説明

化学気相堆積を用いるカーボンナノチューブ直径の制御

化学気相堆積により成長させたカーボンナノチューブの直径は、反応器中での反応性ガスの滞留時間を制御することにより、触媒サイズとは無関係に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相堆積、例えば、化学気相堆積(CVD)またはプラズマ化学気相堆積(PECVD)を用いるカーボンナノチューブ成長に関し、より詳細にはCVDまたはPECVD成長の間のカーボンナノチューブ直径の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブベースの電界効果トランジスタ(CNTFET)は、デバイス用途について大きな将来性がある。近年、最新技術水準のシリコンMOSFETに匹敵する優れた電気特性を有するCNTFETが実証されている[例えば、Rosenblatt et al.,“High Performance Electrolyte−Gate Carbon Nanotube Transistors”,NanoLetters,2(8),(2002)pp.869−72参照]。しかしながら、CNTFETの電気特性は、トランジスタのチャネルを形成する単層カーボンナノチューブ(SWNT)のバンドギャップに主として依存する。SWNTのバンドギャップは直径に強く依存するので、直径の正確な制御は、カーボンナノチューブに基づく各種デバイス技術を成功させるには不可欠である。
【0003】
狭い直径分配を有するSWNTの成長のために広く用いられる手法は、グラファイトターゲットのレーザアブレーションに基づく。しかしながら、レーザアブレーションにより製造されたチューブの制御された配置および配向は極めて困難であることが判明しており、回路用途へのこの手法の有用性を制限している。回路集積化のためのより画期的なアプローチは、化学気相堆積(CVD)を用いて適切な基板上で所定位置にカーボンナノチューブを成長させることである。様々な研究により、パターニングされた触媒を有する基板を用いてCVD成長させたカーボンナノチューブの配向および起点を制御することの実現の可能性が示されている[例えば、Huang et al.,“Growth of Millimeter−Long and Horizontally Alligned Single−Walled Carbon Nanotubes on Flat Substrates”,J.American Chemical Soc.,125(2003)pp.5636−5637参照]。
【0004】
CVDにより個別のSWNTを得る際、非常に難しいのは、700〜1000℃の成長温度でのナノメートルレベルの触媒粒径の制御である。これまでに理論的にわかっているのは、用いられる成長触媒の粒径が成長したカーボンナノチューブの直径を画定できることである。この仮説は、CVD成長させたSWNT末端の触媒粒子がナノチューブ直径に対応したサイズを有しているという観察により支持されてきた[例えば、Li et al.,“Growth of Single−Walled Carbon Nanotubes from Discrete Catalytic Nanoparticles of Various Sizes”,J.Physical Chemistry,105(2001),pp.11424−11431参照]。一般的に用いられる触媒は、遷移金属、特にFe、Mo、Co、NI、Ti、Cr、Ru、W、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金である。しかしながら、狭い直径分布を有する小さい触媒粒子の合成は複雑であり、制御が困難である。
【0005】
触媒サイズ、従ってCNT直径を制御するために多くの戦略が用いられてきた。難しい点の1つは、高温でのCNTの成長の間、触媒凝集を防止することが挙げられる。1つの戦略として、Cassel et al.,J.Am.Chem.Soc.1999,121,7975−7976により詳述されるように加熱中に焼結しない高表面積シリカまたはアルミノケイ酸塩マトリックスに触媒粒子を埋め込むことを実施してきた。触媒マトリックスによってSWNTの高収率が得られるが、そのマトリックスは、極めて粗くかつ非導電性でパターニングおよび電気接触を困難にする。触媒粒径を制御するための他のアプローチとしては、上記Li et al.により記載されたように、ナノ粒子の表面に結合し粒子がより大きく成長することを防止するフェライト(鉄蓄積タンパク質)ミセル、ポリマーまたは他の配位試薬を利用する溶液中に希薄な離散性ナノ粒子を調製することが含まれる。しかしながら、溶液中の希薄な離散性ナノ粒子の合成では、粒径をきちんと制御することおよびCNT成長の間それらの粒子の凝集を制限することが難しい。加えて、混合物の希薄性のため、おそらく活性部位の密度がより低くなり、そのためより低いSWNT収率という結果になるのが一般的である。他の難しい点としては、触媒を活性化するために金属ナノ粒子を包囲している余分な有機材料を熱分解によって除去することおよび酸化物を低減することをしなければならない点が含まれる。
【0006】
