説明

化学物質の検知方法

本発明は、試料中にある被検物を検出する方法に関する。この方法は、パイロ電気的またはピエゾ電気的素子および電極を有し、エネルギーの変化を電気信号に変換できる変換器に該試料を露出する工程、該変換器は、該変換器の近くに少なくとも一種の試薬を有し、該試薬は、該被検物または該被検物の複合体もしくは誘導体を結合することができる結合箇所を有し、該被検物または該被検物の複合体もしくは誘導体の少なくとも一方には標識を付けてあり、該標識は、放射線源により発生する電磁放射線を吸収し、無放射減衰によりエネルギーを発生することができる、該試薬を、一連の電磁放射線パルスで照射し、発生したエネルギーを電気信号に変換する工程、該電気信号および該放射線源から来る各電磁放射線パルスと、該電気信号の発生との間の時間遅延を検出する工程を含んでなる。該電磁放射線パルスのそれぞれと、該電気信号の発生との間の時間遅延が、該変換器表面から様々な距離にある一つ以上の位置のいずれかにおける該被検物の位置に対応する。該標識は、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を含んでなるナノ粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の検知方法に、特にWO2004/090512の化学的検知装置を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中の被検物、例えば生物検定における生物学的に重要な化合物、の監視には、広い用途がある。そのため、広範囲な分析および診断装置が利用できる。多くの装置は、検出すべき化学種の存在下で、視覚的に検出可能な変色を受ける試薬を使用する。この試薬は、試験片上に支持することが多く、光学系を使用して変色の測定を行うことができる。
【0003】
WO90/13017は、ストリップ形態にあるパイロ電気的または他の熱電気的変換器素子を開示している。薄膜電極を用意し、一種以上の試薬を変換器表面上に堆積させる。この試薬は、検出する化学種と接触した時に選択的な比色変化を受ける。次いで、この装置を典型的には検出器の中に挿入し、通常は変換器をLED光源により下から照明し、試薬による吸光度を変換器表面における顕微鏡的加熱として検出する。変換器から来る電気信号出力を処理し、検出している化学種の濃度を求める。
【0004】
WO90/13017の方式は、試薬との反応または組合せで試薬中に変色をもたらす化学種の分析を行う。例えば、試薬としては、pHおよび重金属指示薬染料、パラセタモール検定でアミノフェノールを検出するための試薬(例えばアンモニア性銅溶液中のo-クレゾール)、および酵素免疫抗体法(ELISA)におけるオキシドレダクターゼ酵素を検出するためのテトラゾリウム染料がある。しかし、この方式は、特定の用途には有用であるが、変換器の表面上に位置するのはその試薬であるので、分析している化学種が試薬中で変色を呈する分析にのみ適していると考えられている。従って、この方式は、試薬中で変色を引き起こさないか、または変色が変換器の表面上ではない場合の化学種の分析には適用できない。生物検定の分野では、この方式の用途は限られている。
【0005】
WO2004/090512は、WO90/13017に開示されている技術に基づいてはいるが、電磁放射線で照射した時のある物質中の無放射減衰により発生したエネルギーは、その物質が変換器と接触していなくても、変換器により検出できる、および電磁放射線による照射と、変換器により発せられる電気信号との間の時間遅延は、その物質と、被膜の表面との間の距離の関数である、という知見に基づく装置を開示している。この知見は、変換器の表面に結合した被検物と、バルク液体中にある被検物とを区別することができる「深さ方向分析(depth profiling)」を可能にする装置を提供している。従って、この出願は、検定、典型的には生物検定、に使用でき、結合工程と、その結合工程の結果との間の、別の洗浄工程を行う必要が無い、装置を開示している。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、WO2004/090512に記載されている装置を使用する改良された方法およびキットを提供する。
【0007】
そこで、本発明は、試料中にある被検物を検出する方法であって、
パイロ電気的またはピエゾ電気的素子および電極を有し、エネルギーの変化を電気信号に変換できる変換器に前記試料を露出する工程であって、前記変換器が、前記変換器の近くに少なくとも一種の試薬を有し、前記試薬が、前記被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体を結合することができる結合箇所を有し、前記被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体の少なくとも一つには、放射線源により発生する電磁放射線を吸収して無放射減衰によりエネルギーを発生することができる標識が付されてある工程と、
