説明

化学的浸透性向上剤を用いる経粘膜的薬物送達のための装置及び方法

【課題】経粘膜的薬物送達の有効性を向上させる装置及び方法を提供する
【解決手段】内腔内装置は、ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジング16と、少なくとも1つの薬物を含み、ハウジングから薬物を容積式で分配投与するように構成された、薬物分配投与部分と、ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、浸透性向上物質を放出又は生成して、ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、浸透性向上剤分配投与部分と、を備える。当該装置は、合前記浸透性向上物質により破壊された粘膜障壁部分にハウジングから薬物を分配投与するように作動し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は植込み可能な医療用装置に関し、より具体的には、患者に薬物を経粘膜的に送達する装置及び方法に関する。
【0002】
経粘膜的薬物送達は、初回通過代謝効果(first-pass metabolism effect)を回避することで高い相対的バイオアベイラビリティを保ちつつ全身作用性薬物を送達できる可能性、治療薬剤を目的の部位に局所的に送達する可能性、及び投与経路の利便性から、関心を集めている分野である。経粘膜的薬物送達が可能な部位として、口腔、鼻腔、膣、及び直腸の投与経路が挙げられる。
【0003】
経粘膜的薬物送達、特に特定のアミノ酸配列を含む巨大分子の経粘膜的送達には、複数の課題がある。粘膜組織により分泌される流体中に存在する酵素は特定のアミノ酸を分解する。粘膜組織が提示する酵素の種類は粘膜組織の位置に応じて変わる。膣液中に存在する酵素としては、ヌクレアーゼ、リゾチーム、エステラーゼ、グアイアコールペルオキシダーゼ、アルドラーゼ、及びβ−グルクロニダーゼが挙げられる。更に、アミノペプチダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ホスファターゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、エステラーゼ、及び5型ホスホジエステラーゼが、膣粘膜表面に並ぶ頂端細胞層に結合する。これらの酵素の存在、特にアミノペプチダーゼの存在が、膣に適用されるタンパク質薬物及びペプチド薬物のバイオアベイラビリティ低下の一因である。
【0004】
その他の粘膜組織にも特定の薬物を分解し得る別の酵素が存在する。例えば、胃腸管には、混合機能オキシダーゼ系、アルコールデヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、レダクターゼ、p−ニトロアニソールデメチラーゼ、エトキシクルナリン−o−デエチラーゼ、エポキシド加水分解酵素、UDP−グルクロン酸トランスフェラーゼ、スルホキナーゼ、グルタチオン−Sトランスフェラーゼ、グリシントランスフェラーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、及びカレコール−O−メチルトランスフェラーゼが存在する。これらの酵素は、そのような粘膜組織に使用されるタンパク質薬物及びペプチド薬物のバイオアベイラビリティを低下させる。
【0005】
更に、ほとんどの粘膜組織は粘性の水性液体を連続的に排出している。この粘稠液も経粘膜的薬物送達にとって問題となる。第一に、粘稠液は、異物を捕捉してその進入速度を低下させるので、内在する酵素的機構及びその他の防御機構にその異物を分解及び/又は死滅させる時間を与える。第二に、粘稠液流体は組織から排出されると粘膜組織の表面を連続的に浄化及び洗浄する。したがって、従来の適用値術を用いた場合、かなりの量の薬物が無駄になり得る。
【0006】
膣における薬物送達では、膣粘膜は、水性障壁と粘膜障壁との、連続する2つの障壁とみなすことができる。粘膜裏層は、グリコーゲン化及び非ケラチン化された重層扁平上皮である。ヒトの膣上皮は、成熟度及び位置に応じて、約25層の細胞層からなる。多くのその他の重層上皮同様、ヒトの膣上皮は、最も上側の細胞層に密着結合(TJ)系を含む。これらのTJは、頂端細胞表面ドメインを基底外側の細胞表面ドメインから分離し、水溶性分子種を経粘膜的送達するに際して主な障壁となる。薬物の局所的投与を妨げるのは、膣のみならず身体の全粘膜中に存在する、これらの上皮及びTJである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,308,867号
【特許文献2】米国特許第4,402,695号
【特許文献3】米国特許第4,308,867号
【特許文献4】米国特許第5,002,540号
【特許文献5】米国特許第5,112,614号
【特許文献6】米国特許第5,928,195号
【特許文献7】米国特許第6,183,434号
【特許文献8】米国特許第6,322,532号
【特許文献9】米国特許第6,532,386号
【特許文献10】米国特許第6,591,133号
【特許文献11】米国特許第6,756,053号
【特許文献12】米国特許第6,835,392号
【特許文献13】米国特許第6,978,172号
【特許文献14】米国特許第7,004,171号
【特許文献15】米国特許第7,486,989号
【特許文献16】米国特許第7,497,855号
【特許文献17】米国特許出願公開第2004/0219192号
【特許文献18】米国特許出願公開第2005/0244502号
【特許文献19】米国特許出願公開第2005/0267440号
【特許文献20】米国特許出願公開第2008/0262412号
【非特許文献1】HASHIMOTO, et al. (2008) "Oxidative stress induces gastric epithelial permeability through claudin-3." Biochemical and Biophysical Research Communications