触媒粒径によるカーボンナノチューブ直径の制御の別の欠点は、十分に小さい触媒粒子をリソグラフィにより画定できないことである。サブ1ナノメートル寸法は、均一な電子ビームリソグラフィの域を超えており、小さい直径を有するCNTの成長のための個別の触媒粒子をリソグラフィパターニングする可能性が妨げられる。従って、リソグラフィパターニングできる大きい触媒粒子(>20ナノメートル)から薄いナノチューブ(<5ナノメートル)を成長させることには、集積化の見地から多くの利点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カーボンナノチューブベースのエレクトロニクスが直面する主な難題の1つは、現在のCNTFETの低駆動電流である。狭い幅を有するトランジスタを効果的にもたらしてくれるのは極めて小さい直径のSWNTであるが、この小さい直径から低駆動電流が生じるのである。チャネル領域としてSWNTのアレイを用いることは駆動電流を増大させ、CNTFETベースの技術を実現可能にする。しかしながら,現在のところ、十分に画定されたピッチを有するCNTのアレイを形成するための制御された方法はまったく存在しない、従って、リソグラフィで制御された起点(電子ビーム分解能により限定される)と小さい直径(<5ナノメートル)とを有するSWNTのアレイを成長させる能力は、CNTエレクトロニクスの成功にとり非常に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの局面によれば、化学気相堆積(CVD)またはプラズマ化学気相堆積(PECVD)により成長させたカーボンナノチューブの直径を0.2〜100ナノメートルの範囲で制御する方法が提供される。該方法は、触媒基板をCVDまたはPECVD成長反応器に導入するステップと、反応器室温度を所望の成長温度まで増大させるステップと、カーボン含有前駆体を含む反応ガスを流すステップと、カーボンナノチューブの直径を制御するために反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間を制御するステップとを含む。
【0009】
1つの実施形態においては、反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間は、制御された圧力を反応室中で設定し、カーボン前駆体の流量を調節することにより制御される。
【0010】
1つの実施形態においては、反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間は、反応器中への制御されたガス流量を設定し、反応器中の圧力を調節することにより制御される。
【0011】
1つの実施形態においては、反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間は、ガス流量および反応器の成長圧力を調節することにより制御される。
【0012】
第2の局面によれば、本発明は、第1の局面によるプロセスにより得られるカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブのアレイを提供する。
【0013】
1つの実施形態によれば、成長温度は、400〜1200℃である。
【0014】
1つの実施形態によれば、触媒は、遷移金属粒子を含有する。
【0015】
好ましくは、触媒は、Fe、Mo、Co、Ni、Ti、Cr、Ru、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0016】
1つの実施形態においては、触媒粒子は、0.2ナノメートル〜100ナノメートルのサイズを有する。
【0017】
1つの実施形態においては、カーボン含有前駆体は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、カルボニル、ハロゲン化炭化水素、シリル化炭化水素、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、酸、フェノール、エステル、アミン、アルキルニトリル、チオエーテル、シアネート、ニトロアルキル、アルキルナイトレート、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0018】
1つの実施形態においては、カーボン含有前駆体は、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素およびベンゼンから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0019】
1つの実施形態においては、キャリアガスがカーボン前駆体と共に用いられる。キャリアガスは、好ましくは、アルゴン、窒素、ヘリウム、水素およびアンモニウムから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0020】
1つの実施形態によれば、流量または圧力あるいはその両方は、CNT直径を調整するために、反応器中での滞留時間を1分から20分の範囲で可変するように調節される。
【0021】