前記試薬に一連の電磁放射線パルスを照射する工程と、
該発生したエネルギーを電気信号に変換する工程と、
前記電気信号、および前記放射線源から来る各電磁放射線パルスと前記電気信号の発生との間の時間遅延を検出する工程であって、前記電磁放射線パルスの各々と前記電気信号の発生との間の時間遅延が、前記変換器表面から様々な距離にある一つ以上の位置のいずれかにおける前記被検物の位置に対応し、前記標識が、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を含んでなるナノ粒子である工程と
を含んでなる、方法を提供する。
【0008】
本発明は、(i)電磁放射線で照射した時に被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体における無放射減衰により発生するエネルギーを検出するための装置であって、
一連の電磁放射線パルスを発生するように構成された放射線源、
パイロ電気的またはピエゾ電気的素子および電極を有し、前記物質により発生したエネルギーを電気信号に変換できる変換器、
前記変換器の近くにある、前記被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体を結合することができる結合箇所を有する少なくとも一種の試薬、および
前記変換器により発生した前記電気信号を検出することができる検出器
を含んでなり、
前記検出器が、前記放射線源から来る各電磁放射線パルスと、前記電気信号の発生との間の時間遅延を測定するように構成されている、装置と、
(ii)前記放射線源により発生する電磁放射線を吸収し、無放射減衰によりエネルギーを発生することができる標識が付された被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体であって、前記標識が、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を含んでなるナノ粒子であるものと、
を含んでなる、キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
ここで、添付の図面を参照しながら本発明を説明する。
【図1】本発明の化学的検知装置を図式的に示す。
【図2】本発明の装置を使用するサンドイッチ免疫検定を示す。
【図3】本発明の横方向フロー検定装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明で使用する、電磁放射線で照射した時の物質2における発熱に依存する、化学的検知装置1を示す。図1は、物質2の存在下での化学的検知装置1を示す。装置1は、電極被覆4、5を有するパイロ電気的またはピエゾ電気的変換器3を含んでなる。変換器3は、好ましくは分極した(poled)ポリフッ化ビニリデン被膜である。電極被覆4、5は、酸化インジウムスズから形成され、厚さが約35 nmであるのが好ましいが、1 nmの下限と100 nmの上限の間の、ほとんどすべての厚さが可能であり、1 nm未満では導電性が低すぎ、100 nmを超えると、光学的透過率(95%T未満にすべきではない)が低すぎる。物質2は、いずれかの好適な技術を使用してピエゾ電気的変換器3の近くに保持するが、ここでは上側電極被覆4に取り付けた状態を示す。この物質は、どのような好適な形態にあってもよく、複数の物質を堆積させることもできる。好ましくは、物質2は上側電極上に、例えば共有結合により、または分子間力、例えばイオン性結合、水素結合またはファンデルワールス力により、結合させ、吸着させる。この装置の重要な特徴は、電磁放射線6、例えば光、好ましくは可視光、の供給源により照射した時に、物質2が発熱することである。光源は、例えばLEDでよい。光源6が、適切な波長(例えば補色)の光で物質2を照明する。理論に捕らわれたくはないが、物質2が光を吸収して励起状態になり、次いでその励起状態が無放射減衰を受け、それによって、図1で曲線で示すエネルギーを発生すると考えられる。このエネルギーは、主として熱(即ち環境中の熱運動)であるが、他の形態のエネルギー、例えば衝撃波、も発生することができる。しかし、このエネルギーは、変換器により検出され、電気信号に変換される。本発明の装置は、測定している特定の物質に対して校正され、従って、無放射減衰により発生するエネルギーの正確な形態を決定する必要は無い。他に指示が無い限り、本明細書では、用語「熱」は、無放射減衰により発生するエネルギーを意味する。光源6は、物質2を照明するように配置する。好ましくは、光源6は、変換器3および電極4、5の下に配置し、物質2を、変換器3および電極4、5を通して照明する。光源は、変換器内の内部光源でもよく、その場合、光源は導波管装置である。導波管は、変換器自体でもよ
いし、導波管は、変換器に付けられた別の層でもよい。
【0011】
