説明

化学工業原料及び燃料組成物の合成方法

【課題】エタノールを原料として、ブタノール、ブタジエン等の化学工業原料や燃料組成物を、簡単なプロセスで採取する為に、簡単に入手でき、触媒として難しい調製のいらない化合物を触媒として提供する。
【解決手段】カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を触媒として用いる。さらに、n−ブタノールを合成する場合には、酸化チタンも触媒として使用でき、燃料組成物を合成する場合には、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム又はセピオライトも触媒として使用できる。また、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物も触媒として使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土鉱物、その他の化合物を触媒として使用し、エタノールから化学工業原料、燃料組成物として有用な有機化合物またはそれらの混合物を合成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコールから、各種の化合物を触媒として、ブタノールや、ブタジエン等の化学工業原料や、ガソリン等の燃料を合成する実験が行なわれている。
【0003】
エタノールからブタノールを合成する方法として、アルカリ土類金属の酸化物を触媒として用いる方法(非特許文献1)、アルカリ金属で置換されたゼオライトを用いる方法(非特許文献2)、金属酸化物の混合物を用いる方法(非特許文献3)などが、また、エタノールからブタジエンを製造する方法として、金属酸化物あるいはその混合物を用いる方法(非特許文献4、5及び6)、多孔性針状の粘土類である山皮触媒を用いる方法(特許文献1及び2)等があるが、触媒調製が難しい、反応温度が高いなどの理由で工業的に適さない。
【0004】
また、リン酸カルシウム触媒を用いてブタノール、ブタジエンや、燃料組成物を合成する方法(特許文献3)が既に開示されているが、ブタノール、ブタジエンや、燃料組成物の収率を上げる為には、リン酸カルシウム触媒のリンとカルシウムのモル比の細かい調節が必要であり、触媒の調製が難しいという問題点があった。
【0005】
【非特許文献1】“Dimerisation of ethanol to butanol over solid-base catalysts” A.S. Ndou, N. plint, N. J. Coville, Applied catalysis A: General, 251, p. 337-345 (2003)
【非特許文献2】“Bimolecular Condensation of Ethanol to 1-Butanol Catalyzed by Alkali Cation Zeolites” C. Yang, Z. Meng, J. of Catalysis, 142, p. 37-44 (1993)
【非特許文献3】“Kinetics of a Complex Reaction System-Preparation of n-Butanol from Ethanol in One Step, V. NAGARAJAN, Indian Journal of TechnologyVol. 9, October 1971, pp. 380-386
【非特許文献4】“BUTADIENE FROM ETHYL ALCOHOL” B. B. CORSON, H. E. JONES, C. E. WELLING, J. A. HINCLEY, AND E. E. STAHLY, INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY, Vol. 42. No.2
【非特許文献5】ONE−STEP CATALYTIC CONVERSION OF ETHANOL TO BUTADIENE IN THE FIXED BED. I. SINGLE-OXIDE CATALYSIS, S. K. BHATTACHARYYA and N. D. GANGULY, J. appl. Chem., 12, March, 1962)
【非特許文献6】ONE-STEP CATALYTIC CONVERSION OF ETHANOL TO BUTADIENE IN THE FIXED BED. II. BINARY- AND TERNARY-OXIDE CATALYSIS, S. K. BHATTACHARYYA and N. D. GANGULY, J. appl. Chem., 12, March, 1962)
【特許文献1】特開昭57−102822号公報
【特許文献2】特開昭58−59928号公報
【特許文献3】国際公開WO99/38822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エタノールを原料として、ブタノール、ブタジエン等の化学工業原料や燃料組成物を、簡単なプロセスで採取する為に、簡単に入手でき、触媒として難しい調製のいらない化合物を触媒として提供することを課題としている。
【0007】
本発明のプロセスの出発原料であるエタノールは、現在サトウキビやビートなどから得られる糖を、発酵法により変換して合成される。近年、農林廃棄物であるバイオマスからエタノールを合成する技術も確立され、エタノールの生産量が飛躍的に増大することが期待できる。また、エタノールの製造コストが原油に匹敵あるいはそれ以下となっているので、エタノールを原料として、化学工業原料や、燃料組成物等を合成することは、今後の重要な課題である。
【0008】