1つの実施形態によれば、流量または圧力あるいはその両方は、CNT直径を調整するために、滞留時間を1.2分〜10分の範囲で可変するように調節される。
【0022】
1つの実施形態によれば、カーボンナノチューブの直径は、触媒の粒径よりも小さい。
【0023】
本発明は、好ましい実施形態によれば、CVDまたはPECVD成長条件を用いてSWNTの直径を制御するための方法を提供する。
【0024】
本発明は、好ましくは、触媒粒径から独立して、圧力またはガス流量あるいはこの両方の組み合わせを制御することなどにより、反応器中のガスの滞留時間の制御に基づいて、PECVDまたはCVD成長させたCNTの直径dcntを制御することに関する。IEEE pressにより発行された“Cold Plasma in Materials Fabrication From Fundamentalas to Applications”,1994,第91頁においてGrillにより定義されるように、ガス滞留時間は、t=pvol/Qである。
式中、
p=圧力(気圧)
=反応器の容積(ccm
Q=総マスフロー(sccm)
である。
【0025】
ガス滞留時間は、反応器中のガスの平均時間を尺度とする。従って、流れが一定であり圧力が増大すれば、滞留時間は増大し、圧力が一定であり流れが増大すれば、滞留時間は減少する。本発明者らは、滞留を変えることによりdcntに影響を及ぼすことができることを思いがけず発見した。滞留時間が高すぎれば、熱分解炭素のみが堆積され、滞留時間が低すぎれば何も堆積されない。滞留時間は、一般的には1分〜20分であり、より一般的には1分〜10分である。滞留時間は一般的には、反応器中の圧力、流れまたは圧力と流れの両方を制御することにより決定される。CVDまたはPECVD反応器中のCNT前駆体ガスの滞留時間(例えば、成長圧力または流量あるいはその両方)を変えることにより、dcntを0.2ナノメートルから数ナノメートルの範囲で可変することができる。
【0026】
特に、本発明は好ましくは、化学気相堆積(CVD)またはプラズマ化学気相堆積(PECVD)により成長させたカーボンナノチューブの直径を0.2〜100ナノメートルの範囲で制御する方法に関し、この方法は、触媒被覆した基板をCVDまたはPECVD成長反応器に導入するステップと、反応器室温度を所望の成長温度まで上昇させるステップと、カーボン含有前駆体を含む反応性ガスを触媒上に流すステップと、カーボンナノチューブの直径を制御するために反応器中の反応性ガスの滞留時間を制御するステップとを含む。
【0027】
好ましい実施形態によれば、本発明は、化学気相堆積(CVD)またはプラズマ化学気相堆積(PECVD)により成長させたカーボンナノチューブの直径を0.2〜100ナノメートルの範囲で制御する方法に関する。この方法は、触媒被覆した基板をCVD成長反応器に導入するステップと、反応器室温度を所望の成長温度まで上昇させるステップと、カーボン含有前駆体を含む反応性ガスを触媒上に流すステップと、制御圧力または制御流量あるいはその両方を反応器中で設定するステップと、制御ガス流の場合にはカーボンナノチューブの直径を制御するためにカーボン含有前駆体のガス流を調節するステップと、または制御圧力の場合にはカーボンナノチューブの直径を制御するためにガス圧を調節するステップと、あるいはカーボンナノチューブの直径を制御するためにカーボン含有前駆体の制御ガス流および反応器中の制御圧力の両方の場合にはカーボン含有前駆体のガス流を調節するステップと反応器中の圧力を調節するステップの両方を含む。
【0028】
本発明のさらなる局面は、好ましい実施形態によれば、上記で開示されたプロセスにより良好に調整された直径および起点を有するSWNTまたはSWNTのアレイの製造に関し、ここでSWNTは電界効果トランジスタのチャネルを形成する。
【0029】
本発明のさらなる局面は、好ましい実施形態によれば、上記で開示されたプロセスにより得られるCVDまたはPECVD成長カーボンナノチューブである。
【0030】
本発明は、好ましい実施形態によれば、上記で開示されたプロセスにより得られる電界効果トランジスタのチャネルを形成するSWNTまたはSWNTのアレイに関する。
【0031】
第3の局面によれば、本発明は、触媒の皮膜を堆積させるステップと、触媒の皮膜をリソグラフィによってパターニングするステップと、リソグラフィックパターンにより画定された不要な触媒を除去するステップと、ナノチューブ成長に用いられる反応器中のガスの滞留時間を制御することにより0.2ナノメートル〜100ナノメートルの範囲の十分に制御された直径を有するナノチューブを成長させるステップとを含むプロセスにより形成されるリソグラフィによって画定された起点を有する単独のCNTまたはCNTのアレイを含む構造を提供する。
【0032】
1つの実施形態において、触媒は、Fe、Mo、Co、Ni、Ti、Cr、Ru、W、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0033】
