む流動チャネルが実線で、制御チャネルが薄い破線で示される。排気チャネル(幅400ミクロン、高さ25ミクロン)は濃い破線を用いて示される。試薬を様々な方法で導入することができる。図示されるのはFDDNP合成用の試薬の導入法であり、フルオリド/K2CO3溶液は上部チャネルを経て導入され、前駆体/Kryptofix溶液は下部チャネルを通って導入される。MeCNを上から二番目のラインを経て導入できる一方、図示されるように、中心線のすぐ上のバルブを閉じたままで出口チャネルを通って生成物を反応器外へ排出する。図14はまた、下部チャネルをHClの導入のために使用し得ることを示している。FDDNPの合成は加水分解工程を必要としなかった。しかしながら、酸加水分解工程を含む3'-デオキシ-3'-[18F]フルオロチミジン(「[18F]FLT」)の合成に同じチップの設計が使用されている。その場合、図示するように酸を導入することができる。
【図15】FDG合成のためのPDMS系化学反応回路を示す。
【図16】(A、上図)陰イオン交換カラム、ポンプおよび希薄フルオリドを濃縮するための濃縮ループを含有する長方形濃縮ループの光学写真。(B、下図)フッ素化および加水分解反応の両方に用いられる反応ループとポンプを含有する丸型反応チャンバの光学写真。
【図17】化学反応回路中の連続FDG合成をまとめるグラフ表示である。
【図18】コイン型反応器と「オフチップ(off-chip)」クロマトグラフィーカラムを有するチップを示す。
【図19】大型ボトムアップ(bottom-up)混合器を有するマイクロスケール反応チャンバを示す。
【図20】加熱蒸発器と一体化した加熱混合器を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体装置を用いる溶媒交換法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;
ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;
iii)反応器を流体隔離し、第1反応物を反応器中に保持する一方で、第1溶媒系の一部または全部を流体隔離された反応器から回収する工程;および
iv)反応器中に第1溶媒系とは異なる第2溶媒系を導入する工程。
【請求項2】
マイクロ流体反応器から溶媒系を除去する方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定され、
該反応器が任意で第1溶媒系を含有し、その場合は第1溶媒系が第1溶質および任意で含まれるその他の溶質を含む、工程;
ii)反応器中に、第2溶質および任意で含まれるその他の溶質を含む第2溶媒系を導入する工程;
iii)反応器を隔離する工程であって、それによって該反応器が第3溶媒系および溶質Aと呼ばれる溶質とを含有し、
溶質Aが、第1溶質、第2溶質、または第1溶質および第2溶質のいずれかまたは双方が反応物である反応の生成物であり、
該第3溶媒系が、第2溶媒系と同じである、または溶媒系が第1および第2溶媒系の組み合わせで構成される溶媒系である工程;
iv)流体隔離された反応器から第3溶媒系の容積の少なくとも25%を回収する工程であって、第3溶媒系は、溶質Aが回収されるより速く反応器から回収され、反応器中の第3溶媒系の単位容積あたりの反応器中の溶質Aの量が、第3溶媒系が回収されるにつれて増加する、工程。
【請求項3】
溶質Aは3第溶媒系中の溶液中にあり、反応器中の溶質Aの濃度は第3溶媒系が回収されるにつれて増加する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
マイクロ流体装置を用いる化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;
ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;
iii)反応器を流体隔離し、第1反応物を反応器中に保持する一方で、第1溶媒系の一部または全部を流体隔離された反応器から回収する工程;
iv)反応器中に、第2反応物を含む第2溶媒系を導入する工程であって、第1反応物と第2反応物は、反応条件下で化学的に反応して生成物を生じる化合物である、工程。
【請求項5】
反応器を流体隔離する工程、ならびに、第1反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
生成物を反応器中に保持する一方で、流体隔離された反応器から反応溶媒系の一部または全部を回収する工程をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
マイクロ流体装置を使用して化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;
ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;
iii)反応器中に第2反応物を含む第2溶媒系を導入する工程であって、第1反応物と第2反応物は、反応条件下で化学的に反応して生成物を生じる化合物である、工程;
iv)反応器を流体隔離する工程であって、該反応器は、
1)反応溶媒系と、
2)第1および第2反応物ならびに/または生成物を含む、工程。
【請求項8】
v)第1反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程;
vi)生成物を反応器中に保持する一方で、反応溶媒系の一部または全部を流体隔離された反応器から回収する工程
をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
i)反応器とマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;
ii)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に、第3反応物および/または触媒を含む第3溶媒系を導入する工程;
iii)第2反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程
を含む、請求項5記載の方法。
【請求項10】
i)反応器とマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;
ii)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に、第3反応物および/または触媒を含む第3溶媒系を導入する工程;
iii)第2反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程
を含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