物質2から発生したエネルギーは、変換器3により検出され、電気信号に変換される。電気信号は、検出器7により検出される。光源6および検出器7は、共に制御装置8により制御される。光源6は、「チョップドライト」と呼ばれる一連の光(本明細書で使用する用語「光」は、特定の波長が記載されていない限り、あらゆる形態の電磁放射線を意味する)のパルスを発生する。原則的に、単一の光フラッシュ、即ち1パルスの電磁放射線、が、変換器3から信号を発生するのに十分である。しかし、再現性のある信号を得るには、複数のフラッシュ光を使用し、これは実際にはチョップドライトを必要とする。電磁放射線のパルスを印加する周波数は変えることができる。下限では、パルス間の時間遅延は、各パルスと測定すべき電気信号の発生との間の時間遅延に十分でなければならない。上限では、各パルス間の時間遅延は、データを記録する時間が不当に延長される程大きくてはならない。好ましくは、パルスの周波数は、2〜50 Hz、より好ましくは5〜15 Hz、最も好ましくは10 Hzである。これは、パルス間の時間遅延20〜500 ms、66〜200 ms、および100 msにそれぞれ相当する。さらに、いわゆる「マーク-スペース」比、即ち信号onと信号offの比は、好ましくは1であるが、他の比も有害な影響無しに使用できる。様々な断続(chopping)周波数または様々なマーク-スペース比のチョップドライトを発生する電磁放射線供給源も、この分野では公知である。検出器7は、光源6から来る光の各パルスと、変換器3から来る、検出器7により検出される対応する電気信号との間の時間遅延(または「相関遅延」)を決定する。本出願者は、この時間遅延が距離dの関数であることを見出した。
【0012】
各光パルスと対応する電気信号との間の時間遅延を測定するための、再現性のある結果を与える、どのような方法でも使用できる。好ましくは、各光パルスの開始から、熱吸収に対応する電気信号における最大値が検出器7により検出される時点までの時間遅延を測定する。
【0013】
物質2を変換器表面から分離することができ、それでも信号は検出できる、という知見は、当業者なら、熱が周囲の媒体中に分散し、従って、変換器3により検出できないか、または少なくとも重要な信号が変換器により受信されないと予想するであろうから、驚くべきことである。本出願者は、驚くべきことに、変換器3にエネルギーを伝達できる仲介媒体を通して信号を検出できるのみならず、様々な距離dを区別することができ(これは、「深さ方向分析」と呼ばれている)、受信される信号の強度は、変換器3の表面から特定の距離dにおける物質2の濃度に比例することを見出した。その上、本出願者は、媒体自体の性質が、時間遅延および特定の時間遅延における信号の強度に影響することを見出した。これらの知見により、変換器を使用する化学物質検知装置に、非常に多くの新規な用途が開ける。
【0014】
一実施態様では、本発明は、上記の装置を使用し、該物質が被検物または該被検物の複合体もしくは誘導体であり、該装置を、試料中の被検物を検出するのに使用し、該装置が該変換器の近くに少なくとも一種の試薬をさらに含んでなり、該試薬が、該被検物または該被検物の複合体もしくは誘導体を結合できる結合箇所を有し、該被検物または該被検物の複合体もしくは誘導体が、該放射線源により発生した電磁放射線を吸収して熱を発生することができ、使用の際、該発生した熱が、該変換器により電気信号に変換され、該検出器により検出され、各電磁放射線パルスと、該電気信号の発生との間の時間遅延が、該変換器表面から様々な距離にある一つ以上の位置のいずれかにおける該被検物の位置に対応する。本発明は、該装置を使用する方法を提供する。そのような方法は、例えば免疫検定および核酸に基づく検定に応用できる。免疫検定の好ましい例では、試薬が抗体であり、被検物は抗原と考えられる。
【0015】
典型的な免疫検定では、問題とする抗原に対して特異的な抗体を重合体状支持体、例えばポリ塩化ビニルまたはポリスチレンのシート、に付加させる。細胞抽出物または血清もしくは尿試料の一滴をシート上に置き、抗体-抗原複合体の形成後に洗浄する。次いで、抗原上の異なった箇所に特異的な抗体を加え、シートを再度洗浄する。この第二の抗体は、高感度で検出できるような標識を有する。シートに結合した第二抗体の量は、試料中の抗原の量に比例する。この検定およびこの型の検定に対する他の変形は、良く知られており、例えば「The Immunoassay Handbook, 2nd Ed.」 David Wild, Ed., Nature Publishing Group, 2001参照。本発明の装置は、これらの検定のどれにでも使用できる。
【0016】
例として、図2は、本発明の装置を使用する典型的な捕獲抗体検定を示す。装置は、変換器3および被検物11を中に分散または溶解させて含む液体10を保持する井戸状空所9を包含する。変換器3は、そこに付加した多くの試薬、即ち抗体12を有する。抗体12は、図2では被膜に付加した状態で示すが、この付加は、共有結合または表面上への非共有吸着、例えば水素結合、によるものでよい。抗体は、変換器に付加した状態で示すが、抗体12を変換器3の近くに保持するためのどのような技術でも使用できる。例えば、追加の層、例えばシリコーン重合体層、が抗体12と変換器3を分離するか、または抗体を不活性粒子に付加し、次いでその不活性粒子を変換器3に付加することができよう。あるいは、抗体12を、変換器3の表面上に塗布したゲル層中に捕獲することもできよう。
