説明

化学的機械的研磨液

【課題】ディッシングの原因となりうる水溶性錯体を形成する酸化金属溶解剤を使わずに、従来よりも優れた研磨速度を得られる化学的機械的研磨液を提供すること。
【解決手段】
(A)トリアゾール(但し、ベンゾトリアゾール及びそれらの誘導体を除く);
(B)両親媒性高分子;
(C)酸化剤;及び
(D)水
を含み、
(E)金属と水溶性の錯体を形成する酸
を実質的に含まない化学的機械的研磨液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的機械的研磨液に関し、特に半導体装置の金属配線の形成工程において実施される化学的機械的研磨に好適な研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピューターを始めとするハイテク製品の進歩は目覚ましく、これに使用される部品、例えばULSIは年々高集積化・高速化の一途をたどっている。これに伴い、半導体装置のデザインルールは年々微細化が進み、半導体デバイスの配線密度を向上(微細パターン化)させるために線幅のような横方向の寸法を微細化し、また配線長を短縮するため半導体デバイスを多層化する傾向にある。半導体デバイス製造プロセスの回路形成では、ウェハ上に塗布された感光剤(レジスト)にマスクを通して光を照射しフォトレジストパターンを形成するリソグラフィー技術が利用されているが、微細化した高精度なフォトレジストパターンを形成するには、照射に使用する光の波長を短くし、デバイス表面のところでパターンを結像する焦点深度を浅くする必要があり、パターン形成面に要求される平坦性は益々厳しくなってきている。また配線の微細化に伴う配線抵抗の増大に対処するため、配線材料に低比抵抗で且つエレクトロマイグレーション性に優れる銅(Cu)を使用する傾向にあり、このような配線金属材料の研磨においては、研磨砥粒による機械的作用と、酸化剤と酸化金属溶解剤による化学的作用(エッチング)を併合した化学的機械的研磨(CMP、Chemical Mechanical Polishing)加工技術が利用されている。
【0003】
しかしながら化学的機械的研磨加工技術を用いて銅膜を研磨除去する従来例では、研磨速度を向上させるために付与した化学的作用のため、エッチング性が高くビアホール(多層配線構造において上下の導電層間を接続するための接続孔)内上部の銅や、配線部分の銅が過剰にエッチングされるディッシングという欠陥が発生してしまう問題があった。
【0004】
そのために、銅のディッシングを防止する方法として、酸化抑制剤であるベンゾトリアゾール(以下BTAと記す)を用いることが知られている。この技術はたとえば特開平8−83780号や特開2009−88243号に記載されている。これはBTAが、銅及び銅合金表面に緻密な被膜を形成することにより、酸化剤による銅のイオン化を抑制することを利用している。しかし、前記酸化抑制剤を研磨液に添加した場合、エッチングを抑制できるものの、同時に研磨速度まで低下してしまうという問題点があった。
【0005】
前記のような問題点を回避するために、国際公開第00/13217号には、性質の異なる第1及び第2の保護膜形成剤を組み合わせたものが記載されている。前記第1保護膜形成剤は前記酸化抑制剤に相当するものであり、研磨液への添加濃度を低くすることによって、研磨速度が低下することを回避している。同時に第2保護膜形成剤を添加することによって、前記第1保護膜形成剤による保護膜形成を補助し、前記第1保護膜形成剤の濃度低下によるエッチング抑制効果の低下を補っている。これにより、研磨速度は維持しながらエッチング速度を低下させている。
【0006】
また、上記酸化抑制剤を添加する以外の方法として、特開平9−55363号には、エッチング剤として水に難溶性の錯体を形成する有機酸を使うことで、浸漬状態でのエッチング速度を低下させる手段も記載されている。
【0007】
さらに、特開2000−315667号では、過剰なエッチングを防止するためにアクリル酸系重合物を含有する研磨液を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8-83780号公報
【特許文献2】特開2009−88243号公報
【特許文献3】国際公開第00/13217号
【特許文献4】特開平9-55363号公報
【特許文献5】特開2000−315667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前述したように、BTA等の保護膜形成剤(酸化抑制剤)を使用した場合は、エッチング速度のみならず研磨速度も顕著に低下させてしまう問題が発生してしまう。そして、前記酸化抑制剤に第2保護膜形成剤を組み合せたとしても、研磨速度を維持する程度にとどまり、更なる研磨速度の向上という要求に対応することはできない。また、水に難溶性の錯体を形成する物質で研磨を進行させる研磨液やアクリル酸系重合物を含有する研磨液でも、エッチングは抑制できるが研磨速度も低いという問題があった。そのためエッチング速度を十分に低下させ、なおかつ従来よりも研磨速度を向上させるような研磨液の開発が望まれている。