【非特許文献2】SETH, et al. (2008) "Probiotics ameliorate the hydrogen peroxide-induced epithelial barrier disruption by a PKC- and MAP kinase-dependent mechanism." Am J Physiol Gastrontest Liver Physiol.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
経粘膜的薬物送達の有効性を向上させる装置及び方法を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、ある態様において、経粘膜的薬物送達のための内腔内装置を提供する。前記装置は、ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、少なくとも1つの薬物を含み、前記ハウジングから前記薬物を容積式で分配投与するように構成された、薬物分配投与部分と、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、浸透性向上物質を放出又は生成して、ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、浸透性向上剤分配投与部分とを備え得る。前記装置は、前記浸透性向上物質により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動し得る。
【0010】
別の態様では、内腔内から粘膜組織を介して薬物を送達する方法が提供される。この方法は、内腔内に薬物送達装置を配置する工程;浸透性向上物質を装置から放出するか装置で生成し、浸透性向上物質を粘膜組織の一部分に接触させる工程と、容積式(positive displacement)プロセスにより薬物を装置から分配投与(dispense)し、浸透性向上物質が接触した粘膜組織部分に薬物を送達する工程と、を含み得る。
【0011】
別の態様では、経粘膜的薬物送達のための膣内装置が提供される。前記装置は、ヒトである患者又は動物である患畜の膣中に配置されるように構成されたハウジングと、薬物を含む薬物ディスペンサーであって、一つ又は複数のノズルと、前記ハウジングから前記一つ又は複数のノズルを通して前記薬物を容積式で分配投与することに適合させた容積式要素とを備えた、薬物ディスペンサーと、前記ヒトである患者又は動物である患畜の膣内に配置されている間における、選択された時間に、浸透性向上物質を放出又は生成して、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、浸透性向上剤ディスペンサーと、を備え得る。前記浸透性向上物質により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動し得る。
【発明の効果】
【0012】
本明細書に記載される本発明のある実施形態によれば、経粘膜的薬物送達の有効性を向上させ得る装置及び方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】組織内腔中における経粘膜的薬物送達装置の設置を示す断面図である。
【図2】内腔内に設置された薬物送達装置からの浸透性向上物質の送達を示す断面図である。
【図3】浸透性向上物質送達後の、内腔内に設置された薬物送達装置からの薬物の送達を示す断面図である。
【図4】浸透性向上剤生成能を有する経粘膜的薬物送達装置の内腔内における設置を示す断面図である。
【図5】図4の経粘膜的薬物送達装置を示す端面図である。
【図6】浸透性向上剤生成後の、図4の装置からの薬物送達を示す断面図である。
【図7】経粘膜的薬物送達装置の、別の実施形態を示す断面図である。
【図8】図7の経粘膜的薬物送達装置からの薬物送達を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
内腔内に配置される経粘膜的薬物送達装置を提供する。本明細書において「内腔内」という用語は、粘膜組織壁を有する体腔、通路、管等の中への設置を意味する。この用語の範囲には、膣内、子宮内、及び胃腸管内(例えば直腸)の部位が包含されるが、これらに限定されるものではない。内腔内の装置の配置又は設置は通常、少なくとも一回又は複数回分の用量の薬物を送達している間維持される。配置された装置は、例えば、各用量の送達と送達との間や、数回投与分の薬物が送達された後や、複数回投与分の薬物による一連の処置が完了した後などに、所望があれば内腔から回収され得る。この装置は、充填された薬物が使い果たされるまで配置され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、経粘膜的薬物送達装置は、(i)内腔内に配置可能なように構成されたハウジングと、(ii)薬物及び浸透性向上物質を格納するための一つ又は複数の貯留槽と、を備える。特定の実施形態では、薬物と浸透性向上物質とは別々の貯留槽に格納される。経粘膜的薬物送達装置は、薬物及び浸透性向上物質を内腔又は粘膜組織壁中に分配投与するための分配投与部分を備えてもよい。薬物送達装置は、装置からの薬物及び/又は浸透性向上物質の放出又は送達を制御するための内臓制御モジュールを備えてもよい。
【0016】
別の態様では、経粘膜的薬物送達の方法が提供される。当該方法は、患者(対象であるヒト若しくは動物)の内腔内に薬物送達装置を設置又は配置する工程を含む。内腔は、例えば、膣、子宮頸、子宮、又は直腸等の胃腸管部分であり得る。
【0017】
薬物送達装置を内腔中に設置した後、薬物送達装置は、内腔又は粘膜側壁に浸透性向上物質を能動的に生成又は放出し得る。その後、薬物送達装置は、浸透性向上物質により破壊された粘膜組織領域に薬物を分配投与し得る。浸透性向上物質を適用すると、薬物の輸送速度及び/又は分解されずに粘膜障壁を通過することができる薬物の量を増加することができ、それにより薬物の経粘膜的投与の有効性が向上する。
【0018】
いくつかの実施形態では、浸透性向上物質及び薬物は装置中の別々の収容貯留槽中に格納されている。例えば、図1に示すように、浸透性向上剤貯留槽18と、薬物貯留槽20と、制御モジュール34とを備えたハウジング16を有する経粘膜的薬物送達装置10が提供される。ハウジング16は、粘膜組織14を有する内腔12内に設置されるように構成され得る。ハウジング16は、浸透性向上剤貯留槽18に格納されている浸透性向上物質を分配投与するための浸透性向上剤ディスペンサーと、薬物貯留槽20に格納されている薬物を分配投与するための薬物ディスペンサーとを備える。