【0017】
使用の際、井戸状空所を、抗原11を含む液体10(またはいずれかの流体)で満たす。次いで抗原11が抗体12と結合する。追加の標識が付された抗体13を液体に加え、結合した抗体12、抗原11および標識が付された抗体13の間にいわゆる「サンドイッチ」複合体を形成する。結合した抗原11の全てがサンドイッチ複合体を形成するように、標識が付された抗体13を過剰に加える。従って、試料は、結合した標識が付された抗原13aおよび溶液中に遊離している結合していない標識が付された抗原13bを含む。
【0018】
サンドイッチ複合体形成の際または後に、試料を、電磁放射線、例えば光、の一連のパルスを使用して照射する。各パルスと変換器3による電気信号の発生との間の時間遅延を検出器により検出する。適切な時間遅延を選択し、結合した標識が付された抗原13aにより発生した熱だけを測定する。時間遅延は、変換器3と標識との間の距離の関数であるので、結合した標識が付された抗体13aは、結合していない標識が付された抗原13bと区別することができる。これによって、洗浄工程の必要性が無くなるという点で、従来のサンドイッチ免疫検定に対して重大な優位性が得られる。従来のサンドイッチ免疫検定では、結合していない標識が付された抗原は、結合した標識が付された抗原により発生する信号と干渉するので、結合していない標識が付された抗体を、結合した標識が付された抗体から、全ての測定の前に分離しなければならない。しかし、本発明により与えられる「深さ方向分析」により、結合した、および結合していない標識が付された抗原を区別することができる。事実、変換器の近くにある物質と、バルク溶液中にある物質との間を区別する能力は、本発明の特別な優位性である。
【0019】
標識が付された試薬が、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を含んでなるナノ粒子である場合、特に有利な結果が得られることが分かった。金属シェル層の金属は、貨幣鋳造用金属、貴金属、遷移金属、および合成金属から選択することができるが、好ましくは金である。コア材料は、好ましくは誘電体材料または半導体である。好適な誘電体材料としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、硫化金および巨大分子、例えばデンドリマー、が挙げられるが、これらに限定するものではない。単分散性コロイド状シリカは、球形粒子径を容易に形成するので、特に好ましい。金めっきしたシリカは、特に好ましい標識である。どの特定の粒子に対しても、最大吸収は、非導電性層と導電性層の厚さの比によって異なり、これらのパラメータを変えて所望の吸収プロファイルを与えることができる。そのような標識は、米国特許第6,344,272号に記載されている。
【0020】
金金属層の場合、信号をさらに増加するために、銀イオンの溶液および還元剤を使用して標識を強化することができる。金は、銀イオンの銀金属への還元に触媒作用し/活性化させ、光を吸収するのはこの銀金属である。
【0021】
好ましくは、本発明は、粒子径が5〜1000 nm、より好ましくは最小サイズが20 nm以上、最も好ましくは40 nm以上であり、最大サイズが500 nm以下、最も好ましくは200 nm以下であるナノ粒子を使用する。粒子径とは、粒子の、その最も広い点における直径を意味する。好ましくは、ナノ粒子は実質的に球形である。
【0022】
標識が付された被検物、複合体または誘導体、および一種以上の追加試薬は、好ましくは本発明で使用する装置の中に組み込んだチャンバー中に保存する。
【0023】
被検物は、典型的にはタンパク質、例えばタンパク質系ホルモン、であるが、より小さな分子、例えば薬物、も検出できる。被検物は、より大きな粒子、例えばウイルス、細菌、細胞(例えば赤血球)、の一部でもよい。
【0024】
公知の免疫検定のもう一つの例として、検出器により検出される電気信号が、試料中にある標識を付けていない抗原の存在に反比例する競合検定に本発明を適用できる。この場合、問題となるのは、試料中の標識を付けていない抗原の量である。
【0025】
競合する免疫検定では、図2に示すように抗体を変換器に付加する。次いで、抗原を含む試料を加える。しかし、標識が付された抗体を加えるのではなく、既知量の標識が付された抗原を溶液に加える。次いで、標識が付された、および標識を付けていない抗原が変換器3に付加した抗体に結合しようと競合する。その場合、結合した標識が付された抗原の濃度は、結合した標識を付けていない抗原の濃度に反比例し、従って、標識が付された抗原の量は既知であるので、最初の溶液中にある標識を付けていない抗原の量を計算することができる。これらの抗体に関して特異的な同じ標識も、これらの抗原で使用できる。
【0026】