【0010】
ディッシングが発生する原因としてはエッチング剤、すなわち水に溶解する錯体を作る酸化金属溶解剤の添加が挙げられるが、この水溶性の錯体を形成する酸化金属溶解剤がないと十分な銅の研磨速度が得られず、また保護膜形成剤を使用しても研磨速度が低下してしまう問題が従来の発明にはあった。そこで本発明の目的は、ディッシングの原因となりうる水溶性の錯体を形成する酸化金属溶解剤を使わずに、従来よりも優れた研磨速度を得られる化学的機械的研磨液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、半導体装置の製造工程における配線等の研磨段階において、エッチング速度を抑えてなおかつ研磨速度を増大させる手段について鋭意検討を重ねた結果、金属と反応して難溶性の錯体を形成する物質、両親媒性高分子、酸化剤を含有した化学的機械的研磨液を用いることで金属膜に対するエッチング速度を抑え且つ研磨速度を増大させることを見出し、それにより半導体基板上の金属膜の平坦化が可能となることを見出した。
【0012】
上記知見に基づく本発明は以下のように特定される。
【0013】
(1)本発明は一側面において、
(A)トリアゾール(但し、ベンゾトリアゾール及びそれらの誘導体を除く);
(B)両親媒性高分子;
(C)酸化剤;及び
(D)水
を含み、
(E)金属と水溶性の錯体を形成する酸
を実質的に含まない化学的機械的研磨液である。
【0014】
(2)本発明に係る一実施形態では、前記トリアゾールが123トリアゾールである前記(1)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0015】
(3)本発明に係る別の一実施形態では、溶液のpHが5〜8である前記(1)〜(2)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0016】
(4)本発明に係るさらに別の一実施形態では、前記の両親媒性高分子が、ポリカルボン酸、ポリグリコールエーテル、多糖類から少なくとも1種以上が選ばれる、前記(1)〜(3)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0017】
(5)本発明に係るさらに別の一実施形態では、前記の両親媒性高分子の重量平均分子量が10000以上である、前記(1)〜(4)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0018】
(6)本発明に係るさらに別の一実施形態では、実質的に研磨砥粒を含まない、前記(1)〜(5)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0019】
(7)本発明に係るさらに別の一実施形態では、前記両親媒性高分子としてポリカルボン酸、ポリグリコールエーテル、多糖類のいずれか1種以上を合計で0.0005〜0.1wt%含有する、前記(1)〜(6)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0020】
(8)本発明に係るさらに別の一実施形態では、前記トリアゾールを0.1〜1wt%含有する、前記(1)〜(7)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0021】
(9)本発明に係るさらに別の一実施形態では、前記トリアゾール:両親媒性高分子の重量比が4:1〜800:1である、前記(1)〜(8)に記載の化学的機械的研磨液である。
【0022】
(10)本発明に係るさらに別の一実施形態では、前記(1)〜(9)に記載の化学的機械的研磨液を用いる、化学的機械的研磨方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の範囲を限定することを企図するものではないが、本発明は以下のような機構によってその効果を奏するものと考えられる。
【0024】
本発明では難溶性の錯体を作る物質と、さらにその錯体を包摂するような両親媒性高分子を入れることで銅の研磨速度を向上させており、それにより有機酸のような水溶性の錯体を形成する酸化金属溶解剤を入れることなく銅の研磨速度が向上する。
【0025】