本発明のプロセスは、原料として植物由来のエタノールを用いることができ、反応は常圧で容易に進行するので、二酸化炭素を排出し地球温暖化を促進する化石・鉱物資源を原料とする既存の合成法に比べて、地球環境にとって重要な合成方法である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、各種化合物を用いて、エタノールから化学工業原料や燃料組成物を合成する為に、鋭意研究を重ねた結果、これまで知られている触媒以外の、試薬などとして簡単に入手可能な化合物を触媒として使用することにより、エタノールから化学工業原料や燃料組成物として有用な有機化合物又はそれらの混合物を合成できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)エタノールを、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物に接触させることを特徴とする、エタノールから有機化合物の1種又は2種以上の混合物を合成する方法、
(2)有機化合物が1,3−ブタジエンである前記(1)に記載の方法、
(3)エタノールを、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物と接触させることを特徴とする、エタノールから有機化合物の1種又は2種以上の混合物を合成する方法、
(4)有機化合物が1,3−ブタジエンである前記(3)に記載の方法、
(5)エタノールを、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物に接触させることを特徴とする、エタノールからn−ブタノールを合成する方法、
(6)エタノールを、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物と接触させることを特徴とする、エタノールからn−ブタノールを合成する方法、
(7)エタノールを、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及びセピオライトからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物に接触させることを特徴とする、エタノールから燃料組成物を合成する方法、
(8)エタノールを、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物と接触させることを特徴とする、エタノールから燃料組成物を合成する方法、
(9)カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有するエタノール変換触媒、及び
(10)カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物を含有するエタノール変換触媒、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の触媒は、安価で簡単に入手でき、反応および再生処理に対して安定であり、反応温度と接触時間を選択することにより、効率よくエタノールからn−ブタノール、1,3−ブタジエンなどの化学工業原料やこれらの混合物である燃料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(エタノール変換触媒)
本発明のエタノール変換触媒として用いる化合物は、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、酸化チタン、水酸化カルシウム及びセピオライトからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物である。また、特に、混合物として用いる場合には、上記カルシウム化合物とリン酸化合物に限ることなく、広くカルシウム化合物とリン酸化合物の混合物が使用可能である。
【0013】
カオリン族粘土鉱物は、四面体の層と八面体の層が1:1の基本構造を有している粘土鉱物であり、リザーダイト[Mg3Si2O5(OH)4]、バーチェリン[(Fe2+,Fe3+,Mg)2-3(Si,Al)2O5(OH)4]、アメサイト[Mg2Al(Si,Al)O5(OH)4]、クロンステダイト[Fe2+Fe3+(SiFe3+)O5(OH)4]、ネポーアイト[Ni3Si2O5(OH)4]、ケリアイト[(Mn2+,Mg,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4]、フレイポナイト[(Zn,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4]、ブリンドリアイト[(Ni,Mg,Fe2+)3(Si,Al)O5(OH)4]、カオリナイト[Al2Si2O5(OH)4]、ディカイト[Al2Si2O5(OH)4]、ナクライト[Al2Si2O5(OH)4]、ハロイサイト[Al2Si2O5(OH)4]、オーディナイト[(Fe3+,Mg,Al,Fe2+)2-3>(Si,Al)2O5(OH)4]などが包含される。
【0014】
パイロフィライト族粘土鉱物は、四面体の層と八面体の層が2:1の基本構造を有している粘土鉱物であり、タルク[Mg3Si4O10(OH)2]、ウィレムサイト[(Ni,Mg)3Si4O10(OH)2],ケロライト[Mg3Si4O10(OH)2]、ピメライト[Ni3Si4O10(OH)2]、パイロフィライト[Al2Si4O10(OH)2]、フェリパイロフィライト[Fe3+Si4O10(OH)2]などが包含される。
【0015】