本発明の一実施態様では、検出する被検物が、全血試料中に存在することができる。多くの従来の検定では、溶液または懸濁液中に存在する血液の他の成分、例えば赤血球、が、問題とする特定の被検物の検出を妨害する。しかし、本発明の装置では、変換器3から既知の距離にある信号だけが測定されるので、溶液または懸濁液中に遊離している血液の他の成分は、検出を妨害しない。これによって、分離工程の必要がなくなるので、血液試料の分析が簡単になる。血液試料中の被検物レベルを測定する装置は、好ましくは手で持てる携帯読み取り装置およびピエゾ電気的またはパイロ電気的被膜を含む使い捨て装置を含んでなる。血液の少量試料(約10マイクロリットル)を入手し、使い捨て装置中のチャンバーに移す。チャンバーの片側は、問題とする被検物に結合し得る抗体で被覆したピエゾ電気的被膜から製造する。次いで、例えば上記のような標識が付された抗体または既知濃度の標識が付された抗原を含む別の溶液を加えることができる。反応を進行させ、次いで使い捨て装置を読み取り装置の中に挿入し、測定工程を開始する。次いで、検定の結果が、読み取り装置のディスプレイ上に表示される。次いで、ピエゾ電気的被膜を含む使い捨て装置を取り出し、廃棄する。
【0027】
有利なことに、本発明のナノ粒子が放射線を吸収できる波長は、「血液寛容度(blood window)」(約600〜900 nm)に容易に調節し、他の波長では吸収を最少に抑えることができる。これは、より大きな金粒子には当てはまらず、そこでは600〜650 nmにおける吸収ピークが、通常の金吸収ピークの側部の肩部としてのみ約525 nmに現れる。
【0028】
背景干渉の原因となるのは、浮遊している粒子がパイロ電気的またはピエゾ電気的変換器の表面上に沈降することである。例えば、これは、銀粒子の発生を使用するある種の装置で起こる恐れがある。この干渉源は、変換器をバルク溶液の上に、例えば反応チャンバーの上側表面上に配置することにより、回避することができる。これによって、沈降が起きても、変換器に干渉しない。あるいは、粒子を媒体より希薄にし、それによって、変換器の表面上に沈降するのではなく、バルク溶液の表面に浮揚させることができよう。この、および他の変形は、本発明の範囲内に入る。
【0029】
本装置における本発明のナノ粒子のもう一つの利点は、これらのナノ粒子を、適切なコア材料を選択することにより、固体金粒子の密度(約19 g/cc)より遙かに低い密度(例えば約2〜3 g/cc)で製造できることである。これは、粒子が、他の標識、例えば固体金標識、と比較して、遙かに遅い速度で沈降することを意味し、これには、より大きな金粒子を、結合反応を起こすのではなく、表面からはじく傾向がある流体力学的および沈降ポテンシャル効果を下げるという利点がある。
【0030】
別の実施態様では、本発明の装置を横方向フロー分析に使用する。これは、特に妊娠試験におけるヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)の検出に使用される。
【0031】
図3は、本発明の簡素化された横方向フロー装置14を示す。この装置は、濾紙または他の吸収材15を有し、試料受け部16および芯(wick)17を、第一および第二区域18および19と共に含み、これらの区域は、結合していない、および結合した抗体(即ち、濾紙または他の吸収材15に結合していない、および結合した)をそれぞれ含み、HCGを結合することができる。この装置は、第二区域19の近くにピエゾ電気的被膜20も含む。尿または血清の試料を試料受け部16に加え、次いで、その試料は、吸収材15に沿って芯17に移動する。第一区域18は、HCGに対する標識が付された抗体を含み、試料が第一区域18を通過する時、HCGがその試料中に存在する場合、HCGに対する標識が付された抗体が試料により取り上げられる。試料が第一区域18から第二区域19に通過する時、抗原および抗体が複合体を形成する。第二区域19では、抗原-抗体複合体を結合することができる第二の抗体を吸収材15またはピエゾ電気的被膜20に付加する。従来の横方向フロー分析、例えば妊娠試験機、では、陽性結果は第二区域19で変色させる。しかし、従来の横方向フロー分析は、透明試料に限られ、実質的に陽性または陰性、即ちはい/いいえ、の結果にのみ好適である。しかし、本発明の装置は、ピエゾ電気的被膜20を使用する。被膜から予め決められた距離にある試料だけが測定されるので、バルク試料中の汚染物は読みに影響しない。その上、ピエゾ電気的被膜の感度は、結果の定量化を行う。結果の定量化により、横方向フロー分析により広い用途が与えられ、異なった抗原量を区別することにより、誤った結果の数が減少する。
【0032】
本発明の装置は、溶液中のただ一種の被検物だけを検出することに限定されない。本装置は「深さ方向分析」を行うので、検出している各被検物を選択的に結合する試薬を使用することにより、様々な被検物を検出することができ、その際、これらの試薬は、変換器3の表面から異なった距離にある。例えば、2種類の試薬を使用して2種類の被検物を検出することができ、第一試薬を被膜から第一の距離に配置し、第二試薬を被膜から第二の距離に配置する。電磁放射線の各パルスと電気信号の発生との間の時間遅延は、第一および第二試薬に結合した2種類の被検物で異なっている。