従来の発明では、難溶性の錯体を作る物質は酸化金属溶解剤によるエッチングを防止するための保護膜形成剤として添加されていることが多い。これは難溶性の錯体を作る物質が酸化金属溶解剤よりも優先して金属表面に吸着して膜を形成することで、機械的な圧力が弱い状態では吸着した物質の入れ替わり、すなわち難溶性の錯体から水溶性の錯体への入れ替わりが起こりにくくなり、それによりエッチングを防止する機構が働くためだと考えられる。しかし、本発明ではそもそも酸化金属溶解剤が未添加のため、難溶性の錯体をつくる物質は保護膜としては機能していない。むしろ最適なpHや濃度を選択して添加することで、難溶性の錯体を作る物質と両親媒性高分子が包摂錯体を形成すると考えられ、実際に研磨を加速する効果が確認されている。
【0026】
また、本発明で形成されると考えられる包摂錯体は完全には水溶性ではないが、高分子表面に極性官能基や電荷の偏りをもつため、難溶性の錯体を作る物質だけの場合と比べて錯体の水和が容易になっている。そのためこの包摂錯体は機械的には脆弱であり、研磨砥粒を添加せずに高い研磨速度が実現可能になっている。また、包摂錯体になっても完全には水溶性の錯体にはなっていないため、エッチングによるディッシングは起こりにくくなっている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)トリアゾール
トリアゾールは、水に難溶性の錯体を形成する物質として機能する。水に難溶性の錯体を形成する物質としては、金属(例としては銅)に吸着するような官能基(例としてはアミノ基、アゾ基)と疎水性部分(例としてアルキル基、アルキレン基、フェニル基)の両方を持つ必要があるが、好ましいものとしてトリアゾール類などが挙げられる(但し、ベンゾトリアゾール及びその誘導体を除く)。そして、特には123トリアゾール等が好ましい。トリアゾールの濃度としては、0.1wt%〜1wt%濃度が望ましく、0.2wt%〜0.4wt%がさらに望ましい。
【0028】
ここで、ベンゾトリアゾール及びその誘導体を除外するのは、これらの物質は両親媒性分子と包摂錯体を形成することができないと考えられ、所望の研磨速度が得られず、本願発明の効果を達成できないためである。包摂錯体が形成されない理由としては、ベンゾトリアゾールのように金属膜に強固に吸着する物質の存在下では、反応の第一段階である金属膜表面の酸化が極端に起こりづらくなるためだと考えられる。また物質の構造として、分子のほぼ全体に極性をもつような物質でも、両親媒性高分子による包摂が起こりにくくなり研磨反応が進行しないと考えられる。これはトリアゾール以外のアゾール類(例えばテトラゾール等)についても同様である。ベンゾトリアゾールの誘導体としては、例えば、1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール、1−ホルムアミドメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール−1−メタノール、1−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0029】
(2)両親媒性高分子
両親媒性高分子は、親水部分(例としてカルボキシル基、スルホ基、アミノ基、ヒドロキシル基、エーテル結合部)と疎水部分(例としてアルキル基、アルキレン基、フェニル基)を併せ持った両親媒性高分子物質である必要があり、難溶性の錯体を包摂する高分子として機能する。例としてはポリカルボン酸、ポリグリコールエーテル、多糖類などが挙げられる。さらに具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合物、メタアクリル酸エステルとメタクリル酸の共重合物、メタアクリル酸エステルとアクリル酸の共重合物、アクリル酸エステルとアクリル酸の共重合物、アクリル酸エステルとメタクリル酸の共重合物(例えば、アクリル酸エチルとメタクリル酸の共重物)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。高分子の分子量が小さすぎるとうまく包摂錯体を形成できないと考えられ、本発明で使う高分子の重量平均分子量としては10000以上のものが望ましく、20000以上のものがさらに望ましい。また、前記重量平均分子量の上限値としては特に制限はなく、(例えば重量平均分子量2000000等の)相当な高分子量を用いても包摂錯体が形成されると考えられる。ただし、入手容易性や経済性の観点等から、例えば重量平均分子量2000000程度が上限値として現実的である。高分子の濃度としては、高すぎると逆に研磨を阻害するため、上記両親媒性高分子の1種以上を合計で0.0005wt%〜0.1wt%が望ましく、0.0005wt%〜0.07wt%がさらに望ましく、そして0.001wt%〜0.01wt%が最も望ましい。
【0030】
上述した水に難溶性の錯体を形成する物質及び難溶性の錯体を包摂する両親媒性高分子については、前記濃度範囲に加えて、トリアゾールと両親媒性高分子の配合比(トリアゾール:両親媒性高分子)が4:1〜800:1の重量比で配合することが好ましく、4:1〜400:1がさらに好ましい。