第4の実施形態によれば、本発明は、触媒の皮膜を堆積させるステップと、ソース領域またはドレイン領域あるいはその両方にのみ触媒を設けるために触媒の皮膜をリソグラフィによってパターニングするステップと、リソグラフィックパターンにより画定されたチャネル領域から不要な触媒を除去するステップと、ナノチューブを成長させるために用いられる反応器中のガスの滞留時間を制御することにより0.2ナノメートル〜100ナノメートルの範囲の十分に制御された直径を有するナノチューブを成長させるステップとを含み、チャネル領域はソース領域からドレイン領域まで延びるプロセスにより得られるソース領域およびドレイン領域ならびにソース領域とドレイン領域との間に位置するチャネル領域を含むFET(電界効果トランジスタ)を提供する。
【0034】
好ましくは、触媒の皮膜は薄膜である。
【0035】
第5の実施形態によれば、第4の局面によるFETを1つ以上含む集積回路が提供される。
【0036】
当然のことながら、本発明は、その他の種々の実施形態が可能であり、本発明のいくつかの詳細は、本発明から逸脱することなく様々な明らかな点で変更が可能である。従って、説明は、本質的に例示的なものであって制限的なものではないと見なされるべきである。
【0037】
本発明の好ましい実施形態を、単に例示として、以下の図面を参照し説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、好ましい実施形態によれば、CVDまたはPECVD成長条件を用いてSWNTの直径を制御することを可能にする。本発明は、好ましくは、触媒粒子のサイズよりも小さい直径を有するSWNTを製造することを可能にする。
【0039】
本発明者らは、反応器室中のカーボン含有前駆体の滞留時間tがdcntに対して強い影響を有することを発見した。より短い滞留時間は、より小さい直径を有するチューブという結果になり、dcntはtを調節することにより調整できる。tは、総流量、成長圧力またはその両方を調節することによって制御できるので、この方法により、触媒調製およびカーボンナノチューブ直径の制御が大いに簡略化される。
【0040】
好ましい実施形態によれば、成長圧力または流量あるいはその両方によるなどによってカーボンナノチューブ直径を制御することにより、触媒粒径に対する制約が緩和される。流量および成長圧力により滞留時間を用いて直径を制御できることは重要な利点である。なぜならば、触媒粒径と比較してこれらのパラメータを制御することはずっと容易だからである。従って、本発明は、好ましい実施形態に従い、触媒調製を大幅に簡略化し回路用途のためのカーボンナノチューブ組込みを容易にする。(a)触媒粒径の制御が正確さに欠け(b)触媒粒径が大きいためにSWNT成長には不適と考えられてきた触媒系を今や利用することができる。
【0041】
適切な触媒としては、Fe、Mo、Co、Ni、Ti、Cr、Ru、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金を含む遷移金属の群が含まれる。触媒粒子の正確なサイズ制御が必要とされないので、種々の溶液堆積、または物理気相堆積により堆積された種々の触媒系をCNT成長のために利用できる。例えば、触媒は、(a)サイズが一般的に0.5〜30ナノメートルの範囲にある触媒のナノ粒子を形成する成長温度で凝集する薄い金属皮膜(1〜2ナノメートル厚さ程度)の形、(b)リソグラフィによって画定された形または(c)多孔質アルミナまたはシリカなどの適切な支持構造体中に埋め込まれた形で堆積されてもよい。所望レベルのサイズ制御を達成するためのどのような他の手法も使用し得る。
【0042】
触媒は次に、カーボン含有前駆体を用いてカーボンナノチューブ成長を開始する前に、適切な環境中で所望の成長温度まで加温される。成長温度は、一般的には400〜1200℃であり、より一般的には500〜1000℃である。
【0043】
適切なカーボン含有前駆体としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、カルボニル、ハロゲン化炭化水素、シリル化炭化水素、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、酸、フェノール、エステル、アミン、アルキルニトリル、チオエーテル、シアネート、ニトロアルキル、アルキルナイトレート、または上記のうち1種以上の混合物あるいはその両方が含まれ、より一般的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素、ベンゼンおよびメチルシランが含まれるが、これらに限定されない。CNT成長において重要な役割を果たす水素およびアンモニアなどの他の反応性ガスも導入し得る。また、アルゴン、窒素およびヘリウムなどのキャリアガスを導入し得る。
【0044】
カーボン含有前駆体の滞留時間は、流量または成長圧力あるいはその両方により制御し得る。ガス流量または成長圧力あるいはその両方を調節することにより滞留時間を調節することにより、カーボンナノチューブの直径を制御し得る。
【0045】
滞留時間は一般的には、1分〜20分であり、より一般的には1.2分〜10分である。ガス流量は一般的には、1sccm〜10sccmであり、より一般的には20sccm〜2000sccmである。成長圧力は一般的には、1mTorr〜760Torrであり、より一般的には1Torr〜760Torrである。