【0019】
浸透性向上剤ディスペンサーは、浸透性向上物質をハウジング16から軸方向に(すなわち、ハウジング16の末端から内腔12へと)分配投与するように一緒に構成されたノズル26とアクチュエータ22とを備え得る。薬物ディスペンサーも、薬物をハウジング16から軸方向に分配投与するように一緒に構成されたノズル28とアクチュエータ24とを備え得る。本例では分配投与を軸方向に実施する配置を説明するが、装置は、浸透性向上物質及び薬物を放射方向に(すなわち、ハウジング16の側壁から粘膜組織14の方向へと)注入するように構成されてもよい。例えば、別の実施形態では、ノズル26と28とは、ハウジングの粘膜組織14に面する一つ又は複数の側面に配置され得る。
【0020】
制御モジュール34は、バッテリ等の動力源32と、制御装置30とを備える。制御装置30は、アクチュエータ22及びアクチュエータ24を制御することで薬物及び浸透性向上剤を送達するタイミング及び順序を独立して制御するように構成され得る。後に詳述するように、アクチュエータ22及び24に種々のアクチュエータ機構を用いて、ハウジングから浸透性向上剤及び薬物を容積式プロセスで分配投与することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、浸透性向上物質はハウジングの外側で生成され、薬物は装置中の別個の収容貯留槽に格納されている。例えば、図4に示すように、薬物貯留槽56と、ポンプ式容器58と、制御モジュール50とを備えたハウジング36を有する経粘膜的薬物送達装置が提供され得る。ハウジング36が内腔12内に配置されている間の、一つ又は複数の期間に、浸透性向上物質を生成するために、ハウジング36の外側に、一連の電気化学的要素38が設けられる。図5に示すように、一連の電気化学的要素38は、ハウジング36の長手側側壁の周囲に配置され得る。あるいは、一連の電気化学的要素は、ハウジング36の内側で浸透性向上物質を生成するように、ハウジング36内に設けられ得る。各電気化学的要素38は、第1の電極対60及び第2の電極対62を備え得る。電気化学的要素38を用いて浸透性向上物質(H)を生成する機構については後に詳細に記載する。
【0022】
薬物を粘膜組織14中に送達するために、薬物貯留槽56に流体を介して連結している一連の分配投与ノズル40を、ハウジング36の側面に設けてもよい。別の実施形態では、薬物を軸方向に分配投与するために、ハウジング36の末端に一つ又は複数の分配投与ノズルを設けてもよい。そのような実施形態では、薬物送達部位の近くで浸透性向上物質を生成するために、ハウジング36の末端又はその近位に一つ又は複数の電気化学的要素を設けてもよい。
【0023】
薬物貯留槽56中に格納されている薬物を容積式プロセスにより分配投与させるために、ポンプ式容器58中か又はそれに隣接させて、内部ガス体積に基づいた容積式(gas−volume displacement)ポンプを設けてもよい。ある実施形態では、ポンプは、ポンプ式容器58の内側の水又は水溶液に接触する陰極44及び陽極46を備えてよい。粘膜組織14から出た水性分泌物がチャネル42に進入して陰極44及び陽極46に接触できるように、ハウジング36内にチャネル42を設けてもよい。別の実施形態では、内腔の内部空間に流体で繋がっているチャネル42を省いてもよく、電解質を装置に搭載してよい。例えば、ポンプ式容器58は、亜硝酸ナトリウム等のイオン溶液を含んでもよい。あるいは、ポンプ式容器58は脱イオン水を含んでもよく、チャネル42の代わりに固体電解質を設けて、チャネル42に面する陰極44及び陽極46の表面に固体電解質が接触するようにしてもよい。陰極44及び陽極46を用いてポンプ式容器58の内側でガスを生成する機構については後に詳細に記載する。
【0024】
制御モジュール50は、バッテリ等の動力源54と、制御装置52とを備える。制御装置52は、電気化学的要素38並びに陰極44及び陽極46に電位を印加することで薬物及び浸透性向上剤の送達のタイミング及び順序を独立して制御するように構成され得る。以下に詳細に記載するように、その他の種々のアクチュエータ機構を用いて、ハウジングから薬物を容積式プロセスにより分配投与してよい。
【0025】
ハウジングは通常、粘膜内腔内に薬物送達装置が配置し易くなるように構成される。いくつかの実施形態では、装置は、身体外部の開口部を介して内腔中に挿入することで内腔内に設置され得る。したがって、いくつかの実施形態では、ハウジングは、身体外部の開口部を介して意図する内腔内に装置を挿入及び設置(すなわち配置)することができるような形状及び寸法をしている。具体的には、ハウジングは、膣、子宮頸、子宮、又は直腸に挿入及び設置するための形状及び寸法であってよい。装置ハウジングの構造材料、サイズ、形状、及び表面特性、及びその他の特性は、装置が粘膜内腔中に設置され、装置作動中、装置が内腔中にしっかりと保持され、通常、装置の作動後又はそれ以外の取り出しが望まれる時点で装置が内腔から回収されるように構成される。装置の構成は、患者の不快感を最小限に抑えて設置されるように、特定の内腔部位及びヒト又は動物の解剖学的考察に基づいてなる。
【0026】
ハウジングは、薬物及び/又は浸透性向上物質を格納するための、ハウジング内に配置された一つ又は複数の貯留槽を備えてもよい。ハウジングは、薬物及び/又は浸透性向上物質を分配投与するためのディスペンサーと、薬物及び/又は浸透性向上物質の放出及び送達を制御するための制御モジュールとを備えてもよい。ディスペンサーは、薬物及び/又は浸透性向上物質を分配投与するためのノズルを備えてもよい。これらのノズルは、ハウジングの軸方向に(ハウジング末端から)、又は、ハウジングから放射方向に(すなわちハウジング側壁から)、又はその組合せで、薬物及び/又は浸透性向上物質が注入されるように配置され得る。薬物と浸透性向上物質とは別々のハウジング中に格納され得る。特定の共製剤は混和性及び/又は溶媒の選択が困難であることがあるため、別々に貯蔵することで薬物を製剤化し易くなるという利点があり得る。