スメクタイト族粘土鉱物は、四面体の層と八面体の層が2:1の基本構造を有している粘土鉱物であり、サポナイト[(Ca/2,Na)0.3(Mg,Fe2+)3(Si,Al)4O10(OH)2・4H2O]、ヘクトライト[Na0.3(Mg,Li)3Si4O10(F,OH)2・4H2O]、ソーコナイト[Na0.3Zn3(Si,Al)4O10(OH)2・4H2O]、スチーブンサイト[(Ca/2)0.3Mg3Si4O10(OH)2・4H2O]、スインホルダイト[(Ca/2,Na)0.3(Li,Mg)2(Si,Al)4O10(OH,F)2・2H2O]、モンモリロナイト[(Ca/2,Na)0.3(Al,Mg)2(Si)4O10(OH)2・nH2O]、バイデライト[(Ca/2,Na)0.3Al2(Si,Al)4O10(OH)2・nH2O]、ノントロナイト[Na0.3Fe3+(Si,Al)4O10(OH)2・nH2O]、ボルコンスコアイト[Ca0.3(Cr3+,Mg,Fe3+)3(Si,Al)4O10(OH)2・nH2O]などが包含される。
【0016】
ハイドロタルサイトは、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oの組成を有する粘土鉱物であり、セピオライトは、Si12Mg8O30(OH)4(H2O)4・8H2Oの組成を有する粘土鉱物である。
キチンは、N−アセチル−β−D−グルコサミンが1,4結合したムコ多糖類であり、分子量は特に制限はないが、通常、10万〜100万程度である。
上記化合物は、それぞれ単独でも、2種以上を併用することもできる。
【0017】
また、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物の場合は、通常、Ca/Pのモル比を0.05〜20に調整して用いる。この場合、カルシウム化合物及びリン酸化合物の種類は特に制限はないが、カルシウム化合物としては酸化カルシウム又はケイ酸カルシウムが好ましく、リン酸化合物としてはリン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム又はリン酸リチウムが好ましい。
合成されるものが、n−ブタノールの場合は、上記化合物以外に、酸化チタンも触媒として使用することができる。又、合成されるものが、有機化合物の混合物である燃料組成物である場合には、上記化合物以外に、酸化チタン又は酸化マグネシウムも触媒として使用することができる。
【0018】
本発明において、触媒として使用する化合物の性状は、特に限定されるものではなく、試薬の粉末をそのまま使用してもよいし、また必要に応じて顆粒、球体、ペレット、ハニカムなど任意の形に成形後、乾燥、焼成して用いることもできる。焼成は100℃〜800℃、好ましくは300℃〜700℃で行う。カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物の場合は、200℃以上で焼成することが好ましい。
【0019】
(製造される有機化合物又はそれらの混合物)
本発明のエタノール変換触媒を用いて合成される「有機化合物」とは、エタノールから合成される有機化合物なら何でも包含されるが、例えば、パラフィン類、オレフィン類、ジエン類、トリエン類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類,エステル類などの有機化合物がある。具体的には、メタン,エタン,エチレン,アセトアルデヒド,プロピレン,アセトン,ブテン、1,3−ブタジエン、1−ブタノール、3−ブテン−1−オール、t−クロチルアルコール、c−クロチルアルコール、ジエチルエーテル、ブチルアルデヒド、2−ブタノン、t−クロトンアルデヒド、c−クロトンアルデヒド、2−ペンタノール、2−ペンタノン、ブチルエチルエーテル、ヘキサノール、ヘキサナール,2−エチルヘキサノール、オクタノール,オクタナールなどがある。これらはそれぞれ工業用原料として使用することができ、またこれらの2種以上の混合物は燃料組成物として使用することができる。燃料組成物として使用する場合には、原料であるエタノールも含まれてよい。
本発明において、エタノールを原料としてこれら化学工業原料や燃料組成物に有用な有機化合物及びそれらの2種以上の混合物を合成する際、求めるそれらの選択率を高めるためには、使用する触媒の粒度、表面積や、反応条件(接触時間、反応温度、圧力など)を適宜選択して実施される。
【0020】
(合成方法)
エタノールを触媒に接触させ、有機化合物又はそれらの混合物を製造するのに適した反応温度は、通常100℃〜700℃の範囲で選択することができる。好ましくは250℃〜600℃が望ましい。カルシウム化合物とリン酸化合物との混合物を触媒として用いる場合は、通常、100℃〜400℃である。
反応塔での反応形式としては、バッチ方式、連続方式、固定床、移動床、流動床またはスラリー床の何れの方法によっても良く、常圧,加圧下または減圧下のいずれでも行うことができる。
【0021】
エタノールと触媒との接触時間は、通常、工業的な経済性を考えて、連続方式により、0.1秒以上、10秒以下が好ましいが、0.1秒以下あるいはバッチ方式などで反応温度を調整することにより10秒以上でも経済的な製造は可能である。
有機化合物又はそれらの混合物の収率は、エタノールと触媒との接触温度が高い場合は、接触時間が短くても良いが、エタノールと触媒との接触温度が低くなるに従い、接触時間が長く必要となる。しかし、接触温度が低いほど製造措置の負担は軽くなる。
【0022】
エタノールは、液相で行うこともできるが、気相で直接、または窒素或いはヘリウムのような不活性なキャリアガスの存在下で触媒と接触させることにより、効率よく反応させることができる。このとき触媒活性の維持のために、キャリアガス中に水素や炭化水素などの反応性ガスを同伴させても良い。