【0046】
カーボンナノチューブの直径は一般的には、0.5〜100ナノメートルであり、より一般的には0.8〜50ナノメートルであり、さらに一般的には1〜5ナノメートルである。直径のサイズ分布は一般的には、0.3〜5ナノメートルであり、より一般的には0.5〜1.5ナノメートルである。
【0047】
本発明の好ましい実施形態による皮膜は、マスクを通して堆積させたり、リソグラフィによって画定された触媒アイランド(>20ナノメートル直径)から小さい直径(<5ナノメートル)を有するCNTの成長を可能にする従来のリソグラフィ手法を用いてパターニングできる。従って、ナノチューブがチャネルを形成するFET用途において、このような技術を用いることにより、制御的手法でチューブのアレイを容易に成長させることができる。加えて、この方法は、所与の触媒粒径分布を有する触媒系についてdcntの分布をさらに狭くするために用いることができる。
【0048】
以下の非限定的な実施例は、例示の目的で提示される。
【実施例1】
【0049】
この例は、ナノチューブ直径に対する流量の効果を実証する。
【0050】
Fe/Moナノ粒子を含浸させたアルミナケイ酸塩マトリックスを含む触媒を、水素ガス環境中で900℃まで加熱する。900℃で、アルゴン(Ar)で希釈されたメタンを、反応器室を通して触媒上を流す。図1は、メタン流量が900sccmでアルゴン流がない(約6.5分の滞留時間tに対応)場合の、大気圧で成長させたカーボンナノチューブの走査電子顕微鏡写真を示す。これらの成長条件では、約30ナノメートル程度の直径を有する比較的厚いカーボンナノチューブという結果になった。図2は、メタン流量が900sccmでアルゴン流量が1000sccm(t約3分に対応)で成長させたカーボンナノチューブの走査電子顕微鏡写真を示す。総流量が増大したことにより、メタンの滞留時間が短くない、電子顕微鏡写真から測った値がdCNT<10ナノメートルであるより薄いチューブが得られるという結果になった。Arの方を5000sccm(t約1分)へ増大させると、CNT成長という結果にはまったくならなかった。流量の増大に伴ってCNT直径が減少することから、流量の制御によりdCNTを調節できることがわかる。
【実施形態2】
【0051】
この例は、CNT直径に対する成長圧力の効果を実証する。厚さ2ナノメートルのパターニングされたFe皮膜を含む触媒を、水素ガス環境中で950℃の成長温度まで加熱する。図3−図4は、CNT直径に対する成長圧力の効果を例示する。図3は、80Torrおよび100sccm(t約6分)のメタン流で成長させたCNTの走査電子顕微鏡写真を示すのに対して、図4は、同じメタン流量(t約3分)で40torrで成長させたCNTの原子間力顕微鏡画像を示す。成長圧力を低くすると、非常に小さい直径を有するCNTが得られる結果になることがはっきりとわかる。40torrでの成長の場合にdCNT=2.5±1.5ナノメートルであるのに対して、80torrの成長圧力の場合にCNT直径はずっと大きい(50ナノメートル程度)。
【0052】
<1ナノメートル直径から50ナノメートルまたはそれ以上までチューブ直径を制御するために滞留時間を用い得ることが上記から明らかである。図4に示されるように、この手法を用いて狭い分布(<1.5ナノメートル)を有するチューブを製造することも可能である。
【0053】
好ましい実施形態に従うカーボンナノチューブは、薄い金属皮膜を用いて完全な一体型の構造中で用いることができる。図5は、適切な基板10の断面を示しており、この基板は、例えば、ケイ素、酸化ケイ素、ゲルマニウム、ケイ素とゲルマニウムとの合金、炭化ケイ素、III−V半導体、窒化ケイ素、石英、サファイア、酸化ベリリウム、および窒化アルミニウム、金属または金属窒化物のような他の半導体、他の絶縁体、導体とすることができる。Fe、Mo、Co、Ni、Ti、Cr、Ru、W、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金を含む遷移金属のような金属触媒の薄膜(0.5〜30ナノメートル)が次に、化学気相堆積、原子層堆積、化学溶液堆積、物理気相堆積、分子線beanエピタキシ、金属蒸着、スパッタリングまたは電気めっきなどの適切な手法を用いて基板上に堆積される。触媒は、パターニングされた多孔質構造体内で調製してもよい。
【0054】
図6は、基板上に堆積された薄い金属皮膜20の断面を示す。薄い金属皮膜は次に、任意のリソグラフィ手法、例えば電子ビーム、光学ディップペン、マイクロインプリント等を用いてパターニングされる。不要な触媒は、触媒アイランドの寸法が一般的には約100ナノメートル以下となるように、剥離プロセスかエッチングによって除去され得る。
【0055】
図7および図8は、上述の方法を用いてパターニングされた基板の断面図および平面図を示す。各触媒アイランドは、CNTのための核形成中心の役割を果たす。CNTは、文献[例えば、Joselevich,“Vectorial Growth of Metallic and Semiconducting Sengle−Wall Carbon Nanotubes”,NanoLetters,2(2002)pp.1137−1141参照]に記載されているように、電界または流れ方向を用いて、成長の間に配向させることができる。