【0027】
ハウジングは任意の生体適合性材料から形成され得る。更に、ハウジング材料は、内腔環境中における分解に対して抵抗性を有してよい。好適な材料の例としては、ステンレス鋼、チタン、及び特定のポリマーが挙げられる。ハウジングを形成する材料は、装置の生体適合性及び/又は作用を高めるためのコーティングを有してもよい。
【0028】
薬物送達装置から薬物を能動的に容積式(positive displacement)で分配投与するための薬物ディスペンサーが提供される。薬物は、装置の貯留槽中に貯蔵され、選択した時間に、内腔又は粘膜組織中に、一つ又は複数のノズルを通して分配投与され得る。薬物ディスペンサーは、浸透性向上物質により破壊された粘膜障壁領域にハウジングから薬物が分配投与されるように配置され得る。
【0029】
薬物ディスペンサーには、装置から薬物を分配投与するための種々の容積式要素を用いてよく、そのような要素としては、機械的な容積式要素(mechanical displacement)、浸透圧膨潤に基づく容積式要素(osmotic swelling displacement)、ガス体積に基づく容積式要素(gas−volume displacement)、静電誘導圧縮に基づく容積式要素、圧電駆動に基づく容積式要素、又は熱/磁気誘導相転移に基づく容積式要素が挙げられる。容積式要素は、静圧ヘッドと組み合わせた作動可能な分配投与バルブを含み得る。本明細書において、「容積式(positive displacement)」という用語は通常、薬物送達装置内から加えられる力の下で薬物送達装置から薬物を分配投与する任意のプロセスを意味する。したがって、装置からの薬物の受動的な化学的拡散は、この用語に包含されない。
【0030】
いくつかの実施形態では、薬物はハウジング内の貯留槽内に貯蔵され、ピストンやバネ等の機械的な容積式要素により、一つ又は複数の分配投与ノズルを介して、ハウジングから能動的に分配投与される。例えば、図1の実施形態では、内蔵制御モジュール34は、アクチュエータ22に電気的又は機械的動力を選択的に送信し、アクチュエータ22のピストンを薬物貯留槽20中で前進させ、分配投与ノズル28を介して薬物を分配投与し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、薬物は、ガス体積に基づく容積式要素により分配投与される。例えば、装置は、図4に示すように、水又は水溶液を含むポンプ式容器58を備えてよい。酸素等のガスを生成するために、ポンプ式容器58内に電極対(陰極44及び陽極46)を設けてもよい。内腔12内からの水がポンプ式容器58内の水又は水溶液とプロトン及び電子を交換することができるように、電極間にチャネル42を設ける。別の実施形態では、内腔の内部空間に流体で繋がっているチャネル42を省いてもよく、装置に電解質を搭載してもよい。例えば、ポンプ式容器58は、亜硝酸ナトリウム等のイオン溶液を含み得る。あるいは、ポンプ式容器58は脱イオン水を含んでもよく、チャネル42の代わりに固体電解質を設け、チャネル42に面する陰極44及び陽極46の表面に固体電解質が接触するようにしてもよい。
【0032】
約1.0V以上の電位を電極に印加することで陽極にOが生成され得る。陽極の反応は下記式1で表される。水中では、負に帯電した陰極で還元反応が起こり、陰極から電子が水素陽イオンに付与され、下記式2に示すように水素ガスが形成される。発生した酸素及び水素により生じる圧力が、ピストン48を薬物貯留槽56中に前進させ、それにより、分配投与ノズル40を通して薬物が内腔12又は粘膜組織14中に分配投与される。酸素及び水素の発生は、装置のハウジング36中に搭載された内蔵制御モジュール50により制御され得る。制御モジュール50は、バッテリ等の動力源54と、選択された時間に陰極44及び陽極46に電位を印加するようにプログラムされた制御装置52とを含み得る。
2H(l)→O2(g)+4H(aq)+4e 式1
2H(aq)+2e→H2(g) 式2
【0033】
他の容積式要素については、図7及び図8を参照することにより、より深く理解されよう。これらの例では、薬物貯留槽56に格納されている薬物は、構成要素64の拡張により分配投与される。構成要素64は、例えば膨潤可能材料(例えば膨潤可能なゲル)又は拡張可能な貯留槽であり得る。いくつかの実施形態では、薬物は、浸透圧膨潤に基づく容積式要素により分配投与される。必要に応じて、貯留槽又は膨潤可能材料中への水の進入を選択的に制御するためにバルブ66を設けてもよい。内腔12から貯留槽又は膨潤可能材料中に水が引き込まれ、貯留槽又は膨潤可能材料の容積が膨張され得る。貯留槽又は膨潤可能材料の膨張により、ハウジング内に含まれる薬物がある体積量移動して、薬物が装置から内腔へと分配投与され得る。バルブ66の作動は内蔵制御モジュール50により制御され得る。
【0034】
別の実施形態では、薬物は、誘導された相転移によって生じる膨張力により分配投与され得る。例えば、構成要素64は、相転移可能材料を含む膨張可能な容器を含み得る。相転移可能材料は、加熱された時又は電磁場に曝された時に固体又は液体からガスへと相転移する任意の液体又は固体であり得る。材料がガスに相転移すると、材料が膨張して薬物貯留槽56中を進み、装置から薬物が分配投与される。相転移の開始は、搭載された制御モジュール50により制御され得る。
【0035】
別の実施形態では、薬物は、静電誘導圧縮により、又は圧電アクチュエータを用いて、ハウジングから容積式で分配投与され得る。例えば、アクチュエータへの電圧又は電流の変化によりアクチュエータが薬物貯留槽中の薬物に圧縮力を及ぼすように、誘電エラストマーアクチュエータ又は圧電アクチュエータが配置され得る。この圧縮力により装置から薬物が分配投与され得る。アクチュエータの作動は、搭載された制御モジュールにより制御され得る。
【0036】
別の実施形態では、薬物は、静圧ヘッド及び作動可能なバルブにより容積式で投与され得る。バルブは、例えば振幅で投与を調節するアナログモードで運転されてもよく、振動数/デュティサイクル(duty-cycle)で投与を調節するデジタルモードで運転されてもよい。静圧ヘッドの圧力は、圧力下で薬物を装置に充填することで得てもよく、薬物を装置に充填した後に装置を加圧してもよい。