【0033】
異なった深さを与えると共に、異なった種類の試薬、例えば異なった抗体、を変換器の異なった部分に使用し、複数の試験を行うことができる。あるいは、またはそれに加えて、電磁放射線の様々な波長に応答する試薬/被検物を使用し、複数の試験を行うことができる。
【0034】
熱を発生する物質は、被膜の表面上にあってよいが、好ましくは、物質は、被膜の表面から少なくとも5 nmにあり、好ましくは、被膜の表面から500μm以下にある。しかし、好適な時間遅延を選択することにより、バルク溶液中の物質も測定することができる。
【0035】
抗体-抗原反応に代わるものとして、試薬および被検物は、第一および第二核酸でもよく、その際、第一および第二核酸は、相補的であるか、あるいは試薬がアビジンまたはその誘導体を含み、被検物がビオチンまたはその誘導体を含む、もしくはその逆である、でもよい。この装置は、生物学的検定に限られものではなく、例えば水中の重金属検出にも応用できる。この装置は、液体に限られものではなく、どのような流体系でも、例えば空気中の酵素、細胞およびウイルス、等の検出にも使用できる。
【0036】
上記のように、本出願者は、変換器における電気信号の発生で、各電磁放射線パルス間の時間遅延が、被膜と物質との間の距離に比例することを見出した。その上、本出願者は、この時間遅延が、媒体自体の性質によって異なることを見出した。最初、液体媒体が信号を完全には減衰させないことは、驚くべきことであった。しかし、本出願者は、媒体の性質変化が、時間遅延(即ち信号の最大に達するまでの)、信号の強度および信号の波形、(即ち応答の経時変化)を変えることができることを見出した。
【0037】
これらの媒体性質の変化は、特に、媒体の厚さ、媒体の弾性、媒体の硬度、媒体の密度、媒体の変形性、媒体の熱容量または音/衝撃波が媒体を通して伝播する速度が変化するためであろう。
【実施例】
【0038】
分極させたポリフッ化ビニリデンバイモルフを、酸化インジウムスズ中に被覆し、下記の例における検知装置として使用する。
【0039】
この検知装置をニトロセルロース溶液中に浸し塗りし、酸化インジウムスズ上に厚さ約1ミクロンのニトロセルロース層を形成する。次いで、この被膜を、感圧接着剤の500μm層およびポリカーボネートの蓋形成材料を加えることにより、100μLの反応チャンバーに構築する。反応チャンバーに液体を加える、およびそこから除去するための穴がある。
【0040】
例1
ニトロセルロース被覆したピエゾ電気的被膜の表面上で実験を行い、被膜に隣接する溶液中における、抗体で標識が付された粒子の存在を検出する。実験中、液体はニトロセルロース表面上に拘束する。被膜を重合させたストレプトアビジンの、PBS(ホスフェート緩衝食塩水)pH 7.2中、濃度20μg/mlの溶液中に一晩浸漬する。PBS/Tween 0.05%によるすすぎ/洗浄工程の後、ビオチニル化したマウスの抗体を加え、1時間培養する。過剰のマウス抗体をすすいで除去した後、所有権のある(proprietary)安定剤を使用して表面を安定化させる。
【0041】
40 nmの球形金めっき単分散コロイド状シリカナノ粒子に共役させたヤギ抗-マウス抗体の溶液を、金ナノ粒子濃度が0.15 pmoles/mlになるまで希釈する。この溶液を、安定化させたマウス抗体被覆した被膜に加える。
【0042】
次いで、被膜を波長525 nm(緑色光)のチョップドライトで照射する。ピエゾ電気的被膜により検出される極大信号の大きさを測定する。アナログ−デジタル変換器を使用して信号を表示する。検出器により受信される信号は、金粒子と表面の結合が起こるので、時間と共に増加する。抗体-抗原反応の速度論的プロファイルを監視し、20分間にわたって10秒間毎に測定を行う。
【0043】
この同じ被膜に対して、ビオチニル化したマウスの抗体をPBSで置き換えることにより、ブランク実験を行う。このブランク実験では、検出器により受信される信号は、時間と共に増加しない。
【0044】
例2
ニトロセルロース被覆したPVDF被膜の表面を例1と同じ様式で被覆する。
【0045】
80 nmの球形金めっき単分散コロイド状シリカナノ粒子に共役させた抗-マウス抗体の溶液を、溶液中の金ナノ粒子濃度が0.015 pmoles/mlになるまで希釈する。この溶液を、安定化させたマウス抗体被覆した被膜に加える。
【0046】
次いで、被膜を波長654 nm(赤色光)のチョップドライトで照射する。ピエゾ電気的被膜により検出される極大信号の大きさを測定する。アナログ−デジタル変換器を使用して信号を表示する。検出器により受信される信号は、時間と共に増加する。抗体-抗原反応の速度論的プロファイルを監視し、20分間にわたって10秒間毎に測定を行う。
【0047】