【0056】
図9は、整列されたCNT40の成長後の最終構造体50の平面図を示す。このように、この構造体は、リソグラフィによって画定された基点および良好に調整された直径を有するCNTのアレイを含む。このように形成されたCNTのアレイは、高駆動電流用のCNTベースのFETのチャネルとして用いることができる。
【0057】
触媒粒径とは無関係に、ガス流または圧力あるいはその両方などによってCVD反応器中での滞留時間を制御することによりカーボンナノチューブの直径を制御するための方法が記載および例示されている。このプロセスは、触媒調製および成長に関して重要な利点を提供する。狭い触媒粒径を有する触媒系と共に用いれば、非常に狭い直径分布を有するカーボンナノチューブを得ることができる。良好に定められた直径およびリソグラフィによって画定された基点を有するCNTのアレイを含む新規な構造体を形成するための方法も上記に記載されている。この構造体は、CNTベースのFETのチャネル領域を形成するのに適する。
【0058】
本発明を例示的に説明してきたが、当然のことながら用いられた専門用語は本質的に、限定的ではなく説明的な語として用いられている。さらに、本発明をいくつかの好ましい実施形態について説明してきたが、当業者がこれらの教示を本発明の他の考えられる変型に容易に応用することは当然あり得る。また、添付の特許請求の範囲は、代替的実施形態を含んでいるものと解釈すべきものである。
【0059】
本明細書中で引用されたすべての刊行物および特許出願は参照により、あたかも各個別の刊行物または特許出願が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に指示されるかのように、本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の好ましい実施形態に従い、同一の触媒を用いるが、異なるガス流を用いて大気圧で成長させたCNTの走査電子顕微鏡画像を示す。(より高いガス流が比較的薄いチューブという結果になることを示す)。
【図2】本発明の好ましい実施形態に従い、同一の触媒を用いるが、異なるガス流を用いて大気圧で成長させたCNTの走査電子顕微鏡画像を示す。(より低いガス流が比較的厚いチューブという結果になることを示す)。
【図3】本発明の好ましい実施形態による、CNT直径に対する成長圧力の効果を例示する。(80Torrで成長させたCNTの走査電子顕微鏡写真を示す)。
【図4】本発明の好ましい実施形態による、CNT直径に対する成長圧力の効果を例示する。(40Torrで同一の触媒(厚さ2mmのFe皮膜)を用いて成長させたCNTの原子間力顕微鏡画像を示す)。
【図5】本発明の好ましい実施形態による、開始基板の断面の概略表示である。
【図6】本発明の好ましい実施形態による、薄い触媒皮膜を有する開始基板の断面の概略表示である。
【図7】本発明の好ましい実施形態による、パターニングされた触媒アイランドを有する基板の断面図を示す。
【図8】本発明の好ましい実施形態による、パターニングされた触媒アイランドを有する基板の平面図を示す。
【図9】本発明の好ましい実施形態による、カーボンナノチューブ成長後の、パターニングされた触媒アイランドを有する基板の平面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相堆積により成長させたカーボンナノチューブの直径を0.2〜100ナノメートルの範囲で制御するための方法であって、触媒基板を成長反応器に導入するステップと、反応器室温度を所望の成長温度まで増大させるステップと、カーボン含有前駆体を含む反応ガスを反応器内に流すステップと、カーボンナノチューブの直径を制御するために反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間を制御するステップとを含む方法。
【請求項2】
反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間は、制御圧力を反応室中で設定し、カーボン前駆体のガス流量を調節することにより制御される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間は、反応器中へ流れる制御ガス流量を設定し、反応器中の圧力を調節することにより制御される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応器中でのカーボン含有前駆体の滞留時間は、ガス流量および反応器の成長圧力を調節することにより制御される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
成長温度は、400〜1200℃である請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
触媒は、遷移金属粒子を含有する請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