【0037】
種々の薬物が薬物送達装置から投与され得る。薬物はタンパク質又はペプチドであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、ホルモン又はステロイドを送達するのに薬物送達装置を用いてもよく、当該ホルモン又はステロイドの例としては、卵胞刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン、黄体ホルモン、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、エストラジオール、プロゲステロン、メラトニン、セロトニン、チロキシン、トリヨードチロニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、抗ミュラー管ホルモン、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アンギオテンシノゲン、アンギオテンシン、抗利尿ホルモン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、カルシトニン、コレシストキニン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、エリスロポエチン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、成長ホルモン放出ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様成長因子、レプチン、メラニン細胞刺激ホルモン、オレキシン、オキシトシン、プロラクチン、リラキシン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロテストステロン、エストロン、エストリオール、カルシトリオール、カルシジオール、プロスタグランジン類、ロイコトリエン類、プロスタサイクリン、トロンボキサン、プロラクチン放出ホルモン、リポトロピン、脳性ナトリウム利尿ペプチド、ニューロペプチドY、ヒスタミン、エンドセリン、エンケファリン、レニン、及び膵ポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
いくつかの実施形態では、薬物送達装置は、細胞連絡に用いられるサイトカインシグナル伝達分子又は免疫抑制薬の投与に用いてもよく、これらの分子としては一般的にタンパク質、ペプチド、又は糖タンパク質が挙げられる。サイトカインシグナル伝達分子としては、例えば、IL−2サブファミリー(例えば、エリスロポエチン(EPO)及びトロンボポエチン(THPO))、インターフェロン(IFN)サブファミリー、及びIL−10サブファミリーを含む4−αヘリックスバンドルファミリーが挙げられる。サイトカインシグナル伝達分子としては、IL−1、IL−18、及びIL−17ファミリーも挙げられる。
【0039】
いくつかの実施形態では、薬物送達装置を疼痛管理用の薬物投与に用いてもよく、そのような薬物としては、コルチコステロイド類、オピオイド類、抗うつ薬、抗痙攣薬(抗痙攣用医薬品)、非ステロイド性抗炎症薬、COX2阻害剤(例えばロフェコキシブ及びセレコキシブ)、三環系抗うつ薬(例えばアミトリプチリン)、カルバマゼピン、ギャバペンチン及びプレガバリン、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジアモルヒネ、及びペチジンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
いくつかの実施形態では、薬物送達装置を心血管系薬物の投与に用いてもよい。この装置を用いて投与され得る心血管系薬物の例としては、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、心房性ナトリウム利尿因子(ANF)、心房性ナトリウム利尿ホルモン(ANH)、及びアトリオペプチンが挙げられる。この装置により投与され得る心血管系薬物としては、例えば、抗不整脈薬、例えば、キニジン、リドカイン、フェニトイン、プロパフェノン等のI群(ナトリウムチャネル遮断薬);メトプロロール等のII群(ベータ遮断薬);アミオダロン、ドフェチリド、ソタロール等のIII群(カリウムチャネル遮断薬);ジルチアゼム、ベラパミル等のIV群(緩徐型のカルシウムチャネル遮断薬);アデノシン、ジゴキシン等のV群(強心配糖体)も挙げられる。この装置により投与され得るその他の心血管用薬物としては、例えば、カプトリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ラミプリル等のACE阻害剤;カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン等のアンギオテンシンII受容体拮抗薬;ベータ遮断薬;及びカルシウムチャネル遮断薬が挙げられる。
【0041】
薬物は、装置中における薬物の貯蔵及び装置からの薬物の放出を容易にするために、必要に応じて、一つ又は複数の薬学的に許容される補形剤と一緒に処方され得る。ある実施形態では、薬物は液体溶液又は懸濁液であり得る。薬物は微粒子又はナノ粒子の形態であり得る。ここで溶媒又はキャリアは水性溶媒又は有機溶媒であり得る。
【0042】
ハウジングから浸透性向上物質を分配投与するために浸透性向上剤ディスペンサーを設けてもよい。浸透性向上物質は、装置中に貯蔵されてもよく、装置により生成されてもよい。本明細書において、浸透性向上剤又は浸透性向上物質に言及する際の「ディスペンサー」及び「分配投与部分」という用語は、浸透性向上剤又は浸透性向上物質を放出、生成、又は放出及び生成する、装置の部分又は構成物を意味する。
【0043】
ある実施形態では、浸透性向上物質は、貯留槽に貯蔵され、その後、拡散、又は容積式プロセス等の能動的プロセスにより、装置から分配投与される。既に記載した容積式機構の例のいずれかを、貯留槽から浸透性向上物質を分配投与するために用いてもよく、そのような容積式機構としては、機械的な容積式要素、浸透圧膨潤に基づく容積式要素、ガス体積に基づく容積式要素、静電誘導圧縮、圧電駆動、熱/磁気誘導相転移、又は静圧ヘッドと組み合わせた作動可能な分配投与バルブが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