【0023】
エタノールから有機化合物又はそれらの混合物を合成する場合、長時間の使用で触媒表面に炭素を析出し、エタノール転化率の低下、および反応の異質化を招く場合がある。その場合、定期的に触媒を酸素雰囲気下で加熱する再生処理を行う。これにより触媒の活性を回復できる。従って、触媒に炭素析出の多い反応条件の場合、触媒再生処理装置を組み込んだ上記記載の方式によるプラントが有効である。
このようにして得られた有機化合物やそれらの混合物は、従来用いられている分離、精製法、例えば、精溜、ミクロ孔膜分離、抽出、吸着法などを用いて分離、精製することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されることはない。
実施例A (単独触媒)
(触媒)
フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウム、カオリナイト、タルク及び酸化マグネシウムは和光純薬工業(株)の試薬を、セピオライトは水沢化学工業(株)のエードプラスを、キチンはフナコシ(株)のキチンEX KH000003を、リン酸アルミニウムは関東化学(株)の試薬を、そして酸化チタンは石原産業(株)のST−01を使用した。
【0025】
(触媒特性の評価)
反応装置は固定床ガス流通式触媒反応装置(株式会社大倉理研製)を用いた。設定した接触時間に応じて各種触媒を反応管に充填し、前処理として、キャリアガス(1%Ar/Heベース;流量112ml/min)雰囲気下で500℃、30分間加熱脱水処理を行った。前処理終了後、エタノール濃度16vol%となるようにエタノール流量およびキャリアガス流量を調整し,常圧にて反応させた。
反応温度は100〜700℃まで、50℃毎にサンプリングを行ない、接触時間は0.1〜10秒の範囲で行った。接触時間0.1秒の場合は0.2cc、接触時間2秒の場合は4cc、接触時間10秒の場合は9ccの触媒を反応管に充填した。
反応ガス成分の同定にはガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用い、エタノールの転化率及び合成ガスの選択率測定にはガスクロマトグラフ(GC)(検出器:FID)を用い、各成分のピーク面積値から各成分量を定量した。
【0026】
(n−ブタノール)
各種触媒の各反応温度におけるブタノール収率を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1は、各種触媒の、反応温度150℃〜700℃におけるn−ブタノールの収率を示したものである。試験例1〜3の接触時間は約10秒、試験例4〜5の接触時間は約0.1秒、試験例6と比較例1の接触時間は約2秒であった。
各触媒のn−ブタノールの収率は、反応温度350〜500℃で最大値となった。
また試験例6の水酸化マグネシウムを触媒とした場合のブタノール収率は、既に開示されている酸化マグネシウムを触媒とした場合に比べて低い反応温度で、高いブタノール収率という工業的に有利な値であった。
【0029】
(1,3−ブタジエン)
各種触媒の各反応温度におけるブタジエン収率を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2は、各種触媒の、反応温度150℃〜700℃における1,3−ブタジエンの収率を示したもので、接触時間は約2秒の結果である。
各触媒の1,3−ブタジエンの収率は、反応温度450〜550℃で最大値となった。
また試験例10の水酸化マグネシウムを触媒とした場合の1,3−ブタジエンの収率は、既に開示されている酸化マグネシウムを触媒とした場合に比べて低い反応温度で、高いブタジエン収率という工業的に有利な値であった。
【0032】
(燃料組成物)
各種触媒の、各反応温度における燃料組成物(C4+以上)の収率を表3、表4に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
表3、表4は、各種触媒の、反応温度150℃〜700℃における燃料組成物の収率を示したもので、接触時間は約2秒の結果である。
各触媒の燃料組成物の収率は、反応温度250〜600℃で最大値となった。
【0036】
(C2+以上の有機化合物)
各種触媒の、各反応温度におけるC2+以上の有機化合物(エタノールを除く)の収率を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
表5は、各種触媒の、反応温度100℃〜700℃におけるC2+以上の有機化合物(エタノールを除く)の収率を示したもので、接触時間は約2秒の結果である。
各触媒のC2+以上の有機化合物(エタノールを除く)の収率は、反応温度500℃以上で特に高い収率を示した。
【0039】
実施例B(カルシウム化合物とリン酸化合物の混合触媒)
エタノール変換触媒としてカルシウム化合物とリン酸化合物の混合物を使用し、実施例Aに準じて接触時間は約2秒でエタノールの変換反応を行った。表中の数値は、%を示す。
【0040】
実施例B−1(Ca/P比が1.64の場合)
(n−ブタノール)
カルシウム化合物とリン酸化合物を、Ca/P比が1.64になるように混合した触媒の各反応温度におけるブタノール収率を表6〜表10に示す。試験例28〜30の混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合した後、600℃で2時間焼成したものを用いた。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物についても同様に焼成したものを用いた。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
【表9】