触媒は、Fe、Mo、Co、Ni、Ti、Cr、Ru、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
触媒粒子は、0.2ナノメートル〜100ナノメートルのサイズを有する請求項1、2、3および4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カーボン含有前駆体は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、カルボニル、ハロゲン化炭化水素、シリル化炭化水素、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、酸、フェノール、エステル、アミン、アルキルニトリル、チオエーテル、シアネート、ニトロアルキル、アルキルナイトレート、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1、2、3、および4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
カーボン含有前駆体は、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素およびベンゼンから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
キャリアガスをカーボン前駆体と共に用いるステップを含む請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
キャリアガスは、アルゴン、窒素、ヘリウム、水素およびアンモニウムから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
流量または圧力あるいはその両方は、カーボンナノチューブの直径を調整するために、反応器中での滞留時間を1分から20分の範囲で可変するように調節される請求項1、2、および3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
流量または圧力あるいはその両方は、カーボンナノチューブの直径を調整するために、滞留時間を1.2分〜10分の範囲で可変するように調節される請求項1、2、および3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
カーボンナノチューブの直径は、触媒の粒径よりも小さい請求項1、2、および3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1、2、および3または4のいずれか1項に記載の方法により得られるカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブのアレイ。
【請求項17】
触媒の皮膜を堆積させるステップと、触媒の皮膜をリソグラフィによってパターニングするステップと、リソグラフィックパターニングにより画定された不要な触媒を除去するステップと、ナノチューブを成長させるために用いられる反応器中のガスの滞留時間を制御することにより0.2ナノメートル〜100ナノメートルの範囲で良好に調整された直径を有するナノチューブを成長させるステップとを含むプロセスにより形成されるリソグラフィによって画定される起点を有する単独のカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブのアレイを含む構造体。
【請求項18】
触媒は、Fe、Mo、Co、Ni、Ti、Cr、Ru、W、Mn、Re、Rh、Pd、Vまたはそれらの合金から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項17に記載の構造体。
【請求項19】
触媒の皮膜を堆積させるステップと、ソース領域またはドレイン領域あるいはその両方にのみ触媒を設けるために触媒の皮膜をリソグラフィによってパターニングするステップと、リソグラフィックパターニングにより画定されたチャネル領域から不要な触媒を除去するステップと、ナノチューブを成長させるために用いられる反応器中のガスの滞留時間を制御することにより0.2ナノメートル〜100ナノメートルの範囲で調整された直径を有するナノチューブを成長させるステップとを含むプロセスにより得られ、ソース領域およびドレイン領域ならびにソース領域とドレイン領域との間に位置し、ソース領域からドレイン領域まで延びるチャネル領域を含むFET。
【請求項20】
請求項19に記載のFETを1つ以上含む集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−509027(P2007−509027A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536082(P2006−536082)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052547
【国際公開番号】WO2005/040453
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】