いくつかの実施形態では、浸透性向上物質は、装置によりハウジングの内側又は外側に生成される。特定の実施形態では、浸透性向上物質は生体内で生成される。例えば、ハウジングは、粘膜組織中に過酸化水素(H)を生成及び分配投与するための外部ディスペンサーを備えてよい。過酸化水素の生成は、水、電気、及び酸素を用いて成され得る。水は装置中に用意してもよく、内腔内の環境から得てもよい。電気は、搭載された動力源により提供され得る。反応のための酸素は、装置中の流体に酸素を溶解するか、装置に空気を捕捉又は供給するか、電気化学的生成により、提供され得る。
【0045】
図4に示すように、ハウジング36の外部に一連の電気化学的要素38を設けてよい。電気化学的要素38のそれぞれは、2組の分離された電極及びプロトン交換膜を備えてよい。第1の電極対は、陽極がハウジング36から内腔12中へと延在するように配置され得る。約1.0V以上の電位をこの電極に印加することで、内腔12中に存在する水から陽極にOが生成され得る。陽極での反応は前記式1で表される。第2の電極対は、第1の電極対に隣接していてよく、陰極がハウジング36から内腔12中へと延在するように配置され得る。約1.6V〜約2.0Vの電位をこの電極に印加することで、陰極でHが生成し得る。陰極での反応は下記式3で表される。
+2H(aq)+2e→H2(aq) 式3
【0046】
の生成は、装置のハウジング36中に搭載された内蔵制御モジュール50で制御され得る。制御モジュール50は、バッテリ等の動力源54と、一つ又は複数の選択された時間で電気化学的要素38を作動させるようにプログラムされた制御装置52とを備え得る。
【0047】
種々の浸透性向上物質が提供され得る。「浸透性向上物質」という用語は、粘膜組織を横断する薬物送達を容易にする物質を意味する。この用語は、粘膜組織に用いられた時に、組織が、粘膜組織酵素による薬物の分解を予防する薬物及び酵素阻害剤に対して、より高い浸透性を示すようにする、化学的な向上剤を、その範囲に包含する。化学的向上剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、過酸化水素(H)、プロピレングリコール、オレイン酸、セチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチン酸イソプロピル、Tween 80、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、メチルスルホニルメタン、アゾン、テルペン、ホスファチジルコリン依存性ホスホリパーゼC、トリアシルグリセロールヒドロラーゼ、酸性ホスファターゼ、ホスホリパーゼA2、及び濃縮生理食塩水溶液(例えば、PBS及びNaCl)等の物質が挙げられる。
【0048】
酵素阻害剤としては可逆的阻害剤及び非可逆的阻害剤が挙げられる。可逆的阻害剤としては、例えば、サキナビル、リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、ロピナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、チプラナビル、ダルナビル等の、プロテアーゼ阻害剤及び抗レトロウイルス薬が挙げられる。非可逆的阻害剤としては、例えば、ジイソプロピルフルオロリン酸(DFP)、α−ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)、トリパノチオンレダクターゼ、メトトレキサート、アロプリノール、及びアシクロビルが挙げられる。
【0049】
粘膜組織中への浸透性向上物質及び薬物の送達を制御するための制御モジュールが設けられる。制御モジュールは薬物送達装置のハウジング中に搭載され得る。制御モジュールは動力源及び制御装置を備え得る。動力源は、バッテリ又は燃料電池等の任意の機械的又は電気的動力源であり得る。制御装置は、浸透性向上物質及び薬物が所定のスケジュールに従って送達されるようにプログラム可能であるか予めプログラムされていてよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、制御モジュールは、装置周辺又は内腔内の環境を分析するための一つ又は複数のセンサーを更に備えてもよい。例えば、内腔中に薬物分解酵素が存在するかどうかを検出するセンサーが用いられ得る。そのような実施形態では、制御装置は更に、薬物分解酵素の減少が検出された後又は薬物送達に適したその他の環境条件が検出された後に薬物を分配投与するように構成され得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、制御モジュールは更に、別個の分離された送信装置から無線制御シグナルを受信するための無線受信機を備えてもよい。特定の実施形態では、装置は、患者又は医師により内腔中に配置され得、その後、設置された装置に制御シグナルを送信する送信装置を用いて、患者又は医師により浸透性向上剤及び薬物の放出が開始され得る。更に、いくつかの実施形態では、制御モジュールの受信機及び送信装置の両方が、制御シグナル及びその他の通信を互いに送受信できるトランシーバであり得る。したがって、特定の実施形態では、制御モジュールトランシーバは、既に投与された用量、投与スケジュール、貯留槽に残っている薬物又は浸透性向上剤物質の量、バッテリの残り充電量のデータを初めとする、装置の運転に関するデータ、及び、内蔵センサーにより検出又は測定されたデータ等の、内腔環境に関するデータを送信し得る。いくつかの実施形態では、制御モジュールは無線により動力供給されてもよい。
【0052】