i)反応器とマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;
ii)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に、第3反応物および/または触媒を含む第3溶媒系を導入する工程;
iii)第2反応生成物が反応器中に蓄積するのに十分な時間および条件下で反応器を流体隔離状態に維持する工程
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項12】
一体型マイクロ流体装置中で化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;
ii)第1反応物と第2反応物を反応器中で反応させる工程であって、第1および第2反応物が反応溶媒系内の溶液中にあり、反応器が流体隔離され、かつ、第1反応生成物が生成される、工程;
iii)反応溶媒系の少なくとも一部を、流体隔離された反応器から蒸発させる工程;
iv)第1生成物を反応器中に保持する一方で、反応器中に第3反応物および/または触媒を含む溶液を導入する工程。
【請求項13】
マイクロ流体装置を用いて化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、工程;
ii)反応器中に第1反応物を含む第1溶媒系を導入する工程;
iii)反応器中に第2反応物を含む第2溶媒系を導入する工程であって、第1反応物と第2反応物は、反応条件下で化学的に反応して生成物を生じる化合物である、工程;
iv)反応器を流体隔離する工程であって、該反応器は、
1)反応溶媒系と、
2)第1および第2反応物ならびに/または生成物を含み、
反応器がコイン型であり、かつ/または排気チャネルが反応器上に隣接する、工程。
【請求項14】
第1反応物または第2反応物が、反応器中に導入される前にオンチップマイクロ流体分離カラム中で精製または濃縮される、請求項4〜11または13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
一体型マイクロ流体装置中で化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
(i)反応器を含むマイクロ流体装置および、固定相(stationary phase)を含む分離カラムを提供する工程;
(ii)分離カラム中に第1反応物を含有する溶液を導入し、第1反応物を固定相に吸着させる工程;
(iii)第1反応物を固定相から溶離する工程;
(iv)第1反応物を反応器中に導入する工程;
(v)第2反応物を反応器中に導入する工程であって、該第2反応物が、第1反応物の前または後、または同時に導入される工程;
(vi)第1試薬および第2試薬が反応して第1反応生成物を生成するのに十分な時間および条件下で反応器を維持する工程。
【請求項16】
反応器が、
a)少なくとも1個のマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が気体に対し透過性であるが該気体に対応する液体に対し実質的に不透過性である壁で規定される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
一体型マイクロ流体装置を用いて連続化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供し、少なくとも2つの連続化学反応を行うに十分な試薬を提供する工程;
ii)反応器中で第1化学反応を行い、それによって生成物を生成する工程;
iii)反応器中で第2化学反応を行う工程であって、(ii)由来の生成物が第2化学反応における反応物であり、かつ(ii)由来の生成物が工程(iii)の前に反応器から除去されない、工程。
【請求項18】
第1および第2化学反応が異なった溶媒系で行われる、請求項7〜8、11、13または15のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
第1溶媒系と第2溶媒系とが同時に導入される、請求項7または13記載の方法。
【請求項20】
反応器が閉鎖ループでない、請求項1〜13または15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
反応器がコイン型である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
反応器が少なくとも4μLの流体容量を有する、請求項20記載の方法。
【請求項23】
相当量の反応生成物が工程(iv)の前に生成される、請求項7記載の方法。
【請求項24】
微量の反応生成物が工程(iv)の前に生成される、請求項7記載の方法。
【請求項25】
生成物の生成をもたらす反応条件を生じるために反応器が加熱される、請求項3〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
反応器が反応溶媒系を含有し、反応溶媒系が、反応溶媒系の通常の大気圧の沸点より高い温度に加熱される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
分離カラムがイオン交換カラムである、請求項14記載の方法。
【請求項28】
分離カラムが第1反応物を結合するイオン交換カラムである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
分離カラムが陰イオン交換カラムであり、第1反応物が18F[フルオリド]である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
分離カラムが篩カラムである、請求項14記載の方法。
【請求項31】
第1または第2反応物が結合工程で最初にカラムの固定相に結合し、次いで、反応器中に導入される前に溶離工程でカラムの固定相から溶離される、請求項14記載の方法。
【請求項32】
マイクロ流体装置が、分離カラムおよび一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み、かつ、結合工程が、カラムを通って第1または第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
マイクロ流体装置が、分離カラムおよび一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み、かつ、溶出工程が、カラムを通って溶離液を少なくとも2回循環させる工程を含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