【0031】
(3)酸化剤
酸化剤としては、重金属イオンなどのコンタミネーションが少ないという理由から、過酸化物(H22 、Na22 、BaO2 、(C65 CO)22等)、次亜塩素酸(HClO)、オゾン水、有機過酸化物及び水溶性パーオキサイド(コハク酸パーオキサイド等)等が挙げられるが、本発明の利用分野から考えると過酸化水素(H22)が最も適している。酸化剤の濃度としては、少なすぎると研磨が進行しにくくなるが、多すぎても研磨を阻害するため0.1wt%〜10wt%が望ましい。
【0032】
(4)水
また、本願発明の研磨液は水を必須成分として用いるものであるが、この水は溶媒としての役割を果たすものである。水の量は他の成分が所望の濃度となるよう適宜調整すればよい。
【0033】
(5)化学的機械的研磨液のpH
また、本発明の化学的機械的研磨液は、pHを5〜8に調整することが望ましい。さらに好ましくは6.5〜8であり、最も好ましくは7.5である。pHがこの範囲を超えるとうまく包摂錯体が形成できなくなるため研磨速度が低下する。
【0034】
(6)金属と水溶性の錯体を形成する酸
さらに、本願発明では、従来研磨液で使用される、金属と水溶性の錯体を形成する酸を実質的に含まない。金属と水溶性の錯体を形成する酸は、上述したような酸化金属溶解剤として、エッチングを加速させる作用がある。しかし、同時にディッシング発生の原因ともなるため、望ましくない。また、研磨速度の観点からも、前記酸化金属溶解剤が存在すると、その種類によっては前記包摂錯体が形成できなくなり、研磨速度が低下するため望ましくない。金属と水溶性の錯体を形成する酸としては有機酸が挙げられる。より具体的には、有機酸の例としてグリシン、アラニン、バリン、セリン、トレオニン、システイン、フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン、アスパラギン酸、リシン、ヒスチジン、アルギニン、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、及びそれらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩、又はそれらの混合物等が挙げられる。
【0035】
上記酸に加えて、本願発明の研磨液は、無機酸等を必須としない。即ち全く含有しなくともよく、又は実質的に含有しなくともよい。無機酸の具体例としては、硝酸、硫酸、りん酸などの無機酸、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、リン酸三ナトリウムなどのリン酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩等が挙げられる。
【0036】
(7)研磨砥粒
また、本発明では研磨を進行させるために機械的な力を加えて生成される包摂錯体を取り除く必要があるが、その手段としては研磨パッド(材質:ポリウレタン)との機械的な作用効果のみで十分であり、本発明の研磨液は、研磨砥粒を必須としない。即ち、研磨砥粒を全く含有しなくともよく、又は実質的に含有しなくともよい。
【0037】
ここでいう「研磨砥粒」とは、例えばシリカ、アルミナ、酸化セリウム、酸化チタン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、ダイヤモンド及び有機ポリマー砥粒から選ばれる少なくとも1つの材料から作られる。
【0038】
(8)その他
また、「実質的に含有しない」とは、例えば対象となる物質の含有量が、研磨液全体に対して0.001wt%以下、好ましくは0.0001wt%以下であることを意味する。
【0039】
(9)研磨条件
本発明の化学的機械的研磨液は、主に半導体装置の銅系金属配線の形成工程において実施される化学的機械的研磨で使用されるものである。一般的な化学的機械的研磨方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨パッドを貼り付け、研磨パッド上に研磨液を供給し、基体の金属膜を形成した面を押し付けて、その裏面から所定の圧力(研磨圧力)を加えた状態で研磨定盤を回し、研磨液と金属膜の凸部との機械的摩擦によって凸部の金属膜を除去するものである。本発明の化学的機械的研磨液において特に研磨条件は限定されないが、研磨圧力としては1psi〜5psi、Padとwaferの相対的な線速度が0.4m/sec〜2.8m/secであることが望ましい。
【実施例】
【0040】