種々の実施形態で、装置は、例えば患者又は患畜中に配置された後に無線運転できるように構成され得る。そのような場合、装置は、当該技術分野で公知のように適切な遠隔測定要素を含む。例えば、浸透性向上剤物質の分配投与及び/若しくは生成並びに/又は薬物分配投与の作動開始は、例えば患者又は患畜の外から、遠隔制御装置でなされ得る。一般的に、遠隔測定(すなわち送受信)は、一致/対応する第2のコイルに誘導的に電磁エネルギーを結合する第1のコイルを用いてなされる。このための手段は十分に確立されており、振幅又は周波数の変調等の種々の変調スキームを用いて搬送周波数上でデータが送信される。搬送周波数及び変調スキームの選択は、他の因子の中でもとりわけ、装置の位置及び必要な帯域幅に応じて変わる。当該技術分野で公知のその他のデータ遠隔測定システムを用いてもよい。別の場合には、装置は、遠隔的に動力供給又は充電されるように構成される。例えば、装置は、無線で装置に送信されたエネルギーを受信するためのトランスデューサ、受信した動力を使用又は貯蔵可能な形態に向ける又は変換するための回路、及び、動力を貯蔵する場合に用いられる、充電式のバッテリ又はコンデンサ等の貯蔵装置を備えてよい。更に別の場合には、装置は無線で動力供給され且つ無線で制御される。
【0053】
内腔内装置を用いた経粘膜的薬物送達方法を提供する。この方法は、薬物送達装置を患者の内腔内に設置する工程を含む。患者はヒト又はその他の哺乳動物(例えばウシ、ウマ、ブタ、又はイヌ)であり得る。当該方法は、種々の医学的及び獣医学的な治療並びに家畜学における用途を含む。内腔は、例えば、膣、子宮頸、子宮、膀胱、又は直腸であり得る。装置は、基本的に任意の粘膜組織表面との接触に適合させてよい。装置は、患者の外部開口部を通して内腔中に装置挿入することで内腔中に設置され得る。いくつかの実施形態では、装置は、胃腸管の粘膜組織を介した薬物送達のための経口投与され得る形態であり得る。
【0054】
薬物送達が粘膜内腔中に設置された後、薬物送達装置は、内腔又は粘膜側壁中に直接、能動的に浸透性向上物質を生成又は放出し得る。浸透性向上物質の生成又は放出は、選択された時間に内蔵制御モジュールにより開始され得る。その後、薬物送達装置は、浸透性向上物質で破壊された粘膜組織領域に薬物を分配投与し得る。この投与の方法及び順序には、浸透性の向上がない場合に粘膜表面で起こりうる薬物(特にタンパク質薬物)の分解を、低減又は回避する利点があり得る。装置からの薬物の放出も、浸透性向上物質が放出された後又は浸透性向上物質が粘膜組織を破壊した後の、別途選択された時点で、制御モジュールにより開始され得る。
【0055】
図1に示すように、経粘膜的薬物送達装置10は内腔12中に設置され得る。薬物送達装置10は、粘膜組織14とハウジング16の間の摩擦接触によりその場に維持され得る。図2に示すように、その後、アクチュエータ22の作動を介して、貯留槽18からノズル26を通して浸透性向上物質が分配投与され得る。アクチュエータ22の作動は制御モジュール34により制御され得る。図3に示すように、浸透性向上剤が酵素活性を阻害するか又は粘膜組織14の薬物に対する透過性をより高くすることで粘膜組織を破壊した後、アクチュエータ24の作動を介して貯留槽20からノズル28を通して薬物が分配投与される。アクチュエータ24の作動も制御モジュール34により制御され得る。その後、装置を内腔から取り出してもよい。
【0056】
図4を参照すると、装置により浸透性向上物質が生成される実施形態では、制御モジュール50が最初に一連の電気化学的要素38を作動させることで浸透性向上物質が生成される。浸透性向上物質が生成した後、制御モジュール50は、陰極44及び陽極46に電位を印加することで薬物送達を開始させ得る。図6に示すように、ポンプ式容器58内でガスが生成すると、ピストン48が薬物貯留槽56中を前進し、ノズル40を通して薬物が分配投与される。その後、装置を内腔から取り出してもよい。
【0057】
図7を参照すると、膨潤可能材料又は拡張可能な貯留槽が用いられる実施形態では、装置から浸透性向上剤が最初に生成又は分配投与される。例えば、制御モジュール50が電気化学的要素38のそれぞれに電位を印加して浸透性向上物質が生成される。その後、バルブ66を作動させ、膨潤可能材料又は膨張可能容器64に水を進入させ得る。あるいは、制御モジュール50を用いて、膨張可能容器64中の材料の相変化誘導を開始させてもよい。例えば、制御モジュール50により、相変化材料を加熱する加熱要素を作動させてもよく、電磁場を生成する回路を作動させてもよい。図8に示すように、膨潤可能材料又は膨張可能容器64の拡張により、薬物がノズル40から粘膜組織14中に押し出される。
【0058】
薬物を送達するための装置及び方法は、種々の医療的及び治療的用途に使用され得る。いくつかの実施形態では、薬物送達装置は女性患者(雌患畜)の不妊症治療に用いられ得る。例えば、薬物送達装置は女性患者(雌患畜)の膣(又は子宮、又は産道のその他の部分)中に設置され得る。その後、薬物送達装置は内腔中に浸透性向上物質を分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は卵胞刺激ホルモンを送達して女性患者(雌患畜)中で排卵を誘導し得る。いくつかの実施形態では、薬物送達装置は、卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン等の複数のホルモンを別々に又は組み合わせて、不妊症治療に適切な順序、適切な時間、適切な量で送達するように構成され得る。女性患者(雌患畜)中で正常なホルモン産生を制御するために、この装置でエストラジオールを分配投与してもよい。適当な投与スケジュール及び量は、生殖薬理学の分野の当業者により決定され得る。
【0059】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中でインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)を治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、薬物送達装置は内腔中に浸透性向上物質を分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、インスリン(ヒューマリンR、ノボリンR)、インスリンイソフェン(ヒューマリンN、ノボリンN)、インスリンリスプロ(ヒューマログ)、インスリンアスパルト(ノボログ)、インスリングラルギン(ランタス)又はインスリンデテミル(レベミル)を、選択された時間に患者に送達し得る。