【0045】
【表10】

【0046】
(1,3−ブタジエン)
カルシウム化合物とリン酸化合物を、Ca/P比が1.64になるように混合した触媒の各反応温度におけるブタジエン収率を表11〜表15に示す。試験例34、35の混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合した後、600℃で2時間焼成したものを用いた。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物についても同様に焼成したものを用いた。
【0047】
【表11】

【0048】
【表12】

【0049】
【表13】

【0050】
【表14】



【0051】
【表15】

【0052】
(燃料組成物)
カルシウム化合物とリン酸化合物を、Ca/P比が1.64になるように混合した触媒の各反応温度における燃料組成物の収率(C4+以上)を表16、17に示す。これら試験に使用した混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合した後、600℃で2時間焼成したものを用いた。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物についても同様に焼成したものを用いた。
【0053】
【表16】

【0054】
【表17】

【0055】
実施例B−2 (Ca/P比を変動させた場合)
(n−ブタノール)
カルシウム化合物とリン酸化合物を、Ca/P比が0.2〜10の間で調整した各種混合触媒の各反応温度におけるブタノール収率を表18〜表20に示す。試験例39、40の混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合した後、600℃で2時間焼成したものを用いた。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物についても同様に焼成したものを用いた。試験例38、反応温度450℃のブタノール収率を図5に示した。
【0056】
【表18】