溶媒系が、水、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ベンゼン、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ブタノン、t-ブチルアルコール、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、1,2-ジメトキシエタン(グリム、DME)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、グリセリン、ヘプタン、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)、ヘキサン、メタノール、メチルt-ブチル、エーテル(MTBE)、塩化メチレン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ニトロメタン、ペンタン、石油エーテル(リグロイン)、1-プロパノール、2-プロパノール、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、トリエチルアミンおよびキシレンからなる群より独立して選択される溶媒の1つまたはその混合物から本質的になる、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
マイクロ流体装置を使用する一連の化学反応を行う方法であって、以下の工程を含む方法:
i)反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程であって、該反応器が、
a)少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと流体連通するように構成され;
b)流体隔離されるように構成され;かつ
c)少なくともその一部が液体の水および液体のアセトニトリルに対し実質的に不透過性であるが水蒸気およびアセトニトリル蒸気に対し透過性である壁で規定される、工程;
ii)反応器中に[18F]フルオリドを含む水溶液を導入する工程;
iii)反応器中にマンノーストリフラートを含むアセトニトリル溶液を導入する工程;
iv)反応器を流体隔離する工程;
v)[18F]フルオリドおよびマンノーストリフラートを反応させて2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコースを生成する工程;
vi)反応器およびマイクロ流体チャネルを流体結合する工程;
vii)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコースを反応器中に保持する一方で、HCl水溶液を反応器に導入する工程;
viii)反応器を流体隔離する工程;ならびに
ix)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコースを加水分解して18F-FDGを生成する工程。
【請求項36】
工程(ii)の前に、
a)[18F]フルオリドを水性溶媒系中で反応器中に導入する工程;
b)水性溶媒系を除去しアセトニトリルで置換する工程;
c)マンノーストリフラートのアセトニトリル溶液を反応器中に導入する工程
を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
マイクロ流体装置が、マイクロ流体分離カラムを含み;分離カラムおよび一つまたは複数の流動チャネルで規定される閉鎖流路を含み;かつ
該結合工程が、カラムを通って第1または第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を含む、請求項35記載の方法。
【請求項38】
[18F]フルオリドが結合工程で最初にカラムの固定相に結合し、次いで、反応器中へ導入される前に、溶離工程でカラムの固定相から溶離され、かつ、結合工程が、カラムを通って第1もしくは第2反応物を含む溶液を少なくとも2回循環させる工程を含み、かつ/または、溶離工程が、カラムを通って溶離液を少なくとも2回循環させる工程を含む、請求項35記載の方法。
【請求項39】
液体が通過し得る不動相(immobile phase)を含みかつ入口と出口を有する、分離カラム;
固相(solid phase)を含まない一つまたは複数の流動チャネル
を含むマイクロ流体装置であって、
流動チャネルおよび分離カラムが閉鎖流路を規定する、マイクロ流体装置。
【請求項40】
閉鎖流路を通って液体を移動させることができる蠕動ポンプをさらに含む、請求項39記載の装置。
【請求項41】
一つまたは複数の流動チャネルの1つと流体連通するように構成された反応器を含む、請求項30または40記載の装置。
【請求項42】
(i)閉鎖流路を形成せず;
(ii)流体隔離可能であり;かつ
(iii)5マイクロリットル〜10マイクロリットルの液体容量を有する
反応器を含む、マイクロ流体装置。
【請求項43】
1〜5個の反応器を含有する、請求項42記載の装置。
【請求項44】
単一反応器を含有する、請求項42記載の装置。
【請求項45】
反応器がコイン型である、請求項42記載の装置。
【請求項46】
反応器が、分配マニホールドである少なくとも1つの流動チャネルと液体連通するように構成される、請求項42記載の装置。
【請求項47】
反応器が、分配マニホールドである少なくとも1つの流動チャネルと液体連通するように構成される、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
マイクロ流体装置の反応チャンバ(反応器)から溶媒を除去する方法であって、以下の工程を含む方法:
溶質化合物および溶媒系を含有する反応器を含むマイクロ流体装置を提供する工程;
溶質化合物を反応器中に保持する一方で、該溶媒系の全部または一部を除去し、それによって溶媒の単位容積あたりの溶質化合物の量を増加させる工程。
【請求項49】
溶質化合物が溶液内に残存し、かつ溶液中の溶質の濃度が増加する、請求項48記載の方法。
【請求項50】
少なくとも50%の溶媒系が反応器から除去される、請求項48記載の方法。
【請求項51】
少なくとも95%の溶媒系が反応器中に残存する、請求項48記載の方法。
【請求項52】
溶媒が水以外である、請求項48記載の方法。
【請求項53】
溶媒が水である、請求項48記載の方法。
【請求項54】
溶質化合物が、放射性核種または放射性核種を含む分子を含む、請求項48記載の方法。
【請求項55】
放射性核種が[11C]、[124I]、[18F]、[124I]、[13N]、[52Fe]、[55Co]、[75Br]、[76Br]、[94Tc]、[111In]、[99Tc]、[111In]、[67Ga]、[123I]、[125I]、[14C]または[32P]である、請求項54記載の方法。
【請求項56】
溶質化合物が[18F]フルオリドまたは[18F]フッ化カリウムである、請求項55記載の方法。
【請求項57】
溶質化合物が、