本実施例では実際に化学的機械的研磨液で銅のブランケットウエハやパターンウエハを研磨または研磨液浸漬によるエッチングをした際の研磨速度と配線部分の段差の値を例示した。研磨装置はStrasbaugh社製6EGとApplied Materials社製mirraを使用し、研磨条件はすべて研磨圧力4psi、Padとwaferの相対線速度1.3m/secで研磨を行なっている。研磨パッドはニッタ・ハース社製IC1400を、膜厚測定機は旧国際電気アルファ社製VR120−Sを、段差測定機はKLA Tencor社製P15を使用した。
【0041】
例1(実施例及び比較例)
表1に30wt%過酸化水素水(1.5wt%)にそれぞれ123トリアゾール(0.4wt%)のみを添加した場合(比較例A)、ポリアクリル酸/エステル共重合物(東亞合成社製AT210 Mw=20000 0.01wt%)のみを添加した場合(比較例B)、123トリアゾール(0.4wt%)とポリアクリル酸/エステル共重合物(東亞合成社製AT210 Mw=20000 0.01wt%)を両方添加した場合(実施例C)、両方入れたものにさらに酸化金属溶解剤(リンゴ酸0.2wt%)を入れた場合(比較例D)、ベンゾトリアゾール(0.4wt%)とポリアクリル酸/エステル共重合物(東亞合成社製AT210 Mw=20000 0.01wt%)を両方添加し酸化金属溶解剤(リンゴ酸0.2wt%)を入れた場合(比較例E)の銅の研磨速度を示す。なおpHはすべてpH7.5に調整した。この結果を見ると、アゾールと高分子は単独で用いた場合、全く銅を研磨する作用はないが、両方が添加された組成ではかなり高い研磨速度が得られることがわかる。また、そこにさらに酸化金属溶解剤を入れることで逆に研磨が阻害され研磨速度が減少していることがわかる。これは123トリアゾールが酸化金属溶解剤のエッチングに対する保護膜として機能してしまうため酸化金属溶解剤の効果が表れていないことと、電解質が多量に存在するとアゾールと両親媒性高分子の間に入り込んでしまい、包摂錯体を作って研磨を促進するような反応も阻害されてしまうからだと考えられる。また、先行技術文献にあるようなベンゾトリアゾールと有機酸の組み合わせでも、本発明の濃度領域では研磨速度が全くでていないことがわかる。
【0042】
例2(比較例)
表2に30wt%過酸化水素水(1.5wt%)、ポリアクリル酸(Mw=80万)0.01wt%にそれぞれベンゾトリアゾール(0.4wt%)(比較例F)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.4wt%)(比較例G)、1H−テトラゾール(0.4wt%)(比較例H)、5アミノ−1H−テトラゾール(0.4wt%)(比較例I)を添加してpH7.5に調整した研磨液で研磨した銅の研磨速度測定結果を示す。これを見ると、従来の研磨液で防腐剤として添加されているベンゾトリアゾールやその誘導体と高分子では全く研磨が進行していないことがわかる。同様にテトラゾールやその誘導体においても研磨が進行していないことがわかる。
【0043】
例3(実施例)
表3及び表4に123トリアゾール(0.4wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)、pH7.5に調整した研磨液に各種高分子を添加した場合の銅の研磨速度測定結果を示す。これを見ると、高分子を添加することによって劇的に研磨速度が向上し、有機酸のような酸化金属溶解剤を使用せずに、トリアゾールと両親媒性高分子によって高い研磨速度が得られていることがわかる。
【0044】
例4(実施例)
表5に123トリアゾール(0.4wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)、pH7.5に調整した研磨液に各種高分子を0.03wt%入れた組成で、SEMATECH854パターンウエハを研磨した場合のディッシングへの影響、より具体的には段差について示す。ここで、「段差」とは、配線材料である銅が周囲の絶縁膜の表面以下まで過剰に削れたときの、凹部の深さを言う。これを見ると、高分子の種類によっては200nmを超える段差ができてしまうが、最適な高分子を選定してやればラインアンドスペース(L/S)=10/10umのパターン部分で40nm程度の段差に抑えられることがわかる。
【0045】
例5(実施例)
表6に123トリアゾール(0.4wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)に、濃度を変えて高分子(ポリアクリル酸Mw=80万)を添加してpHを7.5に調節した研磨液で研磨した際の銅の研磨速度測定結果を示す。これを見ると高分子を添加しない場合、包摂錯体が形成されず、研磨が全く進行しない。研磨が良好に進行するためには0.0005wt%程度以上の高分子濃度が好ましいことがわかる。
【0046】
例6(実施例)