【0057】
【表19】

【0058】
【表20】

【0059】
(1,3−ブタジエン)
カルシウム化合物とリン酸化合物を、Ca/P比が0.2〜10の間で調整した各種混合触媒の各反応温度におけるブタジエン収率を表21〜表23に示す。試験例43の混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合した後、600℃で2時間焼成したものを用いた。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物についても同様に焼成したものを用いた。試験例42のCaSiO3、AlPO4混合触媒については、触媒を混合しただけのものと、600℃で2時間焼成したものについて試験を行ったが、どちらも同等の結果であった。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物も同等の結果であった。試験例42、反応温度550℃のブタジエン収率を図6に示した。
【0060】
【表21】

【0061】
【表22】

【0062】
【表23】

【0063】
(燃料組成物)
カルシウム化合物とリン酸化合物を、Ca/P比が0.2〜10の間で調整した各種混合触媒の各反応温度における燃料組成物の収率(C4+以上)を表24、25に示す。試験例45の混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合した後で、600℃で2時間焼成したものを用いた。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物についても同様に焼成したものを用いた。試験例44の混合触媒については、カルシウム化合物とリン酸化合物を混合しただけのものと、混合した後で600℃で2時間焼成したものについて試験を行ったが、どちらも同等の結果であった。比較として使用したカルシウム化合物とリン酸化合物も同等の結果であった。試験例45、反応温度550℃の燃料組成物の収率を図7に示した。
【0064】
【表24】

【0065】
【表25】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、表1記載の触媒の中から、フッ化カルシウム、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウムと、比較として行なった酸化マグネシウムを触媒として用いた場合の、反応温度とn−ブタノールの収率を示すグラフである。
【図2】図2は、表2記載の触媒の中からフッ化アパタイト、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウムと、比較として行なった酸化マグネシウムを触媒として用いた場合の、反応温度と1,3−ブタジエンの収率を示すグラフである。
【図3】図3は、表3記載の触媒の中からケイ酸カルシウム、フッ化アパタイト、水酸化マグネシウム、酸化チタンを触媒として用いた場合の、反応温度と燃料組成物の収率を示すグラフである。
【図4】図4は、表5記載のリン酸アルミニウム、タルクを触媒として用いた場合の、反応温度とC2+以上の有機化合物(エタノールを除く)の収率を示すグラフである。
【図5】図5は、試験例39において、反応温度が450℃におけるブタノールの収率を示すグラフである。
【図6】図6は、試験例42において、反応温度が550℃におけるブタジエンの収率を示すグラフである。
【図7】図7は、試験例45において、反応温度が550℃における燃料組成物の収率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールを、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物に接触させることを特徴とする、エタノールから有機化合物の1種又は2種以上の混合物を合成する方法。
【請求項2】
有機化合物が1,3−ブタジエンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エタノールを、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物と接触させることを特徴とする、エタノールから有機化合物の1種又は2種以上の混合物を合成する方法。
【請求項4】
有機化合物が1,3−ブタジエンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
エタノールを、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物に接触させることを特徴とする、エタノールからn−ブタノールを合成する方法。
【請求項6】
エタノールを、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物と接触させることを特徴とする、エタノールからn−ブタノールを合成する方法。
【請求項7】
エタノールを、カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及びセピオライトからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物に接触させることを特徴とする、エタノールから燃料組成物を合成する方法。
【請求項8】
エタノールを、カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物と接触させることを特徴とする、エタノールから燃料組成物を合成する方法。
【請求項9】
カオリン族粘土鉱物、パイロフィライト族粘土鉱物、スメクタイト族粘土鉱物、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、キチン、リン酸リチウム、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有するエタノール変換触媒。
【請求項10】
カルシウム化合物とリン酸化合物の混合物を含有するエタノール変換触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−88140(P2008−88140A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274004(P2006−274004)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000130776)株式会社サンギ (17)
【Fターム(参考)】