i)2-デオキシ-2-18F-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコース;
ii)2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリル;または
iii)D-マンノーストリフラート
である、請求項48記載の方法。
【請求項58】
溶質化合物がクリプタンドである、請求項48記載の方法。
【請求項59】
溶質化合物がKryptofix 222[4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン]である、請求項59記載の方法。
【請求項60】
放射線標識反応物を前駆体反応物化合物と混合して、放射線標識生成物を生成する工程を含む、マイクロ流体環境中で放射線標識生成物を合成する方法であって、該混合および反応がマイクロ流体反応器内で生じ、放射線標識試薬が第1溶媒中で反応器中に導入され、かつ、放射線標識前駆体が第1溶媒とは異なる第2溶媒中で導入される、方法。
【請求項61】
放射線標識反応物が[18F]フッ化カリウムであり、前駆体反応物が2-(1-{6-[(2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリデン)マロノニトリルまたはD-マンノーストリフラートである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
放射線標識生成物が放射線標識分子撮像プローブである、請求項60記載の方法。
【請求項63】
放射性反応物を濃縮する工程をさらに含む、請求項60記載の方法。
【請求項64】
放射線標識生成物を脱保護または化学修飾して放射線診断剤または放射線治療剤を生成する工程をさらに含む、請求項60記載の方法。
【請求項65】
放射線標識生成物が放射線標識分子撮像プローブである、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前駆体反応物が、D-マンノーストリフラート、2-(1-{6-[(2-[(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル)エチリジン)マロノニトリル、N-Boc-5'-O-ジメトキシトリチル-3'-O-(4-ニトロフェニルスルホニル)-チミジン、N2-(p-アニシルジフェニルメチル)-9-[(4-p-トルエンスルホニルオキシ)-3-(p-アニシルジフェニルメトキシメチル)ブチル]グアニン、N2-(p-アニシルジフェニルメチル)-9-[[1-[(β-アニシルジフェニルメトキシ)-3-(p-トルエンスルホニルオキシ)-2-プロポキシ]メチル]グアニン、8-[4-(4-フルオロフェニル)-4,4-(エチレンジオキシ)ブチル]-3-[2'-(2,4,6-トリメチルフェニルスルホニルオキシエチル)]-1-フェニル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-4-オン、5'-O-Boc-2,3'-アンヒドロチミジン、N-[2-[4-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル-1]-4-ニトロ-N-2-ピリジニルベンズアミド、1,2-ビス(トシルオキシ)エタン、およびN,N-ジメチルエタノールアミン、ジトシルメタンまたはN,N-ジメチルエタノールアミンである、請求項65記載の方法。
【請求項67】
放射線標識分子撮像プローブが、2-デオキシ-2-[18F]フルオロ-D-グルコース([18F]FDG)、6-[18F]フルオロ-L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン([18F]FDOPA)、6-[18F]フルオロ-L-メタチロシン([18F]FMT)、9-[4-[18F]フルオロ-3-(ヒドロキシメチル)ブチル]グアニン([18F]FHBG)、9-[(3-[18F]フルオロ-1-ヒドロキシ-2-(プロポキシ)メチル]グアニン([18F]FHPG)、3-(2'-[18F]フルオロエチル)スピペロン([18F]FESP)、3'-デオキシ-3'-[18F]フルオロチミジン([18F]FLT)、4-[18F]フルオロ-N-[2-[1-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル]-N-2-ピリジニルベンズアミド([18F]p-MPPF)、2-(1-{6-[(2-[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ]-2-ナフチル}エチリジン)マロノニトリル([18F]FDDNP)、2-[18F]フルオロ-α-メチルチロシン、[18F]フルオロミソニダゾール([18F]FMISO)、5-[18F]フルオロ-2'-デオキシウリジン([18F]FdUrd)、[11C]ラクロプリド、[11C]N-メチルスピペロン、[11C]コカイン、[11C]ノミフェンシン、[11C]デプレニル、[11C]クロザピン、[11C]メチオニン、[11C]コリン、[11C]チミジン、[11C]フルマゼニル、[11C]α-アミノイソ酪酸、または任意の上記化合物の保護型である、請求項62または65記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図6I】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図12G】
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【図12H】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2008−522795(P2008−522795A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544615(P2007−544615)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/044072
【国際公開番号】WO2006/071470
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(506154111)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (3)
【出願人】(507181648)フルディグム コーポレイション (1)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【出願人】(507181659)シーメンズ コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】