表7に123トリアゾール(0.2wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)、ポリアクリル酸(Mw=20000 0.1wt%)、pH6.7に調整した研磨液に研磨砥粒(シリカ)を添加した場合の影響について示す。本発明の化学的機械的研磨液では、機械的な力はあまり必要ではなく、研磨砥粒添加の有り無しで銅の研磨速度はほとんど変化しない。さらに研磨砥粒を添加すると配線部分のディッシングが悪化してしまうため研磨砥粒は添加しないほうが望ましい。
【0047】
例7(実施例)
表8に123トリアゾール(0.4wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)、ポリアクリル酸/エステル共重合物(東亞合成社製AT210 Mw=20000 0.01wt%)、に調整した研磨液のpHを変化させたときの銅の研磨速度を示す。この結果から、本発明で発現する研磨効果には適したpHがあることがわかる。
【0048】
例8(実施例)
表9に123トリアゾール(0.4wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)、pH7.5に調整した研磨液に、分子量の違う高分子(0.01wt%)を添加した場合の銅の研磨速度の結果を示す。この結果を見ると、本発明で言う両親媒性高分子には、ある程度の分子量が好ましいということがわかる。
【0049】
例9(実施例及び比較例)
表10に123トリアゾール(0.4wt%)と30wt%過酸化水素水(2wt%)とで構成された溶液(比較例J)のエッチング速度と、さらにそこに高分子(ポリアクリル酸Mw=800000 0.01wt%)を添加したもの(実施例K)、高分子と酸化金属溶解剤(グリシン2wt%)を添加したもの(比較例L)の銅のエッチング速度の比較結果を示す。これを見ると高分子を添加することでエッチング速度は上昇し、そこに酸化金属溶解剤を添加するとさらにエッチング速度が上昇することがわかる。この結果から123トリアゾールとポリアクリル酸の包摂錯体は、酸化金属溶解剤が形成する錯体より難溶性になっているためエッチングによるディッシングを抑えることができ、なおかつ機械的な力がかかった場合は適度に水和が加速されるため表3に示したような高い研磨速度も実現できると考えられる。
【0050】
例10(実施例)
表11に、ポリアクリル酸/エステル共重合物(東亞合成社製AT210 Mw=20000 0.01wt%)、30wt%過酸化水素水(1.5wt%)にそれぞれ123トリアゾールの濃度を変えて添加し、pHを7.5に調整した場合の研磨速度の結果を示す。これを見ると123トリアゾールの添加量には研磨速度を出すのに最適な濃度があり、0.4wt%付近で最大になることがわかる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
【表9】

【0060】
【表10】

【0061】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トリアゾール(但し、ベンゾトリアゾール及びそれらの誘導体を除く);
(B)両親媒性高分子;
(C)酸化剤;及び
(D)水
を含み、
(E)金属と水溶性の錯体を形成する酸
を実質的に含まない化学的機械的研磨液。
【請求項2】
前記トリアゾールが123トリアゾールである請求項1に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項3】
溶液のpHが5〜8である請求項1又は2に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項4】
前記の両親媒性高分子が、ポリカルボン酸、ポリグリコールエーテル、多糖類から少なくとも1種以上が選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項5】
前記の両親媒性高分子の重量平均分子量が10000以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項6】
実質的に研磨砥粒を含まない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項7】
前記両親媒性高分子としてポリカルボン酸、ポリグリコールエーテル、多糖類のいずれか1種以上を合計で0.0005〜0.1wt%含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項8】
前記トリアゾールを0.1〜1wt%含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項9】
前記トリアゾール:両親媒性高分子の重量比が4:1〜800:1である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨液を用いる、化学的機械的研磨方法。