【0060】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で真性糖尿病(II型糖尿病)を治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、薬物送達装置は浸透性向上物質を内腔中に分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に患者にエクセナチドを送達し得る。
【0061】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で乳癌又は子宮癌を処置するために用いられ得る。薬物送達装置は、患者(患畜)の内腔内、例えば女性患者(雌患畜)の膣内に設置され得る。その後、薬物送達装置は浸透性向上物質を内腔中に分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に、患者にアブラキサン(又は癌の治療若しくは管理に有効なその他の薬物)を送達し得る。
【0062】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中でHIV/AIDSを治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、薬物送達装置は浸透性向上物質を内腔中に分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に、患者にアバカビル(ABC)又はシドホビル(又はHIV/AIDSの治療又は管理に有効なその他の薬物)を送達し得る。装置はその他の性行為感染症の治療にも用いられ得る。
【0063】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で陰部ヘルペスを処置するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内、例えば女性患者(雌患畜)の膣内に設置され得る。その後、薬物送達装置は浸透性向上物質を内腔中に分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に、患者にアシクロビル、ファムシクロビル、又はバラシクロビル(又は陰部ヘルペスの治療又は管理に有効なその他の薬物)を送達し得る。
【0064】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で尿崩症を治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、薬物送達装置は、浸透性向上物質を内腔中に分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に患者にデスモプレシン(又は尿崩症の治療又は管理に有効なその他の薬物)を送達し得る。
【0065】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で骨粗しょう症を処置するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内、例えば女性患者(雌患畜)の膣内に設置され得る。その後、薬物送達装置は浸透性向上物質を内腔内に分配投与及び/又は生成し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に患者にイバンドロネート、カルシトニン、又は副甲状腺ホルモン(又は骨粗しょう症の治療又は管理に有効なその他の薬物)を送達し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経粘膜的薬物送達のための内腔内装置であって、
ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、
少なくとも1つの薬物を含み、前記ハウジングから前記薬物を容積式で分配投与するように構成された、薬物分配投与部分と、
前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、浸透性向上物質を放出又は生成して、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、浸透性向上剤分配投与部分と
を備え、前記浸透性向上物質により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する、装置。
【請求項2】
前記ハウジングが腟内に配置されるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
経粘膜的薬物送達のための膣内装置であって、
ヒトである患者又は動物である患畜の膣中に配置されるように構成されたハウジングと、
薬物を含む薬物ディスペンサーであって、一つ又は複数のノズルと、前記ハウジングから前記一つ又は複数のノズルを通して前記薬物を容積式で分配投与することに適した容積式要素とを備えた、薬物ディスペンサーと、
前記ヒトである患者又は動物である患畜の膣内に配置されている間における、選択された時間に、浸透性向上物質を放出又は生成して、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、浸透性向上剤ディスペンサーと
を備え、前記浸透性向上物質により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する、装置。
【請求項4】
ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、
前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、過酸化水素を放出又は生成して、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、浸透性向上剤分配投与部分と
を備えた医療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−78770(P2011−78770A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225809(P2010−225809)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】