ビオチニル化したマウスの抗体をPBSで置き換えることにより、ブランク実験を行う。このブランク実験では、検出器により受信される信号は、時間と共に増加しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中にある被検物を検出する方法であって、
パイロ電気的またはピエゾ電気的素子および電極を有し、エネルギーの変化を電気信号に変換できる変換器に前記試料を露出する工程であって、前記変換器が、前記変換器の近くに少なくとも一種の試薬を有し、前記試薬が、前記被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体を結合することができる結合箇所を有し、前記被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体の少なくとも一つには、放射線源により発生する電磁放射線を吸収して無放射減衰によりエネルギーを発生することができる標識が付されてある工程と、
前記試薬に一連の電磁放射線パルスを照射する工程と、
該発生したエネルギーを電気信号に変換する工程と、
前記電気信号、および前記放射線源から来る各電磁放射線パルスと前記電気信号の発生との間の時間遅延を検出する工程であって、前記電磁放射線パルスの各々と前記電気信号の発生との間の時間遅延が、前記変換器表面から様々な距離にある一つ以上の位置のいずれかにおける前記被検物の位置に対応し、前記標識が、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を含んでなるナノ粒子である工程と
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子の前記金属シェル層が、貨幣鋳造用金属、貴金属、遷移金属、および合成金属から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子の前記金属シェル層が金である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子の前記非導電性コア材料が誘電体材料または半導体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子の前記非導電性コア材料が、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、硫化金および巨大分子から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、金めっきされた単分散コロイド状シリカである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試薬が抗体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記試薬が第一核酸であり、前記被検物が第二核酸であり、前記第一および第二核酸が相補的である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試薬がアビジンまたはアビジンの誘導体を含み、前記被検物がビオチンまたはビオチンの誘導体を含むか、もしくはその逆である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被検物の複合体もしくは誘導体が、標識が付された被検物との複合体である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被検物が、標識が付された被検物であり、前記検出器により検出される前記電気信号が、前記試料中にある標識が付されていない被検物の存在に反比例する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料を前記変換器に露出する工程と、前記試薬を照射する工程との間で、前記変換器から前記試料を除去せずに行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電磁放射線パルスの周波数が少なくとも2 Hzである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(i)電磁放射線で照射した時に被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体における無放射減衰により発生するエネルギーを検出するための装置であって、
一連の電磁放射線パルスを発生するように構成された放射線源、
パイロ電気的またはピエゾ電気的素子および電極を有し、前記物質により発生したエネルギーを電気信号に変換できる変換器、
前記変換器の近くにある、前記被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体を結合することができる結合箇所を有する少なくとも一種の試薬、および
前記変換器により発生した前記電気信号を検出することができる検出器
を含んでなり、
前記検出器が、前記放射線源から来る各電磁放射線パルスと、前記電気信号の発生との間の時間遅延を測定するように構成されている、装置と、
(ii)前記放射線源により発生する電磁放射線を吸収し、無放射減衰によりエネルギーを発生することができる標識が付された被検物または前記被検物の複合体もしくは誘導体であって、前記標識が、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を含んでなるナノ粒子であるものと、
を含んでなる、キット。
【請求項15】
前記ナノ粒子の前記金属シェル層が、貨幣鋳造用金属、貴金属、遷移金属、および合成金属から選択される、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記ナノ粒子の前記金属シェル層が金である、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記ナノ粒子の前記非導電性コア材料が誘電体材料または半導体である、請求項14〜16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
前記ナノ粒子の前記非導電性コア材料が、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、硫化金および巨大分子から選択される、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記ナノ粒子が、金めっきされた単分散コロイド状シリカである、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
前記試薬が抗体であり、前記被検物が抗原である、請求項14〜19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
前記試薬が第一核酸であり、前記被検物が第二核酸であり、前記第一および第二核酸が相補的である、請求項14〜19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
前記試薬がアビジンまたはアビジンの誘導体を含み、前記被検物がビオチンまたはビオチンの誘導体を含むか、もしくはその逆である、請求項14〜19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記被検物の複合体もしくは誘導体が、標識が付された被検物との複合体である、請求項14〜22のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
前記被検物が、標識が付された被検物であり、前記検出器により検出される前記電気信号が、前記試料中にある標識が付されていない被検物の存在に反比例する、請求項14〜22のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
前記時間遅延が少なくとも5ミリ秒間、好ましくは少なくとも10ミリ秒間である、請求項14〜24のいずれか一項に記載のキット。
【請求項26】
前記時間遅延が500ミリ秒間以下、好ましくは250ミリ秒間以下、より好ましくは150ミリ秒間以下である、請求項14〜25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項27】
前記電磁放射線が光、好ましくは可視光である、請求項14〜26のいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
前記試薬が前記変換器の上に吸着されている、請求項14〜27のいずれか一項に記載のキット。
【請求項29】
前記被検物が、液体中に溶解または懸濁している、請求項14〜28のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
前記装置が、前記液体を前記変換器と接触した状態で保持するための井戸状空所をさらに含んでなる、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記装置が、前記被検物または該被検物の複合体もしくは誘導体を保存するためのチャンバーをさらに含んでなる、請求項14〜30のいずれか一項に記載のキット。
【請求項32】
前記電磁放射線パルスの周波数が少なくとも2 Hzである、請求項14〜31のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−533281(P2010−533281A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513775(P2009−513775)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050400
【国際公開番号】WO2007/141581
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(507251192)ビバクタ、リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】VIVACTA LIMITED
【Fターム(参考)】